NXP MCUXpresso SDKから見るARMコアMCU開発動向

NXP最新IDE:MCUXpresso v11が、SDK:Software Development Kitを使ってMCUソフトウェア開発をすることは、前回投稿で示しました。MCUXpresso SDKがサポートする評価ボード一覧が、SDKユーザガイド最新版:Rev.10、06/2019付録Bにあり、旧Freescale評価ボード:FRDMが多いですが、NXPの新しい評価ボードも追加されつつあります。

オランダ)NXPが、米)Freescaleを買収完了したのは2015年12月です。

本稿は、旧FreescaleとNXP MCU両対応のMCUXpresso SDKから、ARMコアMCU開発動向を調査し対策を示しました。

MCUXpresso SDK

MCUXpresso SDK Laysers(出典:Getting Started with MCUXpresso SDK, Rev. 10_06_2019)
MCUXpresso SDK Laysers(出典:Getting Started with MCUXpresso SDK, Rev. 10_06_2019)

ユーザガイド記載のMCUXpresso SDK層構成です。ユーザが開発するのはApplication Code。このApplication Code以外は、評価ボード:MCU Hardwareと、SDKで提供されます。色付き部分:Middleware、Board Support、FreeRTOS、Peripheral Drivers、CMSIS-CORE…がSDKの中身です。

もちろんMCU性能に応じて、初めからFreeRTOSやMiddlewareが無いSDKもあります。例えば、前回のLPC845 Breakout board SDKリリースノートを見ると、Board Support(前回投稿BSPのこと)とPeripheral Drivers(Author: Freescale)、CMSIS-CORE(Author: ARM)だけが提供中です。

CMSIS:セムシイスまたはシムシス

CMSIS:Cortex Microcontroller Software Interface Standardは、リリースノートでAuthor: ARMが示すようにMCUコア開発元ARM作成の規格で、MCUハードウェアを上位層から隠蔽します(関連投稿:mbed OS 5.4.0のLチカ動作、LPCXpresso824-MAXで確認の3章)。

Peripheral DriversやBoard Supportは、 このCMSIS層のおかげでMCUハードウェアに依存しないAPIを、ユーザ開発Application Codeへ提供できる訳です。例えば、下記旧Freescale評価ボード:FRDM-KL25Z用SDKのboard.h記述:赤LED初期設定とトグルマクロ関数は、前回投稿で示したLPC845 Breakout boardと同じです。

FRDM-KL25Z用SDK_SDK_2.2_FRDM-KL25Zのboard.h
FRDM-KL25Z用SDK_SDK_2.2_FRDM-KL25Zのboard.h

従って、LPC845 Breakout boardで開発したアプリケーションコードを、そのままFRDM-KL25Zへも流用できます。

つまり、「SDK利用によりARMコアアプリケーションコードが汎用化」したのです。

同一アプリケーションコードでFreescaleとNXP評価ボード動作の意味

旧FreescaleとNXPのMCU評価ボードが同じアプリケーションコードで動作するのは、どちらもARMコアMCUでCMSIS層付きSDKなので、開発ユーザから見れば当然です。

しかし、従来は同じARMコアであってもApplication CodeはMCUベンダ毎に異なり、ベンダが異なれば常に1から開発していました。NXPでさえ、SDKを使った今回の同一コード動作に、Freescaleを買収後、約3.5年かかっています。
※Freescale 旧IDE:Kinetis Design Studioや、NXP 旧IDE:MCUXpresso IDE v11以前に慣れた開発者は、CMSIS付きSDKの新IDE:MCUXpresso IDE v11に違和感があるかもしれません。というのは、新IDEは、どちらの旧IDEとも異なるからです。

もちろんCMSIS利用はメリットだけでなく、デメリットもあるハズです。例えば、他社と差別化するベンダ独自Peripheral性能を極限まで引出すには、直接Hardwareを制御した方がより効率的です。STマイクロエレクトロニクスのSTM32G0x MCUのLL:Low Layer APIなどにその動向が見られます(関連投稿:STM32G0x専用Edge MCUテンプレート開発)。

しかし、CMSIS利用SDKを使ったアプリケーションコード開発は、ARMコア間のアプリケーションコードやベンダ間をも跨ぐ移植性、開発速度の速さ、ソースコード可読性などの点からユーザメリット大と言えます。
※ベンダを跨ぐ移植性とは、FreescaleとNXPのMCUで同一アプリケーションが動作することを意味します。FreescaleはNXPに買収されたので、実はベンダを跨いでいませんが、CMSIS層があればアプリケーションコード移植可能な実例と思ってください。

ARM MCUコアソフトウェアの開発動向と対策

現在MCUコアは、多数派のARMコアベンダと、少数派のNon ARMコアベンダの2グループに分かれています。

多数派ARMコアベンダは、NXPのMCUXpresso SDKに見られるようにCMSIS層利用アプリケーションコード開発、既存アプリケーション資産流用、差別化Peripheral開発に力点を置くと思います。目的は、より早く、より簡単な環境提供によるソフトウェア開発効率/速度の向上です。

我々ユーザは、この環境変化に応じたアプリケーションコード汎用化手法と、もう一方の差別化機能の性能発揮手法を臨機応変、かつ、それらを混同せず、時には組み合わせて開発する必要があると思います。

P.S.:弊社テンプレートで言えば、アプリケーションコード汎用化手法が、STM32Fxテンプレート他の汎用テンプレート、一方の差別化機能の性能発揮手法が、STM32G0x専用テンプレートです。

STLINK-V3とは

2019年7月23日STM公式ブログでSTLINK-V3デバッグ/プローブが発表されました。

STLINK-V3は、従来からのST-LINK/V2-1の性能向上と機能追加をしたSTM32/STM8マイコン用の新しいデバッグ/プログラミングインタフェースです。

