AI MCU

AI機能搭載の最新MCUを一覧表にまとめました。人物検出や機器異常検出などのAIアルゴリズム処理には、従来Cortex-M7クラスの高性能MPU(Micro Processor Unit)が必要でした。MPU比、低コストで低消費電力なAI MCUによるエッジAIメリットを示します。

Summary:AI MCUまとめ

AI機能搭載の最新MCU一覧
ベンダ AI MCU、コア AI特徴、AIアプリケーション AI開発ツール
STマイクロ STM32シリーズ
Cortex-M0+他コア対応
コア対応機械学習ライブラリ生成
ポンプ異常検出
NanoEdge AI Studio(専用)
NXP MCX Nシリーズ
Cortex-M33 x2(+NPU)
AI専用NPU処理
顔検出
MCUXpresso IDE(汎用)
ルネサス RAファミリ
Cortex-M85(+Helium)
汎用ベクタ演算Helium処理
人物検知/モータ故障検出
Reality AI(専用)

マイコンでAI」、STマイクロNXPルネサスが競演、2023年5月12日、MONOist記事をまとめたのが上表です。

記事によると、MCU大手3ベンダが、第7回AI・人工知能EXPO(春)2023年5月10~12日、東京ビックサイト会場で、表掲載AI MCUを使って、エッジAI実働デモ展示を行っています。

ChatGPTなどAI利用が一般化し始めました。組込み分野のMCUへもAI搭載の高機能化が始まります。

AI MCUアプローチ

STマイクロは、ソフトウェアでのAI処理、NXPは、専用ハードウェアNPU(Neural Processing Unit)でのAI処理、ルネサスは、汎用ベクタ演算ハードウェアHeliumによるAI処理と、3社3様のAI MCUアプローチです。

また、AI処理開発に、ソフトウェアアプローチのSTマイクロは、STM32コアに応じた専用機械学習ライブラリ生成ツール:NanoEdge AI Studioを使用、同じハードウェアアプローチですが、NXPは、汎用MCUXpresso IDEを使用、ルネサスは、専用Reality AIツール使用、などAI開発ツールも異なります。

NanoEdge AI Studioは、MCU開発者にAI専門知識が無くてもMCUコア性能に合わせたAI実装ができるそうです。

エッジAI MCUアプリケーションとメリット

Cortex-M85搭載RAファミリによるAI人物検出デモ(出展:ルネサス)
Cortex-M85搭載RAファミリによるAI人物検出デモ(出展:ルネサス)

各社のAI実働デモから、上図のような人物・顔検出と機器異常検出が、エッジAI MCUのターゲットアプリケーションのようです(関連投稿:RAファミリ最新情報)。

これらAI処理にMPUは使わず、小パッケージ、低コストの本稿AI MCUを使い、家電や機器内の既存MCUを置換えることで「装置構成はそのままに様々なAI機能を追加実装できる」これが、AI MCUのメリット、更に革命と言われる理由です。

Afterword:新たなMCU開発方法

実装AI機能により、求められるAI MCUコア性能もCortex-M0+からCortex-M85など様々です。それでも、MPUやGPU(Graphics Processing Unit)利用よりは、低コストエッジAIが実現できそうです。

従来MCUの置換えメリットだけでなく、AI MCUを使った新しい装置開発も面白いと思います。

各社AI MCUは、セキュリティ対応も強化されています。AI、IoTセキュリティ、RTOS…などなど、従来のCortex-M系ベアメタルMCU開発に加え、多くの新知識と追加開発がAI MCUに必要です。正直、食傷気味です😣。

従って、専門知識が無くてもAI実装できるツールなどは、大歓迎です。新しいMCUには、各種ツール活用の新しい開発方法を、拘りなく使える柔軟性も必要です(関連投稿:新しいMCUハードソフトの学び方)。

ツールを使っているうちに、専門知識や関連知識は、自ずと身についてくるハズです。



情報の受け手と情報量

ChatGPT懸念の情報が多い昨今です。一方、ChatGPT期待情報もあります。8対2ぐらいの割合でしょうか?

