効果的MCU学習と開発方法

MCU開発者は、常に新しい事柄を学習しつつ、同時に開発成果の出力が求められます。MCU開発者の学習と開発の参考になる2記事を見つけたので紹介します。

  1. ソフトウェア開発者が「学習」について知っておくべき10のこと、2023年12月12日
  2. 時間外労働と生産性低下の意外な関係、2023年12月11日

※英語版は、参照。

MCU学習と開発の参考になる2記事
MCU学習と開発の参考になる2記事

AI要約が望ましいのですが、無いので筆者が要約します。是非、ご自身で読んでください。

参考記事1要約:学習10のこと

人間記憶の仕組み、学習の仕組み、初心者とエキスパートの違いを示し、ソフトウェア開発者が学習を改善するための10個の事柄(#1~#10)解説。

筆者が特に印象に残った内容が、下記。

  1. 多くのコードを読み「理解」が、プログラミング熟練度を向上(#3)
  2. 1日の学習時間は、90分が限度(#5)
  3. 問題・課題のトライ順序を変える(ランダム化)のは解決に効果的(#5)
  4. エキスパートが初心者の目で見られなくなる「エキスパート盲点」は多い(#8)
  5. 休憩や散歩でトライ戦略を再検後、やり直す(#10)

参考記事2要約:意外な関係

欧米と日本、13000従業員の労働時間と生産性の調査結果。開発作業と生産性の関係説明。

印象に残った内容が、下記。

  1. 休憩無し従業員は、燃え尽き症候群の可能性が1.7倍(休憩時間と生産性)
  2. 理想的集中時間は、1日4時間。最長会議時間は、2時間。(仕事に集中できる時間)

know-how をリビルド

英語の「know-how」から来た外来語、日本語カタカナ表記「ノウハウ」は、専門的な知識や技術、手法という意味です。

知的財産の1つのため、日本発の公開例は少ない気がします。しかし、海外発know-howは、有用情報が多数あります。和訳が無くても、Microsoft Word翻訳やブラウザ翻訳を使えば、英文know-howが手軽に日本語化できます。

MCU開発者は、これら know-how活用をお勧めします。

但し、自分なりの解釈や理解を加えることが重要だと思います。これは、参考記事1が示したプログラミング熟練度を向上させるには、多くのコードを読み、その「理解」が大切なことと全く同じです。

つまり、 万人向け know-howをガイドとし、自分の頭で考えて理解する、これが、本当の学習や習得になるからです。ソフトウェア開発者的に言うと、「リビルド」です。

Summary:効果的MCU学習と開発方法

効果的MCU学習と開発には集中と多様性が必要
効果的MCU学習と開発には集中と多様性が必要

know-howの2記事を参考に、筆者がお勧めする効果的なMCU学習と開発方法をまとめます。

MCU開発者には、集中と多様性が必要です。

限られた集中時間(90分~4時間)に最大開発成果を上げるには、回り道のようでも1日の作業時間を、プログラミングとその他作業に分離して作業すべきです。

プログラミングも課題を複数に分け、壁に遭遇した場合には、そこに拘らず別課題プログラミングへ変えるなどが効果的です。課題への集中と、拘らずに変えることができる多様性が、効果的MCU開発になります。

多様性具体例の1つに、MCUベンダのサンプルコードと評価ボード活用があります。

自社ハードウェアが手元にある場合でも、逆にない場合はなおさら、評価ボード上で類似サンプルコードを動かすと、柔軟で多様な開発視点が得られます。これにより、例えば、隠し製品機能などの実装などもありえるでしょう。

その他の作業には、MCU関連の新しい学習なども含みます。

これら作業も、休憩やコーヒーブレイク、散歩などを挟みつつ様々な内容に分割しましょう。気分転換効果が期待できます。隠し製品機能などのアイデアも生まれ易いでしょう。

Afterword:盲点解決:サンプルコードと評価ボード

紹介した2つのKnow-how記事は、ソフトウェア開発者作業時間の科学的分析結果に基づいています。

MCU技術資料は、エキスパート盲点だらけです。内容が判り難いのは、読者のせいではありません。紹介Know-howやAI Copilotなどが、効率的な盲点解決手段を与えるでしょう。

一方、自ら気づき難い開発者のソフトウェア盲点やバグ解決手段が、サンプルコードと評価ボードです。

サンプルコードと評価ボードは開発者自身のソフトウェア盲点を浮き彫りにする
サンプルコードと評価ボードは開発者自身のソフトウェア盲点を浮き彫りにする

確実に動作するサンプルコードと評価ボードは、自分のソフトウェア盲点を浮き彫りにします。また、頭の中だけでなく、具体的なソフトウェア動作を目視することで、楽しく開発が続けられます。

MCU攻略の秘訣は、多様性を忘れず、楽しく、面白く開発に集中(集中時間はタイマ等で管理)、学習することだと思います。


RTOSアプリケーションIoT MCU能力推定

RTOSアプリケーションのIoT MCUにはどの程度のハードウェア能力が必要か?
この答を IEEE標準RTOS のμT-Kernelプログラミングコンテスト対象評価ボードから考察しました。

RTOSコンテスト評価ボード
RTOSコンテスト評価ボード

RTOSコンテスト対象評価ボード

MCUベンダ大手4社:インフィニティ、STマイクロ、NXP、ルネサス協賛のRTOSプログラミングコンテストが開催中です。RTOSは、IoT MCU世界標準のμT-Kernel 3.0利用がコンテスト条件です(関連投稿:前投稿)。

但し4社評価ボードは、μT-Kernel以外にもFreeRTOSやAzure RTOSでも動作可能です。そこで、これら評価ボードスペックを分析すると、RTOSアプリケーションのIoT MCUに、どの程度のMCUハードウェア能力が必要か、その目安が判ると思います。

コンテスト対象評価ボードは、ベンダ4社評価ボードと英BBC開発micro:bit、合わせて5種です。

インフィニティ:KIT_XMC72_EVK
STマイクロ:Nucleo_H723ZG
NXP:MCX N94x評価ボード(1月4日現在Coming Soon)
ルネサス:EK-RA8M1
BBC:micro:bit

