STM32G0/G4のRoot of Trust(3)

STM32G0/G4シリーズRoot of Trust実現(3)は、第2回で示したSTM32G4評価ボード:NUCLEO-G474RE 利用STM32G4テンプレート開発環境と、デュアルファームウェアイメージのサンプルアプリケーションを使って、セキュア・ブート(SB)、セキュア・ファームウェア更新(SFU)のための準備、その具体的動作の説明をします。

初めに本稿(3)のまとめを示し、最後の章でRoot of Trust実現(1)~(3)全体のまとめを示します。

STM32G0/G4のRoot of Trust(3)まとめ

  • セキュア・ブート(SB)、セキュア・ファームウェア更新(SFU)に、評価ボード毎にSTM32CubeProgrammerを使ったオプションバイト設定必要。
  • Root of Trust(SBSFU)実装MCUは、VCP経由アクセスのみ可能。
  • SBSFUローカルVCPダウンロードのために、Tera TermとYMODEM送信機能利用。
  • STM32G4評価ボード:NUCLEO-G474REで、SBSFU実装デュアルファームウェアイメージアプリケーション動作説明。
  • STM32G0評価ボード:NUCLEO-G071RBでも、STM32G4評価ボードと同じRoot of Trust(SBSFU)実装動作を確認。

STM32G4評価ボード準備

SB、SFUサンプルアプリケーションの動作確認のために評価ボード:NUCLEO-G474REの事前準備が必要です。これには、STM32CubeProgrammerを使います。STM32G4の場合は、UM2262 図18ですが、オプションバイト等の設定は不要(デバイスデフォルトOK)です。

8.1.3のFlash全消去(Full chip erase)処理をします。また、評価ボードのST-LinkファームウェアをV2J29以上に更新します。更新は、評価ボードとUSB接続後、STM32CubeProgrammerのFirmware Updateクリックで最新版ST-Linkファームウェアへ更新されます。

STM32CubeProgrammerのST-Linkファームウェア更新
STM32CubeProgrammerのST-Linkファームウェア更新

Root of Trust(SBSFU)準備

図17. ステップバイステップ実行から判るように、最初のStep1:SBSFUダウンロード以外は、全て評価ボードのVirtual COMポート(VCP)経由でアプリケーションをダウンロードします。STM32CubeIDEがプログラミングやデバッグで使うST-Link接続(SWD接続)は、外部からのMCU攻撃とSBSFUが解釈するからです。

セキュア・ブート(SB)が攻撃と判断した時は、当然、アプリケーションを起動しないためMCUは動作停止します(SB処理は、第2回2章を参照してください)。

図17. ステップバイステップ実行(出典:UM2262)
図17. ステップバイステップ実行(出典:UM2262)

つまり、ファームウェアイメージのアプリケーションがディアル/シングルに関係なくRoot of Trust(SBSFU)実装MCUは、VCP経由アクセスのみ可能となります。また、VCP経由でのアプリケーションデバッグは非効率なため、十分なデバッグ済みアプリケーションをダウンロードする必要もあります。

このVCP経由ダウンロードのために、Tera TermとそのYMODEM送信機能の準備が必要です。

SBSFUサンプルアプリケーション

図17. Step-by-stepを使ってデュアルファームウェアイメージのSBSFUサンプルアプリケーション動作を説明します。

Step1:Flash全消去後のNUCLEO-G474REに、STM32CubeIDEを使って第2回3章で示した順番でコンパイル済みのSBSFUプロジェクト出力(SBSFU.elf)を、STM32CubeIDEを使わずにSTM32CubeProgrammerでダウンロードします。

STM32CubeIDEでは、ダウンロード後自動的にデバッガ接続に変わるため、この時点でSBSFUが攻撃を受けたと判断し使用できません。

STM32CubeProgrammerを使うとNUCLEO-G474REのFlashに、セキュアエンジンとSBSFUが書込まれます。これ以降は、Tera TermのVCP経由MCUアクセスのみが可能です。
※従って、STM32CubeIDEを使ったST-Link経由MCUデバッグ開発へ戻る時は、STM32CubeProgrammerでSBSFUが入ったFlashを全消去する必要がありますので注意してください。

次に、パソコンとNUCLEO-G474RE接続中のUSBケーブルを、2回挿抜します。これで、ST-Linkに代わりSBSFUとTera TermのVCP通信が開始します。

Step2:NUCLEO-G474RE とTera Termは、8-Non-1 115200bpsでシリアル接続します。接続後、NUCLEO-G474REリセットボタン(黒ボタン)を押すと、SBSFUが図24(白黒反転済み)のWelcome画面をTera Termへ出力します。

図24. SBSFUがTera Termへ出力するWelcome画面
図24. SBSFUがTera Termへ出力するWelcome画面

Welcome画面を確認後、Tera Termのファイル(F)>転送(T)>YMODEM>送信(S)をクリックし、UserApp.sfb(暗号化ファームウェア)を選択します。
※UserApp.sfbは、NUCLEO-G474RE_2_Image _UserApp¥Binaryフォルダ内(UserApp オブジェクト出力先フォルダ)にあります。

プログレスバーは、1秒ほど動きません。この間は、SBSFUがダウンロードファームウエアヘッダの有効性を検証し、格納するFlashスロット#0/#1領域を消去しているからです。

送信完了でNUCLEO-G474REのFlashが、Step2の状態になります。

Step3:NUCLEO-G474REが自動的に再起動し、SBSFUにより復号化されたUserAppが動作します。この時のTera Term出力が図27(白黒反転済み)です。NUCLEO-G474REのLD2は、ゆっくり点滅します。

図27. 暗号化ファームウェア転送後のSBSFU再起動
図27. 暗号化ファームウェア転送後のSBSFU再起動

画面のUser App #Aは、2_Images_UserApp>main.cのL51:UserAppId = ‘A’の出力です。Main Menu:1/2/3は、インストールしたアプリケーションに記述されたSBSFUテスト機能です。

CN7真ん中よりやや下あたりを指で触るとTamper機能が動作し、ボードリセットが掛かります。

実際では、この段階で我々ユーザが開発したアプリケーションが動作中となります。

Step4:ユーザ開発アプリケーションに何らかのバグがあり、これをデバッグ済みの新しいアプリケーションへ更新(SFU)するのがこの段階です。

STM32CubeIDE でL51:UserAppId=‘B’へ変更し、コンパイルします。ここでは、これをデバッグ済みの新しいアプリケーションとします。

再び、Tera Termのファイル(F)>転送(T)>YMODEM>送信(S)をクリックし、UserApp.sfb(UserAppId=‘B’に変更し、コンパイルした暗号化ファームウェア)を選択し、ダウンロードします。ダウンロード完了でNUCLEO-G474REは再起動します。

Step5:再起動後の動作中アプリケーションは、図27の下線部が変更したUser App #Bに変わっていることで確認できます。

これで、新しいアプリケーションへの更新が完了しました。

*  *  *

図17を使ってRoot of Trust実現STM32G4シリーズMCUのセキュア・ブート(SB)、セキュア・ファームウェア更新(SFU)ローカル動作例を説明しました。

実際は、この動作が図2. ②通信チャネル経由で行われます。

図2.セキュアファームウェア更新プロセス(出典:UM2262)
図2.セキュアファームウェア更新プロセス(出典:UM2262)

通信チャネル利用時は、本稿のローカル動作で使ったTera TermのYMODEM送信を誰が行うのか、鍵の管理やサーバ提供など、筆者がUM2262から読み切れない不明な部分があります。これらはいずれ、明らかにする予定です。

また、UM2262図18. 評価ボード準備とSTM32CubeProgrammer設定方法が解りづらく、単なるサンプルアプリケーション動作にかなり「苦戦」しました。この部分は、通常アプリケーション開発とRoot of Trust実現開発の切換えとなる重要ポイントです。STM32G4テンプレート発売時には、添付資料にもっと解りやすい説明を加えます。

UM2262 Rev6/5の評価ボード:NUCLEO-G474RE設定記述ミス

もう1つの「苦戦」理由は、UM2262 Rev6/5の8.1評価ボード:NUCLEO-G474RE設定記述に間違いがあるからです。

UM2262 8.1には、STM32G4のDBANKビット有効化と記述されていますが、これは「無効化が正しい」です。STM32CubeProgrammerで無効化に設定してください。

