OpenSDA接続トラブル解決方法

ブログ読者様のおかげで、不明だったFRDM評価ボードOpenSDAとMCUXpresso IDE間の接続トラブル解決方法が判明しました。本稿は、このOpenSDA接続トラブル解決方法と、昨今の激しいMCU開発環境変化への開発者対応私案を示します。

OpenSDA v1/v2差

前投稿当日、弊社ブログ読者様からFRDM評価ボードOpenSDA処理トラブル時のJ-Linkハードウェアデバッガによる解決方法と、その根拠となったNXP Communityリンク、さらに、同様のトラブルを抱えた方々向けに、ご提供情報を弊社ブログで共有してくださいとのメールを頂きました。

この場を借りて御礼申し上げます。ありがとうございます。

ご提供情報を基に、FRDM評価ボードOpenSDA v1/v2の差をまとめたのが、下表です。

OpenSDA v1/v2とFRDM評価ボードのまとめ
OpenSDA版数 評価ボード例 開発者 トラブル状況 トラブル解決方法
OpenSDA v1.0 FRDM-KE02Z40M P&E Micro社

(Proprietary)

弊社あり OpenSDA処理MCUをハードウェアデバッガで書換えれば解決の可能性あり
FRDM-KL25Z 弊社なし
OpenSDA v2.0 FRDM-K64F ARM/mbed.org

(Open source)

Community内あり OpenSDA処理MCUをハードウェアデバッガ:SEGGER J-Linkなどで書換えて解決(情報提供者様の解決実績あり)
OpenSDA v2.1以上 FRDM-K22F

OpenSDAにはv1系とv2系があり、v1.0は開発会社:P&E MicroのProprietary製品、v2系はARM/mbed.org開発のオープンソースです。また、新しいFRDM評価ボードの多くはv2.1以上を搭載済みで、v1.0やv2.0は古くからあるFRDM-K64Fなどです(Getting Start with MCUXpresso SDK, Rev.3, 03/2017のTable 1掲載ボードでの比較。この表になぜかFRDM-KE02Z40Mの記載はありません)。

Getting Start with MCUXpresso SDK Rev. 3 03-2017のTable 1
Getting Start with MCUXpresso SDK Rev. 3 03-2017のTable 1

OpenSDA接続トラブル解決方法

OpenSDA v2系のブートローダ更新失敗などにより生じたMCUXpresso IDE接続トラブルは、SEGGER J-Linkなどのハードウェアデバッガを使って、OpenSDA処理MCU:Kinetis K20(Cortex-M4)を、評価ボードのJ-TAGコネクタ経由でユーザが直接再プログラミングすれば解決します。再プログラミング用コードも、オープンソースです(情報提供者様の解決実績もあります)。

しかし残念ながら、弊社トラブル中のFRDM-KE02Z40Mは、OpenSDA v1.0です。OpenSDA 1.0は、処理ソフトウェアがProprietary(非オープンソース)ですので、この処理部分のユーザによる再プログラミングが可能かはCase-by-caseです。

通常Proprietaryソフトウェアは、下記理由で再プログラミングができない場合が多いと思います。

理由:前稿で示したユーザ(筆者)が、Windows 10ストレージサービスを一時停止しなかったブートローダ更新は、MCU側にとってはProprietary処理ソフトウェアの悪意侵害と判断される可能性があります。
侵害と判断された場合には、セキュリティ防御手段としてMCU書込みプロテクトをかけ、再プログラミングはできなくなります。また、Proprietaryなので初めからMCU書換えプロテクト済みの可能性もあります。

※USB経由で行うブートローダ更新と、J-TAG経由のOpenSDA処理MCUソフトウェア書換えは、別物であることに注意してください。

FRDM-KE02Z40M Proprietary OpenSDA v1.0再プログラミングは、トラブル実機で試す必要があります。Proprietaryソフトウェアのため、書換え障壁はオープンソースOpenSDA v2系よりも当然高いと思われます。

J-TAGハードウェアデバッガメリット

評価ボードOpenSDA v1.0再プログラミングに必要となるJ-TAGハードウェアデバッガ価格は、例えばSEGGER J-Linkなら最低€300から、円換算で約¥37,000(2020年7月)からです。

同じ金額で10枚程度の最新MCU評価ボードが購入できるので、個人レベルのJ-TAGハードウェアデバッガ購入は勇気がいります。

J-TAGハードウェアデバッガのメリットは、旧Freescale)Bertrand Deleris氏の組込み向けデバッグ技術の基本(2007年3月:EDN)が良く解ります。マルチコアMCUデバッグや、ハードウェア/ソフトウェアブレークポイント差、セキュリティとDebug/Releaseの関係など参考になりますので、一読をお勧めします。

半導体ライフサイクルとMCU開発者対応私案

半導体製品のライフサイクルと製造中止(EOL)対策(2020年7月、EE Times)によると、多くの半導体製品の平均寿命は、3~5年だそうです。

MCUベンダ各社は、10~15年の安定供給を保証しますが、製品搭載済みMCUの賞味期限は、我々開発者が製品化に1年要したとして、発売後5年程度だと個人的には思います。

※MCU賞味期限≒MCUの差別化特徴を活かした製品が競合他社より優位な期間。IoTセキュリティ、AI機能実装や製造プロセス細分化など今後MCUは激変するハズなので、より短くなると思います。

丁度、新車購入後、2回目の車検(3年+2年=5年)で名目上の減価償却する自動車と同程度です。

COVID-19の影響で少し鈍る可能性もありますが、ADAS(先進運転支援システム)が引っ張る自動車と同様、“MCU製品も5年目安で世代交代を考えるべきだ”と思います。

また、「日本製品」が海外で売れなくなった根本原因(2020年7月、東洋経済オンライン)を読むと、「加点型の完璧主義」の世界基準に対して、日本人の「盆栽のような減点型のミニマムな完璧ものづくり」が日本敗因の1つです。プラス側メリットやそれに費やした見えない労力などは無視する一方、マイナス側の過度な批判は、日本特有かもしれません。

“基準を減点型→加点型へ180度変える努力が日本は必要”になりそうです。

MCU開発環境は、PC OSも含めて常に変化・進化します。そして、それらの環境変化は全て世界基準です。

MCUXpresso IDEは、7月9日にv11.2.0へ、MCUXpresso SDKの多くは、7月19日にv2.8.0へ更新されました。次々に生まれる新MCUや環境変化に対応するためですが、逆にこれら変化・進化に馴染まない従来MCUや減点型対応者も生じます。これらは、徐々に進化と逆らい「ガラパゴス化」している訳です。

