IoT無線規格「Thread」

Threadは、Wi-FiやBluetoothなどの既存無線通信と異なりメッシュメットワーク構成の2015年7月発表の新しいIoT無線規格です。詳しい記事はコチラ、またThread詳細はWebを参照して頂くとして、ここでは記事要旨を示します。

Threadの特徴

Thread System Messaging Model
Thread System Messaging Model(2016_05_10_ThreadPresentation.pdfより抜粋)

メッシュ網構成: Wi-FiやBluetoothの1対1(多)のスター網構成に対し、通信堅牢性と通信範囲の確保を目的にメッシュ網で通信。

ネイティブIP通信:OSIのネットワーク層とトランスポート層の仕様策定が目的で、超低消費電力で短距離通信のIP通信を行うオープン仕様。上下層は、既存レイヤー仕様をそのまま使用。

ネットワーク管理機能と高セキュリティを両立:ノードトラブルや網障害に対し、自己修復し通信継続。

長期電池駆動が可能:長期電池駆動が可能なデータ送受方法を採用。

などホームネットワーク要件を全て満たす。

主要参加メンバー

Thread Group Sponsor BoD Members
Thread Group Sponsor BoD Members(2016_05_10_ThreadPresentation.pdfより抜粋)

ホームコントロール大手Somfy、ホームセキュリティ大手Tyco、Qualcomm Technologies、照明大手OSRAMなどの企業と、マイコン大手NXP、ARMなどが主要メンバーとして参加。

以上が記事要旨にWebから得られる情報を追加したものです。以下の理由で私はThreadに期待しています。

BLEは重い

BLE: Bluetooth Low Energyは、少量データの送信には理想的ですが、アプリケーション規格などが厳格で、「スマホとウエラブルデバイス間通信」に適しています。

しかし、これをマイコンで「単に土管として無線を使いたい」場合には少し重たい気がします。例えば、マイコンUART入出力をIoTコンピュータ:MPU/SBCへ無線で接続する時などです(BLEとROM量はコチラに記載)。

※土管として無線を使うとは、例えば、UART over BLEなどです。

莫大な販売量が見込まれるとしてもIoTエンドポイントマイコンは、ROM/RAMが少なく低価格デバイスが向いていると思います。BLE機能を実装するとROM量は64KB超が予想されます。

Threadが、BLEより軽くマイコンへ実装できれば、IoTエンドポイント通信の本命になるかもしれません。

解説:マイコン評価ボード

マイコン開発には、各社が低価格で提供している評価ボードは必須です。
弊社マイコンテンプレートも、各ベンダの評価ボードで開発しています。この評価ボードを解説します。

採算度外視の低価格、高信頼ハードウエア

ソフト開発者に「確実に動くハードウエア」を「低価格」で提供する、これが評価ボードです。

マイコン開発には、「専用」のソフトウエアと「専用」のハードウエアの両方が必要です。そして片方のデバッグには、もう片方にバグが無いことが必須です。つまり、ソフトデバッグには、バグなしのハードが必須なのです。そこで、バグなしで確実に動作する「汎用」ハード、これが各ベンダ提供の評価ボードです。

但し、専用ハードがいずれ開発されるので、汎用の評価ボードは低価格とならざるをえない運命です。高ければ誰も買ってくれないからです。しかし開発者にとっては、以下のように優れた教材と言えます。

  1. ソフト開発者が、専用ハードが出来上がる前にソフトデバッグ可能な環境を自由に構築できる
  2. ハード開発者が、そのまま専用ハードにも使える高信頼ハード設計を学べる
  3. マイコン初心~中級者が、ベンダ標準のデバッグ技術で低価格な開発環境を使って自習できる
  4. 評価ボードは、各ベンダフォーラムで多くの情報が記載されており、適用サンプルソフトも多い

ターゲットMCU、デバッグインタフェース、拡張コネクタの3構成

評価ボードは、ターゲットMCU、デバッグインタフェース、拡張コネクタの3つから構成されます。

NXPの評価ボード:LPCXpresso LPC812とルネサスのRL78G13-Stick、CypressのCY8CKIT-042 の例を示します。

LPCXpresso LPC812構成
NXP LPCXpresso LPC812構成
RL78G13-Stick構成
Runesus RL78G13-Stick構成
CY8CKIT-042構成
Cypress CY8CKIT-042構成

