モダンPCとPINコード

本稿が2019年最後の投稿です。

前稿Windows 10 2PCトラブルにもめげず、2020年1月6日発売のCypress PSoC CapSenseテンプレートに向けて急ピッチで開発を進めてます。本稿は、Windows 10トラブルで気になったモダンPCと、公開鍵暗号方式PINコードを紹介します。

モダンPC

創造性と生産性を上げるのがモダンPCで、Windows 10とOffice 365がその要素のようです。

Windows 7サポート終了2020年1月14日を前に、MicrosoftはモダンPCへの移行を呼びかけています(Windows 7稼働予測グラフ有り)。今でもネットカフェで稼働中の多くのWindows 7 PCは、果たして安定性・メンテナンス性に問題あるモダンPCへ移行するのでしょうか?

Windows 7並みの信頼性が無ければ、宣伝文句は良くてもPCのOSとしては、どうかな?と個人的には思います。
2023年までのWindows 7有償再延長サポートも選択肢としてあるので、7を使い続け、開発者よりも一般エンドユーザを重視する次期Windows Xに期待する声も少なくないかもしれません。

筆者は最新OSの最重要機能は、セキュリティだと思います。

OS最重要機能はセキュリティ(出典:Pixabay)
OS最重要機能はセキュリティ(出典:Pixabay)

Windows 10付属セキュリティツールだけで安心しているエンドユーザが、どれ程いるかは解りません。しかし、多くのネットカフェが設定するWindows 7+市販セキュリティソフトとのOSセキュリティ能力差が、どれ程あるかも不明です。

2020年以降のWindows 7稼働予測と、モダンPCへの移行状況が、Microsoftの思惑通りになるか気になります。

PINコード

Windows 10インストールで新たに要求されるPIN(Personal Identification Number)コードは、個人識別番号のことです。普通、数字4桁です。

PINコードは、IDとパスワードの代わりに登場してきたセキュリティ用語で、筆者の理解では、PINコードが公開鍵暗号方式、パスワードは秘密鍵暗号方式です。PINコードとパスワードの解り易い違いは、コチラのP1図です。

通信中の鍵が公開鍵なので、秘密鍵パスワードよりも安全で、公開鍵とペアの秘密鍵は、デバイス(Windows 10/MCUなど)内部保存、開発コストや運用コストが低く、強固なセキュリティが実現できるそうです。ペア秘密鍵がデバイス内なので、なりすまし対策にもなります。

PIN、FIDO(ファイドと読む)で検索すると様々な情報が得られます。iPhoneは少し違うようですが、AndroidスマホではPINコードが標準になりつつあるようです。

筆者のWindows 10は、前投稿トラブル回復直後のため、テンプレート開発以外は、今のところあまり手出し(調査)したくない心境です。簡単、安心、低コスト、セキュリティ強固なPINコードなら、MCUへも実装できるかもしれません。

…以上のように今年最後の本稿は、あいまいな推量となりました。
安心してPCが使えるまでは、最高プライオリティ:CapSenseテンプレート開発を優先したいからです。すいません😌。

本年も本ブログをご覧いただき、まことにありがとうございました。
皆さま、よいお年をお迎えください(Ladies and gentlemen, I wish you a happy New Year)。

Windows 10 1909トラブル回復録

年末年始の忙しい時に限って自作Windows PCにトラブルが発生するのは、日頃の行い、またはマーフィーの法則?

Backup PC(Windows 10 1903)のWindows 10 1909アップデートトラブルに続き、Main PC(Windows 10 1909)にもWindows起動トラブルが発生しました。Backup PCトラブルは、暫く様子見でも良いと考えていましたが、Main PC起動トラブルは、即回復が必要です。

Windows 10トラブル内容

Backup PCは、Windows 10 1903から1909への更新プログラムインストールに失敗するトラブルです(0x800F0922)。1903からの新機能追加も少ない1909への更新は、Backup PCのため急ぐ必要はありません。この更新失敗トラブルは少なくないようで、ネットに多くのトラブル対策があります。更新プログラム直接インストール、クリーンブードも既に試しましたが回復しません。

Main PCは、突然起動NGになりました。きっかけは、複数アプリケーション更新と更新履歴消去です。Boot起因ですので、自動修復やコマンドプロンプト手動修復も試しましたが回復しません。唯一の救いは、1909更新成功直後のシステムバックアップがあることです。

トラブル回復策

Main PCは、11月14日の1909更新直後のシステムリカバリで回復しました。但し、今回の起動トラブル発生までの約1か月間のユーザデータ更新とアプリケーションソフト更新が必要で、このために半日がつぶれます。また、Backup PCは、その症状から「最後の切り札」:1909クリーンインストールが必要かな?と感じていました。

そこで、Main PCでつぶれる半日で並列にBackup PCをクリーンインストールしようと決心した訳です。Main PCのアプリケーション更新時、Backup PCへのインストール必須アプリケーションも明確になります。退屈な回復作業ですが、PCの前から離れる訳にもいきません。2PC同時に回復することで、効率向上も狙えるかなと考えました。

トラブル回復作業と時間

ネットに溢れる回復作業内容よりも、作業に要した時間を示します。

もちろんPC性能やネットワーク環境で分単位精度は変わるでしょう。半年毎に繰返されるWindows 10更新トラブル対応の目安と考えてください。作業時間は、2PC回復トータルで丸1日程度です。が、精神的ダメージはかなりあります。Windows10更新トラブルがこのまま続くなら、Mac PCへの乗換を検討する程のダメージです。

Backup PC Windows 10 1909クリーンインストール作業時間

  1. Windows 1909クリーンインストール:10分(Microsoftアカウントに加え、新たにPINコード入力要求)
  2. クリーンインストール後のセットアップ:5分(OSセキュリティ内容などを設定)
  3. セットアップ後の更新プログラム適用:40分

最新Windows 10 1909クリーンインストール自体は、上記1時間程で完了します。これなら、毎回クリーンインストールしても良いと思える程簡単です。が、この後のアプリケーションインストール、ユーザデータ復活に時間が掛かります。

  1. セキュリティソフト、ブラウザ、FFFTP、圧縮解凍などOS必須ツールインストール:1時間
  2. Officeアプリケーションインストールと更新プログラム適用:3時間
  3. ベンダMCU開発ツールインストール:1時間
  4. ユーザデータ復活:1時間(クラウドストレージ経由ではなく回復Main PCより直接コピー)

合計で7時間~8時間(=丸一日)は、モニタ前で待たされます。並列で行ったMain PC回復作業も、システムリカバリと1か月間のユーザデータ復活で3時間程度です。Office(2010)アプリケーションインストールと更新は、LibreOfficeに比べ時間が掛かります。新しいOffice 2019/2016でも、同様に時間が掛かると思います。

※アプリケーションとユーザデータを引継いだままWindows 10 1909上書きインストールも可能です。しかし、Backup PCは、この上書きインストール(1.5時間)も失敗しました。更新プログラム直接インストール、クリーンブードと同様、「最後の切り札」より前の回復手段は、経験上あてになりません😫。

いろいろある回復手段を試して消費する合計時間と、「最後の切り札」で一発回復する上記8時間のどちらを選ぶかは、トラブル種類と回復作業内容・処理時間、個人の性格に依存します。本稿が参考になれば幸いです。

ビジネスPC要件

今回のトラブルで、筆者のWindows PCには、Mac PCへの乗換を妨げる利用アプリケーションは無いことが明確になりました。利用アプリケーション全てMac OS対応、または同等アプリケーションが有ります。

ビスネスPCのOSは?
信頼性重視ビスネスPCのOSはWindows、Mac、Unixのどれが良いか?

