ベアメタルかRTOS開発か?

弊社MCUテンプレートご購入者様から、ベアメタルかRTOS、どちらの開発が良いかについてご質問がありました。
ご質問者同意を得ましたので、筆者回答を一部修正、抜粋して示します。

Summary:クラウド接続=RTOS開発、スタンドアロン=ベアメタル開発

RTOS vs. BareMetal
RTOS vs. BareMetal

AWSやAzure RTOSなどのクラウドへ接続するMCUは、RTOS(FreeRTOS/Azure RTOS)開発が必須です。クラウド接続やセキュリティ確保に、専用RTOSライブラリ利用が必要だからです。また、大規模、複数開発者の場合も、RTOS開発が向いています。

スタンドアロン動作のMCUは、ベアメタル開発をお勧めします。MCU動作を全て開発者で管理・制御できるからです。

ベンダ提供サンプルコードとMCU評価ボードを活用すると、ベアメタル/RTOSどちらの開発でも、高品質・短期間で製品のプロトタイプ開発ができます。弊社MCUテンプレートは、サンプルコード活用プロトタイプ開発に適しています。

クラウド接続MCU:割込みベースRTOSタスク開発

AWS (Amazon Web Services)やAzure (Microsoft Azure Cloud Services)へ接続するMCUは、クラウド接続用に、FreeRTOSやAzure RTOS接続ライブラリの利用が前提条件です。また、高度なセキュリティ対策が求められますので、クラウド側提供セキュリティライブラリを使うことも求められます。

従って、クラウド接続MCUは、必然的にRTOS開発となります。

通信やセキュリティ以外の処理は、タクス(スレッドとも言うが、以下タスクと略)の開発が、ユーザ開発内容です。

タスクは、移植性が高い単位に機能分割し、割込みベースで作成します。複数タスクの割込み処理や優先順位を管理・処理するのが、RTOSの役目です。

RTOSが優先順位に基づいて個々のタスクをMCUに割当てることで、複数タスクの並列処理が進みます。シングルコアMCUの場合、一度に実行するタスクは1個です。従って、タスクは時分割処理です。分割タイミングが短く、しかも優先順位に基づいたタスク処理ですので、複数タスクが並列処理しているように見えます。

タスクは、別タスクのことを考慮せず独立性、移植性高く開発可能です。その代償として、RTOSが複数タスク間優先制御を行うセマフォ/ミューテックス/イベントフラグなど、また、タスク間通信を行うメッセージバッファ/メールボックスなどのRTOS独自機能を、開発タスクに組込む必要があります。

関連投稿:RTOS習得

移植性や独立性が高い開発済タスクは、ベアメタル比、ソフトウェア資産として他プロジェクトへもそのまま使えるメリットがあります。また、ソフトウェア規模が大きく、複数開発者で共同開発する時も、機能完全分離RTOS開発の方が優れると言われます。

スタンドアロンMCU:ポーリングベースベアメタル開発

RTOSが行う周辺回路の割込み処理や優先制御を、全てユーザが行うのがベアメタル開発です。

但し、デバッグや処理開発のし易さを考慮すると、ポーリングベース開発をお勧めします。

つまり、周辺回路の割込みフラグを、一旦、割込み処理待ちフラグへ置換え、この割込み処理待ちフラグをポーリングすることで処理を実行する方法です。割込み処理待ちフラグは、RAMへ展開されますので、開発処理もRAMフラグで制御でき、割込みを直接扱うよりも単体デバッグが容易になります。

ベアメタル開発は、単体デバッグ済みの複数処理を、MCU全体で上手く実行する制御部分も必要です。弊社ベアメタルMCUテンプレート英語版MCUテンプレートは、この制御部分を提供します。

サンプルコード活用プロトタイプ開発

サンプルコード活用プロトタイプ開発
サンプルコード活用プロトタイプ開発

RTOSはタスク、ベアメタルは周辺回路制御のソフトウェア開発が必要です。

但し、ベンダは、周辺回路制御の参考となるソフトウェアを、サンプルコードとしてMCU評価ボードと共に提供します。サンプルコードは、ベンダ専門家が開発した評価ボード動作確認済み高品質コードですので、これをユーザが利用しない手はありません。

現在サンプルコードは、ベアメタル用のものが殆どです。しかし、RTOSタスク開発へも応用できます。サンプルを上手く利用することで、0から開発するよりも、短時間でソフトウェア開発ができます。

また、評価ボードMCU周りの部品配置やアートワーク配線は、処理性能過不足時のMCU交換や耐ノイズ性が高いハードウェア開発の参考書になります。

MCU開発を高品質・短期間で行うには、サンプルコードとMCU評価ボードを活用し、製品プロトタイプ開発がお勧めです。プロトタイプから製品へフィードバックをかければ、より良い製品化が可能です。

Afterword:ベアメタル開発からRTOSへステップアップ

IoT MCU開発者スキルの階層構造
IoT MCU開発者スキルの階層構造

Windowsアプリ開発時は、Windows APIの利用は当たり前です。多くの解説書もあります。

IoT MCU開発時も、FreeRTOSやAzure RTOSが当然になると思います。ただMCU開発には解説書が少なく、その理解には基礎知識が必要です。基礎がグラつくと、その上の積み重ねは非常に困難です。

MCU開発の基礎は、ベアメタル開発です。IoT普及でRTOS MCU開発も増えます。IoTに向けてRTOSを勉強しようと考える方も多いと思います。その場合は、ベアメタル開発の何をRTOSが代行し、何が得られ、何を失うか、RTOSオーバーヘッドはどの程度かを考えながら学習すると、より効率的にRTOS習得ができます。

例えば、RTOS開発には、セマフォやミューテックスなどのベアメタル開発に無い多くのRTOS機能を新に学ぶ必要があります。しかし、よく使う機能は少数です。ご自分のベアメタル手法を代行するRTOS機能から学び始め、それでも足りない機能はRTOS側に用意されていますので、順次増やしながらタスクを開発して行くと良いと思います。

