MCUXpreosso IDEリリース

3月22日、NXPより旧LPCXpresso IDEとKinetis Design Studio IDEを統合した新しいMCUXpresso IDEがリリースされました。見た目や操作感は、LPCXpressoに近く、Kinetis Design Studio:KDSユーザには、かなり違和感があるかもしれません。

MCUXpresso IDE
MCUXpresso IDE

LPCXpressoやKinetis Design Studioと共存可能

LPCXpresso v8.2.2_650やKinetis Design Studio 3 IDEと、新しいMCUXpresso IDE v10.0.0_344は、Windows 10 PC上に共存可能です。MCUXpresso_IDE_Installation_Guideに詳細が記載されています。

LPCXpressoユーザは、旧プロジェクトの移行方法などもこのガイトに記載されていますので参照してください。

KDSユーザは、Processor Expert: PEが実装されていませんので、Software Development Kit: SDKサイトへアクセスし、Build your SDKで評価ボードまたはMCU毎に構成設定し作成後、APIのダウンロードが必要です。しかし、PEほど使い勝手は良くないでしょう。この方法に慣れるか、または、PEのアドインも可能かもしれません。詳細判明しましたら、本ブログに記載します。

LPCXpresso に近いAPI提供方法

IDEのAPI生成/提供方法で示した3方法では、私の予想に反して最も旧LPCXpressoに近く、オンラインで構成設定→IDEへダウンロードしてのAPI利用となりました。このオンラインSDKをIDEへ直接インストールすることもできますが、FreescaleとNXPの合併で多数のMCUをサポートするので、軽いIDEのために、API提供SDKをIDEから切り離したと思います。

MCUXpressoでは、LPCXpressoで使っていたLPCOpenライブラリも内包されており、そのまま使えます。

両社合併で新IDEも折衷的なものです。旧環境に慣れた開発者には、オンラインSDKに慣れるか悩みどころです。特に今春発売されたMCU以外の開発にはメリットが少ないので、Windows 10 1703を待ってからインストールするのが良いかもしれません。

mbed OS 5.4.0のLチカ動作、LPCXpresso824-MAXで確認

四半期毎更新のIoTマイコン向けRTOS、ARM mbed OS 5の最新版5.4.0がリリースされました。このmbed OS 5を使って、ARM mbed開発環境でBlinky:Lチカサンプルプログラムを、LPCXpresso824-MAX評価ボードで動作確認しました。

ARM mbed開発環境

ARM mbed開発環境は、オンラインでコンパイル環境が提供されます。ブラウザさえあれば、統合開発環境:IDEをPCへインストールすること無しにソフト開発が可能です。コンパイル出力を、USB経由で評価ボードへダウンロードすれば、動作確認も簡単です。

ARM mbed開発環境
ARM mbed開発環境

mbed OS 5が動作するCortex-M0+評価ボードは、現在6種あります(全74種対応中)。

mbed OS 5.4.0のBlinkyサンプルとFreeRTOS v8の比較

この6種評価ボードに、FreeRTOSで使用中のLPCXpresso824-MAXもありますので、mbed OS 5でLチカサンプルプログラムを作成し、FreeRTOSのそれとソース比較しました。

RTOS Blinky Comparioson
RTOS Blinky Comparioson

mbed OS 5は、Cをオブジェクト指向へ拡張したC++言語で記述します。

ハード初期設定などは、評価ボード選定時に(別の個所で)済ませるので、記述ソースはFreeRTOSに比べて少なくなります。FreeRTOSのSuspendedは、mbed OS 5では、waitingに相当します。また、mbed OS 5 APIの方が、全般的に短く記述できます。

mbed開発環境は、直ぐに試せて取っ付き易い反面、ボード差や詳細なRTOS処理内容が隠される(見えない)気がしますが、本来のアプリ早期開発には、こちらの方が細かいことは気にせずに良いのでしょう。また、ボード間の移植性も高まります(次章CMSISを参照)。

両RTOSのLチカリソース使用量比較は、止めておきます。FreeRTOSの方はDebug出力で、一方、mbed OSの方は(多分)Release出力で条件が違うと思うからです。ARM mbed環境のデバッグ方法は、いろいろありそうなので、今後調査する予定です。

