持続可能MCU開発

半導体不足やサプライチェーン変化など様々な外部要因により、やむをえず開発中のMCUデバイスが変わる場合があります。MCU開発を持続可能にする1案を示します。

MCUと制御対象分離

MCUデバイスが例え変わっても、MCUと制御対象間のインタフェースが同じなら開発の持続は可能です。

もちろん開発ツールや制御APIは、MCUベンダやデバイスで異なります。しかしながら、開発した制御シーケンスや注意点などの取得済み開発ノウハウは、そのまま新しいMCUデバイスへも適用できます。

簡単に言うと、頭(MCU)と手足(制御対象)、目などのセンサ入力を分離し、万一の際に、頭(MCU)交換が可能な分離インタフェースを使ってMCU開発することです。

本稿はMCU互換性に主眼を置きますが、分離インタフェース採用で制御対象やセンサも交換可能です。

つまり、機能単位の高性能化、低価格化も分離インタフェース導入で容易になります。

分離インタフェース多数派

PMODインタフェースとPMODモジュール(出展:RS DesignSpark)
PMODインタフェースとPMODモジュール(出展:RS DesignSpark)

MCUと制御対象を分離するインタフェースも色々あります。例えば、PMODです。

センサやアクチュエータから成る既製PMODモジュールを、Lego™ブロックのように連結し制御対象の機能追加ができます。連結実現のため、I2CやSPI利用が基本です。

別例が、Arduinoです。

多くの主要ベンダMCU評価ボードにArduinoコネクタが採用中です。右下に示すように、デジタル入出力ピン、アナログ入力ピンなど、ピンが物理的に機能分離しています。

ArduinoコネクタコンパチブルMCU評価ボード例
ArduinoコネクタコンパチブルMCU評価ボード例

既製Arduinoモジュールも多く、しかも安価に入手できます。また、機能別ピンのため、手持ちセンサなどを接続し動作を試すのも簡単です。

元々はArduinoやRaspberryなどのMPU(Micro Processor Unit)向け分離インタフェースでしたが、シンプルで使い易いためMCU評価ボードにもArduinoコネクタ適用例が多く、分離インタフェースの多数派となりました。

Tips:MCU端子は、複数機能から選択が可能です。そこで、Arduinoピン機能を優先して選択し、この選択した端子から先に使用すると、MCU交換時の互換性が高まります。

Arduinoプロトタイプシールド

Arduinoモジュールは、別名シールドと呼ばれます。シールドを複数スタック接続し機能追加も可能です。

MCU評価ボードのArduinoコネクタにスタック接続し、付属する小型ブレッドボード上で簡単な回路も追加できるプロトタイプ向けのシールドが、Arduinoプロトタイプシールドです。

Arduinoプロトタイプ シールド
Arduinoプロトタイプ シールド

このシールドには、2個のLEDと1個のSWが実装済みです。MCU評価ボードへ、LEDやSWを簡単に追加でき、手持ち部品などを使ってプロトタイプ開発する場合に最適だと思います。

評価ボードへArduinoプロトタイプシールドを追加しスレッド毎にLED点滅中
評価ボードへArduinoプロトタイプシールドを追加しスレッド毎にLED点滅中

まとめ:持続可能MCU開発

世界平和やサプライチェーン変化などの外部要因により、開発中のターゲットMCUデバイスやベンダが変わる場合がありえます。

万一MCUデバイスが変わっても、MCU開発を持続可能にするため、各ベンダMCU評価ボードに多数採用のArduinoコネクタを使ったMCUと制御対象分離構成を示しました。

Arduinoプロトタイプシールドを、プロトタイプMCU開発に適す使用例として示しました。



半導体不足とMCU開発案

3月26日投稿で危惧した半導体供給不足が深刻化しており、MCU開発者へも影響が出始めています。コチラの記事が、具体的な数字で深刻さを表していますので抜粋し、MCU開発者個人としての対策私案を示します。

半導体不足の深刻さ

今回の半導体不足は、通常時に比べ2倍以上のリードタイム増加となって現れています。

通常時と現在(半導体不足時)のリードタイム比較
発注から納品までのリードタイム 通常 現在
MCU、ワイヤレスチップ、パワーIC、Audio Codec、

パワーモジュール、GPUチップ

8~12週 24~52
ロジックIC、アナログIC、ASIC、電源用MOSFET、受動部品 8~12週 20~24週
LCDパネル 6~8週 16~20週
CPU 8週 12~20週
メモリ、SSD 6~8週 14~15週
PCB(基板)製造 2~4週 8~12週

