STM32CubeIDE v1.1.0更新と文字化け対策(その2)

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)の統合開発環境:STM32CubeIDEが、v1.1.0に更新され、前投稿:その1では、従来SW4STM32プロジェクトをSTM32CubeIDEインポート時の日本語文字化け対策と、最新STM32MCU開発環境を示しました。

その2では、最新開発環境での文字化けと、開発環境更新リスク、ファームウェア更新へのリスク対応案について示します。

最新開発環境の文字化け

2019年11月時点のSTM32MCU最新開発環境と、IDEのみ従来のSW4STM32を使ったソフトウェア開発環境が下図です。

STM32MCU最新開発環境
STM32MCU最新開発環境

その1で示したSW4STM32プロジェクトインポート時のSTM32CubeIDEソースコード文字化けは、Shift-JISからUTF-8への手動エンコード変換で解決しました。

今回指摘する問題は、最新環境であってもSTM32CubeMX(以下、CubeMX)でコード再生成すると、STM32CubeIDE(以下、CubeIDE)ソースコードに日本語文字化けが発生することです。

このCubeMX起因の文字化けは、新規CubeIDEプロジェクト作成でも発生します。つまり、CubeIDEでプロジェクトを新規作成しmain.cへ日本語コメントを入力、次に生成済みCubeMXプロジェクトファイルを開き初期化コードを生成、CubeIDEへ戻ってmain.cを見ると日本語コメントに文字化けが発生します。
※スタンドアロン版、プラグイン版両方のCubeMXを試し、また、表示フォントもいろいろ変更しましたが、文字化けが発生します。対策がお判りの方は、教えてください😌。

もちろん、英語でコメント記入すれば問題はありません。日本語コメントの場合のみです。

一方、従来IDEのSW4STM32へCubeMX出力の場合には、文字化け無しです。ソースコードへ日本語コメントを追記する筆者のような方は、文字化け発生が解消されるまでは、SW4STM32とCubeIDE併用が良いかもしれません。

開発環境更新リスク

MCU開発ソフトウェア(=アプリケーション)への影響が一番大きいのは、ファームウェア:FW_F0/F1/G0/G4更新です。統合開発環境:CubeIDEやコード生成ツール:CubeMXの更新は、操作性や見た目へ変化を与えますが、アプリケーションそのものへの影響は、少ないです。

MCUアプリケーション開発は、STM32MCUに限らずベンダ提供API:Application Programming Interfaceのユーザ開発アプリケーションによる操作です。ファームウェア更新は、このベンダ提供APIのバグ取りや、新デバイス追加に関連するものが一般的です。開発済みユーザアプリケーションの場合は、デバイスは変わらないので、ファームウェア更新による影響があるのは使用中APIです。

従って、開発したアプリケーションの使用APIが変わらなければ、ファームウェア更新は問題ないハズです。

ところが、稀にファームウェア更新により正常に動作していたAPIにも影響が生じトラブルが発生することがあります。ファームウェア更新には、このリスクがあることも知っておきましょう。
※このリスク対策としてCubeMXは、旧版ファームウェアをRepositoryフォルダへ保存し、いつでも旧版へ戻せる準備をしています。

ベンダAPI、つまりファームウェア互換性には期待しない方が無難です。

理由は、最新ベンダMCU製造プロセス(=ハードウェア)、WindowsなどのパソコンOS、ベースのEclipse IDE、ARM CMSISなどのアプリケーション下層の更新、などなど様々なバージョンアップの組合せ結果が、ベンダAPI更新や刷新となるからです。

ベンダAPI互換が、既存ユーザにとっては理想です。しかし、元々非力なMCU能力を、従来API互換へ使うよりも、むしろファームウェア更新時点で、MCU能力を最も引き出すAPIへ使い、新規ユーザへアピールしたいとベンダが判断してもやむを得ないと思います。
※高性能MPU/GPUでさえAPI互換が無いことがあります。APIとは、そういうものだと割切って、例えAPIが変わっても柔軟に対応できるソフトウェア開発者が求められるのかもしれません。

ファームウェア更新リリースノートに、このAPI互換性の詳細説明を求めるのは、多分無理です。既存ユーザは、開発環境、特にファームウェア更新に関しては、慎重に対処すべきだと思います。

MCUアプリケーションは、開発完了時の開発環境依存度が非常に高いソフトウェアです。

最新デバイスと、最新APIの組合せが、その時点で最も効率的で優れたMCUアプリケーション開発手段と言えます。
※ルネサスのCS+には、アプリケーション開発完了時の開発環境を、一括圧縮保存する便利機能があります。Eclipse IDEにもプラグインで同様の機能を追加できると思います。

ファームウェア更新リスク回避策

筆者が考えるMCUアプリケーション開発に対するファームウェア更新リスクの回避策が、下記です。

MCUアプリケーション開発に対するファームウェア更新リスク
MCUアプリケーション開発に対するファームウェア更新リスク
  1. ユーザ開発アプリケーションが顧客システムで稼働中、しかもバグなどの問題が無い場合は、あえて前章リクスがあるファームウェア更新はしない
  2. アプリケーション開発が進行中の場合は、旧版ファームウェアで開発継続し、完成後に最新版を試す
  3. 開発済みアプリケーションへ機能追加の場合は、開発時ファームウェアで機能追加し、完成後に最新版を試す
  4. 新にアプリケーション開発を始める場合は、APIバグ可能性のより少ない最新ファームウェア開発環境で着手

開発完了から時間が経ったアプリケーション改版時には、開発当時のファームウェア更新への対策時間も加味しスケジュールを作成することをお勧めします。さもないと、肝心のアプリケーション改版前の段階でつまずいてしまいます。

※弊社販売中テンプレートは、テンプレート応用例として、評価ボード実装済みSWやLEDを制御するシンプルテンプレートと、Baseboardで各種機能を追加したBaseboardテンプレートの2つを添付しています。このうちBaseboardテンプレートは機能豊富な代償として、上記ファームウェア更新リスクに出会うことが稀にあります😫。テンプレートなので、本当は原理を解っていただくシンプルテンプレートのみを添付したいのですが、Baseboardテンプレート付きの方が売れるのでやむを得ない状況です😥。

投稿その1、その2と前振りが長くなりました。次回、汎用MCUシェア第2位の販売中STM32FxテンプレートSTM32G0xテンプレートを使って、最新開発環境への移設実例、トラブル対応を示します。

STM32G0動画と専用テンプレート

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)の公式ブログで、STM32G0を理解できるPart.0~10の動画(英語版)を紹介しています。
各動画は、休憩時間に視聴するのに丁度良い6分から15分程度の長さです。

動画リスト

13:13     Pt. 0, Install Procedure

6:05       Pt. 1, Saving Content of the Flash of the STM32

13:47     Pt. 2, Blinky

13:09     Pt. 3, PWM

9:10       Pt. 4, External Interrupt

14:20     Pt. 5, Low Power (Pt. 1)

6:23       Pt. 6, Low Power (Pt. 2)

13:19     Pt. 7, Printf

13:27     Pt. 8, Low Layer Drivers

17:37     Pt. 9, DMA

15:14     Pt. 10, Flashing STM32

少し聞きにくい英語ですが、スライドを見るだけでも内容は解ると思います。

開発環境

動画のIDEは、KeilのSTM32G0/F0/L0専用無償版を使っています。既にSTM32CubeIDEやSW4STM32を利用中の方は、これらIDEとKeil専用版を同時インストールすると、STM32G0/F0/L0のみコンパイル可能となるトラブルが発生するらしいので注意してください。

