ルネサスCS+ V8.00.00更新

2018年11月27日、ルネサスエレクトロニクス(以下ルネサス)のIDE(統合開発環境)CS+が、V7からV8.00.00にメジャー更新されました。主な変更内容は、11月27日発売の第3世代RX(RXv3)MCUへの対応です。

CS+ V8.00.00無償評価版

CS+は、RL78、RX、RH850、V850、78K0R、78K0のMCU開発に使います。無償評価版は、以下のROM容量制限があります。

無償評価版のROM容量制限
RL78、78K0R、78K0R 64Kバイト以内
RX 128Kバイト以内
RH850 256Kバイト以内

同じくルネサス無償提供EclipseベースIDEのe2 studioは、この容量制限がありません。

しかし、e2 studioにはコンパイラがパッケージされていませんので、各MCU対応のCS+と同じ無償コンパイラをインストールして使用します。その結果、コンパイルできるROM容量は、CS+無償評価版と同じになります。
※CS+もe2 studioも容量制限を外すには、コンパイラ有償ライセンスが必要です。しかし、個人レベルでの購入は、高額出費を覚悟してください。

CS+もe2 studioも機能的には同じです。Eclipse IDEを使った経験が有る方や、世界標準指向ならe2 studio、それ以外は、IDE全機能が1パッケージ提供で、チュートリアル付き、更新方法も簡単なCS+が便利です。

第3世代RXv3の第一弾はモータ制御製品

第3世代RX(RXv3)MCU
第3世代RX(RXv3)MCU(出典:ルネサスサイト)

ルネサス独自開発の32ビットRXv1/RXv2 MCUに対する命令セットの上位互換、5.8 CoreMark/MHzへの性能向上などが特徴の第3世代RXv3製品化第1弾は、モータ制御に適したRX66T(ROM256Kバイト~1Mバイト)です。

RXの性能を活かしたソフトウェアを開発するには、CS+無償評価版では128KバイトROM容量制限があるため力不足です。残念です。

ルネサス買収懸念とリスクヘッジ

11月24日のビジネスジャーナルに、ルネサスの買収に対する懸念記事が掲載されました。本ブログでも10月1日にルネサスのIDT買収の複数懸念記事は紹介しましたが、今回は、インターシル買収と現状のルネサス経営への懸念という点で異なります。

ゴーン容疑者が崖っぷちの日産を復活させたように、経営陣の舵取りは、その会社のみならずルネサスMCUの使用者(我々)の技術人生にも影響を与えます。

車のエンジン ≒ MCU、エンジンの気筒数 ≒ MCUビット数、車所有者 ≒ エンドユーザに割当てると、我々が開発するソフトウェア、ハードウェアの最終利用者は、装置を使うエンドユーザです。このエンドユーザが気にするのは、燃費(消費電力)や安全性(セキュリティ)、トータルコスト等で、どのMCUを使って開発するかを気にするエンドユーザは、殆どいないと思います。

ルネサスCS+のようにROM容量制限がある無償IDEや、MCU毎に専用デバッガが別途必要でArduinoコネクタを持たない評価ボード、これらは他のMCUベンダーのそれらと比べると少数派、日本独自仕様です。

関連投稿:MCU評価ボード2018

もちろん、多数派、世界標準に合わせた環境やMCUを提供することが最上ではありません。しかし、ルネサスの場合、本稿のような独自MCUを新開発する一方で、多数派標準と同じ土俵のARM Cortex-M系Synergy MCUなども提供中です。ルネサスの中に潤沢なリソースがあれば別ですが、これまた日本独自の働き方改革が叫ばれる時期、選択と集中ができていないと感じるのです。

技術者リスクヘッジ
技術者リスクヘッジ

ルネサスが技術的に優れていても、ガラパゴス携帯のようにならないことを祈りつつ、技術者個々人でリスクヘッジ(リスク回避)を考えることも大切だと思わせる記事内容です。

関連投稿:ルネサスの買収に対する懸念記事、技術者個人のリクス分散必要性の章

ルネサス世界初28nm車載マイコンサンプル出荷

ルネサスエレクトロニクスは2018年3月28日、車載マイコンRHファミリに28nmプロセス採用マイコンのサンプル出荷を開始しました。従来の40nmに比べ、高性能、低消費電力で大容量フラッシュメモリ内蔵の世界初、世界最高性能のルネサスオリジナルコアマイコンです。

