Cortex-M0からCortex-M0+変化

前稿で示したNXP MCUラインナップ図には、ARM Cortex-M0/M0+両方のコアが掲載中でした。しかし、最新版MCUXpresso IDEのコア選択ダイアログには、Cortex-M0選択肢がありません。

MCUXpresso IDEのコア選択ダイアログ
MCUXpresso IDEのコア選択ダイアログ

そこで、Cortex-M0+とCortex-M0の違いを調べた結果、新規MCU開発にNXPのCortex-M0コアを使う必然性は低いという結論に達しました。本稿は、その根拠を示します。

ARM Cortex-M0+とCortex-M0の差

弊社関連投稿:Cortex-M0/M0+/M3比較とコア選択や、ARMコア利用メリットの評価ARM MCU変化の背景をまとめ、ARMコアの発表年順に示したのが下表です。※M4の発表年は間違っているかもしれませんが、市場に出回ったCortex-Mxコアの順番は下表で正しいハズです😌。

ARM Cortex-Mx性能、発表年
Cortex-Mコア 性能 (MIPS @ MHz) ARM発表年 MCUモデル
Cortex-M3 1.25 2004 旧メインストリーム
Cortex-M0 0.9 2009 ローコスト
Cortex-M0+ 0.95 2011 ローパワー
Cortex-M4 1.25 2012頃 デジタル信号処理新メインストリーム

要するに、Cortex-M0+やCortex-M4は、Cortex-M0やCortex-M3をベースに市場ニーズに即した変更を加えた新しいARMコアだと言うことです。本稿では、特にCortex-M0+とM0の違いに注目します。

Cortex-M0+には、表の差以外にも高速IOアクセス、高速パイプライン、低消費動作モードなどCortex-M0には無い数々の特徴がありますが、Cortex-M0よりも高性能(0.9→0.95MIPS@MHz)で、シリコンチップ高速化にも好都合です。

つまり、新規開発にCortex-M0+の代わりに敢えてCortex-M0コアを用いる理由は、見当たらない訳です。

NXPの新しい統合開発環境MCUXpresso IDEのSDKのコア選択肢に、Cortex-M0が無いのは、上記が理由だと思います。※ローコストに関しては、コア単体の相対評価はできても、使用数量でかなり変動するためMCUコスト絶対評価を難しくしています。

NXP MCUXpresso SDK対応評価ボード数

最新MCUXpresso IDE v11.1.1のSDKで対応中の評価ボード数を一覧にしました。例えば、Cortex-M33コアなら下図のように7個です。

MCUXpresso SDK対応評価ボード数(Cortex-M33の場合)
MCUXpresso SDK対応評価ボード数(Cortex-M33の場合)
MCUXpresso SDK対応評価ボード数比較(2020-07)
MCUXpresso SDK対応評価ボード数比較(2020-07)

評価ボードは、プロトタイプ開発には必須で、その評価ボードで動作するSDK(Software Development Kit)があればソフトウェア開発効率は向上します。Cortex-Mxコア間のソフトウェア移植性は高く、同じコアのソフトウェアであれば、異なる評価ボードへの移植もさらに容易です。

つまり、評価ボード数が多いCortex-M0+やCortex-M4が、現在最もCortex-Mxコアソフトウェア開発効率が高いことを示しています。また、Cortex-M3コア選択肢がない理由も、Cortex-M0コアがない理由と同じと推測します。

本当の並列処理が要求されるマルチコア開発なら、Cortex-M0+とM4のペア、または、IoTセキュリティを強化したCortex-M33コアx2であることも判ります。※Cortex-M33は、2016年ARM発表のセキュリティ強化コアです。

新規ARM Cortex-Mxソフトウェア開発は、Cortex-M0+コアまたはCortex-M4コア利用に収束してきたと思います。
※Cortex-M33コアは、従来コアに無いIoT向けセキュアゾーンなどが新規機能追加されていますので除外しています。

