マイコンテンプレート利用のコツやTips:その3

マイコンテンプレートを利用するコツ/Tipsの第3回目は「時分割処理のタイミングとインタフェースRAM」について示します。
販売中のテンプレート処理起動の間隔は、250us/1ms/10ms/100ms/1s/無限ループの6種類です。この6種類の使い方を示します。

処理起動タイミング

マイコンの処理は、電源投入後、「1回のみ実行する」スタート処理と、無限ループで「繰り返し実行する処理」の2つに大別できます(ROM/RAMを初期化するなどのスタートアップ処理は、除いています)。

ここでは無限ループに代わってテンプレートが実行する、繰り返し実行する処理の間隔:「タイミング」を考察します。

テンプレートは、起動する処理が無い無限ループ:空き時間で起動するのは、Sleepなどの低消費電力処理であることは、第2回で示しました。

100msと1sの起動間隔は、マイコンにとっては「遅い処理」、例えば、LED点滅や、LCD初期設定、SWチャタリング対策の起動に適しています。
※LCD初期設定は、無限ループ前のスタート処理で実行することも可能です。

1msと10msの起動間隔は、「早い処理」、例えば、割込みの応答処理などの起動に適しています。

250us起動間隔は、「最も早い処理が必要」な、例えば、UART/I2Cなどのデータ受信処理を起動することを想定しています。

つまり、早いレスポンスが必要な処理ほど処理間隔が短く、起動される処理のソース記述位置も上側になるのです。これがテンプレート時分割起動の「基本的な使い方」です。

実例が下図です。赤/緑/青LEDを、0.5/1/2秒毎にトグル点滅する場合です。赤囲みが、テンプレートへ追加されたLEDトグル処理を表します。それ以外が、テンプレートに初めから記述済みの起動処理です。

LED点滅処理での優先順位の例
LED点滅処理での優先順位の例

起動間隔

起動の間隔は、第2回で示したtick interruptの発生間隔です。
1ms>10ms>100ms>1sの順にレスポンスが早くなりますが、250usだけ特別に超高速応答です。これは、UART受信などの主として「いつ発生するか判らない応答に早く即応する」ためです。

販売中のテンプレートは、全てこの250usを起動間隔として開発しておりますが、実は「250usである必要性は無い」のです。因みに、FreeRTOSなどの組込OSでもtick interruptは1msです。

250usは、経験的にこの最高速でこれまで利用に問題が無かったからです。
この起動間隔を1msにし、UART受信処理を1ms起動に変更しても、メニュードリブンテンプレート動作などには問題ありません。
メニュードリブンテンプレートは、当該マイコンのUART受信バッファが1バイトでも、UARTコマンド長も1バイトなので、受信完了確認後ゆっくりバッファからデータを取り出しても間に合うからです。

起動間隔の設定は、テンプレート購入者様が「独自判断で設定して頂いても構いません」。

但し、250usよりも高速:短くすることは無いと思います。これよりも短いと、処理分割をより細かくする必要があり、開発がより厳しくなるからです。逆に、250usよりも長くすると、処理分割は楽になります。

テンプレートは、マイコン「コア動作速度を最高速」に設定し、起動間隔も「最高速と思われる250us」でデフォルトは設定しております。これは、「最初」にマイコンの最大能力で動作するアプリケーション開発後、「次の段階」としてコア周波数を下げるなどで、低消費電力化するアプローチを想定しているからです。

インタフェースRAM

処理間のデータやり取りにインタフェースRAMを使うことは、第1回で示しました。ルネサスのRL78/G1xは、通常RAMよりも高速アクセス可能なSADDRを持つなど特殊な例もありますが、低価格マイコンではRAMが貴重なリソースであることに変わりはありません。

この貴重なRAMを使う時に、ビット単位構造体を使い、ビット単位フラグでデータをやり取りすると、1バイトRAMで最大8個のフラグを使えるので効率的です。

テンプレートでは、このビット単位アクセスを容易にするため、userdefine.hにユーザ型定義を追記しております。処理間にブラグを多用する場合などにご活用ください。

マイコンテンプレートとは?