左側の最新STM32G474(Cortex-M4、512KB Flash)評価ボードはSTLINK-V3、LL API専用テンプレートで使った右側STM32G071(Cortex-M0+、128KB Flash)評価ボードはST-LINK/V2-1インタフェースを使っています。

STLINK-V3とST-LINK/V2-1
STLINK-V3とST-LINK/V2-1を使う評価ボード例

両インタフェースの主な相違点、いつどのような時にSTLINK-V3を使うのかを説明します。

STLINK-V3/SET、STLINK-V3/MINI

STLINK-V3デバッガ/プログラマは、3種類のボードから構成されます。

STLINK-V3SET基本ボード:MB1441と機能拡張ボード:MB1440、これらボードを収納するケース、基板むき出しのSTLINK-V3MINIです。STLINK-V3MINIは3Dプリンタレファレンスファイルを使ってユーザ独自ケースが作成可能です。

STLINK-V3SETは、MB1441とMB1440、ケース込みで$35、STLINK-V3MINIは、$9.75で販売中です。

STLINK-V3SETとSTLINK-MINI(出典:STM公式ブログ)
STLINK-V3SETとSTLINK-MINI(出典:STM公式ブログ)

STLINK-V3とST-LINK/V2-1の主な相違点

STLINK-V3とST-LINK/V2-1の主な相違点
仕様 STLINK-V3 ST-LINK/V2-1
USBスピード 480 Mbps(理論値) 12M bps
Drag & Dropブログラミング 可能 可能
Single Wire Debug(SWD サポート サポート
JTAG サポート なし
Bridge SPI サポート(MB1440) なし
Bridge I2C サポート(MB1440) なし
Bridge CAN サポート(MB1440) なし
Bridge GPIOs サポート(MB1440) なし
STDC14 サポート(VCP付き) なし

※VCP:Virtual COM Port

PC接続のUSB速度が最大480Mbpsと高速となり、STM32G474のような512KBもの大容量Flashでも高速に書込みが可能です。

また、機能拡張ボード:MB1440では、従来からあるUARTブリッジ機能に加え、SPI/I2C/CAN/GPIOのブリッジ機能も使え、PC上で各インタフェースのデバッグ等に活かせます。

STLINK-V3ターゲット接続インタフェース:STDC14

これらSTLINK-V3SET/MINIボードの基本機能(SWD、JTAG、Virtual COM Port)とターゲットMCUボードを繋ぐ仕様がSTDC14です(ハーフピッチ14ピンケーブル)。

STDC14 (STM32 JTAG/SWD and Virtual COM Port)
STDC14 (STM32 JTAG/SWD and Virtual COM Port)

STDC14コネクタをターゲットMCUボードに実装しておけば、STLINK-V3SETかSTLINK-V3MINIを使ってターゲットMCUのデバッグやプログラミングがST-LINK/V2-1よりも高速、効率的にできます。

VCP:Virtual COM Port

従来のST-LINK/V2-1でもVirtual COM Portは使えました。例えば、STM32G071評価ボードでは、ST-LINK/V2-1のVCP機能を使ってSTM32G071RBのLPUART1とPCとを接続し、評価ボードに追加配線なしでSTM32G071RB動作確認や操作ができています。

ST-LINK/V2-1のVCP利用例
ST-LINK/V2-1のVCPを利用し評価ボードとPC接続した例

PC上でTera Termなどのターミナルソフトを使えば簡単手軽にターゲットMCU動作確認ができるVCPが、新しいSTLINK-V3接続インタフェースSTDC14に含まれるので、VCPの重要性は益々高まると思います。

IoTを狙うデュアルコアMCU

CypressのPSoC 6を中心にNXPとSTM、3社のARMディアルコアMCUを調査しました。Cortex-M4とCortex-M0+を使う個人でも低価格で入手できるディアルコアMCUです。ディアルコアMCUの狙い、アプリケーション、シングルコアMCUソフトウェア開発との違いなどを説明します。

Cortex-A7とCortex-M4を使ったもう1つの超高性能ディアルコアMCUも少しだけ登場します。

ディアルコアMCUの狙い、アプリケーション

ディアルコアMCUの狙い
ディアルコアMCUの狙い(出典:Cypress Cortex-M4 PSoC 6サイト)

CypressのCortex-M4コアPSoC 6サイトの上図がディアルコアMCUの狙いを示しています。

つまり、「IoT市場獲得には、右側アプリケーションプロセッサからと左側マイクロコントローラ:MCUからの2つのアプローチがあり、MCUアプローチのPSoC 6は、処理能力とセキュリティ強化を低コスト、低電力で実現した」ということです。

PSoC 6は、実現手段としてメインコアにCortex-M4(150MHz)、補助コアにCortex-M0+(100MHz)のディアルコアを採用しています。このCortex-M4+Cortex-M0+の2MCU構成は、NXP:LPC54102STM:STM32WB55RGでも見られます。CypressとSTMは、Cortex-M0+側にBluetooth Low Energy無線通信機能を実装済みです。

PSoC 6は、実装セキュリティに応じてPSoC 62/63シリーズと3種類のPSoC 64シリーズに別れます。PSoC 62/63は、PSoC 6のセキュリティ機能とユーザ独自セキュリティファームウェア(ソフトウェア)を使うデバイス(次章参照)、最上位プレミアムセキュリティのPSoC 64は、標準的なセキュリティ機能を全て含むデバイスです。

一方、アプリケーションプロセッサアプローチは、NXP:iMX 7アプリケーションプロセサのようにスマホやRaspberry Piでも用いられたCortex-A7(800MHz)がメインコアで、Cortex-M4(200MHz)が補助コアです。このアプローチは、ソフトウェア開発規模が大きく評価ボードも高価で個人開発向きとは言いにくいと思います。Cortex-A7自身がマルチコアでOS利用が前提なので更に複雑になります。