Mac PCの方が高性能なのでWindows PCより高価です。従って、このMac PC対Windows PC差額を払う分だけの信頼性が得られるか、費用対効果が乗換課題です(もちろん、経済的余裕と自作PCの楽しさが消えるのもありますが…)。

Backup PC、Main PCともに自作Windows PCですが、今回のようなOS起因トラブル無しで何年も動作し続けたPCです。ネットを見ると、Backup PCと同じ更新トラブルは、2019年最新WindowsノートPCでも発生しているようです。

以前のOS、特にWindows 7に比べ世間を騒がせるWindows 10更新トラブルは、Windows 10完成度・信頼性が低いとエンドユーザに感じさせるだけでなく、Microsoftの狙いは、OS更新毎に毎回Windowsをクリーンインストールさせ、アプリケーション本体は、Office 365のようにクラウド提供することが目的なのでは、という疑いを生じさせます。
OSクリーンインストールが短時間で簡単に終わり、OfficeアプリケーションのローカルPCインストールと更新にやたら時間が掛かることが根拠です。

ビジネスで使うPCは、Mac PC(Unixも含む)への乗換を考えるべき時期かもしれません。今後、Mac PC/OSのトラブルや回復方法も調べたいです。

ARM MCU変化の背景

昨今のARM MCU事情、そして今後の方向性”という記事が、2019年11月22日TechFactoryに掲載されました。詳細は記事を参照して頂き、この中で本ブログ筆者が留意しておきたい箇所を抜粋します。その結果、ARM MCU変化の背景を理解できました。

現在のARM MCUモデル

Cortex-Mコアだけでなく、周辺回路も含めた組み合わせARM MCUモデルが、端的に整理されています。

・メインストリームは、Cortex-M4コアに周辺回路搭載
・ローパワーは、Cortex-M0+に低消費電力周辺回路搭載
・ローコストは、Cortex-M0に周辺回路を絞って搭載

例えば、STマイクロエレクトロニクスの最新STM32G0xシリーズのLPUART搭載は、ローパワーモデルに一致します。各Cortex-Mコアの特徴は、コチラの投稿の5章:Cortex-M0/M0+/M3の特徴などを参照してください。

ARM MCUの新しい方向性

2019年10月時点で記事筆者:大原雄介氏が感じた今後のARM MCU方向性が、下記4項目です。

  1. ハイエンドMCU動作周波数高速化、マルチコア化
  2. RTOS普及
  3. セキュリティ対応
  4. RISC-Vとの競合

以下、各項目で本ブログ筆者が留意しておきたい箇所を抜粋します。

1.ハイエンドMCU動作周波数高速化、マルチコア化

動作周波数高速化は、NXPのi.MX RT 1170のことで、Cortex-M7が1GHzで動作。i.MX RT1170は400 MHz動作のCortex-M4も搭載しているディアルコアMCU。

これらハイエンドMCUの狙いは、性能重視の車載MCU比べ、コスト最重視の産業機器向け高度GUIやHMI:Human Machine Interface用途。従来の簡単な操作パネルから、車載のような本格的なGUIを、現状の製造プロセスで提供するには、動作周波数の高速化やマルチコア化は必然。

2.RTOS普及

普通はベアメタル開発だが、アプリケーション要件でRTOS使用となり、ポーティング例は、Amazon FreeRTOSが多い。マルチコアMCUでは、タスク間同期や通信機能実現には、ベアメタルよりもRTOS利用の方が容易。また、クラウド接続は、RTOS利用が前提となっている。

3.セキュリティ対応

PAS:Platform Security Architectureというセキュリティ要件定義があり、これが実装済みかを認証するPSA Certifiedがある。PAS Certified取得にはTrustZoneを持つATM v8-MコアCortex-M23/33が必須ではなく、Cortex-M0やM4でも取得可能。但し、全MCUで取得するかは未定で、代表的なMCUのみになる可能性あり。

4.RISC-Vとの競合

ARM CMSISからずれるCustom Instruction容認の狙いは、競合するRISC-Vコアへの対抗措置。RISC-V採用製品は、中国では既に大量にあり、2021年あたりに日本でもARMかRISC-Vかの検討が発生するかも?

ARM MCU変化背景

本ブログ対象の産業機器向けMCUの1GHz動作や、ディアルコアMCUの狙いは、ADAS(先進運転支援システム)が引っ張る車載MCU+NVIDIA社などのグラフィックボードで実現しつつある派手なGUIを、10ドル以下のBOM:Bill Of Matrixで実現するのが目的のようです。また、産業機器向のMCUのAIへの対応も気になる点です。これにら向け、各種ツールなども各ベンダから提供されつつあります。

ハイエンドMCU開発でRTOS利用が一般的になれば、下位MCUへもRTOSが利用される場面は多くなると思います。タクス分離したRTOSソフトウェア開発は、タスク自体の開発はベアメタルに比べ簡単で、移植性や再利用性も高いからです。ベアメタル開発は、RAMが少ない低コストMCUのみになるかもしれません。

RTOS MCU開発も、Windowsアプリケーション開発のようにOS知識が(無く!?)少なくても可能になるかもしれません。

MCUベンダのセキュリティ対応は、まだ明確な方針が無さそうです。RTOSと同様、IoTアプリケーション要件がポイントになるでしょう。総務省による2020年4月以降IoT機器アップデート機能義務化予定などもその要件の1つになる可能性があります。

Custom Instructionは、コチラの投稿の5章でベンダ独自のカスタム命令追加の動きとして簡単に紹介しましたが、その理由は不明でした。これが、競合RISC-Vコアへの対抗策とは、記事で初めて知りました。

本ブログ記事範囲を超えた、広い視野でのMCU記事は貴重です。

来年開発予定のベアメタルCortex-M4テンプレートへ、RTOSの同期や通信機能を簡易実装できれば、より役立ち、かつRTOS普及へも対抗できるかもしれないと考えています。クラウド接続IoT MCUは、Amazon FreeRTOSやMbed OS実装かつ専用ライブラリ利用が前提なのは、ひしひしと感じています。

MCUプロトタイプ開発のEMS対策とWDT

ノイズや静電気によるMCU誤動作に関する興味深い記事がEDN Japanに連載されました。

どのノイズ対策が最も効果的か? EMS対策を比較【準備編】、2019年10月30日
最も効果的なノイズ対策判明!  EMS対策を比較【実験編】、2019年11月29日

EMS:(ElectroMagnetic Susceptibility:電磁耐性)とは、ノイズが多い環境でも製品が正常に動作する能力です。

MCUプロトタイプ開発時にも利用すべきEMS対策が掲載されていますので、本稿でまとめます。また、ノイズや静電気によるMCU誤動作を防ぐ手段としてWDT:Watch Dog Timerも説明します。

実験方法と評価結果

記事は、インパルスノイズシュミレータで生成したノイズを、EMS対策有り/無しのMCU実験ボードに加え、LED点滅動作の異常を目視確認し、その時点のノイズレベルでEMS対策効果を評価します。

評価結果が、11月29日記事の図5に示されています。

結果から、費用対効果が最も高いEMS対策は、MCU実験ボードの入力線をなるべく短く撚線にすることです。EMS対策用のコンデンサやチョークコイルは、仕様やパーツ選定で効果が左右されると注意しています。

MCUプロトタイプ開発時のお勧めEMS対策

MCUプロトタイプ開発は、ベンダ提供のMCU評価ボードに、各種センサ・SWなどの入力、LCD・LEDなどの出力を追加し、制御ソフトウェアを開発します。入出力の追加は、Arduinoなどのコネクタ経由と配線の場合があります。言わばバラック建て評価システムなので、ノイズや静電気に対して敏感です。

このMCUプロトタイプ開発時のお勧めEMS対策が下記です。

1.配線で接続する場合は、特に入力信号/GNDのペア線を、手でねじり撚線化(Twisted pair)だけで高いEMS効果があります。

身近な例はLANケーブルで、色付き信号線と白色GNDの4組Twisted pairが束ねられています。このTwisted pairのおかげで、様々な外来ノイズを防ぎLANの信号伝達ができる訳です。

信号とGNDの4組Twisted pairを束ねノイズ対策をするLANケーブル
信号とGNDの4組Twisted pairを束ねノイズ対策をするLANケーブル

2.センサからのアナログ入力信号には、ソフトウェアによる平均化でノイズ対策ができます。

アナログ信号には、ノイズが含まれています。MCU内蔵ADCでアナログ信号をデジタル化、複数回のADC平均値を計算すればノイズ成分はキャンセルできます。平均回数やADC周期を検討する時、入力アナログ信号が撚線と平行線では、2倍以上(図5の2.54倍より)のノイズ差が生じるので重要なファクターです。従って、撚線で検討しましょう。
平均回数やADC周期は、パラメタ設定できるソフトウェア作りがお勧めです。

3.SWからの入力には、チャタリング対策が必須です。数ミリ秒周期でSW入力をスキャンし、複数回の入力一致でSW値とするなどをお勧めします。
※弊社販売中のMCUテンプレートには、上記ADCとSWのEMS対策を組込み済みです。