CMSIS

CMSIS Structure
CMSIS Structure

CMSIS:Cortex Microcontroller Software Interface Standardは、Cortex IPコア開発元のARM規定のソフトウエア規格で、図が全体像(v4版)です(シムシスまたはセムシイスと読むようです)。最上位アプリケーションと最下位Microcontrollerの間に、7種のCMSIS-xyzを規定します(CMSIS-RTOSなどCMSIS Software Packの緑色領域)。

CMSISの目的は、アプリ側(青緑領域)から見えるハードウエアCortexコア(灰色領域)の隠蔽です。ARM Cortexコアを使うMCU各社が、このCMSIS準拠でソフト開発すれば、各社間のアプリ移植問題は解決します。つまり、CMSIS準拠アプリならば、例えARMコア以外であっても、全てのMCUで同じアプリが動作するということです。

ARMは、Cortex IPコア販売でMCUハードウエアのデファクトスタンダードになりました。CMSISは、よりCortexコアを普及させ、さらにMCUソフトウエアのスタンダードを狙うARM戦略の1つでしょう。

本家本元のARMが開発するmbed OS 5は、CMSIS-RTOS準拠のAPIを持ちます。その結果が、Lチカソースにも表れていて、ボード移植性が高いのです。

弊社マイコンテンプレートも、図のCode Templateと同等!になれば、良いのですが…。

PSoC 6続報

MONOist組み込み開発ニュースに、PSoC 6と他社製品との性能、消費電力の比較が掲載されています(出典:「業界最小」の消費電力でセキュリティも、サイプレスがIoT向け「PSoC」を投入)。

PSoC 6の目標

「ある程度のシステム制御ができる性能+低消費電力+セキュリティ、これらの同時実現」というPSoC 6の目標のために採用された40nmプロセス技術とデュアルARMコアにより、PSoC 6の他社比、優れた性能が解ります。

PSoC 6 Comparison Table1
PSoC 6 Comparison Table1(記事より)
PSoC 6 Comparison Table 2
PSoC 6 Comparison Table 2(記事より)

青字が性能同等、または、より優れた項目を示しています。PSoC 4でも採用中の高性能CapSenseやアナログコンポーネント、多くのGPIO数、そして100MHz動作のCortex-M0+、ピーク時257DMIPSなど、弊社ブログ対象の従来MCUの性能枠を大きく超えるものです。

1MB ROM、288KB RAM、8KB キャッシュの意味

ディアルコアで、1MB ROM、288KB RAM、8KB キャッシュものリソースを持つPSoC 6制御には、RTOSが必要になると思います。MCU開発も、よいよOS必須時代になるのでしょうか?

PSoC Creator News and InformationにNew FreeRTOS on PSoC 4 port が掲載されています(PSoC Creator 4.0のStart Pageからもアクセス可能)。弊社マイコンテンプレートで使ったCY8CKIT-042 評価ボードへも適用できそうです。ARMコアなので、mbed OS 5も気にはなりますが、FreeRTOSですので、RTOSへの備え記事が、理解に有効に活用できるでしょう。

弊社自作FreeRTOSサンプルソフト状況

RTOSへの備え記事は、LPCXpresso 824-MAXを使ってFreeRTOSサンプルソフトを自作しています(Lチカ、Q-通信、セマフォ同期、ミューティックス排他制御の4種)。

この自作サンプルを横展開してLPCXpresso 812/812-MAX、LPCXpresso 1114/5へ適用する予定でした。しかし、LPCXpresso 824-MAXで動作するサンプル(勿論GPIOとLPCOpenライブラリのみ変更)が、Lチカを除いて他の評価ボードでは動作確認ができないのが現状です。

原因が(僅か数十行の)自作サンプルにあるのか、それとも、それ以外かの見極めも、結構大変です。FreeRTOSもv9では、スタティックなセマフォ、ミューティックス割付ができるなど改良が進んでいるのでデバッグには良さそうですが、現状のv8は未だ非対応です。

