HTML版マンスリー・アップデートの見かた

図1 PDF版からHTML版へ変わったSTM32マイコン マンスリー・アップデート
図1 PDF版からHTML版へ変わったSTM32マイコン マンスリー・アップデート

STマイクロエレクトロニクスのSTM32マイコン マンスリー・アップデートがPDF版からHTML版に変わって3ヶ月経過しました。新しいHTML版の掲載フォーマットもほぼ固まったと思いますので、両者の比較結果を示します。

PDF版は、紙(Book)の置換えであるため、掲載文書内容と全体との関係、掲載ページも解りやすかったのに対し、ハイパーリンクのHTML版では、モバイルデバイスへ最適化したため、「コンテンツ重視の掲載へ変わった」、これが結論です。HTML版で見逃しがちな全体像との関係を明らかにするため、リンク集を別途作成しました。

※STマイクロエレクトロニクスの日本語MCU技術資料は、弊社ブログ掲載MCUベンダ中、最も優れています。STM以外のMCU開発中の方にも役立つ情報が、リンク集から得られると思います。

HTML版STM32マイコン マンスリー・アップデートの大項目タイトル

PDF版からHTML版へ変わったSTM32マイコン マンスリー・アップデートのタイトル比較
PDF版からHTML版へ変わったSTM32マイコン マンスリー・アップデートのタイトル比較

HTML版とPDF版のSTM32マイコン マンスリー・アップデート大項目タイトル(図1の赤囲いこみ部分)を比較すると、HTML版はPDF版よりも具体的内容を示すタイトルに変わっています。

実は、PDF版も大項目以下の中項目、小項目タイトルは、HTML版と同じでした。PCで読む(見る)ことが前提のPDF版は、一度に読めるページや範囲もスマホに比べ広く、目的記事への移動も簡単なため、更新内容の構造(大項目>中項目>小項目)が解りやすい掲載が可能でした。

一方、スマホで読む(見る)ことが前提のHTML版は、構造よりもそのタイトルを一目見ただけで読んでもらえる工夫が必要なうえ、表示はスマホの縦長連続ページのため移動に制約があり、コンテンツ重視のタイトル掲載に変わったのだと思います。

HTML版はコンテンツフィルタリングに適す

移動中やチョットした空き時間にスマホで情報をチェックすることは、COVID-19以前はよくありました。膨大なアップデート情報コンテンツが有用か無用かを瞬時に判断し、後で有用情報のみにアクセスすることで能率は向上します。

これは、コンテンツフィルタリングです。

HTML版は、フィルタリングに適す構成を簡単に作成可能です。要不要判断に最低限必須なタイトルとその概要を掲載し、「詳細はコチラ」でリンク先へジャンプする形式です。

フィルタリング結果をスマホへ上手く覚えさせておけば、より効率的です。

PDF版はスマホで操作しにくい

PDF版の内容の一部切取り(コンテンツ加工)や広範囲なコピー(コンテンツ抽出)は、スマホでは操作しにくく、結局全部保存か、または捨てる結果となります。PCならば、必要情報のみの加工・抽出・保存は簡単なのですが…😥。

つまり、スマホなどのモバイルデバイスとの相性が良いのがHTML版、PCと相性が良いPDF版とは掲載内容表現のしかたが異なる訳です。

従来の月刊PDF版は、その月の変更情報のみを抽出掲載し、しかも全体へもリンク表示するなど、読者(情報の受け手)寄りの手間がかかる編集でした。HTML版は、STマイクロエレクトロニクス(情報の送り手)が強調したいコンテンツに重きを置いた編集となっています。

HTML版の全体像リンク集

在宅勤務の増加に伴い、モバイルとPCの両デバイスを併用して能率を上げたいところですが、現状のHTML版では、難しいと思います。※全体像が判る従来のPDF相当が参照できるリンクが追加されれば別ですが、これには編集に二度手間がかかります。

そこで、月刊HTML版で見逃しがちな全体像との関係を明らかにするリンク集を、お節介ながら作成しました😅。

リンク内容 補足
マンスリー・アップデートバックナンバー HTML版:2020年6月号以降
PDF版:2017年1月号~2020年5月号
日本語MCU技術ノート Cortex-Mコア横断的な周辺回路Tips
日本語MCU開発のヒント
日本語トレーニング資料 Cortex-Mコア毎のセミナープレゼン資料
STM32マイコン開発環境 STM32CubeIDE/MXなどのダウンロードリンク
STM32マイコンファームウェア Cortex-Mコア毎のファームウェアダウンロードリンク
セミナー・イベント・キャンペーン セミナー開催予定/終了、キャンペーン一覧
Q&Aで学ぶマイコン講座 初心者向けMCU技術解説記事

あとがき

STM32マイコン マンスリー・アップデートに限らず殆どのアップデート情報は、モバイルファーストへ向けた「コンテンツタイトル+数行の概要+詳細はコチラ」の形式です。

全体像も見つつHTML版が強調する詳細コンテンツを理解・整理・記憶したい方には、多少効率が落ちるかもしれませんが本稿リンク集が役立つと思います。

繰返しになりますが、STマイクロエレクトロニクスの日本語MCU資料は、他社MCU開発中の方でも参考になる情報満載で、質・量ともに優れています。開発に行き詰まりが生じた時など、ベンダの壁を越えて参照すると、打開策が見つかるかもしれません。

アフターCOVID-19では、MCU開発のしかたも変わりそうです。丁度、ADAS(Advanced Driver Assistance System:先進運転支援システム)で自動車ソフトウェア開発が激変したように、エッジMCU開発も、IoTセキュリティ絡みで、より効率的で複雑な処理をこなせるように変化すると思います。

MCU開発の情報収集と生産性向上、両方にお役に立てば幸いです。

Cortex-M0からCortex-M0+変化

前稿で示したNXP MCUラインナップ図には、ARM Cortex-M0/M0+両方のコアが掲載中でした。しかし、最新版MCUXpresso IDEのコア選択ダイアログには、Cortex-M0選択肢がありません。

MCUXpresso IDEのコア選択ダイアログ
MCUXpresso IDEのコア選択ダイアログ

そこで、Cortex-M0+とCortex-M0の違いを調べた結果、新規MCU開発にNXPのCortex-M0コアを使う必然性は低いという結論に達しました。本稿は、その根拠を示します。

ARM Cortex-M0+とCortex-M0の差

弊社関連投稿:Cortex-M0/M0+/M3比較とコア選択や、ARMコア利用メリットの評価ARM MCU変化の背景をまとめ、ARMコアの発表年順に示したのが下表です。※M4の発表年は間違っているかもしれませんが、市場に出回ったCortex-Mxコアの順番は下表で正しいハズです😌。