4.EMS対策のコンデンサやチョークコイルなどの受動部品パーツ選定には、ベンダ評価ボードの部品表(BOM:Bill Of Matrix)が役立ちます。BOMには、動作実績と信頼性がある部品メーカー名、型番、仕様が記載されています。

ベンダMCU評価ボードは、開発ノウハウ満載でMCUハードウェア開発の手本(=ソフトウェアで言えばサンプルコード)です。

特に、新発売MCUをプロトタイプ開発に使う場合や、MCU電源入力ピンとコンデンサの物理配置は、BOM利用に加え、部品配置やパターン設計も、MCU評価ボードを参考書として活用することをお勧めします。
※PCB設計に役立つ評価ボードデザイン資料は、ベンダサイトに公開されています。

MCU誤動作防止の最終手段WDT

EMS対策は、誤動作の予防対策です。EMS対策をしても残念ながら発生するノイズや静電気によるMCU誤動作は、システムレベルで防ぐ必要があります。その手段が、MCU内蔵WDTです。

WDTは、ソフトウェアで起動とリセットのみが可能な、いわば時限爆弾です。WDTを一旦起動すると、ソフトウェアで定期的にリセットしない限りハードウェアがシステムリセットを発生します。従って、ソフトウェアも再起動になります。

時限爆弾を爆発(=システムリセット)させないためには、ソフトウェアは、WDTをリセットし続ける必要があります。つまり、定期的なWDTリセットが、ソフトウェアの正常動作状態なのです。

ノイズや静電気でMCU動作停止、または処理位置が異常になった時は、この定期WDTリセットが無くなるため、時限爆弾が爆発、少なくとも異常状態継続からは復帰できます。

このようにWDTはMCU誤動作を防ぐ最後の安全対策です。重要機能ですので、プロトタイプ開発でもWDTを実装し、動作確認も行いましょう。

※デバッグ中でもWDTは動作します。デバッグ時にWDT起動を止めるのを忘れると、ブレークポイントで停止後、システムリセットが発生するのでデバッグになりません。注意しましょう!

PSoC Creatorでデバイスファミリが見つからない時の対処

Cypress PSoC Creatorで、開発デバイスファミリが見つからない時の対処方法を示します。

No Target PSoC Family
No Target PSoC Family

開発デバイスファミリがDevice familyリストに無い!?

PSoC 4100PSファミリ評価ボード:CY8CKIT-147を入手、評価ボード付属サンプルコードをPSoC Creator 4.2(以下、Creator)にインポートするためFind Code Exampleをクリックしましたが、対象MCUファミリのPSoC 4100PSがDevice familyリストに見当たりません。

このリストに対象MCUファミリが無い時は、新規プロジェクト作成やサンプルコードインポートができないため、Creatorが全く使えません。お手上げ状態です。

※CY8CKIT-147は、CapSenseテンプレート開発用にトラ技懸賞で当選した評価ボード(前回投稿参照)です。

PSoC Creator対処

CreatorのToolsタブからFind new devicesをクリックします。Device Update Installerダイアログが表示されますので、Installをクリックし完了を待ちます。

PSoC CreatorのFind new devices
PSoC CreatorのFind new devices

Creator再起動でDevice familyリストへ最新MCUファミリが追加されます。勿論、PSoC 4100PSもDevice familyリストにありますので、CreatorでCY8CKIT-147プロジェクト作成ができ開発可能となります。

例としてPSoC 4100PSファミリで説明しましたが、他のデバイスファミリがDevice familyリストに無い場合も同様に解決できます。

Update ManagerはDevice familyリスト更新ができない

Cypress Update Managerは、PSoC Creatorなども含めたインストール済みCypress MCU開発環境の更新状況をチェックし、更新や削除が簡単にできる優れたツールです。Creatorと同時にインストールされます。

Update Managerは、自動で起動し目立つのでご存じの方は多いと思います。しかし、前章で示したCreatorが扱うDevice familyリスト更新はUpdate Managerではできません。Creator 4.2を長く使っている方ほど、Find new devicesを忘れがちですので注意してください。

Creatorが扱うコンポーネントの場合は、同じことは起こりません。理由は、Creatorでプロジェクトを開いた時、右下に黄色の!アイコンが表示されるからです。この!アイコンをクリックすると、プロジェクトで使用中のコンポーネントが最新版へ更新されます。

PSoC CreatorのNew Compornents are available表示
PSoC CreatorのNew Compornents are available時の!アイコン表示

但し、コンポーネント更新は、アプリケーションに対して動作リスクが伴います。更新前プロジェクトArchive作成も忘れずに行いましょう(関連投稿:STM32CubeIDE v1.1.0更新と文字化け対策(その2)の2~3章)。

PSoCプログラミング要点

PSoCプログラミングは、デバイス内蔵コンポーネントのAPI操作です。従って、コンポーネント単位のプログラミングとその開発経験の積重ね/載せ替えが可能です。

想定アプリケーションに必要となる複数コンポーネントをパッケージしたものが、各種デバイスファミリで、Creatorインストール時の図がこれらを示しています。

PSoC Programmingのポイント
PSoC Programmingのポイントは、コンポーネント単位の開発経験の積重ね、デバイス載せ替えが可能なこと。

CreatorのGUIで、コンポーネント更新が新デバイスファミリ追加よりプライオリティが高いのも、コンポーネントプログラミングが理由だと筆者は思います。

多くのPSoCコンポーネントの中でCapSenseにハイライトしたのが開発中CapSenseテンプレートで、動作確認ファミリはPSoC 4000S/4100S/4100PSです。但し、同じ第4世代CapSenseコンポーネント内蔵のPSoC 6などへも流用や応用が簡単にできます。

PSoC Creator 4.3 Beta版リリース

2019年10月31日、新たにPSoC 4500ファミリをサポートするPSoC Creator 4.3 Bate版がリリースされました。PSoC 4500ファミリは、二つの独立したSAR ADCと5個までのOpamp/Comparatorブロックを持つアナログ周辺回路が豊富なデバイスファミリです。

Creatorが4.3へ正式更新された時には、同時にDevice familyリストも最新版へ更新されると思います。Creator 4.2が長く使われた結果、今回のようなデバイスファミリが見つからない事象が発生したと言えます。

同じファミリでも新デバイスが毎年追加されます。半年に一度程度は、CreatorのFind new devicesをクリックすることをお勧めします。

マイコン選択方法2019

MCU:マイコンは、種類が多くどれを自分の開発や製品に使うのが最適か?分りにくいと言われます。この問いに対する回答を示します。具体例として今年5月トランジスタ技術で紹介されたCypress PSoC 4シリーズのMCUを選択します。他ベンダでも同様です。

MCU選択とスマホ選択の差

毎年新機種が発表されるスマートフォン。特にAndroidスマホは、電話の基本機能は同じでも、カメラなどの付加機能やサービス、価格帯が広く、選択に迷います。それでも、何年かスマホを使っていると、どの機能が自分に必須かが分かってくるのと懐具合との兼ね合い、また、古い機種は数年でカタログから消えるので、スマホ選択幅は収束します。

ところが、MCUの場合は、発表後10年以上販売継続されます。スマホとの一番の差です。
古い選択肢も残ったまま新製品が追加され、選択幅が時間とともに広がるのがMCU選択を困難にする要因の1つです。

そこで、広い選択幅からMCUを選ぶ方法を、4段階で示します。

第1段階:適用製品による大枠選択

MCUベンダは、適用製品に合わせてMCUを大分類します。車載とインダストリアル分野では使用温度や内蔵周辺回路などの要件が異なるからです。そこで、第1段階は、この適用製品でMCUを選択します。

例えば、NXPSTマイクロエレクトロニクストップサイトの“アプリケーションタブ”がこの大枠を示します。
ルネサスエレクトロニクスCypressの場合は、“ソリューションタブ”です。

ここまでは、多くの方がご存じと思います。分かりにくくなるのは、ココカラです。

第2段階:MCU名称による中枠選択

同じインダストリアル分野のMCUでも、シリーズやファミリなど細かく名称が分かれています。名称が異なるには訳があるので、その理由を理解するのが、第2段階です。この段階では、ベンダ間の買収や合併などの歴史も知っている方が良いです。ポイントは、選択の決め手となる最新カタログの取得です。

Cypressのスマートアプリケーション分野のMCUで説明します。

スマートアプリケーション分野MCU使用例(出典:Cypressサイト)
スマートアプリケーション分野MCU使用例(出典:Cypressサイト)

