RA用FSP v5.0.0 e2 studio 2023-10リリース

2023年10月28日、RA用FSP v5.0.0同梱e2 studio 2023-10がGitHubからリリースされました。FSP、e2 studioどちらも最新版です。また、10月16日に18年ぶりにバージョン5となったMCU開発必須ツール:Tera Term 5.0も、GitHubにあります。

本稿は、これらソフトウェアダウンロード先(=repository)のGitHubについて説明します。

また、GitHub公開の最新FSP v5.0.0、e2 studio 2023-10、Tera Term 5.0を使った評価ボード動作例も示します。

※今週金曜は、休日(文化の日)のため、木曜に先行投稿しています。

GitHub主要3機能

GitのWebサービス版がGitHubです。※Hubは、集約点という意味。

Gitは、Linux上で「複数ソフトウェア開発者」向けの支援ツールです。複数開発者が、1つのプロジェクトを、別々の場所・作業時間で共同開発する時に便利な機能を提供します。

Gitの主要機能が、フォーク、プルリクエスト、マージの3つです。

フォーク(=派生)は、レポジトリソースコードを派生利用し、別ソフトウェアを開発する際に、オリジナルコード所有者へ通知する機能です。

プルリクエストは、レポジトリソースコードの変更を、プロジェクト開発者へ通知、マージは、プルリクエストを受けた開発者が、変更を承認するか否かの通知機能です。承認時は、変更コードがプロジェクトへマージ(=統合)されます。

Linuxツールですので、CUI(キャラクタ ユーザ インタフェース)です。複数開発者が、地球上の離れた場所・作業時間であっても、ソフトウェア開発が上手くできる仕組みをGitが持つことが判ります。

また、ソースコードをレビューするコミュニティもあります。質の高いコード作成に役立つそうです。このコミュニティに、AI活用が最近話題です。AIを使わない時と比べ、開発速度57%、タスク完遂率27%上昇など驚きの効果が報告されています。

これらGit機能を、クラウドで提供するのが、GitHubです。2023年のユーザ数は、1億人突破だそうです(Wikipediaより)。

参考資料:GitHubとは? Digital Business Sherpa (2023-08-02)

GitHubソフトウェア公開機能

GitHubのもう1つの機能が、ソフトウェア公開です。この例が、最初に示したRA用FSP v5.0.0同梱e2 studio 2023-10やTera Term 5のリリースです。

exeファイルが直接ダウンロードできます。zipファイルダウンロードが主流のWindowsと異なる点です。

最新版RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10のGitHubレポジトリ
最新版RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10のGitHubレポジトリ

Latestアイコンが最新版を示します。Release Notes内にダウンロードリンク、下方にあるAssetsが、実際の公開ファイルを示します。

Summary:ワールドワイド開発標準ツールGitHub

筆者は、 パーティションもない大部屋で近隣同僚と、または、1人でソフトウェア開発をしてきました。Git主要3機能は、口頭で同僚へ伝えるか、1人開発時は不要でしたので、実際にGitHub活用経験はありません。

しかし、ワールドワイドやリモートワークでの複数人ソフトウェア開発時は、GitHubが標準ツールです。普段はソフトウェアダウンロード先としてGitHubを利用している開発者も、その仕組みを知っていると今後役立つと思います。

Afterword:RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10 & Tera Term 5動作

GitHub公開のRA用FSP v5.0.0、e2 studio 2023-10とTera Term 5を使ったFPB-RA6E1評価ボード動作例です。接続は、コチラの投稿と同じです。

RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10とTera Term 5.0動作例
RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10とTera Term 5.0動作例

インストールダイアログに従っていれば、従来版からのアップグレードも問題ありません。

RA用FSP v5.0.0同梱e2 studio 2023-10リリースが、他のルネサスMCUファミリのFSP v5.0.0やe2 studio 2023-10リリースより遅れるのは、 RA専用FSP同梱e2 studioのGitHubマージ作業のためと思います。

※ルネサス他MCUファミリは、FSP、e2 studioそれぞれ個別リリース。

リリースが遅れても、RAファミリ統合開発環境を、だれでも簡単に構築できるメリットを優先したためでしょう。


RAファミリクラウド開発環境提供

ルネサスは、クラウド上のMCU開発環境でRAファミリの開発ができる「クイックコネクトスタジオ」の提供を開始しました(2023年3月1日)。

ブラウザのみで使えるクラウド開発結果を、ローカル環境のe2 studioへダウンロード可能でRAファミリプロトタイプ開発の早期立上げに役立ちます。

クラウド開発の利用手順

クイックコネクトスタジオ利用手順(EK-RA2E1開発例)
クイックコネクトスタジオ利用手順(EK-RA2E1開発例)

クラウドMCU開発環境クイックコネクトスタジオの利用手順を、簡単にまとめます。

  1. クラウドクイックコネクトスタジオへログイン
  2. 画面右側のGETTING STARTに沿って操作
  3. 新規プロジェクト作成→RAボード選択→PMODモジュール選択→ビルド→開発Zipファイルをローカル環境へダウンロード
  4. クラウド開発Zipファイルをローカル環境e2 studioへインポート
  5. 手元に用意したRAボード+PMODモジュールで実動作確認

Zipファイルには、ハードウェア選択肢のRAボードとPMODモジュールのベアメタル開発サンプルコードが生成済みです。1~3で使うツールはブラウザのみ、新規プロジェクト作成からZipファイルダウンロードまで数分でできます。

クイックコネクトスタジオのクラウドハードウェア構成と同じものをローカル側に用意すれば、直に動作するサンプルコードが僅か数分で入手できる訳です。

クイックコネクトスタジオ利用により、プロトタイプ開発の早期立上げが実現可能です。

EK-RA2E1、EK-RA6M4評価ボード対応中

4月5日現在、クイックコネクトスタジオが対応しているのは、EK-RA2E1EK-RA6M4の2種RAファミリ評価ボードです。PMODモジュールは、通信関連がBluetoothとWi-Fi、センサ関連がフローセンサと湿度・温度センサです。

関連投稿:PMODモジュール

これらは、IoT製品向きの品揃えです。現在のハードウェア選択肢は少数ですが、今後、品揃えも豊富になるでしょう。

また、ベアメタル開発だけでなくRAファミリの得意分野FreeRTOSやAzure利用のRTOS開発や、セキュリティ強化TrustZoneへも、クイックコネクトスタジオが対応する可能性があります。

