MCUプロトタイプ開発のEMS対策とWDT

ノイズや静電気によるMCU誤動作に関する興味深い記事がEDN Japanに連載されました。

どのノイズ対策が最も効果的か? EMS対策を比較【準備編】、2019年10月30日
最も効果的なノイズ対策判明!  EMS対策を比較【実験編】、2019年11月29日

EMS:(ElectroMagnetic Susceptibility:電磁耐性)とは、ノイズが多い環境でも製品が正常に動作する能力です。

MCUプロトタイプ開発時にも利用すべきEMS対策が掲載されていますので、本稿でまとめます。また、ノイズや静電気によるMCU誤動作を防ぐ手段としてWDT:Watch Dog Timerも説明します。

実験方法と評価結果

記事は、インパルスノイズシュミレータで生成したノイズを、EMS対策有り/無しのMCU実験ボードに加え、LED点滅動作の異常を目視確認し、その時点のノイズレベルでEMS対策効果を評価します。

評価結果が、11月29日記事の図5に示されています。

結果から、費用対効果が最も高いEMS対策は、MCU実験ボードの入力線をなるべく短く撚線にすることです。EMS対策用のコンデンサやチョークコイルは、仕様やパーツ選定で効果が左右されると注意しています。

MCUプロトタイプ開発時のお勧めEMS対策

MCUプロトタイプ開発は、ベンダ提供のMCU評価ボードに、各種センサ・SWなどの入力、LCD・LEDなどの出力を追加し、制御ソフトウェアを開発します。入出力の追加は、Arduinoなどのコネクタ経由と配線の場合があります。言わばバラック建て評価システムなので、ノイズや静電気に対して敏感です。

このMCUプロトタイプ開発時のお勧めEMS対策が下記です。

1.配線で接続する場合は、特に入力信号/GNDのペア線を、手でねじり撚線化(Twisted pair)だけで高いEMS効果があります。

身近な例はLANケーブルで、色付き信号線と白色GNDの4組Twisted pairが束ねられています。このTwisted pairのおかげで、様々な外来ノイズを防ぎLANの信号伝達ができる訳です。

信号とGNDの4組Twisted pairを束ねノイズ対策をするLANケーブル
信号とGNDの4組Twisted pairを束ねノイズ対策をするLANケーブル

2.センサからのアナログ入力信号には、ソフトウェアによる平均化でノイズ対策ができます。

アナログ信号には、ノイズが含まれています。MCU内蔵ADCでアナログ信号をデジタル化、複数回のADC平均値を計算すればノイズ成分はキャンセルできます。平均回数やADC周期を検討する時、入力アナログ信号が撚線と平行線では、2倍以上(図5の2.54倍より)のノイズ差が生じるので重要なファクターです。従って、撚線で検討しましょう。
平均回数やADC周期は、パラメタ設定できるソフトウェア作りがお勧めです。

3.SWからの入力には、チャタリング対策が必須です。数ミリ秒周期でSW入力をスキャンし、複数回の入力一致でSW値とするなどをお勧めします。
※弊社販売中のMCUテンプレートには、上記ADCとSWのEMS対策を組込み済みです。

4.EMS対策のコンデンサやチョークコイルなどの受動部品パーツ選定には、ベンダ評価ボードの部品表(BOM:Bill Of Matrix)が役立ちます。BOMには、動作実績と信頼性がある部品メーカー名、型番、仕様が記載されています。

ベンダMCU評価ボードは、開発ノウハウ満載でMCUハードウェア開発の手本(=ソフトウェアで言えばサンプルコード)です。

特に、新発売MCUをプロトタイプ開発に使う場合や、MCU電源入力ピンとコンデンサの物理配置は、BOM利用に加え、部品配置やパターン設計も、MCU評価ボードを参考書として活用することをお勧めします。
※PCB設計に役立つ評価ボードデザイン資料は、ベンダサイトに公開されています。

MCU誤動作防止の最終手段WDT

EMS対策は、誤動作の予防対策です。EMS対策をしても残念ながら発生するノイズや静電気によるMCU誤動作は、システムレベルで防ぐ必要があります。その手段が、MCU内蔵WDTです。

WDTは、ソフトウェアで起動とリセットのみが可能な、いわば時限爆弾です。WDTを一旦起動すると、ソフトウェアで定期的にリセットしない限りハードウェアがシステムリセットを発生します。従って、ソフトウェアも再起動になります。

時限爆弾を爆発(=システムリセット)させないためには、ソフトウェアは、WDTをリセットし続ける必要があります。つまり、定期的なWDTリセットが、ソフトウェアの正常動作状態なのです。

ノイズや静電気でMCU動作停止、または処理位置が異常になった時は、この定期WDTリセットが無くなるため、時限爆弾が爆発、少なくとも異常状態継続からは復帰できます。

このようにWDTはMCU誤動作を防ぐ最後の安全対策です。重要機能ですので、プロトタイプ開発でもWDTを実装し、動作確認も行いましょう。

※デバッグ中でもWDTは動作します。デバッグ時にWDT起動を止めるのを忘れると、ブレークポイントで停止後、システムリセットが発生するのでデバッグになりません。注意しましょう!

SW4STM32アプリケーションのSTM32CubeIDE移設

SW4STM32で開発した2017年9月発売STM32Fxテンプレートと2019年6月発売STM32G0xテンプレートを、STM32MCU最新統合開発環境STM32CubeIDE v1.1.0へ移設しました。

移設は成功し、STマイクロエレクトロニクス最新統合開発環境:STM32CubeIDE v1.1.0(以下、CubeIDE)、STM32CubeMX v5.4.0(以下、CubeMX)、最新ファームウェアと弊社テンプレートを使って、効率的で最新のSTM32MCUプロトタイプ開発、アプリケーション開発ができます。

本稿は、STM32CubeIDE v1.1.0更新と文字化け対策投稿(その1)、(その2)のその3に相当します。説明が重複する箇所は、リンク先を参照してください。

移設成功結果

G0AdcTemplateのSTM32CubeIDE移設成功結果
G0AdcTemplateのSTM32CubeIDE移設成功結果

STM32Fxテンプレートは「ひと手間」、STM32G0xテンプレートは「そのまま」で最新統合開発環境へ移設でき、評価ボードにてテンプレート動作を確認しました。G0AdcTemplateのCubeIDE移設後と評価ボード動作例です。

既にSTM32Fx/G0xテンプレートご購入者様は、本稿の方法で最新STマイクロエレクトロニクス開発環境へ乗換えることができます。

※現状のCubeMX v5.4.0でコード生成後、CubeIDE v1.1.0の日本語コメントは文字化けしますので注意してください(詳細は、投稿その2参照)。

最新開発環境ファームウェアとアプリケーション開発時ファームウェア

最新開発環境ファームウェアとテンプレート開発時ファームウェア
最新開発環境ファームウェアとテンプレート開発時ファームウェア

投稿その2で示したように、MCU開発ソフトウェア(=アプリケーション)に最も影響を与えるのは、ファームウェア更新です。

STM32FxテンプレートのF0用ファームウェアFW_F0は、開発当時のv1.8.0からv1.11.0へ、F1用ファームウェアはv1.4.0からv1.8.0へ、G0用ファームウェアFW_G0はv1.2.0からv1.3.0へそれぞれ更新されています。
※STM32G4テンプレートは、これから開発着手しますので最新のv.1.1.0のままです。

次章3から5章までを使って、STM32F1テンプレート:F1BaseboardTemplateを例に、当時の開発環境から最新開発環境への移設作業、ファームウェア変更、トラブルシューティングを「詳細に説明」します。但し、結果として行う処理は、6章まとめに示す簡単なものです。途中の章は読み飛ばしても構いません。

開発済みMCUアプリケーションを暫くたってから更新、または本稿のようにIDE自体が変わり最新開発環境へ移設することはよくあります。F1BaseboardTemplateをお持ちでない方も、(手前みそですが)次章から5章の内容は参考になると思います。

ファームウェア更新でコンパイルエラー発生:3章

先ず、ファームウェア起因のコンパイルエラーが発生するまでを示します。

1.SW4STM32で開発したF1BaseboardTemplateプロジェクトをCubeIDEへインポートします(インポート方法は、投稿その1-3章参照)。インポートソースコードの日本語コメントに文字化けが発生しますので、その1で示したShift-JISからUTF-8へのエンコード変換で解決します。

2.インポート済みのCubeMXプロジェクトファイルを、CubeIDEプラグイン版CubeMXで開き、Project Managerタブをクリックし、Toolchain/IDEがSTM32CubeIDEであることを確認します。インポートIDE変換が成功していれば、SW4STM32から自動的にSTM32CubeIDEへ変わっているハズです。

SW4STM32プロジェクトインポート後、プラグイン版STM32CubeMXで開いたプロジェクトファイル
SW4STM32プロジェクトインポート後、プラグイン版STM32CubeMXで開いたプロジェクトファイル

ファームウェアは、最新版STM32Cube FW_F1 V1.8.0になっています。そのままProject>Generate Codeをクリックし、コード生成を実行します。

3.CubeIDEへ戻ると、(デフォルトの自動コンパイル設定だと)Lcd.cなど数か所に赤下線のコンパイルエラーが発生します。

ファームウェア起因のコンパイルエラー(赤下線)
ファームウェア起因のコンパイルエラー(赤下線)

