LPC8xxのGPIO制御とデバッグTips

NXP ARM Cortex-M0+マイコンLPCXpresso8xxのLPCOpenライブラリが、v3.01へ更新され、v2.x版から持ち越された多くのバグが修正されたようでした(結論から言うと、LPC81xにはバグが残っています。LPCXpresso8xxのLPCOpenライブラリv3.01は、前回の記事を参照してください)。

今回は、マイコン制御で最も基本となるGPIO制御を、MCUXpressoのサンプルソフトperiph_gpioと最新LPCOpenライブラリv3.01を使って解説し、さらにデバッグTipsを示します。

サンプルソフトperiph_gpioのGPIO API

LPCOpen v3.01のGPIO API数は、GPIO機能初期化、GPIOピン単位制御、GPIOポート単位制御の3種類で35個あります。全部使う必要はありませんので、最も基本的なGPIO APIを抜粋し使っているのがperiph_gpioで下記7個です。

periph_gpioのGPIO API一覧(その1)
GPIO API 概要
1 Chip_GPIO_Init(LPC_GPIO_PORT); GPIO機能初期化(=クロック供給)
2 Chip_GPIO_SetPinDIROutput(LPC_GPIO_PORT, 0, ledBits[i]); ピン(入)出力方向設定
3 Chip_GPIO_GetPinState(LPC_GPIO_PORT, 0, ledBits[LEDNumber]); ピン入力値取得
4 Chip_GPIO_SetPinState(LPC_GPIO_PORT, 0, ledBits[i], true); ピン出力値設定
5 Chip_GPIO_SetPinToggle(LPC_GPIO_PORT, 0, ledBits[LEDNumber]); ピン出力値反転

LPCXpresso8xxは、Portは0しかありませんので、「LPC_GPIO_PORT, 0,」は決まり文句、最後のパラメタは、GPIO0_xyzのGPIO論理ポート番号を示します。物理ピン番号ではない点に注意してください。

periph_gpioのGPIO API一覧(その2)
GPIO API 概要
6 Chip_GPIO_SetPortMask(LPC_GPIO_PORT, 0, ~PORT_MASK); ポートマスクレジスタ設定
7 Chip_GPIO_SetMaskedPortValue(LPC_GPIO_PORT, 0, count); ポート出力値設定(マスクレジスタ経由)

ポート単位のGPIO APIは、複数の出力ピン出力を同時に設定するもので、バス出力時に便利です。これら7個のGPIO APIのみを習得していれば、基本的なGPIO制御ができます。

評価ボード実行結果

LPC81xは、LPCXpresso812、LPC82xは、LPCXpresso824-MAXの評価ボードで実行した結果が下図です。

periph_gpio実行のデバッグ画面
periph_gpio実行のデバッグ画面(赤色がLPC824、青色がLPC812)

LPC81xとLPC82xでは、同じソースでも、ポート出力値が異なります。期待値は、LPCXpresso824-MAXでしか得られません。つまり、LPC81xにはGPIO APIのポート制御にバグがあることが判ります。

デバッグTips

ここで、デバッグのTipsを解説します。

MCUXpressoのローカル変数は、Quick Start ViewのVariablesタブで、周辺回路状況は、Workspace ViewのPeripherals+タブで表示可能です。適当な場所にブレークポイントを設定しF8クリックで、ブレークポイントまで実行します。評価ボード実行結果は、この操作で得られたものです。

現行版MCUXpressoは、デバッグでよく使うファンクションキーのツールチップが一部表示されません。
F8(実行)と、F5(ステップ実行)、F6(ステップオーバー:関数に入って処理「後」停止)、F7(ステップリターン:関数に入った状態で処理「後」停止)を覚えておくとデバッグ効率が良くなります。

LPCOpenライブラリv3.01のLPC81xポート制御、バグ回避方策

LPC812とLPC824はGPIOレジスタ構成が異なります。後で開発されたLPC824の方が、より制御し易いレジスタを備えています(ハードウエアマニュアルより抜粋)。

LPC824とLPC812のGPIOレジスタ比較
LPC824とLPC812のGPIOレジスタ比較

バグがあったLPC81xのポート出力値設定の代替として、他のGPIO API利用または、直接ハードレジスタ操作などを試しましたが、LPCOpen v3.01では、代替方法が見つかりません。思うにLPC81xライブラリの結構深い場所にバグがある可能性があります。

そこで、LPC81x動作には、旧LPCOpenライブラリv2.15を、LPC82x動作には、最新LPCOpenライブラリv3.01を使ってLPC82xテンプレート開発をすることに方針変更しました。当初目標のLPC8xxテンプレート、つまりLPC82xとLPC81xの両方を同じテンプレートソースで実現することは、残念ながら諦めました。

MCUXpressoでの旧LPCOpenライブラリv2.15の使い方

MCUXpressoは、このようなバグの場合に備えて旧LPCOpenライブラリ群も備えています(C:\nxp\MCUXpressoIDE_10.0.2_411\ide\Examplesフォルダ参照)。最新版MCUXpresso IDE v10.0.2_411でもLPCOpenライブラリv3.01が同封されていないのも、本稿で示したバグが理由かもしれません。

旧LPCXpressoプロジェクトをMCUXpressoで開こうとすると、下記ワーニングが出力されます。

Older Workspace Version Warning
Older Workspace Version Warning

旧LPCXpressoとMCUXpresso両方を使い続ける方は、LPCXpressoプロジェクトをコピーして別名のプロジェクトを作成した後に、MCUXpressoで開くと良いでしょう。

LPC81xテンプレートV2.1は、テンプレートプロジェクト内にLPCOpenライブラリv2.15を装着していますので、そのままMCUXpressoで開いても問題なく動作します。

