MCU更新情報取得方法と差分検出ツール

MCUプロジェクト開発中は、雑音に邪魔されず当面の課題解決に集中したいものです。しかし、MCU最新情報や開発ツール更新などは、いつ発生するかが不明で、開発中であってもこれらの情報把握は大切です。新情報が、課題解決の決め手になる可能性もあるからです。各ベンダーもこの最新情報提供のために便利機能を提供中です。

今回は、 STマイクロエレクトロニクス(以下STM)に追加された更新情報メール通知機能と、更新情報量が多い時に効率的に差分を検出するツール:DiffPDFを紹介します。

STM最新MCUと更新情報のメール通知機能

STMは、STM32マイコンマンスリー・アップデートを配布中です。月一回、MCU最新情報や資料の更新情報へ簡単にアクセスできます。ただし、マンスリー・アップデートは、全てのSTM32MCU更新情報を集約した言わばポータルサイトです。自分が開発中のMCU情報を含む場合もありますし、そうでない場合もあります。開発スケジュールが押し迫ると、当該重要情報や更新を見落とす事があるかもしれません。

そこで、自分の開発関連情報のみをピックアップし、コンテンツ更新時は毎週木曜日にメール通知する機能がSTMサイトに追加されました。設定方法を、STM32MCUコード生成ツール:STM32CubeMXのユーザマニュアル:UM1718を例に紹介します。

UM1718をお気に入りに登録
UM1718をお気に入りに登録する方法

STMサイトにアクセスし、UM1718で検索すると、右上に「お気に入りに登録>」ボタンが現れます。これをクリックし、「更新情報メールを受け取りますか?」に「はい」を選択するだけです。UM1718以外でも同様です。

更新情報がほしいページの「お気に入りに登録>」クリックで、マイページのお気に入り一覧に追加され、更新発生の木曜に一括してメール通知されます。削除も簡単です。

マイページのお気に入り一覧
マイページのお気に入り一覧、削除も簡単

マンスリー・アップデートよりも早く、しかも、自分の開発必須情報に絞った更新通知メールなので、更新イベントの見落とがなく便利です。

効率的に更新情報量をさばく

更新通知を受け取った後は、どこが変わったかを素早く把握したいものです。新しいSTM32CubeMX version 5のユーザマニュアル:UM1718 Rev 27全327ページを例に、更新箇所特定ツールDiffPDFを紹介します。

STM32CubeMXは、MCU処理スケルトンと周辺回路初期化処理Cソースを生成するツールです。周辺回路の設定はGUIで行い、STM32MCU開発の最初の一歩を踏み出す時に使います。2018年末、このSTM32CubeMXがversion5に更新されました。

STM32CubeMX v5は、v4にマルチパネルGUIを加えパラメタ設定をより容易に、さらに、MCU性能評価やシミュレーション機能なども追加されました。このSTM32CubeMXのユーザマニュアルがUM1718です。

既にSTM32CubeMXを使いこなしている方にとって、Rev 27の327ページは分量が多すぎます(初めてSTM32MCUを使う方は、UM1718を読むことをお勧めします。日本語版もありますが最新版和訳ではないことに注意してください)。このように改版資料の情報量が多い時は、DiffPDFが便利です。

2PDF資料を⽐較するDiffpdf Portable

Diffpdf Portableは、2つのPDF資料を比較し差分を明示するWindows 8.1用のツールで、Windows 10でも動作します。UM1718 Rev27とRev 25をCharactersで比較した例が下記です。

DiffPDF新旧UM1718比較結果
DiffPDFで新旧UM1718を比較した結果

マルチパネルGUI によりSTM32CubeMXのuser interfaceが大きく変わったことが一目で解ります。
※効率的に更新箇所、差分を見つけることに焦点を置きましたので、新しいSTM32CubeMX version 5の説明は、後日改めて行う予定です。

DiffPDFを使えば、どこが変わったかを素早く見つけられるので、ハイライト箇所のみを読めば短時間で内容把握ができます。その結果、更新内容が、現状課題の解決に役立つか否かの判断も早くできます。

まとめ

忙しいプロジェクト開発中であっても、MCU最新情報や開発ツール更新イベントは発生します。

STMサイトに追加されたお気に入り登録を使えば、自分の開発に必要情報の更新時のみ木曜メールで通知されるので、プロジェクト関連情報の変更イベントを見落としなく把握できます。

さらにDiffPDFを使えば、更新情報量が多くても、どこが変わったかが簡単に見つけられるので、更新内容がプロジェクトの課題解決に役立つか否かの判断が早くできます。