注)Cortex-Mxコアに比べTrustZoneなどのセキュリティ強化Cortex-M33/23コアがRAファミリ特徴。

サンプルコードの新しい入手方法

MCU利用の早期製品化には、プロトタイプ開発が必須です。

ベンダ各社は、多くのサンプルコードを提供しプロトタイプ開発支援を行っています。しかしながら、提供サンプルコード数が多いため、どのサンプルコードを利用すれば良いか開発者が迷う欠点もあります。

クイックコネクトスタジオは、評価ボードや使用センサ、通信方法をGUIで選択しながらMCUハードウェアが構築でき、構築ハードウェアの最新サンプルコードをクラウド上で簡単に作成できます。

つまり、プロトタイプ開発に適すサンプルコードを、間違わずに簡単入手が可能です。また、プロトタイプの仕様が変更になっても、クラウド上で「クイック」に対応できます。

さらに、RTOS開発では、AWSやAzureの接続先、TrustZone利用有無、OTA更新有無など製品化の選択肢がベアメタル開発に比べより多くなります。

注)AWS:Amazon Web ServicesはFreeRTOS、Azure:MicrosoftクラウドはAzure RTOS利用。OTA:Over The Airは、IoT製品ソフトウェア更新をクラウド経由で行うこと。

クラウド上で、これら接続先や利用有無に応じた必須ライブラリを自動的にZipパッケージ化してくれれば、ローカル開発環境の準備ミスも防げます。

クイックコネクトスタジオは、プロトタイプサンプルコードの新しい入手方法になると期待できそうです。

RAベアメタルテンプレート販売中

RAベアメタルテンプレートのP1
RAベアメタルテンプレートのP1

ローカル環境でのFSP利用RAファミリベアメタル開発は、弊社RAベアメタルテンプレート(税込1000円)をお勧めします。RAファミリの低価格で入手性も良いFPB-RA6E1FPB-RA4E1評価ボードと、Baseboardで動作確認済みです。

添付資料には、RAファミリ開発の鍵となるFSPの使い方やe2 studioのTipsも掲載済み、FSPサンプルコードを活用できる実務直結テンプレートです。

RAファミリ開発の早期習得ができ、添付資料P1~P3は、テンプレートサイトから無料ダウンロードも可能です。

ご購入、お待ちしております。



FSPベアメタルサンプルのRTOSスレッド化

前投稿FSPベアメタルサンプルコード:sci_uart_fpb_ra6e1_epを、RTOSスレッド化する方法を示します。

多くのルネサスRA公式サンプルコードを活用した効率的なRTOSスレッド開発が本方法で可能です。FreeRTOS、Azure RTOS両方に使えます。

サンプルコードベースRTOSスレッド開発

RTOS開発は、複数スレッドを組合せ全体を動作させます。ベアメタルコードに比べ、個々のスレッドは、独立性や移植性が高い特徴があります。スレッド優先度やセマフォなどのRTOSオブジェクトを適切に設定すると、複数スレッド全体処理としてユーザ所望のシステム動作をします。

スレッドは、勝手に回る歯車、優先度やRTOSオブジェクトは、各歯車をシステム全体で上手く動作させる手段と考えると解りやすいと思います。

スレッドとRTOSの役目
スレッドとRTOSの役目

スレッド設計法は、機能別や処理手順別など様々あり、唯一の方法は無さそうです。しかし、先ずは、歯車となるスレッドを開発し、次に、開発スレッド優先度やRTOSオブジェクトを調整しながら、システム全体動作を仕上げるのがRTOS開発の方法です。

本稿は、スレッド単体開発の1方法として、ルネサスRAファミリ公式FSPベアメタルサンプルコードを活用したサンプルコードベースのRTOSスレッド開発法を示します。複数スレッドを組合せたRTOSオブジェクトの適切な調整や設定に関する内容は、含みません。

公式ベアメタルサンプルコードは、各ベンダエキスパートが開発し、評価ボードで動作確認済みの高信頼ソフトウェアです。また、MCU周辺機能毎に多くのサンプルコードが提供中です。

これらベアメタルコードを活用する本方法は、FreeRTOS/Azure RTOSどちらのRTOSスレッド開発へも使えます。

RTOSスレッド化方法

詳細は、後で説明しますが、先ず、ベアメタルサンプルをスレッド化する手順を簡単に示します。方法全体像が判っていると把握しやすいからです。

  1. スレッド無しで空の新規RTOSプロジェクト作成
  2. g_ioport以外のベアメタルサンプルFSPスタックを、RTOS FSPスタックへImport
  3. hal_entry.c以外のベアメタルサンプルsrcファイルを、RTOSプロジェクトsrcフォルダへコピー
  4. 新しいスレッド:MyThreadをRTOSプロジェクトへ追加後、Gegerare Project Contentクリック
  5. MyThread_entry.cへ、初期設定と無限ループ処理を追記

1で新規作成した空のRTOSプロジェクトへ、2と3で対象ベアメタルサンプルから内容を追加、4でベアメタルmain()相当の新しいMyThreadを追加後、FSPを使ってRTOSプロジェクトを自動生成します。

生成後、5でRTOSプロジェクトのMyThread_entry.c初期設定と無限ループを追記します。追記内容は、ベアメタルサンプルの初期設定と無限ループ処理です。

つまり、1~5手順全てFSPベアメタルサンプルからの単純コピーでRTOSスレッド化が可能です。

次章から、前投稿で用いたベアメタルサンプルコード:sci_uart_fpb_ra6e1_epを、FreeRTOSスレッド化する具体例を使って、各詳細手順を示します。

1. 空の新規FSP freertos_uartプロジェクト作成

スレッド無しで空の新規FreeRTOSプロジェクト作成
スレッド無しで空の新規FreeRTOSプロジェクト作成

スレッド無し空FreeRTOSプロジェクトを新規作成します。新規RTOSプロジェクト名は、freertos_uartとでもしてください。

2. sci_uart_fpb_ra6e1_epのFSPスタックImport

sci_uart_fpb_ra6e1_epのFSPスタックImport
sci_uart_fpb_ra6e1_epのFSPスタックImport

freertos_uartプロジェクトのFSPスタックへ、sci_uart_fpb_ra6e1_epのg_ioport以外のFSPスタックを全てImportします。Importした各スタックプロパティは、オリジナルプロパティと同じに手動で設定してください。

3. sci_uart_fpb_ra6e1_epのsrcファイルコピー

sci_uart_fpb_ra6e1_epのsrcフォルダファイルコピー
sci_uart_fpb_ra6e1_epのsrcフォルダファイルコピー

sci_uart_fpb_ra6e1_epのhal_entry.c以外のsrcファイルを全て、freertos_uartのsrcへコピーします。

4. freertos_uartプロジェクトへ新しいUart Thread追加後、Generate Project

新しいUart_Thread追加
新しいUart_Thread追加

新しいスレッドのSymbolは、Uart_threadとしてください。先頭を大文字にする目的は、FSPが自動生成したファイルやスレッドが使う全小文字表記とユーザ追加のそれらを、大小文字で区別するためです。

