Azure RTOS習得(2):Azure RTOS ThreadXサンプルコード

Azure RTOS習得2回目は、STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードを解説します(コチラの投稿3章でAzure RTOS開発ツール動作確認に使ったコード)。

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードは、スレッド優先度とプリエンプション閾値を、スレッド実行時に変更する例と、スレッド間同期にイベントフラグを用いる例を示しています。

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードの3スレッド

注意)サンプルコードのプリエンプション閾値とREADME記述が異なります。正しくは下記です。

スレッド名 処理内容

(LD2:評価ボード単体)

優先度 プリエンプション閾値
メインスレッド スレッド1/2優先度と閾値変更→LD2点灯シナリオ制御 5 5
スレッド1 LD2を5秒間500msで点滅 10 10
スレッド2 LD2を5秒間200msで点滅 10 9

評価ボード:NUCLEO-G474REは、ユーザLED:LD2を1個実装しています。1個のLD2を2個のスレッド1/2で制御するため、点滅間隔を変えることでどちらのスレッド制御かを示します。また、メインスレッドとスレッド1/2間の同期に、Azure RTOSイベントフラグを用います。

この評価ボードに、2個LED1/2、1個SWを実装したArduinoプロトタイプシールドを追加し、各スレッド処理を、下記のように工夫しました。

スレッド名 処理内容

(LD2:評価ボード+

LED1/LED2/S1:Arduinoプロトタイプシールド

優先度 プリエンプション閾値
メインスレッド スレッド1/2優先度と閾値変更→LD2点灯シナリオ制御 5 5
スレッド1 LED1を5秒間500msで点滅 10 10
スレッド2 LED2を5秒間200msで点滅 10 9

評価ボード単体で複数スレッド動作を確認するよりも、断然判り易くなります。

もちろん、評価ボード単体でも確認可能です。しかし、イベントフラグだけでなくセマフォなど今後様々なAzure RTOS機能習得にも、Arduinoプロトタイプシールド追加は、役立ちます。

また、VCP:Virtual Com Portへメッセージを出力する工夫も加え、タイトルやエラー表示を行います(評価ボード+Arduinoプロトタイプシールド動作例は、5章図)。

イベントフラグ

Microsoft公式Azure RTOS ThreadXサイト第 3 章:Azure RTOS ThreadX 機能を開き、右コラム“この記事の内容”のイベント フラグをクリックすると、イベント フラグの説明が示されます。要旨を抜粋すると、

・イベントフラグは、スレッド間同期手段。32フラグ単位グループ化可能、待ちタイムアウトなどあり
・tx_event_flags_set でフラグ設定、tx_event_flags_get でフラグ取得(AND/OR演算可能)
第 4 章:APIに、tx_event_flags_setやtx_event_flags_getの詳細記述

例えば、4章でtx_event_flags_set は、ソースコードへひな型をコピー&ペーストできる形で表現されています。

tx_event_flags_setのAPI
tx_event_flags_setのAPI

スレッド1/2

以下、説明が簡単になるので、オリジナル評価ボードソースにコメント追記したコードで説明します。

スレッド1/2は、初期設定+無限ループの簡単で単純な構成です。

スレッド1(評価ボード単体動作ソースコード)
スレッド1(評価ボード単体動作ソースコード)

スレッド1は、500msトグルを5秒間繰返し、5秒経過後、イベントフラグ:THREAD_ONE_EVTをセットします。スレッド2は、200msトグルとイベントフラグ:THREAD_TWO_EVTがスレッド1と異なるのみです。

フラグセットAPI失敗時は、Error_Handle内で停止します。

メインスレッド

メインスレッド(評価ボード単体動作ソースコード)
メインスレッド(評価ボード単体動作ソースコード)

メインスレッドは、LD2点滅シナリオを作成します。優先度が5で高優先なので、低優先スレッド1/2からのイベントフラグセットを常時ゲットできます。

スレッド1/2優先度は同一の10ですが、L170でスレッド1のイベントフラグを永遠に待つので、スレッド2はスレッド1と多重動作ができません。

スレッド2のプリエンプション閾値が9なのに、スレッド1が先に動作するのは、スレッド1がtx_thread_createで先に生成、開始(TX_AUTO_START)するからです。試しに、スレッド2を先に生成すると、LD2は200ms点滅から始まりシナリオは進みません。スレッド1→2の生成順序なら、スレッド2のプリエンプション閾値は、10でもLD2は、同じシナリオで点滅します。

スレッド1のイベントフラグを得た後、スレッド2優先度と閾値を(8、8)へ変更するのは、スレッド2単独動作のためです。その後、L179でスレッド2のイベントフラグを永遠に待ちます。

スレッド2のイベントフラグを得ると、スレッド2優先度と閾値を元の(10、9)へ変更します。このシナリオを3回繰返します。

シナリオ終わりにスレッド1/2をterminateさせるのは、動作不要だからです。terminateしなくても、メインスレッドプリエンプション閾値が5なので、スレッド1/2は動作しません。従ってLD2動作シナリオは変わりません。

シナリオは変わりませんが、terminateをコメントアウトした時のThreadX Thread Listとオリジナルの時のListが下記です。不要スレッドは、Terminate Stateへ入れると他へ影響を与えないメリットがあります。

スレッド1と2 terminate有無の差
スレッド1と2 terminate有無の差

RTOS習得とArduinoプロトタイプシールド追加

ベアメタル開発のLチカ理解に相当するのが、本稿説明のスレッド間同期イベントフラグをはじめとする多様なRTOS機能理解です。

本稿サンプルコード動作程度であれば、ベアメタルで開発する方が簡単です。但し、ベアメタルでは、動作に必要な機能を全てユーザが開発します。

一方、RTOS開発では、RTOSが提供する機能を活用し、残りの差分をユーザ開発しさえすればアプリが完成します。下図のようにベンダー提供資産(RTOS、セキュリティなどのミドルウェアやドライバ)有効活用が、現代的MCUユーザアプリケーション開発の肝です。RTOS機能が多すぎるのが、玉に瑕ですが…😂。

現代的ユーザMCU開発の例(出展:The ST blog)
現代的ユーザMCU開発の例(出展:The ST blog)

RTOS活用で、ユーザアプリケーションが資産化できます(RTOSの目的が、アプリケーション資産化なので当然です)。

メインスレッド章で説明したように、スレッド1/2はそのままで、RTOSのスレッド生成順序やプリエンプション、イベントフラグのみでLD2点滅シナリオ変更が簡単にできます。ソフトウェア規模が大きくなれば、このメインテナンス性の良さが活きてきます。

多様なAzure RTOS機能を手間なく効率的に学ぶには、Arduinoプロトタイプシールドを評価ボードに追加し、思いついたRTOS機能を直に試すことをお勧めします。

Arduinoプロトタイプシールド追加により、スレッド毎の動作を別々のLEDで目視でき、メインスレッドがスレッド2の優先度、閾値を変更しない場合、スレッド1と並列動作するか等々、様々な試行を簡単に確認できます。この試行で、ベアメタル開発経験も活かせます。

つまり、過去に開発したベアメタル機能が、RTOSに有るか無いかを、多くのRTOS機能をふるい(経験)にかけながらRTOS習得ができる訳です。

今後のAzure RTOS習得は、Arduinoプロトタイプシールドを評価ボードへ追加した構成で、新規Azure RTOSプロジェクトをRTOS機能毎に作成し行います。

新規Azure RTOS機能プロジェクト作成方法は、次回投稿予定です。

評価ボードへArduinoプロトタイプシールドを追加しスレッド毎にLED点滅中
評価ボードへArduinoプロトタイプシールドを追加しスレッド毎にLED点滅中

まとめ

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードを解説しました。本稿で説明したAzure RTOS APIは、下記です。

・スレッド間同期イベントフラグ:tx_event_flags_set/getと、待ち処理
・スレッド優先度、プリエンプション閾値変更:tx_thread_priority/preemption_change
・スレッド終了:tx_thread_terminateと、Terminate State目的
・スレッド生成:tx_thread_createと、TX_AUTO_START、生成順序

