Azure RTOS習得(3):新規Azure RTOSプロジェクト

Azure RTOS習得3回目は、新規STM32CubeIDE Azure RTOSプロジェクト作成方法と、STM32CubeMX生成ソースコードの、どこに、何を、追加すれば良いかを説明します。

新規「汎用」Azure RTOSプロジェクト

前稿で、STM32G4(Cortex-M4/170MHz)評価ボード:NUCLEO-G474REへArduinoプロトタイプシールドを追加し、最も基本的なAzure RTOS ThreadXサンプルコードのTx_Thread_Creation動作を解説しました。

このTx_Thread_CreationサンプルコードのTx_Thread_Creation .icoから、新規の「汎用」AzureRtos0プロジェクトを作成します。

汎用の意味は、このAzureRtos0プロジェクトへセマフォやキューなどのRTOS機能を追加し、Azure RTOS習得に使うからです。

残念ながら現時点では、STM32G4用Azure RTOSセマフォやキューのサンプルコードは無いため、これらRTOS単独機能を持つプロジェクトを自作する訳です。

AzureRtos0プロジェクトから自作予定のAzure RTOS機能プロジェクトが以下です。

・AzureRtosEventFlagプロジェクト(本稿)
・AzureRtosQueueプロジェクト
・AzureRtosMutexプロジェクト
・AzureRtosSemaphoreプロジェクト

Tx_Thread_Creation .ico

STM32CubeIDE(以下CubeIDE)の新規STM32プロジェクトは、様々な作成方法があります。

ただ、Azure RTOSプロジェクトは、STM32CubeMX(以下CubeMX)の設定に、ベアメタル開発と異なる注意が必要です。このような時は、既に設定済みのCubeMX Configuration File (.ico)を流用すると、注意事項を含んだ新規プロジェクト作成が簡単にできます。

Azure RTOSプロジェクトのCubeMX設定の注意事項は、別途投稿します。本稿は新規Azure RTOSプロジェクト作成に焦点を置き説明します。

新規汎用AzureRtos0プロジェクト作成

Tx_Thread_Creation .icoを流用したAzureRtos0プロジェクト作成手順が下記です。

① CubeIDEのInformation Centerℹ️でStart new project from STM32CubeMX file(.ioc)クリック
② STM32CubeMX ico fileにTx_Thread_CreationのTx_Thread_Creation .ico選択、Project NameにAzureRtos0を入力しFinishクリック

Tx_Thread_Creation.ico流用の新規プロジェクト作成
Tx_Thread_Creation.ico流用の新規プロジェクト作成

③ PA5ユーザラベルをLD2へ変更、PC4とPC5をGPIO Output、ユーザラベルLED1、LED2に設定、PC7をGPIO Input、ユーザラベルS1に設定(LD2は評価ボード、LED1/2、S1は追加Arduinoプロトタイプシールドのポート)

ユーザラベル変更とArduinoプロトタイプシールドポートLED1/2とS1追加
ユーザラベル変更とArduinoプロトタイプシールドポートLED1/2とS1追加

④ Project>Generate Codeをクリックし、初期設定コードとAzure RTOSプロジェクトファイル生成
⑤ main.c L92へ、下記タイトルVCPメッセージ出力HALコード追記

VCPメッセージ出力HALコード追記
VCPメッセージ出力HALコード追記

⑥ ビルドし、評価ボードへダウンロード
⑦ Tera Termなどのターミナルソフトで追記VCPメッセージを確認し、新規汎用AzureRtos0プロジェクト動作確認

新規汎用AzureRtos0プロジェクト動作確認
新規汎用AzureRtos0プロジェクト動作確認

Azure RTOSイベントフラグ機能追加

AzureRtos0プロジェクトへ、イベントフラグを使ってメインスレッドとスレッド1/2間同期を行う機能を追加し、AzureRtosEventFlagプロジェクトを作成します。

このプロジェクトは、Azure RTOS ThreadXサンプルコードと同じ処理内容です。従って、Azure RTOS ThreadXサンプルコードが、AzureRtos0へ追記するコードの代用に使えます。

始めに、AzureRtos0プロジェクトファイルの、どこに、何を追加するかを説明し、次章で実例を示します。

追記ファイル 追加内容
Core>Src>
app_threadx.c
1) UINT App_ThreadX_Init()へ、イベントフラグ生成関数、追加スレッド生成関数
2) 追加スレッドのエントリ関数(メイン関数)
Core>Inc>
app_threadx.h
追加スレッド優先度、プリエンプション閾値などのマクロ

RTOSであっても、ベアメタル開発で機能追加する時と同じ追記ファイルと追加内容です。

違いは、App_ThreadX_Init()の中でイベントフラグや追加スレッドを生成すると、直にRTOS動作を開始(TX_AUTO_START)する点です。従って、ベアメタル関連main.c/hの変更点は、VCP出力メッセージの変更程度です。

つまり、RTOS関連とベアメタル関連、それぞれのメインエントリー(メイン関数)があり、RTOS動作追加だけなら、main.c/hは不変でも構いません。

筆者は、cファイルとhファイルを一緒に記述したい派です。しかし、CubeMXがこれらを分離してRTOS関連ファイルを生成しますので、このファイル分離に従い追記します。

スレッド優先度やプリエンプション閾値を変えれば、Azure RTOS動作が簡単に変わりますので、分離の方が好ましいのかもしれません(動作変更例は、Azure RTOS習得(2)の4章:メインスレッド参照)。

AzureRtosEventFlagプロジェクト作成

AzureRtos0プロジェクトはテンプレートとして様々なプロジェクトで利用しますので、CubeIDEでAzureRtos0プロジェクトをコピーし、別名のAzureRtosEventFlagプロジェクトとしてペーストして使います。ペースト先のAzureRtos0.icoも、AzureRtosEventFlag.icoへRenameします。

これで、AzureRtosEventFlagプロジェクトのひな型ができました。

AzureRtosEventFlagプロジェクトの追記部分抜粋が下記です。追記コードは、Azure RTOS ThreadXサンプルコードです。

CubeMX生成コメントの、/* USER CODE BEGIN … */、/* USER CODE END …*/が、追記ガイドに役立ちます。

※手抜きご希望の方は、Azure RTOS ThreadXサンプルのapp_threadx.cとapp_threadx.hを、そのままAzureRtosEventFlagのapp_threadx.cとapp_threadx.hへ上書きしてもOKです😅。但し、LED1/2への出力は変更してください。

AzureRtosEventFlagプロジェクトへ追記後、ビルドし評価ボードへダウンロードします。

App_threadx.c追加例

app_threadx.c追記ソースコード抜粋
app_threadx.c追記ソースコード抜粋(下線は要変更)

app_threadx.h追加例

app_threadx.h追記ソースコード抜粋
app_threadx.h追記ソースコード抜粋

AzureRtosEventFlagプロジェクト動作確認

AzureRtosEventFlagプロジェクトは、スレッド1がArduinoプロトタイプシールドのLED1制御、スレッド2がLED2制御を行う以外は、Azure RTOS ThreadXサンプルコードと同じ動作です。

従って、同じ動作を確認しAzureRtosEventFlagプロジェクト作成の成功です。

作成したAzureRtosEventFlagプロジェクトを使って、イベントフラグの制御、スレッド1/2優先度やプリエンプション閾値変更によるArduino LED 1/2動作変化を確認し、イベントフラグ機能を習得してください。

本稿で作成したAzure RTOSイベントフラグの機能は、前稿で説明済みですので、割愛します。

まとめ

Azure RTOS ThreadXサンプルコードのTx_Thread_Creation.icoを流用した、新規汎用AzureRtos0プロジェクト作成方法を示しました。

汎用AzureRtos0プロジェクトに、RTOS機能別プロジェクト例として、イベントフラグ機能を追加したAzureRtosEventFlagプロジェクトを作成し、Azure RTOS ThreadXサンプルコードと同じ動作を、評価ボードにArduinoプロトタイプシールド追加し確認しました。

