ARM Cortex-M4プロトタイプテンプレート構想

弊社は、ARM Cortex-M4コア使用のLPC5410x(NXP)、STM32G4(STM)、PSoC 6(Cypress)、MSP432(TI)各社のMCUテンプレート開発を目指しています。本稿は、各社共通のCortex-M4プロトタイプテンプレート開発指針を示します。

MCUプロトタイプ開発ステップ

MCUプロトタイプ開発と製品化へのステップ、支援ツール
MCUプロトタイプ開発と製品化へのステップ、支援ツール

プロトタイプからMCU製品開発へのステップが上図です。

  1. IDEと評価ボードを準備、利用MCUの開発環境構築
  2. サンプルプロジェクトを利用し、MCUや内蔵周辺回路の特徴・使い方を具体的に理解
  3. 製品処理に近いサンプルプロジェクトなどを活用し、評価ボード上でプロトタイプ開発
  4. プロトタイプへ保守点検などの製品化処理を追加、製品時ベアメタルかRTOS利用かを評価
  5. ステップ04評価結果でA:ベアメタル製品開発、または、B:RTOS製品開発へ発展

更に製品化へは様々なステップも必要ですが、プロトタイプ開発に絞るとこのステップになります。

Cortex-M4プロトタイプテンプレート

弊社Cortex-M4プロトタイプテンプレートは、ステップを効率的に上るための開発支援ツールです。

販売中の弊社テンプレートと同様、複数サンプルプロジェクトや開発した処理を、RTOSを使わずに時分割で起動するマルチタスク機能を備えています。
※時分割起動マルチタスク機能:ステップ03と04の課題は、複数サンプルプロジェクトや製品化に必要となる様々な処理を、どうやって1つに組込むか(?)ということです。RTOSを利用すれば解決します。しかし、RTOS利用のためだけに別途知識や理解が必要で、RTOS活用までの階段差が非常に高いという欠点があります。弊社テンプレートは、時分割で複数処理を起動し、初心者でも仕組みが理解できる低い階段差でマルチタスク機能を実現します。詳細は、コチラなどをご覧ください。

販売中の従来テンプレートとCortex-M4プロトタイプテンプレートの違いが、以下です。

  1. ステップ05以降の製品開発へも、ステップ01で構築したプロトタイプ環境をそのまま使える
  2. 下位Cortex-M0/M0+/M3ソフトウェアに対して、Cortex-M4プロトタイプ開発資産が流用できる

Cortex-M4の高性能を、プロトタイプ開発マージン(後述)に使うとこれらの違いが生じます。

Cortex-M4コアMCUの特徴

ARM Cortex-M4は、Cortex-M0/M0+/M3とバイナリ互換です。

簡単に言うと、Cortex-Mコア開発元ARM社が推進するCMSISに則って開発したCortex-M4ソースコードやライブラリは、再コンパイルすればCortex-M0/M0+/M3へ流用・活用ができます。
※CMSIS:Cortex Microcontroller Software Interface Standard関連投稿は、コチラの2章などを参照してください。

Cortex-Mxのバイナリ互換性(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-Mxのバイナリ互換性(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)

図から、Cortex-M4バイナリの全ては、下位Cortex-M0/M0+/M3に含まれてはいません。従って、効率的な処理やセキュリティ対策必須の高速演算を行うには、Cortex-M4が最適なのは言うまでもありません。

Cortex-M4を使ったMCUは、Cortex-M0/M0+/M3 MCUに比べ動作クロックが高速で内蔵Flash/RAM容量も大きいため、ベアメタル利用だけでなく、RTOS利用も可能です。

Cortex-M4がプロトタイプ開発に最適な理由:大マージン

Cortex-M4のMCUでプロトタイプ開発すれば、製品化時に必要となる処理や保守点検処理などの実装も「余裕」を持ってできます。
※製品出荷テストプログラム、自動販売機待機中のLEDデモンストレーション点灯などが製品化処理具体例です。

筆者は、このような製品化処理を、おおよそプロトタイプ処理と同程度と見積もります。つまり、製品のFlash/RAM量は、プロトタイプ時の2倍必要になります。

仮に「余裕」がありすぎオーバースペックの場合には、開発したCortex-M4プロトタイプ処理(=開発ソフトウェア資産)を、そのまま下位Cortex-M0/M0+/M3コアMCUへ流用が可能です。

一方、処理が複雑で多い場合には、RTOSで解決できるか否かの評価もCortex-M4プロトタイプなら可能です。更にIoT製品では、セキュリティ関連の(先が見えない)処理や計算量増加にも対応しなければなりません。

