STM32G0x専用Edge MCUテンプレート開発

本稿は、STマイクロエレクトロニクス(以下STM)のSTM32G0xデバイス(Cortex-M0+/60MHz)が、汎用MCUのSTM32Fx(F0/Cortex-M0/48MHz、F1/Cortex-M3/72MHz)と異なり、IoT向きの新世代Edge MCUであること、そのテンプレート開発も汎用STM32Fxテンプレートと異なること、これら理由を説明します。

まとめ

はじめに内容をまとめた表1と表2、図1を示し、次章からその詳細理由を説明します。

要するに、STM32G0xデバイスのIoT Edge MCU向きの広いハードウェア性能を活かすには、LL(Low Layer)APIを利用したSTM32G0x専用Edge MCUテンプレート開発が得策だということです。

表1 STM32G0xデバイスとSTM32F0/F1デバイスのハードウェア差
デバイス名 製造プロセス コア 最大動作周波数 Edge MCU向き周辺回路
STM32G0x
デバイス
70nm Cortex-M0+ 60MHz 2.5Msps 12ビットADC、USB Type-C、暗号化処理
STM32F0/F1
デバイス
120nm Cortex-M0/M3 48/72MHz 特になし(汎用MCU)
表2 STM32G0x Edge MCUテンプレートとSTM32Fxテンプレートの違い
テンプレート名 使用API 流用性 動作確認評価ボード IoTサービス 重点ポイント
STM32G0x Edge MCU
テンプレート
LL(+HAL) 低い STM32G071RB 今後決める(TBD) STM32G0x性能発揮
STM32Fx
テンプレート
HAL 高い STM32F072RB
STM32F103RB
特になし(汎用) デバイス間移植・流用性
テンプレート開発の方向性
図1 テンプレート開発方向性。同じメインストリームMCUでもSTM32G0xデバイスは専用性、STM32Fxデバイスは汎用性重視。

STM32G0xデバイス(Cortex-M0+/60MHz)の特徴

STMの場合、新世代Edge MCUと従来MCUの最も異なる点は、製造プロセスです。STM32G0xは70nm、STM32Fxは120nmの製造プロセスです。

製造プロセスによる性能差は、Intelプロセサでお馴染みだと思います。ごく簡単に言うと、製造プロセスを小さくすると、全く同じMCUでも、動作周波数が上がり、消費電力は下がる、販売コストも下がるなど、良いこと尽くめの効果が期待できます。

さらにSTM32G0xは、Cortex-M0の電力消費を改良しCortex-M3の良さを取り入れたCortex-M0+コアを採用しています。つまり、コアと製造プロセスの両方でCortex-M0のSTM32F0デバイスを上回り、動作周波数をCortex-M3のSTM32F1デバイス72MHzに近い60MHzとしたことで、STM32F1と同程度の高性能なのに超低電力動作します。まさに新世代のIoT MCUです。

また、2.5Mspsの12ビットADC、USB Type-C、暗号化処理などEdge MCUに相応しい周辺回路を実装しています(3タイプあるデバイスで実装周辺回路を変え、低価格供給中)。

STM32G0xデバイスとSTM32F0/F1デバイスのハードウェア差をまとめたのが表1です。STM32G0x出現で、STM32F1/F0デバイスで開発する意味は、低下したとも言えるでしょう。
※但し、他デバイスへの移植性・流用性を重視した開発ならSTM32F1/F0デバイスを使い汎用STM32Fxテンプレート使う意味は依然として大きいです。

現在はSTMから何のアナウンスもありませんが、STM32G0xと同じ70nm製造プロセスでCortex-M3/≦100MHzの上位デバイスSTM32G1xが発売されれば、なおさら低下します。

関連投稿に上記特徴の出典などがあります。
関連投稿:守備範囲が広いSTM32G0
関連投稿:STM新汎用MCU STM32G0

STM32G0x専用Edge MCUテンプレートと汎用STM32Fxテンプレートの違い

STM32Fxテンプレートは、ハードウェア差を隠蔽するHAL(Hardware Abstraction Layer)APIを使い、万一性能不足などでデバイスを変える事態が生じても、同じソフトウェアを使えます。従って、STM32F0とSTM32F1の両デバイスで動作するアプリケーションが、ほんの少しの修正で素早く作成できます。

これは、HALのおかげです。HALがデバイスや周辺回路差を吸収するため、アプリケーション側は移植性の高いシンプルな記述ができるのです。その副作用として、アプリケーション記述コードは少なくてもコンパイル後のコードサイズは、周辺回路を直接制御するLL(Low Layer)に比べ大きくなります。