まとめると、低コスト低電力で処理能力とセキュリティ強化目的のCortex-M4+Cortex-M0+ディアルコアMCUの狙いは、IoTアプリケーションです。PSoC 63搭載の評価ボード:CY8CPROTO-063-BLEの価格は¥2,289(Digi-Key調べ)で、個人でも手が出せる価格帯です。

ディアルコアMCUのソフトウェア開発

PSoC 63 Line with BLE (Applications and Freatures)
PSoC 63 Line with BLE (Applications and Freatures)

Cypress Roadmap: MCU Portfolio、P25から抜き出したPSoC 63のアプリケーションとFeaturesです。具体的なIoTアプリケーションや、実装セキュリティ機能が解ります。
※ご参考までにこのMCU Portfolioには、CapSenseテンプレート開発で用いたPSoC 4000S/4100S仕様も解り易く掲載されています。

同じP25記載のPSoC 63ブロック図です。Cortex-M4とCortex-M0+がメモリ結合されています。

PSoC 63 Line with BLE (Hardware)
PSoC 63 Line with BLE (Hardware)

PSoC 6のソフトウェアは、Cortex-M4とCortex-M0+それぞれのソフトウェアが、2つ同時に別々に動作します。簡単に言うと、各シングルコアMCUソフトウェア同士が、同じデバイス内で動きます。メモリ結合なので、同一メモリアドレス同時アクセスの競合回避手段なども多分あるハズです(←調査不足😌)。

つまり、ディアルコアMCUソフトウェア開発と言っても、従来のCortex-M4やCortex-M0+シングルコアMCUソフトウェア開発の経験やスキルがそのまま活かせるのです。

一方のMCUから見ると、片方のMCUはインテリジェントな周辺回路と同じです。

例えば、Windowsソフトウェア開発なら、1つの機能を複数スレッドに分割し、処理効率を上げるなどのマルチコア対応の工夫が必要です。しかし、Cortex-M4+Cortex-M0+デュアルコアMCUの場合は、シングルコアのソフトウェア開発手法がそのまま使えます。

差分は、「2つのMCUに、どの機能を割振るか」です。

FPU内蔵のCortex-M4は、セキュリティなどの計算処理、高速GPIOアクセスのCortex-M0+は、IO処理やBLEモジュール管理、というのが定番(CypressやSTMのディアルコアMCUにみられる)割振りのようです。

まとめると、ディアルコアMCUソフトウェア開発は、シングルコアMCU開発経験がそのまま活かせます。しかも、別々動作の2コアを持つので、RTOSを使わずに処理分離と本当の並列動作ができます。

また、個人入手可能な評価ボード価格も魅力です。

評価ボード搭載のPSoC 63:CY8C6347BZI-BLD43(116-BGA)は、BGAパッケージなので基板実装は簡単ではありません。しかし、このPSoC 63とBLEアンテナをモジュール化したCYBLE-416045-02(14.0 mm x 18.5 mm x 2.0 mm、43-pad SMT with 36 GPIOs、下図)が評価ボードに実装済みで単体購入も可能です。

また、個人利用の場合には、評価ボードを丸ごと基板実装するのも効果的です。

EZ-BLE Creator Modules CYBLE-416045-02
CY8C6347BZI-BLD43搭載のEZ-BLE Creator Modules CYBLE-416045-02

ディアルコアMCUへの対処案

ディアルコアMCUの狙いは、巨大なIoT市場です。

各社がディアルコアMCUを発売する理由は、高度化するセキュリティ機能や、どの規格かが不確定な無線通信機能に対して、現状のシングルARMコアMCUでは、処理能力不足が懸念されるためです。
※近距離無線通信の有力候補が、BLEであることは確かです。

ディアルコアMCUならば、たとえ規格が変わっても、その影響を片方のMCU内に止めることもできます。つまり、ソフトウェア資産が無駄にならない訳です。

IoT市場へは、Cortex-M4+Cortex-M0+と、Cortex-A7+Cortex-M4のアプローチがあります。Cortex-M4を用いる点ではどちらも一致しています。FPU内蔵Cortex-M4ソフトウェア開発や経験が、IoT MCUプログラマの必須要件になるかもしれません。

シングルコアMCU開発経験が活かせ、しかもRTOSを使わずに高速並列処理を実現できるディアルコアMCUのソフトウェア/ハードウエア開発を、評価ボードへの僅かな投資で、IoTが爆発的に普及する前から準備・習得するのは、技術者リスク回避の点からも必要だと思います。

STM32CubeIDE v1.0.1更新

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)のSTM32マイコンマンスリー・アップデート2019年7月号P9に、STM32CubeIDEのv1.0.1更新が記載されています。

STM32CubeIDE v1.0.1更新内容

内蔵のコード生成ツールSTM32CubeMXがv5.2.0からv5.2.1に変更されたこと、バグ修正が主な更新内容です(RN0114(2019/07/11))。

STM32CubeIDE v1.0.1更新内容
STM32CubeIDE v1.0.1更新内容

最新のSTM32CubeMX v5.2.1により、STM32G0x LL APIを活かしたソフトウェア開発がSTM32CubeIDE v1.0.1でも可能となりました。つまり、弊社推薦のSTM32MCU開発環境:SW4STM32+STM32CubeMX v5.2.1+STM32G0 FW 1.2.0と同じ土俵に今回の更新でなった訳です。

関連投稿:続報STM32CubeIDE

ベースEclipse IDE状況

STM32CubeIDE v1.0.1のベースEclipse IDE は、ECLIPSE™ 2019-03 です。Eclipse最新版は、ECLIPSE™ 2019-06(2019/06/19)ですので、ベースに合わせてSTM32CubeIDEも更新されるでしょう。

