AIとの付き合い方

クラウドAIから出力を引出す手段が、ChatGPTなどの対話AIアシスタントです。このChatGPTへの「ありがとう」や「お願いします」という礼儀正しい言葉使いが、クラウド電力の巨大な消費に繋がるという421Gigazine記事は、面白いです。AI普及に伴い、人工知能との付き合い方を考える必要がありそうです。

Gigazine記事のクラウドAI要約

「Gigazine記事要約を箇条書きにまとめて」と、MicrosoftブラウザEdgeの対話AIアシスタント:Copilotへ入力し、そのクラウドAI出力が下記です(Copilot利用方法は、コチラの投稿 3章参)。

  • OpenAIのサム・アルトマンCEOは、ChatGPTに「お願いします」や「ありがとう」といった礼儀正しい言葉を使うことで、数十億円規模のクラウド電力消費が発生している可能性があると認めた。
  • この発言は、あるX(旧Twitter)ユーザの「AIへの礼儀が電気代にどう影響するのか」という投稿が発端。
  • Microsoftデザインマネージャーは、AIへの礼儀正しい接し方が良い結果をもたらすと述べ、AIとの対話におけるエチケットの重要性を強調
  • アメリカ調査では、多くの人がAIに対して礼儀正しく接しており、その理由として「正しい行動だから」と考える人が多いことが判明。
  • クラウドAI動作には大量リソースが必要で、AIデータセンター消費電力が世界の2%を占める
AI高速化目的でEdge NPUとCloud AIで処理を分け合う
AI高速化目的でEdge NPUとCloud AIで処理を分け合う

要するに、接し方次第で得られる出力が左右されるという人間臭い性格(性能)をAIも持つようです。

災害時のクラウドAI活用

2025422日の日経ビジネス記事も、Gigazine記事同様に興味深いです。筆者自身が要約すると、

  • 20202月、横浜港停泊中のクルーズ船:ダイヤモンド・プリンセス内で、CODID-19の集団感染発生。船内隔離の乗員・乗客との意思疎通のため、セットアップ済みスマホ2000台と充電器を船内配布。
  • この意思疎通の経験を活かし、災害時の人手不足を補うクラウドAI電話対応サービス:AiCallへと発展し、情報収集や被災地医療搬送などに活用中。

災害時のクラウドAI活用サービスは、今後急増すると思います。もちろん、これらサービスは、通常時でも当たり前のように活用されるでしょう。

エッジ(端末)AI動向

421日、Win11 Devビルド16120.3872(プレビューテスト版)で、エッジAIClick to Doへ、テキストや画像をAIが読取り、例えば、テキスト解説、画像背景のぼかしなどを、エッジAIへ簡単に依頼できる機能が追加されました。

このようなAI PCNPUを活かしたエッジAIサービスも、クラウドAI同様、急増するでしょう。

SummaryAIとの付き合い方

人間がAIとの付き合い方を考える時期になった
人間がAIとの付き合い方を考える時期になった

日本の人口減少や災害時対策として、人手を補うクラウドAIサービスの導入・活用は必然です。また、AI PCNPUを使ったエッジAIサービスも今後急増するでしょう。

但し、サービスを利用するユーザ:人間側には、相手がAIか人かの判断は難しい状況です。現在NHKニュースは、「(人間)アナウンサーに代わりましてAIがお伝えします」と注釈を付けますが、この注釈無しでは差は判りません。

おそらく、AI側は、AIか人かを区別できないように進化するでしょう。AIの進化速度は驚異的ですので、人間側は、AI進化に合わせた柔軟性も必要です。

多様化・急増するAIサービスに対し、人間側がAIとの付き合い方を考える時期になったと言えそうです。

Afterword:筆者のAI付き合い方

当面筆者は、AIを「親しい友人」として付き合おうと考えています。礼儀はわきまえ、かつ、過度な丁寧さも不要です。エッジNPUに様々なクラウドAIサービスに応じた丁度良い丁寧さをプログラミングできれば、なおBetterとも考えています。


AI CPUとAI MCU

Ryzen AI MAX+ 395搭載ミニPC(出典:GMKtecメール)
Ryzen AI MAX+ 395搭載ミニPC(出典:GMKtecメール)

