STM32RTOS開発3注意点(後編)

STM32MCUでRTOS開発を行う時の3注意点、前編のSTM32CubeMX、HALに続き、本稿後編でCMSIS-RTOS関連を示します。

※木曜からの東京オリンピック4連休のため、通常金曜を本日水曜日に先行して投稿します。

前編は、STM32RTOS開発実例として、NUCLEO-G474RE FreeRTOS_QueuesサンプルプロジェクトのSTM32CubeMX(以下CubeMX)コード出力を使い、HALタイムベース変更の必要性を示しました。後編は、前編と同じ実例を使ってCMSIS-RTOSの注意点を示します。

FreeRTOS_Queues STM32CubeMXファイルのTasks and Queues

NUCLEO-G474RE FreeRTOS_QueuesサンプルプロジェクトのCubeMX構成ファイル:FreeRTOS_Queues.icoを開き、Middleware>FREERTOSのTasks and Queuesタブをクリックしたのが下図です。

FreeRTOS_QueuesのSTM32CubeMXファイルTasks and Queues
FreeRTOS_QueuesのSTM32CubeMXファイルTasks and Queues

2つのタスク:MessageQueuePro(Qプロデューサ:送信タスク)とMessageQueueCon(Qコンシューマ:受信タスク)と、1つのQ:osQueue(深さ1:ワード)を、CubeMXで自動生成するパラメタが設定済みです。関連投稿:NXP版FreeRTOSのQueueデータ送受信と同じです。

全て黒文字パラメタですので、変更も可能ですが、このままソースコードを自動生成(Alt+K)してください。

CMSIS-RTOS APIからFreeRTOS API変換(wrapper)

CMSIS-RTOS APIからFreeRTOS API変換
CMSIS-RTOS APIからFreeRTOS API変換

main.cのL125に、osQueueを生成するAPI:osMessageCreateが自動生成済みです。また、L134とL138に、MessageQueueProとMessageQueueConのタスク(Thread)を生成するAPI:osThreadCreateも自動生成済みなのが判ります。

ここで、API先頭にosが付くのは、CMSIS-RTOSのAPIだからです(L145のosKernelStartも同様)。詳細は、次章で説明します。

さて、L125のosMessageCreateへカーソル移動し、F3をクリックすると、cmsis-os.cのL1040へジャンプし、CMSIS-RTOS APIのosMessageCreateの中身が見えます。その中身が、L1055のxQueueCreateで、これはFreeRTOSのAPIです。

つまり、CubeMXが自動生成したのは、CMSIS-RTOS APIですが、その実体は、FreeRTOS APIであることが判ります。
この例のように、CubeMXが生成したCMSIS-RTOS APIは、cmsis_os.cで全てFreeRTOS APIへ変換されます。

CMSIS-RTOS

CMSIS-RTOSは、Cortex-Mコア開発元ARM社が定めたRTOS APIの規格です。
※CMSIS:Cortex Microcontroller Software Interface Standard

Cortex-Mコアには、FreeRTOS/Azure RTOS/mbed OSなど様々なRTOSが使えます。下層のRTOSが変わるとAPIも変わりますが、そのAPIを変換し、上層アプリケーションへ共通なRTOS APIを提供する、これにより、

  1. RTOSが異なっても、同じ開発アプリケーションが使えること
  2. Cortex-Mコアが異なっても、開発アプリケーション移植を容易にすること

これらがCMSIS-RTOSの目的です。

これをラップ(wrap=…を包む)と呼ぶことがあります。ラップ関数(wrapper)とは、下層API差を隠蔽し、上層アプリケーションへ同一APIを提供する関数のことです。STM32RTOS開発でのCubeMXの役目の1つは、使用するRTOSに応じたwrapperを提供することです。

現在、STM32RTOS開発のCubeMXがラップしているのは、FreeRTOSだけです。今後、FreeRTOSがAzure RTOSなどへ変わっても、開発アプリケーションをそのまま活用するために、今の時点からCMSIS-RTOS APIを使っている訳です。

Cortex-M0/M0+/M3/M4/M7コア向けの共通RTOS APIがCMSIS V1、Cortex-A5/A7/A9と全Cortex-Mコア向けの共通RTOS APIがCMSIS V2です。STM32RTOS開発では、CMSIS V1を用います。

CMSIS-RTOS とFreeRTOSのAPI

UM1722にCMSIS-RTOS APIとFreeRTOS APIの一覧が示されています。抜粋したのが下表です。

FreeRTOSとCMSIS-RTOSのAPI
FreeRTOSとCMSIS-RTOSのAPI

接頭語にx/vなどが付くのがFreeRTOS API、osが付くのがCMSIS-RTOS APIです。

CubeMXが生成するコードは、常にCMSIS-RTOS APIですが、実体はFreeRTOS APIです。FreeRTOSが別のRTOSへ変わっても、CMSIS-RTOS APIは同じです。CMSIS-RTOS APIとFreeRTOS APIのwrapper分のオーバーヘッドは生じますが、下層RTOSに依存しない点は、先進的で優れています。

なおUM1722 Rev3には、単にAPI列記とwrapper、RTOSサンプルプロジェクトの簡単な説明が記載されているだけです。

まとめ

STM32MCUでRTOS開発を行う時の3注意点(前編:STM32CubeMX、HAL)に続き、本稿後編で3つ目のCMSIS-RTOSを示しました。

STM32RTOS開発のSTM32CubeMXが扱うRTOSは、現在FreeRTOSだけです。FreeRTOSが別のRTOSへ変わっても、CubeMXは、開発アプリケーション流用性を高めるためにFreeRTOS APIの代わりにRTOS共通CMSIS-RTOS APIを出力します。

CMSIS-RTOS APIには、Cortex-M0/M0+/M3/M4/M7コア間で開発アプリケーション移植性が高いCMSIS V1を使います。

CMSIS-RTOS API変換オーバーヘッドがありますが、流用性、移植性に優れたRTOSアプリケーション開発ができる点は、優れています。

あとがき

残念ながらCMSIS-RTOS情報は、シェア1位AWSのFreeRTOSに比べ少なく、この少ない情報を使ってSTM32RTOS開発を行うのは、大変です。
※2位がAzureのAzure RTOS、3位がGCP(Google Cloud Platform)のmbed OS。関連投稿はコチラ

例えば、最初の図:CubeMXのTasks and QueuesのGUI設定パラメタが多いにもかかわらず、UM1722サンプルプロジェクト説明が少ない点などです。

RTOSは、複数タスク(CMSIS-RTOSではThread)間の優先順位差とRTOS自身の動作により、開発タスク処理状態が変わります。ベアメタル視点に加え、RTOS視点でのタスク開発と経験が求められます。QueueなどRTOS単独手段理解が目的のサンプルプロジェクトだけでは、RTOS開発経験は積めません。

弊社はこれらの対策として、効率的なRTOS基礎固め、STM32RTOSアプリケーションのプロトタイプ開発早期着手を目的としたSTM版RTOSアプリケーションテンプレート(仮名)を検討中です。その構想は、固まり次第、別稿にて示す予定です。

なお、NXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、コチラで販売中です。

STM32G0xテンプレートV2発売

STマイクロエレクトロニクス統合開発環境STM32CubeIDEのHAL APIを利用し開発したSTM32G0xテンプレートVersion2を、6月1日から発売します。

上記弊社サイトよりテンプレート付属説明資料P1~P3が無料ダウンロードできますので、ご検討ください。

STM32G0xテンプレートV2内容

従来よりも高性能で低消費電力動作の新汎用MCU:STM32G0シリーズのアプリケーション開発を、初心者でも簡単に始められ、しかも、処理能力やセキュリティ要求が変化した場合でも、開発資産を活かしたままMCU変更が可能なHAL APIプログラミングに重点を置きました。

そこでVersion2では、LL APIからHALAPI利用アプリケーション開発用テンプレートへの変更、統合開発環境SW4STM32から、STM32CubeIDEへの変更に対応しました。

STM32G0xのもう一つの特徴であるセキュアブート、セキュアファームウェア更新機能を活用する機能は、G0xテンプレートV2以降で対応します。

これらセキュリティ機能は、関連投稿:STM32G0/G4のRoot of Trust(1)~(3)で示したように、IoT MCUでは必須です。これら実装のメインストリーム(=汎用)・マイコンは、現在G0/G4シリーズです。