ARM Cortex-Mx性能、発表年
Cortex-Mコア 性能 (MIPS @ MHz) ARM発表年 MCUモデル
Cortex-M3 1.25 2004 旧メインストリーム
Cortex-M0 0.9 2009 ローコスト
Cortex-M0+ 0.95 2011 ローパワー
Cortex-M4 1.25 2012頃 デジタル信号処理新メインストリーム

要するに、Cortex-M0+やCortex-M4は、Cortex-M0やCortex-M3をベースに市場ニーズに即した変更を加えた新しいARMコアだと言うことです。本稿では、特にCortex-M0+とM0の違いに注目します。

Cortex-M0+には、表の差以外にも高速IOアクセス、高速パイプライン、低消費動作モードなどCortex-M0には無い数々の特徴がありますが、Cortex-M0よりも高性能(0.9→0.95MIPS@MHz)で、シリコンチップ高速化にも好都合です。

つまり、新規開発にCortex-M0+の代わりに敢えてCortex-M0コアを用いる理由は、見当たらない訳です。

NXPの新しい統合開発環境MCUXpresso IDEのSDKのコア選択肢に、Cortex-M0が無いのは、上記が理由だと思います。※ローコストに関しては、コア単体の相対評価はできても、使用数量でかなり変動するためMCUコスト絶対評価を難しくしています。

NXP MCUXpresso SDK対応評価ボード数

最新MCUXpresso IDE v11.1.1のSDKで対応中の評価ボード数を一覧にしました。例えば、Cortex-M33コアなら下図のように7個です。

MCUXpresso SDK対応評価ボード数(Cortex-M33の場合)
MCUXpresso SDK対応評価ボード数(Cortex-M33の場合)
MCUXpresso SDK対応評価ボード数比較(2020-07)
MCUXpresso SDK対応評価ボード数比較(2020-07)

評価ボードは、プロトタイプ開発には必須で、その評価ボードで動作するSDK(Software Development Kit)があればソフトウェア開発効率は向上します。Cortex-Mxコア間のソフトウェア移植性は高く、同じコアのソフトウェアであれば、異なる評価ボードへの移植もさらに容易です。

つまり、評価ボード数が多いCortex-M0+やCortex-M4が、現在最もCortex-Mxコアソフトウェア開発効率が高いことを示しています。また、Cortex-M3コア選択肢がない理由も、Cortex-M0コアがない理由と同じと推測します。

本当の並列処理が要求されるマルチコア開発なら、Cortex-M0+とM4のペア、または、IoTセキュリティを強化したCortex-M33コアx2であることも判ります。※Cortex-M33は、2016年ARM発表のセキュリティ強化コアです。

新規ARM Cortex-Mxソフトウェア開発は、Cortex-M0+コアまたはCortex-M4コア利用に収束してきたと思います。
※Cortex-M33コアは、従来コアに無いIoT向けセキュアゾーンなどが新規機能追加されていますので除外しています。

弊社テンプレート開発方針

前稿のNXP MCUラインナップからCortex-M0とCortex-M3を除き、現状SDK提供中のARM Cortex-Mxコアラインナップをまとめると下図になります。※Cortex-M33は未掲載です。

Software Development Kit開発から見たNXP MCUラインナップ
Software Development Kit開発から見たNXP MCUラインナップ

弊社もCortex-M0+、Cortex-M4、Cortex-M33コア向けのテンプレート開発を進める方針です。

NXP MCUラインナップ

NXPは、今から約4年前の2015年12月末にFreeSacleを買収し、FreeSacleのKinetisマイコン(750品種)とNXPのLPCマイコン(350品種)は、NXP 1社から供給されるようになりました。また、別々であった統合開発環境も、新しいMCUXpresso IDEが両MCU対応となり、SDK:Software Development Kitを使ってMCUソフトウェアを開発する方法に統一されました。

本稿は、NXPのCortex-MコアMCU:LPC/Kinetisのラインナップと、新しいMCUXpresso IDE、SDK対応状況をまとめました。

NXP MCUラインナップ

NXP MCUラインナップ(出典:LPC MICROCONTROLLERS 2017-01-04)
NXP MCUラインナップ(出典:LPC MICROCONTROLLERS 2017-01-04)

上図から、おおむね青色のLPCが汎用MCU、橙色のKenitesが特定アプリケーション用途MCUに分類できそうです。

この特定用途とは、例えばKinetis Eシリーズならば、昨今3.3V以下で動作するMCUコアが多いなか、白物家電や産業用途向けに、過酷な電気ノイズ環境下でも高い信頼性と堅牢性(Robust)を維持できる5V動作Cortex-M0+コアMCUを指します(NXPサイトにはCortex-M4コア版もあります)。

Kinetis Eシリーズのコア動作電圧は、2.7~5Vです。関連投稿:MCUの5V耐圧ピンで示したピン毎の5V耐性がMCUコアに備わっており、更に耐ノイズ性も高められているため、タッチパネル操作や多くの5Vデバイス制御に対して使いやすいCortex-M0+/M4シリーズと言えます。

5V動作でタッチパネル付きのKenites KE02 40MHz評価ボード(出典:NXPサイト)
5V動作でタッチパネル付きのKenites KE02 40MHz評価ボード(出典:NXPサイト)

LPC/Kinetis MCUのMCUXpresso IDE、SDK対応

新しくなった統合開発環境MCUXpresso IDEのLPC/ Kenites対応表が、NXP Communityに掲載中です。

この表は毎年更新され、NXPから供給中の全MCU/Application ProcessorのMCUXpresso IDE、SDK対応状況と対応予定まで解るとても役立つ資料です。この表のProduct Familyにフィルタをかけ、Recommended Software欄とMCUXpresso Software and Tools欄を抜粋したのが下表です。

MCUXpresso Supported Devices Table (May 2020より抜粋)
MCUXpresso Supported Devices Table (May 2020より抜粋)

Kenites KE02: 40MHzは、弊社Kinetis Eテンプレートで使ったKinetis Eシリーズマイコンです。2015年のテンプレート開発当時は、旧FreeSacleから供給され、統合開発環境もKinetis Design Studio:KDSとAPI生成ツール:Processor Expertを使いました。現在は、MCUXpresso IDEとSDKへ変わっています。

LPC1100は、古くからあるNXP汎用MCUで、弊社LPC110xテンプレートも提供中です。LPC1100は、MCUXpresso IDEで開発はできますがSDK対応予定は無く(Not Planned)、従来のLPC Open開発が推薦されています。

また、Kinetis KL05: 48MHzは、MCUXpresso IDEとSDK対応予定が無く、旧FreeSacleのKDS開発を推薦しています。

Not Planned 推測

MCUXpresso Software and Tools欄のNot Plannedの意味を考えます。

いずれのMCUも発売後10年~15年程度の安定供給をNXPが保証するため、直ぐにDiscontinueになることはありません。しかし、FreeSacle とNXPの2社統合で当然ながらダブって供給されるMCU品種もある訳で、供給側にとっては1品種へマージしたいでしょう。

