FSP v3.6.0更新

昨年12月、RAファミリ開発ツールFSP v3.5.0更新から3ヶ月後の3月5日、新FSP v3.6.0付きe2 studio 2022-01最新版がリリースされました。3月25日、各種評価ボードサンプルコードもFSP v3.6.0対応版となり、RAファミリ開発環境が新しくなりました。

※FSP v3.6.0付きe2 studio 2022-01は、コチラからダウンロードできます。
※各種RA評価ボードサンプルコード FSP v3.6.0版は、コチラからダウンロードできます。

新RAファミリ開発環境

弊社RAファミリ向けテンプレートは、FSP v3.5.0で開発し、3月末発売を予定しておりました。ところが、本家ルネサスRAファミリ開発環境の主役FSPがv3.6.0へ更新され、評価ボードサンプルコードもこれに対応しました。

従って、弊社テンプレートも、これら新環境への対応を確認した上で発売する方が、テンプレートご購入者様の更新手間などを避けるため、好ましいと判断しました。

新開発環境で再構築した弊社RAファミリテンプレートV1(ベアメタル版)発売は、4月末に変更致します。

3ヶ月開発

RAファミリ開発環境の主役:FSP、脇役:e2 studio、各種評価ボードサンプルコードの関係は、コチラに投稿済みです。また、RAファミリテンプレート(ベアメタル版)構想は、コチラの4章、昨年12月の頃です。

RAファミリロードマップ(出展:ルネサスセミナー)
RAファミリロードマップ(出展:ルネサスセミナー)

一方、ルネサスFSP更新は、2~3ヶ月間隔で行われます。新発売のRAファミリデバイスが追加されるためでしょう。今回のように、開発製品リリース直前でFSP更新や開発環境が新しくなることは、多々あり得ます。

ルネサスRA6シリーズウェビナーで紹介された、RAファミリロードマップが上図です。今年以降も、圧倒的な製品展開スピードで新デバイスがどんどん追加されます。

殆どの場合、開発製品は、新環境へもそのまま適用できるハズです。が、その確認には、時間と手間が掛かります。

今回発売変更の教訓は、資料作成なども含めた開発開始から終了は、3ヶ月程度で1開発を完了させるスピード開発が必要だと言うことです。

このスピード開発には、開発中のRAファミリテンプレートが役立ちます。0から開発するのに比べ、既に動作確認済みのテンプレートへ実装機能を追加すれば、プロトタイプが出来上がるからです。

このRAファミリテンプレートは、App0を基に開発しています。App0投稿は、コチラを参照ください。

第2のRAサンプルコード

ルネサスRAファミリ開発に評価ボード毎のサンプルコードが重要であることは、過去何回か投稿済みです。今回は、これとは別の、「Stacks毎」に提供される第2のサンプルコード利用方法を説明します。

RAプロジェクトソースコード開発手順

FSPパースペクティブへ追加するLPM Stack
FSPパースペクティブへ追加するLPM Stack

ごく簡単にRAプロジェクトのソースコード開発手順を説明すると、

1) 利用「Stack」をFSPパースペクティブへ追加
2) Generate Project Contentクリック
3) 生成されたDeveloper AssistanceのStack API群から、利用APIをソースコード上へコピー&ペースト

という3手順の繰返しです。Stackとは、MCU周辺回路のことです。

評価ボードサンプルコードは、あらかじめ1)~3)をエキスパートが行い、サンプルで利用するStackとStack APIは、エキスパートが選択済みの実動作プロジェクトです。

一方、開発者自らが、1)~3)手順でソースコード開発する時は、どのStackを追加するか、利用するAPIは何か、を検討する必要があります。この検討に必要な情報は、全てFSPパースペクティブへ配置したStackのℹ️から得られます。

ℹ️をクリックすると、Stack PropertiesのAPI infoタブ相当の英文解説が読めます。内容は、Function、Overview、Exampleなどです。API info表示内容と同じですが、より詳しい説明が得られます。

「Stack毎」に提供される第2のRAサンプルコードとは、このExampleのことです。

Low Power Modes (r_lpm)の例

RAファミリの4低電力動作モード(出展:RA6E1ユーザーズマニュアル)
RAファミリの4低電力動作モード(出展:RA6E1ユーザーズマニュアル)