機能追加したAzureRtosEventFlagプロジェクトにより、汎用AzureRtos0プロジェクトソースコードのどこに、何を追記するかを示しました。

今後、AzureRtos0プロジェクトへセマフォなどの機能を追加し、Azure RTOS機能別習得をすすめます。

付記:日本語文字化け対策

デフォルトのSTM32CubeIDEとSTM32CubeMXを使ってプロジェクト開発時、日本語文字化けが発生します。過去投稿済みの対策を付記します。

STM32CubeMXのプロジェクトGenetate Code実行「前」に、
STM32CubeIDEの設定変更
① Windows>Windows>Prefernces>Colors & font>文字セットを「日本語」へ設定
② Project>Properties>Text file encordhingをOthers:「Shift-JIS」へ設定

以上で、Genetate Codeしソースコードが上書きされても、日本語文字化けは無くなります。

Azure RTOS習得(2):Azure RTOS ThreadXサンプルコード

Azure RTOS習得2回目は、STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードを解説します(コチラの投稿3章でAzure RTOS開発ツール動作確認に使ったコード)。

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードは、スレッド優先度とプリエンプション閾値を、スレッド実行時に変更する例と、スレッド間同期にイベントフラグを用いる例を示しています。

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードの3スレッド

注意)サンプルコードのプリエンプション閾値とREADME記述が異なります。正しくは下記です。

スレッド名 処理内容

(LD2:評価ボード単体)

優先度 プリエンプション閾値
メインスレッド スレッド1/2優先度と閾値変更→LD2点灯シナリオ制御 5 5
スレッド1 LD2を5秒間500msで点滅 10 10
スレッド2 LD2を5秒間200msで点滅 10 9

評価ボード:NUCLEO-G474REは、ユーザLED:LD2を1個実装しています。1個のLD2を2個のスレッド1/2で制御するため、点滅間隔を変えることでどちらのスレッド制御かを示します。また、メインスレッドとスレッド1/2間の同期に、Azure RTOSイベントフラグを用います。

この評価ボードに、2個LED1/2、1個SWを実装したArduinoプロトタイプシールドを追加し、各スレッド処理を、下記のように工夫しました。

スレッド名 処理内容

(LD2:評価ボード+

LED1/LED2/S1:Arduinoプロトタイプシールド

優先度 プリエンプション閾値
メインスレッド スレッド1/2優先度と閾値変更→LD2点灯シナリオ制御 5 5
スレッド1 LED1を5秒間500msで点滅 10 10
スレッド2 LED2を5秒間200msで点滅 10 9

評価ボード単体で複数スレッド動作を確認するよりも、断然判り易くなります。

もちろん、評価ボード単体でも確認可能です。しかし、イベントフラグだけでなくセマフォなど今後様々なAzure RTOS機能習得にも、Arduinoプロトタイプシールド追加は、役立ちます。

また、VCP:Virtual Com Portへメッセージを出力する工夫も加え、タイトルやエラー表示を行います(評価ボード+Arduinoプロトタイプシールド動作例は、5章図)。

イベントフラグ

Microsoft公式Azure RTOS ThreadXサイト第 3 章:Azure RTOS ThreadX 機能を開き、右コラム“この記事の内容”のイベント フラグをクリックすると、イベント フラグの説明が示されます。要旨を抜粋すると、

・イベントフラグは、スレッド間同期手段。32フラグ単位グループ化可能、待ちタイムアウトなどあり
・tx_event_flags_set でフラグ設定、tx_event_flags_get でフラグ取得(AND/OR演算可能)
第 4 章:APIに、tx_event_flags_setやtx_event_flags_getの詳細記述

例えば、4章でtx_event_flags_set は、ソースコードへひな型をコピー&ペーストできる形で表現されています。

tx_event_flags_setのAPI
tx_event_flags_setのAPI

スレッド1/2

以下、説明が簡単になるので、オリジナル評価ボードソースにコメント追記したコードで説明します。

スレッド1/2は、初期設定+無限ループの簡単で単純な構成です。

スレッド1(評価ボード単体動作ソースコード)
スレッド1(評価ボード単体動作ソースコード)

スレッド1は、500msトグルを5秒間繰返し、5秒経過後、イベントフラグ:THREAD_ONE_EVTをセットします。スレッド2は、200msトグルとイベントフラグ:THREAD_TWO_EVTがスレッド1と異なるのみです。

フラグセットAPI失敗時は、Error_Handle内で停止します。

メインスレッド

メインスレッド(評価ボード単体動作ソースコード)
メインスレッド(評価ボード単体動作ソースコード)

メインスレッドは、LD2点滅シナリオを作成します。優先度が5で高優先なので、低優先スレッド1/2からのイベントフラグセットを常時ゲットできます。

スレッド1/2優先度は同一の10ですが、L170でスレッド1のイベントフラグを永遠に待つので、スレッド2はスレッド1と多重動作ができません。

スレッド2のプリエンプション閾値が9なのに、スレッド1が先に動作するのは、スレッド1がtx_thread_createで先に生成、開始(TX_AUTO_START)するからです。試しに、スレッド2を先に生成すると、LD2は200ms点滅から始まりシナリオは進みません。スレッド1→2の生成順序なら、スレッド2のプリエンプション閾値は、10でもLD2は、同じシナリオで点滅します。

スレッド1のイベントフラグを得た後、スレッド2優先度と閾値を(8、8)へ変更するのは、スレッド2単独動作のためです。その後、L179でスレッド2のイベントフラグを永遠に待ちます。

スレッド2のイベントフラグを得ると、スレッド2優先度と閾値を元の(10、9)へ変更します。このシナリオを3回繰返します。

シナリオ終わりにスレッド1/2をterminateさせるのは、動作不要だからです。terminateしなくても、メインスレッドプリエンプション閾値が5なので、スレッド1/2は動作しません。従ってLD2動作シナリオは変わりません。

シナリオは変わりませんが、terminateをコメントアウトした時のThreadX Thread Listとオリジナルの時のListが下記です。不要スレッドは、Terminate Stateへ入れると他へ影響を与えないメリットがあります。

スレッド1と2 terminate有無の差
スレッド1と2 terminate有無の差

RTOS習得とArduinoプロトタイプシールド追加

ベアメタル開発のLチカ理解に相当するのが、本稿説明のスレッド間同期イベントフラグをはじめとする多様なRTOS機能理解です。

本稿サンプルコード動作程度であれば、ベアメタルで開発する方が簡単です。但し、ベアメタルでは、動作に必要な機能を全てユーザが開発します。

一方、RTOS開発では、RTOSが提供する機能を活用し、残りの差分をユーザ開発しさえすればアプリが完成します。下図のようにベンダー提供資産(RTOS、セキュリティなどのミドルウェアやドライバ)有効活用が、現代的MCUユーザアプリケーション開発の肝です。RTOS機能が多すぎるのが、玉に瑕ですが…😂。

現代的ユーザMCU開発の例(出展:The ST blog)
現代的ユーザMCU開発の例(出展:The ST blog)

RTOS活用で、ユーザアプリケーションが資産化できます(RTOSの目的が、アプリケーション資産化なので当然です)。

メインスレッド章で説明したように、スレッド1/2はそのままで、RTOSのスレッド生成順序やプリエンプション、イベントフラグのみでLD2点滅シナリオ変更が簡単にできます。ソフトウェア規模が大きくなれば、このメインテナンス性の良さが活きてきます。

多様なAzure RTOS機能を手間なく効率的に学ぶには、Arduinoプロトタイプシールドを評価ボードに追加し、思いついたRTOS機能を直に試すことをお勧めします。

Arduinoプロトタイプシールド追加により、スレッド毎の動作を別々のLEDで目視でき、メインスレッドがスレッド2の優先度、閾値を変更しない場合、スレッド1と並列動作するか等々、様々な試行を簡単に確認できます。この試行で、ベアメタル開発経験も活かせます。

つまり、過去に開発したベアメタル機能が、RTOSに有るか無いかを、多くのRTOS機能をふるい(経験)にかけながらRTOS習得ができる訳です。

今後のAzure RTOS習得は、Arduinoプロトタイプシールドを評価ボードへ追加した構成で、新規Azure RTOSプロジェクトをRTOS機能毎に作成し行います。