第1~3回で示したテンプレートは、「ISRは、サンプルプログラムを一部またはそのまま流用し、その他全処理をポーリング起動するマルチタスク処理の骨組み」と説明すると理解が早いかもしれません。

割込み処理は、ISRで割込みフラグ処理のみを行い、ISR発生をポーリングし割込み実処理を起動する。
サンプルプログラムの無限ループポーリングとの差は、処理に応じた時分割ポーリングである。
骨組みのテンプレートへ、サンプルプログラム流用の処理を組込んでプロトタイピング開発をする。
この理解で良いと思います。

ポイントのまとめ

  • 処理起動間隔は、250usとしているが、変更は可能、かつ任意
  • 高速な応答が必要な処理は、短い起動間隔へ配置
  • インタフェースRAMの効率的な利用に、ビット単位構造体も有効

* * *

3回に分けてマイコンテンプレート利用のコツ/Tipsを示しました。これらは、ソフトウエア開発では当然の事柄とダブる部分も多くありますが、数値では表せないのであえてコツ/Tipsとして記載しました。

組込OSを使うよりも簡単で、サンプル流用も可能なマルチタスク実現テンプレートが、お判り頂けたと思います。

販売中のマイコンテンプレートを活用し、アプリケーションの早期開発を成功させてください。

CA78K0Rコンパイラ V1.71回避不能バグ

2月1日発行のルネサスツールニュースで、RL78/G1xの「CA78K0Rコンパイラ V1.71の回避不能なバグ」が報告されています。

RL78/G1xテンプレートVer5のCA78K0Rコンパイラ版でも、報告記載の「volatile」や「前置インクリメント」を使っていますが、こられバグに該当しませんので安心してください。
但し、テンプレートを使ってアプリを開発された方は、ニュース内容に目を通し確認することをお勧めします。

RL78_G1xテンプレートの動作コンパイラP3より抜粋
RL78_G1xテンプレートの動作コンパイラP3より抜粋

ニュース最後に、「次期バージョンで改修する予定」と記載されていますので、ディスコンを懸念したCA78K0Rも改版されるかもしれません。しかし個人的には、CC-RLコンパイラへの乗換えをお勧めします。

マイコンテンプレート利用のコツやTips:その2

マイコンテンプレートを利用するコツ/Tipsの第2回目はテンプレートの「マルチタスク処理の実現方法」を示します。

組込OSの分割起動

シングルコアのマイコンで、マルチタスク処理の実現方法が、「処理の分割起動」です。
組込OSは、この分割処理=タスクの起動をOSが行います。FreeRTOSの“USING THE FREERTOS REAL TIME KERNEL”から抜粋したFigure 4は、このことを解り易く示しています。

OSのKernelは、tick interrupt毎にタスク切り替えを行います。t2でTask1は「強制的に中断」され、Task2へ切り替わります。t3では、Task2が強制中断され、Task1が「中断処理から再開」されます。

FreeRTOSの分割起動
FreeRTOSの分割起動

ある時刻で動作する処理は、Kernelを含めて1個ですが、tick interrupt毎に処理を切り替えてマルチタスク処理を実現します。

テンプレートの分割起動

分割起動は、テンプレートでも同じです。テンプレートは、第1回目で説明した「細かく分割した処理」をtick interrupt毎に時分割で起動します。組込OSとの差は、(簡単に説明すると)起動処理を強制的に中断したり、再開したりする機能が無いことです。

マイコンテンプレートの分割起動
マイコンテンプレートの分割起動

起動処理1の中断機能が無いので、t2のタイミングまでに「処理1が終了」していることが必要になります。

処理終了のための分割

この「処理終了」は、どうすれば得られるのでしょうか?

