LibreOffice Drawの使い方とテンプレート

LibreOfficeが無償提供するのは前回の文書作成ツールWriter(≒Microsoft Office Word)だけではありません。スクリーンショットから解るようにCalc(≒Excel)、Impress(≒PowerPoint)、Draw(≒Visio)、Base(≒Access)、Mathの6種類のOffice互換ツールを無償で提供中です。

LibreOfficeの無償6種ツール
LibreOfficeの無償6種ツール。Writerは前稿参照、今回はDraw。

今回は、図形描画やDTP(Desktop publishing)向きLibreOffice Drawの使い方とDrawテンプレートを開発しました。

最後に2回に渡ってWriterとDrawを使ったLibreOfficeの対Office評価結果、感想を示します。

LibreOffice DrawとMicrosoft Office Visio

LibreOffice Drawは、Microsoft Office Visio相当のツールです。Visioはユーザがあまり多くないと思いますので簡単に説明します。プレゼン資料作成ツールPowerPointの作図機能をより強化し、DTPやCADにも使えるレベルの図形描画ツールがVisioです。

元々Visioは、他社開発ソフトをMicrosoftが買収し、Officeに加えた経緯があるので、UIや使い方がプロパー(純正)製品のWord/Excel/PowerPointとは少し異なります。また、有償配布されるOfficeパッケージに含まれることも少なく、単体では数万円もするためユーザが少ないのですが、私の使用頻度はWordに次ぐツールです。

つまり、Visioは気に入っているツールです。理由は、高度な描画機能とテキスト配置自由度の高さです。アイデアをまとめる時には、PowerPointよりも簡単・自由で役立つので、価格を無視できればお勧めです。

このVisio相当のLibreOffice Drawは、その名(Draw)の通り図形描画に特化したツールでUIや使い方もVisioに近いものです。VisioでできることはDrawでもできるハズです。

LibreOffice Drawスクリーンショット(出典:libreoffice.org)
LibreOffice Drawスクリーンショット(出典:libreoffice.org)

Drawのスクリーンショットが上図です。Galleryから使えそうなステンシル(基になる図)を選び、図面の任意位置に配置、テキストなども加えると簡単に説明に適した資料が出来上がります。もちろん、配置したステンシルの編集もかなり自由に行えます。

※LibreOfficeは、Mac、Windows、Linux のマルチプラットフォーム対応です。 さらにUSBメモリで使えるPotable版や、AndroidとiOSにはビューアが用意されています。

LibreOffice Draw既定のフォント設定

Writerと同様、LibreOffice Drawも日本語と英語混在の図形描画になるので、既定のフォント設定を初めに行います。

Drawの既定フォントは、全てスタイルで設定します。 表示(V)>スタイル(E)またはF11で使用中のスタイルを表示します。”すべてのスタイル”の数が、文書作成ツールのWriterと比べ少ないことが解ります。図形描画がメインなので、これは当然です。

LibreOffice Draw既定のフォント設定
LibreOffice Draw既定のフォント設定。すべてのスタイル数がWriterに比べ少ない。

親となるスタイルは、⊞Filled、⊞Outlined、⊞標準の3種類です。この⊞標準の子スタイルとして、図面に使うタイトルやテキストのスタイルがあります。そこで、⊞標準スタイル上で右クリックし編集(B)を選びクリックします。

標準スタイルの編集ダイアログが現れますので、フォントタブを選び、西洋諸言語用フォント、アジア諸言語用フォントともにお好きなフォント(例:メイリオ)、スタイル、サイズを設定してください。

標準スタイルの設定
標準スタイルの設定。西洋アジア諸言語ともに同じフォント、スタイル、サイズを使うことがポイント。

この標準スタイルの設定が、タイトルやテキストに継承、波及するのはWriterと同じです(スタイルや継承の詳細は前稿参照)。

図形描画ツールDrawでは、この設定を⊞Filledや⊞Outlinedにも適用しておけば十分です。なぜなら、タイトルやテキストを実際に図面へ記載した時に、その文字サイズやボールド、イタリックなどの修飾を説明する図形に合わせて決める方が実用的だからです。従って、必要最低限のフォント設定で十分です。

マスターと標準

LibreOffice Draw独特の表示に、マスターと標準(←スタイルのことではないので注意!)があります。

マスターとは、全ての図面の背景のことです。例えば、会社ロゴや日付フィールドなどを記載します。一方、標準とは、マスター背景の上の透明図面のことです。つまり、マスター背景と透明図面は、レイヤ構造になっています。

通常は、この標準上で図形やタイトル、テキストを記載し、マスターは変更できない構成になっています。この編集対象を切替えるのが、表示(V)>標準(N)とマスター(M)です。

LibreOfice Drawのマスターと標準
LibreOfice Drawの表示(V)。標準(N)かマスター(M)を選ぶ。

標準図面上に書かれた内容は、もちろん重要ですが、全図面のフォーマットとも言える背景もまた重要です。

本稿で無償配布するDrawテンプレートのマスターは、シンプルな枠組み、図面説明、タイトル、改定、ページ、会社名欄のみを追加しています。必要に応じてご自由に変更してください。

LibreOffice Drawテンプレート作成

標準図面上に何も記載していない図面で、ODF図形描画テンプレート(拡張子.otg)として名前を付けて保存すれば、これが作成したDrawテンプレートになります。本稿では、横A3サイズのDrawテンプレートを開発しました。

紹介したDrawテンプレートは、コチラからダウンロードができます(サポートなしです、念のため)。ご自由にご活用ください。

※ダウンロード時エラーメッセージが表示されることがあります(前稿Writerのダウンロードも同様で原因不明)。ダウンロードはできますので、エラーメッセージは無視してください。

LibreOffice感想:Microsoft Office代替ソフトウェアとして十分使える!

2回に渡りLibreOffice WriterとDrawの使い方、通常の仕事利用でも十分と思う文書作成Writerテンプレート、描画作成Drawテンプレートを示しました。
※最新版Writer機能をフル活用した公式英文ガイドは、コチラからダウンロードできます。フル活用するとこのような綺麗で読みやすい文書作成が可能です。

LibreOfficeは、無償オープンソースソフトウェアです。現在使用中のMicrosoft Office 2010延長サポートが2020年10月13日に終了するので、代替としてOffice互換性もあるLibreOfficeの魅力をまとめます。

長年使い慣れたMicrosoft Officeと比較するとUIのチョットした違いなどはやむを得ないと思います。しかし、これは慣れの問題でもあります。

何より無償でもWord/Excel/PowerPoint互換ツールのみならず、Visio相当のDrawやAccess相当のBaseもあるのは特筆すべきです。OfficeパッケージでこれらVisio/Accessを揃えると、Office Professional Pulsパッケージ以上の購入が必要だったと記憶しています。1ライセンス当たり10万円以上の初期投資が必要です。

既にMicrosoft Officeの各ツールは、機能的には過飽和状態だと思います。これが私がOffice 2010からOffice 2013/2016/365へ更新しなかった理由です。また日本独自のOfficeライセンスもマイナス要因です。

※家庭向けOffice 365は、今年の10月2日から無制限インストール、同時5サインイン可能へ変更になります。但し、Visio Pro for Office 365の対応は不明です。

最新版LibreOfficeの基本機能は、本稿で示した通常の仕事で使う範囲内では、文書作成、描画作成にMicrosoft Office 2010代替ソフトウェアとして、十分に間に合い使えるというのが私の感想です。皆さんもお試しになってはいかがでしょう。

LibreOffice Writerの使い方とテンプレート

今回はMCUの話題から離れ、LibreOffice Writerの文書テンプレート無償配布の話をします。

202010月でサポートが終了するMicrosoft Office 2010の代替として、無償LibreOfficeを評価中であることはMCU開発環境トラブル顛末記に示しました。最新版LibreOffice 6.1がリリースされ、益々使いやすく、また既存OfficeユーザでもUIに違和感が少なくなりました。