優先度とプリエンプション閾値をスレッド実行時に変更できる機能は、スレッド開発が容易で流用性を高め、ユーザ開発アプリケーションの資産化に効果があります。

ユーザLEDが1個のみ搭載の評価ボードを使い複数スレッド動作を確認するよりも、2個LEDやユーザS1搭載のArduinoプロトタイプシールド追加により、RTOS APIパラメタ変更時の各スレッド動作確認が容易です。

意図しないスレッド並列処理も直ぐに判るので、効率的にAzure RTOS習得ができます。Arduinoプロトタイプシールド付属の小さなブレッドボード利用も試行実験に便利です。

多くのパラメタを持つAzure RTOS効率的習得に、評価ボード+Arduinoプロトタイプシールドをお勧めします。

Azure RTOS習得(1):習得方針

Microsoft公式Azure RTOS ThreadXサイト
Microsoft公式Azure RTOS ThreadXサイト

Microsoft公式、Azure RTOS ThreadXサイトを紹介します。

前稿最後で示したSTM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコード付属readme.html理解には、Azure RTOS ThreadX基礎知識が必要です。基礎知識獲得には、Microsoft公式サイトが最適です。

本稿は、公式サイトを簡単に説明し、今後のAzure RTOS習得方針を示します。

Azure RTOS習得方針

筆者は、物事を効率的に理解する時、初めはあまり細部に拘らず全体を俯瞰的に捉え、次の段階で不明な点を明らかにする、既に知っている事柄と比較する、などの方法を好みます。

Azure RTOS習得も、この方法でアプローチしたいと思います。

これは、FreeRTOS習得(2020年版)と同じ方法です。その結果、開発したのがNXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートです。

最終的には、STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコード付属readme.html理解とST版Azure RTOSアプリケーションテンプレート開発、2022年版Azure RTOS習得サイト作成が目標です。

Azure RTOS ThreadX公式ユーザガイド

公式サイトトップページには、Azure RTOS概要と、ユーザガイドのショートカットが掲載されています。概要は、疲れた時や気分転換時に読むとして、肝心のAzure RTOS ThreadXユーザガイドをクリックします。

現れるのが、Azure RTOS ThreadXユーザガイド目次です。

第 1 章:Azure RTOS ThreadX 概要とリアルタイム組込み開発
第 2 章:Azure RTOS ThreadX インストール
第 3 章:Azure RTOS ThreadX 機能動作
第 4 章:Azure RTOS ThreadX API
第 5 章:Azure RTOS ThreadX アプリケーションドライバー作成
第 6 章:Azure RTOS ThreadX デモアプリケーション

第3章が、Azure RTOS ThreadX理解ポイントのようです。

Azure RTOSとFreeRTOS比較:状態遷移図、優先度

Azure RTOS(左)とFreeRTOS(右)状態遷移比較
Azure RTOS(左)とFreeRTOS(右)状態遷移比較

RTOS理解に必須なのが、スレッド/タスクの状態遷移です。左が第3章:記載のAzure RTOS、右が弊社FreeRTOS習得記載のFreeRTOS状態遷移です。Azure RTOSは、全5状態ありFreeRTOS比+1、スレッド登録後、即Suspendedになる遷移もあります。

RTOS処理対象を、Azure RTOSはスレッド、FreeRTOSはタスクと呼びます。

優先度は、Azure RTOSは数値が小さい方が高く、FreeRTOSは大きい方が高い、つまり真逆です。

などのAzure RTOSとFreeRTOSの違いが第3章から判ります。

Azure RTOS ThreadXサンプルコードキーワード

・ThreadX、Thread、Event flags、Preemption threshold

前稿最後で示したSTM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコード付属readme.html記載のキーワードです。サンプルコード理解には、これらが重要であることを示しています。

公式ユーザガイド第3章日本語訳によると、Preemption thresholdとは、プリエンプション閾値のこと。Azure RTOS独特の高度機能です。この部分の要旨を抜粋すると、

・プリエンプション閾値利用で、プリエンプションを無効にする優先度の “上限” を指定可能。上限より高い優先度スレッドは、引き続きプリエンプト可能だが、上限より低いスレッドは、プリエンプト不可。
・優先度20スレッドが、15~20優先スレッドグループやり取りで説明。優先度20スレッドは、セクション処理中、プリエンプション閾値を15 に設定すると、他の全スレッドのプリエンプションを防止。
・これにより、非常に重要なスレッド (優先度 0 から 14 まで)は、クリティカルセクション処理中でもスレッドをプリエンプトでき、応答性が大幅に向上。
・スレッドでプリエンプション閾値を0に設定し、全プリエンプションを無効にすることも可能。また、プリエンプション閾値は実行時に変更可能。

英語原本の機械翻訳だと思いますので、解り難い箇所もありますが、今はOKとしましょう😂。

プリエンプション:Preemptionとは

プリエンプションとは何かを、IT用語辞典から抜粋しました。

・RTOSが、実行中のスレッド/タスクを強制的に一時中断し、他のスレッド/タスク実行に切り替えること。
・このRTOS切り替えを「コンテキストスイッチ」(context switching)と呼び、プリエンプションで停止していたスレッド/タスクを再開させる操作を「ディスパッチ」(dispatch)と呼ぶ。
・殆どの現代RTOSは、「プリエンプションを利用」し処理を時分割多重。
・歴史的には、スレッド/タスク側が自ら決めたタイミングで自発的にRTOSへ制御を返却するノンプリエンプティブマルチタスク、あるいは、協調的マルチタスクもあった。

Azure RTOS/FreeRTOS、どちらもプリエンプションを利用します(FreeRTOSは本稿:状態遷移参照)。違いは、Azure RTOSが、スレッド毎にプリエンプション閾値を持つこと。RTOS任せにせずスレッドが、明示的に優先度制御を行う点です。

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードは、このスレッドによる優先度変更とイベントフラグが解れば解析できそうです(次回解析予定)。

まとめ

Microsoft公式Azure RTOS ThreadXサイトを利用したAzure RTOS習得方針を示しました。

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコード付属readme.html理解に、Azure RTOS ThreadXユーザガイド第3章から、

・Azure RTOSとFreeRTOS状態遷移は異なる
・Azure RTOS優先度は0が最高位、FreeRTOSは値が大きい程優先度が高く、両者は真逆
・Azure RTOSスレッド応答性を向上させるPreemption threshold:プリエンプション閾値機能がある

などが判りました。この方針に則って、Azure RTOS習得を続けます。

STM32 Azure RTOS開発ツール拡充

2022年4月20日、STマイクロエレクトロニクス(以下ST)は、Azure RTOS開発ツールを拡充し、より幅広いSTM32MCU対応を発表しました。拡充したSTM32MCUリストが下記です。

List of STM32 with X-Cube-AZRTOS Package(出典:The ST blog)
List of STM32 with X-Cube-AZRTOS Package(出典:The ST blog)

弊社販売中STM32G0xテンプレートで使ったSTM32G0や、テンプレート開発中のSTM32G4も、Azure RTOS開発が容易になりました。

CMSIS RTOSからAzure RTOSへ

今回の発表前までは、販売中のNXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートに続き、STM32G4を使ってST版“CMSIS-RTOS”アプリケーションテンプレートを構想していました。

しかし、今回のAzure RTOS開発ツール充実発表を受け、“CMSIS-RTOS”から“Azure RTOS”対応へ変更することにしました。STのAzure RTOSサンプルコードが活用でき、また、Microsoft公式Azure RTOS情報もあるからです。

※ARM社規定のCMSIS RTOSは、FreeRTOSやAzure RTOSをラップ(wrapper)するRTOSです。同じCMSIS RTOS APIでFreeRTOSまたはAzure RTOSが使え、開発アプリケーション流用性は高まります。但し、ラップ関数分のオーバーヘッドが生じます。詳しくは、構想投稿の4章を参照してください。

STがAzure RTOS開発ツールMCUを拡充した背景は、Microsoft Azureクラウド接続IoT MCUの急増だと思います。リストアップした9種のSTM32MCUが、IoT MCU有力候補と言えます。

