WindowsのTPM使い方

Windows 11アップグレート要件のTPM 2.0の使われ方を調査しました。WindowsがどのようにTPMを使っているかを知れば、11アップグレート足切り要件を筆者が納得し、加えて、IoT MCUセキュリティのTrustZone開発工数を顧客へ説明する時、参考になるかもしれないからです。

WindowsのTPM

Windows 10から追加・変更された現行Windows 11の機能は、生産性や弊社ビジネス向上に直結するものは無いと思っています。対処法などは、最悪Windows 11へアップグレードする際に備え収集中です。

アップグレード要件で最も不満な点が、TPM 2.0です。このTPMで何を行い、なぜ要件になったのかを整理してみます。

TPM機能(出展:PC Watch記事)
TPM機能(出展:PC Watch記事)

その結果、TPM 2.0は、11アップグレード要件というよりも、国際標準規格制定団体:Trusted Computing Group(TCG)が2014年10月にリリースし、TPM 2.0としてISO/IEC標準セキュリティ規格となったPCの普及が目的、と結論しました。

来年秋のWindows 11大型更新後、弊社PCの11アップグレート状況が変わるか楽しみです。

TPM利用Windows HelloとBitLocker

暗号化、乱数⽣成、暗号鍵⽣成と保存、デジタル署名がWindowsのTPM 2.0チップ利用箇所で、MacのBoot CampでもWindows 11が動作しない理由は、コチラに良くまとまっています。

ちなみに、TrustZone対象も、TPM 2.0と同様になる可能性も高く、特に、暗号化アルゴリズム可変の機能は、優れています。アルゴリズムを変更するWindowsのOTA相当にも注目しています。

Windowsは、これらTPM機能を利用し、パスワードを使わずにWindowsへサインインする「Windows Hello」や、内部ストレージ暗号化の「BitLocker」を実行します。また、「Microsoft Azure Attestation」(MAA)などにも使うようです。

WindowsのTPM使い方例(出典:セパゴのITブログ)
WindowsのTPM使い方例(出典:セパゴのITブログ:https://www.sepago.de/)

BitLockerやWindows Helloは、Windows 10でも利用した企業向けノートPCユーザもいるかもしれません。ただ、個人ノートPCや自宅PCユーザは、Microsoftアカウントを使うWindows HelloやPINの代わりに、ローカルアカウントの利用者が多いハズです。手間が掛からないことや、PC使用履歴をクラウド記録されるのが嫌だからです。

Windows 11は、Microsoftアカウント利用が基本ですが、アプリケーション個人認証にスマホ併用も必須になりつつあります。例えば、Googleログインも、スマホ2段階認証が有効に変わりました。

Googleログインの2段階認証プロセス
Googleログインの2段階認証プロセス

従って、例えWindows 11でTPMパスワードレス認証後でも、Googleログイン2段階認証は必要になる訳です。一方、TPM 2.0未搭載Windows 10でも、BitLockerやWindows Helloは利用でき、スマホ2段階認証などで様々なアプリケーションのセキュリティにも対応可能です。

つまり、TPMは、Windows 11の技術的アップグレード要件ではなく、OSセキュリティ強化が目的、というのが筆者TPM評価です。

ちなみに、ローカルアカウントによるWindows 11セットアップ方法は、コチラにまとまっています。

TPM理由

Microsoftが強調するOSセキュリティ強化には、TPMと手間暇、処理能力が必要です。処理能力要件が、Windows11対応CPUです。Windows 10が正常に動作するCPUでも、この能力要件を満たさないCPUも多数あります。理由は不明ですが、今回はTPMにフォーカスするため追求しません。

さて、筆者のようなセキュリティ素人には、TPMセキュリティ強化分と便益(手間暇)比を、ゲーム/個人/企業などのPCユースケース毎に評価、公表してほしいです。現行Windows 11は、最強セキュリティを求める企業向けユーザのみを対象にしている気がします。

仮に、Windows 11普及にTPMセキュリティ強化が障害になっているとMicrosoftが判断すれば、コチラの関連投稿2章のユーザアカウント制御のようなセキュリティを弱める対策を打出すと思います。

ユーザアカウント制御の設定
ユーザアカウント制御の設定

好みのセキュリティレベル設定は、個人ユーザに歓迎されるハズです。既に、TPM回避Windows 11インストール公式発表などがその現れです。これは、Windows 10サポート終了2025年10月14日が近づけば、より効果を発揮します。

しかし、Windows 11の魅力が現行のままなら、2025年10月以降は、Mac/Linuxなどの別OSやWindows 365などに乗換えるユーザも少なくないと思います。11乗換魅力の無さが、普及を妨げているからです。

TPM の理由は、最もセキュリティに敏感で、新PC購入/入替えも容易な企業向けPCユーザへ、ISO/IEC標準セキュリティ規格PCへの買換え動機付けだと思います。

TrustZone Cortex-M33はM4比2倍説明応用

TrustZoneとTPMの類似性
TrustZoneとTPMの類似性

IoT MCU顧客へ、Cortex-M33 TrustZone活用開発工数は、Cortex-M4比2倍となる説明が必要と前稿で書きました。

2倍根拠は、Cortex-M33/M4動作周波数比、Secureと通常の2プロジェクト同時開発必須などです。これらは、目に見える差分です。しかし、セキュリティに関しては、リスクが増減という話ばかりで、数値で表せないセキュリティ差分を、顧客に納得してもらえるかは、正直分かりません。

しかも、TrustZone活用には、通常の開発スキルに加え、セキュリティスキルも必要です。組込み開発は、1人で全て担当することも多いので、セキュリティ知識は持てても、利用スキル:暗号化ライブラリ選択やAPI利用法などに限定したいハズです。

セキュリティの詳細内容は、一般的なIoT MCU開発者には背景知識が少ないため、根本理解は困難でしょう。この状況で、セキュリティ利用スキルも必要となるTrustZone活用開発の差分を、顧客に上手く納得してもらうには、開発者として何らかの工夫も有効かもしれません。

Windows 11のTPMも、上記TrustZoneと全く同じ状況だと思います。そこで、現時点のTPMを整理しました。

今後Microsoftが、どのようにTPMの理由をユーザへ説明(12/4更新)していくかを、IoT MCU顧客へのTrustZone Cortex-M33開発工数が、M4比、2倍の説明にも応用したいと考えています。

実務的には、セキュリティの根本理解よりも、この方法の方が近道の気がします😅

ルネサスRAファミリカタログ2021.11更新

ルネサスRAファミリカタログが、最新版2021.11に更新されました。高度セキュリティTrustZone搭載IoT MCUとして、弊社は、ルネサス)RAファミリとSTマイクロ)STM32L5/U5に注目しています。

