STM32U5発表と最新IoT MCU動向

STマイクロエレクトロニクス2021年2月25日発表の先端性能と超低消費電力動作両立のSTM32U5を紹介し、STのIoT MCU開発動向をセキュリティ、MCUコア、製造プロセスの観点から分析しました。

先端性能と超低消費電力動作のSTM32U5

STM32U5ベンチマーク(出典:公式ブログ)
STM32U5ベンチマーク(出典:公式ブログ)

公式ブログから抜粋したSTM32U5のベンチマークです。従来の超低消費電力MCU:STM32L0~L4+シリーズと、Cortex-M33コア搭載STM32L5、今回発表のSTM32U5をメモリサイズとパフォーマンスで比較しています。

STM32U5は、従来Cortex-M0+/M3/M4比、Cortex-M33搭載により後述のセキュリティ先端性能と、従来Cortex-M33搭載STM32L5比、230DMIPS/160MHzと大幅向上した超低消費電力動作の両立が判ります。STM32U5の詳細はリンク先を参照ください。

本稿はこの最新STM32U5情報を基に、STのIoT MCU開発動向を、セキュリティ、MCUコア、製造プロセスの3つの観点から分析します。

セキュリティ

STM32マイコンセキュリティ機能一覧(出典:ウェビナー資料)
STM32マイコンセキュリティ機能一覧(出典:ウェビナー資料)

昨年10月27日ウェビナー資料:ARM TrustZone対応マイコンによるIoTセキュリティのP17に示されたSTM32マイコンセキュリティ機能一覧です。セキュリティ先端性能のTrustZoneは、Cortex-M33コアに実装されています。

関連投稿:Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分

今回の超低消費電力STM32U5発表前なのでSTM32L5のみ掲載されていますが、STM32U5もL5と同じセキュリティ機能です。STM32WLは、後述するワイヤレス(LoRaWAN対応)機能強化MCUです。

この表から、後述する最新メインストリーム(汎用)STM32G0/G4も、STM32U5/L5と同じセキュリティ機能を実装済みで、STM32U5との差分はTrustZone、PKA、RSSなど一部であることも判ります。

STM32U5のSTM32L5比大幅に動作周波数向上と低消費電力化が進んだ背景は、セキュリティ機能に対するより高い処理能力と40nm製造プロセスにあることが2月25日発表内容から判ります。

STM32ファミリMCUコア

STM32ファミリMCUコア(出典:STサイトに加筆)
STM32ファミリMCUコア(出典:STサイトに加筆)

STM32ファミリMCUコアは、ハイパフォーマンス/メインストリーム(汎用)/超低消費電力/ワイヤレスの4つにカテゴライズされます。前章のSTM32WLがワイヤレス、STM32U5/L5は超低消費電力です(STM32U5は加筆)。

STM32WLとSTM32WBの詳細は、コチラの関連投稿をご覧ください。

STM32U5と同様、従来の120nmから70nmへ製造プロセスを微細化して性能向上した最新メインストリームが、STM32G0/G4です。

新しいSTM32G0/G4は、従来汎用STM32F0/F1/F3とソフトウェア互換性があり、設計年が新しいにも係わらずデバイス価格は同程度です。従来メインストリームのより高い処理能力と低電力動作の顧客ニーズが反映された結果が、最新メインストリームSTM32G0/G4と言えるでしょう。

製造プロセス

製造プロセスの微細化は、そのままの設計でも動作周波数向上と低電力消費、デバイス価格低減に大きく寄与します。そこで、微細化時には、急変するIoT顧客ニーズを満たす機能や性能を従来デバイスへ盛込んで新デバイスを再設計します。STM32U5やSTM32G0/G4がその例です。

MCU開発者は、従来デバイスで開発するよりも製造プロセスを微細化した最新デバイスで対応する方が、より簡単に顧客ニーズを満たせる訳です。

関連投稿:開発者向けMCU生産技術の現状

まとめ

セキュリティ、MCUコア、製造プロセスのそれぞれを進化させた最新のIoT MCUデバイスが、次々に発表されます。開発者には、使い慣れた従来デバイスに拘らず、顧客ニーズを反映した最新デバイスでの開発をお勧めします。

また、短時間で最新デバイスを活用し製品化する方法として、最新メインストリーム(汎用)デバイスSTM32G0/G4を使ったプロトタイプ開発もお勧めします。

最新メインストリーム(汎用)プロトタイプ開発イメージ
最新メインストリーム(汎用)プロトタイプ開発イメージ

前章までで示したように最新メインストリームSTM32G0/G4は、他カテゴリデバイスの機能・性能を広くカバーしています。メインストリームプロトタイプ開発資産は、そのまま最新の他カテゴリデバイスへも流用できます。

従って、他カテゴリデバイスの特徴部分(セキュリティ、超低消費電力動作やワイヤレス)のみに注力した差分開発ができ、結果として短期製品化ができる訳です。

ちなみに、プロトタイプ開発に適したSTM32G0テンプレートは、コチラで販売中、FreeRTOS対応のSTM32G4アプリケーションテンプレートは、6E目標に開発中です。

あとがき:文字伝達

ソフトウェア開発者ならソースコード、ハードウェア開発者なら回路図が、最も直接的・正確に技術内容を使える手段です。文字は、記述者の理解を変換して伝える間接的手段です。両者に違い(文字化ノイズ)が生じるのは、やむを得ないと思います。

報ステのTSMCのニュースに頭の抱えてしまった”、“TSMCは日本で何をしようとしているのか“からも分かるように、マスメディアは文字や画像で情報を伝えます。受けての我々開発者は、これらノイズを含むと思われるマスメディア情報を、自分の頭で分析・処理し、理解する必要があります。

と言うわけで本稿も、筆者が文字化ノイズを付けて分析した例です……、という言い訳でした😅。

2020マイコンテンプレート案件総括

COVID-19パンデミックの2020年も残すところ2週間になりました。2020年の金曜ブログ投稿は本日が最後、次回は2021年1月8日(金)とし休暇に入ります。

※既存マイコンテンプレートは、年中無休、24時間販売中です、いつでもご購入お持ちしております。

2020マイコンテンプレート案件総括

  1. 🔴:Cortex-M4コア利用のマイコンテンプレート開発(2020年内)
  2. 🟡:FRDM-KL25ZとIoT汎用Baseboard利用のKinetis Lテンプレート発売(12月)
  3. 🟢:IoT MCU向け汎用Baseboard開発(10月)
  4. 🟢:STM32FxテンプレートV2発売(5月)
  5. 🟢:STM32G0xテンプレートV2発売(5月)

1のCortex-M4テンプレート開発は、STM32G4のRoot of Trustと、NXP LPCXpresso54114のRTOSサンプル解説で、Cortex-M4テンプレート化には程遠い状況です(赤ステータス)。

2のKinetis Lテンプレート(FRDM-KL25Z、Cortex-M0+/48MHz、Flash:128KB、RAM:16KB)は、添付説明資料作成が未着手です(黄ステータス)。

3のArduinoプロトタイプシールド追加、IoT MCU汎用Baseboardは完成しました(緑ステータス)。

4と5のSTM32FxテンプレートSTM32G0xテンプレート発売までは、ほぼ順調に進みました(緑ステータス)。

対策としてブログ休暇中に、2のKinetis Lテンプレート完成と、これに伴うHappyTechサイト変更を目標にします。
1のCortex-M4テンプレート開発は、2021年内へ持越します。

ブログ記事高度検索機能(1月8日までの期間限定)

休暇中、ブログ更新はありません。そこで、読者の気になった過去の記事検索が、より高度にできる下記Googleカスタム検索機能を、1月8日までの期間限定で追加します。

