LibreOffice 7.1 Communityリリース

LibreOfficeとThe Document Foundation

2021年2月3日、LibreOffice Fresh(最新版)/Still(安定版)ともに7系に更新され、同時にCommunityとEnterpriseという表記が追加されました。本稿は、2021年2月4日のLibreOffice日本語チームBlogを基に、Community/Enterpriseとは何か、これまでのFresh/Stillと何が違うのかを調査しました。

CommunityとEnterpriseの背景

Communityは、これまで同様無償のボランティアサポート版、Enterpriseは、Collabora社などのエコシステムパートナから技術サポートなどが得られる企業版です。

パッケージ   想定ユーザ 2021/02/03版数
Community Fresh(最新版) 技術マニア、新しいもの好き、パワーユーザ向け 7.1.0
Community Still(安定版) 家庭、慎重なユーザ向け 7.0.4
Enterprise パートナ提供 ビジネス組織、法人企業向け Collabora版など
LibreOffice (2021年2月10日現在)

Community とEnterpriseに分けられた背景は、LibreOfficeの導入が企業や団体でも増えた結果、ボランティアサポートに負荷が掛かりすぎたためだと推測します。LibreOffice開発元の独)TFD:The Document Foundationは、従来から企業向けには、様々なメリットがあるEnterprise版の利用を推薦してきたようです。

オープンソースソフトウェアは、ユーザシェアが増えると企業と個人向けに分けて配布されるようになるのは、Linuxなどと同様と考えれば良いのかもしれません。つまりそれ程、LibreOfficeのシェアが増えてきた結果とも考えられます。

LibreOffice Community 7.1新機能

個人利用に関しては、これまで通りLibreOffice Community Fresh(最新版)/Still(安定版)を使えます(以下、Community表記省略)。どちらも7系となったLibreOffice 7.1の主要新機能は、2分弱の動画でご覧いただけます。

筆者は、LibreOfficeの図形描画ツール:Drawを、「高価なMicrosoft Office Visioの代わりにWord/Excelなどでも使える高度描画ツール」としてお勧めしてきましたので、Fresh 7.1 Drawの追加機能の一部を説明します。

関連投稿:LibreOffice Fresh更新とDraw使い方のコツ

LibreOffice Fresh 7.1のギャラリー追加拡張機能

Draw 7.1のギャラリーに、新に色々なギャラリーをウェブサイトから追加できる拡張機能が加わりました。

LibreOffice 7.1ギャラリーで追加されたウェブサイトギャラリー追加ボタン
LibreOffice 7.1ギャラリーで追加されたウェブサイトギャラリー追加ボタン

これに伴い、右側7.0のギャラリー表示ボタンと新しいテーマボタンが、左側7.1のギャラリー下段へ移動し新しいテーマボタンもNew…へ変わりました。この右端の「Add more galleries via extensionボタン」が、7.1のギャラリー追加機能です。

この拡張機能ボタンをクリックすると、様々なギャラリーをウェブサイトからインストールできることが判ります。前回7.0 での投稿:新しいギャラリー追加方法で示した各種矢印も、Arrows 6.4 Galleryで提供済です。

LibreOffice 7.1のウェブサイトでインストールできるギャラリー例
LibreOffice 7.1のウェブサイトでインストールできるギャラリー例

矢印の他にも、回路図やパズルなどのギャラリーもあります。このギャラリー追加機能は、DrawだけでなくWriterやCalcなど全てのLibreOfficeツールで共通の機能です。

LibreOffice 7.1は、従来の7.0よりも多様な図形描写がより簡単にできます。

まとめ

従来同様に使用できる個人向けLibreOffice Communityは、Fresh 7.1.0、Still 7.0.4に更新、ともに7系になりました。LibreOffice Community Fresh 7.1.0のギャラリーに、新たにウェブサイトギャラリーの追加機能が備わり、7.0.4よりも多様な図形描写が簡単にできます。

TDFは、技術サポートなどがあるエコパートナ提供のLibreOffice Enterprise利用を、企業向けLibreOfficeとして推薦しています。

開発者向けMCU生産技術の現状

先端半導体の供給不足
先端半導体の供給不足

COVIC-19の影響で自動車、ゲーム機、PC、5Gスマホに搭載される先端半導体の供給不足が発生中です。自動車は生産調整、ゲーム機も品薄のため販売中止のニュースが流れています。一方で、任天堂Sonyは、ゲーム機好調で、業績上方修正も発表されました。

本稿は、これら先端半導体とMCUに使っている半導体の違いを、筆者を含めたマイコン開発者向けにまとめました。

先端半導体供給不足

AppleやQualcommなどの半導体ベンダの多くは、設計・開発は行うものの、生産は台湾TSMCやUMCなど世界に数社しかない先端半導体受託生産会社(ファウンドリー)へ製造依頼するファブレス企業です。このファウンドリーの先端半導体生産量がボトルネックとなり供給不足が発生しています。

需要に追いつくよう生産設備も増設中ですが、スグには対応できません。その結果、価格競争が起こり、ゲーム機など高パフォーマンスで高価格でもOKなデバイスが優先、一方、コスト要求の強い自動車向けデバイスなどは後回しになった結果が、最初のニュースの背景です。

MCU半導体と先端半導体の差

半導体の製造や生産技術は、ムーアの法則に則り、年々微細化が進みます。これは、MCU半導体でも先端半導体でも同じです。違いは、「製造プロセスの世代」と「大容量フラッシュ搭載の有無」です。

最先端半導体の微細化技術は、28nm→14nm→7nmと製造プロセス世代が進み現在5nmなのに対し、MCU半導体は、現在28nmの1つ手前、40nmです。

※微細化の指標は、いかに細いロジック配線を実現できるかで表されnm:nanometerは、1 nm = 0.001 µm = 0.000001 mm:10億分の1メートル。

MCU半導体の微細化が遅れる理由は、MCUデバイスには簡単に微細化できない大容量Flashメモリの内蔵が必須だからです。

つまり、我々が開発するアプリケーションは全てMCUに内蔵される訳で、ここがPCやゲーム機の外付けメモリ+キャッシュ内蔵の制御系と根本的に異なる点です。

最新MCU微細化技術

上記の難しい大容量Flash微細化にも、技術革新が起きつつあります。詳細を知りたい方は、世界最小のメモリセルで最先端マイコンの低価格化を牽引する相変化メモリの記事を参照してください。

IoT MCU開発には、エッジAIや無線通信、高度セキュリティ、OTA:Over The Air更新など従来MCUに無い多くのIoT機能追加が必要です。これら機能実装には、更なる大容量Flash搭載が必須です。