MCUアプリケーションに、低電力動作は必須です。RAファミリには、スリープ/ソフトウェアスタンバイ/スヌーズ/ディープソフトウェアスタンバイの4低電力動作モードがあります。例えば、RA6E1グループユーザーズマニュアルハードウェア編の10章を参照ください。

電力消費の最も大きいMCUを停止するのが、スリープモードです。スリープからの復帰時間も短く、簡単で効果的な低電力動作が可能です。

RAファミリで低電力動作を行うには、FSPパースペクティブへ、最初の図に示したLow Power Modes (r_lpm)スタックを追加します。

Stackのℹ️とサンプルコード

追加Stack ℹ️クリックで表示されるのが、LPMの詳細説明です。LPMスタック追加で増える5個全てのLPM APIが解ります。また、スリープモードプロパティがデフォルト設定済みなのも解ります。

このスリープモードのExampleが、下記LPM Sleep Exampleです。

LPM Sleep Example
LPM Sleep Example

利用APIは、R_LPM_Open()とR_LPM_LowPowerModeEnter()の2個のみです。assert(FSP_SUCCESS == err)は、次章で説明します。

注意点は、この「Stacks毎」に提供されるサンプルコードは、一般的なサンプルコード構成、つまり、初期設定と無限ループ内処理の記述形式ではないことです(一般的サンプルコード構成については、コチラの関連投稿参照)。

ここで示されているのは、LPMスリープモード時に利用するAPIとその利用順序です。

つまり、最初にR_LPM_Open()でスタックAPI利用可否を判断し、次に、R_LPM_LowPowerModeEnter()でスリープ動作OKの判断をしているだけです。

LPM以外のStack Examplesでも同様です。繰返しになりますが、Stack Exampleは、利用APIとその利用順序を示します。

従って、自分のソースコードへ取込むには、Developer Assistance内に生成された5個のLPM APIから、R_LPM_Open()を初期設定へ、次に、R_LPM_ LowPowerModeEnter()を無限ループ内の適当な個所へ、コピー&ペーストすれば、LPMスリープモードのソースコードが完成です。

assert(FSP_SUCCESS == err)

assert()は、()内が真の時は、何もしません。偽の時は、発生場所や関数名、ファイル名などをコンソール出力し、プログラムを停止します。API利用後の結果判断に活用しています。

「Stacks毎」に提供されるサンプルコードでは、多くのStack API利用箇所で使われています。

lpm_fpb_ra6e1_wpと比較

lpm_fpb_ra6e1_wpのFSPパースペクティブとhal_entry.cのMain loop部分
lpm_fpb_ra6e1_wpのFSPパースペクティブとhal_entry.cのMain loop部分

評価ボード毎のサンプルコードにも、低電力動作サンプルがありますので、前章Stack Exampleと比較します。

RA6E1の場合は、lpm_fpb_ra6e1_epです。このFSPパースペクティブとhal_entryのMain loopの一部抜粋が上図です。多くのLPM関連スタックが追加済みで、Main loopの低電力動作を解読するのも大変です。

これは、評価ボードサンプルコードが、初めに示した4低電力動作モードの状態遷移を示すプロジェクトだからです。スリープ動作のみを実装する時は、前章LPM StackのExampleを参照した方が簡単に理解できます。

勿論、評価ボードサンプルコードとStack Example、両方を参考にしてソースコードを開発する方が良いことは言うまでもありません。

Stack Exampleが、評価ボードサンプルコード理解を助ける第2のサンプルコードとして役立つことを示したかった訳です。

追加Stacks一覧

本稿は、LPM Stackを例に第2のサンプルコードを説明しました。

FSPパースペクティブへ追加可能なStackは、Stackタブを選択後、右上のNew Stack>をクリックすると一覧表示されます。

まとめ

RAファミリのソースコード開発は、FSPパースペクティブへStackを追加後、一括生成されるDeveloper Assistance内の多くのStack API群の中から、利用APIを適切な順序でソースコードへコピー&ペーストすることで進めます。

利用Stackに複数動作モードがあるなど評価ボードサンプルコードが複雑な場合や、開発者自らが利用Stack APIを検討する場合は、第2のサンプルコードとして、追加Stackのℹ️クリックで得られるExampleに示されるStack APIとその利用順序を参考に、ソースコード開発をする方法を示しました。