この対象は、旧2社それぞれの汎用品種が多く該当すると思われ、その結果が表に現れたと考えます。

つまり、LPC1100やKinetis KL05は、恐らくダブった品種で、新しいMCU開発環境は使わずにそのまま旧開発環境で継続開発ができますが、近い将来Discontinueの可能性が高いと思います。Not Plannedは、これを暗示的に示していると推測します。

もちろん、新発売MCUや生き残った品種は、どれもMCUXpresso IDEとSDKに対応済み(Available)です。最初のMCUラインナップ図を振り返ると、多くのKinetisシリーズは、特殊用途MCU:Application Specific Familiesとして生き残り、Kinetis K/Lシリーズは、汎用MCU:General Purpose Families内で生き残ったのだと思います。

但し、生き残った品種でもデバイスによってはDiscontinueの可能性があり、個別デバイスの確認は、Community掲載表を参照した方が良いでしょう。

弊社マイコンテンプレート対応

主に汎用MCU向けの弊社マイコンテンプレートも、(推測した)NXPと同様の対応にしたいと考えています。つまり、Kinetis Eテンプレートは、最新開発環境MCUXpresso IDEとSDK利用版へ改版、LPC110xテンプレートは、販売中止といたします。

Kinetis E テンプレート改版は、直ぐに着手いたします。Kinetis Eテンプレートご購入者様で購入後1年未満の方は、この改版版を無償提供いたしますのでお待ちください。

LPC110xテンプレートは、1年以上新規ご購入者様がいらっしゃりませんので、無償アップグレード対象者様はございません。既にLPC110xテンプレートご購入者様には、申し訳ございません。別テンプレート50%割引購入特典のご利用をお待ちしております。

Ripple20

前投稿の2~3章で記載した、半導体製品へのサイバー攻撃があり無対策の場合、全製品が使えなくなる実例が発生しそうです。

数億台ものIoT機器や産業制御機器に実装済みのTreck社提供TCP/IPライブラリに「Ripple20」という名の脆弱性(最大値10の危険度評価9~10)が発見され、対策にはライブラリアップデートが必要ですが、できない場合は機器をネットワークから切り離すことが最低限必要になりそうです。
※TCP/IPライブラリは、有線/無線LANプロトコル実装用ソフトウェアライブラリです。

この脆弱性がハッカーに悪用されると、プリンタなどの機器からでも情報が外部流出します。Ripple20は、IoT MCUにセキュア・ファームウェア更新やOTA:Over-The-Air実装を要件とする先例になるかもしれません。

MCUのセキュア・ファームウェア更新は、関連投稿:STM32G0/G4のRoot of Trustをご覧いただくと面倒な更新方法、2面メモリ必要性などがお判り頂けると思います。OTAも関連投稿:Amazon、IoTマイコンへFreeRTOS提供の2章に簡単ですが記載しております。

IoT MCUへ、ソフトウェアだけでなくCortex-Mコアにも更なるセキュリティ対応の影響を与えそうなRipple20です。

NXPの日本市場位置づけと事業戦略

6月5日投稿NXPのFreeMASTERの最後の章で紹介したNXP新CEO)カート・シーヴァーズ(Kurt Sievers)氏へのEE Times Japanインタビュー記事が16日掲載され、NXPの日本市場位置づけと事業戦略が語られました。

  • 日本の自動車関連企業との強固な関係は、一層強める
  • 日本の産業・IoT関連企業との関係は、自動車関連企業と同様、強い関係を構築していく
  • 日本のロボティクス企業とNXPのエッジコンピューティング技術の親和性は良く、ともに成長できる

本ブログの投稿は、MCUソフトウェア開発者向けが多いです。が、今回はNXPビジネスをピックアップします。というのは、多くの開発者が使っているWindows 10の今後を考えるには、Microsoftビジネスを知る必要があるのと同じ理由です。NXPビジネスを知って、MCUの将来を考えます。

以下、2020年5月のNXP semiconductors corporate overview抄訳バージョンを使います。※EE Japan記事もこのNXP資料を使っています。

NXPターゲット4市場

NXPのターゲットは、P8記載のオートモーティブ、インダストリアル&IoT、モバイル、通信インフラストラクチャの4市場です。そして、これらを包括的にサポートする半導体デジタル/アナログ技術である、Sense、Think、Connect、Act全てをNXPは提供中です。

NXPのターゲット4市場(出典:NXP semiconductors corporate overview)
NXPのターゲット4市場(出典:NXP semiconductors corporate overview)
NXPの提供する半導体デジタル/アナログ技術(出典:NXP semiconductors corporate overview)
NXPの提供する半導体デジタル/アナログ技術(出典:NXP semiconductors corporate overview)
NXPの提供するフルシステムソリューション(出典:NXP semiconductors corporate overview)
NXPの提供するフルシステムソリューション(出典:NXP semiconductors corporate overview)

NXPの強み

NXPの強みは、ユーザである我々開発者へ、半導体技術をもれなく提供できることだと筆者は思います。この分野は近い将来、セキュア/セキュリティ無しでは存在しえません。ネットワークで繋がり、セキュリティが弱い箇所が一か所でもあれば、全てが使えなくなる危険性があるからです。

例えインタフェースが確立されていても、技術同士を接続すると、上手く動作しないことはよくあります。※俗に相性問題などとWindowsでは言われます。

全技術を他社より先に提供するNXP同志の技術接続は、競合他社間の技術接続より容易、低リスクであることは明らかです。後追いの競合他社は、差別化の特徴を持たないと生き残れず、この特徴が逆に他社との接続障害になることもあります。

P12に記載されたように技術単独では存在意味が弱く、各技術がセキュアに繋がって初めてソリューションとしての市場価値が生まれます。

EE Japan Times記事によると、AI関連技術は、NXPで独自開発を行うとともにM&Aも検討中のようです。このように、選択と集中、差別化戦略ではなく全ての半導体技術を開発し、ユーザである開発者へ提供できることがNXPの強みだと思います。

エッジコンピューティングMCUの将来

PC → スマホ → MCUへとセキュリティや半導体技術をけん引してきたデバイスは変わりつつあります。

COVID-19パンデミックで経済活動が停止したのは、コロナワクチンが無いからです。半導体製品にサイバー攻撃があった時、対応ワクチンや追加のセキュリティがThink主役のMCUへ必要となります。

これらからMCUは、今後さらなるセキュリティ実装やWiFi-6などの新しい無線LAN規格への対応など、より高性能化、低消費電力化へ進むと思います。NXPは台湾TSMCの5nm製造プロセスを次世代自動車用MCUに使う(2020/6/12)ことを明らかにし、実現へ向けてスタートしています。

NXP日本市場位置づけ、事業戦略、開発者の対策

以上のNXP概要を見たうえで、最初に示した日本市場位置づけ、事業戦略を振り返ると、NXPの提供する広範囲な半導体技術を自動車、産業機器、ロボティクスへ適用していくことがより解ると思います。