記事によると、特にMCUとワイヤレスチップのリードタイムが長くなっており、52週!ものもあるそうです。

表記した第1行目の部品で半導体不足が語られることが多いのですが、PCB(基板)製造へも影響しているのは、MCU/ワイヤレスチップ供給不足により、基板作り直しが生じるため、またロジックIC以下の部品も同様に製品再設計の影響と推測します。

MCU、ワイヤレスチップの供給不足がリードタイム激増の主因、それ以外の部品リードタイム増加は、主因の影響を受けた結果と言えるでしょう。

半導体供給の意味

日本では半導体は、別名「産業のコメ」と言われます。世界的には、「戦略物資」という位置付けです。半導体で米中が対立するのは、政治体制だけでなく、近い将来の経済世界地図を大きく変える可能性があるからです。

半導体製造は、国際分業化が進んできましたが、今回の半導体不足の対策として、国や企業レベルでは全て自国や自社で製造を賄う動きもでてきました。持続的経済成長には、食糧と同じように半導体の自給自足が必須だということです。

MCU開発対策案

MCU開発者個人レベルでの半導体不足対策は何か、というのが本稿の主題です。

MCU開発者は、半導体を使った顧客要求の製品化が目的です。半導体不足の対策は、「代替MCUの開発能力と製品化方法の見直し」だと思います。例えると、COVID-19収束のため、複数ワクチンの中から入手しやすいものを利用するのと同じと言えば解っていただけるかもしれません。目的と手段を分けるのです。

製品化方法の見直しとは、評価ボード活用のプロトタイプ開発により製品完成度を上げ、最終製品化直前まで制御系の載せ替えを可能とすることです。CADやIDE消費電力シミュレーションなどを活用し、プロトタイプの製品完成度を上げます。

製品完成度を上げる段階で、更なるMCU能力の必要性や低消費電力性などが判明することも多々あります。載せ替え可能な制御系でこれら要求に対応します。プロトタイプ開発着手時に、候補となる複数ベンダのMCU評価ボードを事前準備しておくのも得策です。

MCU評価ボード載せ替えプロトタイプ開発案
MCU評価ボード載せ替えプロトタイプ開発案

現在も様々なMCU新製品が発表されています。評価ボードは、これら新MCUの販売促進ツールですので、個人でも比較的安く、早く調達できます。また、ワイヤレスチップ搭載済みでArduinoなどの標準インターフェースを持つ評価ボードならば、この標準インターフェースで独自開発ハードウェアと分離した製品設計ができるので、制御系を丸ごと別ベンダの評価ボードへ載せ替えるのも容易です。

つまり、第2 MCU開発能力と評価ボードを標準制御系とし、自社追加ハードウェアと分離したプロトタイプ開発により、第1 MCU供給不足と顧客製品化の遅れを少なくすることができます。標準インターフェース分離により、PCBを含めた自社追加ハードウェア開発部分の作り直しは無くすことも可能です。少なくとも、1章で示した半導体不足主因(MCUやワイヤレスチップの不足)に対して対処できます。

複数ベンダのMCU開発を経験すると、ソフトウェアやハードウェアの作り方も変わります。

ソフトウェア担当者は、万一のMCU載せ替えに備え、共通部分と個別部分を意識してソフトウェア化するようになります。ハードウェア担当者は、自社追加ハードウェアの単体試験をソフトウェア担当者に頼らずテストプログラム(TP)で自ら行うようになり、次第にソフトウェア開発能力も身に付きます。

このプロトタイプ開発の最終製品化時は、制御系評価ボードの必須部品のみを小さくPCB化するなどが考えられます。制御系は、他の部分に比べ故障率が高く、制御系のみを載せ替え可能な製品構成にしておけば、故障停止時間の短縮も図れます。

MCU評価ボードの制御系のみを小さくPCB化するイメージ(出展:マルツ超小型なRaspberry Pi)
MCU評価ボードの制御系のみを小さくPCB化するイメージ(出展:マルツ超小型なRaspberry Pi)

最新MCU情報

上記プロトタイプ開発でも通常時は、第1 MCUで開発完了でしょう。実際に第2 MCU制御系へ載せ替えるのは、半導体供給リスクに対する最後の手段です。そこで、最新MCU情報をピックアップし、第2 MCUを選ぶ参考にします。