本稿は、RAファミリ中核のRA4とRA6両シリーズ特徴、TrustZoneオーバーヘッド処理がM4比2倍を説明し、評価ボードを紹介します。

RAファミリのCortex-M33とCortex-M4

ルネサスRA4シリーズのグループ構成(出展:RAファミリカタログ)
ルネサスRA4シリーズのグループ構成(出展:RAファミリカタログ)

ルネサスオリジナルやARM Cortex-M系など、多種多様なMCUコアを販売しているルネサスのRAファミリ位置づけと開発方法は、コチラの関連投稿にまとめ済みです。Cortex-M系競合他社より出遅れ感もありますが、最新RAファミリカタログを見ると、TrustZone対応Cortex-M33搭載IoT MCUの精力的製品化が感じられます。

Cortex-M33搭載RAファミリの中核MCUが、RA4/6シリーズです。RA2シリーズはCortex-M23搭載、RA8シリーズは未発売です。ターゲットアプリケーションは、カタログP5にまとまっています。

※Cortex-M33 ≒ Cortex-M4後継、セキュティ機能強化コア
※Cortex-M23 ≒ Cortex-M0+後継、セキュティ機能強化コア

Cortex-M33とCortex-M0+/M4差分
Cortex-M33とCortex-M0+/M4差分

RA4/6シリーズには、Cortex-M4搭載MCUもあります。これは、TrustZoneまでの高度セキュリティが不要なアプリケーション向けのMCUだと思います。Cortex-M33のTrustZone活用には、内蔵Flashのパーティション分割やSecureステートとNon Secureステート切替えなど、高度セキュリティ対応オーバーヘッド処理が必要になります。

同一シリーズ内でCortex-M33とCortex-M4の動作周波数が異なる理由は、開発アプリケーション移植を考慮すると、これらオーバーヘッド処理のためにM4比2倍の高速化が必要だからと推測します。これは、コチラの関連投稿で示したCortex-M33とCortex-M4比較や開発工数比評価の内容とも一致します。

つまり、TrustZoneの高度セキュリティは、M4比2倍もMCU能力を消費する可能性がある訳です。

コスト意識が非常に高いIoT MCU顧客に、このM4比2倍を理解してもらえるかは分かりません。前稿では、筆者がWindowsユーザで、TPM足切り要件に不満でした。同様にIoT MCU顧客も、我々開発者が高度セキュリティ内容を丁寧に説明しないと納得してもらえないかもしれません。

以後は、Cortex-M33搭載RA4とRA6評価ボードをそれぞれ紹介します。

RA4シリーズ

RA4シリーズの特徴は、Cortex-M33/100MHz性能と低消費電力動作です。Digi-Key記事が、判り易く特徴をまとめています。記事紹介のRA4評価ボードが、弊社も使用中のRA4E1 Fast Prototype Board (Cortex-M33/100MHz、Flash/512KB、RAM/128KB)です。

※Eは、RA4シリーズ開発エントリポイントを示します。つまり、他RAシリーズやファミリへのアプリケーション移植性に優れた汎用MCUを示しています。

RA4E1 Fast Prototype BoardへFreeRTOSを適用
RA4E1 Fast Prototype BoardへFreeRTOSを適用

弊社は、既にRA4E1 Fast Prototype Boardを使ったFreeRTOSと、統合開発環境e2 StudioでのFlexible Software Package(FSP)の使い方を投稿済みですので参照してください。FSPとは、RAファミリ共通のSDK(Software Development Kit)のことです。

但し、どちらの投稿もTrustZone未使用です。別途投稿予定のTrustZone使用版で、2倍比を評価できればと考えています。未使用のTrustZoneですが、プロトタイプ開発初期から高度セキュリティに配慮すること、顧客がTrustZoneを要求した場合、開発プロトタイプをそのまま活用できるメリットがあります。

※TrustZone使用版は、検討中です。当面の課題は、後の章に示しています。

RA6シリーズ

EK-RA6M4(出展:ユーザーズマニュアル)
EK-RA6M4(出展:ユーザーズマニュアル)

RA6シリーズの特徴は、RA4比、より高速なCortex-M33/200MHz搭載です(カタログには、最大240MHzと記載されていますが、発売製品はどれも200MHzです)。モータ制御などに向いています。やはりカタログよりも、Digi-Key記事のほうが、RA6シリーズ特徴理解がし易いです。

※Mは、モータ制御向けを示します。その他、カタログ記載のWやTなどのサフィックスも、内蔵周辺回路のアプリケーション適合性を示します。

記事紹介のRA6M評価ボードが、EK-RA6M4です。モータ制御先進アナログ回路や大容量Flash内蔵ですが、個人購入するには高価な気がします。顧客モータ仕様変更に柔軟に対応するには、汎用RA6E1で共用部分を早期開発し、先進制御部分のみを差分開発する方法が効果的だと思います。

TrustZoneサンプルコード課題

TrustZone概念は理解しても、実装はどうか? が普通のソフトウェア開発者には判り難い点です。秘密鍵など、何をSecure領域に書込み、いつ読込むかなど、セキュリティ専門家解説付き具体的サンプルコードを探していますが、適当なものが今のところ見つかりません。

TrustZone利用手順と保存対象は、接続クラウド側にも多少依存するでしょうが、ほぼ決まっていると思っています。具体的サンプルコードがあればテンプレート化も可能か、というのが現状です。

Blogテーマ変更

本ブログテーマを変更しました。本年1月変更に続き2回目です。変更理由は色々ありますが、投稿記事の「カテゴリ」と「タグ」が、投稿最後に表示される点が一番の変更点です。

今後とも本ブログ、よろしくお願いいたします。

STM32 Innovation Day 2021の歩き方

メタバース会場Mapとメニュー
メタバース会場Mapとメニュー

11月10日(水)から本投稿日12日(金)17時まで開催中のSTマイクロエレクトロニクス主催、オンライン・コンファレンスとAI、Security&Cloud、Ecosystem展示会場の歩き方を説明します。インターネット仮想空間:メタバースの移動方法です。

メタバース会場Mapと移動方法

ログインし会場入り口はこちらをクリックすると、表示されるのが最初の図、左下が会場Map、右上がメニューです。

Map内●が、現在位置:会場入り口、が、移動可能な6位置を示します。図中央の位置の移動や視点を変える方法は、Google Mapと同じ要領です。左下の+-△▽などでも移動可能です。メニューは、移動ショートカットです。

つまり、STM32 Innovation Day 2021会場が、インターネット上の仮想空間(メタバース:後述)で実現され、このメタバース内をGoogle Mapの方法を使って自由に移動するしくみです。

コンファレンスとバーチャル展示会

メタバース内は、ライブ配信のコンファレンスと、期間中いつでも入れる5か所のバーチャル展示会の2つから構成されます。

毎日13:00から17:00までのライブ配信コンファレンスは、日程の時のみコンファレンス内容が視聴可能です。一方、バーチャル展示会は、開催期間中は、24時間いつでも視聴ができます。

追記:各種資料(※基調講演および一部セッションを除く)は、11月30日(火)17:00までダウンロード可能なので、イベント開催期間中に参加できなかった方や、もう一度ご覧になりたい方は、利用できるそうです!