PSoC 6/4/FM4などの複数MCUから構成されるスマート洗濯機です。PSoC X(X=4,6)は、元々のCypress MCUの名称で、FM4は、2014年に合併した米Spansion(実はSpansionに買収された富士通セミコンダクター)のMCU名称です。

Cypressは、Spansion合併でARM Cortex-M0+ライセンスを取得し、Cortex-M0利用のPSoC 4に適用、その結果生まれた新製品がPSoC 4Sです。PSoC 4Sは、特許取得済み静電容量式第4世代タッチセンサCapSense内蔵のPSoC 4000ファミリへと発展しました。

PSoC 4サイトトップページへ行き製品タブを見ると、さらに細かくPSoC 4000/4100/4200/4700とファミリが分類されており付加機能も異なります。この中枠の段階で製品セレクターガイドなどへ行くとMCU選択に迷ってしまします。他のベンダでも同様です。

この中枠MCU選択の重要資料:Brochureをダウンロードします。Brochureとは、製品パンフレット、カタログのことで、ほぼ毎年更新されます。

どのベンダでも、この中枠MCUを対象とした製品カタログがあります。この最新カタログを見つけるのがMCU選択での最重要事項です。

第3段階:最新カタログと評価ボードによる開発MCU選択

製品カタログには、ベンダがアピールしたい最新MCU情報が詳しく掲載されます。継続販売中の古いMCUや歴史は(紙面の都合上)無視されます。但し、これで新旧MCUを選択のふるいにかけることができます。

世間の話題にはなりにくいMCUの発展速度も、スマホやPC並みに早いのです。最新MCUは、低電力動作や処理効率に優れ、市場ニーズに即した開発が期待できます。

製品カタログには、中枠に相当するMCUファミリ一名称や概略を示す一覧図が掲載されます。

PSoC 4の場合は、下図です。ファミリ名の差(=意味)をこの図から理解すれば、開発MCU選択は、殆ど(?!)最終段階です。

PSoC 4ファミリ一覧図(出典:PSoC 4 Brochure)
PSoC 4ファミリ一覧図(出典:PSoC 4 Brochure)

殆どとは、例えば、エントリーレベル灰色の四角:PSoC 4000SファミリにもFlashやROM、内蔵周辺回路数により多くのMCUがあります。つまり、開発に適すMCUを各四角の中から選択する必要がある訳です。

これには、ファミリ毎にベンダが用意する評価ボード搭載MCUが適します。カタログにも評価ボードが記載されています。

ファミリ毎に用意される評価ボード(出典:PSoC 4 Brochure)
ファミリ毎に用意される評価ボード(出典:PSoC 4 Brochure)

評価ボード搭載MCUは、ファミリ内で最も標準的かつ応用範囲が広く、しかもサンプルコードが付いていますので、MCUを直に動作させることができます。低価格で入手性が良いのも特徴です。開発着手のMCUとしては最適です。

第4段階:プロトタイプ開発による製品MCU選択

評価ボードのMCUを基準にプロトタイプ開発を行い、製品化時のMCU選択をします。

プロトタイプMCUでFlash/RAM不足が懸念されならより大容量MCU、性能不足や周辺回路数不足が懸念されるならより高性能MCUを製品MCUとして選択するなどです。プロトタイプ開発により、製品MCU評価が高精度でできます。

以上の4段階で開発や製品に適すMCU選択ができます。プロトタイプ開発結果をどう活かすかで最適な製品MCU選択ができます。

Cypress PSoC 4 MCU選択具体例

弊社開発中のCapSenseテンプレートに用いるCypress PSoC 4 MCUを、上記の方法で選択した結果を示します。

CapSense は、PSoC 4000ファミリの他社差別化機能の1つです。そこで、このCapSenseを活かすプロトタイプ開発テンプレートを目指します。

CapSenseテンプレートに用いる3ファミリMCU:PSoC 4000S、PSoC 4100S、PSoC 4100PSの特徴を一覧で示します(縦長の図がウェブでは上手く表示できます)。

CapSenseテンプレート対象3MCUファミリ比較
CapSenseテンプレート対象3MCUファミリ比較

PSoC 4000S評価ボード:CY8CKIT-145-40XX PSoC 4000S CapSense Prototyping Kit搭載MCUは、CY8C4045AZI-S413(48ピン)です(下図左)。

PSoC 4100S評価ボード:CY8CKIT-041-41XX PSoC 4100S CapSense Pioneer Kit搭載MCUは、CY8C4146AZI-S433(48ピン)です。トラ技5月号付録PSoC 4100S基板実装のCY8C4146LQI-S433(40ピン)も同じファミリですが、ピン数のみが違います(下図中央)。

PSoC 4100PS評価ボード:CY8CKIT-147 Prototyping Kit搭載MCUは、CY8C4145LQI-PS433(48ピン)です(下図右)。

Cypressの3ファミリ評価ボードは、どれも48ピンで揃っているので、比較しやすいでのすが、弊社は、予算の都合上、PSoC 4100Sファミリは、トラ技付録PSoC 4100S基板実装MCU(40ピン)を用います。

CapSenseテンプレート評価ボードMCU(PSoC 4000S評価ボード、トラ技5月付録PSoC 4100S基板、PSoC 4100PS評価ボード)
CapSenseテンプレート評価ボードMCU(PSoC 4000S評価ボード、トラ技5月付録PSoC 4100S基板、PSoC 4100PS評価ボード)

CapSenseで最重要なタッチUIハードウェアは、PSoC 4000S評価ボードのCapSense基板を、PSoC4100S/4100PS各基板と接続してテンプレート動作確認をします。PSoC 4000S → PSoC 4100SでFlash/RAM容量増加、PSoC 4000S → PSoC 4100PSでアナログフロントエンド強化などへ発展します。

※CapSenseテンプレート完成は、計画当初は2019Q3でした。しかし、PSoC 4100PS評価ボードは、トラ技懸賞品をあてにしており、運よく当選し11月Mに当選品が入手できました。2019Eを目途にテンプレート完成の予定です。

SW4STM32アプリケーションのSTM32CubeIDE移設

SW4STM32で開発した2017年9月発売STM32Fxテンプレートと2019年6月発売STM32G0xテンプレートを、STM32MCU最新統合開発環境STM32CubeIDE v1.1.0へ移設しました。

移設は成功し、STマイクロエレクトロニクス最新統合開発環境:STM32CubeIDE v1.1.0(以下、CubeIDE)、STM32CubeMX v5.4.0(以下、CubeMX)、最新ファームウェアと弊社テンプレートを使って、効率的で最新のSTM32MCUプロトタイプ開発、アプリケーション開発ができます。

本稿は、STM32CubeIDE v1.1.0更新と文字化け対策投稿(その1)、(その2)のその3に相当します。説明が重複する箇所は、リンク先を参照してください。

移設成功結果

G0AdcTemplateのSTM32CubeIDE移設成功結果
G0AdcTemplateのSTM32CubeIDE移設成功結果

STM32Fxテンプレートは「ひと手間」、STM32G0xテンプレートは「そのまま」で最新統合開発環境へ移設でき、評価ボードにてテンプレート動作を確認しました。G0AdcTemplateのCubeIDE移設後と評価ボード動作例です。

既にSTM32Fx/G0xテンプレートご購入者様は、本稿の方法で最新STマイクロエレクトロニクス開発環境へ乗換えることができます。

※現状のCubeMX v5.4.0でコード生成後、CubeIDE v1.1.0の日本語コメントは文字化けしますので注意してください(詳細は、投稿その2参照)。

最新開発環境ファームウェアとアプリケーション開発時ファームウェア

最新開発環境ファームウェアとテンプレート開発時ファームウェア
最新開発環境ファームウェアとテンプレート開発時ファームウェア

投稿その2で示したように、MCU開発ソフトウェア(=アプリケーション)に最も影響を与えるのは、ファームウェア更新です。

STM32FxテンプレートのF0用ファームウェアFW_F0は、開発当時のv1.8.0からv1.11.0へ、F1用ファームウェアはv1.4.0からv1.8.0へ、G0用ファームウェアFW_G0はv1.2.0からv1.3.0へそれぞれ更新されています。
※STM32G4テンプレートは、これから開発着手しますので最新のv.1.1.0のままです。