*  *  *

LPCOpenライブラリv3.01を使った新しいLPC82xテンプレートV3の開発は、7E目標で進行中ですが、上記のようなLPCOpenライブラリv3.01バグがあり、予定より難航しています。ちなみにUart関連は、LPCOpenライブラリv3.01でかなり改善されました。

また、MCUXpressoは、Ctrl+スペースキーによる入力補完機能も実装されており、使い勝手は向上しています。旧LPCXpressoを使う必要性は低いと思います。

LPC8xxテンプレートV3完成は、今しばらくお待ちください。

NXP LPC8xx LPCOpenライブラリ更新

NXPのLPX8xxのLPCOpenライブラリが、1年7か月ぶりに更新されv3.01になりました。リリースノートを見ると、多くのバグが修正され、積み残しバグ(Carried Forward)も(現時点では)無くなりました。

なお、7月11日発表のMCUXpresso IDE v10.0.2 [Build 411]に、この最新LPCOpenライブラリv3.01は、未だ同胞されていません。 是非LPCOpenサイトから手動でダウンロードしてください。

v2.15積み残しGPIO APIバグ解消

本ブログ2015年9月記事のGPIO APIバグも解消されました。
このGPIO APIバグは、2年以上前のv2.15から積み残されたものです。GPIO APIは、マイコンAPIのなかで最も重要かつ頻繁に使うものだけに、手動で修正し利用されていた方も多いと思いますが、やっと解決されました。

LPC111xのLPCOpenライブラリは未更新

LPC1100シリーズのLPCOpenライブラリ更新状況がコチラです。残念ながら、弊社LPC111xテンプレートで使用中のLPCOpenライブラリLPC11C24は、v2.00a(2013/09/13)のままです。但し、LPC111xテンプレート動作には特に問題ありません。

LPC82xテンプレート開発再開

LPC8xx LPCOpenライブラリが更新され、GPIO APIバグも無くなりましたので、前述の2015年9月記事で一時停止中であったLPC82xテンプレートの開発を再開します。

開発環境は、旧LPCXpressoを変更し、最新のMCUXpressoとします。リリースは、7月末を予定しております。
勿論、既存LPC81xテンプレートも最新LPCOpenライブラリv3.01を使って再開発し、まとめてLPC81x、LPC82x両方に対応したLPC8xxテンプレートとします。

また、Cortex-M系マイコンのコードテクニックとして有名な、ループ構文には、カウントダウンの方が高速でコードサイズも小さいことをテンプレートへ取り入れた改良も加える予定です。
※上記コードテクニックは、ARMコンパイラバージョン6.6ソフトウエア開発ガイド 7章を参照してください。

*  *  *

LPCOpenライブラリの更新は、NXPの 各種Cortex-Mマイコンへの力の入れ具合を反映したものと思います。

最新マイコンのLPC54xxxのLPCOpen版数は、v3.03.000やv3.00c.001で、LPC8xxよりも更新日も早いのは当然ですが、LPC8xxが、例えばLPC13xxなどの既存他シリーズよりも早くLPCOpen v3.xxへ更新されたのは、反映結果でしょう。これは、2016年12月記事の2017NXPロードマップとも符合します。

既存マイコンの置換え市場を狙った、小ピンでスイッチマトリクスを持つ32ビットLPC8xxマイコンの優位性を示す指標の1つだと言えます。

STM32デモソフトから見える問題点

STM32Fxシンプルテンプレート

前回記事で予告しました、弊社マイコンテンプレートを使い、STM32評価ボードのデモソフトへUART-USB通信機能を追加しました(下記仕様参照)。

デモソフトのSW押下げの代わりに、評価ボードとパソコン間のUART-USB通信コマンドでLED点滅速度を変えます。これをマイコンテンプレートのSTM32F0マイコンへのシンプルな応用例という意味で、STM32Fxシンプルテンプレートとします(年内に既存マイコンテンプレートと同様、Baseboardテンプレートと合わせSTM32Fxマイコンテンプレートとして1000円で販売予定)。

STM32Fxシンプルテンプレート仕様
・動作確認評価ボード:STM32F072RB(Cortex-M0)
・LED出力:評価ボード実装 緑LED LD2点滅速度をUART-USBコマンドで変更
・SW入力:評価ボード実装 青ユーザSW(ソフトチャタリング対策済み)PushをUART-USBで表示
・UART-USB通信:TeraTermなどのターミナルソフトへメッセージ入出力(19200bps 8-Non-1)
・低電力動作:Sleep処理
・使用ライブラリ:HAL

STM32Fx Simple-Template Overview
STM32Fx Simple-Template Overview

STM32評価ボードデモソフトから見えるサンプルソフトの問題点

STM32評価ボードのデモソフトは、マイコンサンプルソフトの問題点を示しています。この問題点は、マイコンサンプルソフト全般に言えます。

サンプルソフトの問題点とは、1つの機能を、初期設定と無限ループを使って説明する点です。この方法は、初心者が単独機能を理解する際には、動作が解り易く、優れています。

しかし、実際のアプリケーションでは、複数の機能が並列的に動作するのが普通です。実アプリケーションの[複数並列(的)動作]と、サンプルソフトの[無限ループ単独動作]とのギャップが大きいことが、マイコン初心者にとっての大きな障壁です。

結論から言うと、サンプルソフトの解り易さに貢献している無限ループの時間消費(浪費)が問題です。

デモソフトの具体例

具体的にSTM32評価ボードのデモソフトで説明します。無限ループ内のLED点滅処理が下図です。

Sample Software Infinite Loop Trouble
Sample Software Infinite Loop Trouble

LED点滅速度は、SW割込みのCallback関数で変えます。このサンプルソフトは、LED出力とSW入力が並列動作しています(サンプルソフトとしては、SW割込みを使う点で珍しい例)。

LED点滅処理を繰り返すのが、無限ループの目的です。1ループのLED処理は、500/100/50ms毎に1回トグルを実行し、その他の時間は、HAL_Delayで時間消費(浪費)です。殆どのサンプルソフトは、この構成です。

