ベアメタルかRTOS開発か?

弊社MCUテンプレートご購入者様から、ベアメタルかRTOS、どちらの開発が良いかについてご質問がありました。
ご質問者同意を得ましたので、筆者回答を一部修正、抜粋して示します。

Summary:クラウド接続=RTOS開発、スタンドアロン=ベアメタル開発

RTOS vs. BareMetal
RTOS vs. BareMetal

AWSやAzure RTOSなどのクラウドへ接続するMCUは、RTOS(FreeRTOS/Azure RTOS)開発が必須です。クラウド接続やセキュリティ確保に、専用RTOSライブラリ利用が必要だからです。また、大規模、複数開発者の場合も、RTOS開発が向いています。

スタンドアロン動作のMCUは、ベアメタル開発をお勧めします。MCU動作を全て開発者で管理・制御できるからです。

ベンダ提供サンプルコードとMCU評価ボードを活用すると、ベアメタル/RTOSどちらの開発でも、高品質・短期間で製品のプロトタイプ開発ができます。弊社MCUテンプレートは、サンプルコード活用プロトタイプ開発に適しています。

クラウド接続MCU:割込みベースRTOSタスク開発

AWS (Amazon Web Services)やAzure (Microsoft Azure Cloud Services)へ接続するMCUは、クラウド接続用に、FreeRTOSやAzure RTOS接続ライブラリの利用が前提条件です。また、高度なセキュリティ対策が求められますので、クラウド側提供セキュリティライブラリを使うことも求められます。

従って、クラウド接続MCUは、必然的にRTOS開発となります。

通信やセキュリティ以外の処理は、タクス(スレッドとも言うが、以下タスクと略)の開発が、ユーザ開発内容です。

タスクは、移植性が高い単位に機能分割し、割込みベースで作成します。複数タスクの割込み処理や優先順位を管理・処理するのが、RTOSの役目です。

RTOSが優先順位に基づいて個々のタスクをMCUに割当てることで、複数タスクの並列処理が進みます。シングルコアMCUの場合、一度に実行するタスクは1個です。従って、タスクは時分割処理です。分割タイミングが短く、しかも優先順位に基づいたタスク処理ですので、複数タスクが並列処理しているように見えます。

タスクは、別タスクのことを考慮せず独立性、移植性高く開発可能です。その代償として、RTOSが複数タスク間優先制御を行うセマフォ/ミューテックス/イベントフラグなど、また、タスク間通信を行うメッセージバッファ/メールボックスなどのRTOS独自機能を、開発タスクに組込む必要があります。

関連投稿:RTOS習得

移植性や独立性が高い開発済タスクは、ベアメタル比、ソフトウェア資産として他プロジェクトへもそのまま使えるメリットがあります。また、ソフトウェア規模が大きく、複数開発者で共同開発する時も、機能完全分離RTOS開発の方が優れると言われます。

スタンドアロンMCU:ポーリングベースベアメタル開発

RTOSが行う周辺回路の割込み処理や優先制御を、全てユーザが行うのがベアメタル開発です。

但し、デバッグや処理開発のし易さを考慮すると、ポーリングベース開発をお勧めします。

つまり、周辺回路の割込みフラグを、一旦、割込み処理待ちフラグへ置換え、この割込み処理待ちフラグをポーリングすることで処理を実行する方法です。割込み処理待ちフラグは、RAMへ展開されますので、開発処理もRAMフラグで制御でき、割込みを直接扱うよりも単体デバッグが容易になります。

ベアメタル開発は、単体デバッグ済みの複数処理を、MCU全体で上手く実行する制御部分も必要です。弊社ベアメタルMCUテンプレート英語版MCUテンプレートは、この制御部分を提供します。

サンプルコード活用プロトタイプ開発

サンプルコード活用プロトタイプ開発
サンプルコード活用プロトタイプ開発

RTOSはタスク、ベアメタルは周辺回路制御のソフトウェア開発が必要です。

但し、ベンダは、周辺回路制御の参考となるソフトウェアを、サンプルコードとしてMCU評価ボードと共に提供します。サンプルコードは、ベンダ専門家が開発した評価ボード動作確認済み高品質コードですので、これをユーザが利用しない手はありません。

現在サンプルコードは、ベアメタル用のものが殆どです。しかし、RTOSタスク開発へも応用できます。サンプルを上手く利用することで、0から開発するよりも、短時間でソフトウェア開発ができます。

また、評価ボードMCU周りの部品配置やアートワーク配線は、処理性能過不足時のMCU交換や耐ノイズ性が高いハードウェア開発の参考書になります。

MCU開発を高品質・短期間で行うには、サンプルコードとMCU評価ボードを活用し、製品プロトタイプ開発がお勧めです。プロトタイプから製品へフィードバックをかければ、より良い製品化が可能です。

Afterword:ベアメタル開発からRTOSへステップアップ

IoT MCU開発者スキルの階層構造
IoT MCU開発者スキルの階層構造

Windowsアプリ開発時は、Windows APIの利用は当たり前です。多くの解説書もあります。

IoT MCU開発時も、FreeRTOSやAzure RTOSが当然になると思います。ただMCU開発には解説書が少なく、その理解には基礎知識が必要です。基礎がグラつくと、その上の積み重ねは非常に困難です。