MCU開発者は、変化・進化する環境に対して、開発中、または顧客稼働中のMCUが進化に馴染まなくなる兆候・前兆を素早く捉え、最終利用者と協議の上、従来から180度変えた“加点型対応策を取ることが、ワールドワイドなMCU開発者との競争に生き残り、その結果、日本製品も生き残れる方法”だと思います。

ガラパゴス化が全て悪い訳ではありません。しかし、日本MCU開発者がガラパゴス化すれば、その生存確率は確実に下がります。

まとめ、新開発汎用Kinetis Lテンプレート

これまでの章内容をまとめます。

  • 壊れたFRDM-KE02Z40のOpenSDA v1.0 Proprietary再プログラミングには、J-TAGハードウェアデバッガ:37,000円が必要で、OpenSDA v2系とは異なるProprietaryソフトウェアのため、書換え可能かはトラブル実機検証が必須。
  • J-TAGハードウェアデバッガは、MCUコア/ベンダに依存しない強力デバッグツール。
  • 激変MCU環境に対して、加点型へ進化しないと日本MCU開発者はガラパゴス化する。

これらから、FRDM-KE02Z40(Cortex-M0+/40MHz、5V Robust)のOpenSDA v1.0 Proprietary再プログラミングはあきらめ、5V耐圧が特徴であるKinetis Eテンプレートv2改版開発は中止、新たにFRDM-KL25Z(Cortex-M0+/48MHz、General Purpose = Main Stream)を用いた汎用Kinetis Lテンプレート開発に着手しようと考えております。

5V耐圧の代案は、一般的になってきたレベルシフタを用いる方法でKinetis Eテンプレートの最終利用者様への対応をお願いいたします(関連投稿:MCUの5V耐圧ピンを参考にしてください)。

5V耐圧を失う代わりに、FRDM-KE02Z40Mでは実装していましたが動作しないTouch pad (Slider)が、FRDM-KL25Zでは動作します。Touch pad (Slider)動作には、MCU内蔵Touch Sense Input:TSIハードウェアが必須です。FRDM-KE02Z40Mは内蔵されていません。TSIライブラリソフトウェアのみでは動作しないことは、2015年開発のKinetis Eテンプレート v1で確認済みです。

新開発の汎用Kinetis Lテンプレートは、このFRDM-KL25Z内蔵TSIハードウェアとライブラリ使いTouch pad (Slider)を、外付けSW入力の代わりに用います。

FRDM-KL25Z Block Diagram(出典:ユーザズマニュアル)
FRDM-KL25Z Block Diagram(出典:ユーザズマニュアル)

※FRDM-KL25Z搭載のMCU:MKL25Z128VLK4 (Cortex-M0+/48MHz、Flash:128KB、RAM:16KB、IOs:66)は最新MCUとは言えませんが、「低価格、入手性良し、汎用性(Main Stream)、応用範囲の広さ、OpenSDAトラブル無し」が、新規汎用テンプレート開発採用にプラスに働きました。

さいごに

多彩な情報満載のCommunityですが、逆に欲しい答え発見までにかなりの時間・労力がかかるのもCommunityです。

ブログ読者様ご提供Communityリンクのおかげで、短期間で効率的に問題解決法を見つけることができ、さらにJ-TAGハードウェアデバッガなどの関連情報収集、現状テンプレート開発見直しもできました。

ここにあらためて心より感謝いたします。ありがとうございました。

FRDM評価ボードOpenSDA接続問題整理

Kinetis E(Cortex-M0+/40MHz、5V Robust)テンプレートv2開発障害となっている評価ボード:FRDM-KE02Z40MのOpenSDAとMCUXpresso IDEデバッガ間の接続問題は、残念ながら未解決です。今回は、このOpenSDA問題を簡単に整理します。また、Linuxによる第2のMCU開発環境構築の新設カテゴリも示します。

Kinetis OpenSDA

OpenSDA Block Diagram(出典:OpenSDA Users Guideに加筆)
OpenSDA Block Diagram(出典:OpenSDA Users Guideに加筆)

Figure 1は、MCUXpresso IDEとKineties MCU間のブロック図です。旧Freescaleは、Kinetis Design Studio:KDSというFreescale製IDEとKinetis MCU評価マイコンボード間の接続は、OpenSDAというインタフェースで接続していました。

このOpenSDAは、KDS直接接続だけでなく、PC(Windows 7)との接続時、File System(USBメモリ)として動作し、クラウド開発環境:mbed開発にも利用できる2種類のプログラミング機能を持ちます。

現在問題発生中のFRDM-KE02Z40MのOpenSDAも、Windows 7当時は問題なく動作していました。その結果、Kinetis Eテンプレートv1発売ができました。

MCUXpresso IDE接続問題(Windows 10)

Freescaleを買収したNXPは、自社LPCと新旧Freescale Kinetis両マイコンに新しい統合開発環境:MCUXpresso IDEを用意しました。このMCUXpresso IDEの評価ボード接続インタフェース一覧(一部抜粋)が下図です。

MCUXpresso SDK support platform(出典:Getting Started with MCUXpresso)
MCUXpresso SDK support platform(出典:Getting Started with MCUXpresso)

簡単に説明すると、MCUXpresso IDEは、NXP純正評価ボードEVKやLPCXpresso54xxx接続インタフェース:CMSIS-DAPと、新旧FRDM評価ボード接続インタフェース:OpenSDA v1系/v2系とmbedの3種類全てをサポートします。

接続問題が発生するのは、OpenSDAの一部です(表内にFRDM-KE02Z40Mが無いのは不安ですが、記載漏れだと思います)。FRDM-KL25Z(Cortex-M0+/48MHz、General Purpose)のOpenSDAは、MCUXpresso IDEと問題なく接続できています。

接続問題解決には、Figure 1のMSB Bootloaderを、MCUXpresso IDE対応済みの最新版へUpdateすることが必要です。

MSB Bootloader更新注意点(Windows 10)

MSB Bootloader更新方法は、評価ボードのリセットボタンを押しながらPC(Windows 10)とUSB接続し、エクスプローラーに現れるBootloaderフォルダへ、最新版:BOOTUPDATEAPP_Pemicro_v118.SDAをドラッグ&ドロップするだけです(FRDM-KE02Z40Mの最新Bootloaderは、コチラから取得できます)。

この操作後、再度評価ボードとPCを接続すると、今度はエクスプローラーに通常モードのFRDM-KE02Z40Mフォルダが現れ、更新完了となるハズです。ところが、筆者の評価ボードは、Bootloaderモードから通常モードへ復帰しません。