つまり、

典型的サンプルソフト ➡[単独処理+時間浪費]の繰り返し

これにより1つの機能を説明する構成です。この方法は、説明の受け側にとっては、解り易いものです。単独処理の中身は、ポーリングが多いのも特徴です。ポーリング結果で、別処理へジャンプするなどします。

別処理の無限ループへの追加

STM32評価ボードのデモソフトは、割込みでSW入力の別処理を追加しています。しかし、無限ループへ、割込み以外で別処理を追加するのは困難です。なぜなら、[単独処理+時間浪費]へ別処理を追加するには、時間浪費の時間を変えるしか手がないからです。

時間浪費の時間を変えたとします。すると、[単独処理+追加処理+変更した時間浪費]となり、既に存在したLED点滅処理の点滅間隔が変わる可能性が生じます。

つまり、処理追加により既存処理へも影響が及ぶのです。厳密には、割込みでも既存処理へ影響が及びますが、その影響は極わずかです。

処理追加で既存処理に影響が及ぶので、追加前の既存処理単独でのデバッグが無駄になります。デバッグの積み重ねができないのです。

それならば、いつも割込みで処理を追加すれば良いかというと、そうでもありません。

割込み処理は、ポーリングに比べデバッグが難しくなります。また、割込み処理のサンプルソフトは、ポーリングに比べ少数です。

サンプルソフトは、単独動作の説明に重点を置いたポーリング動作のものが多数で、実アプリケーション開発へ、そのままでは使いにくい構成、構造になっていることがお判りになったと思います。

弊社マイコンテンプレートの対策

デモソフトのLED点滅処理に着目したのが、弊社マイコンテンプレートです。500ms、100ms、50ms毎に1回処理し、その他の時間は、別処理、低電力処理(Sleep処理)を時分割で処理します。

つまり、

弊社マイコンテンプレート ➡ ①[単独処理]終わり
____________ ➡ ②[別処理]終わり
____________ ➡ ③[低電力処理]終わり
____________  ①~③の繰り返し

簡単に言うと、時分割の無限ループランチャーです(起動される①側からみると、単独で無限ループ内にあるのと同じ、②、③も同様)。複数処理を起動する仕組みをテンプレート自体が持っているとも言えます。

RTOS: Real Time Operating systemを使うと複数処理起動が簡単です。しかし、RTOS理解のオーバーヘッドが必要です。弊社マイコンテンプレートは、簡易的に処理を並列に起動します。

起動される側の処理は繰り返し起動されますので、ポーリング動作のサンプルソフトの多くがそのまま流用できます。数多くあるポーリングサンプルソフトを活用、流用してアプリケーションの早期開発ができるのが、弊社マイコンテンプレートの特徴です。

また、STM32Fxシンプルテンプレート仕様から解るように、実アプリケーションに最低限必要な、低電力処理、LED出力、SW入力、UART-USB通信の各処理は既にシンプルテンプレートに実装済みです。

このシンプルテンプレートへ実用アプリで必要となる処理を追加しさえすれば、直ぐに最終段階アプリとなる構成になっています。プロトタイピング開発に適し、実アプリケーションとサンプルソフトとのギャップを小さくします。

もちろん処理を追加や削除しても、既存処理への影響が小さいので、デバッグの積み重ねもできます。

STM32CubeMXの使い方

STM32マイコンのソフト開発を早く効率的にするのが、STM32CubeMXです。コード生成ツールのSTM32CubeMXの概要、使い方を示します。

STM32CubeMXの使い方ビデオ

STMが提供するSTM32CubeMX解説ビデオは、このページの右に2つあります。STM32CubeMX – Overview (6:44)とGetting Start with STM32CubeMX (9:12)です。Overviewを見ると概要が、Getting Startを見ると、5つの使いこなしポイントが判る(かも?)という内容です。STM32CubeMXのマニュアルUM1718もページ下にあります。

この2ビデオとUM1718、その他の関連資料から、私なりにSTM32CubeMXの要点、使い方を纏めましたので以下に示します。

STM32CubeMXのウイザード

STM32CubeMXは、4IDE(SW4STM32ほか3種IDE、前回記事参照)へプロジェクトファイルと初期設定(クロック設定と周辺回路)Cソースコードを自動生成します。この生成の基になるのがPinout、Clock Tree、Peripheral & Middlewareの3ウイザードです。

Power Consumptionウイザードは、生成時の消費電力を評価する計算ツールです(使用例はコチラを参照)。

STM32CubeMX Four Wizard
STM32CubeMX Four Wizard

STM32CubeMXの3ウイザード設定後、コード生成(Ctrl + Shift + G)実行で指定先へプロジェクトファイルが出力され、これをSW4STM32でImportすれば、初期設定コード付きのプロジェクトが得られます。

従って、残りのユーザ処理をプロジェクトへ追加していけば、アプリ完成という段取りです。

STM32CubeMXの2種ドライバライブラリ

注意点は、デフォルトでSTM32CubeMXが生成するのは、HALドライバライブラリを使ったプロジェクトだということです。勿論LLドライバライブラリでの生成も可能ですが、この場合は、初期設定ソースコードが自動生成されません。LLライブラリ利用の場合は、ユーザが初期設定コードも書く必要があります。

つまり、STM32CubeMXでLLドライバを使うと、SW4STM32で、初期設定とユーザ処理の両方をプロジェクトに追記しなければならず、しかも、各LLドライバ分解能はHALに比べて低いので、より多くのLL APIを使った追記が必要です。

HALとLLは、UM1749(全1466ページ)に詳しい説明があります。
HAL: Hardware Abstraction Layerとは、文字通りハードウエアを抽象化し、より簡単に周辺回路制御ができるAPIをユーザ側へ提供します。
一方、LL: Low Layerは、速度優先でエキスパート向けのAPIですので、高速ですが移植性や可読性はHALよりも低くなります。