IoT MCUの将来
IoT MCUの将来

大容量Flashの低価格実装と製造プロセスの世代が進めば、MCUデバイスの開発アプリケーション適用幅は大きくなると筆者は思います。つまり、より汎用化すると思います。

現在のMCUは、アプリケーション毎に内蔵周辺回路やFlash/RAM容量が異なるなど多品種でデバイス選択時、開発者を悩まします。しかし、近い将来、IoT MCUデバイス選択に開発者が悩むことも無くなるかもしれません。

関連投稿:無線STM32WBと汎用STM32G4比較の6章

MCU大手ベンダは自社製造中

NXP/ST/Renesas などの大手MCUベンダもファウンドリーを利用しますが、どこも自社工場でも製造を行っています。各社の会社紹介パンフレットには、必ず自社製造拠点の図がありますし、販売後10年間のデバイス供給保証も謳っています。

ARM社提供のCortex-Mコア設計図は同じでも、それを活かす実装設計・開発・製造がベンダ毎に異なるので他社差別化ができる訳です。

また、これらMCUベンダは、自社デバイスと並行して自動車向けデバイスの設計・開発・製造も行っています。ADASやMCU微細化技術の進化、ファウンドリーの供給不足状況などが、MCUベンダ各社に今後どのように影響するかは注目して行きたいと思います。

関連投稿:5G、Wi-Fi6、NXP、STマイクロエレクトロニクスの3章:NXP対応

まとめ

  • MCU半導体と先端半導体には、製造プロセス世代と大容量Flash搭載有無に差がある
  • 現状のMCU半導体は、大容量Flash搭載の40nmプロセス、先端半導体は、5nmプロセス
  • IoT MCUの更なる大容量Flash実装に向け、MCU微細化技術革新が起こりつつある
  • 大容量Flash低価格実装と製造プロセス進化によりIoT MCUはより汎用化する
  • COVID-19による先端半導体供給不足がMCU半導体ベンダへ影響するかは、要注目

Blogテーマ変更とMCU開発顧客満足

本Blogテーマを、今週~来週にかけて変更中です。期間中は、画面表示が乱れる可能性もありますがご容赦ください😌。Blogツール:WordPressにご興味が無い方は、最後の章:MCU開発顧客満足をお楽しみください。

オープンソースCMSのWordPressによるBlog投稿

Blogテーマ変更理由

本Blogは、WordPressというオープンソースCMS(Contents Management System)を使って投稿しています。テーマとは、Blog表示の見た目を変える、着せ替え洋服のようなものです。テーマ変更理由は、2つです。

  1. 約2年前に導入されたWordPressの新しいGutenbergエディタ対策
  2. 昨年後期から続くサイトマップトラブル対策

Gutenbergエディタ

従来のWordPress標準エディタは、Classicエディタと呼ばれ、Web版無償Microsoft Wordのようなものです。基本的な文章エディタ機能を提供し、使い方も簡単でした。これに対し、新しく標準となったGutenbergエディタは、ブロック単位の編集・加工を行うなど操作性や使い方が大きく変わりました。

※Gutenbergエディタは、15世紀に活版印刷技術を発明したヨハネス・グーテンベルクにちなんで命名されました。WordPressの記事投稿に際し、活版印刷登場ほどインパクトがあると言うことです。

旧Classicエディタを使い続けたい多くのブロガーのために、標準Gutenbergエディタを無効化し、Classicエディタを復活するプラグインが提供され、筆者もこれを使い続けてきました。

但し、Gutenbergエディタは、毎年改良され機能や使い方も進化、この進化系Gutenbergエディタ対応の新しいテーマも増えてきました。

xmlサイトマップ

xmlサイトマップは、GoogleやYahoo、Bingなどの検索エンジンへ、弊社Blogの投稿内容等を知らせる手段です。

原因不明ですが、昨年後半から投稿数は週一で増やしているにも係わらず、サイトマップの有効ページ数が減り続けています。検索エンジンにマップされなければ、投稿しても読者に発見されず苦労が報われません。

ネット情報によると、プラグイン間の相性など様々な原因がありえますが、解決しません。いわゆるPCとアプリケーションとの相性問題と同じようです。

そこで、1のGutenbergエディタ対策時に、新テーマ導入と同時にプラグインを変える/減らすなどして対処しようと考えました。

Blogテーマ変更結果

今回のBlogテーマ変更の結果、WordPressの新Gutenbergエディタは習得しました。

しかし残念ながら、サイトマップトラブルは、更に悪化しました。プラグイン相性だけでなく、新導入テーマにも関係している可能性もありますが、依然として原因不明です。

算定措置として、Gutenbergエディタと新テーマ利用へ変更し、追加プラグインは最小にします。サイトマップトラブルは、継続検討とします。

MCU開発顧客満足

MCU開発でも課題に対し期待する成果が得られない等は、筆者には日常茶飯事です。費やした時間やコストは、戻ってきませんが、実際にやってみなければ本当は判らない事だらけなのがMCU開発業務です。

MCU開発業務は、以下2点の配慮が必要です。

  1. スケジュール立案時は、マージンを織り込む
  2. 成果に直結しない結果でも、今後に活かす

※織り込んだマージンを使わず成果が出た時は、未消化マージンをリフレッシュ休暇に替えます😁。

今回の対策も、年末年始の予定でした。しかし、新テーマの多さやその理解に時間がかかり、結局マージンを使い果たし1月末実施、そして少ない成果となりました。顧客は、自分自身ですが顧客満足は低いです。

しかし、成果に直結しなくても得た(貴重な!?)結果もある訳です。これを今後に活かす事が、費やした時間やコストを無駄にしない唯一の策で、しかも長い目で見れば、顧客満足にも繋がると信じます😤。

MCU開発は、日々の努力が、即成果に結びつかなくても、将来必ず顧客を満足させる結果・スキルになると自分を信じて続ける心構えが重要です(日本では、周囲になかなか理解してもらえないと思いますが😭、欧米開発者は、これがあたりまえの文化でした)。

LibreOfficeギャラリーの新しいテーマ追加方法

1月22日現在、LibreOffice Fresh(最新版)は7.0.4、Still(安定版)は、6.4.7です。LibreOffice6系は、この6.4.7が最後で、以降はStill(安定版)も7系が提供されます。本稿は、6系ギャラリーを7系でも使う方法を示します。

LibreOffice版数(2021年1月22日現在)
パッケージ 想定ユーザ 2020/12/17版数
Fresh(最新版) 技術マニア、新しいもの好き、パワーユーザ向け 7.0.4
Still(安定版) ビジネス組織、法人企業、慎重なユーザ向け 6.4.7(6系最終)

