NXPのQUALCOMMによる買収、取りやめ?

日経新聞4月20日に、“クアルコム、止まらぬ受難 NXP買収に暗雲”記事が掲載されました。
記事では、トランプ米大統領のBroadcomのQUALCOMM買収禁止命令の報復として、中国当局が承認に難色を示し、7月25日まで買収期限を再延長し、最悪の場合、買収が取りやめになることもあるそうです。

2017年半導体売上高ランキング

2017年の半導体売上高ランキングもEE Times Japanで発表されました。日経記事に登場したイスラエル)NVIDIAが10位、オランダ)NXPは9位、米)QUALCOMMは6位、Broadcomは5位です。

半導体売上高トップ10ランキング(出典:記事)
半導体売上高トップ10ランキング(出典:記事)

仮にNXPの買収が取りやめになった場合、NXPにとってそれが良いのか悪いのかは、判りません。ただ急成長する自動車分野の制御にMCUの老舗、NXPの名前が残るのは悪くないと思います。※ルネサスMCUが、日立、NEC、三菱の統合であり、3社の名前の記憶が薄くなっていくのもさみしいものですから。

決着は、今年の夏頃(2Q 2018)になりそうです。

技術レベルとは異なる政治、経済次元での買収結果が、MCU技術にどのように影響するかは、注意深く見守る必要があります。

NXPのMCUXpresso Support Devices Table(Mar. 2018)へ更新

NXPのMCUXpresso Support Devices Tableが、3月9日更新されました。Change Logページ記載のとおりLPC80X、LPC8N04、LPC540XXが更新され、本ブログ対象のLPC8xxにもSDKやCFGが2Q 2018に提供予定です。LPCOpenライブラリのバグ問題が、新しいSDKで解決されることを期待しています。

NXP MCUXpresso Supported Devices Table (Mar 2018).
NXP MCUXpresso Supported Devices Table (Mar 2018). Product Family filtered with LPC 8xx.

関連投稿

NFC機能搭載マイコンLPC8N04、LPC800シリーズに追加

Eclipse IDEベース統合開発環境のプロジェクトImport、Renameの方法

統合開発環境のデファクトスタンダードがEclipse IDE。本ブログ対象ベンダのNXP)MCUXpresso IDE、ルネサス)e2studio、Cypress)PSoC Creator、STM)SW4STM32など全てこのEclipse IDEをベースとした統合開発環境です。

ベンダやマイコンが変わっても殆ど同じ操作でエディットやデバッグができるので、慣れが早く、本来のソフトウェア開発に集中できます。但し、オープンソース開発なので、毎年機能追加や変更があり、2018年は6月にバージョン4.8、コードネームPhoton(光子の意味)への改版が予定されています。

本投稿は、2017年版Eclipse IDEバージョン4.7、Oxygenベースの各社IDEプロジェクトインポート、リネームの方法を説明します。
弊社マイコンテンプレートを使ってソフトウェア開発をする時、これらの操作を知っているとテンプレート:ひな型活用のプロジェクト開発がより簡単です。

IDEの例としてSW4STM32を用います。IDEは、Workspace:ワークスペースと呼ぶフォルダ単位で機能します。ワークスペース内には複数プロジェクトが存在でき、2重起動ができます。

プロジェクトImport

マイコンテンプレートは、テンプレートの具体的な応用例にシンプルテンプレートプロジェクトやBaseboardテンプレートプロジェクトをArchives形式で提供します。Archives形式は、配布に都合が良くEclipse IDEの標準方法ですので、IDEダイアログに従って操作すれば「複数の方法」でプロジェクトインポートができます。

このArchiveプロジェクトの「最も簡単」なワークスペースへのインポート方法が下記です。

  • Windowsで、Archiveを適当な場所で解凍 → 事前に作成したIDEワークスペースへ解凍フォルダ毎コピー
  • IDEで、File>Import>General>Existing Projects into Workspace実行 → インポートProjects選択
Import Existing Projects into Workspace
Import Existing Projects into Workspace。プロジェクトをインポートする方法は、マルチプラットフォーム対応のEclipse IDEの場合、複数ある。

IDEで直接Archivesプロジェクトを解凍しワークスペースへインポートすることもできますが、フォルダ選択などのダイアログ操作は面倒です。マルチプラットフォーム対応のEclipse IDEたるゆえんですが、WindowsかmacOSの上で使うのであれば、この方法が簡単です。

プロジェクト名Rename

※Rename後、Renameプロジェクトの再ビルドが失敗する場合があります。Rename前に、ワークスペース毎バックアップするなどの事前対策を実施後、Renameを実行してください。

ワークスペースに複数プロジェクトが存在するには、別々のプロジェクト名が必要です。例えば、シンプルテンプレートを使って開発したプロジェクトが既にあるワークスペースへ、もう一度シンプルテンプレートを使って新たなプロジェクトを追加作成する場合を考えます。

開発したプロジェクト名は、SimpleTemplateのままです。これをRenameしないと新たにシンプルテンプレートをインポートできません。この時は、開発したプロジェクト選択後、右ボタンクリックで表示されるメニューからRenameを選択し、別プロジェクト名に変更します。

Rename Project Name
Rename Project Name。元々のEclipse IDE守備範囲外のファイル名は、手動リネームが必要。

注意点は、この操作でプロジェクト名変更をIDEは認識しますが、IDE以外のツールで作成したファイル名などは、そのままとなる点です。図はSTM)SW4STM32の場合です。Debugフィルダ下の.cfg/ioc/pdf/txtの4ファイルがそれらです。これらファイルは、手動でのRenameが必要です。これを怠るとRenameしたプロジェクトの再ビルドやデバッグが失敗します。

これら手動Renameが必要なファイルは、各社のAPI生成ツールなどに関連したファイルで、他社IDEでも同様です。元々のEclipse IDE守備範囲外のこれらファイルは、プロジェクト名Rename時、手動Renameが必要ですので注意してください。