ソフトウェア開発は、AI Copilot出現で激変への過渡期です。数年後には、ライブラリ組み換え作業などへ開発が変わり、不足がちなMCU開発解説もAIが代行してくれるかもしれません。

そんな全能AI過渡期でも、ご自分自身で獲得した基礎の重要性は、変わらないと筆者は考えます。


RA用FSP v5.0.0 e2 studio 2023-10リリース

2023年10月28日、RA用FSP v5.0.0同梱e2 studio 2023-10がGitHubからリリースされました。FSP、e2 studioどちらも最新版です。また、10月16日に18年ぶりにバージョン5となったMCU開発必須ツール:Tera Term 5.0も、GitHubにあります。

本稿は、これらソフトウェアダウンロード先(=repository)のGitHubについて説明します。

また、GitHub公開の最新FSP v5.0.0、e2 studio 2023-10、Tera Term 5.0を使った評価ボード動作例も示します。

※今週金曜は、休日(文化の日)のため、木曜に先行投稿しています。

GitHub主要3機能

GitのWebサービス版がGitHubです。※Hubは、集約点という意味。

Gitは、Linux上で「複数ソフトウェア開発者」向けの支援ツールです。複数開発者が、1つのプロジェクトを、別々の場所・作業時間で共同開発する時に便利な機能を提供します。

Gitの主要機能が、フォーク、プルリクエスト、マージの3つです。

フォーク(=派生)は、レポジトリソースコードを派生利用し、別ソフトウェアを開発する際に、オリジナルコード所有者へ通知する機能です。

プルリクエストは、レポジトリソースコードの変更を、プロジェクト開発者へ通知、マージは、プルリクエストを受けた開発者が、変更を承認するか否かの通知機能です。承認時は、変更コードがプロジェクトへマージ(=統合)されます。

Linuxツールですので、CUI(キャラクタ ユーザ インタフェース)です。複数開発者が、地球上の離れた場所・作業時間であっても、ソフトウェア開発が上手くできる仕組みをGitが持つことが判ります。

また、ソースコードをレビューするコミュニティもあります。質の高いコード作成に役立つそうです。このコミュニティに、AI活用が最近話題です。AIを使わない時と比べ、開発速度57%、タスク完遂率27%上昇など驚きの効果が報告されています。

これらGit機能を、クラウドで提供するのが、GitHubです。2023年のユーザ数は、1億人突破だそうです(Wikipediaより)。

参考資料:GitHubとは? Digital Business Sherpa (2023-08-02)

GitHubソフトウェア公開機能

GitHubのもう1つの機能が、ソフトウェア公開です。この例が、最初に示したRA用FSP v5.0.0同梱e2 studio 2023-10やTera Term 5のリリースです。

exeファイルが直接ダウンロードできます。zipファイルダウンロードが主流のWindowsと異なる点です。

最新版RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10のGitHubレポジトリ
最新版RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10のGitHubレポジトリ

Latestアイコンが最新版を示します。Release Notes内にダウンロードリンク、下方にあるAssetsが、実際の公開ファイルを示します。

Summary:ワールドワイド開発標準ツールGitHub

筆者は、 パーティションもない大部屋で近隣同僚と、または、1人でソフトウェア開発をしてきました。Git主要3機能は、口頭で同僚へ伝えるか、1人開発時は不要でしたので、実際にGitHub活用経験はありません。

しかし、ワールドワイドやリモートワークでの複数人ソフトウェア開発時は、GitHubが標準ツールです。普段はソフトウェアダウンロード先としてGitHubを利用している開発者も、その仕組みを知っていると今後役立つと思います。

Afterword:RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10 & Tera Term 5動作

GitHub公開のRA用FSP v5.0.0、e2 studio 2023-10とTera Term 5を使ったFPB-RA6E1評価ボード動作例です。接続は、コチラの投稿と同じです。

RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10とTera Term 5.0動作例
RA用FSP 5.0.0 with e2 studio 2023-10とTera Term 5.0動作例

インストールダイアログに従っていれば、従来版からのアップグレードも問題ありません。

RA用FSP v5.0.0同梱e2 studio 2023-10リリースが、他のルネサスMCUファミリのFSP v5.0.0やe2 studio 2023-10リリースより遅れるのは、 RA専用FSP同梱e2 studioのGitHubマージ作業のためと思います。

※ルネサス他MCUファミリは、FSP、e2 studioそれぞれ個別リリース。

リリースが遅れても、RAファミリ統合開発環境を、だれでも簡単に構築できるメリットを優先したためでしょう。


MCU AIトレーニング資料

STマイクロの日本語トレーニング資料(組込みAI編)
STマイクロの日本語トレーニング資料(組込みAI編)

STマイクロの日本語トレーニングサイト内に、9個の組込みAI資料を見つけたので紹介します。日本語のMCU AI資料は嬉しいです。STマイクロへのログインが必要ですが、どなたでも閲覧(PDFダウンロード)可能です。

MCU AIトレーニング資料8個の内容

トレーニング資料8個の内容です。1~8の内容に加えて10月3日に行われたウェビナー資料:コンピュータ・ビジョン編の計9個MCU AI資料が公開中です。

MCU AIトレーニング資料8個の内容
MCU AIトレーニング資料8個の内容

AI解説(Page 2)記載の8トレーニング資料の説明範囲:「AI基本概念には触れるが、AI、深層学習、Pythonプログラミングの詳細解説はしない」は、Edge AI/MLツールを利用しMCU開発を行う者に最適な内容だと思います(MCU AI現状と対策、1章:Edge MCI AI課題数参照)。

