低消費電力トレンド

MCU開発者は、消費電力に気を配りソフトウェア/ハードウェアを開発します。最近は、顧客の低電力指向が強くなり、全業界で電力不足対策がトレンドとなっています。

ドイツ、米国、日本、有力企業の電力不足対策記事を示し、低消費電力トレンドを活かしMCU開発すれば、顧客に好印象を与え他社差別化に寄与することを示します。

ドイツ)Volkswagen国内工場閉鎖示唆

ドイツ)フォルクスワーゲンの電力消費対策
ドイツ)フォルクスワーゲンの電力消費対策

2024年9月5日、ドイツ最大手の自動車企業Volkswagenが、国内工場閉鎖を検討しているニュースが発表されました。その主要因は、国内調達エネルギーコスト、つまり、電力コストの高騰です。

製造業の製品は、コストパフォーマンスで評価されます。同じパフォーマンスならより安い製品が顧客に売れるのは、当然です。

脱原発方針やロシアのウクライナ侵攻、中東情勢のため、ドイツ国内電力コストが従来比急上昇し、もはやドイツ製造では高いコスパ維持ができないのです。

ドイツ工場を閉鎖、代わりに電力コストの安い国外製造がドイツ)Volkswagenの取組みです。

米国)Microsoft向けスリーマイル原発再稼働

米国)Microsoftの電力対策
米国)Microsoftの電力対策

2024年9月21日、米大手電力コンステレーション・エナジーが、スリーマイル島原発1号機の再稼働を発表しました。Microsoft AIデータセンタへ、20年間電力安定供給のためです。

AIデータセンタ向け電力は、今後急増が予想されます。再生エネルギーやシェール天然ガス発電だけではAI電力需要にまね合わないため、米国各地で原発再稼働の検討が始まっています。

AI新電力需要に対し、既存(休止)設備の再利用で対処するのが米国)Microsoftの取組みです。

日本)NTT光電融合新デバイス開発

日本)光電融合デバイスによる電力対策(出典:NTT R&D Forum 2023)
日本)光電融合デバイスによる電力対策(出典:NTT R&D Forum 2023)

2024年9月20日、NTTは、AIデータセンタ消費電力増大の解決策として光回路と電気回路を組み合わせた、新しい光電融合デバイスの現在到達点と今後の展望公演を発表しました。

光電融合デバイスは、次世代ネットワーク:IOWNだけでなく、コンピューティングへも使えるとNTTは考えています。

AI新電力需要に対し、光電融合新技術で対処するのが日本)NTTの取組みです。

Summary:低消費電力トレンドとMCU開発

ドイツ、米国、日本、有力企業の電力不足の取組みを、最新記事からまとめました。

  • ドイツ)Volkswagen:ドイツ工場閉鎖、電力コストの安い国外拠点で代替
  • 米国)Microsoft:既存(休止)原発再稼働でAI新電力需要を補う
  • 日本)NTT:光電融合の新技術でネットワークとコンピューティング両方の電力不足解消を狙う

これら低消費電力トレンドは、MCU開発やその顧客へも影響を与えます。MCU単体の消費電力は僅かでも、IoT時代は数十億個ものMCUが稼働するからです。

開発MCU消費電力の少なさは、顧客に好印象を与え、他社差別化に大きく寄与します。

Afterword:低消費電力MCU開発

MCU IDEには、電力消費シミュレーションツールが付属しています。従来は、確認程度に使っていました。シミュレーションとはいえ、今後は顧客へのMCU低電力動作例を示すのに使えます。

また、新しい製造デバイスは、従来デバイスよりも高性能で低電力動作です。例えば、40nmプロセスのSTM32G0は、STM32F0/F1の半分以下の電力で高速動作します(弊社STM32G0xテンプレートP2参照)。MCU単体とシステム全体ハードコスト検討も必要ですが、評価価値はあります。

40nm汎用STM32G0シリーズとSTM32F0/F1シリーズの動作電力比較
40nm汎用STM32G0シリーズとSTM32F0/F1シリーズの動作電力比較

全ての弊社マイコンテンプレートは、低消費電力対策にSleep処理を組込み済みです。Sleep有無で消費電力がどの程度変わるか、コメント修正のみで実ハード確認ができます。

MCUプロトタイプ開発に最適、顧客への低電力動作アピールにも適すマイコンテンプレート、ご活用ください。


生成AI未来予測

AIが人間よりも賢くなるシンギュラリティ、2045年問題
AIが人間よりも賢くなるシンギュラリティ、2045年問題

生成AIの未来予測が良く判る記事を紹介します。弊社は、AIをMCUセキュリティコンサルタントへ活用したいと考えています。この記事のAI自動化が、活用できる確信を与えました。

2つの未来予測

AI未来予測は、2つあります。1つが、今の生成AIはバブルで幻滅期へ入る。もう1つが、生成AIはこのまま加速し、社会を激変、シンギュラリティへ入る。この2つを、発表レポートに基づいて論点整理したのが紹介記事です。

弊社は、後者予測のAI加速、シンギュラリティ実現を信じますので、以下この予測要点をまとめます。

生成AI知能レベルと2027年シンギュラリティ実現

生成AI知能レベル、シンギュラリティ、AI自動化
生成AI知能レベル、シンギュラリティ、AI自動化

記事内の今年6月発表Situation Awarenessレポートが、生成AI知能レベルをまとめています。

2019年:未就学児童
2020年:小学生
2023年:優秀な高校生
2024年:大学生(現在AI知能レベル)
2025か26年:大学院生
2027年:汎用人工知能(AGI)レベルとなりシンギュラリティ実現

※AGI(Artificial General Intelligence)は、人間の考え方、知識の「一部を機能化」した現在のAIの親玉に相当し、人間と同等か最大でも10倍程度の知能レベル。

この予測は、レポート著者Leopold Aschenbrenner⽒個⼈の⾒解ではなくAI研究者、業界の主流意⾒だそうです。今年5月の関連投稿、2045年予測よりもかなり早いです!