弊社テンプレート開発方針

前稿のNXP MCUラインナップからCortex-M0とCortex-M3を除き、現状SDK提供中のARM Cortex-Mxコアラインナップをまとめると下図になります。※Cortex-M33は未掲載です。

Software Development Kit開発から見たNXP MCUラインナップ
Software Development Kit開発から見たNXP MCUラインナップ

弊社もCortex-M0+、Cortex-M4、Cortex-M33コア向けのテンプレート開発を進める方針です。


NXP MCUラインナップ

NXPは、今から約4年前の2015年12月末にFreeSacleを買収し、FreeSacleのKinetisマイコン(750品種)とNXPのLPCマイコン(350品種)は、NXP 1社から供給されるようになりました。また、別々であった統合開発環境も、新しいMCUXpresso IDEが両MCU対応となり、SDK:Software Development Kitを使ってMCUソフトウェアを開発する方法に統一されました。

本稿は、NXPのCortex-MコアMCU:LPC/Kinetisのラインナップと、新しいMCUXpresso IDE、SDK対応状況をまとめました。

NXP MCUラインナップ

NXP MCUラインナップ(出典:LPC MICROCONTROLLERS 2017-01-04)
NXP MCUラインナップ(出典:LPC MICROCONTROLLERS 2017-01-04)

上図から、おおむね青色のLPCが汎用MCU、橙色のKenitesが特定アプリケーション用途MCUに分類できそうです。

この特定用途とは、例えばKinetis Eシリーズならば、昨今3.3V以下で動作するMCUコアが多いなか、白物家電や産業用途向けに、過酷な電気ノイズ環境下でも高い信頼性と堅牢性(Robust)を維持できる5V動作Cortex-M0+コアMCUを指します(NXPサイトにはCortex-M4コア版もあります)。

Kinetis Eシリーズのコア動作電圧は、2.7~5Vです。関連投稿:MCUの5V耐圧ピンで示したピン毎の5V耐性がMCUコアに備わっており、更に耐ノイズ性も高められているため、タッチパネル操作や多くの5Vデバイス制御に対して使いやすいCortex-M0+/M4シリーズと言えます。

5V動作でタッチパネル付きのKenites KE02 40MHz評価ボード(出典:NXPサイト)
5V動作でタッチパネル付きのKenites KE02 40MHz評価ボード(出典:NXPサイト)

LPC/Kinetis MCUのMCUXpresso IDE、SDK対応

新しくなった統合開発環境MCUXpresso IDEのLPC/ Kenites対応表が、NXP Communityに掲載中です。

この表は毎年更新され、NXPから供給中の全MCU/Application ProcessorのMCUXpresso IDE、SDK対応状況と対応予定まで解るとても役立つ資料です。この表のProduct Familyにフィルタをかけ、Recommended Software欄とMCUXpresso Software and Tools欄を抜粋したのが下表です。

MCUXpresso Supported Devices Table (May 2020より抜粋)
MCUXpresso Supported Devices Table (May 2020より抜粋)

Kenites KE02: 40MHzは、弊社Kinetis Eテンプレートで使ったKinetis Eシリーズマイコンです。2015年のテンプレート開発当時は、旧FreeSacleから供給され、統合開発環境もKinetis Design Studio:KDSとAPI生成ツール:Processor Expertを使いました。現在は、MCUXpresso IDEとSDKへ変わっています。

LPC1100は、古くからあるNXP汎用MCUで、弊社LPC110xテンプレートも提供中です。LPC1100は、MCUXpresso IDEで開発はできますがSDK対応予定は無く(Not Planned)、従来のLPC Open開発が推薦されています。

また、Kinetis KL05: 48MHzは、MCUXpresso IDEとSDK対応予定が無く、旧FreeSacleのKDS開発を推薦しています。

Not Planned 推測

MCUXpresso Software and Tools欄のNot Plannedの意味を考えます。

いずれのMCUも発売後10年~15年程度の安定供給をNXPが保証するため、直ぐにDiscontinueになることはありません。しかし、FreeSacle とNXPの2社統合で当然ながらダブって供給されるMCU品種もある訳で、供給側にとっては1品種へマージしたいでしょう。