これらChatGPT騒動を例に、情報の受け手と情報量について筆者の思うところを記載します。

Summary:ポイントは適切な受け手想定と情報量

受け手に伝わって、初めて情報と言えます。送り手は、信頼性を高めるため、付加資料や文献出所などの情報量を加えます。

意味ある情報と受け手が判断するには、送り手の「受け手感度の想定と適切な情報量」が大切です。送受双方の感度が上手く合致し、かつ、適切な情報量(ページ数)の時に、人のあいだに意味ある情報として伝わると思います。

注)本稿では、意識、観点、主観など個人判断の基準となる感性全般を「感度」と記述します。

開発依頼者へMCU情報開示する際は、依頼者感度を想定、適切な量の資料作成が必須
開発依頼者へMCU情報開示する際は、依頼者感度を想定、適切な量の資料作成が必須

この伝わり方は、MCU開発者と開発依頼者間でも同じです。

MCU開発者が、依頼者へ情報提供する際は、依頼者感度を想定し、何を、どの程度伝えるか、適切な量の資料を作成すべきと思います。

受け手への情報量

ChatGPT騒動の記事には、技術的な参考資料や文献出所を記事途中に多く掲載するものもあります。

しかし、受け手が、一度に理解できる情報量や集中できる時間は、有限です。実例や簡潔な説明の方が、忙しい受け手や素人には、判り易いのも事実です。受け手の感度を想定した「情報量(ページ数)は、内容と同じぐらい重要」です。

つまり、過多な情報量は、受け手の内容理解の妨げになることもある訳です。

例えば、上司への報告書。忙しい上司から「報告書は1枚以内で提出」と言われた方も多いと思います。ページ数が多いと、上司は、初めから読まないことを暗に示しています。

最終章の「AIで記事を要約する(β)」ボタンでAIが自動生成する要約は、この人間特性も十分認識したうえで、適切な量の要約を作成します。

情報過多は、受け手の内容理解の妨げとなる
情報過多は、受け手の内容理解の妨げとなる

ChatGPT懸念情報

  • ChatGPTの安易な利用は禁物、2023年5月9日、日経XTECH
  • ChatGPTに懸念の声(英原文)、CIO Dive、2023年5月1日、IT Media(和訳)

ネガティブな情報の方が、ポジティブな情報よりもネット拡散し易く、印象に残り易いのかもしれません。ChatGPTのような革新的技術、AI関連技術に関しては、ネガティブ情報が圧倒的に多い気がします。

記事の書き手=送り手は、読者=受け手に読んでもらうことが目的です。ネガティブ記事タイトルの方が、読者や閲覧数が多い場合は、当然、ネガティブ記事が増えます。

ChatGPT期待情報

  • ChatGPTで人はもっと創造的になる、2023年5月9日、日経ビジネス

最近は、「AIで記事を要約する(β)」ボタンがある記事が増えました(実例、最終章参)。このボタンをクリックすると、記事内容が判り易く、しかも、適切な情報量で要約されます。

また、関連投稿でMCU分野FSPについてBingで質問したところ、正確で適切量のAI回答が得られました。

上記の使い方では、ChatGPTやAIは有益だと思います。ChatGPTを使うことでより創造的な時間が得られるという日経ビジネス記事に、筆者は賛同します。

ChatGPT利用は個人判断

厚生労働省は、2023年3月13日以降、COVID-19対策マスク着用の考え方を個人判断へ変えました。

国家機関がわざわざ個人判断を指示すること自体、欧米人は、奇妙に感じると思います。日本人特有の同調意識、他人と同じ感度を指向するからです。

マスク着用同様、ChatGPT利用も個人判断とすべきと思います。

ChatGPTやAI利用は個人判断とすべき
ChatGPTやAI利用は個人判断とすべき

判断のための情報収集は必要ですが、主体は個人、自分です。先ず、自分、つまり受け手のChatGPTやAIの使い方や感度を決めた上で、巷に溢れるChatGPTの情報を取集しないと、書き手、送り手の意見に左右されるだけになります。

筆者は、IoT MCU開発に使えるか否かという感度でChatGPT情報を収集しその結果、不明確なIoT MCU用語の質問に、ChatGPT利用は使えると判断しました。

Afterword:Bard日本語対応開始

2023年5月11日、Googleは会話型AIサービス、Bardの日本語対応を開始しました。これで、メジャーブラウザ、Microsoft Edge BingとGoogle Chrome Bard共に日本語でのAI回答の利用が容易になりました。

