CS+のCS78K0Rコンパイラ消える?

ルネサスツールニュース2016年4月1日号で、CcnvCA78K0Rが発表されました。

これは、RL78の統合開発環境CS+のCA78K0RコンパイラCソースを、CC-RLコンパイラCソースへ変換するツールです。58ページからなるユーザーズマニュアルも公開中です。

コンパイラ一本化への布石

統合開発環境:IDEのコンパイラが2本あるのは、使う側、提供する側双方にとってメリットはありません。

まして、CC-RLが性能では優れているので、CA78K0Rを使い続けるのは既に顧客へ提供済みのCソースを使うからでしょう。

本ツールは、そんなCソースをCC-RL Cソースへ変換します。CA78K0Rコンパイラは、半導体デバイスでは良くあるディスコン(discontinue)にして、CC-RLコンパイラへ一本化するための布石だと思います。

IDE

ルネサスは、統合開発環境IDEも独自開発のCS+と、ワールドワイドで一般的なEclipseベースのe2 studio、さらにRenesas Synergy™ 開発環境(ISDE)やHewなども提供中です。

要は、デバイス開発に使いやすいIDEが良いのですが、誰とどのように開発するか等の条件によりルネサスは、様々な解を提供しているのです。Synergyは別物としても、何種類も提供するのは大変でしょう。他ベンダがEclipseベースで一本化されているのとは、対照的です。

ベースとなるのがEclipseでも、各社IDEのAPI関数を生成するツールは全く異なります。ルネサスのAPI生成ツールが慣れもあって使いやすいので、この特徴を活かした発展を望んでいます。

マイコンIDEを早く効果的に習得するコツは、コチラのページにまとめています。

Arduino/Genuino 101

前記事紹介の国内名称Genuino 101こと「Arduino/Genuino 101マイコンテンプレート」の開発に着手します。Arduino IDEのLチカサンプルの問題点を指摘し、マイコンテンプレートがどのように解決するかを示します。

Arduino/Genuino 101開発ボード

Bluetooth LEに6軸加速度センサも内蔵した32MHz動作インテルCurie、ROM/RAM=192KB/24KBのMCUが実装されたArduino開発ボード、これがArduino/Genuino 101です。

Quark SEコアにSoC: System on a ChipしMCU単体ROM/RAMは、384KB/80KBですが、開発環境Arduino IDEが使う残りがユーザプログラマブル領域で192KB/24KBとなります。実にROM50%、RAM70%をIDEが使う!というものですが、その理由は後で考察します。

データシートFAQによると、2016年3月にIntel® IQ Softwareというパッケージでサンプルアプリケーションや専用RTOSなども提供するそうですが、現時点でリリースされていません。

Arduino IDE

Intel IQ Softwareリリースまでは、無償のArduino IDEを使います。最新版1.6.9をダウンロードしインストール、さらにArduino/Genuino 101動作のためIntel Curie Boards by IntelをボードマネジャでインストするとArduino IDEが使えます。

Arduino IDEは、スケッチエディタ、コンパイラ、開発ボードへのダウンロード(何故かArduinoではアップロードと呼ぶ)ができますが、デバッグ機能はありません。

Arduino/Genuino 101ボードとPCを接続し、ボードマネジャーでArduino/Genuino101、接続したシリアルポート番号を設定すれば準備完了です。ファイル>スケッチの例>01.Basics>Blinkを選択して➡アイコン: “マイコンボードに書き込む” をクリックすると、緑LEDが1秒毎に点滅の、いわゆるLチカ動作が確認できます。

Arduino IDE Setting for Arduino 101
Arduino IDE Setting for Arduino 101

スケッチ

「スケッチ」とはArduino IDEプログラム言語の名称で、ソフトウェア開発に不慣れなアーティストでも簡単にプログラミングできるように工夫された「簡易/変則? C言語」と個人的には理解しています。
「絵を簡単にスケッチする」からその名が来ているかもしれません。ヘルプ>「このソフトの使い方について」クリックで、スケッチが説明されます。ランゲージレファレンスも参考になります。

