マイコンテンプレートがプロトタイピング開発に適すシリーズ投稿第2回は、開発に活用流用できるソフトウェア=ライブラリの概要を示します。説明するライブラリが下記です。詳細説明が必要になった時は、それに応じて追記するので、今回は概要を示します。
Arduinoシールド付属C++ライブラリ
SW4STM32付属デモソフト
STM32CubeMX:初期化Cコード生成ツール
HAL:Hardware Abstraction LayerとBSP:Board Support Package
Middleware Components:ミドルウェア:FatFs
STMicroelectronicsアプリケーションノート
STMicroelectronics Communityやネット情報
ソフトウェアは、ドライバーやミドルウェアなど階層構造や使い方に応じて色々な呼び方がありますが、本投稿では、開発に使える可能性のあるソフトウェアや情報を、全てライブラリと呼びます。つまり、開発者自らが開発するソフトウェアと、その開発に使えるライブラリの2つに大別して説明します。
開発着手時は、各ライブラリ概要をおおよそ把握し、自分で開発するソフトのイメージが捉えられれば十分です。後はそのイメージをソフトの形にしてテンプレートに追加すれば、プロトタイピング開発完成です。
1.Arduinoシールド付属C++ライブラリ
Arduinoは、オープンソースハードウェアのシングルボードコントローラです。Arduinoコネクタにシールド基板を実装すれば、誰でも簡単に機能追加できるのがウリです。もちろんハード制御に必須なソフトウェア=ライブラリもシールド基板とともに提供されます。
TFTシールド基板ライブラリ は、ArduinoのAPIを利用しC++で記述(左下:shieldtest参照)されています。Arduino IDEにこのライブラリを追加しさえすれば簡単に基板の動作確認ができ、ソース変更も容易です。しかし、これを対象マイコン用に変更するのは、簡単ではありません。API変更とC++が問題です。
Adafruit TFT shieldtest Sketch running
2.SW4STM32付属デモソフト
SW4STM32には、TFTシールド基板のデモソフトが付属しています。UM1787 にデモファームウェアが紹介されており、利用や変更、修正など開発者が自由に使って良いライブラリです。
TFT Shield Demonstration running (Source:UM1787)
但しこのデモソフトは、デモの表示画像やテキストの変更は簡単でも、一部機能の切出しや新機能の追加、例えばUART入出力処理の追加などは容易ではありません。また、最新の開発ツールSTM32CubeMXベースで開発されたのもでもなく、エキスパートが自作したものです。
このデモソフトのような既存ファームウェアがあっても、そのまま流用活用しにくいというのは、MCUソフトウェア開発ではよくある話です。既存ファームウェアやライブラリの解析に手間と時間がかかるため、新たな環境で新たなソフトウェアを開発したほうが早く済むこともよくあります。
ナゼか? それは、流用性や資産とすることを念頭に置いてソフト開発をしないからです。MCU処理能力の低さやメモリ量の少なさが主な原因ですが、これらは今後改善されます。MCUソフトも流用性を重視し、ソフトウェア資産、部品化を考慮した開発が今後必要です。
3.STM32CubeMX:初期化Cコード生成ツール
STM32CubeMXは、STM32シリーズの全MCUに対して、GUIでパラメタを設定しさえすれば周辺回路の初期化Cコードを自動生成するツールです。また、SW4STM32を含め全IDE(TrueSTUDO、MDK-ARM、EWARM)で共通に使えるなど守備範囲も広く「STM32ソフトウェア開発の要」です。
UM1718 に解説があります。このUM1718のTutorial 2に、MCUはSTM32F4ですが、本開発に使えるSTM32CubeMXの設定方法があります。
関連投稿:STM32CubeMX設定については、コチラの投稿 も参照してください。
4.HAL:Hardware Abstraction LayerとBSP:Board Support Package
HALは、文字通りハードウェア隠蔽機能を提供する階層です。CortexコアといえどM0/M0+/M3/M4などハードウェアは異なります。この異なるハードにも関わらずHALが同じAPIを上位層に提供するので、性能不足などでコア変更が生じても同じソフトが流用できる訳です。UM1749 に詳しく解説されています。
BSPは、このHALのAPIを組み合わせた評価ボード特有機能のマクロ関数です。評価ボードを制御系にそのまま利用する時に便利です。