1~8資料は、読者のお好きな時間に読んでください。

本稿は、9個目のウェビナー資料:コンピュータ・ビジョン編から筆者印象に残った点をピックアップします。

コンピュータ・ビジョン編もくじ

コンピュータ・ビジョン編もくじ
コンピュータ・ビジョン編もくじ

ピックアップしたコンピュータ・ビジョン編のもくじです。コンピュータ・ビジョンとは、MCUが、AIを使って画像、動画、その他入力データから目的とする情報を抽出する手法です。

印象点が以下です。

  • Edge AI/ML MCU(Tiny ML Devices)は、2030年に25億台と予測(P4)
  • Edge AI/ML MCUは、クラウド接続無しで低レイテンシ(P9)
  • STM32MCUのAI開発ツールは、STM32Cube.AIとNanoEdgeStudioの2種類あり(P12)
  • 主要STM32汎用MCUは、AI開発ツール2種類両方が使える(P13)
  • STM32Cube.AIは、深層学習アプリケーションを簡単実現(P18)
    • ※NanoEdgeStudioは、前回投稿に記載中
    • ※深層学習とは、ニューラルネットワークによる機械学習手法

つまり、MCU開発者は、2030年の数年前までに、ソフトウェアで他社差別化できるEdge AI/ML(組込みAI)知識獲得と開発が必要と言えます。

Summary:STM32Cube.AIとNanoEdgeStudio差は継続調査

Edge AI/ML MCUが、クラウド接続不要でスタンドアロン動作であることは、大歓迎です。RTOSや高度セキュリティTrustZoneなどのネットワーク技術の必要性が低いからです。

従って、Edge AI/ML MCU開発は、ベアメタル開発の延長線上にあると言えます。25億台/2030年予測の内、Edge AI/ML MCU比率がどの程度かは不明です。しかし、RTOS/TrustZone MCU比率より多いことを筆者は期待します。

前回投稿のMCU AI開発ツール:NanoEdgeStudioと本稿のSTM32Cube.AIの特性差が何かは、現在不明です。もう少しAI/ML知識を獲得すれば、判ってくると思います。継続調査項目とします。

Afterword:判り難さは、馴染み無い用語起因

RTOS/TrustZone MCUよりもEdge AI/ML MCUの方が開発簡単とは言いません。

しかし、ベアメタル開発に近いのはEdge AI/ML MCU開発です。IoT MCUに必須なRTOS/TrustZoneは、AI/MLよりも馴染みが薄い用語が多く、しかも開発にその詳細理解も必須です。

一方、AI/MLは、AI解説編が示すようにAI/ML詳細理解よりMCU AIツールの効率的活用で十分開発できそうなことも理由です。

※望むらくは、AI/ML同様、RTOS/TrustZone開発支援ツールがあると嬉しいですね!

この意味でSTマイクロの組込みAI日本語資料は、MCU開発者に非常に役立ちます。是非一読(何度も読むこと)をお勧めします。馴染み無いAI/ML用語が、だんだん身近なります!

10月2日発表のWindows AI/CopilotもMCU AI/ML普及の追い風になるハズです。


MCU AI現状と対策

今秋リリースWindows 11 23H2は、AIによる作業支援:Copilot機能が追加される予定です。AIがより身近になるでしょう。

AIは、MCU開発へも押し寄せつつあります。ルネサス、STマイクロのEdge MCU AI現状と対策を示します。

MCU開発者に押しよせるAI/MLの風
MCU開発者に押しよせるAI/MLの風

Edge MCU AIとWindows AIの課題数

1: MCU開発へAIをどのように実装するか、2: 実装したAIをどのようにMCU製品メリットへ変えるか、そして、3: Edge MCU AI製品をどのように顧客に活用してもらうか、MCU開発者は、これら課題解決が必要です。

一方、Windows AIは、3:相当 のPCユーザとしてどのようにWindows AIを活用するかが課題です。

Edge MCU AIは、使うだけでなく開発も必要ですので課題の数が異なります。MCUベンダ各社は、AI MCUツールを発表しています。

本稿は、特に1:AIのMCU実装についてルネサス、STマイクロの現状とMCUソフトウェア開発者の対策を示します。

ルネサス:Reality AI Toolをe2 studioへ統合

2023年9月21日、ルネサスは、Edge AI専用ツール:Reality AIを、既存MCU開発環境:e2 studioへ統合しました。これにより、AIプロジェクトとe2 studio間のデータ共有が可能となり、開発効率が上がります。

動画はコチラ

STマイクロ:NanoEdge AI Studio

NanoEdge AI Studio Workflow(出展:NANOEDGE AI STUDIO V3)
NanoEdge AI Studio Workflow(出展:NANOEDGE AI STUDIO V3)

2023年8月3日、STマイクロは、Edge AI 専用ツール:NanoEdge AI StudioとST開発ボードを使って簡単・迅速にAI/ML:Machine Learning関連データを収集・検証し、機械学習アルゴリズムをわずか数ステップで生成できると発表しました。

動画はコチラ

AI/ML必然性

既存MCU開発環境へEdge AIツール出力をライブラリとして取込むことは、ルネサス/STマイクロ共に簡単です。

しかし、非力なMCUに最適なAI出力ライブラリを得ることが簡単か否かは、現在、筆者は分かりません。多分、この判断には、多少なりともAI/ML知識が必要になるでしょう。

AI/ML担当者とEdge MCU担当者、2人いれば問題は少ないです。しかし、Edge MCU開発者が両者を兼務することが、既存MCU IDEへAIツール統合の流れとマッチすることから必然だと思います。

ハードウェアとソフトウェア担当が別れるように、AI/MLとMCUソフトウェア担当が分離することを筆者は想定しにくいです。

Summary:急増Edge MCU AI対策

Edge MCU AI製品とAIなしのMCU製品を比較したSTマイクロの動画(7:34)は、興味深いです(リンク先下方に動画あり)。AI実装有無が、MCU製品の差別化要因になることを示しています。

また、Windows AI:Copilot機能の普及は、MCU製品顧客へも大きな影響を与えると思います。PCでのAI活用事例が多くなり、AIメリットを認識する顧客が増えるからです。

MCU開発者は、Windows AI普及に合わせて増加するであろうEdge AI/ML知識も備えておく必要があります。MCUベンダ各社は、Edge AI/MLセミナを活発化します。是非参加して、基礎知識を獲得しましょう!