321日投稿の最新ミニPC記載Ryzen AI 9 HX 370CPU/GPUを強化したRyzen AI Max+ 395搭載のミニPC発売予告をGMKtec社よりメール受信しました。今ならメールアドレス登録とアンケート回答で、$30割引クーポンゲットのチャンスがあります。

Ryzen AI CPU性能

AMD社のAI PC向けCPU製品名がAPUAccelerated Processing Unit)です。NPUGPUSoCで一体化したCPUのことです。弊社はこのAPUを解り易く「AI CPU」と表記します。現在Ryzen AI CPUは、AI 300AI Max2シリーズが発売中です。

321日投稿のAI CPUは、AI 300シリーズのRyzen AI 9 HX 370。発売予告は、より高性能なAI MaxシリーズのRyzen AI Max+ 395です。Ryzen AI CPU性能は、シリーズ名が異なっても最後の数字370395が性能を表すので判り易いです。

Ryzen AI Max+ 395の内蔵NPUは下表のようにRyzen AI 9 HX 370と同じ50TOPSですが、CPUと内蔵GPUを強化しています。このAI CPU搭載ミニPCが、最初の図のGMKtecEVO-X2です。NPU+GPU+CPUのトータルAI性能は、126TOPS70B LLMサポートのミニPCとしては世界初です。

Ryzen AI CPU Cores /
Threads
Boost2 / Base
Frequency
Cache Graphics Model TDP NPU
TOPS

Ryzen AI Max+ 395

16C/32T Up to 5.1 / 3.0 GHz 80MB Radeon 8060S 45-120W 50

Ryzen AI 9 HX 370

12C/24T Up to 5.1 / 2.0 GHz 24MB Radeon 890M 15-54W 50

Ryzen AI Max+ 395搭載EVO-X2

Ryzen AI MaxAI 3002シリーズでNPU性能が同じ理由は、AMD/Intel/Qualcomm 3社のAIアプリ共通実行環境が無いこと、ビジネスAIキラーアプリが無いことだと思います(NPU懸念投稿に詳細記載)。さらに、50TOPSNPUでエッジAI PCに十分かは、前回投稿AI PC NPU役割で示したように不明です。

これらから、トータル126TOPSを持つEVO-X2は、PCゲームよりエッジAIアプリ開発やAI画像処理向きを狙ったのかもしれません。前述アンケートにも用途欄がありました。

そこで、「70B LLMAI PCとは、具体的にどのようなPCですか」とGeminiに問い合わせたところ、Afterword添付の回答を得ました。要するに、ノートPCでは困難なローカルエッジAI単独処理も可能なハイエンドPCで、RAMは最低でも64GB必要という回答をGeminiから得ました。

また、70B LLM大規模モデル全体をNPUのみで処理するのは困難でCPUGPUの役割も必要なことが判る(少し古いと思いますが)良い回答です。AI PC購入検討の方は、参考になると思います。

70B LLM能力は、クラウドAIを使わずAI PC単独のエッジAI処理開発などに必要です。同様に単独でエッジAI処理を行う最新MCUを次に示します。

AI MCUSTM32N6AI処理

エッジAI処理は、MCUへも普及し始めています。2025年発売STマイクロ社の最新MCUSTM32N6Cortex-M55コア、0.6TOPS NPU内蔵、4.2MB RAM)は、従来MCUでは困難であったAI処理を、高性能MPUよりも低コスト、低消費電力で実現します。

STM32N6 Black図
STM32N6 Black図

STM32N6AI処理例は、カメラ付きSTM32N6570-DK Discovery kitを使ったAIデモ動画4:50)で判ります。リアルタイムの複数人体認識(0:30頃)や高速画像処理(0:50頃)など、STM32N6内蔵NPU/GPUCortex-M55 MCU双方の活用により全く新しいMCUアプリが期待できます。

デモ動画をよく見ると、NPU/GPU使用時と未使用時の処理差、MCU負荷差も判りとても興味深いです。

STM32N6は、MCU版のAPU、つまり「AI MCU」と言えます。汎用MCUベースのエッジAI MCUは、今後急増すると筆者は予想します。AI PCによりユーザがAIに慣れてくると、組込み機器もAI処理が当たり前になるからです。

※今後AI処理はユーザにAI有無を意識させないように進化すると筆者は考えています。

SummaryAI CPUAI MCU

AI CPURyzen AI Max+ 395搭載のトータルAI性能126TOPS70B LLMサポートのミニPCGMKtec EVO-X2は、415日午前0(太平洋夏時間)先行発売開始です。ローカルエッジAI単独処理可能なハイエンドPCで、AIアプリ開発やAI画像処理開発に好適です。