我々開発者は、NXP製品の第1次利用者です。MCU開発者は、次々に導入される新しい技術を焦ることなく効率的に習得・活用し、開発製品へ応用しましょう。そして、我々の製品利用者(NXP製品の第2次利用者)へ新しい価値を提供できるよう努めましょう。

EE Japan Times記事に記載はありませんが、残念ながら日本市場の相対的地位は、低下しつつあります。また、パンデミック再来に備え、開発者個人のスキルアップや自己トレーニング重要性も再認識されたと思います。より広く・早い開発技術の習得が、MCU開発者には必要となるでしょう。

Windows 10の将来

市場に溢れるWindows 10情報は、トラブル対策のものが殆どで、MicrosoftのOSビジネス情報は見当たりません。ただ、ここ数年のWindows 10状況は、最終PC利用者の価値を高めるというよりも、Windowsブロガへの記事ネタを増やすことに役立っています。

このWindows現状を、Microsoftがどのように回復するのか知りたいです。ビジネスなので、利益なしの解はありません。しかし、安心してWindows 10が使えないなら、PCのOSは、安定感のあるiOSやLinuxへ変わるかもしれません。

アプリケーションのマルチプラットフォーム化や、WindowsアプリケーションでもiOSやLinux上でそのまま動作する環境も整いつつあります。折しも、32ビットPC OSは、2020年で終焉を迎えようとしています。ハードウェア起因ならまだしも、ソフトウェア、特にOS起因の生産性低下は、許されないと思います。

MCUの5V耐圧ピン

弊社FreeRTOS習得ページで使う評価ボード:LPCXpresso54114(Cortex-M4/100MHz、256KB Flash、192KB RAM)は、FreeRTOSだけでなく、Mbed OSZephyr OSなどオープンソース組込みRTOSにも対応しています。多くの情報がありRTOSを学ぶには適した評価ボードだと思います。

LPCXpresso54114 Board power diagram(出典:UM10973に加筆)
LPCXpresso54114 Board power diagram(出典:UM10973に加筆)

さて、このLPCXpresso54114の電圧ブロック図が上図です。MCUはデフォルト3.3V動作、低電力動作用に1.8Vも選択可能です。一方、Arduinoコネクタへは、常時5Vが供給されます。

本稿は、このMCU動作電圧とArduinoコネクタに接続するセンサなどの動作電圧が異なっても制御できる仕組みを、ソフトウェア開発者向けに説明します。

MCU動作電圧

高速化や低電力化の市場要求に沿うようにMCU動作電圧は、3.3V → 3.0V → 2.4V → 1.8Vと低下しつつあります。同時にMCUに接続するセンサやLCDなどの被制御デバイスも、低電圧化しています。しかし、多くの被制御デバイスは、未だに5V動作が多く、しかも低電圧デバイスに比べ安価です。

例えば、5V動作HD44780コンパチブルLCDは1個500円、同じ仕様で3.3V動作版になると1個550円などです。※弊社マイコンテンプレートに使用中のmbed-Xpresso Baseboardには、5V HD44780コンパチブルLCDが搭載されています。

レベルシフタ

異なる動作電圧デバイス間の最も基本的な接続が、間にレベルシフタを入れる方法です。

TI)TXS0108E:8ビットレベルシフタモジュールの例で示します。低圧A側が1.8V、高圧B側が3.3Vの動作図です。A側のH/L電圧(赤)が、B側のH/L電圧(緑)へ変換されます(双方向なので、B側からA側への変換も可能です)。

8ビットレベルシフタTXS0108Eのアプリケーション動作(出典:TI:TXS0108Eデータシート)
8ビットレベルシフタTXS0108Eのアプリケーション動作(出典:TI:TXS0108Eデータシート)

レベルシフタ利用時には、電圧レベルの変換だけでなく、データレート(スピード)も重要です。十分なデータレートがあれば、1.8VのH/L波形は、そのまま3.3VのH/L波形へ変換されますが、データレートが遅いと波形が崩れ、送り側のH/L信号が受け側へ正確に伝わりません。

例えば、LCD制御は、複数のLCDコマンドをMCUからLCDへ送信して行われます。データレートが遅い場合には、コマンドが正しく伝わらず制御ができなくなります。

MCUの5V耐圧ピン:5V Tolerant MCU Pad

LPCXpresso54114のGPIOピンには、5V耐圧という属性があります。PIO0_0の[2]が5V耐圧を示しています。

LPCLPCXpresso54114の5V耐圧属性(出典:5411xデータシート)
LPCLPCXpresso54114の5V耐圧属性(出典:5411xデータシート)

5V耐圧を簡単に説明すると、「動作電圧が3.3/1.8V MCUのPIO0_0に、5Vデバイスをレベルシフタは使わずに直接接続しても、H/L信号がデバイスへ送受信できる」ということです。または、「PIO0_0に、1ビットの5Vレベルシフタ内蔵」と解釈しても良いと思います。

※ハードウェア担当者からはクレームが来そうな説明ですが、ソフトウェア開発者向けの簡単説明です。クレームの内容は、ソフトウェア担当の同僚へ解説してください😌。

全てのGPIOピンが5V耐圧では無い点には、注意が必要です。但し、ArduinoコネクタのGPIOピンは、5V耐圧を持つものが多いハズです。接続先デバイスが5V動作の可能性があるからです。

また、I2C/SPIバスで接続するデバイスもあります。この場合でも、MCU側のI2C/SPI電圧レベルとデバイス側のI2C/SPI電圧レベルが異なる場合には、レベルシフタが必要です。MCU側I2C/SPIポートに5V耐圧属性がある場合には、GPIO同様直接接続も可能です。

I2Cバスは、SDA/SCLの2本制御(SPIなら3本)でGPIOに比べMCU使用ピン数が少ないメリットがあります。しかし、その代わりに通信速度が400KHzなど高速になるのでデータレートへの注意が必要です。

LPCXpresso54114以外にも5V耐圧ピンを持つMCUは、各社から発売中です。ちなみに、マイコンテンプレート適用のMCUは、6本の5V耐圧GPIOを使ってmbed-Xpresso Baseboard搭載5V LCDを直接制御しています。

mbed-Xpresso Baseboard搭載5V HD44780コンパチLCDの3.3V STM32G071RB直接制御例
mbed-Xpresso Baseboard搭載5V HD44780コンパチLCDの3.3V STM32G071RB直接制御例

5V耐圧MCUデータシート確認方法

MCUのGPIOやI2C/SPIを使って外部センサやLCDなどのデバイスを制御する場合、下記項目を確認する必要があります。

  1. MCU動作電圧と被制御デバイス動作電圧は同じか?
  2. MCU動作電圧と被制御デバイス動作電圧が異なる場合、外付けレベルシフタを用いるか、またはMCU内蔵5V耐圧ピンを用いるか?
  3. MCU内蔵5V耐圧GPIOやI2C/SPIを利用する場合、そのデータレートは、制御に十分高速か?