AIが適切な情報量で記事を要約するボタン
AIが適切な情報量で記事を要約するボタン

上記開始記事内に「AIで記事を要約する(β)」ボタンもあります(一回のみボタン押下げ可能)。各自で試してみてください。

本稿Summary内容が、具体的にご理解頂けると思います。

なお、BingとBardのAI回答の違いについては、コチラの記事が参考になります。



MCU開発に適すChatGPTの使い方

人間の質問に対し、AIが自然な回答を生成するChatGPT
人間の質問に対し、AIが自然な回答を生成するChatGPT

ChatGPT(Chat Generative Pre-trained Transformer)は、米)OpenAIが2022年11月に公開したAIチャットポットのことで、「生成可能な事前学習済み変換器」という意味です。人間の質問に対し、AIが自然な回答を生成します(Wikipediaより)。

MCU開発に、ChatGPTをどう活かすかについて私見を示します。

要約:MCU開発に適すChatGPTの使い方

  1. ChatGPTはMCU説明不足内容への質問、回答に使える
  2. ChatGPTは常に進化し続けるAIツールだが、MCUプログラミング適用は時期尚早
  3. AIが人類能力を超える予想の2045年シンギュラリティ前後ならMCU開発へ一部使える可能性あり

MCU製品開発の成功には、知識と経験が必要です。知識獲得の効率的ツールとして、現状のChatGPTは使えると思います。但し、AI回答をMCUプログラミングへ適用するには、現在はAIが未成熟です。

AIが十分に成熟し、人類能力を超えるSingularity(シンギュラリティ:技術的特異点、2045年と予想)近辺になれば、MCU開発へも使えるツールになる可能性はあると思います。

但し、AIがシンギュラリティを迎えても、開発MCU製品の顧客要求とMCU結合チューニングは、人間MCU開発者の経験が必須です。

ブラウザ検索との違い

知識獲得方法は、ブラウザ検索が一般的です。ブラウザ検索とChatGPTの違いを端的に説明しているのが、コチラのCNET Japan記事の冒頭部分です。

ブラウザ検索は、キーワードを入力し、関連性が高いサイトをリスト出力します。MCU開発者は、各サイトを閲覧し、その結果、知識を得ます。

一方、ChatGPTは、質問内容を入力し、AIが質問内容を分析後、大量のサイト情報から最も相応しいと「AIが思う回答」を自動生成します。

つまり、MCU開発者が、色々なサイトを閲覧する手間を省いて所望知識が得られる訳です。但し、AI生成回答が正しいか否かは、判りません。

そこで、Microsoft Bingを使って、ルネサスFSP(Flexible Software Package)を質問した時のAI生成回答を示します。注)FSPは、前投稿参照。

Microsoft Bingを使ってFSPを質問したChatGPT回答例
Microsoft Bingを使ってFSPを質問したChatGPT回答例

結構、的を射た回答をしていると思います。また、詳細情報に、関連サイトリンクもありますので、AI回答の正確さを質問者が検証することも可能です。

さらに、AIが想定する追加質問例もあります。現在Bing質問数は、1日に2000の上限がありますが、ブラウザ検索よりも効率的に、MCU説明不足内容を質問でき、回答を得ることができます。

注)ブラウザ検索では、複数サイトから得る情報の多様性があります。この多様性をノイズと考えるか否か、筆者個人は、多様性あり&最終回答を自分で考える方を好みます。

ChatGPTとMicrosoft Bing、Google Bard

ChatGPTもバージョンアップし最新版GPT-4は、大量の文章、大量の高性能コンピューターチップを使う巨大AIモデルです。OpenAI)CEO:サム・アルトマン氏は、AIのさらなる発展に新しい開発手法が必要だと語っています。

最新GPT-4を無料で使えるのが、前章のMicrosoft Bing、待機リスト登録で使えるのがGoogle Bardです。Bardは、現在日本語非対応のようです。

前章CNET Japan記事に、BingとBardのAI回答の違いが分析されています。

MCUコーディングの適用

上手く質問すれば、ChatGPTから、AIコーディング回答が得られます。しかし、それをそのまま実開発へ使えるかについては、いずれのサイトも現在懐疑的です。

筆者も、同じ考えです。

特に、MCUプログラミング(コーディング)は、他のPCソフトウェア開発やクラウドソフトウェア開発に比べ地味で、MCU開発者も少数派です。

ChatGPT活用コーディングは、今後益々盛んになるでしょう。その結果、ネットに、多数派ソフトウェア開発者の成功/失敗事例が多く掲載されます。AIは、これら事例を学習します。