次章3から5章までを使って、STM32F1テンプレート:F1BaseboardTemplateを例に、当時の開発環境から最新開発環境への移設作業、ファームウェア変更、トラブルシューティングを「詳細に説明」します。但し、結果として行う処理は、6章まとめに示す簡単なものです。途中の章は読み飛ばしても構いません。

開発済みMCUアプリケーションを暫くたってから更新、または本稿のようにIDE自体が変わり最新開発環境へ移設することはよくあります。F1BaseboardTemplateをお持ちでない方も、(手前みそですが)次章から5章の内容は参考になると思います。

ファームウェア更新でコンパイルエラー発生:3章

先ず、ファームウェア起因のコンパイルエラーが発生するまでを示します。

1.SW4STM32で開発したF1BaseboardTemplateプロジェクトをCubeIDEへインポートします(インポート方法は、投稿その1-3章参照)。インポートソースコードの日本語コメントに文字化けが発生しますので、その1で示したShift-JISからUTF-8へのエンコード変換で解決します。

2.インポート済みのCubeMXプロジェクトファイルを、CubeIDEプラグイン版CubeMXで開き、Project Managerタブをクリックし、Toolchain/IDEがSTM32CubeIDEであることを確認します。インポートIDE変換が成功していれば、SW4STM32から自動的にSTM32CubeIDEへ変わっているハズです。

SW4STM32プロジェクトインポート後、プラグイン版STM32CubeMXで開いたプロジェクトファイル
SW4STM32プロジェクトインポート後、プラグイン版STM32CubeMXで開いたプロジェクトファイル

ファームウェアは、最新版STM32Cube FW_F1 V1.8.0になっています。そのままProject>Generate Codeをクリックし、コード生成を実行します。

3.CubeIDEへ戻ると、(デフォルトの自動コンパイル設定だと)Lcd.cなど数か所に赤下線のコンパイルエラーが発生します。

ファームウェア起因のコンパイルエラー(赤下線)
ファームウェア起因のコンパイルエラー(赤下線)

例えば、L236のLCD_EN_Pinは、CubeMXでGPIO_PIN_8をUser Label付けしたものです。LCD_EN_Pinへカーソルを持っていき、F3をクリックすると、定義ファイルmain.hのL103へ飛び、User Label付けは問題ないことが判ります。この段階では、コンパイルエラー原因は不明です。

4.コンパイルエラーがファームウェア起因かを確認するため、ファームウェアだけをFW_F1 V1.8.0からF1BaseboardTemplate 開発当時のFW_F1 V1.4.0へ戻します。但し、CubeIDE「プラグイン版CubeMX」は、ファームウェアを旧版へ戻す機能がありません。そこで、「スタンドアロン版CubeMX」を使ってファームウェアをFW_F1 V1.4.0へ戻し、再度コード生成を行うと、コンパイルエラーは発生しません。
※スタンドアロン版CubeMXでファームウェアを元の版数へ戻す方法は、4章で説明します。

以上の作業で、コンパイルエラー原因は、ファームウェア起因であることが判りました。

STM32CubeMXコード生成ファームウェア変更方法:4章

トラブルシューティングの前に、CubeMXでコード生成ファームウェア版数を変える方法を示します。CubeMXは、旧版ファームウェアをRepositoryフォルダへ自動保存し、いつでも旧版へ戻せる準備をしています。

1.スタンドアロン版CubeMXのProject Managerクリックで表示されるダイアログ一番下のUse Default Firmware Locationの☑を外し、BrowseクリックでRepositoryフォルダ内の旧版ファームウェア:STM32Cube_FW_V1.4.0を選択します。

スタンドアロン版STM32CubeMXでファームウェア版数を変える方法
スタンドアロン版STM32CubeMXでファームウェア版数を変える方法

2.そのままCubeMXでコード生成を実行すると、ファームウェア版数のみを変えたソースコードが生成されます。

※CubeIDEプラグイン版CubeMX(2つ前の図)は、Use Default Firmware Location自体有りません。つまり、最新ファームウェアでのみコード生成が可能です。
※CubeMXのGenerate Reportは、コード生成時の各種パラメタをPDF形式で出力する優れた機能です。しかし、肝心のコード生成ファームウェア版数が現状では出力されません。PDF出力へ手動で使用ファームウェア版数を追記することをお勧めします。

トラブルシューティング:5章

3章コンパイルエラー発生後、つまり最新ファームウェアFW_F1 V1.8.0でのコード生成後からトラブルシューティングします。

1.CubeIDEのエラーメッセージは、Symbol ‘LCD_EN_Pin’ could not be resolvedです。main.hで定義済みなので、なぜresolveできないのか不可解です。

2.そこで、Lcd.cの#include関連を見ると、#include “UserDefine.h”はあります。
※弊社テンプレートは、UserDefine.hでツール生成以外の全てのユーザ追加定義を記述し、全ソースファイルへincludeする方式を用いています。
※一方、CubeIDEは、CubeMXで生成するmain.cソースファイル1つへ、全ての制御を記述する方式を用いています。小規模なサンプルプロジェクトなどでは、解り易い方法です。
※但し、規模が大きくなると、ソースファイルを機能毎に分離し、ファイル単位の流用性やメンテナンス性を上げたくなり、弊社は、このファイル分離方法をテンプレートに採用中です。

3.UserDefine.hに、#include “main.h”の1行を追加します。

UserDefine.hへ#include "main.h" 追加
UserDefine.hへ#include “main.h” 追加

4.Clear Project後、Build Projectでコンパイルエラーは解消し、コンパイル成功します。評価ボード:STM32F103RBでF1BaseboardTemplate の最新開発環境での正常動作確認ができます。

最新ファームウェアは、全てのユーザ追加ソースファイルに、#include “main.h”が必須なことがトラブル原因でした。

最新開発環境への移設まとめ:6章

2017年9月にSW4STM32で開発完了したSTM32Fxテンプレートは、UserDefine.hに、#include “main.h”追記で、2019年11月STM32MCU最新開発環境:STM32CubeIDE v1.1.0、STM32CubeMX v5.4.0、STM32Cube FW_F1 V1.8.0/FW_F0 V1.11.0へ移設できます。

2019年6月にSW4STM32で開発完了したSTM32G0xテンプレートは、なにもせずに、2019年11月最新開発環境:STM32CubeIDE v1.1.0、STM32CubeMX v5.4.0、STM32Cube FW_G0 V1.3.0へ移設できます。
※STM32G0xテンプレートは、初めからUserDefine.hに、#include main.hが追記済みです。

Build Analyzer

SW4STM32からCubeIDEへ移設後、最初に目に付くIDE画面の差分は、ビルド成功時、右下表示のBuild Analyzerだと思います。

STM32CubeIDEのBuild Analyzer
STM32CubeIDEのBuild Analyzer

最初の図で示したG0AdcTemplate移設後のCubeIDE Build Analyzerを示します。RAM、FLASH使用率が一目で解ります。その他のIDE画面や操作は、旧SW4STM32と殆ど同じです。

Serial Console

CubeIDEは、Serial Console画面を持っています。従来環境では別途必要であったVirtual COM Port (VCP)用のTera Termなどのツールが不要となり、IDEだけでVCP入出力が確認できます。高まるVCP重要性が最新IDEへ反映されたと思います(関連投稿:STLINK-V3の4章)。

但し、バックグラウンドが、Tera Termの黒からSerial Console画面では白になったため、テンプレートで用いたVCP出力文字色を、デフォルトの白から黒へ変更した方が見易いです。この色変更後のSerial Consoleが下図右側です。

TeraTerm画面とSTM32CubeIDEのSerial Console画面
TeraTerm画面とSTM32CubeIDEのSerial Console画面

最新開発環境移設の課題と対策、テンプレート改版予定

現状のCubeIDE v1.1.0は、コード生成後、日本語コメントに文字化けが発生します。また、エディタタブ幅が2のまま変更できません。これら以外にも細かな不具合があります。このままでは、筆者には使いにくいIDEです。一方、Build AnalyzerやSerial Consoleは、とても役立ちます。
CubeIDEプラグイン版CubeMX v5.4.0は、Repository旧ファームウェアへの変更機能が無く、最新ファームウェアのみ利用可能です。