RAアプリケーション開発の骨格

ルネサスRAファミリ評価ボードの動作テストプログラムと、周辺回路サンプルコードから判るRAファミリアプリケーション開発Tipsを示し、このTipsで開発したアプリケーション:App0を公開します。

評価ボードは、RA6E1を用いましたが、他のRAファミリ評価ボードでも同じです。

RAアプリケーションApp0のRTT Viewer出力
RAアプリケーションApp0のRTT Viewer出力

hal_entry.cとuser_main.c分離

RAファミリは、評価ボード毎にサンプルコードが提供されます。例えば、RA6E1の場合は、FPB-RA6E1 Example Project Bundleがそれで、この中にADCやタイマなどの周辺回路サンプルコードがあります。また、評価ボードテストプログラム:TP(quickstart_fpb_ra6e1_ep)も含まれており、他の周辺回路サンプルコード:EP(Exampleプログラム)とは少し違うファイル構造になっています。

違う原因は、EPが、コード判り易さのため、メイン処理をhal_entry.cに集中して記述するのに対し、TPは、様々な評価ボードへも対応するため、いわば汎用アプリケーション構造となっているからです。

簡単に言うと、FSPが生成するメイン処理:hal_entry.cと、ユーザ追記のメイン処理:user_main.cをファイル分離し、ユーザ開発部分の可搬性を上げた構造を持つのがTPです。

開発したMCUアプリケーションに可搬性があると効率的で生産性もあがります。TP同様、RAアプリケーションも、hal_entry.cとuser_main.cを分離した構造で開発する方法をお勧めします。

※FSP(Flexible Software Package)やサンプルコードの詳細は、コチラの関連投稿を参照ください。

SEGGER RTT Viewer利用

TPとEPには、もう1つ違いがあります。それは、EPには、PC入出力マクロが実装済みの点です。

例えば、gpt_fpb_ra6e1_ep(最初のgptが汎用PWMタイマ、fpb_ra6e1が評価ボード、epがExample Programを示す)ならば、タイマ利用例をPCへ出力し、その設定値をPCから入力できます。

対PC通信にはUSB経由Virtual COMポートを利用する評価ボードが多いのに対し、ルネサスRAファミリは、評価ボード実装デバッガのSEGGER RTT Viewerをこの役目に使います。USARTなどのMCU資産を消費しないメリットがあります。

PCでRTT Viewerを使うには、コチラからJ-Link Software and Documentation Packをダウンロードし、PCへインストール後、J-Link RTT Viewer起動で評価ボードとPC通信ができます(最初の図)。

但し、RA6/4などCortex-M33コアファミリ開発の場合は、ビルド後生成されるmapファイルからRTT Control Block Addressを探し、Viewer起動ダイアログへ入力する必要があります。

プログラム変更やFSP版数が変わると、このBlock Addressも変わるので、生成mapファイルAddress値の再入力が必要です。

RAアプリケーション開発時にも、このPC通信マクロが使えるとprintf/scanfの代用になり便利です。FSP生成プロジェクトでPC通信マクロを利用するには、生成プロジェクトのsrcフォルダへ、SEGGER_RTTとcommon_utili.hの両方を手動で追加します。

追加元のSEGGER_RTTとcommon_utili.hは、どのEPのものでも構いません。

App0特徴

以上から、RAアプリケーション開発時は、FSPが生成するオリジナルファイルに

①HAL生成メインhal_entry.cとユーザ追記メインuser_main.cを分離したファイル構造
②srcへSEGGER_RTTとcommon_utility.hの手動追加

を行うと、ユーザ開発ソースコードのRAファミリ間での可搬性が高く、PC通信も容易なアプリケーションの骨格(Skelton)が完成します。

この方法で開発したアプリケーション:App0を示します。タイトルをPCへ出力するだけのアプリケーション骨格です。この骨格に、開発ソースコードを肉付けしていけば、肉付けソースコードのRAファミリ間可搬性が高く、デバッグ効率も高いアプリケーション開発ができます。