このLibreOffice Writerの簡単な使い方と、文書作成に必要十分なテンプレートを作成しました。

LibreOfficeセキュリティ対策

LibreOfficeの脆弱性情報があります。以下の設定をしておけば防止できます。

LibreOfficeセキュリティ対策
ツール(T)>オプション(O)>セキュリティで信頼された場所ではないドキュメントからのリンクをブロックにチェックを入れる

既定のフォント設定

WriterWordなどの日本語文書作成ツールで面倒なのが、日本語と英語混在文書でどのフォントを使うかです。日英別々の設定がツール上は可能ですが、文字サイズ差異、等幅、豆腐問題が発生します。好みの問題を別にすれば、1フォントで全言語に使えると便利です。

豆腐問題:本来フォントが表示されるべき部分に□□□(←これを豆腐と言う)などの”空白の四角”が表示されること。

私は、Windows 7Word時代からメイリオを日英言語に使っています。日本語フォントを使っても英語スペルチェックは問題なく行われます。Writer既定フォントの設定は、ツール(T)>オプション(O)LibreOffice Writerを選択し、お好みのフォント(例:メイリオ)を選びサイズも日本語(アジア諸言語)と同じにしておきます。

LibreOffice Writer既定のフォント設定
西欧、アジア諸言語ともに同じフォントとサイズを設定

西欧とアジア諸言語に同じフォントとサイズを設定することがポイントです。これでLibreOffice Writerを使って日英混在の文章が違和感なく作成できます。

Writer文書作成手順とスタイル編集

一般的に第三者に見せる報告書や説明文の作成時は、文章作成→体裁追加という順番で文書を作ります。ここでは、文章は既に出来ているとして話を進めます。

※便宜上、シンプルテキスト=文章、文章の体裁を整えた第三者に見せるドキュメント=文書と呼びます。

文章ができた次の段階が体裁追加です。限られた時間で読者に効果的に内容を伝えるには、この体裁は重要です。タイトル、見出し(大中小)、ヘッダーやフッターなどがこの体裁です。

Writerは、体裁のことをスタイルと呼び、表示(V)>スタイル(J)またはF11で設定済みのスタイルを表示します。既に色々なスタイルが設定されており、文章にこれらスタイルを適用することで見栄えのする報告書などの文書が出来上がります。

階層のスタイル表示
階層のスタイル表示

スタイルの表示に階層を選ぶと、標準スタイルを左端先頭にして、⊞フッターや⊞ヘッダーなどが現れます。これは、標準スタイルを基(親)に、各(子)スタイルが継承されることを示しています。つまり、親の標準スタイルを変えると、その変更が、子のスタイルに継承、波及するのです。そこで、最初に標準スタイルを編集します。

標準スタイル上で右クリックし編集(B)を選びます。特に変更が無ければ、そのままキャンセルします。

⊞本文のスタイルを編集する時も、同様に⊞本文上で右クリックし編集(B)を選ぶと下図になります。

本文スタイルのインデントと間隔の編集
本文スタイルのインデントと間隔の編集。間隔を段落上部下部を広くし視覚的に塊化する

管理タブで継承元、つまり親が標準スタイルになっていることが解ります。インデントと間隔タブを選択し、間隔を段落上部下部ともに0.30cmに増やします。これは、改行した文書を一塊として視覚的に分離して表示するためです。塊になっていれば、長い文章でも見やすく、読みやすくなります。

なお、子スタイルを変更しても親スタイルはそのままです。継承関係がある親スタイルの変更は影響大です。

同様にフッター、ヘッダー、タイトル、見出し(大:見出し1、中:見出し2、小:見出し3)にスタイル編集を加えました。これら編集を加えたスタイルを文章に適用するのみでも報告書や説明文には十分です。

Writerテンプレート作成

文章に各種スタイルを適用して体裁に問題が無ければ、その適用スタイルをテンプレート化します。

体裁が整ったWriter文書は、ODF文書ドキュメント(拡張子.odt)として名前を付けて保存(Ctrl+Shift+S)します。その後、全文章を削除し、今度は、ODF文書ドキュメントテンプレート(拡張子.ott)として名前を付けて保存すれば、これが作成したWriterテンプレートになります。

LibreOffice Writer文書テンプレートの保存方法
LibreOffice Writer文書テンプレートの保存方法。Microsoft Word互換性を実現する様々な保存方法があるのも解る。

この文章なしでスタイルのみに変更を加えたものがWriterテンプレートです。

このテンプレートを使う時は、作成したテンプレートを開き→文章作成→文章にスタイル適用、その後、ODF文書ドキュメントとして保存すれば、見栄え良い文書が簡単に完成します。

開発したWriterテンプレートは、コチラからダウンロードができます(サポートなしです、念のため)。ご自由にご活用ください。※ダウンロード時エラーメッセージが表示されることがあります。ダウンロードはできますので、エラーメッセージは無視してください。

Writerテンプレートは、本稿で開発したもの以外にも多数初めから備わっています。ファイル(F)>新規作成(N)>テンプレート(C)で履歴書などが、またオンライン上のテンプレートなども参照できます。

テンプレートの役目

このように、Writerテンプレートを使うと「文章の作成」と「体裁追加」を分断し流れ作業化できるので、各段階の作業に集中し、より良い文書が作れます。

自動車の製造と同じく流れ作業は、効率的な生産に向いています。全作業を1人で行う場合でも、集中する作業範囲を狭くできるのでミスが減ります。これは、Writerテンプレートに限らず、マイコンテンプレートでも同じです。

これがテンプレートの役目です。ソフトウェア開発でコーディングとデバッグを別々に行うのと似ています。

弊社マイコンテンプレートは、複数のサンプルソフトを組合せた開発ができます。個々のサンプルソフトをテンプレートへ組込む時に、サンプル利用だけでなく、テンプレートに組込むという観点からもサンプルソフトを見ることになるので、サンプル応用や変更へも広く対応できるようになります。

Writerの標準スタイルに相当するのが、マイコンテンプレート本体です。テンプレート本体は、とてもシンプルな作りで変更や修正も容易です。マイコンテンプレートは、汎用マイコン毎に5種類あり、詳細はコチラです。各1000円の有償ですがご活用ください。

MCUから離れると出だしで書きましたが、結局MCUテンプレートに結び付けてしまい申し訳ありません。

気を取り直して……、次回は、LibreOfficeの描画作成ツールDrawの使い方とそのテンプレートを示す予定です。

RL78ファミリから解る汎用MCUの変遷

汎用MCUの定義が変わりつつあります。ルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)のRL78ファミリから、最近の汎用MCUの変わりつつある現状を考察します。

RL78ファミリの汎用MCUロードマップ

2018年6月版の最新RL78ファミリMCUカタログから抜粋したRL78ファミリのロードマップです。

RL78ファミリロードマップ (出典:ルネサス汎用MCUラインアップカタログ)
RL78ファミリロードマップ (出典:ルネサス汎用MCUラインアップカタログ)

赤囲みのRL78/G1xが汎用MCU製品を示します。2014年以後は、For小型システムやForモータシステムなど、一見するとASSP:application-specific standard product、特定用途向けMCUのような製品が汎用MCUの中にあります。

これは、RL78/G1Fのコンセプトを見るとその理由が理解できます(出典:ローエンドマイコンで実現できる 高機能なブラシレスDCモータ制御

RL78_G1Fのコンセプト(出典:ローエンドマイコンで実現できる 高機能なブラシレスDCモータ制御)
RL78_G1Fのコンセプト(出典:ローエンドマイコンで実現できる 高機能なブラシレスDCモータ制御)

つまり、汎用MCU RL78/G14を、モータシステム向きに周辺機能拡張や使い勝手を向上させたのがRL78/G1Fなのです。あくまで汎用MCUがベースで、それを特定用途、この場合はモータ制御向けに調整したのです。

このメリットは、開発者、ルネサス双方にあります。開発者にとっては、使い慣れた汎用MCUの延長上に特定用途向けMCUがあるので馴染みやすく開発障壁が低くなること、ルネサスにとっては、新規ASSPを開発するよりも低コスト、低リスクなことです。

RL78ファミリの汎用MCUとは、変わる定義

RL78ファミリのMCUには、S1/S2/S3という3種類のコアがあります。数字が大きくなると高性能になります。

関連投稿:RL78 S1/S2/S3コアの分類

ルネサスの汎用MCUとは、これらS1/S2/S3コアを使ったMCU製品を指します。また、RL78/G1FのようにS3コアMCUのRL78/G14をベースとし、特定用途向け機能を付加したものも汎用MCUです。