・2021年3月31日、ARMv9発表

Cortex-M33などのセキュリティ強化コアARMv8発表から約10年ぶりに機械学習やデジタル信号処理能力強化の最新コアARMv9をARMが発表。MCUベンダ評価ボードはこれから。

・2021年4月6日、STマイクロエレクトロニクスSTM32G0で動作するエッジAI

AIによる推論だけでなく学習も行えCortex-M0+コアでも動作する新アルゴリズムMST:Memory Saving Tree搭載のSTM32G0により既存機器のエッジAI実現可能性が拡大。販売中の弊社STM32G0xテンプレートは、コチラを参照。

・2021年4月15日、MCUXpresso54114の150MHz動作:

開発中のFreeRTOSアプリケーションテンプレートで使うMUCXpresso54114評価ボード搭載のCortex-M4コア最高動作周波数は、旧データシートでは100MHzでした。しかし、MCUXpresso SDKベアメタルサンプルプログラム診ると、追加ハードウェア無しで1.5倍の150MHz動作例が多いのに気が付きます。

LPCXpresso54114の150MHz動作
LPCXpresso54114の150MHz動作

動作クロックを上げるのは、MCU処理能力を上げる最も簡単な方法です。そこで、最新データシートRev2.6(2020年9月更新)を確認したところ、Maximum CPU frequencyが100MHzから150MHzへ変更されていました(Table 44. Revision History)。

データシートも最新情報をチェックする必要がありました。製造プロセスが新しいMCUXpresso54114やSTM32G4(170MHz)などの最新Cortex-M4コアMCUは、どれも150MHz程度の実力を持つのかもしれません。

IoT MCU汎用Baseboardの汎用性

・IoT MCU汎用Baseboardの特徴
・CMOSデバイス直結を利用し、3.3V動作MCUソフトウェア開発に5V動作ハードウェアを使えること

をFRDM-KL25Z(動作範囲:1.71~3.6V、5V耐圧なし)を例に前稿で示しました。
このIoT MCU汎用Baseboard の汎用性について解りにくいというご指摘がありましたので、説明を加えます。

IoT MCU汎用Baseboard構成パーツ

IoT MCU汎用Baseboardの構成パーツが下図です。

Arduinoコネクタ有りのMCU評価ボードはFRDM-KL25Zを掲載しましたが、Arduinoコネクタを持たない例えば、Cypress)PSoC4000SなどのMCU評価ボードでも接続可能です。これが汎用性をうたった理由です。

様々な追加Arduinoシールドは、Arduinoコネクタでスタック接続、それ以外のパーツ間は、オス-オスコネクタで接続します。

IoT MCU汎用Baseboard構成(色付き領域)
IoT MCU汎用Baseboard構成(色付き領域)

一言で言うと、従来から使ってきた5V Baseboardに、Arduinoプロトタイプシールドを追加した構成です。

IoT MCU汎用Baseboard構成パーツの役割

パーツ名 機能、役割
MCU評価ボード 動作電圧:3.3V/5V動作のMCUソフトウェア開発ボード
外部ハードウェア接続:Arduinoコネクタ/独自コネクタ
追加Arduinoシールド IoT向けセンサなどをMCU評価ボードへ機能付加
Arduinoプロトタイプシールド シールド直上へスタック接続(Arduinoピン名シルクあり)
配線済みMCUリセット、未配線2個LED、1個SW実装済み
MCU評価ボード直上設置で操作性向上
5V Baseboard LCDやポテンショメータなど5V動作ハードウェア搭載
オス-オスコネクタ ボード、各パーツ間接続
Arduinoコネクタ Arduinoシールドスタック接続
CMOSデバイス直結 3.3V MCU出力→5Vハードウェア入力:接続問題なし
5Vハードウェア出力→3.3V MCU入力:5V耐圧無しなら3.3V以下
付属ブレッドボード CMOSデバイス直結時、電流保護抵抗や必須ハードウェア搭載

MCUに5V耐圧が無い時は、MCU入力電流保護抵抗や入力電圧を3.3V以下へ抑える必要があり、これら必須ハードウェア、およびArduinoプロトタイプシールド付属の2個LED、1個SW配線用に、プロトタイプシールド付属ブレッドボードを使います。