第1回説明の「細かい処理の分割」は、結果として処理時間も短くなり、この処理終了をもたらします。

マイコン処理分類(注意点)
マイコン処理分類(注意点)

注意すべきは、赤丸の処理の完了確認が必要な入出力処理です。しかし、ここを「完了確認の処理」と、「その結果で動作する処理」の2つに分けて開発すれば、問題解決です。それぞれの処理が短時間で終了するからです。

同じように割込み処理も、基本的にISR: Interrupt Service Routine内では、「割込み発生確認と割込み要因のクリア」のみを行い、「割込みの結果で動作する処理は別処理」として分割して処理化します。

このような処理分割により、デバッグが容易となり、別アプリへ流用/応用性、部品化も高まります。

勿論、サンプルプログラムのISR処理を「そのまま流用」してもテンプレートへ組込んでもOKです。サンプルプログラムが提供する典型的なISRは、処理時間が短い場合が殆どでだからです。

分割起動後の処理

起動処理で起動される側の処理時間が短くなると、起動処理へ戻る時間が増えます(上図ピンク)。この戻った時の処理が、無限ループの処理です。

テンプレートでは、無限ループ内で起動する処理は、低電力処理のSleep(またはDeep Sleep)です。
この結果、高速マイコンであればある程この「無限ループ:空き時間」が長くなり、マイコン消費電力の大部分を占めるコア動作を停止するSleepを効果的に使えます。

ポイントのまとめ

  • 処理時間を短くするため、「確認処理」と「その結果の処理」を分離
  • 起動処理無しの「空き時間」は、低消費電力処理を起動(SleepとDeep Sleepの差には注意)

次回予告

テンプレートが処理を分割し、これを分割起動するマルチタスク処理の実現方法を示し、処理分割のコツ/Tipsを示しました。次回は、「時分割のタイミング」について説明する予定です。

CS+からe2 studio移行

ルネサスサポート情報 Vol.273 2016/1/28で、RL78統合開発環境CS+ for CCからe2 studioへの移行ガイドが示されました。

このガイドは、CC-RLでコンパイルしたCS+プロジェクトを、e2 studioプロジェクトへ変換(インポート)し、インポートしたe2 studioプロジェクトとE1デバッガを接続する方法が示されています。

CA78K0R → CC-RL → e2 studio

RL78アプリノート/サンプルコードの機能をクリックして「置き換え」の欄を視ると、CA78K0RからCC-RLプロジェクト変換方法はありますが、CA78K0Rからe2 studioへの移行ガイドはありません。

RL78アプリケーションノート/サンプルコード(機能)
RL78アプリケーションノート/サンプルコード(機能)

つまり、今回RL78開発環境CS+のCA78K0R → CC-RL → e2 studioへの道筋が示された訳です。

ルネサスのIDE

HewからCS+、そしてe2 studioが追加されたルネサスIDEの状況が、統合開発環境ページに示されています。CS+とe2 studio間は、「両方向の矢印」ですが、これが今後「e2 studioへの片方向」へ変わるかが気になります。

ルネサス統合開発環境の移行
ルネサス統合開発環境の移行

なにせ、CS+のようなユニークな独自IDEを開発、サポートするだけでも結構大変なことだからです。e2 studioは、Eclipse IDEを日本語化しルネサスの各種ツールを組込めますが、これだけでも手間がかかるでしょう。

テンプレートのe2 studioサポート

現状は、「CC-RLとCA78K0R両方サポート」のRL78/G1xテンプレートですが、e2 studio動作のテンプレートも必要と考えています。

E1でデバッグする評価ボードは、移行ガイドに従えば問題なさそうですが、EZ Emulatorで接続するRL78G13/G14-Stickボードがe2 studioでデバッグできるか否かが不明です。近々にこの調査結果を掲載予定です。

※e2 studioでE1は勿論ですが、EZ Emulatorも接続できることが確認できました。

マイコンテンプレート利用のコツやTips:その1

マルチタスク処理と組込OSの前回記事で、マイコンテンプレートを利用するコツ/Tips、ノウハウを示すことになり、その第1回目は「処理分割の重要性」について示します。
※説明するこのコツ/Tipsは、「販売中の全ての弊社マイコンテンプレート」に適用可能です。