STM32C0で最新32ビットMCU開発短期習得

STM32 Nucleoボード一覧(1M Flash以下 出展:STM32 MCU Developer Zone)
STM32 Nucleoボード一覧(1M Flash以下 出展:STM32 MCU Developer Zone)

STマイクロの1MバイトまでのFlash搭載STM32 Nucleo評価ボード一覧です(STM32 MCU Developer Zone掲載図から抜粋)。紺色のMainstream:汎用MCU評価ボードが多いことが判ります。

今回は、2023年3月発売の評価ボード:NUCLEO-C031C6を使って、最新Cortex-M系32ビットMCU開発を短期習得する方法を示します。

1. 短期習得に適すSTM32C0シリーズ

この評価ボードのMCU:STM32C031C6(Cortex-M0+/48MHz、Flash/32KB、RAM/12KB、LQFP48)は、STマイクロが8/16ビットMCU置換えを狙った新しい32ビットSTM32C0シリーズです。開発のし易さ、価格の低さ、入手性の良さが特徴です。

STM32C0シリーズの「C」は、Compact、またはCost-effectiveのCを表していると思います。同じLQFP48のSTM32G0シリーズとブロッグ図を比べると差分が判ります(「G」は、多分Generalを表す)。

STM32C031とSTM32G081の比較
STM32C031とSTM32G081の比較

どちらもCortex-M0+コア採用の汎用MCUです。違いは、STM32C0は、アナログや通信などの内蔵周辺回路、Flash/RAM容量を、8/16ビットMCU置換目的に必要最小限にし、G0比コストダウンを図っていることです。

つまり、STM32C0は、STM32汎用MCUシリーズの中で、最もBasicな周辺回路のみを備えたシリーズです。この周辺回路の少なさが、MCU開発をシンプルにし、短期習得に適す理由です。

2. 入手性・開発拡張性良いNUCLEO-C031C6評価ボード

NUCLEO-C031C6
NUCLEO-C031C6

STM32C0搭載の評価ボードNUCLEO-C031C6は、低価格で入手性が良く、ボード上にユーザLED/SW、拡張シールド接続用Arduinoコネクタ、デバッガ(ST-LINK/V2-1)が実装済みです。

関連投稿:Arduinoコネクタが評価ボードに多い理由

PCとUSB接続すれば、MCUプログラミングとデバッグ、PC Tera-Termで評価ボードとのVirtual-COM通信が可能です。Virtual-COMは、MCUでの様々な処理結果をPCで直接確認できるので便利です。

NUCLEO-C031C6が、最初の図で多くの汎用MCU評価ボードの一番下(Basic)であることもポイントです。

NUCLEO-C031C6で開発したHAL API利用ユーザソフトウェアは、MCU差に依存しない移植性の高さがありますので、処理性能不足時は、より上側の高性能ボードへユーザソフトウェア載せ替えも容易な訳です。

関連投稿:HALとMCUソフトウェア開発

3. サンプルコードが多いNUCLEO-C031C6評価ボード

MCUソフトウェア開発には、慣れが必要です。この慣れには、STM32C0シリーズサンプルコードを読み、かつ動作させるのが近道です。

NUCLEO-C031C6は、全73個のサンプルコード動作環境として使えます(2023年9月現在)。これは、他のSTM32C0評価ボードと比べ格段の多さです。

お勧めは、下図に示すHAL API利用の16個サンプルコードです。この16個HALサンプルコードだけを理解しても、STM32MCU開発初心者卒業と言えると思います。

NUCLEO-C031C6で動作するHAL APIサンプルコード(出展:AN5892)
NUCLEO-C031C6で動作するHAL APIサンプルコード(出展:AN5892)

初めはサンプルコードを詳しく理解する必要はありません。初期設定と無限ループの2つに分けて動作させれば、コード内容は自ずと判ってきます。ボード搭載デバッガは、ブレークポイント設定やRAM内容表示もできるので便利です。

関連投稿:組込み処理の基本のキ

4. 情報整理に役立つSTM32C0オンライントレーニング

STM32C0オンライントレーニングは、MCU開発情報の整理・習得確認に便利です。

但し、初めからこれらトレーニング資料を読むことはお勧めしません。おぼろげながらでも、開発全体像が見えた段階で、各資料読むと理解・整理が進むからです。前章サンプルコードを試した後がお勧めです。

サンプルコードやトレーニング資料は、エキスパートが作成します。残念ながらエキスパート作成資料は、初めての方には難解だと思います。

MCU習得も「習うより慣れろ」が当てはまります。案外簡単なことでも文章では難解さが強調されます。評価ボードとサンプルコードがあれば、とにかく動作が目視確認できます。

トレーニング資料は、動作目視後に頭の中を整理し、習得度を確認する際に便利と言えます。

Summary:STM32C0で最新32ビットMCU開発の短期習得

本稿は、最新汎用STM32C0を使って、回り道や障壁がなるべく低くなるMCU開発習得方法を示しました。

  1. 8/16ビット置換え用周辺回路厳選の低価格32ビットMCU:STM32C0
  2. デバッガとユーザLED/SW実装で入手性良いNUCLEO-C031C6評価ボード
  3. NUCLEO-C031C6で即実行できる多数の周辺回路サンプルコード
  4. 習得・情報整理に役立つSTM32C0オンライントレーニング

