Bluetooth 5.0対応のIoT向けマイコンPSoC 6発表

3月14日のEE Times Japanに“Cypress、低消費でより強固なセキュリティ実現”という記事が掲載されました。この記事から、2017/4Q(10月~12月)量産予定のCypressの新しいIoT MCU、PSoC 6の特徴をまとめました。

PSoC 6の特徴

  • Cortex-M4+Cortex-M0+ のデュアルARMコア
  • プロセス技術にウルトラローパワー40nm SONOS採用(従来は130nm)した結果、Cortex-M0+:15uA/MHz、Cortex-M4:22uA/MHz、ローパワーモード動作電圧:1.1V、ウルトラローパワーモード動作電圧:0.9Vを実現。消費電流は、下表参照。
PSoC 6 Current consumption
PSoC 6 Current consumption(記事より)
  • ハードウエアでのセキュア データストレージ機能を備えたTEE : Trust Execution Environment実装
  • 暗号化アルゴリズム:楕円曲線暗号(ECC)、AES(Advanced Encryption Standard)、ハッシュ(SHA-1/2/3)ハードウエア実装
  • Bluetooth Low Energy 5.0対応
  • 評価ボード:PRoC 6 BLE Pioneer Kit(CY8CKIT-062-BLE)は75米ドル。
    弊社マイコンテンプレート使用中のPRoC 4 BLE Pioneer Kit (CY8CKIT-042-BLE)は49米ドルです、ディアルコアを考慮するとお買い得?

ハードによるセキュリティ機能はIoT MCUに必須

IoTマイコンにARMコアを使う場合、新しいCortex-M23/33コアによるアプローチと、従来コアにTEEなどのセキュリティ機能を付加したアプローチの2つがありそうです。CypressのPSoC 6は、後者です。

いずれも、ハッキングやウイルス対策に、ハードによるセキュリティ対策は必須です。私個人の感触では、どの程度の処理を MCUで行うかにもよりますが、たとえ専用セキュリティハードを追加したとしても、Cortex-M0/M0+/M23クラスの処理能力では、IoT通信制御だけでも重すぎるのではないかと思います。

そこで、より能力の高いCortex-M33やCortex-M3、M4を使うか、M0クラスとのディアルコア化も解として有力かもしれません(コア性能差は、コチラを参照、Cortex-Mxの特徴はコチラを参照)。

PSoC 6はBluetooth 5.0とデュアルコアでしたが、IoT通信規格の決定だけでなく、MCUアーキテクチャ、これら両方の観察がIoT MCU選択に必要になりそうです。

Cortex-M23+mbed OS 5=セキュアIoT MCU

2017年1月13日発行“ARMの最新アーキテクチャ「ARMv8-M」が目指す「セキュアMCU」とは”の記事を読むと、ARMコアの新ラインアップCortex-M23の中身:ARMv8-Mが備えるセキュリティの概要が分かります。IoT向けマイコン:MCU実現には、Cortex-M23にARM RTOSのmbed OS 5実装が必須になりそうです。

Cortex-M0, M0+ and M23
Cortex-M0, M0+ and M23(出典:ARM)

既存MCUの脆弱箇所

IoT MCUにはセキュリティ対策が必須との記載をよく見かけます。しかし、具体的にどこが脆弱箇所で、それはなにかを目にしたにはこの記事が初めてです。Cortex-M23の謳い文句は、セキュリティに対する深い知識、経験が無くても扱えることですが、これら脆弱箇所は深くない常識?!として知らなければいけなかもしれません。

従来MCUの脆弱箇所(記事より)
従来MCUの脆弱箇所(記事より)

ARMv8-Mは、これら脆弱箇所に対して3段構えハードウエアで多段防御しています。詳細は、記事を読んでください。

ハード+ソフトのARM IoTセキュリティ戦略

重要なのは、これらの防御にもかかわらず外部との通信セキィリティ、具体的には通信データの暗号化処理は、別途IP:Cryptocell-312か、または、mbed OS 5(TLS部分)が必要になる点です。低価格IoT向けMCUでは、IP追加よりもmbed OS 5実装の方が現実的ですので、結局、下記公式が成り立ちそうです。

低価格セキュアIoT MCU=Cortex-M23+mbed OS 5

mbed OSの構造(記事より)
mbed OSの構造(記事より)

FreeRTOSなどの他社RTOSをCortex-Mコアへ適用しようか検討している方は、要注意です。Runesasは、SynergyでThreadXを使いそうです。

また、記事にあるようにMCUコードをOTA:Over The Airで更新を行うとなると従来MCUとは別次元の開発スキルが要求されます。RTOSがサポートしてくれれば良いですが、Windowsでさえも更新失敗が(たまに)ありますから…。