IDE以外は、コード生成ツール:STM32CubeMX、評価ボード:Nucleo-G071RB、通信アプリ:Tera Termなどおなじみの環境での解説です。

STM32G0のSTM32F0/F1をカバーする広い守備範囲、Low Layer API開発メリットや重要性などが理解できると思います。残念なのは、STM32G0x全シリーズ搭載の最新ADC解説が無いことです。ADCに関しては弊社関連投稿を参照ください。

STM32G0x専用テンプレート

動画Part8紹介のLL APIを活用したSTM32G0x専用テンプレートを発売中です。

STM32G0xシリーズのプロトタイプ開発着手時に必要となるLPUARTやLED制御などの複数サンプルソフトがあらかじめ実装済みで、評価ボードADC入力変換値のTera Term出力も実装済みです。

STM32G0xシリーズ性能をフルに発揮したアプリケーション早期開発や、STM32G0習得に最適です。

ご購入、お待ちしております。

PSoC 4100S CapSenseの使い方(その2)

Cypress PSoC 4 MCU内蔵タッチセンサ:第4世代CapSenseの使い方、2回目は、ハードウェアのタッチ・パッドやスライド・バー基板開発時のガイドラインを示します。と言っても、ソフトウェア開発に最低限必要なパッド仕組みを説明します。読者にソフトウェア開発者が多いからです。ハードウェアのPCBアートワーク担当者向けには、情報リンク先を示しています。

PSoC 4100S CapSenseの使い方(第2回内容)
PSoC 4100S CapSenseの使い方(第2回内容)

参照情報:AN85951 PSoC® 4 CapSense® Design Guide.pdf(日本語版)

タッチUIのメリット

メカニカルなボタンやスイッチでは、チャタリングや経年劣化、水濡れへの対応が必要です。タッチUIは、これらに対して有利です。また、パッド形状の自由度が高いので、スマホで一般的になった直感的なタッチ操作による優れたユーザインタフェース(UI)が実現できます。

これらタッチUIは、指をタッチ・パッドに近づけた時に生じる静電容量の変化をPSoC 4000S/4100S内蔵のCapSenseで検出し実現します。従って、確実に静電容量変化を生むパッドの基板設計が重要です。

タッチ・パッド、スライド・バー設計ガイドライン、AN85951の6.4章

静電容量変化の検出には、自己容量式(self-capacitance)、相互容量式(mutual-capacitance)という2方式があります。各方式の仕組みとパッド例が下図です。

自己容量式(左)と相互容量式(右)の仕組みとパッド例
自己容量式(左)と相互容量式(右)の仕組みとパッド例(出典:AN85951)

自己容量式は、1パッドに1個のGPIOを使います。相互容量式は、1パッドにTxとRxのGPIOペアが必要です。Txは複数ボタンで共有も可能で、自己容量式よりもGPIOを多く使うぶんタッチ検出性能が高くなります。電卓やキーパッドのような12個ボタンでも、下図のように7本のGPIOで実現できます。

マトリックス・ボタンのパッド例
マトリックス・ボタンのパッド例(出典:AN85951)

スライド・バーは、操作入力が増加、または減少する場合に用います。また、タッチ・パッドは、XとYの2次元で指位置を検出する方法で、X/Y各軸にスライド・バーを利用した例と考えれば良いでしょう。

※2019年6月現在、PSoC CreatorのCapSenseスライド・バーは、自己容量式のみをサポートしています。相互容量式は、今後のバージョンでサポート予定だそうです(AN85951、English、04/30/2019、P19)。

自己容量式スライド・バーのパッド例
自己容量式スライド・バーのパッド例(出典:AN85951)

このように、入力操作に応じたパッドを基板上にパターン設計(アートワーク)します。また、タッチ部分の基板保護のため、PCB表面に非導電性のオーバーレイ素材(タッチ表面材)を付けます。

CapSenceハードウエア構造
CapSenceハードウエア構造(出典:AN85951)

詳細なPCBレイアウト・ガイドラインは、前出AN85951の6.4章や、AN64846(日本語版)に記載されています。アートワーク担当者は参照してください(本稿は、ソフトウェア開発者が対象ですので、ガイドライン詳細説明は割愛いたします)。

このガイドラインに沿ってPCBアートワークを行えば、確実に静電容量変化を生むタッチUIパッドが開発できます。

評価ボードのパッド形状理由

本開発で用いる評価ボード、CY8CKIT-145-40XX PSoC 4000S CapSense Prototyping Kitのパッド形状が、なぜこんなカタチになっているか、前章の説明でソフトウェア開発者に理解できたと思います。

PSoC 4000S CapSense Prototyping Kit
タッチ・センサー基板付きで$15と安価なPSoC 4000S CapSense Prototyping Kit

つまり、上側の3パッドは、相互容量式で共有TX(1.3)と左からRX(1.6)、(1.5)、(1.4)の合計4GPIOを使います。下側は自己容量式のスライド・バーで、左から(0.6)、(0.3)、(0.2)、(0.1)、(0.0)の5GPIOを使います。TX(2.6)パターンはありますが、スライド・バーは、ソフトウェアは現在の自己容量式のみ対応です。但しハードウェアは、既に相互容量式に対応済みなのです。

パッド上下のLEDは、指タッチを検出した時に点灯させるインジケータです。また、オーバーレイ素材がパッド基板上に装着済みであることも判ります。

Capsenseパッド基板上のオーバーレイ素材
Capsenseパッド基板上のオーバーレイ素材

ガイドラインに沿って設計済み評価ボードの上側タッチ・パッド、下側スライド・バーの各パッド基板は、簡単に切離しができます。切離したパッド基板を、トラ技付録PSoC 4100S基板へ接続し、PSoC 4100S内蔵CapSenseでも開発したテンプレートを動作させる予定です。

CapSenseの使い方(その2:PCBハードウェア)まとめ

ソフトウェア開発者が最低限知るべきCapSenseのPCBハードウェアの使い方を示しました。

  1. タッチUIは、指をパッドに近づけた時に生じる静電容量変化をCapSenseで検出。このため、確実に静電容量変化を生むPCBハードウェア:パッド設計が重要。
  2. ソフトウェア開発者向けパッドPCB設計ガイドライン要旨を示し、評価ボードパッド形状の理由と、自己容量式(self-capacitance)、相互容量式(mutual-capacitance)のGPIO差を説明。
  3. PSoC 4000S評価ボードのパッド基板を切離し、トラ技付録PSoC 4100S基板と接続。 PSoC 4100SのCapSenseでも開発テンプレートを動作させ、PSoC 4000S/4100S両方対応CapSenseテンプレート化を図る。

STM32G0x専用テンプレート発売

LL API利用のSTM32G0x専用テンプレートを、2019年6月1日発売開始します。

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)2018年12月新発売のSTM32G0xデバイスは、高性能・低電力なCortex-M0+と70nm新プロセス動作速度向上により、STM32G0x単独で従来汎用STM32F0/F1をカバーする性能と超低電力動作、低価格が特徴です。

このSTM32G0x専用LL (Low-Layer) API利用テンプレートが、今回1,000円(税込)で発売するSTM32G0x専用テンプレートです。

※従来から販売中のSTM32Fxテンプレートは、HAL API利用の汎用テンプレートです。

STM32G4シリーズ追加、全5種となったSTM32 Mainstream MCUs

2019年5月28日、超高性能汎用STM32G4xが発表されました。これでSTM汎用MCUは全5種となりました。一覧が下図です。

STM32汎用MCUラインナップ
STM32汎用MCUラインナップ(出典:STM32 Mainsterm MCUsに加筆)

STM32G0x専用テンプレートは、軽量・高速・エキスパート向きLL APIを利用します。STM32G0x性能をフル発揮するアプリケーションのプロトタイプ開発に最適です。