スケッチ重要事項をまとめます。

  • 2関数、setup();初期設定と、loop();無限ループで全体処理を構成
  • IDEでオレンジ表示の既成API関数と、if then else 等の基本的C言語で処理ロジックを作成

Arduino IDEが、使用する開発ボードに応じたAPI関数を全て用意することや、簡易C記述を可能とする仕掛け、これがROM/RAMをIDEが多量に使用する原因だと思います。しかし残りが192KB/24KBならユーザ領域としては、十分で問題はありませんが…。

Lチカサンプル問題点

Lチカサンプル、Blinkのスケッチソースが下記です。delay(1000)を使って1秒毎の点滅処理を行っています。点滅間隔変更は、delayパラメタ1000を変えれば良いことが解ります。但し、delay処理中は、他の動作はできません。マルチタスク処理は困難です。

Blink source
Blink source

そこで登場するのが、ファイル>スケッチの例>02.Digital>BlinkWithoutDelayです。

BlinkWithoutDelay source
BlinkWithoutDelay source

今度は、delayを使いませんので52行の1秒経過を判断してLEDをトグル点滅させます。トグル点滅以外のループ時間は、他動作が可能ですが、これにも問題があります。

Curieなどが活躍するIoTマイコンは、省電力動作が必須です。制御対象のセンサやGPIOデータ処理は、IoTマイコンにとっては遅い処理で、この遅い処理完了を待つ間は、MCUを省電力動作させバッテリや電力消費を抑えるのです。1つ1つのマイコン消費電力は小さくても、数億個のマイコンが動作するIoTの世界では、低電力動作は無視できません。

結局、BlinkWithoutDealyの方法も、無限ループが回りっぱなしで省電力動作向きではありません。

マイコンテンプレート

ユーザ処理を時分割で起動するのがマイコンテンプレートです。

起動したユーザ処理終了後や、起動処理が無い時は、自動的に省電力動作となります。組込みRTOS:Real Time Operating Systemにも同様な機能がありますが、RTOSほど複雑でなく、サイズ自体も小さいのが特徴です。詳しくは、マイコンテンプレートのサイトのテンプレート利用Tipsなどを参照してください。

既に5種のマイコンにテンプレートを販売中です。開発するのは、Arduino/Genuino 101開発ボード対応のマイコンテンプレートです。進捗状況などについて、本ブログに記載するつもりです。

先に示したIntel IQ Softwareがリリースされれば、RTOSも含まれていますので、そちらの方が良いと思う開発者の方も多いと思います。しかし、RTOSを使いこなすのは簡単ではありません(RTOS関連記事も参照)。
また、Windowsがそうであるように、OS自体の動作が不明で、さらにバグがある可能性も否定できません。

個人や小人数で開発するような規模のプログラムには、マイコンテンプレートは中身の動作が全て開発者に見え、カスタマイズも可能なので向いていると思います。

* * *

※弊社マイコンテンプレートサイトのページ選択をタブメニューに変更しました。従来よりも記事表示エリアが大きくなり、より見やすくなっております。
※ブラウザのキャッシュなどで表示がおかしい場合には、F5:再表示すると修正されます。お勧めのブラウザは、Firefoxです。

IoTコアにIntel入ってる

Intel製IoTマイコンコアのCurie 32MHzを搭載した開発ボード「Genuino 101」が4880円で発売されました。

Genuino 101
Genuino 101

Arduino UNO互換でArduino IDEが使え、右下のBluetooth LEアンテナ実装でROM/RAM=196KB/24KBです。

インテルのIoTコアデバイス

インテルは、先にIoT向けコンピュータEdisonを発表済みで、これを使った開発ボードも販売中です。
つまり、マイコンとIoTコンピュータ両方のデバイスを供給し、かつ、入手性も良い開発キットを提供できる半導体ベンダがインテルとなりました。

私が想定しているIoTデバイスの構成は下図です。

IoT Devices
IoT Devices

マイコンとIoTコンピュータ間は、Bluetooth LE:BLE通信です(理由はこちらの記事)。

BLEの複雑なプロトコルスタックから、たとえBluetooth認証マークが付いていても複数ベンダが混在する空間で、MCUとMPU/SBC間の無線BLE通信が上手く行くかは、やってみないと判りません。杞憂ですが、同一ベンダ同士でのみ安定に通信できる可能性もあります。