6系と7系のギャラリー差

LibreOffice6系(左)と7系ギャラリー(右)の差
LibreOffice6系(左)と7系ギャラリー(右)の差

6系と7系の矢印ギャラリーです。筆者が6系でしばしば用いた赤上昇、緑降下を示す矢印は、7系ではありません。LibreOfficeのメジャー更新では、「学校と大学」ギャラリーのように提供テーマが消えるだけでなく、「矢印」のような同じテーマでも提供される図が変わることがあります。

旧版で使い慣れたギャラリーの図は、メジャー更新後もそのまま同じように使いたいと思います。そこで、6系の矢印ギャラリーを例に、7系の新しいテーマへ旧系の図を追加する方法を示します。

LibreOfficeギャラリーの新しいテーマ追加方法

LibreOffice更新は、オプションなどのユーザ追加設定は引き継がれますが、ギャラリーなどのプログラムは完全に消去され新版へ変わります。このような更新の一部機能引き継ぎは、1:手動エクスポート、2:LibreOffice更新、3:手動インポートの3手順で行います。

Step 1:手動エクスポート

新版でも使いたい旧系の図を、例えばデスクトップ上などの別フォルダへコピーします。

6系矢印ギャラリーの場合は、C:\Program Files\LibreOffice\share\gallery内に各種の図があり、最初の図の赤上昇はA42-TrendArrow-Red-GoUp.svg、緑降下はA43-TrendArrow-Green-GoDown.svgです。

Step 2:LibreOffice更新

LibreOfficeは、勝手に更新を始めません。

新版通知は、LibreOffice使用中にダイアログで表示されます。更新方法は、コチラの関連投稿を参照して頂くか、またはダイアログに従って操作すれば、ユーザ主体で問題なく更新できます。

Setp 3:手動インポート

新版へLibreOffice更新後、最初の図の新しいテーマをクリックします。

新しいテーマプロパティのファイルタブを開き、ファイルの検索(F)でエクスポートしたフォルダを選びます。すると、エクスポートフォルダ内の図ファイルがリスト表示されます。A42-TrendArrow-Red-GoUp.svgとA43-TrendArrow-Green-GoDown.svg を選択し、追加(A)>OKクリックで新版の新しいテーマへ旧版の図が追加されます。

LibreOfficeの新しいテーマの手動インポート方法
LibreOfficeの新しいテーマの手動インポート方法

追加後、新しいテーマのファイル名を、例えばMyPictureなどへ変更すると手動インポートギャラリーが判り易くなります。

エクスポートした図のすべて追加(D)や、プレビュー(E)を見ながらの選択も可能です。手っ取り早く、旧版ギャラリー図を全て手動エクスポートし、個々の必要性をプレビューで検討しながらインポートすることもできます。

PCインストール版Microsoft Officeライフサイクル

バージョン メインストリームサポート終了日 延長サポート終了日
Office 2013(SP1) 2018-04-10(終了) 2023-04-11
Office 2016 2020-10-13(終了) 2025-10-14
Office 2019 2023-10-10 2025-10-14

PCインストール版Microsoft Officeのライフサイクルが上表です(Windows/Officeライフサイクルを再確認の記事から抜粋)。

つまり、Office 2019以外は、既にメインストリームサポートが終了しています。COVID-19の影響でこの終了日が延期される可能性もありますが、いずれにしても今後2~4年でPCへインストール済みOfficeの安心・安全性は低下します。

Microsoftは、Office 365でWeb版有償Officeサービスを継続して提供します。もちろんWeb版無償Officeも提供中ですが、Microsoft Officeは結局デスクトップ版が必要になる理由からも判るように、無償版の目的は、有償版へユーザを誘導することです。営利目的ビジネスなので当然です。

カテゴリ:LibreOfficeの目的

文書作成ソフトウェアは、PCには必須のツールです。

マルチプラットフォーム(Windows/Mac/Linux)動作で無償オープンソースLibreOfficeの習得は、追加コストなしでPCインストール版Officeの代替対策になります。Officeライフサイクルから、あと数年でOfficeと同レベルでLibreOfficeが使えるようになれば十分でしょう。

※図形描画ツール:LibreOffice Drawだけの習得でも効果があることは、コチラの関連投稿をご覧ください。

本ブログは、Windows環境に慣れたMCU開発者が、Windows起因のトラブル遭遇時、受諾中のMCU開発を中断なく継続する手段として、バックアップMCU開発環境:Linux Mint/LibreOffice/IDEの活用を想定しています。

ブログカテゴリ:LibreOfficeは、バックアップMCU開発環境上で文書作成するためのお役立ち情報です。もちろんWindows上でも動作しますので、もしもの時に備えてLibreOfficeを使ってみてはいかがでしょう?

無線STM32WBと汎用STM32G4比較

STマイクロエレクトロニクスの近距離無線通信機能付きSTM32WB(Cortex-M4/64MHz)と、汎用メインストリームSTM32G4(Cortex-M4/170MHz)を比較します。

Bluetoothなどの超省電力無線通信は、IoTデバイスに好適です。無線機能付きSTM32WBのIoTアプリケーション開発方法を調査し、汎用STM32G4を使ったSTM32WBのIoTアプリケーション開発の可能性とメリットを検討しました。

ディアルコアSTM32WBとシングルコアSTM32G4

STM32WBとSTM32G4、どちらもARM Cortex-M4コアを持つMCUです。違いは、STM32WBが、無線処理専用Cortex-M0+コア/32MHz内蔵のディアルコアMCUという点です。

Cortex-M4とM0+コア間のアプリケーションは、プロセス間通信コントローラ(IPCC)によりノンブロックイングで割込み利用のメッセージ交換が可能です。IPCCは、コアをSleep/StopモードからRunモードへ復帰させることもできますので、両コアは別々に低消費電力動作ができます。

STM32WBシリーズの紹介スライドP2から抜粋したSTM32WBとSTM32G4の位置づけが下記です。ワイヤレスマイコンのSTM32WLとSTM32WBの違いは、WLはLoRaWANなど、WBはBluetoothなどのサポート無線規格が異なる点ですが、Cortex-M4とM0+のディアルコア構成は同じです。

STM32WBとSTM32G4の位置づけ(出典:STM32WBの紹介)
STM32WBとSTM32G4の位置づけ(出典:STM32WBの紹介)

無線コプロセッサ:Cortex-M0+コア

STM32WBのCortex-M0+コアは、Bluetooth 5、ZigBee、OpenThreadなど2.4GHz帯無線通信処理専用です。ユーザ(開発者)は、利用する無線規格(BLE⇋ZigBeeなどのブリッジも可能)を選択し、STマイクロエレクトロニクス開発の無線専用ファームウェアをCortex-M0+へダウンロードします。但し、このファームウェアに手を加えることはできません。