5V耐圧ピンは、使用するMCU毎に仕様が異なります。MCUデータシートは、英語版なら「tolerant」、日本語版なら「耐圧」で検索すると内容確認が素早くできます👍。

MCU動作電圧と接続デバイス動作電圧が異なっても、MCUのH/L信号が被制御デバイスへ正しく伝わればデバイスを制御できます。

MCU動作電圧に合わせたデバイス選定やレベルシフタ追加ならば話は簡単ですが、トータルコストや将来の拡張性などを検討し、5V耐圧ピンの活用も良いと思います。

NXPのFreeMASTER

FreeMASTERは、NXP組込みMCUのアプリケーションのリアルタイム変数モニタと、モニタデータの可視化ツールです。関連投稿:STマイクロエレクトロニクスのSTM32CubeMoniterとほぼ同じ機能を提供します。

NXP資料FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview を使ってFreeMASTERの特徴を示します。

FreeMASTERとIDEデバッガ機能差

FreeMASTERと、開発者が普段使うIDEデバッガとの差が一目で解る図がP13にあります。

FreeMASTERとデバッガの違い(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)
FreeMASTERとデバッガの違い(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)

両者の機能境界が、ソースコードのデバッグ機能です。IDE(MCUXpresso IDE)でも変数ロギングやグラフ化機能はありますが、プログラム開発者向けの最低機能に絞ったものです(limited functionality)。

これに対し、FreeMASTERは、msec分解能のグラフ化と、μsec分解能のデータ取得が可能です。更に取得データを利用し、Field-tune parametersやRemote controlなど多くの機能を持つツールです。データの取得は、MCU実装のUARTやUSB、SWD経由です。

FreeMASTERを使うと、外付け制御パネルの代替やGUIアプリケーションとしても活用できます。例えば、下図のようなモータ制御パネルが、PC上でFreeMASTERソフトウェアのみで実現できる訳です。

FreeMASTERを使ったモータ制御パネル例(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)
FreeMASTERを使ったモータ制御パネル例(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)

 FreeMASTER構成

Windows PCにおけるFreeMASTER構成がP20です。詳細は、P21~25に示されています。Linux PCでの構成は、P26に示したFreeMASTER Liteが使われます。

FreeMASTER Windows PC構成(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)
FreeMASTER Windows PC構成(出典:FreeMASTER Run-Time Debugging Tool – Overview)

MCU開発トレンド:ビジュアル化と脱Windows

組込みアプリケーションのビジュアル化は、最近のMCU開発トレンドです。

MCU本体の性能を使わずに変数データを取出し、そのデータを高性能PCとプラグイン機能を利用し、データ可視化やリモート制御を実現します。本稿で紹介したNXPのFreeMASTERやSTのSTM32CubeMoniterがこのトレンドをけん引する技術です。

また、オープンソースLinux PCへのMCU開発環境移行や各社IDEマルチプラットフォーム化、つまり脱Windowsもトレンドの1つです。

上級開発者向けというイメージが強かったLinux PCですが、一般ユーザへも普及し始めました(Wikipediaより)。筆者も昨年から、MCU開発Main-PCのWindows 10とは別に、Backup-PCにLinux Mintを新規インストールし試用中です。

半年間の試用では、OSインストール、大型/定期更新、セキュリティに関してもLinux Mintの方が、Windows 10より安定感があります。

もはや現状のWindows 10では、信頼性があったWindows 7のレベルにはならない気がします。

既存Windows 10に手を加えるよりも、新OSを開発するほうが、早道で、安心してPCを利用したい一般ユーザ要求も同時に満たせるのではないでしょうか? 商業的理由は、セキュリティ対応強化とすれば、内容不明ながら大多数の納得も得られるでしょう。※あくまで、ソフトウェア開発経験者個人の見解です。

NXP新CEO Kurt Sievers氏

2020年5月28日、蘭)NXPのCEOがリチャード・L・クレマー(Richard L. Clemmer)氏から、カート・シーヴァーズ(Kurt Sievers)氏への交代発表がありました。こちらのEE Times記事に新CEOカート・シーヴァーズ氏の経歴や、米中貿易摩擦下でのNXP中国分析などが示されています。

欧州MCUベンダNXPのアフターCOVID-19への布石、さすがに早いです。

STM32FxテンプレートV2発売

STマイクロエレクトロニクス統合開発環境STM32CubeIDEのHAL APIを利用し開発したSTM32FxテンプレートVersion2を発売します。

上記サイトよりテンプレート説明資料P1~P3が無料ダウンロードできますので、ご検討ください。本稿は、この「ダウンロード以外」の資料項目を簡単に示します。

全ツールビルトインSTM32CubeIDE

STM32CubeIDEは、従来は別ツールとして提供してきたSTM32CubeMXがビルトイン済みです。しかも開発ツール全てが自動的に最新版へ更新します。もちろんHelp>Check for Updatesで手動更新も可能です。

2020年5月15日現在のブログ関連STM32MCUに関係するSTM32CubeIDE状況が下図です。

STM32CubeIDE状況(2020年5月15日現在)
STM32CubeIDE状況(2020年5月15日現在)

STM32FxテンプレートV2は、HAL(Hardware Abstraction Layer)API利用アプリケーション開発用テンプレートですので、MCU性能過不足時、他のSTM32MCUコアへも開発アプリケーションが流用可能で、プロトタイプ開発に最適です。

STM32FxテンプレートV2ダウンロード説明資料以外の概略

以下、単語の頭に付くSTM32は省略して記述します。また、付属説明資料も同様にSTM32を省略記述していますので、ご注意ください。

AN記載CubeMXプロジェクトが読めない時の対策

アプリケーション開発の出発点となるビルトインツール:CubeMXが最新版へ自動更新されるのは、次々に発売される最新STデバイスを直ぐに開発できるメリットがあります。しかし、逆に開発者が参照するアプリケーションノート(AN)記載のCubeMXプロジェクトとの版数差が大きくなるデメリットもあります。

この版数差が大きくなると、AN記載CubeMXプロジェクトが、ビルトインCubeMXで読めない場合があります。特にF0/F1シリーズなど古くから提供されてきたデバイスのANに顕著です。STM32FxテンプレートV2付属説明資料で、この対策を示しています。

CubeIDE新規プロジェクト作成(1)/(2)/(3)の違い

STM32CubeIDEの3新規プロジェクト作成の差
STM32CubeIDEの3新規プロジェクト作成の差

CubeIDEユーザマニュアル:UM2553には、本日時点で新規プロジェクト作成説明は(1)/(3)のみです。未説明の最新版新規プロジェクト作成(1)/(2)/(3)の違いなど、開発をスムースに進める様々なTipsも説明資料に加えています。

