クラウドベースMCU開発(個人編)

クラウドベースMCU開発お役立ちリンク
クラウドベースMCU開発お役立ちリンク

ARMが、2021年10月19日、IoT関連製品の開発期間を平均5年から最大2年間短縮できるクラウドベース開発環境「Arm Total Solution for IoT」発表という記事(EE Times Japan)は、以下の点で興味深いです。

・IoT製品化に平均5年もかかるのか?

・ハードウェア完成を待ちソフトウェア開発着手するのか?

但し、クラウドがMCU開発に効果的で、GitHubなどのクラウドリンクが今後増えることは、疑う余地がありません。そこで、すきま時間に個人レベルで役立つクラウドMCUリンクを3点示します。

すきま時間お役立ちクラウドMCU開発リンク

クリエイティブなMCUハードウェア/ソフトウェア開発中は、集中時間と空間が必要です。COVID-19の影響で、開発場所や通勤環境に変化はあるものの、ちょっとした待ち時間や出先での2~3分程度のすきま時間は相変わらず存在します。

個人レベルのIoT MCU開発支援が目的の弊社は、このような短いすきま時間にスマホやタブレットを使って、MCU情報を収集、閲覧するのに便利なリンクを紹介します。

すきま時間にMCU関連情報を閲覧することにより、集中時間に凝り固まった開発視点を新たな視点に変える、最新情報を収集するなどが目的です。

STマイクロMCU技術ノート

STマイクロMCU技術ノートの一部(PDF内容は濃く全てのMCU開発で役立つTips満載)
STマイクロMCU技術ノートの一部(PDF内容は濃く全てのMCU開発で役立つTips満載)

STマイクロのSTM32/STM8シリーズ別に検索できる日本語MCU開発Tips満載リンクです。ログインが必須ですが、わずか数ページで説明されたダウンロードPDF内容は濃く、STユーザに限らず全てのMCU開発者に役立つTipsが得られます。

EDN Japan Q&Aで学ぶマイコン講座

EDN Japan Q&Aで学ぶマイコン講座の一部
EDN Japan Q&Aで学ぶマイコン講座の一部

EDN JapanのMCU情報リンクです。Q&Aで学ぶマイコン講座は、最初の1ページでMCU初心者、中級者からの質問に対する回答要点が示されています。2ページ以降で回答詳細を説明するスタイルですので、短時間での内容把握に適しています。

Digi-Keyブログ

Digi-Keyブログの一部(日本語タイトルは翻訳された記事を示す)
Digi-Keyブログの一部(日本語タイトルは翻訳された記事を示す)

日本語タイトルで日本語へ翻訳されたブログ記事が判るリンクです。大手サプライヤーの英語ブログですのでMCUだけでなく、幅広いデバイス情報が得られます。すきま時間でも読めるように記事は短く纏まっています。最新MCU情報やハードウェア開発者向け情報が多いのも特徴です。

IoT製品とプロトタイプ開発

EE Timesの2021年10月8日、半導体製品ライフサイクルの長さと製造中止対策の記事に、20年前、1990年代の事業分野別の製品開発リードタイムとライフサイクル変化が示されています。

事業分野別の開発リードタイムと製品のライフサイクル変化(出展:記事)
事業分野別の開発リードタイムと製品のライフサイクル変化(出展:記事)

1998年の値ですが、重電機器を除く製品開発時間(リードタイム)が2.3年以内という数値は、現在でも納得できます(0.5年程度のプロトタイプ開発時間は含んでいない実開発時間だと思います)。

MCUベンダ各社は、10年間のMCU供給保証を毎年更新します。つまり、2021年更新ならば、2031年迄の10年間は販売MCUの供給を保証するということです。

但し、セキュリティが重視されるIoT製品では、最新セキュリティハード/ソフト内蔵IoT MCUによる製品化をエンドユーザは望みます。SoC:System on a Chipによる製造プロセス進化により、IoT関連製品の開発期間は、再開発も含めると1998年よりも更に短くなる可能性もあります。

前章リンク情報を活用し、最新セキュリティ内蔵MCU状況、セキュリティ機能のOTA更新可能性、開発製品がエンドユーザのセキュリティニーズと開発コストを満たすか、などを個人でも常時把握・評価し、万一、開発製品の成功見込みが少なくなった場合には、MCU見直しなども必要でしょう。

IoTセキュリティのライフサイクルは変動的で、かつ、IoT製品の市場獲得に支配的です。短い開発時間中であっても、状況に応じてMCUを変更することは、製品の成功と失敗に直結します。

弊社MCUテンプレートを使ったプロトタイプ開発は、このような激変IoT製品開発のMCU評価に適しています。制御系MCUと被制御系を分離、低コスト、少ない手間でプロトタイプを早期に開発し、プロトタイプ実機によりIoT製品のMCU評価、適正判断ができるからです。

もちろん、最初に示したバーチャルなArm Total Solution for IoTとの併用も有効です。セキュリティ重視IoT製品開発の成功には、IoT MCU選択と開発期間の短さがポイントです。

PSoC CreatorがModusToolboxへ

米)Cypress(サイプレス)は、2020年4月、独)Infineon(インフィニオン)に買収され子会社になりました。買収の影響かは不明ですが、お気に入りCypress IDEのPSoC Creatorが、ModusToolboxへ移行しつつあります。ModusToolbox v2.3.0.4276(以下ModusToolbox)の特徴、PSoC Creatorからどう変わったのかを示します。

About Eclipse IDE for ModusToolbox
About Eclipse IDE for ModusToolbox

Windows/Mac/LinuxマルチOS、GitHub

PSoC Creator(以下Creator)は、Windowsのみで動作するCypress独自IDEです。ModusToolboxは、Eclipse IDEをベースとし、Windows/Mac/LinuxマルチOS対応となりました。また、最新サンプルコードやライブラリは、GitHub経由でオンライン提供へと変わりました。