これら多数派の事例をAIが十分学習した後、我々少数派MCUソフトウェア開発へ適用しても遅くはないと思います。その理由が、次章です。

AIコーディング進化時のMCU開発者経験とスキル

AIコーティング進化時のMCU開発者経験とスキル
AIコーディング進化時のMCU開発者経験とスキル

仮にChatGPTが、そのままMCU開発に使えるコーディングを正確に出力したとします。実はこれは、現在のMCUベンダ提供のサンプルコードに相当します。

つまり、ChatGPTの進化を待つまでもなく、現在でも単機能の正確動作コードは得られる訳です。ここが、多数派ソフトウェア環境と、MCUソフトウェアの大きく異なる点です。

MCUソフトウェアは、単体動作サンプルコードを、ベンダが多数提供済みです。

MCUソフトウェア開発者は、これら単体サンプルコードを、顧客要求やMCU性能に見合うように複数組合せ、期間内に上手く動作するよう製品化するのが、主な業務内容です。

例えば、低コストで性能制約も多いMCUを使い、単体コードの優先度設定や割込み処理設定を行い、複数コードを結合動作させるチューニングです。IoT MCUならば、RTOS対応やセキュリティ関連がチューニングに加わり、さらに複雑化します。

チューニングの幅は、顧客要求や適用MCU、製品の展開予定などにより大きく変わります。MCU開発者には、これら変化に即応できる開発経験やスキルが求められます。

例えシンギュラリティになっても、開発MCUの製品化、顧客要求とMCU結合チューニングは、AI任せにはできない「人間MCU開発者の腕の見せ所」になると思います。

つまり、この腕を磨いて人間MCU開発者も進化しましょう、と筆者は言いたい訳です。



STM32 Innovation Day 2021の歩き方

メタバース会場Mapとメニュー
メタバース会場Mapとメニュー

11月10日(水)から本投稿日12日(金)17時まで開催中のSTマイクロエレクトロニクス主催、オンライン・コンファレンスとAI、Security&Cloud、Ecosystem展示会場の歩き方を説明します。インターネット仮想空間:メタバースの移動方法です。

メタバース会場Mapと移動方法

ログインし会場入り口はこちらをクリックすると、表示されるのが最初の図、左下が会場Map、右上がメニューです。

Map内●が、現在位置:会場入り口、が、移動可能な6位置を示します。図中央の位置の移動や視点を変える方法は、Google Mapと同じ要領です。左下の+-△▽などでも移動可能です。メニューは、移動ショートカットです。

つまり、STM32 Innovation Day 2021会場が、インターネット上の仮想空間(メタバース:後述)で実現され、このメタバース内をGoogle Mapの方法を使って自由に移動するしくみです。

コンファレンスとバーチャル展示会

メタバース内は、ライブ配信のコンファレンスと、期間中いつでも入れる5か所のバーチャル展示会の2つから構成されます。

毎日13:00から17:00までのライブ配信コンファレンスは、日程の時のみコンファレンス内容が視聴可能です。一方、バーチャル展示会は、開催期間中は、24時間いつでも視聴ができます。

追記:各種資料(※基調講演および一部セッションを除く)は、11月30日(火)17:00までダウンロード可能なので、イベント開催期間中に参加できなかった方や、もう一度ご覧になりたい方は、利用できるそうです!

バーチャル展示会内操作

Product展示会の操作
Product展示会の操作

Product位置へ移動した例が上図です。「製品・デモ」をクリックすると、パネル内容に関する日本語説明員による動画、開発ボード説明やダウンロード資料などが入手できます。

つまり、現実の展示会と同じです。残り4か所の展示会へのGoogle Map移動が少し面倒ですが、各展示会とも同じ構成ですので楽しめます。位置移動は、ブラウザの戻る(履歴)や「MAP」クリックの方が簡単です。

アンケート回答でボードが当たるかも?