Root of Trust対応中のSTM32マイコン一覧(出典:FLXCUBESBSFU0819J)
Root of Trust対応中のSTM32マイコン一覧(出典:FLXCUBESBSFU0819J)

汎用性とセキュリティの両方を持つSTM32マイコンをご検討中の方は、先ずはSTM32G0xテンプレートV2で汎用性の部分をマスターできます。

STM32G0xテンプレートV2のご購入、お待ちしております。

Windows 10 May 2020 Update(バージョン2004)対策

5月28日、Windows 10の新バージョン2004の配布が始まりました。残念ながら、早くも複数の大型更新トラブルが発生中です(10件の更新トラブル情報)。

Fast/Slow リングの目的、月一Windows 10 Updateでの多くのトラブル、一般PC利用者への悪影響…等々、このところのMicrosoftは、何か変だと思わずにはいられません。

バージョン2004への更新を暫く避けようと考えている方は、Pro/Homeともに、コチラの方法が参考になります。

STM32マンスリー・アップデートHTML化

STマイクロエレクトロニクスのSTM32マンスリー・アップデートが、6月からスマホ閲覧に好適なHTML配信に変わります。2020年5月号が最後のメール配信でした。HTML配信はブラウザで「絵的」に見るのには確かに適していますが、「字的」な記憶や記録に残りにくい気がするので、個人的には残念です。

そこで、これまでのメール配信版の全マンスリー・アップデートから、5月30日発売のSTM32G0xテンプレートVersion2対象STM32G0シリーズ関連部分を忘れないようピックアップしました。

STM32G0シリーズ特徴

STM32G0シリーズ(出典:マンスリー・アップデート2019年10月)
STM32G0シリーズ(出典:マンスリー・アップデート2019年10月)
Dead Battery機能デフォルト有効(出典:マンスリー・アップデート2019年7月)
Dead Battery機能デフォルト有効(出典:マンスリー・アップデート2019年7月)

※テンプレートで使うNucleo-G071RBは、USB Power Delivery機能(Dead Battery機能)が「デフォルト無効」となっています。

STM32G042/G031/G030新登場(出典:マンスリー・アップデート2020年1月)
STM32G042/G031/G030新登場(出典:マンスリー・アップデート2020年1月)
STM32マイコンでRoot of Trust実現のX-CUBE-SBSFU(出典:マンスリー・アップデート2020年3月)
STM32マイコンでRoot of Trust実現のX-CUBE-SBSFU(出典:マンスリー・アップデート2020年3月)
SBSFU機能(出典:STM32_Security-Introduction)
SBSFU機能(出典:STM32_Security-Introduction)

報告は、A4で1枚以内にまとめろとOJTで学びました。今風に言うと、Twitterのような短文で報告せよということです。記事に、70nm新製造プロセス、64ピンパッケージでも1ペア電源ピン説明が無いのは、少し不満ですが、少ない文字量でSTM32G0特徴をまとめる良い見本になりました。

これは、読者にソフトウェア開発者が多いからでしょうか🤨? 黄色ハイライトは筆者加筆です。

STM32G0xテンプレートV2変更内容

さて、このSTM32G0シリーズ向けSTM32G0xテンプレートV2は、下記3項目がV1からの変更内容です。

  • IoT必須セキュアブート、セキュアFWアップデート実装STM32G0特徴を活用(詳細は、コチラの関連投稿を参照してください。V1は、この特徴を活かしきれていませんでした😂)
  • 高性能専用LL API利用から、汎用HAL API利用アプリケーション開発用テンプレートへ変更
  • SW4STM32統合開発環境から、STM32CubeIDEへ変更

項目2と3をVersion2で対応します。余裕があれば項目1にも対応するかもしれません。

STM32CubeMX使い方刷新STM32Fx/G0xテンプレートV2発売5/15、5/30

サードパーティ仏)AC6社の統合開発環境SW4STM32で開発したSTM32FxテンプレートとSTM32G0xテンプレートを、新しいSTマイクロエレクトロニクス純正STM32CubeIDE対応のVersion2:V2へ更新し販売開始します(STM32Fxテンプレートは2020/05/15、STM32G0xテンプレートは2020/05/30)。

V2では、V1ご購入者様から頂いたご意見ご感想を反映し、新しいSTM32CubeIDEやビルトインSTM32CubeMX使い方説明に工夫を加え、開発トラブル回避、既存アプリケーション資産活用方法などの新たなTipsも添付解説資料に加えました。

テンプレートと合わせてスムースなSTM32MCUアプリケーション開発にお役に立てると思います。

本稿は、説明を工夫したSTM32CubeIDEビルトインSTM32CubeMX使い方の一部を紹介します。

STM32CubeMX使い方:コツ

※以下、用語の頭に付く「STM32」は省略して記述します。

MCU周辺回路の初期化コードを自動生成するCubeIDEビルトインCubeMXも、以前投稿したスタンドアロンCubeMXの使い方と同じです。

CubeMXはSTM32MCU開発の出発点となるツールですので、十分理解した上で着手したいものです。テンプレートV2では、ビルトインCubeMXが生成するファイルに着目し、説明に以下の「使い方のコツ」と「簡単な順位」を追加しました。

CubeMXは、生成するファイル数が多い上に、使用するMCU周辺回路が増えると、生成コード量も多くなり、初めての方には少し解りにくいツールです。弊社テンプレートV1も、このCubeMXに関する質問を多く頂きました。それでも、コツを知っていれば十分使いこなせます。

そのコツとは、以下2点です。
・チェックが必要な自動生成ファイルは、main.hのみ
・main.cに自動追加される周辺回路ハンドラと、初期化コードが分かれば使える

F1シリーズSTM32F103RBの評価ボード:Nucleo-F103RBに弊社テンプレートを応用した例で説明します。

STM32CubeMX生成のF1BaseboardTemplateファイル構成
STM32CubeMX生成のF1BaseboardTemplateファイル構成

CubeMXが自動生成するファイルが、赤:CubeMX生成欄の9個です。このうち注目すべきは、太字赤☑で表示したmain.hとmain.cです。

main.hは、CubeMXで設定したユーザラベル、評価ボードならばB1[Blue PushButton]やUSART_TX/RX、LD2[GreenLed]などを定義した生成ファイルです(※[ ]内は、自動生成時に削除されますので覚え書きなどに使えます)。

main.hのコメント:Private definesの後にこれらの定義が生成されます。これら定義をチェックしておくと、「CubeMX自動生成コードを読むときに役立ち」ます。

main.cは、CubeMXが生成するメイン処理で、評価ボードのCubeMXデフォルトでコード生成:(Alt+K)した場合には、main.cのコメント:Private variablesの後にUSARTハンドラ:huart2と、コメント:Private function prototypesの後にUSART2の初期化コード:MX_USART2_UART_Init()と、その「初期化コード本体がmain.cソースの後ろの方に自動生成」されます。

その他の7個ファイルは、当面無視しても構いません。CubeMXデフォルトのHAL (Hardware Abstraction Layer)APIを利用し、割込みを使わない限り、ユーザコードには無関係だからです(※7個ファイルを知りたい方は、関連投稿:STM32CubeMX生成ファイルのユーザ処理追記箇所を参照してください)。

CubeMXが周辺回路:USART2初期化コードとそれに使う定義を自動生成済みなので、後は、main.cの無限ループ内の指定区間:USER CODE BEGIN xyz~USER CODE END xyzに、Usart2やLD2を使ったHAL APIユーザコードを追記すれば、アプリケーションが完成します。

追記したユーザコードは、再度CubeMXでコード生成しても、指定区間のまま引き継がれます。

ちなみに、アプリケーションで使用可能なHAL APIは、Ctrl+Spaceでリスト表示されます(Content Assist)。そのリストから使用するHAL APIを選択すれば、効率的なユーザコード追記が可能です。
※Content Assistの賢いところは、「ソースコード記述の周辺回路ハンドラを使ってHAL APIをリスト化」するところです。記述なしハンドラのAPIはリスト化されません。

つまり、CubeMXのPinout & Configurationタブで周辺回路を設定後コード生成しさえすれば、直ぐにユーザコードを追記できるファイルが全て自動的に準備され、これらファイルの指定区間へユーザコードを追記すれば、アプリケーションが完成する、これがCubeMXの使い方です。