上記検索は、WordPressのオリジナル検索(右上のSearch…窓)よりも、記事キーワード検索が高度にできます。少しでもキーワードが閃きましたら、入力してご活用ください。

あとがき

激変の2020年、テンプレート関連以外にも予定どおりに進まなかった案件や、新に発生した問題・課題も多数あります。例年より少し長めの休暇中、これらにも対処したいと考えております。今年のような環境変化に対し、柔軟に対応できる心身へ変えたいです(ヨガが良いかも? 3日坊主確実ですが…😅)。

本年も、弊社ブログ、HappyTechサイトをご覧いただき、ありがとうございました。
今後も、引き続きよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。

FRDM-KL25Z GPIOの使い方

5V耐圧GPIOピンが無い3.3V動作FRDM-KL25Zへ、5V LCDをCMOSデバイス直結で接続し、その動作確認ソフトウェアを開発中です(CMOSデバイス直結は、関連投稿:3.3V MCUと5Vデバイスインタフェースを参照してください)。

開発途中、FRDM-KL25Z搭載MCUのKinetis KL25ファミリに、GPIOの拡張とも言える興味深いFGPIO機能、BME機能を見つけたのでFRDM-KL25Z GPIOの使い方に加え解説します。両機能は、Kinetis KL25の高速化に効果があります。

※FGPIO:Fast GPIO、高速処理でGPIO記述ソースコードからの変更容易。
※BME:Bit Manipulation Engineはレジスタ読書きとビット操作が同時可能なMCU内蔵ハードウェア。コードサイズ削減と高速処理が同時に可能。

FRDM-KL25Z GPIOの使い方

FRDM-KL25ZのGPIO API一覧が下記です。MCUXpresso IDEのソースコード上でgpio_と入力し「Ctrl+スペースキー」を押すと、GPIO_で始まるAPIが一覧表示されます。これが、Content Assist機能です。

MCUXpresso IDEのContent Assistを利用したGPIOの使い方
MCUXpresso IDEのContent Assistを利用したGPIOの使い方

先頭〇がGPIO_API関数、#がdefineで定義したマクロです。GPIO_API本体は、fsl_gpio.hで定義されています。

例えば、GPIO_ClearPinsOutputを選ぶと、残りの変数:GPIO_Type *baseとunit32_t maskを入力すればソースコード上でGPIO_ClearPinsOutput APIの入力完了です。

*baseは、GPIOAやGPIOBなどのポート名、maskは、制御対象ピン以外のマスクです。GPIOBの18番ピンが対象なら、GPIO_ClearPinsOutput(GPIOB, 1<<18)と記述します。

Content Assistの一覧表示リストを見ると、FRDM-KL25ZのGPIO APIに特に変わったAPIはありません。ごく一般的なGPIOの使い方であることが判ります。

GPIOに限らずContent Assistは、APIレファレンスマニュアルを参照するよりAPI選択と変数のソースコード入力が早く便利にできます。もちろん、ユーザが追加定義したマクロでも自動的にリスト表示されます。

FRDM-KL25Z FGPIOの使い方

KL25 Sub-Family Reference Manualの図3-9は、MCUからGPIO Controllerへの経路が、下記2種類あることを示しています。

FGPIOとGPIOアクセスの違い(出展:KL25 Sub-Family Reference Manual)
FGPIOとGPIOアクセスの違い(出展:KL25 Sub-Family Reference Manual)

GPIO:MCUからPeripheral Bridge経由のGPIO Controller制御
FGPIO:MCUからGPIO Controller直接制御(Single-cycle I/Oとも呼ばれる)

特筆すべきは、レジスタ構成がGPIOとFGPIOで全く同じなので、GPIOソースコード記述が、
GPIOB_PTOR = (1<<18);    //  GPIOでFRDM-KL25Zの赤LED:PTB18をトグル
の場合、これをFGPIOへ変える場合は、
FGPIOB_PTOR = (1<<18);  // FGPIOでFRDM-KL25Zの赤LED:PTB18をトグル
とGPIOをFGPIOへ変更すれば済むことです。

※GPIOB_PTOR = (1<<18)は、レジスタ明示記述、同じことをGPIO_APIで記述すれば、GPIO_TogglePinsOutput(GPIOB, 1<<18)となります。どちらもContent Assistが使えます。

但し、2サイクルアクセスGPIOの半分、FGPIOの1サイクルアクセス実効速度を得るには、コンパイラ最適化オプションを、デフォルト最適化なし:None(-O0)から、Optimize (-O1)、または、それ以上にする必要があります。

FRDM-KL25Z BMEの使い方

前章GPIO経路の途中にBMEハードウェアがあります。BMEを使うと、Peripheralsレジスタの読書きとビット操作を同時、つまり、ソースコード記述1個で可能になります。

BMEを使うソースコードは、下記5種類です。

書込み時
・Store Logical AND/OR/XOR (AND/OR/XOR)
・Store Bit Field Insert (BFI)

読込み時
・Load-and-Clear 1 bit (LAC1)
・Load-and-Set 1 bit (LAS1)
・Load Unsigned Bit Filed Extract (UBFX)

アセンブラ記述に似ています。詳細は、KL25 Sub-Family Reference Manualの17章BMEを参照してください。

BMEを使うと、ソースコード記述が減るので、処理時間とコードサイズの両方を軽減でき高速化可能です。

一般的なGPIOソースコードで記述した周辺回路の初期設定や無限ループ内処理をあらためて見直すと、BMEが使える箇所が見つかります。

GPIO、FGPIO、BMEの使い方

最初に1章で示した一般的なGPIO記述でソフトウェアを開発し、最後の高速化手段としてFGPIOやBMEを使うのが良いと思います。理由は、FGPIOは最適化、BMEはソースコード内にレジスタ読書きとビット操作の両方が必要な個所があることが前提だからです。

FGPIOはGPIO記述ソースコードからの変更が容易です。コンパイラデフォルトの最適化なし:None(-O0)でコード変更し、求める高速要件が満たされれば、利用価値は高いでしょう。この場合は、100%の1サイクルアクセス実効速度までは得られませんが、FGPIO高速化ができます。

経験上、最適化利用に筆者は消極的です。様々な副作用もあるからです。

最適化よりも超低消費電力/低コストが特徴のFRDM-KL25Z(Cortex-M0+/48MHz)開発ソフトウェアの再利用が可能で、より高速なFRDM-K64F(Cortex-M4/120MHz)などへMCU変更が可能なら、この方法をお勧めします。

但し、MCU変更ができない時の効果的な高速化手段として、本稿説明のFGPIOとBMEを知っておくことは重要です。

FGPIOやBMEは、低価格で入手性も良いFRDM-KL25Zに初めから実装済みです。Kinetis KL25ファミリMCUの汎用性と高い拡張性を示す良い例だと思います。

旧Freescaleから2013年頃発売と少し古い感もあるMCUですが、十分現役で使えます。

あとがき:3.3V MCUと5V CMOSデバイス直結動作確認完了

STM32G0xテンプレートに使用した3.3V動作MCU:STM32G071RBも5V耐圧GPIOピンは持ちません。しかし、CMOSデバイス直結で5V LCDを駆動し、安定動作を確認しました。

訂正:STM32G071RBには5V耐圧ピンがあります。お詫びして訂正いたします

ソフトウェア開発中の3.3V動作FRDM-KL25Zと5V LCDのCMOSデバイス直結も、同様に問題なく動作するハズです。

FRDM-KL25Z タッチスライダの使い方

FRDM-KL25Z評価ボードのタッチスライダ(Capacitive Touch Slider)の使い方を説明します。

タッチスライダ動作にはのMCU内蔵TSIが必須(出展:Fig1データシート、Fi2ユーザズマニュアル)
タッチスライダ動作にはのMCU内蔵TSIが必須(出展:Fig1データシート、Fi2ユーザズマニュアル)