Tips:大文字利用は、好みの問題です。RTOS開発は、多数のスレッドやオブジェクトソースが、プロジェクト・エクスプローラのsrcフォルダに表示されます。自分が追加したソース(バグ有り?)と純FSP生成ソースを、一目で区別できるメリットがあります。

最後にGenerate Project Contentをクリックし、FSPによりRTOSプロジェクトを自動生成します。

5. Uart_Thread_entry.cへ初期設定と無限ループ処理追記

RTOSプロジェクトのsrcフォルダ内に、Uart_thread_entry.cが生成されます。

先頭の#include “Uart_thread.h”に、sci_uart_fpb_ra6e1_epのsrcファイルにある#include “common_utils.h”、 #include “uart_ep.h”、 #include “timer_pwm.h”を追記します。
これら4個の#include文は、freertos_uartの全srcファイルに手動で追記します。

Uart_thread_entry.cの初期設定
Uart_thread_entry.cの初期設定

RTOS初期設定は、Uart_thread_entry.c のTODO: add your own code here以下へ、sci_uart_fpb_ra6e1_epの初期設定:hal_entry.cのL41からL93までをコピーします。

sci_uart_fpb_ra6e1_epの無限ループ処理は、コピーした初期設定の後方にあるuart_ep_demo()です。

RTOS無限ループ内には、上図でコメントアウトしたコンテキストスイッチが必要です。そこで今回は、RTOSプロジェクトuart_ep.cのuart_ep_demo()内へ、直接コメントアウトしたFreeRTOSコンテキストスイッチ:vTaskDeley(1)を追記します。

uart_ep.cのuart_ep_demo()へ追記するコンテキストスイッチ
uart_ep.cのuart_ep_demo()へ追記するコンテキストスイッチ

Tips:#include “Uart_thread.h”が、FreeRTOS関連API:コンテキストスイッチ追記を可能にします。

sci_uart_fpb_ra6e1_epとfreertos_uartスレッド同一動作確認

RTOSプロジェクトをビルドし、評価ボードへダウンロード後、実行してください。前稿のベアメタルサンプルコードと全く同じ処理が、開発したfreertos_uartスレッドで確認できます。

FreeRTOS/Azure RTOSスレッド化差

本稿で示したFreeRTOSスレッド化とAzure RTOSスレッド化の差は、コンテキストスイッチのみです。FreeRTOSならvTaskDelay(1)、Azure RTOSならtx_thread_sleep(1)が、コンテキストスイッチです。

Tips:コンテキストスイッチは、FreeRTOS/Azure RTOS開発手法のRTOS処理フローなどを参照してください。

ベアメタルサンプルコードをAzure RTOSスレッド化する時は、手順1で、新規Azure RTOSプロジェクトを作成し、手順5のvTaskDelay(1)の代わりに、tx_thread_sleep(1)を使えばOKです。

Tips:FSP生成スレッドMyThread_entry.cの無限ループ内には、作成RTOSプロジェクトに応じて初めからvTaskDelay(1)、またはtx_thread_sleep(1)が実装済みです。

本方法が、FreeRTOS/Azure RTOSどちらのRTOSスレッド開発へも使えることが分かります。

補足

2023年1月16日、e2 stidioは2022-10のまま、RAファミリFSPがv4.2.0へ更新されました。本稿は、FSP v4.2.0/4.1.0両方で動作確認済みです。



FSP利用RAファミリUARTの使い方

RAファミリ評価ボードFPB-RA6E1PFB-RA4E1FPB-RA2E1などは、MCUのUARTとPCの接続に古いハードウェア知識が必要です。そこで、FPB-RA6E1のUARTとPC接続(USB UART Bridge)を解説し、FSPサンプルコードで動作確認しました。

FSPサンプルコード:sci_uart_fpb_ra6e1_ep

sci_uart_fpb_ra6e1_epのFSP Configuration
sci_uart_fpb_ra6e1_epのFSP Configuration

FPB-RA6E1(Cortex-M33/200MHz、Flash/1MB、RAM/256KB)のUARTとPC接続の公式サンプルコードが、sci_uart_fpb_ra6e1_epです。このFSP (Flexible Software Package)スタックConfigurationが上図です。

簡単に説明すると、FSP UARTスタックを使ってPCとUART(115200bps、8-Non-1)で接続し、Timerスタックを使ってPWMでLED1輝度を変えます。UART受信した1-100値が、PWM設定値です。

つまり、Tera Term経由でPCから1-100を入力すると、評価ボードLED1の輝度がPWM 1-100%で変わります。

sci_uart_fpb_ra6e1_epのreadme.txt
sci_uart_fpb_ra6e1_epのreadme.txt(一部抜粋)

サンプルコード付属readme.txtの上記は、MCUのUARTピンを、どうやってPCのUSBへ接続するかが、開発経験者でも解りにくい箇所です。Windows 7より前の古いMCU開発者なら解るかもしれません。

USB UART Bridge

シリアルポート(出展:ウィキペディア)
シリアルポート(出展:ウィキペディア)

Windows 7以前の古いPCには、RS-232Cコネクタ:シリアルポートが実装済みでした。シリアルポートの用途は、MCUとの通信や、特定アプリのライセンスキーなど多数ありました。

しかし、Windows 7以降、RS-232Cコネクタは消えUSBへと変わりました。

消えたRS-232Cの代わりにUSB経由でMCUと通信を行うのが、USB UART Bridgeです。実績あるデバイスとして、FTDI社のFT232RLが有名でした。

つまり、MCU UART入出力ピンをPCへ接続するには、USB UART Bridge(=USBシリアル変換アダプタ)が必要なことを知っている古いMCU開発者のみreadme.txtが判る訳です。

最近のMCU評価ボードは、USBシリアル変換アダプタとMCUプログラム/デバッグを、1本のUSBで共用しているものが多く、USB UART Bridgeを別途追加し開発する例は稀です。PCのUSBポート数が少なくなってきたからでしょう。

お勧めUSBシリアル変換アダプタ

「FTDI USBシリアル変換」で検索すると、USB 2/3.1や5/3.3V対応など様々なアダプタが、様々な価格で現れます。

殆どの5Vデバイスは、3.3V入力を5V High入力と認識します。それでも、MCUと接続する電圧は、5Vと3.3Vを選択できる方が無難です。High誤認識を防ぐことや、5V耐性が無いMCUピンでも接続できるからです。