このCubeMX使い方理解に最低限必要なファイルが、簡単順位:0のmain.hとmain.cの2個です。CubeMX生成ファイル数は9個ありますが、先ずはこの2個だけを理解していれば十分です。

LD2を点滅させるアプリケーションなどを指定区間へ自作すると、具体的に理解が進みます。

STM32CubeMX使い方:周辺回路のファイル分離

評価ボードのCubeMXプロジェクトファイル(*.ioc)は、デフォルトでB1[Blue PushBotton]とUSART2、LD2[GreenLed]を使っています。これらは、評価ボード実装済み周辺回路です。

これら評価ボード実装済み周辺回路へ、弊社テンプレートを適用したのが、シンプルテンプレートです(表:シンプル追加の欄)。

例えば、B1スイッチ押下げ状態をSW_PUSH、USART送信タイムアウトをUSART2_SEND_TIMEOUTなどソースコードを読みやすくする定義の追加は、CubeMX生成main.hの指定区間へ追記することでもちろん可能です。

しかし、他MCUコアへの移植性や変更のし易さを狙って、あえて別ファイル:UserDefine.hへこれらを記述しています。

同じ狙いで、LD2とB1、USART2のユーザ追記制御部分を、Led.cとSw.c、Usart2.cへファイル分離しています。ファイル分離により、HAL API利用のためMCUコア依存性が無くなり、例えば別コアのF0やG0評価ボードで同じ周辺回路を使う場合は、そのファイルのまま流用可能になります。

これらファイル分離した周辺回路の追記制御部分を、main.cの無限ループと同様に起動するのが、Launcher.cです。

つまり、シンプルテンプレートは、評価ボード実装済み周辺回路に、何も追加せずに弊社テンプレートを適用したシンプルな応用例です。その理解に必要なファイルが、緑:シンプル追加欄の☑で、簡単な順に1~5の番号を付けています。

CubeMXのそのままの使い方で周辺回路を追加すると、生成ファイル数は、赤:9個のままですが生成コード量が増えます。周辺回路の初期設定コード増加は当然ですが、この部分はCubeMX自動生成のためミス発生はありません。

しかし、ユーザコード指定区間へ、追加した周辺回路の制御コードを追記するのは、ユーザ自身です。様々な周辺回路制御が混在し追記量が増えてくると、バグやケアレスミスの元になります。

この対策に、周辺回路毎にファイルを分割し、この分割したファイルへ制御コードを記述するのが、シンプルテンプレートです。1周辺回路の制御コードが1ファイル化されていますので、簡単順位1~5の内容は、どれもとても簡単です。

さらに、ADC制御やLCD制御など、殆どの組込アプリケーションで必要になる周辺回路を追加し、Baseboardと評価ボードを結線、デバッグ済みのアプリケーションがベースボードテンプレートです(橙:ベースボード追加欄の3個)。

ユーザ追加ファイルは、全てMCUコア依存性がありません。CubeMXのHAL APIコード生成を行えば、コアに依存する部分は、CubeMX生成ファイル内に閉じ込められるからです。つまり、ユーザ追加ファイルは、全てのSTM32MCUへ流用できる訳です。

これらシンプルテンプレート、ベースボードテンプレートから新たなSTM32MCUアプリケーション開発を着手すれば、新規にアプリケーションをゼロから開発するよりも初期立上げの手間を省け、さらに機能追加や削除も容易です。

STM32CubeMX使い方:周辺回路プロパティ、既存AN利用法

CubeMXへ追加した周辺回路のプロパティ設定値やその理由、更に、既存アプリケーションノート利用方法など、新しいSTM32CubeIDE開発トラブルを回避し、スムースに開発着手できる様々なTipsをテンプレート添付説明資料へ加えています。

マイコンテンプレートサイトでSTM32Fxテンプレートは2020/05/15、STM32G0xテンプレートは2020/05/30発売開始です。ご購入をお待ちしております。
※STM32Fx/G0xテンプレートV1ご購入後1年以内の方は、後日V2を自動配布致しますのでお待ちください。

SW4STM32アプリケーションのSTM32CubeIDE移設

SW4STM32で開発した2017年9月発売STM32Fxテンプレートと2019年6月発売STM32G0xテンプレートを、STM32MCU最新統合開発環境STM32CubeIDE v1.1.0へ移設しました。

移設は成功し、STマイクロエレクトロニクス最新統合開発環境:STM32CubeIDE v1.1.0(以下、CubeIDE)、STM32CubeMX v5.4.0(以下、CubeMX)、最新ファームウェアと弊社テンプレートを使って、効率的で最新のSTM32MCUプロトタイプ開発、アプリケーション開発ができます。

本稿は、STM32CubeIDE v1.1.0更新と文字化け対策投稿(その1)、(その2)のその3に相当します。説明が重複する箇所は、リンク先を参照してください。

移設成功結果

G0AdcTemplateのSTM32CubeIDE移設成功結果
G0AdcTemplateのSTM32CubeIDE移設成功結果

STM32Fxテンプレートは「ひと手間」、STM32G0xテンプレートは「そのまま」で最新統合開発環境へ移設でき、評価ボードにてテンプレート動作を確認しました。G0AdcTemplateのCubeIDE移設後と評価ボード動作例です。

既にSTM32Fx/G0xテンプレートご購入者様は、本稿の方法で最新STマイクロエレクトロニクス開発環境へ乗換えることができます。

※現状のCubeMX v5.4.0でコード生成後、CubeIDE v1.1.0の日本語コメントは文字化けしますので注意してください(詳細は、投稿その2参照)。

最新開発環境ファームウェアとアプリケーション開発時ファームウェア

最新開発環境ファームウェアとテンプレート開発時ファームウェア
最新開発環境ファームウェアとテンプレート開発時ファームウェア

投稿その2で示したように、MCU開発ソフトウェア(=アプリケーション)に最も影響を与えるのは、ファームウェア更新です。

STM32FxテンプレートのF0用ファームウェアFW_F0は、開発当時のv1.8.0からv1.11.0へ、F1用ファームウェアはv1.4.0からv1.8.0へ、G0用ファームウェアFW_G0はv1.2.0からv1.3.0へそれぞれ更新されています。
※STM32G4テンプレートは、これから開発着手しますので最新のv.1.1.0のままです。

次章3から5章までを使って、STM32F1テンプレート:F1BaseboardTemplateを例に、当時の開発環境から最新開発環境への移設作業、ファームウェア変更、トラブルシューティングを「詳細に説明」します。但し、結果として行う処理は、6章まとめに示す簡単なものです。途中の章は読み飛ばしても構いません。

開発済みMCUアプリケーションを暫くたってから更新、または本稿のようにIDE自体が変わり最新開発環境へ移設することはよくあります。F1BaseboardTemplateをお持ちでない方も、(手前みそですが)次章から5章の内容は参考になると思います。

ファームウェア更新でコンパイルエラー発生:3章

先ず、ファームウェア起因のコンパイルエラーが発生するまでを示します。

1.SW4STM32で開発したF1BaseboardTemplateプロジェクトをCubeIDEへインポートします(インポート方法は、投稿その1-3章参照)。インポートソースコードの日本語コメントに文字化けが発生しますので、その1で示したShift-JISからUTF-8へのエンコード変換で解決します。

2.インポート済みのCubeMXプロジェクトファイルを、CubeIDEプラグイン版CubeMXで開き、Project Managerタブをクリックし、Toolchain/IDEがSTM32CubeIDEであることを確認します。インポートIDE変換が成功していれば、SW4STM32から自動的にSTM32CubeIDEへ変わっているハズです。

SW4STM32プロジェクトインポート後、プラグイン版STM32CubeMXで開いたプロジェクトファイル
SW4STM32プロジェクトインポート後、プラグイン版STM32CubeMXで開いたプロジェクトファイル

ファームウェアは、最新版STM32Cube FW_F1 V1.8.0になっています。そのままProject>Generate Codeをクリックし、コード生成を実行します。

3.CubeIDEへ戻ると、(デフォルトの自動コンパイル設定だと)Lcd.cなど数か所に赤下線のコンパイルエラーが発生します。

ファームウェア起因のコンパイルエラー(赤下線)
ファームウェア起因のコンパイルエラー(赤下線)