HALとLLのAPIを相対比較した表が下記です。

STM32CubeMX HAL and LL APIs Comparison
STM32CubeMX HAL and LL APIs Comparison

追記コードはHALの方が少なくても、実際はHALの方が抽象化オーバーヘッドの分だけコンパイル後のコードサイズは大きくなります。プログラムにもよりますが、その差は60~80%だそうです。LLを使うとこのサイズが小さい分だけ高速処理が可能ということです。

STM32CubeMXでLLを使って生成するプロジェクトファイルは、本当の意味でフレームワークのみです。

Peripheralウイザード設定の目的は、SW4STM32のAPI入力支援機能を活用するためです。例えばコード記述中、LL_DAC_まで入力後、Ctrl + spaceを押すと、可能性があるLL APIがリストで選べます(HAL APIも下記のように同様)。Visual StudioのIntellisence機能のマイコン版に相当します。

Intellisence (Ctrl + Space) and USER CODE BEGIN to END
Intellisence (Ctrl + Space) and USER CODE BEGIN to END

このIntellisenceが表示するAPIは、当該周辺回路の全てのAPIを示すと思います。全てのAPIから使えるAPIを選ぶには、Peripherals & Middlewareウイザードの設定意味が解っている必要があるでしょう。

再度STM32CubeMXでコード生成し、プロジェクトファイルを作り直しImportしても、ユーザ追記部分を残すためには、USER CODE BEGINからUSER CODE ENDまでのコメント間に記述します。これは、Runesas CS+のコード生成と同じです。

STM32マイコンテンプレートはHALドライバライブラリを使用

使用するドライバライブラリは、60~80%の高速性か、ポータビリティかの選択です。STM32マイコンは、ROM/RAMが大容量なこと、コア速度も速いこと、STM32CubeMXもデフォルトでHAL使用することから、STM32マイコンテンプレート開発にも、HALライブラリを使います。

これにより、当初の目的であった機種特定を避けCortex-M0/M0+コアのSTM32F0/L0や、Cortex-M3のSTM32F1などのSTM32マイコン全てに使えるベアメタルマイコンテンプレートを開発します。

*  *  *

ここまでが、STM32CubeMXコード生成の使い方です。使用ライブラリにHALを選べば、初期設定Cソースコード付きのSW4STM32プロジェクトが作れます。

ビデオや各種資料もここで終わるものが多いのですが、ソースにユーザ処理の追加が残っています。このユーザ処理の参考にすべきなのが、STM32CubeMXのRepositoryフォルダで提供される周辺回路毎のサンプルソフトです。

STM32CubeMXサンプルソフトの使い方

前回記事Figure4に示したExampleで提供されるのが、HALライブラリ使用のサンプルソフトです。Example_LLはLLライブラリ利用サンプル、Example_MIXは、HALとLLの混合サンプルを示します。

いずれのサンプルも、4IDEで使える構成になっているのは、前回記事の通りです。

サンプルソフトがSTM32CubeMXを使って作られたものなら、そのまま利用できるのでBestですが、残念ながら専門家、人が開発したプロジェクトです。しかし有力なサンプルであることに違いはありません。

従って、使う周辺回路が決まったら先ずこのExampleで使用例を大体でも知ったうえで、コード生成するのが本来のSTM32CubeMXの使い方手順だと思います。この前処理抜きでPinout、Clock Tree、Peripheral & Middlewareの3ウイザードを正しく設定できれば別ですが、分厚いマニュアルを読むよりは効率的だと思います。

まとめ

私は、STM32CubeMXは、コード生成とRepository内のサンプルソフトの両方を、車の両輪のように同時に使うことでSTM32マイコンのソフト開発が早く効率的になると思います。

効率的なSTM32CubeMXの使い方は以下です。

1) Repositoryフォルダから使用する周辺回路とライブラリに応じたサンプルソフトを探し、おおよその利用法、特にユーザ処理を知る(サンプルソフトファースト)
2)コード生成Pinout、Clock Tree、Peripheral & Middleware各ウイザードを出来るならサンプルソフトと同じ設定にし、コード生成を実行(デフォルトはHALライブラリを使うことに注意)
3)生成されたプロジェクトをIDEにImportし、ユーザ処理を1)のサンプルソフトを参考にUSER CODE BEGIN~ENDの間に追記し、デバッグ
4)再度コード生成しても3)で追記したユーザ処理は残る(但し、ヘッダーファイルは完全に上書きされるので注意)

STM32マイコンテンプレートは、STM32CubeMXのHALドライバを使い、MCUコア依存性が少ないベアメタルテンプレート開発にする方針を立てました。STM32マイコンテンプレートの目的を知りたい方は、弊社マイコンテンプレートサイトをご覧ください。

STM32マイコン統合開発環境:SW4STM32の構築

STM32マイコンの統合開発環境: IDEは、EWARM、MDK-ARM、TrueSTUDIO、SW4STM32の4種類から選びます。

EWARM:IAR社Embedded Workbench for ARM。汎用IDE。無償版32KBコードサイズまで。
MDK-ARM:Keil社Microcontroller Development Kit for ARM。汎用IDE。無償版32KBコードサイズまで。
TrueSTUDIO:Atollic社Eclipse ベースSTM32専用IDE。無償版コードサイズ制限なし。
SW4STM32:仏)AC6社マルチOS EclipseベースSTM32専用IDE。無償版コードサイズ制限なし。本ブログはWindows版で説明。

STM資料は、これら4種IDEを併記していますので、英文量が増えます。4IDE同時に使う人はいませんので、自分が使うIDEの説明箇所のみを拾い読めば十分です。4IDE併記は、全てのSTM資料に共通ですので覚えておくと良いと思います。

また、コード生成ツールSTM32CubeMXも、4IDE対応で作られておりIDE名称を知らないとフォルダ名に戸惑うことになります(後で示すFigure3や4参照)。