ModusToolbox対応PSoC 4/6デバイス

ModusToolbox対応中のPSoC 4/6評価ボードとデバイスを抜粋したのが下図です(全評価ボードとデバイスは、リリースノートを参照してください)。

ModusToolbox 2.3のPSoC 4/6対応デバイス
ModusToolbox 2.3のPSoC 4/6対応デバイス

弊社PSoC 4000S/4100S/4100PSテンプレートで使ったCY8CKIT-145-40XX、PSoC 6 FreeRTOSテンプレートで使用予定のCY8CPROTO-063-BLEともに、ModusToolbox v2.3で開発できます(PSoC 6 FreeRTOSテンプレートは、前稿参照)。前バージョン2.2から新たにPSoC 4が追加されました。

AN228571:「ModusToolboxソフトウェアを使用するPSoC 6 MCU入門」は、全てのPSoC 6アプリケーション開発に、ModusToolbox利用を推薦しています。また、PSoC 4も追加されたことを考えると、ModusToolbox は、PSoC Creatorの後継IDEの可能性大です。

Creator回路図はDevice Configuratorへ

Creatorの特徴は、ソフトウェア開発の最初に、回路図:TopDesign.cyschへPSoCコンポーネントを配置、必要ならコンポーネント間配線を行うことです。ソフトウェア出発点が、多少ハードウェア開発者向きです。

PSoC Creatorの特徴:TopDesign.cysch
PSoC Creatorの特徴:TopDesign.cysch

ModusToolboxはこの回路図配置が、GUIで使用リソースの設定を行うDevice Configuratorへ変わりました。他社Eclipse IDEベースのIDE(例えば、NXP:MCUXpresso IDEやSTマイクロ:STM32CubeIDE)でも同様の周辺回路設定があります。

ModusToolbox のDevice Configurator
ModusToolbox のDevice Configurator(出展:AN228571)

つまり、見た目も操作性も、Eclipse IDEベースの他社IDEと殆ど同じになりました。

PSoCコンポーネントに重きを置いたCreatorプログラミングよりも、Eclipse IDEに慣れた開発者の親しみ易さ、GitHub経由のサンプルコード等の最新版配布による利便性を重視し、よりソフトウェア開発者向きにしたIDEがModusToolboxです。

ModusToolboxソフトウェア構成

ModusToolboxソフトウェア構成
ModusToolboxソフトウェア構成(出展:AN228571)

ModusToolboxソフトウェア構成を見ると、GitHub経由の提供部分が解ります。

下層の各種ドライバ、HAL、BSPsから、ミドルウェアのBluetooth、Mbed OSやFreeRTOS等のライブラリ、これらのサンプルコードも全てGitHubから最新版が取得可能です。

IDE基本部分と、開発ニーズや時節に応じて変化する部分を分け、変化部分はGitHubから最新情報を提供する構成は、優れていると思います。

まとめ

Infineon/Cypressの最新IDE ModusToolboxの特徴を説明しました。Eclipse IDEベースのWindows/Mac/LinuxマルチOS対応で、GitHub経由で最新ドライバやサンプルコードが利用可能です。

PSoC 6アプリケーション開発は、PSoC CreatorからModusToolbox利用を推薦し、最新版ModusToolbox v2.3.0.4276へPSoC 4も追加されたことから、Creator後継のIDEになりそうです。
※ModusToolbox v2.3.1.4663(2021-05-06)はパッチファイルで、v2.3.0.4276の事前インストールが必要です。

なお、PSoC 4/6開発にCreatorも引続き使えます。しかし、今のところ既存CreatorプロジェクトからModusToolboxプロジェクトへの移行ツールは見当たりませんので、新規PSoC 4/6開発は、ModusToolboxで行う方が良いと思います。

ModusToolbox概要は、コチラの英語動画でご覧いただけます。また、丸文株式会社さんの開発ツールページに、インストール方法サンプルコード使用手順などが分かり易く説明されています。

Cortex-M4評価ボードRTOSまとめ

低価格(4000円以下)、個人での入手性も良い32ビットARM Cortex-M4コア評価ボードのRTOS状況を示します。超低価格で最近話題の32ビット独自Xtensa LX6ディアルコアESP32も加えました。

Vendor NXP STマイクロ Cypress Espressif Systems
RTOS FreeRTOS
Azure RTOS
CMSIS-RTOS FreeRTOS
Mbed OS
FreeRTOS
Eva. Board LPCXpresso54114 NUCLEO-G474RE CY8CPROTO-063-BLE ESP32-DevKitC
Series LPC54110 STM32G4 PSoC 6 ESP32
Core Cortex-M4/150MHz Cortex-M4/170MHz Cortex-M4/150MHz
Cortex-M0+/100MHz
Xtensa LX6/240MHz
Xtensa LX6/240MHz
Flash 256KB 512KB 1024KB 480KB
RAM 192KB 96KB 288KB 520KB
弊社対応 テンプレート販売中 テンプレート開発中 テンプレート検討中 未着手

※8月31日、Cypress PSoC 6のRTOSへ、MbedOSを追加しました。

主流FreeRTOS

どのベンダも、FreeRTOSが使えます。NXPは、Azure接続用のAzure RTOSも選択できますが、現状はCortex-M33コアが対応します。ディアルコア採用CypressのRTOS動作はM4側で、M0+は、ベアメタル動作のBLE通信を担います。STマイクロのCMSIS-RTOSは、現状FreeRTOSをラップ関数で変換したもので実質は、FreeRTOSです(コチラの関連投稿3章を参照してください)。