IoT MCUは、MCU評価ボード搭載済み機能だけでなく、様々なセンサや付加機能(例えば、構成パーツで示したデータロギングシールドなど)を追加して開発します。これら追加センサや付加機能ハードウェアを、安く早く調達するには、既製Arduinoシールドが適しています。

殆どのMCU評価ボードがArduinoシールドを追加できるように設計されているのはこのためです。Arduinoプロトタイプシールドは、Arduinoピン名がシルク印刷済みです。Arduinoピン名とMCUピン名のマッピングを間違う可能性も低く、リセット追加で制御系の操作性も向上します。

Arduinoコネクタ実装済みのFRDM-KL25Zの場合は、直上、または直下へArduinoシールドをスタック追加します。FRDM-KL25Z追加シールド処理結果を表示するため、プロトタイプシールド経由で5V Baseboard LCDと接続します。

独自コネクタで機能追加するPSoC4000S評価ボードなどに対しても、オス-オスコネクタでArduinoプロトタイプシールドと接続すれば、それ以外の部分は共通です。この時は、プロトタイプシールド直下にArduinoシールドを追加します。

※Arduinoシールドを複数追加する時は、スタック接続します。

様々なMCU評価ボードに対して、表中のMCU評価ボード以外の赤字パーツが汎用的に使え、かつ、Arduinoシールド追加性にも優れていることがお解り頂けたと思います。

IoT MCU汎用Baseboard用途

CMOSデバイス直結は、ハードウェア担当者からは、気持ちが悪いと言われるかもしれません。

この場合は、CMOSデバイス間にバス・スイッチ(SN74CB3T3245)を挿入すれば、パッシブデバイスですので高速性や信頼性、ノイズに対しても安心です。もちろん、動作ソフトウェアは同じものです。詳細は、関連投稿:3.3V MCUと5Vデバイスインタフェースを参照してください。

このIoT MCU汎用Baseboardは、早く、安くIoT MCUソフトウェア開発をするためのソフトウェア担当者向けツールという位置づけです。製品化にあたっては、ハードウェア担当者も安心するようにバス・スイッチの利用をお勧めします。

Arduinoコネクタを持つMCU評価ボードが多い理由

ArduinoコネクタコンパチブルMCU評価ボード例
ArduinoコネクタコンパチブルMCU評価ボード例

本稿は、Arduinoコネクタを持つMCU評価ボードが多い理由を、少し丁寧に説明します。上図は、Arduinoコネクタレベルでコンパチブル(=置換え可能)なSTマイクロエレクトロニクス、サイプレス・セミコンダクター、NXPセミコンダクターズ各社のMCU評価ボードを示しています。

Arduinoコネクタ

イタリア発で「オープンソースハードウェア概念」の発端となったArduino(アルデュイーノ、もしくはアルドゥイーノ)。その制御系とArduinoシールドと呼ばれる被制御系ボード間の物理インタフェースがArduinoコネクタ(右下)です。
I2C(SCL/SDA)/ADEF(アナログ基準電位)/DIGITAL(PWM兼用)/ IOREF(IO基準電位)/RESET/POWER/ANALOG INのピン配置が決まっています。

Arduinoコネクタのおかげで、制御系とシールドに分離して開発でき、それぞれをArduinoコネクタで接続すれば、Arduinoボードシステムが完成します。

Wikipediaによると、2013年には制御系とシールド、公式非公式合わせて140万台ものArduinoボードが販売されていて、安価にプロトタイプシステム構築が可能となっています。

Arduinoコネクタを持つMCU評価ボードが多い理由その1:市販安価シールド資産が使える

既にこれだけの数のシールドが販売中ですので、MCU開発にそのまま流用や小変更で使えるシールドもあります。

Arduinoコネクタを持つMCU評価ボードが多い理由その1が、この既製品で安価なシールド資産が使えるからです。使用部品選定やアートワークパターンなども十分に練られた既製品が入手できるのです。しかもこれらは殆どの場合、オープンソースハードウェアなので詳細が開示済みです。

シールドは縦方向に段重ね(スタッカブル)できますので、複数段を重ね機能増加も可能です。

ハードウエア基板を0から動作するレベルにまでもっていくのは、時間もコストも掛かります。市販シールドを利用したプロトタイプ開発が可能なことが、MCU評価ボードにArduinoコネクタを持つ理由です。