STM32G0評価ボード:NUCLEO-G071RBに関しては、記述にミスはありません。本稿の関連部分をNUCLEO-G071RBへ読替えると、全て正常動作します。

STM32G4シリーズは、STM32G0シリーズよりも約1年後に発売されました。新しいMCUのためUM2262に記述ミスがあるのだと思います。

STM32G0/G4のRoot of Trust全体まとめ

STM32G0/G4のRoot of Trust(1)~(3)、いかがでしたでしょうか? セキュリティ機能の実装は、IoT MCUでは必須です。従来のMCU開発へ追加する機能や手間、セキュリティ知識も当然必要になります。

これら追加分は、一般的な開発者が、オリジナリティを加えるべき部分では無いと思います。そこで、これら追加分を、できるだけ簡潔に解り易く説明したつもりです。Root of Trust (1)~(3)で、下記STM32マイコンマンスリー・アップデート2020年3月号P4のX-CUBE-SBSFU説明内容が、より解り易くなれば先ずはOKとします。

STM32マイコンマンスリー・アップデート2020年3月号P4のX-CUBE-SBSFU説明
STM32マイコンマンスリー・アップデート2020年3月号P4のX-CUBE-SBSFU説明

結局、STM32G0/G4シリーズMCUの場合は、通常のMCUアプリケーション開発が第1段、次に、これをIoT MCU化し、Root of Trust機能(SBSFU)を追加実装するのが第2段という、2段階開発になりそうです。この第2段SBSFU実装時に、本稿で用いたデュアル/シングルファームウェアイメージのアプリケーションサンプルが、枠組みとして使えそうです。

STM32G4テンプレートも、弊社通常テンプレート同様、RTOSを使わない疑似マルチタスク実装用(第1段テンプレート)と、開発済みアプリケーションのRoot of Trust SBSFU実装用(第2段テンプレート)の2つに分けてパックで提供しようと考えています。

セキュリティ(盾)は、常に脅威(鉾)との競争です。STM32G0/G4シリーズよりも更にセキュリティを強化したSTM32L5シリーズ(Cortex-M33)など最新MCUの方が、IoT MCU開発には向いているのかもしれません。

この終わりなき競争が続いてセキュリティ時代遅れにならないように、開発中MCUのより早く、かつ、万一より強いセキュリティMCUが必須となった場合でも、MCUコアに依存しない流用性の高いアプリケーション開発が求められます。



SW4STM32からSTM32CubeIDE移設

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)MCUの統合開発環境(IDE)を、従来のSW4STM32から新しいSTM32CubeIDEへ移設するのは簡単です。STM32CubeIDE初期画面に、SW4STM32からSTM32CubeIDEへのプロジェクト変換機能があるからです。

しかし、本稿はSTM社自身による新しいSTM32CubeIDE発表を、STM32MCU純正開発ツールラインナップの完成ととらえ、SW4STM32で開発したSTM32FxテンプレートSTM32G0xテンプレートを、STM32CubeMX起点のSTM32CubeIDE移設方法とそのメリットを示します。

SW4STM32/TrueSTUDIOからSTM32CubeIDE移設背景

IDE開発元の買収&消滅、C/C++コンパイラ改版、Eclipse改版、WindowsなどのOS改版等々、IDE移設が生じる原因は、様々です。IDEは、MCU開発者と最も長い付合いをするツールで、しかも顧客先で稼働中ソフトウェアの変更手段ですので、IDE移設はできれば避けたい出来事です。

SW4STM32は、STM32MCU向けコードサイズ制限なしの無償IDEで、サードパーティAC6社が提供してきました。また、サードパーティAtollic社のTrueSTUDIOも同じくSTM32MCU向け無償IDEとして人気がありましたが、Atollic社をSTMが買収し、TrueSTUDIOはDiscontinue、代わりにSTM自社開発のSTM32CubeIDE無償提供を始めました(Atollic社買収の目的は、STM32CubeIDE開発だと思います)。

STM32 Software Development Tools(出典:STMサイト)
STM32 Software Development Tools(出典:STMサイト)

ポイントは、従来サードパーティが提供してきたコードサイズ制限なし無償IDEを、STM自らSTM32CubeIDEで提供し、「STM32CubeMX/IDE/Programmer/Monitorから構成されるSTM純正のSTM32MCU開発ツールラインナップが完成」したことです(上図)。

このうち、STM32CubeMoniterは、比較的新しいデバッガで、本ブログで紹介を予定しています。

STM32CubeIDEフォルダ構成

STM32CubeIDEは、SW4STM32やTrueSTUDIOよりも後発IDEですので、SW4STM32/TrueSTUDIO開発プロジェクトを、STM32CubeIDEプロジェクトへ変換し取込む機能があります。この機能の使用結果が下図左側です。

STM32CubeIDE変換機能移設プロジェクト(左)とSTM32CubeIDE新規プロジェクト(右)のフォルダ構成比較
STM32CubeIDE変換機能移設プロジェクト(左)とSTM32CubeIDE新規プロジェクト(右)のフォルダ構成比較

左側は、弊社がSW4STM32で開発したSTM32G0x SimpleTemplateプロジェクトを、STM32CubeIDEの変換機能を使ってSTM32CubeIDEプロジェクトへ移設後のProject Explorer、一方、右側は、STM32CubeIDEで新規にSTM32G0プロジェクトを作成した時のProject Explorerです。

左右でプロジェクトのフォルダ構成が異なっていることが判ります。

左:変換機能利用の移設プロジェクトは、従来のSW4STM32フォルダ構成がそのままSTM32CubeIDEで再現されます。

右:STM32CubeIDE新規プロジェクトのフォルダ構成は、Coreフォルダ内にIncフォルダとSrcフォルダがまとめられています。これがSTM32CubeIDE本来のフォルダ構成です。
※ここでのCoreは、下図Application code層を示します。

STM32CubeIDE本来のフォルダ構成は、MCUがCortex-M4のSTM32G4などへ代わっても、Core>Inc/Src構成は不変で、Driversフォルダの中身がSTM32G4対応へ変わるのみです。つまり、よりCMSIS対応のアプリケーション開発に向いた構成です。

CMSIS Structure(出典:Keil CMSIS Version 5.6.0 Generalサイト)
CMSIS Structure(出典:Keil CMSIS Version 5.6.0 Generalサイト)

※CMSIS対応は、関連投稿:mbed OS 5.4.0のLチカ動作、LPCXpresso824-MAXで確認の3章 CMSISを参照してください。

このようにSTM32CubeIDEは、開発者が「本来のアプリケーション開発に集中し易い、つまりIncとSrcのコード作成に集中できるMCU非依存のフォルダ構成」です。

さらに、他の「STM32MCU純正開発ツールとの相性良さや、新発売MCUデバイスへの素早い対応」も期待できます。

これらは、サードパーティIDEになかったSTM自社開発STM32CubeIDEの大きなメリットです。

STM32CubeMX起点のSTM32CubeIDE移設

STM32Fx/G0xテンプレートは、SW4STM32で開発しました。STM32CubeIDEプロジェクト変換機能を使って、従来SW4STM32フォルダ構成のままSTM32CubeIDEへの移設は簡単です。しかし、前章のSTM32CubeIDE本来のフォルダ構成の方が、より大きなメリットが期待できます。

そこで、本来のSTM32CubeIDEプロジェクトフォルダ構成へ、SW4STM32プロジェクトを移設します。

これには、STM32Fx/G0xテンプレート開発時に自作したSTM32CubeMXプロジェクトファイル(前章の左側:SimpleTemplate.ioc)を使います。

STM32CubeMXは、STM32MCUソフトウェア開発の起点となるコード生成ツールです。このSTM32CubeMXから移設を始めれば、次段のSTM32CubeIDEも本来の新規プロジェクト構成で自動生成されます。

さらに、開発アプリケーションで使うLL API/HAL APIの選択や変更も、STM32CubeMXで行います。従って、LL APIが「主」で開発したSTM32G0xテンプレートを、HAL APIへ変えるのも容易です。
※LL API「主」からHAL APIへも「主」へ変更する理由は、STM32G0シリーズがRoot of Trust対応メインストリーム(汎用)MCUだからです。STM32G0専用のLL APIアプリケーションよりも、汎用HAL APIアプリケーションの方が、Root of Trust実現には向いています。詳しくは、関連投稿:STM32G0/G4のRoot of Trust(2)を参照してください。