CubeMX変更箇所、別資料化

STM32FxテンプレートVersion1では、CubeMX周辺回路の設定をテンプレート説明資料内に記載しておりました。ご購入者様からのご質問も、このCubeMX設定に関するものが多く、このツールの重要性が判ります。

そこでVersion2は、このCubeMX設定をCubeMX変更箇所.pdfとして別資料化し、CubeIDEプロジェクト内に添付しました。CubeMXプロジェクト編集時に、同時参照ができます。

STM32CubeIDEプロジェクト内添付のSTM32CubeMX変更箇所説明資料
STM32CubeIDEプロジェクト内添付のSTM32CubeMX変更箇所説明資料

例えば、ベースボードテンプレートのLCD接続に利用したSTM32F0評価ボード:Nucleo-F072RBのGPIOピン設定方針なども記載しています。CubeMXピン配置は、MCUパッケージで選択しますので、評価ボード利用のCubeMX使用ピン設定時に、下図は便利だと思います。

ベースボードと評価ボード接続時のSTM32CubeMX使用ピン設定方針
ベースボードと評価ボード接続時のSTM32CubeMX使用ピン設定方針

STM32FxテンプレートV2と添付説明資料を使うと、STM32汎用MCU開発をスムースに進められます。

STM32FxテンプレートV2のご購入、お待ちしております。

STM32CubeMX使い方刷新STM32Fx/G0xテンプレートV2発売5/15、5/30

サードパーティ仏)AC6社の統合開発環境SW4STM32で開発したSTM32FxテンプレートとSTM32G0xテンプレートを、新しいSTマイクロエレクトロニクス純正STM32CubeIDE対応のVersion2:V2へ更新し販売開始します(STM32Fxテンプレートは2020/05/15、STM32G0xテンプレートは2020/05/30)。

V2では、V1ご購入者様から頂いたご意見ご感想を反映し、新しいSTM32CubeIDEやビルトインSTM32CubeMX使い方説明に工夫を加え、開発トラブル回避、既存アプリケーション資産活用方法などの新たなTipsも添付解説資料に加えました。

テンプレートと合わせてスムースなSTM32MCUアプリケーション開発にお役に立てると思います。

本稿は、説明を工夫したSTM32CubeIDEビルトインSTM32CubeMX使い方の一部を紹介します。

STM32CubeMX使い方:コツ

※以下、用語の頭に付く「STM32」は省略して記述します。

MCU周辺回路の初期化コードを自動生成するCubeIDEビルトインCubeMXも、以前投稿したスタンドアロンCubeMXの使い方と同じです。

CubeMXはSTM32MCU開発の出発点となるツールですので、十分理解した上で着手したいものです。テンプレートV2では、ビルトインCubeMXが生成するファイルに着目し、説明に以下の「使い方のコツ」と「簡単な順位」を追加しました。

CubeMXは、生成するファイル数が多い上に、使用するMCU周辺回路が増えると、生成コード量も多くなり、初めての方には少し解りにくいツールです。弊社テンプレートV1も、このCubeMXに関する質問を多く頂きました。それでも、コツを知っていれば十分使いこなせます。

そのコツとは、以下2点です。
・チェックが必要な自動生成ファイルは、main.hのみ
・main.cに自動追加される周辺回路ハンドラと、初期化コードが分かれば使える

F1シリーズSTM32F103RBの評価ボード:Nucleo-F103RBに弊社テンプレートを応用した例で説明します。

STM32CubeMX生成のF1BaseboardTemplateファイル構成
STM32CubeMX生成のF1BaseboardTemplateファイル構成

CubeMXが自動生成するファイルが、赤:CubeMX生成欄の9個です。このうち注目すべきは、太字赤☑で表示したmain.hとmain.cです。

main.hは、CubeMXで設定したユーザラベル、評価ボードならばB1[Blue PushButton]やUSART_TX/RX、LD2[GreenLed]などを定義した生成ファイルです(※[ ]内は、自動生成時に削除されますので覚え書きなどに使えます)。

main.hのコメント:Private definesの後にこれらの定義が生成されます。これら定義をチェックしておくと、「CubeMX自動生成コードを読むときに役立ち」ます。

main.cは、CubeMXが生成するメイン処理で、評価ボードのCubeMXデフォルトでコード生成:(Alt+K)した場合には、main.cのコメント:Private variablesの後にUSARTハンドラ:huart2と、コメント:Private function prototypesの後にUSART2の初期化コード:MX_USART2_UART_Init()と、その「初期化コード本体がmain.cソースの後ろの方に自動生成」されます。

その他の7個ファイルは、当面無視しても構いません。CubeMXデフォルトのHAL (Hardware Abstraction Layer)APIを利用し、割込みを使わない限り、ユーザコードには無関係だからです(※7個ファイルを知りたい方は、関連投稿:STM32CubeMX生成ファイルのユーザ処理追記箇所を参照してください)。

CubeMXが周辺回路:USART2初期化コードとそれに使う定義を自動生成済みなので、後は、main.cの無限ループ内の指定区間:USER CODE BEGIN xyz~USER CODE END xyzに、Usart2やLD2を使ったHAL APIユーザコードを追記すれば、アプリケーションが完成します。

追記したユーザコードは、再度CubeMXでコード生成しても、指定区間のまま引き継がれます。

ちなみに、アプリケーションで使用可能なHAL APIは、Ctrl+Spaceでリスト表示されます(Content Assist)。そのリストから使用するHAL APIを選択すれば、効率的なユーザコード追記が可能です。
※Content Assistの賢いところは、「ソースコード記述の周辺回路ハンドラを使ってHAL APIをリスト化」するところです。記述なしハンドラのAPIはリスト化されません。

つまり、CubeMXのPinout & Configurationタブで周辺回路を設定後コード生成しさえすれば、直ぐにユーザコードを追記できるファイルが全て自動的に準備され、これらファイルの指定区間へユーザコードを追記すれば、アプリケーションが完成する、これがCubeMXの使い方です。

このCubeMX使い方理解に最低限必要なファイルが、簡単順位:0のmain.hとmain.cの2個です。CubeMX生成ファイル数は9個ありますが、先ずはこの2個だけを理解していれば十分です。

LD2を点滅させるアプリケーションなどを指定区間へ自作すると、具体的に理解が進みます。

STM32CubeMX使い方:周辺回路のファイル分離

評価ボードのCubeMXプロジェクトファイル(*.ioc)は、デフォルトでB1[Blue PushBotton]とUSART2、LD2[GreenLed]を使っています。これらは、評価ボード実装済み周辺回路です。

これら評価ボード実装済み周辺回路へ、弊社テンプレートを適用したのが、シンプルテンプレートです(表:シンプル追加の欄)。

例えば、B1スイッチ押下げ状態をSW_PUSH、USART送信タイムアウトをUSART2_SEND_TIMEOUTなどソースコードを読みやすくする定義の追加は、CubeMX生成main.hの指定区間へ追記することでもちろん可能です。