今回は、これら資料の特徴を知ったうえで、SW4STM32へコード生成ツールSTM32CubeMXをプラグインしたSTM32マイコンテンプレート統合開発環境の構築と、評価ボードを使った構築環境の検証までを示します。

SW4STM32統合開発環境構築手順

前回記事に示したように、STM32テンプレート開発環境は、IDEにSW4STM32、評価ボードにNUCLEO STM32F072RBを使います。

1) SW4STM32インストールとUpdate
2) STM32CubeMXプラグインとUpdate
3) STM32CubeMXへ評価ボードMCUコアのライブラリダウンロード
4) ライブラリ(サンプルソフトとドライバ)のファイル構成確認
5) 評価ボードデモソフト説明と構築環境の動作検証

1)~5)がこの開発環境の構築手順です。上手く構築できたかどうかを、評価ボードデモソフトに変更を加え検証します。手順の内容を示します。

1)SW4STM32インストールとUpdate

最新版SW4STM32は、OpenSTM32 Communityページ中頃のdownload areaからダウンロードします(要ログイン)。旧版ではUpdateで最新版へ更新できる場合とできない場合がありますので、最新版のダウンロードをお勧めします。最新版へ更新できない時は、その旨の親切なメッセージが、Update実行後に出力されます。

SW4STM32のインストールは、ダウンロードインストーラの実行だけですので、特に問題ないと思います。忘れてはいけないのは、最新版(今日現在v2.0)でもインスト後、Updateが必要な事です。トラブル回避の為にも、SW4STM32のHelp>Check for UpdatesでIDE更新を実行後、次の手順へ進むようにしてください。

2)STM32CubeMXプラグインとUpdate

STM32開発で使うコード生成ツールSTM32CubeMXのプラグインインストール方法は、UM1718の3.3を参照してください。これも記載手順で行えば、問題なくできます。インストール後、3.4.3と3.5~3.5.1を参照し、STM32CubeMXのUpdateを行います。

3)STM32CubeMXへ評価ボードMCUコアのライブラリダウンロード

評価ボードMCUコアは、ARM Cortex-M0です。これをSTMは、STM32F0シリーズと呼びます。MainstreamのFx: x=0/1/2/3/4/7シリーズがCortex-M0/M3/M4/M7、ultra-Low-powerのLx: x=0/1/4シリーズがCortex-M0+/M3/M4コアを使います。F3≠M3なので注意してください。

UM1718の3.5.2のライブラリ選択で、STM32CubeF0の1.8.0版を選択し、Install Nowでサンプルソフトとドライバ等がIDEへインストールされます。最新版(STM32CubeF0の場合1.8.0)インストールで旧版分も含むので最新版のみでOKです。

今日現在は、1.8.0のパッチパッケージは無いので、以上の手順で、SW4STM32とSTM32CubeMXプラグイン設定が完了し、統合開発環境:IDEの構築は完成です。後は、UM1718の6~10に使用例がありますので、これらを習得すればSTM32開発ができます。

4)ライブラリ(サンプルソフト)の構成確認

3でインストールしたサンプルソフトやドライバは、デフォルトではドキュメントフォルダではなく、下記STM32Cubeフォルダになります。

C:\Users\ユーザ名\STM32Cube\Repository

ドキュメントフォルダ等へ変更したい方は、STM32CubeMXのUpdater Settingsで場所を変更してください。

STM32CubeMX Update Setting
STM32CubeMX Update Setting

このRepository内に、ダウンロードしたSTM32F0シリーズのZipファイルとこれを展開したファイルが同居しています。STM32CubeF0_V1.1.0の展開ファイル例が下記です。

STM32CubeF0 Firmware Structure
STM32CubeF0 Firmware Structure
STM32CubeF0 Example Overview
STM32CubeF0 Example Overview

Figure 4は、Figure 3のProjects/STM32F072RB-Nucleo下の構成を示します。Figure 3のドライバ(=Drivers)やFigure 4のサンプルソフト(=Examples)を活用すれば、アプリケーションの早期開発ができます。弊社STMテンプレートもこれらを使います。

注意点として、評価ボードNUCLEO STM32F072RB 以外のボードや、SW4STM32以外のIDE、つまりEWARMやMDK-ARMやTrueSTUDIOのUtilities等も含まれていることです。これらは、NUCLEO STM32F072RB(STM32F072RB-NucleoとFigure3表記)とSW4STM32を使う限りは不要です。
※STM資料もそうでしたが、STMソフトもまた4つのIDEや動作する全評価ボードに1ソフトで対応するように作られているので、上記のように使わないものが含まれています。

サンプルソフトの使い方は、UM1779の4.1にSW4STM32の記載があります。

5)評価ボードデモソフト説明と構築環境の動作検証

評価ボード購入直後、電源を入れると収納ケース裏GETTING STARTED記載の緑LED LD2が点滅し、その点滅間隔がB1ボタンを押す度に50/100/500msと変わるデモソフトが起動します。このデモソフトソースが、Figure 4のDemonstrations内にあります。そこで、このデモソフトを構築した環境へImportし、点滅間隔を変えることで環境が正しく構築されたかを検証します。

UM1787: STM32CubeF0 Nucleo demonstration firmwareにデモソフトの詳細が示されています。評価ボードに下図Arduinoシールドを装着すると、ジョイスティックやLCD表示も可能です。

Adafruit 1.8” TFT shield
Adafruit 1.8” TFT shield

デモソフト緑LED LD2の点滅箇所を抜粋したソースを示します。

LED Blink Routine
LED Blink Routine

簡単に説明すると、シールド未実装の場合はLED2_Blink()が実行され、BSP_PB_Init()で設定された割込みでHAL_GPIO_EXTI_Callback()が実行されBlinkSpeedをインクリメント、HAL_Delay()で点滅間隔が変わる、となります。