HALやBSPを使うとオーバーヘッドも生じます。しかし、流用性向上のメリットの方が大きいと思います。
関連投稿:HALのオーバーヘッドは、コチラの投稿 の、“STM32CubeMXの2種ドライバライブラリ”を参照してください。
5.Middleware Components:ミドルウェア:FatFs
FatFsは、MCU向けの汎用FATシステムモジュールでフリーソフトウェアです。MCUハードには依存しないので、どのマイコンでも使えるのが特徴です。FatFs APIを使うと、SDカードなどのファイルシステムに簡単にアクセスできます。
STM32CubeMXでは、MiddleWaresのFatFs、User-definedに☑を入れると使えようになります。
STM32CubeMX MiddleWare FatFs
6.STMicroelectronicsアプリケーションノート
UM1721 は、“Developing Applications on STM32Cube with FatFs”と本開発にはピッタリの内容です。3.3にサンプルソフトがあります。これは、FatFsを使って開発したソフトの単体テストに使えます。
7.STMicroelectronics Communityやネット情報
STMicroelectronics Community などのベンダーコミュニティは、開発者同士の情報交換、質問の場です。各ベンダーは、提供ツールのバグ情報や更新方針などもこのコミュニティーから収集していますので、時々閲覧すると参考になります。開発でつまずいた時など解決方法が見つかることもあります。
また、検索エンジンでは様々なネット情報が得られます。最新情報などを取集すると、開発動向の把握も可能でしょう。
開発ソフトウェア構成とイメージ
今回のソフトウェア開発に役立つライブラリ概要を示しました。
直ぐにソースコードを書きたい気持ちを少し我慢して、ほんの少し事前調査をすると、視野が広がり使えそうなライブラリの見当もつきます。使えるモノを流用すれば、より重要箇所に集中できます(前回投稿の「選択と集中」ができます)。
本開発は、SPIシールド基板で追加する3機能毎にSTM32CubeMXを用いてソフト開発し、テンプレートへ追加します。また、流用性を上げるため追加機能毎にファイル化し、単体機能の追加削除も容易な構成とします。これをまとめたのが前回投稿の開発方針図です(再掲します)。
初期設定生成ツール:STM32CubeMXや、評価ボード開発支援ライブラリを活用しテンプレートへ機能追加
MCUのライバル
プレッシャーをかけるつもりはありませんが、競合他社のMCUだけがライバルではありません。
ArduinoコントローラやRaspberry Pi 3などのMPUは、後発の利点を活かし、ソフトウェア/ハードウェア開発が、誰でも早く簡単にできる工夫が施されています。どちらも低価格で開発環境が整います。MCU開発者の方は、是非どちらか試して、MCUに比べ開発の簡単さを実感してください。
MCUのライバルは、競合他社だけでなく、ArduinoコントローラやRaspberry Pi 3などもある。
制御系
特徴
開発障壁
ソフトウェア流用性
MCU
低消費電力
アナログ/デジタル周辺機能豊富
高い
低い
Arduino/Genuino
オープンソースハードウェア基板
豊富なシールド基板で機能追加が容易
低い
高い
Raspberry Pi 3 B/B+
OS搭載シングルボードコンピュータ
動画再生や複雑な技術計算も可能
とても低い
高い
最新Arduinoの動きとしては、SonyのSPERSENSE などがあります。また、Raspberry Pi 3 B+ では、コア速度やLAN高速化、PoEなどのIoTに向けた性能向上も図られています。
MCU評価ボードにArduinoコネクタの採用が増えたのは、豊富なシールドハードの簡単追加が目的です。また、ARM CMSISもMCUソフト流用性を高める方策の1つです。
関連投稿:ARM CMSISの目標については、コチラの投稿 の、“CMSIS”を参照してください。
CMSIS実用化に伴い、MCUソフトウェア開発者も、個人レベルでソフト資産化と各種ライブラリ活用技術を身につけないと、先行するArduinoやRaspberry Piへ顧客が逃げてしまいます。
逆に、ArduinoやRaspberry Piのソフトウェアやライブラリを積極的にMCUへ流用するアプローチも(簡単にできれば)良いと思います。
いずれにしても、MCUソフトウェア開発は、既存ライブラリや様々な資産をより活用して、開発効率化を上げることが必要でしょう。