バーチャル展示会内操作

Product展示会の操作
Product展示会の操作

Product位置へ移動した例が上図です。「製品・デモ」をクリックすると、パネル内容に関する日本語説明員による動画、開発ボード説明やダウンロード資料などが入手できます。

つまり、現実の展示会と同じです。残り4か所の展示会へのGoogle Map移動が少し面倒ですが、各展示会とも同じ構成ですので楽しめます。位置移動は、ブラウザの戻る(履歴)や「MAP」クリックの方が簡単です。

アンケート回答でボードが当たるかも?

右下「退出する」クリックで示されるアンケートに答えると、大量370名に当たる開発ボードプレゼントキャンペーンが実施中です。もちろん、これら開発ボードは、前章の5展示会でその詳細が確認できます。ブラウザ履歴で展示会へ戻り、応募ボード内容を再確認するのも良いでしょう。

メタバース

メタバースとは、メタ (meta-) とユニバース (universe) の合成語です(Wikipediaより)。今回のSTM32 Innovation Day 2021では、アバターは使いませんが、今後は、自分のアバターと会場説明員アバターが登場し、技術解説や質問・回答を行うなど、現実世界をより仮想化した展示会やコンファレンスへ発展するかもしれません。

COVID-19の影響で、人の密集を避ける会議やイベントは、メタバースやアバター活用がトレンドです。一部ゲーマー向けだった高性能GPU搭載PCが、ビジネス分野へも普及するきっかけになります。PCやスマホ超高性能化が、MicrosoftやMeta(旧Facebook)の狙いでしょう。

クラウドベースMCU開発(個人編)

クラウドベースMCU開発お役立ちリンク
クラウドベースMCU開発お役立ちリンク

ARMが、2021年10月19日、IoT関連製品の開発期間を平均5年から最大2年間短縮できるクラウドベース開発環境「Arm Total Solution for IoT」発表という記事(EE Times Japan)は、以下の点で興味深いです。

・IoT製品化に平均5年もかかるのか?

・ハードウェア完成を待ちソフトウェア開発着手するのか?

但し、クラウドがMCU開発に効果的で、GitHubなどのクラウドリンクが今後増えることは、疑う余地がありません。そこで、すきま時間に個人レベルで役立つクラウドMCUリンクを3点示します。

すきま時間お役立ちクラウドMCU開発リンク

クリエイティブなMCUハードウェア/ソフトウェア開発中は、集中時間と空間が必要です。COVID-19の影響で、開発場所や通勤環境に変化はあるものの、ちょっとした待ち時間や出先での2~3分程度のすきま時間は相変わらず存在します。

個人レベルのIoT MCU開発支援が目的の弊社は、このような短いすきま時間にスマホやタブレットを使って、MCU情報を収集、閲覧するのに便利なリンクを紹介します。

すきま時間にMCU関連情報を閲覧することにより、集中時間に凝り固まった開発視点を新たな視点に変える、最新情報を収集するなどが目的です。

STマイクロMCU技術ノート

STマイクロMCU技術ノートの一部(PDF内容は濃く全てのMCU開発で役立つTips満載)
STマイクロMCU技術ノートの一部(PDF内容は濃く全てのMCU開発で役立つTips満載)

STマイクロのSTM32/STM8シリーズ別に検索できる日本語MCU開発Tips満載リンクです。ログインが必須ですが、わずか数ページで説明されたダウンロードPDF内容は濃く、STユーザに限らず全てのMCU開発者に役立つTipsが得られます。

EDN Japan Q&Aで学ぶマイコン講座

EDN Japan Q&Aで学ぶマイコン講座の一部
EDN Japan Q&Aで学ぶマイコン講座の一部

EDN JapanのMCU情報リンクです。Q&Aで学ぶマイコン講座は、最初の1ページでMCU初心者、中級者からの質問に対する回答要点が示されています。2ページ以降で回答詳細を説明するスタイルですので、短時間での内容把握に適しています。

Digi-Keyブログ

Digi-Keyブログの一部(日本語タイトルは翻訳された記事を示す)
Digi-Keyブログの一部(日本語タイトルは翻訳された記事を示す)

日本語タイトルで日本語へ翻訳されたブログ記事が判るリンクです。大手サプライヤーの英語ブログですのでMCUだけでなく、幅広いデバイス情報が得られます。すきま時間でも読めるように記事は短く纏まっています。最新MCU情報やハードウェア開発者向け情報が多いのも特徴です。

IoT製品とプロトタイプ開発

EE Timesの2021年10月8日、半導体製品ライフサイクルの長さと製造中止対策の記事に、20年前、1990年代の事業分野別の製品開発リードタイムとライフサイクル変化が示されています。

事業分野別の開発リードタイムと製品のライフサイクル変化(出展:記事)
事業分野別の開発リードタイムと製品のライフサイクル変化(出展:記事)

1998年の値ですが、重電機器を除く製品開発時間(リードタイム)が2.3年以内という数値は、現在でも納得できます(0.5年程度のプロトタイプ開発時間は含んでいない実開発時間だと思います)。

MCUベンダ各社は、10年間のMCU供給保証を毎年更新します。つまり、2021年更新ならば、2031年迄の10年間は販売MCUの供給を保証するということです。

但し、セキュリティが重視されるIoT製品では、最新セキュリティハード/ソフト内蔵IoT MCUによる製品化をエンドユーザは望みます。SoC:System on a Chipによる製造プロセス進化により、IoT関連製品の開発期間は、再開発も含めると1998年よりも更に短くなる可能性もあります。

前章リンク情報を活用し、最新セキュリティ内蔵MCU状況、セキュリティ機能のOTA更新可能性、開発製品がエンドユーザのセキュリティニーズと開発コストを満たすか、などを個人でも常時把握・評価し、万一、開発製品の成功見込みが少なくなった場合には、MCU見直しなども必要でしょう。

IoTセキュリティのライフサイクルは変動的で、かつ、IoT製品の市場獲得に支配的です。短い開発時間中であっても、状況に応じてMCUを変更することは、製品の成功と失敗に直結します。