そうなると、パソコンCPUのデファクトスタンダードがインテルであるように、IoTコアも「インテル入ってる」つまり、インテル独占状態になるかもしれません。自社デバイス生産能力も持っているインテルですので供給価格の安さも含めて他ベンダには脅威でしょう。やはり杞憂ですね…(^_^;)。

本ブログのIoTデバイス

Curieマイコンも本ブログの対象とする必要がありそうです。
こちらの固定ページに、対象デバイスの特徴などを簡単に列記しておりますので合わせてご覧ください。

PSoC 4 BLE Pioneer Kitサンプルソフト改版

弊社推薦PSoC 4 BLE/PSoC 4開発キットのPSoC 4 BLE Pioneer Kit:CY8CKIT-042-BLE付属サンプルソフトが、2016/02/12 Revision *Hへ改版されました。Cypress Update Manager起動でUpdate可能です。

Update Manager更新失敗時の対処

殆どの場合Update Managerで更新は成功します。しかし、Windows 10の煩いセキュリティのおかげ?で時たまCY8CKIT-042-BLEのみUpdate失敗があります。この時は、CY8CKIT-042-BLEサイトから直接Download CY8CKIT-042-BLE Kit Only Packageをダウンロードし実行すれば、更新は成功します。

Cypress Update Manager成功時
Cypress Update Manager成功時

更新内容

今回の更新は、PSoC 4 BLEキットに搭載可能なBluetooth 4.2対応のPSoC 4 BLEとPRoCモジュールが増えた事への対処です(コチラの記事も参照)。但し、キットに初めから搭載されているサンプルソフトとモジュールに変更はありません。キットガイト抜粋のサンプルソフトと対応モジュール一覧が下記です。

PSoC 4 BLEサンプルソフトと対応モジュール一覧
PSoC 4 BLEサンプルソフトと対応モジュール一覧

キット搭載のROM 128KBでBluetooth 4.1対応モジュールのPSoC 4: CY8C4247LQI-BL483と、PRoC: CYBL10563-56LQXIが、デフォルトで対応するモジュールのデバイスです。(デバイス差明示のため赤表記)。

PSoC 4 BLEモジュールでは、
Bluetooth 4.1でROMが128KBから256KBへ増えたCY8C4248LQI-BLE483、
Bluetooth 4.2でROMが256KBのCY8C4248LQI-BL583、
PRoC モジュールでも、同じく
Bluetooth 4.1でROMが128KBから256KBへ増えたCYBLE10573-56LQXI、
Bluetooth 4.2でROMが256KBのCYBL11573-56LQXI、
BLEドングルもBluetooth 4.2対応のCYBL11573-56LQXIのサンプルソフト、Projectが対応します。

弊社テンプレートの適用例であるBLE_PSoCプロジェクトのリソースメータが示すように、簡単なアプリケーションでも128KB ROM/RAMの6割以上を使用しますので、デバイスROM容量が256KBへ増えたのは、納得できます(販売中のPSoC 4/PSoC 4 BLE/PRoCテンプレートはコチラを参照してください)。

テンプレート応用例BLE_PSoCのリソースメータ
テンプレート応用例BLE_PSoCのリソースメータ

残念ながら、わずか15$で追加できるBluetooth 4.2対応モジュールを未入手なので確認はできていませんが、モジュール変更時は、デバイス再選択と使用コンポーネントをBLE 4.2へ更新しさえすれば簡単にサンプルソフトを適用できそうです。

この追加モジュールのROM容量とBluetoothの対応が解りやすいのが、ガイトA.5表です。

実装モジュールのROMとBluetooth対応
実装モジュールのROMとBluetooth対応

CySmartアプリソースコード公開

Cypressは、BLEドングルの代わりにAndroidやiOSで使えるCySmartというスマホアプリも公開中です。今回、これらのソースコードも公開されました。時間と能力があれば、モバイルアプリ開発も是非トライしたいと考えています。