この予測の前提は、電力やAI半導体、AI研究者、つまりAI資源が十分に揃うことで、GOMAなどの大手AIプレーヤもAI進化へ注力中のため、Aschenbrenner⽒は2027年末AGI誕生に自信を持っています。

さらに、ソフトバンクはコチラの関連投稿で、AGIの10年後に更に高度なASI:Artificial Super Intelligenceへレベルアップすると予測しています。

AI自動化の仕組み

AGI実現を待つまでもなくAI自身が自分を改良・進化させるAI自動化は、今のAI技術でも可能だというレポートをSakana AI発表しました。そのAI自動化の仕組み(実現ステップ)です。

AI自動化の仕組み(実現ステップ)
AI自動化の仕組み(実現ステップ)
  1. アイデア⽣成:与えられたコードとタスク説明に基づいて、新しい研究アイデアを⽣成。
    ※アイデア⽣成は、⽣成AIの得意分野。
  2. 新規性チェック:そのアイデアに新規性があるかをAIが検索機能を使って調査。
  3. 実験実⾏:他に同様の論⽂が⾒当たらない場合は、そのアイデアを使った実験計画を立案。計画通りにコードを書いて、結果を確認。このような実験を繰返す。
  4. 結果の可視化と論⽂執筆:図表を作り論⽂⽣成。
  5. 論⽂レビューと改善:AIが書いた論⽂をAIが読み返し改善点提案、それを基にAIが論⽂を書き直す。

凄い仕組みです。このAI自動化による論文が既にあるそうです。現在は論文中の図表をAIが正確に読めない課題もありますが、この課題は確実に克服されるそうです。

弊社は、AI自動化によりAIをMCUセキュリティコンサルタントへ利用できると確信しました。セキュリティ全般知識とMCUセキュリティ開発の費用対効果、必要な開発レベル、開発期間などを問い合わせると、自動化AI MCUコンサルタントが、上記ステップを使って回答を出力します。

各ステップの結果を参照することで、AI回答ハルシネーション対策や信憑性確認もできると思います。

Summary:生成AI未来予測

ビジネスのAI利用は賛否あります。生成AI未来予測記事は、賛否両論の主張を整理しています。弊社は、AI進化予測の内容をまとめました。

  • 生成AI知能レベルは、電力、AI半導体、AI研究者が十分に揃い、GOMAなどAIプレーヤのおかげで進化し、2027年にAGIとなり人間知能を超えるシンギュラリティになる。
  • AIが自分自身を改良・進化させるAI自動化は、現在のAI知能レベルでも可能で、既に自動化により数件の論文を生成済み。図表の正確な読取りに課題もあるが、克服される。

Afterword:AI利用で激変するPC作業

生成AI革命がGAFAMからGOMAへ変える
生成AI革命がGAFAMからGOMAへ変える

GOMAの一角Microsoftは、AI(Copilot)のビジネスOffice文書作成にも積極的です。例えば、コチラの記事です。紹介されたCopilot機能は、文書生産性や共同作業性の向上に直結します。もはや文書作成時のCopilot利用は、当たり前で、それをいかに上手く使うかが焦点です。

AIに対する一種のアレルギーは、GeminiのGoogleサービス拡張機能やApple IntelligenceなどのAIスマホ普及により減少し、ユーザは、PCへも更なるAI機能追加を要求すると思います。

AIは、もはやInternetと同レベルの情報機器必須機能へ変化・進化しつつあるのです。


2つのTrustZone開発方法

セキュアマネジャ利用対2領域開発
セキュアマネジャ利用対2領域開発

STマイクロ)STM32H5とSTM32U5は、どちらもTrustZone対応Cortex-M33マイコンです。しかし、そのTrustZone開発方法は、STM32H5がSecure Manager利用、STM32U5がSecure/Non Secureの2領域開発など大きく異なります。

本稿は、これら2つのTrustZone開発方法の概要と特質を説明します。どちらが一般のMCU開発者向けかも示します。詳細は、STM32H5はコチラ、STM32U5はコチラのウェビナー資料を参照ください。

STM32H5とSTM32U5

STM32 TrustZome対応MCUポートフォリオ(STM32H5ウェビナー資料P3を編集)
STM32 TrustZome対応MCUポートフォリオ(STM32H5ウェビナー資料P3を編集)

STマイクロのTrustZone対応Cortex-M33コアマイコンファミリは、現在上図の4種類あります。最高動作周波数や内蔵周辺回路が想定アプリケーションにより異なりますが、どれもTrustZone対応のセキュアマイコンです。

※TrustZone基本は、コチラの投稿参照。

Cortex-M33マイコンのセキュリティ機能

STM32 Cortex-M33ハードウェアセキュリティ機能一覧(STM32U5ウェビナー資料P36を編集)
STM32 Cortex-M33ハードウェアセキュリティ機能一覧(STM32U5ウェビナー資料P36を編集)

4種セキュアマイコンのハードウェアセキュリティ機能一覧が上図です。基本機能のTrustZoneやSecure Memory利用セキュアブートは、4種マイコン共に持っています。

これらセキュリティ機能一覧から、必要性に応じて開発ユーザアプリへセキュリティ機能を追加することをセキュリティ開発、その中心がTrustZoneなのでTrustZone開発と言います。

※Secure Memory利用セキュアブートは、コチラの投稿参照。

STM32U5セキュリティ開発方法

マイコンセキュリティの目的は、ハッカー攻撃などによる開発ソフトウェアの改ざん防御です。従って、想定アプリにより多少の違いがあっても、基本となるセキュリティの開発方法は、マイコンにかかわらず同じと考えるのが普通です。

事実、STM32U5やSTM32L5、STM32WBAは、以下の同じセキュリティ開発方法です。

STM32U5セキュリティ開発方法(STM32U5ウェビナー資料P52を編集)
STM32U5セキュリティ開発方法(STM32U5ウェビナー資料P52を編集)

つまり、TrustZone基本投稿で示したように、マイコンハードウェアをSecure領域とNon Secure(Normalと図示)領域に分離、Non Secureソフトウェア(Firmwareと図示)のSecure領域直接アクセス禁止により改ざん防御を行います。

この方法は、Secure領域とNon Secure領域の2プロジェクト開発が必須です。

具体的な2領域分割や領域間アクセス方法などは、STM32U5ウェビナー資料3章に記載されています。

筆者は、開発当初からの2プロジェクト開発は、困難と考えています。最初は領域を分けず一般的な1プロジェクトアプリを開発し、動作確認後にSecure/Non Secureの2プロジェクトへ分離する手順になると思います。

STM32H5セキュリティ開発方法

STM32H5のセキュリティ開発方法は、前章とかなり異なります。

STM32H5セキュリティ機能は、STマイクロがバイナリ形式でIPを提供し、これをセキュア領域へ保存します。MCU開発者は、このIPセキュリティ機能を、Arm PSA API互換のAPI経由で、Non Secure領域のユーザアプリから利用します。