※弊社は、S1/S2/S3コアの各汎用MCUに対してRL78/G1xテンプレートを販売中です。

販売中の汎用MCU向けテンプレートと特定アプリ向けMCUの関係
販売中の汎用MCU向けテンプレートと特定アプリ向けMCUの関係

この特定用途名が、ルネサスが考えるIoT時代にふさわしい汎用MCUと言えます。「汎用」という従来の広く漠然とした用途よりも、より「具体的な用途・応用に適す汎用MCU製品」としてRL78/G1FやRL78/G11があるのです。

特定用途向け汎用MCU開発にもRL78/G1xテンプレートが役立つ

このIoT時代の特定用途向けMCU開発でも、弊社RL78/G1xテンプレートが使えます。ベースが「汎用中の汎用」RL78/G10(S1コア)、RL78/G13(S2コア)、RL78/G14(S3コア)だからです。

例えば、RL78/G1Fのアプリケーションノートやサンプルコードは、具体的でほとんどそのまま開発製品へ適用できます。しかし、用途が限定されているだけに、逆に簡単な機能追加が難しい場合もあります。そんな時に、テンプレートが提供するサンプルコードを活かしつつ処理を追加できる機能を使うと便利です。

ここでは、ルネサス汎用MCUについて考察しましたが、NXPセミコンダクターズやSTマイクロエレクトロニクス、Cypressセミコンダクターなどの他社MCUベンダも同様です。汎用MCUの定義は、より具体的な用途・応用名が付いたIoT MCUへ変わりつつあります。しかし、基本の汎用MCUを習得していれば、より応用し発展できます。基本が重要だということです。

IoTでは、MCU開発はより複雑で高度になります。また、製品完成度の要求もさらに高まります。基本要素や技術を、(たとえブラックボックス的だとしても)積み上げられる、基礎・基本を習得した開発者のみが生き残ると思います。開発者個人で基礎を習得するために、是非弊社マイコンテンプレートをご活用ください。

マイコンテンプレート活用プロトタイピング開発(4)

マイコンテンプレートへ機能を追加するには、既に枠組みが出来上がっているテンプレートへ、追加機能名のファイルを新規作成し、追加機能をこのファイル内で記述、テンプレートのLauncher()で起動すれば完成です。長文であった第3回を、一口で言えばこうなります(トホホ… Orz)。

Basic Form of Embedded Software (Initial Setting and Repetitive)
無限ループ前に1回実行する初期設定処理と、無限ループ内の繰返し処理の2つから構成される「組込みソフトの基本形」

これは、Arduino IDEの新規作成ファイル画面です。このsetup()とloop()の構造は、Arduinoに限らず全ての「組込みソフトの基本形」です。つまり、無限ループ前に1回実行する「初期設定処理」と、無限ループ内の「繰返し処理」の2つから構成されます。

弊社マイコンテンプレートもこの基本形に則っています。但し、機能追加がし易いように、無限ループがLauncher()に変形し、複数のユーザ関数を起動できるように工夫しているだけです。

従って、最も安直(!?)な機能追加の方法は、追加機能のサンプルソフトを見つけることです。あとはテンプレートのLauncher()でこのサンプルソフトを起動すれば、テンプレートへ機能追加ができるのです。

今回の目標は、テンプレートへのSDカード機能の追加です。そこで、このSDカード機能追加に最適と思うサンプルソフト:Developing Applications on STM32Cube with FatFs:UM1721を解説します。

UM1721: Developing Applications on STM32Cube with FatFs

2014年6月版 UM1721では、STM32Cubeと記述されていますが、これはSTM32CubeMX(以下CubeMX)のことです。また、STM32F4xxとSTM32CubeF4で記述されていますが、全てのSTM32デバイスとCubeMXに置換えて読めば使えます。

FatFsは、ユーザアプリケーションと下層HAL(Hardware Abstraction Layer)の間で機能するミドルウェアで、主目的は、開発するアプリケーションが読書きするデータと、物理ストレージファイルの割付(領域管理)です。パソコンなどでは、本来WindowsなどのOSが行う機能を代行するのがFatFsと考えれば良いでしょう。また、FatFs自体はMCUハードウェアには依存しないので、本稿STマイクロエレクトロニクス以外のマイコンでも使えます。

FatFs Middleware module architecture (Source:UM1721)
FatFs Middleware module architecture (Source:UM1721)

もっと知りたい方は、UM1721の2章までに詳しく記述されています。本投稿は、FatFsを使うサンプルソフトが目的ですので読み進めると、3.3のサンプルソースが見つかります。

FatFsサンプルソフト

FatFs Sample Software (Source:UM1721)
FatFs Sample Software (Source:UM1721)

懇切丁寧なサンプルソフトとは言えませんが、必要最低限で記述しているのでしょう。一見、組込みソフトの基本形と違うと思われるかもしれませんが、初期設定処理はCubeMXが自動生成し、別の場所にソースコードを出力するため(おそらく)省略しています。また、ファイルアクセスは低速なので、繰返し回数を1で処理すると考えれば、このサンプルソフトも基本形に則っています。

サンプルソフトから、FatFsを使うAPI(Application Programming Interface)が5種、FatFsとLow Level Disk I/O Driversをリンクする2種のAPIを使えば、SDカードへの読書きができることが解ります。
※書込み:f_write()を、f_read()に置換えれば読込みができます。

FatFsサンプルソフトで使用するAPI
用途 API
FatFsとアプリケーション間

f_mount()

f_open()

f_close()

f_read()

f_write()

FatFsとLow Level Disk I/O Driversリンク間

FATFS_LinkDriver()

FATFS_UnLinkDriver()

FatFsサンプルソフトAPI動作テスト

このサンプルソフトを、第3回で使用したレファレンスプロジェクトへ挿入し、各APIの動作を確認します。

FatFs Sample API Test Source
レファレンスプロジェクトへ挿入したFatFsサンプルソフト。

結果は、FatFsとアプリケーション間5種全てのAPIで正常動作が確認できました。つまり、レファレンスプロジェクトでは、このサンプルソフトを使いSDカードへの読書きができます。その結果、SDカードへwtext[] = “text to write logical disk”のデータを、ファイル名STM32.txtとして保存できました。

FatFs Write Test to SD Card
FatFsサンプルソフトを使い、SDカードへ書込んだファイルSTM32.txtと書込みデータ。

レファレンスプロジェクトは、Low Level Disk I/O Driversリンク側のAPI相当を、エキスパートが自作しているのでコメントアウトしています。

STM32CubeMXでFatFs機能追加

第3回と同様、シンプルテンプレートをRenameし、機能追加用のSPI1FatFs_Sdプロジェクトを作成し、CubeMXでSPI1とFatFs機能を追加します。また、SdCard.cファイルを作成し、この中に前章で動作確認したサンプルソフトを挿入します(プロジェクトやファイル作成の詳細は、第3回を参照)。

FATFS and SPI1 Functions Add by STM32CubeMX
STM32CubeMXでFATFSとSPI1を追加。SPI1のピン割付は、実装シールド基板に合わせている。

Launcher()からサンプルソフトを起動し、1回のみ処理するように変更を加え、レファレンスプロジェクトと同様各APIのリターン値を確認しましたが、f_open()以降で正常動作しません。

初期設定処理を自動生成するCubeMXのFatFs設定に間違いが無ければ、SPI1FatFs_SdプロジェクトでもユーザデータをSDカードへ読書きできるハズです。UM1721には、FatFsの設定記述がないので、CubeMXのFatFsデフォルト設定にしましたが、お手上げです。

そこで、STM Communityを検索すると、例えばコチラのように現在のCubeMXのFatFsにはバグがあるようです。対策もCommunityにありますが、STMもバグ状況を把握していますのでCubeMXの改版を待つ方が良さそうです。

*  *  *

サンプルソフト自体は、レファレンスプロジェクトで動作確認済みです。CubeMXのFatFs初期設定生成に問題があることは間違いありません。つまり、組込みソフト基本形の初期設定以外の半分(50%)の処理をUM1721から獲得できたと言えます。