MCU開発の基礎は、ベアメタル開発です。IoT普及でRTOS MCU開発も増えます。IoTに向けてRTOSを勉強しようと考える方も多いと思います。その場合は、ベアメタル開発の何をRTOSが代行し、何が得られ、何を失うか、RTOSオーバーヘッドはどの程度かを考えながら学習すると、より効率的にRTOS習得ができます。

例えば、RTOS開発には、セマフォやミューテックスなどのベアメタル開発に無い多くのRTOS機能を新に学ぶ必要があります。しかし、よく使う機能は少数です。ご自分のベアメタル手法を代行するRTOS機能から学び始め、それでも足りない機能はRTOS側に用意されていますので、順次増やしながらタスクを開発して行くと良いと思います。

ソフトウェア開発は、AI Copilot出現で激変への過渡期です。数年後には、ライブラリ組み換え作業などへ開発が変わり、不足がちなMCU開発解説もAIが代行してくれるかもしれません。

そんな全能AI過渡期でも、ご自分自身で獲得した基礎の重要性は、変わらないと筆者は考えます。


FSPベアメタルサンプルのRTOSスレッド化

前投稿FSPベアメタルサンプルコード:sci_uart_fpb_ra6e1_epを、RTOSスレッド化する方法を示します。

多くのルネサスRA公式サンプルコードを活用した効率的なRTOSスレッド開発が本方法で可能です。FreeRTOS、Azure RTOS両方に使えます。

サンプルコードベースRTOSスレッド開発

RTOS開発は、複数スレッドを組合せ全体を動作させます。ベアメタルコードに比べ、個々のスレッドは、独立性や移植性が高い特徴があります。スレッド優先度やセマフォなどのRTOSオブジェクトを適切に設定すると、複数スレッド全体処理としてユーザ所望のシステム動作をします。

スレッドは、勝手に回る歯車、優先度やRTOSオブジェクトは、各歯車をシステム全体で上手く動作させる手段と考えると解りやすいと思います。

スレッドとRTOSの役目
スレッドとRTOSの役目

スレッド設計法は、機能別や処理手順別など様々あり、唯一の方法は無さそうです。しかし、先ずは、歯車となるスレッドを開発し、次に、開発スレッド優先度やRTOSオブジェクトを調整しながら、システム全体動作を仕上げるのがRTOS開発の方法です。

本稿は、スレッド単体開発の1方法として、ルネサスRAファミリ公式FSPベアメタルサンプルコードを活用したサンプルコードベースのRTOSスレッド開発法を示します。複数スレッドを組合せたRTOSオブジェクトの適切な調整や設定に関する内容は、含みません。

公式ベアメタルサンプルコードは、各ベンダエキスパートが開発し、評価ボードで動作確認済みの高信頼ソフトウェアです。また、MCU周辺機能毎に多くのサンプルコードが提供中です。

これらベアメタルコードを活用する本方法は、FreeRTOS/Azure RTOSどちらのRTOSスレッド開発へも使えます。

RTOSスレッド化方法

詳細は、後で説明しますが、先ず、ベアメタルサンプルをスレッド化する手順を簡単に示します。方法全体像が判っていると把握しやすいからです。

  1. スレッド無しで空の新規RTOSプロジェクト作成
  2. g_ioport以外のベアメタルサンプルFSPスタックを、RTOS FSPスタックへImport
  3. hal_entry.c以外のベアメタルサンプルsrcファイルを、RTOSプロジェクトsrcフォルダへコピー
  4. 新しいスレッド:MyThreadをRTOSプロジェクトへ追加後、Gegerare Project Contentクリック
  5. MyThread_entry.cへ、初期設定と無限ループ処理を追記

1で新規作成した空のRTOSプロジェクトへ、2と3で対象ベアメタルサンプルから内容を追加、4でベアメタルmain()相当の新しいMyThreadを追加後、FSPを使ってRTOSプロジェクトを自動生成します。

生成後、5でRTOSプロジェクトのMyThread_entry.c初期設定と無限ループを追記します。追記内容は、ベアメタルサンプルの初期設定と無限ループ処理です。

つまり、1~5手順全てFSPベアメタルサンプルからの単純コピーでRTOSスレッド化が可能です。

次章から、前投稿で用いたベアメタルサンプルコード:sci_uart_fpb_ra6e1_epを、FreeRTOSスレッド化する具体例を使って、各詳細手順を示します。

1. 空の新規FSP freertos_uartプロジェクト作成

スレッド無しで空の新規FreeRTOSプロジェクト作成
スレッド無しで空の新規FreeRTOSプロジェクト作成

スレッド無し空FreeRTOSプロジェクトを新規作成します。新規RTOSプロジェクト名は、freertos_uartとでもしてください。

2. sci_uart_fpb_ra6e1_epのFSPスタックImport

sci_uart_fpb_ra6e1_epのFSPスタックImport
sci_uart_fpb_ra6e1_epのFSPスタックImport

freertos_uartプロジェクトのFSPスタックへ、sci_uart_fpb_ra6e1_epのg_ioport以外のFSPスタックを全てImportします。Importした各スタックプロパティは、オリジナルプロパティと同じに手動で設定してください。