Rename後、再ビルドが成功することを確認してください。再ビルドが失敗する場合には、プロジェクトフォルダ毎コピー&ペーストを実行し、ペースト時にRenameしたい別プロジェクト名を設定する方法でRenameを試してください。

別プロジェクトファイルのコピー、ペースト

別プロジェクトファイルを当該プロジェクトへコピー、ペーストする方法は、同じワークスペース内であれば簡単です。ファイル選択後、コピー:Ctrl+Cとペースト:Ctrl+Vでできます。

ワークスペースが異なる場合は、IDEの2重起動を使うとファイル選択ミスがありません。

IDEは、起動中でももう1つ同時起動が可能です。IDE起動時に、異なるワークスペース選択をすれば、コピー対象プロジェクトのファイルをIDEで目視しながら選択できます。もちろん、Windowsエクスプローラでファイルを直接選択しペーストも可能ですが、普段IDEで見慣れたファイル表示で選択する方がミスは少ないです。同一ファイル名の上書き前の確認も行います。

エクスプローラでファイル表示をすると、普段IDEで見慣れないファイルなども見られます。これらが選択のミスを生みます。IDEは、必要最低限のファイルのみ表示しているのです。

IDE画面のリセット

デバッグやコンソールなど複数Perspectiveを表示するIDE画面は、時に隠したPerspectiveを表示したくなります。PerspectiveをIDE初期状態に戻すのが、Window>Perspective>Reset Perspectiveです。

Reset Window Perspective
Reset Window Perspective。IDEの初期状態ウインド表示に簡単に戻せる。

この方法を知っていると、使わないPerspectiveを気軽に非表示にできるので、画面の有効活用ができます。

まとめ

Eclipse IDEベースの各社開発環境で知っていると便利な使い方をまとめます。

  • プロジェクトインポート:IDEのExisting Projects into Workspaceを使うと簡単
  • プロジェクト名リネーム:自動リネームはEclipse IDE関連のみ。API生成ツール関連ファイルは手動リネーム要。
  • 別プロジェクトファイルのコピー&ペースト:IDE2重起動を使い、ファイル選択ミスを防ぐ
  • IDE画面リセット:利用頻度の低いPerspectiveを非表示にし、画面有効活用
Eclipse Base IDE Project Import and Rename
Eclipse Base IDE Project Import and Rename

マイコンテンプレート活用の最初の段階が、テンプレートプロジェクトのワークスペースへのインポートです。これらインポートしたテンプレートへ変更を加え、開発プロジェクトにします。

この開発プロジェクト名をリネームし、同じワークスペースへ、再びテンプレートプロジェクトをインポートします。ワークスペース内は、リネームした色々な既成開発プロジェクトから成り、様々なプロトタイピング開発へも応用できるでしょう。

ワークスペースが異なるファイル操作には、IDE2重起動でファイル選択のミスを防ぎます。

これらのTipsを知っていれば、既存資産を流用、活用し、本来のソフトウェアに集中しミスなくプロトタイピング開発ができます。

NFC機能搭載マイコンLPC8N04、LPC800シリーズに追加

近距離無線通信(NFC)機能搭載のLPC8N04がLPC800シリーズに追加されました。
スマホで測定温度を表示するデモソフト付きのLPC8N04評価ボード:OM40002がNXPから直接購入可能(2304円)です。

LPC8xxシリーズラインナップとLPC8N04評価ボード

LPC8xxシリーズ
LPC8N04が追加されたLPC8xxシリーズMCU。コア速度の8MHz低速化、EEPROM、NFC/RFID、温度センサ搭載などの特徴がある。(出典:LPC800 Series MCUs)
LPC8N04評価ボード
LPC8N04評価ボード。Component Sideにコイン電池ホルダーがある。Top Sideは5×7 LED Arrayを搭載し動作表示。(出典:UM11082)

LPC8N04マイコンの特徴

  • 4電⼒モード(sleep、deep sleep、deep power-down、battery off)のARM 8MHz Cortex-M0+コア
  • 32KB Flash、8KB SRAM、4KB EEPROMを統合
  • 広範囲なタギング/プロビジョニング・アプリケーションをサポートするエナジーハーベスト機能付きNFC/RFID ISO 14443 Type A通信
  • 精度±1.5℃の温度センサを統合
  • 2個のシリアル・インターフェースと12個のGPIO
  • 1.72V〜3.6Vの動作電圧範囲と-40℃〜+85℃の周囲温度範囲
  • 低コスト、⼩フットプリントのQFN24パッケージ
LPC8N04ブロック図
LPC8N04のブロック図。従来LPC8xxシリーズと異なり、8MHz動作コア、NFC機能とEEPROM搭載などが特徴。(出典:Product data sheet)

スマホと連動した評価ボードの動作動画はコチラ

個人的には、従来の汎用LPC8xxシリーズとは異なり、NFCアプリケーション特化マイコンのような気がします。Cortex-M0+コア8MHzによる超低消費電力動作、EEPROM、NFC/RFIDなどがその理由です。面白いアプリケーションが期待できそうです。

マイコン評価ボード2018

マイコン装置を開発する時、ベンダ提供のマイコン評価ボードは重要です。良いハードウェア、良いソフトウェアは、評価ボードをレファンレンスとして活用した結果生まれるからです。

今回は、ARMコア対Non ARMコアという視点で最新マイコン評価ボードを分析します。掲載マイコン評価ボードは下記です(価格は、調査時点の参考値)。

デバッガの2機能

ベンダ評価ボードには、デバッガ付属とデバッガ無しの2タイプがあります。デバッガは、

  1. デバッグ機能:ソースコードのダウンロード、ソースコード実行とブレークを行う
  2. トレース機能:プログラムカウンタ実行履歴を記録する

の2機能を提供します。

トレース機能は、プログラムカウンタ遷移を記録し、ハード/ソフトの微妙なタイミングで発生するバグ取りなどに威力を発揮します。が、本ブログで扱うマイコンでは利用頻度が低く、サポートされない場合もありますので、デバッグ機能に絞って話を進めます。