※STM32G0xや専用テンプレートの本ブログ関連投稿は、下欄タグ🏷:STM32G0x、または、専用テンプレートをクリックしてください。

STM32G0x専用テンプレート適用例2種、API比較評価用2種

LL APIとHAL APIの比較評価のため、汎用テンプレートをSTM32G0xへポーティングしたHAL APIテンプレートも添付します。同一アプリケーションでのLLとHALのリソース使用量、ユーザ記述量、API可読性などを具体的に評価・分析できます。全て評価ボード:Nucleo-G071RB上で動作確認済みです。

STM32G0x専用テンプレート適用例
STM32G0x専用テンプレート適用例

SimpleTemplateは、最も簡単なテンプレート適用例で、基本的なSTM32G071RB周辺回路とテンプレート動作が理解できます。AdcTemplateは、全STM32G0xシリーズ共通周辺回路:2.5Msps 12ビットADC制御をSimpleTemplateに追加し、全てのSTM32G0xプロトタイプ開発の起点となるテンプレートです。

SimpleTemplate、AdcTemplateともにLL APIを利用したSTM32G0x専用テンプレートと、汎用テンプレートをSTM32G0xへポーティングしたHAL APIテンプレートを提供します。

STM32G0x専用テンプレート適用例は、評価ボードのGPIOやLED、LPUART通信など必須の複数STM公式サンプルプロジェクトが実装済みで、すぐにプロトタイプ開発着手ができるLL API利用アプリケーションプロジェクトです。

※HAL版はAPI比較評価用です。2019年5月末時点のコード生成ツールSTM32CubeMX(v5.2.1)とSTM32G0 FW(v1.2.0)は、LL APIでのみSTM32G0x性能をフルに引き出すことができます。

※STM32MCU間でアプリケーション移植・流用性を最大限に保証するHAL APIを利用したソフトウェア開発を希望される方は、STM32Fxテンプレートの購入をご検討ください。

付属説明資料でLL APIアプリケーション開発着手時の障害解消

STM32G0x専用テンプレート付属説明資料のもくじを示します。

STM32G0x専用テンプレート付属説明資料もくじ
STM32G0x専用テンプレート付属説明資料もくじ

説明資料P1~P3は、STM32G0x専用テンプレートサイトから無料ダウンロード可能です。全14ページの詳細な説明により、LL APIが理解でき、STM32G0xデバイス専用アプリケーションのプロトタイプ開発着手時の様々な障害を取り除き、スピード開発するのに専用テンプレートは最適です。

STM32G0x専用テンプレートは、コチラの手順でご購入可能です。よろしくお願いいたします。

*  *  *

STM32CubeMX v5.2.1改版時の注意点

2019年5月24日、STM32CubeMXがv5.2.1へ改版されました。インストール時の注意点を示します。

STM32CubeMX v5.2.1改版
STM32CubeMX v5.2.1改版

STM32CubeMX v5.2.1ダウンロードは、Install Nowクリックのみです。但しダウンロード後、一旦STM32CubeMXを終了し、再起動時は、下記のように管理者と してインストールを実行する必要がありますので注意してください。

STM32CubeMX v5.2.1.Update
STM32CubeMX v5.2.1.Update。インストールは管理者として実行する必要がある。

続報:STM32CubeIDE

2019年5月8日STマイクロエレクトロニクス(以下ST)公式ブログで無償STM32CubeIDEの続報が掲載されました。STM32マンスリー・アップデート2019年5月号のトップページにも掲載中です。

STM32CubeMXがビルドインされたST初のIDE:STM32CubeIDE内蔵ツール版数と、ライバルIDEに相当するSW4STM32とTrueSTUDIOの今後を予想します。

STM32CubeIDE内蔵ツール版数

STM32CubeIDEにビルドインされたツール版数が下記です。FWは、本ブログ対象STM32F0/F1/G0のみ掲載します。ビルドインSTM32CubeMXの使い勝手は、単独STM32CubeMXツールと同じです。

内蔵ツール 2019年5月16日版数
STM32CubeIDE 1.0.0
STM32CubeMX 5.2.0
STM32F1  FW 1.7.0
STM32F0  FW 1.10.0
STM32G0  FW 1.2.0

STM32CubeIDE起動時に各ツール更新がチェックされるので、起動に多少もたつきを感じます。MicrosoftのC2R:Click to Runに近い機能です。

STM32G0 FW 1.2.0インストールには、STM32CubeMX 5.2.0以上が必要な点は注意が必要です。単独でSTM32CubeMX 5.1.0使用中の方が、FW更新してもSTM32G0 FW 1.2.0の検出すらできません。先ず、STM32CubeMXを 5.2.0へ更新後、再更新チェックでSTM32G0 FW 1.2.0が使えます。

全てがビルドインされたSTM32CubeIDEなら、このような版数による最新版インストールトラブルが回避できるでしょう。

STM32CubeIDEのAdvanced Debug機能

STMCubeIDE you are able to(出典:How to use STM32CubeIDE動画)
STMCubeIDE you are able to(出典:How to use STM32CubeIDE動画)

How to use STM32CubeIDEから抜粋したSTM32CubeIDE新機能が上図です。Advanced DebugのLive Expressions viewやSWV real-time tracing viewは、デバッグがより楽しく容易になる機能だと思います。

STM32CubeIDEライバル、無償AC6)SW4STM32と旧Atollic)TrueSTUDIOの今後

気になるのは、STM32CubeIDEと同様のコードサイズ制限なし無償IDE、AC6社)SW4STM32と旧Atollic社)TrueSTUDIOの2つのIDEが、今後更新され続けるかです。

ブログ内に、SW4STM32とTrueSTUDIO各ユーザに向けた注意書きがあります(Before STM32CubeIDE, What SW4STM32 and TrueSTUDIO Users Must Know章)。ブログでは、どちらのIDEユーザに対しても新しいSTM32CubeIDEへの移行を促しているようです。有償のIARとKeilのIDEに対しては、これまで通りです。

TrueSTUDIOは、既にSTM32G0 FW 1.2.0未対応です(関連投稿:TrueSTUDIOとSTM32CubeMXインストール方法の手順4参照)。SW4STM32は、最新デバイスをフォロー中ですが、近い将来、TrueSTUDIOと同じ運命、つまり、ツール改版への遅れや最新MCUへ対応しない可能性があります。

2017年末にSTに買収されたAtollicのIDE開発力が、新しいST純正STM32CubeIDE開発へ使われたとすると、現行のTrueSTUDIOが最新STM32G0xデバイスに未対応なのも納得がいきます。いわゆるデスコン(Discontinue)の前兆です。

なお、既成SW4STM32プロジェクトやTrueSTUDIOプロジェクトに対しては、STM32CubeIDEマイグレーションツール(UM2579など)がSTM32CubeIDE初期画面に用意されています。既成プロジェクトは、そのままSTM32CubeIDEで開くことはできず、また、一旦マイグレーションすると、元のSW4STM32プロジェクトへは戻せません。

このため、UM2579では、既成プロジェクトをバックアップ後、マイグレーションすることを明記しています。

STM32CubeIDE初期画面のマイグレーションツール(出典:UM2579)
STM32CubeIDE初期画面のマイグレーションツール(出典:UM2579)

STM32CubeIDEの使い勝手は、SW4STM32に近く、しかもAdvanced Debug機能でデバッグも面白くなりそうです。現版STM32CubeIDE 1.0.0は日本語対応がイマイチです。この点が改良されればSW4STM32からのマイグレーションを検討する予定です。

汎用STM32FxテンプレートのSTM32G0x使用法

LL APIを利用するSTM32G0x「専用テンプレート」開発は、3月からの投稿で一応目安が付きました。
※投稿下欄タグ:専用テンプレートをクリックすると本稿を含め関連投稿が読めます。