Azure RTOS開発ツールインストール方法

STM32G4を例に、Azure RTOS開発ツールインストール方法を示します。現在のSTM32G4開発ツールが、下記版数です。

・STM32CubeIDE v1.9.0               (以下CubeIDE)
・STM32CubeMX v6.5.0               (以下CubeMX)
・STM32Cube FW_G4 v1.5.0        (以下FW_G4)
・X_CUBE_AZRTOS_G4 v1.0.0    (以下AZRTOS_G4)

X-CUBE-AZRTOS-G4が、今回発表したSTM32G4のAzure RTOS開発ツールです。

FreeRTOSは、CubeMXのMiddlewareに実装済みです。一方、Azure RTOS は、ExpansionsパッケージのAZRTOS_G4によりCubeMXへ機能追加します。Expansionsパッケージ追加のため、少し手間がかかります。

① CubeIDEのHelp>Manage Embedded Software Packagesクリック
② Embedded Software Packages ManagerのSTMicroelectronicsタブ選択
③ X_CUBE_AZRTOS_G4のAvailable Version 1.0.0を選択し、Installクリック

X-CUBE AZRTOS-G4のインストール
X-CUBE AZRTOS-G4のインストール

AZRTOS_G4インストール後、使用コンポーネントの選択が必要です。

④ CubeMXのPinout & Configurationタブ内Software Packsをクリック
⑤ Select Components(Alt+O)を開き、Software Packs Component Selectorで追加Azure RTOSコンポーネント:RTOS ThreadX/File system FileX/USB LevelX…などを選択し、OKクリック

STM32G4評価ボード:NUCLEO-G474REを使う場合は、RTOS ThreadXを選択し、Core/Low Power supportを選択すれば十分です。但し、念のため、Performance InfoやTraceX supportも選択しておきます。

インストールしたAzure RTOS ThreadX版数が、6.1.8であることも判ります。

Software Packs Component Selector
Software Packs Component Selector

Azure RTOS ThreadXサンプルコードインポートと動作確認

インストールしたAZRTOS_G4が正常動作するかをAzure RTOS ThreadXサンプルコードと評価ボード:NUCLEO-G474REで確かめます。確認方法が下記です。

① CubeIDEのInformation CenterからImport STM32Cube exampleをクリック
② STM32 Project from STM32Cube ExamplesのExample Selectorタブで、BoardのName:NUCLEO-G474RE、Middleware:ThreadXを選択

STM32G4評価ボード:NUCLEO-G474REのAzure RTOSサンプルコード
STM32G4評価ボード:NUCLEO-G474REのAzure RTOSサンプルコード

STM32G4 Azure RTOS ThreadXサンプルコードは、現在3個です。最も基本的な、

③ Tx_Thread_Creationを選択し、Finishクリック。CubeIDEへTx_ThreadX_Creationサンプルコードがインポート。
④ CubeIDEのTx_Thread_Creation.iocをクリックし、CubeMXで、Generate Code(Alt+K)を実行
⑤ CubeIDEでTx_Thread_Creationをビルドし、評価ボードへダウンロード
⑥ 評価ボードのLED2が、500ms点滅と200ms点滅を3回繰返し、その後1秒点滅に変わる

以上で、STM32G4 Azure RTOS開発ツールのX_CUBE_AZRTOS_G4インストールを、ThreadXサンプルコードで動作確認しました。

使用したTx_ThreadX_Creationサンプルコードの説明は、次週以降に行う予定です。直ぐ知りたい方は、Tx_ThreadX_Creationフォルダ内readme.htmlを参照してください。

まとめ

STが、STM32G0やSTM32G4、STM32U5などのIoT MCUに対し、Azure RTOS開発ツール拡充を発表しました。

STM32G4を例に、CubeMXへExpansionsパッケージのX_CUBE_AZRTOS_G4でAzure RTOS機能の追加方法、Azure RTOS ThreadXサンプルコードインポート、NUCLEO-G474REでThreadXサンプルコードの動作確認をしました。

STM32G0(Cortex-M0+/64MHz)、STM32G4(Cortex-M4/170MHz)、STM32U5(Cortex-M33/160MHz)は、弊社IoT MCUテンプレートの開発対象です。

今回の発表を受け、STM32G4のRTOSを、CMSIS-RTOSからAzure RTOSへ変更し、ST版Azure RTOSアプリケーションテンプレート開発を計画中です。

Cortex-MとRISC-V

NVIDIA買収先で成立見通しが未だに不透明なARM社Cortex-Mと非営利団体運営のRISC-V、両MCUコアの顧客利用動向記事が公開されました(2022年1月14日、ITmedia)。

極簡単に要約すると、ARM顧客の多くが現在NVIDIAと競合関係にあるため、買収成立時、Cortex-M利用の顧客将来製品の代替コア用意(=Plan B)が必要で、代替コアにRISC-Vが急浮上している、という内容です。

ARM顧客とは、エッジAIや車載半導体製品を供給中のMCUベンダ(Renesas、NXP、STマイクロなど)を指します。Plan Bは、代替案と訳されます。これは、実行案Aのトラブル時、Aの次のBが、第2の案という意味です。

半導体業界は常に変化し、これに伴い案A達成に何らトラブルが無くても、その将来性に変化が生じる可能性もあります。“Backup”としてのPlan B必要性を感じた記事です。

オープンアーキテクチャRISC-V

Cortex-M代替として急浮上のRISC-V
Cortex-M代替として急浮上のRISC-V

RISV-Vは、カルフォルニア大学バークレイ校開発のオープンアーキテクチャMCUコアで、Cortex-MのようなCISC(Complex Instruction Set Computer)命令系を、より縮小した命令系(Reduce Instruction Set Computer)へ変え、低電力動作に適すなどの特徴を持ちます。

Cなどの高級言語ソフトウェア開発者にとっては、CISC/RISC差はあまり気になりませんが、コンパイラを開発するMCUベンダにとっては、他社差別化を生む重要なパラメタです。

MCU性能の支配項は、

・MCUコア(CISC or RISC)
・コンパイラ
・製造プロセス(≒最高動作周波数)
・内蔵周辺回路

の4項目で、ARM Cortex-M使用中ベンダなら、MCUコアとコンパイラはARM供給品なので各社共通です。つまり、製造プロセスと内蔵周辺回路でしか他社差別化手段がありません。

NVIDIAがARMを買収した場合、競合他社へのMCUコアやコンパイラ供給に、自社利用品と差を付ける可能性もあります。Cortex-M使用中のMCUベンダ各社が、ARM買収成立を嫌う理由が、これです。

そこで、オープンアーキテクチャでコンパイラ開発自由度も高いRISC-Vコアが、競合他社のCortex-M将来製品コアのPlan Bとして急浮上した訳です。

ARMコアMCU開発で出遅れたRenesasは、早々とRISC-V対応MCU開発を発表しました。NXPやSTマイクロのRISC-Vコア利用は不明ですが、Renesas同様、Plan Bを持っているのは確実です。

我々開発者が、今すぐRISC-V開発を始める必要性は低いと思います。むしろ、Cortex-M代替に、低価格高性能無線機能付きESP-WROOM-32を習得した方が役立つと個人的には思います。RISC-VESP-WROOM-32の関連投稿は、リンク先を参照してください。

MicrosoftのOffice、Windows分離売却可能性

Microsoftが買収を発表した大手ゲーム会社Activision Blizzard
Microsoftが買収を発表した大手ゲーム会社Activision Blizzard

半導体業界の大きな一角を占めるMicrosoftの大手ゲーム会社Activision Blizzard買収ニュースが1月19日発表されました。買収理由は、コチラの記事が示すメタバースです。COVID-19が大きく影響しているコンタクトレス・テクノロジのメタバースは、関連投稿の3章を参照してください。

Microsoft動向で気になるのは、確定内容ではありませんが「OfficeとWindowsを売却すべき」という1月17日発表記事です。Microsoftは営利団体です。Windows 11不具合の多さ、新機能の魅力無さなど、最近のWindowsに対するMicrosoftの力の入れようの低下とも符合します。