これらSTM32C0シリーズ特徴を持つ4つの開発環境を使うと、個人でも最新STマイクロ32ビットMCU開発の短期習得が簡単にできます。

Afterword:個人レベルスキル向上で老化日本対策

老化は、国レベルでも進行します。日本の少子・高齢化がもたらす2040年問題。全体同調意識の強い老化日本では、その対策は期待できません。

残る策は、個人レベルのスキル向上です。IoT MCU開発スキルは、激変技術世界でも生き残る有力策の1つと思います。


NTT Innovative Devices

2023年9月6日、IOWN光電融合技術の規格・設計・開発・製造・販売を行うデバイス製造新会社:NTT Innovative Devicesの記者会見がNTTブログに掲載されました。

新会社:NTT Innovative Devicesは、NTT研究所の光電融合部門と最先端光電子部品メーカ:NTTエレクトロニクスの2者を統合しました。

新会社NTT Innovative Devices(出展:記者会見記事)
新会社NTT Innovative Devices(出展:記者会見記事)

NTT Innovative Devicesは、光電融合デバイス市場をネットワークだけでなくコンピューティングへも広げること、そして次世代ネットワークの電力問題を解決するミッションを持ちます。

新会社NTT Innovative Devices

NTT Innovative Devices体制(出展:記者会見記事)
NTT Innovative Devices体制(出展:記者会見記事)

NTT Innovative Devicesは、光電融合デバイスの研究開発とデバイス製造、北米、欧州、ホンコンなど世界規模の販売が目標です。

会見で示された事業戦略も、実践的かつアグレッシブで、従来にない新しい研究・開発・製造・販売スタイルを持つ会社と言えます。

従来のNTTグループ企業とは異なる日本に固執しないビジネス展開が期待できそうです(関連投稿:日本固執Change)。

地球沸騰化の電力不足を救う光電融合デバイス

デジタル世界を支えるクラウドのデータ量がこのまま増え続けると、データセンター消費電力はさらに増加し、地球温暖化へ繋がります。参考資料:光電融合技術とは、2023年8月29日、NTTブログ。

国連グテーレス事務総長が示した危機感「地球沸騰化」は、絶対に避けなければなりません。

光電融合技術は、コンピュータやネットワーク内の電気処理と光処理を融合し、電力効率100倍、伝送容量125倍、エンドエンド遅延1/200が目標の革新的デバイス技術です(関連投稿:IOWN 1.0提供開始)。

IOWN特徴(出展:NTTサイト)
IOWN特徴(出展:NTTサイト)

Summary:低消費電力化はIoT MCUへも

個々の消費電力は僅かでも、世界中で莫大な投入数量が予想されるIoT MCU。

ネットワークによる電力不足や地球環境変化は、IoT MCU開発も影響を受ける可能性があります。MCU開発者は、処理効率だけでなく、低消費電力化を意識した開発も重要になりそうです。

コチラの投稿に、間欠的な無限ループ動作と空き時間SleepによりMCU消費電力を下げる基本動作を示しています。参考にしてください。

Afterword:今年の猛暑

今年の日本の夏は暑かった。未だ猛暑は続いていますが、異常気象は電力不足に直結します。

例えば、自動車排出ガス規制のように、地球規模のエネルギー危機は、我々MCU開発者へも低消費電力開発を義務化する動きに繋がるかもしれませんね。


HALとMCUソフトウェア開発

HAL:Hardware Abstraction Layer APIを使えば「MCUデバイスに依存しないソフトウェア開発」ができる。そこで、汎用MCUでプロトタイプソフトウェアを作り製品MCUを選択。これが、前投稿でした。
主題は、製品MCU選択方法です。

今回は、この方法の基になる「MCUデバイスに依存しないソフトウェア開発ができる」部分を、もっと具体的に説明します。

MCUソフトウェア開発の鍵HAL API

前投稿最後に示したSTM32デバイスとユーザアプリケーション移植性の両方を満たすHALスタック図を具体化します。

弊社STマイクロ関連テンプレートに採用したSTM32F0/F1/G0/G4デバイスとNucleo評価ボード、一般的なベアメタルソフトウェア開発を想定し作り直したHALスタック図が、下図です。UtilityやMiddlewareは使いませんので空白にしています。

User ApplicationとHAL間は、HALドライバを用います。例として、GPIO接続のLEDをトグル出力するHAL API関数:HAL_GPIO_TogglePin(LED_GPIO_Port, LED_Pin)で説明します。

ベアメタルソフトウェア開発のHALスタック図
ベアメタルソフトウェア開発のHALスタック図

HAL_GPIO_TogglePin(LED_GPIO_Port, LED_Pin)

STマイクロのHALドライバは、接頭語に必ずHAL_が付きます。ソース上も判別し易いです。

HAL_GPIO_TogglePin(xPort, yPin)は、MCU Port名xのPin番号yを使うGPIOに対して、トグル(HighからLow、またはLowからHigh)出力するドライバ関数です。

例えば、STM32G0評価ボード:Nucleo-G071RB実装ユーザLED:LD4は、PA5接続です。トグル出力は下記です。

HAL_GPIO_TogglePin(GPIOA, GPIO_PIN_5)   //物理GPIOポートA、5番ピンをトグル出力

STM32G4評価ボード:Nucleo-G474RE実装済みユーザLED:LD2も、同じくPA5接続ですので、全く同じHALソフトウェア記述で、ユーザLD2のトグル出力ができます。

Nucleo評価ボードBSP

Nucleo-G071RBとNucleo-G474REは、どちらも64ピンMCUパッケージで、たまたま同じ物理記述ポート名とピン番号が、ユーザLEDに接続済みでした。

しかし、一般的には開発MCUや評価ボードで異なるポートとピンへユーザLEDが接続されます。

そこで、物理記述GPIOAやGPIO_PIN_5と、評価ボードの論理記述LD2やLD4を結び付けるのが、BSP:Board Support Packageです。この結び付けにより、異なる物理記述ポート、ピン番であっても、同じ論理記述のDemonstrationやUser ApplicationでLEDを動作させることが可能になります。