SW4STM32のSTM32CubeMXプロジェクトファイル(SimpleTemplate.ioc)を起点としてSTM32CubeIDEへ移設したProject Explorerが下図です。前章の右側:STM32CubeIDE新規プロジェクトと同じフォルダ構成で移設されていることが判ります。

STM32CubeMXプロジェクトファイル起点でSTM32CubeIDEへ移設
STM32CubeMXプロジェクトファイル起点でSTM32CubeIDEへ移設

但しこの方法では、SW4STM32でユーザ(筆者)が追加作成したファイル、前章左側:Launcher.c/Led.c/Lpuart.c/UserDefine.hは、手動で移設する必要があります。

まとめ

STM32CubeIDEの提供で、STM32MCU純正開発ツールラインナップが完成しました。
※STM32CubeIDE v1.3.0に残っていた日本語文字化けは、コチラの投稿方法で解決しました。

SW4STM32/TrueSTUDIOなどの従来IDEからSTM32CubeIDE 移設のメリットは、他のSTM純正開発ツール(STM32CubeMX/Programmer/Monitor)との好相性や新発売MCUデバイスへの早い対応です。

従来IDEプロジェクトの移設は、STM32CubeIDEプロジェクト変換機能を使うと簡単です。しかし、移設メリットを活かすには、旧IDEフォルダ構成から、STM32CubeIDE本来の構成となるSTM32CubeMXプロジェクト起点の移設を、弊社STM32Fx/G0xテンプレートへ適用します。

STM32CubeIDE対応の各テンプレート改版完成は、本ブログで発表します。

STM32G0/G4のRoot of Trust(2)

STM32G0/G4シリーズRoot of Trust実現の第2回目は、初めにRoot of Trustを実現するセキュア・ブートの説明にトライし、直にセキュア・ブートとセキュア・ファームウェア更新を実装するSTM32G4テンプレート開発環境の構築方法を示します。

セキュア・ブート説明をこまごま続けるよりも、具体的なRoot of Trust実現開発環境を示す方が、実務的(短絡的?)だからです。

セキュア・ブート

第1回紹介の日本語版UM2262、P1概要:セキュア・ブート説明を抜粋したのが以下です。

‘セキュア・ブート(信頼の起点となるサービス)は、システムリセット後に必ず実行される改変不可のコードで、無効なコードや悪意のあるコードを実行しないために、実行前に毎回STM32の静的保護を確認し、STM32実行時保護を有効化してから、ユーザアプリケーションコードの認証および整合性を検証します。’

英語直訳で難解です(各単語の事前理解が必要なセキュリティ関連説明は、殆どがこんな感じですが…)。

ただ、下線部:「必ず実行される改変不可のコード」なので、理解不足や多少間違って解釈しても、セキュア・ブートコードを実装すれば、それで十分かもしれません😅。

セキュア・ブート解釈

図1.セキュアブートの信頼の起点(出典:UM2262)
図1.セキュアブートの信頼の起点(出典:UM2262)

要は、ユーザが開発したアプリケーション実行前に、MCUが勝手に行うブート処理のセキュリティを高度にしたものがセキュア・ブート(SB)だと解釈します。

従来のブート処理は、リセット後、MCU内蔵クロック発振器の安定化待ちやRAM領域初期化などの処理を何の疑いもなく実行し、その後、ユーザ開発アプリケーションを起動していました。

セキュア・ブート処理は、前章のセキュア・ブート処理を行い(図1.①)、その結果をUM2262:9章の表6. 起動時エラーメッセージ(下表)で示すように認証し②、「エラーなし。成功。」時のみ、③ユーザ開発アプリケーションを起動します。

表6. セキュア・ブート起動時のエラーメッセージ(出典:UM2262)
表6. セキュア・ブート起動時のエラーメッセージ(出典:UM2262)

パソコンで例えると、従来ブートがBIOS起動、セキュア・ブートがUEFI起動に相当すると考えれば良いのかもしれません。

X-CUBE-SBSFUはHAL API補完

Root of Trust実現で使うSTM32Cube拡張パッケージ:X-CUBE-SBSFUは、STM32MCU間の移植性を重視しているためHAL(Hardware Abstraction Layer)ベースです。

弊社発売中のSTM32G0xテンプレート(Version1)は、高速性を活かすエキスパート向けLL(Low layer)APIが「主」、HAL APIは「従」としてSW4STM32で開発しました。しかし、STM32G0でのRoot of Trust実現には、HALベースのソフトウェア開発が適しています。

LL/HAL混在利用は、関連投稿:STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (2)の4章で示した注意が必要です。X-CUBE-SBSFUは、アプリケーション起動前のHAL利用で、起動後のユーザアプリケーションのLL利用の場合は、問題ないかもしれません。この点は、今後明らかにしていきます。

いずれにせよSTM32G0xテンプレートは、IDEをSW4STM32から新しいSTM32CubeIDEへ移設すると同時に、Root of Trust実現に向けHAL APIも「主」とし、STM32CubeIDEで「再開発」してVersion 2に改版する予定です。

セキュリティ関連の説明はここまでにして、STM32G4シリーズでRoot of Trust実現の具体的方法に移ります。

Root of Trust実現STM32G4テンプレート開発環境

Root of Trust実現にセキュア・ブート(SB)機能とセキュア・ファームウェア更新(SFU)機能を実装する汎用STM32G4シリーズのテンプレート開発環境は、以下とします。

  • 統合開発環境:STM32CubeIDE v1.3.0、2020/02/26
  • STM32Cube拡張パッケージ:X-CUBE-SBSFU v2.3.0、2020/01/17
  • STM32G4評価ボード:NUCLEO-G474RE(Cortex-M4/170MHz、Flash/512KB、RAM/128KB)

この環境で実現するセキュリティ機能が、UM2262の6.1概要に記載されたものです。これら機能理解に不明確な部分もありますが、内容把握済み、これら機能実現ためX-CUBE-SBSFUを使うと割切ります。開発環境を使っているうちに、(多分)理解度が上がるでしょう😅。

なおUM2262日本語版は、英語版Rev5からの翻訳なのでサポートIDEにSW4STM32はありますが、新しいSTM32CubeIDEがありません。しかし、最新英語版UM2262 Rev6に、STM32CubeIDEが追加されましたので本ブログでもSTM32CubeIDEを使います。

また、セキュリティ機能をテストするNUCLEO-G474RE用サンプルアプリケーションもX-CUBE-SBSFUに添付されていますので、これを以降の説明に使います。

UM2262では、STM32CubeIDEを使ったRoot of Trust開発環境の構築手順が判りにくいので、以下に説明を加えます。

構築手順1:STM32CubeIDEへのRoot of Trust SW4STM32プロジェクトインポート

X-CUBE-SBSFU v2.3.0には、SW4STM32プロジェクトが添付されていますが、未だSTM32CubeIDEプロジェクトの添付はありません。

そこで、STM32CubeIDEのInformation CenterからImport SWSTM32 projectをクリックし、X-CUBE-SBSFU添付SW4STM32プロジェクトを変換(Import)し、STM32CubeIDEプロジェクトを新規作成します。

STM32CubeIDEのSW4STM32プロジェクトインポート
STM32CubeIDEのSW4STM32プロジェクトインポート

STM32G4評価ボード:NUCLEO-G474REのSW4STM32プロジェクト6個を、STM32CubeIDEへインポートする時のダイアログです。

Finishクリックで、プロジェクト毎に下図2回の同意を求められますので、OKをクリックします。

STM32CubeIDE Projects Converter
STM32CubeIDE Projects Converter

構築手順2:Root of Trustサンプルアプリケーションのコンパイル

インポートした6個のプロジェクトは、シングルファームウェアイメージ:NUCLEO-G474RE_1_Imageとデュアルファームウェアイメージ:NUCLEO-G474RE_2_Imageの2種類のサンプルアプリケーションです。

2種類のRoot of Trustサンプルアプリケーション
2種類のRoot of Trustサンプルアプリケーション

シングル/デュアルファームウェアイメージの違いは、次章で説明します。

このサンプルアプリケーションは、それぞれ図15のように、_SECoreBin、_SBSFU、_UserAppの順番でプロジェクトをコンパイルする必要があります。図示のように前段コンパイル生成出力を、次段コンパイル入力に使うからです。

図15. アプリケーションのコンパイルステップ(出典:UM2262)
図15. アプリケーションのコンパイルステップ(出典:UM2262)