3. sci_uart_fpb_ra6e1_epのsrcファイルコピー

sci_uart_fpb_ra6e1_epのsrcフォルダファイルコピー
sci_uart_fpb_ra6e1_epのsrcフォルダファイルコピー

sci_uart_fpb_ra6e1_epのhal_entry.c以外のsrcファイルを全て、freertos_uartのsrcへコピーします。

4. freertos_uartプロジェクトへ新しいUart Thread追加後、Generate Project

新しいUart_Thread追加
新しいUart_Thread追加

新しいスレッドのSymbolは、Uart_threadとしてください。先頭を大文字にする目的は、FSPが自動生成したファイルやスレッドが使う全小文字表記とユーザ追加のそれらを、大小文字で区別するためです。

Tips:大文字利用は、好みの問題です。RTOS開発は、多数のスレッドやオブジェクトソースが、プロジェクト・エクスプローラのsrcフォルダに表示されます。自分が追加したソース(バグ有り?)と純FSP生成ソースを、一目で区別できるメリットがあります。

最後にGenerate Project Contentをクリックし、FSPによりRTOSプロジェクトを自動生成します。

5. Uart_Thread_entry.cへ初期設定と無限ループ処理追記

RTOSプロジェクトのsrcフォルダ内に、Uart_thread_entry.cが生成されます。

先頭の#include “Uart_thread.h”に、sci_uart_fpb_ra6e1_epのsrcファイルにある#include “common_utils.h”、 #include “uart_ep.h”、 #include “timer_pwm.h”を追記します。
これら4個の#include文は、freertos_uartの全srcファイルに手動で追記します。

Uart_thread_entry.cの初期設定
Uart_thread_entry.cの初期設定

RTOS初期設定は、Uart_thread_entry.c のTODO: add your own code here以下へ、sci_uart_fpb_ra6e1_epの初期設定:hal_entry.cのL41からL93までをコピーします。

sci_uart_fpb_ra6e1_epの無限ループ処理は、コピーした初期設定の後方にあるuart_ep_demo()です。

RTOS無限ループ内には、上図でコメントアウトしたコンテキストスイッチが必要です。そこで今回は、RTOSプロジェクトuart_ep.cのuart_ep_demo()内へ、直接コメントアウトしたFreeRTOSコンテキストスイッチ:vTaskDeley(1)を追記します。

uart_ep.cのuart_ep_demo()へ追記するコンテキストスイッチ
uart_ep.cのuart_ep_demo()へ追記するコンテキストスイッチ

Tips:#include “Uart_thread.h”が、FreeRTOS関連API:コンテキストスイッチ追記を可能にします。

sci_uart_fpb_ra6e1_epとfreertos_uartスレッド同一動作確認

RTOSプロジェクトをビルドし、評価ボードへダウンロード後、実行してください。前稿のベアメタルサンプルコードと全く同じ処理が、開発したfreertos_uartスレッドで確認できます。

FreeRTOS/Azure RTOSスレッド化差

本稿で示したFreeRTOSスレッド化とAzure RTOSスレッド化の差は、コンテキストスイッチのみです。FreeRTOSならvTaskDelay(1)、Azure RTOSならtx_thread_sleep(1)が、コンテキストスイッチです。

Tips:コンテキストスイッチは、FreeRTOS/Azure RTOS開発手法のRTOS処理フローなどを参照してください。

ベアメタルサンプルコードをAzure RTOSスレッド化する時は、手順1で、新規Azure RTOSプロジェクトを作成し、手順5のvTaskDelay(1)の代わりに、tx_thread_sleep(1)を使えばOKです。

Tips:FSP生成スレッドMyThread_entry.cの無限ループ内には、作成RTOSプロジェクトに応じて初めからvTaskDelay(1)、またはtx_thread_sleep(1)が実装済みです。

本方法が、FreeRTOS/Azure RTOSどちらのRTOSスレッド開発へも使えることが分かります。

補足

2023年1月16日、e2 stidioは2022-10のまま、RAファミリFSPがv4.2.0へ更新されました。本稿は、FSP v4.2.0/4.1.0両方で動作確認済みです。



FSP利用FreeRTOSアプリの作り方

ルネサスFSP(Flexible Software Package)とサンプルコード利用の「実践的FreeRTOSアプリの作り方」を示します。下記の最新開発環境を用いました。古い環境や別評価ボードでも同じ結果が得られると思います。

 全体流れ説明

先ず本FreeRTOSアプリ開発の全体の流れを説明します。というのは、組込み開発で良くあるサンプルコード付属説明:readme.txtとソースコード動作が不一致など、少々込み入った内容を含むからです。

  1. FPB-RA6E1購入時インストール済みサンプルコード:qiuckstart_fpb_ra6e1_epは、ベアメタルソフト。readme.txt記載のSW1プッシュでLED1/2点滅速度変化とは不一致。
  2. SW1プッシュでLED1/2点滅速度変化へFSP改造(1と2は、ベアメタル開発)。
  3. FPB-RA6E1で、新規LED1/2点滅FreeRTOSアプリ作成(3以降は、FreeRTOS開発)。
  4. 作成FreeRTOSアプリのLEDスレッドへ、2.のベアメタルのSW1プッシュLED1/2点滅速度変化改造FSPと、ソースコード移植。
  5. LED2は、FreeRTOSアプリエラー表示用とするため、点滅処理から削除。