各社が独自コアマイコンを供給していた頃は、各社各様のデバッガが必要でした。しかし現在は、ARMコアマイコンとNon ARMコアマイコンの2つに大別できます。

ARMコアマイコンの評価ボード

ARMコア評価ボードは、ARM CMSIS規定のSWD:Serial Wire Debugというデバッグインタフェースでコアに接続します。SWDを使うと、他社ARMコアとも接続できます。このため、評価ボードのデバッガ部分と対象マイコンを切り離し、デバッガ単独でも使えるように工夫したものもあります。

ARMコア評価ボードの多くは、対象マイコンにSWDインターフェイスのデバッガが付属しています。これは、対象マイコンが変わってもデバッガは全く同じものが使えるので、量産効果の結果、デバッガ付き評価ボードでも比較的安価に提供できるからです。

CY8CKIT-146
SWDデバッガ付属評価ボードCY8CKIT-146 (出典:CY8CKIT-146 PSoC® 4200DS Prototyping Kit Guide)

また、統合開発環境:IDEもEclipseベースを採用すれば、実行やブレークのデバッガ操作方法も同じになり、例え異なるベンダのARMコアでも同じようにデバッグできるので開発者にも好評です。

以上が、マイコンのデファクトスタンダードとなったARMコアとEclipseベースIDEを多くのベンダが採用する理由の1つです。

Non ARMコアマイコンの評価ボード

一方、Non ARMコアマイコン評価ボードは、本来コア毎に異なるデバッガが必要です。そこで、評価ボードには対象マイコンのみを実装し、その購入価格は安くして、別途デバッガを用意する方法が多数派です。

機能的には同じでもコア毎に異なるデバッガは、サポートするコアによりデバッガ価格が様々です。例えば、ルネサスのE1デバッガは、RL78、RX、RH850、V850の4コアカバーで12600円ですが、RL78とRXコアのサポートに限定したE2 Liteデバッガなら、7980円で購入できます(2018年3月の秋月電子価格)。

RL78/G11評価ボードとE1
RL78/G11評価ボードとE1

ルネサスもE1/E2 Liteデバッガ付きのRX用低価格評価ボード2980円を2018年3月に発表しました(マルツエレック価格)。

E1、E2 Liteデバッガ付きRX評価ボード
E1、E2 Liteデバッガ付きRX評価ボード (出典:Runesasサイト)

※RX評価ボードは、無償CコンパイラROM容量制限(≦128KB)に注意が必要です。入手性は良いので容量制限を撤廃してほしいです。

個人でマイコン開発環境を整える時は、購入価格は重要な要素です。マイコンがARMコアかNon ARMコアか、デバッガ搭載かなどにより、評価ボード価格がこのように異なります。

標準インターフェイスを持つマイコン評価ボードの狙い:プロトタイピング開発

最近の傾向として評価ボードの機能拡張に、Arduinoコネクタのシールド基板を利用するものが多くなりました。様々な機能のシールド基板とその専用ライブラリが、安く入手できることが背景にあります。

ARMコア、Arduinoコネクタ、EclipseベースIDEなどの標準的インターフェイスを持つマイコン評価ボードの狙いは、色々なマイコン装置の開発を、低価格で早期に着手することです。既存で低価格なハード/ソフト資産の入手性が良いのが後押しします。

中心となるマイコン評価ボードへ、機能に応じたシールド基板を実装し、早期にデバッグしてプロトタイピング開発し製品化が目指せます。

CY8CKIT-046
Arduinoコネクタを2個持つCY8CKIT-046、緑線がArduinoコネクタ (出典:CY8CKIT-046 Qiuck Start Guide)

ルネサスもEclipseベースのIDE:e2Studioを提供中ですが、これは世界中のEclipse IDEに慣れた開発者が、ルネサスマイコンを開発する時に違和感を少なくするのが主な狙いだと思います。Non ARMルネサスマイコン開発の不利な点を、少しでも補う方策だと推測します。

関連する過去のマイコン評価ボード投稿

あとがき

ルネサス最新汎用マイコンRL78/G11は気になります。従来のRL78/G1xに比べアナログ機能を大幅に強化し、ローパワーと4μsの高速ウェイクアップを実現しています(詳細情報は、コチラ)。開発資料の多くがe2Studioで、CS+ではありません。Non ARMコアなので他社ARM比、特に優れたマイコンの可能性もあります。

 

汎用マイコンかアプリケーション特化マイコンか

大別するとマイコン:MCUには、汎用マイコンとアプリケーション特化マイコンの2種類があります。

弊社は、下記理由から汎用マイコン:General Purpose MCUを主として扱います。

  1. 対象ユーザとマイコンが多い
  2. 低価格で入手性の良い評価ボードが多い → オリジナルハードウェア開発にも役立つ
  3. 無償開発環境:IDEでもマイコンソフトウェア開発ができる
  4. 応用範囲が広い汎用マイコン開発の方が、顧客、開発者双方にとって有益である

汎用マイコンとは何か?に対しては、マイコンベンダ各社サイトのGeneral PurposeのMCUを指します。一方、アプリケーション特化マイコンとは、モータ制御、ワイヤレス制御、5V耐性などが代表的です。

かつては5Vマイコンが普通でしたが、現在は3.3V動作以下です。その結果、5V耐性がアプリケーション特化マイコンにカテゴライズされました。このように、時代や多数派に合わせて汎用の定義は変わります。高度なセキュリティや無線通信が必須のIoTマイコンも、いずれこの汎用マイコンにカテゴライズされると思います。