従って、MCUXpresso IDEとFRDM-KE02Z40MをUSB接続しても、IDEは評価ボード無しに認識します。

簡単に説明しましたが、実際はWindows 10でのBootloader 更新時、「Windows 7では不要であったストレージサービスの一時停止が必須」です(詳細は、コチラのNXP情報のStep 2を参照してください)。

調べると、Windows 8以降に一般的なユーザには知らせずに追加したWindows PCのUSBメモリへの隠しフォルダ書込み機能(これが上記一時停止するストレージサービス)が、諸悪の根源のようです。

FRDM評価ボードOpenSDA接続問題整理と対策(Windows 10)

以上を整理し、対策をまとめます。

・旧Freescale製FRDM評価ボードが、新しいNXP MCUXpresso IDEと接続できない原因は、評価ボードOpenSDAのMSB Bootloaderにあり、対策は、MCUXpresso IDE対応版Bootloaderへの更新を、Windows 10ストレージサービスを停止させた状態で行うことが必要。

旧Freescale製(つまりWindow 7対応)のまま入手したFRDM評価ボードは、FRDM-KE02Z40M以外でもIDE接続問題が発生することがありますので、上記まとめを参考に対策してください。

このまとめと対策にたどり着く前に、Windows 10でストレージサービスを停止せずにFRDM-KE02Z40MのOpenSDA MSB Bootloader更新を何度か繰返しました。評価ボードが、Bootloaderモードから通常モードへ復帰しない理由は、これかもしれません😥。

筆者は、Windows 7時代からFRDM評価ボードを活用してきました。まさか、Bootloaderモード時にWindows 10ではサービス一時停止が必須だとは思いもしませんでした。しかも、このサービスは隠しフォルダ対応なので、通常ではWindows 7と同様にBootloader更新が正常終了したように見えます。

事前に調査しなかった筆者が悪いのですが、旧Freescale評価ボード記載Windows 7対応マニュアル通りに対処すれば、筆者と同じトラブルに出会う人は多いハズです。

また、OpenSDAユーザズガイドにも上記トラブルからの復帰方法の記載はありません。ネット検索か、NXP communityが解決手段でしょう😥。解決方法が見つかれば、本ブログでお知らせします。

エンドユーザを無視したかのようなWindows 10の度重なる変更に起因するトラブルは、今後も増える可能性があると思います。次章は、その対策です。

Windows MCU開発者向けLinuxカテゴリ新設

筆者は、昨年からLinux MintでのMCUXpresso IDE開発環境もWindows 10のバックアップ用に構築しています。このLinux環境でも、残念ながら今回のトラブル回復はできていません。

今回はLinux/Windows両方NGでしたが、Windows以外の第2のMCU開発環境があると、何かと便利です。

そこで、本ブログで、Windows MCU開発に慣れた開発者が、簡単にLinuxを使うための情報も発信したいと思います。このための新設カテゴリが、PC:パソコン>Linuxです。
※親カテゴリPC:パソコンへ、LibreOfficeとWindowsも移設しました。

Windows 10、Linuxともに単なるPC OSです。Linux上でMCU開発アプリケーション、本ブログではNXP MCUXpresso IDEやSTM STM32CubeIDEを利用するために、最低限必要な情報に絞って説明する予定です。

Linux情報量もまたWindows同様多いのですが、Windowsに慣れたMCU開発者としては、当面不要な情報も多く、Windowsの代わりにLinuxを短期間で効率的に活用するMCU開発環境構築が目標・目的です。今回のようなWindows PCでのトラブル発生時、Linux PCへ移ってMCU開発を停止することなく継続するのが狙いです。

MCU Devopments Windows and Linux 2 Routes
MCU Devopments Windows and Linux 2 Routes

Linuxのシステム動作要件は下記で、Windows 10よりも低いので、古いPCでも快適に動作します。ただし新しいOS利用なら「64ビットCPUは必須」ですが…😅。32ビットPC OSの新規開発は、終了しました。

  • 1GB RAM (2GB recommended for a comfortable usage)
  • 15GB of disk space (20GB recommended)
  • 1024×768 resolution

COVID-19の影響で、市場に中古PCが安価で数多く出回っていますので、これら活用も一案かと思います。

MCUXpresso SDKの使い方

NXP MCUXpresso IDEを使ったFRDM-KE02Z40Mテンプレートv2開発にあたり、MCUXpresso SDKベースのMCUソフトウェアの開発方法を示します。

MCUXpresso SDK全般の使い方

MCUXpresso SDKの全般的な使い方は、IDE付属のGetting Started with MCUXpresso SDKコチラの動画で判ります。どちらも初めてSDK:Software Development Kitを使う時には役立ちますが、具体的にSDKを使ってMCUソフトウェア開発をするにはどうすれば良いのかの説明はありません。

「導入説明だけで活用説明がない」典型例です。

MCUXpresso SDK構造

本稿はソフトウェア開発初心者が、一番知りたいハズだと思うSDKの具体的な使い方:活用の説明をします。SDK全般の使い方:導入説明に関しては、上記リンク先を参照してください。

OpenSDA接続問題

現時点では、FRDM-KE02Z40M(Cortex-M0+/40MHz、5V Robust)のOpenSDAとIDEデバッガ間が接続できない問題があり、代わりにFRDM-KL25Z(Cortex-M0+/48MHz、General Purpose)も使います。FRDM-KL25Zには、接続問題はありません。

※FRDM-KE02Z40MのOpenSDA接続問題は、内容とその解決策を次回以降投稿予定です。

SDK Version

Installed SDK Version (2020-07)
Installed SDK Version (2020-07)

投稿時点のSDK_2.x_FRDM-KE02Z40M(Version 2.7.0)とSDK_2.x_FRDM-KL25Z(Version 2.2.0)が上図です。MCUXpresso IDEへインストールされたSDK Versionが異なることには注意が必要です。

Versionが異なると、SDK提供サンプルプロジェクトやその中身が異なることがあるからです。多くの評価ボードの最新SDK Versionは2.7.0ですので、テンプレートもSDK Version 2.7.0を前提とします。

Hello_worldサンプルプロジェクトと新規作成プロジェクト

Hello_worldサンプルプロジェクト(左)と新規作成Templateプロジェクト(右)
Hello_worldサンプルプロジェクト(左)と新規作成Templateプロジェクト(右)