STM32H5セキュリティ開発方法(STM32H5ウェビナー資料P9を編集)
STM32H5セキュリティ開発方法(STM32H5ウェビナー資料P9を編集)

簡単に言うと、Non Secure領域の動作アプリに、必要に応じてセキュリティ機能APIを追加すればセキュリティ開発ができます。セキュア領域のセキュリティ機能は、ST提供IPのためユーザ開発不要です。

このSTM32Trust TEE Secure Managerが使えるのは、現在STM32H5のみです。しかし、今後増えるそうです。

具体的なSecure Manager利用方法や評価ボードなどが、STM32H5ウェビナー資料3章に記載されています。

筆者は、このSecure Manager利用の方が、前章の2プロジェクト開発方法よりもシンプル、かつ、セキュリティ本体コーディングも不要なため優れていると思います。PSA API利用ソフトのSTマイコン横展開が、現在STM32H5に限られるのは残念です。逆に、他ベンダマイコンへの流用は、Arm PAS API互換のため容易かもしれません。

Summary:2つのTrustZone開発方法

セキュアマネジャ利用対2領域開発
セキュアマネジャ利用対2領域開発

STマイクロのTrustZone対応Cortex-M33マイコンSTM32H5とSTM32U5の2セキュリティ開発方法と特質を示しました。

セキュリティ開発は、その用語や費用対効果などが、一般のMCU開発者に判り難い領域です。また、Cortex-M33のTrustZone理解も必要です。

このTrustZoneに対し正攻法のセキュリティ開発方法は、STM32U5ウェビナー資料方法です。STM32L5やSTM32WBAへの開発セキュリティソフト横展開も可能です。

STM32H5ウェビナー資料方法は、Arm PAS API互換APIを利用し、かつ、セキュリティソフト開発を簡素化できるなど、正攻法比、優れた方法だと思います。

Afterword:どちらが一般MCU開発者向けか?

Secure Managerは、無償利用できます。また、RTOS以外のベアメタル開発にも使えます。さらに、STM32H5ウェビナー資料P6右側の暗号化エンジンなど全12セキュリティ機能も提供します。左側が、このセキュリティ開発方法の優位性を示しています。

最適STM32セキュリティ開発を実現するセキュアマネジャ(STM32H5ウェビナー資料P6を編集)
最適STM32セキュリティ開発を実現するセキュアマネジャ(STM32H5ウェビナー資料P6を編集)

STマイクロ以外のベンダでも、無償IPとArm PAS API互換のセキュリティ開発が多くなるかもしれません。一般のMCU開発者にとって、正攻法のセキュリティ開発は、障壁がかなり高いからです。


Arm TrustZone【組込み開発 基本のキ】

MCUセキュリティの2回目は、Arm TrustZoneについて解説します。前稿解説のセキュアブートは、MCU起動ソフトウェアの信頼検証を行います。Arm TrustZoneは、MCU実行中ソフトウェアの改ざん防御技術です。

TrustZoneもベンダやMCU毎にその実装が大きく異なりますので、TrustZone基本知識を解り易く説明後、実装例を示します。

※TrustZoneはセキュアブートも包含します。本稿はセキュアブート以外の内容を解説し、Summaryでまとめます。

Arm TrustZone基本

Arm TrustZone基本
Arm TrustZone基本

セキュアブート同様、Arm TrustZone(以下TrustZone)も専用ハードウェアで実行中MCUソフトウェアの改ざん防御やセキュリティ確保を行います。

TrustZoneは、気密性の高いデータ保存や重要周辺回路、処理ソフトウェアを保存する「セキュア領域」と、それ以外の「ノンセキュア領域」にMCUハードウェアを分離します。そして、ノンセキュア領域のソフトウェアは、予め決めた手続きに従わないと、セキュア領域へのアクセスができません。

つまり、ノンセキュアソフトウェアのセキュア領域直接アクセスが禁止です。これにより、セキュア領域の改ざん防御とセキュリティを確保します。

セキュア領域は、暗号鍵や機密データ、割込みハンドラなどの重要ソフトウェアを保存します。
ノンセキュア領域は、通常の周辺回路やアプリケーションソフトウェアを保存します。

TrustZoneセキュリティ違反検出時は、セキュリティ例外処理を実行します。この処理内容は、システム設計や実装により大きく異なります。例えば、MCU動作停止やセーフモードでの最小機能動作、ネットワーク経由での違反内容通知などがあります。

このようにTrustZoneは、様々なセキュリティレベルに柔軟に対応可能です。TrustZone対応Arm Cortex-Mコア一覧が下記です。Cortex-M33など新しい設計のArmv8-M MCUコアは、TrustZone内蔵です。

TrustZone対応Arm Cortex-M_Processor_Comparison_Tableに加筆(出典:ARM)
TrustZone対応Arm Cortex-M_Processor_Comparison_Tableに加筆(出典:ARM)

※Cortex-M7は、MPUで設計も古いためTrustZoneなし。TrustZone MPUは、Cortex-A35など。

TrustZone実装例

前章でTrustZoneの基本を解説しました。しかし、実際のTrustZoneは、もっと複雑です。

例えば、STマイクロ)STM32L5/U5 MCU(Cortex-M33コア)のTrustZoneウェビナー資料が、コチラからダウンロードできます。

I2C/SPIへのハッカー攻撃例(P10)とその防御(P11)、TrustZone分離例(P20)、セキュリティ違反検出方法(P21~23)、TrustZone初期設定フロー(P29)などが示されています。

また、TrustZoneにJTAGポート無効化やMCUパッケージ開封検出(タンパ検出)などの複数セキュリティ機能を重ね、セキュリティレベルを上げていることも判ります(P17)。

複数セキュリティを重ねセキュリティレベルを上げる(出典:STマイクロSTM32L5/U5 MCU TrustZoneウェビナー資料)
複数セキュリティを重ねセキュリティレベルを上げる(出典:STマイクロSTM32L5/U5 MCU TrustZoneウェビナー資料)

この実装例は、Secure User Memory(P15)格納の暗号鍵を使ってセキュアブート後、I2Cデバイス制御とSPI無線通信制御を重要ソフトウェアセキュア領域へ格納、ハッカー攻撃などセキュリティ違反検出時でも、これらセキュアソフトウェア処理は継続、かつ、セキュリティ違反検出内容を外部無線通知するMCUアプリだと推測します。