しかし、他MCUコアへの移植性や変更のし易さを狙って、あえて別ファイル:UserDefine.hへこれらを記述しています。

同じ狙いで、LD2とB1、USART2のユーザ追記制御部分を、Led.cとSw.c、Usart2.cへファイル分離しています。ファイル分離により、HAL API利用のためMCUコア依存性が無くなり、例えば別コアのF0やG0評価ボードで同じ周辺回路を使う場合は、そのファイルのまま流用可能になります。

これらファイル分離した周辺回路の追記制御部分を、main.cの無限ループと同様に起動するのが、Launcher.cです。

つまり、シンプルテンプレートは、評価ボード実装済み周辺回路に、何も追加せずに弊社テンプレートを適用したシンプルな応用例です。その理解に必要なファイルが、緑:シンプル追加欄の☑で、簡単な順に1~5の番号を付けています。

CubeMXのそのままの使い方で周辺回路を追加すると、生成ファイル数は、赤:9個のままですが生成コード量が増えます。周辺回路の初期設定コード増加は当然ですが、この部分はCubeMX自動生成のためミス発生はありません。

しかし、ユーザコード指定区間へ、追加した周辺回路の制御コードを追記するのは、ユーザ自身です。様々な周辺回路制御が混在し追記量が増えてくると、バグやケアレスミスの元になります。

この対策に、周辺回路毎にファイルを分割し、この分割したファイルへ制御コードを記述するのが、シンプルテンプレートです。1周辺回路の制御コードが1ファイル化されていますので、簡単順位1~5の内容は、どれもとても簡単です。

さらに、ADC制御やLCD制御など、殆どの組込アプリケーションで必要になる周辺回路を追加し、Baseboardと評価ボードを結線、デバッグ済みのアプリケーションがベースボードテンプレートです(橙:ベースボード追加欄の3個)。

ユーザ追加ファイルは、全てMCUコア依存性がありません。CubeMXのHAL APIコード生成を行えば、コアに依存する部分は、CubeMX生成ファイル内に閉じ込められるからです。つまり、ユーザ追加ファイルは、全てのSTM32MCUへ流用できる訳です。

これらシンプルテンプレート、ベースボードテンプレートから新たなSTM32MCUアプリケーション開発を着手すれば、新規にアプリケーションをゼロから開発するよりも初期立上げの手間を省け、さらに機能追加や削除も容易です。

STM32CubeMX使い方:周辺回路プロパティ、既存AN利用法

CubeMXへ追加した周辺回路のプロパティ設定値やその理由、更に、既存アプリケーションノート利用方法など、新しいSTM32CubeIDE開発トラブルを回避し、スムースに開発着手できる様々なTipsをテンプレート添付説明資料へ加えています。

マイコンテンプレートサイトでSTM32Fxテンプレートは2020/05/15、STM32G0xテンプレートは2020/05/30発売開始です。ご購入をお待ちしております。
※STM32Fx/G0xテンプレートV1ご購入後1年以内の方は、後日V2を自動配布致しますのでお待ちください。

STM32Fx/G0xテンプレートV2改版状況

STマイクロエレクトロニクスの新しい純正統合開発環境:STM32CubeIDEを使い

2017/09/01発売 STM32Fxテンプレート
2019/06/01発売 STM32G0xテンプレート

を、5月中頃にVersion2:V2改版完了を目標に開発中です。どちらのテンプレートも、サードパーティ仏)AC6社の統合開発環境:SW4STM32と当時のSTM32CubeMXで開発しました。もちろん当時、STM32CubeMXビルトインSTM32CubeIDEはありませんでした。
※STM32CubeMXビルトインSTM32CubeIDEの詳細は、コチラの関連投稿3章を参照してください。

STM32FxテンプレートとSTM32G0xテンプレートのVersion2改版
STM32FxテンプレートとSTM32G0xテンプレートのVersion2改版

本稿は、改版で気が付いた1~3年前のSTM32MCU開発と、現在の「変わったところ/変わらないところ」を説明します。SW4STM32からSTM32CubeIDEへのIDE変更は自主的に変える部分ですが、IDE以外も色々な部分が変わっています。

本稿の目的

本稿は、従来IDEのSW4STM32から新しいSTM32CubeIDEへの移行を妨げるのが目的ではありません。

ほんの数年前のMCU開発環境であっても、最新開発環境へ変える場合には、環境変化への対応時間が必要であることを示したい訳です。

この数年間のブランクは、顧客へ納入済みのアプリケーションを改版、改良する場合によく出会う時間差です。MCU環境は目まぐるしく変わります。この変化にどのように上手く対応していくかも、MCU開発者要件の1つです。

現状のMCU開発は、複数の開発ツールがそれぞれ連携してアプリケーション開発が進みます。セキュリティなどの付加サービスであれば、なおさらです。これら複数ツールは、足並みを揃えて全てが一気に最新環境へ対応することは少ないでしょう。

さらに、STM32G0シリーズのような新しいデバイス情報も収集しておく必要があります。これらを考慮したうえで、顧客からのアプリケーション改版、改良案件に対して、その時点での最適解を提案することが必要だと思います(以下、用語の頭に付く「STM32」は省略して記述します)。

STM32CubeMX:コード生成ツール

CubeMXの自動生成する周辺回路の初期設定コードが変わりました。USART2の例が下図です。

STM32CubeMXの周辺回路初期設定変化
STM32CubeMXの周辺回路初期設定変化

左の従来は、USER CODE追記部分が有りませんが、右の現在は、BEGIN~END部分へユーザコードを追記できます。USART2以外にも、TIM3やIWDGの初期設定コードが同様に変わっています。

この追記部分のおかげで、より解り易い処理フロー作成が可能です。弊社テンプレートV2もこれを活用します。

MCUの消費電流Chartが生成レポート6.6に追加されました。25℃/3.3V動作時のG0/F0/F1各SimpleTemplateのChartを示します。縦軸を比較すると新汎用MCU:G0シリーズの低電力性能がよく解ります。

STM32G0、STM32F0、STM32F1の消費電流比較
STM32G0、STM32F0、STM32F1の消費電流比較

G0シリーズの特徴は、コチラの関連投稿などを参照してください。

AN:アプリケーションノート

アプリケーション開発に最も役立つのが公式AN:サンプルコード集です。CubeMXを開発起点とするサンプルコード集が、F0はAN4735、F1はAN4724、G0はAN5110です。基本的な周辺回路制御方法と、それらを生成するCubeMXプロジェクトファイルが一覧表になっています。

例えば、F1のHAL(Hardware Abstraction Layer)API利用ADCサンプルコード4種を抜き出したのが下記です。

STM32F1シリーズのADCサンプルコード
STM32F1シリーズのADCサンプルコード

従来比、各AN添付のCubeMXプロジェクトファイルは増えましたが、F0/F1は、ブランクプロジェクト(≒開発起点に使えない空プロジェクトファイルで下図左側)です。ここは、数年前と変わっていません。