ターゲットMCU

ターゲットMCUとは、開発MCUそのものの部分です。残りのデバッグインタフェースと拡張コネクタは、ターゲットMCUが異なっても同一です。

拡張コネクタ

最近はArduino用シールドコネクタを拡張コネクタに用いる評価ボードが多いです。これは、市販Arduinoシールドの種類が増えたため、上手く探せれば汎用の評価ボードに複数のArduinoシールドを拡張コネクタで接続し、専用ハードに近い、いわば「疑似専用ハード」を市販品のみで作れます。ボード単位のハード部品化がもたらした結果と言えます。

個人的には、シールドよりも、mbed – Xpresso Baseboardの方がより低コストで疑似専用ハード実現ができると思っています(こちらに詳しく記載しました)。

デバッグインタフェース

デバッグインタフェースは、IDEデバッグ機能を使うために必要な部分で、ターゲットMCUのシリアル入出力とパソコンUSBを変換する機能もここに含みます。この機能専用のマイコンが実装されることが多くなりました。このマイコンでデバッガ機能も代行するので、別途デバッガを購入せずにソフトデバッグが可能です。

MCUがARM Cortex-M0/M0+の場合には、ARM標準のCMSIS-DAPでMPUコアをデバッグできるインタフェースも実装されます。CMSIS-DAPはこちらの記事も参照してください。

CMSIS-DAPは、ターゲットMCUとデバッグインタフェースを切り離した後に、ソフトデバッグする時、別途ARM専用デバッガが必要ですが使えます。このように、1つの評価ボードで複数のデバッグ方法が使えるのも特徴です。

ARM系コアの場合は、ベンダ評価ボードもほぼ同じ構成で、ARM専用デバッガを1台持っていれば、ベンダ各社の評価ボードをまたがっても使えるのがメリットです。マイコン開発のデファクトスタンダートになりつつあります。

一方、デバッグインタフェースをE1コネクタでしか持たないルネサスのCPUボードをデバッグする際は、別途E1デバッガを接続しないとデバッグができません。この点は、Cortex-M0/M0+コアのMCUと比べるとコスト的に劣ると言えるでしょう。

Runesus QB-R5F104LE-TB構成
Runesus QB-R5F104LE-TB構成

デバッガ機能なしの統合開発環境:IDEの背景

シールドなどのボード単位の部品化が進んだ結果、専用ハードは、もはや既存ハードを組み合わせて、その小型化のみを行う設計、つまり専用基板化が主な開発内容と言えるかもしれません。

同様に、ソフト開発もベンダが、多くのライブラリを提供することで、専用ソフトをライブラリの組合せで完成できるレベルを目指しているようです。IDEにデバッガ機能がないArduino IDEなどは、この現れのような気がします。

ハードとソフトのオープンソース

ハード版オープンソースとしてArduinoシールドコネクタを持つ既成基板は、増えつつあります。

オープンソースを活用したソフト開発は、Unix系では当たり前です。この流れがマイコンソフトへも徐々に浸透する可能性を感じています。この場合、ハードの専用基板化開発に相当するのは、RTOS適用や弊社のマイコンテンプレートになるかもしれません。

Node-REDとGenuino 101

Node-RED

トラ技2016年6月号記載のNode-REDは、強力な開発ツールです。ターゲットは、本ブログのマイコンやシングルボードコンピュータなど全てを含むことができます。但し、あくまでNode-RED動作環境の下での動作が前提です。

つまり、WindowsやLinuxなどのリッチOSアプリの1つがNode-REDで、これを使えば、Raspberry Pi 3とArduino/Genuino 101両方で動作するプログラムが開発できます。マイコンの動作オブジェクトコードは(今のVersion0.13.4版では)出力されません。

今回は、このNode-REDがデバイスに依存せずにプログラミングできる仕組みとprintfデバッグについて考察します。

デバイス非依存性

マイコン開発で苦労する部分は、センサやモータなどの個別制御プログラムです。しかし、この制御プログラムが予めライブラリで提供されていて、しかも、制御する側のデバイス、マイコンかシングルボードコンピュータかもGUIで簡単に選択できれば、苦労はかなり減ります。