低価格で入手性も良く、5/3.3V選択ができるお勧めのUSB UART Bridgeが、FTDI FT232RL USB-TTLシリアル変換アダプタ3個セットです。基板上にスルーホールがあるため、MCU UARTピンとの直接接続も簡単です。

お勧めハードウェアループバックテスト

低価格で3個入り品質に不安な方は、購入後、ハードウェアループバックテストをお勧めします。

ハードウェアループバックテストとは、デバイスの送信:TXDと受信:RXDを結線し、送信データが受信データに現れるかをハードウェア的にテストすることです。このテストにより、購入アダプタが、正常動作することを確認します。

Tera Termを接続すれば、TXD LED、RXD LED動作も確認できます。また、Windows 11 22H2は、お勧めFTDI FT232RL USB-TTLを、追加ドライバなしでUSB Serial Portと認識することも分かります。

ハードウェアループバックテスト
ハードウェアループバックテスト

sci_uart_fpb_ra6e1_ep動作確認

前章までのハードウェア知識を使って、評価ボード:FPB-RA6E1(搭載RA6E1 MCUは、VCC:2.7~3.6 V動作)とシリアル変換アダプタ:FTDI FT232RL USB-TTL(3.3V選択)、PC USBを接続しました。

サンプルコード:sci_uart_fpb_ra6e1_epが示すMCU UART入出力ピンとUSB UART Bridge TXD/RXD接続、PC Tera Termの1-100入力による評価ボードLED1の輝度変化動作が確認できます。

sci_uart_fpb_ra6e1_epの動作確認
sci_uart_fpb_ra6e1_epの動作確認
sci_uart_fpb_ra6e1_epのTera Term入力(橙)と出力(白)
sci_uart_fpb_ra6e1_epのTera Term入力(橙)と出力(白)
sci_uart_fpb_ra6e1_epのFPB-RA6E1とシリアル変換アダプタの結線
sci_uart_fpb_ra6e1_epのFPB-RA6E1とシリアル変換アダプタの結線

Tips:上記ArduinoコネクタのD1 TX (P109)、D0 RX (P110)へMCU UART使用ピンを変えるには、FSP UARTスタックの利用Channel 0をChannel 9へ変更すればOK。

ルネサスRAファミリ評価ボードは、本稿で示したMCU UART用にUSB 1本、e2 studioプログラム/デバッグ用に別のUSB 1本、合計2本のUSBが必要です(PC側もUSB 2ポート必要)。

このe2 studio プログラム/デバッグ用USBの通信ツールが、J-Link RTT Viewerです。sci_uart_fpb_ra6e1_epでは、FSPバージョンやsci_uart_fpb_ra6e1_ep操作方法が示されます。

sci_uart_fpb_ra6e1_epのJ-Link RTT Viewer
sci_uart_fpb_ra6e1_epのJ-Link RTT Viewer

次投稿:ベアメタルサンプル → RTOSタスク化

サンプルコード:sci_uart_fpb_ra6e1_epは、FSP UARTスタックのベアメタル利用例で、良くできています。ベアメタルに限らず、RTOSへの応用範囲も広いです。

そこで次回は、ベアメタルサンプルコード:sci_uart_fpb_ra6e1_epを、RTOSのタスク化する方法を投稿する予定です。この方法により、多くの公式サンプルコードを活用し、効率的にRTOS開発が行えます。

FSP利用関連投稿:FSP利用FreeRTOSアプリの作り方FSP利用FreeRTOS/ベアメタルアプリ起動方法



FSP利用FreeRTOSアプリ起動動作

ルネサスFSPの役目、RTOSアプリ起動動作
ルネサスFSPの役目、RTOSアプリ起動動作

前回FSP利用FreeRTOSアプリの作り方で、ルネサス公式サンプルコードを流用・活用した実践的RTOSアプリ開発方法を示しました。今回は、前回開発したアプリを使ってFSPの役目、RTOSアプリがどのように動作開始するかを説明します。

これからRTOS開発を始めるベアメタル開発経験者に役立つと思います。

前回のおさらい

FPB-RA6E1評価ボードのLED1点滅速度を、SW1プッシュ割込みで変える1スレッドのみを持つRTOSアプリの開発方法を、新規FreeRTOS Blinkyプロジェクトへ評価ボード実装済みベアメタルサンプルコードを移植することで説明したのが、前回のfreertos_blinkyプロジェクトでした。

※12月9日投稿時、FSP Importした割込みコントローラ初期化の記述を忘れていました。翌日10日に追記済みです。お詫びします<(_ _)>。

本稿の目的

ルネサスFSP(Flexible Software Package)は、ベアメタル、FreeRTOSとAzure RTOS、これら3者に対応した周辺回路API とMCU起動ファイルを自動生成するツールです。

※MCU起動ファイルは本稿ではstartup.c、main.c、ユーザファイルの3つを指します。

従って、初めてFSPを利用する時は、戸惑う部分もあります。例えば、ベアメタル開発には無関係のスレッドやオブジェクト設定エリアがあること、FreeRTOS開発時でもタスクではなくスレッドへ統一された説明やパラメタ設定があるなどです。

つまり、1つのFSPでベアメタル、FreeRTOS、Azure RTOSの3者に同時対応したため、FSPパラメタ設定や説明に解りにくい点があります。

※本稿も、FSPに習ってタスクではなくスレッドを用います。

また、当然ですが、ベアメタルとRTOSでは、FSP生成のMCU起動コードも異なります。何度か開発すれば、ベアメタルとRTOSでどこが違うかが判ります。しかし、初めからハッキリ区別した説明があるとFSPとRTOS理解が早くなります。

そこで本稿は、FSP生成MCU起動ファイルとベアメタル/RTOSユーザファイルまでの動作差を説明します。

FSP自動生成MCU起動ファイル(startup.cとmain.c)

startup.c:リセット後のMCU動作開始には、動作クロック設定やRAMゼロクリアなど、様々な前処理が必要です。これら前処理を行うのが、startup.cです。startup.cは、ベアメタル/RTOSともに同じ処理です。

main.c:ベアメタルでは、startup.c→main.c→user_main.cと処理が進みます。RTOSは、startup.c→main.cだけです。main.cの処理内容がベアメタルとRTOSで異なります(次章の図参)。