LPCXpresso 824-MAX版だけでもFreeRTOSサンプルソフトを無償リリースするか、それとも、当初の予定どおり全評価ボード対応として問題解決後リリースするか3月末を目途に検討中です。

Bluetooth 5.0対応のIoT向けマイコンPSoC 6発表

3月14日のEE Times Japanに“Cypress、低消費でより強固なセキュリティ実現”という記事が掲載されました。この記事から、2017/4Q(10月~12月)量産予定のCypressの新しいIoT MCU、PSoC 6の特徴をまとめました。

PSoC 6の特徴

  • Cortex-M4+Cortex-M0+ のデュアルARMコア
  • プロセス技術にウルトラローパワー40nm SONOS採用(従来は130nm)した結果、Cortex-M0+:15uA/MHz、Cortex-M4:22uA/MHz、ローパワーモード動作電圧:1.1V、ウルトラローパワーモード動作電圧:0.9Vを実現。消費電流は、下表参照。
PSoC 6 Current consumption
PSoC 6 Current consumption(記事より)
  • ハードウエアでのセキュア データストレージ機能を備えたTEE : Trust Execution Environment実装
  • 暗号化アルゴリズム:楕円曲線暗号(ECC)、AES(Advanced Encryption Standard)、ハッシュ(SHA-1/2/3)ハードウエア実装
  • Bluetooth Low Energy 5.0対応
  • 評価ボード:PRoC 6 BLE Pioneer Kit(CY8CKIT-062-BLE)は75米ドル。
    弊社マイコンテンプレート使用中のPRoC 4 BLE Pioneer Kit (CY8CKIT-042-BLE)は49米ドルです、ディアルコアを考慮するとお買い得?

ハードによるセキュリティ機能はIoT MCUに必須

IoTマイコンにARMコアを使う場合、新しいCortex-M23/33コアによるアプローチと、従来コアにTEEなどのセキュリティ機能を付加したアプローチの2つがありそうです。CypressのPSoC 6は、後者です。

いずれも、ハッキングやウイルス対策に、ハードによるセキュリティ対策は必須です。私個人の感触では、どの程度の処理を MCUで行うかにもよりますが、たとえ専用セキュリティハードを追加したとしても、Cortex-M0/M0+/M23クラスの処理能力では、IoT通信制御だけでも重すぎるのではないかと思います。

そこで、より能力の高いCortex-M33やCortex-M3、M4を使うか、M0クラスとのディアルコア化も解として有力かもしれません(コア性能差は、コチラを参照、Cortex-Mxの特徴はコチラを参照)。

PSoC 6はBluetooth 5.0とデュアルコアでしたが、IoT通信規格の決定だけでなく、MCUアーキテクチャ、これら両方の観察がIoT MCU選択に必要になりそうです。

RTOSへの備え:第3回、タスク間データ通知、同期、排他制御

各タスクが独立=バラバラで動作する場合には、第2回に示したスケジューラーのRunningの切り替えのみでもRTOSを使ったマルチタスクとしては十分機能します。実際、LPCXpresso付属のfreertos_blinkyサンプルソフトを理解するには、第2回までの説明で十分です。

しかし、あるタスクの結果を待って別タスクが動作するような場合には、結果の待ちや通知、タスク間の同期が必要です。今回は、RTOSがどのようにこれらタスク間のデータ通知、同期を行っているかを解説します。

これらの技術を習得すれば、殆ど(7割以上)のソフト開発をFreeRTOSでカバーできるようになります。つまり、ここがRTOS習得の山場と言っても良いでしょう。少し量が多いのですが、ご勘弁を…。

初めに、状態遷移図のSuspendedによるタスク間の待ちや同期を行う仕組みを説明し、次に具体的な方法を説明します。

Suspendedの役目

第2回で示した状態遷移図のSuspendedが、タスクの待ちを実現します。

タスクAとタスクB間の通知や同期には、タスク実行中に別タスクの結果を待つことが必要となります。タスクAに待ちが発生した時は、vTaskSuspened()のAPIを使ってSuspendedへ移行し、タスクBの結果を受け取ると、RTOSがvTaskResume()のAPIを使ってタスクAをReadyへ戻します。Suspended中も第2回で示したBlocked同様、MCU能力を消費しませんので、待ち期間中も他のタスクがRunningすることができます。