MCUのAI機能搭載

スマホの顔/指紋認証や、写真の高度処理などにAI機能(機械学習)が搭載され始めています。本稿は、AI機能搭載プロセッサ最新記事からルネサスマイコン:MCU関連を抜き出し、さらに、STマイクロエレクトロニクスのコード生成ツールSTM32CubeMXに追加されたAI機能拡張パックSTM32Cube.AIを紹介します。

ルネサスMCU AI機能の現状

2019年1月10日のEE Times Japanに、“2019年も大注目! 出そろい始めた「エッジAIプロセッサ」の現在地とこれから”が掲載されました。

MCUだけでなく、スマホ、車載などAI機能を処理するプロセッサ全般の現状分析と今後について、分かりやすく解説されています。AI機能の搭載は、一過性ブームではなくADAS(先進運転支援システム)やセキュリティなど更に多くの処理へ適用されると予想しています。

この記事で、昨年本ブログ投稿のRZファミリ搭載「DRP(Dynamically Reconfigurable Processor)」の現状(図1)と、7nm製造プロセス換算での性能比較(図5)が示されています。

関連投稿:NXPとルネサスのMCU開発動向、ルネサスのMCU開発動向の章

図1:AIプロセッシングを実行する演算器の関係(出典:テカナリエレポート)
図1:AIプロセッシングを実行する演算器の関係(出典:テカナリエレポート)
図5:7nmプロセスで製造した場合の性能(出典:カタリナレポート)
図5:7nmプロセスで製造した場合の性能。小さい程高性能。(出典:カタリナレポート)

日本オリジナルのルネサスAI IPが、公表通り推論処理能力1000倍の開発ロードマップで進めば、低コスト/低電力なMCU AI機能が実現できそうです。RZだけでなく、RL78やRX MCUへの搭載も期待します。

STM32CubeMXにAI機能拡張パックを提供

STMのコード生成ツールSTM32CubeMX version 5.0.1以降から、AI機能実装の拡張パックSTM32Cube.AIが2019年1月3日に発表されました。

Cortex-M4クラスの低電力MCUが前提ですが、ニューラルネットワークを使ったHuman Activity Recognition:人間活動認識(HAR)や、Acoustic Scene Classification:音響シーン分類(ASC)のアプリケーションに適しているそうです。

Human Activity Recognition (HAR)(出典:Neural Networks on the STM32)
Human Activity Recognition (HAR)(出典:Neural Networks on the STM32)
Audio Scean Classification (ASC)(出典:Neural Networks on the STM32)
Audio Scean Classification (ASC)(出典:Neural Networks on the STM32)

MCU AI機能の搭載

現状は、ルネサスはRZ、STMはCortex-M4と高性能MCUがAI機能の対象デバイスです。

例えば、スマホで指紋認証時、本人なのに認証されないとイラッ😡ときます。安全側評価で仕方がないとは思いますが、リアルタイムで結構な処理を行っているのでしょう。例外処理で、カメラ起動などは認証なしで動作させるなどの工夫が見られます。

AI機能は、このように相手が人間なだけにリアルタイムで高負荷な処理になります。MCUへのAI機能搭載は、このかなり高いハードルをこなせる処理能力が必要です。記事にもあるように、プロセス微細化による低コスト/低電力化や、開発環境を含めたベンダー側の対応が普及の鍵になるでしょう。

個人的には、AI機能の「アプリケーションレベルでのライブラリ化」を望みます。ベンダー側でMCU処理能力に応じてライブラリ内部を工夫し、開発者である我々は、MCU選択でAI機能レベル(誤認識率、深層解析能力など)も選択できれば嬉しいですね😁。

STM32G0とSTM32CubeMX 5.0ウェビナーのお知らせ

STM32G0とSTM32CubeMX 5.0ウェビナー
STM32G0とSTM32CubeMX 5.0ウェビナー(出典:STMサイト)

STM32G0とSTM32CubeMX 5.0のWebinarが、日本時間2019年1月24日、木曜午前3時から午前4時に開催されます。アジェンダは、下記です。

  • Overview of STM32 microcontrollers, with focus on the STM32G0
  • Key features and peripherals embedded in the STM32G0
  • Description of the STM32CubeMX 5.0 graphical software configuration and code generation tool
  • Demonstration of hands-on examples running on the STM32G0 developed with the full-featured, free-to-use Keil MDK for STM32G0 and STM32CubeMX 5.0

木曜勤務に差し支えるかもしれない深夜ですが、PCさえあれば誰でも無料で視聴できます(要ログイン)。

関連投稿:守備範囲が広いSTM32G0

1週間位待てば、STMサイトのビデオコーナーでいつでも見ることができようになるとは思いますが、新汎用MCU STM32G0とそのAPI開発ツールSTM32CubeMX 5.0の新鮮な情報、参加者主催者のQ&Aが直接聞ける機会ですので、お知らせします。