RAファミリアプリケーション開発骨格:App0
RAファミリアプリケーション開発骨格:App0

開発したApp0プロジェクト圧縮ファイルは、コチラよりダウンロード可能です。ご自由にご利用ください。

e2 studioへのインポート方法は、インポート>既存プロジェクトをワークスペースへ>アーカイブ・ファイルの選択で、App0.zip指定です。

App0開発手順

以下にApp0プロジェクトの作成手順を示します。

1)FSPで新規Bare Metal – Minimalプロジェクト生成
2)App0 FSPパースペクティブでGenerate Project Contentクリック
3)他の周辺回路サンプルコードのsrc>SEGGER_RTTとcommon_utility.hをコピーし、App0プロジェクト>srcフォルダへペースト
4)src>hal_entry.cのL3へextern void UserMain(void)追記、L19へUserMain()追記
5)src上で新規>ソース・ファイルをクリックし、UserMain.c追加
6)src上で新規>ヘッダー・ファイルをクリックし、UserDefine.h追加
7)UserMain.cとUserDefine.hへ、前章ソースコード追記
8)ビルドし、Debug>App0.mapファイルから_SEGGER_RTTを検索、そのアドレスを、RTT Viewer起動ダイアログのRTT Control Blockへ入力後OKクリック
9)評価ボードへApp0をダウンロード、実行
10)PCのRTT Viewerで図1のタイトル出力確認

4、5、6の追加ファイル名は、UserMain.c、UserDefine.hなど先頭大文字のPascal形式を用いています。これは、プロジェクト・エクスプローラーでオリジナルのFSP生成ファイルとユーザ追加ファイルの識別が容易になるからです。

また、筆者は、Cソース・ファイル毎にヘッダー・ファイルを追加するより、ソース・ファイル内にプロトタイプ宣言を追記し、個別ヘッダー・ファイルを追加しない方が好みです。4のhal_entry.cへUserMainプロトタイプ宣言を追記したのも、このためです。

UserMain()は、初期設定と無限ループに分け、初期設定にRttInit()とUserInit()を追加しています。RttInit()でタイトルをPCへ出力し、UserIint()は、内容が何もありません。骨格ですので、利用する周辺回路に応じて、ここへ初期設定コードを追記することを想定しています。

App0のプロジェクト構成とRTT Viewerへのmapアドレス設定の様子
App0のプロジェクト構成とRTT Viewerへのmapアドレス設定の様子

まとめ

RAファミリ評価ボードテストプログラムと周辺回路サンプルコードから、hal_entry.cとuser_main.cの分離ファイル構造と、RTT Viewer利用の対PC通信マクロ実装済みのアプリケーションスケルトン(骨格):App0を示しました。

この骨格へ、開発ソースコードを追加していけば、ユーザ追加部分のRAファミリ間可搬性が高く、デバッグ効率も高い、RAファミリアプリケーションが開発できます。

もちろん、3月末を目標に開発中のRAファミリテンプレートも、このApp0へ評価ボード実装LED点滅やチャタリング対策済みSW機能などを追加します。RAファミリテンプレート構想はコチラの4章、RAテンプレートの仕組みはコチラの関連投稿を、参照ください。

最近の組込みCコード書き方

RAファミリFSP生成のBare Metal Blinkyサンプルコードの書き方が、筆者のCコード書き方と違っていて驚いた点を示します(FSP:Flexible Software Packageとは何かは、コチラの関連投稿を参照)。

変数宣言位置

FSP生成Bare Metal Blinkyサンプルコードの変数宣言
FSP生成Bare Metal Blinkyサンプルコードの変数宣言

筆者のC変数宣言は、関数の冒頭、実行文の前に全ての変数宣言を行います。しかし、Bare Metal Blinkyサンプルコードは、変数が必要になった直前で変数宣言をしています。こちらの方が、コードが読み易いですね。

これは、使うC言語規格が異なるからです。筆者は、古いC90(1990年版)、FSPは、C99(1999年版)以降の規格、書き方を採用しています(参考文献:C言語の仕様)。

C言語規格も改良や改版が進み最新規格は、C11(2011年版)です。更に、C17やC2xなどへ進化中だそうです。下位(旧版)互換性は、コンパイラが賢いので保たれています。エッジAIが導入されると、古い書き方は止めなさいとアドバイスが出たりするかもしれません😅。

IoT MCU開発では、従来比、他者が開発したコードやライブラリを読み、理解・利用する機会も格段に増えます。

独立行政法人情報処理推進機構から、組込みソフトウェア開発向けコーディング作法ガイド[C言語版]ESCR Ver. 3.0(2018年)のPDF版がダウンロード可能です。

