RA4E1 Fast Prototype BoardのFreeRTOS使い方

RA4E1 Fast Prototype BoardへFreeRTOSを適用
RA4E1 Fast Prototype BoardへFreeRTOSを適用

RAファミリ評価ボードRA4E1 Fast Prototype Board (Cortex-M33/100MHz、Flash/512KB、RAM/128KB)(以降FPB)の、スイッチS1でLED2を点灯するFreeRTOS適用例を示します。RAファミリビギナーズガイド9章記載のEK-RA6M4評価キットを使った処理内容と同じです。

e2 studio 2021-10は、Project>Change Deviceで対象MCUデバイス変更機能がありますが動作しません。そこで、ガイド掲載のEK-RA6M4を手動でRA4E1へ変更し、FPBでFreeRTOSのセマフォを利用し、S1押下げ割込みとLED2トグル点灯を同期させるFreeRTOSサンプルコードを示します。

このコードを使い、前稿よりも具体的にFPBとFlexible Software Package(以降FSP)の使い方、今回は使わないTrustZoneのメリットを示すのが、本稿の目的です。

RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)のRTOSとTrustZone

IoT MCUをクラウド接続するには、RTOSが必要です。AWS(Amazon Web Services )接続にはFreeRTOSライブラリ、Microsoft Azure接続にはAzure RTOSライブラリの利用が前提だからです。

また、クラウド接続には、TrustZoneなどハードウェアによるセキュリティ対策も要求されますので、RTOSとTrustZoneは、IoT MCUの必須2技術です。

ハードウエアセキュリティは、開発後、簡単に追加することが困難です。今回はTrustZone未使用ですが、IoTプロトタイプ開発にTrustZone内蔵Cortex-M33を用いるのは、例え未使用でも製品セキュリティ処理の具体的検討ができるなど、IoTセキュリティを開発初期から考慮した設計となるからです。

これが使わないTrustZoneのメリットです(TrustZone使用例も、いずれ投稿予定)。

本稿は、先ずFreeRTOSをFPBへ適用します。FreeRTOS新規プロジェクト作成、API生成ツールFSP設定、FSP生成ファイルへのタスク追記の順に説明します。

Step1:FreeRTOS新規プロジェクト作成

最新版e2 studio(2021-10)の新規FreeRTOSプロジェクトは、File>New>C/C++Projectとクリックし、①~⑥の手順で作成します。

FreeRTOS新規プロジェクト作成
FreeRTOS新規プロジェクト作成

②プロジェクト名は、任意です。③Boardは、PFB-RA4E1を選択します。

④TrustZone未使用時のプロジェクトを、“Flat”と呼びます。これは、TrustZone使用時、セキュアと非セキュアの2プロジェクト並存が必要となりメモリ領域を分割することに対する、平坦なメモリ使い方に起因していると思います。

※メモリ領域分割は、PCハードディスクのパーティション分割をイメージして頂ければ判り易いでしょう。例えサイバー攻撃を受けても、物理的に侵入できないメモリ領域を作り、ここへ最重要情報やソフトウェアを保存する訳です。

⑤FreeRTOSを選択します。ベアメタル(No RTOS)とAzure RTOSも選択可能です。⑥Minimalを選択し、FinishクリックでFreeRTOS(TrustZone未使用)新規プロジェクトが完成です。

各選択肢を変えると、前稿で説明した多種類の新規プロジェクトが作成できることが解ります。

Step2:Flexible Software Package(FSP)設定

Flexible Software Package (FSP)設定
Flexible Software Package (FSP)設定

新規プロジェクト作成のFinishクリックで、FSPパースペクティブオープンを聞いてきますので、開きます。

①プロジェクトSummaryが表示されます。Stacksタブを選択、②New Stackをクリックし、External IRQ Driver on r_icuを選択します。新しい外部割込みドライバがStackに追加され、③プロパティが表示されます。

FPBのユーザスイッチS1は、P205(IRQ1)に接続済みです。そこで、③プロパティのirq0をirq1、TriggerをFalling、Digital FilteringをEnable、Callbackをexternal_irq1_callbackに変更します。

次にセマフォ追加のため、④ObjectsのNew Objectsをクリックし、Binary Semaphoreを選択します。⑤プロパティSymbolをg_s1_semaphoreに変更します。

RA4E1 Fast Prototype BoardのSW1 P205(IRQ1)の確認
RA4E1 Fast Prototype BoardのSW1 P205(IRQ1)の確認

最後に、⑥pinsタブをクリックし、ユーザスイッチS1:P205(IRQ1)とIOピン割当てをGUIで確認します。

以上でFSP設定は完了です。Generate Project Contentをクリックすると、APIや割込みコールバック関数、関連ファイルが自動生成されます。

Step3:FSP生成ファイルへタスク追記

FreeRTOSセマフォ同期処理
FreeRTOSセマフォ同期処理

FSPが生成したファイル:led_thread_entry.cに上記コードを追加します。このコードは、LED初期化と無限ループ処理から構成されます。RAビギナーズガイド掲載のirq10をirq1へ変更したLEDタスクです。

コールバック関数external_irq1_callbackは、Developer AssistanceのLED Threadを開くと一番下に割込みコールバック関数が生成済みですので、これをドラッグ&ドロップして追加します。

LEDタスク追加後、ビルドしFSBへダウンロード、デバッガ起動後、再開を2回クリックして実行中の様子が上図です。FSBのS1クリックでLED2がトグル点灯します。

FreeRTOS Queueサンプルコード

前章は、RAファミリビギナーズガイド9章のEK-RA6M4評価キットFreeRTOSセマフォサンプルコードを、RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)へ流用したコードです。変更箇所は、irq10をirq1へ変えただけです。