以上がSuspendedによるタスクの待ちや同期を行う仕組みの簡単な説明です。Blockedと似ていることが解ると思います。違いは、BlockedがRunningからのみ遷移するのに対し、どの状態からでもSuspendedへ遷移できる点です。次にRTOSでの具体的な方法を示します。

FreeRTOSのタスク間データ通信、同期、排他制御の方法

RTOSを使わない通常ソフトの場合は、ユーザが定義するメモリ経由で、変数や結果の通知をユーザ自身が行います。また、割込みにより同期が可能です。弊社マイコンテンプレートもこの方法を使っています。

FreeRTOSを使うソフト開発の場合は、
タスク間のデータ通信は、           Queues:キュー、
タスク間の同期は、                      Semaphore:セマフォ、
タスク間の排他制御は、               Mutex(=mutual exclusion):ミューティックス、
を使います。

Queues:キューによるタスク間データ通信

FreeRTOSは、Operating SystemですのでMCU資源のユーザによる直接アクセスを嫌います。メモリなどの直接表現ではなく、論理的にメモリを繋げたQueues:キューという手段で、通信という方法によりタスク間データ送受信を行います。FreeRTOSのタスク間通信Queues:キューは、FIFO:First In First Outとして使います。

FreeRTOS Task Communication
FreeRTOS Task Communication

タスクAからタスクBへキュー経由でデータ通信する例です。受信タスクBは、xQueueReceive()でキューからのデータを受信します。このキューにデータが無い時のみSuspendedへ移行します。Suspended中は、キューデータ有無をRTOSが監視し、データが生じた時はタスクBのxQueueReceive()以降の処理が実行されます。

つまりタスクBは、xQueseReceive()の記述のみでデータ受信処理が実現できます。データ有無による待ち制御は全てRTOS側で行いますので、タスクBは受信処理のみの簡単記述ができます。

キューにより送受信タスクの処理は完全に分離されますが、処理結果のデータは、FIFOなので順序が保たれて通信されます。

Semaphore:セマフォによる同期

FreeRTOSのSemaphore:セマフォは、バイナリセマフォです。割込みによる同期を図示します。

FreeRTOS Semaphore
FreeRTOS Semaphore

割込み処理は、割込みハンドラーと割込みサービスルーティン:ISRの2つで構成します。割込み発生時、優先順位に応じてMCUハードウエアが自動的にCallするのが割込みハンドラー、実際の割込み処理を記述する部分がISRです。※図では、Interrupt!がハンドラー、TaskがISRです。

FreeRTOSの割込み同期は、ISRで割込み発生をxSemaphoreTake()で待ちます。割込み発生時、ハンドラーで割込みフラグクリアなどの処理後、xSemaphoreGiveFromISR()で動作許可(図赤丸)を与えます。この動作許可によりISRのxSemaphoreTake()以降の割り込み処理が実行されます。これが割込み同期の実現方法です。

ISR処理後、動作許可は消えます。再びハンドラーが動作許可を生成するまでISRはSuspendedになります。

Mutex:ミューティックスによる排他制御

FreeRTOSのMutex:ミューティックス排他制御を図示します。

FreeRTOS Mutex
FreeRTOS Mutex

ミューティックスの場合は、セマフォと異なり初めから動作許可(図赤丸)があります。この動作許可を初めにTakeしたタスクAのみが共有リソースへアクセスできます。タスクAのアクセス中は、動作許可がないタスクBはxSemaphoreTake()でSuspendedになります。タスクAのアクセス終了後、動作許可をxSemaphoreGive()で放棄するので、今度はタスクBが共有リソースへアクセスできます。これが排他制御の実現方法です。