※ウェビナー資料でファームウェアと記述の箇所は、本稿のソフトウェアと解釈してください。

TrustZone開発の難しさ

TrustZoneを使うMCU開発は、通常開発に加え、

  • 想定攻撃、脅威は何か
  • セキュリティ違反の例外処理をどうするか
  • 例外処理デバッグはどう行うか
  • セキュア領域の重要ソフトウェア、周辺回路は何か
  • セキュア/ノンセキュア分離アプリの同時開発

など、多くの課題があります。また、セキュア/ノンセキュア分離前の通常アプリにバグが無いことも必要です。さらに、セキュリティ対策効果とリスク、開発コストに対し、費用対効果を顧客と相談する必要もあります。

TrustZone MCU開発は、高度なスキルが必要になると思います。

Summary:Arm TrustZone基本知識

組込み開発基本のキとして、MCUハードウェアをセキュア領域とノンセキュア領域に分離し、ノンセキュアソフトウェアのセキュア領域直接アクセスを禁止することで、実行中のセキュア領域ソフトウェア改ざん防御とセキュリティ確保を行うArm TrustZoneの基本を示しました。

TrustZoneセキュリティ違反検出時は、セキュリティ例外処理を実行します。この例外処理内容は、システム設計や実装により大きく異なります。このセキュリティレベル多様性理解には、TrustZone基本知識が重要です。

前稿解説セキュアブートは、MCU起動ソフトウェア信頼性の検証を行います。セキュアブートとTrustZoneの併用で、起動/実行中のソフトウェア改ざん防御とセキュリティ確保ができます。TrustZoneが、セキュアブートを包含する理由がこれです。

Arm TrsutZomeまとめ
Arm TrsutZomeまとめ

Afterword1:自転車ロードレース競技中のハッキング

ワイヤレス技術利用制御系の潜在的脆弱性攻撃例が、コチラにあります。350ドル程度のソフトウェア無線機HackRFやRaspberry Piなどでも攻撃可能だそうです。本稿のTrustZone実装例が対策に使われたのかもしれません。ハッキング検出時でも、簡単に動作停止できない(しない)事例です。

Afterword2:MCUセキュリティまとめ

セキュアブートとTrustZoneから、MCUセキュリティを俯瞰したのが下記です。

  • 攻撃対象ソフトをRoot of Trust(RoT)ハードで守るのがMCUセキュリティ
  • RoTハードでセキュリティ違反検出、例外処理ソフトで違反処理
  • セキュリティ実装はアプリや運用で大きく変わる。開発費用対効果の検討必須
  • Armv8-M以後の新しいMCUコアにRoT TrustZone内蔵

費用対効果には、セキュリティ全般知識も必要です。これは、セキュリティ実装開発とは別次元の難しい課題です。対策は、AI PCを使ったセキュリティコンサルタント育成などでしょうか?

ブログ右上検索窓へ「基本のキ」と入力し検索すると、様々なMCU開発者向け基本知識が得られます。ご活用ください。


MCUセキュアブート【組込み開発 基本のキ】

ランサムウェア攻撃による企業活動停止やWindowsブルースクリーン大規模障害など、重大セキュリティインシデントが急増中です。MCU開発者にとっても、他人事ではありません。

そこで、MCUセキュリティの基礎、MCUセキュアブートとArm TrustZoneを2回に分けて解説します。セキュアブート編が本稿です。

MCUセキュリティが判り難い原因は、ベンダ、MCU毎にセキュリティレベルや実装が大きく異なるからです。そこで、個別セキュリティの前に、基本知識としてMCUセキュアブート(本稿)とArm TrustZone(次稿)を解り易く示し、その後、実装例を示す2段構えの方法で解説します。

MCUセキュリティ背景

MCUソフトウェアは、悪意を持つ第3者による改ざんやウイルス感染などで書き換わる可能性があります。一方、改ざんの可能性が無く安全なのは、MCUハードウェアです。

従来のMCU開発は、サイバー攻撃などのソフトウェア書き換えは、想定外でした。

しかし、PCセキュリティトラブルやランサムウェア被害などが増え、MCUも攻撃対象となりました。特にIoT MCUは、ネットにつながるため防御が必須です。この防御全般がIoT MCUセキュリティ(以下MCUセキュリティ)です。

セキュリティリスクを下げるには、開発コストが上がる。MCU開発者は、費用対効果バランスも考える必要がある。
セキュリティリスクを下げるには、開発コストが上がる。MCU開発者は、費用対効果バランスも考える必要がある。

今後のMCU開発では、MCUセキュリティ対策が望まれます。しかし、ソフトウェアのみでは対処できないため、セキュリティレベルに応じた追加ハードウェアが必要です。また、セキュリティオーバーヘッドのため、通常のセキュリティ無しソフトウェアに比べ処理能力も低下します。

MCUセキュリティ開発は費用対効果、つまり、これら追加効果とセキュリティリスク、セキュリティ開発コストのバランスを、どう解決するかがポイントです。

実装セキュリティがベンダやMCU毎に異なるのは、このポイントにバラツキがあるためです。顧客が、起きるか起きないか判らないMCUセキュリティインシデントに対し、どの程度開発コストを負担するか不明なのと同じです。

MCUセキュアブート基本

セキュアブート解説の前に、通常のMCUブートを簡単に説明します。

通常のMCUブートは、リセット→動作クロック設定→RAMゼロクリア→RAM初期値設定などを経て、Flash格納ユーザアプリケーションを起動します。格納ソフトウェアに、ハッカー攻撃などの改ざんが無いことが大前提です。

関連投稿3章に通常ブート説明。

MCUセキュアブートと通常ブート
MCUセキュアブートと通常ブート

一方セキュアブートでは、最初にFlash格納ソフトウェアに改ざんが無いことを、暗号化技術を使って検証します。このため暗号化アクセラレータや暗号鍵の専用ストレージが必要になります。

検証失敗時は、動作停止、またはリカバリーモードへ移行し、検証成功時のみ通常ブートを行います。つまり、起動ソフトウェアの信頼検証をハードウェアのみで行うのが、MCUセキュアブートです。

通常ブートと比べると、事前に改ざんソフトウェアの実行が防げますが、検証時間が余分に掛かります。このセキュアブートハードウェアをRoot of Trustと呼び、専用ハードウェアとしてMCUに内蔵されます。例えば、Arm Cortex-M33コアMCUなどがこれに相当します。