FSPには、FreeRTOS Queueサンプルコード:freertos_fpb_ra4e1_epも付属しています。これら2つのサンプルコードを理解すれば、セマフォとQueueを使う基本的なFreeRTOSソフトウェア開発が可能です。

FreeRTOS待合せ手段としては、セマフォ/Queue以外にもMutexやイベントグループなどの手段もあります。弊社ではFreeRTOS基礎固めを目的として、Hardware Independent FreeRTOS Exampleを応用したセマフォ/Queue活用のFreeRTOSテンプレート化を目指しています。RA/REテンプレートもこの方針で開発する予定です。

この方針で開発したNXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、コチラから概要がダウンロード可能です。

まとめ

RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)へ、RAファミリビギナーズガイド掲載FreeRTOSサンプルコードを流用し、ユーザスイッチS1とLED2点灯をセマフォで同期させました。

FreeRTOS新規プロジェクト作成、Flexible Software Package(FSP)設定、FSP生成ファイルへのタスク追記の具体的操作手順を示しました。

ガイド9章には、更に詳細な説明がありますので、参考になります。例えば、スイッチ割込み優先度12を利用する理由、systick優先度15が予約済みであるなどです。

TrustZoneは未使用ですが、プロトタイプ開発初期からIoTセキュリティを考慮した設計ができるメリットがあります。

FSP付属Queueサンプルコードと本セマフォコードを使ってFreeRTOS基礎固め目的のRA/REテンプレート開発を進めます。

RA4E1 Fast Prototype Boardの使い方

前稿のRAファミリ評価ボードRA4E1 Fast Prototype Board(以降FPB)を入手、RA/REテンプレート検討に着手しました。

FPB開発に用いるルネサスIDE:e2 studio(以降e2)とAPI生成ツール:Flexible Software Package(以降FSP)は、NXPやSTマイクロなどのEclipseベースIDEの利用者が?に思う箇所があると思います。

ルネサスIDE:CS+ユーザでも、同様にこの?を感じると思いますので、対策と評価ボードFPBの使い方を示します。

RA4E1 Fast Prototype Boardとe2 studio
RA4E1 Fast Prototype Boardとe2 studio

e² studio

Eclipse IDEをベースとしたRAファミリ統合開発環境:IDEが、e2、API生成ツールが、FSPです。

e2は、ARMコアを含む全てのルネサスMCU開発用の新世代IDEで、古くからあるRL78ファミリやRXファミリなどのルネサス独自コア専用統合開発環境CS+の後継IDEとして登場しました。但し、CS+は、現在でもRL78/RXファミリ開発に使えます。

e2は、MCUファミリ毎にコンパイラを切替えることにより、全ルネサスMCUの共通IDEとして動作します。MCUファミリのコンパイラは、普通1種類です。ところが、RAファミリには、GNUとARM Compiler V6の2種類が用意されており、どちらも無償です。

GNUとARM Compiler V6?

e2インストール時、デフォルトでインストールされるコンパイラは、GNUです。ARM Compiler V6は、後から追加インストールが必要です。最初の?は、両コンパイラの“違いは何か”です。

次章で示すFSPやTrustZone利用に差が生じるのであれば、問題です。

ルネサス資料を探しましたが、結局、コンパイラ差は分かりません。最近では殆ど行わないアセンブラデバッグが無ければ、コンパイラはどちらでも構いませんので、デフォルトGNUで当面はOKとします。

Flexible Software Package (FSP)?

RAファミリ専用のAPI生成ツールが、FSPです。動画:Generating Your First RA FSP Project(8:25)で使い方が分かります。

Flexible Software Package構成
Flexible Software Package構成

簡単に説明すると、スタックと呼ぶ開発プロジェクトで使用するHALドライバやRTOSなどのミドルウェアパタメタをGUIで設定後、e2のGenerate Project Contentをクリックすると、Developer Assistance内に全てのAPIが自動生成され、その中から使用するAPIを、ユーザ自身でソースコード任意場所にドラッグ&ドロップする使い方です。

ソースコード任意場所にAPIを配置できるのは、親切とは言えません。NXPやSTマイクロのコード生成ツールでも、API追加箇所にコメント付きのソースコードが生成されます。しかし、FSPは、ソースコード上のどこにでもAPIを設置できます。

API使用順序、設置場所、パラメタの意味が予め解ってないと、適切なコーディングは困難でしょう。後述する多くの公式サンプルコード(スタック利用例)がありますので、これらを参考に習得する必要があります。

hal_entry.c?

e2 studioのra_genとsrcフォルダ
e2 studioのra_genとsrcフォルダ

Generate Project Contentのクリックで生成されるのがAPI本体、つまり、ra_genフォルダ内のmain.cを含むスタックのドライバ関数群です。ra_genフォルダは、FSPが生成するコードの格納場所です。

これらとは別のsrcフォルダ内に見慣れないhal_entry.cファイルがあります。srcフォルダは、ユーザが追加するコードの格納場所です。

FPB出荷時にインストール済みのquickstart_fpb_ra4e1_epプロジェクトを読むと、main.c→hal_entry.c→user_main.cとコールされ、結局、user_main.cに一般的なIDEでユーザが追記する初期設定と無限ループを記述するのが、FSPでのユーザソースコード記述作法のようです。

※一般的なIDEでユーザが追記する初期設定と無限ループについては、基本のキ3章まとめを参照してください。

quickstart_fpb_ra4e1_epのuser_main処理
quickstart_fpb_ra4e1_epのuser_main処理

readme.txt?