残りの部分は、どの順番でどのように個別制御プログラムを動かすかというフローチャートのイメージに近い部分です。このフローチャートに近い部分を、Node-REDでは「flow」と呼び、ブラウザを使ってGUIで開発します。

Node-REDのflow例
Node-REDのflow例

ChromeやFirefoxなどのお馴染みのブラウザが使えますので、Windows であってもiOSでも、Linux:Raspbianであっても開発できます。RaspbianをインストしたRaspberry Pi 3もデフォルトブラウザはEpiphanyですが問題なく動作します。

トラ技6月号のP65の図8:GPIOライブラリnode-red-contrib-gpioとJohnny-Fiveの位置づけが、「デバイス非依存性」を端的に示しています。

図8で示されたライブラリとNode-REDのFlowは、オンラインFlowライブラリで多くのサンプルが公開されており、6月4日時点で778個です。☑nodeがライブラリです。

トラ技では、P66のArduino系ボードの中にArduino/Genuino 101は入っていませんが、Firmateプロトコルスケッチをボードへ書き込めますので記事と同様に動作します。このFirmateもCPUやマイコンボードに依存しないプロトコルなので、対象ボードがFirmateさえサポートすればNode-REDから制御できます。

Arduirno/Genuino 101でFirmateプロトコルスケッチを利用
Arduirno/Genuino 101でFirmateプロトコルスケッチを利用

このように、制御に必要なflowサンプルやnodeライブラリを部品として全てネットからダウンロードでき、この部品の加筆修正も簡単にできるNode-REDは魅力があります。ソフト開発時にハード準備が間に合わないことは良くあることですが、実ハードがなくても代替ハードで動作確認し、最後にGUIでポート番号を変更しさえすれば実ハードでも動作することが可能だからです。

printfデバッグ

Arduino IDEも同様ですが、Node-REDには、本格的なデバッガ機能が(今のところ)ありません。

プログラマがprintf(Node-REDは、デバッグ出力ノードに相当)を使って変数などを一時出力してデバッグすることはできますが、動作を一時停止しRAM内容をダンプしたり、変数を変更後に停止位置から再実行したりすることは簡単にはできません。

printfデバッグは、ダウンロードした部品が完全でバグが無いブラックボックスとして扱える場合には効果的かもしれません。例えば、ハードウエア開発で、74シリーズロジックを組み合わせて開発する場合に、ロジックにバグがあると考える開発者はいません。自ら開発したハードをデバッグする際には、プローブとオシロスコープを使って、ロジック間の信号を読み解きバグ取りをします。このプローブがprintfに相当します。

少し前は、マイコンソフト開発でもprintfデバッグが盛んでした。デバッガは高価だったからです。しかし現在は、シリアルーUSB変換機能と兼用でデバッガ機能を持たせた低価格マイコンボードが多数あります(LPC、Kinetis、Cypressマイコンボードなど弊社利用の評価ボード)。

ソフトウエアもハードウエアのように部品化が進めば、printfデバッグで完成する時代がくるかもしれません。しかし、かなり先の話だと個人的には思います。
個別マイコンボードのデバッガ機能がプラグインで追加できる開発ツールを望んでいます。EclipseベースのIDEは、この要望に最も近いのかもしれません。

Arduino/Genuino 101用マイコンテンプレート

因みに、Arduino/Genuino 101のIDEは、今のところArduino IDEです。

Intelは、デバッグ機能付きのEclipseベースIDE、Intel® System Studio for MicrocontrollersのQuark™ SE版をアナウンスしていますが、未だにリリースされていません。私は2016年版Eclipse:Neonをベースに使うと思いますので、今少し時間がかかるかもしれません。

従って、Arduino/Genuino 101用のマイコンテンプレートの発売ももう少し後になります。昔ながらのprintfデバッグには、戻りたくないというのも本音です。ご容赦ください。

EclipseベースのマイコンIDE

4月はマイコンIDE関連のブログ記事を3件記載しました。まとめにEclipseベースのマイコンIDEを概説します。

統合開発環境:Integrated Development Environment, IDE

ソフトウエアを開発するには、ソースを記述する「エディタ」、記述ソースをターゲットコードへ変換する「コンパイラ」、コードをターゲットへダウンロードしデバッグする「デバッガ」…など色々なツールが必要です。これらツールをひとまとめにパックしたのが、統合開発環境:IDEです。