タッチスライダ

CypressのPSoC 4000S/4100S/4100PSテンプレートでも使用中の指によるタッチユーザインタフェースは、MCU入力手段として人気があります。

NXPの多くのFRDM評価ボードにもFigure2のようにCapacitive Touch Sliderが実装済みですが、これをタッチスライダとして動作させるには、MCU内蔵TSIハードウェアと、これを制御するTSIライブラリの両方が必須です。
※TSI:Touch Sensor Input。

例えば、FRDM-KE02Z40Mでは、TSIハードウェアがMCU非内蔵なためタッチスライダは動作しません。

MCUXpresso SDKのTSI:Touch Sensor Inputサンプルプロジェクト

MCUXpresso SDKのTSIサンプルプロジェクトは、driver_examples>tsi_v4>normalにあります。MCUXpresso SDKの使い方は、関連投稿を参照してください。

MCUXpresso SDKのTSIサンプルプロジェクト
MCUXpresso SDKのTSIサンプルプロジェクト

以降は、サンプルプロジェクトのソースコードを横目で見ながら本稿を読んで頂くと良く分かると思います。が、ソースコードが無い場合には、まとめ章へスキップしてください。

tsi_v4_normal.cを見ると、このサンプルプロジェクトは、MCU内蔵TSIハードウェアをキャリブレーション(L127)後、下記3つの方法でTSIを制御しているサンプルであることが解ります。
※キャリブレーションとは、測定系ハードウェアの測定精度を上げる処理で、ADCなどでも必要です。

  1. (L136)SOFTWARE TRIIGER SACN USING POLLING METHOD
  2. (L159)SOFTWARE TRIIGER SACN USING INTERRUPT METHOD
  3. (L178)HARDWARE TRIIGER SACN

1や2でもTSIソフトウェアライブラリ単独制御ではなく、TSIハードウェア/ライブラリ両方が必須であることに注意してください。3も同様です。

サンプルプロジェクトでは、1~3の方法を順に処理し、各方法の最後にPRINTFで取得値xxxxをConsoleへ出力します。その出力例がreadme.txtにあります。

MCUXpresso SDKのTSIサンプルプロジェクト3方法の動作出力例
MCUXpresso SDKのTSIサンプルプロジェクト3方法の動作出力例

3番目のハードウェア割込み方法設定後、無限ループへ入ります。

このサンプルプロジェクトソースコードは、本来は3サンプルプロジェクトに分離すべきものを、1つにまとめた書き方をしています。つまり、TSIソフトウェアポーリングプロジェクト、TSIソフトウェア割込みプロジェクト、TSIハードウェア割込みプロジェクトを1つにまとめています(ので、少々解りにくいかもしれません)。

TSIソフトウェアポーリングプロジェクト

そこで、TSIソフトウェアポーリングプロジェクトのみを抽出します。

先ずは、ソフトウェアポーリング処理後、他の2方法を飛ばして無限ループへジャンプさせます。例えば、L157のTSI_ClearStatusFlags()の後にgoto LOOP;を追加し、無限ループの前に飛び先ラベルLOOP:を加えます。すると、ポーリング方法のみの処理結果がConsoleへ正常出力されます。

つまり、ソフトウェアポーリングのみで、1回TSI制御ができることが確認できました。

組込み処理は、初期設定と無限ループ内の繰返し処理の2つに分けて考えるのが常套手段です。そこで、ソフトウェアポーリングの方法も、初期設定と繰返し処理の2つへ分けます。

L101~L143がソフトウェアポーリングの初期設定、L143~L157が繰返し処理です(※L143がダブっているのは間違いではありません)。この繰返し処理先頭L143に無限ループに付加したラベルLOOP:を移動し、無限ループ化します(無限ループに加えたラベルは削除してください)。

動作させ、TSIソフトウェアポーリングプロジェクトのみの抽出と連続ポーリング処理が完成です。

他の2方法、TSIソフトウェア割込みプロジェクトや、TSIハードウェア割込みプロジェクトのみを抽出する場合も同様です。3プロジェクトに分離すると、各方法の理解がより深まります。

※FRDM-KL25Zは、TSI channel 9と10の両方を使っています。両チャネルを使うメリットは、2つあります。1つは、その取得値変化から、指がスライダの左右どちらへ移動したかが解ることです。抽出プロジェクトで、その取得値変化の様子を実際に試してください。

TSIタッチスライダパッドの2チャネルの使い方
TSIタッチスライダパッドの2チャネルの使い方

※もう1つのメリットは、タッチ感度が上がることです。上図のように、各チャネルカバー範囲は相補的ですので、片チャネルでタッチ検出するよりも両チャネル検出の方が、より高感度になります。

FRDM-KL25Z タッチスライダの使い方

前章までで、FRDM-KL25ZタッチスライダのSDKサンプルプロジェクト3制御方法を解説しました。

本章は、もっと実用的なタッチスライダの使い方を説明します。

前章のTSIソフトウェアポーリング方法で、TSIチャネル9のみを使い、タッチスライダを物理スイッチの代わりに動作させる使い方です。

この動作は、オリジナルサンプルプロジェクトのTSIハードウェア割込み方法で、タッチスライダを指で触るとLEDがトグル点滅、つまり、スライダではなくタッチパッドとして動作するのと同様です。物理スイッチではないので、経年変化が少ないことが特徴です。

FRDM-KL25Z の性能を100%使ったTSIサンプルプロジェクトでは、タッチスライダ動作も十分可能です。

しかし、FRDM-KL25ZでTSI処理以外にも様々な処理を行う場合は、このタッチパッド的使い方が実用的だと筆者は思います。オリジナルサンプルプロジェクトも、この事を暗に示しているのかもしれません。

FRDM-KL25Z タッチスライダの初期設定

初期設定は、抽出したTSIソフトウェアポーリングプロジェクトの初期設定からチャネル10設定分を削除します。

FRDM-KL25Z タッチスライダの無限ループ内処理

抽出プロジェクトは、無限ループ内でチャネル9と10を「連続計測」しConsole出力しました。実用的な処理では、タッチスライダ処理以外の様々な他の処理を1個のMCUで行うため、この計測処理は(他の様々な処理が間に挟まるため)「離散的」になります。

離散計測処理を行う際の注意点は、チャタリング対策です。

指によるタッチであっても、本当にタッチしたのか、または、たまたま触っただけなのかをソフトウェア側で判断する必要があり、これをチャタリング対策(=入力ノイズ対策)と言います。

例えば、複数回の離散タッチ検出ならば本当のタッチ、1回のみのタッチ検出ならば、触っただけのノイズでタッチと判断しない等です。

まとめ

FRDM-KL25Z評価ボード付属タッチスライダ制御を、MCUXpresso SDK TSIサンプルプロジェクトのソフトウェアポーリング、ソフトウェア割込み、ハードウェア割込みの3方法から解説し、タッチスライダを物理スイッチの代わりに動作させるタッチパッド的な使い方を説明しました。

3方法をまとめたオリジナルサンプルプロジェクトを、方法別に分離プロジェクト化し、初期設定と無限ループ内処理の2つに分け、ループ内処理のソフトウェアチャタリング対策を説明しました。