これらの投稿で販売中の汎用STM32Fxテンプレートは、HAL APIを使っているので別STM32MCU、例えばG0シリーズMCUのSTM32G071RBなどへの使用・移植も簡単であることを何度か書いてきました。

そこで、この「汎用テンプレート」のSTM32G071RBへの使用法を説明します。

STM32Fxテンプレートは、図1に示すようにF0シリーズMCUのSTM32F072RBと、F1シリーズMCUのSTM32F103RB両方で動作確認済みです。本稿は、このSTM32FxテンプレートをSTM32G0へポーティングします。

汎用STM32Fxテンプレートのソフトウェアアークテクチャ
汎用STM32Fxテンプレートのソフトウェアアークテクチャ

汎用STM32FxテンプレートのSTM32G0x使用法まとめ

  • HAL APIはSTM32MCUで共通なので、HAL API利用アプリケーション(この場合はテンプレート、STM32Fx Template)は、STM32デバイスが変わってもそのまま使える
  • HAL APIより下層のソフトウェアは、STM32CubeMXを使って自動生成
  • STM開発環境にMCU移植機能が無い現状では、移植デバイス先のSTM32CubeMX設定さえ間違わなければ、HAL APIより上層アプリケーションの使用・移植は、簡単

汎用STM32Fxテンプレートを購入検討中の方、または既にSTM32Fxテンプレートをお持ちの方は、HAL API利用STM32Fxテンプレートの別デバイス移植性が優れていることが本稿でご理解頂けると思います。

汎用STM32F0シンプルテンプレートのSTM32G071RB移植手順

手順1.SW4STM32で、F0SimpleTemplateプロジェクト名をG0SimpleTemplateへリネームコピー

手順2.STM32CubeMXで、評価ボードNucleo-G071RBプロジェクトを新規作成し、F0SimpleTemplate.icoと同じ変更を加え、手順1でリネームしたG0SimpleTemplate.icoへ上書き保存後、コード生成

手順3.SW4STM32で、G0SimpleTemplateのmain.cとUserDefine.hなど数か所を変更&コンパイル

手順4.STM32G071RB評価ボードNucleo-G071RBで、移植シンプルテンプレート動作確認

文章で書くと手順1~4のように量が多くなります。しかし、HAL APIはSTM32MCUで共通、デバイスが変わってもHAL API利用アプリケーションをそのまま使うために、下層の構築にSTM32CubeMXを使うだけです。HAL APIアプリケーション移植は簡単です。

手順詳細を説明します。

手順1:SW4STM32で、F0SimpleTemplateプロジェクトをG0SimpleTemplateへリネームコピー

F0SimpleTemplateをコピー、同じワークスペースへペーストする時にG0SimpleTemplateへリネームします。

F0SimpleTemplateをG0SimpleTempleteへリネームコピー
F0SimpleTemplateをG0SimpleTempleteへリネームコピー

G0SimpleTemplateフォルダ内のF0SimpleTemplate.iocをG0SimpleTemplate.iocへF2:リネームします。
※手順1の目的は、F0SimpleTemplateソースコードのユーザ追記部分を、丸ごとG0SimpleTemplateで流用するためです。

手順2:STM32CubeMXで、Nucleo-G071RB新規作成とコード生成

現状のSTM32CubeMXには、MCUデバイス間の移植機能がありません。そこで、F0SimpleTemplate.iocファイルを見ながら、新規作成Nucleo-G071RBの周辺回路を手動で同じ設定にします。

先ずG0SimpleTemplete.iocファイルを新規作成し、手順1でリネームしたG0SimpleTemplete.iocへ上書き保存します。その後、STM32CubeMXの2重起動を活かしF0SimpleTemplate.iocを見ながらG0SimpleTemplete.ioc周辺回路を同じ設定にします。最後に、全ての周辺回路をHAL APIでコード生成します。

STM32CubeMXのNucleo-G071RB設定
STM32CubeMXのNucleo-G071RB設定

※Connectivityは、F0SimpleTemplateに合わせてUSART2、Clock Configurationは、HCLK Max.の64MHz、Timerは、F0SimpleTemplateのTIM3機能に近いTIM7を使いました。

手順3:SW4STM32で、main.cとuserdefine.hの数か所を修正&コンパイル

どのようなアプリケーションソフトでも、デバイス依存の箇所があります。F0SimpleTemplateも同様です。これらは手動で変更・修正するとビルドが成功します。変更・修正箇所が下記です。

  • HALライブラリとBSP(Board Support Package)変更
    stm32f0xx_hal.h→stm32g0xx_hal_conf.h、stm32f0xx_nucleo.h→stm32g0xx_nucleo.h(UserDefine.h)
  • BSPはRepository\STM32Cube_FW_G0_V1.2.0\Drivers\BSP\STM32G0xx_Nucleoのstm32g0xx_nucleo.c/hをSrc/Incへコピー
  • TIM3の代わりにTIM7を使ったので、htim3→htim7(main.c)
  • G0SimpleTemplateに無関係ファイル削除(stm32f0xx_nucleo.c/h, system_stm32f0xx.c)

手順4:評価ボードNucleo-G071RBで動作確認

F0SimpleTemplateをG0SimpleTempletaへ流用したVitrual COMポート画面
F0SimpleTemplateをG0SimpleTempletaへ流用したVitrual COMポート画面

※表示メッセージは、STM32G0xデバイス対応に変更しています。

あとがき

繰返しますが、文章で書くと移植手順は長く複雑に感じます(特に手順3)。しかし、ソフトウェアアーキテクチャ図1が理解済みならHAL API利用アプリケーションの別デバイスへの移植は簡単です。手順3内容は、デバイスが変われば当然必要となる事柄です。

HAL API利用アプリケーションの最大メリットは、MCU移植が容易なことです。つまり、HAL APIアプリケーションは、「STM32MCUデバイス非依存」とも言えます。

現状では、このメリットを活かす開発環境が不備なだけです。不備分は手動で補い、STM32F0/F1アプリケーションをSTM32G0アプリケーションへ移植する方法を示しました。

近い将来、STM開発環境にMCUデバイス移植機能が提供されると筆者は思います。

お知らせ:LL APIを利用するLL APIのSTM32G0x「専用」テンプレートの販売時には、本稿のHAL API利用「汎用」G0SimpleTemplateも添付し、専用と汎用の両方を1パッケージで販売する予定です。

※LL APIとHAL APIの差を把握したい方は、STM32CubeMXのLow-Layer API利用法(2)を参照ください。

STM32G0xのLPUART利用法

STM32G0xデバイスは、従来からあるSTM32F0/F1デバイス通信機能USARTに、LPUART(Low Power UART)が新たに加わりました。本稿は、このSTM32G0xのLPUART利用法を解説します。

LPUARTとUSART

オンライントレーニング資料:STM32G0 – USARTのP26にLPUARTとUSARTの機能差分があります。

LPUARTとUSART差分(出典:STM32G0オンライントレーニング資料)
LPUARTとUSARTの差分(説明のため着色しています。出典:STM32G0オンライントレーニング資料)

USART1/2からIrDA:赤外線とLIN:車載通信機能を除いたサブセット版がLPUARTで、USART3/4より8バイトFIFO付きで高機能です。データシート:DS12232 Rev 2から抜粋した各消費電流が下記です。

LPUARTとUSART消費電流(出典:STM32G071xデータシートRev2)
LPUARTとUSART消費電流(出典:STM32G071xデータシートRev2)

LPUARTは、USART1/2とUSART3/4の中間、USART2.5/3.5が名前として適当かもしれません。API名を考慮し、USART1/2よりもLow Powerという特徴のLPUARTにしたのでしょう。

LPUARTサンプルプロジェクトは1個

前稿STM32G0xのADC利用法STM32G0xのADC利用法で示したように、LPUARTの実践的使い方習得には、AN5110記載のLPUARTサンプルプロジェクト理解が近道です。