ルネサスマイコンの命名則

車載マイコンRHファミリは本ブログ対象外です。しかし、車載マイコンが、全てのマイコンを引っ張って発展させているので、注目しています。ここでは、ルネサスマイコンの名前の付け方を簡単に説明します。

先頭に「R」が付くのが新生ルネサス誕生後に発売のマイコンです。汎用マイコンが、図のRL78、RX、RZの3ファミリ、車載アプリケーション特化マイコンが今回発表のRHファミリです。

一部例外はあるものの、殆どがルネサスオリジナルのNon ARMコアマイコンです。

ルネサス汎用マイコン
ルネサス汎用マイコンファミリ。用途、性能に応じてRL78、RX、RZと3ファミリある。(出典:汎用マイクロコンピュータラインアップカタログ)

汎用マイコンだけでも、用途や性能(ルネサスはソリューションと呼ぶ)に応じてRL78、RX、RZと3ファミリあり、さらにそのファミリの中で、RL78/G1x、RL78/F12など細かくシリーズに分かれた名前構造なので、解り難いです。

ちなみに本ブログ対象はRL78ファミリですが、RXも対象に入れるか検討中です。個人レベルでも開発環境を整え易いか否かが基準です。RXファミリの場合、実装メモリが大きいのに無償Cコンパイラの容量制限≦128KBがネックになっています。

他のH8や78K0Rなどは、日立やNEC、三菱電機などルネサスに統合前の各社マイコンの名称です。簡単に旧マイコン名が消える海外ベンダと異なり、旧会社のマイコン名をいつまでもカタログに記載するのも善し悪しです。

ルネサスSynergyは、これらNon ARMコアとは別に他社に遅ればせながら開発したARMコアマイコンファミリです。遅れた分、他社同様の売り方はせず、ルネサスSynergy Software Packageというルネサスが動作保証する専用ライブラリを提供し、開発者がアプリケーションのみを開発する方法で販売中です。個人レベルでは、特に価格で手を出しにくいと思っています。

28nmプロセス、大容量メモリの用途

ルネサスRHファミリで向上された性能を、具体的にどこで使うのかが解る図が、記事にありました。

大容量メモリの利用割合
大容量メモリの利用割合。アプリ増加比率よりも、データ、Safety、Security、Driversの増加比率が大きい。OTA利用により最低2面構成のメモリが必要の可能性もある。(出典:記事)

左側の色分けメモリマップから、アプリケーションのメモリ比率の増加よりも、Data、Safety、Security、Driversの増加比率が大きいことが判ります。つまり、開発するアプリケーションよりも、アプリが使うデータや安全性確保、ドライバーの増加がメモリ増大要因です。このドライバーの中にアプリが使うライブラリなども含まれると思います。

また、図では判りませんがOTA:Over-The-Airには、同じメモリが最低2面必要になるかもしれません(関連投稿は、コチラのIoT端末の脆弱性対応はOTA更新が必須を参照)。OTAに万一失敗しても、最悪更新前に戻るには、更新前と更新後のメモリが必要なのがその理由です。

いずれにしても大容量メモリは必須です。また、プロセス細分化でより低消費電力で高速動作を実現しています。
大容量メモリ実装、プロセス細分化は、車載マイコンに限った話ではありません。汎用マイコンでも同じです。

製造は、世界最大の半導体製造ファウンダリである台湾)TSMCが行うので、パソコンのCPU同様、マイコン:MCUも28nmプロセスへ一気に変わる可能性もあります。

半導体プロセス微細化の懸念

一方で、半導体プロセスの微細化は利益につながるのか2018年3月28日、EE Times Japanという記事もあります。28nmよりも先、10nm以下のモバイルプロセサでの話ですが、マイコンでもいずれ同じ時代が来るでしょう。

汎用マイコン技術は、先行する車載マイコンやモバイル半導体技術をベースに発展します。

先行の動向を知ることは、無駄ではありません。少し先を見越して、隠しコマンドなど遊び心がある工夫をソフトウェア、ハードウェアにこっそり入れておくのも開発者の数少ない楽しみの1つだと思います。

ルネサスSynergyロードマップ2017 and 2018

3月29日、ルネサス発表の“Renesas Synergy™プラットフォームに新たに3つのマイクロコントローラグループを追加、業界初の組み込み開発向け統合プラットフォームをさらに拡充”に、SynergyのS1グループのロードマップが示されました。