つまり、動作の許可を示すバイナリセマフォを同期で使う時はセマフォ、排他制御で使う時はミューティックスと呼ぶだけで、使用するAPIは、どちらもxSemaphoreGive()とxSemaphoreTake()です。
違いは、セマフォ同期のvSemaphoreCreateBinary()では、初期値:動作許可が無いこと、ミューティックス排他制御のxSemaphoreCreateMutex()では、初期値:動作許可が有ることです。

まとめ

FreeRTOSのタスク間データ通信、同期、排他制御の方法を示しました。これら待ちの制御は、スケジューラーのタスク管理Suspendedが重要な役割を果たします。

データ通信は、Queue:キュー作成後、このキューへタスクからデータSend/Receiveという通信で実現します。同期と排他制御は、Semaphore:セマフォ作成後、このセマフォへタスクから動作許可Give/Takeにより実現します。

タスク側の記述は、データのキューSend/Receive、セマフォの動作許可Give/Takeという単純なFreeRTOSのAPIのみで良く、関係タスクの状況に応じて即Runningにするか、あるいはSuspended→Ready→Runningにするかの面倒な制御は、全てRTOS側が行います。従って、ユーザタスクは、必要処理の簡単記述ができます。

今回登場したFreeRTOSのAPIが以下です。

キューデータ通信:          xQueueCreate()、xQueueSend()、xQueueReceive()
セマフォ同期:                  xSemaphoreCreateBinary()、xSemaphoreGiveFromISR()、xSemaphoreTake()
ミューティックス排他制御:xSemaphoreCreateMutex()、xSemaphoreGive()、xSemaphoreTake()

上記と、第2回で示したFreeRTOSのAPIとを加えても20個弱のAPIでFreeRTOSが使えます。これらのAPIとFreeRTOSスケジューラーを理解していれば、FreeRTOS以外でも慌てずにRTOSソフト開発に着手できると思います。

最終回の次回は、ソースコード+評価ボードの開発環境に勝る解説書はない、という話をする予定です。

RTOSへの備え:第2回、タスク管理

RTOSが複数ユーザタスクの無限ループを回し、タスクの優先順位に応じてMCU実行時間を振り分けること、その利点を第1回で示しました。RTOSは、タスクを処理単位として扱います。今回は、RTOSがユーザタスクをどのように扱うかを解説します。タスク自身は既に出来上がったものと仮定します。

FreeRTOSによるユーザタスクの扱い方

ユーザタスクをFreeRTOSで処理してもらうには、最初にタスク登録が必要です。登録済みの複数タスクは、RTOSにより以下のように4つの状態で管理されます。

FreeRTOSへのタスク登録APIが、vTaskCreate()、登録済みタスクの削除APIがvTaskDelete()です。FreeRTOSは、優先順位の高いタスクをRunningにします。従って、登録後、タスクを即実行するのではなく、他タスクとの優先順位判定をReadyで行い、その結果で実行状態にします(図示の太線部分)。

FreeRTOS Task States
FreeRTOS Task States

優先順位は、登録APIのvTaskCreate()パラメタで指定できますが、デフォルトは全て同順位です。同順位タスクは、TICK_RATE(タスク切換え時間)単位に実行状態を切り替えるラウンドロビン方式です。実行後は、再びReadyに戻されます。

例えば2タスクのみが登録された場合、LPCXpresso824ボードなら2タスクを1ms毎に交互に切り替えながら実行します。ユーザ側からは、2つのタスクが並列動作したように見えます。これが最も簡単なRTOSマルチタスク処理の説明です。

デフォルト優先順位の変更に使うAPIがvTaskPrioritySet()、vTaskPriorityGet()です。更にReadyやRunningのタスクに対して、図示のAPIでSuspendedやBlockedへも遷移可能です。

これら制御を行うのがスケジューラー、スケジューラーが行う制御をタスク管理と呼びます。スケジューラーをRTOSカーネルと呼ぶこともあります。FreeRTOSスケジューラーは、4個の状態でタスクを管理しますが、数がもっと多いRTOSの例もあります。
※例えば、RL78用のRTOS:RI78V4は、6個の状態遷移を持ちます。