Arduinoコネクタを持つMCU評価ボードが多い理由その2:MCU性能評価に使える

シールドを使ってハードウエアが用意されれば、後はソフトウェアです。

図のようにシールドは、複数ベンダーのMCU評価ボードに使えますし、同一ベンダー内の異なるMCUの性能評価にも使えます。

例えば、最も重要な処理に必要なシールドと、その制御ソフトウェアのみをプロトタイプ開発し、MCU性能が重要処理に十分か否かの評価を行います。この評価結果で、コストパフォーマンスに優れたMCU選択が可能となります。

場合によっては、ピンコンパチブル性を利用して他ベンダーのMCU選択も可能です。Cortex-M系MCUはどれも似通ってはいますが、例えば、サイプレスのPSoCシリーズはアナログブロントエンド機能内蔵など、各ベンダーでそれぞれ特徴があります。これらMCU特徴を活かした開発で競合他社との差別化もできます。

MCU評価ボードプロトタイプ開発スピードを上げるマイコンテンプレート

その1もその2もポイントは、プロトタイプ開発のスピードです。効率的に、しかも精度良くプロトタイプ構築し評価するには、MCU製品で使用頻度が高いLCD出力やアナログポテンショメータ入力、LED出力などの単機能シールドを複数使うよりも、これら機能実装済みの汎用Baseboardを使う方が、より低コストにプロトタイプハードウエアの構築ができます。

関連投稿:CY8CKIT-042とCY8CKIT-042-BLEへの機能追加、サンプルソフトが直に試せるマイコン開発環境の章

弊社マイコンテンプレートは、Baseboard動作に必要なソフトウェアをBaseboardテンプレートで提供済みです。開発要件に必要なシールドを見つけ、シールド単体でMCU性能評価を行い、さらにBaseboard実装機能を付加すれば、MCU製品完成形により近いプロトタイプシステムでの評価も可能です。

MCUプロトタイプ開発をスピードアップさせるマイコンテンプレート
MCUプロトタイプ開発をスピードアップさせるマイコンテンプレート

マイコンテンプレートは、MCU評価ボードプロトタイプ開発の「速さ」をより早めます。

MCU評価ボード、IDE、開発ツール、ベンダーが変わってもテンプレート本体は不変

テンプレート本体、具体的にはアプリケーションのLauncher機能は、MCU評価ボード、IDE、コード生成ツールなどの開発ツール、ベンダー各社には依存しません。つまり、単純なC言語でできています。

従いまして、開発ツールやIDEが時代により変化・更新しても、テンプレート本体は変わりません。ご購入頂いた弊社マイコンテンプレートの付属説明資料は、発売当時の環境をベースに解説しております。しかし、最新版のIDEやコード生成ツールに更新されても、このテンプレート本体は不変ですので、安心してお使いください。

まとめ

Arduinoコネクタを持つMCU評価ボードが多い理由は、市販安価シールド資産を活用し、MCU性能評価へも活用すれば、MCUプロトタイプ開発が効率的かつ容易になるからです。プロトタイプ開発スピードをさらに上げるためマイコンテンプレートが役立つことも示しました。

マイコンは種類が多く、どのベンダーの何を使って開発すれば良いかというご質問を時々頂きます。お好きなベンダーのArduinoコネクタを持つMCU評価ボードを使ってプロトタイプ開発することをお勧めしています。制御系ベンダー差は、Arduinoコネクタで消えます。先ずは着手、あえて言えば被制御系の開発着手が先決です。

マイコン評価ボード2018

マイコン装置を開発する時、ベンダ提供のマイコン評価ボードは重要です。良いハードウェア、良いソフトウェアは、評価ボードをレファンレンスとして活用した結果生まれるからです。

今回は、ARMコア対Non ARMコアという視点で最新マイコン評価ボードを分析します。掲載マイコン評価ボードは下記です(価格は、調査時点の参考値)。

デバッガの2機能

ベンダ評価ボードには、デバッガ付属とデバッガ無しの2タイプがあります。デバッガは、

  1. デバッグ機能:ソースコードのダウンロード、ソースコード実行とブレークを行う
  2. トレース機能:プログラムカウンタ実行履歴を記録する

の2機能を提供します。

トレース機能は、プログラムカウンタ遷移を記録し、ハード/ソフトの微妙なタイミングで発生するバグ取りなどに威力を発揮します。が、本ブログで扱うマイコンでは利用頻度が低く、サポートされない場合もありますので、デバッグ機能に絞って話を進めます。