Tips: 動作サンプルソフトは、FatFsがMCUハードウェアに依存しないので、他社マイコンでも使えます。獲得した50%処理は、適用範囲が広いものです。

対策としては、STMによるCubeMX改版を待つこと、レファレンスプロジェクトからFatFs関連の初期設定を抜き出すこと、の2つあります。後者については、検討中です。

マイコンテンプレート活用プロトタイピング開発(2)

マイコンテンプレートがプロトタイピング開発に適すシリーズ投稿第2回は、開発に活用流用できるソフトウェア=ライブラリの概要を示します。説明するライブラリが下記です。詳細説明が必要になった時は、それに応じて追記するので、今回は概要を示します。

  1. Arduinoシールド付属C++ライブラリ
  2. SW4STM32付属デモソフト
  3. STM32CubeMX:初期化Cコード生成ツール
  4. HAL:Hardware Abstraction LayerとBSP:Board Support Package
  5. Middleware Components:ミドルウェア:FatFs
  6. STMicroelectronicsアプリケーションノート
  7. STMicroelectronics Communityやネット情報

ソフトウェアは、ドライバーやミドルウェアなど階層構造や使い方に応じて色々な呼び方がありますが、本投稿では、開発に使える可能性のあるソフトウェアや情報を、全てライブラリと呼びます。つまり、開発者自らが開発するソフトウェアと、その開発に使えるライブラリの2つに大別して説明します。

開発着手時は、各ライブラリ概要をおおよそ把握し、自分で開発するソフトのイメージが捉えられれば十分です。後はそのイメージをソフトの形にしてテンプレートに追加すれば、プロトタイピング開発完成です。

1.Arduinoシールド付属C++ライブラリ

Arduinoは、オープンソースハードウェアのシングルボードコントローラです。Arduinoコネクタにシールド基板を実装すれば、誰でも簡単に機能追加できるのがウリです。もちろんハード制御に必須なソフトウェア=ライブラリもシールド基板とともに提供されます。

TFTシールド基板ライブラリは、ArduinoのAPIを利用しC++で記述(左下:shieldtest参照)されています。Arduino IDEにこのライブラリを追加しさえすれば簡単に基板の動作確認ができ、ソース変更も容易です。しかし、これを対象マイコン用に変更するのは、簡単ではありません。API変更とC++が問題です。

Adafruit TFT shieldtest Sketch running
Adafruit TFT shieldtest Sketch running

2.SW4STM32付属デモソフト

SW4STM32には、TFTシールド基板のデモソフトが付属しています。UM1787にデモファームウェアが紹介されており、利用や変更、修正など開発者が自由に使って良いライブラリです。

TFT Shield Demonstration running (Source:UM1787)
TFT Shield Demonstration running (Source:UM1787)

但しこのデモソフトは、デモの表示画像やテキストの変更は簡単でも、一部機能の切出しや新機能の追加、例えばUART入出力処理の追加などは容易ではありません。また、最新の開発ツールSTM32CubeMXベースで開発されたのもでもなく、エキスパートが自作したものです。

このデモソフトのような既存ファームウェアがあっても、そのまま流用活用しにくいというのは、MCUソフトウェア開発ではよくある話です。既存ファームウェアやライブラリの解析に手間と時間がかかるため、新たな環境で新たなソフトウェアを開発したほうが早く済むこともよくあります。

ナゼか? それは、流用性や資産とすることを念頭に置いてソフト開発をしないからです。MCU処理能力の低さやメモリ量の少なさが主な原因ですが、これらは今後改善されます。MCUソフトも流用性を重視し、ソフトウェア資産、部品化を考慮した開発が今後必要です。

3.STM32CubeMX:初期化Cコード生成ツール

STM32CubeMXは、STM32シリーズの全MCUに対して、GUIでパラメタを設定しさえすれば周辺回路の初期化Cコードを自動生成するツールです。また、SW4STM32を含め全IDE(TrueSTUDO、MDK-ARM、EWARM)で共通に使えるなど守備範囲も広く「STM32ソフトウェア開発の要」です。

UM1718に解説があります。このUM1718のTutorial 2に、MCUはSTM32F4ですが、本開発に使えるSTM32CubeMXの設定方法があります。

関連投稿:STM32CubeMX設定については、コチラの投稿も参照してください。

4.HAL:Hardware Abstraction LayerとBSP:Board Support Package

HALは、文字通りハードウェア隠蔽機能を提供する階層です。CortexコアといえどM0/M0+/M3/M4などハードウェアは異なります。この異なるハードにも関わらずHALが同じAPIを上位層に提供するので、性能不足などでコア変更が生じても同じソフトが流用できる訳です。UM1749に詳しく解説されています。

BSPは、このHALのAPIを組み合わせた評価ボード特有機能のマクロ関数です。評価ボードを制御系にそのまま利用する時に便利です。

HALやBSPを使うとオーバーヘッドも生じます。しかし、流用性向上のメリットの方が大きいと思います。

関連投稿:HALのオーバーヘッドは、コチラの投稿の、“STM32CubeMXの2種ドライバライブラリ”を参照してください。

5.Middleware Components:ミドルウェア:FatFs

FatFsは、MCU向けの汎用FATシステムモジュールでフリーソフトウェアです。MCUハードには依存しないので、どのマイコンでも使えるのが特徴です。FatFs APIを使うと、SDカードなどのファイルシステムに簡単にアクセスできます。

STM32CubeMXでは、MiddleWaresのFatFs、User-definedに☑を入れると使えようになります。

STM32CubeMX MiddleWare FatFs
STM32CubeMX MiddleWare FatFs

6.STMicroelectronicsアプリケーションノート

UM1721は、“Developing Applications on STM32Cube with FatFs”と本開発にはピッタリの内容です。3.3にサンプルソフトがあります。これは、FatFsを使って開発したソフトの単体テストに使えます。

7.STMicroelectronics Communityやネット情報

STMicroelectronics Communityなどのベンダーコミュニティは、開発者同士の情報交換、質問の場です。各ベンダーは、提供ツールのバグ情報や更新方針などもこのコミュニティーから収集していますので、時々閲覧すると参考になります。開発でつまずいた時など解決方法が見つかることもあります。

また、検索エンジンでは様々なネット情報が得られます。最新情報などを取集すると、開発動向の把握も可能でしょう。

開発ソフトウェア構成とイメージ

今回のソフトウェア開発に役立つライブラリ概要を示しました。

直ぐにソースコードを書きたい気持ちを少し我慢して、ほんの少し事前調査をすると、視野が広がり使えそうなライブラリの見当もつきます。使えるモノを流用すれば、より重要箇所に集中できます(前回投稿の「選択と集中」ができます)。

本開発は、SPIシールド基板で追加する3機能毎にSTM32CubeMXを用いてソフト開発し、テンプレートへ追加します。また、流用性を上げるため追加機能毎にファイル化し、単体機能の追加削除も容易な構成とします。これをまとめたのが前回投稿の開発方針図です(再掲します)。

Development policy
初期設定生成ツール:STM32CubeMXや、評価ボード開発支援ライブラリを活用しテンプレートへ機能追加

MCUのライバル

プレッシャーをかけるつもりはありませんが、競合他社のMCUだけがライバルではありません。

ArduinoコントローラやRaspberry Pi 3などのMPUは、後発の利点を活かし、ソフトウェア/ハードウェア開発が、誰でも早く簡単にできる工夫が施されています。どちらも低価格で開発環境が整います。MCU開発者の方は、是非どちらか試して、MCUに比べ開発の簡単さを実感してください。

MCU Rivals_R1
MCUのライバルは、競合他社だけでなく、ArduinoコントローラやRaspberry Pi 3などもある。

制御系

特徴

開発障壁

ソフトウェア流用性

MCU

低消費電力
アナログ/デジタル周辺機能豊富

高い

低い

Arduino/Genuino

オープンソースハードウェア基板
豊富なシールド基板で機能追加が容易

低い

高い

Raspberry Pi 3 B/B+

OS搭載シングルボードコンピュータ
動画再生や複雑な技術計算も可能

とても低い

高い

最新Arduinoの動きとしては、SonyのSPERSENSEなどがあります。また、Raspberry Pi 3 B+では、コア速度やLAN高速化、PoEなどのIoTに向けた性能向上も図られています。