本稿の背景

ベアメタル開発者は1と2、RTOS開発者は3以降が実行できれば、SW1プッシュでLED1点滅速度変更の1スレッドのみを持つFreeRTOSアプリを開発できます。

「実践的FreeRTOSアプリ開発」としたのは、0からアプリを開発するのではなく、豊富に提供される公式サンプルコードを流用・活用し、所望アプリを早く効果的に開発する例を示したかったからです。

RTOSのメリットを説明した資料は多く見かけます。しかし、具体的なRTOSアプリ開発方法を示す資料が少ないことも背景にあります。

以下、1~5の説明を加えます。細かい説明は後回しにし、まとめ章を先に読むとより全体が解り易いと思います。従って、まとめ章を先に記述します。また、最後の章に、RTOS開発の基盤となるRAベアメタルテンプレート宣伝(?)もあります。

まとめ:実践的RTOSアプリ開発方法

評価ボード実装済みLED1とSW1は、いわば開発アプリ正常動作中を示すインジケータです。開発したFreeRTOSアプリをテンプレートとし、所望機能のスレッドを追加していけば、最終的に様々なFreeRTOSアプリを早期に開発できます。

FreeRTOSをRAファミリFSP利用例としましたが、Azure RTOSでも同様です。

つまり、本稿のアプリは、RTOSテンプレート骨格で説明した内容を、より具体化したものです。

もちろん複数スレッド追加時は、スレッド優先度やスレッド間制御(セマフォ/キュー/ミューティックスなど)の検討も必要になります。これらは、追加スレッドがほぼ完成した後の検討項目です。

先ずは、必要な個々のスレッドを単体・単独で開発し、その後、複数スレッド結合へと段階的に進める方法がRTOS開発には適していると考えます(関連投稿:FreeRTOS/Azure RTOSソフトウェア開発手法)。

複数スレッドの検討方法は、文章量が増えるため割愛しました。別途改めて、投稿する予定です。

1:qiuckstart_fpb_ra6e1_ep動作とreadme.txt

サンプルコードzip内のqiuckstart_fpb_ra6e1_ep
サンプルコードzip内のqiuckstart_fpb_ra6e1_ep

評価ボードに初めからインストール済みのサンプルコードが、quickstart_fpb_ra6e1_epです。zip内に収められています。e2 studioは、zip内にあるサンプルコード説明書:readme.txtをIDE内にインポートしません。

Tips:zip解凍後のreadme.txtを、サンプルコードプロジェクト内へ手動でコピーしておくと、いろいろ便利。
Tips:quickstart _fpb_ra6e1_epのfpb_ra6e1が評価ボード名、epはexample projectの略。別評価ボード利用時は、fpb_ra6e1部分が異なる。

quickstart_fpb_ra6e1_epのreadme.txtが下記です。

quickstart動作とreadme.txtの不一致箇所
quickstart動作とreadme.txtの不一致箇所

下線部:評価ボードSW1でユーザLED1/2点滅制御とありますが、この動作はFPB-RA6E1にはありません。しかし、quickstart_fpb_ra6e1_epソースコードには、SW1割込み処理:callback_irq1ds_buttonでLED1/2点滅delay変更処理が記述済みです。

これは、RAファミリのソースコードがHAL(Hardware Abstraction Layer)記述で、MCUが変わっても同じソースコードを使えるからです。別評価ボードのソースコードとreadme.txtを、そのままFPB-RA6E1へコピー流用している訳です。

組込み開発ではMCUの種類が多いため、このように既存資産をコピーして当該MCUコードや資料を作ることは良くあります。その結果、今回のようにreadme記述内容とサンプルコード動作が不一致なことも多々あります。

Tips:逆に上記は、MCUソフトウェア開発の本質が「サンプルコードやFSPなどの既存資産を上手くコピー活用すること」を示しているとも言えます!

2:SW1プッシュ割込みでLED1/2点滅速度変化へFSP改造

readme.txt記述とサンプルコード動作不一致の原因が、FSPです。

そのままコピーできるreadmeやサンプルコードと異なり、FSPは、当該MCU毎に設定が必要です。不一致の原因は、FPB-RA6E1のFSP設定にミス(忘れ)があるからです。

動作一致のためには、外部割込みコントローラ(External IRQ)とFPB-RA6E1のSW1(P205)の接続が必要です。下記のようにP205ピン設定を変更後、Generate Project Contentをクリックします。

quickstart_fpb_ra6e1_epを再ビルドし、評価ボードへダウンロードすれば、readme内容と同じSW1プッシュでLED1/2点滅速度が変わります。

外部割込みコントローラ(External IRQ)とS1(P205)を接続するピン設定
外部割込みコントローラ(External IRQ)とS1(P205)を接続するピン設定

3:LED1/2点滅新規FreeRTOSアプリ作成

新規FreeRTOSアプリ作成は、ベアメタルアプリ作成と同じ方法です。そこで、本稿は、ベアメタル作成との差分のみを示します。

LED点滅の新規FreeRTOSアプリ作成(ベアメタル作成との差分)
LED点滅の新規FreeRTOSアプリ作成(ベアメタル作成との差分)

新規作成FreeRTOSプロジェクト名は、freertos_blinkyとでもしてください。FSP Summaryが下記です。

FSP Summary
FSP Summary

このfreertos_blinkyを評価ボードへダウンロードすると、LED1/2が1秒毎に点滅します。生成したLEDスレッド:blinky_thread_entry.cのvTaskDelay(configTICK_RATE_HZ)が、1秒点滅の仕組みです。