処理分類

テンプレートが想定しているマイコンで開発する処理を、下記のように4つに分類してみます。

マイコン処理分類
マイコン処理分類

マイコンのアプリケーションは、これら「4分類の処理を組合せて」開発します。

説明の内容から「その他の処理」を除くと、各処理は数10~数100ステップの単純な処理です。従って、これら単純な処理の品質、バグが無いことが重要です。

「その他の処理」は、内容によっては多くの計算や開発ノウハウが必要となる分野です。
そこで、マイコン計算能力や大きなROM/RAMが必要になるかもしれないその内容には踏み込まず、「その他の処理」としてひとくくりにしています。

マイコンテンプレートも、この「その他の処理」の1つです。

サンプルソフト有無

「入力処理」~「割込み処理」のような単純な処理は、ベンダ提供のサンプルプログラムで提供されることも多いのです。だから、1から自分で開発するよりも、サンプルプログラムを利用する方が手間も少なくバグも無くなるのです(サンプルソフトの見つけ方はコチラを参照)。

マイコンテンプレートが、サンプルプログラムの流用/活用を重視するのは、これが理由です。

「骨組み」を提供するテンプレートへ、サンプルから入手した入力~割込みなどの「処理」を、骨組みに「追加」することでアプリケーションを早期完成します。

また、適当なサンプルソフトが無い場合でも、このように分類しておけば、「既存サンプルと似た方法」で開発する指針が与えられます。
つまり、サンプルソフトが提唱するマイコンに適した方法で処理を開発するのです。

サンプルソフトは、単にサンプルではなく、「当該マイコン利用のバイブル」と言っても過言ではありません。サンプルソフトの手法を活用/流用することこそ、開発成功の秘訣です。

テンプレートのメリット

テンプレートを使えば、最も重要で開発時間もかかる「その他の処理へ労力を集中」したアプリケーション開発が可能です。

このアプリケーション早期開発の結果、計算能力が不足した場合には、より高性能なマイコンを利用することや、改版や仕様追加を見越して、より大きなROM/RAMを使うなどの対策が「事前」に取れます。

プロトタイピング開発は、実際のアプリケーション開発に近い環境で、このように現状マイコンに対する予測/見識を持てること、これが最大の目的です。勿論、現状のマイコン能力で十分であれば、アプリケーション開発も完了です。

インタフェースRAM

処理間のデータやり取りにRAMを使うこと、これもテンプレートの特徴です。インタフェースRAMで処理を分離し、部品化するのです。

処理を分離しておけば、処理の中身がデバッグ中、または未完成であっても、完成後の想定データをデバッガでインタフェースRAMへ設定しさえすれば、データを送受する側の処理開発ができます。

RAMにより処理を分離分割し、なるべく単純でデバッグしやすい処理単位で開発することが目的です。

まとめ

要は、
処理単体を、細かく分割、できれば(なるべく)サンプルソフトを利用/流用して開発し、
インタフェースRAMで処理間を分離、当該開発のみでなく、他へも流用/活用できることを狙い、
アプリケーションのプロトタイピング開発ができる骨組み、
これがマイコンテンプレートです。

今回のポイントを下記に示します。

  • 処理を細かく分割する指針、方針を持ってサンプルソフトを読む
  • 分割した処理は、RAM値で動作決定する部品化
  • テンプレートへ、分割処理を追加してアプリケーション開発

次回予定

サンプルソフトは、解り易いシングルタスクの説明に重点を置いているため、「マルチタスク処理への配慮」がありません。そこで、次回は、テンプレートでどのようにマルチタスク処理の実現しているのか、そして今回説明した処理分割とどう結びつくか、などを説明する予定です。

次回以降のテンプレートを利用するコツ/Tipsは、下記内容の説明を予定しています。
第2回:テンプレートのマルチタスク処理
第3回:テンプレートの時分割タイミングとインタフェースRAM(最終回)

CC-RLコーディングテクニックとRL78開発環境の今後

CC-RLテクニック

ルネサスサポート情報 Vol.272 2016/1/21に、RL78ファミリ用Cコンパイラ CC-RLコーディングテクニックが紹介されています。

CC-RLコーディングテクニック

RL78/G1xテンプレートでも使っている「CC-RLコンパイラの上手い使い方」がまとまっています。
e2 studioとCS+ for CC(RL78, RX, RH850)両方のIDEについて、従来あまり解説されなかった「変数/関数情報ファイル」に関しての利用方法も少し記載されています。

e2 studioの説明がCS+と同じ資料に含まれているのは、これまで見たことがありません。e2 studioの日本人ユーザが増加しつつあるからでしょうか?