Blockedの役目

さてここで、第1回で示したLED点滅タスクの無限ループ内にあるvTaskDelay()を解説します。

vTaskDealy()は、タスクをBlockedへ遷移させます。そして設定時間の停止後、Readyへ戻します。つまりBlockedの間は、MCUを使わないため他タスクがRunningになりうるのです。これが、RTOSを使っても、各タスクに通常ソフトと同じように無限ループを記述できる非常に重要な仕組みです。

RTOSを使わない通常ソフト記述の場合、無限ループは、文字通りそのループ内に留まりMCU能力を使い続けます。しかしRTOSは、vTaskDelay()によりソース上は無限ループでも、MCUを使いません。これによりマルチタスク処理ができるのです。

RTOSにより再びRunningに戻ったタスクは、vTaskDealy()の後の処理から実行されます。タスク側からは、指定時間の停止後に継続して実行しているように見えます。

スケジューラーの状態遷移図は、ユーザタスク側からみた状態です。Running以外はMCUを使わないNot Running (super state)ですが、スケジューラー自身のために(ほんの少し!)MCUを使います。このスケジューラーを起動するAPIが、RTOSのmain()最後にあるvTaskStartScheduler()です。

スケジューラー自身は、実は最高プライオリティを持つタスクです。従ってユーザタスクよりも優先的に処理されますが、実態はユーザタスクと変わりません。

まとめ

今回はRTOSのタスク管理を説明しました。スケジューラーの優先順位判定により複数のタスクRunningが切り替わりマルチタスクを実現すること、BlockedによりRTOSでのタスク記述に通常ソフト記述と同様の無限ループを使えることを示しました。

この回までに登場したFreeRTOSのAPIが下記です。FreeRTOS APIレファレンスマニュアルで詳細が解ります。
vTaskCreate()、vTaskDelete()、uxTaskPriorityGet()、 vTaskPrioritySet()、vTaskDelay()、vTaskStartScheduler()、
vTaskSuspend()、 vTaskResume()。
vTaskSuspend()、 vTaskResume()の2つは、次回解説予定。

Qualcomm/NXP合併完了は2017年末?

「Qualcomm/NXPの合併に立ちはだかる米中政府の壁(前編後編)」という記事が掲載されました。

合併が2017年末完了予定から延びる可能性があるそうです。私には記事内容は、イマイチ解らないのですが、NXPの2017年MCU開発計画に影響しないことを願っています。

RTOSへの備え:第1回、RTOSの必要性

IoT MCUのソフト開発は、RTOS:Real Time Operation Systemが必要になると思います。IoT向けでない通常のMCU開発でも通信UART制御は鬼門です。IoT MCUの通信プロトコルが何に決まるかは今のところ不透明ですが、UARTに比べて複雑な通信処理になることは明らかです。

この対策として、IoT向けMCUのRTOSを数回に分けて解説していきます。連載記事を読めば、RTOSが理解でき、いざIoT MCUで実際にRTOSを使わなければならなくなった時にも慌てずに対処することができます。

背景

本ブログは、IoT向けMCUのRTOS、FreeRTOSmbed OS 5を記載してきました。これらRTOS関連の資料は、少なからずあります。しかし、1から10まで書いている教科書的な内容で、参考書としては優れていますが、残業時間の制限が厳しい昨今、実務的にはもっと効率的に習得したいのが本音です。

そこで、最低限のRTOS知識とMCU評価ボードを使って、手っ取り早くお金をかけずにRTOSを習得することを目標とします。この目標に沿ってブログ記事を作成します。このための開発環境が下記です。

使用RTOS:FreeRTOS(NXPのIDE:LPCXpresso無料版に付属)
MCU評価ボード:NXP LPCXpresso812またはLPCXpresso812/824-MAXまたはLPCXpresso1114/5
※記事ではFreeRTOS v8.0.1、LPCXpresso v8.2.2、LPCOpen v2.19(いずれも2017年2月最新のLPCXpresso無償版に付属)とLPCxpresso824-MAXを使います。
FreeRTOS Documentationにある“Mastering the FreeRTOS Real Time Kernel – a Hands On Tutorial Guide”が参考書としてお勧めです。