Eclipse IDEは、昨年の2018年6月までは、Photon、Oxygen、Neonなどのリリース名が付いていましたが、6月以降は、ECLIPSE™リリース年-月に変更されました。3か月毎に更新され、次回は2019-09予定です。
※メジャー/マイナー更新かは、判りにくくなりました。

STM32CubeIDE v1.0.1使用所感

今回の更新で期待していた日本語対応に関しては、旧STM32CubeIDE v1.0.0からの改善は見られません。

例えば、SW4STM32プロジェクトをSTM32CubeIDEへインポートすると、日本語ソースコードコメントが文字化けします。Preferences>Text Editors>Colors and Fontsを変えても同様です。

付属エディタを使っての直接日本語入力は問題ありませんが、SW4STM32からのマイグレーションツールでの文字化け発生は、回避手段があるとは思いますが面倒です。Atollic社)TureSTUDIO最終版で見せた日本語メニュー実装などは、先の話になりそうです。

また、旧v1.0.0では正しく表示されていたInformation Centerページも、‘表示できません’となります。

RN0114の2.3 Known problems and limitations項目も多いので、あえて今すぐにSW4STM32に変えてSTM32CubeIDE v1.0.1を使う必要性は感じません。土俵(付属開発ツール版数)が同じになっただけです。

現行SW4STM32 → 新STM32CubeIDE切替えタイミング

コードサイズ制限無しのSTM32MCU無償IDEは、旧Atollic社)TrueSTUDIOは既にDiscontinue、AC6社)SW4STM32も新デバイスへの更新をしない可能性が高いと思います。新しいIDE:STM32CubeIDEへ切替えるタイミングが、そろそろ近づいてきました。

筆者としては、SW4STM32の更新状況を注視しつつ現行IDE使用を維持し、次回のSTM32CubeIDE更新タイミングで新IDEへ切替えるつもりです。

STM32G0動画と専用テンプレート

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)の公式ブログで、STM32G0を理解できるPart.0~10の動画(英語版)を紹介しています。
各動画は、休憩時間に視聴するのに丁度良い6分から15分程度の長さです。

動画リスト

13:13     Pt. 0, Install Procedure

6:05       Pt. 1, Saving Content of the Flash of the STM32

13:47     Pt. 2, Blinky

13:09     Pt. 3, PWM

9:10       Pt. 4, External Interrupt

14:20     Pt. 5, Low Power (Pt. 1)

6:23       Pt. 6, Low Power (Pt. 2)

13:19     Pt. 7, Printf

13:27     Pt. 8, Low Layer Drivers

17:37     Pt. 9, DMA

15:14     Pt. 10, Flashing STM32

少し聞きにくい英語ですが、スライドを見るだけでも内容は解ると思います。

開発環境

動画のIDEは、KeilのSTM32G0/F0/L0専用無償版を使っています。既にSTM32CubeIDEやSW4STM32を利用中の方は、これらIDEとKeil専用版を同時インストールすると、STM32G0/F0/L0のみコンパイル可能となるトラブルが発生するらしいので注意してください。

IDE以外は、コード生成ツール:STM32CubeMX、評価ボード:Nucleo-G071RB、通信アプリ:Tera Termなどおなじみの環境での解説です。

STM32G0のSTM32F0/F1をカバーする広い守備範囲、Low Layer API開発メリットや重要性などが理解できると思います。残念なのは、STM32G0x全シリーズ搭載の最新ADC解説が無いことです。ADCに関しては弊社関連投稿を参照ください。

STM32G0x専用テンプレート

動画Part8紹介のLL APIを活用したSTM32G0x専用テンプレートを発売中です。

STM32G0xシリーズのプロトタイプ開発着手時に必要となるLPUARTやLED制御などの複数サンプルソフトがあらかじめ実装済みで、評価ボードADC入力変換値のTera Term出力も実装済みです。

STM32G0xシリーズ性能をフルに発揮したアプリケーション早期開発や、STM32G0習得に最適です。

ご購入、お待ちしております。

STM32G0x専用テンプレート発売

LL API利用のSTM32G0x専用テンプレートを、2019年6月1日発売開始します。

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)2018年12月新発売のSTM32G0xデバイスは、高性能・低電力なCortex-M0+と70nm新プロセス動作速度向上により、STM32G0x単独で従来汎用STM32F0/F1をカバーする性能と超低電力動作、低価格が特徴です。

このSTM32G0x専用LL (Low-Layer) API利用テンプレートが、今回1,000円(税込)で発売するSTM32G0x専用テンプレートです。

※従来から販売中のSTM32Fxテンプレートは、HAL API利用の汎用テンプレートです。

STM32G4シリーズ追加、全5種となったSTM32 Mainstream MCUs

2019年5月28日、超高性能汎用STM32G4xが発表されました。これでSTM汎用MCUは全5種となりました。一覧が下図です。

STM32汎用MCUラインナップ
STM32汎用MCUラインナップ(出典:STM32 Mainsterm MCUsに加筆)

STM32G0x専用テンプレートは、軽量・高速・エキスパート向きLL APIを利用します。STM32G0x性能をフル発揮するアプリケーションのプロトタイプ開発に最適です。

※STM32G0xや専用テンプレートの本ブログ関連投稿は、下欄タグ🏷:STM32G0x、または、専用テンプレートをクリックしてください。

STM32G0x専用テンプレート適用例2種、API比較評価用2種

LL APIとHAL APIの比較評価のため、汎用テンプレートをSTM32G0xへポーティングしたHAL APIテンプレートも添付します。同一アプリケーションでのLLとHALのリソース使用量、ユーザ記述量、API可読性などを具体的に評価・分析できます。全て評価ボード:Nucleo-G071RB上で動作確認済みです。