これら移設課題に対して、投稿その1から本稿で対策を示しました。

現状は、従来SW4STM32からCubeIDEへの「IDE移設過渡期」です。筆者は暫く両IDEを併用するつもりです。そして、新環境の使いにくい箇所が解消された時点でCubeIDEへ完全移設し、同時に汎用MCU第2位、シェア20%超のSTM32MCU向けテンプレートとしてSTM32FxテンプレートとSTM32G0xテンプレートを、本稿変更などを加え最新開発環境対応へ全面改版する予定です。

既に弊社テンプレートをお持ちの方や全面改版を待てない方は、まとめ6章の方法で移設可能です。但し、投稿その2で示した多くのリスクがありますのでお勧めはしません、自己責任で行ってください。

なお、新開発のSTM32G4テンプレートは、初めから最新CubeIDE、CubeMXで開発着手します。

*  *  *

STマイクロエレクトロニクスのSTM32CubeIDE v1.1.0改版により、旧SW4STM32開発アプリケーションを新環境へ移設する連続3回の投稿、いかがでしたでしょうか? 詳細説明がリンク先となり、筆者にしては長文投稿でしたので、解りづらかったかもしれません😌。

IoTによりMCU開発環境は、より急ピッチで変わります。最新デバイスと最新API利用が、その時点で最も効率的で優れたMCUアプリケーション開発手段です。環境急変にも柔軟対応できる開発者が求められます。

最新開発環境に上記のような課題が多少あっても、従来SW4STM32開発済みアプリケーションの最新STM32CubeIDE移設は、6章で示した1行追記のみで成功しました。

但し、顧客や管理者の方には、開発環境更新、移設の危うさや開発者の心理的負担、何よりもそれらへの対応時間は、あまり表に出てこない部分、また移設してみて初めて判る部分で理解されづらいものです。

本稿がMCUアプリケーション顧客、管理者、開発者の方々のご参考になれば幸いです。

P.S:2019年11月12日、2か月遅れでWindows 10 1909配布が始まりました。年2回のWindows 10大型更新トラブル話は多数あります。MCU開発環境は、年2回どころか度々更新されます。開発者は、その度にトラブル対処をしているのです👍。ちなみに本稿は、全てWindows 10 1903での結果です。

STM32CubeIDE v1.1.0更新と文字化け対策(その2)

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)の統合開発環境:STM32CubeIDEが、v1.1.0に更新され、前投稿:その1では、従来SW4STM32プロジェクトをSTM32CubeIDEインポート時の日本語文字化け対策と、最新STM32MCU開発環境を示しました。

その2では、最新開発環境での文字化けと、開発環境更新リスク、ファームウェア更新へのリスク対応案について示します。

最新開発環境の文字化け

2019年11月時点のSTM32MCU最新開発環境と、IDEのみ従来のSW4STM32を使ったソフトウェア開発環境が下図です。

STM32MCU最新開発環境
STM32MCU最新開発環境

その1で示したSW4STM32プロジェクトインポート時のSTM32CubeIDEソースコード文字化けは、Shift-JISからUTF-8への手動エンコード変換で解決しました。

今回指摘する問題は、最新環境であってもSTM32CubeMX(以下、CubeMX)でコード再生成すると、STM32CubeIDE(以下、CubeIDE)ソースコードに日本語文字化けが発生することです。

このCubeMX起因の文字化けは、新規CubeIDEプロジェクト作成でも発生します。つまり、CubeIDEでプロジェクトを新規作成しmain.cへ日本語コメントを入力、次に生成済みCubeMXプロジェクトファイルを開き初期化コードを生成、CubeIDEへ戻ってmain.cを見ると日本語コメントに文字化けが発生します。
※スタンドアロン版、プラグイン版両方のCubeMXを試し、また、表示フォントもいろいろ変更しましたが、文字化けが発生します。対策がお判りの方は、教えてください😌。

もちろん、英語でコメント記入すれば問題はありません。日本語コメントの場合のみです。

一方、従来IDEのSW4STM32へCubeMX出力の場合には、文字化け無しです。ソースコードへ日本語コメントを追記する筆者のような方は、文字化け発生が解消されるまでは、SW4STM32とCubeIDE併用が良いかもしれません。

開発環境更新リスク

MCU開発ソフトウェア(=アプリケーション)への影響が一番大きいのは、ファームウェア:FW_F0/F1/G0/G4更新です。統合開発環境:CubeIDEやコード生成ツール:CubeMXの更新は、操作性や見た目へ変化を与えますが、アプリケーションそのものへの影響は、少ないです。

MCUアプリケーション開発は、STM32MCUに限らずベンダ提供API:Application Programming Interfaceのユーザ開発アプリケーションによる操作です。ファームウェア更新は、このベンダ提供APIのバグ取りや、新デバイス追加に関連するものが一般的です。開発済みユーザアプリケーションの場合は、デバイスは変わらないので、ファームウェア更新による影響があるのは使用中APIです。

従って、開発したアプリケーションの使用APIが変わらなければ、ファームウェア更新は問題ないハズです。

ところが、稀にファームウェア更新により正常に動作していたAPIにも影響が生じトラブルが発生することがあります。ファームウェア更新には、このリスクがあることも知っておきましょう。
※このリスク対策としてCubeMXは、旧版ファームウェアをRepositoryフォルダへ保存し、いつでも旧版へ戻せる準備をしています。

ベンダAPI、つまりファームウェア互換性には期待しない方が無難です。

理由は、最新ベンダMCU製造プロセス(=ハードウェア)、WindowsなどのパソコンOS、ベースのEclipse IDE、ARM CMSISなどのアプリケーション下層の更新、などなど様々なバージョンアップの組合せ結果が、ベンダAPI更新や刷新となるからです。

ベンダAPI互換が、既存ユーザにとっては理想です。しかし、元々非力なMCU能力を、従来API互換へ使うよりも、むしろファームウェア更新時点で、MCU能力を最も引き出すAPIへ使い、新規ユーザへアピールしたいとベンダが判断してもやむを得ないと思います。
※高性能MPU/GPUでさえAPI互換が無いことがあります。APIとは、そういうものだと割切って、例えAPIが変わっても柔軟に対応できるソフトウェア開発者が求められるのかもしれません。

ファームウェア更新リリースノートに、このAPI互換性の詳細説明を求めるのは、多分無理です。既存ユーザは、開発環境、特にファームウェア更新に関しては、慎重に対処すべきだと思います。

MCUアプリケーションは、開発完了時の開発環境依存度が非常に高いソフトウェアです。

最新デバイスと、最新APIの組合せが、その時点で最も効率的で優れたMCUアプリケーション開発手段と言えます。
※ルネサスのCS+には、アプリケーション開発完了時の開発環境を、一括圧縮保存する便利機能があります。Eclipse IDEにもプラグインで同様の機能を追加できると思います。

ファームウェア更新リスク回避策

筆者が考えるMCUアプリケーション開発に対するファームウェア更新リスクの回避策が、下記です。

MCUアプリケーション開発に対するファームウェア更新リスク
MCUアプリケーション開発に対するファームウェア更新リスク
  1. ユーザ開発アプリケーションが顧客システムで稼働中、しかもバグなどの問題が無い場合は、あえて前章リクスがあるファームウェア更新はしない
  2. アプリケーション開発が進行中の場合は、旧版ファームウェアで開発継続し、完成後に最新版を試す
  3. 開発済みアプリケーションへ機能追加の場合は、開発時ファームウェアで機能追加し、完成後に最新版を試す
  4. 新にアプリケーション開発を始める場合は、APIバグ可能性のより少ない最新ファームウェア開発環境で着手

開発完了から時間が経ったアプリケーション改版時には、開発当時のファームウェア更新への対策時間も加味しスケジュールを作成することをお勧めします。さもないと、肝心のアプリケーション改版前の段階でつまずいてしまいます。

※弊社販売中テンプレートは、テンプレート応用例として、評価ボード実装済みSWやLEDを制御するシンプルテンプレートと、Baseboardで各種機能を追加したBaseboardテンプレートの2つを添付しています。このうちBaseboardテンプレートは機能豊富な代償として、上記ファームウェア更新リスクに出会うことが稀にあります😫。テンプレートなので、本当は原理を解っていただくシンプルテンプレートのみを添付したいのですが、Baseboardテンプレート付きの方が売れるのでやむを得ない状況です😥。

投稿その1、その2と前振りが長くなりました。次回、汎用MCUシェア第2位の販売中STM32FxテンプレートSTM32G0xテンプレートを使って、最新開発環境への移設実例、トラブル対応を示します。