Root of Trust(RoT)は、最も基本的なセキュリティ領域の保証概念。ここが信頼できることを前提にセキュリティが構築されるため、信頼根と呼ばれる。

高度車載セキュアブート実装例

前章でMCUセキュアブートの基本を解説しました。しかし、実際のセキュアブートは、もっと複雑です。

例えば、ルネサス車載MCU RH850セキュアブートが、コチラです。

高度なセキュリティレベルが求められる車載MCUのセキュアブート例で、豊富な図を使って解説しています。セキュリティ専門用語も多いため、用語や略称集も添付されています。

しかし、前章基本を理解していれば、高度車載MCUセキュアブートでも掲載図だけで概ね把握できると思います。

車載ソフトウェアイメージ検証(出典:ルネサスRH850セキュアブート)
車載ソフトウェアイメージ検証(出典:ルネサスRH850セキュアブート)

Summary:MCUセキュアブート基本知識

MCUセキュリティの実装は、セキュリティ対策効果とリスク、その開発コストにより大きく変わります。Root of Trustを持つCortex-M33コアの汎用MCUでさえ、アプリケーションや顧客要求に応じ実装セキュリティは変わります。

例えばセキュアブートは、MCU起動時処理のため常時運用など再起動が少ない場合は効果も期待薄です。

MCU開発者のセキュリティ実装を困難にする原因の1つが、この多様性です。

そこで、組込み開発基本のキを示す本稿は、MCUセキュリティ基本知識として、起動時ソフトウェア信頼検証をハードウェアのみで行うMCUセキュアブートと、そのセキュアブート実現基盤のRoot of Trustを解説しました。

基本知識があれば、様々なセキュリティ実装開発にも対応できるからです。

次回は、MCU運用中セキュリティを確保するArm TrustZoneを解説します。

Afterword:Windowsブルースクリーン記事

Windowsブルースクリーン記事や解説が、ITmediaにまとまっています。業務の合間などリフレッシュを兼ねて目を通してはいかがでしょうか?


embedded world 2024 MCU要約

embedded world 2024(出典:記事)
embedded world 2024(出典:記事)

欧州最大規模の組み込み技術展示会「embedded world 2024」で見た最新トレンド記事(全14ページ)が、2024年7月30日、EE Times Japanに掲載されました。MCU/MPU関連部分を抜粋要約し、表形式にまとめました。

Summary:embedded world 2024 MCU/MPU関連要約

embedded world 2024概要:ヨーロッパ最大組込み技術イベント展示会。2024年4月9日から11日までドイツ)ニュルンベルク開催。50カ国から1,100社出展、80カ国から32,000人来場。
ハイライト:エッジAI製品とソリューションの低消費電力化、小型化、高性能化に注目。

MCU/MPUベンダ 発表内容
Infineon
(旧Cypress)
AI搭載PSOC Edge E8シリーズ(Cortex-M55+M33+NPU)発表とデモ
音声、オーディオセンシング、MLベースウェイクアップ、ビジョンベースの位置検出、顔やオブジェクト認識など高度HMI機能に対応
Armセキュリティ基準「PSA Level 4」を満たすセキュアブートなどセキュリティ機能搭載MCU
STマイクロ エッジAI機能、モーター制御、モーター異常検出リファレンス設計「EVLSPIN32G4-ACT」展示とデモ
エッジAIにかかわるハード/ソフト全てをワンストップ提供がSTの強み
NXP ワイヤレスMCU Wシリーズ発表(±0.5m精度測距可能)
Cortex-M3ベース専用2.4GHz無線サブシステム搭載(Matter、Zigbee、Bluetooth、Threadプロトコルサポート)
ルネサス 低消費電力、コスト重視アプリ対応RA)RA0シリーズ(Cortex-M23)発表
動作電圧1.6〜5.5V、レベルシフター、レギュレーター不要
アクティブ84.3μA/MHz、スリープ0.82mA、スタンバイ0.2μA、スタンバイ復帰1.6μs(競合比7分の1)
ラズパイ ソニーIMX500搭載AIカメラモジュール2024年夏頃発売予定
ラズパイZero 2 Wと接続し、物体認識や身体セグメンテーションデモ

Afterword:次回8月23日金曜投稿

次回金曜投稿は、8月23日金曜にします。連日35℃を超える猛暑と多湿のため、仕事効率は最悪です。そこで、来週と来来週、夏休みを2週間頂きブログ更新は緊急性が無い限り23日まで休みます<(_ _)>。

しかし、弊社MCUテンプレート販売は、24時間365日無休です。特にHAL利用のRAベアメタルテンプレートは、RA0シリーズ開発にも使えると思います。オーダーお待ちしております。


RA用FSP v5.4.0リリース

2024年6月27日、ルネサスRA用FSP v5.4.0同梱e2 studio 2024-04がリリースされました。セミナ参加のため、久しぶりに最新FSPへ更新したところ、弊社RAベアメタルテンプレートのFSPバージョン出力にバグを発見しましたので修正対策を示します。

Summary:FSPバージョン出力コード修正箇所

修正前:コンパイルエラ発生(RttViewer.cのL41)

APP_PRINT(“\r\n–> Current FSP version is v%d.%d.%d.”, version.major, version.minor, version.patch);

修正後:version_id_bをmajor/minor/patch前に追加

APP_PRINT(“\r\n–> Current FSP version is v%d.%d.%d.”, version.version_id_b.major, version.version_id_b.minor, version.version_id_b.patch);

修正後のJ-Link RTT ViewerによるFSPバージョン出力結果です。

J-Link RTT Viewer V7.96qのFSPバージョン出力
J-Link RTT Viewer V7.96qのFSPバージョン出力

最新RA用開発ソフトウェアツール

無償版RAファミリソフトウェア開発ツールは以下3つで、現時点の最新版が下記です。

  1. e2 studio:統合開発環境、Version 2024-04
  2. FSP:Flexible Software Package、RA用API生成ツール、Version 5.4.0
  3. SEGGER J-Link RTT Viewer:printf出力ツール、Version 7.96q

開発には、FPB-RA6E1/RA4E1などのハードウェアツールも必要です。本稿は、上記3ソフトウェアツール更新に焦点を当てます。

2022年4月30日のRAベアメタルテンプレート開発・発売から2年経過し、3ソフトウェアツールがそれぞれ更新されました。ツール更新に伴い、本稿のようなトラブルが発生する場合があります。その対策を示します。