開発中のKinetis Lテンプレートには、本稿で示したチャタリング対策済みの応用例を添付します。

FRDM-KL25Z VCOMの使い方

FRDM-KL25ZのUARTとPC を、USB経由のVCOM:Virtual COM port接続する方法を説明します。

FRDM-KL25ZのUARTとVCOM接続中のTera Term画面
FRDM-KL25ZのUARTとVCOM接続中のTera Term画面

VCOM:Virtual COM port

MCU評価ボードとPC間は、USBで接続されており、このUSB経由でターゲットMCUのプログラミングやデバッグを行います。前稿説明のJ-TAGハードウェアデバッガの代わりが、評価ボード付属デバッガで、FRDM-KL25Zの場合は、OpenSDAと呼びます。

本ブログ掲載の評価ボード付属デバッガが下表です。ベンダ毎に付属デバッガの呼び名は異なりますが、どれも機能的には同じです(Renesasは、別途E2 Lite/E2ハードウェアデバッガで機能提供します)。

ベンダ毎に呼び名が異なる評価ボード付属デバッガ
ベンダ 評価ボード付属デバッガ 評価ボード例 MCU – PC間通信
NXP OpenSDA/CMSIS-DAP FRDM-KL25Z/LPCXpresso54114 UART
STM ST-Link STM32G071RB UART
Cypress KitProg CY8CKIT-145 UARTとI2C
TI XDS110-ET MSP-EXP432P401R LaunchPad UART
Renesas なし(E2 Lite/E2必須) BlueBoard-RL78G13-64 UART

評価ボード付属デバッガには、ターゲットMCUのプログラミング/デバッグ機能に加え、MCUのUARTとPCのUSB間を橋渡し(=接続)する機能があります。これをVCOM:Virtual COM port接続といい、Tera Termなどのシリアル通信ソフトウェアをPCにインストールすれば、いとも簡単にMCUの UART通信ソフトウェア送受信の動作確認ができます。

※Tera Termの代わりにMCUXpresso IDEプリインストールのSerial Terminalも使えます。

MCUXpresso IDEのTerminalによるTera Termの代用
MCUXpresso IDEのTerminalによるTera Termの代用

UART:Universal Asynchronous Receiver/Transmitter

UARTは、最重要MCU周辺回路です。

古くから装置組込み済みMCUの再プログラミング手段としてUARTは利用されてきました。最新IoT MCUでも、セキュア・ブート、セキュア・ファームウェア更新に使える手段はUARTのみです(関連投稿:STM32G0/G4のRoot of Trustなどを参照してください)。

さらに、MCUXpresso SDKの評価ボード新規プロジェクト作成時でも、最初からActiveな周辺回路はUART0だけです(※UARTの“0”に注意してください)。ボード実装済みのLEDさえ初期値はInactiveです。つまり、UARTを動作させないMCUは無いと言えるでしょう。

UARTソフトウェアの動作確認には、送・受信機能を持つため通信相手が必要で、VCOM接続によりPCが通信相手になるため、最重要周辺回路:UARTソフトウェアの動作確認ができる訳です。

FRDM-KL25ZのVCOM接続方法

前置きが長くなりました。本章から評価ボード:FRDM-KL25Z をOpenSDA経由でVCOM接続する方法を説明します。

結論から言うと、FRDM-KL25ZのVCOM接続には評価ボードに2配線追加が必要です。2配線を追加しTera Termを使ったUART送受信中の画面が写真1です。

  • J1-2とJ2-20配線・・・・・・・UART0_TX:PTA1とUART1_TX:PTE0接続
  • J1-1とJ2-18配線・・・・・・・UART0_RX:PTA2とUART1_RX:PTE1接続

FRDM-KL25Z関連資料は不親切で、この必須配線が分かりにくいので順を追って説明します。が、配線さえ追加すれば、全てのSDK UARTサンプルプロジェクトが正常動作しますので、急ぐ方は、まとめ章へスキップしてください。

MCUXpresso SDK UARTサンプルプロジェクトと回路図

FRDM-KL25ZのMCUXpresso SDK UARTサンプルプロジェクトは、どれもUART0ではなくUART1を使った処理例です。readme.txtには、“USB to Com Converter:USB2COM”をJ2-20/18と配線せよと記載されています。もちろん、別途USB to Com Converterを用意し、このとおり接続すればサンプル動作確認ができるでしょう。

しかし、OpenSDAにUSB to Com Converter と同じVCOM機能が備わっているのにこれを使わない手はありません。

そこで、FRDM-KL25Z回路図Rev.EのSheet 3を見ると、OpenSDAとMCUはUART0で接続済みで、R5とR6でUART1とも並列接続済みなのが判ります。本来ならUSB to Com Converterが無くてもそのままUART1サンプルプロジェクトが動作するハズです。

試しに、サンプルプロジェクトのUART1をUART0へ変更すると、コンパイル時に妙なワーニングが発生しますが、VCOM接続でUART0が動作します(UART0からUART1への変更にはMCUXpresso Config Toolsの使い方を参照してください)。つまり、UART0とOpenSDAは、回路図どおり接続済みな訳です。

R5とR6は実装されていますが、この代わり追加したのが2配線です。

その結果、UART1で全てのサンプルプロジェクトが正常動作します。また、UART0で発生した妙なワーニングもありません。

つまり、SDK付属UART1サンプルプロジェクトの正常動作には、J1-2とJ2-20、J1-1とJ2-18の2配線が必要です。この時UART0は、並列接続を避けるためInactiveにします。

※サンプルプロジェクトは、元々UART0がInactiveです。新規プロジェクト作成の時は、デフォルトActiveなUART0をInactive、UART1をActiveへ変更すると、サンプルプロジェクトがそのまま流用できます。

※評価ボード回路図最新版がRev.Eです。FRDM-KL25Z評価ボード裏側にシールが貼ってあり、回路図版数Rev.Eと一致、R5とR6も実装済みですが正常動作には追加配線が必要でした。回路図と実評価ボードの版数には、留意してください。

まとめ、新開発汎用Kinetis Lテンプレート

UARTとVCOM接続の重要性を示し、FRDM-KL25Z評価ボードで、VCOM接続を使ってMCUXpresso SDK UART1サンプルプロジェクトを正常動作させるには、評価ボードへ2配線を追加する使い方、各種注意点を説明しました。

このFRDM-KL25Z(Cortex-M0+/48MHz、General Purpose = Main Stream)を使って開発中の汎用Kinetis Lテンプレートは、新規プロジェクト作成時のデフォルトActiveなUART0をUART1へ変更済みで、本稿で示したような開発つまずきを回避する各種情報なども添付します。

写真1は、最も簡単なテンプレート応用例のVCOM動作で、評価ボードの赤/緑/青LEDやタッチスライダ、低消費電力動作のKinetis Lソフトウェアを簡単に開発できるテンプレートです。

3.3V動作新Baseboard

Cortex-M0+のKinetis Lは1.71Vから3.6 V動作で、従来弊社が扱ってきた5V Baseboard接続への5V耐圧端子が残念ながらありません。100MHzクラスで3.3V動作のCortex-M4テンプレート開発なども考慮すると、3.3V/1.8V動作用の新しいBaseboardを探し、テンプレート応用例に適用させたいと考えております。

FRDM評価ボードOpenSDA接続問題整理

Kinetis E(Cortex-M0+/40MHz、5V Robust)テンプレートv2開発障害となっている評価ボード:FRDM-KE02Z40MのOpenSDAとMCUXpresso IDEデバッガ間の接続問題は、残念ながら未解決です。今回は、このOpenSDA問題を簡単に整理します。また、Linuxによる第2のMCU開発環境構築の新設カテゴリも示します。

Kinetis OpenSDA

OpenSDA Block Diagram(出典:OpenSDA Users Guideに加筆)
OpenSDA Block Diagram(出典:OpenSDA Users Guideに加筆)