MCU評価ボードにArduinoコネクタの採用が増えたのは、豊富なシールドハードの簡単追加が目的です。また、ARM CMSISもMCUソフト流用性を高める方策の1つです。

関連投稿:ARM CMSISの目標については、コチラの投稿の、“CMSIS”を参照してください。

CMSIS実用化に伴い、MCUソフトウェア開発者も、個人レベルでソフト資産化と各種ライブラリ活用技術を身につけないと、先行するArduinoやRaspberry Piへ顧客が逃げてしまいます。

逆に、ArduinoやRaspberry Piのソフトウェアやライブラリを積極的にMCUへ流用するアプローチも(簡単にできれば)良いと思います。

いずれにしても、MCUソフトウェア開発は、既存ライブラリや様々な資産をより活用して、開発効率化を上げることが必要でしょう。

マイコンテンプレート活用プロトタイピング開発(1)

Adafruit 1.8 Color TFT Shield with microSD and Joystick
Adafruit 1.8 Color TFT Shield with microSD and Joystick (Source: Adafruit)

前投稿で、プロトタイピング開発に、マイコンテンプレートが適すと説明しました。その理由は、テンプレートの既に出来上がった汎用処理へ、顧客要求機能を追加しさえすれば、早期に顧客ソフトウェア開発がほぼ完成するためです。つまり、顧客仕様の開発に、より集中できるのです。

働き方改革と、今後も増える仕事量、このバランスを開発者が保つには、選択と集中です。
集中すべきは顧客独自仕様、それ以外は既存資産をより流用活用するテクニックを身につけることです。

具体的にこのこと説明するため、今回から数回に分けて、マイコンテンプレートと評価ボードに、上図Arduino SPI接続シールド基板を追加する開発例を使って、プロトタイピング開発にテンプレートが適すことを説明します。

テンプレート活用開発例の前提条件

途中、別内容の投稿もありますので、3カ月程度の期間で7~10件程度のシリーズ投稿を予定しております。

STM32F072RB/Cortex-M0コアを用いますが、STM32FxテンプレートのCortex-M3コア/STM32F103RBでも同様です。また、投稿カテゴリーはSTM32マイコンですが、他マイコンのテンプレートを使用中、検討中の方も参考にしてください。

様々なシールド基板がある中で、SPI接続シールドを選択した理由は、マイコンでも従来のGPIOによるLCD表示から、よりリッチなSPI:Serial Parallel InterfaceによるカラーLCD表示に変わりつつあることが背景です。詳細は、コチラの投稿を参照してください。

Arduino SPI接続シールド基板構成

Adafruitの1.8“カラーTFTシールド(128×160ドット)、microSDカードスロットとジョイスティック搭載基板(3,680円)は、秋月電子から入手できます。

Shield Fabrication Print
3ハードウェア機能を追加するSPIシールド基板 (Source:Adafruit)

このシールド基板は、TFT液晶出力、SDカードのデータ入出力、Joystickでの5SW入力、これら3機能を、マイコン評価ボードArduinoコネクタに装着するだけでハードウェアの追加ができます。

そこで、テンプレートへシールド3機能のソフトウェアを追加していきます。これにより、Joystickのみ、SDカードのみ、あるいは全機能の追加などいろいろなバリエーションの開発例を説明します。

サンプルソフト、レファレンスソフト構成と開発方針

本開発に使えるサンプルソフトや既存ライブラリを一覧にし、開発方針を図示しました。

Development policy
初期設定生成ツール:STM32CubeMXや、評価ボード開発支援ライブラリを活用しテンプレートへ機能追加

Arduinoのシールド基板には、C++ライブラリが付属していますが、これはArduinoでの動作が前提なので、マイコンにはそのまま使えません。

上手いことに開発環境SW4STM32には、使用するArduino SPI接続シールド基板のデモサンプルソフトが付属しています。但し、このデモソフトは、エキスパートが自作したExamples and Demosなので、部分的に機能を切出そうとすると、解析や変更に手間取ります。

せっかく初期設定生成ツール:STM32CubeMXや、評価ボード開発支援ライブラリのBSP:Board Support Packageがあるのですから、これらツールやライブラリを活用しない手は無いでしょう。
そこで、図示したようにデモソフトは、レファレンスとして活用し、極力STM32CubeMXやBSPを使ってエキスパート自作ソフトと同じものを、初心者でも開発できることを開発方針とします。

シリーズ投稿の予定内容

実際に着手しないと投稿内容は確定しませんが、一応の目安として、下記内容の投稿を目標、予定しています。

第1回、シールド基板、サンプルソフト、レファレンスソフト構成と開発方針(←今回の投稿)
第2回、BSP、FatFs、STM32CubeMX、デモソフト、アプリケーションノートなどの活用/流用可能ソフトウェア概要
第3回、Joystick機能のテンプレート追加:Joystickのみ追加希望の方は、ココまでで開発できることを目標にします。
第4回、SDカードリード/ライト機能のテンプレート追加:SDカードのみ追加希望の方は、ココまでで開発できることを目標にします。
第5回、TFT表示機能のテンプレート追加:TFT表示のみ追加希望の方は、ココまでで開発できることを目標にします。
第6回、SPIシールドテンプレート構成:シールド3機能全てを追加する場合のテンプレート構想
第7回、SPIシールドテンプレート開発:シールド基板活用のTipsなどの資料も含むテンプレート化を目指します。

このように、現在のGPIO LCDを使ったテンプレート応用例Baseboardテンプレートに加えて、最終回にはSPIシールドテンプレートとして発売できれば完成です。ご期待ください。

Yano E plus 2018.5にHappyTech掲載

シンクタンクの矢野経済研究所様の月刊誌Yano E pulsの2018.5、注目市場フォーカス:MCU(マイコン)市場の6-7に、弊社HappyTechが掲載されました。MCUの現状、2021年までの市場予測、ベンダー各社動向などがまとめられたレポートです。お近くに冊子がある場合には、ご覧ください。

Eclipse IDEベース統合開発環境のプロジェクトImport、Renameの方法

統合開発環境のデファクトスタンダードがEclipse IDE。本ブログ対象ベンダのNXP)MCUXpresso IDE、ルネサス)e2studio、Cypress)PSoC Creator、STM)SW4STM32など全てこのEclipse IDEをベースとした統合開発環境です。

ベンダやマイコンが変わっても殆ど同じ操作でエディットやデバッグができるので、慣れが早く、本来のソフトウェア開発に集中できます。但し、オープンソース開発なので、毎年機能追加や変更があり、2018年は6月にバージョン4.8、コードネームPhoton(光子の意味)への改版が予定されています。

本投稿は、2017年版Eclipse IDEバージョン4.7、Oxygenベースの各社IDEプロジェクトインポート、リネームの方法を説明します。
弊社マイコンテンプレートを使ってソフトウェア開発をする時、これらの操作を知っているとテンプレート:ひな型活用のプロジェクト開発がより簡単です。

IDEの例としてSW4STM32を用います。IDEは、Workspace:ワークスペースと呼ぶフォルダ単位で機能します。ワークスペース内には複数プロジェクトが存在でき、2重起動ができます。

プロジェクトImport

マイコンテンプレートは、テンプレートの具体的な応用例にシンプルテンプレートプロジェクトやBaseboardテンプレートプロジェクトをArchives形式で提供します。Archives形式は、配布に都合が良くEclipse IDEの標準方法ですので、IDEダイアログに従って操作すれば「複数の方法」でプロジェクトインポートができます。

このArchiveプロジェクトの「最も簡単」なワークスペースへのインポート方法が下記です。

  • Windowsで、Archiveを適当な場所で解凍 → 事前に作成したIDEワークスペースへ解凍フォルダ毎コピー
  • IDEで、File>Import>General>Existing Projects into Workspace実行 → インポートProjects選択
Import Existing Projects into Workspace
Import Existing Projects into Workspace。プロジェクトをインポートする方法は、マルチプラットフォーム対応のEclipse IDEの場合、複数ある。