具体例で示すとNucleo-G071RBのBSPは、STM32CubeIDEのmain.hに展開され、LD4関連は下記です。

#define LD4_GPIO_Port  GPIOA  //LD4_GPIO_Portを物理GPIOポートAと定義
#define LD4_Pin  GPIO_PIN_5     //LD4_Pinを物理5番ピンと定義

Nucleo-G474REのBSPは、LD2関連main.hが下記です。

#define LD2_GPIO_Port  GPIOA  // LD2_GPIO_Portを物理GPIOポートAと定義
#define LD2_Pin  GPIO_PIN_5     // LD2_Pinを物理5番ピンと定義

LD2とLD4の部分が異なります。BPSは、評価ボードのハードウェア毎に異なります。

各評価ボードのソースコードを読む時は、LD2やLD4と論理記述した方が、物理記述のGPIOAやGPIO_PIN_5よりも判り易いため、これらdefine文を使います。

評価ボード非依存ソフトウェアテクニック

評価ボード単位のソースコードを読む時は、実装中のLD2やLD4と論理記述した方が判り易いです。

では、様々な評価ボードで共通に動作するUser Applicationを開発する場合は、どうすれば良いのでしょうか?

答えは簡単です。論理記述をLD2やLD4から、より上位の論理記述へ結び付ければOKです。例えば、下記です。

#define BOARD_LED_PORT  LD4_GPIO_Port    //BOARD_LED_PORTをLD4_GPIO_Portと定義
#define BOARD_LED_PIN  LD4_Pin         //BOARD_LED_PINをLD4_Pinと定義

このように評価ボード単位のdefine文を、上位実装LEDや論理ピンへ再定義すれば評価ボード非依存のソフトウェアが開発できます。

define文は、開発者が、ソースコードを読み易くするための機能です。define文で再定義しても、コンパイル時に最終物理対象(GPIOAやGPIO_PIN_5)に置き換わるため、処理速度が遅くなるような弊害はありません。

STM32Cube MCU Packages Manager

さて、HALスタック図では1個のHALも、実はMCU毎に異なります。

このMCU毎に異なるHALを、STM32CubeIDEへ実装するツールが、STM32Cube MCU Packages Managerです。

MCU毎に異なるFirmware(HAL)をSTM32CubeIDEへ実装するSTM32Cube MCU Package Maneger
MCU毎に異なるFirmware(HAL)をSTM32CubeIDEへ実装するSTM32Cube MCU Package Maneger

STM32Cube MCU Packages Managerは、プロジェクトのハードウェア設定ファイル(icoファイル)を開いた状態で、Help>Manage Embedded Software Packagesで表示できます。上図は、STM32C0/F0/F1/G0/G4のPackage部分を抜粋しています。

このSTM32Cube MCU Packages Managerで、最新のFirmware Packageを開発に使うか、それとも、古いFirmware Packageを使うかが選択できます。上図は、STM32G0ソフトウェア開発に最新Firmware V1.6.1を開発に使うことを選択中の例です。

Firmware Package版数の訳

このMCU Firmware Packageが、HALの実体です。

例えば、STM32G0 Firmware V1.6.1は、旧Firmware V1.6.0と上位のUser Applicationに対しては同じHAL APIを提供しますが、その実体は、旧HALのバグ修正や販売中のSTM32G0 MCUに応じて中身が変わります。

つまり、このFirmware Packageが、MCU差や過去のHAL版に依存しないHAL APIを、User Applicationへ提供する仕組みそのものです。

MCU発売後、経過時間が長くなると、同一MCUでも多くのFirmware Package版が選択可能になります。

お勧めは、最新Firmwareです。

複数のFirmware版が存在する理由は、STマイクロがMCU供給を最低10年保証しているためです。新MCUパッケージ追加発売時は、新しいFirmware版で対応します。簡単に言うと、MCU開発履歴が版数に現れる訳です。

つまり、開発者が、顧客提供時Firmwareをそのまま継続開発に使いたい場合には、最新版だけでなく過去のFirmwareも選択肢になる訳です。

実際の選択は、icoファイルのProject Managerタブの一番下、Firmware Package Name and Versionで設定します。

Summary:HAL APIソフトウェア開発

BSPとMCU Firmwareによりハードウェア依存性が無いHAL APIsが提供
BSPとMCU Firmwareによりハードウェア依存性が無いHAL APIsが提供

MCUソフトウェアは、HAL APIを使うとMCUに依存しない移植性の高いUser Applicationソフトウェアの開発ができることを説明しました。

User ApplicationとHAL API間のハードウェア依存性を無くす手段として、評価ボード毎に異なるBSPや、MCU毎に異なるMCU Firmware Package(HAL)を用います。

汎用MCUを使ったHAL APIプロトタイプ開発ソフトウェアは、MCU変更に対して移植性が高いため、User Applicationソフトウェアの資産化も期待できます。

Afterword:MCU説明の難しさ

本稿の内容は、中級以上のMCU開発者にとっては、自明の理です。しかし、この自明の理を説明するのは、結構大変です。本稿も、説明不足の箇所が多々あります。

MCU開発では、この自明の理の部分が多いため、開発者レベルを上げる障壁は高くなります。例えて言うと、スマホが初めての方に、その取扱い方法を文書だけで説明するようなものです。

本稿は、STマイクロのHALを例に説明しました。これは、現在MCU毎に販売中の弊社STM32F0/F1/G0/G4テンプレートを、MCU共通のSTM32MCUテンプレートへ発展させる布石でもあります。

本稿内容が、すんなり判る開発者には、STM32共通MCUテンプレートは、多分不要(ご自分で開発できる)ですし、判らない方には、STM32共通テンプレートよりも個別STM32F0/F1/G0/G4テンプレートの方が使い易いと思っています。