Figure 1は、MCUXpresso IDEとKineties MCU間のブロック図です。旧Freescaleは、Kinetis Design Studio:KDSというFreescale製IDEとKinetis MCU評価マイコンボード間の接続は、OpenSDAというインタフェースで接続していました。

このOpenSDAは、KDS直接接続だけでなく、PC(Windows 7)との接続時、File System(USBメモリ)として動作し、クラウド開発環境:mbed開発にも利用できる2種類のプログラミング機能を持ちます。

現在問題発生中のFRDM-KE02Z40MのOpenSDAも、Windows 7当時は問題なく動作していました。その結果、Kinetis Eテンプレートv1発売ができました。

MCUXpresso IDE接続問題(Windows 10)

Freescaleを買収したNXPは、自社LPCと新旧Freescale Kinetis両マイコンに新しい統合開発環境:MCUXpresso IDEを用意しました。このMCUXpresso IDEの評価ボード接続インタフェース一覧(一部抜粋)が下図です。

MCUXpresso SDK support platform(出典:Getting Started with MCUXpresso)
MCUXpresso SDK support platform(出典:Getting Started with MCUXpresso)

簡単に説明すると、MCUXpresso IDEは、NXP純正評価ボードEVKやLPCXpresso54xxx接続インタフェース:CMSIS-DAPと、新旧FRDM評価ボード接続インタフェース:OpenSDA v1系/v2系とmbedの3種類全てをサポートします。

接続問題が発生するのは、OpenSDAの一部です(表内にFRDM-KE02Z40Mが無いのは不安ですが、記載漏れだと思います)。FRDM-KL25Z(Cortex-M0+/48MHz、General Purpose)のOpenSDAは、MCUXpresso IDEと問題なく接続できています。

接続問題解決には、Figure 1のMSB Bootloaderを、MCUXpresso IDE対応済みの最新版へUpdateすることが必要です。

MSB Bootloader更新注意点(Windows 10)

MSB Bootloader更新方法は、評価ボードのリセットボタンを押しながらPC(Windows 10)とUSB接続し、エクスプローラーに現れるBootloaderフォルダへ、最新版:BOOTUPDATEAPP_Pemicro_v118.SDAをドラッグ&ドロップするだけです(FRDM-KE02Z40Mの最新Bootloaderは、コチラから取得できます)。

この操作後、再度評価ボードとPCを接続すると、今度はエクスプローラーに通常モードのFRDM-KE02Z40Mフォルダが現れ、更新完了となるハズです。ところが、筆者の評価ボードは、Bootloaderモードから通常モードへ復帰しません。

従って、MCUXpresso IDEとFRDM-KE02Z40MをUSB接続しても、IDEは評価ボード無しに認識します。

簡単に説明しましたが、実際はWindows 10でのBootloader 更新時、「Windows 7では不要であったストレージサービスの一時停止が必須」です(詳細は、コチラのNXP情報のStep 2を参照してください)。

調べると、Windows 8以降に一般的なユーザには知らせずに追加したWindows PCのUSBメモリへの隠しフォルダ書込み機能(これが上記一時停止するストレージサービス)が、諸悪の根源のようです。

FRDM評価ボードOpenSDA接続問題整理と対策(Windows 10)

以上を整理し、対策をまとめます。

・旧Freescale製FRDM評価ボードが、新しいNXP MCUXpresso IDEと接続できない原因は、評価ボードOpenSDAのMSB Bootloaderにあり、対策は、MCUXpresso IDE対応版Bootloaderへの更新を、Windows 10ストレージサービスを停止させた状態で行うことが必要。

旧Freescale製(つまりWindow 7対応)のまま入手したFRDM評価ボードは、FRDM-KE02Z40M以外でもIDE接続問題が発生することがありますので、上記まとめを参考に対策してください。

このまとめと対策にたどり着く前に、Windows 10でストレージサービスを停止せずにFRDM-KE02Z40MのOpenSDA MSB Bootloader更新を何度か繰返しました。評価ボードが、Bootloaderモードから通常モードへ復帰しない理由は、これかもしれません😥。

筆者は、Windows 7時代からFRDM評価ボードを活用してきました。まさか、Bootloaderモード時にWindows 10ではサービス一時停止が必須だとは思いもしませんでした。しかも、このサービスは隠しフォルダ対応なので、通常ではWindows 7と同様にBootloader更新が正常終了したように見えます。

事前に調査しなかった筆者が悪いのですが、旧Freescale評価ボード記載Windows 7対応マニュアル通りに対処すれば、筆者と同じトラブルに出会う人は多いハズです。

また、OpenSDAユーザズガイドにも上記トラブルからの復帰方法の記載はありません。ネット検索か、NXP communityが解決手段でしょう😥。解決方法が見つかれば、本ブログでお知らせします。

エンドユーザを無視したかのようなWindows 10の度重なる変更に起因するトラブルは、今後も増える可能性があると思います。次章は、その対策です。

Windows MCU開発者向けLinuxカテゴリ新設

筆者は、昨年からLinux MintでのMCUXpresso IDE開発環境もWindows 10のバックアップ用に構築しています。このLinux環境でも、残念ながら今回のトラブル回復はできていません。

今回はLinux/Windows両方NGでしたが、Windows以外の第2のMCU開発環境があると、何かと便利です。

そこで、本ブログで、Windows MCU開発に慣れた開発者が、簡単にLinuxを使うための情報も発信したいと思います。このための新設カテゴリが、PC:パソコン>Linuxです。
※親カテゴリPC:パソコンへ、LibreOfficeとWindowsも移設しました。

Windows 10、Linuxともに単なるPC OSです。Linux上でMCU開発アプリケーション、本ブログではNXP MCUXpresso IDEやSTM STM32CubeIDEを利用するために、最低限必要な情報に絞って説明する予定です。

Linux情報量もまたWindows同様多いのですが、Windowsに慣れたMCU開発者としては、当面不要な情報も多く、Windowsの代わりにLinuxを短期間で効率的に活用するMCU開発環境構築が目標・目的です。今回のようなWindows PCでのトラブル発生時、Linux PCへ移ってMCU開発を停止することなく継続するのが狙いです。

MCU Devopments Windows and Linux 2 Routes
MCU Devopments Windows and Linux 2 Routes

Linuxのシステム動作要件は下記で、Windows 10よりも低いので、古いPCでも快適に動作します。ただし新しいOS利用なら「64ビットCPUは必須」ですが…😅。32ビットPC OSの新規開発は、終了しました。

  • 1GB RAM (2GB recommended for a comfortable usage)
  • 15GB of disk space (20GB recommended)
  • 1024×768 resolution

COVID-19の影響で、市場に中古PCが安価で数多く出回っていますので、これら活用も一案かと思います。

MCUXpresso Config Toolsの使い方

前稿に続きMCUXpresso SDKベースのMCUソフトウェア開発に欠かせないMCUXpresso Config Toolsの使い方を説明します。SDKサンプルプログラムに少しでも変更を加える時には、Config Toolsが必要になります。

MCUXpresso IDEクイックスタートパネルのConfig Tools
MCUXpresso IDEクイックスタートパネルのConfig Tools

Config ToolsとSDK

MCUXpresso IDEのSDKサンプルプロジェクトは、そのままコンパイルして評価ボードで即動作可能です。ユーザが変更を加える箇所は、sourceフォルダ内に限られています。sourceフォルダ以外は、ライブラリフォルダです(詳細は、前稿を参照してください)。