IDEで直接Archivesプロジェクトを解凍しワークスペースへインポートすることもできますが、フォルダ選択などのダイアログ操作は面倒です。マルチプラットフォーム対応のEclipse IDEたるゆえんですが、WindowsかmacOSの上で使うのであれば、この方法が簡単です。

プロジェクト名Rename

※Rename後、Renameプロジェクトの再ビルドが失敗する場合があります。Rename前に、ワークスペース毎バックアップするなどの事前対策を実施後、Renameを実行してください。

ワークスペースに複数プロジェクトが存在するには、別々のプロジェクト名が必要です。例えば、シンプルテンプレートを使って開発したプロジェクトが既にあるワークスペースへ、もう一度シンプルテンプレートを使って新たなプロジェクトを追加作成する場合を考えます。

開発したプロジェクト名は、SimpleTemplateのままです。これをRenameしないと新たにシンプルテンプレートをインポートできません。この時は、開発したプロジェクト選択後、右ボタンクリックで表示されるメニューからRenameを選択し、別プロジェクト名に変更します。

Rename Project Name
Rename Project Name。元々のEclipse IDE守備範囲外のファイル名は、手動リネームが必要。

注意点は、この操作でプロジェクト名変更をIDEは認識しますが、IDE以外のツールで作成したファイル名などは、そのままとなる点です。図はSTM)SW4STM32の場合です。Debugフィルダ下の.cfg/ioc/pdf/txtの4ファイルがそれらです。これらファイルは、手動でのRenameが必要です。これを怠るとRenameしたプロジェクトの再ビルドやデバッグが失敗します。

これら手動Renameが必要なファイルは、各社のAPI生成ツールなどに関連したファイルで、他社IDEでも同様です。元々のEclipse IDE守備範囲外のこれらファイルは、プロジェクト名Rename時、手動Renameが必要ですので注意してください。

Rename後、再ビルドが成功することを確認してください。再ビルドが失敗する場合には、プロジェクトフォルダ毎コピー&ペーストを実行し、ペースト時にRenameしたい別プロジェクト名を設定する方法でRenameを試してください。

別プロジェクトファイルのコピー、ペースト

別プロジェクトファイルを当該プロジェクトへコピー、ペーストする方法は、同じワークスペース内であれば簡単です。ファイル選択後、コピー:Ctrl+Cとペースト:Ctrl+Vでできます。

ワークスペースが異なる場合は、IDEの2重起動を使うとファイル選択ミスがありません。

IDEは、起動中でももう1つ同時起動が可能です。IDE起動時に、異なるワークスペース選択をすれば、コピー対象プロジェクトのファイルをIDEで目視しながら選択できます。もちろん、Windowsエクスプローラでファイルを直接選択しペーストも可能ですが、普段IDEで見慣れたファイル表示で選択する方がミスは少ないです。同一ファイル名の上書き前の確認も行います。

エクスプローラでファイル表示をすると、普段IDEで見慣れないファイルなども見られます。これらが選択のミスを生みます。IDEは、必要最低限のファイルのみ表示しているのです。

IDE画面のリセット

デバッグやコンソールなど複数Perspectiveを表示するIDE画面は、時に隠したPerspectiveを表示したくなります。PerspectiveをIDE初期状態に戻すのが、Window>Perspective>Reset Perspectiveです。

Reset Window Perspective
Reset Window Perspective。IDEの初期状態ウインド表示に簡単に戻せる。

この方法を知っていると、使わないPerspectiveを気軽に非表示にできるので、画面の有効活用ができます。

まとめ

Eclipse IDEベースの各社開発環境で知っていると便利な使い方をまとめます。

  • プロジェクトインポート:IDEのExisting Projects into Workspaceを使うと簡単
  • プロジェクト名リネーム:自動リネームはEclipse IDE関連のみ。API生成ツール関連ファイルは手動リネーム要。
  • 別プロジェクトファイルのコピー&ペースト:IDE2重起動を使い、ファイル選択ミスを防ぐ
  • IDE画面リセット:利用頻度の低いPerspectiveを非表示にし、画面有効活用
Eclipse Base IDE Project Import and Rename
Eclipse Base IDE Project Import and Rename

マイコンテンプレート活用の最初の段階が、テンプレートプロジェクトのワークスペースへのインポートです。これらインポートしたテンプレートへ変更を加え、開発プロジェクトにします。

この開発プロジェクト名をリネームし、同じワークスペースへ、再びテンプレートプロジェクトをインポートします。ワークスペース内は、リネームした色々な既成開発プロジェクトから成り、様々なプロトタイピング開発へも応用できるでしょう。

ワークスペースが異なるファイル操作には、IDE2重起動でファイル選択のミスを防ぎます。

これらのTipsを知っていれば、既存資産を流用、活用し、本来のソフトウェアに集中しミスなくプロトタイピング開発ができます。

汎用マイコンかアプリケーション特化マイコンか

大別するとマイコン:MCUには、汎用マイコンとアプリケーション特化マイコンの2種類があります。

弊社は、下記理由から汎用マイコン:General Purpose MCUを主として扱います。

  1. 対象ユーザとマイコンが多い
  2. 低価格で入手性の良い評価ボードが多い → オリジナルハードウェア開発にも役立つ
  3. 無償開発環境:IDEでもマイコンソフトウェア開発ができる
  4. 応用範囲が広い汎用マイコン開発の方が、顧客、開発者双方にとって有益である

汎用マイコンとは何か?に対しては、マイコンベンダ各社サイトのGeneral PurposeのMCUを指します。一方、アプリケーション特化マイコンとは、モータ制御、ワイヤレス制御、5V耐性などが代表的です。

かつては5Vマイコンが普通でしたが、現在は3.3V動作以下です。その結果、5V耐性がアプリケーション特化マイコンにカテゴライズされました。このように、時代や多数派に合わせて汎用の定義は変わります。高度なセキュリティや無線通信が必須のIoTマイコンも、いずれこの汎用マイコンにカテゴライズされると思います。

本投稿は、4番目の理由の追風となる記事を見つけたので紹介します。

汎用マイコンの動向記事

  1. “G”と”L”で考える発展途上の産業エレクトロニクス市場、2018年3月13日、EE Times Japan
  2. 産業FAは「汎用」「多数」の時代に、国産マイコンが変化を支える、2018年2月5日、TechFactory

最初の記事の”G”は、Global、”L”は、Localを意味します。マイコンベンダも、マイコンを使うユーザも、どのマイコンを使うかは暗中模索で混迷しているが、いずれはLocalからGlobalへ移行すると筆者は考察しています。

2の記事は、産業用FAが専用、少量装置から、AI:人工知能を利用した汎用、多数装置の時代に入ったと分析し、ルネサスRZ/AシリーズにAI機能を組込んでこの時代変化に対応すると宣言しています(関連投稿のSTMはコチラ、ルネサスはコチラを参照)。

どちらの記事も、アプリケーション特化マイコンより汎用マイコンの方が、より多く利用されると予想しています。マイコンベンダにとっても、汎用品で大量生産ができ供給コストも下げられます。

お勧めはプロトタイピング開発

FPGAにソフトウェアIPを組込み、より柔軟制御を目指したことや、高分解能ADCマイコンで精密測定などの開発も行いましたが、技術的に得るものは多くても開発時間が予定より長くなり、結局収支は赤字だった経験があります。

パソコンCPUと同様、汎用マイコン処理能力やセンサ能力も半導体製造技術とともに年々向上します。特に処理能力が必要なIoTマイコンは、コア動作速度を上げる、ディアルコアを採用するなど、ここ数年で急激に向上しています(PSoC6は、Cortex-M0+ 100MH動作、Cortex-M4 150MHz動作)。

弊社も今後の組込開発は、汎用マイコンを使い、より早く低コストで装置化する方が、顧客、開発側双方にとって有益だと考えます。開発期間が長いと、その間により高性能マイコンが発売されたりするからです。つまり、プロトタイピング開発をお勧めします。

プロトタイピング開発した装置が仮に能力不足であった場合は、その不足部分のみに改良を加える方がリスクも低く、確実に目的を達成できます。プロトタイピングの意味は、この能力不足部分を明確にし、低コスト低リスクで成功への道筋を探すことも含まれています。