同じくディアルコアのEspressifは、どちらもRTOS動作可能ですが、片方がメインアプリケーション、もう片方が通信処理を担当するのが標準的な使い方です。

価格が上がりますがルネサス独自32ビットコアRX65N Cloud Kitは、FreeRTOSとAzure RTOSの選択が可能です。但し、無償版コンパイラは容量制限があり、高価な有償版を使わなければ開発できないため、個人向けとは言えません。

※無償版でも容量分割と書込みエリア指定など無理やり開発するトリッキーな方法があるそうです。

クラウドサービスシェア1位のAWS(Amazon Web Services)接続用FreeRTOSが主流であること、通信関連は、ディアルコア化し分離処理する傾向があることが解ります。

ディアルコア

ディアルコアで通信関連を分離する方式は、接続クラウドや接続規格に応じて通信ライブラリやプロトコルを変えれば、メイン処理側へ影響を及ぼさないメリットがあります。

例えば、STマイクロのCortex-M4/M0+ディアルコアMCU:STM32WBは、通信処理を担うM0+コアにBLEやZigBee、OpenThreadのバイナリコードをSTが無償提供し、これらを入れ替えることでマルチプロトコルの無線通信に対応するMCUです。

メイン処理を担うM4コアは、ユーザインタフェースやセンサ対応の処理に加え、セキュティ機能、上位通信アプリケーション処理を行います。

通信処理は、クラウド接続用とセンサや末端デバイス接続用に大別できます。

STM32WBやCY8CPROTO-063-BLEが採用した末端接続用のBLE通信処理を担うディアルコアのCortex-M0+には、敢えてRTOSを使う必要は無く、むしろベアメタル動作の方が応答性や低消費電力性も良さそうです。

一方、クラウド接続用の通信処理は、暗号化処理などの高度なセキュティ実装や、アプリケーションの移植性・生産性を上げるため、Cortex-M4クラスのコア能力とRTOSが必要です。

デュアルコアPSoC 6のFreeRTOS LED点滅

デュアルコアPSoC 6対応FreeRTOSテンプレートは、現在検討中です。手始めに表中のCY8CPROTO-063-BLEのメイン処理Cortex-M4コアへ、FreeRTOSを使ってLED点滅を行います。

と言っても、少し高価なCY8CKIT-062-BLEを使ったFreeRTOS LED点滅プログラムは、コチラの動画で紹介済みですので、詳細は動画をご覧ください。本稿は、CY8CPROTO-063-BLEと動画の差分を示します。

CY8CPROTO-063-BLE のCortex-M4とM0+のmain_cm4.c、main_cm0p.cとFreeRTOSConfig.hが下図です。

PSoC 6 CY8CPROTO-063-BLE FreeRTOS LED点滅のmain_cm4.cとmain_cm0.c
PSoC 6 CY8CPROTO-063-BLE FreeRTOS LED点滅のmain_cm4.cとmain_cm0.c
PSoC 6 CY8CPROTO-063-BLEのFreeRTOSConfig.h
PSoC 6 CY8CPROTO-063-BLEのFreeRTOSConfig.h

日本語コメント追記部分が、オリジナル動画と異なる箇所です。

RED LEDは、P6[3]ポートへ割付けました。M0+が起動後、main_cm0p.cのL18でM4システムを起動していることが判ります。これらの変更を加えると、動画利用時のワーニングが消えCY8CPROTO-063-BLE でFreeRTOS LED点滅動作を確認できます。

PSoCの優れた点は、コンポーネント単位でプログラミングができることです(コチラの関連投稿:PSoCプログラミング要点章を参照してください)。

PSoCコンポーネント単位プログラミング特徴を示すCreator起動時の図
PSoCコンポーネント単位プログラミング特徴を示すCreator起動時の図

PSoC Creator起動時の上図が示すように、Cypressが想定したアプリケーション開発に必要なコンポーネントの集合体が、MCUデバイスと言い換えれば解り易いでしょう。つまり、評価ボードやMCUデバイスが異なっても、使用コンポーネントが同じなら、本稿のように殆ど同じ制御プログラムが使えます。

PSoC 6 FreeRTOSテンプレートも、単に設定はこうです…ではなく、様々な情報のCY8CPROTO-063-BLE利用時ポイントを中心に、開発・資料化したいと考えています。PSoCプログラミングの特徴やノウハウを説明することで、ご購入者様がテンプレートの応用範囲を広げることができるからです。

半導体・デジタル産業とホノルル便パイロット

経産省が2021年6月4日に発表した「半導体・デジタル産業戦略」について、専門家の評価は悲観的です。

我々IoT MCU開発者は、ホノルル便パイロットを見習い、対応策を持つべきだと思います。

経産省半導体・デジタル戦略の評価

今こそ日本の大手電機各社は半導体技術の重要性に気付くべき、EE Times Japan、2021年6月15日

日本の半導体戦略は“絵に描いた餅”、TechFactory、2021年6月16日

日本の半導体ブームは“偽物”、再生には学校教育の改革が必要だ、EE Times Japan、2021年6月22日

専門家が日本政府や経産省の方針を批判するのは、コロナ対策と同様、当然です。また下記、英)Financial Times評価を紹介した記事からも、専門家評価と同様、概ね懐疑的であることが判ります。

半導体製造業の日本の取組みに対する海外メディア評価、Gigazine、2021年7月6日

この戦略結果として生じる半導体・デジタル産業の市場変化の影響を直接受けるのは、我々IoT MCU開発者です。しかも、結果がでるまでの時間は、ますます短くなっています。この分野が、自動車や次世代通信などを含む「全ての産業の要」だからです。