本投稿は、4番目の理由の追風となる記事を見つけたので紹介します。

汎用マイコンの動向記事

  1. “G”と”L”で考える発展途上の産業エレクトロニクス市場、2018年3月13日、EE Times Japan
  2. 産業FAは「汎用」「多数」の時代に、国産マイコンが変化を支える、2018年2月5日、TechFactory

最初の記事の”G”は、Global、”L”は、Localを意味します。マイコンベンダも、マイコンを使うユーザも、どのマイコンを使うかは暗中模索で混迷しているが、いずれはLocalからGlobalへ移行すると筆者は考察しています。

2の記事は、産業用FAが専用、少量装置から、AI:人工知能を利用した汎用、多数装置の時代に入ったと分析し、ルネサスRZ/AシリーズにAI機能を組込んでこの時代変化に対応すると宣言しています(関連投稿のSTMはコチラ、ルネサスはコチラを参照)。

どちらの記事も、アプリケーション特化マイコンより汎用マイコンの方が、より多く利用されると予想しています。マイコンベンダにとっても、汎用品で大量生産ができ供給コストも下げられます。

お勧めはプロトタイピング開発

FPGAにソフトウェアIPを組込み、より柔軟制御を目指したことや、高分解能ADCマイコンで精密測定などの開発も行いましたが、技術的に得るものは多くても開発時間が予定より長くなり、結局収支は赤字だった経験があります。

パソコンCPUと同様、汎用マイコン処理能力やセンサ能力も半導体製造技術とともに年々向上します。特に処理能力が必要なIoTマイコンは、コア動作速度を上げる、ディアルコアを採用するなど、ここ数年で急激に向上しています(PSoC6は、Cortex-M0+ 100MH動作、Cortex-M4 150MHz動作)。

弊社も今後の組込開発は、汎用マイコンを使い、より早く低コストで装置化する方が、顧客、開発側双方にとって有益だと考えます。開発期間が長いと、その間により高性能マイコンが発売されたりするからです。つまり、プロトタイピング開発をお勧めします。

プロトタイピング開発した装置が仮に能力不足であった場合は、その不足部分のみに改良を加える方がリスクも低く、確実に目的を達成できます。プロトタイピングの意味は、この能力不足部分を明確にし、低コスト低リスクで成功への道筋を探すことも含まれています。

汎用マイコンテンプレート

開発の立ち上げを早くすることがプロトタイプ開発の第1歩です。弊社マイコンテンプレートは、

  • 汎用マイコンの評価ボード上で動作確認済み
  • 複数サンプルソフトウェアをそのまま使った時分割の並列処理可能
  • 開発のつまずきを防ぐ豊富なTips満載のテンプレート説明資料添付

などの特徴があります。汎用マイコンテンプレートを活用し、効率的なプロトタイピング開発ができます。

IoTマイコンとセキュリティ

NXPは、2018年3月2日Bluetooth 5/Thread/Zigbee 3.0サポートのコンシューマ/産業IoT向けセキュリティ強化ARMディアルコア(M4とM0+)搭載のKinetis K32W0x MCUを発表しました。

Kinetis K32W0x Block Diagram
Kinetis K32W0x Block Diagram

この新製品は、以前投稿したCypressのPSoC 6:Cortex-M4とCortex-M0+のディアルコア、セキュリティ強化、BLE 5サポートのCypress PSoC 6によく似た製品です。

Cypressに続きNXPもARMディアルコアを採用したことで、強固なセキュリティが必須のIoTマイコンは、シングルコアよりもディアルコア搭載が標準になりそうです。IoTマイコンのセキュリティ関連情報を調査し対処方法を検討します。

PSoC Creator 4.2

PSoC 6搭載評価ボードCY8CKIT-062-BLEPSoC Creator動画では、デュアルコアのIDEでの扱い方やデバッグ方法などがいまいち不明でしたが、最新版PSoC Creator 4.2(2018年2月13日)で正式にPSoC 6がサポートされました。コアにより別々のフォルダにソースコードを作成し、デバッガはどちらかの一方のコアに接続します。

Cypress PSoC Creator 4.2 for PSoC 6 (Source, Creator Release Notes)
Cypress PSoC Creator 4.2 for PSoC 6 (Source, Creator Release Notes)

各コアの役割や機能配分が明確でないと、シングルコアよりもデバッグが大変になりそうです。

色々なセキュリティ強化方法

今年初めから騒がれた投機実行機能の脆弱性起因の対策は、まだ収束していません。Cortex-M系コアはこの脆弱性に関してはセーフでしたが、後追いが宿命のセキュリティ対策には終わりがありません。組込みマイコンにも、常時アップデートができるOTA:Over The Air更新機能が必須になるかもしれません。

Windows更新でも失敗があることを考えると、このOTA機能はリスクが高く、マイコン処理能力や導入コストもかなり必要です。

一方Maximは、セキュア認証専用ICを1ドル未満で提供することを発表しました。言わばMCU固有の指紋を使うことで安価にセキュリティ強化が可能です。評価キットも用意されています。

NXPもA71CHで同様のICと開発キットを用意しています。

少し古い資料ですが2012年11月発表の、“つながる時代のセキュリティ、チップと組み込みOSの連携で守る”を読むと、セキュアブート、効率的な暗号化、仮想化を使ったデータ保護サブシステムをセキュアに分離する技術など、半導体チップで提供されるセキュリティ機能を最大限に活用すべきだとの指針が示されています。

MCUセキュリティ対策の費用対効果

2年から数年でハードウェアが更新される個人情報満載のスマホやユーザ自身がセキュリティ対策を行うパソコンと、組込みマイコン:MCUのセキュリティ対策は、守るべき情報内容、管理運営方法が大きく異なります。