ガイド想定利用者は、プログラマやレビュー者(P3参照)とありますので、本ブログ読者は目を通しておくのも良いと思います。

新しい規格に縛られる必要は、コンパイラのおかげでありません。しかし、FSP生成サンプルコードに習い、今後はC99以降の書き方を採用します。

いわゆるLチカサンプルコードであっても、なおざりにできない例です。そこで、基になったFSP生成のBare Metal BlinkyとMinimalスケルトン(骨格)の差をまとめます。

Bare Metal Blinky生成方法

各種周辺回路サンプルコードは、FSPとは別に評価ボード毎に提供されます。しかし、Bare Metal Blinkyだけは、FSPで生成可能です(FSPと評価ボード毎の周辺回路サンプルコードは、コチラの関連投稿を参照)。

その狙いは、筆者のような古いC記述者へ新しい記述法を知らせる、または、Blinkyと周辺回路無しのMinimalなスケルトンとの差分を知らせる、などが考えられます。

FSP生成Bare Metal Blinkyは、通常の新規プロジェクト作成方法と同じ、ファイル>新規>Renesas C/C++ Project>Renesas RAクリックが最初の手順です。ダイアログに従って手順を勧めると、最後にBare Metal – BlinkyかMinimalかの選択が可能です。

Bare Metal Blinky生成方法
Bare Metal Blinky生成方法

Blinky選択とFinishクリックで、g_ioport I/O Portスタックだけが配置済みの[Blinky]FSP Configurationパースペクティブが開きます。

[Blinky] FSP Configurationのスタック
[Blinky] FSP Configurationのスタック
念のため、Generate Project Contentをクリック後、src>hal_entry.cを開くと、1章で示したC99以降の書き方で記述したBlinkyサンプルコードが生成されます。

Bare Metal BlinkyとMinimalの差分

Bare Metal Blinky(左)とMinimal(右)の差分
Bare Metal Blinky(左)とMinimal(右)の差分

BlinkyとMinimalスケルトンの差は、hal_entry()のTODO: add your own code hereの下にBlinkyコードが有るか無いかだけです。FSP Configurationも全く同じです。

つまり、IOPORT未使用のアプリケーションは無いので、例えMinimalと言えデフォルトでg_ioport I/O Portスタックは配置済みで、そのスタック利用例がBlinkyという訳です。

FSP生成Bare Metal Blinkyに習い、筆者も今後はC99以降の新しい書き方でCソースコード記述をしていきます。

RAテンプレート仕組み

ルネサスRAファミリテンプレート(ベアメタル編)を3月末目標に開発中です。サンプルコード活用・流用によるアプリケーション開発が容易なことが、弊社テンプレートの特徴です。このテンプレート仕組みを “少しだけ(!?)” 説明します。

全部説明すると、読者ご自身でテンプレートを開発し、購入者数が減るかもしれないからです😂。

仕組みまとめ

MCU開発者の最初の壁に穴をあけるテンプレート
MCU開発者の最初の壁に穴をあけるテンプレート

テンプレートの仕組みを “少し” しか説明しないので、まとめを最初に示します。

MCUアプリケーション早期開発は、ベンダ提供の公式サンプルコード活用・流用が王道です。しかし、単機能の利用例を判り易く示すことが目的のサンプルコードでは、複数機能の並列実装が困難です。

MCU開発の最初の壁が、この「サンプルコードを、どのように実開発へ利用するか」です。

既に弊社テンプレートの購入者様、または上級者は、この壁を突破し効果的サンプルコード活用アプリケーション開発方法を知っています。Know-how(ノウハウ)です。

サンプルコード利用時の課題は、「無限ループ」です。

この課題に、弊社テンプレートは時分割で対応しました。説明を更に加えると、読者がご自分でテンプレート相当を開発される危険性がありますので、仕組み説明はここまでにします。

以降の章は、サンプルコード課題の具体例を示します。また、この課題が生じる原因、特にRAファミリ開発でFSPサンプルコードが重要である訳を説明、最後にテンプレートのメリットを示します。

RAファミリに限らずプロトタイプ開発や早期アプリケーション開発が目的の弊社テンプレートにご興味がある方は、テンプレートサイトに主要ベンダテンプレートが各1000円で販売中、概要は無料ダウンロード可能です。