この対象は、旧2社それぞれの汎用品種が多く該当すると思われ、その結果が表に現れたと考えます。

つまり、LPC1100やKinetis KL05は、恐らくダブった品種で、新しいMCU開発環境は使わずにそのまま旧開発環境で継続開発ができますが、近い将来Discontinueの可能性が高いと思います。Not Plannedは、これを暗示的に示していると推測します。

もちろん、新発売MCUや生き残った品種は、どれもMCUXpresso IDEとSDKに対応済み(Available)です。最初のMCUラインナップ図を振り返ると、多くのKinetisシリーズは、特殊用途MCU:Application Specific Familiesとして生き残り、Kinetis K/Lシリーズは、汎用MCU:General Purpose Families内で生き残ったのだと思います。

但し、生き残った品種でもデバイスによってはDiscontinueの可能性があり、個別デバイスの確認は、Community掲載表を参照した方が良いでしょう。

弊社マイコンテンプレート対応

主に汎用MCU向けの弊社マイコンテンプレートも、(推測した)NXPと同様の対応にしたいと考えています。つまり、Kinetis Eテンプレートは、最新開発環境MCUXpresso IDEとSDK利用版へ改版、LPC110xテンプレートは、販売中止といたします。

Kinetis E テンプレート改版は、直ぐに着手いたします。Kinetis Eテンプレートご購入者様で購入後1年未満の方は、この改版版を無償提供いたしますのでお待ちください。

LPC110xテンプレートは、1年以上新規ご購入者様がいらっしゃりませんので、無償アップグレード対象者様はございません。既にLPC110xテンプレートご購入者様には、申し訳ございません。別テンプレート50%割引購入特典のご利用をお待ちしております。

Ripple20

前投稿の2~3章で記載した、半導体製品へのサイバー攻撃があり無対策の場合、全製品が使えなくなる実例が発生しそうです。

数億台ものIoT機器や産業制御機器に実装済みのTreck社提供TCP/IPライブラリに「Ripple20」という名の脆弱性(最大値10の危険度評価9~10)が発見され、対策にはライブラリアップデートが必要ですが、できない場合は機器をネットワークから切り離すことが最低限必要になりそうです。
※TCP/IPライブラリは、有線/無線LANプロトコル実装用ソフトウェアライブラリです。

この脆弱性がハッカーに悪用されると、プリンタなどの機器からでも情報が外部流出します。Ripple20は、IoT MCUにセキュア・ファームウェア更新やOTA:Over-The-Air実装を要件とする先例になるかもしれません。

MCUのセキュア・ファームウェア更新は、関連投稿:STM32G0/G4のRoot of Trustをご覧いただくと面倒な更新方法、2面メモリ必要性などがお判り頂けると思います。OTAも関連投稿:Amazon、IoTマイコンへFreeRTOS提供の2章に簡単ですが記載しております。

IoT MCUへ、ソフトウェアだけでなくCortex-Mコアにも更なるセキュリティ対応の影響を与えそうなRipple20です。

FreeRTOSサンプルコード(1)

NXPのCortex-M4/M0+ディアルコアLPCXpresso54114のFreeRTOSサンプルコードを数回に分けて調査します。Cortex-M4クラスのMCUは、処理は高速で大容量Flash、RAMを持つので、ベアメタル利用だけでなくRTOS利用ソフトウェア開発にも適します。

ベアメタルCortex-M0/M0+/M3に適用済み弊社テンプレートを、そのままCortex-M4 MCUに使うのは、テンプレートがMCU非依存なので簡単です。ですが、先ずFreeRTOSソフトウェアをよく知り、新開発ベアメタルCortex-M4テンプレートへ応用できる機能があるか判断するのが調査の目的です。

RTOS習得2017

2017年3月にLPCXpresso824-MAX(Cortex-M0+ 30MHz、32KB Flash、8KB RAM)を使ってFreeRTOSのポイントを調査し、結果をマイコンRTOS習得ページにまとめました。