IoTマイコンのソフトウェアやハードウェア開発能力だけでなく、導入するセキュリティ対策の費用対効果を見極めるスキルも必要になりそうです。本命がハッカー次第で変わるなど、セキュリティは厄介で面倒な技術です。

NXP LPC8xxテンプレートV2.5改版

小ROM/RAM向けに従来マイコンテンプレートの必須機能のみを実装したTiny(小さな)テンプレートは、テンプレート本体処理が解り易いと好評です。ルネサスRL78/G10やSTM32Fxテンプレートには既に適用済みで、販売各マイコンテンプレートの改版を機に、順次この好評なTinyテンプレートへ変更したいと考えています。

LPC8xxテンプレートV2.5は、Tinyテンプレートの適用、対象マイコンの追加、シールドテンプレートの開発予告、この3つを目的に改版しました。

RL78/G10(ROM/RAM=4KB/512B または 2KB/256B)とLPC810(ROM/RAM=4KB/1KB)

小ROM/RAMで本ブログ対象のマイコンは、ルネサスRL78/G10とNXPのLPC810です。
※RL78/G10へ適用済みのTinyテンプレートは、コチラの投稿を参照してください。

16ビットのルネサスS1コアRL78/G10と違い、LPC810は僅か8ピンDIPパッケージですが、中身は32ビットARM Cortex-M0+コアですので、RL78/G1xのように500B以下でテンプレート実装はできません。

テンプレート本体は同じ単純なC言語ですが、機能させるための必須ライブラリ量が、ルネサス独自開発S1コアとARM Cortex-M0+コアでは大きく異なるからです。

そこで、LPC810テンプレートに限り前回投稿のコンパイラ最適化を“最適化なし(O0)”から“1段階最適化(O1)”へ変更したところLPCOpenライブラリv2.15利用debug configuration時、ROM=2460B、RAM=12Bに収めることができました(テンプレート応用例としてWDT:ウオッチドックタイマ制御は実装)。

LPC810 Template by LPCOpen v2.15 (Optimize -O1)
LPC810 Template by LPCOpen v2.15 (Optimize -O1)

残りのROM1.6KB、RAM1KBへユーザ処理を追加すればアプリケーション開発が可能です。この残り量でも、最適化(O1)の結果、結構なユーザ処理を記述できます。

LPC810は、入手性の良いNXP評価ボードがありません。そこでLPC810テンプレートのみは、上記1段最適化でコンパイル成功したLPC810テンプレートプロジェクトを提供します。LPC810独自開発ボードへの実装方法は、前回投稿を参照してください。

LPCOpenライブラリv2.15採用理由

LPC8xxテンプレートV2.5では、LPCOpenライブラリv2.15(2015/01/08)を用いました。主な採用理由は、2つです。勿論これ以外の開発環境は、最新版MCUXpresso IDE(v10.1.1_606)、Windows 10(1709)です。

  1. LPCOpenライブラリv2.15の方が、同じソースコードでもコンパイル出力が小さい
  2. 原因不明のリンカーエラーが発生する時がある

先に示したLPC810ソースコードでLPCOpenライブラリのみv2.19に変更した最適化結果が、ROM=3024B、RAM=16Bです。

LPC810 Template by LPCOpen v2.19 (Optimize -O1)
LPC810 Template by LPCOpen v2.19 (Optimize -O1)

また、v2.19では、v2.15でコンパイル成功するソースコードでも、下記原因不明のリンカーエラーが発生することがあります。

LPCOpen v2.19 Linker Error
LPCOpen v2.19 Linker Error

LPCOpenライブラリv2.19起因のこの1/2の現象は、同じソースコードでv2.15と比較しないと判明しません。

LPC8xxマイコン開発でつまずいている開発者の方は、是非LPCOpenライブラリv2.15で確かめてください。※LPCOpenライブラリは、v3系が最新版ですが、v2.9からのバグは継続していると思います。

LPC824(ROM/RAM=32KB/8KB)テンプレート応用例はシンプルテンプレート

LPC824は、十分なROM/RAM=32KB/8KBがありますので、MCUXpressoデフォルトの“コンパイラ最適化なし(O0)”でテンプレート実装ができます。

テンプレート応用例として、NXPのLPCXpresso824-MAX評価ボード実装の3色LEDとユーザSWで動作するシンプルテンプレートを提供します。Baseboardテンプレートは、LPCOpenライブラリバグのため、今回は提供を見合わせます。
※LPC824のLPCOpenライブラリバグに関してはコチラの投稿を参照してください。

LPCXpresso824-MAXは、Arduinoシールドコネクタを実装しています。ここへ今後のマイコン開発で必要性が高いSPIインタフェースのシールドを使ったテンプレート応用例の方が、Baseboardで応用例を示すより実用的だと考えています。これが、今回LPC824をシンプルテンプレートのみで見切り発車的に発売するもう1つの理由です。シールドテンプレートは、次版で提供予定です。

NXP LPC8xxマイコンテンプレートV2.5のまとめ

V2.5改版のLPC8xxマイコンテンプレート構成一覧を示します。

テンプレート名 対象マイコン(ベンダ/コア) テンプレート応用例 評価ボード:動作確認ハードウェア
LPC8xxテンプレートV2.5
(LPCOpen v2.15利用)
LPC810(NXP/Cortex-M0+) WDT実装(1段最適化プロジェクト) なし(テンプレートプロジェクト提供)
LPC812(NXP/Cortex-M0+) シンプルテンプレート
Baseboardテンプレート
LPCXpresso812
+ Baseboard
LPC824(NXP/Cortex-M0+) シンプルテンプレート
(シールドテンプレート※次版予定)
LPCXpresso824-MAX
(+SPIシールドテンプレート※次版予定)