※弊社BLE動作テンプレートは、全てBLEドングルを使ってBLE通信動作を確認済みです。CySmart+私のNexus 5:Android 6.0.1という組合せは、原因はNexus側にあると思いますが上手く接続できないのが理由です。

NXPとCypress動向

NXPは2015年にFreescale、Cypressは2014年にSpansionを買収しました。買収後のNXPとCypressのマイコンラインアップがどう変わるかが気になります。
日経テクノロジーOnlineで両社のマイコン新製品と今後の開発動向に関する記事がありましたので、要点をリストアップしました。

NXP: LPCとKinetisを徐々に統合

“新生NXP初のマイコン、旧NXP系で低消費電力がウリモノ” 2016/02/24より

  • NXPのマイコンシェア、車載MCUは世界第2位、車載を除くMCUは世界第1位
  • LPCマイコンと(旧Freescale)Kinetisマイコンは、徐々に統合(Geoff Lee氏談)
  • 新製品は、NXP系のLPC54000シリーズ(Cortex-M4FでコプロセサにCortex-M0+搭載可)

弊社マイコンテンプレートで使った、NXPのLPC8xx/LPC111xと旧FreescaleのKinties Eも現在NXPから全て供給中ですが、統合される可能性があることが解ります。

Cypress: PSoC 4へCortex-M0+コアを採用

“FMマイコンもPSoCも同じツールで開発、Cypressがアルファ版をデモ” 2016/02/29より

  • 新製品PSoC 4 Sは旧Spansionライセンス取得のCortex-M0+を採用。今後新開発PSoC 4もM0+を使う
  • PSoC 4 S搭載の第4世代CapSenceは、第3世代比、雑音耐性向上と低電力化
  • PSoC 4 S Pioneer Kit ($49)、PSoC 4 S Prototyping Kit ($10)発売
  • PSoC CreatorでFM0+マイコン(旧Spansion)も開発できるよう強化中

Cortex-M0+とM0を比較すれば、M0+が優れているので、新開発のPSoC 4系にM0+を採用するのは理解できます。
数あるマイコンIDEの中で私が最も使いやすいと評価するPSoC Creatorですが、PSoC 4とFM0+はアーキテクチャが異なり、さらにPSoC 4系にM0+が採用されれば、ますますFM0+を使う機会は減ると思います。
通常のマイコンソフト開発では、M0+とM0を区別することも少ないので、Creator強化は静観したいと思います。

マイコンでBLE実現の3方法

レガシーなUARTは簡単に使えるマイコン開発者でも、BLE:Bluetooth Low Energyは、新しくかつ仕様も追加されつつあるので手を出しにくいものです。しかし、いざBLEを仕事で使う段になれば、いつものように、厳しいスケジュールでの開発が要求されます。

そのような開発者個人が、入手性が良いマイコン:MCUで電波法の縛りがある日本国内でBLE通信を自習する方法を3つ紹介します。

BLE習得3方法

仕事での開発と違い、個人でBLEの開発環境を整える場合は、「入手性とその金額」が問題になります。金額ベースで安い順に3方法を評価したのが下図です。

BLE実現3方法
BLE実現3方法

Cypress PSoC 4 BLE利用の方法1は、低コスト($49)で環境構築可能ですが、多少BLE仕様を理解する必要があります。しかし、BLEを習得するならお勧めの方法です。

BLEモジュール追加の方法2は、マイコンUART入出力にBLEモジュールを追加する方法です。
マイコン以外にBLEモジュールが必要なため、追加コスト(図示、浅草技研BLESrialの場合4000円)が必要ですが、BLEを無線のドカン(UART over BLE)として使えるので、BLEをブラックボックスとして扱えるのが魅力です。
方法1と方法2のコスト差は、使用マイコンにも依存するので大差ありませんが、後で示す仕様変更時に差が出ます。

ルネサスRL78/G1D利用の方法3は、BLE機能を持つルネサスRL78マイコンを使うので技術資料が日本語ですが、開発には高価な有償版CS+と評価ボードが必要になります。RL78マイコンを仕事で使っている場合は、有利かもしれません。