AI MCUSTM32N6AIデモ動画から、エッジAIアプリ開発やAI画像処理には、AI処理特化のNPUだけでなくGPUCPU/MCUも必要です。

Afterword70B LLMサポートAI PCGemini回答

70B LLM700億パラメータの大規模言語モデル)をサポートするAI PCは、ローカル環境で高度なAI処理、特に大規模言語モデルの推論や微調整を効率的に実行できるように設計された高性能なパーソナルコンピュータです。具体的には、以下の要素を備えていることが求められます。

主要なハードウェア要件:

  • 高性能GPU: 70B LLMの実行には、膨大な計算リソースとメモリ帯域幅が必要です。そのため、以下のようなハイエンドGPUが推奨されます。
    • NVIDIA GeForce RTX 3090RTX 4090: 24GB以上のVRAM(ビデオメモリ)を搭載し、高い並列処理能力を持つことが望ましいです。より大規模なモデルや高負荷な処理には、NVIDIA A100などのプロフェッショナル向けGPUがさらに適している場合があります。
    • AMD Radeon RX 7900 XTX: 高いVRAM容量と処理能力を持ち、NVIDIA GPUの代替となる可能性がありますが、LLMのエコシステムはNVIDIA CUDAへの最適化が進んでいることが多い点に注意が必要です。
  • 高性能CPU: LLMの実行にはGPUが主に使われますが、CPUもデータの前処理、後処理、およびシステム全体の制御において重要な役割を果たします。
    • Intel Core i7/i9 (最新世代): 高いクロック数と多くのコア数を備えたCPUが推奨されます。
    • AMD Ryzen 7/9 (最新世代): 同様に、高性能なRyzenプロセッサも適しています。
  • 大容量メモリ(RAM: LLMのモデル全体または一部をメモリにロードして高速に処理するために、十分なRAMが必要です。
    • 64GB以上: 70B LLMを効率的に扱うためには、最低でも64GB、理想的には128GB以上のRAMが推奨されます。
  • 高速ストレージ(SSD): LLMのモデルファイル(数十GBから数百GBになることがあります)や関連データを高速に読み書きするために、NVMe SSDが必須です。
    • 1TB以上: モデルファイル、データセット、作業用ファイルなどを保存するために、十分な容量のSSDが必要です。2TB以上あるとより安心です。

AI PCとしての特徴:

上記のような高性能なハードウェアに加えて、70B LLMをサポートするAI PCは、以下の特徴を持つことが期待されます。

  • AI処理に特化したハードウェア: 近年のAI PCは、CPUGPUに加えて、NPUNeural Processing Unit)と呼ばれるAI処理に特化したプロセッサを搭載している場合があります。NPUは、特定のAIタスク(例えば、自然言語処理の一部)をCPUGPUよりも低消費電力かつ効率的に実行できますが、70B LLMのような大規模モデル全体をNPUだけで処理することは現状では難しいです。ただし、将来的にNPUの性能が向上すれば、より大きな役割を果たす可能性があります。
  • 最適化されたソフトウェア: AI PCのハードウェアとソフトウェアが連携し、LLMの実行効率を高めるための最適化が行われている場合があります。これには、ドライバの最適化、特定のAIフレームワークとの互換性向上などが含まれます。
  • 高度な冷却システム: 高性能なCPUGPUは発熱量が大きいため、安定した動作を維持するために、強力な冷却システム(高性能な空冷ファンや液体冷却システム)が搭載されていることが重要です。
  • 将来性と拡張性: 今後さらに大規模なモデルが登場する可能性や、追加のハードウェア(GPUなど)を増設する可能性を考慮して、ある程度の拡張性があると望ましいです。

補足:

  • 70B LLMをローカルで快適に動作させるためには、上記のハイスペックな構成が必要となり、一般的なノートPCでは難しい場合があります。多くの場合、ハイエンドなデスクトップPCが推奨されます。
  • LLMの実行には、モデルの量子化(パラメータの精度を低くしてメモリ使用量や計算量を削減する技術)や、複数のGPUを連携させる技術(Multi-GPU)が用いられることもあります。
  • AI PCの定義は進化しており、Microsoftなどが提唱するCopilot+ PCのような新しい基準も登場しています。これらの基準には、一定のAI処理性能を持つNPUの搭載などが含まれていますが、現時点では70B LLMの実行に特化した要件とは限りません。