STM新汎用MCU STM32G0

2018年12月4日、STマイクロエレクトロニクス(以下STM)の公式ブログで新汎用MCU STM32G0、Cortex-M0+/64MHzを発表しました。以下の特徴があります。
※汎用=メインストリームと本稿では考えます。

新汎用STM32G0、Cortex-M0+/64MHz、メインストリーム90nmの特徴

STM32メインストリームMCU
STM32メインストリームMCU:STM32FxとSTM32G0の違い(出典:STM32 Mainstream)
  • 「メインストリーム初の90nmプロセスMCU」:従来メインストリームSTM32F0は180nmプロセス
  • 「ハイブリッド」:STM32L4(90nmプロセス)の低消費電力とSTM32F0のメインストリームの両方をハイブリッド
  • 「モアIO」:64ピンパッケージSTM32F071比較でIOピン9本増加、48ピンでもIOピン7本増加
  • 「単一電源供給」:PCBパターン設計が容易
  • 「セキュリティハード内蔵/非内蔵」:128/256ビットAES、セキュアブート、乱数発生器、Memory Protection Unit (MPU)
  • 「USB-C」: IPによりUSB-Type-C可能
  • NUCLEO-G071RB board」:低価格評価ボード提供中、「STM32G081B-EVAL board」:$382
STM32G0ラインナップ (出典:STM公式ブログ)
供給中の3種製品とSTM32G0ラインナップ (出典:STM公式ブログ)
STM32G0 Product Lines(出典:STM32G0 Serie Presentation)
STM32G0 Product Linesから3種製品の違いが解る(出典:STM32G0 Series Presentation)

STM32G0オンライントレーニング

データシートよりも解りやすいSTM32G0オンライントレーニング資料が多数あります(要ログイン)。

例えば、以下のような興味深い情報が得られます。各数ページの英文スライド形式ですので、STM32G0以外のMCUを使用中の方でも、チョットした空き時間に読めます。

  • STM32G0 Series Presentation:内蔵ハードウェアによりValue/Access/Access & Encryptionの3種製品特徴
  • ARM Cortex-M0+ (Core):Cortex-M0とM0+の差、Memory Protection Unit 説明
  • Safety:安全基準とその実現方法
  • Random Number Generator (RNG):アナログノイズに基づいた32ビット乱数発生
  • STM32G0 Boards:NUCLEO-G071RB board解説

STM32CubeMX V5.0.0

STM32G0のコード生成は、STM32CubeMX V5.0.0からサポートされました。

V4までと同じSW4STM32、TrueSTUDIO、両方のIDEで使えます。STM32CubeMX V5が提供するMCUファームパッケージで、本ブログ関連を抜粋したのが下表です。

STM32CubeMX V5.0.0提供MCUファームウェア版数
対象MCU firmware(評価ボード、STM32G0ボード暫定) 最新Version
STM32F1(STM32F103RB、Cortex-M3/64MHz V1.7.0
STM32F0(STM32F072RB、Cortex-M0/48MHz V1.9.0
STM32G0(V5で新設、STM32G071RB、Cortex-M0+/64MHz V1.0.0

STM32Fxテンプレートでも使用中のHAL(Hardware Abstraction Layer)ライブラリでコード生成すれば、STM32F1、STM32F0とSTM32G0間で、流用/応用が容易なソフトウェア開発ができると思います。

まとめ

新発売のSTM32G0は、90nmプロセス初のメインストリーム汎用MCUです。一般的に製造プロセスを微細化すれば、動作クロックが高速になり電力消費も低下します。さらに、STM32G0は、Cortex-M0より性能が向上したCortex-M0+コアの採用により、Cortex-M3のSTM32F1クラスに並ぶ高性能と超低消費電力動作をハイブリッドした新汎用MCUと言えます。

周辺回路では、IoTで懸念されるセキュリティ対策をハードウェアで実施、IOピン数増加、PCB化容易、USB-Type Cインタフェース提供など、各種IoTエッジMCU要求を満たす十分な魅力を持つMCUです。

競合するライバルMCUは、Cortex-M0+のNXP S32K116/S32K118(2018/7発売)などが考えられます。

関連投稿:NXP新汎用MCU S32K1

SLA (Software license Agreement)

STマイクロエレクトロニクス(以下STM)のSTM32マイコン マンスリー・アップデート2018年8月 P4のコラムに、ソースコード生成ツールSTM32CubeMXのSLA(Software license Agreement)変更が記載されています。