例えば、L236のLCD_EN_Pinは、CubeMXでGPIO_PIN_8をUser Label付けしたものです。LCD_EN_Pinへカーソルを持っていき、F3をクリックすると、定義ファイルmain.hのL103へ飛び、User Label付けは問題ないことが判ります。この段階では、コンパイルエラー原因は不明です。

4.コンパイルエラーがファームウェア起因かを確認するため、ファームウェアだけをFW_F1 V1.8.0からF1BaseboardTemplate 開発当時のFW_F1 V1.4.0へ戻します。但し、CubeIDE「プラグイン版CubeMX」は、ファームウェアを旧版へ戻す機能がありません。そこで、「スタンドアロン版CubeMX」を使ってファームウェアをFW_F1 V1.4.0へ戻し、再度コード生成を行うと、コンパイルエラーは発生しません。
※スタンドアロン版CubeMXでファームウェアを元の版数へ戻す方法は、4章で説明します。

以上の作業で、コンパイルエラー原因は、ファームウェア起因であることが判りました。

STM32CubeMXコード生成ファームウェア変更方法:4章

トラブルシューティングの前に、CubeMXでコード生成ファームウェア版数を変える方法を示します。CubeMXは、旧版ファームウェアをRepositoryフォルダへ自動保存し、いつでも旧版へ戻せる準備をしています。

1.スタンドアロン版CubeMXのProject Managerクリックで表示されるダイアログ一番下のUse Default Firmware Locationの☑を外し、BrowseクリックでRepositoryフォルダ内の旧版ファームウェア:STM32Cube_FW_V1.4.0を選択します。

スタンドアロン版STM32CubeMXでファームウェア版数を変える方法
スタンドアロン版STM32CubeMXでファームウェア版数を変える方法

2.そのままCubeMXでコード生成を実行すると、ファームウェア版数のみを変えたソースコードが生成されます。

※CubeIDEプラグイン版CubeMX(2つ前の図)は、Use Default Firmware Location自体有りません。つまり、最新ファームウェアでのみコード生成が可能です。
※CubeMXのGenerate Reportは、コード生成時の各種パラメタをPDF形式で出力する優れた機能です。しかし、肝心のコード生成ファームウェア版数が現状では出力されません。PDF出力へ手動で使用ファームウェア版数を追記することをお勧めします。

トラブルシューティング:5章

3章コンパイルエラー発生後、つまり最新ファームウェアFW_F1 V1.8.0でのコード生成後からトラブルシューティングします。

1.CubeIDEのエラーメッセージは、Symbol ‘LCD_EN_Pin’ could not be resolvedです。main.hで定義済みなので、なぜresolveできないのか不可解です。

2.そこで、Lcd.cの#include関連を見ると、#include “UserDefine.h”はあります。
※弊社テンプレートは、UserDefine.hでツール生成以外の全てのユーザ追加定義を記述し、全ソースファイルへincludeする方式を用いています。
※一方、CubeIDEは、CubeMXで生成するmain.cソースファイル1つへ、全ての制御を記述する方式を用いています。小規模なサンプルプロジェクトなどでは、解り易い方法です。
※但し、規模が大きくなると、ソースファイルを機能毎に分離し、ファイル単位の流用性やメンテナンス性を上げたくなり、弊社は、このファイル分離方法をテンプレートに採用中です。

3.UserDefine.hに、#include “main.h”の1行を追加します。

UserDefine.hへ#include "main.h" 追加
UserDefine.hへ#include “main.h” 追加

4.Clear Project後、Build Projectでコンパイルエラーは解消し、コンパイル成功します。評価ボード:STM32F103RBでF1BaseboardTemplate の最新開発環境での正常動作確認ができます。

最新ファームウェアは、全てのユーザ追加ソースファイルに、#include “main.h”が必須なことがトラブル原因でした。

最新開発環境への移設まとめ:6章

2017年9月にSW4STM32で開発完了したSTM32Fxテンプレートは、UserDefine.hに、#include “main.h”追記で、2019年11月STM32MCU最新開発環境:STM32CubeIDE v1.1.0、STM32CubeMX v5.4.0、STM32Cube FW_F1 V1.8.0/FW_F0 V1.11.0へ移設できます。

2019年6月にSW4STM32で開発完了したSTM32G0xテンプレートは、なにもせずに、2019年11月最新開発環境:STM32CubeIDE v1.1.0、STM32CubeMX v5.4.0、STM32Cube FW_G0 V1.3.0へ移設できます。
※STM32G0xテンプレートは、初めからUserDefine.hに、#include main.hが追記済みです。

Build Analyzer

SW4STM32からCubeIDEへ移設後、最初に目に付くIDE画面の差分は、ビルド成功時、右下表示のBuild Analyzerだと思います。

STM32CubeIDEのBuild Analyzer
STM32CubeIDEのBuild Analyzer

最初の図で示したG0AdcTemplate移設後のCubeIDE Build Analyzerを示します。RAM、FLASH使用率が一目で解ります。その他のIDE画面や操作は、旧SW4STM32と殆ど同じです。

Serial Console

CubeIDEは、Serial Console画面を持っています。従来環境では別途必要であったVirtual COM Port (VCP)用のTera Termなどのツールが不要となり、IDEだけでVCP入出力が確認できます。高まるVCP重要性が最新IDEへ反映されたと思います(関連投稿:STLINK-V3の4章)。

但し、バックグラウンドが、Tera Termの黒からSerial Console画面では白になったため、テンプレートで用いたVCP出力文字色を、デフォルトの白から黒へ変更した方が見易いです。この色変更後のSerial Consoleが下図右側です。

TeraTerm画面とSTM32CubeIDEのSerial Console画面
TeraTerm画面とSTM32CubeIDEのSerial Console画面

最新開発環境移設の課題と対策、テンプレート改版予定

現状のCubeIDE v1.1.0は、コード生成後、日本語コメントに文字化けが発生します。また、エディタタブ幅が2のまま変更できません。これら以外にも細かな不具合があります。このままでは、筆者には使いにくいIDEです。一方、Build AnalyzerやSerial Consoleは、とても役立ちます。
CubeIDEプラグイン版CubeMX v5.4.0は、Repository旧ファームウェアへの変更機能が無く、最新ファームウェアのみ利用可能です。

これら移設課題に対して、投稿その1から本稿で対策を示しました。

現状は、従来SW4STM32からCubeIDEへの「IDE移設過渡期」です。筆者は暫く両IDEを併用するつもりです。そして、新環境の使いにくい箇所が解消された時点でCubeIDEへ完全移設し、同時に汎用MCU第2位、シェア20%超のSTM32MCU向けテンプレートとしてSTM32FxテンプレートとSTM32G0xテンプレートを、本稿変更などを加え最新開発環境対応へ全面改版する予定です。

既に弊社テンプレートをお持ちの方や全面改版を待てない方は、まとめ6章の方法で移設可能です。但し、投稿その2で示した多くのリスクがありますのでお勧めはしません、自己責任で行ってください。

なお、新開発のSTM32G4テンプレートは、初めから最新CubeIDE、CubeMXで開発着手します。

*  *  *

STマイクロエレクトロニクスのSTM32CubeIDE v1.1.0改版により、旧SW4STM32開発アプリケーションを新環境へ移設する連続3回の投稿、いかがでしたでしょうか? 詳細説明がリンク先となり、筆者にしては長文投稿でしたので、解りづらかったかもしれません😌。

IoTによりMCU開発環境は、より急ピッチで変わります。最新デバイスと最新API利用が、その時点で最も効率的で優れたMCUアプリケーション開発手段です。環境急変にも柔軟対応できる開発者が求められます。

最新開発環境に上記のような課題が多少あっても、従来SW4STM32開発済みアプリケーションの最新STM32CubeIDE移設は、6章で示した1行追記のみで成功しました。

但し、顧客や管理者の方には、開発環境更新、移設の危うさや開発者の心理的負担、何よりもそれらへの対応時間は、あまり表に出てこない部分、また移設してみて初めて判る部分で理解されづらいものです。

本稿がMCUアプリケーション顧客、管理者、開発者の方々のご参考になれば幸いです。

P.S:2019年11月12日、2か月遅れでWindows 10 1909配布が始まりました。年2回のWindows 10大型更新トラブル話は多数あります。MCU開発環境は、年2回どころか度々更新されます。開発者は、その度にトラブル対処をしているのです👍。ちなみに本稿は、全てWindows 10 1903での結果です。

STM32CubeIDE v1.1.0更新と文字化け対策(その2)

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)の統合開発環境:STM32CubeIDEが、v1.1.0に更新され、前投稿:その1では、従来SW4STM32プロジェクトをSTM32CubeIDEインポート時の日本語文字化け対策と、最新STM32MCU開発環境を示しました。

その2では、最新開発環境での文字化けと、開発環境更新リスク、ファームウェア更新へのリスク対応案について示します。

最新開発環境の文字化け

2019年11月時点のSTM32MCU最新開発環境と、IDEのみ従来のSW4STM32を使ったソフトウェア開発環境が下図です。

STM32MCU最新開発環境
STM32MCU最新開発環境

その1で示したSW4STM32プロジェクトインポート時のSTM32CubeIDEソースコード文字化けは、Shift-JISからUTF-8への手動エンコード変換で解決しました。