まとめると、70B LLMをサポートするAI PCは、非常に高性能なGPU24GB以上のVRAM)、高性能CPU、大容量メモリ(64GB以上)、高速SSD1TB以上)、そして高度な冷却システムを備えた、主にハイエンドなデスクトップPCを指します。将来的には、より強力なNPUを搭載したPCが登場することで、より効率的なLLMのローカル実行が可能になるかもしれません。


AI支援の組込み開発

組込み開発、特にMCU/MPUソフトウェア開発向けのAI支援環境が整ってきました。現在の環境とAI支援ソフトウェア開発の動向をまとめました。

AI支援ソフトウェア開発環境

  1. Microchip、MPLAB AIコーディングアシスタント発表MONOist記事、202535
  2. Eclipse IDEへGitHub Copilot提供、Microsoft2025年2月12日
  3. Visual Studio CodeへGitHub Copilot Free提供、Microsoft2025131

1:米)Microchip社のIDEMPLAB X IDEです。この拡張機能にAIコーディングアシスタントがあり、無償版と高度機能サブスクライセンス版があります。無償版でもAI知見やコード自動補完、Microchip文書検索、ブロック図作成機能などがありMCUハード/ソフト開発に使えます。

2MCU/MPU開発のデファクトスタンダードEclipse IDEAI支援プラグインで、アカウント登録のみでGitHub Copilotが無償利用可能です。月間2000件コード補完、50件チャットアクセスなどの制限付きですが、ベンダ各社のEclipseベースIDEAI機能の追加ができます。

3VSCをMCU/MPU開発へ使う動きもあります。このVSCAI支援プラグインが、GitHub Copilot Freeです。2と同様の制限付きですが、より高度な有償Pro/Business/Enterprise版もあります。

GitHub Copilotプラグインをインストールすると下図GitHub Copilotアイコンが、2Eclipse IDEは下部右端、3VSCは上部中央に現れます。このアイコン経由でAI機能へアクセスします。

VSCのGitHub Copilotプラグインアイコンと機能
VSCのGitHub Copilotプラグインアイコンと機能

1週間AIコーディングのみの実験

202533日、社内実験としてエクスプラザ)CTOChief Technology Officer)松本 和高氏が、1週間、AIコーディングのみ、人力コード記述禁止令を出しました。狙いは、短期AIオンリーの集中開発でAI視点を広め、AIコーディング開発者育成、AI協業スキル向上などです。

AIを使うエンジニアの方が年収も高いITmedia2025313日という調査結果もあります。

実験結果は、後日発表予定です。

数年後の組込みAIソフトウェア開発

様々なソフトウェアの開発効率が、AI支援や活用により向上することは、既成事実と言えるでしょう。

但し、WindowsWeb開発に比べMCU/MPUソフトウェア開発は、ネットワーク上の公開サンプル数が少ないため、AI学習や推論精度の点で劣る可能性があります。

高性能なAI出力には、学習と推論が重要です。「AI学習」は、多くのデータを解析しパターンや関係性を探ります。学習を重ねる毎に精度が向上し、ミスも減らせます。「AI推論」は、AI学習で得た知識を基に、予測や判断を行います。

従って、ベースになる膨大なデータ(開発事例)が、実質的なAI利用に必須です。データ数の多いWindowsアプリ開発やWebアプリ開発などは、AI支援も有効、有益でしょう。

一方、MCU/MPU開発のAI支援は、未だ発展途上です。しかし、AI開発環境整備や利用者増加と共に、数年後には改善されるでしょう。MCU/MPU開発者は、AIプロンプト入力や先行するAI Webアプリ開発などを試すことで、AI支援ソフトウェア開発に徐々に慣れておく必要があります。

数年後は、全てのソフトウェア開発で、AI支援が当たり前の方法になるからです。

ベンダ提供公式サンプル活用テンプレート

MCUテンプレート(緑:英語対応、黒:日本語のみ)
MCUテンプレート(緑:英語対応、黒:日本語のみ)

弊社マイコンテンプレートは、ベンダ提供の複数サンプルソフトを簡単に組込めるアプリ開発ツールです。ベンダ公式サンプルを利用しますので、高信頼で効率的な複数ベアメタルMCU機能を、簡単に組込めます。

現在、ベアメタルテンプレートと同様のベアメタルサンプルソフトをRTOS環境下で並列動作させるRTOS版テンプレートを開発予定です。RTOS MCUソフトウェアのプロトタイプ開発に向いています。

MCU/MPUソフトウェア開発のAI支援が普及する前段階に、弊社テンプレートを活用してはいかがでしょう!