ベアメタルのmain.cは、実質のメイン関数であるuser_main.cへの橋渡しファイルで処理はありません。なぜ橋渡しファイルを使うかは、後で説明します。

RTOSのmain.cには、ユーザがFSP Configurationで追加したスレッドやオブジェクトの生成関数が、FSPにより自動追加されます。例えば、前回のfreertos_blinkyプロジェクトのmain.cなら、下線部分です。

freertos_blinkyプロジェクトのmain.cファイル
freertos_blinkyプロジェクトのmain.cファイル

FSP生成のmain.cは、スレッドやオブジェクトを生成し、最後に橙色で囲ったRTOSタスクスケジューラを起動してリターン(終了)します。

つまり、RTOSのmain.cは、「全てのRTOS処理を開始するための前処理、準備」を行います。

因みに、FSP生成startup.cやmain.cは、ユーザが勝手に変更を加えにくいようプロジェクトファイル階層の深い部分や、ユーザフォルダ:srcとは別フォルダ内にあります。

FSP生成ベアメタルまたはRTOSユーザファイル(user_main.cまたはuser_thread_entry.c)

ベアメタル(左)とRTOS(右)のユーザファイル:srcフォルダ内容
ベアメタル(左)とRTOS(右)のユーザファイル:srcフォルダ内容

逆にユーザファイルは、変更を加え易いよう最上位のユーザフォルダ:srcの中にFSPが生成します。ベアメタルならuser_main.c、RTOSならuser_thread_entry.cです。

ベアメタルでは、実質のメイン関数:user_main.cがmain.cから起動します。user_main.cは、周辺回路の初期設定と、無限ループの2構成から成るごく普通のメイン関数です(関連投稿:組込み開発 基本のキ 組込み処理)。

一方、RTOSは、main.c内でFSPが追加した生成関数user_thread_createによりuser_thread_entry.cが起動します。前章のfreertos_blinkyプロジェクトで示すと、blinky_thread_createとblinky_thread_entry.cです。

ユーザが複数スレッドを追加した場合は、各スレッドが下図のようにmain.c内で生成され、RTOSによる複数スレッド並列動作となります。

ルネサスFSP生成のベアメタル起動動作(右)とRTOSアプリ起動動作(左)
ルネサスFSP生成のベアメタル起動動作(右)とRTOSアプリ起動動作(左)

それぞれのスレッドは、優先度やセマフォなどのRTOSオブジェクトに従って、つまりRTOS環境で制御されます。

FSP利用のRTOS開発は、main.cまでがベアメタル動作、これ以降はRTOS動作環境になります。

ベアメタルのmain.cがuser_main.cへの橋渡しファイルなのは、右側のRTOS動作環境の形に無理やり(?)合わせたためだと思います。FSPは、Azure RTOS>FreeRTOS>ベアメタルの順位で設計されたからでしょう。

まとめ:FSP利用FreeRTOSアプリ起動動作

ユーザ設定のFSP Configurationを基にFSPは、周辺回路APIを生成し、同時に、MCU起動ファイル(startup.cとmain.c)とユーザファイルを分離して生成します。

FSP自動生成ファイルやAPIには、ユーザが手動変更しないようわざわざ下記注意コメントが先頭に付いています。

/* generated XYZ source file – do not edit */

また、FSP生成ユーザファイルにも下記コメントが付いています。

/* TODO: add your own code here */

これらFSPコメントに従って、ユーザがコメントの後へユーザコードを追加すればアプリが開発できます。ただ、開発にはFSPが生成するファイル内容や、FSPが想定しているベアメタル/RTOSアプリ動作の理解が必須です。

そこで本稿は、FPB-RA6E1 FreeRTOSアプリ(freertos_blinky)を使ってFSPが生成したMCU起動ファイルとRTOSユーザファイル動作を説明しました。

その結果、ベアメタルでは橋渡し役のmain.cが、RTOSでは全てのRTOS動作開始の前処理、準備を行うことを示しました。

ルネサスMCU開発は、FSP理解が鍵です。FSPが自動生成するベアメタルとRTOSユーザファイルまでの起動動作が判ると、FSP理解とベアメタル開発経験者のRTOS開発が容易になります。



RA用e2studio 2022-07リリース

2022年8月31日より、FSP v4.0.0同梱RAファミリ最新開発環境e2studio 2022-07が、ダウンロード可能です。

FSP for RA MCU Family, version 4.0.0. (2022/08/31)

FSP同梱インストーラ利用指示

RAファミリはFSP同胞インストーラ利用指示
RAファミリはFSP同梱インストーラ利用指示

RAファミリ以外の単体e2studioバージョンアップは、7月20日でした。

RAファミリのアップデートは、上記リリースノートのようにFSP(Flexible Software Package)同梱インストーラ利用指示があるため、RA用のe2studio 2022-07リリースは、単体から1.5ヶ月遅れの8月31日になりました。同梱インストール理由は、不明です(単体e2studio+単体FSPインストールも可能ですが、指示に従う方がBetter)。

また、e2studio 2022-04以降、Windows 11-64bitに正式対応しました。弊社の先行Win11 21H2も、最新FSP同梱RA用e2studio 2022-07の正常動作確認済みです。

但し、ルネサス半導体セミナーやリリースノート、サンプルコードの説明書きなどは、未だWin10です。

Win11への移設は、今秋予定の22H2発表後でも良いと思います。Win11 22H2は、9月20日リリース情報があります。仮に9月20日なら、次回投稿は、弊社Win11 21H2の22H2大型更新レポートになるでしょう。

Example Project Bundle

RA6E1(左)とRA4E1(右)サンプルコード一覧
RA6E1(左)とRA4E1(右)サンプルコード一覧

弊社推薦RA6/4ファミリ評価ボード:FPB-RA6E1、FPB-RA4E1サンプルコード:FPB-RA6E1/FPB-RA4E1 Example Project Bundleも、最新版がリリースされました(2022/08/11)。

最新Example Project Bundleでも、多くのベアメタルサンプル、FreeRTOSサンプルは1個(下線)、Azure RTOSサンプルは0個です。

Cortex-M33コア採用のRA6/4は、IoT MCUでFSPもRTOS対応済みです。先ずは、ベアメタル開発でFSPに慣れてもらうという意図でしょうか?