Config Toolsは、このSDKライブラリに変更を加えるツールです。

SDKサンプルプロジェクトは、MCU内蔵周辺回路の動作例ですが、逆に言うと、「その周辺回路しか動作させない例」です。低電力動作が必須のMCUでは、しごく当然のこのソフトウェア作法、つまり無用な回路は動作させない方針で開発されています。

ところが、SDKサンプルプロジェクトにユーザが変更を加える場合、サンプルプロジェクトで動作中の回路以外の周辺回路動作を新たに加える時があります。

この時には、MCUXpresso Config Tools>>をクリックし、MCU内蔵の眠っている(=Inactive)周辺回路の目を覚ます(=Activate)必要があります。

周辺回路をActivateした結果、サンプルプロジェクトのSDKライブラリに対して、相応の変更をConfig Toolsが自動生成(上書き)します。これが、Config ToolsとSDKの関係です。

Config Toolsの使い方

具体的にFRDM-KL25Z(Cortex-M0+/48MHz、General Purpose)評価ボードのSDKサンプルプロジェクト:gpio_led_outputを例に、Config Toolsの使い方を説明します。このサンプルプロジェクトは、いわゆるLチカサンプルで、評価ボード上の赤LEDを点滅させます。

ここでは、赤LEDの代わりに緑/青LEDを点滅させる変更をユーザが加えると想定します。

※他のサンプルプロジェクトも、殆ど赤LED(BOARD_RED_LED)1個のみを動作させますので、この緑/青LED変更方法は、多くのサンプルプロジェクトにも流用できます。

MCUXpresso SDKのgpio_led_outputソースコード(一部抜粋)
MCUXpresso SDKのgpio_led_outputソースコード(一部抜粋)

先ずConfig Toolsを使わずにL40とL41のRED_LEDをGREEN_LEDへ変更後、Buildします。その後、DebugでFRDM-KL25Z評価ボードを動作させても緑LEDは点滅しません。もちろん、ブレークポイントをL92に設定して動作は確認済みです。

LEDが点滅しない理由は、評価ボードの緑/青LEDに接続済みのgpioピンが、Inactiveだからです。

対策にMCUXpresso Config Toolsをクリックすると、Develop画面がPins画面へ変わります。

MCUXpresso Config Toolsクリックで現れるPin画面
MCUXpresso Config Toolsクリックで現れるPin画面

Routed Pinsタブ①に、GPIOB:LED_REDがリストアップされています。このリストは、Activate済みの全ピンを示します。

そこで、Peripheral Signalsタブ②で緑/青LEDのGPIOB、19とGPIOD、1に✅を入れると、リストに両ピンが加わります。Identifierは、LED_GREENとLED_BLUEにします。

MCUXpresso Config ToolsでActivateした緑と青LEDのgpioピン
MCUXpresso Config ToolsでActivateした緑と青LEDのgpioピン

この状態で、「緑色」のUpdate Codeボタン③をクリックすると、Update Filesダイアログが開き、上書き対象のSDKライブラリが一覧表示されます。この場合は、ライブラリ:board>pin_mux.c/hとboard>clock_config.c/hが上書き更新されます。

MCUXpresso Config Toolsが生成(上書き)するファイル一覧
MCUXpresso Config Toolsが生成(上書き)するファイル一覧

ダイアログのOKクリックで最終的にSDKライブラリへ変更が加わり、自動的にDevelop画面に戻ります。上書きされるライブラリのソースコードは、Pins画面上のCode Previewタブ④でも更新前に確認ができます。

戻ったDevelop画面で、RED_LEDをGREENやBLUE_LEDへ変更し、Build を再実行、Debugすると、今度は評価ボードの緑/青LEDが点滅します。

Config Toolsが、緑/青LED接続のgpioピンをActivateしたSDKライブラリに上書き更新したからです。

このようにSDKサンプルプロジェクトは、必須周辺回路とクロックルートのみをActivateした例で、その周辺回路単体でのMCU消費電力も判ります。この時のクロック周波数は、MCU最高動作周波数です。周波数を下げることで消費電力も減らせますが、その分ソフトウェア開発の難易度は上がります。

機能的には似た周辺回路がある場合や、特に電力消費が大きい回路を比較・最適化し、MCUトータル消費を改善する手段としてもサンプルプロジェクトは利用できます。

MCU電力低減方法は、SDK/Config Toolsデフォルトの最高周波数でソフトウェアを開発し、次に周波数を下げるアプローチが適すと言えるでしょう。

Config ToolsのUpdate Code

SDKサンプルプロジェクトに何も変更を加えずに、Config Toolsをクリックしても、Update Codeボタンが「緑色」になる場合があります。Update Codeボタンの灰色は、上書きするSDKライブラリが無いことを示します。この場合は、変更を加えていないので、本来「灰色」のハズです。

これは、元々のSDKライブラリが手動生成、または旧Config Toolsで生成していて、IDE付属の最新Config Toolsの上書き版と(機能的には同じでも)異なる場合があるからです。例えば、ライブラリコメントが変わる場合などが相当します。

気になる方は、SDKサンプルプロジェクトを最初にIDEへImport後、直にConfig Toolsを起動し、Update Codeを一度実行しておけば、次回からユーザ変更が無ければ、灰色でボタン表示されます。

新規プロジェクトのConfig Tools

Config Toolsの使い方に本稿では、SDKサンプルプロジェクトのLチカサンプル点滅LED変更を例にしました。この使い方は、MCUXpresso IDEで新規プロジェクト作成時でも同じです。

新規プロジェクト作成時、初めからMCU内蔵周辺回路のSDKドライバを全て実装したとしても、消費(浪費)されるリソースはFlash/RAM容量のみです。周辺回路やクロックルートのほとんどは、Inactiveが初期値で、ActivateはUART0程度です。

そこで、IDE新規プロジェクト作成後、先ずConfig Toolsで使用予定の周辺回路やクロックルートをActivateし、それらに対応したSDKライブラリをUpdate Codeで上書き更新、最後にユーザ処理を記述するという順番になります。

MCUXpresso IDEソフトウェア開発要点

NXPのMCUXpresso IDEは、SDKベースのMCUソフトウェア開発を行います。

SDKには、多くのサンプルプロジェクトがあり、これらを上手く活用すると、効率的で汎用的なMCUソフトウェア開発が可能です。

SDKサンプルプロジェクトは、対象周辺回路とクロックルートのみを動作させる基本に忠実な作法で開発しているため、ユーザがプロジェクトへ変更を加える時、新たな周辺回路のActivateが必要な場合があります。

Config Toolsは、MCU全内蔵回路とクロックルートを、GUIで簡単にActivate/Inactive変更ができ、その結果として、更新の必要があるSDKサンプルプロジェクトのライブラリを上書き更新します。

NXPのMCUソフトウェア開発は、MCUXpresso IDEに備わったSDKとConfig Tools両方の活用が必須で、前稿と本稿の2回に分けてその使い方を説明しました。

MCUXpresso SDKの使い方

NXP MCUXpresso IDEを使ったFRDM-KE02Z40Mテンプレートv2開発にあたり、MCUXpresso SDKベースのMCUソフトウェアの開発方法を示します。

MCUXpresso SDK全般の使い方

MCUXpresso SDKの全般的な使い方は、IDE付属のGetting Started with MCUXpresso SDKコチラの動画で判ります。どちらも初めてSDK:Software Development Kitを使う時には役立ちますが、具体的にSDKを使ってMCUソフトウェア開発をするにはどうすれば良いのかの説明はありません。

「導入説明だけで活用説明がない」典型例です。

MCUXpresso SDK構造

本稿はソフトウェア開発初心者が、一番知りたいハズだと思うSDKの具体的な使い方:活用の説明をします。SDK全般の使い方:導入説明に関しては、上記リンク先を参照してください。