前版V2.1と比べると、以下の特徴があります。※V2.2~2.4は、欠番です。念のため…。

  • 対象マイコンにLPC810とLPC824が加わり、LPC8xxテンプレートらしくなった(テンプレート本体はLPC8xxで共通)
  • テンプレート本体処理が解り易く、ご購入者様の応用や変更が容易となった
  • LPC824はテンプレート応用例がシンプルテンプレートのみだが、LPCXpresso824-MAX評価ボード単独で全ての動作確認可能
  • 今後LPCXpresso824-MAXのようなArduinoシールドコネクタ付き評価ボードは、SPIインタフェースシールドで機能拡張予定(従来はBaseboard機能拡張)

あとがき

マイコン内蔵周辺回路とGPIOをマトリクススイッチで接続するLPC8xxシリーズマイコンの狙いは、8/16ビットマイコンのARM32ビット置換え市場です。

そのためか、または前述のLPCOpenライブラリバグのためかは不明ですが、LPCOpenライブラリ利用よりもレジスタ直接アクセス方式のCode Bundleライブラリ利用がNXP推薦(SDK)です。

テンプレート本体は、利用ライブラリに依存しないC言語開発ですので、どのライブラリを利用しても適用可能です。しかし弊社は、他のCortex-Mシリーズコアと同様、LPC8xxシリーズもLPCOpenライブラリ利用が本来の開発姿だと思いLPCOpenライブラリのバグが取れるのを昨年から待っていました。

今回LPC8xxテンプレートV2.5への改版に際し、このバグ解消を待つよりも、LPC810とLPC824への対象マイコンを増やすこと、高速なSPIインタフェース利用テンプレートの開発予告の方が重要だと判断しました。

ベンダ提供のマイコン評価ボードは、Arduinoシールドコネクタ付きが一般的になりました。弊社も従来のBaseboard応用例よりも、SPIシールドを利用したテンプレート応用例の提供へ移行します。SPIインタフェースの重要性はマイコン技術動向(SPI/I2C)コチラの投稿を参照ください。

近日中にLPC8xxテンプレートご購入者様で、無料アップグレード対象者様には、お知らせとLPC8xxテンプレートV2.5の無償配布を行います。暫くお待ちください。

マイコンソフト開発の基礎知識と初心者、中級者向け開発方法(最終回)

前回までで初心者、中級者向けマイコンソフトの基礎知識と開発方法に、俯瞰視野でサンプルソフトを選び、サンプルソフト初期設定とループ内処理をライブラリとして評価ボードで動作確認しながら開発するサンプルソフトファーストの方法を述べました。

この方法は、サンプルソフトをジグソーパズルのピースとし、各ピースを弊社マイコンテンプレートへ入れさえすれば開発できるので、楽しくラクにマイコンソフトウェア開発ができます。

サンプルソフトを組合せるマイコンソフトウェア開発
サンプルソフトを組合せるマイコンソフトウェア開発

日本人は、サンプルソフトのコメントや概要記述の英語が苦手です。最終回は、ソフトウェアに使われる英語、特にサンプルソフト英語の扱い方を示し、本開発方法を総括します。

マイコンサンプルソフトの英語コメントは重要

初期設定+無限ループ内の1周辺回路制御という構造:フォーマットが決まっているマイコンサンプルソフトは、英語圏開発者によるものが殆どです。

彼ら彼女らにとって母国語英語ベースのC言語サンプルソフトは、ソースコードだけでも理解に支障はありません。また、関数をモニタ1画面(80字x 25行)以内の行数で記述する傾向もあります。ページスクロールせずに関数全体が見渡せるからです。

C関数の行数
C関数の行数

このような英語圏開発者があえて追記するコメントは、重要事項のみです。数行にまたがるコメントならなおさらです。つまり、なぜコメントしているかを理解することが大切です。といってもソースコードのコメント英語は、解り難いのも事実です。

英語コメントはブラウザ翻訳で日本語化

ブラウザアドレス窓に「翻訳」と入力すると、ブラウザ上で翻訳ができます。長い数行の英文でも瞬時に日本語になります。

ブラウザ翻訳
ブラウザ翻訳

サンプルソフトの英語コメントが解り難い時は、ブラウザ翻訳を使い日本語で読むと内容理解に効果的です。

マイコンソフト開発の基礎知識と初心者、中級者向け開発方法(総括)

従来のマイコンソフトウェア開発は、マイコンデータシートなど理解が先、次に理解した情報のプログラミングという順番でした。この方法は正攻法ですが、初心者、中級開発者には、限られた開発期間で理解対象が多いため開発障壁が高く、プログラミングの時間も相対的に短くなります。

マイコン応用製品の早期開発には、プログラミングを先にする方法へ見直すことが必要です。

それには、初心者、中級開発者が元々持つ俯瞰視野とサンプルソフト、ライブラリ、評価ボード、ブラウザ翻訳などの既存資産を上手く利用すれば良いのです。Arduinoシールドを使えば評価ボードへの機能追加も簡単で、製品版に近い開発環境でのプログラミングも可能です。

本投稿は、初心者、中級者向けのマイコンソフト開発の基礎知識として、サンプルソフト資産が多数あること、多くのサンプルの中から対象を絞り、一種のライブラリとして動作確認しながらソフト開発をするサンプルソフトファーストの方法を示しました。

IoT時代は、RTOSやセキュリティ知識など、より多くの情報を取り込んだマイコンソフトウェア開発になります。個々の情報の相対的な重要性さえ理解していれば、情報内容の理解よりも開発するソフトウェアへ組込む能力の比重が、ますます高まるでしょう。

開発者がこだわるべきは、短い期間内で開発するソフトウェア出力です。情報理解は、開発後でもOKです。

マイコンソフト開発の基礎知識と初心者、中級者向け開発方法(第2回)