例えば、L236のLCD_EN_Pinは、CubeMXでGPIO_PIN_8をUser Label付けしたものです。LCD_EN_Pinへカーソルを持っていき、F3をクリックすると、定義ファイルmain.hのL103へ飛び、User Label付けは問題ないことが判ります。この段階では、コンパイルエラー原因は不明です。

4.コンパイルエラーがファームウェア起因かを確認するため、ファームウェアだけをFW_F1 V1.8.0からF1BaseboardTemplate 開発当時のFW_F1 V1.4.0へ戻します。但し、CubeIDE「プラグイン版CubeMX」は、ファームウェアを旧版へ戻す機能がありません。そこで、「スタンドアロン版CubeMX」を使ってファームウェアをFW_F1 V1.4.0へ戻し、再度コード生成を行うと、コンパイルエラーは発生しません。
※スタンドアロン版CubeMXでファームウェアを元の版数へ戻す方法は、4章で説明します。

以上の作業で、コンパイルエラー原因は、ファームウェア起因であることが判りました。

STM32CubeMXコード生成ファームウェア変更方法:4章

トラブルシューティングの前に、CubeMXでコード生成ファームウェア版数を変える方法を示します。CubeMXは、旧版ファームウェアをRepositoryフォルダへ自動保存し、いつでも旧版へ戻せる準備をしています。

1.スタンドアロン版CubeMXのProject Managerクリックで表示されるダイアログ一番下のUse Default Firmware Locationの☑を外し、BrowseクリックでRepositoryフォルダ内の旧版ファームウェア:STM32Cube_FW_V1.4.0を選択します。

スタンドアロン版STM32CubeMXでファームウェア版数を変える方法
スタンドアロン版STM32CubeMXでファームウェア版数を変える方法

2.そのままCubeMXでコード生成を実行すると、ファームウェア版数のみを変えたソースコードが生成されます。

※CubeIDEプラグイン版CubeMX(2つ前の図)は、Use Default Firmware Location自体有りません。つまり、最新ファームウェアでのみコード生成が可能です。
※CubeMXのGenerate Reportは、コード生成時の各種パラメタをPDF形式で出力する優れた機能です。しかし、肝心のコード生成ファームウェア版数が現状では出力されません。PDF出力へ手動で使用ファームウェア版数を追記することをお勧めします。

トラブルシューティング:5章

3章コンパイルエラー発生後、つまり最新ファームウェアFW_F1 V1.8.0でのコード生成後からトラブルシューティングします。

1.CubeIDEのエラーメッセージは、Symbol ‘LCD_EN_Pin’ could not be resolvedです。main.hで定義済みなので、なぜresolveできないのか不可解です。

2.そこで、Lcd.cの#include関連を見ると、#include “UserDefine.h”はあります。
※弊社テンプレートは、UserDefine.hでツール生成以外の全てのユーザ追加定義を記述し、全ソースファイルへincludeする方式を用いています。
※一方、CubeIDEは、CubeMXで生成するmain.cソースファイル1つへ、全ての制御を記述する方式を用いています。小規模なサンプルプロジェクトなどでは、解り易い方法です。
※但し、規模が大きくなると、ソースファイルを機能毎に分離し、ファイル単位の流用性やメンテナンス性を上げたくなり、弊社は、このファイル分離方法をテンプレートに採用中です。

3.UserDefine.hに、#include “main.h”の1行を追加します。

UserDefine.hへ#include "main.h" 追加
UserDefine.hへ#include “main.h” 追加

4.Clear Project後、Build Projectでコンパイルエラーは解消し、コンパイル成功します。評価ボード:STM32F103RBでF1BaseboardTemplate の最新開発環境での正常動作確認ができます。

最新ファームウェアは、全てのユーザ追加ソースファイルに、#include “main.h”が必須なことがトラブル原因でした。

最新開発環境への移設まとめ:6章

2017年9月にSW4STM32で開発完了したSTM32Fxテンプレートは、UserDefine.hに、#include “main.h”追記で、2019年11月STM32MCU最新開発環境:STM32CubeIDE v1.1.0、STM32CubeMX v5.4.0、STM32Cube FW_F1 V1.8.0/FW_F0 V1.11.0へ移設できます。

2019年6月にSW4STM32で開発完了したSTM32G0xテンプレートは、なにもせずに、2019年11月最新開発環境:STM32CubeIDE v1.1.0、STM32CubeMX v5.4.0、STM32Cube FW_G0 V1.3.0へ移設できます。
※STM32G0xテンプレートは、初めからUserDefine.hに、#include main.hが追記済みです。

Build Analyzer

SW4STM32からCubeIDEへ移設後、最初に目に付くIDE画面の差分は、ビルド成功時、右下表示のBuild Analyzerだと思います。

STM32CubeIDEのBuild Analyzer
STM32CubeIDEのBuild Analyzer

最初の図で示したG0AdcTemplate移設後のCubeIDE Build Analyzerを示します。RAM、FLASH使用率が一目で解ります。その他のIDE画面や操作は、旧SW4STM32と殆ど同じです。

Serial Console

CubeIDEは、Serial Console画面を持っています。従来環境では別途必要であったVirtual COM Port (VCP)用のTera Termなどのツールが不要となり、IDEだけでVCP入出力が確認できます。高まるVCP重要性が最新IDEへ反映されたと思います(関連投稿:STLINK-V3の4章)。

但し、バックグラウンドが、Tera Termの黒からSerial Console画面では白になったため、テンプレートで用いたVCP出力文字色を、デフォルトの白から黒へ変更した方が見易いです。この色変更後のSerial Consoleが下図右側です。

TeraTerm画面とSTM32CubeIDEのSerial Console画面
TeraTerm画面とSTM32CubeIDEのSerial Console画面

最新開発環境移設の課題と対策、テンプレート改版予定

現状のCubeIDE v1.1.0は、コード生成後、日本語コメントに文字化けが発生します。また、エディタタブ幅が2のまま変更できません。これら以外にも細かな不具合があります。このままでは、筆者には使いにくいIDEです。一方、Build AnalyzerやSerial Consoleは、とても役立ちます。
CubeIDEプラグイン版CubeMX v5.4.0は、Repository旧ファームウェアへの変更機能が無く、最新ファームウェアのみ利用可能です。

これら移設課題に対して、投稿その1から本稿で対策を示しました。

現状は、従来SW4STM32からCubeIDEへの「IDE移設過渡期」です。筆者は暫く両IDEを併用するつもりです。そして、新環境の使いにくい箇所が解消された時点でCubeIDEへ完全移設し、同時に汎用MCU第2位、シェア20%超のSTM32MCU向けテンプレートとしてSTM32FxテンプレートとSTM32G0xテンプレートを、本稿変更などを加え最新開発環境対応へ全面改版する予定です。

既に弊社テンプレートをお持ちの方や全面改版を待てない方は、まとめ6章の方法で移設可能です。但し、投稿その2で示した多くのリスクがありますのでお勧めはしません、自己責任で行ってください。

なお、新開発のSTM32G4テンプレートは、初めから最新CubeIDE、CubeMXで開発着手します。

*  *  *

STマイクロエレクトロニクスのSTM32CubeIDE v1.1.0改版により、旧SW4STM32開発アプリケーションを新環境へ移設する連続3回の投稿、いかがでしたでしょうか? 詳細説明がリンク先となり、筆者にしては長文投稿でしたので、解りづらかったかもしれません😌。

IoTによりMCU開発環境は、より急ピッチで変わります。最新デバイスと最新API利用が、その時点で最も効率的で優れたMCUアプリケーション開発手段です。環境急変にも柔軟対応できる開発者が求められます。

最新開発環境に上記のような課題が多少あっても、従来SW4STM32開発済みアプリケーションの最新STM32CubeIDE移設は、6章で示した1行追記のみで成功しました。

但し、顧客や管理者の方には、開発環境更新、移設の危うさや開発者の心理的負担、何よりもそれらへの対応時間は、あまり表に出てこない部分、また移設してみて初めて判る部分で理解されづらいものです。

本稿がMCUアプリケーション顧客、管理者、開発者の方々のご参考になれば幸いです。

P.S:2019年11月12日、2か月遅れでWindows 10 1909配布が始まりました。年2回のWindows 10大型更新トラブル話は多数あります。MCU開発環境は、年2回どころか度々更新されます。開発者は、その度にトラブル対処をしているのです👍。ちなみに本稿は、全てWindows 10 1903での結果です。