STM32CubeIDE v1.1.0更新と文字化け対策(その1)

2019年10月16日、STマイクロエレクトロニクス(以下STM)の無償統合開発環境:STM32CubeIDEが、v1.1.0に更新されました。v1.0.2からMajor releaseです。筆者が従来使ってきたAC6社)SW4STM32からのIDE乗換と、STM32G4テンプレート(前投稿参照)向けの新しい開発環境構築に丁度良いタイミングです。その1は、更新内容、Windows起因のエディタ文字化け対策などを示します。

STM32CubeIDE v1.1.0更新内容

マルチコアSTM32MP1などの新デバイス、コード生成ツールのSTM32CubeMX v5.4.0(2019/10/11)、ベースIDEのEclipse™(2019-09)対応などが主な更新内容です(Eclipseの状況は、コチラの投稿2章などを参照してください)。RN01114に詳細な更新内容があります。

従来のSW4STM32作成のプロジェクトを、STM32CubeIDEへインポートすると、ソースコード日本語追加コメントに文字化けが発生します。この文字化けは、STM32CubeIDE最初のリリースから変わらず残ったままなので、対策を示します。

文字化け対策

Windows 10 1903までのSW4STM32でソースコードへ日本語コメントを入力し保存すると、Shift-JISでエンコード化します。このエンコードが、STM32CubeIDEのエディタ文字化けの原因です。対策は、UTF-8エンコードへの変換です。

Shift-JISからUTF-8へのエンコード変換方法は、様々あります。筆者がソフトウェア開発者へお勧めするのは、無償テキストエディタ:Notepad++です。予約語色分け表示や、矩形編集などのソースコード編集に便利な機能があり、プラグインでCompareなどの機能追加も簡単、動作も軽快なエディタです。
※Windows 1903のメモ帳保存時、右下の文字コード(E)に、UTF-8を選択することでもエンコード変換ができます(コチラの記事に、UTF-8へのWindows変更経緯があります)。

Notepad++を使ったShift-JISからUTF-8へエンコード変換は、メニューから簡単にできます。右下欄に現在のエンコードも表示されますので便利です。

Notepad++でソースコードエンコードをShift-JISからUTF-8へ変換
Notepad++でソースコードエンコードをShift-JISからUTF-8へ変換

Shift-JISからUTF-8へエンコード変換前と、変換後のSTM32CubeIDEのソースコード表示です。エンコード変換で文字化けが解消されました。これで、SW4STM32からSTM32CubeIDEへIDEを乗換えることができます。

Shift-JISからUTF-8 変換でSTM32CubeIDEの文字化け解消
Shift-JISからUTF-8 変換でSTM32CubeIDEの文字化け解消

注意点は、SW4STM32プロジェクト→STM32CubeIDEプロジェクト変換は可能ですが、逆にSTM32CubeIDEプロジェクト→SW4STM32プロジェクトへ戻すことができない点です。筆者は、IDE毎にワークスペースを別々に設定し、SW4STM32プロジェクトをSTM32CubeIDEワークスペースへ手動コピー後、ソースコードのShift-JIS→UTF-8変換、最後にプロジェクトIDE変換で対応しています(プロジェクトIDE変換方法は次章説明)。

なお、Windows 10 1903でSTM32CubeIDEのソースコードに日本語入力しても、UTF-8でエンコード保存されます。

STM32CubeIDE v1.1.0の使い方

STM32CubeIDE v1.1.0の使い勝手は、SW4STM32と殆ど同じです。EclipseベースのIDEは、どれでも同じ使い勝手で、IDE提供ベンダが変わっても利用経験がそのまま活かせるのが特徴です。それでも、ベンダ毎に多少の差があり、STM32CubeIDEで言えばℹ️クリックで表示されるInformation Centerです。

STM32CubeIDEのInformation Center
STM32CubeIDEのInformation Center

Start a project

Import SW/TS projectをクリックすると、SW=AC6社)SW4STM32旧プロジェクト、TS=Atollic 社)TrueSTUDIO旧プロジェクトを、STM32CubeIDE新プロジェクト変換ツールが起動します。変換は、ワークスペース内の旧プロジェクトをそのままSTM32CubeIDEでのみ動作する新プロジェクトに変換します。

Atollic社のTrueSTUDIOはSTMに買収され、日本語対応などの改版が行われましたが、結局新デバイス追加がなく事実上Discontinueとなりました。経緯などは、コチラの投稿の手順4を参照してください。AC6社)SW4STM32も、最近は更新がありません。STM製のSTM32CubeIDEがリリースされたので、TrueSTUDIOと同じくDiscontinueになると思います。

Start new STM32 projectをクリックすると、新たにSTM32CubeIDEプロジェクトが作成できます。表示されるダイアログに従っていけば、問題なく新しいSTM32CubeIDEプロジェクトができます。

Target SelectionダイアログのOther Venderクロス検索
Target SelectionダイアログのOther Venderクロス検索

面白いのは、ダイアログのTarget Selectionです。vendersにSTM以外の選択肢もあります。今回は、STM32G4テンプレート開発に使う評価ボードSTM32G474RE(Cortex-M4、Flash:512KB、RAM:128KB)を選択しますが、他ベンダ、例えばTIのMSP432P401M比較がどのように使えるかは、今後調査します。

Quick links

Documentation、Start Guide、What’s Newの3つのQuick linksがあります。

Documentationをクリックすると、主要PDF技術資料へアクセスできます。ここに、リリースノートやSW4STM32からのマイグレションガイドもありますので、目を通しておくと良いでしょう。

初めてSTM32CubeIDEを使う方は、Getting Startedをクリック。基本操作は、これだけ読めば必要十分、英文全11ページのよくできた資料が読めます。

What’s Newは、リリースノートのことです。

汎用MCU第2位のSTM32MCU最新ソフトウェア開発環境

STM32MCUは、汎用MCUで第2位、シェア20%を超えています(関連投稿は、コチラ)。2019年4月新発表のSTM32CubeIDEは、半年を経て今回Major releaseし、v1.1.0になりました。無償IDEで、シェア続伸に向けて続々と新発売されるSTM32MCUデバイスへ対応中なのは、STM32CubeIDEだけです。

STM32CubeIDEを使い、本ブログ関連STM32MCUの最新ソフトウェア開発環境が、下表です。

名称 機能 2019/11/01版数 MCU評価ボード
STM32CubeIDE Eclipseベースの統合開発環境 1.1.0
STM32CubeMX 初期化Cソースコード生成ツール 5.4.0
STM32CubeG0 STM32G0シリーズ用ファームウェア:G0_FW 1.3.0 STM32G071RB
STM32CubeG4 STM32G4シリーズ用ファームウェア:G4_FW 1.1.0 STM32G474RE
STM32CubeF0 STM32F0シリーズ用ファームウェア:F0_FW 1.11.0 STM32F072RB
STM32CubeF3 STM32F3シリーズ用ファームウェア:F3_FW 1.8.0 STM32F103RB

次回は、弊社販売中のSTM32FxテンプレートSTM32G0xテンプレートを、上記最新ソフトウェア開発環境へ移設する予定です。

ARM Cortex-M4プロトタイプテンプレート構想

弊社は、ARM Cortex-M4コア使用のLPC5410x(NXP)、STM32G4(STM)、PSoC 6(Cypress)、MSP432(TI)各社のMCUテンプレート開発を目指しています。本稿は、各社共通のCortex-M4プロトタイプテンプレート開発指針を示します。

MCUプロトタイプ開発ステップ

MCUプロトタイプ開発と製品化へのステップ、支援ツール
MCUプロトタイプ開発と製品化へのステップ、支援ツール

プロトタイプからMCU製品開発へのステップが上図です。

  1. IDEと評価ボードを準備、利用MCUの開発環境構築
  2. サンプルプロジェクトを利用し、MCUや内蔵周辺回路の特徴・使い方を具体的に理解
  3. 製品処理に近いサンプルプロジェクトなどを活用し、評価ボード上でプロトタイプ開発
  4. プロトタイプへ保守点検などの製品化処理を追加、製品時ベアメタルかRTOS利用かを評価
  5. ステップ04評価結果でA:ベアメタル製品開発、または、B:RTOS製品開発へ発展

