Edge MCU評価ボード要件と検索方法

前稿で示したEdge MCUテンプレート構想を具体化します。MCU動作だけでなく、IoTサービス例を、開発者個人が、低価格かつ簡単に示すことを目的とするこの新しい「Edge MCUテンプレート」は、弊社が従来から販売してきた「汎用MCUテンプレート」のアプローチとは少し異なります。

それは、テンプレート出力がMCU動作だけでなくIoTサービスも含めるからです。たとえEdge MCUであっても普通のデバイスです。ベンダーは、その評価ボードでEdge MCUの特性を活かしたIoTサービスを示す場合が多いです。
従って、Edge MCUテンプレートのポイントは、いかに上手くIoTサービスを示すベンダー評価ボードを選べるかに掛かっています。

本稿は、Edge MCUテンプレートに用いるEdge MCU評価ボードの3要件と、これら要件を満たす評価ボード検索方法を示します。

Edge MCUテンプレートに用いるEdge MCU評価ボードの3要件

以下3要件を、Edge MCUテンプレートに用いるEdge MCU評価ボードと考えます。

  • R1. 低価格、入手先豊富なEdge MCU評価ボード <¥3,000
  • R2. 最新Edge MCU使用(2018年後半の新しいIoTトレンドに沿って開発されたEdge MCUであること)
  • R3. 何らかのIoTサービス例を簡単に示せる

要件(Requirements)を満たさない場合は、どの項目がNGかが解れば、開発者や場合によってはOKの場合もあります。¥3,000が低価格かは懐具合次第ですし、開発年度が新しいか古いか、何らかのIoTサービスなど、全て主観です。

ただ主観であっても、Edge MCU評価ボード選択にあたりR1~R3の要件があると、採否が簡単になります。仮に、最新Edge MCUでは無いが、低価格でIoTサービスも示せる評価ボードがあった場合には、「R2_NG」だが採用するなどの特例も取れます。そこで次に、この3要件を満たすEdge MCU評価ボードを効率的に選ぶ方法を示します。

3要件を満たすEdge MCU評価ボード検索方法

最新Edge MCUで、R1~R3要件を満たすEdge MCU評価ボードを選ぶには、Mouserの新製品(メーカー別)ページが便利です。DigiKeyやチップワンストップにも同様ページがありますが、サムネイル写真と概要付きなのでMouserが最も使いやすいと思います。

Mouser新製品ページ
Mouser新製品(メーカー別)ページ。メーカーロゴクリックで集計される。カテゴリ別や週別でも選べて便利。

例えば、STマイクロエレクトロニクス(以下STM)をクリックすると、「発売日順」にサムネイルと商品名、概要が列挙されます。この中から、Edge MCUテンプレートに使えそうな評価ボードの商品詳細を読み、3要件で採否を判断すれば良いという訳です。

STマイクロエレクトロニクスの発売日順検索結果
STマイクロエレクトロニクスの発売日順検索結果。写真、製品名、概要が判る。

守備範囲が広いSTM32G0投稿で示したNucleo-G071RB(¥1,203)もこの方法で上位ページ、つまり新商品順に表示されるので、直に探せます。
※年始には1ページ目上部に示されたNucleo-G071RBが、2ページ目下部に示されました。STMは他ベンダー比、新製品が多いのにも驚かされます!
※このようにベンダー毎の新製品数、評価ボード搭載デバイスの単体価格なども簡単に分かる点がマウザー新製品ページの利点です。

NXP、サイプレス、ルネサスとベンダーを変えて上記検索をすれば、R1~R3要件を満たすEdge MCU評価ボードが簡単に見つかります。

ルネサスは投稿時3要件を満たすEdge MCU評価ボードなし

残念ながらベンダーをルネサスで検索しても、2月末時点では価格要件:R1を満たすEdge MCU評価ボードが見つかりません。

例えば、RL78ファミリのロードマップ投稿で示したRL78/G11評価ボードYQB-R5F1057A-TB(¥3,961…!)やYRPBRL78G11(¥6,437)※秋月電子でも¥4,320は、ともに¥3,000を超えます。