新規Azure RTOS機能プロジェクト作成方法は、次回投稿予定です。

評価ボードへArduinoプロトタイプシールドを追加しスレッド毎にLED点滅中
評価ボードへArduinoプロトタイプシールドを追加しスレッド毎にLED点滅中

まとめ

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードを解説しました。本稿で説明したAzure RTOS APIは、下記です。

・スレッド間同期イベントフラグ:tx_event_flags_set/getと、待ち処理
・スレッド優先度、プリエンプション閾値変更:tx_thread_priority/preemption_change
・スレッド終了:tx_thread_terminateと、Terminate State目的
・スレッド生成:tx_thread_createと、TX_AUTO_START、生成順序

優先度とプリエンプション閾値をスレッド実行時に変更できる機能は、スレッド開発が容易で流用性を高め、ユーザ開発アプリケーションの資産化に効果があります。

ユーザLEDが1個のみ搭載の評価ボードを使い複数スレッド動作を確認するよりも、2個LEDやユーザS1搭載のArduinoプロトタイプシールド追加により、RTOS APIパラメタ変更時の各スレッド動作確認が容易です。

意図しないスレッド並列処理も直ぐに判るので、効率的にAzure RTOS習得ができます。Arduinoプロトタイプシールド付属の小さなブレッドボード利用も試行実験に便利です。

多くのパラメタを持つAzure RTOS効率的習得に、評価ボード+Arduinoプロトタイプシールドをお勧めします。

Azure RTOS習得(1):習得方針

Microsoft公式Azure RTOS ThreadXサイト
Microsoft公式Azure RTOS ThreadXサイト

Microsoft公式、Azure RTOS ThreadXサイトを紹介します。

前稿最後で示したSTM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコード付属readme.html理解には、Azure RTOS ThreadX基礎知識が必要です。基礎知識獲得には、Microsoft公式サイトが最適です。

本稿は、公式サイトを簡単に説明し、今後のAzure RTOS習得方針を示します。

Azure RTOS習得方針

筆者は、物事を効率的に理解する時、初めはあまり細部に拘らず全体を俯瞰的に捉え、次の段階で不明な点を明らかにする、既に知っている事柄と比較する、などの方法を好みます。

Azure RTOS習得も、この方法でアプローチしたいと思います。

これは、FreeRTOS習得(2020年版)と同じ方法です。その結果、開発したのがNXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートです。

最終的には、STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコード付属readme.html理解とST版Azure RTOSアプリケーションテンプレート開発、2022年版Azure RTOS習得サイト作成が目標です。

Azure RTOS ThreadX公式ユーザガイド

公式サイトトップページには、Azure RTOS概要と、ユーザガイドのショートカットが掲載されています。概要は、疲れた時や気分転換時に読むとして、肝心のAzure RTOS ThreadXユーザガイドをクリックします。

現れるのが、Azure RTOS ThreadXユーザガイド目次です。

第 1 章:Azure RTOS ThreadX 概要とリアルタイム組込み開発
第 2 章:Azure RTOS ThreadX インストール
第 3 章:Azure RTOS ThreadX 機能動作
第 4 章:Azure RTOS ThreadX API
第 5 章:Azure RTOS ThreadX アプリケーションドライバー作成
第 6 章:Azure RTOS ThreadX デモアプリケーション

第3章が、Azure RTOS ThreadX理解ポイントのようです。

Azure RTOSとFreeRTOS比較:状態遷移図、優先度

Azure RTOS(左)とFreeRTOS(右)状態遷移比較
Azure RTOS(左)とFreeRTOS(右)状態遷移比較

RTOS理解に必須なのが、スレッド/タスクの状態遷移です。左が第3章:記載のAzure RTOS、右が弊社FreeRTOS習得記載のFreeRTOS状態遷移です。Azure RTOSは、全5状態ありFreeRTOS比+1、スレッド登録後、即Suspendedになる遷移もあります。

RTOS処理対象を、Azure RTOSはスレッド、FreeRTOSはタスクと呼びます。

優先度は、Azure RTOSは数値が小さい方が高く、FreeRTOSは大きい方が高い、つまり真逆です。

などのAzure RTOSとFreeRTOSの違いが第3章から判ります。

Azure RTOS ThreadXサンプルコードキーワード

・ThreadX、Thread、Event flags、Preemption threshold

前稿最後で示したSTM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコード付属readme.html記載のキーワードです。サンプルコード理解には、これらが重要であることを示しています。

公式ユーザガイド第3章日本語訳によると、Preemption thresholdとは、プリエンプション閾値のこと。Azure RTOS独特の高度機能です。この部分の要旨を抜粋すると、

・プリエンプション閾値利用で、プリエンプションを無効にする優先度の “上限” を指定可能。上限より高い優先度スレッドは、引き続きプリエンプト可能だが、上限より低いスレッドは、プリエンプト不可。
・優先度20スレッドが、15~20優先スレッドグループやり取りで説明。優先度20スレッドは、セクション処理中、プリエンプション閾値を15 に設定すると、他の全スレッドのプリエンプションを防止。
・これにより、非常に重要なスレッド (優先度 0 から 14 まで)は、クリティカルセクション処理中でもスレッドをプリエンプトでき、応答性が大幅に向上。
・スレッドでプリエンプション閾値を0に設定し、全プリエンプションを無効にすることも可能。また、プリエンプション閾値は実行時に変更可能。

英語原本の機械翻訳だと思いますので、解り難い箇所もありますが、今はOKとしましょう😂。

プリエンプション:Preemptionとは

プリエンプションとは何かを、IT用語辞典から抜粋しました。

・RTOSが、実行中のスレッド/タスクを強制的に一時中断し、他のスレッド/タスク実行に切り替えること。
・このRTOS切り替えを「コンテキストスイッチ」(context switching)と呼び、プリエンプションで停止していたスレッド/タスクを再開させる操作を「ディスパッチ」(dispatch)と呼ぶ。
・殆どの現代RTOSは、「プリエンプションを利用」し処理を時分割多重。
・歴史的には、スレッド/タスク側が自ら決めたタイミングで自発的にRTOSへ制御を返却するノンプリエンプティブマルチタスク、あるいは、協調的マルチタスクもあった。

Azure RTOS/FreeRTOS、どちらもプリエンプションを利用します(FreeRTOSは本稿:状態遷移参照)。違いは、Azure RTOSが、スレッド毎にプリエンプション閾値を持つこと。RTOS任せにせずスレッドが、明示的に優先度制御を行う点です。

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードは、このスレッドによる優先度変更とイベントフラグが解れば解析できそうです(次回解析予定)。

まとめ

Microsoft公式Azure RTOS ThreadXサイトを利用したAzure RTOS習得方針を示しました。

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコード付属readme.html理解に、Azure RTOS ThreadXユーザガイド第3章から、

・Azure RTOSとFreeRTOS状態遷移は異なる
・Azure RTOS優先度は0が最高位、FreeRTOSは値が大きい程優先度が高く、両者は真逆
・Azure RTOSスレッド応答性を向上させるPreemption threshold:プリエンプション閾値機能がある

などが判りました。この方針に則って、Azure RTOS習得を続けます。

STM32 Azure RTOS開発ツール拡充

2022年4月20日、STマイクロエレクトロニクス(以下ST)は、Azure RTOS開発ツールを拡充し、より幅広いSTM32MCU対応を発表しました。拡充したSTM32MCUリストが下記です。

List of STM32 with X-Cube-AZRTOS Package(出典:The ST blog)
List of STM32 with X-Cube-AZRTOS Package(出典:The ST blog)

弊社販売中STM32G0xテンプレートで使ったSTM32G0や、テンプレート開発中のSTM32G4も、Azure RTOS開発が容易になりました。

CMSIS RTOSからAzure RTOSへ

今回の発表前までは、販売中のNXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートに続き、STM32G4を使ってST版“CMSIS-RTOS”アプリケーションテンプレートを構想していました。

しかし、今回のAzure RTOS開発ツール充実発表を受け、“CMSIS-RTOS”から“Azure RTOS”対応へ変更することにしました。STのAzure RTOSサンプルコードが活用でき、また、Microsoft公式Azure RTOS情報もあるからです。