公式サンプルコードをe2へインポート後、readme.txtでサンプル動作内容やFPB追加配線の必要性が分かります。バグだと思いますがe2(2021-07)は、サンプルコード付属readme.txtがプロジェクト内へインポートされません。

筆者は、手動でインポートしました。例えば、sci_uart_fpb_ra4e1_epプロジェクトは、追加配線無しではTera Term動作確認ができませんので、readme.txtを読み、追加配線が必須です。

RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)の使い方

IoT MCUの機能と消費電力を最適化したRAファミリのRA4E1グループ評価ボード:RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)の特徴は、以下2点です。

  • TrustZone
  • 低電力動作(Sleep > Snooze > Software Standby > Deep Software Standby)
RA4E1ブロック図
RA4E1ブロック図

TrustZoneの使い方は、RAファミリビギナーズガイドの11章が参考になります。

FreeRTOS利用を含むサンプルコードはコチラ、低電力動作サンプルコードはコチラからダウンロードできます。前章のquickstart_fpb_ra4e1_epやsci_uart_fpb_ra4e1_epプロジェクトは、初めのサンプルコード内にあります。

RTOSは、IoT接続先クラウドに応じてFreeRTOSかAzure RTOSの2種から選択可能です。また、通常の低電力動作:Sleepに加え、SnoozeやDeep Software Standbyなど超低電力動作モードも備えています。

プロジェクトは、ベアメタルまたはRTOS、TrustZone利用または非利用、の各選択肢がありますので4種類、FreeRTOSかAzureの選択を加えると、合計6種類の新規プロジェクト作成方法が可能です。

つまり、IoT MCUエッジ開発で必要となる様々なプロジェクト開発に、FPBだけで対応可能です。応用範囲の広い評価ボードで、IoTプロトタイプ開発に適しています。サンプルコード内容も豊富です。

まとめ

ユーザ視点からのベンダ各社がEclipse IDEをベースIDEに使うメリットは、IDEインタフェースがEclipseに似てくるので、ベンダが変わっても同じIDE操作性が得られることです。各社IDEで異なる部分は、周辺回路設定やAPI/コード自動生成の部分に限られるのが一般的です。

これら部分に加え、RAファミリ開発に使うe2 studioとFlexible Software Package は、無償コンパイラ選択、生成APIのソース追加方法、hal_entry.cなど、一般的なEclipseベースIDE利用者にとって?が生じる箇所が多数ありました。

ルネサス資料は多いのですが、肝心の?ポイントが解りにくいとも感じました。RAファミリ開発着手時は、これらに対し慣れが必要かもしれません。そこで、備忘録として本稿を作成しました。

なお、同じく前稿で示したREファミリについては、非常に良くまとまったREマイコンの使い方がルネサスサイトより入手できます。

RA4E1 Fast Prototype Board(Cortex-M33/100MHz、Flash/512KB、RAM/128KB)は、低価格で入手性もよくTrustZoneやRTOS、低電力動作など、幅広い知識や技術が要求されるIoT MCU開発の素材として優れています

現状RAファミリ資料の纏まりは、REファミリと比べると今一歩ですが、改善されると思います。開発に必要となる技術レベルが少し高いのですが、e2 studioとFlexible Software Package (FSP)、RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)と豊富なサンプルコードを使ったIoT MCU開発は、好奇心を満たすIoT MCU習得へ向けたお勧めの開発環境と評価ボードと言えるでしょう。

弊社ブログは、RA/REテンプレート開発を目指し、継続して関連情報を投稿します。

Windows 11アップグレード可能通知:FYI

Windows 11を実行できます
Windows 11を実行できます

10月5日リリースWindows 11アップグレード可能通知が弊社PCへ届きました。今月リリースWindows 10 21H2で運用し、1年程度の11評価結果を見てアップグレードを予定しております。ご参考まで。

IoVとIoT

IoV:Internet of VehiclesやV2X:Vehicles-to-Everything通信により、車載半導体チップとソフトウェア需要が指数関数的に増加、ユーザの自動車選択基準が、エンジンなどのメカから車載ソフトウェアへ移行しつつある、という記事がEE Timesに記載されました。

これらIoV状況が、IoTへ与える影響について考えてみました。

IoVとIoT

IoVでユーザ選択基準が車載ソフトウェアへ変化
IoVでユーザ選択基準が車載ソフトウェアへ変化

車のカタログから、エンジン特性や足回りのメカ説明が消え、スマホ連動性や運転支援など車載ソフトウェアによるサービスの説明に変ったのはここ数年です。記事によると、車の新しいユーザ選択基準になりつつあるカーエレクトロニクスが、半導体業界にとってはスマホ以来の最大チャンスだそうです。

また、「CASE」で車載半導体はどう変わるのか(2021年9月15日、EE Times Japan)でも、自動運転と電動化が今後の車載半導体動向を左右すると結論付けています。
※CASE:Connected(通信機能)、Autonomous(自動運転)、Shared&Services(共有化/サービス化)、Electric(電動化)

年々向上するユーザのソフトウェア指向を満たす車載IoV業界、COVID-19の影響で停滞気味の民生IoT業界とは雲泥の差です。

車載半導体需要予測は初めの記事数値を参照して頂くとして、両記事のポイントは、ソフトウェア差別化や付加価値追加には、カスタムチップまたは、IP(Intellectual Property)などの組込みハードウェアが効果的という点です。これらIPには、セキュリティやエッジAIなどIoTへ流用できるものが数多くあります。