今回指摘する問題は、最新環境であってもSTM32CubeMX(以下、CubeMX)でコード再生成すると、STM32CubeIDE(以下、CubeIDE)ソースコードに日本語文字化けが発生することです。

このCubeMX起因の文字化けは、新規CubeIDEプロジェクト作成でも発生します。つまり、CubeIDEでプロジェクトを新規作成しmain.cへ日本語コメントを入力、次に生成済みCubeMXプロジェクトファイルを開き初期化コードを生成、CubeIDEへ戻ってmain.cを見ると日本語コメントに文字化けが発生します。
※スタンドアロン版、プラグイン版両方のCubeMXを試し、また、表示フォントもいろいろ変更しましたが、文字化けが発生します。対策がお判りの方は、教えてください😌。

もちろん、英語でコメント記入すれば問題はありません。日本語コメントの場合のみです。

一方、従来IDEのSW4STM32へCubeMX出力の場合には、文字化け無しです。ソースコードへ日本語コメントを追記する筆者のような方は、文字化け発生が解消されるまでは、SW4STM32とCubeIDE併用が良いかもしれません。

開発環境更新リスク

MCU開発ソフトウェア(=アプリケーション)への影響が一番大きいのは、ファームウェア:FW_F0/F1/G0/G4更新です。統合開発環境:CubeIDEやコード生成ツール:CubeMXの更新は、操作性や見た目へ変化を与えますが、アプリケーションそのものへの影響は、少ないです。

MCUアプリケーション開発は、STM32MCUに限らずベンダ提供API:Application Programming Interfaceのユーザ開発アプリケーションによる操作です。ファームウェア更新は、このベンダ提供APIのバグ取りや、新デバイス追加に関連するものが一般的です。開発済みユーザアプリケーションの場合は、デバイスは変わらないので、ファームウェア更新による影響があるのは使用中APIです。

従って、開発したアプリケーションの使用APIが変わらなければ、ファームウェア更新は問題ないハズです。

ところが、稀にファームウェア更新により正常に動作していたAPIにも影響が生じトラブルが発生することがあります。ファームウェア更新には、このリスクがあることも知っておきましょう。
※このリスク対策としてCubeMXは、旧版ファームウェアをRepositoryフォルダへ保存し、いつでも旧版へ戻せる準備をしています。

ベンダAPI、つまりファームウェア互換性には期待しない方が無難です。

理由は、最新ベンダMCU製造プロセス(=ハードウェア)、WindowsなどのパソコンOS、ベースのEclipse IDE、ARM CMSISなどのアプリケーション下層の更新、などなど様々なバージョンアップの組合せ結果が、ベンダAPI更新や刷新となるからです。

ベンダAPI互換が、既存ユーザにとっては理想です。しかし、元々非力なMCU能力を、従来API互換へ使うよりも、むしろファームウェア更新時点で、MCU能力を最も引き出すAPIへ使い、新規ユーザへアピールしたいとベンダが判断してもやむを得ないと思います。
※高性能MPU/GPUでさえAPI互換が無いことがあります。APIとは、そういうものだと割切って、例えAPIが変わっても柔軟に対応できるソフトウェア開発者が求められるのかもしれません。

ファームウェア更新リリースノートに、このAPI互換性の詳細説明を求めるのは、多分無理です。既存ユーザは、開発環境、特にファームウェア更新に関しては、慎重に対処すべきだと思います。

MCUアプリケーションは、開発完了時の開発環境依存度が非常に高いソフトウェアです。

最新デバイスと、最新APIの組合せが、その時点で最も効率的で優れたMCUアプリケーション開発手段と言えます。
※ルネサスのCS+には、アプリケーション開発完了時の開発環境を、一括圧縮保存する便利機能があります。Eclipse IDEにもプラグインで同様の機能を追加できると思います。

ファームウェア更新リスク回避策

筆者が考えるMCUアプリケーション開発に対するファームウェア更新リスクの回避策が、下記です。

MCUアプリケーション開発に対するファームウェア更新リスク
MCUアプリケーション開発に対するファームウェア更新リスク
  1. ユーザ開発アプリケーションが顧客システムで稼働中、しかもバグなどの問題が無い場合は、あえて前章リクスがあるファームウェア更新はしない
  2. アプリケーション開発が進行中の場合は、旧版ファームウェアで開発継続し、完成後に最新版を試す
  3. 開発済みアプリケーションへ機能追加の場合は、開発時ファームウェアで機能追加し、完成後に最新版を試す
  4. 新にアプリケーション開発を始める場合は、APIバグ可能性のより少ない最新ファームウェア開発環境で着手

開発完了から時間が経ったアプリケーション改版時には、開発当時のファームウェア更新への対策時間も加味しスケジュールを作成することをお勧めします。さもないと、肝心のアプリケーション改版前の段階でつまずいてしまいます。

※弊社販売中テンプレートは、テンプレート応用例として、評価ボード実装済みSWやLEDを制御するシンプルテンプレートと、Baseboardで各種機能を追加したBaseboardテンプレートの2つを添付しています。このうちBaseboardテンプレートは機能豊富な代償として、上記ファームウェア更新リスクに出会うことが稀にあります😫。テンプレートなので、本当は原理を解っていただくシンプルテンプレートのみを添付したいのですが、Baseboardテンプレート付きの方が売れるのでやむを得ない状況です😥。

投稿その1、その2と前振りが長くなりました。次回、汎用MCUシェア第2位の販売中STM32FxテンプレートSTM32G0xテンプレートを使って、最新開発環境への移設実例、トラブル対応を示します。

ARM Cortex-M4プロトタイプテンプレート構想

弊社は、ARM Cortex-M4コア使用のLPC5410x(NXP)、STM32G4(STM)、PSoC 6(Cypress)、MSP432(TI)各社のMCUテンプレート開発を目指しています。本稿は、各社共通のCortex-M4プロトタイプテンプレート開発指針を示します。

MCUプロトタイプ開発ステップ

MCUプロトタイプ開発と製品化へのステップ、支援ツール
MCUプロトタイプ開発と製品化へのステップ、支援ツール

プロトタイプからMCU製品開発へのステップが上図です。

  1. IDEと評価ボードを準備、利用MCUの開発環境構築
  2. サンプルプロジェクトを利用し、MCUや内蔵周辺回路の特徴・使い方を具体的に理解
  3. 製品処理に近いサンプルプロジェクトなどを活用し、評価ボード上でプロトタイプ開発
  4. プロトタイプへ保守点検などの製品化処理を追加、製品時ベアメタルかRTOS利用かを評価
  5. ステップ04評価結果でA:ベアメタル製品開発、または、B:RTOS製品開発へ発展

更に製品化へは様々なステップも必要ですが、プロトタイプ開発に絞るとこのステップになります。

Cortex-M4プロトタイプテンプレート

弊社Cortex-M4プロトタイプテンプレートは、ステップを効率的に上るための開発支援ツールです。

販売中の弊社テンプレートと同様、複数サンプルプロジェクトや開発した処理を、RTOSを使わずに時分割で起動するマルチタスク機能を備えています。
※時分割起動マルチタスク機能:ステップ03と04の課題は、複数サンプルプロジェクトや製品化に必要となる様々な処理を、どうやって1つに組込むか(?)ということです。RTOSを利用すれば解決します。しかし、RTOS利用のためだけに別途知識や理解が必要で、RTOS活用までの階段差が非常に高いという欠点があります。弊社テンプレートは、時分割で複数処理を起動し、初心者でも仕組みが理解できる低い階段差でマルチタスク機能を実現します。詳細は、コチラなどをご覧ください。

販売中の従来テンプレートとCortex-M4プロトタイプテンプレートの違いが、以下です。

  1. ステップ05以降の製品開発へも、ステップ01で構築したプロトタイプ環境をそのまま使える
  2. 下位Cortex-M0/M0+/M3ソフトウェアに対して、Cortex-M4プロトタイプ開発資産が流用できる

Cortex-M4の高性能を、プロトタイプ開発マージン(後述)に使うとこれらの違いが生じます。

Cortex-M4コアMCUの特徴

ARM Cortex-M4は、Cortex-M0/M0+/M3とバイナリ互換です。

簡単に言うと、Cortex-Mコア開発元ARM社が推進するCMSISに則って開発したCortex-M4ソースコードやライブラリは、再コンパイルすればCortex-M0/M0+/M3へ流用・活用ができます。
※CMSIS:Cortex Microcontroller Software Interface Standard関連投稿は、コチラの2章などを参照してください。

Cortex-Mxのバイナリ互換性(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-Mxのバイナリ互換性(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)

図から、Cortex-M4バイナリの全ては、下位Cortex-M0/M0+/M3に含まれてはいません。従って、効率的な処理やセキュリティ対策必須の高速演算を行うには、Cortex-M4が最適なのは言うまでもありません。

Cortex-M4を使ったMCUは、Cortex-M0/M0+/M3 MCUに比べ動作クロックが高速で内蔵Flash/RAM容量も大きいため、ベアメタル利用だけでなく、RTOS利用も可能です。

Cortex-M4がプロトタイプ開発に最適な理由:大マージン

Cortex-M4のMCUでプロトタイプ開発すれば、製品化時に必要となる処理や保守点検処理などの実装も「余裕」を持ってできます。
※製品出荷テストプログラム、自動販売機待機中のLEDデモンストレーション点灯などが製品化処理具体例です。