Eclipse

Eclipse(「イクリプス」または「エクリプス」)は、IBMによって開発された統合開発環境の一つ。高機能ながらオープンソースであり、Javaをはじめとするいくつかの言語に対応(Wikipediaより抜粋)。

オープンソース、OS非依存、多言語対応、プラグインによる機能追加などの特徴を持つEclipseは、マイコン開発のみならず様々な「ソフト開発環境のフレームワーク」として世界中に普及しています。

V4.5が現在の最新版で、コードネームはMars(火星)。今後のリリース予定が下表です。

eclipse schedule (Wikipediaより抜粋)
バージョン リリース日 コードネーム コードネームの由来
4.4 2014/06/25 Luna 月を意味。
4.5 2015/06/24 Mars 火星を意味。
4.6 2016/06予定 Neon 元素の一つ、ネオンを意味。
4.7 2017/06予定 Oxygen 元素の一つ、酸素を意味。

多様性と差別化、OS非依存

多種多様なマイコンをベンダ各社は供給中です。

EclipseベースのIDEは、フレームワークはそのままで、自社の多様なマイコン毎に異なる「APIコード生成ツール」や「コンパイラ」の、その部分のみをプラグインで追加/交換できますので、マイコンベンダにとって好都合です。

さらに、他社との差別化機能になるプラグインの開発に労力を集中できます。APIコード生成ツールでは、NXP(旧Freescale)のProcessor ExpertやCypressのGenerate Application、ルネサスのコード生成などがその例です。

MCUコアがARM Cortex-M0/M0+で同じでもマイコンの周辺回路は各社異なります。この異なる周辺回路を活かすAPIコード生成ツールとその使いやすさが差別化ポイントです。

また、WindowsやiOSへも使えるOS非依存性も開発者に歓迎されています。

e2 studioの例

以上のことを知ったうえでEclipseベースのIDEの1つルネサスのe2 studioのソフトウエア構成図を見ると、内容がよく理解できます。

e2 studio plugin
e2 studio plugin(ルネサスe2 studio説明より抜粋)

マイコンIDEの主流はEclipseベースのIDEですが、マイコンIDE早期習得のコツ、ポイントのページで示したように、IDEで本質的に差が生じるのは「マイコン機種依存のAPI生成ツール」とした根拠をここでは示しました。

マイコンIDE更新

扱うMCUデバイスの追加、WindowsやiOSなどのOS変更、Eclipseそのものの変更、バグ修正など様々な要因によりマイコン開発環境:IDEの更新は発生します。今回は、マイコンIDE更新について解説します。

更新通知と更新理由

マイコンアプリケーションソフト開発中ならば、リスクが増える可能性もあるIDE更新は避けたいものです。
このため「開発者が更新をするか否かを選択」できるのがマイコンIDEの特徴です。Windowsと大きく異なる点ですね。

更新判断には、「更新が発生」したか、「更新の理由」は何か、この2つを知る必要があります。この情報をIDEのWelcome画面のWebリンクで教えてくれるのがEclipseベースのIDEです。NXPのLPCXpressoの例を示します。

LPCXpresso Welcome page
LPCXpresso Welcome page

赤矢印のリンク先をみると、最新版IDEと、変更内容などが解ります。使用中のIDEと版数が異なる場合には、この内容を読んで更新判断ができます。新旧LPCXpressoは、緑囲いで示した版数毎に別フォルダへインストールされるので、IDE更新リスクがフォルダ内に閉じ込められるので安心です。

また、NXPに買収された旧FreescaleのKinetis Design Studio: KDSの例が下図です。Welcome画面に加え、Help>Check for Updatesで更新確認と新版インストールまでバックグラウンドで可能です。この機能は、LPCXpressoにはありません。

Kinetis Design Studio Check for Updates
Kinetis Design Studio Check for Updates

但し、私の環境では、ベースとなるEclipseのメジャー更新が関係しているのかもしれませんが、KDS V3.1からV3.2への更新ができませんでした。V3.2更新は、別途インストーラで可能です。やはりIDE更新確認ツールがあっても、時々サイトでIDEの最新版確認は、必要だと思いました。