この順番を守ってコンパイルした時のみ_UserAppの出力オブジェクトが生成されます。

Windowsセキュリティソフト(Avastなど)によっては、コンパイル途中でワーニングを出力することがありますが、暫く待つとコンパイルを継続します。

シングルファームウェアイメージとデュアルファームウェアイメージ

図15は、SBSFU処理後のFlashメモリ配置を示しています。

図15の右側黄色部分:アクティブなイメージ領域だけをSFU処理で使うサンプルアプリケーションが、シングルファームウェアイメージです。右側黄色部分の上側、イメージのダウンロード/バックアップ領域に、図2のネットワーク(②通信チャネル)経由の新しいファームウェアを一旦入れるのが、デュアルファームウェアイメージです。

図2.セキュアファームウェア更新プロセス(出典:UM2262)
図2.セキュアファームウェア更新プロセス(出典:UM2262)

デュアルファームウェアイメージは、SFU処理中に電源断で中断しても、電源復帰後にSFU継続が可能です。また、アクティブなイメージ領域で動作中アプリケーションと並行してダウンロードが可能です。

シングルファームウェアイメージは、新しいファームウェアを、アクティブなイメージ領域上へ直接更新します。

デュアルファームウェアイメージは、フェールセーフな分、Flash容量はシングル比、倍必要になります。一方、シングルファームウェアイメージは、ユーザが使えるFlash容量が大きいので、デュアルよりも大きなアプリケーション開発ができます。

※ここで使ったセキュリティ用語:ファームウェアイメージとは、STM32CubeIDEのコード生成ツールSTM32CubeMXがデバイス毎に用いるファームウェア(弊社ならFW_F0/F1/G0/G4)とは別物です。図15の黄色部分を示します。

*  *  *

以上で、STM32CubeIDEを使ったRoot of Trust実現のセキュア・ブート(SB)、セキュア・ファームウェア更新(SFU)機能を持つSTM32G4テンプレート開発環境の構築と、SBSFUに使うシングル/デュアルファームウェアイメージの2種サンプルアプリケーションを説明しました。

次回、このSTM32G4テンプレート開発環境とデュアルファームウェアイメージのサンプルアプリケーションを使って、Root of Trust実現の動作説明を予定しています。

STM32G0/G4のRoot of Trust(2)まとめ

  • 信頼の起点:セキュア・ブート(SB)は、リセット後に必ず実行される改変不可能コード。
  • SB処理後、エラーなし認証時のみ、ユーザアプリケーション起動。
  • STM32Cube拡張パッケージ:X-CUBE-SBSFUは、HAL API補完。
  • STM32CubeIDEでRoot of Trust実現のセキュア・ブート(SB)、セキュア・ファームウェア更新(SFU)機能実装STM32G4テンプレート開発環境と構築手順説明。
  • SBSFUアプリケーションのデュアルファームウェアイメージとシングルファームウェアイメージの特徴説明。

SB、SFU実現には、暗号化や図1/2/15掲載の鍵、セキュアエンジンなど、本稿で説明を省いた(すっ飛ばした)様々なセキュリティ処理が必要です。UM2262付録の章に、これら詳細が記載されています。

本質的なセキュリティ理解には、これら各処理の理解積重ねが必要だと思います。付録の章を一読しておくと、今後いろいろな場面で役立ちます。

STM32G0/G4のRoot of Trust(1)

2020年3月号STM32マンスリー・アップデートのP4に、STM32マイコンでRoot of Trustを実現するセキュリティ・ソフトウェア・パッケージ:X-CUBE-SBSFUが紹介されています。

セキュア・ブート、セキュア・ファームウェア更新、Root of Trust…などIoT MCUセキュリティ用語満載で、投稿:総務省によるIoT機器アップデート機能義務化に関連しそうな内容です。

解りにくいこれらセキュリティ関連の用語解説と、本ブログ対象STマイクロエレクトロニクスのSTM32G0/G4シリーズのRoot of Trust実現方法を、今回から数回に分けて投稿します。

Root of Trust とX-CUBE-SBSFU、STM32G0/G4

マンスリー・アップデートの説明は、エッセンスのみを抽出した代物なので、リーフレットを使って説明します。

一言で言うと、「Root of Trust実現には、X-CUBE-SBSFUが必要で、対応中STM32MCUが下表」です。

Root of Trust対応中のSTM32マイコン一覧(出典:FLXCUBESBSFU0819J)
Root of Trust対応中のSTM32マイコン一覧(出典:FLXCUBESBSFU0819J)

つまり、Root of Trustは全てのSTM32MCUで実現できる訳ではなく、表中のMCU、メインストリーム(汎用)・マイコンの場合は、STM32G0とSTM32G4がセキュア・ブート(SB)とセキュア・ファームウェア更新(SFB)に対応しておりRoot of Trustを実現しています。

X-CUBE-SBSFUの下線部SBはセキュア・ブート、SFUはセキュアFW更新を示します。X-CUBEは、STM純正ソフトウェアツールの総称です。

信頼性を実現するハードウェア/ソフトウェアの根幹部分を、Root of Trustと呼びます。

汎用MCUでRoot of Trustの実現には、ハードウェア/ソフトウェア両方に相応の能力が必要で、従来からある汎用STM32Fxシリーズではなく、新しい汎用STM32G0/G4にSBとSFUが実装されたのだと思います。

ということは、総務省のIoT機器アップデート機能義務化が実施されると、IoTエッジで使う汎用MCUは、必然的にSTM32G0/G4シリーズになるかもしれません。
※X-CUBE-SBSFUは、移植性の高いHAL API利用のため、従来汎用STM32Fxへも流用可能かもしれません。しかし、現時点では、表記STM32G0/G4のみ対応と解釈しています。

STM32汎用MCUラインナップ
STM32汎用MCUラインナップ(出典:STM32 Mainsterm MCUsに加筆)

用語を説明したのみですが、Root of Trust とX-CUBE-SBSFU、汎用マイコンSTM32G0/G4の関係が、マンスリー・アップデートエッセンスより見えてきたと思いますがいかがでしょう。

さらに、一歩踏み込んで、STM32G0/G4のセキュア・ブート、セキュア・ファームウェア更新方法やセキュリティの背景などの詳細は、次回以降説明します。

X-CUBE-SBSFUユーザマニュアル:UM2262

次回以降の説明は、X-CUBE-SBSFUユーザマニュアル日本語版(2019 年 11 月14日):UM2262を基に行います。

UM2262は、X-CUBE-SBSFU対応中の全てのSTM32マイコン(ハイパフォーマンス/超低消費電力/メインストリーム(汎用)/ワイヤレス)が併記されています。

そこで、STM32G0とSTM32G4関連のみを抜粋し、特にセキュア・ブート(SB)とセキュア・ファームウェア更新(SFU)の設定方法と背景を中心に説明します。販売中のSTM32G0xテンプレートと、開発予定のSTM32G4テンプレートに関連するからです。

本稿で示したRoot of Trustを、STM32G4テンプレートに実装するかは未定です。しかし、IoTエッジマイコンのSTM32G4らしさを出すには、Root of Trust実現は必須だと思います。

また、STM32G0xテンプレートは、まずVersion 2改版で新統合環境:STM32CubeIDE v1.3.0への対応を予定しております(現行版は、SW4STM32開発のVersion 1)。
※STM32G0関連の投稿は、本ブログ右上のSearch窓へ、“STM32G0”と入力すると、効率よく投稿が集まります。新汎用STM32G0の特徴、STM32G0xテンプレートのことが解ります。

STM32G0へのRoot of Trust実装も未定ですが、対応する場合でもVersion 2より後にするつもりです。

従って、具体的なRoot of Trust実現方法は、STM32G4シリーズで先行、その後にSTM32G0シリーズが続くという順番になります。

TrustZone対応STM32マイコン体験セミナー(セキュリティ編)

5月22日(品川)と7月31日(大阪)に、2020年2月発売STM32L5マイコン(Cortex-M33/110MHz)を使ったSTM主催、定員30名、4時間半のTrustZone対応STMマイコン体験セミナー(セキュリティ編)が開催されます。

STM32L5は、PSA Certifiedレベル2認証を取得済みのTrustZoneマイコンです。PSA認証は、関連投稿:ARM MCU変化の背景の2章の3:セキュリティ対応をご覧ください。STM32L5のTrustZone実現は、専用のSTM32Cube拡張パッケージ:STM32CubeL5を使っています。