また、低価格がセールスポイントのRX評価ボードTarget Board for RX130/231/65NでもR1を満たしません。

つまり、ルネサスEdge MCU評価ボードは、他ベンダー比、どれも価格高めです。企業レベルでの購入なら問題ないでしょう。しかし、これら価格は、実装部品から推測しても“個人開発者は顧客として眼中に無いのでは(!?)”、とも疑われるコスパだと思います。

※東洋経済Online2月19日に、ルネサス急ブレーキのしかかる1兆円買収記事が掲載されています。ルネサスを応援したいのですが、Edge MCU評価ボード入手も含め、手を出しにくい状況です。

2018年IoTトレンドと2019年予想記事をEdge MCU開発者観点で読む

セキュリティ、産業IoT、通信事業者との連携、ウェアラブルデバイスという4テーマで2018年IoTドレンドとその予想結果、2019年のそれらを予想した記事がTechTarget Japanに掲載されています。

本稿はこの記事内容を、マイコン:MCU、特に本ブログ対象Edge MCU開発者の観点から読みたいと思います。

IoTサービス観点からの顧客目線記事

一言でIoTと言っても様々な観点があります。本ブログ読者は、殆どがMCU開発者なので、顧客がどのようなIoT開発を要求し、それに対して自社と顧客双方のビジネス成功をもたらす「ソリューション提供」が最も気にする点だと思います。

一方、要求を出す側の顧客は、記事記載の「IoTサービス」に注意を払います。そのサービス実現手段として、ベンダー動向やMCU開発者自身の意見を聞いてくるかもしれません。そんな時、日頃の技術動向把握結果を具体的に顧客に提示できれば、顧客案件獲得に有効なのは間違いありません。

顧客と開発者のIoT捉え方は異なる。
顧客はサービス観点でIoTを捉える。開発者はソリューション提供でIoTを捉える。

そこで、記事の4テーマ毎にEdge MCU開発者の観点、特にEdge MCU最新動向を関連投稿とともに示します。

セキュリティ

Edge MCUセキュリティ強化策として、昨年頃からMCUにセキュリティ機能を内蔵するか、または、MCU外付けに専用セキュリティチップを追加する動きが出始めました。
要するに、IoTではEdge MCUでデジタルデータ暗号化機能実装が必須になりつつあるのです。
関連投稿:守備範囲が広いSTM32G0のアクセス・ライン製品
関連投稿:IoTマイコンとセキュリティの色々なセキュリティ強化方法

産業IoT

産業機器データ収集と分析の重要性は顧客に認識されていますが、IoT導入は記事にあるように初期段階です。Edge MCUも、産業用にも流用できるメリットを示すIoT MCU新製品もありますが、車載用の新製品が多い状況です。
関連投稿:NXP新汎用MCU S32K1

通信事業者との連携

国により大きく異なる通信事業者とそのサービスや連帯を一言で表すことは困難です。ただし、日本国内でのIoTフィールドテストは、今一つ盛り上がりに欠ける感じが個人的にはします。やはり、黒船(海外発のIoT通信デファクトスタンダードとその普及)が必要かな?と思います。

ウェアラブルデバイス

Edge MCUに近距離無線通信(NFC)機能を搭載したり、AI機能(機械学習)を搭載しHuman Activity Recognition:人間活動認識を実現したりする新しいEdge MCI製品が登場しています。
関連投稿:NFCを使うLPC8N04のOTA
関連投稿:MCUのAI機能搭載

2019年2月18日速報:タイムリーなことに、Motor Fan Techという自動車関連の情報誌で、次世代ARM v8.1-Mアークテクチャが、業界最小の組み込みデバイス向けに、強力な信号処理を実現が掲載ました。次世代Cortex-Mプロセサは、機械学習(ML)パフォーマンスを最大15倍、信号処理パフォーマンスを最大5倍向上させるそうです。