第1回では、初心者、中級者はデータシートから開発着手せず、元々持っている俯瞰視野を忘れずにマイコンソフト開発をすることが重要だと述べました。
今回は初めにまとめを示し、次にその経緯や理由を説明、どうすれば初心者中級開発者が俯瞰視野でソフト開発できるかを示します。

第2回マイコンソフト開発の基礎知識と初心者、中級者向け開発方法のまとめ

  • サンプルソフトファースト:典型的な使用例、解り易さ重視、ソフトウエア開発立場のサンプルソフトから開発着手
  • サンプルソフトは、タイトルや概要のみを読み周辺回路の要求仕様に近いものを選ぶ
  • 開発の致命的ミスを避けるため、選定サンプルソフトから使用マイコンを再評価
  • サンプルソフト処理理解より、初期設定と無限ループ内処理の記述場所でライブラリとしての流用性を重視
  • ライブラリをマイコン評価ボードで動作確認後、要求仕様へカスタマイズ
  • 選出した複数サンプルソフトを、組み合わせて1パッケージ化できるツールあり

サンプルソフトファースト

マイコンソフトウエア開発は、ソフトウエア以外にもハードウエア、半導体など多くのことを理解した上で開発するのがBestです。しかし、限られた開発期間で全てを理解するのは、対象が多くしかも広すぎるため困難です。そこで、初心者、中級者がゴール(=開発完了)を目指すのに「必要最低限」な対象のみに絞り、ゴールインできるBetterな方法がサンプルソフトファーストです。

必要最低限の対象に絞る時に使うのが、マイコンのサンプルソフト(ベンダによってはアプリケーションノート、Code Examplesとも呼ぶ)です。サンプルソフトは、そのマイコンの「典型的な使用例」を「解り易さ重視」で「ソフトウエア開発の立場」から示す資料です。

「典型的な使用例」「解り易さ重視」「ソフトウエア開発の立場」で作られ、実際に動作するサンプルソフトを、一種のライブラリとして開発に使うのが本方法の骨子です。

マイコンソフトウエア開発対象の4分類

マイコンソフト開発を、制御する対象で4つに分類し、初心者、中級者がサンプルソフトを探すべき順位付けをしたのが下表です。

マイコンソフトウエア開発対象の4分類
分類(検索順位) 概要 対象例
周辺回路(1 マイコンソフト開発の基本中の基本。
周辺回路毎にサンプルソフト多数あり。
GPIO、ADCなど
通信(2 有線通信のサンプルソフト多数あり。
IoT無線通信プロトコルは、未確定。
USART、BLE、Threadなど
RTOS(3 複数タスクのリアルタイム処理に不可欠。
IoTマイコンには必須になる可能性大。
FreeRTOS、mbed OSなど
セキュリティ(4 IoT端末に不可欠。
処理内容は専門家任せでOK。
暗号化、セキィリティICなど

周辺回路は、GPIOやADCなどマイコン内蔵ハードウエアのことです。通信も周辺回路の1つですが、通信相手や有線/無線などにより制御ソフトがかなり変わり複雑度も増しますので、別項目として抜き出しています。また、IoT端末の場合には、BLE: Bluetooth Low EnergyやThreadなどのプロトコル候補がありますが、現状は未確定です。

RTOSやセキュリティも現状マイコンでは開発対象にはなりませんが、IoTが普及する頃には大きな対象になります。

巷にはセキュリティやIoT無線通信の情報が溢れていますが、当面は不要です。周辺回路(1)と有線通信(2)のみを検索すれば、現状のマイコンソフト開発には十分です。これで、探す対象が半分になりました。

サンプルソフト選定

マイコンには多くの周辺回路が実装済みです。しかし、各回路は独立していて、使う回路のみのソフトを開発すればOKです。周辺回路毎に、多くの典型的使用例、サンプルソフトがあります。

サンプルソフトには、内容概要を説明するタイトルや記述が必ずあります。この「タイトルや概要のみを読んで」要求された開発に使えそうか否かを判断します。判断の正確さに拘る必要はありません。気楽に、面白そうだと思ったサンプルソフトでも良いので、何個かピックアップします。

サンプルソフトに要求仕様の「一部しか含まれていないものでもOK」です。最後に示す、複数のサンプルソフトを組合せて1つにできるツールがあるからです。

概要やサンプルソフトのコメントが英語表記の場合も多いです。この場合は、第3回で示す英語対応方法を参考に対応してください。ここでは、全て日本語表記として続けます。

多くのサンプルソフトの中から、タイトルや概要のみで利用可否を判断するのは、日本語ですので簡単です。この操作で、内容まで目を通すサンプルソフトの対象数は、激減します。

ルネサスのIDE CS+で示されるアプリケーションノート例が下図です。

ルネサスCS+のサンプルソフトタイトル検索例
ルネサスのCS+サンプルソフトタイトル検索例

周辺回路の中で難易度が高いのは通信です。他と同様にサンプルソフトを選んでも良いですが、後回しでもOKです。周辺回路のサンプルソフト内に通信が含まれることも多いからです。さらに、通信は周辺回路の出力通知や遠隔制御に使うことも多いので、まずは周辺回路を開発した後でOKです。

重要なのは、「サンプルソフトの選出にも俯瞰視野を使う」ことです。いきなり細部へ入らず、常に俯瞰視野から多くの情報をふるいにかけ、その後で次ステップへ進むようにしましょう。

選出サンプルソフトから判る、開発仕様とマイコンのマッチング

サンプルソフトは、典型的な使用例です。もし、開発の要求仕様が、部分的にでもサンプルソフトに含まれない時は、サンプルの選び方が間違っているか、または仕様そのものの難易度が高いと言うことです。

もしかしたら、開発に使うマイコン選定ミスの可能性もあります。半導体ベンダは、様々なマイコンを発売しています。仕様に合うマイコンを使うのが開発の第1歩です。マイコン選定ミスは致命的です。