セキュアIoT MCU向けハード/ソフトが揃いつつあります。中小規模の従来MCU開発を長くやってきた開発者側としては、IoT MCUの構造は、従来とかなり異なる感触を得ます。Qualcomm(NXP)あたりから、IoT MCUレファレンスデザインを早期にリリースしてくれれば、よりハッキリすると思います。

2016年マイコン業界と超速開発

2016年マイコン業界

Qualcomm ← NXP ← Freescale、買収先の企業へ矢印を付けるとこのようになります。
QualcommはSnapdragonなどのスマホチップセットを供給する半導体ベンダーです。車載を得意とするNXPの社名は残りそうですが、買収後のNXP/旧FreescaleのCortex-M系マイコンラインアップは気になります。
さらに、Windows 10がこのQualcommのSoCで動作するというニュースは、IoT向けPCやスマホにMicrosoftが参入し、数多くある無線規格の収束を早めるかもしれません。

先ず2017年3月、開発環境LPCXpressoとKinetis Design Studioが新しいMCUXpressoに統合されます。また、先日発表の2017ロードマップによると、スイッチマトリクスを持つLPC8xxシリーズが充実します。QualcommとのシナジーによりIoT無線規格のIoTマイコン発売が期待できます。

一方、RunesasもSynergyで遅ればせながらARM Cortex-Mマイコン開発に乗り出し、従来からある独自コアを持つRL78の16ビットマイコンやIDE:CS+は肩身が狭くなった気がします。既存マーケットにはRL78、IoTにはSynergyのCortex-M23/M33という住み分けを意識したかのようです。

Cypressは、Spansion買収によりCortex-M0+コアを入手し、PSoC4へ適用し始めました。アナログ技術が豊富なPSoC4/PRoC/PSoC4 BLEマイコンが更に強化されました。私はCortex-M0/M0+開発では、最も使いやすいIDE:PSoC CreatorとPSoC4/PRoC/PSoC4 BLEの組合せがピカ一だと評価しています。Cortex-M23のラインアップ追加が待ち遠しいです。

※上記は、下記個人レベルで準備できる「入手性が良く、低コストマイコン」の選択基準に合致する半導体ベンダーに限定して分析しております。

超速開発環境

顧客が許容するマイコンソフト/ハード開発時間は、ますます短くなります。
顧客側の技術理解レベルが追い付かないのも原因の1つですが、状況変化が激しいので即開発し、市場でのフィードバック、改良などを繰り返しながら製品化が必要なことが大きな要因です。

短い開発時間は、マイコン開発者にプレッシャーや焦りを生じさせます。しかし、焦りは禁物です。
良い成果物を効率的に出力できるワザ、これがマイコン開発者には必要です。

このワザ習得には、時間を気にせずに没頭できる環境、例えば自宅などで、新しいマイコンや現状マイコンを、身銭を使うので低コストで、しかも短時間で習得できる方法が必要です。
技術は、食べ物と同じで自分で習得(食べ物なら消化)してこそ身に付きます。食べ過ぎて消化不良になるのを避ける手段/方法があります。

この習得方法が超速開発環境、マイコン評価ボード(=スターターキット)+拡張ボード(=mbed-Xpresso Baseboard)+そして弊社マイコンテンプレートです。

マイコンテンプレート(税込1000円)は、懇切丁寧な添付資料や多くの(冗長な!?)コメントをソースに付加しています。従って、初心者が陥りがちな初期トラブルを避けることができ、ベンダー提供のサンプルソフトを活用したマルチタスクで、評価ボードと拡張ボードを動かせます。
ソフト担当者は、マイコンを自分で動かせれば、安心して厳しい状況でも開発できます。

また、基板開発時に問題となるアートワーク(配線引き回し)に配慮したIO割付を実ボードで検証できるので、基板化障壁も下がります。
ハードのみの担当者であっても、この超速開発環境はマイコン回りのベンダー推薦配線チェック、アートワークに適したIO割付をソフト開発者へ提案、基板テストプログラム開発時などにも役立ちます。

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販売中のマイコンテンプレート5種
販売中のマイコンテンプレート5種

「入手性が良く、低コストマイコン」という基準で、現在5種マイコンをピックアップし、そのマイコンテンプレートを開発/販売することで、超速開発をサポートするのが本サイトの目的です。ご要望により新たなマイコンを追加する可能性もあります。

サイトに対するご意見、ご要望、追加マイコンなどお気軽にinfo@happytech.jpへお寄せください。

本年もありがとうございました。来年も引き続き弊社サイト、どうぞよろしくお願い申し上げます。

ARM Cortex-M23の特徴

ARMがセキュリティ機能を統合した新プロセッサ「Cortex-M23/M33」を発表記事から、Cortex-M23とCortex-M0/M0+の相違点、開発ポイントになりそうな箇所を抜粋し、特徴を考察します。