コンパイルエラ対策

最新ツールへ更新後、以前のエラーフリーソースをコンパイルすると、以下のエラが発生します。

コンパイルエラ発生個所
コンパイルエラ発生個所

メンバ名major/minor/patchが不明なのが原因です。

対策に、version定義のfsp_pack_version_tを調べます。fsp_pack_version_tへカーソルを移動し、F3をクリックすると、fsp_pack_version_t定義箇所fsp_version.hへ自動的に移動します。

FSP Pack version構造体
FSP Pack version構造体

※F3クリックは定義検索に便利。これはEclipse IDE共通機能。

fsp_pack_version_tは、過去有った構造体が無くなっています。そこで、ソースmajor/minor/patchの前に、version_id_bを加えるとコンパイルエラは無くなります(構造体と共用体投稿はコチラ)。

e2 studioとRA用FSP更新

統合開発環境e2 studioとRA用FSPは、別々の更新タイミングです。各更新タイミングで、それぞれを最新版へ更新するのも1方法です。

しかし、これら2つを同梱し、同時に最新版へ更新できるWindowsパッケージが、FSP v5.4.0 with e2 studio 2024-04です(Mac/LinuxパッケージはリリースGitHubにあり)。同梱パッケージは、更新2度手間が省けるだけでなく、個別更新トラブルも避けられます。

同梱パッケージは、個別インストール版よりも数か月遅れてリリースされますが、お勧めの更新方法です(同梱投稿はコチラのまとめ参照)。

SEGGER J-Link RTT Viewer更新

SEGGER J-Linkダウンロードサイト
SEGGER J-Linkダウンロードサイト

RTT Viewerは、既存版が自動的に最新版へ更新されます。しかし、SEGGER社リンクから直接最新版をダウンロードするのも1方法です。古いVersionをお使いの方は、この方法も良いでしょう(RTT Viewerのprintfデバッグ関連投稿はコチラ)。

Afterword:環境依存トラブル対策

今回のような更新トラブルは、組込み開発では良くあります。開発品を顧客へ納入後、数年経ってから機能追加/修正の案件がある場合などです。納入開発環境と、最新版環境の差による「環境依存トラブル」です。

本稿は、簡単なメンバ名追加で対策できました。しかし、例えばAPI内部差によるトラブル等は、容易ではありません。安全側対策に、納入時の旧環境をそのまま使い続ける方法があります。同一MCUで新機能は使わない場合などは、有効な方法です。

一方、新機能の追加/修正やMCU変更案件は、環境依存トラブルも加味したスケジュール対策が望ましいと思います。どの程度加味するかが難しい問題ですが…。

お詫び

弊社RAベアメタルテンプレートV1ご購入者様は、本稿修正をお願い致します。また、この場を借りて、お詫び申し上げます。ご迷惑をおかけし、申し訳ございません。


情報機器大転換期

情報機器(PC/スマホ/IoTデバイスなど)のハード/ソフト/使い方が、大転換期です。原因は、生成AI革命。インターネット商用解放期に匹敵する気がします。

2024年も半分終わった今、見えてきた情報機器大転換期の現状をまとめました。1章と2章が、ソフトバンクの生成AI革命の考え方、3章以降が、現状という段取りです。

ソフトバンクのAIとAGI、ASI

人類叡智の10000倍能力のArtificial Super Intelligence(出典:記事)
人類叡智の10000倍能力のArtificial Super Intelligence(出典:記事)

ソフトバンク会長兼社長の孫正義氏が、2024年6月21日の定時株主総会で、ソフトバンクは、ASI(Artificial Super Intelligence)を実現するとASCII記事が掲載しました。記事を極簡単にまとめたのが本章と次章です。

AGI(Artificial General Intelligence=汎用人工知能)とは、人間の持つ考え方、知識の「一部を機能化」した現在のAIの親玉に相当し、人間と同じか最大でも10倍程度上回る「汎用の人工知能」。先端AI研究者のテーマがこのAGIで、5年以内、場合によれば3年ぐらいでAGI時代となる。

様々な天才同士が刺激しあい進化した人類と同様、AGI同士が刺激しあい、人類進化を加速するのがASI時代。ASIは10年前後でやってくる。孫氏が決めた指標では、人間の「1万倍程度の英知」。人類20万年史上、初めて圧倒的な人口知能となり、全常識が変わるのがASI時代。

例えば、スマートロボットがASIにつながると、工場生産や道路掃除、買い物や洗濯も代行可能。自動運転も、AIが技能学習し、一度も行ったことが無い場所でもスイスイ自動運転でき、大量生産や加工、物流などはロボットに置き換わる。

ソフトバンク孫正義氏が生まれた理由・使命は、このASI実現

ASI実現手段

ソフトバンクグループ総力でASI推進(出典:記事)
ソフトバンクグループ総力でASI推進(出典:記事)

孫氏は、更にASI時代の基盤技術の1つが、現在様々な情報機器へ半導体IP提供中のArmとしました(Arm株式9割近くをソフトバンクが保有中)。

Armの強みは、設計力と低消費電力稼働で、ASIの広がりに貢献。出荷数量は上がることはあっても、下がることはない。ASI実現のため、ソフトバンクグループ総力でArm AIチップ、AIデータセンタ、AIロボットへ取組む。

Armの将来を孫氏は信じている。

制御系ハードウェア転換

Arm IPコアは、本ブログ掲載Cortex-Mシリーズをはじめ、多くのMCUベンダハードウェアにも採用中です。MCUのエッジAI化に伴い、従来シリーズよりも更に高性能なCortex-Mコア:Cortex-M85搭載MCUも発売開始となりました。

Cortex-M85特性比較(出典:ARM)
Cortex-M85特性比較(出典:ARM)

PCは、Microsoft Copilot+ PCが2024年6月18日にワールドローンチされました。40TOPS以上のNPUが注目され勝ちですが、NPUを制御するCPUにも転換が起こりつつあります。

現在、Copilot+ PC要件を満たすCPUは、QualcommのSnapdragon X Eliteだけです。このCPUも、Arm IPコアを採用中(4章)です。他社に先駆けるArm設計力が表れています。

AI処理でPCよりも先行するAIスマホは、そのCPUの多くがArmライセンスのチップです。6月20日発表のAppleパーソナルAI Intelligenceハードウェア要件は、A17 ProチップとMシリーズです。iPhone 15/15 Plus非対応のため、90%以上のiPhoneユーザは、Apple Intelligenceを使えないそうです。