BLE仕様が変わる現状への対処

マイコンBLEの通信相手は、前回示したMPU/SBCなどのIoT向けPCの他に、スマホが使えます。

スマホBLEには、「BLE 4.0/4.1/4.2など様々な仕様」があります。多くの通信仕様のように、下位互換性がありますが、セキュリティなどの機能強化が図られており、結果、対応マイコンにはますます大容量ROMや高性能化が要求されます。

このようなBLE仕様の変化や仕様追加に対して、PSoC 4 BLE: CY8CKIT-042-BLEは、実装CPUモジュール($15)の載せ替えで対応します(コチラの記事を参照)。一方、BLEモジュール追加の方法は、モジュール購入時で仕様が固まっているので、変更には対応モジュールの再購入が必要です。

総合評価結果

入手性とその金額、BLE仕様変更への対応から、PSoC 4 BLEを使った方法1が、コスト的にも、BLEに関するCypress日本語資料も少なからずありますので、個人でBLE習得するには最も優れた方法だと思います。

IoT時代は、UARTと同じレベルでBLEを使うことが必須です。仕事でせかされる前にBLE技術を習得しませんか? 弊社PSoC 4 BLEテンプレートもお役に立てると思います。

Raspberry Pi 3 Model Bの意味

Raspberry Pi 3 Model Bが発売されました。前のRaspberry Pi 2との差分は、処理能力向上とIEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 4.1 (BLE: Bluetooth Low Energy)の無線通信機能搭載です。

Raspberry Pi 3 Model B(記事より抜粋)
Raspberry Pi 3 Model B(記事より抜粋)

IoTでは、数億~数十億個とも予想される情報収集マイコン(MCU)と、これらマイコンを束ねてクラウド側処理に適した変換処理をするRaspberry Piのようなコンピュータ(MPU、SBC)が必要です。

今回Raspberry Pi 3でIEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 4.1(BLE: Bluetooth Low Energy)が追加実装されたことは、MCU、MPU/SBC間の通信手段としてこれら方式が有力であることを示しています。また、セキュリティや通信に処理能力が必要なので高性能化も解ります(既にこれら機能実装済みのDragonBoard 410cは、こちらを参照)。

低消費電力が要求されるマイコンMCUとの通信にはBLE、高速大容量が要求されるクラウドとの通信には無線LANが適用されると思われます。

IoT階層構造
IoT階層構造

今後のマイコン開発者には、従来通信の「UARTと同レベルでBLE習得が必須」です。

弊社マイコンテンプレートは、CypressのPSoC 4 BLEテンプレートでこの要求に対応済みです。最新のPSoC Creatorは、よりセキュリティを強化したBLE 4.2へも対応しています。BLEをUARTと同様に簡単に使ってみませんか?

マイコンテンプレート利用のコツやTips:その3

マイコンテンプレートを利用するコツ/Tipsの第3回目は「時分割処理のタイミングとインタフェースRAM」について示します。
販売中のテンプレート処理起動の間隔は、250us/1ms/10ms/100ms/1s/無限ループの6種類です。この6種類の使い方を示します。

処理起動タイミング

マイコンの処理は、電源投入後、「1回のみ実行する」スタート処理と、無限ループで「繰り返し実行する処理」の2つに大別できます(ROM/RAMを初期化するなどのスタートアップ処理は、除いています)。

ここでは無限ループに代わってテンプレートが実行する、繰り返し実行する処理の間隔:「タイミング」を考察します。

テンプレートは、起動する処理が無い無限ループ:空き時間で起動するのは、Sleepなどの低消費電力処理であることは、第2回で示しました。

100msと1sの起動間隔は、マイコンにとっては「遅い処理」、例えば、LED点滅や、LCD初期設定、SWチャタリング対策の起動に適しています。
※LCD初期設定は、無限ループ前のスタート処理で実行することも可能です。