MCUのLPC812/824、LPC1114/5で動作するFreeRTOSがポーティング済みで、かつ秋月電子などで低価格で入手性が良いMCU評価ボードで動作確認できることが選定理由です。

LPCXpresso824-MAX
LPCXpresso824-MAX

因みに、LPCXpresso812/1114/1115評価ボードで動作する弊社マイコンテンプレートも販売中です。このマイコンテンプレートによる従来ソフト開発と、FreeRTOSによるソフト開発の違いなどでRTOSの特徴を浮き彫りにします。

RTOSの必要性

評価ボード実装済みのLEDを点滅させるいわゆる「Lチカ」サンプルソフトを、FreeRTOS利用時のソースの一部(左側)と、RTOS未使用の通常ソフト記述(右側)を示します。最大の違いは、無限ループの数です。

RTOS LED sample
RTOS LED sample(2タスクのみ抜粋)

FreeRTOS記述の場合、1個のタスク(≒ユーザ処理単位)で1個の無限ループを持ちます。一方、通常ソフト記述の場合は、全体で1個の無限ループのみです。1個の無限ループ内で様々なユーザ処理を行うため、ループ内の1処理時間の長さ、短さ、待ちがその他の処理へ影響を与えます。

RTOSを使う最大の利点は、1つのタスク実行時間の影響が、他のタスクへ及ばないことです。

このおかげで、あたかも1つのMCUを占有するかのようにユーザタスク記述ができます。従って、1個のタスクが、1個の無限ループを持つのです。複数のタスクへ優先順位に応じて実行時間を振り分けるのは、RTOSの役目です。

ユーザタスクは、他のタスクのことを気にせずに記述できるため、シンプルな処理になりタスク単位の可搬性も向上します。

RTOSでのユーザタスク記述は、通常ソフト記述と何ら変わることはありません。1無限ループ内にシンプルな処理を記述すれば良いのです。ただし、RTOS利用のオーバーヘッドとして、タスクの登録や優先順位の設定は別途必要となります。

要はRTOS APIを追加するだけ!

RTOSのLチカサンプルソースは、FreeRTOS APIとLPCXpresso API、残りがC言語の3構成です。

LPCXpresso APIとC言語は、通常ソフト記述時に使うものと同じです。FreeRTOS APIは、APIの頭に必ずx…、v…、ux…などが付いています。これらの接頭語は、FreeRTOS以外のRTOSでも同様です。RTOSユーザタスクの記述は、通常ソフトの記述に、これらRTOS APIが加わったのみです。

従ってFreeRTOS APIの使い方を理解すれば、FreeRTOSに限らず他のRTOSへも応用可能です。使用頻度が高いFreeRTOS APIの使い方を習得すれば、基本的なRTOSユーザタスク開発ができると思います。この方法でIoT MCUにRTOSが適用された時でも、慌てずに備えることができます。

まとめ

今回は、RTOSの利点を説明しました。RTOSが複数ユーザタスクの優先順位に応じてMCU実行時間を振り分けるので、個々のユーザタスクはシンプルで可搬性に優れた記述ができます。

IoT MCUの通信処理はUARTに比べ複雑です。この複雑さは、再送データ数や外来ノイズなどの通信環境により様々に変化します。RTOS無しの通常ソフトでこれらに対応するには複雑すぎると思います。

この対応には、RTOSが期待できます。しかし、RTOS習得には初期段階で手間と時間が掛かるため、実務的で手軽に習得できると筆者が思う1習得方法を示しました。

今後も、FreeRTOSのポイントをできるだけ簡潔に説明していきます。詳しく知りたい方は、お勧め参考書などを参照してください。

ISDN終了とIoTキラーアプリ

2020年以降、現行のISDN公衆交換電話網Public Switched Telephone Network:PSTNが、Internet Protocol:IP網へ全面移行します。ISDNの次の世代はATM:Asynchronous Transfer Modeと思いその研究開発が社会人スタートだった私には隔世の感があります。データ中心のコンピュータIP網が次世代ISDNの解に決まったからです。