FRDM-KE02Z40Mのhello_worldプロジェクトが上図(左)です。CMSISやboardなど多くのフォルダがあり、その中にcソースファイルと、hヘッダファイルが混在しています。sourceフォルダ内にhello_world.cとmain関数があります。

このsourceフォルダが、ユーザの開発するc/hファイルを格納する場所で、他のboardフォルダなどは当面無視して構いません。New Projectをクリックし新たなプロジェクト(プロジェクト名:Template)を作成すると、この理由が判ります。

上図(右)が新規作成したTemplateプロジェクトです。sourceフォルダ以外は、hello_worldと同じ構造です。sourceフォルダ内のTemplate.c内に、コメント:/* TODO: inset other… */が2か所あることも判ります。この青色TODOコメントのソース位置は、ソースウインド右端の上下スライダに青で明示されています。

青色TODOコメントは、ソースコードのユーザ追記場所を示します。

最初のTODOコメントの下にユーザ追記インクルードファイルを、次のTODOコメントの下にユーザ宣言や定義を追記し、main関数内にユーザ処理を追記すればTemplateプロジェクトが完成します。

※main関数内にユーザ処理を追記するのは当然のことですので、main関数内にあるべき青色TODOコメントは、省略されています。

MCUXpresso SDK活用のMCUソフトウェア開発方法

前章までのSDK構造をまとめます。

  • ユーザが新規に開発(追記)するソース/ヘッダファイルは、全てsourceフォルダ内に配置
  • IDEが生成したsourceフォルダ>プロジェクト名.cのユーザ追記場所は、目印として青色TODOコメントがあり、上下スライダにも明示される
  • sourceフォルダ以外は、IDEがSDK Versionに応じて自動生成するライブラリフォルダ
  • ライブラリフォルダの中身は、ユーザ編集は不要

SDK付属のサンプルプロジェクトは、SDK構造に基づいてNXPが作成した周辺回路の利用例です。
※サンプルプロジェクトでは、青色TODOコメントは全て省略されています。

MCUが異なっても、同じ処理を行う場合は、sourceフォルダ内のユーザ追記処理も同じハズです。例えば、FRDM-KE02Z40MとFRDM-KL25Zのhello_worldプロジェクト>sourceフォルダ>hello_world.cは、全く同じソースコードで実現できています。

MCU差やSDK Version差は、sourceフォルダ以外のSDK構造部分で吸収されます。導入説明:Getting Started with MCUXpresso SDKの図1は、このことを図示したものです。

MCUXpresso SDK Laysers(出典:Getting Started with MCUXpresso SDK, Rev. 10_06_2019)
MCUXpresso SDK Laysers(出典:Getting Started with MCUXpresso SDK)

もちろん、旧SDK Versionで未提供なAPIが、新SDK Versionで新たに提供される場合もあります。ただ基本的なAPIは、新旧SDKで共通に提供済みです。

FRDM-KE02Z40MのSDK VersionとFRDM-KL25ZのSDK Versionは現時点で異なるため、IDEが自動生成するフォルダ数は異なります。しかし、ユーザ開発(追記)処理が、sourceフォルダ内で全て完結するSDK構造は同じです。

これが、hello_worldサンプルプロジェクトのようにFRDM-KE02Z40MとFRDM-KL25Z両方に共通で記述できるユーザ処理(Application Code)がある理由です。

SDK構造に沿ったsourceフォルダへのユーザ処理追記と、基本的API利用により、汎用的で効率的なMCUソフトウェア開発が出来ることがご理解できたと思います。

あとがき

2章で、「具体的にSDKを使ってMCUソフトウェア開発をするにはどうすれば良いのかの説明はない」と書きました。しかし、本稿で示したSDK活用説明は、ソフトウェア開発者は当然知っていること・・・だから説明がないとも言えます😅。

このように組込みMCU関連の資料は、前提とするソフトウェア知識・経験をどの読者も既に持っており、本稿記述の当たり前の活用説明は省略する(≒すっ飛ばす)傾向があります。

弊社マイコンテンプレートは、初心者~中級レベルの開発者を対象としており、提供テンプレートも本稿で示したSDK活用方法で開発します。ご購入者様が、なぜこのようなテンプレートになったのか疑問を持った時、それに答えるため、このすっ飛ばした省略部分を補う説明を本稿ではあえて加えました😌。

NXP MCUラインナップ

NXPは、今から約4年前の2015年12月末にFreeSacleを買収し、FreeSacleのKinetisマイコン(750品種)とNXPのLPCマイコン(350品種)は、NXP 1社から供給されるようになりました。また、別々であった統合開発環境も、新しいMCUXpresso IDEが両MCU対応となり、SDK:Software Development Kitを使ってMCUソフトウェアを開発する方法に統一されました。

本稿は、NXPのCortex-MコアMCU:LPC/Kinetisのラインナップと、新しいMCUXpresso IDE、SDK対応状況をまとめました。

NXP MCUラインナップ

NXP MCUラインナップ(出典:LPC MICROCONTROLLERS 2017-01-04)
NXP MCUラインナップ(出典:LPC MICROCONTROLLERS 2017-01-04)

上図から、おおむね青色のLPCが汎用MCU、橙色のKenitesが特定アプリケーション用途MCUに分類できそうです。

この特定用途とは、例えばKinetis Eシリーズならば、昨今3.3V以下で動作するMCUコアが多いなか、白物家電や産業用途向けに、過酷な電気ノイズ環境下でも高い信頼性と堅牢性(Robust)を維持できる5V動作Cortex-M0+コアMCUを指します(NXPサイトにはCortex-M4コア版もあります)。

Kinetis Eシリーズのコア動作電圧は、2.7~5Vです。関連投稿:MCUの5V耐圧ピンで示したピン毎の5V耐性がMCUコアに備わっており、更に耐ノイズ性も高められているため、タッチパネル操作や多くの5Vデバイス制御に対して使いやすいCortex-M0+/M4シリーズと言えます。

5V動作でタッチパネル付きのKenites KE02 40MHz評価ボード(出典:NXPサイト)
5V動作でタッチパネル付きのKenites KE02 40MHz評価ボード(出典:NXPサイト)

LPC/Kinetis MCUのMCUXpresso IDE、SDK対応

新しくなった統合開発環境MCUXpresso IDEのLPC/ Kenites対応表が、NXP Communityに掲載中です。

この表は毎年更新され、NXPから供給中の全MCU/Application ProcessorのMCUXpresso IDE、SDK対応状況と対応予定まで解るとても役立つ資料です。この表のProduct Familyにフィルタをかけ、Recommended Software欄とMCUXpresso Software and Tools欄を抜粋したのが下表です。