OfficeやWindows(特にGUI)は、既に製品完成の域に達しています。手間暇が掛かるDOS-VベースのコンシューマーOS企業と、最新コンタクトレス・テクノロジやAzure、高度セキュリティ投資との親和性も高いパブリッククラウド企業とは、別会社の方が、利用者、投資家にとっても判り易いと思います。

エンタープライズ顧客重視で将来性も高いパブリッククラウド企業地位を、MicrosoftがAmazonやGoogleよりも高めたいなら、足枷の可能性もあるOffice、Windows分離売却も可能性ありと思います。

Plan B評価の違い

M&A:Mergers(合併)and Acquisitions(買収)は、半導体業界では当たり前です。激変する半導体業界のMCUベンダとMicrosoft動向記事を紹介しました。

日本社会では、Plan B評価がまだ低いのですが、MCU開発者として、「個人レベルのPlan B必要性」を感じた記事でした。日本人と外国人上司のPlan B評価の違いは、コチラの記事を参照してください。

組込み開発 基本のキ:RTOS vs. ベアメタル

RTOS vs. BareMetal
RTOS vs. BareMetal

2022年最初の投稿は、RTOSとベアメタルを比較します。RTOSを使わないベアメタルMCU開発者が多いと思いますので、RTOS開発メリット/デメリットをベアメタル側から評価、RTOSデバッグツール紹介とベアメタル開発の意味を考えました。

RTOS目的

Flexible Software Package構成
Flexible Software Package構成

ルネサスRAファミリのFlexible Software Package構成です。左上Azure RTOSやFreeRTOSの中に、ConnectivityやUSBがあります。これらMCU共有資源を管理するシステムソフトウェアがOSで、PCのWindowsやMac、Linuxと機能的には同じです。

Real-Time性が必要な組込み用OSをRTOSと呼び、FreeRTOSやAzure RTOSが代表的です。これは、IoT MCU接続先が、Amazon Web Services(AWS)クラウドならばFreeRTOSライブラリ、Microsoft AzureクラウドならAzure RTOSライブラリ(図のConnectivity)利用が前提だからです。

※2021年のIoTクラウドシェアは、コチラの関連投稿からAWS>Azure>GCPの順です。

RAファミリに限らず、クラウド接続のIoT MCUは、これらRTOSライブラリを使ったRTOS開発になります。

RTOSメリット/デメリット

例えば、ベアメタルでUSB制御を自作する場合は、USB 2.0/3.0などの種類や速度に応じた作り分けが必要です。ライブラリがあるRTOSなら、USBポートへの入出力記述だけで利用可能です。RTOSが共有資源ハードウェア差を吸収し、アプリケーションが使い易いAPIを提供するからです。

RTOSの資源管理とは、MCUコア/Flash/RAM/周辺回路/セキュリティなどの共有資源を、アプリケーション側から隠蔽(≒ブラックボックス化)すること、とも言えます。

RTOSアプリケーションは、複数タスク(スレッドと呼ぶ場合もあり)から構成され、タスク間の優先制御もRTOSが行います。開発者は、単体処理タスクを複数開発し、それらを組み合わせてアプリケーションを構成します。RTOSアプリケーション例が下図、灰色が開発部分、コチラが関連投稿です。

Data flow diagram for a smart thermostat(出展:JACOB'S Blog)
Data flow diagram for a smart thermostat(出展:JACOB’S Blog)

RTOS利用メリット/デメリットをまとめます。

メリットは、

・RTOSライブラリ利用により共有資源活用タスク開発が容易
・移植性の高いタスク、RTOSアプリケーション開発が可能
・多人数開発に向いている

デメリットは、

・複数タスク分割や優先順位設定など、ベアメタルと異なる作り方が必要
・共有資源、特にRAM使用量がタスク数に応じて増える
・RTOS自身にもバグの可能性がある

簡単に言うと、RTOSとベアメタルは、「開発作法が異なり」ます。

ソフトウェア開発者は、RTOS利用と引換えに、自己流ベアメタル作法を、RTOS作法へ変えることが求められます。RTOS作法は、標準的なので多人数での共同開発が可能です。もちろん、ベアメタルよりもオーバーヘッドは増えます。このため、RTOS利用に相応しい十分なMCUコア能力も必要です。

RTOSタスク開発 vs. ベアメタルアプリケーション開発

最も効果的なRTOS作法の習得は、評価ボードを使って実際にRTOSタスク開発をすることです。弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、この例です。

それでも、RTOSタスク開発作法を文章で記述すると、以下のようになります。

開発対象がアプリケーションからタスク(スレッド)へ変わることが、ベアメタルとの一番の違いです。Windowsタスクバーにあるフィルダ表示や、ペイントなどと同様、タスクは、単機能の小さいアプリケーションとも言えます。

このタスクを複数開発し、複数タスクを使ってRTOSアプリケーションを開発します。タスクには、それぞれ優先順位があり、他のタスクとの相対順位で実行タスクがRTOSにより決まります。タスクの状態遷移が、RTOSへの備え:第2回、タスク管理で示した下図です。

FreeRTOS Task States
FreeRTOS Task States

ベアメタルアプリケーションとは異なり、優先順位に応じてタスクが実行(Running)され、その実行も、定期的に実行可能状態(Ready)や待ち状態(Suspended)、停止状態(Blocked)へRTOSが変えます。これは、リアルタイムかつマルチタスク処理が、RTOSの役目だからです。遷移間隔などは、RTOS動作パラメタが決めます。

ベアメタル開発は、開発者が記述した通りに処理が実行されますが、RTOS開発のタスク実行は、RTOS任せです。RTOS開発難易度の上がる点が、ここです。

一般的なIoT MCUは、シングルコアですので、実行タスク数は1個、多くの他タスクは、Not Running(super state)状態です。RTOSがタスクを実行/停止/復活させるため、スタックやRAM使用量が急増します。

これら文章を、頭の中だけで理解できる開発者は、天才でしょう。やはり、実際にRTOSタスクを開発し、頭の中と実動作の一致/不一致、タスク優先順位やRTOS動作パラメタ変更結果の評価を繰返すことで、RTOS理解ができると凡人筆者は思います。

ベアメタル開発者が手早くRTOSを理解するには、既にデバッグ済みの複数RTOSタスク活用が便利で、FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、この要求を満たしています。概要は、リンク先から無料ダウンロードできます。

文章でまとめたFreeRTOS解説が、コチラの弊社専用ページにあります。また、本ブログ検索窓にFreeRTOSと入力すると、タスク開発例などが参照できます。

RTOSデバッグツール

percepio tracealyzer
percepio tracealyzer

さて、RTOS作法に則ってタスク開発し、RTOS動作パラメタも適切に設定しても、思ったように開発タスクが動作しない時は、ブラックボックスRTOS自身のバグを疑う開発者も多いでしょう。RTOSのバグ可能性もありえます。

この疑問に対して強力にRTOS動作を解析できるFreeRTOSデバッグツールがあります。資料が無料でダウンロードできますので、紹介します。

※このツールを使うまでもなく、弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、正常動作を確認済みです。

まとめ:RTOS vs. ベアメタル

IoT MCUのクラウド接続 → 接続クラウド先のRTOSライブラリ必要 → RTOSライブラリ利用のRTOS開発が必要、という関係です。

RTOS開発は、ベアメタルと開発作法が異なる複数タスク開発です。タスクは、優先順位に応じてRTOSがMCU処理を割当てます。また、MCU共有資源がRTOSアプリケーションから隠蔽されるため、移植性が高く多人数での大規模開発にも向いています。

一方で、RTOSオーバーヘッドのため、ベアメタルよりも高いMCU能力が必要です。

シングルコアMCUでは、RTOSとベアメタルのハイブリッド開発は困難です。開発者がRTOSを利用するなら、慣れたベアメタル開発から、RTOSタスク開発への移行が必要です。

ベアメタル開発経験者が、効果的にRTOSタスク開発を習得するには、評価ボードと複数RTOSタスクが実装済みの弊社RTOSアプリケーションテンプレートの活用をお勧めします。