SummaryAI支援の組込み開発

AI支援の組込みソフトウェア開発現状
AI支援の組込みソフトウェア開発現状

MCU/MPUソフトウェア開発のAI支援は、WindowsアプリやWebアプリ開発に比べ未だ発展途上です。これは、AI利用のベースになる膨大なデータが不足しているからです。しかし、AI開発環境整備や利用者増加と共に、数年後には改善されるでしょう。

MCU/MPU開発者は、先行するAI Webアプリ開発などを試し、AIプロンプト入力などAI支援開発に慣れる必要があります。数年後は、全てのソフトウェア開発で効率向上を狙うAI支援が当然の方法になるからです。


2025年MCU半導体ベンダ動向

MCU半導体ベンダの需要低迷
MCU半導体ベンダの需要低迷

MCU半導体需要の低迷が原因で、STマイクロ、NXP、ルネサス各社の人員削減や減収減益が話題になっています。

2025年半導体需要低迷ニュース

  1. STマイクロ、最大3000人削減を検討Bloomberg202521
  2. NXP売上げ見通し市場予想下回る、Bloomberg2025年2月4日
  3. ネサス2024年通期減収減益、EE Times2025年2月7日

1STマイクロは、産業および自動車部門の需要低迷のため、従業員約6%相当の最大3000人員削減を検討中。業界にとって2024年は数十年ぶりの厳しい1年だった。

2NXPは、産業および自動車向け半導体の需要低迷が長引いているため、20251-3月売上高10%減の見通し。市場予想下回る。

3:ルネサスの202410-12月売上高は、前年比19.2%減の2926億円(産業25.0%1408億円、自動車13.5%1488億円)。2025年は、将来取組みに集中。

2025年は、MCUベンダの風向きに変化が起こりつつあるのは、確実のようです。

半導体独立不可能

「半導体はどの国も独立は不可能」と欧州3 MCUベンダCEO強調、EE Times20241114

昨年ドイツ)ミュンヘン開催electronica 2024で、欧州主要MCUベンダ3社のInfineonSTマイクロ、NXPCEOが、AI期待とEV(電気自動車)の見解を語っています。

  • あらゆるデバイスや用途でAI必須になるため、巨大ビジネス機会あり
  • EVは短期的困難に直面しているが、電動化の強い取組みを否定するものではない
  • 世界規模半導体の分断は危険、どの国も独立できない

2025年の米国関税導入への強い懸念を示しています。

動的状況把握ツール:CopilotGemini

Microsoft Copilot対Google Gemini
Microsoft Copilot対Google Gemini

半導体や経済の状況は、動的に変化します。この動的現状を手軽に調べる方法として、CopilotGeminiが役立ちます。

例えAI PCでない従来型PCでも、CopilotGeminiへ質問すれば最新ネット情報をかき集め、専門家以外の誰でも判るように要約、回答するからです。

回答の基になったリンクも表示するので、ハルシネーション対策もできます。最新情報が概要から詳細まで把握できます。天気予報と同じ感覚で活用すれば良いと思います。

高騰するプリント基板対策や開発中デバイス入手困難に備え、Plan B検討のきっかけになります。

Summary2025MCU半導体ベンダ動向

2025年のMCUベンダ各社は、産業と自動車向け半導体の需要低迷、供給過剰、製造コスト上昇に直面しています。さらに、米国と諸外国の報復関税など、地政学リスクの市場影響も無視できません。

半導体と経済の先行き不透明感が増しているのは、確実です。MCU開発者も、状況注視の必要があります。これら状況変化へ多様に対応できるMCU開発者が、今求められています。

Afterword:多様MCUソフトウェア開発ツール:弊社マイコンテンプレート

MCUテンプレート(緑:英語対応、黒:日本語のみ)
MCUテンプレート(緑:英語対応、黒:日本語のみ)