従って、IoVは、結果としてIoTも牽引すると思います。

但し、世界的半導体不足が続く状況では、優先度、調達コスト、多くの数量が確実に見込めるIoVが優勢、IoTはこの影響で、しばらくチップ供給不足や停滞が続くでしょう。

停滞気味のIoT側開発者として今できることは、IoV同様、IoTソフトウェア差別化に備えることだと思います。

IoT MCUのTrustZone、SOTB

IoTの観点から、IoTソフトウェア差別化や付加価値追加のための組込みIPと言えば、ARM TrustZone内蔵Cortex-M33コア、ルネサスの新製造プロセスSOTB:Silicon On Thin Buried Oxideなどが相当します。

アクティブ消費電力とスリープ消費電力両方を減らせるSOTBプロセス(出典:ルネサスサイト)
アクティブ消費電力とスリープ消費電力両方を減らせるSOTBプロセス(出典:ルネサスサイト)

例えば、TrustZoneが、高いセキュリティ効果を発揮するのはご存知の通りですし、SOTB製Cortex-M0+搭載ルネサスREファミリは、超低スタンバイ電流により太陽光発電環境などのエナジーハーベストでも電池交換不要を実現するなどです。

SOTBは、超低消費電力動作と高速動作を両立する革新的製造プロセスです。全てのルネサスMCUへ採用すれば強力な差別化技術になると思いますが、今のところ出し惜しみなのか(!?)戦略的なのか、REファミリにのみ採用中です。

一見、ASSP:Application Specific Standard Produceのようですが、これら差別化技術は、汎用MCUに採用された時に最も効果を発揮します。

従来のエッジMCUでの単純なアナログデジタル変換に加え、セキュリティや超低電力動作などのIoT化に伴う付加機能がIoT MCUには必須です。IoT付加機能内蔵MCUが、汎用IoT MCUになります。

IoT開発者は、これらIoT付加技術を今のうちに習得しておくことが必要です。

IoVとIoTの最も大きな差は、車載と民生半導体の電源仕様でしょう。IoVは、EV(Electric Vehicle)のモータ高出力要求に伴いバッテリーが12V供給から48Vへ高電圧化しつつあり、万一の耐圧やフェイルセーフが求められます。IoTは、低電圧(≦3.3V)電源で低圧化しつつあります。

RA/REテンプレート構想

残念ながらSOTB製REファミリ評価ボードは、まだ値段が高く、個人レベルでは手が出しにくい状況です。そこで、SOTBプロセスではありませんが、REファミリとソフトウェア互換性があると思われるCortex-M33コア搭載ルネサスRAファミリを、弊社テンプレート対象にと考えています。

RAファミリは、TrustZoneでIoTセキュリティへ対応しています。また、9月22日発売のRAファミリRA4E1グループの評価ボード:RA4E1 Fast Prototype Boardは、20米ドル台と低価格です。ルネサス独自コアではないため、コンパイラFlash容量制限もありません。

FPB-RA4E1 Fast Prototyping Board(出典:クイックスタートガイド)
FPB-RA4E1 Fast Prototyping Board(出典:クイックスタートガイド)

RL78/G1xテンプレートから新しいルネサスMCUをテンプレート対象に出来なかった理由の1つが、この容量制限です。ARMコア他社同様、GNUまたはARM Compiler V6が、e2 studioでRAファミリ開発に無償で使えます。

今のところRAテンプレートは、REへも使えると考えています。ARMコア差は、CMSIS:Cortex Microcontroller System Interface Standard やHAL:Hardware Abstraction Layerで吸収できるハズだからです。

ADC、SW、LED、UART(VCOM)などのIoT MCU基本動作をRA/REテンプレート共通部分でサポートし、TrustZoneや超低電力動作などRA/RE特徴を活かす部分は、共通部分へ特徴サンプルコードを追加する方法で実現できれば嬉しいと考えています。構想段階ですが、詳細は今後投稿します。

組込み開発 基本のキ:IoT MCUセキュリティ

本稿は、IoT MCUソフトウェア/ハードウェア開発者向けTipsで、「MCU開発基本のキ」シリーズの第1回目です。MCUベンダ横断的に開発ポイント、Tipsなどを不定期に投稿します。

今回は、そもそもIoT MCUに、なぜセキュリティが必要かという最も基本的な点について示します。

幅広い技術がIoT MCU開発者には必要です。しかし、全てを理解し、時々刻々変化する状況に対応するには時間がいくらあっても足りません。情報が多く幅広いからこそ、短時間で効率的なIoT MCU開発のためのポイントやTipsが必要です。

このポイントやTipsについて筆者個人の考え方を示します。これを、たたき台にして、ブログ読者の方々の考え方に発展・貢献できれば幸いです。

接続とセキュリティ

インターネット接続とセキュリティ
インターネット接続とセキュリティ

IoT MCUは、インターネットなどに接続し動作することが前提です。

人がネットに接続する時は、事前にアカウント登録し、IDやパスワードなどの登録情報を接続時に手入力、ネット側で受信データと事前登録情報と比較し接続を許可します。

IoT MCUは、人の手入力の代わりに自動で登録情報をネット送信することで接続します。この時大切なのが、IoT MCU内部に保存済みの登録情報です。登録情報をサイバー攻撃やハッカーから守る手段がIoT MCUセキュリティです。

ハッカー、セキュリティ、OTA

ハッカーとセキュリティは、「いたちごっこ」を繰返します。

例えば、コチラのFirefox 91とWindows 10規定ブラウザー設定、Windows 11で更に複雑化する設定がその例です。この場合、ハッカー役がFirefox、セキュリティ役がWindow設定です。