汎用STM32FxテンプレートのSTM32G0x使用法

LL APIを利用するSTM32G0x「専用テンプレート」開発は、3月からの投稿で一応目安が付きました。
※投稿下欄タグ:専用テンプレートをクリックすると本稿を含め関連投稿が読めます。

これらの投稿で販売中の汎用STM32Fxテンプレートは、HAL APIを使っているので別STM32MCU、例えばG0シリーズMCUのSTM32G071RBなどへの使用・移植も簡単であることを何度か書いてきました。

そこで、この「汎用テンプレート」のSTM32G071RBへの使用法を説明します。

STM32Fxテンプレートは、図1に示すようにF0シリーズMCUのSTM32F072RBと、F1シリーズMCUのSTM32F103RB両方で動作確認済みです。本稿は、このSTM32FxテンプレートをSTM32G0へポーティングします。

汎用STM32Fxテンプレートのソフトウェアアークテクチャ
汎用STM32Fxテンプレートのソフトウェアアークテクチャ

汎用STM32FxテンプレートのSTM32G0x使用法まとめ

  • HAL APIはSTM32MCUで共通なので、HAL API利用アプリケーション(この場合はテンプレート、STM32Fx Template)は、STM32デバイスが変わってもそのまま使える
  • HAL APIより下層のソフトウェアは、STM32CubeMXを使って自動生成
  • STM開発環境にMCU移植機能が無い現状では、移植デバイス先のSTM32CubeMX設定さえ間違わなければ、HAL APIより上層アプリケーションの使用・移植は、簡単

汎用STM32Fxテンプレートを購入検討中の方、または既にSTM32Fxテンプレートをお持ちの方は、HAL API利用STM32Fxテンプレートの別デバイス移植性が優れていることが本稿でご理解頂けると思います。

汎用STM32F0シンプルテンプレートのSTM32G071RB移植手順

手順1.SW4STM32で、F0SimpleTemplateプロジェクト名をG0SimpleTemplateへリネームコピー

手順2.STM32CubeMXで、評価ボードNucleo-G071RBプロジェクトを新規作成し、F0SimpleTemplate.icoと同じ変更を加え、手順1でリネームしたG0SimpleTemplate.icoへ上書き保存後、コード生成

手順3.SW4STM32で、G0SimpleTemplateのmain.cとUserDefine.hなど数か所を変更&コンパイル

手順4.STM32G071RB評価ボードNucleo-G071RBで、移植シンプルテンプレート動作確認

文章で書くと手順1~4のように量が多くなります。しかし、HAL APIはSTM32MCUで共通、デバイスが変わってもHAL API利用アプリケーションをそのまま使うために、下層の構築にSTM32CubeMXを使うだけです。HAL APIアプリケーション移植は簡単です。

手順詳細を説明します。

手順1:SW4STM32で、F0SimpleTemplateプロジェクトをG0SimpleTemplateへリネームコピー

F0SimpleTemplateをコピー、同じワークスペースへペーストする時にG0SimpleTemplateへリネームします。

F0SimpleTemplateをG0SimpleTempleteへリネームコピー
F0SimpleTemplateをG0SimpleTempleteへリネームコピー

G0SimpleTemplateフォルダ内のF0SimpleTemplate.iocをG0SimpleTemplate.iocへF2:リネームします。
※手順1の目的は、F0SimpleTemplateソースコードのユーザ追記部分を、丸ごとG0SimpleTemplateで流用するためです。

手順2:STM32CubeMXで、Nucleo-G071RB新規作成とコード生成

現状のSTM32CubeMXには、MCUデバイス間の移植機能がありません。そこで、F0SimpleTemplate.iocファイルを見ながら、新規作成Nucleo-G071RBの周辺回路を手動で同じ設定にします。

先ずG0SimpleTemplete.iocファイルを新規作成し、手順1でリネームしたG0SimpleTemplete.iocへ上書き保存します。その後、STM32CubeMXの2重起動を活かしF0SimpleTemplate.iocを見ながらG0SimpleTemplete.ioc周辺回路を同じ設定にします。最後に、全ての周辺回路をHAL APIでコード生成します。

STM32CubeMXのNucleo-G071RB設定
STM32CubeMXのNucleo-G071RB設定

※Connectivityは、F0SimpleTemplateに合わせてUSART2、Clock Configurationは、HCLK Max.の64MHz、Timerは、F0SimpleTemplateのTIM3機能に近いTIM7を使いました。

手順3:SW4STM32で、main.cとuserdefine.hの数か所を修正&コンパイル

どのようなアプリケーションソフトでも、デバイス依存の箇所があります。F0SimpleTemplateも同様です。これらは手動で変更・修正するとビルドが成功します。変更・修正箇所が下記です。

  • HALライブラリとBSP(Board Support Package)変更
    stm32f0xx_hal.h→stm32g0xx_hal_conf.h、stm32f0xx_nucleo.h→stm32g0xx_nucleo.h(UserDefine.h)
  • BSPはRepository\STM32Cube_FW_G0_V1.2.0\Drivers\BSP\STM32G0xx_Nucleoのstm32g0xx_nucleo.c/hをSrc/Incへコピー
  • TIM3の代わりにTIM7を使ったので、htim3→htim7(main.c)
  • G0SimpleTemplateに無関係ファイル削除(stm32f0xx_nucleo.c/h, system_stm32f0xx.c)

手順4:評価ボードNucleo-G071RBで動作確認

F0SimpleTemplateをG0SimpleTempletaへ流用したVitrual COMポート画面
F0SimpleTemplateをG0SimpleTempletaへ流用したVitrual COMポート画面

※表示メッセージは、STM32G0xデバイス対応に変更しています。

あとがき

繰返しますが、文章で書くと移植手順は長く複雑に感じます(特に手順3)。しかし、ソフトウェアアーキテクチャ図1が理解済みならHAL API利用アプリケーションの別デバイスへの移植は簡単です。手順3内容は、デバイスが変われば当然必要となる事柄です。

HAL API利用アプリケーションの最大メリットは、MCU移植が容易なことです。つまり、HAL APIアプリケーションは、「STM32MCUデバイス非依存」とも言えます。

現状では、このメリットを活かす開発環境が不備なだけです。不備分は手動で補い、STM32F0/F1アプリケーションをSTM32G0アプリケーションへ移植する方法を示しました。

近い将来、STM開発環境にMCUデバイス移植機能が提供されると筆者は思います。

お知らせ:LL APIを利用するLL APIのSTM32G0x「専用」テンプレートの販売時には、本稿のHAL API利用「汎用」G0SimpleTemplateも添付し、専用と汎用の両方を1パッケージで販売する予定です。

※LL APIとHAL APIの差を把握したい方は、STM32CubeMXのLow-Layer API利用法(2)を参照ください。

STM32G0xのADC利用法

STM32G0xのラインナップは、Value/Access/Access&Encryptionの3製品です。製品により内蔵周辺回路が異なりますが全製品共通回路が、2.5MSPS 12bit ADCです。本稿は、このSTM32G0xのADC利用法を解説します。

STM32G0xのADC資料一覧

時短に役立つ資料を表1にリストアップしました。

表1 STM32G0xのADC資料一覧(2019年4月現在)
資料名 概要
STM32G0 – ADC STM32G0のADCトレーニング資料。全20ページの内容は判り易く良書。
AN5110 STM32CubeMXを使い生成可能なSTM32G0x公式サンプルプロジェクト一覧表。
HAL API 4個、LL API 8個、HALとLL混在1個のADC公式STM32CubeMXプロジェクト掲載アプリケーションノート。
AN2834 全STM32MCUのADCを精度よく使う方法アプリケーションノート。全49ページ。

3資料と数は少ないですが、ADC内容は盛り沢山です。

STM32G0xのADC公式サンプルプロジェクトAN5110とオンライントレーニング資料を中心に、AN2834も参照するアプローチで解説します。

STM32G0とSTM32F0のADC差

STM32G0は最新IoT Edge MCU、STM32F0は普通の汎用MCUで、どちらもMainstream(≒汎用)MCUですが内蔵12bit ADCは異なります。トレーニング資料P18に特徴の比較があります。

STM32G0とSTM32F0のADC差
STM32G0とSTM32F0のADC差分(※説明のため着色しています。出典:ADCオンライントレーニング資料)