IoTキラーアプリ

障害予測、適応型診断、状態適用型メンテナンス、これらが産業用IoTキラーアプリ候補だという記事があります。キラーアプリとは、技術を爆発的に普及させるアプリケーションのことです。

記事の中で、“キラーアプリケーションは、新技術の普及を促進するとともに、多くの場合、基板となるコンポーネントの複雑さを覆い隠す。大多数のユーザーは、その技術から得られるメリットを求めるのであり、その内部構造には関心がない”という記述があります。

これは真理です。ATMがIPに負けたのも、キラーアプリの成せる業です。

アプリよりのIoTマイコンテンプレート

販売中のマイコンテンプレートは、汎用性を重視しています。
しかし、IoT向けのマイコンテンプレートには「汎用性よりも、よりアプリよりのテンプレート提供」が求められそうです。記事を参考にIoTマイコンテンプレートの構成を検討します。

CS+のスマート・ユーティリティ(スマート・ブラウザー編)

2017年1月にCS+パッケージバージョンV5.00.00  [05 Dec 2016]がリリースされました。確かバージョンV4から追加された3種のスマート・ユーティリティのうち、スマート・ブラウザーを説明します。

スマート・ユーティリティ
スマート・ユーティリティ

スマート・ブラウザー

組込マイコン:MCU開発を上手く効率的にする手法は、今風に言うと“サンプルソフトファースト”です。

分厚いユーザーズ・マニュアルを、初心者が読んでも眠くなるだけで時間のムダです。開発事案に近い例や使用する周辺回路が記載されたサンプルソフト=アプリケーション・ノートを先ず読んで、不明な箇所をユーザーズ・マニュアルの目次から拾い読みすれば十分です。

この開発例や周辺回路のサンプルソフトを見つけるのに便利なのが、CS+に追加されたスマート・ブラウザーです。

スマート・ブラウザー
スマート・ブラウザー

アプリケーション・ノートタブを選び、タイトルや機能で並び替えするとクイックにサンプルソフトが選定できます。ルネサスサイトでもアプリノート検索はできますが、CS+のスマート・ブラウザーの方が使い易く検索も高速です。

アプリノートは、ユーザーズ・マニュアルと比べると、一般的に内容をサラッと記述します。詳しくくどく書くこともできますが、読まれることを重視するとこの書き方になるのだと思います。サンプルソフトの読み方は、コチラも参照してください。

アプリノートの次に登場するのがユーザーズ・マニュアルです。こちらは、丁寧に記述されていますので、アプリノートの不明点を明確にし、その箇所を読めば時間節約ができます。近頃の開発は、1からディスクリートで着手する(≒オートクチュール)よりも、既にある既成品を上手く組み合わせて早期に開発する方(≒プレタポルテ)が好ましいと思います。これは、ハード/ソフトともに言えることです。

いかに既製品、この場合はアプリノートを見つけ、それを破綻なく組み合わせて顧客へ提供するのも1つの開発技術です。

複数アプリノートを簡単に組み合わせるマイコンテンプレート

1つのアプリノート流用で開発完了することは、稀です。大抵は、複数のアプリノートの部分利用、応用が必要となります。アプリノートは、内容をサラッと記述するために、初期設定+無限ループの2構成が殆どです。複数アプリを流用するには、アプリノート記載の無限ループ内処理の取り込み方が問題です。

そこで登場するのが弊社マイコンテンプレートです。マイコンテンプレートは、1個の無限ループ内に複数の時分割アプリランチャーを備えています。そこで、このランチャーに必要となるアプリノート処理を組み込めば、簡単に複数アプリノート処理をテンプレートで起動できます。しかも、低電力動作SleepやHaltの機能も追加しています。

マイコンテンプレートの詳細は、コチラを参照してください。

MCU開発は、開発完了が見極め難い性質があります。なるべく早く1次開発物を顧客に見せ、そのうえで2次開発へと進む段階を追った開発、いわゆるプロトタイピング開発もこの性質対応の1方策です。
このプロトタイピング開発の際には、是非マイコンテンプレートを活用し早期に、しかも拡張性や応用性もある開発物提供に役立ててください。