また、どのサンプルコードもSW4STM32/IAR EWARM/Keil MDK-ARM対応で、未だ新しいCubeIDEには対応していません。
※サンプルコードの中身は、中級開発者には参考になりますが、初心者には、CubeMXプロジェクトファイルがある方が周辺回路の設定内容がより解り易いと思います。

ちなみに弊社テンプレートには、開発起点となるCubeMXプロジェクトファイルを自作し添付しています(下図右側がF1BaseboardTemplateの例)。

この添付CubeMXプロジェクトファイルがあると、どなたにでもテンプレートを活用したアプリケーション開発やピン配置変更、内容修正が容易です。周辺回路設定方法などもV1で頂いたテンプレートご購入者様の意見を反映し添付します。

STM32CubeMXブランクプロジェクトとSTM32F1テンプレートのプロジェクトファイル比較
STM32CubeMXブランクプロジェクトとSTM32F1テンプレートのプロジェクトファイル比較

STM32G0シリーズHAL APIアプリケーション重要性

F0~F1のMCU性能を1つでカバーし、かつ低消費動作なG0シリーズMCUには、その性能を100%活かせる専用LL(Low Layer)API開発が適すと考え、G0xテンプレートV1は、LL APIを主として発売しました。

しかし、G0シリーズは、コア依存性が少ないHAL APIアプリケーション開発がSBSFU実装も可能であり優れています(詳細は、コチラのG0/G4 Root of Trust関連投稿を参照してください)。G0xテンプレートV2は、HAL APIでテンプレートを新規開発します。
※SBSFUを実装したG0xテンプレートは、V2以降(多分V3)で予定しています。

BSP:Board Support Package

従来のSW4STM32は、サンプルコードにBSPを使っていました。しかし、新しいCubeIDEは、BSPを使わずHAL APIで直接制御するサンプルコードが主流です。BSPの実体はHAL APIの組合せですので、BSPを使うよりも評価ボード依存性が無く、より応用流用し易いのは、CubeIDEです。

テンプレートV2も、BSPを使わないCubeIDE方式にします。

Baseboard

mbed-Xpresso BaseboardとNucleo評価ボード接続
mbed-Xpresso BaseboardとNucleo評価ボード接続

秋月電子で簡単に入力できたBaseboardが、現在取扱終了です。代わりにアマゾンマルツで簡単入手できます。

LCDやSWなどのシールドをそれぞれ単体で追加購入するよりも、低価格で評価ボード機能追加ができます。その分、手配線は必要ですが😅、オス-オスジャンパーワイヤで手軽に接続ができます。

STM32CubeIDE日本語文字化け

CubeIDE当初から続く日本語文字化けは、最新版でも解消されていません。コチラの方法で解決しました。

SW4STM32 Webinar

従来の統合開発環境:SW4STM32もまだまだ現役です。例えば、2020年5月5日、15:00~17:00に2時間無料Webinarがあります(多分、英語かフランス語)。最新STM32MP1対応SW4STM32解説なので、興味ある方は、視聴してはいかがでしょう!

Free webinar on Embedded Linux with System Workbench for Linux

さいごに

開発環境変化への対応が必要と説明しましたが、実際にどれ程の時間が必要かは示していません。上手く対応できれば即座ですが、下手をすると本来のアプリケーション開発、改良よりも時間が掛かってしまいます。実際、筆者が対処に結構時間を要したものもありました。

STM32FxテンプレートV2とSTM32G0xテンプレートV2は、筆者が経験したSTM32CubeIDE開発トラブル対処法や、既存AN資産を活用するための様々な対処方法やTipsも解説資料に加えます。テンプレートと合わせてスムースなSTM32MCU開発にお役に立てると考えています。

STM32CubeMonitor

STマイクロエレクトロニクスのSTM32MCU純正開発環境STM32Cubeツールファミリに新に追加されたSTM32CubeMonitorを解説します。

STM32CubeMonitor特徴1:変数リアルタイムモニタ

STM32MCUアプリケーション開発フローと、純正開発環境STM32Cubeツールファミリ:STM32CubeMX、STM32CubeIDE、STM32CubeProgrammer、 STM32CubeMonitorの機能配分が下図です(以下、各ツールの頭に付くSTM32は省略して記述します)。

STM純正 4 Software Development Toolsと機能(出典:STMサイト)
STM純正 4 Software Development Toolsと機能(出典:STMサイト)

この1~4段階の開発フローを繰返すことでアプリケーション完成度が上がります。CubeMX、CubeIDE、CubeProgrammerの機能には重複部分がありますが、Monitoring機能を持つのは、CubeMonitorだけです。

通常のMCU開発は、CubeMXがビルトインされた4段階全てをカバーする統合開発環境:CubeIDEを使えば事足ります(CubeMXビルトインCubeIDEの詳細は、関連投稿の3章をご覧ください)。

CubeProgrammerは、MCUオプションバイト設定などCubeIDEではできないBinary Programmingの+α機能を提供します。例えば、STM32G0/G4のRoot of Trust(3)の投稿で示したSBSFU書込みや消去などがこの機能に相当します。

CubeIDEでも、デバッガ上でアプリケーションの変数モニタは可能です。しかし、あくまでDebugging MCUの(開発者向け)変数モニタです。CubeMonitorは、アプリケーションを通常動作させたまま、変数をリアルタイム(ライブ)モニタができる点が、CubeIDEとは異なるMonitoring機能です。

STM32CubeMonitor特徴2:データ可視化

リアルタイムで取得したデータは、下図のようにPCダッシュボードに予め準備済みのChartや円グラフにして可視化することができます。しかも、これら表示が、PCだけでなく、スマホやタブレットへも出力可能です。

STM32CubeMonitorのデータ可視化(出典:DB4151)
STM32CubeMonitorのデータ可視化(出典:DB4151)

つまり、CubeMonitorを使えば、開発したアプリケーションのライブ動作を、あまり手間をかけずにビジュアル化し、エンドユーザの顧客が解るように見せることができる訳です。これが、一押しの特徴です。

文章で説明するよりも、コチラの動画を見ていただくと一目瞭然です。

組込みアプリケーションのビジュアル化

組込みアプリケーション開発も、自動車のADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)のおかげでビジュアル化がトレンドです。

組込みアプリケーションのビジュアル化
組込みアプリケーションのビジュアル化

もちろん、超高性能MCUやデュアルコアMCUで実現するアプローチが本流です。が、本稿で示した2020年3月発表のCubeMonitorを使えば、産業用MCUでも案外簡単にビジュアル表示出力が可能になりそうです。

組込みアプリケーションは、MCUで結構大変な処理を行っていても、外(顧客)からは単にMCUデバイスしか見えません。CubeMonitorで処理データを可視化するだけでも、複雑さや大変さを顧客へ示すツールにもなります。