先ず、Conversion:ADC変換時間が0.4usと高速になった点。STM32G0xはMax. 64MHz動作(F0は48MHz)ですが2倍以上高速です。次に、Analog watchdog対応数が増え、バッテリー動作に備え低圧側に動作電圧が広がっています。ハードウェアオーバーサンプリングと高度なシーケンサーが新しい機能です。

勿論、普通のSTM32F0と同じADC制御もできますが、これら新機能を使いこなし、コアMCU負担を減らすように制御すると上手い使い方と言えるでしょう。

トレーニング資料は英文ですが、ポイントを抑えた非常に良くできた資料です。筆者の下手な解説より資料を読んで頂くと、STM32G0xのADCの使い方が判ると思います。

実践的ADCの使い方習得

トレーニング資料が一番効果的ですが、本稿では、開発中のSTM32G0x専用テンプレート動作確認評価ボードNucleo-G071RBで動作するAN5110のExamples_LL掲載サンプルプロジェクト(MXアイコン付きの下記8個)を使って、実践的にLL APIによるADCの使い方を習得します。

なぜLL APIを使うのかは、STM32G0x専用テンプレート開発全体像俯瞰、また、全般的なLL API利用法はSTM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (1)~(3)を参照してください。

LL APIを使ったADCプロジェクト一覧(出典:AN5110)
LL APIを使ったADCプロジェクト一覧(出典:AN5110)

Descriptionを読むと、大別して4種類のサンプルプロジェクトがあることが解ります。AN5110は、Examples_LLフォルダを名前順に表示したもので、MXアイコン付き8個を制御別に解り易く並び変えたものが表2です。

表2 MXアイコン付き8プロジェクトを制御別に並び換える
制御 基本プロジェクト名(_Init省略) 応用プロジェクト名(_Init省略)
1 ADC SingleConversion TriggerSW

ADC SingleConversion TriggerSW DMA

ADC SingleConversion TriggerSW IT

ADC SingleConversion TriggerTimer DMA

2 ADC ContinuousConversion TriggerSW ADC ContinuousConversion TriggerSW LowPower
3 ADC Oversampling なし
4 ADC  AnalogWatchdog なし

4種類を整理すると、最も基本のADCプロジェクトが1です。

1のSingleConversion_TriggerSoftwareは、ソフトウェアトリガでADCを開始し、ポーリングでデータ取得、データ転送にDMA転送、割込みなどの応用例があります。タイマをトリガにDMA転送の発展例もあります。ADC処理回数は1回です。

2のContinuousConversionは、1のADC処理回数の連続形で、LowPowerでの応用例があります。
※1と2のConversion Mode説明が、トレーニング資料P11にあります。

3のOversamplingは、新機能のサンプルプロジェクトです。
※Hardware Oversampling説明が、トレーニング資料P12にあります。

4のAnalogWatchdogも、新機能の3個AnalogWatchdogを使ったサンプルプロジェクトです。
※AnalogWatchdog説明が、トレーニング資料P13にあります。

いかがですか? ADCサンプルプロジェクトだけでもおなか一杯で、しかも、これでもADCの豊富な機能の一部抜粋です。さらに、省電力動作や、実際に接続するアナログセンサ出力への対応、加えてAN2834記載の変換精度向上なども考慮すると、ADCだけでも上手く使うのはかなりのスキルや経験が必要なのが分ります。

こういう時は、最も基本のADC_SingleConversion_TriggerSWを先ず理解し、プライオリティに応じて順次ステップアップするのが常套手段です。プライオリティ無しの手当たり次第の理解は、消化不良を起こします😂。
※なおSTM32G0x専用テンプレートは、このADC_SingleConversion_TriggerSWを実装予定です。

ADC_SingleConversion_TriggerSW_InitのSW4STM32インポート

※統合開発環境SW4STM32とコード生成ツールSTM32CubeMXは、Windowsパソコンへインストール済みとします。インストール方法は、関連投稿を参照してください。

先ず、ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initを使って、STM32G0xのADC使い方を説明します。

サンプルプロジェクト:ADC_SingleConversion_TriggerSW_InitをIDE:SW4STM32へインポートする方法は色々あります。簡単な方法が下記です。

1.STM32CubeMXをインストールしたPCの          、
STM32Cube\Repository\STM32Cube_FW_G0_V1.1.0\Projects\NUCLEO-G071RB\Examples_LL\ADC\ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initフォルダを開き、ADC_SingleConversion_TriggerSW_Init.iocをクリックすると、STM32CubeMXが起動します。

2.起動したSTM32CubeMXのProject Manager>Projectで、Toolchain/IDEをSW4STM32へ変えます。Advanced SettingsタブでADCや周辺回路のLL利用を確認しておきます。

3.GENERATE CODEをクリックし、表示されるダイアログでOpen Projectをクリックすると、SW4STM32が起動します。ワークスペースを入力後、下記Successfully imported the project…が表示されればインポート完了です。

SW2STM32インポート成功時ダイアログ
SW2STM32インポート成功時ダイアログ

4.SW4STM32でreadme.txtを開くとインポートしたプロジェクト内容が解ります。評価ボード:Nucleo-G071RBのPA.04、またはArduinoコネクタCN8 A2接続の、0から3.3Vまでのアナログ入力電圧を、ソフトウェアトリガでADCスタートし、ADC完了ポーリングでデータ変換完了を確認するのがこのプロジェクトです。
評価ボード単独でもアナログ入力電圧は不定ですが、動作可能です。

サンプルプロジェクトmain.cソースコードの読み方

初めてmain.cを見た方は、ソースコード行数が多いのでビックリするかもしれません。しかし、以下のSTM32CubeMX(以下MX)生成ソースコードの構造を押さえて読めば簡単です。

  • 自動生成ソースコードは、ユーザコード/コメントを追記する部分と、MX生成部分の2つからなる
  • ユーザコード/コメント部分は、再度MXで新たにコード生成しても、上書きされそのまま残る
  • コーザコード/コメント部分は、/* USER CODE BEGIN… */ ~ /* USER CODE END… */で囲まれている

従って、サンプルプロジェクトのユーザコード/コメント部分は、「ユーザの代わりにSTMが作成したコードと明示的に説明を加えた箇所」です。注意して読みましょう。それ以外のMX生成部分は、コメントを眺める程度で十分です。

サンプルプロジェクトmain.c解説

ソースコードが読めると、サンプルプロジェクト内の重要関数も解ります。

ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initの場合は、L121のConversionStartPoll_ADC_GrpRegular(void)とL120のActivate_ADC(void)が重要関数です。

これら以外のLED点滅関数(L122~124)とMX生成関数(L116~118)は、他のプロジェクトでも使える、いわばLL API開発時の汎用関数です。

ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initのmain.c
ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initのmain.c解説。重要関数と汎用関数に分けて読む。

L121へカーソルを移動し、F3を押すとConversionStartPoll_ADC_GrpRegular(void)の定義場所へ簡単に移動できます。

ConversionStartPoll_ADC_GrpRegular()
重要関数 ConversionStartPoll_ADC_GrpRegular()本体

ConversionStartPoll_ADC_GrpRegular(void)は、本来ユーザが作成する関数を、STMが代わりに作成した信頼性が高い関数です。ユーザが利用しない手はありません。ライセンス上も問題なく使えます。

しかも、STMが明示的に付けたコメントがありますので、自分の開発ソースコードへ利用・活用できるようにコメントを読んで内容を理解しておきましょう。内容理解には、readme.txtやトレーニング資料も役立ちます。

同様に、もう1つの重要関数:Activate_ADC(void)も利用・活用できるように理解しましょう。

以上のように重要関数を理解すると、サンプルプロジェクト:ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initが示した処理内容とその中から利用できる関数を、自分が開発するプロジェクトの代替関数(≒一種の部品)として使えるようになります。

公式サンプルプロジェクトは、この「高信頼部品の宝庫」です。部品を利用すれば、開発速度が上がります。
また、公式サンプルプロジェクトは、「周辺回路利用時の作法」も明示STMコメントが示しています。