Synergy Loadmap 2017 and 2018
Synergy Loadmap 2017 and 2018(記事より)

Cortex-M0+ 32MHzのS1グループはROM/RAM増量

弊社対象MCUのCortex-M0/M0+クラスは、S1グループです。ROM/RAMが増量されることが解ります。無線機能は、未実装です。

S128 Block
S128 Block(ルネサスサイトより)

Cortex-M23もこのグループに属すと思いますが、S128データシートでは、ARM v6-M採用となっており、Cortex-M23のv8-Mとは異なります。昨年のSynergyでM23サポート発表とどのようにリンクするかは、不明です。

それにしても、MCU名が、以前のR8CやRL78と同様複雑と感じるのは、私だけでしょうか?Synergyのスケーラブルなマイクロコントローラという特徴や優位点からすると、MCU選定はアプリ開発と同時で良いので、名前が複雑でも関係ないのかもしれません。

ルネサスSynergyでCortex-M23サポート発表

ルネサスが、SynergyにARM Cortex-M23を加える予定を発表しました。Cortex-M23は、コチラを参照してください。

Synergy

Synergy Lineup
Synergy Lineup(記事より抜粋)

Synergyは、2015年10月に提供開始した新しいARM Cortex-M系の開発環境(2015年10月18日の記事も参照ください)。

他ベンダ―のARM Cortex-M開発環境は、EclipseベースIDEであるのに対して、少し異なる(Apple的な)アプローチを取っています。ガラパゴスと言われなければ良いな?!と思いますが…。後発なのでプラスアルファした結果だと思います。

このSynergyに先日記載したCortex-M23を将来的に加えると発表しました。IoTデバイスを狙うなら当然です。本ブログも注視していきます。

CS+のCS78K0Rコンパイラ消える?

ルネサスツールニュース2016年4月1日号で、CcnvCA78K0Rが発表されました。

これは、RL78の統合開発環境CS+のCA78K0RコンパイラCソースを、CC-RLコンパイラCソースへ変換するツールです。58ページからなるユーザーズマニュアルも公開中です。

コンパイラ一本化への布石

統合開発環境:IDEのコンパイラが2本あるのは、使う側、提供する側双方にとってメリットはありません。

まして、CC-RLが性能では優れているので、CA78K0Rを使い続けるのは既に顧客へ提供済みのCソースを使うからでしょう。

本ツールは、そんなCソースをCC-RL Cソースへ変換します。CA78K0Rコンパイラは、半導体デバイスでは良くあるディスコン(discontinue)にして、CC-RLコンパイラへ一本化するための布石だと思います。

IDE

ルネサスは、統合開発環境IDEも独自開発のCS+と、ワールドワイドで一般的なEclipseベースのe2 studio、さらにRenesas Synergy™ 開発環境(ISDE)やHewなども提供中です。

要は、デバイス開発に使いやすいIDEが良いのですが、誰とどのように開発するか等の条件によりルネサスは、様々な解を提供しているのです。Synergyは別物としても、何種類も提供するのは大変でしょう。他ベンダがEclipseベースで一本化されているのとは、対照的です。

ベースとなるのがEclipseでも、各社IDEのAPI関数を生成するツールは全く異なります。ルネサスのAPI生成ツールが慣れもあって使いやすいので、この特徴を活かした発展を望んでいます。

マイコンIDEを早く効果的に習得するコツは、コチラのページにまとめています。

半導体業界動向に惑わされないマイコン技術習得

NXPによるFreescale買収など、マイコン半導体ベンダーの動きが激しい2015年末ですが、唯一ともいえる日の丸半導体、ルネサスエレクトロニクスの筆頭株主の産業革新機構が、保有するルネサス株式の一部売却の検討に入ったというニュースが、11月21日報道されました。

売却先候補は、トヨタやパナソニックなどの日本企業と、ドイツ)インフィニオンなどが挙がっています。

日本企業がルネサスを保持したい理由は、自動車向けの需要や、相対的に弱体化した日本エレクトロニクス業界の現状が背景にあると思います。もちろん、日本人開発者にとっても、日本語環境や日本語コミュニティが提供されるルネサスマイコンは貴重な存在です。

今後の機構の動きは、要注意ですね。因みにルネサスのSynergy詳細が明らかになりました。
記事によると、“既存ファミリ「RX」「RZ」「RL」は長い成功の歴史があり、今後のロードマップが決定しており、顧客に長期サポートを約束しているので、ロードマップ変更ができない”、そこで、新たなCortex-M系を用いたSynergyが米国で開発されたようです。

つまり、「RX」「RZ」「RL」が既存国内資産継承と車載向け、「Synergy」が半導体業界の“Apple”目標のUS発新設計基盤でIoT向けのようです。
だとすると、この2つでルネサスを分割するシナリオが、最もありそうだ、と思いますが…?