筆者は、このような製品化処理を、おおよそプロトタイプ処理と同程度と見積もります。つまり、製品のFlash/RAM量は、プロトタイプ時の2倍必要になります。

仮に「余裕」がありすぎオーバースペックの場合には、開発したCortex-M4プロトタイプ処理(=開発ソフトウェア資産)を、そのまま下位Cortex-M0/M0+/M3コアMCUへ流用が可能です。

一方、処理が複雑で多い場合には、RTOSで解決できるか否かの評価もCortex-M4プロトタイプなら可能です。更にIoT製品では、セキュリティ関連の(先が見えない)処理や計算量増加にも対応しなければなりません。

安全側評価なら敢えて下位Cortex-Mコアを選ばずに、Cortex-M4をそのまま製品にも使えば、処理増加にも耐えらます。

つまり、プロトタイプ開発には、初めから容量や性能の足かせが無く、製品化移行時の開発リスクも少ない高速高性能・大容量のCortex-M4 MCUが最適なのです。

製品時の処理能力やFlash/RAM量を、Cortex-M4プロトタイプで見積もった後に、製品化にステップアップすれば、適正な製品制御Cortex-Mコアを選択できます。開発ソフトウェア資産の流用性、過負荷耐力、RTOS製品開発評価ができる高性能を兼ね備えたのが、Cortex-M4を使ったプロトタイプ開発です。

問題は、価格です。

各社のCortex-M4評価ボード価格は、Cortex-M0/M0+/M3評価ボードと大差ありません。STM32MCUの評価ボード:Nucleo32シリーズは、Cortex-Mコアが異なっても同額です。プロトタイプ開発マージンを考慮すると、たとえ評価ボードに多少の価格差があったとしても十分納得がいきます。

Cortex-M4デバイス単体価格は、Cortex-M0/M0+/M3よりは高価です。しかし、製品原価全体に占めるCortex-M4デバイス価格比は低いでしょう。IoT製品では、今後増大するセキュリティ対策や計算量増加などを考慮すると、Cortex-M4デバイスを使うメリットは大きいと思います。

Cortex-M4プロトタイプテンプレート開発指針(NXP、STM、Cypress、TI共通)

Cortex-M4の特徴を活かし、下位Cortex-M0/M0+/M3間での開発ソフトウェア資産流用を考慮したCortex-M4プロトタイプテンプレート開発指針です。

  1. Cortex-M0/M0+/M3/M4各コアに用いるテンプレート本体の共通化
  2. プロトタイプ開発ソフトウェア資産流用性を高めるCMSISソフトウェアでの開発
  3. 製品化時ベアメタルかRTOS利用かを評価のため、Cortex-M4最高速動作のプロトタイプ開発

現在CMSISへの対応は、各社足並みが揃っているとは言えません。もしも完全にCMSISへ対応した場合は、異なるベンダ間でも開発アプリケーション互換が実現するからです。ARMコア市場が「攻めに強く、守りに弱い」ゆえんです。そういう状況でも、各社ともCMSISへのソフトウェア対応を進行中です。
※Cortex-M33コアには、CMSISに反して、ベンダ独自のカスタム命令追加の動きも見られます。

本稿で示したCortex-M4プロトタイプテンプレートと異なり、弊社販売中のCortex-M0/M0+/M3テンプレートは、テンプレート利用コアで最適解を与えます。そのため、RTOS利用時や、製品化処理、セキュリティ対策などの処理が増えた時には、元々のコア処理性能や内蔵Flash/RAMに余裕が少ないため、適用デバイスでの製品化に対して、開発を続けにくい状況が発生することもありえます。

この点、Cortex-M4プロトタイプテンプレートなら、プロトタイプで構築した同じ開発環境で、RTOSも含めた製品開発へも余裕を持って対応できます。同時に、プロトタイプ開発資産の流用や活用により、Cortex-M0/M0+/M3ソフトウェア生産性も高めることができます(一石二鳥)。

ARM Cortex-M4テンプレートと開発資産流用性
ARM Cortex-M4テンプレートと開発資産流用性

弊社Cortex-M4プロトタイプテンプレートの発売時期、RTOSへの具体的対応方法などは、未定です。本ブログで各社毎の開発状況をお知らせする予定です。

あとがき:初心者や個人利用は、Cortex-M4テンプレートが最適

ソフトウェア開発初心者にCortex-M4プロトタイプテンプレート利用は、難しい(=階段を上るのが困難)と考える方がいるかもしれません。筆者は、全く逆、むしろ初心者、個人利用に最適だと思います。

理由は、Cortex-M0/M0+/M3/M4と上位になるほどコア設計が新しく、処理性能も上がるからです。初心者が、あまり上手くないコード記述をしても、コア性能が高いため問題なく処理できてしまいます。詳細は、ARM Communityの“An overview of the ARM Cortex-M processor family and comparison”などが参考になります。

ごく簡単に言うと、自動車エンジンが、Cortex-Mコアに相当すると考えてください。

小排気量なCortex-M0より、大排気量のCortex-M4の方が、楽に運転でき、しかも、運転に最低限必要なハンドルやアクセル、ブレーキ操作は全く同じです。車(=評価ボード)の価格が同じなら、殆どの方が、余裕のある大排気量のCortex-M4を選択するでしょう。

しかも、Cortex-M4評価ボード操作の技(=開発ソフトウェア資産)は、Cortex-M0/M0+/M3へも流用できます。経済的に厳しい個人利用のプロトタイプ開発環境としては、流用範囲の広いCortex-M4 MCUテンプレートが最適と言えます。

弊社Cortex-M4プロトタイプテンプレートは、つまずき易い階段を、楽に効率的に上るための開発支援ツールです。ご期待ください。

MCUXpresso IDE v11をLPC845 Breakout boardで試す

まとめ

NXPのMCUXpresso IDE v11.0.0 [Build 2516] [2019-06-05]を使い、LPC845の評価ボードLPC845 Breakout boardの動作を確認し、サンプルプロジェクト赤LED点滅を緑LEDへ簡単に変更できる、SDK:Software Development Kitメリットを示しました。

LPCOpenライブラリなどを使った旧IDEに比べ、SDKを使うMCUXpresso IDE v11は、より早く簡単にソフトウェア開発が可能です。また、IDE更新とSDK更新が別々なため、常に最新ドライバ、BSP:Board Support Packageでの開発ができます。これもSDKメリットの1つです。

SDKは、ソフトウェア開発速度を上げる専用ライブラリ集です。MCUXpresso IDE v11のSDKを習得し、効率的なソフトウェア開発に慣れる必要があります。
これには、実際に評価ボード専用SDKを作成し、サンプルプロジェクトへ変更/修正を加え、SDKメリットを実感するのが早道です。本稿で用いたLPC845 Breakout boardは、SDK習得に好適です。

LPC8xxをアップグレートしたLPC845(64KB Flash、16KB RAM)評価ボード:LPC845 Breakout boardは、タッチパッド+デバッガ付きで低価格(¥697)、少サイズ(65x18mm)です。このサイズならそのまま装置へ実装も容易です。現場での短時間制御系アップデートや修理交換などに応用できます。

LPC845 Breakout board

LPC845 Breakout board
LPC845 Breakout board(出典:LPC84X MCU TECHNICAL OVERVIEWへ加筆)

LPC8xxシリーズは、アップグレートしたLPC84xとコストダウンしたLPC80xの2方向へ発展しました(関連投稿:NFCを使うLPC8N04のOTA)。LPC845評価ボード:LPC845 Breakout board (Cortex-M0+/30MHz)を入手しましたので、最新のLPCXpresso IDE v11を使って動作確認します。

LPCXpresso IDE v11.0.0 [2019-06-05]

最新LPCXpresso IDEは、v11.0.0 [2019-06-05]です。旧IDEからSDK:Software Develipment Kit追加、Pin設定方法が変わりました。既に旧IDEを使い慣れた方は、SDK活用の新LPCXpresso IDE v11に少し驚きを感じると思います。

LPCXpresso IDE v11ダウンロードとインストール

LPCXpresso IDE v11のダウンロードとインストールは、普通のPCアプリケーションと同じです。旧IDEではインストール後、アクティベーション手順が必要でしたが、v11は不要です。

また、デフォルトではプログラム/workspace共に専用フォルダ:MCUXpressoIDE_11.0.0_2516へ展開されます。つまり、旧IDEと共存します。ストレージ使用量は多くなりますが、共存するので安心して新旧IDEを試すことができます。

インストール後、Help>Check for Updatesを実行しIDEの更新有無を確認します。

また、最初のMCUXpresso IDE v11起動時にセキュリティソフトが警告を出すことがあります。お使いのセキュリティソフトに応じて対応してください(筆者Windows 10 Pro 1903のAvastは警告を出しましたので、例外追加で対応しました)。

LPCXprsso IDE v11インストール起動画面
LPCXprsso IDE v11インストール後、最初の起動画面

SDK Builder

SDKは、周辺回路ドライバ、サンプルプロジェクト、評価ボードサポートパッケージ:BSPなどを含む開発支援ツールです(SDKユーザガイドはコチラ)。インストールしたMCUXpresso IDEとは別に、ネット上のSDK BuilderでLPC845 Breakout board専用SDKを作成します(要ログイン)。