OpenSDA接続問題

現時点では、FRDM-KE02Z40M(Cortex-M0+/40MHz、5V Robust)のOpenSDAとIDEデバッガ間が接続できない問題があり、代わりにFRDM-KL25Z(Cortex-M0+/48MHz、General Purpose)も使います。FRDM-KL25Zには、接続問題はありません。

※FRDM-KE02Z40MのOpenSDA接続問題は、内容とその解決策を次回以降投稿予定です。

SDK Version

Installed SDK Version (2020-07)
Installed SDK Version (2020-07)

投稿時点のSDK_2.x_FRDM-KE02Z40M(Version 2.7.0)とSDK_2.x_FRDM-KL25Z(Version 2.2.0)が上図です。MCUXpresso IDEへインストールされたSDK Versionが異なることには注意が必要です。

Versionが異なると、SDK提供サンプルプロジェクトやその中身が異なることがあるからです。多くの評価ボードの最新SDK Versionは2.7.0ですので、テンプレートもSDK Version 2.7.0を前提とします。

Hello_worldサンプルプロジェクトと新規作成プロジェクト

Hello_worldサンプルプロジェクト(左)と新規作成Templateプロジェクト(右)
Hello_worldサンプルプロジェクト(左)と新規作成Templateプロジェクト(右)

FRDM-KE02Z40Mのhello_worldプロジェクトが上図(左)です。CMSISやboardなど多くのフォルダがあり、その中にcソースファイルと、hヘッダファイルが混在しています。sourceフォルダ内にhello_world.cとmain関数があります。

このsourceフォルダが、ユーザの開発するc/hファイルを格納する場所で、他のboardフォルダなどは当面無視して構いません。New Projectをクリックし新たなプロジェクト(プロジェクト名:Template)を作成すると、この理由が判ります。

上図(右)が新規作成したTemplateプロジェクトです。sourceフォルダ以外は、hello_worldと同じ構造です。sourceフォルダ内のTemplate.c内に、コメント:/* TODO: inset other… */が2か所あることも判ります。この青色TODOコメントのソース位置は、ソースウインド右端の上下スライダに青で明示されています。

青色TODOコメントは、ソースコードのユーザ追記場所を示します。

最初のTODOコメントの下にユーザ追記インクルードファイルを、次のTODOコメントの下にユーザ宣言や定義を追記し、main関数内にユーザ処理を追記すればTemplateプロジェクトが完成します。

※main関数内にユーザ処理を追記するのは当然のことですので、main関数内にあるべき青色TODOコメントは、省略されています。

MCUXpresso SDK活用のMCUソフトウェア開発方法

前章までのSDK構造をまとめます。

  • ユーザが新規に開発(追記)するソース/ヘッダファイルは、全てsourceフォルダ内に配置
  • IDEが生成したsourceフォルダ>プロジェクト名.cのユーザ追記場所は、目印として青色TODOコメントがあり、上下スライダにも明示される
  • sourceフォルダ以外は、IDEがSDK Versionに応じて自動生成するライブラリフォルダ
  • ライブラリフォルダの中身は、ユーザ編集は不要

SDK付属のサンプルプロジェクトは、SDK構造に基づいてNXPが作成した周辺回路の利用例です。
※サンプルプロジェクトでは、青色TODOコメントは全て省略されています。

MCUが異なっても、同じ処理を行う場合は、sourceフォルダ内のユーザ追記処理も同じハズです。例えば、FRDM-KE02Z40MとFRDM-KL25Zのhello_worldプロジェクト>sourceフォルダ>hello_world.cは、全く同じソースコードで実現できています。

MCU差やSDK Version差は、sourceフォルダ以外のSDK構造部分で吸収されます。導入説明:Getting Started with MCUXpresso SDKの図1は、このことを図示したものです。

MCUXpresso SDK Laysers(出典:Getting Started with MCUXpresso SDK, Rev. 10_06_2019)
MCUXpresso SDK Laysers(出典:Getting Started with MCUXpresso SDK)

もちろん、旧SDK Versionで未提供なAPIが、新SDK Versionで新たに提供される場合もあります。ただ基本的なAPIは、新旧SDKで共通に提供済みです。

FRDM-KE02Z40MのSDK VersionとFRDM-KL25ZのSDK Versionは現時点で異なるため、IDEが自動生成するフォルダ数は異なります。しかし、ユーザ開発(追記)処理が、sourceフォルダ内で全て完結するSDK構造は同じです。

これが、hello_worldサンプルプロジェクトのようにFRDM-KE02Z40MとFRDM-KL25Z両方に共通で記述できるユーザ処理(Application Code)がある理由です。

SDK構造に沿ったsourceフォルダへのユーザ処理追記と、基本的API利用により、汎用的で効率的なMCUソフトウェア開発が出来ることがご理解できたと思います。

あとがき

2章で、「具体的にSDKを使ってMCUソフトウェア開発をするにはどうすれば良いのかの説明はない」と書きました。しかし、本稿で示したSDK活用説明は、ソフトウェア開発者は当然知っていること・・・だから説明がないとも言えます😅。

このように組込みMCU関連の資料は、前提とするソフトウェア知識・経験をどの読者も既に持っており、本稿記述の当たり前の活用説明は省略する(≒すっ飛ばす)傾向があります。

弊社マイコンテンプレートは、初心者~中級レベルの開発者を対象としており、提供テンプレートも本稿で示したSDK活用方法で開発します。ご購入者様が、なぜこのようなテンプレートになったのか疑問を持った時、それに答えるため、このすっ飛ばした省略部分を補う説明を本稿ではあえて加えました😌。

MCUの5V耐圧ピン

弊社FreeRTOS習得ページで使う評価ボード:LPCXpresso54114(Cortex-M4/100MHz、256KB Flash、192KB RAM)は、FreeRTOSだけでなく、Mbed OSZephyr OSなどオープンソース組込みRTOSにも対応しています。多くの情報がありRTOSを学ぶには適した評価ボードだと思います。

LPCXpresso54114 Board power diagram(出典:UM10973に加筆)
LPCXpresso54114 Board power diagram(出典:UM10973に加筆)

さて、このLPCXpresso54114の電圧ブロック図が上図です。MCUはデフォルト3.3V動作、低電力動作用に1.8Vも選択可能です。一方、Arduinoコネクタへは、常時5Vが供給されます。

本稿は、このMCU動作電圧とArduinoコネクタに接続するセンサなどの動作電圧が異なっても制御できる仕組みを、ソフトウェア開発者向けに説明します。

MCU動作電圧

高速化や低電力化の市場要求に沿うようにMCU動作電圧は、3.3V → 3.0V → 2.4V → 1.8Vと低下しつつあります。同時にMCUに接続するセンサやLCDなどの被制御デバイスも、低電圧化しています。しかし、多くの被制御デバイスは、未だに5V動作が多く、しかも低電圧デバイスに比べ安価です。

例えば、5V動作HD44780コンパチブルLCDは1個500円、同じ仕様で3.3V動作版になると1個550円などです。※弊社マイコンテンプレートに使用中のmbed-Xpresso Baseboardには、5V HD44780コンパチブルLCDが搭載されています。

レベルシフタ

異なる動作電圧デバイス間の最も基本的な接続が、間にレベルシフタを入れる方法です。

TI)TXS0108E:8ビットレベルシフタモジュールの例で示します。低圧A側が1.8V、高圧B側が3.3Vの動作図です。A側のH/L電圧(赤)が、B側のH/L電圧(緑)へ変換されます(双方向なので、B側からA側への変換も可能です)。