弊社MCUテンプレートを使ったプロトタイプ開発は、このような激変IoT製品開発のMCU評価に適しています。制御系MCUと被制御系を分離、低コスト、少ない手間でプロトタイプを早期に開発し、プロトタイプ実機によりIoT製品のMCU評価、適正判断ができるからです。

もちろん、最初に示したバーチャルなArm Total Solution for IoTとの併用も有効です。セキュリティ重視IoT製品開発の成功には、IoT MCU選択と開発期間の短さがポイントです。

Bluetooth 5.3 LE対応RA開発中

Bluetooth 5.3対応の開発中RA MCU
Bluetooth 5.3対応の開発中RA MCU

2021年10月21日、ルネサスは、最新規格Bluetooth 5.3 Low Energy(LE)対応のRAファミリ新MCUを開発中と発表しました。RA搭載予定のBluetooth 5.3 LE機能と、ルネサス32ビットMCU におけるRAファミリの位置づけを示します。

搭載予定の最新Bluetooth 5.3 LE機能

PCとキーボード、スマホとヘッドホン間など近距離低消費電力無線通信規格としてBluetooth 5は、広く用いられています。MCU搭載例も多く、本ブログでも何件か投稿してきました(STマイクロのSTM32WB、Cypress/InfineonのPSoC6、NXPのKW41Z、Bluetooth 5規格)。

RAファミリでもBluetooth 5対応RA4W1が発売中です。開発中のRAは、新規格Bluetooth 5.3対応MCUです。

Bluetooth SIGが2021年7月13日に発表した新規格Bluetooth 5.3は、Bluetooth 5に、スループットと信頼性、エネルギー効率向上など様々な機能を追加しました。詳細は、Bluetooth SIG サイトのBluetooth Core Specification v5.3で判ります。

開発中の新RAには、これらBluetooth 5.3機能に加え、Bluetooth 5.1で追加された方向検知機能、Bluetooth 5.2で追加されたステレオオーディオ伝送用アイソクロナスチャネルも対応予定です。また、ソフトウェア無線(SDR)機能の搭載により、後日リリースされる新たな規格への移行も可能だそうです。

つまり、新RAは、Bluetooth 5以降の新Bluetooth機能満載のIoT MCUで、しかも、SDRにより新しい機能追加も可能な、“万能”近距離低消費電力無線通信付きIoT MCUになりそうです。

2022年1~3月サンプル出荷予定

最新規格Bluetooth 5.3 Low Energy対応、開発中RA MCUのサンプル出荷は、2022年第1四半期(1~3月)が予定されています。

RAファミリ位置づけ

独自コア、ARMコア、開発環境など様々なルネサス32ビットMCUファミリ差が一目で判る図が、コチラの記事にあります。

RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)
RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)

IoT MCU開発者の立場からRAファミリを分析すると、

・ARM Cortex-M33/M23/M4コア採用でIoTセキュリティ強化
・Eclipse IDEベースのKeilやIARなどのARM Ecosystemと無償GNUコンパイラが使える

などRXファミリやSynergyでは不可能であった、手軽で低コスト、個人レベルでも開発可能な32ビットIoT MCUと言えます。

RAファミリ向けルネサスEcosystemは、Eclipse IDEベースのe2 studioです。また、RAファミリ専用Flexible Software Package(FSP)によるAPI生成ツールは、ピン互換性、周辺回路共通性があるため、RAファミリ内での開発ソフトウェア移行や移植も容易になる特徴があります。

無償GNUコンパイラのFlash容量制限などもありません。

RAファミリ開発方法

開発中のBluetooth 5.3 LEが新たに周辺回路に追加されますが、e2 studioやFSPによるRAファミリ開発方法は、汎用RA MCUのRA4E1 Fast Prototype Boardの使い方や、FreeRTOSの使い方と同じです。

RAファミリ開発の早期着手、習得したい方は、上記リンクを参考にしてください。

Flexible Software Package v3.4.0更新

FSPは、10月7日にv3.4.0へバージョンアップしました。

e2 studio 2021-10のHelp>check updatesではFSP v3.3.0から自動更新しません。FSPサイトから最新v3.4.0をダウンロードし、手動でアップグレート更新する必要があります。

Flexible Software Packageのアップグレード
Flexible Software Packageのアップグレード

v3.4.0を別の場所にインストールすれば、旧v3.3.0との併存も可能です。

AI、Security&Cloud、Ecosystem オンライン・コンファレンス

AI、Security&Cloud、Ecosystem(=開発環境)の3日間オンライン・コンファレンスと展示会が、STマイクロ主催でライブ配信されます。STM32ユーザは勿論、他社ユーザでも組込みシステム開発ヒントの可能性があります。

STM32 Innovation Day 2021 11月10日~12日(オンライン)
STM32 Innovation Day 2021 11月10日~12日(オンライン)

AI、Security&Cloud、Ecosystemプログラム概要

11月10日(水)~12日(金)の毎日13時~17時間のライブ配信で、登録すればお好きな内容のみ視聴も可能です。登録方法は、後で示します。

AI、Security&Cloud、Ecosystemのプログラム概要
AI、Security&Cloud、Ecosystemのプログラム概要

詳細プログラムは、コチラからダウンロードできます。

見どころ

10日(水)AI:STM32MCUでの組込みエッジAIデモ。

11日(木)Security&Cloud:Cortex-M33コアSTM32U5、セキュリティ・フレームワークSTM32Trust、AWSクラウド。

12日(金)Ecosystem:STM32MCU機能安全ソフトウェア・パッケージ、Azureクラウド。

13:30~14:00の各分野エキスパートによる基調講演、バーチャル・イベント会場の最新製品紹介やデモなども面白そうです。

他社ユーザの方は、利用中MCUとの差分が明確に判る絶好のチャンスです。

登録方法

事前に、コチラで仮登録し、折返しメールで10分以内に本登録します。

コンファレンス後、アンケートに回答するとMCU評価ボードなどが当選するかもしれません。

RA4E1 Fast Prototype BoardのFreeRTOS使い方

RA4E1 Fast Prototype BoardへFreeRTOSを適用
RA4E1 Fast Prototype BoardへFreeRTOSを適用

RAファミリ評価ボードRA4E1 Fast Prototype Board (Cortex-M33/100MHz、Flash/512KB、RAM/128KB)(以降FPB)の、スイッチS1でLED2を点灯するFreeRTOS適用例を示します。RAファミリビギナーズガイド9章記載のEK-RA6M4評価キットを使った処理内容と同じです。

e2 studio 2021-10は、Project>Change Deviceで対象MCUデバイス変更機能がありますが動作しません。そこで、ガイド掲載のEK-RA6M4を手動でRA4E1へ変更し、FPBでFreeRTOSのセマフォを利用し、S1押下げ割込みとLED2トグル点灯を同期させるFreeRTOSサンプルコードを示します。