また、CypressのPSoC Creatorは、Update Managerツールで更新確認とインストールができます。旧版はアーカイブ保存されるので、万一最新版にトラブルが発生しても安心です。

Cypress Update Manager
Cypress Update Manager

以上3社のマイコンIDEは、どれもEclipseベースのIDEですが、更新方法や旧版の扱いは各社異なります。

一方、ルネサス独自仕様のIDE:CS+もアップデート・マネジャーツールで更新します。独自仕様なので、細かい更新内容確認や、一部選択更新なども可能です。ツール・ニュースなどで更新、バグ情報を知らせてくれるのも役立ちます。
また、更新前に、「開発ツールをパックして保存(K)…」を実行すると、更新トラブル対策も可能です。

Runesus CS+ Packing tool
Runesus CS+ Packing Tool

マイコンIDE更新を安全にするには

マイコンIDEの更新トラブル回避には、OS起因でない場合は、旧版のIDEへ戻せることが必要です。また、Eclipseのメジャー更新時などは、操作方法が変わることもあるので注意が必要です。
開発案件のキリが良い時期に更新するのが安全策でしょう。

マイコンIDE開発経験を活かすには

弊社マイコンテンプレートで使用中の各社IDE特徴を示します。マイコンIDEは、Eclipseベースに集約されつつあるようです。今回は、同じベースでもIDEの更新方法が異なることを示しました。

これは、EclipseベースのIDEを使う時に覚えておくと役立つのが、各社共通のエディタやデバッグなどのコア機能であることを暗示しています。他社IDE使用時に、この経験が活かせるからです。

MCU IDE Comparison
マイコンIDE比較

マイコンIDE習得のコツやTipsは、コチラのページにもまとめています。参考にしてください。

Arduino/Genuino 101

前記事紹介の国内名称Genuino 101こと「Arduino/Genuino 101マイコンテンプレート」の開発に着手します。Arduino IDEのLチカサンプルの問題点を指摘し、マイコンテンプレートがどのように解決するかを示します。

Arduino/Genuino 101開発ボード

Bluetooth LEに6軸加速度センサも内蔵した32MHz動作インテルCurie、ROM/RAM=192KB/24KBのMCUが実装されたArduino開発ボード、これがArduino/Genuino 101です。

Quark SEコアにSoC: System on a ChipしMCU単体ROM/RAMは、384KB/80KBですが、開発環境Arduino IDEが使う残りがユーザプログラマブル領域で192KB/24KBとなります。実にROM50%、RAM70%をIDEが使う!というものですが、その理由は後で考察します。

データシートFAQによると、2016年3月にIntel® IQ Softwareというパッケージでサンプルアプリケーションや専用RTOSなども提供するそうですが、現時点でリリースされていません。

Arduino IDE

Intel IQ Softwareリリースまでは、無償のArduino IDEを使います。最新版1.6.9をダウンロードしインストール、さらにArduino/Genuino 101動作のためIntel Curie Boards by IntelをボードマネジャでインストするとArduino IDEが使えます。

Arduino IDEは、スケッチエディタ、コンパイラ、開発ボードへのダウンロード(何故かArduinoではアップロードと呼ぶ)ができますが、デバッグ機能はありません。

Arduino/Genuino 101ボードとPCを接続し、ボードマネジャーでArduino/Genuino101、接続したシリアルポート番号を設定すれば準備完了です。ファイル>スケッチの例>01.Basics>Blinkを選択して➡アイコン: “マイコンボードに書き込む” をクリックすると、緑LEDが1秒毎に点滅の、いわゆるLチカ動作が確認できます。

Arduino IDE Setting for Arduino 101
Arduino IDE Setting for Arduino 101

スケッチ

「スケッチ」とはArduino IDEプログラム言語の名称で、ソフトウェア開発に不慣れなアーティストでも簡単にプログラミングできるように工夫された「簡易/変則? C言語」と個人的には理解しています。
「絵を簡単にスケッチする」からその名が来ているかもしれません。ヘルプ>「このソフトの使い方について」クリックで、スケッチが説明されます。ランゲージレファレンスも参考になります。

スケッチ重要事項をまとめます。

  • 2関数、setup();初期設定と、loop();無限ループで全体処理を構成
  • IDEでオレンジ表示の既成API関数と、if then else 等の基本的C言語で処理ロジックを作成