ベアメタル開発意味

RTOSのタスク処理待ち(セマフォ/Queue)を使うと、ベアメタルよりも排他/同期制御が簡単に記述できます。それでも、全てのMCU開発がRTOSへ移行することは無いと思います。様々なセンサデータをAD変換するエッジMCUは、ベアメタル開発、エッジMCUを複数個束ねクラウドへ接続するIoT MCUは、RTOS開発などがその例です。

MCU開発の基本は、やはりRTOS無しの「ベアメタル開発」です。

IoT MCU開発者スキルの階層構造
IoT MCU開発者スキルの階層構造

ベアメタル開発スキルを基にRTOSを利用してこそ、RTOSメリットを活かしたタスクやアプリケーション開発ができます。共有資源ブラックボック化、多人数開発のReal-Time OSは、「ベアメタル開発の補完」が起源です。

PC OSとは全く逆のこの生い立ちを理解していないと、効果的なRTOS利用はできません。近年MCU性能向上は著しいのですが、向上分をRTOSだけに振り分けられる程余裕はなく、IoTセキュリティなどへも配分する必要があります。

この難しい配分やRTOS起因トラブルを解決するのが、ベアメタル開発スキルです。弊社マイコンテンプレートは、主要ベンダのベアメタル開発テンプレートも販売中、概要ダウンロード可能です。

組込み開発 基本のキ:バックナンバー

2022年最初の投稿に、筆者にしては長文すぎる(!?)のRTOS vs. ベアメタルを投稿したのは、今年以降、RTOS開発が急速に普及する可能性があるからです。

クラウド接続からRTOS必要性を示しましたが、セキュリティなど高度化・大規模化するIoT MCU開発には、移植性の高さや多人数開発のRTOSメリットが効いてきます。

また、半導体不足が落ち着けば、RTOS向き高性能MCUの新しいデバイスが、各ベンダから一気に発売される可能性もあります。スマホ → 車載 → IoT MCUが、半導体製造トレンドです。

※現状のMCUコア関連投稿が下記です。
Cortex-M33とCortex-M0+/M4の差分
Cortex-M0からCortex-M0+変化
Cortex-M0/M0+/M3比較とコア選択

IoT MCU開発が複雑化、高度化すればする程、前章のベアメタル開発や、組込み開発の基礎技術:基本のキの把握が、開発者にとって益々重要になります。

組込み開発、基本のキ:バックナンバーを示します。年頭、基本を再確認するのはいかがでしょう?
組込み開発 基本のキ:組込み処理
組込み開発 基本のキ:IoT MCUセキュリティ



IoVとIoT

IoV:Internet of VehiclesやV2X:Vehicles-to-Everything通信により、車載半導体チップとソフトウェア需要が指数関数的に増加、ユーザの自動車選択基準が、エンジンなどのメカから車載ソフトウェアへ移行しつつある、という記事がEE Timesに記載されました。

これらIoV状況が、IoTへ与える影響について考えてみました。

IoVとIoT

IoVでユーザ選択基準が車載ソフトウェアへ変化
IoVでユーザ選択基準が車載ソフトウェアへ変化

車のカタログから、エンジン特性や足回りのメカ説明が消え、スマホ連動性や運転支援など車載ソフトウェアによるサービスの説明に変ったのはここ数年です。記事によると、車の新しいユーザ選択基準になりつつあるカーエレクトロニクスが、半導体業界にとってはスマホ以来の最大チャンスだそうです。

また、「CASE」で車載半導体はどう変わるのか(2021年9月15日、EE Times Japan)でも、自動運転と電動化が今後の車載半導体動向を左右すると結論付けています。
※CASE:Connected(通信機能)、Autonomous(自動運転)、Shared&Services(共有化/サービス化)、Electric(電動化)

年々向上するユーザのソフトウェア指向を満たす車載IoV業界、COVID-19の影響で停滞気味の民生IoT業界とは雲泥の差です。

車載半導体需要予測は初めの記事数値を参照して頂くとして、両記事のポイントは、ソフトウェア差別化や付加価値追加には、カスタムチップまたは、IP(Intellectual Property)などの組込みハードウェアが効果的という点です。これらIPには、セキュリティやエッジAIなどIoTへ流用できるものが数多くあります。

従って、IoVは、結果としてIoTも牽引すると思います。

但し、世界的半導体不足が続く状況では、優先度、調達コスト、多くの数量が確実に見込めるIoVが優勢、IoTはこの影響で、しばらくチップ供給不足や停滞が続くでしょう。

停滞気味のIoT側開発者として今できることは、IoV同様、IoTソフトウェア差別化に備えることだと思います。

IoT MCUのTrustZone、SOTB

IoTの観点から、IoTソフトウェア差別化や付加価値追加のための組込みIPと言えば、ARM TrustZone内蔵Cortex-M33コア、ルネサスの新製造プロセスSOTB:Silicon On Thin Buried Oxideなどが相当します。

アクティブ消費電力とスリープ消費電力両方を減らせるSOTBプロセス(出典:ルネサスサイト)
アクティブ消費電力とスリープ消費電力両方を減らせるSOTBプロセス(出典:ルネサスサイト)

例えば、TrustZoneが、高いセキュリティ効果を発揮するのはご存知の通りですし、SOTB製Cortex-M0+搭載ルネサスREファミリは、超低スタンバイ電流により太陽光発電環境などのエナジーハーベストでも電池交換不要を実現するなどです。

SOTBは、超低消費電力動作と高速動作を両立する革新的製造プロセスです。全てのルネサスMCUへ採用すれば強力な差別化技術になると思いますが、今のところ出し惜しみなのか(!?)戦略的なのか、REファミリにのみ採用中です。

一見、ASSP:Application Specific Standard Produceのようですが、これら差別化技術は、汎用MCUに採用された時に最も効果を発揮します。

従来のエッジMCUでの単純なアナログデジタル変換に加え、セキュリティや超低電力動作などのIoT化に伴う付加機能がIoT MCUには必須です。IoT付加機能内蔵MCUが、汎用IoT MCUになります。

IoT開発者は、これらIoT付加技術を今のうちに習得しておくことが必要です。

IoVとIoTの最も大きな差は、車載と民生半導体の電源仕様でしょう。IoVは、EV(Electric Vehicle)のモータ高出力要求に伴いバッテリーが12V供給から48Vへ高電圧化しつつあり、万一の耐圧やフェイルセーフが求められます。IoTは、低電圧(≦3.3V)電源で低圧化しつつあります。

RA/REテンプレート構想

残念ながらSOTB製REファミリ評価ボードは、まだ値段が高く、個人レベルでは手が出しにくい状況です。そこで、SOTBプロセスではありませんが、REファミリとソフトウェア互換性があると思われるCortex-M33コア搭載ルネサスRAファミリを、弊社テンプレート対象にと考えています。

RAファミリは、TrustZoneでIoTセキュリティへ対応しています。また、9月22日発売のRAファミリRA4E1グループの評価ボード:RA4E1 Fast Prototype Boardは、20米ドル台と低価格です。ルネサス独自コアではないため、コンパイラFlash容量制限もありません。

FPB-RA4E1 Fast Prototyping Board(出典:クイックスタートガイド)
FPB-RA4E1 Fast Prototyping Board(出典:クイックスタートガイド)

RL78/G1xテンプレートから新しいルネサスMCUをテンプレート対象に出来なかった理由の1つが、この容量制限です。ARMコア他社同様、GNUまたはARM Compiler V6が、e2 studioでRAファミリ開発に無償で使えます。

今のところRAテンプレートは、REへも使えると考えています。ARMコア差は、CMSIS:Cortex Microcontroller System Interface Standard やHAL:Hardware Abstraction Layerで吸収できるハズだからです。

ADC、SW、LED、UART(VCOM)などのIoT MCU基本動作をRA/REテンプレート共通部分でサポートし、TrustZoneや超低電力動作などRA/RE特徴を活かす部分は、共通部分へ特徴サンプルコードを追加する方法で実現できれば嬉しいと考えています。構想段階ですが、詳細は今後投稿します。