SLAとは

SLAは、ソフトウェア利用(または使用)許諾契約(きょだくけいやく)のことです。ウィキペディアに詳しい説明があります。

コラム記載の新しいライセンスが、SLA0048 – Rev 4 – March 2018です。この新ライセンス中にSTM32CubeMXで検索してもヒットしませんし、法律文言の英文解釈能力も持ち合わせていませんので、コラムをそのまま抜粋します。

「マイコンに書き込まれた状態であれば著作権表示などは不要だが、それ以外の状態であればソースコード、バイナリいずれも著作権表示などは必要」になりました。

STM32CubeMXでHALを使ってソースコードを生成すると、ソースコードの最上部に下記コメントや、その他の部分にも自動的にコメントが挿入されます。

STM32CubeMX生成ソースコード
STM32CubeMX生成ソースコード(STM32Fxマイコンテンプレートの例)

要するに、新SLAは、これらSTマイクロエレクトロニクス提供ツールSTM32CubeMXが自動挿入したコメントを、我々開発者は、勝手に削除してはいけない、と言っているのだと思います。

IDE付属ソースコード生成ツール

マイコンのソースコード生成ツールは、STM32CubeMX以外にも、各社のIDE(統合開発環境)に付属しており、

  • ルネサスエレクトロニクス:コード生成
  • NXPセミコンダクターズ:SDK、Processor Expert
  • サイプレス・セミコンダクター:Generate Application

などがあります(固定ページのAPI生成RADツール参照)。これらツールが自動生成するソースコードには、開発者が解りやすいように多くのコメントが付いています。

殆どのIDE付属エディタは、最上部の著作権関連コメントを畳んで表示することが可能ですし、これらコメントは、コンパイル後、つまりマイコンに書き込まれる状態では削除されますので、普段は注意を払わない開発者が殆どだと思います。

これらコメントも、STM32CubeMXと同様、各社のSLA違反になる可能性がありますので、生成ソースコードでのコメント削除はせず、オリジナル出力のまま使うことをお勧めします。

マイコンテンプレート

弊社販売中のマイコンテンプレートも、上記コード生成ツールのソースコード出力は、そのまま使っております。

マイコンテンプレートの版権は、ご購入者様個人に帰属します。但し、テンプレートそのものの転売、配布はご遠慮ください。お願いいたします。🙏

マイコンテンプレート活用プロトタイピング開発(4)

マイコンテンプレートへ機能を追加するには、既に枠組みが出来上がっているテンプレートへ、追加機能名のファイルを新規作成し、追加機能をこのファイル内で記述、テンプレートのLauncher()で起動すれば完成です。長文であった第3回を、一口で言えばこうなります(トホホ… Orz)。

Basic Form of Embedded Software (Initial Setting and Repetitive)
無限ループ前に1回実行する初期設定処理と、無限ループ内の繰返し処理の2つから構成される「組込みソフトの基本形」

これは、Arduino IDEの新規作成ファイル画面です。このsetup()とloop()の構造は、Arduinoに限らず全ての「組込みソフトの基本形」です。つまり、無限ループ前に1回実行する「初期設定処理」と、無限ループ内の「繰返し処理」の2つから構成されます。

弊社マイコンテンプレートもこの基本形に則っています。但し、機能追加がし易いように、無限ループがLauncher()に変形し、複数のユーザ関数を起動できるように工夫しているだけです。

従って、最も安直(!?)な機能追加の方法は、追加機能のサンプルソフトを見つけることです。あとはテンプレートのLauncher()でこのサンプルソフトを起動すれば、テンプレートへ機能追加ができるのです。

今回の目標は、テンプレートへのSDカード機能の追加です。そこで、このSDカード機能追加に最適と思うサンプルソフト:Developing Applications on STM32Cube with FatFs:UM1721を解説します。

UM1721: Developing Applications on STM32Cube with FatFs

2014年6月版 UM1721では、STM32Cubeと記述されていますが、これはSTM32CubeMX(以下CubeMX)のことです。また、STM32F4xxとSTM32CubeF4で記述されていますが、全てのSTM32デバイスとCubeMXに置換えて読めば使えます。

FatFsは、ユーザアプリケーションと下層HAL(Hardware Abstraction Layer)の間で機能するミドルウェアで、主目的は、開発するアプリケーションが読書きするデータと、物理ストレージファイルの割付(領域管理)です。パソコンなどでは、本来WindowsなどのOSが行う機能を代行するのがFatFsと考えれば良いでしょう。また、FatFs自体はMCUハードウェアには依存しないので、本稿STマイクロエレクトロニクス以外のマイコンでも使えます。

FatFs Middleware module architecture (Source:UM1721)
FatFs Middleware module architecture (Source:UM1721)