各社が独自コアマイコンを供給していた頃は、各社各様のデバッガが必要でした。しかし現在は、ARMコアマイコンとNon ARMコアマイコンの2つに大別できます。

ARMコアマイコンの評価ボード

ARMコア評価ボードは、ARM CMSIS規定のSWD:Serial Wire Debugというデバッグインタフェースでコアに接続します。SWDを使うと、他社ARMコアとも接続できます。このため、評価ボードのデバッガ部分と対象マイコンを切り離し、デバッガ単独でも使えるように工夫したものもあります。

ARMコア評価ボードの多くは、対象マイコンにSWDインターフェイスのデバッガが付属しています。これは、対象マイコンが変わってもデバッガは全く同じものが使えるので、量産効果の結果、デバッガ付き評価ボードでも比較的安価に提供できるからです。

CY8CKIT-146
SWDデバッガ付属評価ボードCY8CKIT-146 (出典:CY8CKIT-146 PSoC® 4200DS Prototyping Kit Guide)

また、統合開発環境:IDEもEclipseベースを採用すれば、実行やブレークのデバッガ操作方法も同じになり、例え異なるベンダのARMコアでも同じようにデバッグできるので開発者にも好評です。

以上が、マイコンのデファクトスタンダードとなったARMコアとEclipseベースIDEを多くのベンダが採用する理由の1つです。

Non ARMコアマイコンの評価ボード

一方、Non ARMコアマイコン評価ボードは、本来コア毎に異なるデバッガが必要です。そこで、評価ボードには対象マイコンのみを実装し、その購入価格は安くして、別途デバッガを用意する方法が多数派です。

機能的には同じでもコア毎に異なるデバッガは、サポートするコアによりデバッガ価格が様々です。例えば、ルネサスのE1デバッガは、RL78、RX、RH850、V850の4コアカバーで12600円ですが、RL78とRXコアのサポートに限定したE2 Liteデバッガなら、7980円で購入できます(2018年3月の秋月電子価格)。

RL78/G11評価ボードとE1
RL78/G11評価ボードとE1

ルネサスもE1/E2 Liteデバッガ付きのRX用低価格評価ボード2980円を2018年3月に発表しました(マルツエレック価格)。

E1、E2 Liteデバッガ付きRX評価ボード
E1、E2 Liteデバッガ付きRX評価ボード (出典:Runesasサイト)

※RX評価ボードは、無償CコンパイラROM容量制限(≦128KB)に注意が必要です。入手性は良いので容量制限を撤廃してほしいです。

個人でマイコン開発環境を整える時は、購入価格は重要な要素です。マイコンがARMコアかNon ARMコアか、デバッガ搭載かなどにより、評価ボード価格がこのように異なります。

標準インターフェイスを持つマイコン評価ボードの狙い:プロトタイピング開発

最近の傾向として評価ボードの機能拡張に、Arduinoコネクタのシールド基板を利用するものが多くなりました。様々な機能のシールド基板とその専用ライブラリが、安く入手できることが背景にあります。

ARMコア、Arduinoコネクタ、EclipseベースIDEなどの標準的インターフェイスを持つマイコン評価ボードの狙いは、色々なマイコン装置の開発を、低価格で早期に着手することです。既存で低価格なハード/ソフト資産の入手性が良いのが後押しします。

中心となるマイコン評価ボードへ、機能に応じたシールド基板を実装し、早期にデバッグしてプロトタイピング開発し製品化が目指せます。

CY8CKIT-046
Arduinoコネクタを2個持つCY8CKIT-046、緑線がArduinoコネクタ (出典:CY8CKIT-046 Qiuck Start Guide)

ルネサスもEclipseベースのIDE:e2Studioを提供中ですが、これは世界中のEclipse IDEに慣れた開発者が、ルネサスマイコンを開発する時に違和感を少なくするのが主な狙いだと思います。Non ARMルネサスマイコン開発の不利な点を、少しでも補う方策だと推測します。

関連する過去のマイコン評価ボード投稿

あとがき

ルネサス最新汎用マイコンRL78/G11は気になります。従来のRL78/G1xに比べアナログ機能を大幅に強化し、ローパワーと4μsの高速ウェイクアップを実現しています(詳細情報は、コチラ)。開発資料の多くがe2Studioで、CS+ではありません。Non ARMコアなので他社ARM比、特に優れたマイコンの可能性もあります。