CS+がV3.03.00へ改版

2015年末にCS+がV3.03.00へ更新されました。
更新に伴い、CS+ for CCは、パッケージ・バージョンもV3.03.00へ変わりましたが、CS+ for CA、CXはV3.01.00のままです(CS+ アップデート・マネジャのオプション>更新履歴の表示より)。

RL78マイコンは、前回更新から増加しているハズですので、追加RL78マイコンは、CC-RLコンパイラのみでサポートするのかもしれません。確かに、「新規にCS+ for CA、CXを使うメリットは、無い」と言えますので、しょうがないのかもしれません。CS+ for CA、CXのユーザの方は、ご注意ください。

販売中のRL78/G1xテンプレートVer5は、CS+ for CA、CXとCC-RLの両コンパイラをサポートしております。CA、CXユーザの方で、CC-RL移行をお考えの方も、是非ご検討ください。

RL78/G1xテンプレートも今後は、「CS+ for CC-RLのみをサポート予定」です。但し、ご購入時にご連絡いただければ、Ver5のCS+ for CA、CX版テンプレートも付属いたします。

マルチタスク処理と組込OS

マイコンにマルチタスク処理をさせるには、FreeRTOSなどの組込OSを使う方法が一般的です。
NXPのLPCXpressoには、 このFreeRTOSを使って評価ボードLEDを点滅させる、いわゆる「Lチカサンプルソフト」が添付されています。
今回は、ARM Cortex-M0/M0+と同程度の性能を持つマイコンの組込OSを考察します。

FreeRTOS Lチカサンプルソフト

LPCXpresso824評価ボード(LPC824/Cortex-M0+、ROM:32KB、RAM:8KB)の赤LEDを0.5秒、緑を2秒、青を1秒毎に点滅させるFreeRTOS Lチカサンプルソースコードが下記です
(出典:lpcopen_2_19_lpcxpresso_nxp_lpcxpresso_824.zip、日本語コメントは筆者追記)。

FreeRTOSのLチカサンプルソフト
FreeRTOSのLチカサンプルソフト
FreeRTOSのLチカサンプルソフトリソース使用量
text data bss dec hex filename
10060 8 780 10848 2a60 freertos_blinky.axf

 

main()処理は、prvSetupHardware()でスタート処理、xTaskCreate()で各LEDトグルタスクを登録し、vTaskStartScheduler()でOSカーネルを起動します(prv/x/vなどはFreeRTOS関数名の接頭語で決まり文句)。
右側のvLEDTask0~2()がタクス本体です。vTaskDelay()の変更で、トグルタイミングが簡単に変えられます。

このように組込OS:FreeRTOSを使えば「タスク単体開発/変更が容易」であることが解ります。

デバッグビルド時のリソース使用量は、約10kBです(弊社マイコンテンプレートで同じ処理の場合は、半分の5KBで実現、どちらもLPCXpresso v8.0.0でLPCOpenライブラリ込みの結果)。ソースコードから、その殆どがFreeRTOS(含むライブラリ)を利用するためのサイズです。

組込OSのメリットは、「タスク開発の容易さ」、デメリットは、「利用のオーバーヘッド」です。このオーバーヘッドには、上記リソースの他に、様々なOS知識やコツ、利用経験など数値に現れないものも含みます。

従ってこのメリットデメリット両方を天秤に掛け、組込OSを使うか否かを判断する必要があります。

またデバッグは、追加したタスクが主ですが、最終的にはOSも含めたトータル動作確認が必要なため、OSをブラックボックスとして扱えるのかも考慮する必要があります。
※Windowsに代表されるOS改版に悩まされる危険性にも配慮しましょう。