Arduino IDEが、使用する開発ボードに応じたAPI関数を全て用意することや、簡易C記述を可能とする仕掛け、これがROM/RAMをIDEが多量に使用する原因だと思います。しかし残りが192KB/24KBならユーザ領域としては、十分で問題はありませんが…。

Lチカサンプル問題点

Lチカサンプル、Blinkのスケッチソースが下記です。delay(1000)を使って1秒毎の点滅処理を行っています。点滅間隔変更は、delayパラメタ1000を変えれば良いことが解ります。但し、delay処理中は、他の動作はできません。マルチタスク処理は困難です。

Blink source
Blink source

そこで登場するのが、ファイル>スケッチの例>02.Digital>BlinkWithoutDelayです。

BlinkWithoutDelay source
BlinkWithoutDelay source

今度は、delayを使いませんので52行の1秒経過を判断してLEDをトグル点滅させます。トグル点滅以外のループ時間は、他動作が可能ですが、これにも問題があります。

Curieなどが活躍するIoTマイコンは、省電力動作が必須です。制御対象のセンサやGPIOデータ処理は、IoTマイコンにとっては遅い処理で、この遅い処理完了を待つ間は、MCUを省電力動作させバッテリや電力消費を抑えるのです。1つ1つのマイコン消費電力は小さくても、数億個のマイコンが動作するIoTの世界では、低電力動作は無視できません。

結局、BlinkWithoutDealyの方法も、無限ループが回りっぱなしで省電力動作向きではありません。

マイコンテンプレート

ユーザ処理を時分割で起動するのがマイコンテンプレートです。

起動したユーザ処理終了後や、起動処理が無い時は、自動的に省電力動作となります。組込みRTOS:Real Time Operating Systemにも同様な機能がありますが、RTOSほど複雑でなく、サイズ自体も小さいのが特徴です。詳しくは、マイコンテンプレートのサイトのテンプレート利用Tipsなどを参照してください。

既に5種のマイコンにテンプレートを販売中です。開発するのは、Arduino/Genuino 101開発ボード対応のマイコンテンプレートです。進捗状況などについて、本ブログに記載するつもりです。

先に示したIntel IQ Softwareがリリースされれば、RTOSも含まれていますので、そちらの方が良いと思う開発者の方も多いと思います。しかし、RTOSを使いこなすのは簡単ではありません(RTOS関連記事も参照)。
また、Windowsがそうであるように、OS自体の動作が不明で、さらにバグがある可能性も否定できません。

個人や小人数で開発するような規模のプログラムには、マイコンテンプレートは中身の動作が全て開発者に見え、カスタマイズも可能なので向いていると思います。

* * *

※弊社マイコンテンプレートサイトのページ選択をタブメニューに変更しました。従来よりも記事表示エリアが大きくなり、より見やすくなっております。
※ブラウザのキャッシュなどで表示がおかしい場合には、F5:再表示すると修正されます。お勧めのブラウザは、Firefoxです。

IoTコアにIntel入ってる

Intel製IoTマイコンコアのCurie 32MHzを搭載した開発ボード「Genuino 101」が4880円で発売されました。

Genuino 101
Genuino 101

Arduino UNO互換でArduino IDEが使え、右下のBluetooth LEアンテナ実装でROM/RAM=196KB/24KBです。

インテルのIoTコアデバイス

インテルは、先にIoT向けコンピュータEdisonを発表済みで、これを使った開発ボードも販売中です。
つまり、マイコンとIoTコンピュータ両方のデバイスを供給し、かつ、入手性も良い開発キットを提供できる半導体ベンダがインテルとなりました。

私が想定しているIoTデバイスの構成は下図です。

IoT Devices
IoT Devices

マイコンとIoTコンピュータ間は、Bluetooth LE:BLE通信です(理由はこちらの記事)。

BLEの複雑なプロトコルスタックから、たとえBluetooth認証マークが付いていても複数ベンダが混在する空間で、MCUとMPU/SBC間の無線BLE通信が上手く行くかは、やってみないと判りません。杞憂ですが、同一ベンダ同士でのみ安定に通信できる可能性もあります。