※ARM社規定のCMSIS RTOSは、FreeRTOSやAzure RTOSをラップ(wrapper)するRTOSです。同じCMSIS RTOS APIでFreeRTOSまたはAzure RTOSが使え、開発アプリケーション流用性は高まります。但し、ラップ関数分のオーバーヘッドが生じます。詳しくは、構想投稿の4章を参照してください。

STがAzure RTOS開発ツールMCUを拡充した背景は、Microsoft Azureクラウド接続IoT MCUの急増だと思います。リストアップした9種のSTM32MCUが、IoT MCU有力候補と言えます。

Azure RTOS開発ツールインストール方法

STM32G4を例に、Azure RTOS開発ツールインストール方法を示します。現在のSTM32G4開発ツールが、下記版数です。

・STM32CubeIDE v1.9.0               (以下CubeIDE)
・STM32CubeMX v6.5.0               (以下CubeMX)
・STM32Cube FW_G4 v1.5.0        (以下FW_G4)
・X_CUBE_AZRTOS_G4 v1.0.0    (以下AZRTOS_G4)

X-CUBE-AZRTOS-G4が、今回発表したSTM32G4のAzure RTOS開発ツールです。

FreeRTOSは、CubeMXのMiddlewareに実装済みです。一方、Azure RTOS は、ExpansionsパッケージのAZRTOS_G4によりCubeMXへ機能追加します。Expansionsパッケージ追加のため、少し手間がかかります。

① CubeIDEのHelp>Manage Embedded Software Packagesクリック
② Embedded Software Packages ManagerのSTMicroelectronicsタブ選択
③ X_CUBE_AZRTOS_G4のAvailable Version 1.0.0を選択し、Installクリック

X-CUBE AZRTOS-G4のインストール
X-CUBE AZRTOS-G4のインストール

AZRTOS_G4インストール後、使用コンポーネントの選択が必要です。

④ CubeMXのPinout & Configurationタブ内Software Packsをクリック
⑤ Select Components(Alt+O)を開き、Software Packs Component Selectorで追加Azure RTOSコンポーネント:RTOS ThreadX/File system FileX/USB LevelX…などを選択し、OKクリック

STM32G4評価ボード:NUCLEO-G474REを使う場合は、RTOS ThreadXを選択し、Core/Low Power supportを選択すれば十分です。但し、念のため、Performance InfoやTraceX supportも選択しておきます。

インストールしたAzure RTOS ThreadX版数が、6.1.8であることも判ります。

Software Packs Component Selector
Software Packs Component Selector

Azure RTOS ThreadXサンプルコードインポートと動作確認

インストールしたAZRTOS_G4が正常動作するかをAzure RTOS ThreadXサンプルコードと評価ボード:NUCLEO-G474REで確かめます。確認方法が下記です。

① CubeIDEのInformation CenterからImport STM32Cube exampleをクリック
② STM32 Project from STM32Cube ExamplesのExample Selectorタブで、BoardのName:NUCLEO-G474RE、Middleware:ThreadXを選択

STM32G4評価ボード:NUCLEO-G474REのAzure RTOSサンプルコード
STM32G4評価ボード:NUCLEO-G474REのAzure RTOSサンプルコード

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードは、現在3個です。最も基本的な、

③ Tx_Thread_Creationを選択し、Finishクリック。CubeIDEへTx_ThreadX_Creationサンプルコードがインポート。
④ CubeIDEのTx_Thread_Creation.iocをクリックし、CubeMXで、Generate Code(Alt+K)を実行
⑤ CubeIDEでTx_Thread_Creationをビルドし、評価ボードへダウンロード
⑥ 評価ボードのLED2が、500ms点滅と200ms点滅を3回繰返し、その後1秒点滅に変わる

以上で、STM32G4 Azure RTOS開発ツールのX_CUBE_AZRTOS_G4インストールを、ThreadXサンプルコードで動作確認しました。

使用したTx_ThreadX_Creationサンプルコードの説明は、次週以降に行う予定です。直ぐ知りたい方は、Tx_ThreadX_Creationフォルダ内readme.htmlを参照してください。

まとめ

STが、STM32G0やSTM32G4、STM32U5などのIoT MCUに対し、Azure RTOS開発ツール拡充を発表しました。

STM32G4を例に、CubeMXへExpansionsパッケージのX_CUBE_AZRTOS_G4でAzure RTOS機能の追加方法、Azure RTOS ThreadXサンプルコードインポート、NUCLEO-G474REでThreadXサンプルコードの動作確認をしました。

STM32G0(Cortex-M0+/64MHz)、STM32G4(Cortex-M4/170MHz)、STM32U5(Cortex-M33/160MHz)は、弊社IoT MCUテンプレートの開発対象です。

今回の発表を受け、STM32G4のRTOSを、CMSIS-RTOSからAzure RTOSへ変更し、ST版Azure RTOSアプリケーションテンプレート開発を計画中です。

RAファミリのRTOS

RAファミリは、FreeRTOSとAzure RTOS、両方に対応しています。このうち、FSP v3.6.0でサンプルコードを提供しているのがFreeRTOSです(プロジェクト名:freertos_評価ボード名_ep)。

本稿は、このFreeRTOSサンプルコードを簡単に解説します。

キューとセマフォ利用サンプルコード

freertos_fpb_ra6ep1_epのユーザ追加部分とFSP生成ソースコード
freertos_fpb_ra6ep1_epのユーザ追加部分とFSP生成ソースコード

最新版FSP v3.6.0のRA6E1評価ボードサンプルFPB-RA6E1 Example Project BundleのRTOSサンプルコードが、上図freertos_fpb_ra6e1_epです(freertos_fpb_ra4e1_epも同じ)。

ユーザ追加RTOSタスク:キュー送信タスク、受信タスクと、定期割込みでセマフォ生成し、生成セマフォ取得でRTT Viewerへメッセージ出力するタスクの、合計3タスクを追加(タスクプライオリティ同一)。

ユーザ追加RTOSオブジェクト:キューとセマフォの2オブジェクトを追加。

FSP生成ソースコード:追加タスク毎にFSPが entry.c 生成(中身は、下図右側)。

ベアメタル処理とFreeRTOSタスク処理並列多重
ベアメタル処理とFreeRTOSタスク処理並列多重

基本的には、FreeRTOS公式Hardware independent FreeRTOS exampleや、弊社NXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートと同様の処理。

詳細は、FreeRTOSアプリケーションのQueueデータ送受信FreeRTOSサンプルプロジェクトfreertos_generic詳細などの関連投稿をご覧ください。

RAファミリRTOS現状まとめ

FSPを使ったRAファミリFreeRTOS/Azure RTOSの現状をまとめると、下記です。

・FreeRTOS習得スタートは、キューとバイナリセマフォオブジェクト理解(弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートも同様)。
・ベアメタル開発では使わないObjects窓へ、バイナリセマフォ/ミューティックス/キューなどFreeRTOSの8オブジェクト追加。Azure RTOSは4オブジェクト追加。

FreeRTOSとAzure RTOSの追加可能Objects
FreeRTOSとAzure RTOSの追加可能Objects

・Azure RTOS関連資料は、Microsoft公式のコチラ
・FSP v3.6.0提供FreeRTOSサンプルコード数は、1個。Azure RTOSサンプルコードは未提供。

あとがき

RAベアメタルテンプレートを先週発売した直後に今回RTOSの投稿をしたのは、ベアメタル/RTOSに関係なく「RAファミリ開発の鍵はFSP」を示したかったからです。

FSPは、RAファミリのMCU資源(MCUコア/内蔵周辺回路など)を対象に、HAL APIを生成するツールです。開発者は、FSPが生成したHAL APIを使ってRAファミリのアプリケーションを開発します。

FSP対象は、ベアメタルの場合は、MCUコアやIOポートなど実際の回路、RTOSの場合は、タスクやスレッド、RTOSが提供するセマフォやキューなどの様々なオブジェクト(≒仮想回路)が、ベアメタル対象に加わるだけと考えると判り易いと思います。