第1部から第3部で、最低限のFreeRTOSと使用APIを解説し、第4部で、最も優れた解説書と筆者が考えるソースコードと評価ボードを使ってFreeRTOS動作解析と習得を行うという内容です。

ただ、自作FreeRTOSサンプルコードの出来が悪く、第4部の動作解析は不十分でした。

そこで、RTOS利用がより現実的なLPCXpresso54114(Cortex-M4/M0+ 100MHz、256KB Flash、192KB RAM)評価ボードとSDK付属FreeRTOSサンプルコードを用いて、不十分だった第4部FreeRTOS動作解析に再挑戦します。平たく言えば、NXP公式FreeRTOSサンプルコードを、不出来な自作コードの代わりに利用します😅。

第1回目は、FreeRTOSサンプルコードの出所、FreeRTOS動作を調べる4ツールを説明します。

LPCXpresso54114 SDK付属FreeRTOSサンプルコード

NXPマイコンの公式サンプルコード取得方法は、3つあります。最も新しいのがSDK:Software Development Kitから、2つ目がLPCOpenライブラリから、3つ目がPE:Processor Expertからの取得です。

NXP社が古くから用いてきたサンプルコード提供方法が、LPCOpenライブラリです。
NXPに買収された旧Freescale社のKinetis MCUなどは、PEと呼ばれるGUIベースAPI生成ツールでサンプルコードを提供していました。同じMCUでも提供方法によりAPIは異なり、サンプルコード互換性はありません。
※ベンダ毎に異なるAPI提供方法やその違い、サンプルコードとの関係は、別投稿で説明する予定です。

Freescale買収後のNXPは、SDKで全MCU(=新旧NXP+買収FreescaleのMCU)のAPIとサンプルコードを提供する方法に統一したようです。その根拠は、最新MCUXpresso IDEユーザインタフェースが、SDKの利用前提でできているからです。

現在も提供中のLPCOpenライブラリ内にあるLPCXpresso54114 FreeRTOSサンプルコードは2個、一方、SDK内のFreeRTOSサンプルコードは11個あります。PE提供はありません。

調査対象としては、FreeRTOSサンプルコード数が最多のSDKが適しています。

LPCXpresso54114 FreeRTOS examples in SDK
LPCXpresso54114 FreeRTOS examples in SDK

FreeRTOS実動作解析ツール

MCUXpresso IDE v11.1.0のHelp>Help Contentsに、MCUXpresso IDE FreeRTOS Debug Guideがあります(PDF文書がMCUXpresso IDEインストールフォルダ内にも有り) 。この中に、FreeRTOSサンプルコードデバッグのみに使えるタスク対応デバッガ4ツール(Task List/Queue List/Timer List/Heap Usage)があります。

MCUXpresso IDE Help ContentsのFreeRTOS Debug GuideのShowing FreeRTOS TAD Views
MCUXpresso IDE Help ContentsのFreeRTOS Debug GuideのShowing FreeRTOS TAD Views
  • Task List:タスク毎のプライオリティ、スタック使用量、動作時間表示
  • Queue List:アクティブキュー、セマフォ、ミューテックス利用時のリソース表示
  • Timer List:RTOSタイマー表示
  • Heap Usage:ヒープ使用量、メモリブロック割当て表示

これらFreeRTOS専用ツールは、FreeRTOSサンプルコードの評価ボード動作後、デバッガ停止中に表示されます。シミュレーションではなく、評価ボードでの「実動作結果」が判ります。開発ソフトウェアだけでなくRTOS使用量が判るので、デバイスにどれ程リソース余裕があるかが判断できます。

RTOSソフトウェアは、ユーザが開発するタスクの単体、結合デバッグに加え、RTOS動作の確認事項が増えます。FreeRTOS実動作解析4ツールは、これらの確認ができます。評価ボードを使ったプロトタイプ開発の重要度は、ベアメタル開発比より大きくなると言えるでしょう。

次回以降、LPCXpresso54114のSDK付属FreeRTOSサンプルコードを、MCUXpresso IDEのFreeRTOS Debug Guideに沿って調査します。