そこで、main.cのL574のHAL_Delay(500)をHAL_Delay(1000)などへ変更し、ビルド→デバッグでLD2の点滅間隔が変われば、構築した開発環境が正しく構築できたことを、評価ボードを使って検証できます。perspectiveをデバッグに切換えた画面を示します。

Debug Perspective View
Debug Perspective View

デバッガ接続に万一トラブルが発生した場合には、Run>Debug Configurations…で、STM32F072B0-Nuclei.elfを見つけてください。他の設定は、デフォルトで問題ありません。

Debug Configurations
Debug Configurations

デバッグ中は、評価ボードST-Link部実装の2色LED(赤緑)がキラキラして眩しいです。

SW4STM32の使い勝手は、画面切り替えにperspectiveクリックが必要など、NXPのMCUXpressoと比較すると、やや劣る操作性です。素のEclipse IDEに近いのだと思います。

さいごに

STMマイコンは、他社比ROM/RAM容量が大きいわりに低価格です。CMSISやHALを使うと、これぐらいの大きさが必要になるのだと思います。CMSISやRTOSが普及し始めると、Cortex M系コア性能に依存しないソフト開発ができるので、既に第5位ですが更に脚光を浴び始めるベンダかもしれません。

mbedでも使える評価ボードの入手性も良いので、今のうちに個人レベルで習得すると、慌てずに済むお勧めMCUです。

STM32評価ボードNUCLEO-F072RB選定理由

STM32マイコンテンプレートを開発するにあたり、秋月電子さん販売中の多くのSTM32評価ボードのうち、Cortex-M0のNUCLEO-F072RBとCortex-M3のNUCLEO-F103RBを選びました。今回は、この選定理由を示します。

STM Evaluation Boards and MCUs Performance
STM Evaluation Boards and MCUs Performance

NUCLEO-F072RB選定の理由(ARM Cortex-M0)

STMサイトに散りばめられたSTM32 MCU情報から、NUCLEO-F072RB選定の決め手となった資料が下記4つです。UM: User Manual、AN: Application Noteです。

1) UM1779          Getting started with STM32CubeF0 for STM32F0 Series
2) AN4735           STM32Cube firmware examples for STM32F0 Series
3) UM1718          STM32CubeMX for STM32 configuration and initialization C code generation
4) UM1727          Getting started with STM32 Nucleo board software development tools

1)はボード毎に提供されるサンプルソフト数を記載し、STM32F072RBが134個と断トツに多いことが判ります。STM32F072RBとは、NUCLEO-F072RB実装MCUです。MCU/ボードの混在表記なので注意が必要です。2)は、1)のサンプルソフト詳細内容が示されています。

3)は、2)のサンプルソフトを生成するコード生成ツールSTM32CubeMXのユーザマニュアルで、スタンドアロンやEclipse IDEプラグインなどの3動作モードと使用法が書かれています。4)は、STM32MCU開発に使える4IDEの紹介です。

これら資料から、STM32マイコンテンプレートの開発環境を以下としました。

・評価ボード: NUCLEO-F072RB(64ピンSTM32F072RBT6実装、ROM 128KB/RAM 16MB、DAC/CAN/USB等)
・統合開発環境:SW4STM32(無償版コード生成サイズ制限なし)+STM32CubeMxプラグイン

※KeilのuVision(MDK-Lite)は、STM32F0/L0専用ライセンスを使うとコードサイズ256KBまで利用可能です。しかし、F0/L0専用となりSTM32F1開発(NUCLEO-F103RB選定理由参照)には残念ながら使えませんのでやめました。F0/L0のみ開発をする方は、2018年2月までの期間限定のようですが、無料で全機能使えます(少し使ってみた感想はエディタが貧弱ですがまあまあという感じです)。

数種類の評価ボードが簡単に入手できても、STM提供サンプルソフト数が少ないものもあります。弊社マイコンテンプレートは、これらサンプルソフトが簡単に組込めることを特徴としますので、サンプル数の多さは、テンプレート活用機会も多くします。

以上のことから、STM32マイコンテンプレート開発環境を決めました。

STM32 Template Development Environment
STM32 Template Development Environment

STM32マイコンテンプレート開発方針

これら4つ以外にも、様々な有用資料(例えばAN4617:Migrating between STM32F0 and STM32L0 microcontrollersなど)がサイト内に散りばめられていて、ハッキリ言ってCypressサイトなどと比較すると、平面的で資料が見つけにくいサイト構成です。応答速度も遅いです。
しかし、掲載資料は、いずれも優秀なエンジニアが書いたものと思われ、英文量は多いものの中身は良好です。

STM32マイコンテンプレート開発では、このSTMサイトリンクもブログ記事に積極的に掲載しようと思います。私の下手なブログ記事を読むより、STMサイトへ直接アクセスする方が良い読者も多いと思うからです。その結果、2016年マイコン売上5位の実力を持つSTM MCUを使う弊社STMマイコンテンプレートのご購入者が増えることも期待もしております。

NUCLEO-F103RB選定の理由(ARM Cortex-M3)

これまで弊社テンプレート対象MCUは、Cortex-M0/M0+クラスでした。しかし、前回記事に記載したようにRTOSやCMSIS普及を考慮すると、このクラスに拘る必要が薄くなってきました。

MCU価格では、Cortex-M4のSTM32F303K8T6が410円、Cortex-M0のSTM32F042K6T6が250円とややM4が高いものの、ここで使うM0/M3評価ボード価格は、どちらも1500円で同じです(2017年5月秋月販売価格)。

製品の大きさが許せば、評価ボードをそのまま製品へ実装するというのは、いつも私が考える製品構想です。評価ボードが同価格なので、コア性能が不足しても、ホードごと載せ替え可能で安心です。STM32評価ボードは、UM1724: STM32 Nucleo-64 boardで詳細が解ります。