MCUXpresso Supported Devices Table (May 2020より抜粋)
MCUXpresso Supported Devices Table (May 2020より抜粋)

Kenites KE02: 40MHzは、弊社Kinetis Eテンプレートで使ったKinetis Eシリーズマイコンです。2015年のテンプレート開発当時は、旧FreeSacleから供給され、統合開発環境もKinetis Design Studio:KDSとAPI生成ツール:Processor Expertを使いました。現在は、MCUXpresso IDEとSDKへ変わっています。

LPC1100は、古くからあるNXP汎用MCUで、弊社LPC110xテンプレートも提供中です。LPC1100は、MCUXpresso IDEで開発はできますがSDK対応予定は無く(Not Planned)、従来のLPC Open開発が推薦されています。

また、Kinetis KL05: 48MHzは、MCUXpresso IDEとSDK対応予定が無く、旧FreeSacleのKDS開発を推薦しています。

Not Planned 推測

MCUXpresso Software and Tools欄のNot Plannedの意味を考えます。

いずれのMCUも発売後10年~15年程度の安定供給をNXPが保証するため、直ぐにDiscontinueになることはありません。しかし、FreeSacle とNXPの2社統合で当然ながらダブって供給されるMCU品種もある訳で、供給側にとっては1品種へマージしたいでしょう。

この対象は、旧2社それぞれの汎用品種が多く該当すると思われ、その結果が表に現れたと考えます。

つまり、LPC1100やKinetis KL05は、恐らくダブった品種で、新しいMCU開発環境は使わずにそのまま旧開発環境で継続開発ができますが、近い将来Discontinueの可能性が高いと思います。Not Plannedは、これを暗示的に示していると推測します。

もちろん、新発売MCUや生き残った品種は、どれもMCUXpresso IDEとSDKに対応済み(Available)です。最初のMCUラインナップ図を振り返ると、多くのKinetisシリーズは、特殊用途MCU:Application Specific Familiesとして生き残り、Kinetis K/Lシリーズは、汎用MCU:General Purpose Families内で生き残ったのだと思います。

但し、生き残った品種でもデバイスによってはDiscontinueの可能性があり、個別デバイスの確認は、Community掲載表を参照した方が良いでしょう。

弊社マイコンテンプレート対応

主に汎用MCU向けの弊社マイコンテンプレートも、(推測した)NXPと同様の対応にしたいと考えています。つまり、Kinetis Eテンプレートは、最新開発環境MCUXpresso IDEとSDK利用版へ改版、LPC110xテンプレートは、販売中止といたします。

Kinetis E テンプレート改版は、直ぐに着手いたします。Kinetis Eテンプレートご購入者様で購入後1年未満の方は、この改版版を無償提供いたしますのでお待ちください。

LPC110xテンプレートは、1年以上新規ご購入者様がいらっしゃりませんので、無償アップグレード対象者様はございません。既にLPC110xテンプレートご購入者様には、申し訳ございません。別テンプレート50%割引購入特典のご利用をお待ちしております。

Ripple20

前投稿の2~3章で記載した、半導体製品へのサイバー攻撃があり無対策の場合、全製品が使えなくなる実例が発生しそうです。

数億台ものIoT機器や産業制御機器に実装済みのTreck社提供TCP/IPライブラリに「Ripple20」という名の脆弱性(最大値10の危険度評価9~10)が発見され、対策にはライブラリアップデートが必要ですが、できない場合は機器をネットワークから切り離すことが最低限必要になりそうです。
※TCP/IPライブラリは、有線/無線LANプロトコル実装用ソフトウェアライブラリです。

この脆弱性がハッカーに悪用されると、プリンタなどの機器からでも情報が外部流出します。Ripple20は、IoT MCUにセキュア・ファームウェア更新やOTA:Over-The-Air実装を要件とする先例になるかもしれません。

MCUのセキュア・ファームウェア更新は、関連投稿:STM32G0/G4のRoot of Trustをご覧いただくと面倒な更新方法、2面メモリ必要性などがお判り頂けると思います。OTAも関連投稿:Amazon、IoTマイコンへFreeRTOS提供の2章に簡単ですが記載しております。

IoT MCUへ、ソフトウェアだけでなくCortex-Mコアにも更なるセキュリティ対応の影響を与えそうなRipple20です。

NXPとルネサスのMCU開発動向

NXPとルネサス、両社幹部が語ったMCU開発動向記事から、弊社ブログARM Cortex-Mシリーズ、16ビットMCU RL78関連部分をピックアップしました。動向記事は下記です。

NXPのMCU開発動向

記事によると車載MCUは、製品群をS32 Automotive PlatformでARMアーキテクチャ(Cortex-A、Cortex-R、 Cortex-M)に全て統一し、基本的なペリフェラル、メモリインタフェースを共通化、S32デバイス間ならソフトウェアの90%を再利用できるそうです。

同時にS32 MCUは、自動車用機能安全規格である「ASIL-D」に対応し高度セキュリティを担保、また完全なOTA(Over the Air)機能もサポート予定です(OTAはコチラの投稿参照)。

S32製品は、2018年1Qサンプル出荷、2019年から量産予定です。

Common Hardware Architecture Platform (Source: NXP)
Common Hardware Architecture Platform (Source: NXP)

この車載MCU開発動向は、本ブログ対象の家庭や個人向けCortex-MコアMCUへも影響を与えると思います。NXPはFreescale買収後、LPCとKinetisの2つのCortex-Mシリーズ製品を提供中です。

ARM Cortex-M Core Kinetis and LPC
ARM Cortex-M Core Kinetis and LPC

S32製品の強み、ハードウェア共通化、ソフトウェア再利用、セキュリティ確保、OTAは、そのまま現状NXPの 2製品並立Cortex-Mシリーズへも適用される可能性が高いと思います。その方がNXP、新規ユーザ双方にとって開発リソースを集中し易いからです(現行ユーザには多少インパクトがありますが、Cortex-Mコアは同じなので、SDKなどが変わるかも?!しれません…)。

ペリフェラルが共通化されれば、サンプルソフトも同じになるでしょう。ソフトウェア90%再利用は、ライブラリ充実化も見込めます。差分の10%は、Cortex-コア差、セキュリティレベル差、応用範囲などになる可能性があり、期待できそうです。

ルネサスのMCU開発動向

ルネサスは、2018年夏発売予定のRZファミリで、組込みAIによる推論モデル処理能力を10倍、2019年末までに更に10倍、2021年で10倍にし、推論処理能力を1000倍にするそうです。このために動的に再構成可能なプロセサ技術「DRP(Dynamically Reconfigurable Processor)」を汎用MCU製品へ取り込んでいくそうです。