経産省戦略資料は、コチラからダウンロードできます。概要・概略だけでも相当な量があり、対象がMCU技術者ならまだしも、マネジメントや一般技術者が、本当に要点を把握できるか、筆者でも疑問に感じます。

ホノルル便緊急事態対策

かつて護送船団方式ともいわれた日本産業の舵取りは、成功もありますが失敗も多いです。同調圧力に弱い日本人には、この方式が向いていたのかもしれません。

問題は、舵取りの結果生じる市場変化に、どう対応するかです。

対応策ヒントの1つになるのが下記記事です。

太平洋の真ん中でエンジン停止したらどうなるか、東洋経済、2021年6月27日

パイロットは、太平洋上での緊急事態対応のため、60分毎に東京/ミッドウェー/ホノルルの天候情報を集め、燃料残量や対地速度などの機体状況を確認し、180分以内に着陸できる空港を検討するのです。しかも、この緊急事態は、パイロットが入社し定年退職するまでに一度も経験することの無い0.024%の発生確率でもです。

ホノルル便パイロットの緊急事態対応(出展:記事)
ホノルル便パイロットの緊急事態対応(出展:記事)

この東京~ホノルル便エンジン停止などの緊急事態発生確率に比べると、半導体・デジタル産業の国による舵取り失敗確率は、高いと思います。

我々MCU開発者も、ホノルル便パイロット並みとはいかなくても、せめて開発が一段落付く毎に、最新IoT MCU状況を確認し対応を検討することは重要です。一段落が付いた時は、開発に使ったMCUの利点欠点を把握直後なので、他MCUとの比較も精度良くできるからです。

この検討結果をどのように反映するかは、開発者次第です。

お勧めは、もしもの時の「第2候補IoT MCU案:Plan Bを、開発者個人で持つこと」です。Plan Bは、たとえ同じARM Cortex-Mコア利用であっても、ベンダ毎に手間やAPIが異なるIoT MCU開発に、心理的余裕を与えます。Non ARMコア利用ならなおさらです。

個人でなら、同調圧力に関係なく、自分の開発経験や勘を使ってPlan Bを検討できます。

まとめ

2021年6月経産省が発表した半導体・デジタル産業戦略の専門家評価は、悲観的です。国の舵取りが失敗した例は、過去の電機や半導体企業の衰退が物語っています。巨額投資と市場シェアの両方が必要な半導体・デジタル分野は、既に弱体化した国内企業の巻返しにも期待はできません。

舵取り失敗確率は、現役ホノルル便パイロットが、太平洋上で緊急事態に出会う確率よりも高いでしょう。

最先端デバイスを利用するIoT MCU開発者の対応策の1つは、開発が一段落付く毎に、最新半導体・デジタル市場を確認し、もしもの時の第2 IoT MCU利用案:Plan Bを開発者個人で持つことです。

個人で安価にPlan Bを持つため、評価ボード動作確認済み各種マイコンテンプレートはお役に立てると思います。関連投稿:半導体不足とMCU開発案に、Plan B構成案もあります。

組込みMCU開発お勧めブログ

組込み開発全般に参考となる英語ブログを紹介します。特にRTOS関連記事は、内容が濃く纏まっていて、実践開発時の示唆に富んでいます。

JACOB's Blog
JACOB’s Blog

RTOSカテゴリー

組込み開発コンサルティングも行うBeningo Embedded社は、高信頼の組込みシステム構築と低コスト・短時間での製品市場投入を目標としています。この目標に沿って、複雑な組込み開発概念を、シンプルに解り易く解説しているのが、同社ブログです。

特に、RTOSカテゴリーは、FreeRTOS開発方法を整理する時、参考になります。最新RTOSの3投稿をリストアップしたのが下記です。

2021年5月4日、A Simple, Scalable RTOS Initialization Design Pattern
2020年11月19日、3 Common Challenges Facing RTOS Application Developers
2020年10月29日、5 Tips for Developing an RTOS Application Software Architecture

Data flow diagram for a smart thermostat(出展:JACOB'S Blog)
Data flow diagram for a smart thermostat(出展:JACOB’S Blog)

開発中の弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、「ベアメタル開発経験者が、FreeRTOS基礎固めと、基本的FreeRTOSアプリケーション着手時のテンプレートに使えること」が目的です。従って、必ずしも上記お勧めブログ指針に沿ったものではなく、むしろ、ベアメタル開発者視点でFreeRTOSを説明しています。

弊社テンプレートを活用し、FreeRTOSを理解・習得した後には、より実践的なRTOS開発者視点で効率的にアプリケーションを開発したいと思う方もいるでしょう。もちろん、弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートからスタートすることを弊社は推薦しています。

しかし、Windows上でアプリケーション開発する時は、初めからWindows作法やGUIを前提として着手するように、RTOS上でMCUアプリケーションを開発する時も、従来のベアメタル開発に固執せず、RTOSオリエンテッドな手法で着手するのも1方法です(ベアメタル経験が少ないWindows/Linux世代には、親和性が高い方法かもしれません)。

推薦ブログは、この要望を満たすRTOS手法が豊富に掲載されています。

また、上記RTOS関連3ブログを(掲載図を「見るだけでも良い」ので)読んで、ピンとこなければ、RTOS理解不足であると自己判断、つまり、リトマス試験紙としても活用できます。

問題整理と再構築能力

ベアメタル開発経験者が、RTOSを使ってMCUアプリケーション開発をするには、従来のBareMetal/Serial or Sequential動作からRTOS/Parallel動作へ、考え方を変えなければなりません。弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、この考え方を変えるための橋渡しに最適なツールです。