もっと知りたい方は、UM1721の2章までに詳しく記述されています。本投稿は、FatFsを使うサンプルソフトが目的ですので読み進めると、3.3のサンプルソースが見つかります。

FatFsサンプルソフト

FatFs Sample Software (Source:UM1721)
FatFs Sample Software (Source:UM1721)

懇切丁寧なサンプルソフトとは言えませんが、必要最低限で記述しているのでしょう。一見、組込みソフトの基本形と違うと思われるかもしれませんが、初期設定処理はCubeMXが自動生成し、別の場所にソースコードを出力するため(おそらく)省略しています。また、ファイルアクセスは低速なので、繰返し回数を1で処理すると考えれば、このサンプルソフトも基本形に則っています。

サンプルソフトから、FatFsを使うAPI(Application Programming Interface)が5種、FatFsとLow Level Disk I/O Driversをリンクする2種のAPIを使えば、SDカードへの読書きができることが解ります。
※書込み:f_write()を、f_read()に置換えれば読込みができます。

FatFsサンプルソフトで使用するAPI
用途 API
FatFsとアプリケーション間

f_mount()

f_open()

f_close()

f_read()

f_write()

FatFsとLow Level Disk I/O Driversリンク間

FATFS_LinkDriver()

FATFS_UnLinkDriver()

FatFsサンプルソフトAPI動作テスト

このサンプルソフトを、第3回で使用したレファレンスプロジェクトへ挿入し、各APIの動作を確認します。

FatFs Sample API Test Source
レファレンスプロジェクトへ挿入したFatFsサンプルソフト。

結果は、FatFsとアプリケーション間5種全てのAPIで正常動作が確認できました。つまり、レファレンスプロジェクトでは、このサンプルソフトを使いSDカードへの読書きができます。その結果、SDカードへwtext[] = “text to write logical disk”のデータを、ファイル名STM32.txtとして保存できました。

FatFs Write Test to SD Card
FatFsサンプルソフトを使い、SDカードへ書込んだファイルSTM32.txtと書込みデータ。

レファレンスプロジェクトは、Low Level Disk I/O Driversリンク側のAPI相当を、エキスパートが自作しているのでコメントアウトしています。

STM32CubeMXでFatFs機能追加

第3回と同様、シンプルテンプレートをRenameし、機能追加用のSPI1FatFs_Sdプロジェクトを作成し、CubeMXでSPI1とFatFs機能を追加します。また、SdCard.cファイルを作成し、この中に前章で動作確認したサンプルソフトを挿入します(プロジェクトやファイル作成の詳細は、第3回を参照)。

FATFS and SPI1 Functions Add by STM32CubeMX
STM32CubeMXでFATFSとSPI1を追加。SPI1のピン割付は、実装シールド基板に合わせている。

Launcher()からサンプルソフトを起動し、1回のみ処理するように変更を加え、レファレンスプロジェクトと同様各APIのリターン値を確認しましたが、f_open()以降で正常動作しません。

初期設定処理を自動生成するCubeMXのFatFs設定に間違いが無ければ、SPI1FatFs_SdプロジェクトでもユーザデータをSDカードへ読書きできるハズです。UM1721には、FatFsの設定記述がないので、CubeMXのFatFsデフォルト設定にしましたが、お手上げです。

そこで、STM Communityを検索すると、例えばコチラのように現在のCubeMXのFatFsにはバグがあるようです。対策もCommunityにありますが、STMもバグ状況を把握していますのでCubeMXの改版を待つ方が良さそうです。

*  *  *

サンプルソフト自体は、レファレンスプロジェクトで動作確認済みです。CubeMXのFatFs初期設定生成に問題があることは間違いありません。つまり、組込みソフト基本形の初期設定以外の半分(50%)の処理をUM1721から獲得できたと言えます。

Tips: 動作サンプルソフトは、FatFsがMCUハードウェアに依存しないので、他社マイコンでも使えます。獲得した50%処理は、適用範囲が広いものです。

対策としては、STMによるCubeMX改版を待つこと、レファレンスプロジェクトからFatFs関連の初期設定を抜き出すこと、の2つあります。後者については、検討中です。

STM32マイコンへ深層学習実装、「走る」「歩く」動作判断

日刊工業新聞3月7日電子版掲載の日本で2桁成長を狙っているSTマイクロエレクトロニクス、このSTMが、STM32シリーズマイコンへディープニューラルネットワーク:DNN(深層学習)を実装し、マイコンの「走る」「歩く」状態を正確に判断するデモを展示しました。

STM32F7(Cortex-M7)搭載時計でユーザ動作を正確に判断(記事より)
STM32F7(Cortex-M7)搭載時計でユーザ動作を正確に判断(記事より)