セミナー概要の冒頭に、「IoTセキュリティに関する法令やガイドラインの整備が進んでいます」とあり、具体的にIoTセキュリティ機能のSTM32L5への実装と必要性が解ると思います。セミナーに参加し、エキスパートから色々な情報を仕入れたいのですが、COVIC-19の影響で出張ができるか?…、Webinarなら嬉しいのですがね😅。

評価ボード付き無料セミナーです。ご興味がある方は、参加してはいかがでしょう。

STM32G0/G4のRoot of Trust(1)まとめ

  • Root of Trust実現に、STM32Cube拡張パッケージ:X-CUBE-SBSFUが必要。Root of Trust対応中の汎用マイコンは、STM32G0/G4シリーズ。
  • 信頼性実現のハードウェア/ソフトウェア根幹部分をRoot of Trustと呼ぶ。
  • IoT機器アップデート機能義務化なら、IoTエッジ汎用MCUは、STM32G0/G4シリーズになる可能性あり。
  • STM32G0/G4シリーズのRoot of Trust実現方法、SB(セキュア・ブート)とSFU(セキュア・ファームウェア更新)は、UM2262を使い次回以降説明。

ここまでは、比較的簡単にRoot of Trust、X-CUBE-SBSFU、STM32G0/G4が説明できたと思います。ここからが、セキュリティの難解なところで、SBだけでも次回上手く説明できるか自信がありません。結果は、次回のブログ更新で判ります。

STM32CubeIDE更新、文字化け解決

STマイクロエレクトロニクスの統合開発環境:STM32CubeIDEがv1.3.0に更新されました(2月28日、更新自動通知メールにて把握)。デフォルト設定のWindows版STM32CubeIDEは、エディタで追記した日本語コメントに文字化けが発生します。これは、昨年投稿したSTM32CubeIDE v1.1.0v1.2.0と同じで、最新版でも解決されません。

そこで、対策にデフォルト設定を2か所変え、日本語文字化け解決を確認しました。また、Linux Debian版STM32CubeIDEとSW4STM32は、最新環境でもデフォルトで文字化けが無いことも確認しました。

Windows版STM32CubeIDE日本語文字化け発生箇所

2019年4月新登場STマイクロエレクトロニクス統合開発環境:STM32CubeIDE-Winの日本語コメント文字化けは、

  • SW4STM32プロジェクトのSTM32CubeIDEインポート後
  • プラグイン版STM32CubeMXでのコード再生成時

に、エディタでソースコードに追記した日本語コメントに文字化けが発生します。
※Windows版は、Windows 10 Pro 1909の話です。

STM32CubeIDE-Win v1.3.0日本語文字化け対策

数回のメジャー更新を経て登場後約1年のv1.3.0でも、この文字化けはデフォルトのままでは未解決です。そこで、ネット検索したところ、コチラの対策を得ました。

STM32CubeIDEのデフォルト設定を、2か所変更します。

STM32CubeIDEの日本語文字化け2箇所の対策
STM32CubeIDEの日本語文字化け2箇所の対策
  1. フォント設定を、デフォルトConsolasからメイリオなどの日本語文字セットへ変更(ワークスペース毎)
  2. Text file encoding設定を、デフォルトUTF-8からShift-JISへ変更(プロジェクト毎)

※1は、STM32CubeIDEのWindowタブ>Preferenceダイアログ検索窓へ”font”入力>Colors and Font選択>C/C++選択>Editor選択>C/C++ Editor Text Fontを選択し、Edit…クリックで左図表示
※2は、プロジェクト選択>Propertiesクリックで右図表示

右図のようにプルダウンメニューにShift-JIS選択肢が無い時は、Shift-JISと直接入力し、Apply and Closeをクリックします。

1はワークスペース毎、2はプロジェクト毎に設定が必要です。

これら2か所の変更で、SW4STM32プロジェクトインポート後とSTM32CubeMXコード再生成時、どちらもエディタ追記日本語コメント文字化けは解決できました。

以上で、従来のSW4STM32から新しいSTM32CubeIDEへ、日本語コメント文字化け無しにSTM32MCU開発環境を移行できます。

STM32CubeIDE特徴

STM32CubeIDEは、コード生成ツール:STM32CubeMX、開発デバイスファームウェア(弊社ならFW_F0/F1/G0/G4)全てを1パッケージ化し、全て最新版のみを提供する特徴があります。投稿時のSTM32CubeIDE v1.3.0が下図です。

簡単に言うと、開発ソフトウェアが全てSTM32CubeIDEへプラグインされた形式です。

STM32CubeIDE全体構成
STM32CubeIDE全体構成

STM32CubeIDE起動時、またはCheck for Updatesにより、IDEを含めた各プラグイン更新を確認し、常に最新開発環境となります(悪名高いWindows Updateに似ているような…😅)。

これは、プラグイン版STM32CubeMX v5.6.0に、旧ファームウェア選択機能が無いことからも解ります。

最新ファームウェアを使うSTM32CubeMXプラグイン版(左)とファームウェア選択可能なスタンドアロン版(右)
最新ファームウェアを使うSTM32CubeMXプラグイン版(左)とファームウェア選択可能なスタンドアロン版(右)

例えば、顧客先で稼働中ソフトウェアへ変更を加えるなど旧ファームウェアのまま開発希望の場合は、スタンドアロン版STM32CubeMX v5.6.0を使えば、右図のように旧ファームウェア選択も可能です(関連投稿:v1.2.0の開発環境更新リスク、ファームウェア更新リスク回避策の章に背景説明があります)。

純正STM32Cubeツール

STM32MCUソフトウェア開発に使えるIDEは、下図中央のようにIAR:Embedded Workbench、ARM:Keil、AC6:SW4STM32、etc.などサードパーティ製も数多くあります。しかし、純正STM32CubeツールのSTM32CubeIDEが、STマイクロエレクトロニクス一押しの統合開発環境だと思います。

STM32 Software Development Tools(出典:STMサイトに加筆)
STM32 Software Development Tools(出典:STMサイトに加筆)

もちろん、従来からあるSW4STM32もまだ現役(Active)です。ST Communityには、今も多くのSW4STM32事例があります。

そこで、Windows版STM32CubeIDE以外の、SW4STM32とLinux Debian版STM32CubeIDEの現状を調べました。

STM32CubeIDE-DEB

64ビット版のみですが、STM32CubeIDE v1.3.0のLinux Debian版インストーラが、Windows版STM32CubeIDEと同じ純正ソフトウェア入手サイトにあります。

STM32CubeIDE Debian Linux Installer
STM32CubeIDE Debian Linux Installer

筆者は、DebianよりもMintが好きなので、STM32CubeIDE-DEBをLinux Mint 19.3 MATE (64-bit)へインストールし、デフォルト設定でも日本語文字化け無し、評価ボードで正常動作することを確認しました。

STM32CubeIDE-DEBは、デフォルトで日本語文字化けなしで動作
STM32CubeIDE-DEBは、デフォルトで日本語文字化けなしで動作

Mintへのインストール方法が下記です。途中で長いライセンス同意を求められます。

chmod +x st-stm32cubeide_1.3.0….sh
sudo ./st-stm32cubeide_1.3.0….sh、または、sudo bash st-stm32cubeide_1.3.0….sh
※NXP:MCUXpresso IDE v11.1.0のInstallation Guide, Appendix A – Linux Installationを参考にしました。

STM32CubeMXやデバイスファームウェアは、Windows版と同様全てプラグインです。Linux版SW4STM32既成プロジェクトが手元に無いのでインポートは試せませんが、問題無いと思います。

リリースノート:RN0114のLinux動作テスト環境にMintは有りません。自己責任でNXP:MCUXpresso IDE v11.1.0 Linux版ともども、Mint上でSTM32CubeIDE-DEBが正常動作したことをお知らせします。

SW4STM32とスタンドアロン版STM32CubeMX v5.6.0

SW4STM32とスタンドアロン版STM32CubeMX v5.6.0で開発環境を構築する場合は、デフォルトでも日本語文字化けは発生しません。従来環境に慣れた方は、SW4STM32もそのまま使えると思います。

お知らせ:STM32FxテンプレートとSTM32G0xテンプレート改版予定

STM32CubeIDE-Win v1.3.0に加えた本稿2か所変更が、次版以降のSTM32CubeIDEにも必要かは判りません。ただ、いまさらShift-JIS設定?という気はします。WindowsでShift-JIS継続利用の弊害は、コチラの記事がよく解ります。