様々なIoT MCUセキュリティ手段がありますが、ポイントは、守りは攻めに対する対処療法なので守りの追加や更新が必要となる点です。

つまり、個々のセキュリティ手段を知ることよりも、何を(IoT MCUの登録情報や秘密鍵などの重要情報)どのように守るかの方がより重要です。ソフトウェアによる守りよりもより強固な内蔵ハードウェアで重要情報を守るのが、ARM Cortex-M33コアのTrustZoneです。

いたちごっこの終息策として、MCU内蔵TrustZoneとその制御ソフトウェアを採用した訳です。

Windows 11で導入されるTPM 2.0も、TrustZone相当です。しかし、TPM保護PCから情報を抜出す方法という記事もあります。セキュリティには終わりが無いと言っても良いでしょう。

終わりが無いので、OTA(Over The Air)によりセキュリティ手段の追加や制御方法更新が必要になる訳です。OTAは、IoT MCUセキュリティ追加更新が本来の目的で、ソフトウェアバグ修正は副次的だと思います。

接続伝送路エラー訂正

無線であれ有線であれ、ネット接続の伝送路にノイズ混入の可能性があります。ただ、IoT MCUセキィリティが正常か異常かの判断は、受信データにノイズ(誤り)が無いことが前提です。

そこで、受信側に、受信データに混入ノイズを除去する機能があれば便利です。

2021年9月9日、米)MITは、あらゆる種類のデータ誤り検出し訂正するGuessing Random Additive Noise Decoding (GRAND)採用のハードウェアデコーダを開発しました。128ビットまでのコードを約1u秒でデコードでき、高速通信規格5GやIoT分野での利用が期待されています。

まとめ:IoT MCUセキュリティ3Tips

  1. ネット接続が前提のIoT MCUには、サイバー攻撃から内蔵重要情報を守るセキィリティ必須
  2. セキュリティは、対処療法なので機能追加更新OTA必須
  3. より強固に重要情報を守るTrustZone、受信データ誤り検出訂正GRANDデコーダなどのセキュリティ対策ハードウェアが、IoT MCU要件になる可能性あり

IoT MCUセキュリティ用語、関連性、対策ハードウェアがご理解頂けたと思います。
※TrustZoneに似たハードウェアに、ルネサス:Trusted Secure IP(TSIP)、STマイクロ:Secure Memoryなどもあります。

セキュリティは終わりがありません。どの程度のセキュリティをIoT MCUへ実装すれば良いかを検討するには、IoTセキュリティ手引書やPlatform Security Architecture: PSA Certified認証制度などが参考になります。

但し、IoT MCU開発者に解り易いかと言えば、正直疑問も感じます。そこで、IoT MCUセキュリティ関連で、最低限開発者が押さえておくべき3項目をまとめました。

特に項目3は、初めからIoT MCUに実装済みでないと後付けやOTA更新ができません。今後の欧米IoT規格や総務省動向にも注意を払う必要があるでしょう。

補足:IoTセキュリティコスト

筆者利用ネットカフェPCのWindows 11対応チェック結果を抜粋したのが下図です。2PCのみ抜粋しましたが、他PCも同様で、全項目OKのPCは皆無でした。弊社PCも3PC中1台のみ全OKですので、Windows 11無償アップグレード可能PCは、Windows 10 PCの30%以下になりそうです。

ネットカフェのWindows 11対応チェック結果
ネットカフェのWindows 11対応チェック結果

Windows 10サポート終了の2025年10月以降、多くのWindows 10セキュリティが低下し、サイバー攻撃に弱くなります。セキュリティ対サイバー攻撃コストを示すのは大変でしょうが、Microsoftは示す責任があると思います。

同様にIoT MCU顧客もセキュリティ対策コストを望むと思います。ちなみに、Cortex-M4比、Cortex-M33 TrustZone MCUは、2倍工数必要が弊社見解です(関連投稿:Cortex-M33とM0+/M4の差分の3章)。

STM32U5発表と最新IoT MCU動向

STマイクロエレクトロニクス2021年2月25日発表の先端性能と超低消費電力動作両立のSTM32U5を紹介し、STのIoT MCU開発動向をセキュリティ、MCUコア、製造プロセスの観点から分析しました。

先端性能と超低消費電力動作のSTM32U5

STM32U5ベンチマーク(出典:公式ブログ)
STM32U5ベンチマーク(出典:公式ブログ)

公式ブログから抜粋したSTM32U5のベンチマークです。従来の超低消費電力MCU:STM32L0~L4+シリーズと、Cortex-M33コア搭載STM32L5、今回発表のSTM32U5をメモリサイズとパフォーマンスで比較しています。

STM32U5は、従来Cortex-M0+/M3/M4比、Cortex-M33搭載により後述のセキュリティ先端性能と、従来Cortex-M33搭載STM32L5比、230DMIPS/160MHzと大幅向上した超低消費電力動作の両立が判ります。STM32U5の詳細はリンク先を参照ください。

本稿はこの最新STM32U5情報を基に、STのIoT MCU開発動向を、セキュリティ、MCUコア、製造プロセスの3つの観点から分析します。

セキュリティ

STM32マイコンセキュリティ機能一覧(出典:ウェビナー資料)
STM32マイコンセキュリティ機能一覧(出典:ウェビナー資料)

昨年10月27日ウェビナー資料:ARM TrustZone対応マイコンによるIoTセキュリティのP17に示されたSTM32マイコンセキュリティ機能一覧です。セキュリティ先端性能のTrustZoneは、Cortex-M33コアに実装されています。