STM32G0x専用テンプレート適用例
STM32G0x専用テンプレート適用例

SimpleTemplateは、最も簡単なテンプレート適用例で、基本的なSTM32G071RB周辺回路とテンプレート動作が理解できます。AdcTemplateは、全STM32G0xシリーズ共通周辺回路:2.5Msps 12ビットADC制御をSimpleTemplateに追加し、全てのSTM32G0xプロトタイプ開発の起点となるテンプレートです。

SimpleTemplate、AdcTemplateともにLL APIを利用したSTM32G0x専用テンプレートと、汎用テンプレートをSTM32G0xへポーティングしたHAL APIテンプレートを提供します。

STM32G0x専用テンプレート適用例は、評価ボードのGPIOやLED、LPUART通信など必須の複数STM公式サンプルプロジェクトが実装済みで、すぐにプロトタイプ開発着手ができるLL API利用アプリケーションプロジェクトです。

※HAL版はAPI比較評価用です。2019年5月末時点のコード生成ツールSTM32CubeMX(v5.2.1)とSTM32G0 FW(v1.2.0)は、LL APIでのみSTM32G0x性能をフルに引き出すことができます。

※STM32MCU間でアプリケーション移植・流用性を最大限に保証するHAL APIを利用したソフトウェア開発を希望される方は、STM32Fxテンプレートの購入をご検討ください。

付属説明資料でLL APIアプリケーション開発着手時の障害解消

STM32G0x専用テンプレート付属説明資料のもくじを示します。

STM32G0x専用テンプレート付属説明資料もくじ
STM32G0x専用テンプレート付属説明資料もくじ

説明資料P1~P3は、STM32G0x専用テンプレートサイトから無料ダウンロード可能です。全14ページの詳細な説明により、LL APIが理解でき、STM32G0xデバイス専用アプリケーションのプロトタイプ開発着手時の様々な障害を取り除き、スピード開発するのに専用テンプレートは最適です。

STM32G0x専用テンプレートは、コチラの手順でご購入可能です。よろしくお願いいたします。

*  *  *

STM32CubeMX v5.2.1改版時の注意点

2019年5月24日、STM32CubeMXがv5.2.1へ改版されました。インストール時の注意点を示します。

STM32CubeMX v5.2.1改版
STM32CubeMX v5.2.1改版

STM32CubeMX v5.2.1ダウンロードは、Install Nowクリックのみです。但しダウンロード後、一旦STM32CubeMXを終了し、再起動時は、下記のように管理者と してインストールを実行する必要がありますので注意してください。

STM32CubeMX v5.2.1.Update
STM32CubeMX v5.2.1.Update。インストールは管理者として実行する必要がある。

続報:STM32CubeIDE

2019年5月8日STマイクロエレクトロニクス(以下ST)公式ブログで無償STM32CubeIDEの続報が掲載されました。STM32マンスリー・アップデート2019年5月号のトップページにも掲載中です。

STM32CubeMXがビルドインされたST初のIDE:STM32CubeIDE内蔵ツール版数と、ライバルIDEに相当するSW4STM32とTrueSTUDIOの今後を予想します。

STM32CubeIDE内蔵ツール版数

STM32CubeIDEにビルドインされたツール版数が下記です。FWは、本ブログ対象STM32F0/F1/G0のみ掲載します。ビルドインSTM32CubeMXの使い勝手は、単独STM32CubeMXツールと同じです。

内蔵ツール 2019年5月16日版数
STM32CubeIDE 1.0.0
STM32CubeMX 5.2.0
STM32F1  FW 1.7.0
STM32F0  FW 1.10.0
STM32G0  FW 1.2.0

STM32CubeIDE起動時に各ツール更新がチェックされるので、起動に多少もたつきを感じます。MicrosoftのC2R:Click to Runに近い機能です。

STM32G0 FW 1.2.0インストールには、STM32CubeMX 5.2.0以上が必要な点は注意が必要です。単独でSTM32CubeMX 5.1.0使用中の方が、FW更新してもSTM32G0 FW 1.2.0の検出すらできません。先ず、STM32CubeMXを 5.2.0へ更新後、再更新チェックでSTM32G0 FW 1.2.0が使えます。

全てがビルドインされたSTM32CubeIDEなら、このような版数による最新版インストールトラブルが回避できるでしょう。

STM32CubeIDEのAdvanced Debug機能

STMCubeIDE you are able to(出典:How to use STM32CubeIDE動画)
STMCubeIDE you are able to(出典:How to use STM32CubeIDE動画)

How to use STM32CubeIDEから抜粋したSTM32CubeIDE新機能が上図です。Advanced DebugのLive Expressions viewやSWV real-time tracing viewは、デバッグがより楽しく容易になる機能だと思います。

STM32CubeIDEライバル、無償AC6)SW4STM32と旧Atollic)TrueSTUDIOの今後

気になるのは、STM32CubeIDEと同様のコードサイズ制限なし無償IDE、AC6社)SW4STM32と旧Atollic社)TrueSTUDIOの2つのIDEが、今後更新され続けるかです。

ブログ内に、SW4STM32とTrueSTUDIO各ユーザに向けた注意書きがあります(Before STM32CubeIDE, What SW4STM32 and TrueSTUDIO Users Must Know章)。ブログでは、どちらのIDEユーザに対しても新しいSTM32CubeIDEへの移行を促しているようです。有償のIARとKeilのIDEに対しては、これまで通りです。

TrueSTUDIOは、既にSTM32G0 FW 1.2.0未対応です(関連投稿:TrueSTUDIOとSTM32CubeMXインストール方法の手順4参照)。SW4STM32は、最新デバイスをフォロー中ですが、近い将来、TrueSTUDIOと同じ運命、つまり、ツール改版への遅れや最新MCUへ対応しない可能性があります。