RZファミリ:現状ARM Cortex-A9 400MHz採用の家電、カーオーディオなどが対象のMCU。

Cortex-AコアのRZファミリとRL78の比較(Source: Runesas)
Cortex-AコアのRZファミリとRL78の比較(Source: Runesas)

能力向上したAI推論により、振動などの画像データを扱えるようになり、さらにはそのフレームレートも高められ、例えば、熟練工のノウハウをエンドポイントで自動化できるようになる。1000倍ともなれば、現在はエンドポイントでは難しいとされる学習も行えるようになるそうです。

産業機器分野では、自動化やロボット化の実現に関わる異常検知、予知保全、認知検査などにAI処理能力を適用予定です。

1月14日投稿のルネサスe2 studioのAI利用無償プラグインで開発環境を提供しますが、弊社対象のRL78ファミリでどの様に実現されるかは不明です。

AI処理能力を1000倍化(Source: Runesas)
AI処理能力を1000倍化(Source: Runesas)

正常進化のNXPと差別化のルネサス

NXP、ルネサスともにARMコアMCUの開発動向は似ています。ルネサス幹部が、汎用MCU統括のため、あえて産業分野にフォーカスして語っただけと思います。

差分は、NXPがARMアーキテクチャの正常進化とも言えるソフトウェア資産の共通化を全面に推しているのに対し、ルネサスは、差別化DPR技術で推論機能の1000倍化を目指す点です。
※正常進化の根拠は、コチラの投稿のCMSIS参照

この差別化がガラパゴスになるのか、それとも光る技術になるか、今年夏頃の新製品RZファミリに注目します。

マイコンデータシートの見かた(最終回)

現役STマイクロエレクトロニクスの「メーカエンジニアの立場」から記載された、ユーザ質問の多かった事項を中心にマイコンデータシートの見かたを解説する記事(連載3回目)の最終回を紹介します。

全3回の連載記事内容

第1回:凡例、絶対最大定格、一般動作条件、電源電圧立上り/立下り(2017年10月1日投稿済み
第2回:消費電流、低消費電力モードからの復帰時間、発振回路特性(2017年10月29日投稿済み
第3回:フラッシュメモリ特性、ラッチアップ/EMS/EMI/ESD、汎用IO、リセット回路(←今回の投稿)

マイコンデータシートの見かた

3回分割のマイコン個別機能データシートの見かた、最終回ではSPIとADCの記載データ見かたが当初予定に追加されました。SPIは、接続デバイスがASICやFPGAの場合の注意点、ADCは、アナログ回路なので消費電流が大きくなる点に注意すべきだと記載されています。

当然のことですがデータシートは、データ値の羅列です。従って、そのデータ値の意味と解釈の仕方は、例えば記事図9の赤囲みコメントで付記されたようにすべきです。しかし、普通は残念ながら赤囲みコメントは、データシートには付いていません。

サンプル&ホールドタイプのA-Dコンバーターの電気的特性
サンプル&ホールドタイプのA-Dコンバーターの電気的特性(記事、図9より)

従って、この赤囲みコメントが自然に頭に浮かぶような勉強、半導体の基礎知識がマイコンを使うには必要で、その知識を背景にデータ値を読むことを記事は求めています。

連載3回範囲のデータシート見かたまとめ

  • フラッシュメモリは、高温使用時、データ保持年数が短くなる。データシート記載値は、MCU内部書込み/消去時間であり、書込み開始~終了までの作業時間ではない。書き換えビットが増えると消費電流も増える。
  • EMS/EMI/ESDは、MCUを実装した基板や使用環境に依存。データシート記載値は、MCU「単体の能力」。
  • 汎用IOは、電源電圧を下げると端子駆動能力も下がり、立上り/立下り時間が長くなる。しかし、STM32MCUは、駆動能力をレジスタで設定できるので遅くなることを抑えることができる。
  • MCUリセット回路設計時は、フィルタリング信号幅のグレーゾーンを避けることが必須。
  • SPIは、接続デバイスがASICやFPGAの場合、十分なタイミングマージンが必要。
  • ADCは、アナログ回路のバイアス電流のため消費電流が大きくなる。また電流変動で変換誤差が増える。

全て学んだ後の開発着手では遅い!

開発者に求められるのは、「開発したもの」です。

そして、多くの場合、短い期限付きです。問題は、この期限内で、なにがしかの結果、成果を出さなければ、開発者としてはNGなことです。しかし、成果を出すには勉強、知識も必要です。

初心者は、この勉強、知識の入力時間と、成果の出力時間の配分が上手くありません。ベテランになると知識も増えますが、入出力の時間配分が上手く、結局何らかの成果も生みます。特に開発者は、全行程の自己マネジメント(時間配分)にも注意を払う必要があります。

例を挙げると、夏休みの自由課題を何にし、休み中にどのように仕上げるか、です。もし提出物が無ければ、課題に取り組んでいないのと(殆ど)同じです。

残業時間制約も厳しく、開発者にとっての作業環境は厳しくなる一方です。弊社マイコンテンプレートとMCUベンダ評価ボードとの組合せは、開発者が求められる出力を早期に生み出すツールになると思います。

マイコンデータシートの見かた(その2)

現役STマイクロエレクトロニクスの「メーカエンジニアの立場」から記載された、ユーザ質問の多かった事項を中心にマイコンデータシートの見かたを解説する記事(連載2回目)を紹介します。

全3回の連載記事内容

第1回:凡例、絶対最大定格、一般動作条件、電源電圧立上り/立下り(2017年10月1日投稿済み
第2回:消費電流、低消費電力モードからの復帰時間、発振回路特性(← 今回の投稿)
第3回:フラッシュメモリ特性、ラッチアップ/EMS/EMI/ESD、汎用IO、リセット回路

記事タイトル:データシート数値の “裏の条件” とは

先入観を与える前に、記事を読んでください。消費電流、復帰時間、発振回路特性の留意点が記述されています。記事タイトルの “裏の条件” とは何でしょうか?