マイコンは、「ARMとそれ以外」にコアが別れ、「車載とIoT」でマーケットが決まりつつあります。
自動車産業と同様、国レベルで保護や競争がある半導体業界のM&Aは、予測の域を超えています。しかし、状況がどう変わっても「開発者が生き残れる技術蓄積は必須」です。

シンプルな弊社マイコンテンプレートも、その1つになればと願っております。

IoT向けマイコン動向とマイコンテンプレート

IoT構成デバイス、特に数億~数十億とも予想される莫大な出荷数のマイコンに対して、ネットワークやセキュリティなどのIoT向け機能を強化した新マイコンがベンダ各社から登場しています。

Runesas Synergy

この新マイコンの1つ、ルネサスSynergyの“セキュリティ強化ポイント”と“開発アプローチ”に関する2種ホワイトペーパーが9月9日公開されました。ティーザー広告手法でしょうか? Synergyは、2015年末に詳細発表予定です。

セキュリティの方は、私はイマイチ解らないのですが、開発アプローチのペーパーを読むとSynergyが、ARM Cortex-MコアでEclipseベースのe2 studioThreadX RTOSを使うらしいことが解ります。

狙いは、ルネサスが、System Codeと呼ぶドライバーやミドルウエア、RTOSなどをパッケージで提供することで、開発者労力をアプリケーションに集中させ、トータル開発時間を削減することです。

CS+のコード生成にReal Time OSを付けた、または、Visual StudioのWindowsデスクトップアプリ開発環境に近いイメージでしょうか? 私は、NVICによるイベントドリブンプログラム派ですので、OSが小規模マイコンのオーバーヘッドにならないか気がかりです。

開発キットかスターターキットの購入&登録でSystem Codeパッケージを全て使用できるそうです。

Cypress PSoC4/PRoC BLE

Cypressでは、PSoC4は、“IC: Integrated Circuit”の位置づけ、PRoC BLEは、プログラマブルRadio機能のBLE: Bluetooth Low Energyを追加した“マイコン”と言うそうです。PSoC4にBLEを追加し2015年発売のPSoC4 BLEPRoC BLEともにCortex-M0コアを使いBluetooth 4.1モジュールが実装済みのパッケージです。

確かにPSoC4 BLEは、Cypress独自のプログラマブルなアナログモジュールやデジタルモジュールにBLEモジュールが追加されています。一方、PRoC BLEは、見慣れたADCやPWMにBLEが載っており、アンテナパターンと2個のL、C追加のみでBluetooth マイコンが低コストで実現できそうです。

PRoCブロック図とBluetoothアンテナパターン(データシートより抜粋)
PRoCブロック図とBluetoothアンテナパターン(データシートより抜粋)

PSoC4 BLEとPRoC BLEの両方をBaseboardに載せ換えて開発できるお得なBluetooth Low Energy (BLE) Pioneer Kitは、チップワン、DigikeyやMouser、Cypressから購入できます。また、秋月電子でBLEなしのPSoC4 Prototyping Kitが600円、PSoC4 Pioneer Kitが3000円で購入できます。

※Cypress主催の“ハンズオン トレーニング ワークショップ:PSoC4およびBLEシステム設計入門”に参加すると、2015年9月現在、PSoC4 Pioneer KitとBluetooth Low Energy (BLE) Pioneer Kitが無料で入手できます。

マイコンテンプレートの今後

2015年末完了予定のNXPによるFreescale買収後は、両社のCortex-M0+/M0ラインアップも変わる可能性があります。私は、Cortex-M0+マイコンの統合を予想しており、この結果、現在4種提供中の弊社マイコンテンプレートも減るかもしれません。

対策と言っては失礼ですが、Cortex-M0搭載でBluetoothも使えるCypress PRoC BLEかPSoC4 BLEのテンプレートラインアップ追加を検討中です。ブログにPSoC4/PRoCマイコンカテゴリーを追加し今後経過を掲載します。

Runesas Synergyはもう少し様子を観察する必要があります。