PSoC CreatorがModusToolboxへ

米)Cypress(サイプレス)は、2020年4月、独)Infineon(インフィニオン)に買収され子会社になりました。買収の影響かは不明ですが、お気に入りCypress IDEのPSoC Creatorが、ModusToolboxへ移行しつつあります。ModusToolbox v2.3.0.4276(以下ModusToolbox)の特徴、PSoC Creatorからどう変わったのかを示します。

About Eclipse IDE for ModusToolbox
About Eclipse IDE for ModusToolbox

Windows/Mac/LinuxマルチOS、GitHub

PSoC Creator(以下Creator)は、Windowsのみで動作するCypress独自IDEです。ModusToolboxは、Eclipse IDEをベースとし、Windows/Mac/LinuxマルチOS対応となりました。また、最新サンプルコードやライブラリは、GitHub経由でオンライン提供へと変わりました。

ModusToolbox対応PSoC 4/6デバイス

ModusToolbox対応中のPSoC 4/6評価ボードとデバイスを抜粋したのが下図です(全評価ボードとデバイスは、リリースノートを参照してください)。

ModusToolbox 2.3のPSoC 4/6対応デバイス
ModusToolbox 2.3のPSoC 4/6対応デバイス

弊社PSoC 4000S/4100S/4100PSテンプレートで使ったCY8CKIT-145-40XX、PSoC 6 FreeRTOSテンプレートで使用予定のCY8CPROTO-063-BLEともに、ModusToolbox v2.3で開発できます(PSoC 6 FreeRTOSテンプレートは、前稿参照)。前バージョン2.2から新たにPSoC 4が追加されました。

AN228571:「ModusToolboxソフトウェアを使用するPSoC 6 MCU入門」は、全てのPSoC 6アプリケーション開発に、ModusToolbox利用を推薦しています。また、PSoC 4も追加されたことを考えると、ModusToolbox は、PSoC Creatorの後継IDEの可能性大です。

Creator回路図はDevice Configuratorへ

Creatorの特徴は、ソフトウェア開発の最初に、回路図:TopDesign.cyschへPSoCコンポーネントを配置、必要ならコンポーネント間配線を行うことです。ソフトウェア出発点が、多少ハードウェア開発者向きです。

PSoC Creatorの特徴:TopDesign.cysch
PSoC Creatorの特徴:TopDesign.cysch

ModusToolboxはこの回路図配置が、GUIで使用リソースの設定を行うDevice Configuratorへ変わりました。他社Eclipse IDEベースのIDE(例えば、NXP:MCUXpresso IDEやSTマイクロ:STM32CubeIDE)でも同様の周辺回路設定があります。

ModusToolbox のDevice Configurator
ModusToolbox のDevice Configurator(出展:AN228571)

つまり、見た目も操作性も、Eclipse IDEベースの他社IDEと殆ど同じになりました。

PSoCコンポーネントに重きを置いたCreatorプログラミングよりも、Eclipse IDEに慣れた開発者の親しみ易さ、GitHub経由のサンプルコード等の最新版配布による利便性を重視し、よりソフトウェア開発者向きにしたIDEがModusToolboxです。

ModusToolboxソフトウェア構成

ModusToolboxソフトウェア構成
ModusToolboxソフトウェア構成(出展:AN228571)

ModusToolboxソフトウェア構成を見ると、GitHub経由の提供部分が解ります。

下層の各種ドライバ、HAL、BSPsから、ミドルウェアのBluetooth、Mbed OSやFreeRTOS等のライブラリ、これらのサンプルコードも全てGitHubから最新版が取得可能です。

IDE基本部分と、開発ニーズや時節に応じて変化する部分を分け、変化部分はGitHubから最新情報を提供する構成は、優れていると思います。

まとめ

Infineon/Cypressの最新IDE ModusToolboxの特徴を説明しました。Eclipse IDEベースのWindows/Mac/LinuxマルチOS対応で、GitHub経由で最新ドライバやサンプルコードが利用可能です。

PSoC 6アプリケーション開発は、PSoC CreatorからModusToolbox利用を推薦し、最新版ModusToolbox v2.3.0.4276へPSoC 4も追加されたことから、Creator後継のIDEになりそうです。
※ModusToolbox v2.3.1.4663(2021-05-06)はパッチファイルで、v2.3.0.4276の事前インストールが必要です。

なお、PSoC 4/6開発にCreatorも引続き使えます。しかし、今のところ既存CreatorプロジェクトからModusToolboxプロジェクトへの移行ツールは見当たりませんので、新規PSoC 4/6開発は、ModusToolboxで行う方が良いと思います。

ModusToolbox概要は、コチラの英語動画でご覧いただけます。また、丸文株式会社さんの開発ツールページに、インストール方法サンプルコード使用手順などが分かり易く説明されています。

STM32CubeIDE/MX Major Release

2021年7月19日、STマイクロエレクトロニクスのMCU統合開発環境が、STM32CubeIDE v1.7.0とSTM32CubeMX v6.3.0へ更新されました。Major releaseです。開発済みMCUのSTM32CubeMX設定を、簡単に別ターゲットMCUへ移植する機能を解説します。

Major Release

STM32CubeIDE(以下、CubeIDE)は、ベースのEclipse IDE 更新に追随し年数回更新があります。今回のCubeIDE v1.7.0更新内容に、特に気になる点はありません。

一方CubeIDE付属コード生成ツール:STM32CubeMX v6.3.0(以下、CubeMX)には、開発済みMCUのCubeMX設定を、別MCUや別シリーズMCUへ簡単に移植する機能があります。移植性の高いHAL(Hardware Abstraction Layer)APIと併用すると、開発済みソフトウェアの再利用が簡単で強力なAPI生成ツールになりました。

STM32CubeMX設定移植機能

CubeMXには詳細な英語ユーザマニュアルUM1718 Rev35(全368ページ)があり、p1に主要機能説明があります。本ブログでもCubeMXコード生成機能の使い方やその重要性、STM32F0からF1へのソフトウェア移植方法などを何度か紹介してきました(検索窓に「STM32CubeMX」と入力すると関連投稿がピックアップされます)。

従来投稿は、MCUのCubeMX設定を、ターゲットMCUへ各項目を見ながら手動移植する方法でした。この方法は、予めターゲットMCUとの互換性が解っている場合や、移植周辺回路が少ない場合には有効です。

しかし、MCUの種類が増え、別シリーズMCUへ、または多くの周辺回路設定を個別に移植したい場合は、事前チェックは面倒です。そんな時に役立つ2機能が、UM1718 p1太文字記載の下記です。

  • Easy switching to another microcontroller
  • Easy exporting of current configuration to a compatible MCU

どちらもCubeMX画面のPinout & Configurationタブ選択、Pinoutプルダウンメニュー>List Pinout Compatible MCUs (Alt-L)をクリックすると、Full Compatible/Need Hardware change MCUが一覧表で表示されます。

List pinout compatible MCUs
List pinout compatible MCUs

STM32G0xテンプレート例

販売中STM32G0xテンプレートで使用中の汎用MCU:STM32G071RB(Cortex-M0+/64MHz、Flash/128KB、RAM/36KB)の例を示します。これは、評価ボードNUCLEO-G071RB搭載MCUです。

STM32G071RB Full and Partial match MCU List
STM32G071RB Full and Partial match MCU List

評価ボード搭載のLQFP64パッケージでフィルタ設定すると、青色:完全互換の汎用STM32G0シリーズMCUが12アイテム、黄色:一部ハードウェア変更が必要な低電力STM32L0シリーズMCUが17アイテムリストアップされます。

例えば、FlashやRAMを増量したい場合には、STM32G0B1RBへ開発ソフトウェアがそのまま移植できることが解ります。また、より低電力化したい場合には、STM32L071RBへも移植可能です。あとは、ターゲットMCUを選択し、STM32G0xテンプレートのCubeMXプロジェクト設定を全て移植するか、または一部周辺回路のみを移植するかの選択も可能です。

つまり、開発済みソフトウェアを別MCUへ移植する際に、容易性(完全互換/一部HW変更)と方向性(大容量化/低電力化など他MCUシリーズ適用)を評価でき、かつ、ターゲットMCU選択後は、ダイアログに従って操作すれば、CubeMX設定全て、または周辺回路毎にターゲットMCUへ自動移植ができる訳です。