評価ボードMCUコアとROM/RAM量

各評価ボードは、どれもARM Cortex-M系コアを用いています。

インフィニティとSTマイクロは、ハイパフォーマンスMCU Cortex-M7、NXPは、Trust Zone搭載MCU Cortex-M33、ルネサスは、AI/ML性能向上のArm Helium搭載MCU Cortex-M85、BBC開発micro:bitは、ベーシックなMCU Cortex-M4です。

評価ボードのCortex-Mコアと最高動作速度、ROM/RAM量が下表です。

ベンダ Cortex-Mコア/速度 ROM(KB) RAM(KB)
インフィニティ M7/350MHz 8192 1024
STマイクロ M7/550MHz 1024 564
NXP M33/150MHz 1024 1024
ルネサス M85/480MHz 2049 1024
BBC M4/64MHz 512 128

BBC開発micro:bitは、他に比べスペックが劣っています。
これは、μT-Kernel 3.0学習教材用でコスト最優先のためと思います。

ベンダ4社評価ボードは、RTOSコンテスト参加ハードウェアなので、どれも汎用RTOSアプリケーション開発ができるハズです。コンテストエントリー時に、応募者が第3希望まで評価ボードを選べます。

IDEはRTOSもベアメタルも同じ

ベンダ4社は、ベアメタル開発用の統合開発環境:IDEを利用し、FreeRTOSやAzure RTOS開発環境を提供中です。

例えば、STマイクロは、ベアメタル開発で使うSTM32CubeIDEに、ミドルウェアのAzure RTOS開発ツールを追加し、Azure RTOS開発環境を、ユーザ自身で構築します(関連投稿:STM32 Azure RTOS開発ツール拡充

現代的ユーザMCU開発の例(出展:The ST blog)
現代的ユーザMCU開発の例(出展:The ST blog)

コンテストは、μT-Kernel 3.0 RTOS開発です。筆者は、μT-Kernel 3.0をベンダ4社評価ボード上で動作させる作業、いわゆるポーティング処理は、把握していません。

しかし、本稿主題は、RTOS IoT MCUに必要なハードウェア能力の推定です。従って、評価ボードへのμT-Kernel 3.0ポーティングは、無視します。

一方、micro:bitは、μT-Kernel 3.0で動作するEclipse IDEが提供されます。従って、どなたでも直ぐにmicro:bit上でμT-Kernelを動かすことができます。この点も、教育用に適しています。

RTOS IoT MCUハードウェア能力推定

最初の表に戻り、RTOS IoT MCUに必要なハードウェア能力を推定します。

ベンダ Cortex-Mコア/速度 ROM(KB) RAM(KB)
インフィニティ M7/350MHz 8192 1024
STマイクロ M7/550MHz 1024 564
NXP M33/150MHz 1024 1024
ルネサス M85/480MHz 2049 1024
BBC M4/64MHz 512 128

先ず、MCUコア能力は、micro:bitスペックから最低でもCortex-M4以上、RTOSアプリケーションを実用的に開発するには、Flash ROMは1024KB以上が必要そうです。教育用micro:bitの512KBは、排除しました。

また、RTOSは、動作タスク数に比例し使用スタック量が急増します。これは、RTOSが実行タスクを別タスクへ切替える毎に、実行タスク変数やレジスタ等の状態をスタックにプッシュするためです。タスク再実行の際には、RTOSがスタックからポップし、実行前タスク状態へ戻します。

RTOSスタック動作(出展:ウィキペディア)
RTOSスタック動作(出展:ウィキペディア)

仮に、このRTOSポップ/プッシュに対してスタック量が不足した場合は、再現し難いバグになります。このバグを避けるには、必要十分な量のスタック領域が、RAM上に必要となります。スタック量を見積もるツールは、各社のIDEに付属しています。

表から、RTOSアプリケーション開発には、RAMは、最低でも512KB、安全側評価なら1024KB程度が必要そうです。

Summary:RTOS IoT MCUハードウェア能力

RTOSアプリケーションが動作するIoT MCUに必要なハードウェア能力を、μT-Kernelプログラミングコンテスト対象評価ボードから考察した目安が下記です。

MCUコア:ARM Cortex-M4以上、Flash ROM 1024KB以上、RAM 512KB以上

RTOSアプリケーション開発時には、MCUデバイスコストと発展性の検討が必要です。

機能拡張や横展開が期待できるRTOSアプリケーションなら、IDE付属スタック見積ツールを活用し、RAMに余裕があるデバイスが、効率的で安全な開発ができそうです。

Afterword:2024年もよろしくお願いします

日本時間の毎週金曜日、MCU話題を中心に、その開発環境のWindowsや比較対象にMPU/SBCなども混ぜながら、IoT MCU開発お役立ち情報を投稿します。

「開発スピードと成果」この2つを強く求められるのが、MCUに限らず開発者の宿命です。

激変MCU環境で背反するこの2つを両立する手段の1つが、MCUテンプレートだと筆者は考えています。開発初期立上げをスムースにし、全体像の視点を持ちつつ個々の機能追加もできるからです。
RTOS MCU開発も同様だと思います。

但し、全て自作するベアメタル開発と異なり、RTOSと協調動作するのがRTOS MCU開発です。RTOSを活かすMCUタスク作成や本稿のMCUハードウェア能力を、弊社RTOSテンプレートへ反映したいと考えております。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

FreeRTOS version 11.0.0は、マルチコアMCU動作が可能になりました。


μT-Kernelプログラミングコンテスト

μT-Kernalプログラミングコンテスト(出典:TRONフォーラム)
μT-Kernalプログラミングコンテスト(出典:TRONフォーラム)

2023年12月11日から、インフィニティ、STマイクロ、NXP、ルネサス、4社協賛のμT-Kernelプログラミングコンテストが開催されます。

IoT MCU世界標準RTOSのμT-Kernelを用いたアプリ、ミドルウェア、開発環境/ツールの3部門で競い、対象は国内外技術者と学生、賞金総額500万円、1次審査合格者には評価ボードが無償提供されます。

Summary:エントリ:12月11日~2024年2月29日、提出:2024年3月11日~6月30日

コンテスト詳細は、12月7日、東京ミッドタウンホールの2023 TRON Symposiumで発表されます。

賞金総額500万円のコンテスト応募期間は、2023年12月11日から2024年2月29日。1次審査合格者は、内容に応じて評価ボードが無償提供され、応募プログラムの提出期限は、2024年3月11日~6月30日です。