このコードを使い、前稿よりも具体的にFPBとFlexible Software Package(以降FSP)の使い方、今回は使わないTrustZoneのメリットを示すのが、本稿の目的です。

RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)のRTOSとTrustZone

IoT MCUをクラウド接続するには、RTOSが必要です。AWS(Amazon Web Services )接続にはFreeRTOSライブラリ、Microsoft Azure接続にはAzure RTOSライブラリの利用が前提だからです。

また、クラウド接続には、TrustZoneなどハードウェアによるセキュリティ対策も要求されますので、RTOSとTrustZoneは、IoT MCUの必須2技術です。

ハードウエアセキュリティは、開発後、簡単に追加することが困難です。今回はTrustZone未使用ですが、IoTプロトタイプ開発にTrustZone内蔵Cortex-M33を用いるのは、例え未使用でも製品セキュリティ処理の具体的検討ができるなど、IoTセキュリティを開発初期から考慮した設計となるからです。

これが使わないTrustZoneのメリットです(TrustZone使用例も、いずれ投稿予定)。

本稿は、先ずFreeRTOSをFPBへ適用します。FreeRTOS新規プロジェクト作成、API生成ツールFSP設定、FSP生成ファイルへのタスク追記の順に説明します。

Step1:FreeRTOS新規プロジェクト作成

最新版e2 studio(2021-10)の新規FreeRTOSプロジェクトは、File>New>C/C++Projectとクリックし、①~⑥の手順で作成します。

FreeRTOS新規プロジェクト作成
FreeRTOS新規プロジェクト作成

②プロジェクト名は、任意です。③Boardは、PFB-RA4E1を選択します。

④TrustZone未使用時のプロジェクトを、“Flat”と呼びます。これは、TrustZone使用時、セキュアと非セキュアの2プロジェクト並存が必要となりメモリ領域を分割することに対する、平坦なメモリ使い方に起因していると思います。

※メモリ領域分割は、PCハードディスクのパーティション分割をイメージして頂ければ判り易いでしょう。例えサイバー攻撃を受けても、物理的に侵入できないメモリ領域を作り、ここへ最重要情報やソフトウェアを保存する訳です。

⑤FreeRTOSを選択します。ベアメタル(No RTOS)とAzure RTOSも選択可能です。⑥Minimalを選択し、FinishクリックでFreeRTOS(TrustZone未使用)新規プロジェクトが完成です。

各選択肢を変えると、前稿で説明した多種類の新規プロジェクトが作成できることが解ります。

Step2:Flexible Software Package(FSP)設定

Flexible Software Package (FSP)設定
Flexible Software Package (FSP)設定

新規プロジェクト作成のFinishクリックで、FSPパースペクティブオープンを聞いてきますので、開きます。

①プロジェクトSummaryが表示されます。Stacksタブを選択、②New Stackをクリックし、External IRQ Driver on r_icuを選択します。新しい外部割込みドライバがStackに追加され、③プロパティが表示されます。

FPBのユーザスイッチS1は、P205(IRQ1)に接続済みです。そこで、③プロパティのirq0をirq1、TriggerをFalling、Digital FilteringをEnable、Callbackをexternal_irq1_callbackに変更します。

次にセマフォ追加のため、④ObjectsのNew Objectsをクリックし、Binary Semaphoreを選択します。⑤プロパティSymbolをg_s1_semaphoreに変更します。

RA4E1 Fast Prototype BoardのSW1 P205(IRQ1)の確認
RA4E1 Fast Prototype BoardのSW1 P205(IRQ1)の確認

最後に、⑥pinsタブをクリックし、ユーザスイッチS1:P205(IRQ1)とIOピン割当てをGUIで確認します。

以上でFSP設定は完了です。Generate Project Contentをクリックすると、APIや割込みコールバック関数、関連ファイルが自動生成されます。

Step3:FSP生成ファイルへタスク追記

FreeRTOSセマフォ同期処理
FreeRTOSセマフォ同期処理

FSPが生成したファイル:led_thread_entry.cに上記コードを追加します。このコードは、LED初期化と無限ループ処理から構成されます。RAビギナーズガイド掲載のirq10をirq1へ変更したLEDタスクです。

コールバック関数external_irq1_callbackは、Developer AssistanceのLED Threadを開くと一番下に割込みコールバック関数が生成済みですので、これをドラッグ&ドロップして追加します。

LEDタスク追加後、ビルドしFSBへダウンロード、デバッガ起動後、再開を2回クリックして実行中の様子が上図です。FSBのS1クリックでLED2がトグル点灯します。

FreeRTOS Queueサンプルコード

前章は、RAファミリビギナーズガイド9章のEK-RA6M4評価キットFreeRTOSセマフォサンプルコードを、RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)へ流用したコードです。変更箇所は、irq10をirq1へ変えただけです。

FSPには、FreeRTOS Queueサンプルコード:freertos_fpb_ra4e1_epも付属しています。これら2つのサンプルコードを理解すれば、セマフォとQueueを使う基本的なFreeRTOSソフトウェア開発が可能です。

FreeRTOS待合せ手段としては、セマフォ/Queue以外にもMutexやイベントグループなどの手段もあります。弊社ではFreeRTOS基礎固めを目的として、Hardware Independent FreeRTOS Exampleを応用したセマフォ/Queue活用のFreeRTOSテンプレート化を目指しています。RA/REテンプレートもこの方針で開発する予定です。

この方針で開発したNXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、コチラから概要がダウンロード可能です。

まとめ

RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)へ、RAファミリビギナーズガイド掲載FreeRTOSサンプルコードを流用し、ユーザスイッチS1とLED2点灯をセマフォで同期させました。

FreeRTOS新規プロジェクト作成、Flexible Software Package(FSP)設定、FSP生成ファイルへのタスク追記の具体的操作手順を示しました。

ガイド9章には、更に詳細な説明がありますので、参考になります。例えば、スイッチ割込み優先度12を利用する理由、systick優先度15が予約済みであるなどです。

TrustZoneは未使用ですが、プロトタイプ開発初期からIoTセキュリティを考慮した設計ができるメリットがあります。

FSP付属Queueサンプルコードと本セマフォコードを使ってFreeRTOS基礎固め目的のRA/REテンプレート開発を進めます。

RA4E1 Fast Prototype Boardの使い方

前稿のRAファミリ評価ボードRA4E1 Fast Prototype Board(以降FPB)を入手、RA/REテンプレート検討に着手しました。

FPB開発に用いるルネサスIDE:e2 studio(以降e2)とAPI生成ツール:Flexible Software Package(以降FSP)は、NXPやSTマイクロなどのEclipseベースIDEの利用者が?に思う箇所があると思います。