右下「退出する」クリックで示されるアンケートに答えると、大量370名に当たる開発ボードプレゼントキャンペーンが実施中です。もちろん、これら開発ボードは、前章の5展示会でその詳細が確認できます。ブラウザ履歴で展示会へ戻り、応募ボード内容を再確認するのも良いでしょう。

メタバース

メタバースとは、メタ (meta-) とユニバース (universe) の合成語です(Wikipediaより)。今回のSTM32 Innovation Day 2021では、アバターは使いませんが、今後は、自分のアバターと会場説明員アバターが登場し、技術解説や質問・回答を行うなど、現実世界をより仮想化した展示会やコンファレンスへ発展するかもしれません。

COVID-19の影響で、人の密集を避ける会議やイベントは、メタバースやアバター活用がトレンドです。一部ゲーマー向けだった高性能GPU搭載PCが、ビジネス分野へも普及するきっかけになります。PCやスマホ超高性能化が、MicrosoftやMeta(旧Facebook)の狙いでしょう。

IoT MCUとAI

ARM Cortex-Mコア利用のIoT MCU現状と、次のムーア則を牽引すると言われるAI(人工知能)の関係についてまとめました。

Cortex-Mコア、IoT/組込みデバイス主要ポジション堅持

ARMベースチップ累計出荷個数は1,800億個以上(出展:ニュースルーム、February 16, 2021)
ARMベースチップ累計出荷個数は1,800億個以上(出展:ニュースルーム、February 16, 2021)

2021年2月16日、英)ARM社は、ARMチップの2020年第4半期出荷が過去最高の67憶個、累計出荷個数1800憶個以上、Cortex-Mチップも4半期最高44憶個出荷で「IoT/組込みデバイス主要ポジション堅持」と発表しました(ニュースルーム)。

Cortex-Mチップの出荷内訳は不明ですが、Cortex-M4やCortex-M0+などコア別の特徴が解るARM社の解説は、コチラにあります(フィルタのProcessorファミリ>Cortex-Mを選択すると、提供中の全10種Cortex-Mコア解説が読めます)。

筆者は、セキュリティ強化コアCortex-M23/33/35P/55を除く汎用IoT/組込みデバイスでは、Cortex-M4/M0+コア使用数が急増していると思います。

関連投稿:Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分

半導体ムーア則、牽引はチップレット

ムーアの法則 次なるけん引役は「チップレット」、2021年2月16日、EE Times Japan

次のムーア則を牽引するAI処理能力(出典:AI Hardware Harder Than It Looks)
次のムーア則を牽引するAI処理能力(出典:AI Hardware Harder Than It Looks)

半導体製造プロセスを牽引してきたのは、PCやスマホでした。しかしこれからは、人工知能:AIで急増するAIデータ処理能力を実現するため、レゴブロックのようにコアの各モジュールを歩留まり良く製造・配線するチップレット手法が必要で、このチップレット、つまりAIが次の半導体ムーア則を牽引するというのが記事要旨です。

このチップレット手法で製造したIoT MCUやMPUへ、主にソフトウェアによるAI化は、シンギュラリティ後のAI処理量変化にも柔軟に対応できると思います。

関連投稿:今後30年の半導体市場予測

ルネサス:ハードウェアアクセラレータコアCNN(Convolutional Neural Network)

ルネサスのCNNアクセラレータ(出典:ニュースルーム)
ルネサスのCNNアクセラレータ(出典:ニュースルーム)

2021年2月17日、ルネサスは、世界最高レベルの高性能/電力効率を実現するディープラーニング性能を持つCNNアクセラレータコアを発表しました(ニュースルーム)。これは、主にハードウェアによるAI化の例です。

ADAS実現に向け、性能と消費電力を最適化した車載用コアです。このコアに前章のチップレット手法を使っているかは不明です。3個のCNNと2MB専用メモリの実装により、60.4TOPS(Tera Operations Per Second)処理能力と13.8TOPS/W電力効率を達成しています。

車載で実績を積めば、IoT MCUへも同様のハードウェアアクセラレータが搭載される可能性があります。

まとめ

凸版印刷社は、画像認識AIを活用し、古文書の“くずし字”を解読支援するツールを開発しました(2021年2月16日、IT media)。このように、AIは、半導体技術のムーア則だけでなく、IoT MCUアプリケーションや人間生活に浸透し、牽引しつつあります。