IoTデバイスのセキュリティ

“ネットワークに繋がるIoTデバイスには、セキュリティは必須”“
”IoTデバイスにセキュリティを普及させるには、セキュリティに対する経験が全くないエンジニアでも扱うことができる「1ドル以下のセキュアなMCU設計」が必要。このソリューションがARMv8-M TrustZone。“
”ARMv8-M命令セットは、必要最小限のベースラインセットと、浮動小数点演算などの拡張メインラインセットの2階層から成り、Cortex-M23は、ベースラインセットを実装“
”Cortex-M0/M0+は、ARMv6-M命令セット。Cortex-M23は、Cortex-M0/M0+後継の位置づけ。“

Baseline Instruction Set
Baseline Instruction Set(記事より)
Cortex-M0, M0+ and M23
Cortex-M0, M0+ and M23(記事より)

整数演算プロセサのCortex-M23

“性能レンジ:0.98MIPS/MHz、2.5CoreMark/MHz、Cortex-M0+比1.6~3.2%の性能向上”

Performance of Cortex-M
Performance of Cortex-M(記事より)

“Cortex-M23は、Cortex-M0/M0+と同じ2ステージパイプラインでミニマムパイプライニング”
“Cortex-M23は、フォンノイマンアーキテクチャ”

低コストかつ低電力にセキュリティを実装

“Cortex-MシリーズのTrustZoneは、以前からあるCortex-A向けのTrustZoneとは異なる”
“ARMv8-MのTrustZoneは、ハードウエアによるステイト遷移、セキュリティモニタソフト不要、ハードウエア遷移なのでレイテンシ少で、低速MCUでも実用的なセキュリティシステム”

※Cortex-M33に関しては、本ブログ対象ではないので、記事抜粋を割愛しております。

ハードによるセキュリティ機能実装メリット

パソコンを使う人なら、セキュリティ機能が必須で重要であることは、重々承知しています。また、その副作用として、本来の処理遂行に時たまジャマ?になることも…。性能が限られたMCUではなおさらでしょう。

イメージとしては、ウオッチドックタイマが近いと思います。開発初期やデバッグ中は機能を停止させ、最終版では、必ず動作させます。動作しても、ソフト性能がむやみに消費されることは殆どありません(というか、そのようにソフトを作ります)。

また、セキュリティに対する深い知識、経験が無くても扱えることも大歓迎です。要は、ネットワークに安全確実に繋がり、本来処理を、低価格低電力で実行できさえすれば、良いのですから。セキュリティは必須でも、あくまで付加サービスです。

Cortex-M23は、Cortex-M0/M0+の置換えヒット商品の予感がします。ARM Cortex-M0/M0+へ初挑戦する方も、既にCortex-M開発経験がある方も、楽しみなデバイスが出てきました。弊社マイコンテンプレートも現在はCortex-M0/M0+のみの対応ですが、Cortex-M23 MCU発売後は、対応する予定です。

ルネサスSynergyでCortex-M23サポート発表

ルネサスが、SynergyにARM Cortex-M23を加える予定を発表しました。Cortex-M23は、コチラを参照してください。

Synergy

Synergy Lineup
Synergy Lineup(記事より抜粋)

Synergyは、2015年10月に提供開始した新しいARM Cortex-M系の開発環境(2015年10月18日の記事も参照ください)。

他ベンダ―のARM Cortex-M開発環境は、EclipseベースIDEであるのに対して、少し異なる(Apple的な)アプローチを取っています。ガラパゴスと言われなければ良いな?!と思いますが…。後発なのでプラスアルファした結果だと思います。

このSynergyに先日記載したCortex-M23を将来的に加えると発表しました。IoTデバイスを狙うなら当然です。本ブログも注視していきます。

ARM Cortex-M0+準拠セキュリティ強化プロセサCortex-M23発表

Cortex-M Series Lineup
Cortex-M Series Lineup

ARMは、Cortex-M0+準拠でセキュリティ機能を強化したCortex-M23を発表しました。本ブログはこれまで、低価格低消費電力のCortex-M0/M0+コアを対象としてきましたが、これにCortex-M23も加えます。

Cortex-Mシリーズに於けるCortex-M0/M0+プロセサの位置付けは、コチラの記事をご覧ください。

Cortex-M23コア

ARMサイトによると、Cortex-M23は、IoTデバイスに必須と言われるハードによるセキュリティを強化したTrustZoneを搭載し、Cortex-M0+ソフト再利用が可能です。
IoT向きCortex-M0/M0+という位置付けだと思います。

Comparison of Cortex M23 and Cortex M0+
Comparison of Cortex M23 and Cortex M0+

Cortex-M23コアのMCUが登場すれば、本プログでフォローします。勿論、対応テンプレートも開発する予定です。