関連投稿:Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分

今回の超低消費電力STM32U5発表前なのでSTM32L5のみ掲載されていますが、STM32U5もL5と同じセキュリティ機能です。STM32WLは、後述するワイヤレス(LoRaWAN対応)機能強化MCUです。

この表から、後述する最新メインストリーム(汎用)STM32G0/G4も、STM32U5/L5と同じセキュリティ機能を実装済みで、STM32U5との差分はTrustZone、PKA、RSSなど一部であることも判ります。

STM32U5のSTM32L5比大幅に動作周波数向上と低消費電力化が進んだ背景は、セキュリティ機能に対するより高い処理能力と40nm製造プロセスにあることが2月25日発表内容から判ります。

STM32ファミリMCUコア

STM32ファミリMCUコア(出典:STサイトに加筆)
STM32ファミリMCUコア(出典:STサイトに加筆)

STM32ファミリMCUコアは、ハイパフォーマンス/メインストリーム(汎用)/超低消費電力/ワイヤレスの4つにカテゴライズされます。前章のSTM32WLがワイヤレス、STM32U5/L5は超低消費電力です(STM32U5は加筆)。

STM32WLとSTM32WBの詳細は、コチラの関連投稿をご覧ください。

STM32U5と同様、従来の120nmから70nmへ製造プロセスを微細化して性能向上した最新メインストリームが、STM32G0/G4です。

新しいSTM32G0/G4は、従来汎用STM32F0/F1/F3とソフトウェア互換性があり、設計年が新しいにも係わらずデバイス価格は同程度です。従来メインストリームのより高い処理能力と低電力動作の顧客ニーズが反映された結果が、最新メインストリームSTM32G0/G4と言えるでしょう。

製造プロセス

製造プロセスの微細化は、そのままの設計でも動作周波数向上と低電力消費、デバイス価格低減に大きく寄与します。そこで、微細化時には、急変するIoT顧客ニーズを満たす機能や性能を従来デバイスへ盛込んで新デバイスを再設計します。STM32U5やSTM32G0/G4がその例です。

MCU開発者は、従来デバイスで開発するよりも製造プロセスを微細化した最新デバイスで対応する方が、より簡単に顧客ニーズを満たせる訳です。

関連投稿:開発者向けMCU生産技術の現状

まとめ

セキュリティ、MCUコア、製造プロセスのそれぞれを進化させた最新のIoT MCUデバイスが、次々に発表されます。開発者には、使い慣れた従来デバイスに拘らず、顧客ニーズを反映した最新デバイスでの開発をお勧めします。

また、短時間で最新デバイスを活用し製品化する方法として、最新メインストリーム(汎用)デバイスSTM32G0/G4を使ったプロトタイプ開発もお勧めします。

最新メインストリーム(汎用)プロトタイプ開発イメージ
最新メインストリーム(汎用)プロトタイプ開発イメージ

前章までで示したように最新メインストリームSTM32G0/G4は、他カテゴリデバイスの機能・性能を広くカバーしています。メインストリームプロトタイプ開発資産は、そのまま最新の他カテゴリデバイスへも流用できます。

従って、他カテゴリデバイスの特徴部分(セキュリティ、超低消費電力動作やワイヤレス)のみに注力した差分開発ができ、結果として短期製品化ができる訳です。

ちなみに、プロトタイプ開発に適したSTM32G0テンプレートは、コチラで販売中、FreeRTOS対応のSTM32G4アプリケーションテンプレートは、6E目標に開発中です。

あとがき:文字伝達

ソフトウェア開発者ならソースコード、ハードウェア開発者なら回路図が、最も直接的・正確に技術内容を使える手段です。文字は、記述者の理解を変換して伝える間接的手段です。両者に違い(文字化ノイズ)が生じるのは、やむを得ないと思います。

報ステのTSMCのニュースに頭の抱えてしまった”、“TSMCは日本で何をしようとしているのか“からも分かるように、マスメディアは文字や画像で情報を伝えます。受けての我々開発者は、これらノイズを含むと思われるマスメディア情報を、自分の頭で分析・処理し、理解する必要があります。

と言うわけで本稿も、筆者が文字化ノイズを付けて分析した例です……、という言い訳でした😅。

Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分

STマイクロエレクトロニクスが、STM32マイコン体験実習(セキュリティ編①~⑤)という動画でCortex-M33 TrustZone解説とSTM32L5(Cortex-M33/110MHz、Flash/256/512KB、RAM/256KB)のセキュリティ実習を行っています。

このセキュリティ編①:31min17secから、IoT MCU向けセキュリティ強化Cortex-M33コアのARM TrustZoneマイコンと、通常Cortex-M0+/M4コアマイコンとの差分を抽出しました。TrustZoneマイコン基礎知識の習得が目的です。

Cortex-M33とCortex-M0+/M4差分

セキュリティ編動画①~⑤概要

①P3(動画①、スライドP3を示します)に、動画①~⑤の概要が示されています。動画①でCortex-M33コアの解説、②でSTM32L5開発環境の準備、後半③~⑤でSTM32L5評価ボード:NUCLEO-L552ZE-Q(¥2,303 Mouser)を使ったセキュリティ演習という構成です。

本稿は、動画①から、ARM TrustZone Cortex-M33コアと通常Cortex-M0+/M4コアとの差分を一覧表にしました。

※ARM公式差分情報を知りたい方は、①P48の参考文献が参考になります。

Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分

オンデマンド動画ですので、好きな個所で止める、再生読度を変えるなどが可能です。動画①は、筆者が経験したTrustZone解説の中で最も分かり易い動画です。

特にP36/P37/P39は、4段階に増えたステート処理内容が具体的に判りTrustZoneマイコン特徴理解に役立ちます。
また、P19は、様々なセキュリティレベルと対応STM32MCUのセキュリティ機能差が一目で判る重要な資料です。