世界標準MCU RTOS:μT-Kernel 3.0

クラウドへ接続するIoT MCUは、RTOSが必須です。FreeRTOSやAzure RTOSが有名です。

μT-KernelもIoT MCU RTOSの1つです。μT-KernelのIEEE標準規格:IEEE2050-2018完全準拠版がμT-Kernel 3.0です。つまり、μT-Kernel 3.0は、世界標準IoT MCU RTOSです。

さらに、μT-Kernel 3.0は、GitHub公開のオープンソースソフトウェアで、協賛MCUベンダ各社のBSP(ボードサポートパッケージ)もあり、RTOS開発が容易になりました。

※評価ボード毎に異なるBSPにより、ユーザ開発アプリのハードウェア依存性を無くすことがBSPの目的。STマイクロ例が下図(説明投稿はコチラ)。

BSPとMCU Firmwareによりハードウェア依存性が無いHAL APIsが提供
BSPとMCU Firmwareによりハードウェア依存性が無いHAL APIsが提供

協賛4社:STマイクロ、NXP、ルネサス、インフィニティ

μT-Kernelプログラミングコンテスト協賛4社の評価ボードは、上記BSPが提供中です。2023 TRON Symposium会場で、各社評価ボードでμT-Kernel 3.0動作のIoT MCU実機デモが開催されるでしょう。

大手MCUベンダ4社のμT-Kernel 3.0への力の入れ方やRTOS開発のし易さが、実際に評価ボードで判ると思います。

μT-Kernel 3.0学習教材

micro:bit は、入力、出力、センサー、無線通信機能が搭載済み学習ボード(出典:micro bitサイト)
micro:bit は、入力、出力、センサー、無線通信機能が搭載済み学習ボード(出典:micro bitサイト)

英BBC開発の教育向けMCU、micro:bit上で動くリアルタイムOSマイクロ学習キットが販売中です。キットと言っても、入力センサ/スイッチ/LED搭載済みのmicro:bitとPCをUSB接続するだけでRTOS動作します。

RTOSにμT-Kernel 3.0を使用し、タスク動作をビジュアル表示できるタスクトレーサやμT-Kernel日本語解説資料付きです。μT-Kernel 3.0のスケジューリングやセマフォが、ご自分のペースで学習できます。

Afterword:今年最後の投稿、次回1月5日予定

寒暖差のせいか、このごろ体調不調です。流行中のインフルエンザかもしれません。かなり早いのですが、本稿を今年最後の投稿にしたいと思います。次回は、2024年1月5日(金)投稿予定です。

今年も本ブログをご覧いただき、ありがとうございました。皆様、よいお年をお迎えください🤞。


ベアメタルかRTOS開発か?

弊社MCUテンプレートご購入者様から、ベアメタルかRTOS、どちらの開発が良いかについてご質問がありました。
ご質問者同意を得ましたので、筆者回答を一部修正、抜粋して示します。

Summary:クラウド接続=RTOS開発、スタンドアロン=ベアメタル開発

RTOS vs. BareMetal
RTOS vs. BareMetal

AWSやAzure RTOSなどのクラウドへ接続するMCUは、RTOS(FreeRTOS/Azure RTOS)開発が必須です。クラウド接続やセキュリティ確保に、専用RTOSライブラリ利用が必要だからです。また、大規模、複数開発者の場合も、RTOS開発が向いています。

スタンドアロン動作のMCUは、ベアメタル開発をお勧めします。MCU動作を全て開発者で管理・制御できるからです。

ベンダ提供サンプルコードとMCU評価ボードを活用すると、ベアメタル/RTOSどちらの開発でも、高品質・短期間で製品のプロトタイプ開発ができます。弊社MCUテンプレートは、サンプルコード活用プロトタイプ開発に適しています。

クラウド接続MCU:割込みベースRTOSタスク開発

AWS (Amazon Web Services)やAzure (Microsoft Azure Cloud Services)へ接続するMCUは、クラウド接続用に、FreeRTOSやAzure RTOS接続ライブラリの利用が前提条件です。また、高度なセキュリティ対策が求められますので、クラウド側提供セキュリティライブラリを使うことも求められます。

従って、クラウド接続MCUは、必然的にRTOS開発となります。

通信やセキュリティ以外の処理は、タクス(スレッドとも言うが、以下タスクと略)の開発が、ユーザ開発内容です。

タスクは、移植性が高い単位に機能分割し、割込みベースで作成します。複数タスクの割込み処理や優先順位を管理・処理するのが、RTOSの役目です。

RTOSが優先順位に基づいて個々のタスクをMCUに割当てることで、複数タスクの並列処理が進みます。シングルコアMCUの場合、一度に実行するタスクは1個です。従って、タスクは時分割処理です。分割タイミングが短く、しかも優先順位に基づいたタスク処理ですので、複数タスクが並列処理しているように見えます。

タスクは、別タスクのことを考慮せず独立性、移植性高く開発可能です。その代償として、RTOSが複数タスク間優先制御を行うセマフォ/ミューテックス/イベントフラグなど、また、タスク間通信を行うメッセージバッファ/メールボックスなどのRTOS独自機能を、開発タスクに組込む必要があります。

関連投稿:RTOS習得

移植性や独立性が高い開発済タスクは、ベアメタル比、ソフトウェア資産として他プロジェクトへもそのまま使えるメリットがあります。また、ソフトウェア規模が大きく、複数開発者で共同開発する時も、機能完全分離RTOS開発の方が優れると言われます。

スタンドアロンMCU:ポーリングベースベアメタル開発

RTOSが行う周辺回路の割込み処理や優先制御を、全てユーザが行うのがベアメタル開発です。

但し、デバッグや処理開発のし易さを考慮すると、ポーリングベース開発をお勧めします。

つまり、周辺回路の割込みフラグを、一旦、割込み処理待ちフラグへ置換え、この割込み処理待ちフラグをポーリングすることで処理を実行する方法です。割込み処理待ちフラグは、RAMへ展開されますので、開発処理もRAMフラグで制御でき、割込みを直接扱うよりも単体デバッグが容易になります。

ベアメタル開発は、単体デバッグ済みの複数処理を、MCU全体で上手く実行する制御部分も必要です。弊社ベアメタルMCUテンプレート英語版MCUテンプレートは、この制御部分を提供します。