しかも、STM32ソフトウエアスタック(UM1779掲載)から、コアクラスの依存性が低いテンプレート作りも可能だと思います。つまり、LL: Low Layerの代わりにHAL: Hardware Abstraction Layerを使ってテンプレート開発すれば、STM32F0(Cortex-M0)以外にSTM32F1(Cortex-M3)、他のコアへも適用できると考えるからです。

STM32CubeMx Software Stack
STM32CubeMx Software Stack

この可能性を検証するために選んだCortex-M3評価ボードが、NUCLEO-F103RB(64ピンSTM32F103RBT6実装、ROM 128KB/RAM 20MB、CAN/USB等)です。勿論、LLの方が高速処理可能でしょうが、HALの移植性の高さも捨てがたい利点があります。

NUCLEO-F103RB
NUCLEO-F103RB

そこで、STM32マイコンテンプレートでは、あえてF0やF1などと対象コアを明記せず、両方に対応できる(と今は思っている)HAL版テンプレートと、速度重視のLL版テンプレートの両方を開発する予定です。HALで共通化できない場合には、LL版のみをリリースします。この開発経緯などもブログに記載していきます。

*  *  *

STMのMCUが、2016年マイコン売上5位というのは驚きでした。少なくとも私の周りにはSTMマイコンを使う人がいなかったからです。入手性も良く評価ボードも低価格です。STMサイトの情報がもう少し解り易く整理されれば、日本でも人気がでるMCUだと思います。また、HALやCMSIS対応も他社に比べて早そうなので、今後の発展性も期待できます。

まとめると、STM評価ボードは、サンプル数の多さからCortex-M0のNUCLEO-F072RBを選び、M0/M0+とM3とのテンプレート共通化検証のためCortex-M3のNUCLEO-F103RBを選びました。IDEは、Eclipse IDEベースのSW4STM32へSTM32CubeMXをプラグインしてテンプレート開発に使います。

私は、STMサイト構成が、平面的、網羅的で情報検索しにくいと思うので、ブログに関連資料などへのリンクを掲載し、テンプレート開発経緯を記載していきます。

MCU開発におけるベンダ専用IDEと汎用IDE

ARM Cortex-M系(M0、M0+、M3、M4…)のMCUを開発する時のIDEは、Eclipse IDEベースが一般的です。同じEclipseを使って各ベンダ専用IDEが開発されますので、ウインド構成や操作性(F5やF7の機能など)は同じです。

MCUXpresso IDE Perspective
NXPのMCUXpresso IDE画面(ユーザカイドより)

今回は、MCU開発スピードを左右する、専用IDEと汎用IDEの差と将来性を考察します。

ARM Cortex-M系のIDE

弊社マイコンテンプレートで使用中の専用IDE(ベンダ)が下記です。いずれもコードサイズ制限はありません。

・MCUXpresso(NXP)
・SW4STM32(STM)
・PSoC Creator(Cypress)
CS+ for CC/CA,CX(Runesas)、64KBコードサイズ制限あり

このうち、CS+ for CC/CA,CXは、ルネサスRL78系MCUなので除外します。今回から、2016年MCUベンダ売上5位のSTM32のマイコンテンプレートも開発しますので、追加しました。

一方、MCUベンダに依存しない汎用IDEで有名なのが、下記です。

・IAR Embedded Workbench for ARM(IAR) (=EWARM)、無償版32KBコードサイズ制限
・uVision(Keil) (=MDK-ARM)、無償版32KBコードサイズ制限
mbed(ARM)、コードサイズ制限なし

残念ながら汎用IDE無償版はコードサイズ制限があります。勿論、商用版は制限なしですが1ライセンスあたり数十万円程度もします。

mbed(ARM)は、サイズ制限なしでベンダにも依存しませんが、ブラウザでコンパイルとダウンロード(=書込み)はできても、デバッグ機能がありませんので、今回は汎用IDEから除外しました。
※IDEへエクスポート(下図)すればデバッグ可能との記載はありますが、今のところ私は成功していません。

mbed Export to IDE
mbedのIDEエクスポート

汎用IDEのメリットは、ベンダが変わっても同じIDEが使えること、開発したソフトのベンダ間流用障壁が専用IDEよりも低い(可能性がある)こと、技術サポートがあることなどです。

Eclipse IDEのプラグイン機能とCMSIS

オープンソースのEclipse IDEは、プラグインで機能を追加できます。もしベンダ専用機能が、全てプラグインで提供されれば、毎年更新される生のEclipse IDEへ、これらを追加すればIDEが出来上がります。これが一番低価格で良いのですが、Unixならともかく、Windowsでの実現性は低いと思います。

一方、CMSISが普及すると、開発ソフトのベンダ間流用問題はいずれ解決します。従って結局、ベンダ専用IDEで最後まで残る差は、コード生成機能になると思います。

同じCortex-M系MCUであっても、周辺回路はベンダ毎に異なる差別化部分です。コード生成機能は、汎用IDEの弱点でもあります。使いやすコード生成を提供できるMCUベンダが、生き残るでしょう。

一長一短があるChrome、Firefox、IE、Edgeなどのブラウザ同様、Cortex-M系MCU開発は、ベンダ専用IDEを使うのが良さそうだと思いました。

2016年MCUシェア1位はNXP

2016年主要マイコンシェア/販売額の記事がEE Times Japanに記載されました。2016年は、主要MCUベンダの買収が盛んでしたが、買収後で集計されているので、MCUの現状が示されています。

2016 MCU Share
2016 MCU Share(記事より)

車載半導体はNXPが2015年にルネサスを抜いて1位になっており、2016年のMCUシェア首位とともにNXPの躍進が明確になりました。

NXPの新IDE MCUXpresso

2017年4月時点の最新MCUXpressoIDE_10.0.0_344と、最終LPCXpresso_8.2.2_650の違いは、FreeRTOSタブが追加されたことのみです。残念ながらMCUXpressoのFreeRTOSもv8.0.1のままでした。