今回のような長文は、筆者の苦手な分野です。が、時々は挑戦すべきと考えております。ご質問や判り難い箇所のご指摘も大歓迎です。読者の方々からのレスポンス、お待ちしております。



ソフトウェア視点のMCU選び方

MCU選び方をソフトウェア開発視点から示します。
具体例としてSTマイクロのSTM32MCUで説明しますが、他MCUベンダでも同様です。

Summary:HALドライバ+汎用MCUプロトタイプ開発で選定

例え同じベンダでも色々な内蔵ハードウェアと、処理性能、価格も異なるMCUは、製品MCUの選択肢が広すぎるのが難点です。

製品MCUハードウェア選定ミスを少なくし、かつ、ソフトウェア開発も効率的にできる方法として、汎用MCUを使いHALドライバで早期に製品プロトタイプ開発を行い評価する方法を示しました。

製品MCU選択肢の広さ

STマイクロのSTM32MCUポートフォリオ(出展:STM32ウェビナー資料)
STマイクロのSTM32MCUポートフォリオ(出展:STM32ウェビナー資料)

ベンダ例としてSTマイクロのCortex-Mコア系MCU選択肢の広さを示します。

STM32MCUポートフォリオを性能やシリーズ別に示したのが上図です。この図でターゲット製品のMCUシリーズを大まかに選定するのが、第1選定段階です。

第2段階では、各シリーズのFlash/RAM容量、内蔵ADCやUASRT数など製品時に必要になる周辺回路からハードウェア的に最適なMCUデバイスを選定します。

STM32MCU製品セレクタ例
STM32MCU製品セレクタ例

この選択方法は、MCU処理性能やソフトウェアを格納するFlashやRAM容量は、最終製品にならないと実際は判りません。しかし、周辺回路や動作電圧などのハードウェア条件は、明らかなのでこれらからMCU選定はできます。

但し、メインストリーム、つまり汎用MCUであっても、STM32C0、STM32F0/F1、STM32G0/G4シリーズと選択肢があり、処理性能も異なります。更に、ハイパフォーマンスSTM32H5/H7や、超低消費電力STM32U5などの汎用MCU比性能を極めたシリーズもあります。

これら多く広いMCU選択肢から、入手性やコストから製品MCUを決めるのが、一般的に用いられる「ハードウェア視点MCU選択方法」です。

HALドライバソフトウェア開発メリット

HALとは、Hardware Abstraction Layerドライバです。このハードウェアは、MCUを指します。つまり、MCU差を抽象化=隠して開発できるAPIを上位ユーザアプリケーションへ提供するのがHALです。

例えば、STM32C0でも、STM32G4でも同じHALドライバでGPIOアクセスができます。つまり、HALドライバを利用すれば、STM32C0とSTM32G4で同じアプリケーションが使える訳です。

従って、STM32C0で性能不足の場合には、開発ソフトウェアはそのままSTM32G4へ移植ができます。逆の性能過多の場合でも同様です。ユーザ開発アプリケーションのMCU間移植性が高いのがHAL利用ソフトウェアのメリットです。

HAL+汎用MCUプロトタイプ開発

汎用MCUを使って製品のプロトタイプ開発を行えば、製品化時、よりハイパフォーマンスMCUの必要性や、より低消費電力MCUの必要性が、使用した汎用MCUとの相対比較で可能です。

また、HALを使えば、プロトタイプ開発アプリケーションが製品MCU上でも動作します。

つまり、製品MCUのオーバー/アンダースペック選定ミスを減らす評価ができ、かつ、プロトタイプ開発アプリケーションの製品移植性も高いため、結果として効率的な製品開発が可能になるのが、「ソフトウェア視点MCU選択方法」です。

拡大MCUハードウェアとMCUソフトウェア移植性を満たすHAL

拡大STM32MCUデバイスとユーザアプリケーション移植性の両方を満たすHAL
拡大STM32MCUデバイスとユーザアプリケーション移植性の両方を満たすHAL

MCUベンダは、最初の図で示したように進化する半導体製造プロセスやよりアプリケーション寄りのコストパフォーマンス最適MCUデバイスを提供し続けます。

MCU製品開発側は、増え続けるMCUデバイス間のソフトウェア移植性や開発時間の短縮も必要です。

HALドライバは、これら進化・拡大するMCUハードウェアとMCUソフトウェア移植性要求を同時に満たす機能です。

HALによる汎用MCUプロトタイプ開発は、参考になるサンプルコードが多いため開発時間も少なく、開発アプリケーションがユーザ資産として多くのMCUでの活用も期待できます。

Afterword:汎用MCU選び方

汎用MCUも多くの選択肢があります。STマイクロのお勧めデバイスは、最新製造プロセスで入手性が良く低価格なSTM32G0/4シリーズ評価ボードです。

Flash/RAM容量も入手性優先で選定して構いません。容量不足時は、機能分割しプロトタイプ化すれば済むからです。

ソフトウェア視点MCU選択方法は、プロトタイプ開発が必要です。短期間で効率的に製品プロトタイプを仕上げ、このプロトタイプから製品MCU要求条件やソフトウェア動作ポイントなどを評価します。

プロトタイプと最終製品が近ければ近い程、これら評価精度は上がります。しかし、精度に拘る必要はありません。製品企画時に、とにかく製品のように動くプロトタイプを早く仕上げ、これから製品MCUを評価すれば、闇雲に選定するより良いからです。

MCU開発者は、手元にベンダ汎用MCUシリーズの評価ボードと弊社テンプレートがあれば、直ぐに製品のように動くプロトタイプが仕上がります。


パスワードとパスキー

パスワードからパスキーへ
パスワードからパスキーへ

最新Chrome 116は、パスワードマネジャーデザインが新しくなり、パスワードの保存と入力が容易になりました。そこで本稿では、「パスワード」と最近話題の「パスキー」の筆者現状理解を示します。