4:LEDスレッドへ、2:SW1プッシュLED1/2点滅速度変化改造FSP移植

2:で改造したSW1割込みでLED1/2点滅速度を変える機能を、3の新規FreeRTOSアプリへ移植します。

freertos_blinkyのFSP Stacksタブを選び、画面上で左クリックしImportを選択します。From fileにquickstart_fpb_ra6e1_epを選び、configuration.xmlを開きます。Stack ImportでExternal IRQを選ぶとquickstart_fpb_ra6e1_epの割込みコントローラ設定がfreertos_blinkyへ移植できます。

Tips:移植するFSPスタック数が多い時は、Import機能が便利。

FSP Import
FSP Import

しかし、割込みコントローラとSW1(P205)間の接続はImportできません。そこで、1:と同様にP205ピン設定を割込みコントローラと接続し、Generate Project ContentクリックでFSP移植は完了です。

Tips:FSP Importは簡単便利だが、上記のように同一MCUであっても、ピン設定はImportされない。また、ピン設定が無くてもエラー表示もない。代替方法に、New Stackクリックでスタック群から追加機能を選ぶ方が、ピン設定忘れが少ないかもしれない。

次に、SW1割込み処理:callback_irq1ds_buttonを移植します。

callback_irq1ds_button処理は、e2studioのDeveloper Assistanceを開き、callback_function_definitionをクリックし、blinky_thread_entryの後へペーストで追記します。今回は、TODO:add your own code hereコメント後へ、quickstart_fpb_ra6e1_epのSW1割込み処理をコピー&ペーストし移植します。

コピー後エラーが表示される箇所は、全て定数未定義部分ですので、quickstart_fpb_ra6e1_ep定数部分もコピー&ペーストします。

Tips:e2 studioは、デフォルトではソースコード変更後、このように即コンパイルエラーを表示。

最後に、vTaskDelay(configTICK_RATE_HZ)のconfigTICK_RATE_HZ を、割込み処理で作成したg_delayへ変更します。

以上で、割込み処理の移植完了です。ビルドし、SW1でLED1/2点滅速度が変わることが確認できます。

SW1割込み処理:callback_irq1ds_buttonの移植
SW1割込み処理:callback_irq1ds_buttonの移植

12月10日追記:FSP Importした割込みコントローラ初期化の移植記述を忘れていました。追記します。

Importした割込みコントローラの初期化:icu_initializeも、下図のようにblinky_thread_entry.cへ移植します。

割込みコントローラの初期化処理の移植
割込みコントローラの初期化処理の移植

5:LED2点滅処理削除

LED2は、FreeRTOSアプリのエラー表示に使います。例えば、追加したスレッド初期設定に失敗した時のインジケータなどです。そこで、下記のようにLED2をLEDスレッドの点滅処理から外します。

LED2点滅処理削除
LED2点滅処理削除

以上で、SW1プッシュでLED1点滅速度変更の1スレッドのみを持つFreeRTOSアプリ完成です。

このFreeRTOSアプリへRTOSテンプレート骨格で投稿した7メニュー形式表示、LED2エラー表示などの機能を更に追加しFreeRTOSテンプレートとします。

FreeRTOSテンプレートは、全てのFreeRTOSアプリ開発の出発点となり、所望スレッド機能を追加していけば、効率的に様々なRTOSアプリ開発が可能です。

Tips:本稿はFreeRTOSテンプレート開発方法に重点を置き投稿。実FreeRTOSテンプレートは、もっと解り易い構造とソースコードで提供。

RTOS開発はベアメタル開発スキル必須

前章1~5から「RTOS開発には、ベアメタル開発スキルが必須」であることがお解り頂けたと思います。

組込み開発は、説明不足の事柄が非常に多いです。また、サンプルソフトとreadme.txtなどの説明不一致も多々あります。説明対象を初心者/中級者の誰にするか、どこまで説明するか、などなど読者を絞り難いこと、説明側にとっては、自明の理の内容が多いことがその理由です。

本稿で追記したTipsや背景となる技術スキルが無いと効率的に先へ進めないと思います。ベアメタルを補う目的のRTOS開発ではなおさらです。

RAファミリで、FSP利用の効率的なベアメタル開発スキルを身に付けるには、弊社RAベアメタルテンプレートがお勧めです。ソースコードに豊富な日本語コメントを付加し、付属説明資料にはTipsやFSPノウハウなども記載しています。RAベアメタルテンプレート説明サイトは、コチラをご覧ください。

ルネサス以外のベアメタル用テンプレートも多数ご用意しております。また、NXPのFreeRTOSアプリケーションテンプレートも販売中です。



RAベアメタルテンプレート発売

FPB-RA6E1で動作中のSimpleTemplateとRTT Viewer
FPB-RA6E1で動作中のSimpleTemplateとRTT Viewer
FPB-RA4E1で動作中のBaseboardTemplateとRTT Viewer
FPB-RA4E1で動作中のBaseboardTemplateとRTT Viewer

ルネサスCortex-M33コア搭載RAファミリ向けRAベアメタルテンプレート(税込1000円)を本日より発売します。概要、仕様、テンプレート提供プロジェクト構成は、コチラから無料ダウンロードできますので、ご検討ください。