これら制御系ハードウェアの転換理由は、「AI処理を実用可能なレベルで高速実行するには、ハードウェアが肝心」だからです。

つまり、生成AI革命が、従来制御系の全ハードウェアを転換させつつあるのが、今です。

ソフトウェア転換

NPUなどのAI処理ハードウェアを活かすのは、ソフトウェアです。例えば、Copilot+ PCには、Recall、Cocreator、Live Captions、Windows Studio EffectなどのAI機能が標準で備わっています。

但し更に重要な点は、これら標準AI機能の基となるWindows Copilot Runtimeを活用し、新なAIソフトウェアが開発できること、しかもArmネイティブであることです。

※Armネイティブとは、汎用RuntimeがArm専用ライブラリのように無駄無く高速動作すること。

MacOSは、Arm化が進んでいます。Windowsソフトウェア開発も、下図が示す従来x86からArmネイティブソフトウェア転換を迎えているようです(詳細はコチラの記事参照)。

ArmはレガシーのPC(x86など)を大きく上回っているとアピール(出典:記事)
ArmはレガシーのPC(x86など)を大きく上回っているとアピール(出典:記事)

情報機器使い方転換

インターネット商用解放は、IT革命をもたらしました。ユーザは、PCやスマホなどの機器を使って、ネット上を検索し、情報を得るようになりました。ネットに溢れる情報の検索装置が、IT機器でした。

生成AI革命は、PCやスマホの使い方を、単なる検索装置からアシスタント代行へと転換させつつあります。つまり、より高度な情報解析や解析に基づいた提案ができる個人アシスタントとしての使い方です。

従来の情報機器を、人間的で簡単に使えるAIアシスタント化しつつあるのが、今です。

Summary:情報機器大転換期

クラウド・エッジ全基盤を提供するArm IP(出典:記事)
クラウド・エッジ全基盤を提供するArm IP(出典:記事)

生成AI革命でPC/スマホ/IoTデバイスなどの情報機器ハードウェア/ソフトウェア/使い方が、大きく転換しつつある2024年半分終了の今をまとめました。

制御系IP提供のArm株式9割保有中ソフトバンクの生成AI革命に対する考え方と、AI実用はハードウェアが肝心、ソフトウェアのArmネイティブ化、情報機器AIアシスタント化などの転換現状を示しました。

AI進化スピードは驚異的です。人間開発者も進化が必要です。現状マクロ把握のため本稿を作成しました。

Afterword:オープンソースハードウェアコア、RISC-V

Cortex-M代替として急浮上のRISC-V
Cortex-M代替として急浮上のRISC-V

ライセンス料が必要なArm IPコアの対極にあるのが、オープンソースハードウェアコアです。例えば、RISC-V。採用例は、ルネサスのRISC-V MCU/MPUや、EsperantoのAIチップに見られます。

RISC-V採用理由は、少数命令による低消費電力動作です。Arm同様、低電力動作ハードウェアの重要性が解ります。RISC-VかArmかのコア選択は、製品売上見込みとその投資額で決まると思います。

※MCU製品は、IPハードウェア以外にコンパイラ、デバッガなどソフトウェア開発ツールも必要。Armコアならツール入手も容易だが、オープンソースハードウェアコアはこれらもベンダ準備必要(関連投稿はコチラ)。

日本政府マイナンバーカード施策に、上記のような費用対効果検討が全く無いのは、原資が税金のため?😢


MCUソフトウェア技術職年収上昇幅1位

職種別決定年収上昇幅まとめ(出典:パーソナルキャリア)
職種別決定年収上昇幅まとめ(出典:パーソナルキャリア)

組込みソフトウェア技術職が、2023年度の転職者職種別年収増加幅で1位という嬉しい結果が発表されました(2024年6月12日、パーソナル キャリア運営転職サービス、デューダ)。

転職エージェントサービス利用者の採用決定年収の集計結果に基づいています。6月18日の@IT関連記事、ニーズ高まる5つの理由と共に内容をまとめ、MCUソフトウェア/ハードウェア開発者へのアドバイスを示します。

職種別決定年収ランキング

職種別決定年収上昇差分ランキング(出典:パーソナルキャリア)
職種別決定年収上昇差分ランキング(出典:パーソナルキャリア)

組込みソフトウェア技術職は、地味で目立たない職種です。華やかなクリエイター・クリエイティブ職や、目立つ金融系専門職より年収増加幅が大きいことは、その認識が変化しつつある現状を示しています。

※技術職:数学や理科、工学、情報工学といった理系の専門的な知識を活かし製品の製造開発や維持管理にかかわる業務。
※専門職:長期の教育訓練を通じて習得される高度の専門的知識・経験を必要とする職位、ないしはそのような職位を担当する人。

MCUソフトウェア技術職年収上昇幅1位要因

前章比較14職種の中でMCUソフトウェア技術職の年収増加分(差分)が1位となった要因は、「IoTやAI普及」により、幅広い業界でのニーズが高まり、人材不足だからとパーソナルキャリアは分析しています。

ニーズが高まる5つの理由も示しています。

  1. IoT拡大:IoT機器はMCUシステム開発が不可欠
  2. 自動車産業進化:MCU開発者専門知識が求められる
  3. スマートファクトリーと産業自動化:産業用ロボットや自動化はMCU開発者ニーズを高める
  4. 医療技術進化:高度化医療機器にMCUシステムが使われる
  5. エネルギー効率と環境配慮:エネルギー効率と環境配慮ソリューションにMCUシステム活用

MCU開発者は、幅広い分野のニーズがあり、安全性やリアルタイム性など開発制約が多いため人材不足が目立つことが1位要因です。

※MCUシステム開発は、ソフトウェアだけでなくハードウェアも必須です。MCUハードウェア技術者は、ハード/ソフトの垣根を越えハードテストプログラム開発などに積極的に参加しスキルを磨けば、ハードウェア直近の組込みソフトウェア技術職だとも言えます。

本ブログでは、ハード/ソフトを区別せずMCU開発者と表記します。

Summary:MCU開発能力は自ら切り開く

MCU開発能力を自ら切り開きキャリアアップ
MCU開発能力を自ら切り開きキャリアアップ

組込みソフトウェア技術職が、2023年度転職者職種別年収増加幅1位の結果は、MCU開発者の売り手市場ニーズを示しています。MCU開発者は、市場ニーズを把握し、多くの開発制約を解決できる幅広い能力を自ら磨く必要があります。