※RAファミリテンプレート(ベアメタル編)も1000円予定。FreeRTOS対応アプリケーションテンプレートのみ2000円。RAファミリテンプレートもV2以降でRTOS対応予定。

販売テンプレートには、本稿で説明できない多くの工夫も実装済みです。ダウンロード概要を読んで、自作されるよりも、弊社から是非ご購入ください😌。

サンプルコード課題の具体例

評価ボードテストプログラム構造(FPB-RA6E1の例)
評価ボードテストプログラム構造(FPB-RA6E1の例)

サンプルコードを実開発へ利用する時の課題、具体例を示します。

RAファミリ評価ボードのテストプログラム:TPです(プロジェクト名:quickstart_fpb_re6e1_ep)。電源投入後、搭載LEDが点滅し、SW押下げで点滅間隔が変わり、評価ボードの正常性をテストします。

このTPのuser_main部分を抜粋しました。評価ボードにより多少異なりますが、基本動作は同じです。

LED点滅間隔は、無限ループ内のR_BSP_SoftwareDelay(g_delay)が決めます。このR_BSP_SoftwareDelay処理中は、MCUを独占するため、他の処理はできません(割込み処理は除く)。

MCUの並列処理は、RTOS利用が常套手段ですが、RTOS理解やベアメタル比大きな処理能力とRAMが必要です。

そこで、RTOSを使わずにベアメタルで並列処理をするため、LED点滅を時分割処理し、空き時間に別処理を実行するのが、テンプレートの仕組みです。

テンプレートの仕組み
テンプレートの仕組み

サンプルコード課題の原因

サンプルコードの構造は、基本的な「初期設定」+「無限ループ処理」です(基本のキ:組込み処理参照)。

この構造で、①内蔵周辺回路の初期設定 → ②周辺回路の監視(時間消費も含む)→ ③監視結果の処理実行を行います。②と③を、無限ループ内で繰返します。

①初期設定と③結果処理は、開発アプリケーションへそのまま流用ができます。問題は、結果処理以外の無限ループ内が全て監視(時間消費)になる点です。監視中は、他の処理はありません。

つまり、周辺回路のMCU「専用」利用例という訳です。専用ですから、監視結果の処理実行が有ろうが無かろうが問題はありません。

ところが、1つの無限ループ内へ、単純に別周辺回路の「②監視と③結果処理」を入れると、無限ループは、周辺回路「専用」から「共用」へ変ります。

共用する他の周辺回路の監視結果処理の実行有無に応じて、もう1つの周辺回路の監視結果起動間隔も変わります。起動間隔が変わっても問題ない場合もありますが、多くの場合、問題でこれが課題です。

例えば、ウオッチドックタイマ定時リセットや、前章のLED点滅間隔などです。

共用無限ループ内の別サンプルコード処理有無により、当該サンプルコード処理間隔が変わるという問題は、開発初心者には簡単に解決できない大きな壁:課題です。

FSPサンプルコードが重要な訳

FSP構成とGUI設定の様子
FSP構成とGUI設定の様子

RAファミリ共通のHAL API生成ツールがFSPです。FSPのBoard Support Package (BSP)とHardware Abstraction Layer (HAL)Driversが、評価ボードとRA MCU差を隠蔽し、RAファミリ共通APIをGUIで生成します。

Boardは、評価ボードを指しますが、ユーザ独自開発ボードでも、BSPだけを変更すれば、評価ボードを使って開発したソフトウェアが、そのまま独自開発ボード上でも動作します。

つまり、FSPは、プロトタイピング開発に適したツールです。RAファミリアプリケーションの早期開発ポイントは、FSP活用です。但し、FSPソフトウェア開発者は、知っておくべき作法があります。

例えば、2章で示したGPIO制御前後のR_BSP_PinAccessEnable()やR_BSP_PinAccessDisable()などです。これらは、BSP GPIOレジスタの電圧レベルアクセス制御許可/禁止を設定します。

仮に、R_BSP_PinAccessEnable()をコメントアウトすると、ビルドは成功しますがLEDは点滅しません。ワーニングなどもありませんから、作法を知らないと点滅しない原因は、まったく不明になります。

これらは、GPIOアクセスとセットで知るべき作法です。このような作法は、分厚いFSPユーザマニュアルのどこかに記載されているハズですが、ルネサスエキスパートが提供するサンプルコードからセットで抜き出し、そのまま利用する方が簡単です。