しかし、懸案であった日本語コメント文字化けが解決、新登場後1年経過しv1.3.0となったこのタイミングで、従来SW4STM32から新しいSTM32CubeIDEへ開発環境を乗換えるのもチャンスだと思います。SW4STM32更新頻度が減ったことや、他の純正STM32Cubeツールとの相性良さも期待できるからです。

そこで、SW4STM32で開発・販売したSTM32FxテンプレートSTM32G0xテンプレートを、STM32CubeIDE-Winを使って再開発に着手し、新にVersion 2として販売する予定です。進行状況などは、本ブログでお知らせします。

MCUベンダAPI生成ツール比較

お知らせ

弊社サイト:マイコンRTOS習得を2020年版へ改版しました。前稿までのFreeRTOSサンプルコード(1)~(5)結果を、2017年版へ反映させた結果です。是非、ご覧ください。

MCUベンダAPI生成ツール一覧

FreeRTOSサンプルコード(1)で予告したベンダ毎に異なるAPI生成ツールやその違い、サンプルコードとの関係を説明します。本ブロブ掲載MCUベンダ5社のAPI生成ツール一覧が下表です。

MCUベンダトップシェア5社のMCU API生成ツール一覧
ベンダ API生成ツール ブログ掲載MCU API生成方法
Runesas CS+ RL78/G1x 個別ハードウェア設定
NXP SDK LPC111x/LPC8xx/Kinetis E/LPC5411x MCU設定
STM STM32CubeMX STM32Fx/STM32Gx 個別ハードウェア設定
Cypress PSoC Creator PSoC4/PSoC4 BLE/PSoC4000/PSoC6 個別ハードウェア設定
TI CCS STM432 MCU設定

IDEとは別のAPI生成ツール専用名があり、ツール単独で更新するのが、NXP)SDK、STM)STM32CubeMXです。Runesas)CS+、Cypress)PSoC Creator、TI)CCSは、IDEにAPI生成ツールが組込まれていますので、IDE名称をAPI生成ツール欄に記載しています。
※CS+のAPI生成ツールは、単独でコード生成と呼ぶこともあります。

さて、これらAPI生成ツールには、2種類のAPI生成方法があります。

  • MCU設定:利用MCUを設定し、内蔵ハードウェアAPIを一括生成…NXP)SDK、TI)CCS
  • 個別ハードウェア設定:利用内蔵ハードウェアを個別設定し、APIを生成…Runesas)CS+、STM)STM32CubeMX、Cypress)PSoC Creator

MCU設定タイプのAPI生成ツールは、全内蔵ハードウェアAPIを、ユーザ利用の有無に係わらず一括生成するため、規模が大きく、SDK(Software Development Kit)などパッケージ化してIDEへ提供されます。但し、コンパイル時に利用ハードウェアのみをリンクしてMCUへダウンロードするので、少Flashサイズでも問題はありません。

MCU設定タイプの特徴は、例えば、UART速度設定などのハードウェア動作パラメタは、APIパラメタとしてMCUソースコードにユーザが記述します。

MCU設定タイプのNXP)SDKのUART API例
MCU設定タイプのNXP)SDKのUART API例

一方、個別ハードウェア設定タイプは、UARTなどのハードウェア動作パラメタは、API生成前にGUI(Graphical User Interface)で設定し、設定後にAPIを生成します。このためユーザが、MCUソースコードのAPIに動作パラメタを追記することはありません。

個別ハードウェア設定タイプのSTM32CubeMXのUART API例
個別ハードウェア設定タイプのSTM32CubeMXのUART API例

API生成ツール比較

MCU設定タイプのAPI生成ツールは、使い方がMCU設定のみで簡単です。また、ハードウェア動作パラメタがMCUソースコード内にあるため、動作変更や修正もIDE上で行えますが、人手によるバグ混入の可能性も高まります。

個別ハードウェアタイプAPI生成ツールは、MCUソースコード内のAPI記述が簡素です。生成されたAPI内部に動作パラメタが含まれているからです。但し、ハードウェア動作変更には、IDEから一旦API生成ツールに戻り、APIの再生成が必要です。この場合でも、MCUソースコードは不変ですので、GUI設定にミスが無ければバグ混入は少ないでしょう。

どちらにも、一長一短があります。敢えて分類すると、ソフトウェア開発者向きが、MCU設定タイプ、ハードウェア開発者向きでTP:Test Program応用も容易なのが、個別ハードウェア設定タイプです。

個別ハードウェア設定タイプであっても、Cypress)PSoC Creatorなどは、通常パラメタはBasicタブ、詳細パラメタはAdvanceタブで分け、誰でも設定を容易にしたツールもあります。

MCUソフトウェアは、C言語によるMCU API制御です。MCU API生成ツールの使い勝手が、ソフトウェア生産性の半分程度を占めていると個人的には思います。

サンプルコード/サンプルソフトウェア

各社のサンプルコード/サンプルソフトウェアは、上記API生成ツールのMCUソースコード出力例です。

従って、サンプルコードには、出力例と明示的に判るよう多くのコメントが付加されています。初めてサンプルコードを見る開発者は、注意深くコメントを読んで、そのMCU開発の全体像を理解することが重要です。

全体像が理解済みであれば、より効率的な開発手法、例えば、(推薦はしませんが)個別ハードウェア設定タイプであっても、IDEからAPI生成ツールに戻らずに、直接MCUソースコードでハードウェア動作パラメタを変更するなどのトリッキーな使い方も可能です。

MCU開発とCOVID-19

新型コロナウイルス:COVID-19が世界的に流行しつつあり、工場閉鎖や物流への影響も出始めています。現状は治療薬が無いので、「個人の免疫力と体力」が生死の決め手です。

同時にMCU供給不足/停止など、開発への波及も懸念されます。これに対し「個人で第2のMCU開発力」を持つことが解決策を与えます。

本稿は、MCUベンダトップシェア5社のMCU API生成ツールを比較しました。MCUシェア評価ボード価格や入手性、個人の好みなど、是非ご自分にあった比較項目で、現在利用中のMCUに代わる第2のMCU開発力を持つことをお勧めします。

第2のMCU開発力は、現行と視点が変わり利用中MCUスキルも同時に磨くことができ、様々な開発リスクに耐力(体力)が付きます。短期で効果的な第2のMCU開発力の取得に、弊社マイコンテンプレートがお役に立てると思います。

中国製STM32互換MCU

1月28日、EE Times Japanに“互換チップが次々と生まれる中国、半導体業界の新たな潮流”という記事が掲載されました。スイス・ジュネーヴ本社のSTマイクロエレクトロニクス(以下STM)のSTM32互換MCUが、中国で製造プロセス縮小、ローコスト化し販売中だそうです。

STM32F030、STM32F103互換MCU

記事記載の互換デバイスは、STM32F030(Cortex-M0、64KB Flash、8KB RAM)と、STM32F103(Cortex-M3、72MHz、128KB Flash、20KB RAM)の2種。どちらもSTM純正180nmプロセス製造MCUを、130nmプロセスで製造しており、ローコスト化、低電力化、動作周波数アップが狙いです。

STM32F103搭載のNucle-F103RB評価ボード
STM32F103搭載のNucle-F103RB評価ボード

さらに、ARM Cortex-Mコア部分のみをオープン仕様RISC-Vコアへ変えた、STM32互換RISC-V MCUもあるそうです(記事、図4参照)。

記事筆者の清水氏(テカナリエ)は、これら中国製互換デバイスを否定するのが目的ではなく、現状の事実、互換製造ができる高い技術力、STM32MCUが汎用MCUデファクトスタンダードであること、中国半導体業界のこの方向性が、ますます加速する可能性があると報告しています。

日本が見習うべきもの

RISC-Vはオープン仕様ですが、Cortex互換MCU販売には、ARMライセンスフィーなど気になる事柄もあります。但し、本ブログ筆者も清水氏と同じく、その背景にある技術力、ビジネスセンスについて見習うべきものが多いと思います。

STM互換MCUは、純正品よりも安く、しかも高性能です。開発環境や評価ボード、開発ソフトウェアはそのまま互換MCUでも動作します。欧州ベンダのSTM互換MCU開発・販売は、米国ベンダ互換よりもハードルが低いでしょう。世界情勢なども反映された成功事例だと思います。