FSPは、ベアメタル開発用をベースにRTOS開発へも対応し、プライオリティなどRTOS独特の設定も、ベアメタルと同様のGUIで設定します。

つまり、ベアメタルとRTOS両方対応FSPを上手く使いこなせるかが、RAファミリソフトウェア開発の鍵です。効率的にFSPを習得する最初のツールが、RAベアメタルテンプレートと言えます😄。

RAベアメタルテンプレートでFSP習得
RAベアメタルテンプレートでFSP習得

次の段階、つまりRTOS開発へ対応したRAテンプレートも思案中です。ただ、RAベアメタルテンプレートご購入者様からの様々なフィードバックやFSPのRTOSサンプルコード数が増えた後、暫くしてから実現するつもりです。

先ずは、RAベアメタルテンプレートでRAファミリ開発の鍵、FSPを習得してください。ご購入、お待ちしております。

RAベアメタルテンプレート発売

FPB-RA6E1で動作中のSimpleTemplateとRTT Viewer
FPB-RA6E1で動作中のSimpleTemplateとRTT Viewer
FPB-RA4E1で動作中のBaseboardTemplateとRTT Viewer
FPB-RA4E1で動作中のBaseboardTemplateとRTT Viewer

ルネサスCortex-M33コア搭載RAファミリ向けRAベアメタルテンプレート(税込1000円)を本日より発売します。概要、仕様、テンプレート提供プロジェクト構成は、コチラから無料ダウンロードできますので、ご検討ください。

RAファミリのポジション

RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)
RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)

ルネサスのARM Cortex-M系MCUは、競合他社比、発売が出遅れました。RXやSynergyなどの独自32ビットMCUファミリも供給中のルネサスRA位置づけが上図です。詳細は、コチラの関連投稿3章に説明済みです。

まとめると、RAファミリは、外付けE2エミュレータなどが不要の低価格評価ボードと容量制限なし無償コンパイラ利用など、他のルネサス32ビットファミリには無い個人レベルでも開発可能なARM Cortex-M33/M23/M4コア採用IoTセキュリティ強化MCUです。

RAファミリ開発の鍵:FSP

Flexible Software Package構成
Flexible Software Package構成

RAファミリ開発の鍵は、FSP:Flexible Software Packageです。一言で言うと、HAL APIコード生成ツール。MCU動作速度、内蔵周辺回路などのパラメタをGUIにより設定後、RAファミリ間で共通のHAL APIを一括生成します。
※HAL:Hardware Abstraction Layer

FSP活用で、RAファミリ間での移植性に優れたソフトウェア開発ができます。しかしながら、多くのパラメタをGUI上で設定するため、煩雑で特に初心者にとっては取っ付きづらい面もあります。

また、競合他社より後発のIoT向けMCUですので、FreeRTOSやAzure RTOS、TrustZoneなどのIoTセキュリティにも対応しています。RAファミリの拡張性、将来性を提供するツールがFSPです。

つまり、FSP習得が、RAファミリを使いこなす鍵です(コチラの関連投稿で詳細が判ります)。

RA6/4E1グループ選択理由

RAファミリカタログ(出典:ルネサス)
RAファミリカタログ(出典:ルネサス)

様々なラインナップを供給するRAファミリの中で、汎用性と超低価格な評価ボードも供給済みなのが、RA6E1グループ(Cortex-M33/200MHz)とRA4E1(Cortex-M33/100MHz)グループです。

※RA6E1評価ボード:FPB-RA6E1、RA4E1評価ボード:FPB-RA4E1

RA6/4E1グループとFSPで開発したソフトウェアは、RAファミリ間で共通に使える汎用性を持ちます。また、評価ボードで動作するFSPサンプルコードもありますので、FSP習得にも適しています。

RA6とRA4の分岐点は、最大動作周波数です。

240MHz動作のRA6は、大容量Flashを搭載し、高性能で多機能MCUマーケットを狙い、更に高性能なRA8シリーズへの発展性があります。100MHz動作のRA4は、高性能低消費電力MCUマーケット狙いで、Cortex-M23搭載5Vトレラント性も持つRA2シリーズへ高い親和性を持ちます。

従って、RAファミリ開発を始めるMCUとして、RA6/4E1グループいずれも適していると言えるでしょう。

※RA6最大動作周波数は、カタログでは240MHzとありますが、RAベアメタルテンプレートで用いた評価ボードFPB-RA6E1は、最大200MHz動作です。他RA6シリーズも、同様に現在200MHzです。
※RA8シリーズは、未発売です。

実務直結RAベアメタルテンプレートでFSP習得

近い将来、RTOSやTrustZoneなど、多くのIoT MCU技術を学ぶ必要があります。それでも、MCUの基本技術は、ベアメタルです(コチラの関連投稿参照)。

弊社RAベアメタルテンプレートVersion 1は、RAファミリ中核汎用RA6/4E1グループの超低価格評価ボードを使い、基本のベアメタル開発で、効率的にFSPを習得することが目的です。

FSP習得には、評価ボードサンプルコードが適しますが、サンプルコードは、複数処理が当然の実務応用が簡単ではありません。弊社テンプレートは、複数サンプルコードの活用・流用が簡単で、実務にも使えます。

弊社テンプレートと詳細な説明資料、安価で簡単、拡張性にも優れた推薦開発環境を使えば、誰でも簡単にMCUベアメタル開発の高い障壁を乗越えられ、かつ、FSP習得も可能です。

RAベアメタルテンプレート購入方法は、コチラを参照してください。ご購入、お待ちしております。

RAファミリ開発環境Tips

ルネサス統合開発環境:e2 studioが、2022-01へバージョンアップされました(2022年1月16日号TOOL NEWS)。RAファミリは、「ソフトウェアパッケージ(=FSP)が同梱されたインストーラをダウンロードしインストールを行うこと」と、アップデート方法に注意書きがあります。

ところが、リンク先インストーラのe2 studioバージョンは、本日時点で昨年12月9日のFSP v3.5.0更新時、2021-10のままです。e2 studioは旧バージョンのため、2022-01へ手動にてアップグレートが必要です。

RAファミリ開発環境 GitHub状況

上記のように、RAファミリ開発環境は

・統合開発環境:e2 studio
・FSP(Flexible Software Package)とFSP版数に対応した評価ボードサンプルコード

の2種類、サンプルコードを含めると3種類が、それぞれ別タイミングでバージョンアップします。

また、ダウンロード先がGitHub内にあるため、RAファミリ開発環境の全体像と役割を把握していないと、混乱が生じます。そこで本稿で、整理します。

ちなみに、本日時点のRAファミリ開発環境GitHub状況が下図です。

GitHub上のRAファミリ開発環境のFSPとe2 studio(橙色がニュースリンク先)
GitHub上のRAファミリ開発環境のFSPとe2 studio(橙色がニュースリンク先)
GitHub上のRAファミリ評価ボードのサンプルコード
GitHub上のRAファミリ評価ボードのサンプルコード

RAファミリ開発環境 全体像と役割

「主役はFSP、e2 studioは脇役」、これがRAファミリ開発環境の役割です。

従って、FSPバージョンアップ時は、新FSP用ワークスペースを作成し、ここへ、旧FSP開発アプリケーションをコピー(インポート)、新FSPワークスペースでRAアプリケーション開発を継続するのがお勧めの開発手法です。

※HAL API生成ツールがFSPです。つまり、HAL(Hardware Abstraction Layer)より上位のRAアプリケーションは、FSP版数に依存しないのが本来の姿です。現状のFSPは、HAL API自体も変わる可能性があり「下位互換性」が未保証のため、安全策をとります。

もちろんe2 studioバージョンアップ時も別フォルダへインストールすれば、新旧両e2 studioの併用が可能です。但し、脇役e2 studioは、主役FSPほどの安全策は不要です。

例えば、前章のFSP v3.5.0インストーラのe2 studio 2021-10を手動更新(e2 studio>ヘルプ(H)>更新の検査クリック)し、2021-10へ上書きインストールした場合は、初めにインストールしたC:\Renesas\RA\e2studio_v2021-10_fsp_v3.5.0フォルダへ、e2 studio 2022-01が上書き更新されます(赤字v2021-10部分は不変)。