関連投稿:STM32CubeMXの使い方、STM32CubeMXの2種ドライバライブラリの章参照

HALを使うと言うことは、たとえデバイスが変わっても開発したソフトウェアとその労力を無駄にせず、流用・応用できることが最大のメリットです。

汎用「STM32Fxテンプレート」は、この流用・応用に適したテンプレートです。動作確認評価ボードは、STM32F072RBとSTM32F103RBのみですが、全ての汎用STM32Fxデバイスへ応用できます。勿論、ここで示したSTM32G0xデバイスにもこのHALを使う手法は適用可能です。

一方、「STM32G0x専用Edge MCUテンプレート」は、LL APIを使います。つまり、STM32G0x専用のテンプレートです。※LL APIは、使用デバイスにより異なるので専用テンプレートになります。

STM32G1xデバイスが持つCortex-M0からCortex-M3までをカバーする広い適用力と超低電力動作を活かすには、ソフトウェア開発にHAL比60~80%の高速処理のLLを使った方が得策と判断しました。

つまり、STM32G0xデバイスをEdge MCUと認め、そのSTM32G0xの性能や能力を十分に発揮する専用テンプレートがSTM32G0x専用Edge MCUテンプレートです。
※但し、流用性が高い一部機能には、HAL活用も考慮中です。LLとHALは混在可能です。

STM32G0x専用Edge MCUテンプレートと汎用STM32Fxテンプレートの違いをまとめたのが表2、テンプレート開発の方向性を示したのが図1です。

STM32G0x Edge MCU評価ボード選定

STM32G0x専用Edge MCUテンプレートの動作確認評価ボードには、Nucleo-G071RB(¥1,203)を予定しています。

前投稿で示したEdge MCUテンプレート評価ボードの3要件を再掲します。

  • R1. 低価格、入手先豊富なEdge MCU評価ボード <¥3,000
  • R2. 最新Edge MCU使用(2018年後半の新しいIoTトレンドに沿って開発されたEdge MCUであること)
  • R3. 何らかのIoTサービス例を簡単に示せる

これら3要件のうち、R3:何らかのIoTサービス例を示す要件がNucleo-G071RB 単独ではNGですが、Arduinoコネクタに何らかのIoTサービスシールドを追加することで満たす予定です。

評価ボードNucleo-G071RB
評価ボードNucleo-G071RB。64ピンパッケージでも電源供給が2本のみのなのでアートワーク担当者が喜ぶ。

※STM32G0xデバイスの評価ボードで、IoTのUSB Type-Cサービスを示すSTM32G0 Discovery Kitや、暗号化処理サービスを示すSTM32G081B-EVALは、両方ともR3要件を満たしますが、価格要件R1<¥3,000を満たさないので利用を断念しました。

Edge MCU評価ボード要件と検索方法

前稿で示したEdge MCUテンプレート構想を具体化します。MCU動作だけでなく、IoTサービス例を、開発者個人が、低価格かつ簡単に示すことを目的とするこの新しい「Edge MCUテンプレート」は、弊社が従来から販売してきた「汎用MCUテンプレート」のアプローチとは少し異なります。

それは、テンプレート出力がMCU動作だけでなくIoTサービスも含めるからです。たとえEdge MCUであっても普通のデバイスです。ベンダーは、その評価ボードでEdge MCUの特性を活かしたIoTサービスを示す場合が多いです。
従って、Edge MCUテンプレートのポイントは、いかに上手くIoTサービスを示すベンダー評価ボードを選べるかに掛かっています。

本稿は、Edge MCUテンプレートに用いるEdge MCU評価ボードの3要件と、これら要件を満たす評価ボード検索方法を示します。

Edge MCUテンプレートに用いるEdge MCU評価ボードの3要件

以下3要件を、Edge MCUテンプレートに用いるEdge MCU評価ボードと考えます。

  • R1. 低価格、入手先豊富なEdge MCU評価ボード <¥3,000
  • R2. 最新Edge MCU使用(2018年後半の新しいIoTトレンドに沿って開発されたEdge MCUであること)
  • R3. 何らかのIoTサービス例を簡単に示せる

要件(Requirements)を満たさない場合は、どの項目がNGかが解れば、開発者や場合によってはOKの場合もあります。¥3,000が低価格かは懐具合次第ですし、開発年度が新しいか古いか、何らかのIoTサービスなど、全て主観です。