エッジAIをクラウド接続IoT MCUへ実装する理由は、クラウドAI処理とクラウド送信データ量の両方を軽減することが狙いです。AI処理をエッジ側とクラウド側で分担しないと、チップレット手法を用いて制御チップを製造できたとしても、コスト高騰無しに急増するAIビックデータ処理を実現することが不可能だからです。

IoT MCUのエッジAIが、ソフトウェアまたはハードウェアのどちらで処理されるかは判りませんが、必須であることは確実だと思います。実例を挙げると、STマイクロエレクトロニクスは、既にSTM32Cube.AIにより汎用STM32MCUへAI/機械学習ソフトウェアの実装が可能になっています。

今後30年の半導体市場予測とルネサス動向

Runesas

半導体不足が騒がれています。これがCOVID-19の一時的なものか否かが判る下記記事と、最新のルネサスエレクトロニクス動向を関係付け、今後のMCU開発について考えました。

2050年までの半導体市場予測~人類の文明が進歩する限り成長は続く、2021年1月14日、EE Times Japan

今後30年の半導体市場予測

本ブログ読者は、殆どが現役の「日本人」MCU開発者です。定年退職が何歳になるかは分かりませんが、上記記事の2050年まで、つまり、今後30年の半導体市場予測は、在職中のMCU開発を考える上で丁度良い時間の長さです。

予測ですので、大中小のシナリオがあります。我々開発者にも解り易い結論だけをピックアップすると、概ね下記です。

  • 今後、先進国と新興国中間層人口は、COVID-19で人類滅亡しない限りそれぞれ5億人/10年で増加し、2050年に先進国が30億人、新興国中間層が40億人、貧困層が20~30億人の人口ピラミッド構成へ変遷
  • 1人年間の半導体消費量は、先進国が150ドル、新興国中間層が75ドル
  • 2050年の半導体市場は、2010年比2.5倍の7500憶ドルへ成長

ルネサス動向

英)Dialog買収車載半導体改良「AI性能を4倍に」など、SoCアナログ機能増強、ADAS実現やIoTに向けた動きが、2021年になってからのルネサス最新動向です。

これら動向の結果が出るまでには、年単位の時間が必要です。しかし、前章の2050年半導体市場2010年比2.5倍へ向けての行動の1つとすると、なぜ今か(!?)という疑問に対して、理解できます。

2倍化MCU開発

2倍化MCU開発

MCUも半導体の1つです。半導体市場が増えれば、それらを制御するMCU量も増えます。2010年比2.5倍なら、現在の2倍程度MCU開発も増えると思います。

従来と同じ人員と開発方法では、量が2倍になれば、2乗の4倍の労力が必要になります。新しい手法やその効率化なども導入する必要がありそうです。ルネサス同様、今スグに着手しなければ乗り(登り)遅れます。

使用した半導体の貴金属部分はリサイクルされますが、搭載ソフトウェアやハードウェアパターンは回収されずに消費されます。開発物の資産化、最新プロセスで大容量Flash搭載の新開発MCU、新開発手法にスグに対応できるMCU開発者が生き残るかもしれません。

関連投稿:開発者向けMCU生産技術の現状

MCU利用者

先進国だけでなく、新な対象として新興国中間層へもMCU利用者が広がります。新興国中間層は、先進国よりも10億人も多い予想で、1人当たりはより低コスト半導体(=MCU開発)が求められます。

この新興国中間層向けのMCUアプリケーションを検討するのも良いかもしれません。

2045年のシンギュラリティ

Singularity:和訳(技術的特異点)は、人類に代わって人工知能:AIが文明進歩の主役になることです。

最初の記事にも、2045年と言われるシンギュラリティは、一層半導体市場を広げる可能性があるとしています。IoT MCUにもエッジAIが組込まれるなど、今後のMCU開発もAI化は必然です。



NXPの日本市場位置づけと事業戦略

6月5日投稿NXPのFreeMASTERの最後の章で紹介したNXP新CEO)カート・シーヴァーズ(Kurt Sievers)氏へのEE Times Japanインタビュー記事が16日掲載され、NXPの日本市場位置づけと事業戦略が語られました。

  • 日本の自動車関連企業との強固な関係は、一層強める
  • 日本の産業・IoT関連企業との関係は、自動車関連企業と同様、強い関係を構築していく
  • 日本のロボティクス企業とNXPのエッジコンピューティング技術の親和性は良く、ともに成長できる