手動更新が成功したかを確認するには、e2 studio>ヘルプ(H)>e2 studioについて(A)をクリックし、下記ダイアログVersion:2021-10部分が、2022-01へ変わったことを目視確認します。

e2 studio 2021-10の手動2022-01更新確認方法
e2 studio 2021-10の手動2022-01更新確認方法

主役FSP更新、脇役e2 studio同一版対処

e2 studioはバージョンアップなし、FSPのみバージョンアップする場合は、GitHubからFSP_Packs_<version>.zipをダウンロードしインストールすれば、FSPのみの更新も可能です。この場合は、e2 studio内で新旧FSPが選択可能です。

この場合も、新旧FSPで開発アプリケーションのワークスペース分離が無難です。

理由は、プロジェクトのFSP設定ファイル:configuration.xmlにFSP利用版数が記述されており、旧FSPを新FSPへ変更する場合、下記ワーニングが表示されるからです。OKクリックで新FSPがアプリケーションへ適用されます。

アップグレートFSPへの変更方法とワーニング表示(FSP v3.4.0→v3.5.0の例)
アップグレートFSPへの変更方法とワーニング表示(FSP v3.4.0→v3.5.0の例)

利用FSP変更後、Generate Project Contentをクリックし新FSPでのHAL APIを再生成、当該プロジェクトクリーン、再ビルドでコンパイル成功すれば、同じアプリケーションで新旧FSPが使えます。

FSPアップグレートは、新規RAファミリ追加、新規周辺回路追加など、「旧FSP提供以外の新規追加」が主な内容ですので、基本的に旧FSP開発アプリケーションは、新FSPでもコンパイル成功するハズです。

評価ボードサンプルコードがFSP版数対応なのは、これら「新規追加の使用例」を示すためです。(もちろん、旧FSPバグ修正も含む)。

※但し、RTOS関連アップデートもFSP更新に含まれることには注意してください。RAベアメタル開発では、新旧FSPコンパイル成功確率は高いハズですが、RTOS開発時は、新FSPリリースノートに目を通し、RTOS関連の変更有無確認が必要です。

コンパイル不成功の時は、新FSP環境で当該プロジェクト再設計が必要になります。

まとめ

RAファミリ開発環境は、新旧版が全てGitHub内にあり、統合開発環境e2 studio、FSP、評価ボードサンプルコードのアップグレートがそれぞれ別タイミング、付属説明も簡易なため混乱します。混乱回避のためにRAファミリ開発環境の役割とFSP更新Tipsを示しました。

FSPが主役、e2 studioは脇役、これがRAファミリ開発環境の役割です。FSPアップグレート時は、新旧FSPワークスペースを分離し、新FSPワークスペース内で再度HAL APIを生成、生成HAL APIがそのまま旧アプリケーション上でコンパイル成功すれば、安全にFSP更新ができます。

おまけ:Windows 11アップグレート

WIndows 11アップグレート可能通知
WIndows 11アップグレート可能通知

弊社Windows 10 21H2に、Windows 11アップグレートOK通知が届きました。

弊社のPCは、IoTベンダのMCU開発ツールが主役、Windowsは脇役です。今すぐの11アップグレードはNGですので、「今はWindows 10の使用を継続します」をクリックし対処しました(なお、Windows 10 21H2大型更新方法は、コチラの関連投稿を参照)。

多くのIoT MCU開発ツールの公式推薦Windows OSは、未だWindows 10です。

公式推薦OSが、Windows 11に変った後に11化しても遅くはありません。今秋の11大型更新に向け11も進化中ですので、状況観察します。

Cortex-MとRISC-V

NVIDIA買収先で成立見通しが未だに不透明なARM社Cortex-Mと非営利団体運営のRISC-V、両MCUコアの顧客利用動向記事が公開されました(2022年1月14日、ITmedia)。

極簡単に要約すると、ARM顧客の多くが現在NVIDIAと競合関係にあるため、買収成立時、Cortex-M利用の顧客将来製品の代替コア用意(=Plan B)が必要で、代替コアにRISC-Vが急浮上している、という内容です。

ARM顧客とは、エッジAIや車載半導体製品を供給中のMCUベンダ(Renesas、NXP、STマイクロなど)を指します。Plan Bは、代替案と訳されます。これは、実行案Aのトラブル時、Aの次のBが、第2の案という意味です。

半導体業界は常に変化し、これに伴い案A達成に何らトラブルが無くても、その将来性に変化が生じる可能性もあります。“Backup”としてのPlan B必要性を感じた記事です。

オープンアーキテクチャRISC-V

Cortex-M代替として急浮上のRISC-V
Cortex-M代替として急浮上のRISC-V

RISV-Vは、カルフォルニア大学バークレイ校開発のオープンアーキテクチャMCUコアで、Cortex-MのようなCISC(Complex Instruction Set Computer)命令系を、より縮小した命令系(Reduce Instruction Set Computer)へ変え、低電力動作に適すなどの特徴を持ちます。

Cなどの高級言語ソフトウェア開発者にとっては、CISC/RISC差はあまり気になりませんが、コンパイラを開発するMCUベンダにとっては、他社差別化を生む重要なパラメタです。

MCU性能の支配項は、

・MCUコア(CISC or RISC)
・コンパイラ
・製造プロセス(≒最高動作周波数)
・内蔵周辺回路

の4項目で、ARM Cortex-M使用中ベンダなら、MCUコアとコンパイラはARM供給品なので各社共通です。つまり、製造プロセスと内蔵周辺回路でしか他社差別化手段がありません。

NVIDIAがARMを買収した場合、競合他社へのMCUコアやコンパイラ供給に、自社利用品と差を付ける可能性もあります。Cortex-M使用中のMCUベンダ各社が、ARM買収成立を嫌う理由が、これです。

そこで、オープンアーキテクチャでコンパイラ開発自由度も高いRISC-Vコアが、競合他社のCortex-M将来製品コアのPlan Bとして急浮上した訳です。

ARMコアMCU開発で出遅れたRenesasは、早々とRISC-V対応MCU開発を発表しました。NXPやSTマイクロのRISC-Vコア利用は不明ですが、Renesas同様、Plan Bを持っているのは確実です。

我々開発者が、今すぐRISC-V開発を始める必要性は低いと思います。むしろ、Cortex-M代替に、低価格高性能無線機能付きESP-WROOM-32を習得した方が役立つと個人的には思います。RISC-VESP-WROOM-32の関連投稿は、リンク先を参照してください。

MicrosoftのOffice、Windows分離売却可能性

Microsoftが買収を発表した大手ゲーム会社Activision Blizzard
Microsoftが買収を発表した大手ゲーム会社Activision Blizzard

半導体業界の大きな一角を占めるMicrosoftの大手ゲーム会社Activision Blizzard買収ニュースが1月19日発表されました。買収理由は、コチラの記事が示すメタバースです。COVID-19が大きく影響しているコンタクトレス・テクノロジのメタバースは、関連投稿の3章を参照してください。

Microsoft動向で気になるのは、確定内容ではありませんが「OfficeとWindowsを売却すべき」という1月17日発表記事です。Microsoftは営利団体です。Windows 11不具合の多さ、新機能の魅力無さなど、最近のWindowsに対するMicrosoftの力の入れようの低下とも符合します。

OfficeやWindows(特にGUI)は、既に製品完成の域に達しています。手間暇が掛かるDOS-VベースのコンシューマーOS企業と、最新コンタクトレス・テクノロジやAzure、高度セキュリティ投資との親和性も高いパブリッククラウド企業とは、別会社の方が、利用者、投資家にとっても判り易いと思います。

エンタープライズ顧客重視で将来性も高いパブリッククラウド企業地位を、MicrosoftがAmazonやGoogleよりも高めたいなら、足枷の可能性もあるOffice、Windows分離売却も可能性ありと思います。

Plan B評価の違い

M&A:Mergers(合併)and Acquisitions(買収)は、半導体業界では当たり前です。激変する半導体業界のMCUベンダとMicrosoft動向記事を紹介しました。