※BSP GPIOアクセスの代わりに、上記許可/禁止追記不要なHAL GPIOアクセスもあります。コレも作法の1つです。

また、ルネサス独自内蔵周辺回路:イベントリンクコントローラのサンプルコードなども、同一MCUコア利用の競合他社差別化に役立つかもしれません。
※イベントリンクコントローラは、MCUを介さずに周辺回路間の連携動作が可能なハードウエア。

マニュアルよりもサンプルコードを読み、評価ボードで試す、“習うより慣れよ” です。

FSPサンプルコードは、このような作法や差別化ヒントが詰まった宝庫です。RAファミリアプリケーション開発には、必読書です。

FSP開発例はコチラ、評価ボードサンプルコードは、コチラの関連投稿も参照ください。

テンプレートメリット

本稿では、しばしば “そのまま” という太字キーワードがでてきます。MCUアプリケーション開発は、ベンダ公式サンプルコードが、そのまま利用・活用する部分と、開発者が “工夫を加える部分” とを、素早く見極める目:Know-howも必要です。

Know-how獲得には、弊社テンプレートとMCU評価ボード+Baseboardが、お役に立てると思います。テンプレートもアプリケーションの1つなので、テンプレートへ追記した豊富な日本語コメントで、そのまま流用している部分と、工夫を加えた部分がソースコード上で確認できるからです。

テンプレートを活用し、アプリケーションをプロトタイピング、次ステップでプロトタイプアプリをチューニングし、完成度を上げます。

プロト目的は、アプリ早期開発、この目的に、ベンダ公式サンプルコード流用・活用と弊社テンプレートを利用します。

既製品の流用・活用・利用は、物足りなく感じる方もいるかもしれません。しかし、弊社テンプレートは、チューニング時、開発者が工夫を追加できる余地がいくらでもあります。アプリ完成度向上には、ご購入者独自の工夫も大切ですので、ご安心ください😁。

RAファミリFSP v3.5.0更新

ルネサスRAファミリのFSP(Flexible Development Package)が、12月9日、v3.5.0へ更新されました。RAファミリの特徴は、コチラの3章に投稿済みです。下記が、抜粋した2項目です。

・ARM Cortex-M33/M23/M4コア採用でIoTセキュリティ強化
・Eclipse IDEベースのKeilやIARなどのARM Ecosystemと無償GNUコンパイラ利用可能

RAファミリヒットの予感!

筆者は、RAファミリが、IoT MCU日本人開発者にヒットする予感がします。

Arduinoシールドコネクタ付き+外付けエミュレータ無しで開発できる低価格評価ボード、コンパイラ容量制限無し、CMSIS開発などは、競合他社に追いついた感じですが、FreeRTOS/Azure RTOS両RTOSへの早い対応、オリジナル内蔵周辺回路や買収各社のフロントエンド化、SOTBなどの製造プロセスは、多くのルネサス開発経験者を引き付ける魅力を持つからです。

この魅力を最大限引出すツールが、FSPです。簡単に言うと、HAL(Hardware Abstraction Layer)API生成SDK(Software Development Kit)です。ルネサスは、Smart Configuratorと呼んでいますが…。

RA開発ポイントFSP構成

FSP v3.5.0の詳細は、ユーザーズマニュアル:UM(英文、全3206ページ)を参照してください(ページ数が多いのは、Chapter 4以降がAPIレファレンスだからです)。FSP構成を示します。

Flexible Software Package構成
Flexible Software Package構成

FSP生成HAL APIを利用すると、RAファミリ共通のアプリケーション開発ができます。また、FSPは、例えばREファミリなど、他のCortex-M系ファミリへ発展する可能性もあります。HALが、コア差を隠蔽できるからです。

※図からRenesas版CMSISと考えると判り易く、CMSISは、コチラの関連投稿3章を参照。

IoT MCUでは、アプリケーションの流用性、移植性は重要です。従来よりも開発規模が大きく、しかも、セキュリティなどのIoT技術適用には、業界標準インターフェースでの機能流用が効率的だからです。既存アプリケーションを出来るだけ流用し、顧客の新規追加開発部分を最小化することで早期開発を実現します。