私は、データシート数値は、理想的動作環境のマイコン単体の最高数値、これが裏の条件と理解しています。
例えば、車の性能を燃費で比較する方は、普通の運転では絶対に達成できないカタログ燃費で車を評価します。マイコンも同じです。データシート数値は、このカタログ燃費相当だと思います。

カタログ燃費(出典:日本自動車工業会)
カタログ燃費(出典:日本自動車工業会)

実際は、この最高数値にマージンを入れて考える必要があります。どの程度のマージンを入れるかが問題で、安全側評価ならデューティ50%、つまり性能半分位が良いと思います。

但し、これもマイコン単体の話で、マイコン:MCUと電源、発信器や必須周辺回路を含めた制御系で考えると、どの程度マージンを入れるかは複雑怪奇になります。

そこで、ベンダ開発の評価ボードを手本とする考え、つまり、10月1日投稿で示した評価ボードをハードウエアテンプレートとして用いる考え方を、私は提案しています。

10月15日記事のように、評価ボードでもWi-Fi起動時電流に電源部品の余裕が(短時間ですが)少ないものもありますが、大方のベンダ評価ボードは、実用に耐えられる厳選部品が実装済みです。そこで、プロトタイピング時には、この評価ボードで制御系を作り、実装部品のマージンが十分かを評価するのです。

マージンが足りない場合には、同じ評価ボードへ、より高性能な部品を載せ替えるなどの対策が簡単にできます。制御される側もこのようなモジュールで開発しておけば、モジュール単位の設計、変更が可能です。

ソフトウエアも同様です。評価ボードを使えば、少なくとも最低限のソフト動作環境は整いますので、プロトタイピングのソフトをなるべく早く開発し、動作マージンを確認しておきましょう。

完成・出荷時には、ソフトへ様々な機能が後追加されるので、プロトタイピング時はハード同様デューティ50%、つまりROM/RAMの残りに50%位は残しておくと安心です。

ソフトウエアのプロトタイピング開発には、弊社マイコンテンプレートが最適です。

連載第2回範囲のデータシートの見かたまとめ

  • 水晶振動子のMCUクロック供給は、発振波形が正弦波に近いため貫通電流が増え消費電流大となる。
  • 未使用GPIO端子は、外来ノイズ対策に10k~100kプルアップorダウンし、電位固定が望ましい。
  • データシート低消費電力復帰時間がクロックサイクル規定の場合はそのまま使え、㎲規定の場合は参考値。
  • 外付け水晶振動子の利用時は、ベンダ推薦部品を使う。
  • 内蔵発振回路の利用時に、MCU温度変化やリフローによる機械的応力による周波数変動が無視できない場合は、周波数トリミングソフトを組込む。
  • PLL動作最低/最高周波数の設定ミスは多いが、マージンがありそのまま動作するので注意。

マイコンデータシートの見かた(その1)

現役STマイクロエレクトロニクスの「メーカエンジニアの立場」から記載された、ユーザ質問の多かった事項を中心にSTM32マイコンデータシートの見かたを解説する記事(連載1回目)を紹介します。

全3回の連載記事内容

予定されている第2回、第3回の解説内容が下記です。

第1回:凡例、絶対最大定格、一般動作条件、電源電圧立上り/立下り(← 今回の記事)
第2回:消費電流、低消費電力モードからの復帰時間、発振回路特性
第3回:フラッシュメモリ特性、ラッチアップ/EMS/EMI/ESD、汎用IO、リセット回路

今回の第1回を読むと、データシートの読み誤り易いポイントが説明されており、興味深いです。ハードウエアに興味がある、または、ハードも自分で設計するソフトウエア開発者は、読むことをお勧めします。

マイコンハード開発を数回経験すると、おおよその感触とデータシートの見る箇所が解ってきます。私も新人の頃は、網羅されたデータシートの、”どこの何を見れば良いかが判らず”困惑したものでした。

ハードウエアテンプレートは評価ボードがお勧め

私は、使用するマイコンの評価ボードを、ハードウエアのテンプレートとして使います。
例えば、STM32F072RB(=NUCLEO STM32F072RB)は、配線パターン(=gerber files)や使用部品リスト(=BOM)もサイトに公開されています。

これらのデータは、「短納期を要求される開発者の立場」なら、網羅的記載のデータシートよりも、効率よく回路設計をする手助けとなります。

データシートを見ることは、間違いなく重要です。

しかし、具体的にハードウエア設計をする時は、評価ボードのような既に設計済みの「ブツ」を参考にしながら、なぜこの部分はこうなっているのか?などの疑問を持ってデータシートを見る方が、効率が良く、しかも、分厚いデータシートのポイントを理解するのにも役立ちます。

アナログとデジタル電源の1点接地や、パスコン実装位置などは、文字で注意書きをいくらされても解り難くいものです。この点、実物は、文字に勝ります。

ソフトウエアテンプレートはマイコンテンプレートがお勧め

ソフトウエア開発は、マイコンテンプレートの宣伝をするな!と思われた、勘のいい読者の方は、コチラのサイトを参照してください。

サンプルソフトは、”メーカ立場での提供ブツですが、”開発者の立場からの実物として、STM32ファミリ、サイプレスPSoC、NXPのLPC8xx/LPC111x/Kinetis、ルネサスRL78/G1xの各種マイコンテンプレートを、ソフトウエア開発者様向けに提供中です。

連載第1回範囲のデータシートの見かたまとめ

第1回記事の範囲で、マイコンハード開発ノウハウをまとめると、以下になります。

  • マイコン外部接続ハード駆動能力は、I2C、USART、数点のLED直接駆動可能端子を除いては極小で基本的には直接駆動はしない。
  • 外部接続ハードの駆動と接続方法は、Baseboard(mbed – Xpresso Baseboard)や、各種Arduinoシールドを参考にする。
  • マイコン電源は、評価ボードのパターン、実装部品も含めてまねる。
  • 開発製品版の未使用(空き)端子処理は悩ましいが、ソフトはデフォルト、ハードはソルダーブリッジ経由で接地。

私は、今後の連載を読んで、未使用(空き)端子処理の見識などを深めたいと思っています。

半導体メーカM&Aと技術シナジー

本ブログでも関心があったFreescaleをNXPが買収し、そのNXPをQualcommが買収するという半導体メーカのM&Aは、終息に向かうようです。Runesasもアナログ、ミックスドシグナル半導体を得意とするIntersil(インターシル)の買収を完了しました。
※QualcommのNXP買収は、未だに決着がついていない買収案件だそうです。

一方で、AtmelとMicrochipに見る、半導体企業M&Aの難しさという記事を読むと、M&A完了後も企業の技術的シナジーが生まれるには時間がかかりそうです。

以前記載しましたが、NXP)LPC8xxのLPCOpenライブラリv3.01の状況を観ると、この記事内容は頷けるものがあります。MCU部門だけを比較すると、実はNXPよりもFreescaleの方が規模は大きく、また、Cortex-M0/M0+ MCUで比較すると、2社で重複する製品があるので、既成製品(LPC8xx、LPC111xやKinetisシリーズ)の将来は、明確には判らないのが現状だと思います。