日本社会では、Plan B評価がまだ低いのですが、MCU開発者として、「個人レベルのPlan B必要性」を感じた記事でした。日本人と外国人上司のPlan B評価の違いは、コチラの記事を参照してください。

組込み開発 基本のキ:RTOS vs. ベアメタル

RTOS vs. BareMetal
RTOS vs. BareMetal

2022年最初の投稿は、RTOSとベアメタルを比較します。RTOSを使わないベアメタルMCU開発者が多いと思いますので、RTOS開発メリット/デメリットをベアメタル側から評価、RTOSデバッグツール紹介とベアメタル開発の意味を考えました。

RTOS目的

Flexible Software Package構成
Flexible Software Package構成

ルネサスRAファミリのFlexible Software Package構成です。左上Azure RTOSやFreeRTOSの中に、ConnectivityやUSBがあります。これらMCU共有資源を管理するシステムソフトウェアがOSで、PCのWindowsやMac、Linuxと機能的には同じです。

Real-Time性が必要な組込み用OSをRTOSと呼び、FreeRTOSやAzure RTOSが代表的です。これは、IoT MCU接続先が、Amazon Web Services(AWS)クラウドならばFreeRTOSライブラリ、Microsoft AzureクラウドならAzure RTOSライブラリ(図のConnectivity)利用が前提だからです。

※2021年のIoTクラウドシェアは、コチラの関連投稿からAWS>Azure>GCPの順です。

RAファミリに限らず、クラウド接続のIoT MCUは、これらRTOSライブラリを使ったRTOS開発になります。

RTOSメリット/デメリット

例えば、ベアメタルでUSB制御を自作する場合は、USB 2.0/3.0などの種類や速度に応じた作り分けが必要です。ライブラリがあるRTOSなら、USBポートへの入出力記述だけで利用可能です。RTOSが共有資源ハードウェア差を吸収し、アプリケーションが使い易いAPIを提供するからです。

RTOSの資源管理とは、MCUコア/Flash/RAM/周辺回路/セキュリティなどの共有資源を、アプリケーション側から隠蔽(≒ブラックボックス化)すること、とも言えます。

RTOSアプリケーションは、複数タスク(スレッドと呼ぶ場合もあり)から構成され、タスク間の優先制御もRTOSが行います。開発者は、単体処理タスクを複数開発し、それらを組み合わせてアプリケーションを構成します。RTOSアプリケーション例が下図、灰色が開発部分、コチラが関連投稿です。

Data flow diagram for a smart thermostat(出展:JACOB'S Blog)
Data flow diagram for a smart thermostat(出展:JACOB’S Blog)

RTOS利用メリット/デメリットをまとめます。

メリットは、

・RTOSライブラリ利用により共有資源活用タスク開発が容易
・移植性の高いタスク、RTOSアプリケーション開発が可能
・多人数開発に向いている

デメリットは、

・複数タスク分割や優先順位設定など、ベアメタルと異なる作り方が必要
・共有資源、特にRAM使用量がタスク数に応じて増える
・RTOS自身にもバグの可能性がある

簡単に言うと、RTOSとベアメタルは、「開発作法が異なり」ます。

ソフトウェア開発者は、RTOS利用と引換えに、自己流ベアメタル作法を、RTOS作法へ変えることが求められます。RTOS作法は、標準的なので多人数での共同開発が可能です。もちろん、ベアメタルよりもオーバーヘッドは増えます。このため、RTOS利用に相応しい十分なMCUコア能力も必要です。

RTOSタスク開発 vs. ベアメタルアプリケーション開発

最も効果的なRTOS作法の習得は、評価ボードを使って実際にRTOSタスク開発をすることです。弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、この例です。

それでも、RTOSタスク開発作法を文章で記述すると、以下のようになります。

開発対象がアプリケーションからタスク(スレッド)へ変わることが、ベアメタルとの一番の違いです。Windowsタスクバーにあるフィルダ表示や、ペイントなどと同様、タスクは、単機能の小さいアプリケーションとも言えます。

このタスクを複数開発し、複数タスクを使ってRTOSアプリケーションを開発します。タスクには、それぞれ優先順位があり、他のタスクとの相対順位で実行タスクがRTOSにより決まります。タスクの状態遷移が、RTOSへの備え:第2回、タスク管理で示した下図です。

FreeRTOS Task States
FreeRTOS Task States

ベアメタルアプリケーションとは異なり、優先順位に応じてタスクが実行(Running)され、その実行も、定期的に実行可能状態(Ready)や待ち状態(Suspended)、停止状態(Blocked)へRTOSが変えます。これは、リアルタイムかつマルチタスク処理が、RTOSの役目だからです。遷移間隔などは、RTOS動作パラメタが決めます。

ベアメタル開発は、開発者が記述した通りに処理が実行されますが、RTOS開発のタスク実行は、RTOS任せです。RTOS開発難易度の上がる点が、ここです。

一般的なIoT MCUは、シングルコアですので、実行タスク数は1個、多くの他タスクは、Not Running(super state)状態です。RTOSがタスクを実行/停止/復活させるため、スタックやRAM使用量が急増します。

これら文章を、頭の中だけで理解できる開発者は、天才でしょう。やはり、実際にRTOSタスクを開発し、頭の中と実動作の一致/不一致、タスク優先順位やRTOS動作パラメタ変更結果の評価を繰返すことで、RTOS理解ができると凡人筆者は思います。

ベアメタル開発者が手早くRTOSを理解するには、既にデバッグ済みの複数RTOSタスク活用が便利で、FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、この要求を満たしています。概要は、リンク先から無料ダウンロードできます。

文章でまとめたFreeRTOS解説が、コチラの弊社専用ページにあります。また、本ブログ検索窓にFreeRTOSと入力すると、タスク開発例などが参照できます。

RTOSデバッグツール

percepio tracealyzer
percepio tracealyzer

さて、RTOS作法に則ってタスク開発し、RTOS動作パラメタも適切に設定しても、思ったように開発タスクが動作しない時は、ブラックボックスRTOS自身のバグを疑う開発者も多いでしょう。RTOSのバグ可能性もありえます。

この疑問に対して強力にRTOS動作を解析できるFreeRTOSデバッグツールがあります。資料が無料でダウンロードできますので、紹介します。

※このツールを使うまでもなく、弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、正常動作を確認済みです。

まとめ:RTOS vs. ベアメタル

IoT MCUのクラウド接続 → 接続クラウド先のRTOSライブラリ必要 → RTOSライブラリ利用のRTOS開発が必要、という関係です。

RTOS開発は、ベアメタルと開発作法が異なる複数タスク開発です。タスクは、優先順位に応じてRTOSがMCU処理を割当てます。また、MCU共有資源がRTOSアプリケーションから隠蔽されるため、移植性が高く多人数での大規模開発にも向いています。

一方で、RTOSオーバーヘッドのため、ベアメタルよりも高いMCU能力が必要です。

シングルコアMCUでは、RTOSとベアメタルのハイブリッド開発は困難です。開発者がRTOSを利用するなら、慣れたベアメタル開発から、RTOSタスク開発への移行が必要です。

ベアメタル開発経験者が、効果的にRTOSタスク開発を習得するには、評価ボードと複数RTOSタスクが実装済みの弊社RTOSアプリケーションテンプレートの活用をお勧めします。

ベアメタル開発意味

RTOSのタスク処理待ち(セマフォ/Queue)を使うと、ベアメタルよりも排他/同期制御が簡単に記述できます。それでも、全てのMCU開発がRTOSへ移行することは無いと思います。様々なセンサデータをAD変換するエッジMCUは、ベアメタル開発、エッジMCUを複数個束ねクラウドへ接続するIoT MCUは、RTOS開発などがその例です。

MCU開発の基本は、やはりRTOS無しの「ベアメタル開発」です。

IoT MCU開発者スキルの階層構造
IoT MCU開発者スキルの階層構造

ベアメタル開発スキルを基にRTOSを利用してこそ、RTOSメリットを活かしたタスクやアプリケーション開発ができます。共有資源ブラックボック化、多人数開発のReal-Time OSは、「ベアメタル開発の補完」が起源です。