2017年末にSTに買収されたAtollicのIDE開発力が、新しいST純正STM32CubeIDE開発へ使われたとすると、現行のTrueSTUDIOが最新STM32G0xデバイスに未対応なのも納得がいきます。いわゆるデスコン(Discontinue)の前兆です。

なお、既成SW4STM32プロジェクトやTrueSTUDIOプロジェクトに対しては、STM32CubeIDEマイグレーションツール(UM2579など)がSTM32CubeIDE初期画面に用意されています。既成プロジェクトは、そのままSTM32CubeIDEで開くことはできず、また、一旦マイグレーションすると、元のSW4STM32プロジェクトへは戻せません。

このため、UM2579では、既成プロジェクトをバックアップ後、マイグレーションすることを明記しています。

STM32CubeIDE初期画面のマイグレーションツール(出典:UM2579)
STM32CubeIDE初期画面のマイグレーションツール(出典:UM2579)

STM32CubeIDEの使い勝手は、SW4STM32に近く、しかもAdvanced Debug機能でデバッグも面白くなりそうです。現版STM32CubeIDE 1.0.0は日本語対応がイマイチです。この点が改良されればSW4STM32からのマイグレーションを検討する予定です。

汎用STM32FxテンプレートのSTM32G0x使用法

LL APIを利用するSTM32G0x「専用テンプレート」開発は、3月からの投稿で一応目安が付きました。
※投稿下欄タグ:専用テンプレートをクリックすると本稿を含め関連投稿が読めます。

これらの投稿で販売中の汎用STM32Fxテンプレートは、HAL APIを使っているので別STM32MCU、例えばG0シリーズMCUのSTM32G071RBなどへの使用・移植も簡単であることを何度か書いてきました。

そこで、この「汎用テンプレート」のSTM32G071RBへの使用法を説明します。

STM32Fxテンプレートは、図1に示すようにF0シリーズMCUのSTM32F072RBと、F1シリーズMCUのSTM32F103RB両方で動作確認済みです。本稿は、このSTM32FxテンプレートをSTM32G0へポーティングします。

汎用STM32Fxテンプレートのソフトウェアアークテクチャ
汎用STM32Fxテンプレートのソフトウェアアークテクチャ

汎用STM32FxテンプレートのSTM32G0x使用法まとめ

  • HAL APIはSTM32MCUで共通なので、HAL API利用アプリケーション(この場合はテンプレート、STM32Fx Template)は、STM32デバイスが変わってもそのまま使える
  • HAL APIより下層のソフトウェアは、STM32CubeMXを使って自動生成
  • STM開発環境にMCU移植機能が無い現状では、移植デバイス先のSTM32CubeMX設定さえ間違わなければ、HAL APIより上層アプリケーションの使用・移植は、簡単

汎用STM32Fxテンプレートを購入検討中の方、または既にSTM32Fxテンプレートをお持ちの方は、HAL API利用STM32Fxテンプレートの別デバイス移植性が優れていることが本稿でご理解頂けると思います。

汎用STM32F0シンプルテンプレートのSTM32G071RB移植手順

手順1.SW4STM32で、F0SimpleTemplateプロジェクト名をG0SimpleTemplateへリネームコピー

手順2.STM32CubeMXで、評価ボードNucleo-G071RBプロジェクトを新規作成し、F0SimpleTemplate.icoと同じ変更を加え、手順1でリネームしたG0SimpleTemplate.icoへ上書き保存後、コード生成

手順3.SW4STM32で、G0SimpleTemplateのmain.cとUserDefine.hなど数か所を変更&コンパイル

手順4.STM32G071RB評価ボードNucleo-G071RBで、移植シンプルテンプレート動作確認

文章で書くと手順1~4のように量が多くなります。しかし、HAL APIはSTM32MCUで共通、デバイスが変わってもHAL API利用アプリケーションをそのまま使うために、下層の構築にSTM32CubeMXを使うだけです。HAL APIアプリケーション移植は簡単です。

手順詳細を説明します。

手順1:SW4STM32で、F0SimpleTemplateプロジェクトをG0SimpleTemplateへリネームコピー

F0SimpleTemplateをコピー、同じワークスペースへペーストする時にG0SimpleTemplateへリネームします。

F0SimpleTemplateをG0SimpleTempleteへリネームコピー
F0SimpleTemplateをG0SimpleTempleteへリネームコピー

G0SimpleTemplateフォルダ内のF0SimpleTemplate.iocをG0SimpleTemplate.iocへF2:リネームします。
※手順1の目的は、F0SimpleTemplateソースコードのユーザ追記部分を、丸ごとG0SimpleTemplateで流用するためです。

手順2:STM32CubeMXで、Nucleo-G071RB新規作成とコード生成

現状のSTM32CubeMXには、MCUデバイス間の移植機能がありません。そこで、F0SimpleTemplate.iocファイルを見ながら、新規作成Nucleo-G071RBの周辺回路を手動で同じ設定にします。

先ずG0SimpleTemplete.iocファイルを新規作成し、手順1でリネームしたG0SimpleTemplete.iocへ上書き保存します。その後、STM32CubeMXの2重起動を活かしF0SimpleTemplate.iocを見ながらG0SimpleTemplete.ioc周辺回路を同じ設定にします。最後に、全ての周辺回路をHAL APIでコード生成します。

STM32CubeMXのNucleo-G071RB設定
STM32CubeMXのNucleo-G071RB設定

※Connectivityは、F0SimpleTemplateに合わせてUSART2、Clock Configurationは、HCLK Max.の64MHz、Timerは、F0SimpleTemplateのTIM3機能に近いTIM7を使いました。

手順3:SW4STM32で、main.cとuserdefine.hの数か所を修正&コンパイル

どのようなアプリケーションソフトでも、デバイス依存の箇所があります。F0SimpleTemplateも同様です。これらは手動で変更・修正するとビルドが成功します。変更・修正箇所が下記です。