例え安く高性能な部品(BOM:Bill Of Matrix)が提供されても、それを使って開発できる技術者がいなければ製品化はできません。技術者スキルが最も伸びるのは、開発中です。中国技術者は、高性能製品を低価格で、次々と提供できている事実があります。

もちろん失敗事例もたくさんあるハズです。しかし、技術者にとっては、成功失敗を問わずどんな事例でも開発経験はスキルに直結します。

一方、日本の環境は、時短や効率化など見た目の生産性や成功例のみに注目しがちです。ただ、技術者スキルは世界レベルで評価されるので、このままの環境では、先々の日本開発案件は無くなるのではと危惧しています。

例えば自動車は、日本メーカを選択する人はいても、それが日本開発かは問題にしません。むしろ世界各地で開発されています。
※日産の先進自動運転技術(ADAS)は、米国女性技術者が中心で開発されたと、何かで読んだ記憶があります。

5G、6G世代のネット高速化、自動翻訳やAIなどの環境変化で、日本開発に拘るユーザは、減少の一途となるでしょう。

日本技術者は、次世代の自分自身のため、世界で通用するスキルを身に付ける必要があります。

弊社STM32F0/F1に使えるSTM32FxテンプレートSTM32G0xテンプレートその他ベンダのMCUテンプレートは、初心者~中級レベルソフトウェア技術者向きです。初級~中級技術を効率的に習得し、さらに高度なスキル獲得に少しでもお役立てれば幸いです。と、最後は自社広告になってしまいました😌。

STM32G071RBとAlexaを繋ぐ

1月9日STマイクロエレクトロニクス(以下STM)公式ブログに、STM32G0とAlexa(アレクサ)を接続する開発キット:Alexa Connect Kit(ACK)モジュールが紹介されました。アレクサに話しかけ、STM32G0評価ボードのNucleo-G071RB 経由でスマートホーム制御が簡単に実現できます。

システム構成

STM32G071RBとAlexaを接続するAlexa Connect Kit (ACK)のシステム構成
STM32G071RBとAlexaを接続するAlexa Connect Kit (ACK)のシステム構成

システム構成の公式ブログ掲載が無いので、自作したのが上図右側です(左側出典:STMサイト、Cortex-M7 MCUでアレクサ接続)。

USI MT7697HがACKモジュールで、Nucleo-G071RBとはArduinoコネクタで接続します。スマートスピーカに話しかけると、クラウド内で音声解析→制御コマンド生成を行い、このコマンドがACKへ無線送信され、STM32G0評価ボードNucleo-G071RBへ届き、STM32G071RBがスマートホーム機器などを制御します。

費用とSTM32G0用ACKドライバ、ファームウェア

費用:Nucleo-G071RBが約$10、ACKがUS Amazonで$197、(日本アマゾンで¥38,202)。

STM32G0用ACKドライバ、ファームウェア:公式ブログリンク先は、今日現在、提供されていません。

2018年6月頃は、STM32F7やSTM32H7などの高性能Cortex-M7 MCUでアレクサ接続がSTM公式ブログで投稿されましたが、今回Cortex-M0+のSTM32G0とACKでも簡単に接続可能になりました。

STM32G0特徴

2018年12月新発売のSTM32G0シリーズは、初の90nmプロセス製造MCUで低消費電力と高速動作、従来のSTM32F0 (Cortex-M0)~F1 (Cortex-M3)性能をカバーする新しい汎用MCUです。セキュリティハードウェア内蔵、低価格、64ピンパッケージでも1ペアVDD/VSS給電がSTM32G0の特徴です。
関連投稿:STM新汎用MCU STM32G0守備範囲が広いSTM32G0

STM32マイコンマンスリー・アップデート2020年1月のP4に、「STM32G0 シリーズのラインナップ拡充 STM32G041/ G031/ G030 新登場」記事もあります。筆者も、STM32G0シリーズは、STMの汎用MCUとしてお勧めデバイスです。

LL APIかHAL API、混在?

残念ながら今は未提供ですが、筆者は、ACKドライバとファームウェアのAPIに興味があります。

理由は、STM32G0シリーズの高性能を引き出すには、HAL:Hardware Abstraction Layer APIよりもエキスパート向けLL:Low Layer API利用ソフトウェア開発が適すからです。

HALとLL比較(出典:STM32 Embedded Software Overvire)
HALとLL比較(※説明のため着色しています。出典:STM32 Embedded Software Overvire)

生産性や移植性の高いHAL APIとLL APIの混在利用は、注意が必要です(関連投稿:STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (2)の4章)。

ACKドライバ、ファームウェアが、LL APIかHAL APIのどちらを使っているか、または混在利用かを確認し、ノウハウを取得したかったのですが…😥。

LL API利用STM32G0xテンプレートとHAL API利用STM32Fxテンプレート

弊社は、LL API利用STM32G0x専用テンプレートと、HAL API利用STM32Fx汎用テンプレートの2種類を、それぞれ販売中です(テンプレートは同一、テンプレートを使うAPIのみが異なる)。

STM32汎用MCUラインナップ
STM32汎用MCUラインナップ(出典:STM32 Mainsterm MCUsに加筆)

もちろん、STM32G0でもHAL APIを利用することは可能です(STM32G0x専用テンプレートにもHAL API使用例添付)。LL API利用ソフトウェアは、性能を引き出す代償に対象MCU専用になります。

HAL APIとLL APIの混在は避けた方が無難で、STM32G0はLL API専用でテンプレート化しました。添付資料も、LL APIを中心に解説しています。STM32Fxテンプレート添付資料は、HAL API中心の解説です。

両テンプレートをご購入頂ければ、LL/HAL双方のAPI差が具体的に理解できます。開発するアプリケーション要求性能や発展性に応じて、LL APIかHAL APIかの選択判断も可能になります。
※両テンプレート同時購入時は、2個目テンプレート50%OFF適用で、1500円(税込)です😀。

FYI:日本語コメント文字化け継続

STMマイコン開発環境にソースコード日本語コメントの文字化けが発生中であることを、昨年11月に投稿しました。この文字化け発生のSTM32CubeIDE v1.1.0/CubeMX v5.4.0開発環境が、STM32CubeIDE v1.2.0STM32CubeMX v5.5.0に更新されました。

更新後のSTM32CubeIDE v1.2.0/CubeMX v5.5.0でも、旧版同様に文字化けします。
一方、SW4STM32では、STM32CubeMX v5.5.0更新後も日本語コメント文字が正常表示されます。

他社の最新版EclipseベースIDE、NXPのMCUXpresso IDE v11.1.0や、CypressのPSoC Creator 4.2では、ソースコードText Font変更をしなくても文字化けはありませんので、STM特有問題だと思います。

ワールドワイドでの日本相対位置低下、今年から始まる小学校英語教育…、日本ものつくりは、英語必須になるかもしれません。

ARM MCU変化の背景

昨今のARM MCU事情、そして今後の方向性”という記事が、2019年11月22日TechFactoryに掲載されました。詳細は記事を参照して頂き、この中で本ブログ筆者が留意しておきたい箇所を抜粋します。その結果、ARM MCU変化の背景を理解できました。

現在のARM MCUモデル

Cortex-Mコアだけでなく、周辺回路も含めた組み合わせARM MCUモデルが、端的に整理されています。

・メインストリームは、Cortex-M4コアに周辺回路搭載
・ローパワーは、Cortex-M0+に低消費電力周辺回路搭載
・ローコストは、Cortex-M0に周辺回路を絞って搭載

例えば、STマイクロエレクトロニクスの最新STM32G0xシリーズのLPUART搭載は、ローパワーモデルに一致します。各Cortex-Mコアの特徴は、コチラの投稿の5章:Cortex-M0/M0+/M3の特徴などを参照してください。

ARM MCUの新しい方向性

2019年10月時点で記事筆者:大原雄介氏が感じた今後のARM MCU方向性が、下記4項目です。

  1. ハイエンドMCU動作周波数高速化、マルチコア化
  2. RTOS普及
  3. セキュリティ対応
  4. RISC-Vとの競合

以下、各項目で本ブログ筆者が留意しておきたい箇所を抜粋します。

1.ハイエンドMCU動作周波数高速化、マルチコア化

動作周波数高速化は、NXPのi.MX RT 1170のことで、Cortex-M7が1GHzで動作。i.MX RT1170は400 MHz動作のCortex-M4も搭載しているディアルコアMCU。