RAファミリの開発ポイントは、FSPです。

UMの2.3 Tutorial: Your First RA MCU Project – Blinkyと2.4 Tutorial: Using HAL Driversを読んで解る方は、2.5 Primer: ARM TrustZone Project Developmentで、IoT MCUポイント:TrustZoneの理解をお勧めします。具体的なTrustZoneサンプルコードは、検索中です。見つかりましたら、本ブログで投稿します。

2.3や2.4が不明な方は、コチラの関連投稿を参考にしてください。

日本語FSP解説

RAファミリビギナーズガイド
RAファミリビギナーズガイド

日本語FSP解説が欲しい方は、RAファミリビギナーズガイド(全114ページ)の2~3章が役立ちます。但し、掲載サンプルコードは、UMに比べ少数です。

このガイドで注目して頂きたいのが、P98の下記です。

“セキュリティは重要です。また、それは後で追加することはできないため、初期段階から考える必要があります。少なくとも、コストのかかる再設計があれば、それに基づいてアプリケーション全体を破棄することも必要になるかもしれません。これは建物の土台と考えてください。それ自体は……。
それでも、この接続された世界の全てのアプリケーションにはセキュリティが不可欠なのです。”

IoT MCUのセキュリティ土台には、Cortex-M33のTrustZoneが業界標準です。Cortex-M33のRAファミリをプロトタイプ開発に使う理由は、後で追加できないTrustZoneが土台に内蔵のためです。

プロトタイプ開発初期は、TrustZone未使用でも構いません。後でIoTセキュティを追加する際に、プロトタイプ開発で使った土台を変更せずに内蔵TrustZoneを使えること、これがRAファミリをIoTプロトタイプ開発に使う最大メリットです。

FSP活用RAテンプレート構想

RAテンプレートは、FPB-RA6E1とFPB-RA4E1両方で動作確認
RAテンプレートは、FPB-RA6E1とFPB-RA4E1両方で動作確認

FSPには、多くのサンプルコードが掲載されています。弊社は、これら複数サンプルコードを簡単に流用し、早期プロトタイプ開発に使えるRAテンプレートv 1.0を、来年1Q目途に開発、RAファミリ中核MCUのRA6/4シリーズ評価ボードRA6E1/RA4E1の両方で動作確認し、販売を予定しています。

※既に販売中の各種テンプレートは、コチラをご覧ください。

最初にリリースするRAテンプレートv 1.0は、UM 2.3/2.4理解や基礎的なRA習得に役立つ初心者向けベアメタルプロトタイプ開発テンプレートとし、中級以上の開発者向けRTOS関連やTrustZoneは、v2.0以降で対応予定です。

RAテンプレートを使えば、FSP掲載の複数サンプルコードを流用したIoTプロトタイプ開発が、早期にできます。

IoTスキル獲得最適RAファミリ

全てのモノがネットへ接続するIoT時代は、開発対象が増えますが、“競合”開発者も増えます。本ブログ読者には、スキルを活かした更なる効率的開発が求められます。

読者個人によるIoTキーポイントのスキル習得は、自分への先行投資です。キーポイントとは、現行MCU開発スキルに加え、IoTセキュティとRTOSです。

個人レベルでこれらセキュティとRTOSスキル獲得に、Cortex-M33のRAファミリは最適です。前章の低コストの評価ボードと業界標準Eclipse IDEベース“無償”ARM Ecosystem(=e2 studio+FSP)が、ルネサスサイトから簡単に入手でき、入手後、スグに開発着手できるからです。コンパイラ容量制限もありません。

また、初心者はもちろん、中級以上のIoTスキル習得意欲を満たすルネサス公式情報も豊富です。コチラが、公式RAファミリ動画です。短い動画が多数ありますので、すきま時間でのチェックに適しています。

e2 studio日本語メニュー vs. 英語メニュー

e2 studio日本語メニュー化
e2 studio日本語メニュー化

日本語メニューのe2 studioを使うには、インストール時、カスタマイズ機能でJapanese Language Supportコンポーネントの手動追加が必要です。筆者は、英語メニューを愛用していますが、FSP v3.5.0更新を期に、試しに日本語化してみました。

日本語メニューは、横幅が広くなりますがショートカットキー付きです。また、全メニューが日本語訳になる訳ではありません。好みの問題ですが、競合他社Eclipse IDE同様、英語の方が使いやすいと筆者は感じました。