マイコンDNN実装の3課題と解決ツール

記事によるとSTM32マイコンへDNNを実装する時の3つの課題、

  • マイコン実装のためのコードサイズ実現
  • ソフトウェア最適化
  • マイコンとクラウドの相互運用性

解決のため、STM32CubeMx.AI(現在αバージョンで2018年後半リリース予定)ツールを使うそうです。

このSTM32CubeMx.AIは、STM32CubeMXの機能拡張版だと思います。
現在のSTM32CubeMXも、全てのSTM32シリーズで共通に使えるAPIを自動生成します(STM32CubeMXのTipsはコチラの投稿も参照)。機種共通API生成とソフトウェア最適化は、既にSTM32CubeMXでも実現済みです。

従って、弊社STM32Fxテンプレートも、STM32CubeMXを使えばSTM32シリーズ全般にテンプレートが適用できるハズです(STM32F0とSTM32F1のみ実機検証済み。APIが共通なので機種差は、インクルードするヘッダーファイルなど数点のみ。他機種は未検証です念のため…)。

※STM32マイコンの開発環境は、弊社ブログのカテゴリで、“STM32マイコン”をクリックすると投稿がカテゴライズされ読みやすくなります。投稿ページの初めの方に開発環境構築方法などの投稿が集まっています。

STM32マイコン重点分野

電子版によるとSTM32マイコンは、自動車、産業用、スマートホームなどのIoT分野を重点にして市場拡大を狙うそうです。STM32マイコンに、上記クラウドAI技術が適用され、その開発環境の使い勝手も良いとなると、かなり期待ができます。

STM32Fxテンプレート発売

2016年MCUシェア第5位のSTマイクロエレクトロニクス(STMicroelectronics、本社スイス)のSTM32F0:Cortex-M0とSTM32F1:Cortex-M3向けのテンプレートを開発しましたので、販売開始します。従来テンプレートと同額の1000円(税込)です。

STM32Fxテンプレートの特徴

STM32Fxテンプレート構成
STM32Fxテンプレート構成
  • Cortex-M0とCortex-M3両コア動作のテンプレート
  • 移植性、可読性が高いHALドライバを使ったので、他コアへの流用、応用性も高い
  • カウントダウンループを使ったCortex-M系コードテクニックで開発

従来テンプレートは、ARM Cortex-M0/M0+とルネサスS1/S2/S3コアが対象でした。

つまり、8/16ビットMCUの置換えを狙ったCortex-M0/M0+と、RL78汎用MCUへテンプレートを供給していました。しかし、IoTの通信処理や要求セキュリティを考慮すると、より高性能なMCUも視野に入れた方が良いと感じていました。また、Cortex-M3デバイスの低価格化も期待できます。

初めてCortex-M3のSTM32F103RB:NUCLEO-F103RBへもベアメタルのテンプレートを開発したのは、以上のような背景、理由です。

ST提供のHAL:Hardware Abstraction Layerドライバは、移植性、可読性が高く、Cortex-M0/M3両対応のテンプレートも簡単に開発できました。Cortex-M3よりもさらに高性能なMCUが、ベアメタル開発を行うかは疑問ですが、HALを使ったので適用できると思います。

動作確認評価ボードは、STM32F072RB:Cortex-M0/48MHzとSTM32F103RB:Cortex-M3/64MHzですので、これはあくまで私見、見込みですが…、HALドライバならば問題なく適用できるハズです。

HALドライバ作成にSTM32CubeMXを使うと、異なるコア動作速度(M0:48MHz、M3:64MHz)でも、同じ周辺回路ならば、同じHAL APIが使えます。

今日現在、このSTM32CubeMX周辺回路のGUI設定に関する詳しい資料が見当たりません。そこで、テンプレート添付資料では、テンプレートのSTM32CubeMX設定方法や、SW4STM32開発ヒントやTipsなど開発に役立つ情報を満載しています。初めての方でもSTM32MCUの開発障壁を低く出来ます。

また、本テンプレートをプロトタイピング開発に使って、MCU性能の過不足を評価するのも便利です。ボードレベルでピンコンパチなSTM32 NUCLEO評価ボードですので、評価ボード単位の載せ替え/交換も可能です。

さらに、デクリメントループを使ってループ終了を行っているなど、Cortex-M系のコード作成にも注意を払いました。

*  *  *

マイコンテンプレートサイトへ、STM32Fxテンプレートを掲載します(9月2日追記:サイト更新完了しました)。
添付資料のP1~P3、もくじの内容を掲載しております。P1~P3は、資料ダウンロードが可能です。STM32Fxテンプレートをご購入の上、是非、ご活用ください。