SDK BuilderのSelect Development Boardをクリックし、LPC845BREKOUTを選択します。後は、Build MCUXpresso SDKをクリックすると、作成したSDKの圧縮ファイル:SDK_2.6.0_LPC845BREAKOUT.zipがダウンロードされます(2.6.0は版数)。
※評価ボードによっては、Amazon-FreeRTOS、Azure IoTなどのミドルウェアもSDKへ追加可能です。

SDK設定

ダウンロードしたSDK圧縮ファイルを、LPCXpresso IDEのInstalled SDKsビューへドラッグ&ドロップするだけでSDK設定は完了です。

LPC845 Breakout boardの赤LED点滅動作

SDKにはLPC845 Breakout boardの赤LED点滅させる、いわゆるLチカサンプルプロジェクトがあります。このLチカソフトで評価ボードの動作確認をします。

IDEのQuickstart Panelビュー、Import SDK example(s)…をクリックします。Lpc845breakoutを選択後Nextをクリックします。Examplesのdemo_appsを開くとled_blinkyが現れます。これがLチカサンプルです。

Led_blinkyに☑を入れFinishをクリックすると、workspace内にlpc845breakouty_led_blinkyプロジェクトが展開されます。

LPC845 Breakout boardのLED点滅サンプルプロジェクトのインポート
LPC845 Breakout boardのLED点滅サンプルプロジェクトのインポート

何も変更せずに、Quickstart PanelビューのBuildをクリックするとコンパイルが成功します。評価ボードをPCと接続しDebugのクリックでCMSIS-DAPプローブを自動認識し、デバッグモード画面へ変わります。

後は実行などで赤LEDが1秒毎に点滅する動作が確認できます。

SDKサンプルプロジェクトそのものの動作確認は、以上のように簡単です。SDKのメリットは、プロジェクト変更や機能追加が簡単にできることです。例を次に示します。

LPC845 Breakout boardの赤→緑LED点滅の変更

赤LEDへの制御を緑LEDへ変更するには、IDEをDevelop画面からPin画面へ切替えます。切替は、Open Pinsクリック、またはIDE右上のデバイスアイコンのクリックどちらでもOKです。

LED_LED点滅からGREEN_LED点滅変更のPin画面
LED_LED点滅からGREEN_LED点滅変更のPin画面

Pin画面は、プロジェクト使用中のピン名、周辺回路などがハイライト表示されます。

lpc845breakouty_led_blinkyプロジェクトの場合は、PIO1_2とGPIOで、IdentifierにLED_REDとあります。Identifireは、ソースコード中で使えるマクロです。LED_GREENやLED_BLUEが既にあるのも解ります。このように評価ボード実装済みのハードウエアが、あらかじめSDKで定義済みです。

赤LED→緑LED変更は、Pin11のLED_GREENに☑を入れ、表示されるPIO1_0選択肢からデフォルトのGPIO,PIO_1_0を選びます。次にUpdate CodeをクリックすればPin画面の変更がソースコードへ反映されます。

LED_RED点滅からLED_GREEN点滅へのピン変更
LED_RED点滅からLED_GREEN点滅へのピン変更

ソースコード表示のDevelop画面へ切替えるには、右上のDevelopアイコンをクリックし、L16をコメントアウト、代わりにL17の追記で赤→緑LED点滅への変更完了です。ビルドして緑LED点滅動作を確認してください。

LED_RED点滅からLED_GREEN点滅へのソースコード変更
LED_RED点滅からLED_GREEN点滅へのソースコード変更

このようにサンプルプロジェクトの変更は、SDKに評価ボード実装ハードウエアが定義済みなので、ボード回路図を確認せずにすぐにできます(回路図を確認すれば万全ですが…😅)。

さて、緑LED点滅動作が確認できた後にソースコードへ下記3か所の変更を加えてください。

BSPを使った赤LEDの点滅
BSPを使った赤LEDの点滅

これは、board.hで定義済みのBSPを使った赤LED点滅へのソースコード変更です。追記したLED_RED_INIT(0)とLED_RED_TOGGLE()は、board.hに記述があります。L80:GPIO_PortToggle()よりもL81:LED_RED_TOGGLE()の方が、ソースコード可読性が高いことが解ります。

BSPは、評価ボードで使用頻度が高い関数やマクロを定義します。BSP活用でソースコード可読性が高まりケアレスミスも減ります。BSPは、SDK作成時に生成されます。

LPC845 Breakout boardのSDK活用例を示しました。SDKメリットも実感できたと思います。

LPCOpenライブラリを使ったLPC8xxテンプレートも、新しいSDK対応へUpgradeする必要があるかもしれません。SDKは、新しい評価ボードから対応中なので、残念ながら少し待つ必要があるかもしれませんが…😅。

続報:STM32CubeIDE

2019年5月8日STマイクロエレクトロニクス(以下ST)公式ブログで無償STM32CubeIDEの続報が掲載されました。STM32マンスリー・アップデート2019年5月号のトップページにも掲載中です。

STM32CubeMXがビルドインされたST初のIDE:STM32CubeIDE内蔵ツール版数と、ライバルIDEに相当するSW4STM32とTrueSTUDIOの今後を予想します。

STM32CubeIDE内蔵ツール版数

STM32CubeIDEにビルドインされたツール版数が下記です。FWは、本ブログ対象STM32F0/F1/G0のみ掲載します。ビルドインSTM32CubeMXの使い勝手は、単独STM32CubeMXツールと同じです。

内蔵ツール 2019年5月16日版数
STM32CubeIDE 1.0.0
STM32CubeMX 5.2.0
STM32F1  FW 1.7.0
STM32F0  FW 1.10.0
STM32G0  FW 1.2.0

STM32CubeIDE起動時に各ツール更新がチェックされるので、起動に多少もたつきを感じます。MicrosoftのC2R:Click to Runに近い機能です。

STM32G0 FW 1.2.0インストールには、STM32CubeMX 5.2.0以上が必要な点は注意が必要です。単独でSTM32CubeMX 5.1.0使用中の方が、FW更新してもSTM32G0 FW 1.2.0の検出すらできません。先ず、STM32CubeMXを 5.2.0へ更新後、再更新チェックでSTM32G0 FW 1.2.0が使えます。

全てがビルドインされたSTM32CubeIDEなら、このような版数による最新版インストールトラブルが回避できるでしょう。

STM32CubeIDEのAdvanced Debug機能

STMCubeIDE you are able to(出典:How to use STM32CubeIDE動画)
STMCubeIDE you are able to(出典:How to use STM32CubeIDE動画)

How to use STM32CubeIDEから抜粋したSTM32CubeIDE新機能が上図です。Advanced DebugのLive Expressions viewやSWV real-time tracing viewは、デバッグがより楽しく容易になる機能だと思います。

STM32CubeIDEライバル、無償AC6)SW4STM32と旧Atollic)TrueSTUDIOの今後

気になるのは、STM32CubeIDEと同様のコードサイズ制限なし無償IDE、AC6社)SW4STM32と旧Atollic社)TrueSTUDIOの2つのIDEが、今後更新され続けるかです。

ブログ内に、SW4STM32とTrueSTUDIO各ユーザに向けた注意書きがあります(Before STM32CubeIDE, What SW4STM32 and TrueSTUDIO Users Must Know章)。ブログでは、どちらのIDEユーザに対しても新しいSTM32CubeIDEへの移行を促しているようです。有償のIARとKeilのIDEに対しては、これまで通りです。

TrueSTUDIOは、既にSTM32G0 FW 1.2.0未対応です(関連投稿:TrueSTUDIOとSTM32CubeMXインストール方法の手順4参照)。SW4STM32は、最新デバイスをフォロー中ですが、近い将来、TrueSTUDIOと同じ運命、つまり、ツール改版への遅れや最新MCUへ対応しない可能性があります。

2017年末にSTに買収されたAtollicのIDE開発力が、新しいST純正STM32CubeIDE開発へ使われたとすると、現行のTrueSTUDIOが最新STM32G0xデバイスに未対応なのも納得がいきます。いわゆるデスコン(Discontinue)の前兆です。

なお、既成SW4STM32プロジェクトやTrueSTUDIOプロジェクトに対しては、STM32CubeIDEマイグレーションツール(UM2579など)がSTM32CubeIDE初期画面に用意されています。既成プロジェクトは、そのままSTM32CubeIDEで開くことはできず、また、一旦マイグレーションすると、元のSW4STM32プロジェクトへは戻せません。

このため、UM2579では、既成プロジェクトをバックアップ後、マイグレーションすることを明記しています。

STM32CubeIDE初期画面のマイグレーションツール(出典:UM2579)
STM32CubeIDE初期画面のマイグレーションツール(出典:UM2579)

STM32CubeIDEの使い勝手は、SW4STM32に近く、しかもAdvanced Debug機能でデバッグも面白くなりそうです。現版STM32CubeIDE 1.0.0は日本語対応がイマイチです。この点が改良されればSW4STM32からのマイグレーションを検討する予定です。

汎用STM32FxテンプレートのSTM32G0x使用法

LL APIを利用するSTM32G0x「専用テンプレート」開発は、3月からの投稿で一応目安が付きました。
※投稿下欄タグ:専用テンプレートをクリックすると本稿を含め関連投稿が読めます。