ルネサスIDE:CS+ユーザでも、同様にこの?を感じると思いますので、対策と評価ボードFPBの使い方を示します。

RA4E1 Fast Prototype Boardとe2 studio
RA4E1 Fast Prototype Boardとe2 studio

e² studio

Eclipse IDEをベースとしたRAファミリ統合開発環境:IDEが、e2、API生成ツールが、FSPです。

e2は、ARMコアを含む全てのルネサスMCU開発用の新世代IDEで、古くからあるRL78ファミリやRXファミリなどのルネサス独自コア専用統合開発環境CS+の後継IDEとして登場しました。但し、CS+は、現在でもRL78/RXファミリ開発に使えます。

e2は、MCUファミリ毎にコンパイラを切替えることにより、全ルネサスMCUの共通IDEとして動作します。MCUファミリのコンパイラは、普通1種類です。ところが、RAファミリには、GNUとARM Compiler V6の2種類が用意されており、どちらも無償です。

GNUとARM Compiler V6?

e2インストール時、デフォルトでインストールされるコンパイラは、GNUです。ARM Compiler V6は、後から追加インストールが必要です。最初の?は、両コンパイラの“違いは何か”です。

次章で示すFSPやTrustZone利用に差が生じるのであれば、問題です。

ルネサス資料を探しましたが、結局、コンパイラ差は分かりません。最近では殆ど行わないアセンブラデバッグが無ければ、コンパイラはどちらでも構いませんので、デフォルトGNUで当面はOKとします。

Flexible Software Package (FSP)?

RAファミリ専用のAPI生成ツールが、FSPです。動画:Generating Your First RA FSP Project(8:25)で使い方が分かります。

Flexible Software Package構成
Flexible Software Package構成

簡単に説明すると、スタックと呼ぶ開発プロジェクトで使用するHALドライバやRTOSなどのミドルウェアパタメタをGUIで設定後、e2のGenerate Project Contentをクリックすると、Developer Assistance内に全てのAPIが自動生成され、その中から使用するAPIを、ユーザ自身でソースコード任意場所にドラッグ&ドロップする使い方です。

ソースコード任意場所にAPIを配置できるのは、親切とは言えません。NXPやSTマイクロのコード生成ツールでも、API追加箇所にコメント付きのソースコードが生成されます。しかし、FSPは、ソースコード上のどこにでもAPIを設置できます。

API使用順序、設置場所、パラメタの意味が予め解ってないと、適切なコーディングは困難でしょう。後述する多くの公式サンプルコード(スタック利用例)がありますので、これらを参考に習得する必要があります。

hal_entry.c?

e2 studioのra_genとsrcフォルダ
e2 studioのra_genとsrcフォルダ

Generate Project Contentのクリックで生成されるのがAPI本体、つまり、ra_genフォルダ内のmain.cを含むスタックのドライバ関数群です。ra_genフォルダは、FSPが生成するコードの格納場所です。

これらとは別のsrcフォルダ内に見慣れないhal_entry.cファイルがあります。srcフォルダは、ユーザが追加するコードの格納場所です。

FPB出荷時にインストール済みのquickstart_fpb_ra4e1_epプロジェクトを読むと、main.c→hal_entry.c→user_main.cとコールされ、結局、user_main.cに一般的なIDEでユーザが追記する初期設定と無限ループを記述するのが、FSPでのユーザソースコード記述作法のようです。

※一般的なIDEでユーザが追記する初期設定と無限ループについては、基本のキ3章まとめを参照してください。

quickstart_fpb_ra4e1_epのuser_main処理
quickstart_fpb_ra4e1_epのuser_main処理

readme.txt?

公式サンプルコードをe2へインポート後、readme.txtでサンプル動作内容やFPB追加配線の必要性が分かります。バグだと思いますがe2(2021-07)は、サンプルコード付属readme.txtがプロジェクト内へインポートされません。

筆者は、手動でインポートしました。例えば、sci_uart_fpb_ra4e1_epプロジェクトは、追加配線無しではTera Term動作確認ができませんので、readme.txtを読み、追加配線が必須です。

RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)の使い方

IoT MCUの機能と消費電力を最適化したRAファミリのRA4E1グループ評価ボード:RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)の特徴は、以下2点です。

  • TrustZone
  • 低電力動作(Sleep > Snooze > Software Standby > Deep Software Standby)
RA4E1ブロック図
RA4E1ブロック図

TrustZoneの使い方は、RAファミリビギナーズガイドの11章が参考になります。

FreeRTOS利用を含むサンプルコードはコチラ、低電力動作サンプルコードはコチラからダウンロードできます。前章のquickstart_fpb_ra4e1_epやsci_uart_fpb_ra4e1_epプロジェクトは、初めのサンプルコード内にあります。

RTOSは、IoT接続先クラウドに応じてFreeRTOSかAzure RTOSの2種から選択可能です。また、通常の低電力動作:Sleepに加え、SnoozeやDeep Software Standbyなど超低電力動作モードも備えています。

プロジェクトは、ベアメタルまたはRTOS、TrustZone利用または非利用、の各選択肢がありますので4種類、FreeRTOSかAzureの選択を加えると、合計6種類の新規プロジェクト作成方法が可能です。

つまり、IoT MCUエッジ開発で必要となる様々なプロジェクト開発に、FPBだけで対応可能です。応用範囲の広い評価ボードで、IoTプロトタイプ開発に適しています。サンプルコード内容も豊富です。

まとめ

ユーザ視点からのベンダ各社がEclipse IDEをベースIDEに使うメリットは、IDEインタフェースがEclipseに似てくるので、ベンダが変わっても同じIDE操作性が得られることです。各社IDEで異なる部分は、周辺回路設定やAPI/コード自動生成の部分に限られるのが一般的です。

これら部分に加え、RAファミリ開発に使うe2 studioとFlexible Software Package は、無償コンパイラ選択、生成APIのソース追加方法、hal_entry.cなど、一般的なEclipseベースIDE利用者にとって?が生じる箇所が多数ありました。

ルネサス資料は多いのですが、肝心の?ポイントが解りにくいとも感じました。RAファミリ開発着手時は、これらに対し慣れが必要かもしれません。そこで、備忘録として本稿を作成しました。