RA開発環境まとめ

9月16日時点の最新RA開発環境バージョンアップ状況をまとめたのが下図です。

RA用開発環境のバージョンアップ状況
RA用開発環境のバージョンアップ状況

RA用の開発環境は、FSPバージョン版数が不揃いです。例えば、FSP同梱e2studioのFSP版数は、v4.0.0なのに、最新Example Project BundleのFSP版数は、v3.8.0で1世代前です。

しかし、v3.8.0のExample Project Bundleは、下図のようにFSP ConfigurationのBSPタブで最新FSP version 4.0.0へ変更が可能です。変更後、Generate Project Contentをクリックすれば、FSP v4.0.0でのAPIコードやひな型コードが生成されます。

FSPバージョン変更方法
FSPバージョン変更方法

また、直にIoT MCU RTOS開発を始めたいベアメタル開発経験者には、FreeRTOSやAzure RTOSサンプルコード数が少ないことも問題です。

対策案として、前投稿説明のベアメタルサンプルコードからRTOSコードを自作する方法をお勧めします。

RTOSの目的や機能を教科書から学ぶよりも、自作サンプルコードから理解していくベアメタル起点のRTOS習得方法は、RTOSスキルを磨きベアメタル補完RTOS開発の面白さを知る良い方法だと思います。

FreeRTOS/Azure RTOSソフトウェア開発手法

ルネサス公式センササンプルコードを使って、ベアメタル処理を起点とするRTOS(FreeRTOS/Azure RTOS)ソフトウェア開発手法を説明します。

筆者にしては、長い投稿です。要旨は、「ベアメタル処理+RTOS処理待ち=RTOS処理」です。

ベアメタル処理とFreeRTOSタスク処理並列多重
ベアメタル処理とFreeRTOSタスク処理並列多重

センササンプルコード

  1. FS2012 Sample application – Sample Code
  2. HS300x Sample application – Sample Code
  3. ZMOD4xxx Sample application – Sample Code

説明に用いたセンササンプルコードが、上記3種類です。ダウンロードには、ルネサスのログインが必要です。同一動作のベアメタル/FreeRTOS/Azure RTOS、3個のe2studioプロジェクトが同胞されています。動作MCUは、ルネサス)RA/RX/RE/RL78ファミリです。

サンプルコードマニュアルだけは、下記からログイン不要でダウンロードできます。本稿は、これらマニュアル情報だけで読める工夫をしました。

  1. FS2012 Sample application
  2. HS300x Sample application
  3. ZMOD4xxx Sample application

FS2012がガスフローセンサ、HS300xが湿度・温度センサ、ZMOD4xxxが高性能ガスセンサです。この順番で、サンプルコードが複雑になります。

そこで、焦点を、一番簡単なFS2012サンプルコード、動作MCUをRA6M4(Cortex-M33/200MHz/1MB Flash/256KB RAM)に絞って説明します。他サンプル/MCUでも同様の結果が得られます。

なお、3サンプルコードは、ベアメタルからRTOS開発へステップアップする時にも適したコードです。

センサとMCU間接続:I2C

PMODインタフェースによるセンサボードとMCU接続
PMODインタフェースによるセンサボードとMCU接続

センサとMCU間は、サンプルコード全てPMOD経由のI2C接続です。従って、I2C接続センサのIoT MCU制御例としても応用可能です。FreeRTOSとAzure RTOS、両方に対応した点が便利です。

PMODとは、米Digilent社規定のオープンインタフェース規格です。図示のように、複数センサボードを、レゴブロックのようにMCUへ追加接続できる特徴があります。

ベアメタルとFreeRTOS/Azure RTOSメモリ量

FS2012サンプルコードマニュアルより抜粋した使用メモリ量比較です。

ベアメタル FreeRTOS Azure RTOS
Flash 1065 bytes 1374 bytes 1342 bytes
RAM 73 bytes 249 bytes 246 bytes

RTOSは、ベアメタル比1.3倍のFlash使用量、3.4倍のRAM使用量です。但し、上表にRTOSタスク/スレッドのスタックメモリ量は含みません。

Flash/RAM使用量が増加しますが、RTOS開発ソフトウェア流用性が高まるメリットがあります。これら増加分は、ベアメタル単体処理からRTOSマルチタスク/スレッド処理のオーバーヘッドに相当すると考えて良いでしょう。

マルチタスク/スレッド以外にも、RTOS開発には、クラウド接続/セキュリティ/OTA(Over The Air)処理などのオーバーヘッドが別途必要です。

これら処理のため、IoT MCUは、ベアメタル比、Flash/RAM量の十分な余裕と高速動作が必要になります。

FS2012センサAPI使用方法

FS2012フローセンサの使用APIとその利用手順です。一般的なセンサでも同様で、特に変わった点はありません。

FS2012 APIと利用手順
FS2012 APIと利用手順

ベアメタル処理フロー

RTOS開発の起点となるベアメタル開発の処理フローです。

FS2012のベアメタル処理フロー
FS2012のベアメタル処理フロー

初期設定で、I2Cとセンサを初期化し、無限ループ内で、センサデータ取得と取得データの演算を繰返します。センサデータの連続取得に409.6ms遅延時間が必要であることも判ります。センサデータ取得完了は、センサ割込みを使って検出しています。

このベアメタル処理フローも、特に変わった点はありません。

RTOS処理フロー

ベアメタルと異なる処理だけを橙色抜粋したFreeRTOS処理フローです。

ベアメタル処理とRTOS処理のフロー差分
ベアメタル処理とRTOS処理のフロー差分

差分は、RTOS遅延:vTaskDealy()/tx_thread_sleep()で409.6msと1msが加わる点、vTaskDelete()/tx_thread_delete()でタスク削除する点です。

また、センサ制御本体は、タスク/スレッド記述へ変更し、セマフォにより別タスク/スレッドとの排他制御を行います。

1ms遅延は、別タスク/スレッド切替えに必要です(関連投稿のコチラ、6章コンテキストスイッチ参照)。FS2012サンプルは、タスク/スレッド数が1個なので切替え不要です。

しかし、例えば、HS300xセンサボードを、FS2012センサボードへレゴブロック様式で追加した時は、FS2012センサとHS300xセンサの2タスク/スレッドを、この1msスリープでRTOSが切替えます。

FS2012センサは、ベアメタル処理フローで示したデータ取得間隔に409.6ms遅延処理が必要です。この遅延中に、HS300xセンサのデータ取得を行えば、両タスク/スレッドの効率的な並列多重ができ、これにセマフォ排他制御を用います。

※RTOS遅延処理は、本稿最後の補足説明参照。RTOSメリットが具体的に判ります。

この切替え処理が、本稿最初の図で示したRTOS処理待ちに相当します。その他のRTOS処理フローは、ベアメタル処理と同じです。

つまり、RTOS処理とは、単体のベアメタル処理へ、RTOS処理待ちを加え、複数のベアメタル処理を並列処理化したものです。

数式的に表すと、「ベアメタル処理+RTOS処理待ち=RTOS処理」です。

RTOS(FreeRTOS/Azure RTOS)ソフトウェア開発手法

IoT MCU開発者スキルの階層構造
IoT MCU開発者スキルの階層構造

ベアメタル処理を、効率的に複数並列動作させるのがRTOSの目的です。

この目的のため、優先制御や排他、同期制御などの多くの機能がRTOSに備わっています。RTOSの対象は、個々のベアメタル処理です。つまり、ベアメタル開発スキルを起点・基盤としてその上層にRTOS機能がある訳です。