1msと10msの起動間隔は、「早い処理」、例えば、割込みの応答処理などの起動に適しています。

250us起動間隔は、「最も早い処理が必要」な、例えば、UART/I2Cなどのデータ受信処理を起動することを想定しています。

つまり、早いレスポンスが必要な処理ほど処理間隔が短く、起動される処理のソース記述位置も上側になるのです。これがテンプレート時分割起動の「基本的な使い方」です。

実例が下図です。赤/緑/青LEDを、0.5/1/2秒毎にトグル点滅する場合です。赤囲みが、テンプレートへ追加されたLEDトグル処理を表します。それ以外が、テンプレートに初めから記述済みの起動処理です。

LED点滅処理での優先順位の例
LED点滅処理での優先順位の例

起動間隔

起動の間隔は、第2回で示したtick interruptの発生間隔です。
1ms>10ms>100ms>1sの順にレスポンスが早くなりますが、250usだけ特別に超高速応答です。これは、UART受信などの主として「いつ発生するか判らない応答に早く即応する」ためです。

販売中のテンプレートは、全てこの250usを起動間隔として開発しておりますが、実は「250usである必要性は無い」のです。因みに、FreeRTOSなどの組込OSでもtick interruptは1msです。

250usは、経験的にこの最高速でこれまで利用に問題が無かったからです。
この起動間隔を1msにし、UART受信処理を1ms起動に変更しても、メニュードリブンテンプレート動作などには問題ありません。
メニュードリブンテンプレートは、当該マイコンのUART受信バッファが1バイトでも、UARTコマンド長も1バイトなので、受信完了確認後ゆっくりバッファからデータを取り出しても間に合うからです。

起動間隔の設定は、テンプレート購入者様が「独自判断で設定して頂いても構いません」。

但し、250usよりも高速:短くすることは無いと思います。これよりも短いと、処理分割をより細かくする必要があり、開発がより厳しくなるからです。逆に、250usよりも長くすると、処理分割は楽になります。

テンプレートは、マイコン「コア動作速度を最高速」に設定し、起動間隔も「最高速と思われる250us」でデフォルトは設定しております。これは、「最初」にマイコンの最大能力で動作するアプリケーション開発後、「次の段階」としてコア周波数を下げるなどで、低消費電力化するアプローチを想定しているからです。

インタフェースRAM

処理間のデータやり取りにインタフェースRAMを使うことは、第1回で示しました。ルネサスのRL78/G1xは、通常RAMよりも高速アクセス可能なSADDRを持つなど特殊な例もありますが、低価格マイコンではRAMが貴重なリソースであることに変わりはありません。

この貴重なRAMを使う時に、ビット単位構造体を使い、ビット単位フラグでデータをやり取りすると、1バイトRAMで最大8個のフラグを使えるので効率的です。

テンプレートでは、このビット単位アクセスを容易にするため、userdefine.hにユーザ型定義を追記しております。処理間にブラグを多用する場合などにご活用ください。

マイコンテンプレートとは?

第1~3回で示したテンプレートは、「ISRは、サンプルプログラムを一部またはそのまま流用し、その他全処理をポーリング起動するマルチタスク処理の骨組み」と説明すると理解が早いかもしれません。

割込み処理は、ISRで割込みフラグ処理のみを行い、ISR発生をポーリングし割込み実処理を起動する。
サンプルプログラムの無限ループポーリングとの差は、処理に応じた時分割ポーリングである。
骨組みのテンプレートへ、サンプルプログラム流用の処理を組込んでプロトタイピング開発をする。
この理解で良いと思います。

ポイントのまとめ

  • 処理起動間隔は、250usとしているが、変更は可能、かつ任意
  • 高速な応答が必要な処理は、短い起動間隔へ配置
  • インタフェースRAMの効率的な利用に、ビット単位構造体も有効

* * *

3回に分けてマイコンテンプレート利用のコツ/Tipsを示しました。これらは、ソフトウエア開発では当然の事柄とダブる部分も多くありますが、数値では表せないのであえてコツ/Tipsとして記載しました。