なお、同じく前稿で示したREファミリについては、非常に良くまとまったREマイコンの使い方がルネサスサイトより入手できます。

RA4E1 Fast Prototype Board(Cortex-M33/100MHz、Flash/512KB、RAM/128KB)は、低価格で入手性もよくTrustZoneやRTOS、低電力動作など、幅広い知識や技術が要求されるIoT MCU開発の素材として優れています

現状RAファミリ資料の纏まりは、REファミリと比べると今一歩ですが、改善されると思います。開発に必要となる技術レベルが少し高いのですが、e2 studioとFlexible Software Package (FSP)、RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)と豊富なサンプルコードを使ったIoT MCU開発は、好奇心を満たすIoT MCU習得へ向けたお勧めの開発環境と評価ボードと言えるでしょう。

弊社ブログは、RA/REテンプレート開発を目指し、継続して関連情報を投稿します。

Windows 11アップグレード可能通知:FYI

Windows 11を実行できます
Windows 11を実行できます

10月5日リリースWindows 11アップグレード可能通知が弊社PCへ届きました。今月リリースWindows 10 21H2で運用し、1年程度の11評価結果を見てアップグレードを予定しております。ご参考まで。

IoVとIoT

IoV:Internet of VehiclesやV2X:Vehicles-to-Everything通信により、車載半導体チップとソフトウェア需要が指数関数的に増加、ユーザの自動車選択基準が、エンジンなどのメカから車載ソフトウェアへ移行しつつある、という記事がEE Timesに記載されました。

これらIoV状況が、IoTへ与える影響について考えてみました。

IoVとIoT

IoVでユーザ選択基準が車載ソフトウェアへ変化
IoVでユーザ選択基準が車載ソフトウェアへ変化

車のカタログから、エンジン特性や足回りのメカ説明が消え、スマホ連動性や運転支援など車載ソフトウェアによるサービスの説明に変ったのはここ数年です。記事によると、車の新しいユーザ選択基準になりつつあるカーエレクトロニクスが、半導体業界にとってはスマホ以来の最大チャンスだそうです。

また、「CASE」で車載半導体はどう変わるのか(2021年9月15日、EE Times Japan)でも、自動運転と電動化が今後の車載半導体動向を左右すると結論付けています。
※CASE:Connected(通信機能)、Autonomous(自動運転)、Shared&Services(共有化/サービス化)、Electric(電動化)

年々向上するユーザのソフトウェア指向を満たす車載IoV業界、COVID-19の影響で停滞気味の民生IoT業界とは雲泥の差です。

車載半導体需要予測は初めの記事数値を参照して頂くとして、両記事のポイントは、ソフトウェア差別化や付加価値追加には、カスタムチップまたは、IP(Intellectual Property)などの組込みハードウェアが効果的という点です。これらIPには、セキュリティやエッジAIなどIoTへ流用できるものが数多くあります。

従って、IoVは、結果としてIoTも牽引すると思います。

但し、世界的半導体不足が続く状況では、優先度、調達コスト、多くの数量が確実に見込めるIoVが優勢、IoTはこの影響で、しばらくチップ供給不足や停滞が続くでしょう。

停滞気味のIoT側開発者として今できることは、IoV同様、IoTソフトウェア差別化に備えることだと思います。

IoT MCUのTrustZone、SOTB

IoTの観点から、IoTソフトウェア差別化や付加価値追加のための組込みIPと言えば、ARM TrustZone内蔵Cortex-M33コア、ルネサスの新製造プロセスSOTB:Silicon On Thin Buried Oxideなどが相当します。

アクティブ消費電力とスリープ消費電力両方を減らせるSOTBプロセス(出典:ルネサスサイト)
アクティブ消費電力とスリープ消費電力両方を減らせるSOTBプロセス(出典:ルネサスサイト)

例えば、TrustZoneが、高いセキュリティ効果を発揮するのはご存知の通りですし、SOTB製Cortex-M0+搭載ルネサスREファミリは、超低スタンバイ電流により太陽光発電環境などのエナジーハーベストでも電池交換不要を実現するなどです。

SOTBは、超低消費電力動作と高速動作を両立する革新的製造プロセスです。全てのルネサスMCUへ採用すれば強力な差別化技術になると思いますが、今のところ出し惜しみなのか(!?)戦略的なのか、REファミリにのみ採用中です。

一見、ASSP:Application Specific Standard Produceのようですが、これら差別化技術は、汎用MCUに採用された時に最も効果を発揮します。

従来のエッジMCUでの単純なアナログデジタル変換に加え、セキュリティや超低電力動作などのIoT化に伴う付加機能がIoT MCUには必須です。IoT付加機能内蔵MCUが、汎用IoT MCUになります。

IoT開発者は、これらIoT付加技術を今のうちに習得しておくことが必要です。

IoVとIoTの最も大きな差は、車載と民生半導体の電源仕様でしょう。IoVは、EV(Electric Vehicle)のモータ高出力要求に伴いバッテリーが12V供給から48Vへ高電圧化しつつあり、万一の耐圧やフェイルセーフが求められます。IoTは、低電圧(≦3.3V)電源で低圧化しつつあります。

RA/REテンプレート構想

残念ながらSOTB製REファミリ評価ボードは、まだ値段が高く、個人レベルでは手が出しにくい状況です。そこで、SOTBプロセスではありませんが、REファミリとソフトウェア互換性があると思われるCortex-M33コア搭載ルネサスRAファミリを、弊社テンプレート対象にと考えています。

RAファミリは、TrustZoneでIoTセキュリティへ対応しています。また、9月22日発売のRAファミリRA4E1グループの評価ボード:RA4E1 Fast Prototype Boardは、20米ドル台と低価格です。ルネサス独自コアではないため、コンパイラFlash容量制限もありません。

FPB-RA4E1 Fast Prototyping Board(出典:クイックスタートガイド)
FPB-RA4E1 Fast Prototyping Board(出典:クイックスタートガイド)

RL78/G1xテンプレートから新しいルネサスMCUをテンプレート対象に出来なかった理由の1つが、この容量制限です。ARMコア他社同様、GNUまたはARM Compiler V6が、e2 studioでRAファミリ開発に無償で使えます。

今のところRAテンプレートは、REへも使えると考えています。ARMコア差は、CMSIS:Cortex Microcontroller System Interface Standard やHAL:Hardware Abstraction Layerで吸収できるハズだからです。

ADC、SW、LED、UART(VCOM)などのIoT MCU基本動作をRA/REテンプレート共通部分でサポートし、TrustZoneや超低電力動作などRA/RE特徴を活かす部分は、共通部分へ特徴サンプルコードを追加する方法で実現できれば嬉しいと考えています。構想段階ですが、詳細は今後投稿します。