橋を渡りきった場所が、RTOSの世界です。RTOS環境での組込み開発問題を整理し、シンプルに解決策を示すには、知識や経験だけでなく、問題再構築能力が必要です。JACOB’S Blogをご覧ください。RTOSに限らず組込み関連全般の卓越した問題再構築能力は、掲載図を見るだけでも良く解りますよ😄。

半導体不足とMCU開発案

3月26日投稿で危惧した半導体供給不足が深刻化しており、MCU開発者へも影響が出始めています。コチラの記事が、具体的な数字で深刻さを表していますので抜粋し、MCU開発者個人としての対策私案を示します。

半導体不足の深刻さ

今回の半導体不足は、通常時に比べ2倍以上のリードタイム増加となって現れています。

通常時と現在(半導体不足時)のリードタイム比較
発注から納品までのリードタイム 通常 現在
MCU、ワイヤレスチップ、パワーIC、Audio Codec、

パワーモジュール、GPUチップ

8~12週 24~52
ロジックIC、アナログIC、ASIC、電源用MOSFET、受動部品 8~12週 20~24週
LCDパネル 6~8週 16~20週
CPU 8週 12~20週
メモリ、SSD 6~8週 14~15週
PCB(基板)製造 2~4週 8~12週

記事によると、特にMCUとワイヤレスチップのリードタイムが長くなっており、52週!ものもあるそうです。

表記した第1行目の部品で半導体不足が語られることが多いのですが、PCB(基板)製造へも影響しているのは、MCU/ワイヤレスチップ供給不足により、基板作り直しが生じるため、またロジックIC以下の部品も同様に製品再設計の影響と推測します。

MCU、ワイヤレスチップの供給不足がリードタイム激増の主因、それ以外の部品リードタイム増加は、主因の影響を受けた結果と言えるでしょう。

半導体供給の意味

日本では半導体は、別名「産業のコメ」と言われます。世界的には、「戦略物資」という位置付けです。半導体で米中が対立するのは、政治体制だけでなく、近い将来の経済世界地図を大きく変える可能性があるからです。

半導体製造は、国際分業化が進んできましたが、今回の半導体不足の対策として、国や企業レベルでは全て自国や自社で製造を賄う動きもでてきました。持続的経済成長には、食糧と同じように半導体の自給自足が必須だということです。

MCU開発対策案

MCU開発者個人レベルでの半導体不足対策は何か、というのが本稿の主題です。

MCU開発者は、半導体を使った顧客要求の製品化が目的です。半導体不足の対策は、「代替MCUの開発能力と製品化方法の見直し」だと思います。例えると、COVID-19収束のため、複数ワクチンの中から入手しやすいものを利用するのと同じと言えば解っていただけるかもしれません。目的と手段を分けるのです。

製品化方法の見直しとは、評価ボード活用のプロトタイプ開発により製品完成度を上げ、最終製品化直前まで制御系の載せ替えを可能とすることです。CADやIDE消費電力シミュレーションなどを活用し、プロトタイプの製品完成度を上げます。

製品完成度を上げる段階で、更なるMCU能力の必要性や低消費電力性などが判明することも多々あります。載せ替え可能な制御系でこれら要求に対応します。プロトタイプ開発着手時に、候補となる複数ベンダのMCU評価ボードを事前準備しておくのも得策です。

MCU評価ボード載せ替えプロトタイプ開発案
MCU評価ボード載せ替えプロトタイプ開発案

現在も様々なMCU新製品が発表されています。評価ボードは、これら新MCUの販売促進ツールですので、個人でも比較的安く、早く調達できます。また、ワイヤレスチップ搭載済みでArduinoなどの標準インターフェースを持つ評価ボードならば、この標準インターフェースで独自開発ハードウェアと分離した製品設計ができるので、制御系を丸ごと別ベンダの評価ボードへ載せ替えるのも容易です。

つまり、第2 MCU開発能力と評価ボードを標準制御系とし、自社追加ハードウェアと分離したプロトタイプ開発により、第1 MCU供給不足と顧客製品化の遅れを少なくすることができます。標準インターフェース分離により、PCBを含めた自社追加ハードウェア開発部分の作り直しは無くすことも可能です。少なくとも、1章で示した半導体不足主因(MCUやワイヤレスチップの不足)に対して対処できます。

複数ベンダのMCU開発を経験すると、ソフトウェアやハードウェアの作り方も変わります。

ソフトウェア担当者は、万一のMCU載せ替えに備え、共通部分と個別部分を意識してソフトウェア化するようになります。ハードウェア担当者は、自社追加ハードウェアの単体試験をソフトウェア担当者に頼らずテストプログラム(TP)で自ら行うようになり、次第にソフトウェア開発能力も身に付きます。

このプロトタイプ開発の最終製品化時は、制御系評価ボードの必須部品のみを小さくPCB化するなどが考えられます。制御系は、他の部分に比べ故障率が高く、制御系のみを載せ替え可能な製品構成にしておけば、故障停止時間の短縮も図れます。

MCU評価ボードの制御系のみを小さくPCB化するイメージ(出展:マルツ超小型なRaspberry Pi)
MCU評価ボードの制御系のみを小さくPCB化するイメージ(出展:マルツ超小型なRaspberry Pi)

最新MCU情報

上記プロトタイプ開発でも通常時は、第1 MCUで開発完了でしょう。実際に第2 MCU制御系へ載せ替えるのは、半導体供給リスクに対する最後の手段です。そこで、最新MCU情報をピックアップし、第2 MCUを選ぶ参考にします。

・2021年3月31日、ARMv9発表

Cortex-M33などのセキュリティ強化コアARMv8発表から約10年ぶりに機械学習やデジタル信号処理能力強化の最新コアARMv9をARMが発表。MCUベンダ評価ボードはこれから。