そうなると、パソコンCPUのデファクトスタンダードがインテルであるように、IoTコアも「インテル入ってる」つまり、インテル独占状態になるかもしれません。自社デバイス生産能力も持っているインテルですので供給価格の安さも含めて他ベンダには脅威でしょう。やはり杞憂ですね…(^_^;)。

本ブログのIoTデバイス

Curieマイコンも本ブログの対象とする必要がありそうです。
こちらの固定ページに、対象デバイスの特徴などを簡単に列記しておりますので合わせてご覧ください。

PSoC 4 BLE Pioneer Kitサンプルソフト改版

弊社推薦PSoC 4 BLE/PSoC 4開発キットのPSoC 4 BLE Pioneer Kit:CY8CKIT-042-BLE付属サンプルソフトが、2016/02/12 Revision *Hへ改版されました。Cypress Update Manager起動でUpdate可能です。

Update Manager更新失敗時の対処

殆どの場合Update Managerで更新は成功します。しかし、Windows 10の煩いセキュリティのおかげ?で時たまCY8CKIT-042-BLEのみUpdate失敗があります。この時は、CY8CKIT-042-BLEサイトから直接Download CY8CKIT-042-BLE Kit Only Packageをダウンロードし実行すれば、更新は成功します。

Cypress Update Manager成功時
Cypress Update Manager成功時

更新内容

今回の更新は、PSoC 4 BLEキットに搭載可能なBluetooth 4.2対応のPSoC 4 BLEとPRoCモジュールが増えた事への対処です(コチラの記事も参照)。但し、キットに初めから搭載されているサンプルソフトとモジュールに変更はありません。キットガイト抜粋のサンプルソフトと対応モジュール一覧が下記です。

PSoC 4 BLEサンプルソフトと対応モジュール一覧
PSoC 4 BLEサンプルソフトと対応モジュール一覧

キット搭載のROM 128KBでBluetooth 4.1対応モジュールのPSoC 4: CY8C4247LQI-BL483と、PRoC: CYBL10563-56LQXIが、デフォルトで対応するモジュールのデバイスです。(デバイス差明示のため赤表記)。

PSoC 4 BLEモジュールでは、
Bluetooth 4.1でROMが128KBから256KBへ増えたCY8C4248LQI-BLE483、
Bluetooth 4.2でROMが256KBのCY8C4248LQI-BL583、
PRoC モジュールでも、同じく
Bluetooth 4.1でROMが128KBから256KBへ増えたCYBLE10573-56LQXI、
Bluetooth 4.2でROMが256KBのCYBL11573-56LQXI、
BLEドングルもBluetooth 4.2対応のCYBL11573-56LQXIのサンプルソフト、Projectが対応します。

弊社テンプレートの適用例であるBLE_PSoCプロジェクトのリソースメータが示すように、簡単なアプリケーションでも128KB ROM/RAMの6割以上を使用しますので、デバイスROM容量が256KBへ増えたのは、納得できます(販売中のPSoC 4/PSoC 4 BLE/PRoCテンプレートはコチラを参照してください)。

テンプレート応用例BLE_PSoCのリソースメータ
テンプレート応用例BLE_PSoCのリソースメータ

残念ながら、わずか15$で追加できるBluetooth 4.2対応モジュールを未入手なので確認はできていませんが、モジュール変更時は、デバイス再選択と使用コンポーネントをBLE 4.2へ更新しさえすれば簡単にサンプルソフトを適用できそうです。

この追加モジュールのROM容量とBluetoothの対応が解りやすいのが、ガイトA.5表です。

実装モジュールのROMとBluetooth対応
実装モジュールのROMとBluetooth対応

CySmartアプリソースコード公開

Cypressは、BLEドングルの代わりにAndroidやiOSで使えるCySmartというスマホアプリも公開中です。今回、これらのソースコードも公開されました。時間と能力があれば、モバイルアプリ開発も是非トライしたいと考えています。

※弊社BLE動作テンプレートは、全てBLEドングルを使ってBLE通信動作を確認済みです。CySmart+私のNexus 5:Android 6.0.1という組合せは、原因はNexus側にあると思いますが上手く接続できないのが理由です。

マイコンでBLE実現の3方法

レガシーなUARTは簡単に使えるマイコン開発者でも、BLE:Bluetooth Low Energyは、新しくかつ仕様も追加されつつあるので手を出しにくいものです。しかし、いざBLEを仕事で使う段になれば、いつものように、厳しいスケジュールでの開発が要求されます。