IoTサービス例を顧客に示せるEdge MCUテンプレート構想

2018年3月の弊社LPC8xxテンプレートV2.5改版以降、新開発のマイコンテンプレートはありません。その理由は、記事にもあるIoTの急速な普及・変化が無かったことも1つの理由です。

これまでの弊社マイコンテンプレートの目的は、「開発者個人が低価格でMCU開発を習得すること」でした。このため、各ベンダーの汎用MCUとBaseboardを使い、そのMCU基本的動作開発までを1つの到達点としてきました。

2018年後半から新しいIoTトレンドに沿った新Edge MCUが各ベンダーから発売済みです。そこで、マイコンテンプレートも、顧客目線やその観点を取り入れた到達点へステップアップしようと思います。

顧客は単にMCUが動作するだけでなく、何かしらのサービス提供をしているIoT MCUを見たいでしょう。この「IoTサービス例を、開発者個人が、低価格かつ簡単に示せるマイコンテンプレート」が新しいEdge MCUテンプレートの構想です。

IoTサービス例を示すEdge MCUテンプレート
IoTサービス例を示すEdge MCUテンプレート

この場合の顧客とは、ビジネス顧客に限らず、開発者の上司や同僚、さらに、開発者自身でも良いと思います。開発結果がIoTサービスに関連していれば、誰でもその効果が判り易いハズです。

期待されているIoTサービスならば、開発者もMCU開発がより楽しく、その習得や応用サービスへの発展もより具体的かつアグレッシブになると思います。と言っても、クラウドを含めたIoTサービスを開発・提供するのは、個人レベルでは無理です。
従って、ほんの触り、一部分のIoTサービスになります。それでも、見る側からは、開発内容が解りやすくなります。

もはやMCUが動作するのは、当たり前です。その上で、+αとしてEdge MCUがIoTで出来るサービス例を示し、さらに、Edge MCU習得も効率的にできるのがEdge MCUテンプレートです。

今後開発するEdge MCUテンプレートは、IoTサービス指向の結果、これまでマイコンテンプレートが持っていた汎用性が少し犠牲になる可能性もあります。ただ、従来の汎用MCUの意味・位置づけもIoTで変わりつつあります。
関連投稿:RL78ファミリから解る汎用MCUの変遷
関連投稿:STM新汎用MCU STM32G0

MCU基本動作に加え、何らかのIoTサービス提供例を示す工夫をEdge MCUテンプレートへ加えるつもりです。

STM32のStep-by-Step Guide

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)公式ブログのカテゴリ:TutorialsからSTM32開発環境を構築する方に最適な投稿を見つけたので、紹介と気になる点を示します。

Step-by-Step Guide

STM32 step-by-step learning program
STM32 step-by-step learning program

2018年10月8日が投稿日のこの記事は、STM32の開発環境(IDE)構築から評価ボード、UART接続、IoT評価ボードとスマホ接続などを5つのStepで示しています。内容は、前後半の2つに大別できます。

前半は、Step1(45分)で開発環境を構築し、Step2(30分)でSTM32CubeMXとHAL説明、Step3(34分)で評価ボード(NUCLEO-L476RG)とUART利用のPC通信を紹介するなど、内容は、弊社昨年のブログ投稿の最新版と言えます。

後半は、Step4(60分)でIoT評価ボードDiscovery kit IoT node (B-L475E-IOT01A)(DigiKeyにて¥6,370販売中)の使い方、Step5(30分)でAndroidスマホと同評価ボードをBLEで直結し、IoTシステムを構築しています。