弊社は、ルネサス/NXP/STマイクロ/ Infineon(旧Cypress)各社の主要汎用MCUテンプレートを、各1000円(10 US$)で販売中です。最近のMCUソフトウェア開発は、HALHardware Abstraction LayerAPI記述が殆どです。弊社汎用テンプレートを使ってHAL APIポイントを掴めば、多様なMCUの早期開発に役立ちます。


MCU開発者とAI

MCUベンダ各社のエッジAIニュースが、昨年末から2025年の今年にかけて多く見られました。その背景を考えます。

2030年までのAI半導体市場予測

コチラの記事は、2030年までの半導体市場予測と、AIが人間の知能を超える2029年のシンギュラリティ実現を示しています(関連投稿:生成AI未来予測は2027年シンギュラリティ予測)。

生成AI知能レベル、シンギュラリティ、AI自動化
生成AI知能レベル、シンギュラリティ、AI自動化

従来の半導体は、2年毎に2倍になるムーアの法則で成長してきました。しかし、AIにより新たな形で成長し、Auroraというスーパーコンピュータを例に、AI半導体は、16倍に急増すると予測しています。その結果、シンギュラリティが、2029年に到来する可能性を述べています。

また、クルマとサーバ/データセンタのAI半導体が、2025年から2030年の半導体を牽引すると結論しています。これらは、主にクラウド側AI半導体の話です。

最新MCUベンダAIニュース

MCUベンダが担当するエッジ側のAI関連最新ニュース3つが以下です。

  • STマイクロ:エッジAI開発向け従来比600倍性能NPU搭載STM32N6シリーズ発表
  • ルネサス:ホンダとSVD2000TOPS20TOPS/Wを目指すR-Car X5シリーズ開発契約締結
  • NXP:エッジAI機能開発ソフトへeIQ AIソフトウェア追加

どれも、前章クラウド側AI半導体に呼応するMCUベンダのAI取組みです。その背景は、5年後の2030年までに急速発展するクラウド側AIサービスへの追随です。

AI性能2,000 TOPS、20 TOPS/W実現のHonda 0 シリーズ専用SoC開発(出典:ホンダサイト)
AI性能2,000 TOPS、20 TOPS/W実現のHonda 0 シリーズ専用SoC開発(出典:ホンダサイト)

ソフトウェア実装はAI、最上流工程は実装経験の人間

コチラの記事は、クラウドAIと機械学習が進化すると、プログラミングの殆どはAIが担うと結論しています。但し、起点となる「ここをソフトウェア化するという意思」はAIで代替できないため、実装経験のある開発者が必要と付け加えています。

映画ターミネーターのようにシンギュラリティでAIが意思を持つか、本当は分かりません。しかし、ソフトウェア実装をAIが担当すれば、MCU開発者の実務負荷が減ることは明らかです。

SummaryMCU開発者の備え

様々な予測を示しました。しかし、あくまで予測で、地震予知同様、未来は分かりません。

重要なのは、備えです。2025年の今すべきことは、MCUソフトウェア開発などの経験です。

開発経験は、成功でも失敗でもAI全盛時代に活かせる人間固有資産です。ハルシネーション対策に、AIの実装が正しいか、使い物になるかなどを最終的な判断は、経験豊かなMCU開発者が担当するでしょう。

MCUソフトウェアAI自動化は、機械学習データが少ないためPCMPUに比べ遅いです。この遅さを活かしMCU開発実経験を積みましょう(関連投稿:生成AI活用スキルAIMCUへの影響)。

Afterword:エッジAI期待サービス

さて筆者は、エッジAIにセキュリティ確保とルーティンワーク自動化を期待します。Windowsセキュリティ更新やブラウザ更新など、PCセキュリティ保全処理は全てAI任せ、いつでもどこでも安心安全PCを直ぐに使いたいです。

また、重要メール抽出や金曜投稿ネタ候補提案など、気兼ねなくAI任せたいタスクも数多くあります。エッジAI MCUで実現できれば嬉しいですね!