汎用マイコンテンプレート

開発の立ち上げを早くすることがプロトタイプ開発の第1歩です。弊社マイコンテンプレートは、

  • 汎用マイコンの評価ボード上で動作確認済み
  • 複数サンプルソフトウェアをそのまま使った時分割の並列処理可能
  • 開発のつまずきを防ぐ豊富なTips満載のテンプレート説明資料添付

などの特徴があります。汎用マイコンテンプレートを活用し、効率的なプロトタイピング開発ができます。

NXP LPC111xテンプレートV2改版

ARMコア制御の入門マイコンとして適しているNXP LPC1114/5マイコンのテンプレートを改版しました。

このLPC111xテンプレートV2は、従来テンプレートの必須機能のみを実装したTiny(小さな)テンプレートの適用、最新開発環境MCUXpresso IDE(v10.1.1_606)での動作確認が改版目的です。

近日中に旧LPC111xテンプレートご購入者様で、無料アップグレード対象者様には、お知らせとLPC111xテンプレートV2の無償配布を行います。暫くお待ちください。

LPC1114とLPC1115の違い

NXP LPC111xテンプレートの対象マイコンは、ARM Cortex-M0コア50MHz動作のLPC1114(ROM/RAM=32KB/8KB)とLPC1115(ROM/RAM=64KB/8KB)です。

以前の投稿で紹介したNXPマイコンの推薦開発環境をLPC1114/5でフィルタしたものが下図です。

LPC1114 and LPC1115 Recommended Software
LPC1114 and LPC1115 Recommended Software

※赤線は、評価ボード搭載マイコン、青線は、単体購入可能マイコン

NXPのLPC1100シリーズは、LPC1110/11/12/13/14/15の6種の型番と、同じ型番でも低消費電力の技術進化によりLPC1100/1100L/1100XLの3つの世代があるので複雑です(通常→L→XLでより低消費電力)。

但し本ブログは、個人でも入手性が良く低価格、良い評価ボードもあるマイコンが対象です。このふるいにかけると、フィルタの下線を付けたLPC1114/302、消費電力LPC1100L搭載のNXP評価ボードLPCXpresso1114(秋月電子2000円)、デバイス単体では、DIP28ピンパッケージLPC1114/102、消費電力LPC1100L(400円)とSOP28ピンパッケージLPC1114/102、消費電力LPC1100L(190円)の3種類がそれぞれ秋月電子より購入できるので対象となります。
※LPC1114/102は、どちらもRAM=4KBで評価ボード搭載のLPC1114/302の8KBの半分に注意

LPC1115は、LPC1114のROMを2倍の64KBにし、電力消費を第3世代に進化させたマイコンです。NXP評価ボードのLPCXpresso1115には、LPC1115/303、消費電力LPC1100XLが搭載されています。
※型番/xxxの最後の数字が消費電力を示し、1が通常、2がL、3がXLを意味します。

LPCXpresso1115の入手性はあまり良くありません。しかし、開発環境MCUXpresso IDEでAvailable boardsに現れる評価ボードはLPCXpresso1115とLPCXpresso11C24のみで、LPCXpresso1114はありません。

MCUXpresso IDE Available Boards
MCUXpresso IDE Available Boards

従って、入手性が良いLPCXpresso1114評価ボードで新プロジェクトを作るには、評価ボードからでなく、Preinstalled MCUsからLPC1114/302を選択する必要があります。

LPCXpresso1114のMCUXpresso新規プロジェクト作成方法

Select LPC1114/302
Select LPC1114/302

Preinstalled MCUsから評価ボード搭載のLPC1114/302選択後>Next>LPCOpen – C Project>Project name追記と進み、Import…をクリックします。

Click Import...
Click Import…

ArchiveでLPCOpenからlpcopen_v2_00a_lpcxpresso_nxp_lpcxpresso_11c24.zipを選択しNextをクリックします。

Import lpcopen_v2_00a_lpcxpresso_nxp_lpcxpresso_11c24.zip
Import lpcopen_v2_00a_lpcxpresso_nxp_lpcxpresso_11c24.zip

使用ライブラリにlpc_chip_11cxx_libとnxp_lpcxpresso_11c24_board_libを選択後、ダイアログに従っていけば評価ボードLPCXpresso1114/302上に新プロジェクトが作成できます。

LPCXpresso1114とLPCXpresso1115評価ボードの回路図は全く同じです。違いは、搭載ターゲットマイコンのみでIO割付も同じ、PLC-Linkと呼ぶ評価ボード付属デバッガも同じです。またImportして使用するライブラリも同じです。

ならば、Available boards のLPCXpresso1115を選択して新プロジェクトを作成し、LPC1114評価ボードへダウンロードも可能だと思われるかもしれません。しかし、これはデバッガ接続時にエラーが発生します。

MCUXpressoの右下にターゲットマイコンNXP LPC1114/302が示されており、これ以外へはデバッガ接続ができない仕組みになっています。

Target NXP LPC1114/302
Target NXP LPC1114/302

このため、同一ソースコード、使用ライブラリも同じであっても、ターゲット毎にプロジェクト作成が必要です。逆に、LPC1114評価ボードで動作確認したソースコードでライブラリも同じなら、ターゲットさえ変えれば、LPC1115評価ボードでも動作すると言えます。違いは、ROM容量のみだからです。

評価ボード搭載のLPC1115/303とLPC1114/302の機能差はROM容量以外にもありますが、LPC111xテンプレートの応用例は、この差が生じる機能は使用しておりません。

従って、テンプレート応用例のシンプルテンプレート/Baseboardテンプレートを、LPC1114評価ボード、LPC1115評価ボードそれぞれに提供します。LPC111xテンプレートProject Explorerの様子が下図です。

LPC111xTemplate Project Explorer
LPC111xTemplate Project Explorer

LPC1100シリーズの位置づけと開発環境の良さ

NXP ARMコアエントリレベルのLPCマイコンラインナップを、LPC Cortex-M microcontrollers — Discover the differenceより抜粋しました。

LPC1100 Series (Source:LPC Cortex-M microcontrollers — Discover the difference)
LPC1100 Series (Source:LPC Cortex-M microcontrollers — Discover the difference)

LPC1100シリーズは、最も基本的で適用範囲も広いCortex-M0コアマイコンです。電力効率は、LPC800シリーズのCortex-M0+に及びませんが、低電力技術の進化でCortex-M0+に近い低電力動作も可能です。Cortex-M0とM0+の機能差は、コチラの投稿も参照してください。

また、LPCOpenライブラリもLPC8xxに比べ安定(≒バグ無し)しています。DIPやSOPパッケージの入手が容易で低価格、手実装も可能です。LPCXpresso1114/5評価ボードとLPC111xテンプレートを使えば、ARM Cortex-M0マイコンの早期習得とプロトタイピング開発ができると思います。

評価ボードの半分は、切り離して単体デバッガとしても使えます。デバッガとターゲットの接続は、ARMコア標準のSWDインタフェースなので、LPCマイコン以外の他社ARMコアにも使うことができます。100mAまでの電力供給と、実質4本の接続でデバッグとオブジェクトダウンロードが可能です。

LPC111xテンプレートV2のまとめ

改版したNXP LPC111xマイコンテンプレートV2構成を示します。

テンプレート名 対象マイコン(ベンダ/コア) テンプレート応用例 評価ボード:動作確認ハードウェア
LPC111xテンプレートV2(LPCOpen v2.00a利用) LPC1114(NXP/Cortex-M0) ・シンプルテンプレート
・Baseboardテンプレート
LPCXpresso1114(LPC1114/302)
+ Baseboard
LPC1115(NXP/Cortex-M0) ・シンプルテンプレート
・Baseboardテンプレート
LPCXpresso1115(LPC1115/303)
+ Baseboard

ARM Cortex-M0コアのLPC1114/302(ROM/RAM=32KB/8KB)実装のLPCXpresso1114評価ボードは、低価格で入手性良く、開発環境MCUXpressoも他社EclipseベースIDEと比べ使い勝手良く、ライブラリも安定しています。また、評価ボードとBaseboardを接続すれば、色々な周辺回路制御も手軽に学べます。