サンプルコード活用プロトタイプ開発

サンプルコード活用プロトタイプ開発
サンプルコード活用プロトタイプ開発

RTOSはタスク、ベアメタルは周辺回路制御のソフトウェア開発が必要です。

但し、ベンダは、周辺回路制御の参考となるソフトウェアを、サンプルコードとしてMCU評価ボードと共に提供します。サンプルコードは、ベンダ専門家が開発した評価ボード動作確認済み高品質コードですので、これをユーザが利用しない手はありません。

現在サンプルコードは、ベアメタル用のものが殆どです。しかし、RTOSタスク開発へも応用できます。サンプルを上手く利用することで、0から開発するよりも、短時間でソフトウェア開発ができます。

また、評価ボードMCU周りの部品配置やアートワーク配線は、処理性能過不足時のMCU交換や耐ノイズ性が高いハードウェア開発の参考書になります。

MCU開発を高品質・短期間で行うには、サンプルコードとMCU評価ボードを活用し、製品プロトタイプ開発がお勧めです。プロトタイプから製品へフィードバックをかければ、より良い製品化が可能です。

Afterword:ベアメタル開発からRTOSへステップアップ

IoT MCU開発者スキルの階層構造
IoT MCU開発者スキルの階層構造

Windowsアプリ開発時は、Windows APIの利用は当たり前です。多くの解説書もあります。

IoT MCU開発時も、FreeRTOSやAzure RTOSが当然になると思います。ただMCU開発には解説書が少なく、その理解には基礎知識が必要です。基礎がグラつくと、その上の積み重ねは非常に困難です。

MCU開発の基礎は、ベアメタル開発です。IoT普及でRTOS MCU開発も増えます。IoTに向けてRTOSを勉強しようと考える方も多いと思います。その場合は、ベアメタル開発の何をRTOSが代行し、何が得られ、何を失うか、RTOSオーバーヘッドはどの程度かを考えながら学習すると、より効率的にRTOS習得ができます。

例えば、RTOS開発には、セマフォやミューテックスなどのベアメタル開発に無い多くのRTOS機能を新に学ぶ必要があります。しかし、よく使う機能は少数です。ご自分のベアメタル手法を代行するRTOS機能から学び始め、それでも足りない機能はRTOS側に用意されていますので、順次増やしながらタスクを開発して行くと良いと思います。

ソフトウェア開発は、AI Copilot出現で激変への過渡期です。数年後には、ライブラリ組み換え作業などへ開発が変わり、不足がちなMCU開発解説もAIが代行してくれるかもしれません。

そんな全能AI過渡期でも、ご自分自身で獲得した基礎の重要性は、変わらないと筆者は考えます。


RA用FSP v5.0.0 e2 studio 2023-10リリース

2023年10月28日、RA用FSP v5.0.0同梱e2 studio 2023-10がGitHubからリリースされました。FSP、e2 studioどちらも最新版です。また、10月16日に18年ぶりにバージョン5となったMCU開発必須ツール:Tera Term 5.0も、GitHubにあります。

本稿は、これらソフトウェアダウンロード先(=repository)のGitHubについて説明します。

また、GitHub公開の最新FSP v5.0.0、e2 studio 2023-10、Tera Term 5.0を使った評価ボード動作例も示します。

※今週金曜は、休日(文化の日)のため、木曜に先行投稿しています。

GitHub主要3機能

GitのWebサービス版がGitHubです。※Hubは、集約点という意味。

Gitは、Linux上で「複数ソフトウェア開発者」向けの支援ツールです。複数開発者が、1つのプロジェクトを、別々の場所・作業時間で共同開発する時に便利な機能を提供します。

Gitの主要機能が、フォーク、プルリクエスト、マージの3つです。

フォーク(=派生)は、レポジトリソースコードを派生利用し、別ソフトウェアを開発する際に、オリジナルコード所有者へ通知する機能です。

プルリクエストは、レポジトリソースコードの変更を、プロジェクト開発者へ通知、マージは、プルリクエストを受けた開発者が、変更を承認するか否かの通知機能です。承認時は、変更コードがプロジェクトへマージ(=統合)されます。

Linuxツールですので、CUI(キャラクタ ユーザ インタフェース)です。複数開発者が、地球上の離れた場所・作業時間であっても、ソフトウェア開発が上手くできる仕組みをGitが持つことが判ります。

また、ソースコードをレビューするコミュニティもあります。質の高いコード作成に役立つそうです。このコミュニティに、AI活用が最近話題です。AIを使わない時と比べ、開発速度57%、タスク完遂率27%上昇など驚きの効果が報告されています。

これらGit機能を、クラウドで提供するのが、GitHubです。2023年のユーザ数は、1億人突破だそうです(Wikipediaより)。

参考資料:GitHubとは? Digital Business Sherpa (2023-08-02)

GitHubソフトウェア公開機能

GitHubのもう1つの機能が、ソフトウェア公開です。この例が、最初に示したRA用FSP v5.0.0同梱e2 studio 2023-10やTera Term 5のリリースです。

exeファイルが直接ダウンロードできます。zipファイルダウンロードが主流のWindowsと異なる点です。

最新版RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10のGitHubレポジトリ
最新版RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10のGitHubレポジトリ

Latestアイコンが最新版を示します。Release Notes内にダウンロードリンク、下方にあるAssetsが、実際の公開ファイルを示します。

Summary:ワールドワイド開発標準ツールGitHub

筆者は、 パーティションもない大部屋で近隣同僚と、または、1人でソフトウェア開発をしてきました。Git主要3機能は、口頭で同僚へ伝えるか、1人開発時は不要でしたので、実際にGitHub活用経験はありません。

しかし、ワールドワイドやリモートワークでの複数人ソフトウェア開発時は、GitHubが標準ツールです。普段はソフトウェアダウンロード先としてGitHubを利用している開発者も、その仕組みを知っていると今後役立つと思います。

Afterword:RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10 & Tera Term 5動作

GitHub公開のRA用FSP v5.0.0、e2 studio 2023-10とTera Term 5を使ったFPB-RA6E1評価ボード動作例です。接続は、コチラの投稿と同じです。

RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10とTera Term 5.0動作例
RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10とTera Term 5.0動作例