STM32CubeMXの使い方Tips

STM32CubeMXは、STM32Fxマイコンのコード生成ツールとして良く出来ています。但し、現状1つ残念なことがあります。HAL:Hardware Abstraction Layerに加え、BSP:Board Support Packagesをドライバとして出力しないことです。そこで、現状のHALドライバのみ出力に対策を加えます。

STM32CubeMX
STM32CubeMX

STM32Fxファームウエア構成

STM32Fx Software Structure
STM32Fx Software Structure

STM32Fxファームウエア構成が上図緑線の個所です。STM32Fxマイコンサンプルソフトは、使用するファームウエアライブラリに応じて、Low Layer examples、Mixed HAL & Low Layer examples、HAL examplesの3種類あります。

各ファームウエアの差や、サンプルソフトの場所は、以前記事で解説しました。ここでは、STM32F0からSTM32F1へのポータビリティが最も高いHALライブラリ(=ドライバ)を使うサンプルソフト:HAL examplesに的を絞って解説します。

HAL Examples

このサンプルソフトの優れた点は、評価ボード実装済みの青SW(USER Blue)と緑LED(LD2)のみで全てのサンプルソフト動作を確認できることです。SW入力と、LED点滅間隔を変えることで、正常/NG/入力待ちなど様々なサンプルソフトの動作状態を表現します。

この青SWと緑LEDを制御するには、GPIO定義とHALライブラリを組合せた一種のサブルーティンがあると便利です。このサブルーティンが、BPS:Board Support Packagesです。例えば、下記などです。

BSP_LED_On()、BSP_LED_Off()、BPS_LED_Toggle()、BPS_PB_GetState()

BSP_が先頭に付いているので、一目で評価ボード実装済みの青SWや緑LEDを制御していることが判りますし、HALライブラリを使って表現するよりも、可読性もより高まります。BPSの中身は、HAL自身ですので、Drivers層のBSP、HALともに同じ黄緑色で表示しています。

HAL exampleは、これらBSPとHAL両方を使って記述されています。

STM32CubeMX

STM32CubeMXは、最初に使用する評価ボードを選択後、コード生成が行えます。

STM32CubeMX Board Selector
STM32CubeMX Board Selector

但し、生成コードに含まれるのは、HALドライバのみです。BSPは、HALサブルーティンですので、自作もできますが、評価ボードを選択するのですから、せめてHALのみか、それともHALとBSPの両方をドライバとして出力するかの選択ができるように改善してほしい、というのが私の希望(最初に言った現状の残念なこと)です。

もしHALとBPSドライバ両方がSTM32CubeMXで出力されると、多くのHAL Examplesを殆どそのまま流用できるメリットが生じます。HAL Examplesは、残念ながらエキスパートの人手で開発したソースですが、これを自動コード生成の出力へ、より簡単に流用できる訳です。

STM32CubeMX出力ファイルへのBSP追加方法

BSPドライバを自動出力しない現状のSTM32CubeMXで、上記希望をかなえる方法は、簡単です。

STM32CubeMX出力ファイルへのBSP追加
STM32CubeMX出力ファイルへのBSP追加

手動でBSPのstm32f0xx_nucleo.cとstm32f0xx_nucleo.hをSTM32CubeMX生成プロジェクトのSrcとIncフォルダへコピーし、main.cのL43へ、#include “stm32f0xx_nucleo.h”を追記すればOKです。
※stm32f0xx_nucleo.c/hは、\STM32Cube\Repository\STM32Cube_FW_F0_V1.8.0\Driversにあります。

たとえSTM32CubeMXで再コード生成しても、stm32f0xx_nucleo.c/hはそのままですし、追記した部分もそのまま転記されます。この方法で、HAL Examplesの流用性が向上します。

HAL Examplesを読むと、周辺回路の細かい設定内容が解ります。この設定をそのままSTM32CubeMXに用いれば、周辺回路の動作理解が進み、さらに自動コード生成ソースへ、Examplesソースをそのまま流用できるので、評価ボードでの動作確認も容易です。

まとめ

現状のSTM32CubeMXは、BSPドライバを出力しません。対策に、手動でBSPドライバを追加する方法を示しました。これによりエキスパートが開発したサンプルソフトを、より簡単に自動生成ソフトへ組込むことができます。

開発中の弊社STM32Fxテンプレートも、サンプルソフトを流用/活用が使いこなしのポイントです。そこで、このBPSを組込む方法をSTM32Fxテンプレートへも適用し、サンプルソフト流用性向上を図っています。

評価ボードNUCLEO-F072RB/F103RBのピン選択指針

STマイクロエレクトロニクスの評価ボード、NUCLEO-F072RBやNUCLEO-F103RBを使って、ボード外部と接続する際の、ピン選択に関する指針を示します。