そのような開発者個人が、入手性が良いマイコン:MCUで電波法の縛りがある日本国内でBLE通信を自習する方法を3つ紹介します。

BLE習得3方法

仕事での開発と違い、個人でBLEの開発環境を整える場合は、「入手性とその金額」が問題になります。金額ベースで安い順に3方法を評価したのが下図です。

BLE実現3方法
BLE実現3方法

Cypress PSoC 4 BLE利用の方法1は、低コスト($49)で環境構築可能ですが、多少BLE仕様を理解する必要があります。しかし、BLEを習得するならお勧めの方法です。

BLEモジュール追加の方法2は、マイコンUART入出力にBLEモジュールを追加する方法です。
マイコン以外にBLEモジュールが必要なため、追加コスト(図示、浅草技研BLESrialの場合4000円)が必要ですが、BLEを無線のドカン(UART over BLE)として使えるので、BLEをブラックボックスとして扱えるのが魅力です。
方法1と方法2のコスト差は、使用マイコンにも依存するので大差ありませんが、後で示す仕様変更時に差が出ます。

ルネサスRL78/G1D利用の方法3は、BLE機能を持つルネサスRL78マイコンを使うので技術資料が日本語ですが、開発には高価な有償版CS+と評価ボードが必要になります。RL78マイコンを仕事で使っている場合は、有利かもしれません。

BLE仕様が変わる現状への対処

マイコンBLEの通信相手は、前回示したMPU/SBCなどのIoT向けPCの他に、スマホが使えます。

スマホBLEには、「BLE 4.0/4.1/4.2など様々な仕様」があります。多くの通信仕様のように、下位互換性がありますが、セキュリティなどの機能強化が図られており、結果、対応マイコンにはますます大容量ROMや高性能化が要求されます。

このようなBLE仕様の変化や仕様追加に対して、PSoC 4 BLE: CY8CKIT-042-BLEは、実装CPUモジュール($15)の載せ替えで対応します(コチラの記事を参照)。一方、BLEモジュール追加の方法は、モジュール購入時で仕様が固まっているので、変更には対応モジュールの再購入が必要です。

総合評価結果

入手性とその金額、BLE仕様変更への対応から、PSoC 4 BLEを使った方法1が、コスト的にも、BLEに関するCypress日本語資料も少なからずありますので、個人でBLE習得するには最も優れた方法だと思います。

IoT時代は、UARTと同じレベルでBLEを使うことが必須です。仕事でせかされる前にBLE技術を習得しませんか? 弊社PSoC 4 BLEテンプレートもお役に立てると思います。

Raspberry Pi 3 Model Bの意味

Raspberry Pi 3 Model Bが発売されました。前のRaspberry Pi 2との差分は、処理能力向上とIEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 4.1 (BLE: Bluetooth Low Energy)の無線通信機能搭載です。

Raspberry Pi 3 Model B(記事より抜粋)
Raspberry Pi 3 Model B(記事より抜粋)

IoTでは、数億~数十億個とも予想される情報収集マイコン(MCU)と、これらマイコンを束ねてクラウド側処理に適した変換処理をするRaspberry Piのようなコンピュータ(MPU、SBC)が必要です。

今回Raspberry Pi 3でIEEE 802.11b/g/n、Bluetooth 4.1(BLE: Bluetooth Low Energy)が追加実装されたことは、MCU、MPU/SBC間の通信手段としてこれら方式が有力であることを示しています。また、セキュリティや通信に処理能力が必要なので高性能化も解ります(既にこれら機能実装済みのDragonBoard 410cは、こちらを参照)。

低消費電力が要求されるマイコンMCUとの通信にはBLE、高速大容量が要求されるクラウドとの通信には無線LANが適用されると思われます。

IoT階層構造
IoT階層構造

今後のマイコン開発者には、従来通信の「UARTと同レベルでBLE習得が必須」です。

弊社マイコンテンプレートは、CypressのPSoC 4 BLEテンプレートでこの要求に対応済みです。最新のPSoC Creatorは、よりセキュリティを強化したBLE 4.2へも対応しています。BLEをUARTと同様に簡単に使ってみませんか?