更に製品化へは様々なステップも必要ですが、プロトタイプ開発に絞るとこのステップになります。

Cortex-M4プロトタイプテンプレート

弊社Cortex-M4プロトタイプテンプレートは、ステップを効率的に上るための開発支援ツールです。

販売中の弊社テンプレートと同様、複数サンプルプロジェクトや開発した処理を、RTOSを使わずに時分割で起動するマルチタスク機能を備えています。
※時分割起動マルチタスク機能:ステップ03と04の課題は、複数サンプルプロジェクトや製品化に必要となる様々な処理を、どうやって1つに組込むか(?)ということです。RTOSを利用すれば解決します。しかし、RTOS利用のためだけに別途知識や理解が必要で、RTOS活用までの階段差が非常に高いという欠点があります。弊社テンプレートは、時分割で複数処理を起動し、初心者でも仕組みが理解できる低い階段差でマルチタスク機能を実現します。詳細は、コチラなどをご覧ください。

販売中の従来テンプレートとCortex-M4プロトタイプテンプレートの違いが、以下です。

  1. ステップ05以降の製品開発へも、ステップ01で構築したプロトタイプ環境をそのまま使える
  2. 下位Cortex-M0/M0+/M3ソフトウェアに対して、Cortex-M4プロトタイプ開発資産が流用できる

Cortex-M4の高性能を、プロトタイプ開発マージン(後述)に使うとこれらの違いが生じます。

Cortex-M4コアMCUの特徴

ARM Cortex-M4は、Cortex-M0/M0+/M3とバイナリ互換です。

簡単に言うと、Cortex-Mコア開発元ARM社が推進するCMSISに則って開発したCortex-M4ソースコードやライブラリは、再コンパイルすればCortex-M0/M0+/M3へ流用・活用ができます。
※CMSIS:Cortex Microcontroller Software Interface Standard関連投稿は、コチラの2章などを参照してください。

Cortex-Mxのバイナリ互換性(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)
Cortex-Mxのバイナリ互換性(出典:STM32L0(Cortex-M0+)トレーニング資料)

図から、Cortex-M4バイナリの全ては、下位Cortex-M0/M0+/M3に含まれてはいません。従って、効率的な処理やセキュリティ対策必須の高速演算を行うには、Cortex-M4が最適なのは言うまでもありません。

Cortex-M4を使ったMCUは、Cortex-M0/M0+/M3 MCUに比べ動作クロックが高速で内蔵Flash/RAM容量も大きいため、ベアメタル利用だけでなく、RTOS利用も可能です。

Cortex-M4がプロトタイプ開発に最適な理由:大マージン

Cortex-M4のMCUでプロトタイプ開発すれば、製品化時に必要となる処理や保守点検処理などの実装も「余裕」を持ってできます。
※製品出荷テストプログラム、自動販売機待機中のLEDデモンストレーション点灯などが製品化処理具体例です。

筆者は、このような製品化処理を、おおよそプロトタイプ処理と同程度と見積もります。つまり、製品のFlash/RAM量は、プロトタイプ時の2倍必要になります。

仮に「余裕」がありすぎオーバースペックの場合には、開発したCortex-M4プロトタイプ処理(=開発ソフトウェア資産)を、そのまま下位Cortex-M0/M0+/M3コアMCUへ流用が可能です。

一方、処理が複雑で多い場合には、RTOSで解決できるか否かの評価もCortex-M4プロトタイプなら可能です。更にIoT製品では、セキュリティ関連の(先が見えない)処理や計算量増加にも対応しなければなりません。

安全側評価なら敢えて下位Cortex-Mコアを選ばずに、Cortex-M4をそのまま製品にも使えば、処理増加にも耐えらます。

つまり、プロトタイプ開発には、初めから容量や性能の足かせが無く、製品化移行時の開発リスクも少ない高速高性能・大容量のCortex-M4 MCUが最適なのです。

製品時の処理能力やFlash/RAM量を、Cortex-M4プロトタイプで見積もった後に、製品化にステップアップすれば、適正な製品制御Cortex-Mコアを選択できます。開発ソフトウェア資産の流用性、過負荷耐力、RTOS製品開発評価ができる高性能を兼ね備えたのが、Cortex-M4を使ったプロトタイプ開発です。

問題は、価格です。

各社のCortex-M4評価ボード価格は、Cortex-M0/M0+/M3評価ボードと大差ありません。STM32MCUの評価ボード:Nucleo32シリーズは、Cortex-Mコアが異なっても同額です。プロトタイプ開発マージンを考慮すると、たとえ評価ボードに多少の価格差があったとしても十分納得がいきます。

Cortex-M4デバイス単体価格は、Cortex-M0/M0+/M3よりは高価です。しかし、製品原価全体に占めるCortex-M4デバイス価格比は低いでしょう。IoT製品では、今後増大するセキュリティ対策や計算量増加などを考慮すると、Cortex-M4デバイスを使うメリットは大きいと思います。

Cortex-M4プロトタイプテンプレート開発指針(NXP、STM、Cypress、TI共通)

Cortex-M4の特徴を活かし、下位Cortex-M0/M0+/M3間での開発ソフトウェア資産流用を考慮したCortex-M4プロトタイプテンプレート開発指針です。

  1. Cortex-M0/M0+/M3/M4各コアに用いるテンプレート本体の共通化
  2. プロトタイプ開発ソフトウェア資産流用性を高めるCMSISソフトウェアでの開発
  3. 製品化時ベアメタルかRTOS利用かを評価のため、Cortex-M4最高速動作のプロトタイプ開発

現在CMSISへの対応は、各社足並みが揃っているとは言えません。もしも完全にCMSISへ対応した場合は、異なるベンダ間でも開発アプリケーション互換が実現するからです。ARMコア市場が「攻めに強く、守りに弱い」ゆえんです。そういう状況でも、各社ともCMSISへのソフトウェア対応を進行中です。
※Cortex-M33コアには、CMSISに反して、ベンダ独自のカスタム命令追加の動きも見られます。

本稿で示したCortex-M4プロトタイプテンプレートと異なり、弊社販売中のCortex-M0/M0+/M3テンプレートは、テンプレート利用コアで最適解を与えます。そのため、RTOS利用時や、製品化処理、セキュリティ対策などの処理が増えた時には、元々のコア処理性能や内蔵Flash/RAMに余裕が少ないため、適用デバイスでの製品化に対して、開発を続けにくい状況が発生することもありえます。

この点、Cortex-M4プロトタイプテンプレートなら、プロトタイプで構築した同じ開発環境で、RTOSも含めた製品開発へも余裕を持って対応できます。同時に、プロトタイプ開発資産の流用や活用により、Cortex-M0/M0+/M3ソフトウェア生産性も高めることができます(一石二鳥)。

ARM Cortex-M4テンプレートと開発資産流用性
ARM Cortex-M4テンプレートと開発資産流用性

弊社Cortex-M4プロトタイプテンプレートの発売時期、RTOSへの具体的対応方法などは、未定です。本ブログで各社毎の開発状況をお知らせする予定です。

あとがき:初心者や個人利用は、Cortex-M4テンプレートが最適

ソフトウェア開発初心者にCortex-M4プロトタイプテンプレート利用は、難しい(=階段を上るのが困難)と考える方がいるかもしれません。筆者は、全く逆、むしろ初心者、個人利用に最適だと思います。

理由は、Cortex-M0/M0+/M3/M4と上位になるほどコア設計が新しく、処理性能も上がるからです。初心者が、あまり上手くないコード記述をしても、コア性能が高いため問題なく処理できてしまいます。詳細は、ARM Communityの“An overview of the ARM Cortex-M processor family and comparison”などが参考になります。

ごく簡単に言うと、自動車エンジンが、Cortex-Mコアに相当すると考えてください。

小排気量なCortex-M0より、大排気量のCortex-M4の方が、楽に運転でき、しかも、運転に最低限必要なハンドルやアクセル、ブレーキ操作は全く同じです。車(=評価ボード)の価格が同じなら、殆どの方が、余裕のある大排気量のCortex-M4を選択するでしょう。

しかも、Cortex-M4評価ボード操作の技(=開発ソフトウェア資産)は、Cortex-M0/M0+/M3へも流用できます。経済的に厳しい個人利用のプロトタイプ開発環境としては、流用範囲の広いCortex-M4 MCUテンプレートが最適と言えます。

弊社Cortex-M4プロトタイプテンプレートは、つまずき易い階段を、楽に効率的に上るための開発支援ツールです。ご期待ください。