NUCLEO-F072RBの外部接続ピン
NUCLEO-F072RBの外部接続ピン

評価ボードのピン配置とSTM32CubeMXのピン選択

評価ボードには、外部接続用のピンとしてArduinoピン(ピンク色)と、NUCLEOボード独自のMorphoピン(青色)があり、Morphoピンの一部は、Arduinoピンと共用(赤囲み)です。2つの黄色マークは後述します(評価ボードのユーザマニュアルは、コチラを参照)。

Arduinoピンは、メスコネクタ、一方Morphoピンは、オスコネクタを使っており、ブレッドボードや弊社マイコンテンプレートで使うBaseboardとの接続には、Arduinoピンを使いオスーオス結線が便利です(Baseboardやオスーオス結線のメリットはコチラの記事を参照)。

評価ボードNUCLEO-F072RB (=STM32F072RB)やNUCLEO-F103RB (=STM32F103RB)を使う時のコード生成ツールが、STM32CubeMXです(STM32CubeMXはこちらの記事などを参照)。

STM32CubeMXは、MCUパッケージイメージから使用ピンを選択、設定します。色付きピンは、既に評価ボードで使用済みのピン、灰色ピンが未使用ピンです。

例えば、灰色ピンのPB7は、I2C 1_SDA~GPIO_EXIT7までの広い範囲で自由に機能を設定可能です。

STM32CubeMXのピン選択
STM32CubeMXのピン選択

STM32F072RBとSTM32F103RBは、どちらもLQFP64パッケージでピンコンパチです。緑色のB1 [Blue Push Button] :PC13と、LD2 [Green LED] :PA5の2ピンを評価ボードで使用しますので、前述の評価ボード接続ピンに、既に使用済みという意味で黄色マークを付けました。

長くなりましたが、ここまでが、前置きです。これらの前置きを知ったうえで、STM32CubeMXで自由に設定できる灰色ピンの内どれを使うと、効果的な評価ボード開発ができるのかを明らかにするのが本記事の目的です。

STM32CubeMXのピン選択指針

STM32F072RBやSTM32F103RBのソフト開発の場合、最初にSTM32CubeMXで使用ピンを決め、コード生成をします。もちろん使用ピンは、コード生成後も変更できますが、変更のたびに再コード生成が必要です。再コード生成の手間は、できれば避けたいです。

こんな時、ピン選択の指針があると便利です。

前置き情報から、Arduinoピンを使うと、ブレッドボードやBaseboardとの接続が、オスーオス結線で簡単、市販Arduinoシールドも使えることが判ります。そこで、Morpho ピンで、Arduinoピンと共用しているピンを昇順に抜粋すると、下記になります。

GPIOA:            PA0/PA1/PA2/PA3/PA4/PA5/PA6/PA7/PA8/PA9/PA10
GPIOB:            PB0/PB3/PB4/PB5/PB6/PB8/PB9/PB10
GPIOC:            PC0/PC1/PC7/PC9

GPIOAが多数ですが、Arduinoピン名をみるとA0などのアナログ入力ピンとの共用が多いので、デジタル入出力と思われるD0~D15での共用が多いGPIOBから先に割り当てる方針を立てました。

BaseboardとのLCD接続

この方針でBaseboardのLCDと接続し、LCD出力した例を示します。本方針が、LCD接続では有効であることが判ります。

NUCLEO-F072RBとBaseboard接続しLCD出力
NUCLEO-F072RBとBaseboard接続しLCD出力

まとめ

開発中のSTM32Fxマイコンテンプレートは、テンプレート応用例としてシンプル/Baseboardテンプレートの2つを添付します。シンプルテンプレートは、評価ボード単体で動作しますので、使用する外部接続ピンに悩む必要はありません。

Baseboardテンプレートは、評価ボードとBaseboardを接続して動作させますので、効果的な接続方法として、評価ボード外部接続ピンの選択指針を検討しました。

デジタル接続なら、Arduinoピンとのデジタル共用が多いGPIOBから選択し、アナログ接続なら、GPIOAから選択する指針を示し、この指針に基づいてBaseboardのLCDと接続し出力を確認しました。

追記

評価ボードのArduinoとMorphoの共用コネクタ部分の回路図を抜粋したのが下図です。

NUCLEO64 Boardのコネクタ回路図
NUCLEO64 Boardのコネクタ回路図(ユーザマニュアルより)

評価ボード裏面のジャンパー(回路図のSBxxなど)を、工夫(オープン/ショート)すると、ArduinoピンとMorphoピンの共用ピンをさらに変更できることが判ります。よく考えられた評価ボードです。