RAファミリのポジション

RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)
RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)

ルネサスのARM Cortex-M系MCUは、競合他社比、発売が出遅れました。RXやSynergyなどの独自32ビットMCUファミリも供給中のルネサスRA位置づけが上図です。詳細は、コチラの関連投稿3章に説明済みです。

まとめると、RAファミリは、外付けE2エミュレータなどが不要の低価格評価ボードと容量制限なし無償コンパイラ利用など、他のルネサス32ビットファミリには無い個人レベルでも開発可能なARM Cortex-M33/M23/M4コア採用IoTセキュリティ強化MCUです。

RAファミリ開発の鍵:FSP

Flexible Software Package構成
Flexible Software Package構成

RAファミリ開発の鍵は、FSP:Flexible Software Packageです。一言で言うと、HAL APIコード生成ツール。MCU動作速度、内蔵周辺回路などのパラメタをGUIにより設定後、RAファミリ間で共通のHAL APIを一括生成します。
※HAL:Hardware Abstraction Layer

FSP活用で、RAファミリ間での移植性に優れたソフトウェア開発ができます。しかしながら、多くのパラメタをGUI上で設定するため、煩雑で特に初心者にとっては取っ付きづらい面もあります。

また、競合他社より後発のIoT向けMCUですので、FreeRTOSやAzure RTOS、TrustZoneなどのIoTセキュリティにも対応しています。RAファミリの拡張性、将来性を提供するツールがFSPです。

つまり、FSP習得が、RAファミリを使いこなす鍵です(コチラの関連投稿で詳細が判ります)。

RA6/4E1グループ選択理由

RAファミリカタログ(出典:ルネサス)
RAファミリカタログ(出典:ルネサス)

様々なラインナップを供給するRAファミリの中で、汎用性と超低価格な評価ボードも供給済みなのが、RA6E1グループ(Cortex-M33/200MHz)とRA4E1(Cortex-M33/100MHz)グループです。

※RA6E1評価ボード:FPB-RA6E1、RA4E1評価ボード:FPB-RA4E1

RA6/4E1グループとFSPで開発したソフトウェアは、RAファミリ間で共通に使える汎用性を持ちます。また、評価ボードで動作するFSPサンプルコードもありますので、FSP習得にも適しています。

RA6とRA4の分岐点は、最大動作周波数です。

240MHz動作のRA6は、大容量Flashを搭載し、高性能で多機能MCUマーケットを狙い、更に高性能なRA8シリーズへの発展性があります。100MHz動作のRA4は、高性能低消費電力MCUマーケット狙いで、Cortex-M23搭載5Vトレラント性も持つRA2シリーズへ高い親和性を持ちます。

従って、RAファミリ開発を始めるMCUとして、RA6/4E1グループいずれも適していると言えるでしょう。

※RA6最大動作周波数は、カタログでは240MHzとありますが、RAベアメタルテンプレートで用いた評価ボードFPB-RA6E1は、最大200MHz動作です。他RA6シリーズも、同様に現在200MHzです。
※RA8シリーズは、未発売です。

実務直結RAベアメタルテンプレートでFSP習得

近い将来、RTOSやTrustZoneなど、多くのIoT MCU技術を学ぶ必要があります。それでも、MCUの基本技術は、ベアメタルです(コチラの関連投稿参照)。

弊社RAベアメタルテンプレートVersion 1は、RAファミリ中核汎用RA6/4E1グループの超低価格評価ボードを使い、基本のベアメタル開発で、効率的にFSPを習得することが目的です。

FSP習得には、評価ボードサンプルコードが適しますが、サンプルコードは、複数処理が当然の実務応用が簡単ではありません。弊社テンプレートは、複数サンプルコードの活用・流用が簡単で、実務にも使えます。

弊社テンプレートと詳細な説明資料、安価で簡単、拡張性にも優れた推薦開発環境を使えば、誰でも簡単にMCUベアメタル開発の高い障壁を乗越えられ、かつ、FSP習得も可能です。

RAベアメタルテンプレート購入方法は、コチラを参照してください。ご購入、お待ちしております。

組込み開発 基本のキ:組込み処理

IoT MCUソフトウェア/ハードウェア開発者向け基本のキ、今回は、組込み処理の「ポーリング」、「割込み」、「低消費電力動作」とMCU開発の秘訣(コツ)を示します。ベアメタル開発でもRTOS開発でもこれらは同じです。これら基本を知ると、サンプルコードの読み方、利用法も解ります。

ポーリング と 割込み

「ポーリング」とは、無限ループを周る度に例えばSWが押されたかどうかのフラグ相当をポーリング(polling)し、フラグが立ったら、その処理を実行することです。

ポーリング
ポーリング

「割込み」は、割込み発生時に周辺回路が自動で呼出すISR(Interrupt Service Routine)を開発します。

ISRは、出来るだけ軽く(小さく)することが重要です。別周辺回路の割込みもできるだけ取込むためです。そこでISRでは、周辺回路が割込み発生時に立てた割込み発生フラグをリセット、このフラグとは別の割込み処理待ちフラグを立ててコード化するのが常套手段です。