ただ主観であっても、Edge MCU評価ボード選択にあたりR1~R3の要件があると、採否が簡単になります。仮に、最新Edge MCUでは無いが、低価格でIoTサービスも示せる評価ボードがあった場合には、「R2_NG」だが採用するなどの特例も取れます。そこで次に、この3要件を満たすEdge MCU評価ボードを効率的に選ぶ方法を示します。

3要件を満たすEdge MCU評価ボード検索方法

最新Edge MCUで、R1~R3要件を満たすEdge MCU評価ボードを選ぶには、Mouserの新製品(メーカー別)ページが便利です。DigiKeyやチップワンストップにも同様ページがありますが、サムネイル写真と概要付きなのでMouserが最も使いやすいと思います。

Mouser新製品ページ
Mouser新製品(メーカー別)ページ。メーカーロゴクリックで集計される。カテゴリ別や週別でも選べて便利。

例えば、STマイクロエレクトロニクス(以下STM)をクリックすると、「発売日順」にサムネイルと商品名、概要が列挙されます。この中から、Edge MCUテンプレートに使えそうな評価ボードの商品詳細を読み、3要件で採否を判断すれば良いという訳です。

STマイクロエレクトロニクスの発売日順検索結果
STマイクロエレクトロニクスの発売日順検索結果。写真、製品名、概要が判る。

守備範囲が広いSTM32G0投稿で示したNucleo-G071RB(¥1,203)もこの方法で上位ページ、つまり新商品順に表示されるので、直に探せます。
※年始には1ページ目上部に示されたNucleo-G071RBが、2ページ目下部に示されました。STMは他ベンダー比、新製品が多いのにも驚かされます!
※このようにベンダー毎の新製品数、評価ボード搭載デバイスの単体価格なども簡単に分かる点がマウザー新製品ページの利点です。

NXP、サイプレス、ルネサスとベンダーを変えて上記検索をすれば、R1~R3要件を満たすEdge MCU評価ボードが簡単に見つかります。

ルネサスは投稿時3要件を満たすEdge MCU評価ボードなし

残念ながらベンダーをルネサスで検索しても、2月末時点では価格要件:R1を満たすEdge MCU評価ボードが見つかりません。

例えば、RL78ファミリのロードマップ投稿で示したRL78/G11評価ボードYQB-R5F1057A-TB(¥3,961…!)やYRPBRL78G11(¥6,437)※秋月電子でも¥4,320は、ともに¥3,000を超えます。

また、低価格がセールスポイントのRX評価ボードTarget Board for RX130/231/65NでもR1を満たしません。

つまり、ルネサスEdge MCU評価ボードは、他ベンダー比、どれも価格高めです。企業レベルでの購入なら問題ないでしょう。しかし、これら価格は、実装部品から推測しても“個人開発者は顧客として眼中に無いのでは(!?)”、とも疑われるコスパだと思います。

※東洋経済Online2月19日に、ルネサス急ブレーキのしかかる1兆円買収記事が掲載されています。ルネサスを応援したいのですが、Edge MCU評価ボード入手も含め、手を出しにくい状況です。

2018年IoTトレンドと2019年予想記事をEdge MCU開発者観点で読む

セキュリティ、産業IoT、通信事業者との連携、ウェアラブルデバイスという4テーマで2018年IoTドレンドとその予想結果、2019年のそれらを予想した記事がTechTarget Japanに掲載されています。

本稿はこの記事内容を、マイコン:MCU、特に本ブログ対象Edge MCU開発者の観点から読みたいと思います。

IoTサービス観点からの顧客目線記事

一言でIoTと言っても様々な観点があります。本ブログ読者は、殆どがMCU開発者なので、顧客がどのようなIoT開発を要求し、それに対して自社と顧客双方のビジネス成功をもたらす「ソリューション提供」が最も気にする点だと思います。

一方、要求を出す側の顧客は、記事記載の「IoTサービス」に注意を払います。そのサービス実現手段として、ベンダー動向やMCU開発者自身の意見を聞いてくるかもしれません。そんな時、日頃の技術動向把握結果を具体的に顧客に提示できれば、顧客案件獲得に有効なのは間違いありません。

顧客と開発者のIoT捉え方は異なる。
顧客はサービス観点でIoTを捉える。開発者はソリューション提供でIoTを捉える。

そこで、記事の4テーマ毎にEdge MCU開発者の観点、特にEdge MCU最新動向を関連投稿とともに示します。

セキュリティ

Edge MCUセキュリティ強化策として、昨年頃からMCUにセキュリティ機能を内蔵するか、または、MCU外付けに専用セキュリティチップを追加する動きが出始めました。
要するに、IoTではEdge MCUでデジタルデータ暗号化機能実装が必須になりつつあるのです。
関連投稿:守備範囲が広いSTM32G0のアクセス・ライン製品
関連投稿:IoTマイコンとセキュリティの色々なセキュリティ強化方法