PC OSとは全く逆のこの生い立ちを理解していないと、効果的なRTOS利用はできません。近年MCU性能向上は著しいのですが、向上分をRTOSだけに振り分けられる程余裕はなく、IoTセキュリティなどへも配分する必要があります。

この難しい配分やRTOS起因トラブルを解決するのが、ベアメタル開発スキルです。弊社マイコンテンプレートは、主要ベンダのベアメタル開発テンプレートも販売中、概要ダウンロード可能です。

組込み開発 基本のキ:バックナンバー

2022年最初の投稿に、筆者にしては長文すぎる(!?)のRTOS vs. ベアメタルを投稿したのは、今年以降、RTOS開発が急速に普及する可能性があるからです。

クラウド接続からRTOS必要性を示しましたが、セキュリティなど高度化・大規模化するIoT MCU開発には、移植性の高さや多人数開発のRTOSメリットが効いてきます。

また、半導体不足が落ち着けば、RTOS向き高性能MCUの新しいデバイスが、各ベンダから一気に発売される可能性もあります。スマホ → 車載 → IoT MCUが、半導体製造トレンドです。

※現状のMCUコア関連投稿が下記です。
Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分
Cortex-M0からCortex-M0+変化
Cortex-M0/M0+/M3比較とコア選択

IoT MCU開発が複雑化、高度化すればする程、前章のベアメタル開発や、組込み開発の基礎技術:基本のキの把握が、開発者にとって益々重要になります。

組込み開発、基本のキ:バックナンバーを示します。年頭、基本を再確認するのはいかがでしょう?
組込み開発 基本のキ:組込み処理
組込み開発 基本のキ:IoT MCUセキュリティ



WindowsのTPM使い方

Windows 11アップグレート要件のTPM 2.0の使われ方を調査しました。WindowsがどのようにTPMを使っているかを知れば、11アップグレート足切り要件を筆者が納得し、加えて、IoT MCUセキュリティのTrustZone開発工数を顧客へ説明する時、参考になるかもしれないからです。

WindowsのTPM

Windows 10から追加・変更された現行Windows 11の機能は、生産性や弊社ビジネス向上に直結するものは無いと思っています。対処法などは、最悪Windows 11へアップグレードする際に備え収集中です。

アップグレード要件で最も不満な点が、TPM 2.0です。このTPMで何を行い、なぜ要件になったのかを整理してみます。

TPM機能(出展:PC Watch記事)
TPM機能(出展:PC Watch記事)

その結果、TPM 2.0は、11アップグレード要件というよりも、国際標準規格制定団体:Trusted Computing Group(TCG)が2014年10月にリリースし、TPM 2.0としてISO/IEC標準セキュリティ規格となったPCの普及が目的、と結論しました。

来年秋のWindows 11大型更新後、弊社PCの11アップグレート状況が変わるか楽しみです。

TPM利用Windows HelloとBitLocker

暗号化、乱数⽣成、暗号鍵⽣成と保存、デジタル署名がWindowsのTPM 2.0チップ利用箇所で、MacのBoot CampでもWindows 11が動作しない理由は、コチラに良くまとまっています。

ちなみに、TrustZone対象も、TPM 2.0と同様になる可能性も高く、特に、暗号化アルゴリズム可変の機能は、優れています。アルゴリズムを変更するWindowsのOTA相当にも注目しています。

Windowsは、これらTPM機能を利用し、パスワードを使わずにWindowsへサインインする「Windows Hello」や、内部ストレージ暗号化の「BitLocker」を実行します。また、「Microsoft Azure Attestation」(MAA)などにも使うようです。

WindowsのTPM使い方例(出典:セパゴのITブログ)
WindowsのTPM使い方例(出典:セパゴのITブログ:https://www.sepago.de/)

BitLockerやWindows Helloは、Windows 10でも利用した企業向けノートPCユーザもいるかもしれません。ただ、個人ノートPCや自宅PCユーザは、Microsoftアカウントを使うWindows HelloやPINの代わりに、ローカルアカウントの利用者が多いハズです。手間が掛からないことや、PC使用履歴をクラウド記録されるのが嫌だからです。

Windows 11は、Microsoftアカウント利用が基本ですが、アプリケーション個人認証にスマホ併用も必須になりつつあります。例えば、Googleログインも、スマホ2段階認証が有効に変わりました。

Googleログインの2段階認証プロセス
Googleログインの2段階認証プロセス

従って、例えWindows 11でTPMパスワードレス認証後でも、Googleログイン2段階認証は必要になる訳です。一方、TPM 2.0未搭載Windows 10でも、BitLockerやWindows Helloは利用でき、スマホ2段階認証などで様々なアプリケーションのセキュリティにも対応可能です。

つまり、TPMは、Windows 11の技術的アップグレード要件ではなく、OSセキュリティ強化が目的、というのが筆者TPM評価です。

ちなみに、ローカルアカウントによるWindows 11セットアップ方法は、コチラにまとまっています。

TPM理由

Microsoftが強調するOSセキュリティ強化には、TPMと手間暇、処理能力が必要です。処理能力要件が、Windows11対応CPUです。Windows 10が正常に動作するCPUでも、この能力要件を満たさないCPUも多数あります。理由は不明ですが、今回はTPMにフォーカスするため追求しません。

さて、筆者のようなセキュリティ素人には、TPMセキュリティ強化分と便益(手間暇)比を、ゲーム/個人/企業などのPCユースケース毎に評価、公表してほしいです。現行Windows 11は、最強セキュリティを求める企業向けユーザのみを対象にしている気がします。

仮に、Windows 11普及にTPMセキュリティ強化が障害になっているとMicrosoftが判断すれば、コチラの関連投稿2章のユーザアカウント制御のようなセキュリティを弱める対策を打出すと思います。

ユーザアカウント制御の設定
ユーザアカウント制御の設定

好みのセキュリティレベル設定は、個人ユーザに歓迎されるハズです。既に、TPM回避Windows 11インストール公式発表などがその現れです。これは、Windows 10サポート終了2025年10月14日が近づけば、より効果を発揮します。

しかし、Windows 11の魅力が現行のままなら、2025年10月以降は、Mac/Linuxなどの別OSやWindows 365などに乗換えるユーザも少なくないと思います。11乗換魅力の無さが、普及を妨げているからです。

TPM の理由は、最もセキュリティに敏感で、新PC購入/入替えも容易な企業向けPCユーザへ、ISO/IEC標準セキュリティ規格PCへの買換え動機付けだと思います。

TrustZone Cortex-M33はM4比2倍説明応用

TrustZoneとTPMの類似性
TrustZoneとTPMの類似性

IoT MCU顧客へ、Cortex-M33 TrustZone活用開発工数は、Cortex-M4比2倍となる説明が必要と前稿で書きました。

2倍根拠は、Cortex-M33/M4動作周波数比、Secureと通常の2プロジェクト同時開発必須などです。これらは、目に見える差分です。しかし、セキュリティに関しては、リスクが増減という話ばかりで、数値で表せないセキュリティ差分を、顧客に納得してもらえるかは、正直分かりません。

しかも、TrustZone活用には、通常の開発スキルに加え、セキュリティスキルも必要です。組込み開発は、1人で全て担当することも多いので、セキュリティ知識は持てても、利用スキル:暗号化ライブラリ選択やAPI利用法などに限定したいハズです。

セキュリティの詳細内容は、一般的なIoT MCU開発者には背景知識が少ないため、根本理解は困難でしょう。この状況で、セキュリティ利用スキルも必要となるTrustZone活用開発の差分を、顧客に上手く納得してもらうには、開発者として何らかの工夫も有効かもしれません。

Windows 11のTPMも、上記TrustZoneと全く同じ状況だと思います。そこで、現時点のTPMを整理しました。

今後Microsoftが、どのようにTPMの理由をユーザへ説明(12/4更新)していくかを、IoT MCU顧客へのTrustZone Cortex-M33開発工数が、M4比、2倍の説明にも応用したいと考えています。

実務的には、セキュリティの根本理解よりも、この方法の方が近道の気がします😅