言い換えれば、Cortex-M0+側の無線処理はSTの動作保証付きで、ファームウェアバージョンアップなどのメインテナンスは必要ですが、ユーザ変更などは不必要、ブラックボックスとして扱える訳です。

つまり、見た目はディアルコアですが、STM32WBのCortex-M0+は無線コプロセサで、外付け無線モジュールと同等です。従って、ユーザが開発するSTM32WBのIoTアプリケーションは、シングルコアのSTM32G4と同じ手法で開発が可能です。

Bluetooth 5(BLE含む)とサンプルプログラム

STM32WBの無線規格は、Bluetooth5やZigBeeなど複数プロトコルをサポートしています。このうち、IoTセンサの少量データ収集アプリケーションに好適なBluetooth5とBLEの詳細は、Bluetooth Low Energyプロトコルの基礎知識に説明があります。BLEを利用するIoTセンサ・アプリケーションを開発する場合には、最低限必要となる知識です。

STM32WBには、開発環境STM32CubeWBP-NUCLEO-WB55評価ボードで動作する様々なBLEサンプルプログラムがあります。サンプルプログラムの解析やこれらを応用したIoTアプリケーション開発時、BLE基礎知識が役立ちます。

また、P-NUCLEO-WB55評価ボードとスマートフォンをBLE接続し動作するサンプルプログラムもあります。

FSU: Firmware Upgrade Services

ディアルコアSTM32WBのCortex-M4アプリケーション開発時は、Cortex-M0+ファームウェアも同時にFlashへ書込みます。この点が、シングルコアSTM32G4開発と異なる部分です。

このFlash書込みには、STM32CubeProgrammmerのコマンドライトツール(CLI)で提供されるFSU:Firmware Upgrade Servicesを使います(動画説明はコチラを参照してください)。

簡単に言うと、Cortex-M4とCortex-M0+でメモリ共有中のFlashへ、ユーザ開発Cortex-M4アプリケーションを書込む時に、同時に通信Cortex-M0+ファームウェアも更新する仕組みで、手順さえ守れば通常のSTM32CubeIDEを使ったシングルコアSTM32G4のFlash書込み同様簡単です。

Flash書込み後は、STM32G4と同じ方法でアプリケーションデバッグを行います。

無線通信機能付きディアルコアSTM32WBと汎用シングルコアSTM32G4比較結果

P-NUCLEO-WB55とNUCLEO-G474RE
STM32WB評価ボードP-NUCLEO-WB55(左)とSTM32G4評価ボードNUCLEO-G474RE(右)

本稿で示したSTM32WB関連情報は、昨年末に行われたSTマイクロエレクトロニクス日本語ウェビナー資料から抜粋したもので、STM32マイコン体験実習(Bluetooth®編)でオリジナル動画とスライドが公開中です。また、STM32WBトレーニング資料Cortex-M4トレーニング資料も参考にしました。

前章までで、無線通信機能付きディアルコアSTM32WBと汎用シングルコアSTM32G4を比較し、下記を得ました。

  • ディアルコアSTM32WBのCortex-M0+側は、通信コプロセサでブラックボックとして扱える。
  • 例えば、IoTセンサデータ収集などのCortex-M4側IoTアプリケーションを、HAL(Hardware Abstraction Layer)APIで開発すれば、通信部分は異なるがデータ収集部分はSTM32WBとSTM32G4で共通開発できる。
  • STM32WBとSTM32G4で異なる点は、評価ボードへのFlashプログラミングだが、手順は簡単。
  • STM32WBのFlashプログラミングで用いたSTM32CubeProgrammerは、STM32G4のRoot of Trustで用いたもので、STM32WBでもSTM32G4と同様のRoot if Trustを実現できる。

HAL APIはコチラの関連投稿などを、STM32G4のRoot of Trustはコチラの関連投稿を参照してください。

STM32WBのIoTアプリケーションを汎用STM32G4で開発

最初の図に示したCortex-M4動作最高周波数の64MHzと170MHz、デバイスFlash/RAM容量差に注意すれば、STM32WBのIoTアプリケーションを汎用STM32G4で開発することは、可能でメリットもあると思います。

前提条件として、HAL API開発であること、STM32WBのIoTアプリケーション用Flash/RAM容量が、無線通信コプロセサCortex-M0+が使っても十分残ること、無線通信の代用としてUSARTなどの有線通信を使うこと、などです。FreeRTOS利用が良い場合があるかもしれません。

無線コプロセサCortex-M0+使用容量は、かなり少なく(ウェビナーでは使用量が公表されましたが数値未取得)Cortex-M4 IoTアプリケーション用空き容量は十分あります。また、汎用STM32G4の方が高速動作のため開発制約条件も緩いです。無線では、通信断時のエラー処理検討が必要ですが、有線ですのでエラー処理なしで本来の通信処理は開発可能です。

つまり、STM32WBの無線通信エラー処理以外は、ほぼ全て汎用STM32G4で代用開発が可能です。

Cortex-M4クラスMCUは、どれも高速で大容量Flash/RAMを実装し高いポテンシャルを持っています。つまり、IoTプロトタイプ開発とその評価には、最適なデバイスです。

汎用STM32G4で代用開発済みアプリケーションをSTM32WB/STM32WLへ移植し、IoTプロトタイプ開発をスピードアップするメリットは、差分開発、つまりIoT特有機能の差分を開発ができることです。

ある程度MCU開発経験を持つ開発者が、従来MCU開発では少なかった無線通信や高度なIoTセキュリティなどのIoTアプリケーション特有の重点ポイントに注力でき、即座にIoTプロトタイプ開発(代用開発含む)とそれを評価するツールとなること、これが弊社Cortex-M4テンプレートの目標です。

評価の結果、仮にMCUやIoTセンサ、無線機能の再選択が必要となっても、開発部分の多くが次に即座に流用できるソフトウェア資産となるには、汎用STM32G4によるIoTプロトタイプ開発が有効だと思います。

具体的には、従来テンプレートとは「対象者レベルと目的を変える」ことを検討中です。

  • 従来Cortex-M0/M0+/M3テンプレートは、対象者が初心者/中級レベル開発者で、MCU基本動作(Simpleテンプレート)とADC/LCD動作(IoT汎用Baseboardテンプレート)を提供し、基本的なMCU理解と開発が目的のテンプレート
  • Cortex-M4テンプレートは、対象者が中級レベル以上の開発者で、MCU基本動作などは省き、IoTプロトタイプ開発高速化が目的のテンプレート