インストールダイアログに従っていれば、従来版からのアップグレードも問題ありません。

RA用FSP v5.0.0同梱e2 studio 2023-10リリースが、他のルネサスMCUファミリのFSP v5.0.0やe2 studio 2023-10リリースより遅れるのは、 RA専用FSP同梱e2 studioのGitHubマージ作業のためと思います。

※ルネサス他MCUファミリは、FSP、e2 studioそれぞれ個別リリース。

リリースが遅れても、RAファミリ統合開発環境を、だれでも簡単に構築できるメリットを優先したためでしょう。


MCU AIトレーニング資料

STマイクロの日本語トレーニング資料(組込みAI編)
STマイクロの日本語トレーニング資料(組込みAI編)

STマイクロの日本語トレーニングサイト内に、9個の組込みAI資料を見つけたので紹介します。日本語のMCU AI資料は嬉しいです。STマイクロへのログインが必要ですが、どなたでも閲覧(PDFダウンロード)可能です。

MCU AIトレーニング資料8個の内容

トレーニング資料8個の内容です。1~8の内容に加えて10月3日に行われたウェビナー資料:コンピュータ・ビジョン編の計9個MCU AI資料が公開中です。

MCU AIトレーニング資料8個の内容
MCU AIトレーニング資料8個の内容

AI解説(Page 2)記載の8トレーニング資料の説明範囲:「AI基本概念には触れるが、AI、深層学習、Pythonプログラミングの詳細解説はしない」は、Edge AI/MLツールを利用しMCU開発を行う者に最適な内容だと思います(MCU AI現状と対策、1章:Edge MCI AI課題数参照)。

1~8資料は、読者のお好きな時間に読んでください。

本稿は、9個目のウェビナー資料:コンピュータ・ビジョン編から筆者印象に残った点をピックアップします。

コンピュータ・ビジョン編もくじ

コンピュータ・ビジョン編もくじ
コンピュータ・ビジョン編もくじ

ピックアップしたコンピュータ・ビジョン編のもくじです。コンピュータ・ビジョンとは、MCUが、AIを使って画像、動画、その他入力データから目的とする情報を抽出する手法です。

印象点が以下です。

  • Edge AI/ML MCU(Tiny ML Devices)は、2030年に25億台と予測(P4)
  • Edge AI/ML MCUは、クラウド接続無しで低レイテンシ(P9)
  • STM32MCUのAI開発ツールは、STM32Cube.AIとNanoEdgeStudioの2種類あり(P12)
  • 主要STM32汎用MCUは、AI開発ツール2種類両方が使える(P13)
  • STM32Cube.AIは、深層学習アプリケーションを簡単実現(P18)
    • ※NanoEdgeStudioは、前回投稿に記載中
    • ※深層学習とは、ニューラルネットワークによる機械学習手法

つまり、MCU開発者は、2030年の数年前までに、ソフトウェアで他社差別化できるEdge AI/ML(組込みAI)知識獲得と開発が必要と言えます。

Summary:STM32Cube.AIとNanoEdgeStudio差は継続調査

Edge AI/ML MCUが、クラウド接続不要でスタンドアロン動作であることは、大歓迎です。RTOSや高度セキュリティTrustZoneなどのネットワーク技術の必要性が低いからです。

従って、Edge AI/ML MCU開発は、ベアメタル開発の延長線上にあると言えます。25億台/2030年予測の内、Edge AI/ML MCU比率がどの程度かは不明です。しかし、RTOS/TrustZone MCU比率より多いことを筆者は期待します。

前回投稿のMCU AI開発ツール:NanoEdgeStudioと本稿のSTM32Cube.AIの特性差が何かは、現在不明です。もう少しAI/ML知識を獲得すれば、判ってくると思います。継続調査項目とします。

Afterword:判り難さは、馴染み無い用語起因

RTOS/TrustZone MCUよりもEdge AI/ML MCUの方が開発簡単とは言いません。

しかし、ベアメタル開発に近いのはEdge AI/ML MCU開発です。IoT MCUに必須なRTOS/TrustZoneは、AI/MLよりも馴染みが薄い用語が多く、しかも開発にその詳細理解も必須です。

一方、AI/MLは、AI解説編が示すようにAI/ML詳細理解よりMCU AIツールの効率的活用で十分開発できそうなことも理由です。

※望むらくは、AI/ML同様、RTOS/TrustZone開発支援ツールがあると嬉しいですね!

この意味でSTマイクロの組込みAI日本語資料は、MCU開発者に非常に役立ちます。是非一読(何度も読むこと)をお勧めします。馴染み無いAI/ML用語が、だんだん身近なります!

10月2日発表のWindows AI/CopilotもMCU AI/ML普及の追い風になるハズです。


MCU AI現状と対策

今秋リリースWindows 11 23H2は、AIによる作業支援:Copilot機能が追加される予定です。AIがより身近になるでしょう。

AIは、MCU開発へも押し寄せつつあります。ルネサス、STマイクロのEdge MCU AI現状と対策を示します。

MCU開発者に押しよせるAI/MLの風
MCU開発者に押しよせるAI/MLの風

Edge MCU AIとWindows AIの課題数

1: MCU開発へAIをどのように実装するか、2: 実装したAIをどのようにMCU製品メリットへ変えるか、そして、3: Edge MCU AI製品をどのように顧客に活用してもらうか、MCU開発者は、これら課題解決が必要です。

一方、Windows AIは、3:相当 のPCユーザとしてどのようにWindows AIを活用するかが課題です。

Edge MCU AIは、使うだけでなく開発も必要ですので課題の数が異なります。MCUベンダ各社は、AI MCUツールを発表しています。

本稿は、特に1:AIのMCU実装についてルネサス、STマイクロの現状とMCUソフトウェア開発者の対策を示します。

ルネサス:Reality AI Toolをe2 studioへ統合

2023年9月21日、ルネサスは、Edge AI専用ツール:Reality AIを、既存MCU開発環境:e2 studioへ統合しました。これにより、AIプロジェクトとe2 studio間のデータ共有が可能となり、開発効率が上がります。

動画はコチラ

STマイクロ:NanoEdge AI Studio

NanoEdge AI Studio Workflow(出展:NANOEDGE AI STUDIO V3)
NanoEdge AI Studio Workflow(出展:NANOEDGE AI STUDIO V3)