ユーザは、どこに、何を、追記すべきか

前章は、ADC_SingleConversion_TriggerSW_Initを使って、サンプルプロジェクトソースコード:main.cの理解方法を示しました。

一般的な周辺回路のユーザ追記箇所は、前章のように主としてmain.cの無限ループです。周辺回路の初期設定(前章で言えばMX_ADC1_Init(void)やMX_GPIO_Init(void))は、STM32CubeMXが担うからです。

サンプルプロジェクトには、周辺回路に割込みやDMAを利用した例もあります。

この場合は、STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (3)で示した割込みNVIC利用時のユーザ追記箇所と、本稿で示した周辺回路ユーザ追記箇所の2つに分けてソースコードを理解します。

STM32CubeMXが自動生成したソースコードの、「どこに、何を、ユーザが追記すべきか」は、本章で示した方法でサンプルプロジェクトを理解すれば、自然に解るようになります。
逆に、「どこに、何を、追記すべきか」かが解らないなら、まだサンプルプロジェクト理解が足りないと言えます。

公式サンプルプロジェクトのソースコードを作成するのは、STM32CubeMXと「ユーザ代替のSTMプロフェッショナル」です。両者の役割、作成部分やソースコード構造を理解するのがユーザ開発の第一歩です。

ここでは、表2の中で最も基本のADC_SingleConversion_TriggerSWサンプルプロジェクトを使って、STM32G0xのADC利用法を解説しました。

ADCサンプルプロジェクトは他にも多数あります。自分の開発プライオリティに応じて、他プロジェクトも同様に理解し、ステップアップすれば良いでしょう。

STM32G0x専用テンプレートの目的

MCUソフトウェア開発は、0から着手するのではなく、コード生成ツール:STM32CubeMX活用や前章で示した公式サンプルプロジェクトの部品利用・活用で、効率的に早く開発する、いわゆるプロトタイプ開発が主流です。また、プロトタイプ開発をしないと、競合他社とのビジネスには不利です。

プロトタイプ開発は、開発スピードが要求されます。何がしかの動作確認済みテンプレート(ひな形)と評価ボード、詳しい説明資料があれば、開発着手時のつまずきや手間が省け、より検討すべき項目に時間が割けます。
このテンプレートが、弊社汎用マイコンテンプレートです。

本稿のSTM32G0x専用テンプレートは、新しいEdge MCU「STM32G0xシリーズ専用」テンプレートで、STM32MCUで汎用性がある上記テンプレートとは異なりますが、目的や役割は汎用と同じです。

関連投稿:STM32G0x専用Edge MCUテンプレート開発

STM32G0x専用テンプレートには、本稿で示したADC重要関数や、USB経由のADC変換データパソコン出力、パソコンからの評価ボードLED点滅制御など、STM32G0x開発着手時に最低限必要な機能や部品をあらかじめテンプレートに実装済みです。

STM32G0x専用テンプレートをサンプルプロジェクトとの差分で説明すると、複数サンプルプロジェクトが実装済みで、プロトタイプ開発着手のレベルにより近いプロジェクト、これがテンプレートとも言えます。また、各種サンプルプロジェクト追加や削除が簡単なのも特徴です。

テンプレートのソースコードには、日本語コメントを豊富に付加し、初心・中級開発者が理解できるよう詳細な解説資料付きで提供します。

STM32G0x専用テンプレートを利用すると、STM32G0xプロトタイプ開発を即座に始められます。

STM32G0x専用テンプレートは、近日中に発売予定です。

訂正のお知らせ:STM32CubeMX 5.1.0でSTM32G0 1.1.0公式サンプルプロジェクト生成可能

前投稿で2019年3月末時点ではSTM32G0 V1.1.0の公式サンプルプロジェクト内の付属STM32CubeMX全プロジェクトファイルが未完成と書きましたが、一部改善されました。
つまり、公式サンプルプロジェクトExamples_LLがSTM32CubeMXで生成可能になりました。

お詫びして😔、訂正いたします。

STM32CubeMXは、起動毎に更新チェックやインストール済みのMCUパッケージを自動更新します。STM32G0 1.1.0のままプロジェクトファイルからの生成が可能に変わりましたので、STM32CubeMX本体が更新されたと思うのですが、版数はVersion 5.1.0のままで変わりません(何回か起動を繰返すと正常化するのかもしれません😅、同じ症状の方はお試しを…)。

なんにせよ、STM32G0x専用テンプレートで使うSTM32CubeMXのLL(Low-Layer) API開発には朗報に変わりありません。めでたしめでたしです。

朗報:STM32G0公式サンプルプロジェクトがSTM32CubeMXで生成可能

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)の新MCU:STM32G0xシリーズだからこそできた快挙です。AN5110 – Rev 3 – February 2019で、STM32G0公式サンプルプロジェクトが、付属STM32CubeMXプロジェクトファイル(拡張子.ioc)で生成できるようになりました(Table 1のMXアイコン部分)。

AN5110のTable 1
AN5110掲載のTable 1(一部抜粋)

従来サンプルプロジェクトとSTM32G0サンプルプロジェクト比較

例えば、従来のSTM32F0公式サンプルプロジェクトは、エキスパート自作のもの(多分、むかしの標準ペリフェラルライブラリ利用)でした。STM32ソフトウェア開発は、今はSTM32CubeMXコード生成出力へユーザコードを追加する方式です。

従って、従来サンプルソースコードを利用するには、エキスパート作成の必要部分を解読後カットし、STM32CubeMXで生成した自分のソースコードへペーストして流用してきました。

AN5110は、この公式サンプルプロジェクトが、付属STM32CubeMXで直接生成できることを示しています。サンプルプロジェクト流用・活用が、これまで以上に簡単・便利になります。従来のソースコードカット&ペーストから、付属STM32CubeMX変更と生成コードへユーザコードを追加すれば済むからです。

STM32ソフトウェア開発の最重要ツール:STM32CubeMX活用に即した方法がAN5110と言えます。

2019年3月末時点では付属STM32CubeMXプロジェクトファイル未完成

重要なのは、ここからです。

3月末時点では、公式サンプルプロジェクト内のSTM32CubeMXプロジェクトファイルが未完成です。例えば、Table 1一番上のNucleo-G071RBのADC_AnalogWatchdogプロジェクト付属STM32CubeMXプロジェクトファイルを開いた様子が下図です。

ADC_AnalogWatchdogの.ico
図1 ADC_AnalogWatchdogサンプルプロジェクト付属STM32CubeMXプロジェクトファイルの.iocを開いた様子

このままコード生成してもADC_AnalogWatchdogサンプルプロジェクトはできません😴。

ADC_AnalogWatchdogプロジェクトだけではなく、全ての公式サンプルプロジェクトで同様です。

つまり、現時点では、残念ながら公式サンプルプロジェクト内の付属STM32CubeMXプロジェクトファイルは未完成です。公式サンプルプロジェクトの素:STM32G0 1.1.0改版を待たねば、AN5110は実現しません。
前投稿で書いたようにSTM32G0 1.1.0(2019/02/26)は、STMに買収されたAtollic TrueSTUDIOへも未対応でした(図1にTrueSTUDIOフォルダが無いことからも判る)。

新しいMCU発売にはありがちですが、開発に一番重要なツール完成には、開発元ベンダーであっても年単位の時間が必要です(AN5110 Revision historyより)。

STM32CubeMXを使って公式サンプルプロジェクトを生成するAN5110の方向性は、正しいと思います。
新MCU:STM32G0シリーズSTM32G0だけでなく、他の既存MCU:STM32F0/F1シリーズSTM32F0/F1などもこの方向の対応を期待します。

まとめ

以上のように、STM32G0x専用テンプレート開発環境は整いつつありますが、少し待ってから、具体的には、STM32CubeMXへインストールするSTM32G0xシリーズMCUパッケージ、STM32G0 V1.1.0改版を待ってから先へ進めた方が良さそうです。

この改版までの待ち時間は、STM32G0x専用テンプレート開発で使うLL(Low-Layer)APIの習得に充てます。

TrueSTUDIOとSTM32CubeMXインストール方法、STM32G0xとSTM32F0xの差異

STM32G0x専用テンプレートのIDE:TrueSTUDIOを使った開発環境構築手順も、汎用STM32Fxテンプレートのそれと同じです。

本稿はSTM32G0x専用テンプレート開発用IDE TrueSTUDIOとスタンドアロン版STM32CubeMXのインストール方法を示し、インストールしたSTM32CubeMXを使って同じ汎用MCUでもSTM32G0xとSTM32F0xのどこが違うかを具体的にまとめます。