要旨(ARM TrustZone Cortex-M33と通常Cortex-M0+/M4差分)
7 ソフトウェア攻撃防御策がTrustZone。物理攻撃対策はセキュアマイコン(≠汎用MCU)が有効。
12 Secure呼出し=予め決めた手順で内蔵周辺回路(I2C/SPI/RAMなど)へアクセスする技術
Security Isolation=Secure呼出しを使い通常アクセスと隔離・分離する技術
ARM TrustZone=Security Isolationを対象MCUで柔軟に構成する技術
16 タンパ=物理攻撃を検出→検出後バックアップレジスタやSRAM自動消去
JTAGピン無効化→設定後はGPIOなどで運用
WRP(WRite Protection):数KB単位設定可能
RDP(ReaD Protection):JTAG読出し禁止→読出検出でプログラム実行停止→PORで解除
Secure Memory=起動時のみ読出し可能な領域
17 MPU(Memory Protection Unit):最大16個メモリ領域の読書き、命令実行許可/禁止設定
18 セキュリティは単独では効果が薄く、複数重ね攻撃への敷居を上げ強化(暗号鍵保存例掲載)
19 STM32マイコン内蔵セキュリティ機能差一覧。TrustZone対応はSTM32L5のみ(2020/12時点)
STM32G0/G4(Cortex-M0+/M4)でもSRAM RDP機能などあり
22 TrustZoneは、アドレス空間とバス通信の両方をハードウェア監視しアクセス制御
23 アドレス空間監視=コア内蔵SAU IDAU、バス通信監視=TZ(TrustZone) ControllerとAHBバス
24 STM32L5は、内部FlashアクセスにST独自Flashレジスタとオプションバイトで保護
26 TrustZone-aware周辺回路=DMA1&2/GPIO…などAHB接続回路は個別セキュリティ設定要
上記以外がSecurable周辺回路=UART/SPI…などでAHB/APBブリッジがアクセス監視
29 従来MCUベアメタル開発は、mainループも割込みハンドラも常に特権モード動作の1段階
30 従来MCUのRTOS開発は、割込みハンドラ/RTOSが特権モード、ユーザタスクは非特権の2段階
32 Secureステート追加TrustZoneは、4段階化→各層の処理配置がTrustZoneソフト設計第一歩
35 Secureソフトと従来ソフトのプロジェクト差一覧
(セキュリティ関連設定はSecureソフトのみ可能でmain関数はあるがmainループなしなど)
36 TrustZoneマイコンベアメタル開発の4段階ステート処理配置例(TrustZoneソフト設計例1)
37 TrustZoneマイコンRTOS開発の4段階ステート処理配置例(TrustZoneソフト設計例2)
38 TrustZoneソフト開発時、Secureソフトと通常ソフトの2プロジェクト作成必要
39 TrustZoneソフトの基本実行フロー(Secureソフトから通常ソフトへの処理内容一覧)
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Secureステートと通常ステートのアドレス空間の見え方差まとめ
44 動画①全体まとめ
45 STM32L5開発時のキーポイント一覧(全18項目)
46 STM32L5開発時のキーポイント演習項目一覧(18項目中9項目を動画③~⑤で演習)
48 おすすめARMv8-M(Cortex-M33コア)TrustZone参考文献一覧

TrustZoneマイコン開発は工数2倍、スキルも必要

動画①は、他ベンダのARM Cortex-M33 TrustZoneマイコン開発でも基礎知識が得られます(※P24のST独自Flashレジスタとオプションバイト保護は除く)。IoT MCU向けセキュリティ強化Cortex-M33コアで導入されたTrustZoneを活用するには、①の理解は最低限必要です。

従来Cortex-M0+/M4に比べ、Cortex-M33シングルコア開発でもSecureと通常(Normal)ソフトウェアの2プロジェクト必要、メモリ空間と周辺回路のセキュリティ設定必要(メモリ分割損も生じると予想)、JTAGピン無効化など、従来のアプリケーション開発とそのデバッグに加え、ソフトウェア攻撃対策TrustZone導入による工数やその動作確認/解除などの手間が余分に必要になります。

このTrustZone導入オーバーヘッドは、少なくないです(セキュリティ編②~⑤でオーバーヘッド工数が判ります。補足章に動画②~⑤リンク添付)。Cortex-M33コア最高速度が110MHzと他コア比高速で、Flash/RAMも大容量なのは、このオーバーヘッドのハードウェア対策だと思います。

TrustZoneマイコンのソフトウェア開発工数は、同じアプリケーションの通常マイコン開発の2倍程度は必要になると思います。また、TrustZone起因のトラブルに対する分析スキルも必須です。

ソフトウェア攻撃に対する防御壁の高さは、言い換えると、ソフトウェア開発のし難さと等価です。セキュリティレベルが上がるにつれ、開発コストも上がります。

全てのIoT MCUがTrustZone対応MCUである必要は無いと思います。コスト重視の場合は、従来Cortex-M0+/M4コアでセキュリティ強化対応(例えば、関連投稿:STM32G0/G4のRoot of Trust(1)~(3)など)でも使える可能性があります(関連投稿:IoT MCUコア次世代像のIoT MCUコアの3層構造最下層のFront End IoT MCUに相当)。