しかし、現状の「LPUART」サンプルプロジェクトは、Examples_LLにあるLPUART_WakeUpFromStopの1個のみ、しかも、STM32CubeMXで生成できません(STM32G0x v1.1.0、STM32CubeMX v5.1.0)。
※HAL APIを使うExampleにも、LPUARTサンプルプロジェクトは現状なしです。
※4月末リリースSTM32G0x v1.2.0、STM32CubeMX v5.2.0でも状況は同じです。

一方、STM32CubeMXで生成できるLL API利用「USART」サンプルプロジェクトは多数あります。サンプルプロジェクト流用や活用で自分のソフトウェアを開発する場合、このような需要と供給のミスマッチは良くあります。

このミスマッチ対処方法を以下に示します。

供給USARTサンプルプロジェクトから需要LPUARTプロジェクト作成

初めに示したように、LPUARTはUSART1のサブセット版です。PCとのVirtual COMポート利用なら機能差はありません。従って、以下の手順でUSARTサンプルプロジェクからLPUARTプロジェクトを作成します。

USARTサンプルプロジェクからLPUART プロジェクト作成手順
USARTサンプルプロジェクからLPUART プロジェクト作成手順。簡単な変換作業で新プロジェクト作成ができる。

STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (1)で示したAPIユーザマニュアル:UM2319を見ると、ユーザソースコードAPIのUSART部分をLPUARTに変更すれば、API変換ができることも解ります。

この手順の良いところは、2と3が、簡単にできることです。

STM32CubeMXで生成できるサンプルプロジェクさえあれば、2と3は簡単で、しかもミスなくできます。つまり、サンプルプロジェク活用・流用がより簡単・正確にできます。筆者が、AN5110記載サンプルプロジェクトの中で、STM32CubeMX生成アイコン付きにこだわる理由がこれです。

1. USART_Comminication_Tx_Initサンプルプロジェクト動作確認

STM32CubeMXでUSART_Comminication_Tx_InitをSW4STM32用に生成します。評価ボードCN10#21とJP6のRX、CN10#33とJP6のTXを配線します。起動後USER BOTTONを押すとHyper Terminal(Tera Term)にメッセージが出力されLD4が点灯します。

※STM32CubeMXのSW4STM32用の使い方は、前稿ADC利用法のADC_SingleConversion_TriggerSW_InitのSW4STM32へのインポートの章を参照ください。

USART_Comminication_Tx_Initサンプルプロジェクト動作確認ができました。

USART_Comminication_Tx_Initサンプルプロジェクト実行結果
USART_Comminication_Tx_Initサンプルプロジェクト実行結果

2. STM32CubeMXでUSARTをLPUARTへ変更しコード生成

STM32CubeMXのPinout viewで、USART1をMode: Disable、LPUARTをMode: Asynchronous、115200bps/8Bits Word Lengthに設定します。LPUART1はProject Manager>Advanced SettingsでデフォルトのHALからLLへ変更します。GENERATE CODEでコード生成します。

STM32CubeMXでUSART1をLPUARTへ変更しコード生成
STM32CubeMXでUSART1をLPUARTへ変更しコード生成

3. SW4STM32でユーザコードをUSART APIからLPUART APIへ変更

生成されたSW4STM32の/* USER CODE BEGIN … */~/* USER CODE END … */の間のユーザコードは、コード再生成してもそのまま上書きされます。

従って、ソースコードで旧USART APIが残っているのは、この上書きユーザコード部分だけです。これ以外は、STM32CubeMXがコード生成時にLPUART APIへ変更済みです。

USART_Comminication_Tx_Initの場合は、下図赤線部分などです。これを青線のLPUART APIへ変更します。SW4STM32のFind/Replace機能を使うと、変更がミスなく簡単にできます。

ユーザコードのUSART API(赤線)からLPUART API(青線)へ変更
ユーザコードのUSART API(赤線)からLPUART API(青線)へ変更

4. LPUART変更後のプロジェクト動作確認

USARTからLPUARTへ変更したので、評価ボードCN10#16とJP6のRX、CN10#18とJP6のTXを配線します。起動後USER BOTTONを押すとHyper Terminal(Tera Term)にメッセージが出力されLD4が点灯します。LPUART変更プロジェクトの動作確認が出来ました。
※出力メッセージは、“LPUART project creation …”に変更しました。

作成したLPUARTプロジェクト実行結果
作成したLPUARTプロジェクト実行結果

手順1~4で作成したLPUARTプロジェクトから、LPUARTは、USARTと同じ使い方ができ、40%低電力(Table 33の数値比較)なサブセット版であることが解りました。

STM32G0xデバイスの新通信機能としてLPUARTを積極的に活用したいと思います。

※本章は、LPUARTの細かな使い方は、ソースコードを読めば解るという前提で説明しています。ソースコードの具体的な読み方は、前稿:STM32G0xのADC利用法のmain.cソースコードの読み方の章などを参考にしてください。

STM32G0xの実践的LPUART利用法まとめ

実践的に周辺回路利用法を習得するには、サンプルプロジェクト理解が近道です。

現状のSTM32G0x v1.1.0、STM32CubeMX v5.1.0は、LPUART習得に使えるサンプルプロジェクはLPUART_WakeUpFromStop の1個のみで、STM32CubeMXを使って生成はできません。
※4月末リリースSTM32G0x v1.2.0、STM32CubeMX v5.2.0でも状況は同じです。

一方、現状でもSTM32CubeMXで生成できるUSARTサンプルプロジェクトは多数あるので、これらを利用し、求めるLPUARTプロジェクトを作成する簡単でミスの少ない手順を示しました。

作成したLPUARTプロジェクトから、LPUARTは、USART1/2と同じ使い方で40%低消費電力な新通信機能であることが解りました。

STM32G0xのADC利用法

STM32G0xのラインナップは、Value/Access/Access&Encryptionの3製品です。製品により内蔵周辺回路が異なりますが全製品共通回路が、2.5MSPS 12bit ADCです。本稿は、このSTM32G0xのADC利用法を解説します。

STM32G0xのADC資料一覧

時短に役立つ資料を表1にリストアップしました。

表1 STM32G0xのADC資料一覧(2019年4月現在)
資料名 概要
STM32G0 – ADC STM32G0のADCトレーニング資料。全20ページの内容は判り易く良書。
AN5110 STM32CubeMXを使い生成可能なSTM32G0x公式サンプルプロジェクト一覧表。
HAL API 4個、LL API 8個、HALとLL混在1個のADC公式STM32CubeMXプロジェクト掲載アプリケーションノート。
AN2834 全STM32MCUのADCを精度よく使う方法アプリケーションノート。全49ページ。

3資料と数は少ないですが、ADC内容は盛り沢山です。

STM32G0xのADC公式サンプルプロジェクトAN5110とオンライントレーニング資料を中心に、AN2834も参照するアプローチで解説します。

STM32G0とSTM32F0のADC差

STM32G0は最新IoT Edge MCU、STM32F0は普通の汎用MCUで、どちらもMainstream(≒汎用)MCUですが内蔵12bit ADCは異なります。トレーニング資料P18に特徴の比較があります。

STM32G0とSTM32F0のADC差
STM32G0とSTM32F0のADC差分(※説明のため着色しています。出典:ADCオンライントレーニング資料)

先ず、Conversion:ADC変換時間が0.4usと高速になった点。STM32G0xはMax. 64MHz動作(F0は48MHz)ですが2倍以上高速です。次に、Analog watchdog対応数が増え、バッテリー動作に備え低圧側に動作電圧が広がっています。ハードウェアオーバーサンプリングと高度なシーケンサーが新しい機能です。