産業IoT

産業機器データ収集と分析の重要性は顧客に認識されていますが、IoT導入は記事にあるように初期段階です。Edge MCUも、産業用にも流用できるメリットを示すIoT MCU新製品もありますが、車載用の新製品が多い状況です。
関連投稿:NXP新汎用MCU S32K1

通信事業者との連携

国により大きく異なる通信事業者とそのサービスや連帯を一言で表すことは困難です。ただし、日本国内でのIoTフィールドテストは、今一つ盛り上がりに欠ける感じが個人的にはします。やはり、黒船(海外発のIoT通信デファクトスタンダードとその普及)が必要かな?と思います。

ウェアラブルデバイス

Edge MCUに近距離無線通信(NFC)機能を搭載したり、AI機能(機械学習)を搭載しHuman Activity Recognition:人間活動認識を実現したりする新しいEdge MCI製品が登場しています。
関連投稿:NFCを使うLPC8N04のOTA
関連投稿:MCUのAI機能搭載

2019年2月18日速報:タイムリーなことに、Motor Fan Techという自動車関連の情報誌で、次世代ARM v8.1-Mアークテクチャが、業界最小の組み込みデバイス向けに、強力な信号処理を実現が掲載ました。次世代Cortex-Mプロセサは、機械学習(ML)パフォーマンスを最大15倍、信号処理パフォーマンスを最大5倍向上させるそうです。

IoTサービス例を顧客に示せるEdge MCUテンプレート構想

2018年3月の弊社LPC8xxテンプレートV2.5改版以降、新開発のマイコンテンプレートはありません。その理由は、記事にもあるIoTの急速な普及・変化が無かったことも1つの理由です。

これまでの弊社マイコンテンプレートの目的は、「開発者個人が低価格でMCU開発を習得すること」でした。このため、各ベンダーの汎用MCUとBaseboardを使い、そのMCU基本的動作開発までを1つの到達点としてきました。

2018年後半から新しいIoTトレンドに沿った新Edge MCUが各ベンダーから発売済みです。そこで、マイコンテンプレートも、顧客目線やその観点を取り入れた到達点へステップアップしようと思います。

顧客は単にMCUが動作するだけでなく、何かしらのサービス提供をしているIoT MCUを見たいでしょう。この「IoTサービス例を、開発者個人が、低価格かつ簡単に示せるマイコンテンプレート」が新しいEdge MCUテンプレートの構想です。

IoTサービス例を示すEdge MCUテンプレート
IoTサービス例を示すEdge MCUテンプレート

この場合の顧客とは、ビジネス顧客に限らず、開発者の上司や同僚、さらに、開発者自身でも良いと思います。開発結果がIoTサービスに関連していれば、誰でもその効果が判り易いハズです。

期待されているIoTサービスならば、開発者もMCU開発がより楽しく、その習得や応用サービスへの発展もより具体的かつアグレッシブになると思います。と言っても、クラウドを含めたIoTサービスを開発・提供するのは、個人レベルでは無理です。
従って、ほんの触り、一部分のIoTサービスになります。それでも、見る側からは、開発内容が解りやすくなります。

もはやMCUが動作するのは、当たり前です。その上で、+αとしてEdge MCUがIoTで出来るサービス例を示し、さらに、Edge MCU習得も効率的にできるのがEdge MCUテンプレートです。

今後開発するEdge MCUテンプレートは、IoTサービス指向の結果、これまでマイコンテンプレートが持っていた汎用性が少し犠牲になる可能性もあります。ただ、従来の汎用MCUの意味・位置づけもIoTで変わりつつあります。
関連投稿:RL78ファミリから解る汎用MCUの変遷
関連投稿:STM新汎用MCU STM32G0

MCU基本動作に加え、何らかのIoTサービス提供例を示す工夫をEdge MCUテンプレートへ加えるつもりです。

MCU市場予測:2018年出荷数306億個、2022年438億個予測

米)市場調査会社IC InsightsのMCU市場予測記事、“マイコン市場、IoTを追い風に安定成長”が、EE Times Japanに掲載されました(2018年9月19日)。

MCU市場予測(出典:IC Insighs、EE Times Japan記事)
MCU市場予測(出典:IC Insighs、EE Times Japan記事)