本稿説明がすんなりとご理解頂ければ、中級レベル以上の開発者、Cortex-M4テンプレート対象者だと思います。

Cortex-M4テンプレートの対象レベルと目的
Cortex-M4テンプレートの対象レベルと目的

News

2021年1月12日、STM32CubeとMicrosoftのAzure RTOSが統合、STM32マイコン開発環境で協力というニュースが発表されました。STのCortex-M4テンプレートは、FreeRTOSとAzure RTOSの両方が必要かもしれません。

STブログに、上記の詳細情報があります。

Kinetis Lテンプレート発売

FRDM-KL25ZとIoT汎用Baseboardを使った、NXP Kinetis Lシリーズ向けテンプレートを1000円(税込)で発売します。

IoT Baseboardテンプレート
IoT Baseboardテンプレート

IoT BaseboardテンプレートのVCOM
IoT BaseboardテンプレートのVCOM

IoT Baseboardテンプレート右横から
IoT Baseboardテンプレート右横から

Kinetis LシリーズとFRDM-KL25Z

超低消費電力と高性能を特徴とするNXPのKinetis Lシリーズは、2013年旧Freescale発売のCortex-M0+コア汎用マイコンです。FRDM-KL25Z(Cortex-M0+:48MHz、Flash:128KB、RAM:16KB)は、このKinetis Lシリーズ汎用マイコン習得ができる低コスト評価ボードです。

FRDM-KL25Zは、MCUXpresso SDK内にFreeRTOSとUSBのサンプルプロジェクトもあり、またmbed開発も可能です。様々なMCUアプリケーション開発に汎用的に使え、初心者から中級レベル以上の方でも満足できる仕様を持っています。

今年で発売から8年経過したKinetis Lシリーズは、最新のNXP開発環境MCUXpresso IDE/SDK/CFGでサポートされており、弊社Kinetis Lテンプレートもこの最新開発環境で開発しました。

Kinetis Lテンプレート

FRDM-KL25Z評価ボードのVCOMGPIOタッチスライダなどの基本的な使い方は、本ブログで既に説明してきました。

問題は、これら使い方を複数組み合わせてアプリケーションを開発する段階になった時、具体的にどうすれば開発できるかがマイコン初心者には解りにくく、つまずき易い点です。

Kinetis Lテンプレートは、この問題に対して1つの解決策を示します。詳細は、Kinetis Lテンプレートサイトと、付属説明資料のもくじ(一部ダウンロード可能)を参照ください。

FRDM-KL25Zで動作確認済みのKinetis Lテンプレートには、FRDM-KL25Z単体動作のシンプルなテンプレート応用例(Simpleテンプレート:下図)と、LCDやポテンショメータが動作し、様々なArduinoシールド追加も簡単にできるIoT汎用Baseboardとを併用したテンプレート応用例(IoT Baseboardテンプレート:最初の図)の2種類を添付しています。

Simpleテンプレート
Simpleテンプレート

SimpleテンプレートのVCOM
SimpleテンプレートのVCOM

マイコン初心者や中級レベル開発者の方が、テンプレート付属説明資料とSimpleテンプレートを利用するとKinetis Lシリーズの効率的習得、IoT Baseboardテンプレートを利用するとLCD/ADC動作済みでシールド追加も容易な段階からアプリケーション開発やIoTプロトタイプ開発が直に着手できるツールです。

これらテンプレートに、もくじ内容の付属説明資料を付けて1000円(税込)で販売中です。購入方法は、コチラを参照ください。

FRDM-KL25ZのFreeRTOSとUSB

MCUXpresso SDKが提供するFRDM-KL25Z評価ボードFreeRTOSサンプルプロジェクトは、弊社MCU RTOS習得(2020年版)で解説したNXP LPCXpresso54114 (Cortex-M4:100MHz、Flash:256KB、RAM:192KB)と同じ内容です。このRTOS習得ページを参照すれば、FRDM-KL25ZによるFreeRTOS理解も容易です。

また、難易度は高くなりますがUSBサンプルプロジェクトも、参考になる情報満載です。これらFreeRTOS、USBサンプルプロジェクトは、中級レベル以上のマイコン開発者に適しています。

初心者、中級レベル向け弊社Kinetis Lテンプレート付属説明資料には、FreeRTOS、USB関連情報は情報過多になるため含んでおりません。

テンプレート付属説明資料の範囲
テンプレート付属説明資料の範囲

しかし、テンプレートを使ってKinetis Lシリーズマイコン開発を習得すれば、スキルを効率的にレベルアップでき、難易度が高いFreeRTOSやUSB開発へも挑戦できます。

つまり、Kinetis Lテンプレートは、初心者、中級レベルの上級マイコン開発者への近道とも言えます。

あとがき

年末年始休暇中に、Cortex-M0+コアのKinetis Lテンプレート発売に何とかたどり着きました。

2021年は、Cortex-M4コアテンプレート化、無線やセキュリティなどのIoT MCU重要課題に対してサイト/ブログを見直すか?とも考えております。皆様のご意見、ご要望などをinfo@happytech.jpへお寄せ頂くと参考になります。

本年も引き続き、弊社マイコンテンプレートサイトと金曜ブログ、よろしくお願いいたします。

2020マイコンテンプレート案件総括

COVID-19パンデミックの2020年も残すところ2週間になりました。2020年の金曜ブログ投稿は本日が最後、次回は2021年1月8日(金)とし休暇に入ります。

※既存マイコンテンプレートは、年中無休、24時間販売中です、いつでもご購入お持ちしております。

2020マイコンテンプレート案件総括

  1. 🔴:Cortex-M4コア利用のマイコンテンプレート開発(2020年内)
  2. 🟡:FRDM-KL25ZとIoT汎用Baseboard利用のKinetis Lテンプレート発売(12月)
  3. 🟢:IoT MCU向け汎用Baseboard開発(10月)
  4. 🟢:STM32FxテンプレートV2発売(5月)
  5. 🟢:STM32G0xテンプレートV2発売(5月)

1のCortex-M4テンプレート開発は、STM32G4のRoot of Trustと、NXP LPCXpresso54114のRTOSサンプル解説で、Cortex-M4テンプレート化には程遠い状況です(赤ステータス)。

2のKinetis Lテンプレート(FRDM-KL25Z、Cortex-M0+/48MHz、Flash:128KB、RAM:16KB)は、添付説明資料作成が未着手です(黄ステータス)。

3のArduinoプロトタイプシールド追加、IoT MCU汎用Baseboardは完成しました(緑ステータス)。

4と5のSTM32FxテンプレートSTM32G0xテンプレート発売までは、ほぼ順調に進みました(緑ステータス)。

対策としてブログ休暇中に、2のKinetis Lテンプレート完成と、これに伴うHappyTechサイト変更を目標にします。
1のCortex-M4テンプレート開発は、2021年内へ持越します。