CubeMX設定の移植後は、ターゲットMCU上で通常のようにコード生成を実行すれば、周辺回路初期設定や動作に必要となる関数群の枠組みが作成されます。その枠組みへ、STM32G0xテンプレートのHAL API開発済みソフトウェアをコピー&ペーストし、ターゲットMCUへのソフトウェア移植が完了です。

汎用MCUとHAL APIプロトタイプ開発

最新メインストリーム(汎用)プロトタイプ開発イメージ
最新メインストリーム(汎用)プロトタイプ開発イメージ

CubeMX設定の自動移植が簡単なことは、前章まででご理解頂けたと思います。

前例STM32G0xテンプレート開発ソフトウェアの移植可能なMCU数が12+17=29と大きいのは、汎用MCUとHAL APIを使ったソフトウェア資産だからです。

最新IoT MCU開発でも、STM32G0/G4シリーズなどの移植性が高い汎用MCU(=メインストリームMCU)とHAL APIを使って主要機能をプロトタイプ開発し、CubeMX移植機能を使ってターゲットIoT MCUへ移植すれば、最新IoT MCUの差分機能開発に集中できます。

つまり、「汎用MCUとHAL API利用のプロトタイプ開発は、他MCUへの移植性が高く、汎用との差分開発に集中できる高い生産性」をもたらす訳です。

※STM32G0/G4シリーズは、新プロセスで従来汎用STM32F0/F1/F3シリーズを高速・低電力化・セキュリティ強化した新しい汎用MCUです。コチラの関連投稿や、STM32U5発表と最新IoT MCU動向を参照してください。

STM32G0とG4のセキュリティ対応(出展:STM32 Security対応表に加筆)
STM32G0とG4のセキュリティ対応(出展:STM32 Security対応表に加筆)

まとめ

STマイクロMCU統合開発環境が、STM32CubeIDE v1.7.0とSTM32CubeMX v6.3.0へMajor Releaseされました。

開発済みMCUのCubeMX設定を、別MCUへ簡単に移植する機能があり、移植性が高い汎用(メインストリーム)MCUとHAL APIによるプロトタイプ開発ソフトウェア資産を、効率的に他MCUへ再活用できる統合開発環境になりました。

補足:NUCLEO評価ボードのユーザLED不足対策

汎用MCUとHAL APIプロトタイプ開発には、低価格で入手性も良いNUCLEO評価ボードが適しています。

但し、NUCLEO評価ボードのユーザ緑LED(LD2)とSW(B1)が、各1個と少ない点が残念です。CubeIDEサンプルプログラムは、単機能サンプル動作なので各1個でもOKですが、少し複雑な例えばRTOS並列動作確認などには、特にLEDが不足します。

お勧めは、赤LED 2個、SW 1個が実装済みのArduinoプロトタイプシールドです。残念ながらNUCLEO評価ボードSW(B1)は操作できないのでシールドSWで代用します。評価ボードArduinoピンとの配線や、付属ブレッドボードへの回路追加も簡単です。ST以外の様々なMCUベンダのArduinoコネクタ付き評価ボードでも使えます。

NUCLEO評価ボードLED不足対策のArduinoプロトタイプシールド。付属ブレッドボードに回路追加も容易。
NUCLEO評価ボードLED不足対策のArduinoプロトタイプシールド。付属ブレッドボードに回路追加も容易。

NUCLEO-G474REとArduinoプロトタイプシールドの使用例を示します。ArduinoプロトタイプシールドのLED1は、Lpuart受信、LED2は、SW操作、評価ボードのLD2は、1s/500ms/40ms点滅の動作確認に使っています。

STM版RTOSアプリケーションテンプレート構想もこの環境で検討中です(関連投稿:STM32RTOS開発3注意点(前編)、(後編))。

STM32RTOS開発3注意点(前編)

STマイクロエレクトロニクス)STM32MCUを使ってRTOS開発時のSTM32CubeMX、HAL、CMSIS RTOSの3注意点について示します。前編が、STM32CubeMXとHALについてです。CMSIS RTOSは、別途後編で示します。

STM32CubeMXとHAL の注意点を解説した後、サンプルプロジェクトで実例を示すという順番で説明します。

ソースコード生成ツール:STM32CubeMX

STマイクロのソースコード生成ツール:STM32CubeMX(以下CubeMX)は、MCU内蔵周辺回路の初期設定やAPIを、GUIベースで自動生成する非常に便利なツールです。

※MCUベンダのAPI生成ツールを比較した関連投稿は、コチラをご覧ください。

CubeMX生成APIは、ハードウェアを抽象化し、STM32MCU間で最大限の高いソフトウェア移植性を狙ったHAL (Hardware Abstraction Layer)と、よりハードウェアに近くHALよりも高速・軽量なエキスパート向けLL(Low-layer)の2種類から選択可能です。

HALとLL比較(出典:STM32 Embedded Software Overvire)
HALとLL比較(※説明のため着色しています。出典:STM32 Embedded Software Overvire)

一般的に、HAL APIが好まれます。というのは、このLL APIを利用し開発した2019年6月発売のSTM32G0xテンプレートV1の売上げはゼロでした。対策に、LL APIからHAL APIに変更し再開発した2020年6月発売のSTM32G0xテンプレートV2は、人気があるからです。

これらCubeMXの各種GUI設定や選択APIは、CubeMXファイル(.ico)に構成ファイルとして纏められます。

STM32MCU新規プロジェクト開発時に、この既成CubeMXファイル(.ico)を利用すると、ゼロから着手するのに比べ、効率的かつ間違いなく周辺回路や初期設定ができるため、利用価値の高いファイルです。

特に、ベアメタル比、さらに多くのCubeMX設定が必要となるRTOS開発では、既成CubeMXファイルを再利用するメリットがより高まります。同時に、生成コードの意味も理解しておく必要があります。

HALタイムベース

HALには、他ベンダにない便利なAPI:HAL_Delayがあります。

例えば、10msの待ち処理を行う場合、他ベンダなら、MCUコア速度に応じて適当にループ回数を調整したループ処理で10ms相当の遅延を自作します。しかし、HAL APIならば、HAL_Delay(10)の記述だけで、MCUコア速度に依存しない正確な10ms遅延が実現できます。

これは、HAL自身が、MCU内蔵タイマ:SysTickの利用を前提に設計されているからです。遅延処理を例に説明しましたが、STM32のHAL APIsは、SysTickと強く結びついています。

もちろん、HAL APIをベアメタル開発で利用する場合は、この結びつきに何ら問題はありません。

RTOSタイムベース

FreeRTOSも、タスク(スレッド)状態遷移タイムベースに、SysTickを使います。

これは、FreeRTOSだけでなく他のRTOSでも同じです。SysTickは、その名称が示すようにMCUシステムレベルのタイムベース専用タイマです。

従って、STM32MCUでRTOS開発を行い、かつHAL APIを利用する場合には、RTOS側でSysTickを使うのが、名称に基づいた本来の使い方です。

HALタイムベース変更

そこで、STM32RTOS開発でHAL利用の場合は、HALのタイムベースを、デフォルト使用のSysTickから別のタイマへ変更する必要が生じます。この変更に伴う手動設定も当然必要となります。

*  *  *

ここまでが、STM32RTOS開発におけるSTM32CubeMXとHALに関する注意点です。
これらの注意点が解っていると、次章で示すRTOSサンプルプロジェクトのCubeMXファイルの意味と生成コードが理解できます。

STM32RTOS開発実例

STM32RTOS開発実例に、評価ボード:NUCLEO-G474RE(Cortex-M4/170MHz、Flash/512KB、RAM/96KB)でRTOS開発する場合を示します。

NUCLEO-G071RB(Cortex-M0+/64MHz、Flash/128KB、RAM/32KB)でRTOS開発する時でも同様です。しかも、RTOSサンプルプロジェクトは、STM32G071RBの方が(発売が古いためか?)多いので、NUCLEO-G071RBをお持ちの方は、是非ご自身で試してみてください。