これらの投稿で販売中の汎用STM32Fxテンプレートは、HAL APIを使っているので別STM32MCU、例えばG0シリーズMCUのSTM32G071RBなどへの使用・移植も簡単であることを何度か書いてきました。

そこで、この「汎用テンプレート」のSTM32G071RBへの使用法を説明します。

STM32Fxテンプレートは、図1に示すようにF0シリーズMCUのSTM32F072RBと、F1シリーズMCUのSTM32F103RB両方で動作確認済みです。本稿は、このSTM32FxテンプレートをSTM32G0へポーティングします。

汎用STM32Fxテンプレートのソフトウェアアークテクチャ
汎用STM32Fxテンプレートのソフトウェアアークテクチャ

汎用STM32FxテンプレートのSTM32G0x使用法まとめ

  • HAL APIはSTM32MCUで共通なので、HAL API利用アプリケーション(この場合はテンプレート、STM32Fx Template)は、STM32デバイスが変わってもそのまま使える
  • HAL APIより下層のソフトウェアは、STM32CubeMXを使って自動生成
  • STM開発環境にMCU移植機能が無い現状では、移植デバイス先のSTM32CubeMX設定さえ間違わなければ、HAL APIより上層アプリケーションの使用・移植は、簡単

汎用STM32Fxテンプレートを購入検討中の方、または既にSTM32Fxテンプレートをお持ちの方は、HAL API利用STM32Fxテンプレートの別デバイス移植性が優れていることが本稿でご理解頂けると思います。

汎用STM32F0シンプルテンプレートのSTM32G071RB移植手順

手順1.SW4STM32で、F0SimpleTemplateプロジェクト名をG0SimpleTemplateへリネームコピー

手順2.STM32CubeMXで、評価ボードNucleo-G071RBプロジェクトを新規作成し、F0SimpleTemplate.icoと同じ変更を加え、手順1でリネームしたG0SimpleTemplate.icoへ上書き保存後、コード生成

手順3.SW4STM32で、G0SimpleTemplateのmain.cとUserDefine.hなど数か所を変更&コンパイル

手順4.STM32G071RB評価ボードNucleo-G071RBで、移植シンプルテンプレート動作確認

文章で書くと手順1~4のように量が多くなります。しかし、HAL APIはSTM32MCUで共通、デバイスが変わってもHAL API利用アプリケーションをそのまま使うために、下層の構築にSTM32CubeMXを使うだけです。HAL APIアプリケーション移植は簡単です。

手順詳細を説明します。

手順1:SW4STM32で、F0SimpleTemplateプロジェクトをG0SimpleTemplateへリネームコピー

F0SimpleTemplateをコピー、同じワークスペースへペーストする時にG0SimpleTemplateへリネームします。

F0SimpleTemplateをG0SimpleTempleteへリネームコピー
F0SimpleTemplateをG0SimpleTempleteへリネームコピー

G0SimpleTemplateフォルダ内のF0SimpleTemplate.iocをG0SimpleTemplate.iocへF2:リネームします。
※手順1の目的は、F0SimpleTemplateソースコードのユーザ追記部分を、丸ごとG0SimpleTemplateで流用するためです。

手順2:STM32CubeMXで、Nucleo-G071RB新規作成とコード生成

現状のSTM32CubeMXには、MCUデバイス間の移植機能がありません。そこで、F0SimpleTemplate.iocファイルを見ながら、新規作成Nucleo-G071RBの周辺回路を手動で同じ設定にします。

先ずG0SimpleTemplete.iocファイルを新規作成し、手順1でリネームしたG0SimpleTemplete.iocへ上書き保存します。その後、STM32CubeMXの2重起動を活かしF0SimpleTemplate.iocを見ながらG0SimpleTemplete.ioc周辺回路を同じ設定にします。最後に、全ての周辺回路をHAL APIでコード生成します。

STM32CubeMXのNucleo-G071RB設定
STM32CubeMXのNucleo-G071RB設定

※Connectivityは、F0SimpleTemplateに合わせてUSART2、Clock Configurationは、HCLK Max.の64MHz、Timerは、F0SimpleTemplateのTIM3機能に近いTIM7を使いました。

手順3:SW4STM32で、main.cとuserdefine.hの数か所を修正&コンパイル

どのようなアプリケーションソフトでも、デバイス依存の箇所があります。F0SimpleTemplateも同様です。これらは手動で変更・修正するとビルドが成功します。変更・修正箇所が下記です。

  • HALライブラリとBSP(Board Support Package)変更
    stm32f0xx_hal.h→stm32g0xx_hal_conf.h、stm32f0xx_nucleo.h→stm32g0xx_nucleo.h(UserDefine.h)
  • BSPはRepository\STM32Cube_FW_G0_V1.2.0\Drivers\BSP\STM32G0xx_Nucleoのstm32g0xx_nucleo.c/hをSrc/Incへコピー
  • TIM3の代わりにTIM7を使ったので、htim3→htim7(main.c)
  • G0SimpleTemplateに無関係ファイル削除(stm32f0xx_nucleo.c/h, system_stm32f0xx.c)

手順4:評価ボードNucleo-G071RBで動作確認

F0SimpleTemplateをG0SimpleTempletaへ流用したVitrual COMポート画面
F0SimpleTemplateをG0SimpleTempletaへ流用したVitrual COMポート画面

※表示メッセージは、STM32G0xデバイス対応に変更しています。

あとがき

繰返しますが、文章で書くと移植手順は長く複雑に感じます(特に手順3)。しかし、ソフトウェアアーキテクチャ図1が理解済みならHAL API利用アプリケーションの別デバイスへの移植は簡単です。手順3内容は、デバイスが変われば当然必要となる事柄です。

HAL API利用アプリケーションの最大メリットは、MCU移植が容易なことです。つまり、HAL APIアプリケーションは、「STM32MCUデバイス非依存」とも言えます。

現状では、このメリットを活かす開発環境が不備なだけです。不備分は手動で補い、STM32F0/F1アプリケーションをSTM32G0アプリケーションへ移植する方法を示しました。

近い将来、STM開発環境にMCUデバイス移植機能が提供されると筆者は思います。

お知らせ:LL APIを利用するLL APIのSTM32G0x「専用」テンプレートの販売時には、本稿のHAL API利用「汎用」G0SimpleTemplateも添付し、専用と汎用の両方を1パッケージで販売する予定です。

※LL APIとHAL APIの差を把握したい方は、STM32CubeMXのLow-Layer API利用法(2)を参照ください。

STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (2)

STM32G0x専用テンプレートで使うSTM32CubeMXのLL API利用法第2回は、LL APIとHAL APIの違いを説明します。
専用テンプレートはLL、汎用テンプレートはHALを使う理由がお判りになると思います。

LL(Low-Layer)とHAL(Hardware Abstraction Layer)相対比較

第1回で示したLL API関連資料一覧のUM2319の最初のページに、LLとHALの定義が示されています。

・LL:HALよりもハードウェアに近く、高速で軽量なエキスパート向けレイヤー
・HAL:ハードウェア抽象化で、STM32MCU間で最大限の移植性を保証するレイヤー

MCUハードウェアに依存するLLは、高速・軽量ですが移植性が低いので、LL APIを利用するソフトウェア(=アプリケーション)はそのMCU専用になります。一方、HALはMCU移植性が高いため、HAL API利用アプリケーションはSTM32MCU間で汎用的に使えます。

HALの方が現代的で少ないユーザ記述でアプリケーション開発ができ、さらに汎用なので開発労力が無駄にならない利点があります。しかし、HALが隠蔽している制御の分Flash(ROM)やRAM容量が必要で、LLに比べ低速です。モーター制御など高速処理が必要な部分にはLLの方が向いているかもしれません。

以前の投稿STM32CubeMXの使い方で示した、HAL APIとLL API相対比較表を再掲します。

HALとLL比較(出典:STM32 Embedded Software Overvire)
HALとLL比較(※説明のため着色しています。出典:STM32 Embedded Software Overvire)

専用テンプレートと汎用テンプレート

LL APIの利点は、ハードウェア性能を活かし少ない容量で高性能アプリケーション開発ができる点です。これは、小Flashで高性能なSTM32G0xデバイスに最適と言えるでしょう。

現状はSTM32G0xが「単独デバイス」でSTM32F0/F1両方のMCU性能をカバーしているので「専用テンプレートが最適」だと言えます。しかし、「STM32G0xシリーズに更に高性能なSTM32G1xデバイス」が発売されれば、移植性が高いHALでSTM32G0xソフトウェア開発を行う方が良くなる可能性はあります。

但しこの場合には、HAL API利用の販売中汎用STM32FxテンプレートをSTM32G0xデバイスへ適用すれば済みます。汎用性を示すこの適用例は、近く投稿する予定です。

特定ハードウェア性能を活かす専用アプリケーションが、少ないROM/RAM容量でも開発できるLL APIメリットを示すデバイス例としてSTM32G0xを選び、専用テンプレートを開発中です。

LL APIとHAL APIのアプリケーションサイズ実例比較

LL API利用時、容量がHAL APIに比べどの程度小さくなるかを実例で示します。

これも前の投稿STM32CubeMXの使い方で示したように、一般的にはLLの方がHAL比60~80%小さくなると言われます。

実例に評価ボードNucle-G071RBに処理は何もせず、64MHz動作のみをLL APIとHAL APIだけを変えてビルドした結果が下記です(SW4STM32 v2.8.1、STM32CubeMX v5.1.0、STM32G0 v1.1.0)。

  text data bss 使用容量 容量比(%)
LL API 3120 12 1564 4696 59
HAL API 9680 20 1708 11408 100