2022年までの5年間世界MCU市場は、販売額は年平均成長率7.2%続伸、出荷数は年平均成長率11.1%続伸、平均価格は年平均成長率3.5%下落と予測しています。センサー普及やIoT台頭で安定成長の見込みとの結論です。

我々MCU開発者は、ますます忙しくなるでしょう (^^♪。

MCU販売額予測(Markets)

2018年販売額は、前年比11%増加で過去最高186億米ドルと見込み、2019年は9%増で204億米ドルと予測。
今後5年間、年平均成長率7.2%で続伸し、2022年は239憶米ドルと予測。

MCU出荷数予測(Units)

2018年出荷数は、前年比18%増加の306億個の見込み。
今後5年間、年平均成長率11.1%で続伸し、2022年は438億個と予測。

MCU平均価格予測(ASP)

2017年に過去最低に落ち込み、2018年も同じペースで下落するが、過去5年間の年間下落率は、その前の10年間に比べ緩やかになったと分析。
2017年から2022年は、年平均成長率3.5%で下落と予測。

※1$以下のMCU平均価格内訳を知りたいところです。下記、過去関連投稿内容ともほぼ合致しています。

関連投稿:2018年IoT市場予測
関連投稿:IoTマイコン市場規模予測

ルネサスエレクトロニクス、IDT買収

2018年9月11日、ルネサスエレクトロニクス(ルネサス)が米)Integrated Device Technology(IDT)を買収すると発表しました。
約67億ドル買収完了見込みの2019年前半には、IDTはルネサス完全子会社になります。

ルネサス、IDT買収の狙い

・補完性が高い製品獲得によるソリューション提供力の強化
・事業成長機会の拡大

ルネサスは、RFや各種アナログ・ミックスドシグナル機能を持つIDT製品を獲得し、これらをマイコンやパワーマネジメントICと組み合わせ、アナログフロントエンドを強化、これによりIoTや産業、自動車分野の事業領域拡大を狙うと発表しました。

2017年2月に32億1900万ドルで買収したアナログ半導体メーカの米)Inersilと今回のIDTとの事業重複は無く、ルネサス+IDT+Intersilでエンドポイントのインテリジェンスを抑え勝つ(=優勝を狙う)とルネサス)社長兼CEOの呉文精氏はコメントしています。

System on a chip(SoC)でルネサスMCUに強力なアナログ機能が実装される可能性が高まったと思います。

MicrochipのインテリジェントADC(ADCC)

同様の動向として、アナログフロントエンドに計算機能を備えたインテリジェントADCを使いAD変換結果に含まれるノイズを除去、MCU処理電力を低減するADCCデバイスをMicrochipが発表しました。

2018年9月19日水曜14時~15時に、「センサノードの低コスト設定:ADCC」と題して日本語Webinarsが予定されています。登録は必要ですが、どなたでも無料で視聴できオンライン質問にも回答してくれるそうです。興味ある方は、参加してはいかがでしょう。

QualcommのNXP買収断念とルネサスのIDT買収

Qualcomm による約470億ドルNXPセミコンダクターズ(NXP)買収は、断念という結果になりました。“NXP買収を断念したQualcommの誤算(前・後編)”によると、半導体業界はこの騒動からいろいろな教訓を学ぶべきだそうです。
また、同記事でNXP CEOのRick Clemmer氏は、

「QualcommとNXPの合併により、さらなるスマート化に向けたセキュアな接続を実現するというわれわれのビジョンに必要な、あらゆる技術を統合できる。これによって、最先端のコンピューティングやユビキタス接続を、セキュリティや、マイクロコントローラなどの高性能ミックスドシグナルソリューションと組み合わせることが可能になる。両社が協業することで、さらに完成度の高いソリューションを提供できるようになるだろう。特に、自動車やコンシューマー、産業用IoT、デバイスレベルのセキュリティなどの分野において、リーダー的地位をさらに強化し、幅広い顧客基盤との間で既に構築している強固な協業関係を、さらに拡大していくことが可能になる」

と語っています。

上記は、買収を免れたNXPにとっては実現しなかった訳です。コメント内容は、ルネサスのIDT買収狙いと重なる部分が多く、IDT買収がルネサスにとって重要であることの証拠と言えると思います。

企業買収は、巨大な初期投資が必要な半導体業界での生き残りと主要技術確保のための戦略です。
ルネサスとNXPのIoT、産業、自動車分野のMCU競争は、ますます激しくなるでしょう。