組込み開発 基本のキ:組込み処理

IoT MCUソフトウェア/ハードウェア開発者向け基本のキ、今回は、組込み処理の「ポーリング」、「割込み」、「低消費電力動作」とMCU開発の秘訣(コツ)を示します。ベアメタル開発でもRTOS開発でもこれらは同じです。これら基本を知ると、サンプルコードの読み方、利用法も解ります。

ポーリング と 割込み

「ポーリング」とは、無限ループを周る度に例えばSWが押されたかどうかのフラグ相当をポーリング(polling)し、フラグが立ったら、その処理を実行することです。

ポーリング
ポーリング

「割込み」は、割込み発生時に周辺回路が自動で呼出すISR(Interrupt Service Routine)を開発します。

ISRは、出来るだけ軽く(小さく)することが重要です。別周辺回路の割込みもできるだけ取込むためです。そこでISRでは、周辺回路が割込み発生時に立てた割込み発生フラグをリセット、このフラグとは別の割込み処理待ちフラグを立ててコード化するのが常套手段です。

この割込み処理待ちフラグを無限ループでポーリング、ブラグが立っていれば実際の割込み処理を実行します。

つまり、割込み処理の前段階にISRがあり、ポーリングのフラグ相当が割込み処理待ちフラグに変るだけ、結局、ポーリングに帰着します。

割込み
割込み

ベアメタル開発でもRTOS開発でも上記は同じです。RTOS時は、タスク間のセマフォ/Queueによる処理待ちが差分として追加されます(これら以外にも処理待ちはありますが、セマフォ/Queueで当面賄えます)。

低消費電力動作

無限ループをそのまま連続で回し続けると消費電力が増加します。そこで、間欠的にループを回し、ループを回さない時間は、最も電力を消費するMCUを停止するのが「低消費電力動作」です。

低消費電力動作
低消費電力動作

例えば1秒毎に1回ループを回すなど、低電力化を図りつつループ連続回しの時と大差なく処理する、つまり、どの程度間欠動作させるかが開発者の腕の見せ所です。

まとめ:ポーリング、割込み、低消費電力動作の3Tipsと開発秘訣

IoT MCUで開発するのは、MCUを含む周辺回路の初期設定と、無限ループ内の処理です。

初期設定とは、内蔵周辺回路を動作させるための設定です。周辺回路は、初期設定が終わると直に動作を開始します。そこでMCUは、動作中の周辺回路を監視し、必要に応じて処理を行います。このMCU監視が、無限ループ内の処理です。「組込み処理の中身」は、このように初期設定とループ内処理の2種類です。

初期設定の前にRAMクリアなどのスタートアップ処理もありますが、ここはIDEが自動生成し、通常、開発者が手を加えることは殆どありません。

初期設定は、サンプルコードの初期設定をそのまま流用する部分です。サンプルコードに使用例がない特殊(!?)な周辺回路の使い方をする時は、データシートやユーザマニュアルの当該周辺回路部分を熟読すればコード化できます。

次の開発部分が、無限ループ内です。ループ内処理をまとめた本稿の3Tipsが下記です

  1. 無限ループ内は、「ポーリング」か「割込み」のどちらか
  2. 割込みは、ISRで「割込み発生フラグ」を「割込み処理待ちフラグ」へ事前変換しポーリングへ帰着
  3. 無限ループの間欠動作と、間欠中のMCU停止が、「低消費電力動作」
組込み処理の3Tips、ポーリング、割込み、低消費電力動作
組込み処理の3Tips、ポーリング、割込み、低消費電力動作

組込み処理の中身とこれら3Tipsを知らずに組込み開発を始めるは、非効率です。中身と3Tipsを習得するには、紆余曲折、結構な時間と実務(失敗)経験が必要だからです。

例を挙げると、技術背景が少ない初心者にとっては、関連情報が多いため消化不良を起こします。また、初心者でなくても、開発自由度が高い(≒無いに等しい)ので、開発を上手く収束させには、Tipsやコツが必要になるなどです。

全てを網羅的に記述しているデータシートやユーザマニュアルは、既にこれらコツや技術背景を習得済みの中級者以上には役立ちますが、それ以外の人が読んでも実質の理解はできません。いきなり六法全書を読んで弁護士をする様なものです😂。

MCU開発の秘訣(コツ)は、先ず、3Tipsを基にプロトタイプを開発し、次に、実際に動作するプロトタイプを使って、開発自由度の高さを活かし動作チューニングすることです。

実働プロトタイプがあれば、データシート実質理解も進みますし、チューニング結果で変な動作になっても元のプロトタイプへ戻れますので、安心して色々な試行錯誤ができ、開発者スキルアップも容易です。

サンプルコード利用法

主要MCUベンダは、多くのサンプルコードを提供中です。

サンプルコードの目的は、“1つ”の周辺回路の基本動作を解り易く示すことです。基本動作は、初期設定と無限ループ内の2つに分けて読みます。無限ループ内は、Tips1/2から処理内容が理解できます。割込みの時は、ISRがあります。

初期設定は、開発に使う使用例と同じかどうかを添付コメントなどから判断します。使用例が同じ、または、近いなら、そのままコピーして流用します。内容を理解したい時は、”その周辺回路のデータシートのみ”を読めば十分です。

もちろん、サンプルコード無限ループ内のポーリング/割込み処理もそのままコピーして流用可能です。

但し、サンプルコードは、一般的にTips3:低消費電力動作への配慮がありません。また、サンプルコードを、“複数”集めて動作させる作り方ではありません。1周辺回路の動作コードを、シンプルに解り易く示すためです。

弊社マイコンテンプレートは、複数サンプルコードを利用する仕組みを予め持っています。また、無限ループの間欠動作と停止MCUを復帰させる仕組みも、テンプレートへ組込み済みです。

テンプレートのサンプルコード利用法
テンプレートのサンプルコード利用法

つまり、初めから複数サンプルコードの活用・流用が即座に出来るようテンプレート化、主要ベンダの汎用MCUに対応し、適用例と詳しい説明資料付き(一部ダウンロード可)で販売中です(ベアメタル開発用:1000円、RTOS開発用:2000円、テンプレート一覧と価格はコチラ)。

本稿3Tipsを知っていれば、サンプルコードを分析しながら読むことができ、必要に応じて各部分を自分のソフトウェアや弊社テンプレートへ組込むことも可能です。

プロトタイプ開発に最適なのが、弊社テンプレートです。テンプレートを使って早期にプロトタイプ開発を実現すれば、開発者の効率的スキルアップ、要求仕様に対するMCU性能過不足なども明らかとなり、お役に立てると思います。

テンプレートご購入、お待ちしております。