・2021年4月6日、STマイクロエレクトロニクスSTM32G0で動作するエッジAI

AIによる推論だけでなく学習も行えCortex-M0+コアでも動作する新アルゴリズムMST:Memory Saving Tree搭載のSTM32G0により既存機器のエッジAI実現可能性が拡大。販売中の弊社STM32G0xテンプレートは、コチラを参照。

・2021年4月15日、MCUXpresso54114の150MHz動作:

開発中のFreeRTOSアプリケーションテンプレートで使うMUCXpresso54114評価ボード搭載のCortex-M4コア最高動作周波数は、旧データシートでは100MHzでした。しかし、MCUXpresso SDKベアメタルサンプルプログラム診ると、追加ハードウェア無しで1.5倍の150MHz動作例が多いのに気が付きます。

LPCXpresso54114の150MHz動作
LPCXpresso54114の150MHz動作

動作クロックを上げるのは、MCU処理能力を上げる最も簡単な方法です。そこで、最新データシートRev2.6(2020年9月更新)を確認したところ、Maximum CPU frequencyが100MHzから150MHzへ変更されていました(Table 44. Revision History)。

データシートも最新情報をチェックする必要がありました。製造プロセスが新しいMCUXpresso54114やSTM32G4(170MHz)などの最新Cortex-M4コアMCUは、どれも150MHz程度の実力を持つのかもしれません。

IoT MCUとAI

ARM Cortex-Mコア利用のIoT MCU現状と、次のムーア則を牽引すると言われるAI(人工知能)の関係についてまとめました。

Cortex-Mコア、IoT/組込みデバイス主要ポジション堅持

ARMベースチップ累計出荷個数は1,800億個以上(出展:ニュースルーム、February 16, 2021)
ARMベースチップ累計出荷個数は1,800億個以上(出展:ニュースルーム、February 16, 2021)

2021年2月16日、英)ARM社は、ARMチップの2020年第4半期出荷が過去最高の67憶個、累計出荷個数1800憶個以上、Cortex-Mチップも4半期最高44憶個出荷で「IoT/組込みデバイス主要ポジション堅持」と発表しました(ニュースルーム)。

Cortex-Mチップの出荷内訳は不明ですが、Cortex-M4やCortex-M0+などコア別の特徴が解るARM社の解説は、コチラにあります(フィルタのProcessorファミリ>Cortex-Mを選択すると、提供中の全10種Cortex-Mコア解説が読めます)。

筆者は、セキュリティ強化コアCortex-M23/33/35P/55を除く汎用IoT/組込みデバイスでは、Cortex-M4/M0+コア使用数が急増していると思います。

関連投稿:Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分

半導体ムーア則、牽引はチップレット

ムーアの法則 次なるけん引役は「チップレット」、2021年2月16日、EE Times Japan

次のムーア則を牽引するAI処理能力(出典:AI Hardware Harder Than It Looks)
次のムーア則を牽引するAI処理能力(出典:AI Hardware Harder Than It Looks)

半導体製造プロセスを牽引してきたのは、PCやスマホでした。しかしこれからは、人工知能:AIで急増するAIデータ処理能力を実現するため、レゴブロックのようにコアの各モジュールを歩留まり良く製造・配線するチップレット手法が必要で、このチップレット、つまりAIが次の半導体ムーア則を牽引するというのが記事要旨です。

このチップレット手法で製造したIoT MCUやMPUへ、主にソフトウェアによるAI化は、シンギュラリティ後のAI処理量変化にも柔軟に対応できると思います。

関連投稿:今後30年の半導体市場予測

ルネサス:ハードウェアアクセラレータコアCNN(Convolutional Neural Network)

ルネサスのCNNアクセラレータ(出典:ニュースルーム)
ルネサスのCNNアクセラレータ(出典:ニュースルーム)

2021年2月17日、ルネサスは、世界最高レベルの高性能/電力効率を実現するディープラーニング性能を持つCNNアクセラレータコアを発表しました(ニュースルーム)。これは、主にハードウェアによるAI化の例です。

ADAS実現に向け、性能と消費電力を最適化した車載用コアです。このコアに前章のチップレット手法を使っているかは不明です。3個のCNNと2MB専用メモリの実装により、60.4TOPS(Tera Operations Per Second)処理能力と13.8TOPS/W電力効率を達成しています。

車載で実績を積めば、IoT MCUへも同様のハードウェアアクセラレータが搭載される可能性があります。

まとめ

凸版印刷社は、画像認識AIを活用し、古文書の“くずし字”を解読支援するツールを開発しました(2021年2月16日、IT media)。このように、AIは、半導体技術のムーア則だけでなく、IoT MCUアプリケーションや人間生活に浸透し、牽引しつつあります。

エッジAIをクラウド接続IoT MCUへ実装する理由は、クラウドAI処理とクラウド送信データ量の両方を軽減することが狙いです。AI処理をエッジ側とクラウド側で分担しないと、チップレット手法を用いて制御チップを製造できたとしても、コスト高騰無しに急増するAIビックデータ処理を実現することが不可能だからです。

IoT MCUのエッジAIが、ソフトウェアまたはハードウェアのどちらで処理されるかは判りませんが、必須であることは確実だと思います。実例を挙げると、STマイクロエレクトロニクスは、既にSTM32Cube.AIにより汎用STM32MCUへAI/機械学習ソフトウェアの実装が可能になっています。

今後30年の半導体市場予測とルネサス動向

Runesas

半導体不足が騒がれています。これがCOVID-19の一時的なものか否かが判る下記記事と、最新のルネサスエレクトロニクス動向を関係付け、今後のMCU開発について考えました。