LL API利用の方が 59%小さく実現できることが判ります。

LL APIとHAL API混合利用時の注意点

AN5110には、LLとHAL両方を混在させた公式サンプルプロジェクトのExamples_MIXがNucleo-G071RBでも9例と少ないながら掲載されています。

LLとHAL混在利用の公式サンプルプロジェクト(出典:AN5110)
LLとHAL混在利用の公式サンプルプロジェクト(出典:AN5110)

LLとHALを混在利用時は、色々な注意点があります。UM2319の5章に詳細がありますが、一部抜粋します。

・同じ周辺回路をHALとLLで混在制御するのは避ける
・LLはHALがハンドルしているレジスタを上書きすることがあるので注意

また、UM2303の2章にLLとHALの示すアーキテクチャが示されています。

STM32CubeG0 Firmware Architecture(出典:UM2303)
STM32CubeG0 Firmware Architecture(※説明のため着色しています。出典:UM2303)

つまり、上層HALが下層LLを利用する場合がある訳です。LLは、HALがどのように周辺回路を制御しているかを知ることなく直接ハードウェアレジスタにアクセスします。混在時はレジスタ競合などの詳細な注意がAPI利用者側で必要です。

Nucleo-G071RB 利用時LLとHAL混在利用は、Examples_MIXの9例を除いては避けた方が良さそうです。
BSP(Board Support Package)も、同じ理由でSTM32G0x専用テンプレートには使いません。

※以上は、同一周辺回路でLLとHALを混在利用する場合の注意点です。
※では、周辺回路が異なれば混在は問題ないのでしょうか? 例えば、I2CはHAL、GPIOはLLの場合などです。この場合でも、HALがLLを利用することを考慮すると、アプリケーションレベルでの安全側評価では混在は避け、LLまたはHALに統一して利用する方が無難だと思います。

STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (2):LL APIとHAL APIの違いまとめ

STM32G0x専用テンプレートは、HAL APIとの混在利用は避け、LL APIのみで開発します。

従って、STM32G0xデバイス専用のアプリケーションとなります。
汎用テンプレートSTM32Fxテンプレートは、HAL APIを使っていますので、STM32MCUで汎用的に使えるアプリケーションです。
※このSTM32Fxテンプレート汎用性を示すため、STM32G0xデバイスへこの汎用テンプレートを適用した例を示す予定です。

LLとHAL混在アプリケーション開発は、レジスタアクセス競合などの詳細注意が、API利用アプリケーション側で必要です。
公式サンプルプロジェクトExamples_MIXで示されたやむを得ない場合を除いては、避けた方が無難です。

STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (1)

STM32G0x専用テンプレートで使うSTM32CubeMXのLL(Low-Layer) API利用法を3回に分けて投稿します。

第1回:LL API初期化処理(本稿)
第2回:LL APIとHAL APIの違い
第3回:STM32CubeMXのLL API利用時注意点と第1回~第3回全体まとめ

第1回は、LL API初期化処理です。組込みソフトウェアは、初期化処理と無限ループ内処理の2つから構成され、LL APIでも汎用テンプレートで使ったHAL(Hardware Abstraction Layer)APIでもこの2構成は同じです。

LLとHALに関するSTマイクロエレクトロニクス(以下STM)資料は数多くあります。ただSTMは、STM32ソフトウェア開発は、基本的に「HAL API利用を推薦」していると思います。MCUハードウェア差を隠蔽でき、開発ソフトウェア移植性にも優れているからです。また、STM32CubeMXで生成する関数もHAL APIがデフォルトです。

STM32G0xシリーズLL API関連ソフトウェア資料一覧

筆者がそう考えるからかもしれませんが、STM32G0xシリーズのLL API関連資料は、投稿時点では未だ少ない状況で、リストアップすると表1の4個程度です。近くより小ピン小容量のSTM32G0xがリリースされますので、もっと多くなると期待しています。
※5番目のSTM32Cube ファームウエア テクニカル・プレゼンテーションにはLL API関連はありませんが、BSPやUSB制御をSTM32G0x専用テンプレートでも使う可能性を考慮して追加しました。

高性能ハードウェアを活かしコードサイズもHALより小さいSTM32G0x専用LL API関連資料4+1個の範囲でその利用法をまとめます。

表1 STM32G0xシリーズLL API関連ソフトウェア資料一覧(2019年3 月末)
資料名 概要
AN5110 STM32CubeMXで生成可能なSTM32G0公式サンプルプロジェクトの一覧表。HAL APIのみ、LL APIのみ、HALとLL混在などに区分けされたアプリケーションノート。
UM2303 STM32CubeMXを使いSTM32G0ソフトウェア開発着手時のユーザマニュアル
UM2319 STM32G0のHAL APIとLL APIユーザマニュアル
STM32Cube G0 Firmware Package STM32G0公式サンプルプロジェクト概要を示すオンライントレーニング資料
STM32Cube ファームウエア テクニカル・プレゼンテーション STM32シリーズSTM32CubeMXのHAL/BSP/ミドルウェア/USBライブラリの日本語解説書

STM32CubeMX LL API利用法の習得アプローチ

表1の概要を読むと、実践的にはAN5110のLL APIのみのサンプルプロジェクトとUM2303、万全を期すにはUM2319のLL API解説章の理解が必要です。

そこでLL API利用法は、実践的アプローチから着手し、不明な点やレファレンスが必要な時にUM2319を参照することにします。

STM32G0のLL API利用例:AN5110のExamples_LL

STM32G0x専用テンプレート動作確認評価ボードは、Nucleo-G071RBです。Nucleo-G071RBは、AN5110のExamples_LLで示されたLL API利用サンプルプロジェクト数が75個と掲載ボード中最も多いので前章アプローチに最適です。

これら多くのLL APIサンプルプロジェクトから、2つのGPIOプロジェクトに着目します。この2プロジェクトは、どちらも評価ボード実装済みLD4を250ms毎に点滅させます。

GPIOサンプルプロジェクト差
2つのGPIOサンプルプロジェクト差(※説明のため着色しています)

MXアイコンが付いているGPIO_InfiniteLedToggling_Initは、STM32CubeMXで生成可能、GPIO_InfiniteLedTogglingは生成不可です。その差は、Descriptionによると初期化処理(Initialization FunctionとUnitary Service Function)です。両者ソースコードの初期化処理を下図に示します。

GPIO_InfiniteLedToggling_InitとGPIO_InfiniteLedTogglingの初期化処理の差
GPIO_InfiniteLedToggling_Init(左)とGPIO_InfiniteLedToggling(右)の初期化処理の差

MX_GPIO_Init()が、STM32CubeMX生成可能プロジェクト、Configure_GPIO()が、生成不可プロジェクトの初期化処理です。

つまり、
・MX_GPIO_Init()=Initialization Function (generated by STM32CubeMX)
・Configure_GPIO()=Unitary Service Function (generated by User or by Peripheral Library)
です。※()内は、筆者が追記。

MX_GPIO_Init()は、STM32CubeMXが生成した初期化処理で、MX_が接頭語として付いていることからLLとHAL混在時でも使える関数です。一方、Configure_GPIO()は、MX_GPIO_Init()と同じ機能ながら少ないソースコードで記述できています。

その結果、Configure_GPIO()の方が、MX_GPIO_Init()よりも高性能で小サイズとなります(初期化処理以外は、どちらも同じ)。

MX_GPIO_Init()は、付属オリジナルSTM32CubeMXプロジェクトに変更を加えた時にでも中身はSTM32CubeMXが自動生成する関数で置換えられるだけで、MX_GPIO_Init()はそのまま残ります。一方、Configure_GPIO()は中身のユーザ修正が必要です。

結局、STM32CubeMXで生成可能なGPIO_InfiniteLedToggling_Iniプロジェクトは、ユーザが何らかの変更を加えても初期化処理をSTM32CubeMX任せにでき、無限ループ内にある変更処理に集中できる訳です。

STM32G0xのLL API利用法 (1):初期化処理まとめ

・初期化処理生成はSTM32CubeMXを使う方法と、高性能小サイズなユーザ自作方法の2つがある
・STM32CubeMX生成の初期化処理関数名は、HAL API混在時でも使用可能なMX_が接頭語
・STM32CubeMXを使うとプロジェクト変更時、無限ループ内処理のみに集中できる

STM32CubeMXは、LL APIまたはHAL APIの利用切替えが周辺回路毎に設定可能です。そこで、たとえLL APIのみ利用するプロジェクトでも、初期化処理関数の接頭語には、後々の周辺回路のHAL利用・変更・追加などに備えてML_を付けるのだと推測します。

LL API利用時、初期化処理をSTM32CubeMX任せにすると、ユーザ自作よりも多少サイズが犠牲になります。但しその差は、着目したプロジェクトGPIO_InfiniteLedToggling_Init:2808B、GPIO_InfiniteLedToggling:2604Bと微々(7.3%減)たるものです(SW4STM32 v2.8.1、STM32CubeMX v5.1.0、STM32G0 v1.1.0)。