本ブログの投稿は、MCUソフトウェア開発者向けが多いです。が、今回はNXPビジネスをピックアップします。というのは、多くの開発者が使っているWindows 10の今後を考えるには、Microsoftビジネスを知る必要があるのと同じ理由です。NXPビジネスを知って、MCUの将来を考えます。

以下、2020年5月のNXP semiconductors corporate overview抄訳バージョンを使います。※EE Japan記事もこのNXP資料を使っています。

NXPターゲット4市場

NXPのターゲットは、P8記載のオートモーティブ、インダストリアル&IoT、モバイル、通信インフラストラクチャの4市場です。そして、これらを包括的にサポートする半導体デジタル/アナログ技術である、Sense、Think、Connect、Act全てをNXPは提供中です。

NXPのターゲット4市場(出典:NXP semiconductors corporate overview)
NXPのターゲット4市場(出典:NXP semiconductors corporate overview)

NXPの提供する半導体デジタル/アナログ技術(出典:NXP semiconductors corporate overview)
NXPの提供する半導体デジタル/アナログ技術(出典:NXP semiconductors corporate overview)

NXPの提供するフルシステムソリューション(出典:NXP semiconductors corporate overview)
NXPの提供するフルシステムソリューション(出典:NXP semiconductors corporate overview)

NXPの強み

NXPの強みは、ユーザである我々開発者へ、半導体技術をもれなく提供できることだと筆者は思います。この分野は近い将来、セキュア/セキュリティ無しでは存在しえません。ネットワークで繋がり、セキュリティが弱い箇所が一か所でもあれば、全てが使えなくなる危険性があるからです。

例えインタフェースが確立されていても、技術同士を接続すると、上手く動作しないことはよくあります。※俗に相性問題などとWindowsでは言われます。

全技術を他社より先に提供するNXP同志の技術接続は、競合他社間の技術接続より容易、低リスクであることは明らかです。後追いの競合他社は、差別化の特徴を持たないと生き残れず、この特徴が逆に他社との接続障害になることもあります。

P12に記載されたように技術単独では存在意味が弱く、各技術がセキュアに繋がって初めてソリューションとしての市場価値が生まれます。

EE Japan Times記事によると、AI関連技術は、NXPで独自開発を行うとともにM&Aも検討中のようです。このように、選択と集中、差別化戦略ではなく全ての半導体技術を開発し、ユーザである開発者へ提供できることがNXPの強みだと思います。

エッジコンピューティングMCUの将来

PC → スマホ → MCUへとセキュリティや半導体技術をけん引してきたデバイスは変わりつつあります。

COVID-19パンデミックで経済活動が停止したのは、コロナワクチンが無いからです。半導体製品にサイバー攻撃があった時、対応ワクチンや追加のセキュリティがThink主役のMCUへ必要となります。

これらからMCUは、今後さらなるセキュリティ実装やWiFi-6などの新しい無線LAN規格への対応など、より高性能化、低消費電力化へ進むと思います。NXPは台湾TSMCの5nm製造プロセスを次世代自動車用MCUに使う(2020/6/12)ことを明らかにし、実現へ向けてスタートしています。

NXP日本市場位置づけ、事業戦略、開発者の対策

以上のNXP概要を見たうえで、最初に示した日本市場位置づけ、事業戦略を振り返ると、NXPの提供する広範囲な半導体技術を自動車、産業機器、ロボティクスへ適用していくことがより解ると思います。

我々開発者は、NXP製品の第1次利用者です。MCU開発者は、次々に導入される新しい技術を焦ることなく効率的に習得・活用し、開発製品へ応用しましょう。そして、我々の製品利用者(NXP製品の第2次利用者)へ新しい価値を提供できるよう努めましょう。

EE Japan Times記事に記載はありませんが、残念ながら日本市場の相対的地位は、低下しつつあります。また、パンデミック再来に備え、開発者個人のスキルアップや自己トレーニング重要性も再認識されたと思います。より広く・早い開発技術の習得が、MCU開発者には必要となるでしょう。

Windows 10の将来

市場に溢れるWindows 10情報は、トラブル対策のものが殆どで、MicrosoftのOSビジネス情報は見当たりません。ただ、ここ数年のWindows 10状況は、最終PC利用者の価値を高めるというよりも、Windowsブロガへの記事ネタを増やすことに役立っています。