2023年8月3日、STマイクロは、Edge AI 専用ツール:NanoEdge AI StudioとST開発ボードを使って簡単・迅速にAI/ML:Machine Learning関連データを収集・検証し、機械学習アルゴリズムをわずか数ステップで生成できると発表しました。

動画はコチラ

AI/ML必然性

既存MCU開発環境へEdge AIツール出力をライブラリとして取込むことは、ルネサス/STマイクロ共に簡単です。

しかし、非力なMCUに最適なAI出力ライブラリを得ることが簡単か否かは、現在、筆者は分かりません。多分、この判断には、多少なりともAI/ML知識が必要になるでしょう。

AI/ML担当者とEdge MCU担当者、2人いれば問題は少ないです。しかし、Edge MCU開発者が両者を兼務することが、既存MCU IDEへAIツール統合の流れとマッチすることから必然だと思います。

ハードウェアとソフトウェア担当が別れるように、AI/MLとMCUソフトウェア担当が分離することを筆者は想定しにくいです。

Summary:急増Edge MCU AI対策

Edge MCU AI製品とAIなしのMCU製品を比較したSTマイクロの動画(7:34)は、興味深いです(リンク先下方に動画あり)。AI実装有無が、MCU製品の差別化要因になることを示しています。

また、Windows AI:Copilot機能の普及は、MCU製品顧客へも大きな影響を与えると思います。PCでのAI活用事例が多くなり、AIメリットを認識する顧客が増えるからです。

MCU開発者は、Windows AI普及に合わせて増加するであろうEdge AI/ML知識も備えておく必要があります。MCUベンダ各社は、Edge AI/MLセミナを活発化します。是非参加して、基礎知識を獲得しましょう!


STM32C0で最新32ビットMCU開発短期習得

STM32 Nucleoボード一覧(1M Flash以下 出展:STM32 MCU Developer Zone)
STM32 Nucleoボード一覧(1M Flash以下 出展:STM32 MCU Developer Zone)

STマイクロの1MバイトまでのFlash搭載STM32 Nucleo評価ボード一覧です(STM32 MCU Developer Zone掲載図から抜粋)。紺色のMainstream:汎用MCU評価ボードが多いことが判ります。

今回は、2023年3月発売の評価ボード:NUCLEO-C031C6を使って、最新Cortex-M系32ビットMCU開発を短期習得する方法を示します。

1. 短期習得に適すSTM32C0シリーズ

この評価ボードのMCU:STM32C031C6(Cortex-M0+/48MHz、Flash/32KB、RAM/12KB、LQFP48)は、STマイクロが8/16ビットMCU置換えを狙った新しい32ビットSTM32C0シリーズです。開発のし易さ、価格の低さ、入手性の良さが特徴です。

STM32C0シリーズの「C」は、Compact、またはCost-effectiveのCを表していると思います。同じLQFP48のSTM32G0シリーズとブロッグ図を比べると差分が判ります(「G」は、多分Generalを表す)。

STM32C031とSTM32G081の比較
STM32C031とSTM32G081の比較

どちらもCortex-M0+コア採用の汎用MCUです。違いは、STM32C0は、アナログや通信などの内蔵周辺回路、Flash/RAM容量を、8/16ビットMCU置換目的に必要最小限にし、G0比コストダウンを図っていることです。

つまり、STM32C0は、STM32汎用MCUシリーズの中で、最もBasicな周辺回路のみを備えたシリーズです。この周辺回路の少なさが、MCU開発をシンプルにし、短期習得に適す理由です。

2. 入手性・開発拡張性良いNUCLEO-C031C6評価ボード

NUCLEO-C031C6
NUCLEO-C031C6

STM32C0搭載の評価ボードNUCLEO-C031C6は、低価格で入手性が良く、ボード上にユーザLED/SW、拡張シールド接続用Arduinoコネクタ、デバッガ(ST-LINK/V2-1)が実装済みです。

関連投稿:Arduinoコネクタが評価ボードに多い理由

PCとUSB接続すれば、MCUプログラミングとデバッグ、PC Tera-Termで評価ボードとのVirtual-COM通信が可能です。Virtual-COMは、MCUでの様々な処理結果をPCで直接確認できるので便利です。

NUCLEO-C031C6が、最初の図で多くの汎用MCU評価ボードの一番下(Basic)であることもポイントです。

NUCLEO-C031C6で開発したHAL API利用ユーザソフトウェアは、MCU差に依存しない移植性の高さがありますので、処理性能不足時は、より上側の高性能ボードへユーザソフトウェア載せ替えも容易な訳です。

関連投稿:HALとMCUソフトウェア開発

3. サンプルコードが多いNUCLEO-C031C6評価ボード

MCUソフトウェア開発には、慣れが必要です。この慣れには、STM32C0シリーズサンプルコードを読み、かつ動作させるのが近道です。

NUCLEO-C031C6は、全73個のサンプルコード動作環境として使えます(2023年9月現在)。これは、他のSTM32C0評価ボードと比べ格段の多さです。

お勧めは、下図に示すHAL API利用の16個サンプルコードです。この16個HALサンプルコードだけを理解しても、STM32MCU開発初心者卒業と言えると思います。

NUCLEO-C031C6で動作するHAL APIサンプルコード(出展:AN5892)
NUCLEO-C031C6で動作するHAL APIサンプルコード(出展:AN5892)

初めはサンプルコードを詳しく理解する必要はありません。初期設定と無限ループの2つに分けて動作させれば、コード内容は自ずと判ってきます。ボード搭載デバッガは、ブレークポイント設定やRAM内容表示もできるので便利です。

関連投稿:組込み処理の基本のキ

4. 情報整理に役立つSTM32C0オンライントレーニング

STM32C0オンライントレーニングは、MCU開発情報の整理・習得確認に便利です。

但し、初めからこれらトレーニング資料を読むことはお勧めしません。おぼろげながらでも、開発全体像が見えた段階で、各資料読むと理解・整理が進むからです。前章サンプルコードを試した後がお勧めです。

サンプルコードやトレーニング資料は、エキスパートが作成します。残念ながらエキスパート作成資料は、初めての方には難解だと思います。

MCU習得も「習うより慣れろ」が当てはまります。案外簡単なことでも文章では難解さが強調されます。評価ボードとサンプルコードがあれば、とにかく動作が目視確認できます。