参考資料:
1. パスワードのない世界へのマイルストーン「パスキー」、2023年6月14日

2. AppleやGoogleが対応を進める「パスキー」とは、2023年8月7日

とにかくセキュリティ関連記事は、判り難いのでポイントを簡単にまとめました。

パスワード問題

どんなに複雑なパスワードでも、それを入力したのがユーザ本人かが確認できないこと、パスワードそのものがネットワーク上に流れ第3者が盗み見ることができること、この2点がパスワード問題。

パスキー解決策

パスワード問題解決のため、指紋認証などの本人確認機能を持つ端末(PC/スマホ)のログインにパスキーを使う。パスキーで本人認証後、ネットワークログイン時に送受する情報は、端末での本人認証結果と高度に暗号化された情報。これらは、第3者が盗み見ても本人成り済ましは不可能(に近い)。

パスキーは端末間の移行・同期可能

スマホ紛失やPC買換え時の利便性向上のため、アカウント名などのユーザ情報(クレデンシャル情報)をクラウドアカウントに紐づけることによりパスキー端末間同期が可能。現状対応クラウドは、Apple、Google、Microsoft。

クラウド利用により移行利便性も兼ね備えたパスキーは、パスワードに代わるログイン方法として有力。

パスキー運用ChatGPT回答

パスキー運用に関してEdgeのChatGPT(Bingチャット)でQ&Aを得ました。

Q1)パスキーを間違えたら?
A1)パスキーは、入力回数に制限あり。一定時間経過後、再入力可能。パスキーを忘れた時は、端末リセット必要。

Q2)複数端末で同じパスキーは使える?
A2)複数端末間で同じパスキーを使える。

Q3)パスキーを間違えてリセットした時の複数端末の影響?
A3)リセットは、その端末のみ。他の端末は影響なし。

つまり、複雑なパスワードの代りに、4桁または6桁のパスキーさえ覚えておけば、同じパスキーを複数端末で使ってもログインセキュリティは安心のようです。

Summary:パスワードからパスキーへ

クラウドアカウントを組み合わせたパスキーログイン方法
クラウドアカウントを組み合わせたパスキーログイン方法

例えパスワードマネジャーが使い易くなっても、パスワード自体の問題(本人未検証)解決にはなりません。

パスキーと本人認証端末、クラウドアカウントを組み合わせたパスキーログイン方式(本人検証結果+所持情報)は、パスワードレスアクセスとして期待できそうです。

Afterword:知識情報は4/6桁が限界?

パスキーが4/6桁なのは、指紋/顔認証などの本人検証が失敗した時の代替入力のためと思います。PC/スマホログインに指紋/顔認証が「先」で、認証失敗時にパスキー入力を「代り」に求めるからです。
スマホは、認証成功時でも定期的にパスキー入力を求め、パスキー知識情報を忘れないよう保全します。

個人が無理せず覚えられる数字は、この桁位でしょうか? IoT MCUデバイスなら桁数をもっと増やし、セキュリティレベルを上げることもできます。

パスキーの仕組みは、指紋/顔など変えようがない超重要認証データは端末のみに保存し、ネットワークログインは認証結果など漏れても支障が少ない情報で行うことでセキュリティを高く保つ、と筆者は理解しています。

但し、ネットワークログインは、当面使い慣れたパスワードも併用するでしょう。Chrome 116のパスワードマネジャーで、パスワード自体を強固にすることも必要です。



サイト多言語化完了

ワードプレス多言語化
ワードプレス多言語化

弊社WordPressサイト多言語化が完了しました。

Summary:弊社Change

多言語化Changeの副作用として様々なトラブルに会いました。ブログ読者関連は、収束したと思いますので、完了宣言致します。関連投稿:Change before you have toサイト多言語化

多言語(英語)版のMCUテンプレートは、ルネサス)RA6/4/2ベアメタルテンプレート、STマイクロ)STM32G0xテンプレートSTM32F0/F1テンプレートの現行3種です。今後、増やしていく予定です。

Changeで得たもの

Change作用は、ベアメタルテンプレートのポイントが「時分割起動」ということを再認識した点です。

また、HAL(Hardware Abstraction Layer) APIを使うと、MCUファミリ/シリーズに依存しないベアメタルテンプレートになる点です。

もちろん、ベンダが異なるとHAL APIも異なります。しかし、同じベンダのMCUならベアメタルテンプレートは基本的に同じです。STM32G0テンプレートとSTM32F0/F1テンプレートは、シリーズが異なりますが、同じHAL APIを利用するので、同じベアメタルテンプレートになります。

つまり、ユーザがHAL APIを利用するなら、MCUファミリ/シリーズで同一のベアメタルテンプレートを弊社は提供できる訳です。このことは、近く検証する予定です。

RTOSテンプレート

同様にRTOSテンプレートは、「マルチタスク(スレッド)起動」がポイントと考えます。

起動後のタスク間同期や通信に、セマフォやメッセージボックスなど様々な手段があります。しかし、弊社がRTOSテンプレート基本がタスク起動と考えると、FreeRTOS/Azure RTOS/μT-Kerneでも同じ構成でスッキリします。この方向で、RTOSテンプレートは再構築したいと考えています。

また、クラウド接続やセキュリティなどの処理以外でRTOS MCU開発者が自由に開発できるタスク数は、高々7位だと思います。タスク数が多いと、タスク流用は容易になりますが、タスク分割損(=RTOSオーバーヘッド)も増えます。

MCUクラスの処理能力からすると、ラッキーセブンが分割タスク数として適す気がします。

7タスク優先順位を設定し起動すれば、RTOSテンプレートとして使えると考えています。これもいずれ検証します。

Afterword:Changeは痛みが伴う

当初WordPress多言語化は、8月11日から13日の3日間を予定していました。しかし、様々なトラブルが発生し、その結果、1週間を要しました。酷暑下での作業でしたが、お盆連休中であったのが不幸中の幸いでした。