安全側評価なら敢えて下位Cortex-Mコアを選ばずに、Cortex-M4をそのまま製品にも使えば、処理増加にも耐えらます。

つまり、プロトタイプ開発には、初めから容量や性能の足かせが無く、製品化移行時の開発リスクも少ない高速高性能・大容量のCortex-M4 MCUが最適なのです。

製品時の処理能力やFlash/RAM量を、Cortex-M4プロトタイプで見積もった後に、製品化にステップアップすれば、適正な製品制御Cortex-Mコアを選択できます。開発ソフトウェア資産の流用性、過負荷耐力、RTOS製品開発評価ができる高性能を兼ね備えたのが、Cortex-M4を使ったプロトタイプ開発です。

問題は、価格です。

各社のCortex-M4評価ボード価格は、Cortex-M0/M0+/M3評価ボードと大差ありません。STM32MCUの評価ボード:Nucleo32シリーズは、Cortex-Mコアが異なっても同額です。プロトタイプ開発マージンを考慮すると、たとえ評価ボードに多少の価格差があったとしても十分納得がいきます。

Cortex-M4デバイス単体価格は、Cortex-M0/M0+/M3よりは高価です。しかし、製品原価全体に占めるCortex-M4デバイス価格比は低いでしょう。IoT製品では、今後増大するセキュリティ対策や計算量増加などを考慮すると、Cortex-M4デバイスを使うメリットは大きいと思います。

Cortex-M4プロトタイプテンプレート開発指針(NXP、STM、Cypress、TI共通)

Cortex-M4の特徴を活かし、下位Cortex-M0/M0+/M3間での開発ソフトウェア資産流用を考慮したCortex-M4プロトタイプテンプレート開発指針です。

  1. Cortex-M0/M0+/M3/M4各コアに用いるテンプレート本体の共通化
  2. プロトタイプ開発ソフトウェア資産流用性を高めるCMSISソフトウェアでの開発
  3. 製品化時ベアメタルかRTOS利用かを評価のため、Cortex-M4最高速動作のプロトタイプ開発

現在CMSISへの対応は、各社足並みが揃っているとは言えません。もしも完全にCMSISへ対応した場合は、異なるベンダ間でも開発アプリケーション互換が実現するからです。ARMコア市場が「攻めに強く、守りに弱い」ゆえんです。そういう状況でも、各社ともCMSISへのソフトウェア対応を進行中です。
※Cortex-M33コアには、CMSISに反して、ベンダ独自のカスタム命令追加の動きも見られます。

本稿で示したCortex-M4プロトタイプテンプレートと異なり、弊社販売中のCortex-M0/M0+/M3テンプレートは、テンプレート利用コアで最適解を与えます。そのため、RTOS利用時や、製品化処理、セキュリティ対策などの処理が増えた時には、元々のコア処理性能や内蔵Flash/RAMに余裕が少ないため、適用デバイスでの製品化に対して、開発を続けにくい状況が発生することもありえます。

この点、Cortex-M4プロトタイプテンプレートなら、プロトタイプで構築した同じ開発環境で、RTOSも含めた製品開発へも余裕を持って対応できます。同時に、プロトタイプ開発資産の流用や活用により、Cortex-M0/M0+/M3ソフトウェア生産性も高めることができます(一石二鳥)。

ATM Cortex-M4テンプレートと開発資産流用性
ATM Cortex-M4テンプレートと開発資産流用性

弊社Cortex-M4プロトタイプテンプレートの発売時期、RTOSへの具体的対応方法などは、未定です。本ブログで各社毎の開発状況をお知らせする予定です。

あとがき:初心者や個人利用は、Cortex-M4テンプレートが最適

ソフトウェア開発初心者にCortex-M4プロトタイプテンプレート利用は、難しい(=階段を上るのが困難)と考える方がいるかもしれません。筆者は、全く逆、むしろ初心者、個人利用に最適だと思います。

理由は、Cortex-M0/M0+/M3/M4と上位になるほどコア設計が新しく、処理性能も上がるからです。初心者が、あまり上手くないコード記述をしても、コア性能が高いため問題なく処理できてしまいます。詳細は、ARM Communityの“An overview of the ARM Cortex-M processor family and comparison”などが参考になります。

ごく簡単に言うと、自動車エンジンが、Cortex-Mコアに相当すると考えてください。

小排気量なCortex-M0より、大排気量のCortex-M4の方が、楽に運転でき、しかも、運転に最低限必要なハンドルやアクセル、ブレーキ操作は全く同じです。車(=評価ボード)の価格が同じなら、殆どの方が、余裕のある大排気量のCortex-M4を選択するでしょう。