このように、サンプルソフトの概要だけでも要求仕様とマイコンのマッチングの良さ、悪さは判ります。ここでは、マッチングは良い、つまり開発見込みがあるマイコンを選定済みとして続けます。

※残念ながら既定方針で使用マイコンが決まっており、これで仕様を満たすものを開発する例も多くあります。しかし、仕様に近いサンプルソフトが無いということは、開発リスクが高いということです。
同一ベンダから汎用/専用など多くのマイコン機種を提供中なのは、開発リスクを下げるためです。選出したサンプルソフトからマイコン選定を再評価するのは良い方法です。

サンプルソフトはフォーマットから読み(見て)ライブラリとして活用

解り易さ重視のサンプルソフトは、構造にフォーマットがあります。周辺回路の「初期設定」と「無限ループ内での周辺回路制御」です。

初期設定で周辺回路の動作、割込みかポーリングかなどが変わります。サンプルソフトは、初期設定とループ内制御の2つに分けて読み(見)ます。初期設定は、周辺回路の使い方が同じなら、そのまま流用できます。

ループ内制御は、割込みの場合は、割込みサービスルーティン:ISRがそのまま流用できます。ISRで起動されるルーティンと、ポーリング処理は、簡単に理解していれば十分です。

つまり、サンプルソフトの処理理解よりも、処理がある場所で、自分の開発出力への流用性を読む(見る)のです。自分の開発に使えるものは、そのままサンプルソフトをライブラリとして使います。解り易さ重視で作ったサンプルソフトなので、ライブラリとしても使えます。

サンプルソフト抽出ライブラリを評価ボードで動作確認後カスタマイズ

サンプルソフトから抜き出したライブラリで本当に動くかを確かめるため、マイコン評価ボードで実際に動作させ確認します。マイコンは動けば開発は楽しくなります。

サンプルソフトとマイコン評価ボードは、ラクに楽しくマイコン開発を行う必須ツールです。

評価ボードでマイコンを動かし、もしも要求仕様と異なる箇所があれば、その箇所のみカスタマイズするのが初心者、中級者開発者向けにお勧めです。このカスタイマイズ時に、初めてデータシートを参照すれば良いのです。マイコンは動作し始めるまでに手間が掛かります。動作立上げを早くすれば、ラクに開発できます。

※サンプルソフトが提供する機能が要求仕様の一部のみの場合でも、複数のサンプルソフト機能を簡単に組み合わせることができる弊社マイコンテンプレートなどのツールがあります。

つまり、サンプルソフトライブラリを活用しジグソーパズルを組むような感覚でマイコンソフトウエア開発ができます。

2018マイコンベンダ最新ニュース

弊社マイコンテンプレートで扱っております主要マイコンベンダ、NXP、ルネサス、STマイクロエレクトロニクス、Cypress各社の2018最新ニュースとRTOS関連ニュースの中から、ブログ対象MCU関連の情報をピックアップしました。

NXP

MCUXpresso IDEの新バージョン10.1.1_606がリリースされました。また、LPC8xx向けのLPCOpenライブラリv3.02もリリースされましたが、リリースノートを見てもv3.01のバグ解消は未処理のようです。

そのためか、MCUXpresso IDE v10.1.1付属LPCOpenライブラリもv2.19のままで、v3.02添付はありません。近いうちにv3.02の動作を調査する予定です。

ルネサス

インターシル社と完全統合した新生ルネサス誕生(2018年1月1日)。アナログ関連で高いスキルを持つ旧インターシル技術がRL78マイコンへも導入されそうな気配があります。Cortex-M0/M0+コアとの競争に生き残るには、汎用RL78マイコンのアナログ強化、センサ内蔵が方策なのでしょう。

但し、開発環境CS+の先行きには不安要素もあります。6月末提供予定のe2 studioのAI利用無償プラグインはRL78もカバーされますが、果たしてCS+でも同機能がサポートされるのかが気掛かりです。

e2 studio新プラグイン
e2 studio新プラグイン(記事より)

STマイクロエレクトロニクス

既にEWARM、MDK-ARM、TrueSTUDIO、SW4STM32の4種IDEをSTM32マイコン向けに提供中のSTMが、TrueSTUDIOの開発元スウェーデンのAtollic社を買収しました。

現状のEclipseベースTrueSTUDIO無償版もコードサイズ制限はなく、弊社使用中のSW4STM32無償版サイズ制限なしと機能的には同じです。このTrueSTUDIOとSW4STM32を比較し、なぜAtollicを買収したのかを探りたいと思います。

Cypress

最新マイコン評価ボードで紹介しましたCY8CKIT-062-BLE PSoC 6 BLE Pioneer Kitが、サイプレスサイトからも購入できるようになりました。また、サンプルソフト(Code Examples)も豊富に提供されています。

E-ink液晶を使ったArduinoシールドは、汎用性が高そうなので興味を惹かれます。

RTOS

mbed OS 5の新しいバージョンMbed OS 5.7.2 がリリースされました。Amazon FreeRTOSなど、MCU用RTOSの普及も2018年のトレンドになりそうです。

まとめ

2017年の半導体ベンダランキング(速報値)が発表されました。NXPは第10位(前年9位)です。2016年MCUランキングは、NXP>ルネサス>STM>Cypressの順でした。NXPとルネサスがMCUシェアの1/3を占めるのは、今年も変わらないかもしれません。

例年に比べ2018年はMCU各社の動きが早いように感じます。EVや自動運転、コネクテッドカーがMCU開発の動きに拍車をかけているのは間違いと思います。

新たな動向としては、ソフトウエア開発環境の整備です。数億、数十億個とも言われるIoTマイコン時代では、現状のようにオーダーメイドでのソフト開発では時間が掛かりすぎます。より高速で効率的なソフトウエア開発ツールやライブラリ活用術が求められるような気がします。