FreeRTOS V9はFreeRTOSサイトからダウンロードできます。が、これをMCUXpressoのv8へ手動で上書きインストールして問題なく動作させる自信はありません。FreeRTOS v9がNXPにより提供されるまで待つ方が、トラブルがなく得策と判断しました。
※MCUXpressoは、旧LPCXpressoプロジェクトフォルダがそのまま使えます。
※MCUXpressoに、PE: Processor Expertをアドインし旧Kinetis Design Studio代用とする方法は、調査中です。

マイコンテンプレートラインナップ

MCU Templates Lineup
MCU Templates Lineup

弊社マイコンテンプレートラインナップを、2016 MCUラインキング順に並べたのが上表です。おかげさまでテンプレートは、Runesas>NXP(Freescale含む)>Cypressの順に売れております。が、MCU順位5のSTM向けテンプレートもあれば、と思いました。

STMの場合、Cortex-M0/M0+を対象コアとすると、STM32F0/L0がテンプレートの対象です。しかし、このクラスのMCUへのRTOS適用によるROM/RAM大容量化や、IoT向けMCUの販売個数の増大などを考慮すると、より高性能なCortex-M3クラスも視野に入れた開発も必要か?と思っています。

CMSIS準拠でソフト開発すると、コア差はCMSISで隠蔽されるので、要求性能に応じたMCU選択が可能でクラス別けの必要もなくなります。また、RTOSでマイコンテンプレート相当が本当に必要か?という懸念もあります。

2016MCUシェアから、ルネサスの順位低下傾向が今後気になるところです。また、マイコンテンプレートについても、これらシェアの動きに合わせて、変わり続ける必要性を実感しました。

PSoC 6続報

MONOist組み込み開発ニュースに、PSoC 6と他社製品との性能、消費電力の比較が掲載されています(出典:「業界最小」の消費電力でセキュリティも、サイプレスがIoT向け「PSoC」を投入)。

PSoC 6の目標

「ある程度のシステム制御ができる性能+低消費電力+セキュリティ、これらの同時実現」というPSoC 6の目標のために採用された40nmプロセス技術とデュアルARMコアにより、PSoC 6の他社比、優れた性能が解ります。

PSoC 6 Comparison Table1
PSoC 6 Comparison Table1(記事より)
PSoC 6 Comparison Table 2
PSoC 6 Comparison Table 2(記事より)

青字が性能同等、または、より優れた項目を示しています。PSoC 4でも採用中の高性能CapSenseやアナログコンポーネント、多くのGPIO数、そして100MHz動作のCortex-M0+、ピーク時257DMIPSなど、弊社ブログ対象の従来MCUの性能枠を大きく超えるものです。

1MB ROM、288KB RAM、8KB キャッシュの意味

ディアルコアで、1MB ROM、288KB RAM、8KB キャッシュものリソースを持つPSoC 6制御には、RTOSが必要になると思います。MCU開発も、よいよOS必須時代になるのでしょうか?

PSoC Creator News and InformationにNew FreeRTOS on PSoC 4 port が掲載されています(PSoC Creator 4.0のStart Pageからもアクセス可能)。弊社マイコンテンプレートで使ったCY8CKIT-042 評価ボードへも適用できそうです。ARMコアなので、mbed OS 5も気にはなりますが、FreeRTOSですので、RTOSへの備え記事が、理解に有効に活用できるでしょう。

弊社自作FreeRTOSサンプルソフト状況

RTOSへの備え記事は、LPCXpresso 824-MAXを使ってFreeRTOSサンプルソフトを自作しています(Lチカ、Q-通信、セマフォ同期、ミューティックス排他制御の4種)。

この自作サンプルを横展開してLPCXpresso 812/812-MAX、LPCXpresso 1114/5へ適用する予定でした。しかし、LPCXpresso 824-MAXで動作するサンプル(勿論GPIOとLPCOpenライブラリのみ変更)が、Lチカを除いて他の評価ボードでは動作確認ができないのが現状です。

原因が(僅か数十行の)自作サンプルにあるのか、それとも、それ以外かの見極めも、結構大変です。FreeRTOSもv9では、スタティックなセマフォ、ミューティックス割付ができるなど改良が進んでいるのでデバッグには良さそうですが、現状のv8は未だ非対応です。

LPCXpresso 824-MAX版だけでもFreeRTOSサンプルソフトを無償リリースするか、それとも、当初の予定どおり全評価ボード対応として問題解決後リリースするか3月末を目途に検討中です。

ISDN終了とIoTキラーアプリ

2020年以降、現行のISDN公衆交換電話網Public Switched Telephone Network:PSTNが、Internet Protocol:IP網へ全面移行します。ISDNの次の世代はATM:Asynchronous Transfer Modeと思いその研究開発が社会人スタートだった私には隔世の感があります。データ中心のコンピュータIP網が次世代ISDNの解に決まったからです。

IoTキラーアプリ

障害予測、適応型診断、状態適用型メンテナンス、これらが産業用IoTキラーアプリ候補だという記事があります。キラーアプリとは、技術を爆発的に普及させるアプリケーションのことです。

記事の中で、“キラーアプリケーションは、新技術の普及を促進するとともに、多くの場合、基板となるコンポーネントの複雑さを覆い隠す。大多数のユーザーは、その技術から得られるメリットを求めるのであり、その内部構造には関心がない”という記述があります。

これは真理です。ATMがIPに負けたのも、キラーアプリの成せる業です。

アプリよりのIoTマイコンテンプレート

販売中のマイコンテンプレートは、汎用性を重視しています。
しかし、IoT向けのマイコンテンプレートには「汎用性よりも、よりアプリよりのテンプレート提供」が求められそうです。記事を参考にIoTマイコンテンプレートの構成を検討します。