RTOS習得時、多くの機能に目移りします。しかし、本稿最初の図に示したように、RTOSは、複数ベアメタル処理(タスク/スレッド)を、優先度や排他・同期条件に応じて切替え並列多重化します。

逆に、ベアメタル側からRTOSを観ると、セマフォ/Queueなど「RTOSによる処理待ち」がベアメタル無限ループ内に入っただけに見えます。「待ち/解除の制御は、RTOS」が行います。待ち処理の種類が、セマフォ/Queue/イベントフラグ……など様々でも、「ベアメタル側からは単なる待ち」です。

筆者が、RTOS開発の起点はベアメタル処理、とした理由が上記です。

つまり、ベアメタル起点RTOSソフトウェア開発手順は、

1:単体ベアメタル処理開発。単体デバッグ後、タスク/スレッド化。
2:タスク/スレッド無限ループ内へ、RTOS処理待ち挿入。
3:複数タスク/スレッド優先度を検討し、RTOS結合デバッグ。

以上で、RTOSソフトウェア開発ができます。

処理自体は、1でデバッグ済みです。2以降は、効率的RTOS処理待ち挿入と、複数タスク/スレッド間の優先度検討が、主なデバッグ内容です。複数タスク/スレッドが想定通り並列動作すれば、第1段階のRTOSソフトウェア開発は完了です。

スタックメモリ調整やより効率的な待ち処理などのチューニングは、3以降で行います。

RTOS待ち処理は、セマフォやQueueの利用頻度が高いため、RTOS習得もセマフォ/Queueを手始めに、より高度な待ち処理機能(イベントフラグなど)へと順次ステップアップしていけば良いでしょう。

ベアメタル開発経験者が感じるRTOS障壁

ベアメタルは、開発者自身が全ての制御を行います。ところが、RTOS開発では、ソースコード内に、自分以外の第3者:RTOSが制御する部分が混在します。ここが、ベアメタル開発経験者の最初のRTOS違和感、RTOS障壁です。

前章の手法は、1でベアメタル処理を完成すれば、2以降は、RTOS処理のデバッグに集中できます。つまり、既に持っているベアメタルスキルと新しいRTOSスキルを分離できます。これで、最初に感じたRTOS障壁は小さくなります。

また、RTOS障壁は、IoT MCUクラウド接続時の通信処理やセキュリティ処理時に、MCUベアメタル開発経験者に大きく見えます。しかし、これらの処理は、決まった手順で当該ライブラリやAPIを順番に利用すれば良く、一度手順を理解すれば、本当のRTOS障壁にはなりません。

クラウド接続やセキュリティ処理サンプルコードを入手し、各API利用手順の理解後は、これら該当処理の丸ごと流用でも十分に役立ちます。

まとめ:RTOSソフトウェア開発手法

IoT MCU RTOSソフトウェア開発の3分野
IoT MCU RTOSソフトウェア開発の3分野

IoT MCUは、クラウド接続のためRTOS開発になります。IoT MCU RTOS開発は、データ収集、クラウド接続、エッジAIやIoTセキュリティなど、大別すると3分野に及びます(関連投稿:世界最大情報通信技術(ICT)サービス輸出国、アイルランドIoT事情)。

本稿は、センササンプルコードを使い、ベアメタルスキル起点・基盤としたデータ収集分野のRTOSソフトウェア開発手法を説明しました。

1:単体ベアメタル処理開発。単体デバッグ後、タスク/スレッド化。
2:タスク/スレッド無限ループ内へ、RTOS処理待ち挿入。
3:複数タスク/スレッド優先度を検討し、RTOS結合デバッグ。

数式的に示すと、「ベアメタル処理+RTOS処理待ち=RTOS処理」です。

クラウド接続とエッジAI/IoTセキュリティ分野は、決まった手順のRTOSライブラリ活用などが主な開発内容です。従って、この分野は、差別化の努力は不要です。

IoT MCU RTOS開発で、他社差別化できるデータ収集RTOSソフトウェア開発の手法を説明しました。

RAベアメタルテンプレート発売中

RAベアメタルテンプレート概要
RAベアメタルテンプレート概要

2022年5月にRAベアメタルテンプレート(1000円税込)を発売しました。本稿説明のRTOS(FreeRTOS/Azure RTOS)ソフトウェア開発には、ベアメタルスキルが必須です。

RAベアメタルテンプレートにより、開発ツール:FSP(Flexible Software Package)やe2studioの使い方、豊富なベアメタルサンプルコードを活用したベアメタル開発スキルが効率的に得られます。ご購入は、コチラから。

RA版RTOSテンプレート(仮名)は、検討中です。

NXP版FreeRTOSテンプレート発売中

NXP版FreeRTOSテンプレートも発売中です。また、本年度中には、ST版Azure RTOSテンプレートも、開発・発売予定です。

弊社ブログは、RTOS関連も多数掲載済みです。ブログ検索窓に、FreeRTOSやAzure RTOSなどのキーワードを入力すると、関連投稿がピックアップされます。

補足説明:RTOS遅延処理

RTOS遅延処理のvTaskDealy(409.6ms)/tx_thread_sleep(409.6ms)は、他タスク/スレッドの処理有無に関わらず409.6msの遅延時間を生成します。これは、ベアメタル開発者にとっては、夢のようなRTOS APIです。

このようにRTOSは、開発ソフトウェアの独立性・流用性を高めるマルチタスク/スレッド動作を実現し、ベアメタルの補完機能を提供します。

つまり、ベアメタル開発中に、他処理の影響を受けるので開発が難しいと思う部分(例えば、上記遅延処理など)があれば、RTOSのAPI中に解が見つかる可能性があります。

あとがき

長い投稿にお付き合いいただき、ありがとうございました。

ベアメタル開発経験者がRTOS習得・開発を目指す時、サンプルコード以外の情報が多すぎ、途中でくじけそうになります。本稿は、サンプルコードとベアメタルスキルを活かしRTOS開発へステップアップする手法を示しました。RTOSでも、基本はベアメタルスキルです。

RTOSサンプルコードが豊富にあれば、必要情報の絞り込み、RTOSスキル向上も容易です。掲載RTOSサンプルコードは、非常に貴重だと思いましたので、RTOSソフトウェア開発手法としてまとめました。

RAベアメタルテンプレート発売

FPB-RA6E1で動作中のSimpleTemplateとRTT Viewer
FPB-RA6E1で動作中のSimpleTemplateとRTT Viewer
FPB-RA4E1で動作中のBaseboardTemplateとRTT Viewer
FPB-RA4E1で動作中のBaseboardTemplateとRTT Viewer