8ビットレベルシフタTXS0108Eのアプリケーション動作(出典:TI:TXS0108Eデータシート)
8ビットレベルシフタTXS0108Eのアプリケーション動作(出典:TI:TXS0108Eデータシート)

レベルシフタ利用時には、電圧レベルの変換だけでなく、データレート(スピード)も重要です。十分なデータレートがあれば、1.8VのH/L波形は、そのまま3.3VのH/L波形へ変換されますが、データレートが遅いと波形が崩れ、送り側のH/L信号が受け側へ正確に伝わりません。

例えば、LCD制御は、複数のLCDコマンドをMCUからLCDへ送信して行われます。データレートが遅い場合には、コマンドが正しく伝わらず制御ができなくなります。

MCUの5V耐圧ピン:5V Tolerant MCU Pad

LPCXpresso54114のGPIOピンには、5V耐圧という属性があります。PIO0_0の[2]が5V耐圧を示しています。

LPCLPCXpresso54114の5V耐圧属性(出典:5411xデータシート)
LPCLPCXpresso54114の5V耐圧属性(出典:5411xデータシート)

5V耐圧を簡単に説明すると、「動作電圧が3.3/1.8V MCUのPIO0_0に、5Vデバイスをレベルシフタは使わずに直接接続しても、H/L信号がデバイスへ送受信できる」ということです。または、「PIO0_0に、1ビットの5Vレベルシフタ内蔵」と解釈しても良いと思います。

※ハードウェア担当者からはクレームが来そうな説明ですが、ソフトウェア開発者向けの簡単説明です。クレームの内容は、ソフトウェア担当の同僚へ解説してください😌。

全てのGPIOピンが5V耐圧では無い点には、注意が必要です。但し、ArduinoコネクタのGPIOピンは、5V耐圧を持つものが多いハズです。接続先デバイスが5V動作の可能性があるからです。

また、I2C/SPIバスで接続するデバイスもあります。この場合でも、MCU側のI2C/SPI電圧レベルとデバイス側のI2C/SPI電圧レベルが異なる場合には、レベルシフタが必要です。MCU側I2C/SPIポートに5V耐圧属性がある場合には、GPIO同様直接接続も可能です。

I2Cバスは、SDA/SCLの2本制御(SPIなら3本)でGPIOに比べMCU使用ピン数が少ないメリットがあります。しかし、その代わりに通信速度が400KHzなど高速になるのでデータレートへの注意が必要です。

LPCXpresso54114以外にも5V耐圧ピンを持つMCUは、各社から発売中です。ちなみに、マイコンテンプレート適用のMCUは、6本の5V耐圧GPIOを使ってmbed-Xpresso Baseboard搭載5V LCDを直接制御しています。

mbed-Xpresso Baseboard搭載5V HD44780コンパチLCDの3.3V STM32G071RB直接制御例
mbed-Xpresso Baseboard搭載5V HD44780コンパチLCDの3.3V STM32G071RB直接制御例

5V耐圧MCUデータシート確認方法

MCUのGPIOやI2C/SPIを使って外部センサやLCDなどのデバイスを制御する場合、下記項目を確認する必要があります。

  1. MCU動作電圧と被制御デバイス動作電圧は同じか?
  2. MCU動作電圧と被制御デバイス動作電圧が異なる場合、外付けレベルシフタを用いるか、またはMCU内蔵5V耐圧ピンを用いるか?
  3. MCU内蔵5V耐圧GPIOやI2C/SPIを利用する場合、そのデータレートは、制御に十分高速か?

5V耐圧ピンは、使用するMCU毎に仕様が異なります。MCUデータシートは、英語版なら「tolerant」、日本語版なら「耐圧」で検索すると内容確認が素早くできます👍。

MCU動作電圧と接続デバイス動作電圧が異なっても、MCUのH/L信号が被制御デバイスへ正しく伝わればデバイスを制御できます。

MCU動作電圧に合わせたデバイス選定やレベルシフタ追加ならば話は簡単ですが、トータルコストや将来の拡張性などを検討し、5V耐圧ピンの活用も良いと思います。

NXPのFreeMASTER

FreeMASTERは、NXP組込みMCUのアプリケーションのリアルタイム変数モニタと、モニタデータの可視化ツールです。関連投稿:STマイクロエレクトロニクスのSTM32CubeMoniterとほぼ同じ機能を提供します。

NXP資料FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview を使ってFreeMASTERの特徴を示します。

FreeMASTERとIDEデバッガ機能差

FreeMASTERと、開発者が普段使うIDEデバッガとの差が一目で解る図がP13にあります。

FreeMASTERとデバッガの違い(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)
FreeMASTERとデバッガの違い(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)

両者の機能境界が、ソースコードのデバッグ機能です。IDE(MCUXpresso IDE)でも変数ロギングやグラフ化機能はありますが、プログラム開発者向けの最低機能に絞ったものです(limited functionality)。

これに対し、FreeMASTERは、msec分解能のグラフ化と、μsec分解能のデータ取得が可能です。更に取得データを利用し、Field-tune parametersやRemote controlなど多くの機能を持つツールです。データの取得は、MCU実装のUARTやUSB、SWD経由です。

FreeMASTERを使うと、外付け制御パネルの代替やGUIアプリケーションとしても活用できます。例えば、下図のようなモータ制御パネルが、PC上でFreeMASTERソフトウェアのみで実現できる訳です。

FreeMASTERを使ったモータ制御パネル例(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)
FreeMASTERを使ったモータ制御パネル例(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)

 FreeMASTER構成

Windows PCにおけるFreeMASTER構成がP20です。詳細は、P21~25に示されています。Linux PCでの構成は、P26に示したFreeMASTER Liteが使われます。

FreeMASTER Windows PC構成(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)
FreeMASTER Windows PC構成(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)

MCU開発トレンド:ビジュアル化と脱Windows

組込みアプリケーションのビジュアル化は、最近のMCU開発トレンドです。

MCU本体の性能を使わずに変数データを取出し、そのデータを高性能PCとプラグイン機能を利用し、データ可視化やリモート制御を実現します。本稿で紹介したNXPのFreeMASTERやSTのSTM32CubeMoniterがこのトレンドをけん引する技術です。

また、オープンソースLinux PCへのMCU開発環境移行や各社IDEマルチプラットフォーム化、つまり脱Windowsもトレンドの1つです。

上級開発者向けというイメージが強かったLinux PCですが、一般ユーザへも普及し始めました(Wikipediaより)。筆者も昨年から、MCU開発Main-PCのWindows 10とは別に、Backup-PCにLinux Mintを新規インストールし試用中です。

半年間の試用では、OSインストール、大型/定期更新、セキュリティに関してもLinux Mintの方が、Windows 10より安定感があります。

もはや現状のWindows 10では、信頼性があったWindows 7のレベルにはならない気がします。

既存Windows 10に手を加えるよりも、新OSを開発するほうが、早道で、安心してPCを利用したい一般ユーザ要求も同時に満たせるのではないでしょうか? 商業的理由は、セキュリティ対応強化とすれば、内容不明ながら大多数の納得も得られるでしょう。※あくまで、ソフトウェア開発経験者個人の見解です。

NXP新CEO Kurt Sievers氏

2020年5月28日、蘭)NXPのCEOがリチャード・L・クレマー(Richard L. Clemmer)氏から、カート・シーヴァーズ(Kurt Sievers)氏への交代発表がありました。こちらのEE Times記事に新CEOカート・シーヴァーズ氏の経歴や、米中貿易摩擦下でのNXP中国分析などが示されています。

欧州MCUベンダNXPのアフターCOVID-19への布石、さすがに早いです。