  • HALライブラリとBSP(Board Support Package)変更
    stm32f0xx_hal.h→stm32g0xx_hal_conf.h、stm32f0xx_nucleo.h→stm32g0xx_nucleo.h(UserDefine.h)
  • BSPはRepository\STM32Cube_FW_G0_V1.2.0\Drivers\BSP\STM32G0xx_Nucleoのstm32g0xx_nucleo.c/hをSrc/Incへコピー
  • TIM3の代わりにTIM7を使ったので、htim3→htim7(main.c)
  • G0SimpleTemplateに無関係ファイル削除(stm32f0xx_nucleo.c/h, system_stm32f0xx.c)

手順4:評価ボードNucleo-G071RBで動作確認

F0SimpleTemplateをG0SimpleTempletaへ流用したVitrual COMポート画面
F0SimpleTemplateをG0SimpleTempletaへ流用したVitrual COMポート画面

※表示メッセージは、STM32G0xデバイス対応に変更しています。

あとがき

繰返しますが、文章で書くと移植手順は長く複雑に感じます(特に手順3)。しかし、ソフトウェアアーキテクチャ図1が理解済みならHAL API利用アプリケーションの別デバイスへの移植は簡単です。手順3内容は、デバイスが変われば当然必要となる事柄です。

HAL API利用アプリケーションの最大メリットは、MCU移植が容易なことです。つまり、HAL APIアプリケーションは、「STM32MCUデバイス非依存」とも言えます。

現状では、このメリットを活かす開発環境が不備なだけです。不備分は手動で補い、STM32F0/F1アプリケーションをSTM32G0アプリケーションへ移植する方法を示しました。

近い将来、STM開発環境にMCUデバイス移植機能が提供されると筆者は思います。

お知らせ:LL APIを利用するLL APIのSTM32G0x「専用」テンプレートの販売時には、本稿のHAL API利用「汎用」G0SimpleTemplateも添付し、専用と汎用の両方を1パッケージで販売する予定です。

※LL APIとHAL APIの差を把握したい方は、STM32CubeMXのLow-Layer API利用法(2)を参照ください。

STM32G0xのLPUART利用法

STM32G0xデバイスは、従来からあるSTM32F0/F1デバイス通信機能USARTに、LPUART(Low Power UART)が新たに加わりました。本稿は、このSTM32G0xのLPUART利用法を解説します。

LPUARTとUSART

オンライントレーニング資料:STM32G0 – USARTのP26にLPUARTとUSARTの機能差分があります。

LPUARTとUSART差分(出典:STM32G0オンライントレーニング資料)
LPUARTとUSARTの差分(説明のため着色しています。出典:STM32G0オンライントレーニング資料)

USART1/2からIrDA:赤外線とLIN:車載通信機能を除いたサブセット版がLPUARTで、USART3/4より8バイトFIFO付きで高機能です。データシート:DS12232 Rev 2から抜粋した各消費電流が下記です。

LPUARTとUSART消費電流(出典:STM32G071xデータシートRev2)
LPUARTとUSART消費電流(出典:STM32G071xデータシートRev2)

LPUARTは、USART1/2とUSART3/4の中間、USART2.5/3.5が名前として適当かもしれません。API名を考慮し、USART1/2よりもLow Powerという特徴のLPUARTにしたのでしょう。

LPUARTサンプルプロジェクトは1個

前稿STM32G0xのADC利用法STM32G0xのADC利用法で示したように、LPUARTの実践的使い方習得には、AN5110記載のLPUARTサンプルプロジェクト理解が近道です。

しかし、現状の「LPUART」サンプルプロジェクトは、Examples_LLにあるLPUART_WakeUpFromStopの1個のみ、しかも、STM32CubeMXで生成できません(STM32G0x v1.1.0、STM32CubeMX v5.1.0)。
※HAL APIを使うExampleにも、LPUARTサンプルプロジェクトは現状なしです。
※4月末リリースSTM32G0x v1.2.0、STM32CubeMX v5.2.0でも状況は同じです。

一方、STM32CubeMXで生成できるLL API利用「USART」サンプルプロジェクトは多数あります。サンプルプロジェクト流用や活用で自分のソフトウェアを開発する場合、このような需要と供給のミスマッチは良くあります。

このミスマッチ対処方法を以下に示します。

供給USARTサンプルプロジェクトから需要LPUARTプロジェクト作成

初めに示したように、LPUARTはUSART1のサブセット版です。PCとのVirtual COMポート利用なら機能差はありません。従って、以下の手順でUSARTサンプルプロジェクからLPUARTプロジェクトを作成します。

USARTサンプルプロジェクからLPUART プロジェクト作成手順
USARTサンプルプロジェクからLPUART プロジェクト作成手順。簡単な変換作業で新プロジェクト作成ができる。

STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (1)で示したAPIユーザマニュアル:UM2319を見ると、ユーザソースコードAPIのUSART部分をLPUARTに変更すれば、API変換ができることも解ります。

この手順の良いところは、2と3が、簡単にできることです。

STM32CubeMXで生成できるサンプルプロジェクさえあれば、2と3は簡単で、しかもミスなくできます。つまり、サンプルプロジェク活用・流用がより簡単・正確にできます。筆者が、AN5110記載サンプルプロジェクトの中で、STM32CubeMX生成アイコン付きにこだわる理由がこれです。

1. USART_Comminication_Tx_Initサンプルプロジェクト動作確認

STM32CubeMXでUSART_Comminication_Tx_InitをSW4STM32用に生成します。評価ボードCN10#21とJP6のRX、CN10#33とJP6のTXを配線します。起動後USER BOTTONを押すとHyper Terminal(Tera Term)にメッセージが出力されLD4が点灯します。