開発制約とは、例えば、コスト、期間、開発に必要な知識の広さ・深さなどです。さらに規模にもよりますが、MCU開発は多くの場合、一人で担当します。限られた時間内で、効率良く最大成果を上げるスキルや、業務内外の知識も、高まるニーズを満たすには必要でしょう。

転職を勧めている訳ではありません。市場ニーズを把握し、それを満たすよう研鑽することが、MCU開発者自身の価値、キャリアを高めると言いたい訳です。

Afterword:ベアメタルor RTOS or弊社テンプレート

MCUソフトウェア処理は、ベアメタルが良いのか、RTOSが良いのかは、RTOSオーバーヘッドやデバイスコスト、開発ソフトウェア移植・流用性などの考慮も必要です。2024年2月20日、“You Don’t Need an RTOS (Part1)”は、RTOS課題やスーパースケジューラ対策を説明しています。

歯ごたえある英文です。同ページをEdge閲覧中に、右上Copilotをクリックすると、日本語(ご利用中の言語で)ページ概要が無料生成できます。話題のAI活用で、効率良く内容理解ができます。

Copilot活用ページ概要生成
Copilot活用ページ概要生成

弊社販売中ベアメタルテンプレートもスーパースケジューラの一種ですので、嬉しい記事です。記事との差分は、弊社テンプレートが、初心者向きポーリングベースなことです。

中級向きになりますが、Part2Part3内容を弊社テンプレートへ加えるのも、面白いと考えております。結果は、本ブログで示す予定です。


MCU開発者のCopilot+ PC

2024年5月28日、日本Microsoft津坂社長のCopilot活用記事が、PC Watchに掲載されました。メール要約や資料分析、優先タスク振分けなどCopilotを使った活用例は、ビジネスパーソンだけでなく、MCU開発者にとっても参考部分が多々あります。

筆者が特に印象に残ったのは「エンジニアでない津坂社長でも、使い続け、議論を繰り返すことでCopilotを使いこなせる(AI筋トレ)」の部分です。

背景技術の広さ深さは見せず、使い易さを追求したツールは、Copilotだけでなく最近のツール全般に当てはまります。そのCopilotを更に進化させるGPT-4oのAI研究者視点と、MCU開発ツール変化について示します。

謎が多いGPT-4oモデル

2024年5月28日、ビジネス+IT にAI研究者、今井 翔太氏が、研究者視点のGPT-4o評価と謎、GPT-5への伏線を執筆しました。筆者が、ごく簡単にまとめたのが下記です。

“数年前ならAGI(Artificial General Intelligence、汎用人工知能)レベルに達したと想定できるGPT-4oは、AI研究者からみると、謎が多いモデルで従来スケーリング則からは不自然。しかし、殆どの人が考えるAGIに相当近づいた。GPT-4延長GPT-4oの次期超高性能モデルGPT-5準備中”

AIを利用する殆どの人、つまり、筆者などMCU開発者は、GPT-4o≒AGIと考えて良いと思います。前章、津坂社長のようにAGI化したCopilotをこき使って(!) 生産性や判断スピートを上げ、その中身や仕組みは知らなくても問題ないからです。

現在Copilotは、GPT-3.5/4でGPT-4oではありません。しかし、CopilotのようなAIツールは、使っているうちにGPT-4o/5などのテクノロジ進化と共にユーザ学習度も深くなり、最後にはユーザ専用アシスタントとなる可能性があります。

このツール自体の進化が、従来に無いAIツールならではの特徴です。

MCU開発ツール変化

MCUのIDE開発ツールは、Eclipse IDEベースが業界標準です。各MCUベンダ固有のAPIコード生成ツールやフラッシュプログラマをEclipse IDEへ機能追加し、MCU開発者へ無償提供されます。

最近、Eclipse IDEベースに代わってMicrosoft製Visual Studio Code(VSC)を使う変化が見られます。

MCUXpresso for Visual Studio Code構成(出典:NXPサイト)
MCUXpresso for Visual Studio Code構成(出典:NXPサイト)

例えば、NXPは、EclipseベースのMCUXpresso IDEの代わりに、VSCベースのMCUXpresso for Visual Studio Codeが使えます。もちろん、無償です。従来EclipseからVSCへ変えるメリットは、筆者には判りません。あえて推測すると、同じMicrosoft製Copilotとの親和性です。

つまり、数年後のAI活用MCU開発時に、EclipseベースよりもVSCの方がCopilotとの協調動作性が良いので、ユーザ能力に合わせた開発ができるかも(?) という訳です。

Summary:MCU開発者のCopilot+ PC

Microsoft発表のCopilot+ PCは、ユーザ検索履歴や能力レベルを、40TOPS以上のエッジAI NPUが学習し、ユーザに即した回答をCopilotが提供します。これは、広く深い知識が求められるMCU開発者にとっても、開発スピートアップやMCU習得の強力な助けになります。

MCU開発者がCopilotを上手く使うには、津坂社長のように使い続け、入出力議論を繰り返すことでエッジAI NPUがユーザを学習し、同時に開発者もCopilotに慣れる「AI筋トレ期間」が必要です。

CopilotなどのAIツール活用は、MCU開発者とエッジAI NPU双方の学習期間が必要
CopilotなどのAIツール活用は、MCU開発者とエッジAI NPU双方の学習期間が必要

Visual Studio Code やCopilotに慣れ、エッジAI NPUを使いこなせるよう準備が必要かもしれません。Microsoft製ツール全盛となるのは、いささか気になりますが…。AIアシスタントCopilot影響大ですね。

Afterword:VSC頻繁更新Dislike

筆者は、VSCをWeb制作に使用中です。これは、過去使っていたツールが更新停止となったからです。拡張機能の多さやユーザカスタマイズが容易なVSCですが、その頻繁な更新はあまり好きになれません。

Eclipse IDEでも、エディタは標準以外の別エディタ、例えば、Notepad++変更も可能です。その他カスタマイズ機能も、現時点ではEclipseとVSCに大差無いと思います。

AI全盛時は、もしかしたらIDEで差が出るかも(?) と思ったのが本稿作成理由です。筆者は、未だ自作PC派です。生成AI加速モジュールをPCへ追加しエッジAI性能を上げるか検討中です。