このWindows現状を、Microsoftがどのように回復するのか知りたいです。ビジネスなので、利益なしの解はありません。しかし、安心してWindows 10が使えないなら、PCのOSは、安定感のあるiOSやLinuxへ変わるかもしれません。

アプリケーションのマルチプラットフォーム化や、WindowsアプリケーションでもiOSやLinux上でそのまま動作する環境も整いつつあります。折しも、32ビットPC OSは、2020年で終焉を迎えようとしています。ハードウェア起因ならまだしも、ソフトウェア、特にOS起因の生産性低下は、許されないと思います。

MCUのAI機能搭載

スマホの顔/指紋認証や、写真の高度処理などにAI機能(機械学習)が搭載され始めています。本稿は、AI機能搭載プロセッサ最新記事からルネサスマイコン:MCU関連を抜き出し、さらに、STマイクロエレクトロニクスのコード生成ツールSTM32CubeMXに追加されたAI機能拡張パックSTM32Cube.AIを紹介します。

ルネサスMCU AI機能の現状

2019年1月10日のEE Times Japanに、“2019年も大注目! 出そろい始めた「エッジAIプロセッサ」の現在地とこれから”が掲載されました。

MCUだけでなく、スマホ、車載などAI機能を処理するプロセッサ全般の現状分析と今後について、分かりやすく解説されています。AI機能の搭載は、一過性ブームではなくADAS(先進運転支援システム)やセキュリティなど更に多くの処理へ適用されると予想しています。

この記事で、昨年本ブログ投稿のRZファミリ搭載「DRP(Dynamically Reconfigurable Processor)」の現状(図1)と、7nm製造プロセス換算での性能比較(図5)が示されています。

関連投稿:NXPとルネサスのMCU開発動向、ルネサスのMCU開発動向の章

図1:AIプロセッシングを実行する演算器の関係(出典:テカナリエレポート)
図1:AIプロセッシングを実行する演算器の関係(出典:テカナリエレポート)

図5:7nmプロセスで製造した場合の性能(出典:カタリナレポート)
図5:7nmプロセスで製造した場合の性能。小さい程高性能。(出典:カタリナレポート)

日本オリジナルのルネサスAI IPが、公表通り推論処理能力1000倍の開発ロードマップで進めば、低コスト/低電力なMCU AI機能が実現できそうです。RZだけでなく、RL78やRX MCUへの搭載も期待します。

STM32CubeMXにAI機能拡張パックを提供

STMのコード生成ツールSTM32CubeMX version 5.0.1以降から、AI機能実装の拡張パックSTM32Cube.AIが2019年1月3日に発表されました。

Cortex-M4クラスの低電力MCUが前提ですが、ニューラルネットワークを使ったHuman Activity Recognition:人間活動認識(HAR)や、Acoustic Scene Classification:音響シーン分類(ASC)のアプリケーションに適しているそうです。

Human Activity Recognition (HAR)(出典:Neural Networks on the STM32)
Human Activity Recognition (HAR)(出典:Neural Networks on the STM32)

Audio Scean Classification (ASC)(出典:Neural Networks on the STM32)
Audio Scean Classification (ASC)(出典:Neural Networks on the STM32)

MCU AI機能の搭載

現状は、ルネサスはRZ、STMはCortex-M4と高性能MCUがAI機能の対象デバイスです。

例えば、スマホで指紋認証時、本人なのに認証されないとイラッ😡ときます。安全側評価で仕方がないとは思いますが、リアルタイムで結構な処理を行っているのでしょう。例外処理で、カメラ起動などは認証なしで動作させるなどの工夫が見られます。

AI機能は、このように相手が人間なだけにリアルタイムで高負荷な処理になります。MCUへのAI機能搭載は、このかなり高いハードルをこなせる処理能力が必要です。記事にもあるように、プロセス微細化による低コスト/低電力化や、開発環境を含めたベンダー側の対応が普及の鍵になるでしょう。

個人的には、AI機能の「アプリケーションレベルでのライブラリ化」を望みます。ベンダー側でMCU処理能力に応じてライブラリ内部を工夫し、開発者である我々は、MCU選択でAI機能レベル(誤認識率、深層解析能力など)も選択できれば嬉しいですね😁。