組込OSを使うよりも簡単で、サンプル流用も可能なマルチタスク実現テンプレートが、お判り頂けたと思います。

販売中のマイコンテンプレートを活用し、アプリケーションの早期開発を成功させてください。

CA78K0Rコンパイラ V1.71回避不能バグ

2月1日発行のルネサスツールニュースで、RL78/G1xの「CA78K0Rコンパイラ V1.71の回避不能なバグ」が報告されています。

RL78/G1xテンプレートVer5のCA78K0Rコンパイラ版でも、報告記載の「volatile」や「前置インクリメント」を使っていますが、こられバグに該当しませんので安心してください。
但し、テンプレートを使ってアプリを開発された方は、ニュース内容に目を通し確認することをお勧めします。

RL78_G1xテンプレートの動作コンパイラP3より抜粋
RL78_G1xテンプレートの動作コンパイラP3より抜粋

ニュース最後に、「次期バージョンで改修する予定」と記載されていますので、ディスコンを懸念したCA78K0Rも改版されるかもしれません。しかし個人的には、CC-RLコンパイラへの乗換えをお勧めします。

マイコンテンプレート利用のコツやTips:その2

マイコンテンプレートを利用するコツ/Tipsの第2回目はテンプレートの「マルチタスク処理の実現方法」を示します。

組込OSの分割起動

シングルコアのマイコンで、マルチタスク処理の実現方法が、「処理の分割起動」です。
組込OSは、この分割処理=タスクの起動をOSが行います。FreeRTOSの“USING THE FREERTOS REAL TIME KERNEL”から抜粋したFigure 4は、このことを解り易く示しています。

OSのKernelは、tick interrupt毎にタスク切り替えを行います。t2でTask1は「強制的に中断」され、Task2へ切り替わります。t3では、Task2が強制中断され、Task1が「中断処理から再開」されます。

FreeRTOSの分割起動
FreeRTOSの分割起動

ある時刻で動作する処理は、Kernelを含めて1個ですが、tick interrupt毎に処理を切り替えてマルチタスク処理を実現します。

テンプレートの分割起動

分割起動は、テンプレートでも同じです。テンプレートは、第1回目で説明した「細かく分割した処理」をtick interrupt毎に時分割で起動します。組込OSとの差は、(簡単に説明すると)起動処理を強制的に中断したり、再開したりする機能が無いことです。

マイコンテンプレートの分割起動
マイコンテンプレートの分割起動

起動処理1の中断機能が無いので、t2のタイミングまでに「処理1が終了」していることが必要になります。

処理終了のための分割

この「処理終了」は、どうすれば得られるのでしょうか?

第1回説明の「細かい処理の分割」は、結果として処理時間も短くなり、この処理終了をもたらします。

マイコン処理分類(注意点)
マイコン処理分類(注意点)

注意すべきは、赤丸の処理の完了確認が必要な入出力処理です。しかし、ここを「完了確認の処理」と、「その結果で動作する処理」の2つに分けて開発すれば、問題解決です。それぞれの処理が短時間で終了するからです。

同じように割込み処理も、基本的にISR: Interrupt Service Routine内では、「割込み発生確認と割込み要因のクリア」のみを行い、「割込みの結果で動作する処理は別処理」として分割して処理化します。

このような処理分割により、デバッグが容易となり、別アプリへ流用/応用性、部品化も高まります。

勿論、サンプルプログラムのISR処理を「そのまま流用」してもテンプレートへ組込んでもOKです。サンプルプログラムが提供する典型的なISRは、処理時間が短い場合が殆どでだからです。

分割起動後の処理

起動処理で起動される側の処理時間が短くなると、起動処理へ戻る時間が増えます(上図ピンク)。この戻った時の処理が、無限ループの処理です。

テンプレートでは、無限ループ内で起動する処理は、低電力処理のSleep(またはDeep Sleep)です。
この結果、高速マイコンであればある程この「無限ループ:空き時間」が長くなり、マイコン消費電力の大部分を占めるコア動作を停止するSleepを効果的に使えます。

ポイントのまとめ

  • 処理時間を短くするため、「確認処理」と「その結果の処理」を分離
  • 起動処理無しの「空き時間」は、低消費電力処理を起動(SleepとDeep Sleepの差には注意)

次回予告

テンプレートが処理を分割し、これを分割起動するマルチタスク処理の実現方法を示し、処理分割のコツ/Tipsを示しました。次回は、「時分割のタイミング」について説明する予定です。