ブログ記事高度検索機能(1月8日までの期間限定)

休暇中、ブログ更新はありません。そこで、読者の気になった過去の記事検索が、より高度にできる下記Googleカスタム検索機能を、1月8日までの期間限定で追加します。

上記検索は、WordPressのオリジナル検索(右上のSearch…窓)よりも、記事キーワード検索が高度にできます。少しでもキーワードが閃きましたら、入力してご活用ください。

あとがき

激変の2020年、テンプレート関連以外にも予定どおりに進まなかった案件や、新に発生した問題・課題も多数あります。例年より少し長めの休暇中、これらにも対処したいと考えております。今年のような環境変化に対し、柔軟に対応できる心身へ変えたいです(ヨガが良いかも? 3日坊主確実ですが…😅)。

本年も、弊社ブログ、HappyTechサイトをご覧いただき、ありがとうございました。
今後も、引き続きよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。

Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分

STマイクロエレクトロニクスが、STM32マイコン体験実習(セキュリティ編①~⑤)という動画でCortex-M33 TrustZone解説とSTM32L5(Cortex-M33/110MHz、Flash/256/512KB、RAM/256KB)のセキュリティ実習を行っています。

このセキュリティ編①:31min17secから、IoT MCU向けセキュリティ強化Cortex-M33コアのARM TrustZoneマイコンと、通常Cortex-M0+/M4コアマイコンとの差分を抽出しました。TrustZoneマイコン基礎知識の習得が目的です。

Cortex-M33とCortex-M0+/M4差分

セキュリティ編動画①~⑤概要

①P3(動画①、スライドP3を示します)に、動画①~⑤の概要が示されています。動画①でCortex-M33コアの解説、②でSTM32L5開発環境の準備、後半③~⑤でSTM32L5評価ボード:NUCLEO-L552ZE-Q(¥2,303 Mouser)を使ったセキュリティ演習という構成です。

本稿は、動画①から、ARM TrustZone Cortex-M33コアと通常Cortex-M0+/M4コアとの差分を一覧表にしました。

※ARM公式差分情報を知りたい方は、①P48の参考文献が参考になります。

Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分

オンデマンド動画ですので、好きな個所で止める、再生読度を変えるなどが可能です。動画①は、筆者が経験したTrustZone解説の中で最も分かり易い動画です。

特にP36/P37/P39は、4段階に増えたステート処理内容が具体的に判りTrustZoneマイコン特徴理解に役立ちます。
また、P19は、様々なセキュリティレベルと対応STM32MCUのセキュリティ機能差が一目で判る重要な資料です。

要旨(ARM TrustZone Cortex-M33と通常Cortex-M0+/M4差分)
7 ソフトウェア攻撃防御策がTrustZone。物理攻撃対策はセキュアマイコン(≠汎用MCU)が有効。
12 Secure呼出し=予め決めた手順で内蔵周辺回路(I2C/SPI/RAMなど)へアクセスする技術
Security Isolation=Secure呼出しを使い通常アクセスと隔離・分離する技術
ARM TrustZone=Security Isolationを対象MCUで柔軟に構成する技術
16 タンパ=物理攻撃を検出→検出後バックアップレジスタやSRAM自動消去
JTAGピン無効化→設定後はGPIOなどで運用
WRP(WRite Protection):数KB単位設定可能
RDP(ReaD Protection):JTAG読出し禁止→読出検出でプログラム実行停止→PORで解除
Secure Memory=起動時のみ読出し可能な領域
17 MPU(Memory Protection Unit):最大16個メモリ領域の読書き、命令実行許可/禁止設定
18 セキュリティは単独では効果が薄く、複数重ね攻撃への敷居を上げ強化(暗号鍵保存例掲載)
19 STM32マイコン内蔵セキュリティ機能差一覧。TrustZone対応はSTM32L5のみ(2020/12時点)
STM32G0/G4(Cortex-M0+/M4)でもSRAM RDP機能などあり
22 TrustZoneは、アドレス空間とバス通信の両方をハードウェア監視しアクセス制御
23 アドレス空間監視=コア内蔵SAU IDAU、バス通信監視=TZ(TrustZone) ControllerとAHBバス
24 STM32L5は、内部FlashアクセスにST独自Flashレジスタとオプションバイトで保護
26 TrustZone-aware周辺回路=DMA1&2/GPIO…などAHB接続回路は個別セキュリティ設定要
上記以外がSecurable周辺回路=UART/SPI…などでAHB/APBブリッジがアクセス監視
29 従来MCUベアメタル開発は、mainループも割込みハンドラも常に特権モード動作の1段階
30 従来MCUのRTOS開発は、割込みハンドラ/RTOSが特権モード、ユーザタスクは非特権の2段階
32 Secureステート追加TrustZoneは、4段階化→各層の処理配置がTrustZoneソフト設計第一歩
35 Secureソフトと従来ソフトのプロジェクト差一覧
(セキュリティ関連設定はSecureソフトのみ可能でmain関数はあるがmainループなしなど)
36 TrustZoneマイコンベアメタル開発の4段階ステート処理配置例(TrustZoneソフト設計例1)
37 TrustZoneマイコンRTOS開発の4段階ステート処理配置例(TrustZoneソフト設計例2)
38 TrustZoneソフト開発時、Secureソフトと通常ソフトの2プロジェクト作成必要
39 TrustZoneソフトの基本実行フロー(Secureソフトから通常ソフトへの処理内容一覧)
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Secureステートと通常ステートのアドレス空間の見え方差まとめ
44 動画①全体まとめ
45 STM32L5開発時のキーポイント一覧(全18項目)
46 STM32L5開発時のキーポイント演習項目一覧(18項目中9項目を動画③~⑤で演習)
48 おすすめARMv8-M(Cortex-M33コア)TrustZone参考文献一覧

TrustZoneマイコン開発は工数2倍、スキルも必要

動画①は、他ベンダのARM Cortex-M33 TrustZoneマイコン開発でも基礎知識が得られます(※P24のST独自Flashレジスタとオプションバイト保護は除く)。IoT MCU向けセキュリティ強化Cortex-M33コアで導入されたTrustZoneを活用するには、①の理解は最低限必要です。

従来Cortex-M0+/M4に比べ、Cortex-M33シングルコア開発でもSecureと通常(Normal)ソフトウェアの2プロジェクト必要、メモリ空間と周辺回路のセキュリティ設定必要(メモリ分割損も生じると予想)、JTAGピン無効化など、従来のアプリケーション開発とそのデバッグに加え、ソフトウェア攻撃対策TrustZone導入による工数やその動作確認/解除などの手間が余分に必要になります。