この割込み処理待ちフラグを無限ループでポーリング、ブラグが立っていれば実際の割込み処理を実行します。

つまり、割込み処理の前段階にISRがあり、ポーリングのフラグ相当が割込み処理待ちフラグに変るだけ、結局、ポーリングに帰着します。

割込み
割込み

ベアメタル開発でもRTOS開発でも上記は同じです。RTOS時は、タスク間のセマフォ/Queueによる処理待ちが差分として追加されます(これら以外にも処理待ちはありますが、セマフォ/Queueで当面賄えます)。

低消費電力動作

無限ループをそのまま連続で回し続けると消費電力が増加します。そこで、間欠的にループを回し、ループを回さない時間は、最も電力を消費するMCUを停止するのが「低消費電力動作」です。

低消費電力動作
低消費電力動作

例えば1秒毎に1回ループを回すなど、低電力化を図りつつループ連続回しの時と大差なく処理する、つまり、どの程度間欠動作させるかが開発者の腕の見せ所です。

まとめ:ポーリング、割込み、低消費電力動作の3Tipsと開発秘訣

IoT MCUで開発するのは、MCUを含む周辺回路の初期設定と、無限ループ内の処理です。

初期設定とは、内蔵周辺回路を動作させるための設定です。周辺回路は、初期設定が終わると直に動作を開始します。そこでMCUは、動作中の周辺回路を監視し、必要に応じて処理を行います。このMCU監視が、無限ループ内の処理です。「組込み処理の中身」は、このように初期設定とループ内処理の2種類です。

初期設定の前にRAMクリアなどのスタートアップ処理もありますが、ここはIDEが自動生成し、通常、開発者が手を加えることは殆どありません。

初期設定は、サンプルコードの初期設定をそのまま流用する部分です。サンプルコードに使用例がない特殊(!?)な周辺回路の使い方をする時は、データシートやユーザマニュアルの当該周辺回路部分を熟読すればコード化できます。

次の開発部分が、無限ループ内です。ループ内処理をまとめた本稿の3Tipsが下記です

  1. 無限ループ内は、「ポーリング」か「割込み」のどちらか
  2. 割込みは、ISRで「割込み発生フラグ」を「割込み処理待ちフラグ」へ事前変換しポーリングへ帰着
  3. 無限ループの間欠動作と、間欠中のMCU停止が、「低消費電力動作」
組込み処理の3Tips、ポーリング、割込み、低消費電力動作
組込み処理の3Tips、ポーリング、割込み、低消費電力動作

組込み処理の中身とこれら3Tipsを知らずに組込み開発を始めるは、非効率です。中身と3Tipsを習得するには、紆余曲折、結構な時間と実務(失敗)経験が必要だからです。

例を挙げると、技術背景が少ない初心者にとっては、関連情報が多いため消化不良を起こします。また、初心者でなくても、開発自由度が高い(≒無いに等しい)ので、開発を上手く収束させには、Tipsやコツが必要になるなどです。

全てを網羅的に記述しているデータシートやユーザマニュアルは、既にこれらコツや技術背景を習得済みの中級者以上には役立ちますが、それ以外の人が読んでも実質の理解はできません。いきなり六法全書を読んで弁護士をする様なものです😂。

MCU開発の秘訣(コツ)は、先ず、3Tipsを基にプロトタイプを開発し、次に、実際に動作するプロトタイプを使って、開発自由度の高さを活かし動作チューニングすることです。

実働プロトタイプがあれば、データシート実質理解も進みますし、チューニング結果で変な動作になっても元のプロトタイプへ戻れますので、安心して色々な試行錯誤ができ、開発者スキルアップも容易です。

サンプルコード利用法

主要MCUベンダは、多くのサンプルコードを提供中です。

サンプルコードの目的は、“1つ”の周辺回路の基本動作を解り易く示すことです。基本動作は、初期設定と無限ループ内の2つに分けて読みます。無限ループ内は、Tips1/2から処理内容が理解できます。割込みの時は、ISRがあります。

初期設定は、開発に使う使用例と同じかどうかを添付コメントなどから判断します。使用例が同じ、または、近いなら、そのままコピーして流用します。内容を理解したい時は、”その周辺回路のデータシートのみ”を読めば十分です。

もちろん、サンプルコード無限ループ内のポーリング/割込み処理もそのままコピーして流用可能です。

但し、サンプルコードは、一般的にTips3:低消費電力動作への配慮がありません。また、サンプルコードを、“複数”集めて動作させる作り方ではありません。1周辺回路の動作コードを、シンプルに解り易く示すためです。

弊社マイコンテンプレートは、複数サンプルコードを利用する仕組みを予め持っています。また、無限ループの間欠動作と停止MCUを復帰させる仕組みも、テンプレートへ組込み済みです。

テンプレートのサンプルコード利用法
テンプレートのサンプルコード利用法

つまり、初めから複数サンプルコードの活用・流用が即座に出来るようテンプレート化、主要ベンダの汎用MCUに対応し、適用例と詳しい説明資料付き(一部ダウンロード可)で販売中です(ベアメタル開発用:1000円、RTOS開発用:2000円、テンプレート一覧と価格はコチラ)。