統合開発環境:IDEは、旧FreescaleのKinetis Design Studio+Processor Expertと旧NXPのLPCXpresso+LPCOpenライブラリが、新NXPではMCUXpresso+SDK+Config Toolsとなり、一見、新しい開発環境に統合されたように見えます。

しかし、買収完了後の新発売MCU開発以外は、個人的には旧開発環境の方がどちらの既成製品開発にも適している気がします。

9月28日現在、LPC8xx用のLPCOpenライブラリv3.01は、残念ながら更新されていません

MCUXpresso概要と当面の開発方法

LPCXpressoとKinetis Design Studioが新しいMCUXpressoへ統合されました。Windows 10 Version 1703で動作確認したMCUXpressoの概要について示します。

MCUXpresso概要

MCUXpressoの概要は、コチラの4分程の英語Videoが良く解ります。ポイント抜粋すると以下になります。

MCUXpressoは、3つのツール:IDE、SDK、CFGから構成され、各機能が下記です。

  • IDE機能:ソースエディト、コンパイル、デバッグ。Eclipse 4.6ベース。ローカルPCで利用。
  • SDK機能:使用デバイスのAPI生成とサンプルソフト提供。クラウドで設定し、結果をIDEにダウンロードして利用。
  • CFG機能:使用ピン、動作周波数など設定。クラウドで設定し、結果をIDEにダウンロードして利用。
MCUXpresso Overview
MCUXpresso Overview

全てが1パッケージのローカルPCで機能した旧IDE(LPCXpressoやKinetis Design Studio)を、MCUXpressoで3ツール構成にしたのは、SDKとCFGをクラウド側で分離提供し、IDEを軽量化することと、CMSIS準拠の開発環境構築が目的だと思います。CMSISはコチラの記事を参照してください。

CMSIS準拠ならMCUハードとソフトの分離が容易になり、開発済みアプリケーション資産を少ない工数で別ハード移植や再利用が可能です。また、CMSIS仕様(CMSIS-COREや-DSPなど)が修正/更新されても、その内容は全てクラウド側のSDKとCFGツールに閉じ込めることができるので、常に最新CMSIS準拠のSDKとCFGを利用したソフト開発が可能です。
ARM Cortex M系のIDEは、今後この分離構成が流行するかもしれません。

注目点は、IDEではコードサイズ制限なし、SDKではFreeRTOS v9提供(LPCXpresso最終版はv8)、CFGでは電力評価やプロジェクトクローナーです。各ツールの概要を以下に示します。

MCUXpresso IDE

MCUXpresso IDE
MCUXpresso IDE

旧LPCXpressoとの差分は、FreeRTOSタブが新設されたこと位です。コードサイズ制限なしで、添付マニュアル類も判り易く、誰にでも使い勝手が良いIDEです。MCU開発は、従来のRTOSを使わないベアメタル開発から、RTOS利用ソフト開発へシフトしつつあり、このMCUXpresso IDEもこの流れに沿った機能が追加されました。

MCUXpresso SDK

MCUXpresso SDK Builder
MCUXpresso SDK Builder

SDK BuilderでBoard、Processor、Kitsなどの対象MCUパラメタを入力し、対応するSDKパッケージをクラウドで作成後、ローカルPCへダウンロードして使います。パッケージの中身は、APIとこのAPIの活用サンプル集です。但し、2017年4月現在は、FreescaleのMCUと2017年に発売されたNXPのLPC54000対応のものしか提供されていません。

その理由は、旧Kinetis Design Studio:KDSのProcessor Expert:PEの代替だからと推測します。MCUXpressoは、KDSのPE機能がSDKとCFGに分離してクラウドへ実装されました。PEをお気に入りだったユーザは、この点に困惑すると思います。

一方旧LPCXpressoのユーザのSDKはというと、これは従来のLPCXpressoに同胞されていたLPCOpenライブラリなどがそのままMCUXpressoにも実装されています。つまり、MCUXpressoは旧LPCOpenライブラリなどが従来同様使えます。

従って、LPC54000開発とKDSユーザ以外は、MCUXpresso SDKを使うことは、今のところありません。

MCUXpresso CFG

MCUXpresso CFG Settings
MCUXpresso CFG Settings

CFGも現状はSDKと同様、FreescaleのSDKとNXPのLPC54000対応のみが提供中です。

MCUXpressoのまとめと当面の開発方法

MCUXpressoは、旧LPCXpressoと旧Kinetis Design Studioを統合した新しいIDEで、現状「フレームワークは出来たものの、完全な移行完了とは言い難い」ものです。以下に特徴を示します。

  • IDEとSDK、CFGの3ツールに分離するフレームワークは、CMSIS準拠ソフト開発に適している。
  • KDSのPE代替機能をSDKとCFGに割振っている。2017年NXP発売のLPC54000開発にも使えるが、既存NXPのMCUはSDK、CFGともに未対応。
  • LPCXpressoとKDSの今後の更新は、期待できない。将来的には、NXP/FreescaleのMCU開発にMCUXpressoを使う必要あり。
  • LPCXpressoユーザは、当面SDKとCFGを使わずにMCUXpresso IDEを旧LPCXpressoと殆ど同じ使用法で使える。
  • KDSユーザは、MCUXpresso IDEとSDK、CFGを使い開発する方法と、当面はMCUXpressoにPEをプラグインし開発する方法の2通りの開発方法が取りえる。但し、PEの更新が期待できないので、将来はMCUXpresso SDK、CFGを使わざるをえない。

当面の目安としては、LPCXpressoユーザならば、既存MCUのSDK、CFGが提供されるまで、KDSユーザならば、PE更新が必要になるまで、でしょう。

もう1つの目安が以下です。Windows 10 1703更新に相当するIDEベースEclipse 4.6(Neon)の次版4.7(Oxygen)への更新は、2017年6月の予定です。IDEベース更新から約半年でこの4.7ベースの最新IDEが各社からリリースされるとすると、2017年末から2018年初め位にはMCUXpressoへの完全移行完了となる可能性があります。

MCUのIDEは開発スピードを左右する部分だけに、仕様変更や更新が定期的に発生する部分と、各社独自の部分を分離し、トータルでパッケージ化すると、以上で示したフレームワークが重要となります。開発者は、フレームワーク要素更新にも注意を払う必要があるでしょう。