勿論、普通のSTM32F0と同じADC制御もできますが、これら新機能を使いこなし、コアMCU負担を減らすように制御すると上手い使い方と言えるでしょう。

トレーニング資料は英文ですが、ポイントを抑えた非常に良くできた資料です。筆者の下手な解説より資料を読んで頂くと、STM32G0xのADCの使い方が判ると思います。

実践的ADCの使い方習得

トレーニング資料が一番効果的ですが、本稿では、開発中のSTM32G0x専用テンプレート動作確認評価ボードNucleo-G071RBで動作するAN5110のExamples_LL掲載サンプルプロジェクト(MXアイコン付きの下記8個)を使って、実践的にLL APIによるADCの使い方を習得します。

なぜLL APIを使うのかは、STM32G0x専用テンプレート開発全体像俯瞰、また、全般的なLL API利用法はSTM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (1)~(3)を参照してください。

LL APIを使ったADCプロジェクト一覧(出典:AN5110)
LL APIを使ったADCプロジェクト一覧(出典:AN5110)

Descriptionを読むと、大別して4種類のサンプルプロジェクトがあることが解ります。AN5110は、Examples_LLフォルダを名前順に表示したもので、MXアイコン付き8個を制御別に解り易く並び変えたものが表2です。

表2 MXアイコン付き8プロジェクトを制御別に並び換える
制御 基本プロジェクト名(_Init省略) 応用プロジェクト名(_Init省略)
1 ADC SingleConversion TriggerSW

ADC SingleConversion TriggerSW DMA

ADC SingleConversion TriggerSW IT

ADC SingleConversion TriggerTimer DMA

2 ADC ContinuousConversion TriggerSW ADC ContinuousConversion TriggerSW LowPower
3 ADC Oversampling なし
4 ADC  AnalogWatchdog なし

4種類を整理すると、最も基本のADCプロジェクトが1です。

1のSingleConversion_TriggerSoftwareは、ソフトウェアトリガでADCを開始し、ポーリングでデータ取得、データ転送にDMA転送、割込みなどの応用例があります。タイマをトリガにDMA転送の発展例もあります。ADC処理回数は1回です。

2のContinuousConversionは、1のADC処理回数の連続形で、LowPowerでの応用例があります。
※1と2のConversion Mode説明が、トレーニング資料P11にあります。

3のOversamplingは、新機能のサンプルプロジェクトです。
※Hardware Oversampling説明が、トレーニング資料P12にあります。

4のAnalogWatchdogも、新機能の3個AnalogWatchdogを使ったサンプルプロジェクトです。
※AnalogWatchdog説明が、トレーニング資料P13にあります。

いかがですか? ADCサンプルプロジェクトだけでもおなか一杯で、しかも、これでもADCの豊富な機能の一部抜粋です。さらに、省電力動作や、実際に接続するアナログセンサ出力への対応、加えてAN2834記載の変換精度向上なども考慮すると、ADCだけでも上手く使うのはかなりのスキルや経験が必要なのが分ります。

こういう時は、最も基本のADC_SingleConversion_TriggerSWを先ず理解し、プライオリティに応じて順次ステップアップするのが常套手段です。プライオリティ無しの手当たり次第の理解は、消化不良を起こします😂。
※なおSTM32G0x専用テンプレートは、このADC_SingleConversion_TriggerSWを実装予定です。

ADC_SingleConversion_TriggerSW_InitのSW4STM32インポート

※統合開発環境SW4STM32とコード生成ツールSTM32CubeMXは、Windowsパソコンへインストール済みとします。インストール方法は、関連投稿を参照してください。

先ず、ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initを使って、STM32G0xのADC使い方を説明します。

サンプルプロジェクト:ADC_SingleConversion_TriggerSW_InitをIDE:SW4STM32へインポートする方法は色々あります。簡単な方法が下記です。

1.STM32CubeMXをインストールしたPCの          、
STM32Cube\Repository\STM32Cube_FW_G0_V1.1.0\Projects\NUCLEO-G071RB\Examples_LL\ADC\ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initフォルダを開き、ADC_SingleConversion_TriggerSW_Init.iocをクリックすると、STM32CubeMXが起動します。

2.起動したSTM32CubeMXのProject Manager>Projectで、Toolchain/IDEをSW4STM32へ変えます。Advanced SettingsタブでADCや周辺回路のLL利用を確認しておきます。

3.GENERATE CODEをクリックし、表示されるダイアログでOpen Projectをクリックすると、SW4STM32が起動します。ワークスペースを入力後、下記Successfully imported the project…が表示されればインポート完了です。

SW2STM32インポート成功時ダイアログ
SW2STM32インポート成功時ダイアログ

4.SW4STM32でreadme.txtを開くとインポートしたプロジェクト内容が解ります。評価ボード:Nucleo-G071RBのPA.04、またはArduinoコネクタCN8 A2接続の、0から3.3Vまでのアナログ入力電圧を、ソフトウェアトリガでADCスタートし、ADC完了ポーリングでデータ変換完了を確認するのがこのプロジェクトです。
評価ボード単独でもアナログ入力電圧は不定ですが、動作可能です。

サンプルプロジェクトmain.cソースコードの読み方

初めてmain.cを見た方は、ソースコード行数が多いのでビックリするかもしれません。しかし、以下のSTM32CubeMX(以下MX)生成ソースコードの構造を押さえて読めば簡単です。

  • 自動生成ソースコードは、ユーザコード/コメントを追記する部分と、MX生成部分の2つからなる
  • ユーザコード/コメント部分は、再度MXで新たにコード生成しても、上書きされそのまま残る
  • コーザコード/コメント部分は、/* USER CODE BEGIN… */ ~ /* USER CODE END… */で囲まれている

従って、サンプルプロジェクトのユーザコード/コメント部分は、「ユーザの代わりにSTMが作成したコードと明示的に説明を加えた箇所」です。注意して読みましょう。それ以外のMX生成部分は、コメントを眺める程度で十分です。

サンプルプロジェクトmain.c解説

ソースコードが読めると、サンプルプロジェクト内の重要関数も解ります。

ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initの場合は、L121のConversionStartPoll_ADC_GrpRegular(void)とL120のActivate_ADC(void)が重要関数です。

これら以外のLED点滅関数(L122~124)とMX生成関数(L116~118)は、他のプロジェクトでも使える、いわばLL API開発時の汎用関数です。

ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initのmain.c
ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initのmain.c解説。重要関数と汎用関数に分けて読む。

L121へカーソルを移動し、F3を押すとConversionStartPoll_ADC_GrpRegular(void)の定義場所へ簡単に移動できます。

ConversionStartPoll_ADC_GrpRegular()
重要関数 ConversionStartPoll_ADC_GrpRegular()本体

ConversionStartPoll_ADC_GrpRegular(void)は、本来ユーザが作成する関数を、STMが代わりに作成した信頼性が高い関数です。ユーザが利用しない手はありません。ライセンス上も問題なく使えます。

しかも、STMが明示的に付けたコメントがありますので、自分の開発ソースコードへ利用・活用できるようにコメントを読んで内容を理解しておきましょう。内容理解には、readme.txtやトレーニング資料も役立ちます。

同様に、もう1つの重要関数:Activate_ADC(void)も利用・活用できるように理解しましょう。

以上のように重要関数を理解すると、サンプルプロジェクト:ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initが示した処理内容とその中から利用できる関数を、自分が開発するプロジェクトの代替関数(≒一種の部品)として使えるようになります。

公式サンプルプロジェクトは、この「高信頼部品の宝庫」です。部品を利用すれば、開発速度が上がります。
また、公式サンプルプロジェクトは、「周辺回路利用時の作法」も明示STMコメントが示しています。

ユーザは、どこに、何を、追記すべきか

前章は、ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initを使って、サンプルプロジェクトソースコード:main.cの理解方法を示しました。