このTrustZone導入オーバーヘッドは、少なくないです(セキュリティ編②~⑤でオーバーヘッド工数が判ります。補足章に動画②~⑤リンク添付)。Cortex-M33コア最高速度が110MHzと他コア比高速で、Flash/RAMも大容量なのは、このオーバーヘッドのハードウェア対策だと思います。

TrustZoneマイコンのソフトウェア開発工数は、同じアプリケーションの通常マイコン開発の2倍程度は必要になると思います。また、TrustZone起因のトラブルに対する分析スキルも必須です。

ソフトウェア攻撃に対する防御壁の高さは、言い換えると、ソフトウェア開発のし難さと等価です。セキュリティレベルが上がるにつれ、開発コストも上がります。

全てのIoT MCUがTrustZone対応MCUである必要は無いと思います。コスト重視の場合は、従来Cortex-M0+/M4コアでセキュリティ強化対応(例えば、関連投稿:STM32G0/G4のRoot of Trust(1)~(3)など)でも使える可能性があります(関連投稿:IoT MCUコア次世代像のIoT MCUコアの3層構造最下層のFront End IoT MCUに相当)。

セキュリティは、強固な方が良いのは当然ですが、それ相応の追加コストも生じます。セキュリティ対コストの観点からIoT MCUの選択が必要となるでしょう。

* * *

セキュリティ対策は、いわば自動車保険のようなものです。保険代金の負担は、開発者かエンドユーザか、エンドユーザがTrustZone導入オーバーヘッドを理解することは難しいと思いますので悩ましい問題です😅。

Cortex-M33 TrustZoneマイコンは、ソフトウェア開発者が記述した処理を攻撃とマイコンが誤認識(正常認識)した場合は、無視、あるいは最悪、マイコンを使用不能にします。見つけにくい無視された処理が、開発者起因か、あるいはTrustZone起因かを分析できるスキル、これが、通常マイコン開発との最大の差分です。

STM32マイコン体験実習は、TrustZone起因スキルを習得できるよく考えられた教材です。

補足

STM32マイコン体験実習(セキュリティ編②
STM32マイコン体験実習(セキュリティ編③
STM32マイコン体験実習(セキュリティ編④
STM32マイコン体験実習(セキュリティ編⑤

関連投稿:STM HTML版マンスリー・アップデートの見かた4章の全体像リンク集なども役立ちます。

Cortex-M33コア以外でTrustZone技術を用いたマイコンは、Cortex-M35P、Cortex-M23があります。

IoT MCUの無線LAN

IoTに適した無線LANの条件とは?(TechTarget、2020年11月27日)記事を紹介し、IoT MCU関連のプライベート網無線LAN規格を説明します。

IoT向き無線LAN条件と規格

纏まった良い記事なので、一読をお勧めします。

記事を要約すると、IoT向きの無線LANの選定には、3つの検討ポイントがあります。

  1. 省電力性:バッテリーだけで長時間無線LAN通信ができる
  2. 長距離伝送性:アクセスポイント(AP)から1km以上離れる場合がある
  3. 国より異なる利用周波数の空き状態確認

各ポイントを満たす無線LAN規格として下記3つを挙げ特徴を説明しています。

  • IEEE 802.11ah(別名Wi-Fi HaLow):Target Wake Time(TWT)により通信タイミングを調整しAP通信競合を防ぐと同時にスケジュールタイムまでスリープし電力消費を抑える
  • IEEE 802.11ba:TWTに加えWake-Up Radio省電力機能を利用しAPからの通信要求に対応
  • IEEE 802.11af: 54MHz~698MHz利用で900MHz~1GHzの802.11ah/802.11baより長距離伝送可能
    ※11afは、テレビ用ホワイトスペースのVHF/UHFバンド(54 MHz~790 MHz)利用なので空き状態により耐ノイズ注意

IoT向き無線LANとBluetooth

無線LANには、2.4GHz利用、数m~10m程度の「近距離無線通信規格」:IEEE 802.15.1(別名Bluetooth)もあります。コイン電池で1年以上動作できるなど超省電力動作ですが、低速です。PCやスマートフォンでは、マウス/キーボード/ヘッドホンなどの周辺機器との接続に使われます。

より高速、より長距離(400m程度)、より高スループットを目指し、Bluetooth v4.2、Bluetooth 5などと規格が変化しています。

IoT MCUへの実装は、Bluetooth 5内蔵MCUBluetooth 5モジュールとMCUを接続する方法があります。

IoT 向き無線LANとPC/スマホ向き無線LAN

2020年12月時点のPC/スマートフォン無線LAN規格が下表です(出展:NTT西日本公式ホームページ)。

規格 周波数帯 最大通信速度
IEEE 802.11b 2.4GHz 11Mbps
IEEE 802.11g 2.4GHz 54Mbps
­­­­IEEE 802.11a 5GHz 54Mbps
IEEE 802.11n 2.4GHz 600Mbps
5GHz
IEEE 802.11ac 5GHz 6.9Gbps
IEEE 802.11ad(WiGig) 60GHz 6.8Gbps
IEEE 802.11ax 2.4GHz 9.6Gbps
5GHz

IoT向き無線LANと異なるのは、周波数帯がより高周波の2.4GHz/5GHzを利用する点と、新規格11ac/11ad/11ax、従来規格11b/11g/11a/11n、ともにデータ伝送速度が速い点です。スマホのAPは、家庭や店舗に設置された無線LANルータで、高周波利用のため伝送距離は精々100m程度、60GHzの11adでは10m程度です。公衆網5G高速化に伴い新無線LAN規格:11ac/11ad/11axが普及しつつあります。

動画再生などの利用形態も多いPC/スマホ向き無線LANは、「高速大容量化」が求められます。IoTの「長距離省電力」要求とは、異なる無線LAN規格となっています。

まとめ:IoT MCUプライベート網の無線LAN規格

無線LANアクセスポイントからの伝送距離変化
無線LANアクセスポイントからの伝送距離変化

プライベート網無線LAN規格は、APからの伝送距離により、

  1. 「近距離(10m以下)超省電力」規格(周辺機器向き):Bluetooth(IEEE 802.15.1)
  2. 「短距離(100m程度)高速大容量」規格(PC/スマホ向き):IEEE 802.11a/11b/11g/11n/11ac/WiGig(11ad)/11ax
  3. 「長距離(1km以上)省電力」規格(IoT向き):Wi-Fi HaLow (IEEE 802.11ah)/11.af/11.ba