ARM mbed OS

ARM Cortex-M0/M0+クラスのマイコンであるLPC824への上記FreeRTOS適用は、まれな例です。
なぜなら、多くの場合FreeRTOSは、Cortex-M3、例えばNXPならLPC17xx、またはより高性能なマイコンへの適用が多いからです(Cortexの性能比はコチラを参照)。天秤判断の結果でしょう。

GNU General Public License (GPL)のFreeRTOSは、その名の通り無償:Freeで多くのマイコン搭載実績もあります。しかし、ROM/RAMが少なく低価格を追求したCortex-M0/M0+クラスのマイコンには、少し「荷が重い」と個人的にも思います。

このCortex-M0/M0+クラスを含むCortex-Mマイコンに向けてARM社自身が開発中の新OSがmbed OSです。2015年10月リリースの予定でしたが、正式出荷はまだです。

IoT向けの機能も追加するmbed OSは、実質上対応OSが無いCortex-M0/M0+にも使える可能性がある組込OSです。

マイコンテンプレートのLチカソフト

FreeRTOSのLチカサンプルと同じマルチタスク処理を、弊社マイコンテンプレートで行った時のソースコード(一部抜粋)が下記です。
FreeRTOSと同じSysTick割込みを1msに設定していますので、解り易いソースコードとなっています。

テンプレートのLチカサンプルソフト
テンプレートのLチカサンプルソフト
テンプレートのLチカソフト使用量
text data bss dec hex filename
4580 8 20 4608 1200 BlinkyLikeRTOS_824.axf

 

トグルタイミングの変更は、FreeRTOSと比べると複雑ですが難しくはありません。何より、処理が全部見えますので理解や変更は容易です。しかもコードサイズは、半分以下です。

Cortex-M0/M0+、または同程度のマイコン性能でマルチタスク処理をさせるなら「マイコンテンプレート」をお勧めする理由です。

* * *

そこで、次回以後何回かに分けて、簡単にマルチタスク処理が実行でき、デバッグも容易なマイコンテンプレートのTipsや利用のコツを示します。
現在販売中の5種マイコンテンプレートに興味がある方は、コチラを参照してください。

マイコンテンプレートサイト更新完了

12月30日のPSoC 4、PSoC 4 BLE、PRoCテンプレート発売に間に合わなかったマイコンテンプレートサイトの更新が完了しました。

今回の更新では、LED照明ページを削除し、マイコンテンプレート関連のみのサイトとしました。昨年10月のサイト障害時の、“Simple is Best”の経験が理由です。

LPCXpresso v8.0.0へ更新

Freescaleを買収した新NXP、ARM Cortex-M0/M0+マイコンの今後のラインアップについては、気になるところですが解りません。NXPサイトを観ると、LPC8xx/111x、旧FreescaleのKinetisシリーズ全てがそのまま残っています。暫くは、様子を観察する必要がありそうです。

例えば、Cypressは、2014年末に買収したSpansionのFM0+マイコンを1年経過後の2015年11月、Cypress名で発売しました。このように、買収や合併で既販マイコンがどうなるかの判断は難しいものです。

そんななか、LPCXpressoは、v8へ更新されました(更新日は合併完了直前の2015/11月、LPCOpenは、V2.19のまま更新無し)。また、Kinetis Design StudioやProcessor Expertも更新されております。新マイコン追加等はありませんが、最新版へのUpdateをお勧めします。

Windows XPサポート終了とWindows 10への対応だと思います。どちらのIDEもEclipseベースですので、これも統合などがあるかもしれません。

RL78/G1x機能比較と開発コンパイラの今後予測

RL78/G10の初期設定アプリケーションノートがRev.2.00に改版されました(ルネサスサポート情報 Vol.267 2015年11月26日発行)。この改版内容から、RL78/G1xコンパイラの今後を予測します。

汎用マイコンRL78/G1xの特徴

RL78/G1xの解り易い機能比較を示します。
RL78ファミリカタログを観ると、品種が多く機能満載なRL78は解るのですが、弊社テンプレート対象の汎用マイコンRL78/G1xの特徴は、逆に見えなくなるので、この比較図は重宝します。