一般的な周辺回路のユーザ追記箇所は、前章のように主としてmain.cの無限ループです。周辺回路の初期設定(前章で言えばMX_ADC1_Init(void)やMX_GPIO_Init(void))は、STM32CubeMXが担うからです。

サンプルプロジェクトには、周辺回路に割込みやDMAを利用した例もあります。

この場合は、STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (3)で示した割込みNVIC利用時のユーザ追記箇所と、本稿で示した周辺回路ユーザ追記箇所の2つに分けてソースコードを理解します。

STM32CubeMXが自動生成したソースコードの、「どこに、何を、ユーザが追記すべきか」は、本章で示した方法でサンプルプロジェクトを理解すれば、自然に解るようになります。
逆に、「どこに、何を、追記すべきか」かが解らないなら、まだサンプルプロジェクト理解が足りないと言えます。

公式サンプルプロジェクトのソースコードを作成するのは、STM32CubeMXと「ユーザ代替のSTMプロフェッショナル」です。両者の役割、作成部分やソースコード構造を理解するのがユーザ開発の第一歩です。

ここでは、表2の中で最も基本のADC_SingleConversion_TriggerSWサンプルプロジェクトを使って、STM32G0xのADC利用法を解説しました。

ADCサンプルプロジェクトは他にも多数あります。自分の開発プライオリティに応じて、他プロジェクトも同様に理解し、ステップアップすれば良いでしょう。

STM32G0x専用テンプレートの目的

MCUソフトウェア開発は、0から着手するのではなく、コード生成ツール:STM32CubeMX活用や前章で示した公式サンプルプロジェクトの部品利用・活用で、効率的に早く開発する、いわゆるプロトタイプ開発が主流です。また、プロトタイプ開発をしないと、競合他社とのビジネスには不利です。

プロトタイプ開発は、開発スピードが要求されます。何がしかの動作確認済みテンプレート(ひな形)と評価ボード、詳しい説明資料があれば、開発着手時のつまずきや手間が省け、より検討すべき項目に時間が割けます。
このテンプレートが、弊社汎用マイコンテンプレートです。

本稿のSTM32G0x専用テンプレートは、新しいEdge MCU「STM32G0xシリーズ専用」テンプレートで、STM32MCUで汎用性がある上記テンプレートとは異なりますが、目的や役割は汎用と同じです。

関連投稿:STM32G0x専用Edge MCUテンプレート開発

STM32G0x専用テンプレートには、本稿で示したADC重要関数や、USB経由のADC変換データパソコン出力、パソコンからの評価ボードLED点滅制御など、STM32G0x開発着手時に最低限必要な機能や部品をあらかじめテンプレートに実装済みです。

STM32G0x専用テンプレートをサンプルプロジェクトとの差分で説明すると、複数サンプルプロジェクトが実装済みで、プロトタイプ開発着手のレベルにより近いプロジェクト、これがテンプレートとも言えます。また、各種サンプルプロジェクト追加や削除が簡単なのも特徴です。

テンプレートのソースコードには、日本語コメントを豊富に付加し、初心・中級開発者が理解できるよう詳細な解説資料付きで提供します。

STM32G0x専用テンプレートを利用すると、STM32G0xプロトタイプ開発を即座に始められます。

STM32G0x専用テンプレートは、近日中に発売予定です。

STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (3)

STM32G0x専用テンプレートで使うSTM32CubeMXのLL API利用法第3回(最終回)は、STM32CubeMXのLL API利用設定、NVIC利用時のユーザ追記箇所を示し、最後にLow-Layer API利用法第1回から本稿まで全体をまとめます。
LL API利用法第1回第2回は、リンク先参照。

LL API利用設定

STM32CubeMXでHAL API利用時と異なるのは、Project Manager>Advanced Settingsの赤囲みの部分のみです。デフォルトは全てHALです。これを、HALからLLへ周辺回路毎に変更します。

LL API利用時の設定箇所
LL API利用時の設定箇所。デフォルトはHALなので全てLLへの変更必要。

第2回で説明したように、LLとHALの混在利用は避けた方が無難です。各周辺回路で両者の選択ができますが、HALかLLの二者択一をお勧めします。また、周辺回路追加・変更時は、デフォルトHALです。LL APIアプリケーション開発時は、注意してください。

STM32CubeMX便利機能に各種設定値のPDF出力:File > Generate Reportがありますが、v5.1.0ではLL/HAL設定値は未出力です。

LL API利用の割込み:NVIC利用時のソースコードユーザ追記箇所

LL APIの割込み:NVIC利用時のユーザ追記箇所は、HAL API利用時に比べ多いです。
※HAL API割込み処理のユーザ追記箇所は、関連投稿:STM32CubeMX生成ファイルのユーザ処理追記箇所を参照してください。

第1回で示したAN5110で説明します。Examples_LLサンプルプロジェクト、EXIT_ToggleLedOnIT_Init.iocのNVIC設定が下図です。このプロジェクトは、評価ボードのUserButtonを押すと割込みが発生しLED4がトグル点滅します。NVICのユーザ追記箇所が赤囲みです。

EXIT_ToggleLedOnIT_Init.iocのユーザNVIC設定箇所
EXIT_ToggleLedOnIT_Init.iocのユーザNVIC設定箇所

GENERATE CODEをクリックすると、stm32g0xx_it.cのL149~L166にEXIT4_15_IRQHandler(void)が自動生成されます。
stm32g0xx_it.cのL160のUserButton_Callback()は、ユーザが追記したCallback関数です。
main.hのL71で、このUserButton_Callback(void)は、ユーザが宣言します。
main.cのL209~L212で、UserButton_Callback(void)は、ユーザがCallback関数の中身を記述します。

自動生成されたファイル名(橙色)とユーザ追記位置(緑色)とユーザ追記コード(赤色)
自動生成されたファイル名(橙色)、ユーザ追記位置(緑色)、ユーザ追記コード(赤色)

STM32CubeMXは、IRQハンドラ関数の割込み発生原因:トリガ検出部分を生成するのみです。

ユーザは、Callback関数とその中身を、「/* USER CODE BEGEN… */ ~ /* USER CODE END… */」で囲まれた3ファイル指定場所に追記します。囲まれた範囲は、STM32CubeMXで再度GENERATE CODEをクリックしても上書きされ残ります。

本章は、NVIC利用時のユーザ追記箇所を示しました。これらは、ADCなどの一般的な周辺回路利用時のユーザ追記箇所とは大きく異なります。
※一般的な周辺回路のユーザ追記箇所は、ADCを例に説明します。

STM32CubeMXが生成したソースコードの「どこに、何を、ユーザが追記すべきか」は、生成ソースコード理解が必要です。これには、公式サンプルプロジェクトソースコードの理解が役立ちます。
※これも、ADC例を使って、ソースコード理解方法を説明します。

STM32CubeMXのLow-Layer API利用法:全体まとめ

3回に分けて説明した「STM32G0x専用テンプレートで使うSTM32CubeMXのLL API利用法」全体をまとめます。

初期化処理生成

(第1回)

・STM32CubeMXを使う方法と、高性能小サイズなユーザ自作方法の2つ

・STM32CubeMX生成の初期化処理関数名は、接頭語にMX_が付く

・STM32CubeMXを使うと、無限ループ内処理に集中できる

LLとHALの違い

(第2回)

・LL:HALよりもハードウェアに近く、高速軽量なエキスパート向け

・HAL:ハードウェア抽象化で、STM32MCU間で最大限の移植性を保証

・LLは、HALハンドルレジスタを直接上書きする可能性あり

・LLとHAL混在:同一はもとより異なる周辺回路でも混在は避けた方が無難

STM32CubeMX設定

(第3回:本稿)

・Project ManagerのAdvanced Settingsで全周辺回路をLLに一括変更

・周辺回路追加・変更時、Advanced SettingsデフォルトHALに注意

・NVIC生成ハンドラのCallback関数と中身は、ユーザ作成が必要

これら3分野を把握しておけば、STM32CubeMXのLL APIを安全に利用できると思います。

上記まとめで少し気になるのは、安全側評価で「異なる周辺回路でもLLとHAL混在は避けた方が無難」とした点です。本当に異なる周辺回路で混在利用はできないでしょうか?