しかも、Cortex-M4評価ボード操作の技(=開発ソフトウェア資産)は、Cortex-M0/M0+/M3へも流用できます。経済的に厳しい個人利用のプロトタイプ開発環境としては、流用範囲の広いCortex-M4 MCUテンプレートが最適と言えます。

弊社Cortex-M4プロトタイプテンプレートは、つまずき易い階段を、楽に効率的に上るための開発支援ツールです。ご期待ください。

NXP MCUXpresso SDKから見るARMコアMCU開発動向

NXP最新IDE:MCUXpresso v11が、SDK:Software Development Kitを使ってMCUソフトウェア開発をすることは、前回投稿で示しました。MCUXpresso SDKがサポートする評価ボード一覧が、SDKユーザガイド最新版:Rev.10、06/2019付録Bにあり、旧Freescale評価ボード:FRDMが多いですが、NXPの新しい評価ボードも追加されつつあります。

オランダ)NXPが、米)Freescaleを買収完了したのは2015年12月です。

本稿は、旧FreescaleとNXP MCU両対応のMCUXpresso SDKから、ARMコアMCU開発動向を調査し対策を示しました。

MCUXpresso SDK

MCUXpresso SDK Laysers(出典:Getting Started with MCUXpresso SDK, Rev. 10_06_2019)
MCUXpresso SDK Laysers(出典:Getting Started with MCUXpresso SDK, Rev. 10_06_2019)

ユーザガイド記載のMCUXpresso SDK層構成です。ユーザが開発するのはApplication Code。このApplication Code以外は、評価ボード:MCU Hardwareと、SDKで提供されます。色付き部分:Middleware、Board Support、FreeRTOS、Peripheral Drivers、CMSIS-CORE…がSDKの中身です。

もちろんMCU性能に応じて、初めからFreeRTOSやMiddlewareが無いSDKもあります。例えば、前回のLPC845 Breakout board SDKリリースノートを見ると、Board Support(前回投稿BSPのこと)とPeripheral Drivers(Author: Freescale)、CMSIS-CORE(Author: ARM)だけが提供中です。

CMSIS:セムシイス

CMSIS:Cortex Microcontroller Software Interface Standardは、リリースノートでAuthor: ARMが示すようにMCUコア開発元ARM作成の規格で、MCUハードウェアを上位層から隠蔽します(関連投稿:mbed OS 5.4.0のLチカ動作、LPCXpresso824-MAXで確認の3章)。

Peripheral DriversやBoard Supportは、 このCMSIS層のおかげでMCUハードウェアに依存しないAPIを、ユーザ開発Application Codeへ提供できる訳です。例えば、下記旧Freescale評価ボード:FRDM-KL25Z用SDKのboard.h記述:赤LED初期設定とトグルマクロ関数は、前回投稿で示したLPC845 Breakout boardと同じです。

FRDM-KL25Z用SDK_SDK_2.2_FRDM-KL25Zのboard.h
FRDM-KL25Z用SDK_SDK_2.2_FRDM-KL25Zのboard.h

従って、LPC845 Breakout boardで開発したアプリケーションコードを、そのままFRDM-KL25Zへも流用できます。

つまり、「SDK利用によりARMコアアプリケーションコードが汎用化」したのです。

同一アプリケーションコードでFreescaleとNXP評価ボード動作の意味

旧FreescaleとNXPのMCU評価ボードが同じアプリケーションコードで動作するのは、どちらもARMコアMCUでCMSIS層付きSDKなので、開発ユーザから見れば当然です。

しかし、従来は同じARMコアであってもApplication CodeはMCUベンダ毎に異なり、ベンダが異なれば常に1から開発していました。NXPでさえ、SDKを使った今回の同一コード動作に、Freescaleを買収後、約3.5年かかっています。
※Freescale 旧IDE:Kinetis Design Studioや、NXP 旧IDE:MCUXpresso IDE v11以前に慣れた開発者は、CMSIS付きSDKの新IDE:MCUXpresso IDE v11に違和感があるかもしれません。というのは、新IDEは、どちらの旧IDEとも異なるからです。

もちろんCMSIS利用はメリットだけでなく、デメリットもあるハズです。例えば、他社と差別化するベンダ独自Peripheral性能を極限まで引出すには、直接Hardwareを制御した方がより効率的です。STマイクロエレクトロニクスのSTM32G0x MCUのLL:Low Layer APIなどにその動向が見られます(関連投稿:STM32G0x専用Edge MCUテンプレート開発)。

しかし、CMSIS利用SDKを使ったアプリケーションコード開発は、ARMコア間のアプリケーションコードやベンダ間をも跨ぐ移植性、開発速度の速さ、ソースコード可読性などの点からユーザメリット大と言えます。
※ベンダを跨ぐ移植性とは、FreescaleとNXPのMCUで同一アプリケーションが動作することを意味します。FreescaleはNXPに買収されたので、実はベンダを跨いでいませんが、CMSIS層があればアプリケーションコード移植可能な実例と思ってください。