の3種類があります。

IoT MCUには、最新のBluetooth 5や屋外や1km半径の広い敷地内でも使える長距離省電力規格のWi-Fi HaLowが望まれるようです。

但し、普及済みのPC/スマホ向き無線LAN規格が使えると、屋内の既存PC/スマホ無線LANルータをインターネット空間へのAPに利用でき、常時電力供給も可能なため、低コストIoT MCUを実現する方法になりうると思います。


IoT MCUコア次世代像

PCのCPUは、IntelとAMDの2社が独占状態でした。しかし、AppleがARMベースの新CPU:M1を発表し、そのコストパフォーマンスは、Intel/AMDの3倍(!)とも言われます(記事:「ソフト技術者もうなるApple「M1」の実力、新アプリに道」や、「Apple M1の実力を新世代のIntel/AMD CPUと比較」など)。

本稿は、これらPC CPUコアの現状から、次世代IoT MCUコアの3層構造と筆者希望的観測を示します。

CPUコア:Apple/Intel/AMD

筆者が学生だった頃は、マシン語のPCソフトウェアもありました。CPUコア性能が低いため、ユーザ要求を満たすアプリケーション開発には、ソフトウェア流用性や開発性を無視したマシン語開発もやむを得ない状況でした。

現在のCPUコア性能は、重たいGUIやネットワーク処理を複数こなしても、ユーザ要求を満たし、かつ流用性も高いC/C++などの高級言語でのアプリケーション開発が普通です。Appleは、この状況でIntel/AMDコストパフォーマンス比3倍のM1 CPUを開発しました。

このM1 CPUを使えば、従来CPUのボトルネックが解消できるために、より優れたGUIや新しいアプリケーションの開発が期待できます。

このM1実現の鍵は、5nmルールの製造技術と新しいCPU設計にあるようです。

MCUコア:ARM/Non ARM

MCUはARMコアとNon ARMコアがありますが、Non ARMコアのコストパフォーマンス比は、M1程ではありません。従って、主流はARM Cortex-M系シングルコア採用MCUで、事実上ARMコア独占状態です。開発言語はC言語でベアメタル開発、製造プロセスも数10nmと、いわば、数10年前のIntel独占CPUコアに近い状況です。

RISC-Vという新しいMCUコアも出てきましたが、まだ少数派でその性能も未知数です。Intel/AMD CPUと比較記事の最後に記載された「競争こそユーザの利益」には、MCU世界はなっていません。

ARMはコア設計図のみ提供し、デバイス実装はMCUベンダが担当します。従って、現状のMCU世界が続く場合には、MCU高速化は製造技術進化とマルチコア化が鍵です。

ARMは、エッジAIに向けたNPUを発表しました。独自MCUコアと付随する開発環境を提供でき、かつコストパフォーマンスがARMコアの数倍を実現できるMCUベンダが無い現状では、ARMの頑張りがIoT MCUを牽引すると思います。

NVIDIAによるARM買収が、今後のARM動向に及ぼす影響は気になる状況ではあります。

IoT MCUコア

MCUコアとCPUコアの一番の差は、ユーザ要求コストです。これは、同じコアのMCU製品に、内蔵周辺回路やFlash/RAM容量の異なる多くのデバイスをベンダが提供中であることからも解ります。ユーザは、MCUに対して無駄なコストは払いたくないのです。

つまり、MCUデバイスはアプリケーション専用製品、CPUデバイスは超汎用製品、ここが分岐点です。

IoT MCUには、エッジAI、セキュリティ、無線通信(5GやWi-Fi)などのIoT機能追加が必要です。これら機能を並列動作させる手段として、RTOSも期待されています。この状況対応に、MCUコアも高性能化やマルチコア化に進化しつつあります。

セキュリティや無線通信は、予め決まった仕様があり、これら対応の専用ライブラリがベンダより提供されます。但し、セキュリティは、コストに見合った様々なセキュリティレベルがあるのも特徴です。ソフトウェア技術者は、専用ライブラリのMCU実装には神経を使いますが、ライブラリ本体の変更などは求められません。この仕様が決まった部分を「IoT基本機能」と本稿では呼びます。

MCUソフトウェア開発者が注力すべきは、ユーザ要求に応じて開発するIoTアプリケーション部分です。この部分を、「IoT付加機能」と呼び、「IoT基本機能」と分けて考えます。

ユーザのアプリケーション専用MCU製品意識は、IoT MCUでも変わりません。例えば、IoT基本機能の無線機能は不要や、ユーザがコストに応じて取捨選択できるセキュリティレベルなどのIoT MCU製品構成になると思います。一方、IoT付加機能だけを実装するなら、現状のMCUでも実現可能です。

以上のことから、IoT MCUは3層構造になると思います。

IoT MCUコアの3層構造
IoT MCUコアの3層構造

機能 追記
Back End IoT MCU IoT基本機能+付加機能+分析結果表示 収集データ分析結果ビジュアル表示
IoT MCU IoT基本機能+付加機能 高性能、マルチコア、RTOS利用
Front End IoT MCU センサデータ収集などのIoT付加機能
最小限セキュリティ対策
収集データは上層へ有線送信
コスト最重視

最下層は、ユーザ要求アプリケーションを実装し、主にセンサからのデータを収集するFront End IoT MCUです。ここは、現状のARM/Non ARMコアMCUでも実現できIoT付加機能を実装する層です。デバイスコスト最重視なので、最小限のセキュリティ対策と収集データを有線、または無線モジュールなど経由で上位IoT MCUへ送信します。IoT MCUサブセット版になる可能性もあります。

中間層は、高度なセキュリティと市場に応じた無線通信、エッジAI機能などのIoT基本機能がフル実装できる高性能MCUコアやマルチコア、RTOS利用へ進化した層です。IoT付加機能も同時実装可能で、下層の複数Front End IoT MCUが収集したセンサデータを、まとめて上位Back End IoT MCUまたは、インターネット空間へ直接送信できます。製造技術進化とマルチコア化、ARM新コア(Cortex-M23/33/55など)が寄与し、IoT MCUの中心デバイスです。

最上層は、第2層のIoT MCU機能に加え、インターネット空間で収集データを分析・活用した結果をユーザへビジュアル表示する機能を追加した超高性能MCUコア活用層です。自動車のADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)のおかげでユーザへのビジュアル表示要求はより高度になります。このユーザ要求を満たす次世代の超高性能IoT MCU(またはMPU)が実現します。

最下層のFront End IoT MCUは、現状のCortex-M0+/M4コアで弊社テンプレート適用のMCUが生き残ってほしい、というのが筆者の希望的観測です。
それにしてもAppleのコスパ3倍M1、凄いです。iPhoneもそうですが、抜きん出た技術と経営能力、Jobs精神、健在ですね。