トレーニング資料は、動作目視後に頭の中を整理し、習得度を確認する際に便利と言えます。

Summary:STM32C0で最新32ビットMCU開発の短期習得

本稿は、最新汎用STM32C0を使って、回り道や障壁がなるべく低くなるMCU開発習得方法を示しました。

  1. 8/16ビット置換え用周辺回路厳選の低価格32ビットMCU:STM32C0
  2. デバッガとユーザLED/SW実装で入手性良いNUCLEO-C031C6評価ボード
  3. NUCLEO-C031C6で即実行できる多数の周辺回路サンプルコード
  4. 習得・情報整理に役立つSTM32C0オンライントレーニング

これらSTM32C0シリーズ特徴を持つ4つの開発環境を使うと、個人でも最新STマイクロ32ビットMCU開発の短期習得が簡単にできます。

Afterword:個人レベルスキル向上で老化日本対策

老化は、国レベルでも進行します。日本の少子・高齢化がもたらす2040年問題。全体同調意識の強い老化日本では、その対策は期待できません。

残る策は、個人レベルのスキル向上です。IoT MCU開発スキルは、激変技術世界でも生き残る有力策の1つと思います。


NTT Innovative Devices

2023年9月6日、IOWN光電融合技術の規格・設計・開発・製造・販売を行うデバイス製造新会社:NTT Innovative Devicesの記者会見がNTTブログに掲載されました。

新会社:NTT Innovative Devicesは、NTT研究所の光電融合部門と最先端光電子部品メーカ:NTTエレクトロニクスの2者を統合しました。

新会社NTT Innovative Devices(出展:記者会見記事)
新会社NTT Innovative Devices(出展:記者会見記事)

NTT Innovative Devicesは、光電融合デバイス市場をネットワークだけでなくコンピューティングへも広げること、そして次世代ネットワークの電力問題を解決するミッションを持ちます。

新会社NTT Innovative Devices

NTT Innovative Devices体制(出展:記者会見記事)
NTT Innovative Devices体制(出展:記者会見記事)

NTT Innovative Devicesは、光電融合デバイスの研究開発とデバイス製造、北米、欧州、ホンコンなど世界規模の販売が目標です。

会見で示された事業戦略も、実践的かつアグレッシブで、従来にない新しい研究・開発・製造・販売スタイルを持つ会社と言えます。

従来のNTTグループ企業とは異なる日本に固執しないビジネス展開が期待できそうです(関連投稿:日本固執Change)。

地球沸騰化の電力不足を救う光電融合デバイス

デジタル世界を支えるクラウドのデータ量がこのまま増え続けると、データセンター消費電力はさらに増加し、地球温暖化へ繋がります。参考資料:光電融合技術とは、2023年8月29日、NTTブログ。

国連グテーレス事務総長が示した危機感「地球沸騰化」は、絶対に避けなければなりません。

光電融合技術は、コンピュータやネットワーク内の電気処理と光処理を融合し、電力効率100倍、伝送容量125倍、エンドエンド遅延1/200が目標の革新的デバイス技術です(関連投稿:IOWN 1.0提供開始)。

IOWN特徴(出展:NTTサイト)
IOWN特徴(出展:NTTサイト)

Summary:低消費電力化はIoT MCUへも

個々の消費電力は僅かでも、世界中で莫大な投入数量が予想されるIoT MCU。

ネットワークによる電力不足や地球環境変化は、IoT MCU開発も影響を受ける可能性があります。MCU開発者は、処理効率だけでなく、低消費電力化を意識した開発も重要になりそうです。

コチラの投稿に、間欠的な無限ループ動作と空き時間SleepによりMCU消費電力を下げる基本動作を示しています。参考にしてください。

Afterword:今年の猛暑

今年の日本の夏は暑かった。未だ猛暑は続いていますが、異常気象は電力不足に直結します。

例えば、自動車排出ガス規制のように、地球規模のエネルギー危機は、我々MCU開発者へも低消費電力開発を義務化する動きに繋がるかもしれませんね。


HALとMCUソフトウェア開発

HAL:Hardware Abstraction Layer APIを使えば「MCUデバイスに依存しないソフトウェア開発」ができる。そこで、汎用MCUでプロトタイプソフトウェアを作り製品MCUを選択。これが、前投稿でした。
主題は、製品MCU選択方法です。

今回は、この方法の基になる「MCUデバイスに依存しないソフトウェア開発ができる」部分を、もっと具体的に説明します。

MCUソフトウェア開発の鍵HAL API

前投稿最後に示したSTM32デバイスとユーザアプリケーション移植性の両方を満たすHALスタック図を具体化します。

弊社STマイクロ関連テンプレートに採用したSTM32F0/F1/G0/G4デバイスとNucleo評価ボード、一般的なベアメタルソフトウェア開発を想定し作り直したHALスタック図が、下図です。UtilityやMiddlewareは使いませんので空白にしています。

User ApplicationとHAL間は、HALドライバを用います。例として、GPIO接続のLEDをトグル出力するHAL API関数:HAL_GPIO_TogglePin(LED_GPIO_Port, LED_Pin)で説明します。

ベアメタルソフトウェア開発のHALスタック図
ベアメタルソフトウェア開発のHALスタック図

HAL_GPIO_TogglePin(LED_GPIO_Port, LED_Pin)

STマイクロのHALドライバは、接頭語に必ずHAL_が付きます。ソース上も判別し易いです。

HAL_GPIO_TogglePin(xPort, yPin)は、MCU Port名xのPin番号yを使うGPIOに対して、トグル(HighからLow、またはLowからHigh)出力するドライバ関数です。

例えば、STM32G0評価ボード:Nucleo-G071RB実装ユーザLED:LD4は、PA5接続です。トグル出力は下記です。

HAL_GPIO_TogglePin(GPIOA, GPIO_PIN_5)   //物理GPIOポートA、5番ピンをトグル出力

STM32G4評価ボード:Nucleo-G474RE実装済みユーザLED:LD2も、同じくPA5接続ですので、全く同じHALソフトウェア記述で、ユーザLD2のトグル出力ができます。

Nucleo評価ボードBSP

Nucleo-G071RBとNucleo-G474REは、どちらも64ピンMCUパッケージで、たまたま同じ物理記述ポート名とピン番号が、ユーザLEDに接続済みでした。