周辺回路が異なれば、LLがアクセスするハードウェアも当然異なり、競合は無いハズです。例えば、I2CはHAL API、GPIOはLL API利用でも競合問題はなさそうです。

多分、API利用者が、アプリケーションレベルでレジスタ競合などが無いことを確認できれば、「自己責任で異なる周辺回路なら混在可能」だと思います。但しこれを行うには、LLやHALの深い部分まで解読、競合調査が必要です。

AN5110のExamples_MIXサンプルプロジェクトで示された、HALの一部をLLへ置換え、処理高速化を狙う例に止めた方が良さそうです。

以上、STM32CubeMXのLow-Layer API利用法をまとめました。

LL APIとHAL APIは、トレードオフ

LL APIを使うと、MCUハードウェア性能を活かし、少ない容量で高性能アプリケーション開発ができます。半面、他のSTM32MCUへの移植性はHAL APIに比べ低下します。

LL APIとHAL APIは、トレードオフの関係です。LLかHAL、どちらのAPIでソフトウェア開発するかは、このトレードオフ評価で決めます。

STM32F0/F1両デバイス性能を1MCUでカバーするSTM32G0xは、専用アプリケーション、つまりLL API開発に値するデバイスだと思います。STM32G0xテンプレートは、LL APIを使い専用テンプレートとして開発します。

次回は、全てのSTM32G0xデバイスで実装済みでIoT MCU必須機能、2.5Msps12ビットADCのLow-Layer APIでの使い方を解説します。

STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (2)

STM32G0x専用テンプレートで使うSTM32CubeMXのLL API利用法第2回は、LL APIとHAL APIの違いを説明します。
専用テンプレートはLL、汎用テンプレートはHALを使う理由がお判りになると思います。

LL(Low-Layer)とHAL(Hardware Abstraction Layer)相対比較

第1回で示したLL API関連資料一覧のUM2319の最初のページに、LLとHALの定義が示されています。

・LL:HALよりもハードウェアに近く、高速で軽量なエキスパート向けレイヤー
・HAL:ハードウェア抽象化で、STM32MCU間で最大限の移植性を保証するレイヤー

MCUハードウェアに依存するLLは、高速・軽量ですが移植性が低いので、LL APIを利用するソフトウェア(=アプリケーション)はそのMCU専用になります。一方、HALはMCU移植性が高いため、HAL API利用アプリケーションはSTM32MCU間で汎用的に使えます。

HALの方が現代的で少ないユーザ記述でアプリケーション開発ができ、さらに汎用なので開発労力が無駄にならない利点があります。しかし、HALが隠蔽している制御の分Flash(ROM)やRAM容量が必要で、LLに比べ低速です。モーター制御など高速処理が必要な部分にはLLの方が向いているかもしれません。

以前の投稿STM32CubeMXの使い方で示した、HAL APIとLL API相対比較表を再掲します。

HALとLL比較(出典:STM32 Embedded Software Overvire)
HALとLL比較(※説明のため着色しています。出典:STM32 Embedded Software Overvire)

専用テンプレートと汎用テンプレート

LL APIの利点は、ハードウェア性能を活かし少ない容量で高性能アプリケーション開発ができる点です。これは、小Flashで高性能なSTM32G0xデバイスに最適と言えるでしょう。

現状はSTM32G0xが「単独デバイス」でSTM32F0/F1両方のMCU性能をカバーしているので「専用テンプレートが最適」だと言えます。しかし、「STM32G0xシリーズに更に高性能なSTM32G1xデバイス」が発売されれば、移植性が高いHALでSTM32G0xソフトウェア開発を行う方が良くなる可能性はあります。

但しこの場合には、HAL API利用の販売中汎用STM32FxテンプレートをSTM32G0xデバイスへ適用すれば済みます。汎用性を示すこの適用例は、近く投稿する予定です。

特定ハードウェア性能を活かす専用アプリケーションが、少ないROM/RAM容量でも開発できるLL APIメリットを示すデバイス例としてSTM32G0xを選び、専用テンプレートを開発中です。

LL APIとHAL APIのアプリケーションサイズ実例比較

LL API利用時、容量がHAL APIに比べどの程度小さくなるかを実例で示します。

これも前の投稿STM32CubeMXの使い方で示したように、一般的にはLLの方がHAL比60~80%小さくなると言われます。

実例に評価ボードNucle-G071RBに処理は何もせず、64MHz動作のみをLL APIとHAL APIだけを変えてビルドした結果が下記です(SW4STM32 v2.8.1、STM32CubeMX v5.1.0、STM32G0 v1.1.0)。

  text data bss 使用容量 容量比(%)
LL API 3120 12 1564 4696 59
HAL API 9680 20 1708 11408 100

LL API利用の方が 59%小さく実現できることが判ります。

LL APIとHAL API混合利用時の注意点

AN5110には、LLとHAL両方を混在させた公式サンプルプロジェクトのExamples_MIXがNucleo-G071RBでも9例と少ないながら掲載されています。

LLとHAL混在利用の公式サンプルプロジェクト(出典:AN5110)
LLとHAL混在利用の公式サンプルプロジェクト(出典:AN5110)

LLとHALを混在利用時は、色々な注意点があります。UM2319の5章に詳細がありますが、一部抜粋します。

・同じ周辺回路をHALとLLで混在制御するのは避ける
・LLはHALがハンドルしているレジスタを上書きすることがあるので注意

また、UM2303の2章にLLとHALの示すアーキテクチャが示されています。

STM32CubeG0 Firmware Architecture(出典:UM2303)
STM32CubeG0 Firmware Architecture(※説明のため着色しています。出典:UM2303)

つまり、上層HALが下層LLを利用する場合がある訳です。LLは、HALがどのように周辺回路を制御しているかを知ることなく直接ハードウェアレジスタにアクセスします。混在時はレジスタ競合などの詳細な注意がAPI利用者側で必要です。

Nucleo-G071RB 利用時LLとHAL混在利用は、Examples_MIXの9例を除いては避けた方が良さそうです。
BSP(Board Support Package)も、同じ理由でSTM32G0x専用テンプレートには使いません。

※以上は、同一周辺回路でLLとHALを混在利用する場合の注意点です。
※では、周辺回路が異なれば混在は問題ないのでしょうか? 例えば、I2CはHAL、GPIOはLLの場合などです。この場合でも、HALがLLを利用することを考慮すると、アプリケーションレベルでの安全側評価では混在は避け、LLまたはHALに統一して利用する方が無難だと思います。

STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (2):LL APIとHAL APIの違いまとめ

STM32G0x専用テンプレートは、HAL APIとの混在利用は避け、LL APIのみで開発します。

従って、STM32G0xデバイス専用のアプリケーションとなります。
汎用テンプレートSTM32Fxテンプレートは、HAL APIを使っていますので、STM32MCUで汎用的に使えるアプリケーションです。
※このSTM32Fxテンプレート汎用性を示すため、STM32G0xデバイスへこの汎用テンプレートを適用した例を示す予定です。

LLとHAL混在アプリケーション開発は、レジスタアクセス競合などの詳細注意が、API利用アプリケーション側で必要です。
公式サンプルプロジェクトExamples_MIXで示されたやむを得ない場合を除いては、避けた方が無難です。