セキュリティは、強固な方が良いのは当然ですが、それ相応の追加コストも生じます。セキュリティ対コストの観点からIoT MCUの選択が必要となるでしょう。

* * *

セキュリティ対策は、いわば自動車保険のようなものです。保険代金の負担は、開発者かエンドユーザか、エンドユーザがTrustZone導入オーバーヘッドを理解することは難しいと思いますので悩ましい問題です😅。

Cortex-M33 TrustZoneマイコンは、ソフトウェア開発者が記述した処理を攻撃とマイコンが誤認識(正常認識)した場合は、無視、あるいは最悪、マイコンを使用不能にします。見つけにくい無視された処理が、開発者起因か、あるいはTrustZone起因かを分析できるスキル、これが、通常マイコン開発との最大の差分です。

STM32マイコン体験実習は、TrustZone起因スキルを習得できるよく考えられた教材です。

補足

STM32マイコン体験実習(セキュリティ編②
STM32マイコン体験実習(セキュリティ編③
STM32マイコン体験実習(セキュリティ編④
STM32マイコン体験実習(セキュリティ編⑤

関連投稿:STM HTML版マンスリー・アップデートの見かた4章の全体像リンク集なども役立ちます。

Cortex-M33コア以外でTrustZone技術を用いたマイコンは、Cortex-M35P、Cortex-M23があります。

Cortex-M0からCortex-M0+変化

前稿で示したNXP MCUラインナップ図には、ARM Cortex-M0/M0+両方のコアが掲載中でした。しかし、最新版MCUXpresso IDEのコア選択ダイアログには、Cortex-M0選択肢がありません。

MCUXpresso IDEのコア選択ダイアログ
MCUXpresso IDEのコア選択ダイアログ

そこで、Cortex-M0+とCortex-M0の違いを調べた結果、新規MCU開発にNXPのCortex-M0コアを使う必然性は低いという結論に達しました。本稿は、その根拠を示します。

ARM Cortex-M0+とCortex-M0の差

弊社関連投稿:Cortex-M0/M0+/M3比較とコア選択や、ARMコア利用メリットの評価ARM MCU変化の背景をまとめ、ARMコアの発表年順に示したのが下表です。※M4の発表年は間違っているかもしれませんが、市場に出回ったCortex-Mxコアの順番は下表で正しいハズです😌。

ARM Cortex-Mx性能、発表年
Cortex-Mコア 性能 (MIPS @ MHz) ARM発表年 MCUモデル
Cortex-M3 1.25 2004 旧メインストリーム
Cortex-M0 0.9 2009 ローコスト
Cortex-M0+ 0.95 2011 ローパワー
Cortex-M4 1.25 2012頃 デジタル信号処理新メインストリーム

要するに、Cortex-M0+やCortex-M4は、Cortex-M0やCortex-M3をベースに市場ニーズに即した変更を加えた新しいARMコアだと言うことです。本稿では、特にCortex-M0+とM0の違いに注目します。

Cortex-M0+には、表の差以外にも高速IOアクセス、高速パイプライン、低消費動作モードなどCortex-M0には無い数々の特徴がありますが、Cortex-M0よりも高性能(0.9→0.95MIPS@MHz)で、シリコンチップ高速化にも好都合です。

つまり、新規開発にCortex-M0+の代わりに敢えてCortex-M0コアを用いる理由は、見当たらない訳です。

NXPの新しい統合開発環境MCUXpresso IDEのSDKのコア選択肢に、Cortex-M0が無いのは、上記が理由だと思います。※ローコストに関しては、コア単体の相対評価はできても、使用数量でかなり変動するためMCUコスト絶対評価を難しくしています。

NXP MCUXpresso SDK対応評価ボード数

最新MCUXpresso IDE v11.1.1のSDKで対応中の評価ボード数を一覧にしました。例えば、Cortex-M33コアなら下図のように7個です。

MCUXpresso SDK対応評価ボード数(Cortex-M33の場合)
MCUXpresso SDK対応評価ボード数(Cortex-M33の場合)
MCUXpresso SDK対応評価ボード数比較(2020-07)
MCUXpresso SDK対応評価ボード数比較(2020-07)

評価ボードは、プロトタイプ開発には必須で、その評価ボードで動作するSDK(Software Development Kit)があればソフトウェア開発効率は向上します。Cortex-Mxコア間のソフトウェア移植性は高く、同じコアのソフトウェアであれば、異なる評価ボードへの移植もさらに容易です。

つまり、評価ボード数が多いCortex-M0+やCortex-M4が、現在最もCortex-Mxコアソフトウェア開発効率が高いことを示しています。また、Cortex-M3コア選択肢がない理由も、Cortex-M0コアがない理由と同じと推測します。

本当の並列処理が要求されるマルチコア開発なら、Cortex-M0+とM4のペア、または、IoTセキュリティを強化したCortex-M33コアx2であることも判ります。※Cortex-M33は、2016年ARM発表のセキュリティ強化コアです。

新規ARM Cortex-Mxソフトウェア開発は、Cortex-M0+コアまたはCortex-M4コア利用に収束してきたと思います。
※Cortex-M33コアは、従来コアに無いIoT向けセキュアゾーンなどが新規機能追加されていますので除外しています。

弊社テンプレート開発方針

前稿のNXP MCUラインナップからCortex-M0とCortex-M3を除き、現状SDK提供中のARM Cortex-Mxコアラインナップをまとめると下図になります。※Cortex-M33は未掲載です。

Software Development Kit開発から見たNXP MCUラインナップ
Software Development Kit開発から見たNXP MCUラインナップ

弊社もCortex-M0+、Cortex-M4、Cortex-M33コア向けのテンプレート開発を進める方針です。