2050年までの半導体市場予測~人類の文明が進歩する限り成長は続く、2021年1月14日、EE Times Japan

今後30年の半導体市場予測

本ブログ読者は、殆どが現役の「日本人」MCU開発者です。定年退職が何歳になるかは分かりませんが、上記記事の2050年まで、つまり、今後30年の半導体市場予測は、在職中のMCU開発を考える上で丁度良い時間の長さです。

予測ですので、大中小のシナリオがあります。我々開発者にも解り易い結論だけをピックアップすると、概ね下記です。

  • 今後、先進国と新興国中間層人口は、COVID-19で人類滅亡しない限りそれぞれ5億人/10年で増加し、2050年に先進国が30億人、新興国中間層が40億人、貧困層が20~30億人の人口ピラミッド構成へ変遷
  • 1人年間の半導体消費量は、先進国が150ドル、新興国中間層が75ドル
  • 2050年の半導体市場は、2010年比2.5倍の7500憶ドルへ成長

ルネサス動向

英)Dialog買収車載半導体改良「AI性能を4倍に」など、SoCアナログ機能増強、ADAS実現やIoTに向けた動きが、2021年になってからのルネサス最新動向です。

これら動向の結果が出るまでには、年単位の時間が必要です。しかし、前章の2050年半導体市場2010年比2.5倍へ向けての行動の1つとすると、なぜ今か(!?)という疑問に対して、理解できます。

2倍化MCU開発

2倍化MCU開発

MCUも半導体の1つです。半導体市場が増えれば、それらを制御するMCU量も増えます。2010年比2.5倍なら、現在の2倍程度MCU開発も増えると思います。

従来と同じ人員と開発方法では、量が2倍になれば、2乗の4倍の労力が必要になります。新しい手法やその効率化なども導入する必要がありそうです。ルネサス同様、今スグに着手しなければ乗り(登り)遅れます。

使用した半導体の貴金属部分はリサイクルされますが、搭載ソフトウェアやハードウェアパターンは回収されずに消費されます。開発物の資産化、最新プロセスで大容量Flash搭載の新開発MCU、新開発手法にスグに対応できるMCU開発者が生き残るかもしれません。

関連投稿:開発者向けMCU生産技術の現状

MCU利用者

先進国だけでなく、新な対象として新興国中間層へもMCU利用者が広がります。新興国中間層は、先進国よりも10億人も多い予想で、1人当たりはより低コスト半導体(=MCU開発)が求められます。

この新興国中間層向けのMCUアプリケーションを検討するのも良いかもしれません。

2045年のシンギュラリティ

Singularity:和訳(技術的特異点)は、人類に代わって人工知能:AIが文明進歩の主役になることです。

最初の記事にも、2045年と言われるシンギュラリティは、一層半導体市場を広げる可能性があるとしています。IoT MCUにもエッジAIが組込まれるなど、今後のMCU開発もAI化は必然です。



開発者向けMCU生産技術の現状

先端半導体の供給不足
先端半導体の供給不足

COVIC-19の影響で自動車、ゲーム機、PC、5Gスマホに搭載される先端半導体の供給不足が発生中です。自動車は生産調整、ゲーム機も品薄のため販売中止のニュースが流れています。一方で、任天堂Sonyは、ゲーム機好調で、業績上方修正も発表されました。

本稿は、これら先端半導体とMCUに使っている半導体の違いを、筆者を含めたマイコン開発者向けにまとめました。

先端半導体供給不足

AppleやQualcommなどの半導体ベンダの多くは、設計・開発は行うものの、生産は台湾TSMCやUMCなど世界に数社しかない先端半導体受託生産会社(ファウンドリー)へ製造依頼するファブレス企業です。このファウンドリーの先端半導体生産量がボトルネックとなり供給不足が発生しています。

需要に追いつくよう生産設備も増設中ですが、スグには対応できません。その結果、価格競争が起こり、ゲーム機など高パフォーマンスで高価格でもOKなデバイスが優先、一方、コスト要求の強い自動車向けデバイスなどは後回しになった結果が、最初のニュースの背景です。

MCU半導体と先端半導体の差

半導体の製造や生産技術は、ムーアの法則に則り、年々微細化が進みます。これは、MCU半導体でも先端半導体でも同じです。違いは、「製造プロセスの世代」と「大容量フラッシュ搭載の有無」です。

最先端半導体の微細化技術は、28nm→14nm→7nmと製造プロセス世代が進み現在5nmなのに対し、MCU半導体は、現在28nmの1つ手前、40nmです。

※微細化の指標は、いかに細いロジック配線を実現できるかで表されnm:nanometerは、1 nm = 0.001 µm = 0.000001 mm:10億分の1メートル。

MCU半導体の微細化が遅れる理由は、MCUデバイスには簡単に微細化できない大容量Flashメモリの内蔵が必須だからです。

つまり、我々が開発するアプリケーションは全てMCUに内蔵される訳で、ここがPCやゲーム機の外付けメモリ+キャッシュ内蔵の制御系と根本的に異なる点です。

最新MCU微細化技術

上記の難しい大容量Flash微細化にも、技術革新が起きつつあります。詳細を知りたい方は、世界最小のメモリセルで最先端マイコンの低価格化を牽引する相変化メモリの記事を参照してください。

IoT MCU開発には、エッジAIや無線通信、高度セキュリティ、OTA:Over The Air更新など従来MCUに無い多くのIoT機能追加が必要です。これら機能実装には、更なる大容量Flash搭載が必須です。

IoT MCUの将来
IoT MCUの将来

大容量Flashの低価格実装と製造プロセスの世代が進めば、MCUデバイスの開発アプリケーション適用幅は大きくなると筆者は思います。つまり、より汎用化すると思います。