公式サンプルプロジェクト応用が簡単にできることを考慮すると、その差を十分補える効果があります。

STM32G0x専用テンプレートのLL  API初期化処理方針

以上のことから、LL APIを利用するSTM32G0x専用テンプレートの初期化処理は、STM32CubeMX任せにします。

勿論、STM32G0x専用テンプレート用STM32CubeMXプロジェクトも添付いたしますので専用テンプレート応用・流用は簡単となります(汎用STM32Fxテンプレートは、既にテンプレート用STM32CubeMXプロジェクト添付済みです)。

TrueSTUDIOとSTM32CubeMXインストール方法、STM32G0xとSTM32F0xの差異

STM32G0x専用テンプレートのIDE:TrueSTUDIOを使った開発環境構築手順も、汎用STM32Fxテンプレートのそれと同じです。

本稿はSTM32G0x専用テンプレート開発用IDE TrueSTUDIOとスタンドアロン版STM32CubeMXのインストール方法を示し、インストールしたSTM32CubeMXを使って同じ汎用MCUでもSTM32G0xとSTM32F0xのどこが違うかを具体的にまとめます。

STM32G0x専用テンプレートIDE:TrueSTUDIOを使った開発環境構築手順

2017年5月投稿のSW4STM32のIDE構築手順が左側、これがTrueSTUDIOに変わると右側になります。

表1 TrueSTUDIOとSTM32CubeMXインストール手順とSW4STM32構築時の比較
手順 SW4STM32で構築(2017年5月) TrueSTUDIOで構築(本稿)
1 SW4STM32インストールとUpdate TrueSTUDIOインストールとUpdate
2 STM32CubeMXプラグインとUpdate STM32CubeMXスタンドアロン版とUpdate
3 評価ボードMCUコアのライブラリダウンロード STM32G0パッケージのダウンロード
4 ライブラリのファイル構成確認 同左(しかし、当面見合わせ)
5 評価ボードデモソフト説明と構築環境の動作検証 同左(しかし、当面見合わせ)

差分はIDEと、STM32CubeMXスタンドアロン版をインストールする点、評価ボードがNucleo-F072RBからNucleo-G071RBに変わったので、STM32CubeMXへダウンロードするMCUパッケージにSTM32G0を加える点です。

前半で手順1~5の簡単な説明、後半は、インストールしたSTM32CubeMXを使って同じ汎用MCUグループのSTM32G0xとSTM32F0xが、電源ピン数やデフォルト使用周辺回路が異なることを示します。

手順1 TrueSTUDIOインストールとUpdate

Atollic TrueSTUDIO for STM32 9.3.0(2019/2/22リリース)は、atollicサイトからダウンロードボタンのクリックで入手できます。以後、Windows版で説明します。

ダウンロード後、インストーラを実行すると言語選択ダイアログが現れます。日本語を選択するとインストール後のTrueSTUDIOメニューも自動的に日本語化されます。
インストール後、ヘルプ(H)>更新の検査、をクリックしTrueSTUDIO を最新状態にします。

※TrueSTUDIOインストール検討中の方は、手順4を読んだ後に再検討してください。

手順2 STM32CubeMXスタンドアロン版とUpdate

コード生成ツールSTM32CubeMX V5.1.0は、SW4STM32と今回インストールするTrueSTUDIOの両方で使います。そこで、各IDEのプラグインではなく、スタンドアロン版としてインストールします。インストール方法は、UM1718 Rev28の3.2を参照してください。
インストール後、Help>Check for Updates、をクリックしSTM32CubeMXを最新状態にします。

※UM1718は、チュートリアルも豊富でSTM32CubeMXの重要マニュアルです。全356ページと分量は多いのですが、読む章を選択するなどして目を通すことをお勧めします。

スタンドアロン版はSTM32CubeMX更新が簡単で、1つのSTM32CubeMXで両方のIDEに生成ファイルを出力する時に便利です。

手順3 評価ボードMCUコアのライブラリダウンロード

評価ボードNucleo-G071RBのMCUコアは、Cortex-M0+です。STM32Fxと同じMainstream(≒汎用)MCUですが、新世代の汎用MCUです。
関連投稿:STM32G0x専用Edge MCUテンプレート開発

STM32CubeMXのHelp>Manage embedded software packagesでSTM32G0を選択し、最新版Package1.1.0をインストールします。

STM32G0インストール
STM32G0 MCU Packegae 1.1.0のインストール

手順4 ライブラリのファイル構成確認

STM32CubeMXは優れものソフトウェアで、IDEプラグインからスタンドアロン版へ途中変更してもデフォルトRepositoryディレクトリ(C:\Users\ユーザ名\STM32Cube\Repository)を変えなければ、プラグイン版Packagesの各MCUパッケージがスタンドアロン版へそのまま引き継がれます。

ただし今回のSTM32G0は、ライブラリファイル構成がSTM32F0/F1をインストールした時と一部異なります。

Repository/STM32Cube_FW_G0_V1.1.0\Projects\NUCLEO-G071RB\Templatesフォルダ内にTrueSTUDIOフォルダが無いのです(EWARM/MDK-ARM/SW4STM32は以前と同様有るが、UM1718にもTrueSTUDIO説明無し)。

残念ながら、手順3でインストールしたSTM32G0は、TrueSTUDIOへ生成コードを現状は出力できないようです😴。

SW4STM32の必然性
TrueSTUDIOではなくSW4STM32の必然性を示す結果となった

という訳で、手順4と5以降は、STM32G0がTrueSTUDIOへ対応した後に検証を行います。Communityによると次版のSTM32G0で対応予定だそうです。

STM32G0x専用テンプレート開発IDEに、SW4STM32からSTM買収後のAtollic TrueSTUDIOへの変更必要性を示すつもりが、今現在は、SW4STM32の使用を続ける必然性を示す結果となりました😴。

STM32CubeMXを使ったSTM32G0xとSTM32F0xの差異まとめ

TrueSTUDIOへ生成コードを出力しなければSTM32CubeMXに問題はないので、(個人的にはマルチOS対応SW4STM32が好きですし……気を取り直して…)、STM32CubeMXを使いSTM32G0xとSTM32F0xの違いをまとめます。

STM32G0xもSTM32F0xも共にMainstream、つまり、汎用MCUに属します。しかし、STM32CubeMXを使うと、評価ボード実装の同じ64ピンパッケージでも、電源ピン数やデフォルト利用の周辺回路が異なることが良く判ります。

Nucleo-G071RBとNucleo-F072RB差異
Nucleo-G071RB(左)とNucleo-F072RB(右)の利用ピン差異

Tips:STM32G0 1.1.0では、評価ボードNucleo-G071RB使用中のLD4(PA5)とB1(PC13)がPinout & Configurationに表示されません。その理由は不明ですが、手動で追加設定する必要があり上左図は設定済みのものを示しています。ちなみに、上右図Nucleo-F072RBは、LD2とB1がデフォルトで表示されます。

電源ピン(VDD/VSS)数

STM32G0xは、黄色で示された電源ピン(VDD/VSS)が1組、一方STM32F0xは4組あります。STM32G0xのCortex-M0+コアと70nmプロセスの結果、電力供給1組でも十分動作します。

不要になった電源ピンは、GPIOに変更し同じ64ピンパッケージでもSTM32F0xよりも多くの外部制御が可能です。

パッケージのピン配置

STM32G0xシリーズのパッケージピン配置が下図です。将来リリース予定の4パッケージピン配置は一貫しています。これにより、基板アートワークや周辺部品の配置も一貫した設計計画が立てられます。

電源ピンはどのパッケージでも1組で、左辺中央です。

STM32G0xシリーズパッケージピン配置(出典:STM32G0 and CubeMX Webinar)
STM32G0xシリーズのパッケージピン配置(出典:STM32G0 and CubeMX Webinar)

デフォルト利用周辺回路

STM32G0xのConnectivity(通信処理)は、デフォルトでLPUART1(Low Power UART、Stopモードからの再起動可)ですが、STM32F0xはUSARTです。STM32G0xもUSARTを実装していますが、低電力動作に適したLPUARTを推薦しているためと思います。

LPUARTとUSARTの差異(出典:STM32G0オンライントレーニング)
LPUARTとUSARTの差異(出典:STM32G0オンライントレーニング)

その他の差異

これら以外にも、STM32G0xは、USB Type-C™ Power Delivery controllerや2.5MspsのADC、メモリープロテクションなどIoT Edge MCU向きの周辺回路を実装済みです。

また、Nucleo-G071RB評価ボードのUSBはMicro-Bコネクタ、Nucleo-F072RBはMini-Bコネクタです。

USB Micro-BとMini-Bコネクタ(出典:ウィキペディア)
USB Micro-BとMini-Bコネクタ(出典:ウィキペディア)

まとめ

STM32G0x専用テンプレート開発に使うTrueSTUDIOとSTM32CubeMXインストール方法を示し、そのSTM32CubeMXを使ってSTM32G0xとSTM32F0xの差異を示しました。

STM32CubeMXは2重起動可能です。STM32G0xとSTM32F0xそれぞれのSTM32CubeMXプロジェクトファイルを同時に開いて比べると、各デバイスのデータシートで比べるより差異が早く良く判ります。

STM32G0x専用テンプレート開発IDEには、当面、筆者が好きなSW4STM32が適していることも判りました。