ルネサスCortex-M33コア搭載RAファミリ向けRAベアメタルテンプレート(税込1000円)を本日より発売します。概要、仕様、テンプレート提供プロジェクト構成は、コチラから無料ダウンロードできますので、ご検討ください。

RAファミリのポジション

RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)
RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)

ルネサスのARM Cortex-M系MCUは、競合他社比、発売が出遅れました。RXやSynergyなどの独自32ビットMCUファミリも供給中のルネサスRA位置づけが上図です。詳細は、コチラの関連投稿3章に説明済みです。

まとめると、RAファミリは、外付けE2エミュレータなどが不要の低価格評価ボードと容量制限なし無償コンパイラ利用など、他のルネサス32ビットファミリには無い個人レベルでも開発可能なARM Cortex-M33/M23/M4コア採用IoTセキュリティ強化MCUです。

RAファミリ開発の鍵:FSP

Flexible Software Package構成
Flexible Software Package構成

RAファミリ開発の鍵は、FSP:Flexible Software Packageです。一言で言うと、HAL APIコード生成ツール。MCU動作速度、内蔵周辺回路などのパラメタをGUIにより設定後、RAファミリ間で共通のHAL APIを一括生成します。
※HAL:Hardware Abstraction Layer

FSP活用で、RAファミリ間での移植性に優れたソフトウェア開発ができます。しかしながら、多くのパラメタをGUI上で設定するため、煩雑で特に初心者にとっては取っ付きづらい面もあります。

また、競合他社より後発のIoT向けMCUですので、FreeRTOSやAzure RTOS、TrustZoneなどのIoTセキュリティにも対応しています。RAファミリの拡張性、将来性を提供するツールがFSPです。

つまり、FSP習得が、RAファミリを使いこなす鍵です(コチラの関連投稿で詳細が判ります)。

RA6/4E1グループ選択理由

RAファミリカタログ(出典:ルネサス)
RAファミリカタログ(出典:ルネサス)

様々なラインナップを供給するRAファミリの中で、汎用性と超低価格な評価ボードも供給済みなのが、RA6E1グループ(Cortex-M33/200MHz)とRA4E1(Cortex-M33/100MHz)グループです。

※RA6E1評価ボード:FPB-RA6E1、RA4E1評価ボード:FPB-RA4E1

RA6/4E1グループとFSPで開発したソフトウェアは、RAファミリ間で共通に使える汎用性を持ちます。また、評価ボードで動作するFSPサンプルコードもありますので、FSP習得にも適しています。

RA6とRA4の分岐点は、最大動作周波数です。

240MHz動作のRA6は、大容量Flashを搭載し、高性能で多機能MCUマーケットを狙い、更に高性能なRA8シリーズへの発展性があります。100MHz動作のRA4は、高性能低消費電力MCUマーケット狙いで、Cortex-M23搭載5Vトレラント性も持つRA2シリーズへ高い親和性を持ちます。

従って、RAファミリ開発を始めるMCUとして、RA6/4E1グループいずれも適していると言えるでしょう。

※RA6最大動作周波数は、カタログでは240MHzとありますが、RAベアメタルテンプレートで用いた評価ボードFPB-RA6E1は、最大200MHz動作です。他RA6シリーズも、同様に現在200MHzです。
※RA8シリーズは、未発売です。

実務直結RAベアメタルテンプレートでFSP習得

近い将来、RTOSやTrustZoneなど、多くのIoT MCU技術を学ぶ必要があります。それでも、MCUの基本技術は、ベアメタルです(コチラの関連投稿参照)。

弊社RAベアメタルテンプレートVersion 1は、RAファミリ中核汎用RA6/4E1グループの超低価格評価ボードを使い、基本のベアメタル開発で、効率的にFSPを習得することが目的です。

FSP習得には、評価ボードサンプルコードが適しますが、サンプルコードは、複数処理が当然の実務応用が簡単ではありません。弊社テンプレートは、複数サンプルコードの活用・流用が簡単で、実務にも使えます。

弊社テンプレートと詳細な説明資料、安価で簡単、拡張性にも優れた推薦開発環境を使えば、誰でも簡単にMCUベアメタル開発の高い障壁を乗越えられ、かつ、FSP習得も可能です。

RAベアメタルテンプレート購入方法は、コチラを参照してください。ご購入、お待ちしております。

ツイッター買収

ツイッター買収
ツイッター買収

2022年4月26日、CNN Japanは、米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が、約440億ドル(約5兆6000億円)でツイッター社買収の見通しを報じました。買収には、株主と規制当局の承認が必要になるそうですが、年内買収完了見込みです。

ツイッターはデジタル広場

マスク氏は、「⾃由な⾔論は機能する⺠主主義の要であり、ツイッターは⼈類の未来にとって重要な問題が議論されるデジタル広場だ」と指摘し、「ツイッターには大きな可能性がある。それを解放するために同社やユーザのコミュニティーと協⼒することを楽しみにしている」と表明しています(4月27日、CNN Japan)。

WordPressブログDescription流用

ツイッター投稿中
ツイッター投稿中

弊社も2021年8月からツイッター投稿を始めました。アカウント自体は、2013年から所有しておりましたが、休眠状態でした。

投稿復活の理由は、ツイッターの最大140文字投稿が、ブログ要約表示に適すと思ったからです。

WordPressブログでも要約:Description(120文字前後)作成が、必要です。このDescriptionは、サイト検索時に表示されます。従って、かなり気を配ってDescriptionを作成します。

この気配り結果を、WordPressだけでなく、ツイッターにも流用すれば、ブログ閲覧数上昇になるかも?と考えた訳です。マスク氏表明とは、雲泥の差です…😅。

ツイッター投稿を始めて8ヶ月程経過しましたが、ツイート効果は、見られません😭。

という訳で、暫くは買収の様子見です。しかしながら、ツイッターが有料にでも変われば、ツイッターアカウントは削除するかもしれません。その際でも、弊社WordPressブログ投稿は、引続きよろしくお願いいたします。

RAベアメタルテンプレート完成、次の金曜詳細投稿

FPB-RA4E1で動作中のRAベアメタルテンプレート
FPB-RA4E1で動作中のRAベアメタルテンプレート

昨年末より開発してきましたルネサスCortex-M33コア採用RAファミリのベアメタルテンプレートが、完成しました。最新開発環境のFSP v3.6.0、e2 studio 2022-04を用いました。FPB-RA6E1とFPB-RA4E1両評価ボードで動作確認済みです。詳細は、次の金曜に投稿いたします。