IoT評価ボードは、Cortex-M4(915MHzまたは868MHz)を使い、Arduinoコネクタ、モーション、ジェスチャ、環境センサなどが実装済みなので、スマホで取得センサデータを視覚化できます。さらにAWS(アマゾン ウェブ サービス)経由でも接続できるので、本格的なIoTノード開発・評価にも使えそうです。AWSとの接続方法は、コチラの動画(11分12秒)に解説されています。
※動画閲覧にはログインが必要です。

関連投稿:Amazon、IoTマイコンへFreeRTOS提供

気になる点1:TrueSTUDIO

STMは、2017年12月に統合開発環境TrueSTUDIO開発元のAtollic社を買収しました。その結果、無償IDEのラインナップは従来と同じですが、開発会社の説明が変化しました。

関連投稿:2018マイコンベンダ最新ニュースのSTM章参照

STM32ソフトウェア開発スイート(要ログイン)のページで説明します。License typeでフィルタすると、無償版IDEラインナップが表示されます。SW4STM32欄のShow more…をクリックすると下段に“This product is supplied by a third party NOT affiliated to ST”の記述があります。これが気になる点です。

IDE License type Free検索結果
IDE License type Free検索結果。SW4STM32には、”not affiliated to ST”の記述がある。

この記述は、TrueSTUDIO欄には無く、代わりにProduct Imageに“ST acquires Atollic”と記載され、STとAtollicのロゴが表示されます。つまり、STMの無償IDEは、TrueSTUDIOが標準?の感じです。

TrueSTUDIOのProduct Image
TrueSTUDIOのProduct Imageは、STとAtollicのロゴが表示

従って、新たにSTM開発環境を構築される方は、TrueSTUDIOを選ぶと良いかもしれません。これを裏付けるのが、Step1紹介のIDEがTrueSTUDIOだということです。TrueSTUDIOがSW4STM32とほぼ同様に操作できるのは、コチラの動画(9分42秒)で解ります。

弊社2017年9月発売のSTM32FxテンプレートもSW4STM32を使っていますが、これもTrueSTUDIOに変えた方が良いかもしれません。但し、TrueSTUDIOには、SW4STM32プロジェクトをそのままインポートする機能が備わっていますので、二手間のOKクリックが増えますがしのげそうです(Step4のP8、Appendix Porting an AC6 example to TrueSTUDIO参照)。

Porting SW4STM32 project to TrueSTUDIO(出典:Step4)
Porting SW4STM32 project to TrueSTUDIO(出典:Step4)。OK2回クリックでSW4STM32プロジェクトをTrueSTUDIOへインポートできる。

IDEポーティングは、MCUベンダーが、古いIDEから新しいIDEへ替える時に良く使う方法で、NXP(Kinetis Design Studio→NXP Expresso)、ルネサス(Hew→CS+)などでもおなじみです。SW4STM32→TrueSTUDIOがあるのも、STMがTrueSTUDIOを推薦しつつある証と言えるでしょう。

気になる点2:Edge MCUとNode MCU

Step-by-Step Guide資料が前後半で使用MCUと評価ボードが2つに別れたように、前半のEdge MCUと後半のNode MCUの2つの機能に分かれてIoT MCUが発展する気がします。

  • Edge MCU:低消費電力でIoTデータ取得(アナログフロントエンド)機能を備えたMCU。従来のベアメタル開発の延長・発展形。
  • Node MCU:AWSなどIoTネットワーク出入口の無線、高度なセキュリティ機能を備えたMCU(Edge MCUを包含する場合あり、例:Discovery kit IoT node)。FreeRTOSなどのOS実装は必須で、従来MCUより高機能・高性能、1GHzにせまる高速動作。

※ベアメタル開発:OSなどを使わないMCU開発

Edge MCUとNode MCUの違いは、端的に言えば、ベアメタルソフトウェア開発かRTOSソフトウェア開発かです。MCUソフトウェア開発者も、ベアメタルとRTOSの2つに分かれるかもしれない、というのが第2の気になる点です。

Edge MCUだけではIoTに接続すらできません。Node MCUがIoT接続に必須になりつつある気がします。