今回の改版でテンプレート本体は、より解り易く、利用し易くなりました。テンプレートを使うと、複数のサンプルソフトをそのまま流用した並列処理が簡単に実現できます。

テンプレートの特徴や仕様は、LPC111xテンプレートサイトを、使い方などはサイトのテンプレート関連情報を参照してください。

ARMコア制御の入門用として適しているLPC111xテンプレートとLPC1114評価ボードは、Cortex-M0の習得、プロトタイピング開発のお勧めキットです。

NXP LPC8xxテンプレートV2.5改版

小ROM/RAM向けに従来マイコンテンプレートの必須機能のみを実装したTiny(小さな)テンプレートは、テンプレート本体処理が解り易いと好評です。ルネサスRL78/G10やSTM32Fxテンプレートには既に適用済みで、販売各マイコンテンプレートの改版を機に、順次この好評なTinyテンプレートへ変更したいと考えています。

LPC8xxテンプレートV2.5は、Tinyテンプレートの適用、対象マイコンの追加、シールドテンプレートの開発予告、この3つを目的に改版しました。

RL78/G10(ROM/RAM=4KB/512B または 2KB/256B)とLPC810(ROM/RAM=4KB/1KB)

小ROM/RAMで本ブログ対象のマイコンは、ルネサスRL78/G10とNXPのLPC810です。
※RL78/G10へ適用済みのTinyテンプレートは、コチラの投稿を参照してください。

16ビットのルネサスS1コアRL78/G10と違い、LPC810は僅か8ピンDIPパッケージですが、中身は32ビットARM Cortex-M0+コアですので、RL78/G1xのように500B以下でテンプレート実装はできません。

テンプレート本体は同じ単純なC言語ですが、機能させるための必須ライブラリ量が、ルネサス独自開発S1コアとARM Cortex-M0+コアでは大きく異なるからです。

そこで、LPC810テンプレートに限り前回投稿のコンパイラ最適化を“最適化なし(O0)”から“1段階最適化(O1)”へ変更したところLPCOpenライブラリv2.15利用debug configuration時、ROM=2460B、RAM=12Bに収めることができました(テンプレート応用例としてWDT:ウオッチドックタイマ制御は実装)。

LPC810 Template by LPCOpen v2.15 (Optimize -O1)
LPC810 Template by LPCOpen v2.15 (Optimize -O1)

残りのROM1.6KB、RAM1KBへユーザ処理を追加すればアプリケーション開発が可能です。この残り量でも、最適化(O1)の結果、結構なユーザ処理を記述できます。

LPC810は、入手性の良いNXP評価ボードがありません。そこでLPC810テンプレートのみは、上記1段最適化でコンパイル成功したLPC810テンプレートプロジェクトを提供します。LPC810独自開発ボードへの実装方法は、前回投稿を参照してください。

LPCOpenライブラリv2.15採用理由

LPC8xxテンプレートV2.5では、LPCOpenライブラリv2.15(2015/01/08)を用いました。主な採用理由は、2つです。勿論これ以外の開発環境は、最新版MCUXpresso IDE(v10.1.1_606)、Windows 10(1709)です。

  1. LPCOpenライブラリv2.15の方が、同じソースコードでもコンパイル出力が小さい
  2. 原因不明のリンカーエラーが発生する時がある

先に示したLPC810ソースコードでLPCOpenライブラリのみv2.19に変更した最適化結果が、ROM=3024B、RAM=16Bです。

LPC810 Template by LPCOpen v2.19 (Optimize -O1)
LPC810 Template by LPCOpen v2.19 (Optimize -O1)

また、v2.19では、v2.15でコンパイル成功するソースコードでも、下記原因不明のリンカーエラーが発生することがあります。

LPCOpen v2.19 Linker Error
LPCOpen v2.19 Linker Error

LPCOpenライブラリv2.19起因のこの1/2の現象は、同じソースコードでv2.15と比較しないと判明しません。

LPC8xxマイコン開発でつまずいている開発者の方は、是非LPCOpenライブラリv2.15で確かめてください。※LPCOpenライブラリは、v3系が最新版ですが、v2.9からのバグは継続していると思います。

LPC824(ROM/RAM=32KB/8KB)テンプレート応用例はシンプルテンプレート

LPC824は、十分なROM/RAM=32KB/8KBがありますので、MCUXpressoデフォルトの“コンパイラ最適化なし(O0)”でテンプレート実装ができます。

テンプレート応用例として、NXPのLPCXpresso824-MAX評価ボード実装の3色LEDとユーザSWで動作するシンプルテンプレートを提供します。Baseboardテンプレートは、LPCOpenライブラリバグのため、今回は提供を見合わせます。
※LPC824のLPCOpenライブラリバグに関してはコチラの投稿を参照してください。

LPCXpresso824-MAXは、Arduinoシールドコネクタを実装しています。ここへ今後のマイコン開発で必要性が高いSPIインタフェースのシールドを使ったテンプレート応用例の方が、Baseboardで応用例を示すより実用的だと考えています。これが、今回LPC824をシンプルテンプレートのみで見切り発車的に発売するもう1つの理由です。シールドテンプレートは、次版で提供予定です。

NXP LPC8xxマイコンテンプレートV2.5のまとめ

V2.5改版のLPC8xxマイコンテンプレート構成一覧を示します。

テンプレート名 対象マイコン(ベンダ/コア) テンプレート応用例 評価ボード:動作確認ハードウェア
LPC8xxテンプレートV2.5
(LPCOpen v2.15利用)
LPC810(NXP/Cortex-M0+) WDT実装(1段最適化プロジェクト) なし(テンプレートプロジェクト提供)
LPC812(NXP/Cortex-M0+) シンプルテンプレート
Baseboardテンプレート
LPCXpresso812
+ Baseboard
LPC824(NXP/Cortex-M0+) シンプルテンプレート
(シールドテンプレート※次版予定)
LPCXpresso824-MAX
(+SPIシールドテンプレート※次版予定)

前版V2.1と比べると、以下の特徴があります。※V2.2~2.4は、欠番です。念のため…。

  • 対象マイコンにLPC810とLPC824が加わり、LPC8xxテンプレートらしくなった(テンプレート本体はLPC8xxで共通)
  • テンプレート本体処理が解り易く、ご購入者様の応用や変更が容易となった
  • LPC824はテンプレート応用例がシンプルテンプレートのみだが、LPCXpresso824-MAX評価ボード単独で全ての動作確認可能
  • 今後LPCXpresso824-MAXのようなArduinoシールドコネクタ付き評価ボードは、SPIインタフェースシールドで機能拡張予定(従来はBaseboard機能拡張)

あとがき

マイコン内蔵周辺回路とGPIOをマトリクススイッチで接続するLPC8xxシリーズマイコンの狙いは、8/16ビットマイコンのARM32ビット置換え市場です。

そのためか、または前述のLPCOpenライブラリバグのためかは不明ですが、LPCOpenライブラリ利用よりもレジスタ直接アクセス方式のCode Bundleライブラリ利用がNXP推薦(SDK)です。

テンプレート本体は、利用ライブラリに依存しないC言語開発ですので、どのライブラリを利用しても適用可能です。しかし弊社は、他のCortex-Mシリーズコアと同様、LPC8xxシリーズもLPCOpenライブラリ利用が本来の開発姿だと思いLPCOpenライブラリのバグが取れるのを昨年から待っていました。

今回LPC8xxテンプレートV2.5への改版に際し、このバグ解消を待つよりも、LPC810とLPC824への対象マイコンを増やすこと、高速なSPIインタフェース利用テンプレートの開発予告の方が重要だと判断しました。

ベンダ提供のマイコン評価ボードは、Arduinoシールドコネクタ付きが一般的になりました。弊社も従来のBaseboard応用例よりも、SPIシールドを利用したテンプレート応用例の提供へ移行します。SPIインタフェースの重要性はマイコン技術動向(SPI/I2C)コチラの投稿を参照ください。

近日中にLPC8xxテンプレートご購入者様で、無料アップグレード対象者様には、お知らせとLPC8xxテンプレートV2.5の無償配布を行います。暫くお待ちください。