しかし、一般的には開発MCUや評価ボードで異なるポートとピンへユーザLEDが接続されます。

そこで、物理記述GPIOAやGPIO_PIN_5と、評価ボードの論理記述LD2やLD4を結び付けるのが、BSP:Board Support Packageです。この結び付けにより、異なる物理記述ポート、ピン番であっても、同じ論理記述のDemonstrationやUser ApplicationでLEDを動作させることが可能になります。

具体例で示すとNucleo-G071RBのBSPは、STM32CubeIDEのmain.hに展開され、LD4関連は下記です。

#define LD4_GPIO_Port  GPIOA  //LD4_GPIO_Portを物理GPIOポートAと定義
#define LD4_Pin  GPIO_PIN_5     //LD4_Pinを物理5番ピンと定義

Nucleo-G474REのBSPは、LD2関連main.hが下記です。

#define LD2_GPIO_Port  GPIOA  // LD2_GPIO_Portを物理GPIOポートAと定義
#define LD2_Pin  GPIO_PIN_5     // LD2_Pinを物理5番ピンと定義

LD2とLD4の部分が異なります。BPSは、評価ボードのハードウェア毎に異なります。

各評価ボードのソースコードを読む時は、LD2やLD4と論理記述した方が、物理記述のGPIOAやGPIO_PIN_5よりも判り易いため、これらdefine文を使います。

評価ボード非依存ソフトウェアテクニック

評価ボード単位のソースコードを読む時は、実装中のLD2やLD4と論理記述した方が判り易いです。

では、様々な評価ボードで共通に動作するUser Applicationを開発する場合は、どうすれば良いのでしょうか?

答えは簡単です。論理記述をLD2やLD4から、より上位の論理記述へ結び付ければOKです。例えば、下記です。

#define BOARD_LED_PORT  LD4_GPIO_Port    //BOARD_LED_PORTをLD4_GPIO_Portと定義
#define BOARD_LED_PIN  LD4_Pin         //BOARD_LED_PINをLD4_Pinと定義

このように評価ボード単位のdefine文を、上位実装LEDや論理ピンへ再定義すれば評価ボード非依存のソフトウェアが開発できます。

define文は、開発者が、ソースコードを読み易くするための機能です。define文で再定義しても、コンパイル時に最終物理対象(GPIOAやGPIO_PIN_5)に置き換わるため、処理速度が遅くなるような弊害はありません。

STM32Cube MCU Packages Manager

さて、HALスタック図では1個のHALも、実はMCU毎に異なります。

このMCU毎に異なるHALを、STM32CubeIDEへ実装するツールが、STM32Cube MCU Packages Managerです。

MCU毎に異なるFirmware(HAL)をSTM32CubeIDEへ実装するSTM32Cube MCU Package Maneger
MCU毎に異なるFirmware(HAL)をSTM32CubeIDEへ実装するSTM32Cube MCU Package Maneger

STM32Cube MCU Packages Managerは、プロジェクトのハードウェア設定ファイル(icoファイル)を開いた状態で、Help>Manage Embedded Software Packagesで表示できます。上図は、STM32C0/F0/F1/G0/G4のPackage部分を抜粋しています。

このSTM32Cube MCU Packages Managerで、最新のFirmware Packageを開発に使うか、それとも、古いFirmware Packageを使うかが選択できます。上図は、STM32G0ソフトウェア開発に最新Firmware V1.6.1を開発に使うことを選択中の例です。

Firmware Package版数の訳

このMCU Firmware Packageが、HALの実体です。

例えば、STM32G0 Firmware V1.6.1は、旧Firmware V1.6.0と上位のUser Applicationに対しては同じHAL APIを提供しますが、その実体は、旧HALのバグ修正や販売中のSTM32G0 MCUに応じて中身が変わります。

つまり、このFirmware Packageが、MCU差や過去のHAL版に依存しないHAL APIを、User Applicationへ提供する仕組みそのものです。

MCU発売後、経過時間が長くなると、同一MCUでも多くのFirmware Package版が選択可能になります。

お勧めは、最新Firmwareです。

複数のFirmware版が存在する理由は、STマイクロがMCU供給を最低10年保証しているためです。新MCUパッケージ追加発売時は、新しいFirmware版で対応します。簡単に言うと、MCU開発履歴が版数に現れる訳です。

つまり、開発者が、顧客提供時Firmwareをそのまま継続開発に使いたい場合には、最新版だけでなく過去のFirmwareも選択肢になる訳です。

実際の選択は、icoファイルのProject Managerタブの一番下、Firmware Package Name and Versionで設定します。

Summary:HAL APIソフトウェア開発

BSPとMCU Firmwareによりハードウェア依存性が無いHAL APIsが提供
BSPとMCU Firmwareによりハードウェア依存性が無いHAL APIsが提供

MCUソフトウェアは、HAL APIを使うとMCUに依存しない移植性の高いUser Applicationソフトウェアの開発ができることを説明しました。

User ApplicationとHAL API間のハードウェア依存性を無くす手段として、評価ボード毎に異なるBSPや、MCU毎に異なるMCU Firmware Package(HAL)を用います。

汎用MCUを使ったHAL APIプロトタイプ開発ソフトウェアは、MCU変更に対して移植性が高いため、User Applicationソフトウェアの資産化も期待できます。

Afterword:MCU説明の難しさ

本稿の内容は、中級以上のMCU開発者にとっては、自明の理です。しかし、この自明の理を説明するのは、結構大変です。本稿も、説明不足の箇所が多々あります。

MCU開発では、この自明の理の部分が多いため、開発者レベルを上げる障壁は高くなります。例えて言うと、スマホが初めての方に、その取扱い方法を文書だけで説明するようなものです。

本稿は、STマイクロのHALを例に説明しました。これは、現在MCU毎に販売中の弊社STM32F0/F1/G0/G4テンプレートを、MCU共通のSTM32MCUテンプレートへ発展させる布石でもあります。

本稿内容が、すんなり判る開発者には、STM32共通MCUテンプレートは、多分不要(ご自分で開発できる)ですし、判らない方には、STM32共通テンプレートよりも個別STM32F0/F1/G0/G4テンプレートの方が使い易いと思っています。

今回のような長文は、筆者の苦手な分野です。が、時々は挑戦すべきと考えております。ご質問や判り難い箇所のご指摘も大歓迎です。読者の方々からのレスポンス、お待ちしております。