これらハイエンドMCUの狙いは、性能重視の車載MCU比べ、コスト最重視の産業機器向け高度GUIやHMI:Human Machine Interface用途。従来の簡単な操作パネルから、車載のような本格的なGUIを、現状の製造プロセスで提供するには、動作周波数の高速化やマルチコア化は必然。

2.RTOS普及

普通はベアメタル開発だが、アプリケーション要件でRTOS使用となり、ポーティング例は、Amazon FreeRTOSが多い。マルチコアMCUでは、タスク間同期や通信機能実現には、ベアメタルよりもRTOS利用の方が容易。また、クラウド接続は、RTOS利用が前提となっている。

3.セキュリティ対応

PAS:Platform Security Architectureというセキュリティ要件定義があり、これが実装済みかを認証するPSA Certifiedがある。PAS Certified取得にはTrustZoneを持つATM v8-MコアCortex-M23/33が必須ではなく、Cortex-M0やM4でも取得可能。但し、全MCUで取得するかは未定で、代表的なMCUのみになる可能性あり。

4.RISC-Vとの競合

ARM CMSISからずれるCustom Instruction容認の狙いは、競合するRISC-Vコアへの対抗措置。RISC-V採用製品は、中国では既に大量にあり、2021年あたりに日本でもARMかRISC-Vかの検討が発生するかも?

ARM MCU変化背景

本ブログ対象の産業機器向けMCUの1GHz動作や、ディアルコアMCUの狙いは、ADAS(先進運転支援システム)が引っ張る車載MCU+NVIDIA社などのグラフィックボードで実現しつつある派手なGUIを、10ドル以下のBOM:Bill Of Matrixで実現するのが目的のようです。また、産業機器向のMCUのAIへの対応も気になる点です。これにら向け、各種ツールなども各ベンダから提供されつつあります。

ハイエンドMCU開発でRTOS利用が一般的になれば、下位MCUへもRTOSが利用される場面は多くなると思います。タクス分離したRTOSソフトウェア開発は、タスク自体の開発はベアメタルに比べ簡単で、移植性や再利用性も高いからです。ベアメタル開発は、RAMが少ない低コストMCUのみになるかもしれません。

RTOS MCU開発も、Windowsアプリケーション開発のようにOS知識が(無く!?)少なくても可能になるかもしれません。

MCUベンダのセキュリティ対応は、まだ明確な方針が無さそうです。RTOSと同様、IoTアプリケーション要件がポイントになるでしょう。総務省による2020年4月以降IoT機器アップデート機能義務化予定などもその要件の1つになる可能性があります。

Custom Instructionは、コチラの投稿の5章でベンダ独自のカスタム命令追加の動きとして簡単に紹介しましたが、その理由は不明でした。これが、競合RISC-Vコアへの対抗策とは、記事で初めて知りました。

本ブログ記事範囲を超えた、広い視野でのMCU記事は貴重です。

来年開発予定のベアメタルCortex-M4テンプレートへ、RTOSの同期や通信機能を簡易実装できれば、より役立ち、かつRTOS普及へも対抗できるかもしれないと考えています。クラウド接続IoT MCUは、Amazon FreeRTOSやMbed OS実装かつ専用ライブラリ利用が前提なのは、ひしひしと感じています。

MCUプロトタイプ開発のEMS対策とWDT

ノイズや静電気によるMCU誤動作に関する興味深い記事がEDN Japanに連載されました。

どのノイズ対策が最も効果的か? EMS対策を比較【準備編】、2019年10月30日
最も効果的なノイズ対策判明!  EMS対策を比較【実験編】、2019年11月29日

EMS:(ElectroMagnetic Susceptibility:電磁耐性)とは、ノイズが多い環境でも製品が正常に動作する能力です。

MCUプロトタイプ開発時にも利用すべきEMS対策が掲載されていますので、本稿でまとめます。また、ノイズや静電気によるMCU誤動作を防ぐ手段としてWDT:Watch Dog Timerも説明します。

実験方法と評価結果

記事は、インパルスノイズシュミレータで生成したノイズを、EMS対策有り/無しのMCU実験ボードに加え、LED点滅動作の異常を目視確認し、その時点のノイズレベルでEMS対策効果を評価します。

評価結果が、11月29日記事の図5に示されています。

結果から、費用対効果が最も高いEMS対策は、MCU実験ボードの入力線をなるべく短く撚線にすることです。EMS対策用のコンデンサやチョークコイルは、仕様やパーツ選定で効果が左右されると注意しています。

MCUプロトタイプ開発時のお勧めEMS対策

MCUプロトタイプ開発は、ベンダ提供のMCU評価ボードに、各種センサ・SWなどの入力、LCD・LEDなどの出力を追加し、制御ソフトウェアを開発します。入出力の追加は、Arduinoなどのコネクタ経由と配線の場合があります。言わばバラック建て評価システムなので、ノイズや静電気に対して敏感です。

このMCUプロトタイプ開発時のお勧めEMS対策が下記です。

1.配線で接続する場合は、特に入力信号/GNDのペア線を、手でねじり撚線化(Twisted pair)だけで高いEMS効果があります。

身近な例はLANケーブルで、色付き信号線と白色GNDの4組Twisted pairが束ねられています。このTwisted pairのおかげで、様々な外来ノイズを防ぎLANの信号伝達ができる訳です。

信号とGNDの4組Twisted pairを束ねノイズ対策をするLANケーブル
信号とGNDの4組Twisted pairを束ねノイズ対策をするLANケーブル

2.センサからのアナログ入力信号には、ソフトウェアによる平均化でノイズ対策ができます。

アナログ信号には、ノイズが含まれています。MCU内蔵ADCでアナログ信号をデジタル化、複数回のADC平均値を計算すればノイズ成分はキャンセルできます。平均回数やADC周期を検討する時、入力アナログ信号が撚線と平行線では、2倍以上(図5の2.54倍より)のノイズ差が生じるので重要なファクターです。従って、撚線で検討しましょう。
平均回数やADC周期は、パラメタ設定できるソフトウェア作りがお勧めです。

3.SWからの入力には、チャタリング対策が必須です。数ミリ秒周期でSW入力をスキャンし、複数回の入力一致でSW値とするなどをお勧めします。
※弊社販売中のMCUテンプレートには、上記ADCとSWのEMS対策を組込み済みです。

4.EMS対策のコンデンサやチョークコイルなどの受動部品パーツ選定には、ベンダ評価ボードの部品表(BOM:Bill Of Matrix)が役立ちます。BOMには、動作実績と信頼性がある部品メーカー名、型番、仕様が記載されています。

ベンダMCU評価ボードは、開発ノウハウ満載でMCUハードウェア開発の手本(=ソフトウェアで言えばサンプルコード)です。

特に、新発売MCUをプロトタイプ開発に使う場合や、MCU電源入力ピンとコンデンサの物理配置は、BOM利用に加え、部品配置やパターン設計も、MCU評価ボードを参考書として活用することをお勧めします。
※PCB設計に役立つ評価ボードデザイン資料は、ベンダサイトに公開されています。

MCU誤動作防止の最終手段WDT

EMS対策は、誤動作の予防対策です。EMS対策をしても残念ながら発生するノイズや静電気によるMCU誤動作は、システムレベルで防ぐ必要があります。その手段が、MCU内蔵WDTです。

WDTは、ソフトウェアで起動とリセットのみが可能な、いわば時限爆弾です。WDTを一旦起動すると、ソフトウェアで定期的にリセットしない限りハードウェアがシステムリセットを発生します。従って、ソフトウェアも再起動になります。

時限爆弾を爆発(=システムリセット)させないためには、ソフトウェアは、WDTをリセットし続ける必要があります。つまり、定期的なWDTリセットが、ソフトウェアの正常動作状態なのです。

ノイズや静電気でMCU動作停止、または処理位置が異常になった時は、この定期WDTリセットが無くなるため、時限爆弾が爆発、少なくとも異常状態継続からは復帰できます。

このようにWDTはMCU誤動作を防ぐ最後の安全対策です。重要機能ですので、プロトタイプ開発でもWDTを実装し、動作確認も行いましょう。

※デバッグ中でもWDTは動作します。デバッグ時にWDT起動を止めるのを忘れると、ブレークポイントで停止後、システムリセットが発生するのでデバッグになりません。注意しましょう!