RL78/G1x機能比較
RL78/G1x機能比較

最初の3列:RL78/G13~G10が、汎用中の汎用マイコン、G1A~G1Eがこれらに、右赤で表記した機能を強化したマイコンという構成です。

RL78/G1Dが、開発中のPSoC 4 BLEテンプレート対抗機です。Bluetooth Low Energyを搭載すると128 – 256KBのフラッシュROMが必要になり、IEEE802.15.4e/g搭載のRL78/G1Hでは、256 – 512KBに増えることが解ります。この容量では、残念ですが64KB制限の無償CS+を使うことができません。

もちろん、以前示したように上手く機能分割すれば無償版での部分開発も可能ですが、BLEや802.15の部分のみで64KBを超えることは、PSoCの例から考えると確実です。
現状の無償版制限がなくならない限りRL78/G1DやG1H開発は、かなりのコストアップになるでしょう。

RL78/G1xのCA78K0RコンパイラとCC-RLコンパイラ

現在のRL78/G1xテンプレートVer5は、CA78K0RとCC-RL両方のコンパイラに対応しています。

しかし、RL78/G10の初期設定アプリケーションノートRev.2.00の改定記録A-1ページを見ると、改定内容のCS+動作確認バージョン表2.1にCA78K0Rは含まれず、CC-RLコンパイラのみとなっています。
これは、新しいアプリケーションノートは、CS+ for CA, CXの「CA78K0Rコンパイラ動作確認はしない」とも読めます。深読みかもしれませんが、安全側の読みをすればこうなります。

RL78/G1xを使った出荷済み製品には、まだCA78K0Rコンパイラ版で開発したプログラム搭載機が多くあると思います。ルネサスからの正式な発表はありませんが、上記の状況を考慮すると、今後製品改良または、新規製品開発には、CC-RLコンパイラの利用が必須と考えます。

これらの事から、弊社RL78/G1xテンプレートも次版からは、「CC-RLコンパイラのみを対象」とする予定です。どうしてもCA78K0Rコンパイラ版が必要な方は、Ver5テンプレートのままですが提供いたします。

RL78/G1xテンプレートVer5は、CA78K0Rコンパイラでの動作確認もしています。ご安心ください。

半導体業界動向に惑わされないマイコン技術習得

NXPによるFreescale買収など、マイコン半導体ベンダーの動きが激しい2015年末ですが、唯一ともいえる日の丸半導体、ルネサスエレクトロニクスの筆頭株主の産業革新機構が、保有するルネサス株式の一部売却の検討に入ったというニュースが、11月21日報道されました。

売却先候補は、トヨタやパナソニックなどの日本企業と、ドイツ)インフィニオンなどが挙がっています。

日本企業がルネサスを保持したい理由は、自動車向けの需要や、相対的に弱体化した日本エレクトロニクス業界の現状が背景にあると思います。もちろん、日本人開発者にとっても、日本語環境や日本語コミュニティが提供されるルネサスマイコンは貴重な存在です。

今後の機構の動きは、要注意ですね。因みにルネサスのSynergy詳細が明らかになりました。
記事によると、“既存ファミリ「RX」「RZ」「RL」は長い成功の歴史があり、今後のロードマップが決定しており、顧客に長期サポートを約束しているので、ロードマップ変更ができない”、そこで、新たなCortex-M系を用いたSynergyが米国で開発されたようです。

つまり、「RX」「RZ」「RL」が既存国内資産継承と車載向け、「Synergy」が半導体業界の“Apple”目標のUS発新設計基盤でIoT向けのようです。
だとすると、この2つでルネサスを分割するシナリオが、最もありそうだ、と思いますが…?

マイコンは、「ARMとそれ以外」にコアが別れ、「車載とIoT」でマーケットが決まりつつあります。
自動車産業と同様、国レベルで保護や競争がある半導体業界のM&Aは、予測の域を超えています。しかし、状況がどう変わっても「開発者が生き残れる技術蓄積は必須」です。

シンプルな弊社マイコンテンプレートも、その1つになればと願っております。