本稿3Tipsを知っていれば、サンプルコードを分析しながら読むことができ、必要に応じて各部分を自分のソフトウェアや弊社テンプレートへ組込むことも可能です。

プロトタイプ開発に最適なのが、弊社テンプレートです。テンプレートを使って早期にプロトタイプ開発を実現すれば、開発者の効率的スキルアップ、要求仕様に対するMCU性能過不足なども明らかとなり、お役に立てると思います。

テンプレートご購入、お待ちしております。

FreeRTOSサンプルコード(1)

NXPのCortex-M4/M0+ディアルコアLPCXpresso54114のFreeRTOSサンプルコードを数回に分けて調査します。Cortex-M4クラスのMCUは、処理は高速で大容量Flash、RAMを持つので、ベアメタル利用だけでなくRTOS利用ソフトウェア開発にも適します。

ベアメタルCortex-M0/M0+/M3に適用済み弊社テンプレートを、そのままCortex-M4 MCUに使うのは、テンプレートがMCU非依存なので簡単です。ですが、先ずFreeRTOSソフトウェアをよく知り、新開発ベアメタルCortex-M4テンプレートへ応用できる機能があるか判断するのが調査の目的です。

RTOS習得2017

2017年3月にLPCXpresso824-MAX(Cortex-M0+ 30MHz、32KB Flash、8KB RAM)を使ってFreeRTOSのポイントを調査し、結果をマイコンRTOS習得ページにまとめました。

第1部から第3部で、最低限のFreeRTOSと使用APIを解説し、第4部で、最も優れた解説書と筆者が考えるソースコードと評価ボードを使ってFreeRTOS動作解析と習得を行うという内容です。

ただ、自作FreeRTOSサンプルコードの出来が悪く、第4部の動作解析は不十分でした。

そこで、RTOS利用がより現実的なLPCXpresso54114(Cortex-M4/M0+ 100MHz、256KB Flash、192KB RAM)評価ボードとSDK付属FreeRTOSサンプルコードを用いて、不十分だった第4部FreeRTOS動作解析に再挑戦します。平たく言えば、NXP公式FreeRTOSサンプルコードを、不出来な自作コードの代わりに利用します😅。

第1回目は、FreeRTOSサンプルコードの出所、FreeRTOS動作を調べる4ツールを説明します。

LPCXpresso54114 SDK付属FreeRTOSサンプルコード

NXPマイコンの公式サンプルコード取得方法は、3つあります。最も新しいのがSDK:Software Development Kitから、2つ目がLPCOpenライブラリから、3つ目がPE:Processor Expertからの取得です。

NXP社が古くから用いてきたサンプルコード提供方法が、LPCOpenライブラリです。
NXPに買収された旧Freescale社のKinetis MCUなどは、PEと呼ばれるGUIベースAPI生成ツールでサンプルコードを提供していました。同じMCUでも提供方法によりAPIは異なり、サンプルコード互換性はありません。
※ベンダ毎に異なるAPI提供方法やその違い、サンプルコードとの関係は、別投稿で説明する予定です。

Freescale買収後のNXPは、SDKで全MCU(=新旧NXP+買収FreescaleのMCU)のAPIとサンプルコードを提供する方法に統一したようです。その根拠は、最新MCUXpresso IDEユーザインタフェースが、SDKの利用前提でできているからです。

現在も提供中のLPCOpenライブラリ内にあるLPCXpresso54114 FreeRTOSサンプルコードは2個、一方、SDK内のFreeRTOSサンプルコードは11個あります。PE提供はありません。

調査対象としては、FreeRTOSサンプルコード数が最多のSDKが適しています。

LPCXpresso54114 FreeRTOS examples in SDK
LPCXpresso54114 FreeRTOS examples in SDK

FreeRTOS実動作解析ツール

MCUXpresso IDE v11.1.0のHelp>Help Contentsに、MCUXpresso IDE FreeRTOS Debug Guideがあります(PDF文書がMCUXpresso IDEインストールフォルダ内にも有り) 。この中に、FreeRTOSサンプルコードデバッグのみに使えるタスク対応デバッガ4ツール(Task List/Queue List/Timer List/Heap Usage)があります。

MCUXpresso IDE Help ContentsのFreeRTOS Debug GuideのShowing FreeRTOS TAD Views
MCUXpresso IDE Help ContentsのFreeRTOS Debug GuideのShowing FreeRTOS TAD Views
  • Task List:タスク毎のプライオリティ、スタック使用量、動作時間表示
  • Queue List:アクティブキュー、セマフォ、ミューテックス利用時のリソース表示
  • Timer List:RTOSタイマー表示
  • Heap Usage:ヒープ使用量、メモリブロック割当て表示

これらFreeRTOS専用ツールは、FreeRTOSサンプルコードの評価ボード動作後、デバッガ停止中に表示されます。シミュレーションではなく、評価ボードでの「実動作結果」が判ります。開発ソフトウェアだけでなくRTOS使用量が判るので、デバイスにどれ程リソース余裕があるかが判断できます。

RTOSソフトウェアは、ユーザが開発するタスクの単体、結合デバッグに加え、RTOS動作の確認事項が増えます。FreeRTOS実動作解析4ツールは、これらの確認ができます。評価ボードを使ったプロトタイプ開発の重要度は、ベアメタル開発比より大きくなると言えるでしょう。

次回以降、LPCXpresso54114のSDK付属FreeRTOSサンプルコードを、MCUXpresso IDEのFreeRTOS Debug Guideに沿って調査します。