ARM MCUコアソフトウェアの開発動向と対策

現在MCUコアは、多数派のARMコアベンダと、少数派のNon ARMコアベンダの2グループに分かれています。

多数派ARMコアベンダは、NXPのMCUXpresso SDKに見られるようにCMSIS層利用アプリケーションコード開発、既存アプリケーション資産流用、差別化Peripheral開発に力点を置くと思います。目的は、より早く、より簡単な環境提供によるソフトウェア開発効率/速度の向上です。

我々ユーザは、この環境変化に応じたアプリケーションコード汎用化手法と、もう一方の差別化機能の性能発揮手法を臨機応変、かつ、それらを混同せず、時には組み合わせて開発する必要があると思います。

P.S.:弊社テンプレートで言えば、アプリケーションコード汎用化手法が、STM32Fxテンプレート他の汎用テンプレート、一方の差別化機能の性能発揮手法が、STM32G0x専用テンプレートです。

mbed OS 5.4.0のLチカ動作、LPCXpresso824-MAXで確認

四半期毎更新のIoTマイコン向けRTOS、ARM mbed OS 5の最新版5.4.0がリリースされました。このmbed OS 5を使って、ARM mbed開発環境でBlinky:Lチカサンプルプログラムを、LPCXpresso824-MAX評価ボードで動作確認しました。

ARM mbed開発環境

ARM mbed開発環境は、オンラインでコンパイル環境が提供されます。ブラウザさえあれば、統合開発環境:IDEをPCへインストールすること無しにソフト開発が可能です。コンパイル出力を、USB経由で評価ボードへダウンロードすれば、動作確認も簡単です。

ARM mbed開発環境
ARM mbed開発環境

mbed OS 5が動作するCortex-M0+評価ボードは、現在6種あります(全74種対応中)。

mbed OS 5.4.0のBlinkyサンプルとFreeRTOS v8の比較

この6種評価ボードに、FreeRTOSで使用中のLPCXpresso824-MAXもありますので、mbed OS 5でLチカサンプルプログラムを作成し、FreeRTOSのそれとソース比較しました。

RTOS Blinky Comparioson
RTOS Blinky Comparioson

mbed OS 5は、Cをオブジェクト指向へ拡張したC++言語で記述します。

ハード初期設定などは、評価ボード選定時に(別の個所で)済ませるので、記述ソースはFreeRTOSに比べて少なくなります。FreeRTOSのSuspendedは、mbed OS 5では、waitingに相当します。また、mbed OS 5 APIの方が、全般的に短く記述できます。

mbed開発環境は、直ぐに試せて取っ付き易い反面、ボード差や詳細なRTOS処理内容が隠される(見えない)気がしますが、本来のアプリ早期開発には、こちらの方が細かいことは気にせずに良いのでしょう。また、ボード間の移植性も高まります(次章CMSISを参照)。

両RTOSのLチカリソース使用量比較は、止めておきます。FreeRTOSの方はDebug出力で、一方、mbed OSの方は(多分)Release出力で条件が違うと思うからです。ARM mbed環境のデバッグ方法は、いろいろありそうなので、今後調査する予定です。

CMSIS

CMSIS Structure
CMSIS Structure

CMSIS:Cortex Microcontroller Software Interface Standardは、Cortex IPコア開発元のARM規定のソフトウエア規格で、図が全体像(v4版)です(セムシイスと読むようです)。最上位アプリケーションと最下位Microcontrollerの間に、7種のCMSIS-xyzを規定します(CMSIS-RTOSなどCMSIS Software Packの緑色領域)。

CMSISの目的は、アプリ側(青緑領域)から見えるハードウエアCortexコア(灰色領域)の隠蔽です。ARM Cortexコアを使うMCU各社が、このCMSIS準拠でソフト開発すれば、各社間のアプリ移植問題は解決します。つまり、CMSIS準拠アプリならば、例えARMコア以外であっても、全てのMCUで同じアプリが動作するということです。

ARMは、Cortex IPコア販売でMCUハードウエアのデファクトスタンダードになりました。CMSISは、よりCortexコアを普及させ、さらにMCUソフトウエアのスタンダードを狙うARM戦略の1つでしょう。

本家本元のARMが開発するmbed OS 5は、CMSIS-RTOS準拠のAPIを持ちます。その結果が、Lチカソースにも表れていて、ボード移植性が高いのです。

弊社マイコンテンプレートも、図のCode Templateと同等!になれば、良いのですが…。