現在のMCUは、アプリケーション毎に内蔵周辺回路やFlash/RAM容量が異なるなど多品種でデバイス選択時、開発者を悩まします。しかし、近い将来、IoT MCUデバイス選択に開発者が悩むことも無くなるかもしれません。

関連投稿:無線STM32WBと汎用STM32G4比較の6章

MCU大手ベンダは自社製造中

NXP/ST/Renesas などの大手MCUベンダもファウンドリーを利用しますが、どこも自社工場でも製造を行っています。各社の会社紹介パンフレットには、必ず自社製造拠点の図がありますし、販売後10年間のデバイス供給保証も謳っています。

ARM社提供のCortex-Mコア設計図は同じでも、それを活かす実装設計・開発・製造がベンダ毎に異なるので他社差別化ができる訳です。

また、これらMCUベンダは、自社デバイスと並行して自動車向けデバイスの設計・開発・製造も行っています。ADASやMCU微細化技術の進化、ファウンドリーの供給不足状況などが、MCUベンダ各社に今後どのように影響するかは注目して行きたいと思います。

関連投稿:5G、Wi-Fi6、NXP、STマイクロエレクトロニクスの3章:NXP対応

まとめ

  • MCU半導体と先端半導体には、製造プロセス世代と大容量Flash搭載有無に差がある
  • 現状のMCU半導体は、大容量Flash搭載の40nmプロセス、先端半導体は、5nmプロセス
  • IoT MCUの更なる大容量Flash実装に向け、MCU微細化技術革新が起こりつつある
  • 大容量Flash低価格実装と製造プロセス進化によりIoT MCUはより汎用化する
  • COVID-19による先端半導体供給不足がMCU半導体ベンダへ影響するかは、要注目

Blogテーマ変更とMCU開発顧客満足

本Blogテーマを、今週~来週にかけて変更中です。期間中は、画面表示が乱れる可能性もありますがご容赦ください😌。Blogツール:WordPressにご興味が無い方は、最後の章:MCU開発顧客満足をお楽しみください。

オープンソースCMSのWordPressによるBlog投稿

Blogテーマ変更理由

本Blogは、WordPressというオープンソースCMS(Contents Management System)を使って投稿しています。テーマとは、Blog表示の見た目を変える、着せ替え洋服のようなものです。テーマ変更理由は、2つです。

  1. 約2年前に導入されたWordPressの新しいGutenbergエディタ対策
  2. 昨年後期から続くサイトマップトラブル対策

Gutenbergエディタ

従来のWordPress標準エディタは、Classicエディタと呼ばれ、Web版無償Microsoft Wordのようなものです。基本的な文章エディタ機能を提供し、使い方も簡単でした。これに対し、新しく標準となったGutenbergエディタは、ブロック単位の編集・加工を行うなど操作性や使い方が大きく変わりました。

※Gutenbergエディタは、15世紀に活版印刷技術を発明したヨハネス・グーテンベルクにちなんで命名されました。WordPressの記事投稿に際し、活版印刷登場ほどインパクトがあると言うことです。

旧Classicエディタを使い続けたい多くのブロガーのために、標準Gutenbergエディタを無効化し、Classicエディタを復活するプラグインが提供され、筆者もこれを使い続けてきました。

但し、Gutenbergエディタは、毎年改良され機能や使い方も進化、この進化系Gutenbergエディタ対応の新しいテーマも増えてきました。

xmlサイトマップ

xmlサイトマップは、GoogleやYahoo、Bingなどの検索エンジンへ、弊社Blogの投稿内容等を知らせる手段です。

原因不明ですが、昨年後半から投稿数は週一で増やしているにも係わらず、サイトマップの有効ページ数が減り続けています。検索エンジンにマップされなければ、投稿しても読者に発見されず苦労が報われません。

ネット情報によると、プラグイン間の相性など様々な原因がありえますが、解決しません。いわゆるPCとアプリケーションとの相性問題と同じようです。

そこで、1のGutenbergエディタ対策時に、新テーマ導入と同時にプラグインを変える/減らすなどして対処しようと考えました。

Blogテーマ変更結果

今回のBlogテーマ変更の結果、WordPressの新Gutenbergエディタは習得しました。

しかし残念ながら、サイトマップトラブルは、更に悪化しました。プラグイン相性だけでなく、新導入テーマにも関係している可能性もありますが、依然として原因不明です。

算定措置として、Gutenbergエディタと新テーマ利用へ変更し、追加プラグインは最小にします。サイトマップトラブルは、継続検討とします。

MCU開発顧客満足

MCU開発でも課題に対し期待する成果が得られない等は、筆者には日常茶飯事です。費やした時間やコストは、戻ってきませんが、実際にやってみなければ本当は判らない事だらけなのがMCU開発業務です。

MCU開発業務は、以下2点の配慮が必要です。

  1. スケジュール立案時は、マージンを織り込む
  2. 成果に直結しない結果でも、今後に活かす

※織り込んだマージンを使わず成果が出た時は、未消化マージンをリフレッシュ休暇に替えます😁。

今回の対策も、年末年始の予定でした。しかし、新テーマの多さやその理解に時間がかかり、結局マージンを使い果たし1月末実施、そして少ない成果となりました。顧客は、自分自身ですが顧客満足は低いです。

しかし、成果に直結しなくても得た(貴重な!?)結果もある訳です。これを今後に活かす事が、費やした時間やコストを無駄にしない唯一の策で、しかも長い目で見れば、顧客満足にも繋がると信じます😤。

MCU開発は、日々の努力が、即成果に結びつかなくても、将来必ず顧客を満足させる結果・スキルになると自分を信じて続ける心構えが重要です(日本では、周囲になかなか理解してもらえないと思いますが😭、欧米開発者は、これがあたりまえの文化でした)。