※STM32CubeMXのSW4STM32用の使い方は、前稿ADC利用法のADC_SingleConversion_TriggerSW_InitのSW4STM32へのインポートの章を参照ください。

USART_Comminication_Tx_Initサンプルプロジェクト動作確認ができました。

USART_Comminication_Tx_Initサンプルプロジェクト実行結果
USART_Comminication_Tx_Initサンプルプロジェクト実行結果

2. STM32CubeMXでUSARTをLPUARTへ変更しコード生成

STM32CubeMXのPinout viewで、USART1をMode: Disable、LPUARTをMode: Asynchronous、115200bps/8Bits Word Lengthに設定します。LPUART1はProject Manager>Advanced SettingsでデフォルトのHALからLLへ変更します。GENERATE CODEでコード生成します。

STM32CubeMXでUSART1をLPUARTへ変更しコード生成
STM32CubeMXでUSART1をLPUARTへ変更しコード生成

3. SW4STM32でユーザコードをUSART APIからLPUART APIへ変更

生成されたSW4STM32の/* USER CODE BEGIN … */~/* USER CODE END … */の間のユーザコードは、コード再生成してもそのまま上書きされます。

従って、ソースコードで旧USART APIが残っているのは、この上書きユーザコード部分だけです。これ以外は、STM32CubeMXがコード生成時にLPUART APIへ変更済みです。

USART_Comminication_Tx_Initの場合は、下図赤線部分などです。これを青線のLPUART APIへ変更します。SW4STM32のFind/Replace機能を使うと、変更がミスなく簡単にできます。

ユーザコードのUSART API(赤線)からLPUART API(青線)へ変更
ユーザコードのUSART API(赤線)からLPUART API(青線)へ変更

4. LPUART変更後のプロジェクト動作確認

USARTからLPUARTへ変更したので、評価ボードCN10#16とJP6のRX、CN10#18とJP6のTXを配線します。起動後USER BOTTONを押すとHyper Terminal(Tera Term)にメッセージが出力されLD4が点灯します。LPUART変更プロジェクトの動作確認が出来ました。
※出力メッセージは、“LPUART project creation …”に変更しました。

作成したLPUARTプロジェクト実行結果
作成したLPUARTプロジェクト実行結果

手順1~4で作成したLPUARTプロジェクトから、LPUARTは、USARTと同じ使い方ができ、40%低電力(Table 33の数値比較)なサブセット版であることが解りました。

STM32G0xデバイスの新通信機能としてLPUARTを積極的に活用したいと思います。

※本章は、LPUARTの細かな使い方は、ソースコードを読めば解るという前提で説明しています。ソースコードの具体的な読み方は、前稿:STM32G0xのADC利用法のmain.cソースコードの読み方の章などを参考にしてください。

STM32G0xの実践的LPUART利用法まとめ

実践的に周辺回路利用法を習得するには、サンプルプロジェクト理解が近道です。

現状のSTM32G0x v1.1.0、STM32CubeMX v5.1.0は、LPUART習得に使えるサンプルプロジェクはLPUART_WakeUpFromStop の1個のみで、STM32CubeMXを使って生成はできません。
※4月末リリースSTM32G0x v1.2.0、STM32CubeMX v5.2.0でも状況は同じです。

一方、現状でもSTM32CubeMXで生成できるUSARTサンプルプロジェクトは多数あるので、これらを利用し、求めるLPUARTプロジェクトを作成する簡単でミスの少ない手順を示しました。

作成したLPUARTプロジェクトから、LPUARTは、USART1/2と同じ使い方で40%低消費電力な新通信機能であることが解りました。

速報:STM32CubeIDE

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)公式ブログで、中国で開かれたSTM32 SummitにおいてSW4STM32とTrueSTUDIO、STM32CubeMXを統合した新しい統合開発環境:STM32CubeIDEを発表しました。

STM公式ブログ:STM32CubeIDE Makes a Massive Appearance in China。STM32CubeIDEは、既にSTMサイトよりダウンロード可能です。

STM32CubeIDE(出典:STMサイト)
STM32CubeIDE(出典:STMサイト)

STM32CubeIDEの主な特徴

  • EclipseベースIDE
  • マルチOS対応(Windows、Linux、macOS)
  • SW4STM32とTrueSTUDIOプロジェクトのインポート機能

STM32CubeIDE

早速STM32CubeIDEをインストールしてみました。所感は、STMが買収したAtollic® のTrueSTUDIOというよりむしろ、SW4STM32へSTM32CubeMXをプラグインしたような画面です。

STM32CubeIDE画面
STM32CubeIDE画面。SW4STM32へSTM32CubeMXをプラグインした画面に近い。

STM32CubeIDE v1.0.0は、最新版STM32CubeMX v5.2.0とSTM32G0 FW v1.2.0/STM32F0 FW v1.10.0 /STM32F1 FW v1.7.0など開発に必要となるツールもパッケージとしてインストールできます。従来の個別インストールとツールアップデートが面倒だと感じる方には、朗報になるでしょう。

現在STM32G0x専用テンプレート開発は、SW4STM32で継続中です。しかし、販売時にはこのSW32CubeIDEでリリースする方が、SW4STM32からのマイグレーションガイドUM2579も付属済みですので良いかもしれません。

マイグレーション操作は簡単です。販売中のSTM32Fxテンプレートへもこのマイグレーションで対応できると思います。

STM32MCU開発環境の場合、IDE、STM32CubeMX、デバイス毎のFW、これら3つのバージョンがともに最新でないと、上手く動作しないことや不具合発生はありえます(例えば、STM32CubeMX v5.1.0では最新のSTM32G0 FW v1.2.0がインストールできないなど)。

STM32CubeIDEの出現で、バージョン管理が容易になれば良いと思います。以上、速報をお伝えしました。
動画がコチラで見られます。