FreeRTOS Example Selector

STM32CubeIDEのFile>STM32 Projectで、新規プロジェクト作成パネルを表示します(最新情報更新のため、表示に少し時間がかかる場合があります)。Example Selectorタブを選択、Middleware>FreeRTOSにチェックを入れ、NUCLEO-G474REのFreeRTOS_Queuesを選択したのが下図です。

NUCLEO-G474REのFreeRTOS_Queues
NUCLEO-G474REのFreeRTOS_Queues

右上欄、Noteの内容が、前半までに示した注意点のことです。参照先UM1722 Rev3は、CMSIS RTOSとFreeRTOSの関係があるのみです。このCMSIS RTOSについては、別途後編で説明します。

Nextをクリックし、FreeRTOS_Queuesサンプルプロジェクトを新規作成します。

さて、FreeRTOS Examples Listが318アイテム(STM32CubeIDE v1.6.1時)もあるので、Exportをクリックし、出力されたExcelファイルをBoardでフィルタリング、NUCLEO-G071RBとNUCLEO-G474REを抽出したのが下図です。

FreeRTOS Example List
FreeRTOS Example List

緑に色付けしたNUCLEO-G071RBの方が、FreeRTOSサンプルプロジェクト数が多いことが判ります。開発予定のSTM版FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、Cortex-M4コアが対象ですので、本稿ではNUCLEO-G474REのFreeRTOS_Queuesを実例として使いました。

FreeRTOS_QueuesのSTM32CubeMXファイル

FreeRTOS_QueuesサンプルプロジェクトのCubeMX構成ファイル:FreeRTOS_Queues.icoが下図です。グレー文字は変更不可、黒文字は変更可能を示します。

FreeRTOS_Queues.ico
FreeRTOS_Queues.ico

TIM6がグレーなのは、HALタイムベース変更先がTIM6だからです。Kernel settings CPU CLOCK HZのSystemCoreClockがグレーなのは、RTOSタイムベースがSysTickだからです。つまり、本来の名称に基づいたSysTickがRTOS側で使われ、HALの新タイムベースにTIM6が割当済みであることが解ります。

FreeRTOS APIは、変更不可のグレーCMSIS V1です。ここは、後編で説明します。

デフォルトDisabledのUSE IDEL HOOKを、Enabledに変更し、ソースコード自動生成のGenerate Code(Alt+K)を実行してください。

HALタイムベースTIM6変更結果

FreeRTOS_QueseのTIM6とHook関数
FreeRTOS_QueseのTIM6とHook関数

app_freertos.cのL62に、Hook関数:vApplicationIdleHoolのひな型が自動生成済みです。ここへWFIを追記すれば、FreeRTOSアイドル時に低電力動作ができます。コチラのNXP版関連投稿Step5: FreeRTOS低電力動作追記と同じです。

main.cのL289は、TIM6満了時動作です。HAL_IncTick()が自動生成済みです。ベアメタル開発のSysTickからTIM6へHALタイムベースが変更されたことが解ります。

そのTIM6は、stm32g4xx_hal_timebase_tim.cで、1MHz=1ms満了に初期設定済みです。

つまり、STM32RTOS開発でHAL利用時に必要となる変更が、「全てCubeMXで自動生成済み」なのが解ります。

※上図は、USE_TICK_HOOKもEnabledへ変更した例です。Disabledへ戻すなどして、CubeMX自動生成ファイルが変化することを確かめてください。

この実例のように、CubeMX付属RTOSサンプルプロジェクトのCubeMXファイル(*.ico)を再利用すれば、周辺回路や初期設定ミスを防ぎ、RTOS新規アプリケーション開発が容易になることが解ります。

まとめ

STM32MCUでRTOS開発を行う時の3注意点、STM32CubeMX、HAL、CMSIS RTOSのうち、前編としてSTM32CubeMX、HALの2注意点とサンプルプロジェクトを使ってその実例を示しました。

RTOS開発では、既成STM32CubeMXファイル再利用価値が高まること、HALタイムベース変更の必要性がご理解頂けたと思います。3つ目のCMSIS RTOS関連は後編で示します。

あとがき

ベアメタル開発経験者であっても、STM32RTOS開発時、CubeMXのNoteを読むだけで、ベアメタル開発では何の問題も無かったHAL タイムベース変更理由が解り、その結果生じるCubeMXファイルや自動生成ソースコードの中身が理解できる方は、少ないと思います。本稿は、この変更理由と生成コードに説明を加えました。

STM32CubeMXは、STM32MCU開発に必須で強力なAPI生成ツールです。が、時々、説明不足を感じます。問題は、どのレベル読者を相手にするかです。エキスパートなら説明不要ですが、初心者ならゼロから説明しても解らないかもしれません。文章による組込み技術説明が、難しいのが根本原因でしょう😂。

そんな組込み開発ですが、文章だけでなく、「実際に評価ボードと手足を使って慣れてくると、案外すんなり簡単に理解、習得できる方が多いのも組込み開発」です。

販売中のNXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートにも、本稿同様、詳しいFreeRTOS解説を付けています(一部ダウンロード可能)。FreeRTOS開発を手軽に試せ、習得を支援するツールです。

組込みMCU開発お勧めブログ

組込み開発全般に参考となる英語ブログを紹介します。特にRTOS関連記事は、内容が濃く纏まっていて、実践開発時の示唆に富んでいます。

JACOB's Blog
JACOB’s Blog

RTOSカテゴリー

組込み開発コンサルティングも行うBeningo Embedded社は、高信頼の組込みシステム構築と低コスト・短時間での製品市場投入を目標としています。この目標に沿って、複雑な組込み開発概念を、シンプルに解り易く解説しているのが、同社ブログです。

特に、RTOSカテゴリーは、FreeRTOS開発方法を整理する時、参考になります。最新RTOSの3投稿をリストアップしたのが下記です。

2021年5月4日、A Simple, Scalable RTOS Initialization Design Pattern
2020年11月19日、3 Common Challenges Facing RTOS Application Developers
2020年10月29日、5 Tips for Developing an RTOS Application Software Architecture

Data flow diagram for a smart thermostat(出展:JACOB'S Blog)
Data flow diagram for a smart thermostat(出展:JACOB’S Blog)

開発中の弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、「ベアメタル開発経験者が、FreeRTOS基礎固めと、基本的FreeRTOSアプリケーション着手時のテンプレートに使えること」が目的です。従って、必ずしも上記お勧めブログ指針に沿ったものではなく、むしろ、ベアメタル開発者視点でFreeRTOSを説明しています。

弊社テンプレートを活用し、FreeRTOSを理解・習得した後には、より実践的なRTOS開発者視点で効率的にアプリケーションを開発したいと思う方もいるでしょう。もちろん、弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートからスタートすることを弊社は推薦しています。

しかし、Windows上でアプリケーション開発する時は、初めからWindows作法やGUIを前提として着手するように、RTOS上でMCUアプリケーションを開発する時も、従来のベアメタル開発に固執せず、RTOSオリエンテッドな手法で着手するのも1方法です(ベアメタル経験が少ないWindows/Linux世代には、親和性が高い方法かもしれません)。

推薦ブログは、この要望を満たすRTOS手法が豊富に掲載されています。

また、上記RTOS関連3ブログを(掲載図を「見るだけでも良い」ので)読んで、ピンとこなければ、RTOS理解不足であると自己判断、つまり、リトマス試験紙としても活用できます。

問題整理と再構築能力

ベアメタル開発経験者が、RTOSを使ってMCUアプリケーション開発をするには、従来のBareMetal/Serial or Sequential動作からRTOS/Parallel動作へ、考え方を変えなければなりません。弊社FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、この考え方を変えるための橋渡しに最適なツールです。

橋を渡りきった場所が、RTOSの世界です。RTOS環境での組込み開発問題を整理し、シンプルに解決策を示すには、知識や経験だけでなく、問題再構築能力が必要です。JACOB’S Blogをご覧ください。RTOSに限らず組込み関連全般の卓越した問題再構築能力は、掲載図を見るだけでも良く解りますよ😄。