STM32G0x専用テンプレートIDE:TrueSTUDIOを使った開発環境構築手順

2017年5月投稿のSW4STM32のIDE構築手順が左側、これがTrueSTUDIOに変わると右側になります。

表1 TrueSTUDIOとSTM32CubeMXインストール手順とSW4STM32構築時の比較
手順 SW4STM32で構築(2017年5月) TrueSTUDIOで構築(本稿)
1 SW4STM32インストールとUpdate TrueSTUDIOインストールとUpdate
2 STM32CubeMXプラグインとUpdate STM32CubeMXスタンドアロン版とUpdate
3 評価ボードMCUコアのライブラリダウンロード STM32G0パッケージのダウンロード
4 ライブラリのファイル構成確認 同左(しかし、当面見合わせ)
5 評価ボードデモソフト説明と構築環境の動作検証 同左(しかし、当面見合わせ)

差分はIDEと、STM32CubeMXスタンドアロン版をインストールする点、評価ボードがNucleo-F072RBからNucleo-G071RBに変わったので、STM32CubeMXへダウンロードするMCUパッケージにSTM32G0を加える点です。

前半で手順1~5の簡単な説明、後半は、インストールしたSTM32CubeMXを使って同じ汎用MCUグループのSTM32G0xとSTM32F0xが、電源ピン数やデフォルト使用周辺回路が異なることを示します。

手順1 TrueSTUDIOインストールとUpdate

Atollic TrueSTUDIO for STM32 9.3.0(2019/2/22リリース)は、atollicサイトからダウンロードボタンのクリックで入手できます。以後、Windows版で説明します。

ダウンロード後、インストーラを実行すると言語選択ダイアログが現れます。日本語を選択するとインストール後のTrueSTUDIOメニューも自動的に日本語化されます。
インストール後、ヘルプ(H)>更新の検査、をクリックしTrueSTUDIO を最新状態にします。

※TrueSTUDIOインストール検討中の方は、手順4を読んだ後に再検討してください。

手順2 STM32CubeMXスタンドアロン版とUpdate

コード生成ツールSTM32CubeMX V5.1.0は、SW4STM32と今回インストールするTrueSTUDIOの両方で使います。そこで、各IDEのプラグインではなく、スタンドアロン版としてインストールします。インストール方法は、UM1718 Rev28の3.2を参照してください。
インストール後、Help>Check for Updates、をクリックしSTM32CubeMXを最新状態にします。

※UM1718は、チュートリアルも豊富でSTM32CubeMXの重要マニュアルです。全356ページと分量は多いのですが、読む章を選択するなどして目を通すことをお勧めします。

スタンドアロン版はSTM32CubeMX更新が簡単で、1つのSTM32CubeMXで両方のIDEに生成ファイルを出力する時に便利です。

手順3 評価ボードMCUコアのライブラリダウンロード

評価ボードNucleo-G071RBのMCUコアは、Cortex-M0+です。STM32Fxと同じMainstream(≒汎用)MCUですが、新世代の汎用MCUです。
関連投稿:STM32G0x専用Edge MCUテンプレート開発

STM32CubeMXのHelp>Manage embedded software packagesでSTM32G0を選択し、最新版Package1.1.0をインストールします。

STM32G0インストール
STM32G0 MCU Packegae 1.1.0のインストール

手順4 ライブラリのファイル構成確認

STM32CubeMXは優れものソフトウェアで、IDEプラグインからスタンドアロン版へ途中変更してもデフォルトRepositoryディレクトリ(C:\Users\ユーザ名\STM32Cube\Repository)を変えなければ、プラグイン版Packagesの各MCUパッケージがスタンドアロン版へそのまま引き継がれます。

ただし今回のSTM32G0は、ライブラリファイル構成がSTM32F0/F1をインストールした時と一部異なります。

Repository/STM32Cube_FW_G0_V1.1.0\Projects\NUCLEO-G071RB\Templatesフォルダ内にTrueSTUDIOフォルダが無いのです(EWARM/MDK-ARM/SW4STM32は以前と同様有るが、UM1718にもTrueSTUDIO説明無し)。

残念ながら、手順3でインストールしたSTM32G0は、TrueSTUDIOへ生成コードを現状は出力できないようです😴。

SW4STM32の必然性
TrueSTUDIOではなくSW4STM32の必然性を示す結果となった

という訳で、手順4と5以降は、STM32G0がTrueSTUDIOへ対応した後に検証を行います。Communityによると次版のSTM32G0で対応予定だそうです。

STM32G0x専用テンプレート開発IDEに、SW4STM32からSTM買収後のAtollic TrueSTUDIOへの変更必要性を示すつもりが、今現在は、SW4STM32の使用を続ける必然性を示す結果となりました😴。

STM32CubeMXを使ったSTM32G0xとSTM32F0xの差異まとめ

TrueSTUDIOへ生成コードを出力しなければSTM32CubeMXに問題はないので、(個人的にはマルチOS対応SW4STM32が好きですし……気を取り直して…)、STM32CubeMXを使いSTM32G0xとSTM32F0xの違いをまとめます。

STM32G0xもSTM32F0xも共にMainstream、つまり、汎用MCUに属します。しかし、STM32CubeMXを使うと、評価ボード実装の同じ64ピンパッケージでも、電源ピン数やデフォルト利用の周辺回路が異なることが良く判ります。

Nucleo-G071RBとNucleo-F072RB差異
Nucleo-G071RB(左)とNucleo-F072RB(右)の利用ピン差異

Tips:STM32G0 1.1.0では、評価ボードNucleo-G071RB使用中のLD4(PA5)とB1(PC13)がPinout & Configurationに表示されません。その理由は不明ですが、手動で追加設定する必要があり上左図は設定済みのものを示しています。ちなみに、上右図Nucleo-F072RBは、LD2とB1がデフォルトで表示されます。

電源ピン(VDD/VSS)数

STM32G0xは、黄色で示された電源ピン(VDD/VSS)が1組、一方STM32F0xは4組あります。STM32G0xのCortex-M0+コアと70nmプロセスの結果、電力供給1組でも十分動作します。

不要になった電源ピンは、GPIOに変更し同じ64ピンパッケージでもSTM32F0xよりも多くの外部制御が可能です。

パッケージのピン配置

STM32G0xシリーズのパッケージピン配置が下図です。将来リリース予定の4パッケージピン配置は一貫しています。これにより、基板アートワークや周辺部品の配置も一貫した設計計画が立てられます。

電源ピンはどのパッケージでも1組で、左辺中央です。

STM32G0xシリーズパッケージピン配置(出典:STM32G0 and CubeMX Webinar)
STM32G0xシリーズのパッケージピン配置(出典:STM32G0 and CubeMX Webinar)

デフォルト利用周辺回路

STM32G0xのConnectivity(通信処理)は、デフォルトでLPUART1(Low Power UART、Stopモードからの再起動可)ですが、STM32F0xはUSARTです。STM32G0xもUSARTを実装していますが、低電力動作に適したLPUARTを推薦しているためと思います。

LPUARTとUSARTの差異(出典:STM32G0オンライントレーニング)
LPUARTとUSARTの差異(出典:STM32G0オンライントレーニング)

その他の差異

これら以外にも、STM32G0xは、USB Type-C™ Power Delivery controllerや2.5MspsのADC、メモリープロテクションなどIoT Edge MCU向きの周辺回路を実装済みです。

また、Nucleo-G071RB評価ボードのUSBはMicro-Bコネクタ、Nucleo-F072RBはMini-Bコネクタです。

USB Micro-BとMini-Bコネクタ(出典:ウィキペディア)
USB Micro-BとMini-Bコネクタ(出典:ウィキペディア)

まとめ

STM32G0x専用テンプレート開発に使うTrueSTUDIOとSTM32CubeMXインストール方法を示し、そのSTM32CubeMXを使ってSTM32G0xとSTM32F0xの差異を示しました。

STM32CubeMXは2重起動可能です。STM32G0xとSTM32F0xそれぞれのSTM32CubeMXプロジェクトファイルを同時に開いて比べると、各デバイスのデータシートで比べるより差異が早く良く判ります。

STM32G0x専用テンプレート開発IDEには、当面、筆者が好きなSW4STM32が適していることも判りました。