Raspberry Pi Pico 2 W発表

Raspberry Pi Pico 2 WとPico 2
Raspberry Pi Pico 2 WとPico 2

2024年11月25日、英国ラズパイ財団は8月9日発表のRaspberry Pi Pico 2(5$)へ、2.4GHz Wi-FiとBluetooth 5.2無線モジュールを追加したRaspberry Pi Pico 2 W(7$)を発表しました。 

弊社は、MCU開発者向けMPUにPico 2が適すと考え、その背景やハードウェアソフトウェア開発環境を投稿しました。EE Times記事によると今回の無線機能追加Pico 2 Wに加え、2025年には更に機能追加したPico 2シリーズへと展開されるそうです。

Raspberry Pi Pico 2 WとPico 2

Pico 2 Wは、Cortex-AなどのMPU/SBC定番MPUコアを、セキュリティ強化Cortex-M33コアへ変えたPico 2へ無線モジュールを加え、僅か7米ドルで発売されます(日本国内発売、価格未定)。

Cortex-M33は、セキュアブートTrustZoneなど既に多くのセキュリティ強化MCUに採用中です。Pico 2 W/Pico 2はMPUですが、MCUで実績のあるCortex-M33を搭載し、僅か7$/5$です。

つまり、価格面でもMCUに十分対抗でき、しかも、機能拡張性も備えた新世代MPU製品が、Raspberry Pi Pico 2 WとPico 2です。

MPU:Raspberry Pi Pico 2 W/Pico 2とMCU比較

MPUのRaspberry Pi Pico 2とCortex-M33 MCUの特徴的な仕様比較が下表です。MCUは、Pico 2と同じコアを使うルネサス)RA6E1を用いました。

Raspberry Pi Pico 2 ルネサスRA6E1
制御コア  Cortex-M33 (150MHz) Cortex-M33 (200MHz)
内蔵Flash 4MB  ≦1MB
内蔵RAM 520KB 256KB
内蔵周辺回路 2xUART、2xSPI、2xI2C、24xPWM、USB 1.1、12xPIO 6xSCI、12bit ADC/DAC、2xSPI、2xI2C、24xPWM、USB 2.0…etc.

MPUのRaspberry Pi Pico 2は、その機能追加に主としてオープンソースソフト/ハードを用います。このため十分なFlash/RAM容量を内蔵しています。内蔵周辺回路はMCU比、少数です。

一方、MCUのRA6E1は、ADC/DACなどMPUに比べ豊富な周辺回路を内蔵していますがFlash/RAM容量はMPU比小さく、機能追加はユーザ開発専用ソフトウェアが主です。

つまり、機能拡張性に優れるMPUと、価格重視MCUの特徴が仕様に現れています。

従来MPUは、MCUに比べかなり高価でした。しかし、Raspberry Pi Pico 2 W/Pico 2は、同クラスのMCUと同じ低価格にもかかわらず機能拡張性にも富んでいます。

Raspberry Pi Pico 2 Wは、Pico 2と同じ基本構成で、IoT向き無線モジュールを追加した新世代MPUです。

顧客はMPUでもMCUでも構わない

開発依頼元の顧客は、Cortex-M33のセキュアブートやTrustZoneなどのセキュリティ機能さえ持てば、制御系がMPUでもMCUでも構いません。ポイントは、トータルコストとその開発期間です。

最終的な顧客要求の実現に対し、オープンソースソフト/ハードの購入/活用で開発期間短縮も狙えるMPU Raspberry Pi Pico 2 W/Pico 2でアプローチするか、それとも、始めから豊富な周辺回路を持つMCUの専用ソフトウェアでアプローチするか、どちらを選ぶかは、我々開発者に任されています。

MPU/MCU、どちらのアプローチでもコストと期間を見積もれる二刀流開発者が求められます。

Summary:機能拡張低価格MPUと価格重視MCUの二刀流開発者

セキュリティ強化Cortex-M33コア搭載のRaspberry Pi Pico 2(5$)へ、無線モジュール追加Raspberry Pi Pico 2 W(7$)が発表されました。

IoT制御系は、Raspberry Pi Pico 2/Pico 2 Wのような機能拡張に優れ低価格な新世代MPUを使ったオープンソースハード/ソフト開発か、または、価格重視の従来MCU専用ソフトウェア開発か、両アプローチコストと開発期間を見積もれる二刀流開発者が求められます。

Afterword:プレタポルテのMPUとオーダーメイドのMCU

プレタポルテのMPU開発とオーダーメイドのMCU開発
プレタポルテのMPU開発とオーダーメイドのMCU開発

MPUはプレタポルテ、MCUはオーダーメイドに例えると解り易いと思います。

既製オープンソースハード/ソフトに少し手を加え顧客要求に合わせるのがMPU、専用ソフトウェアで顧客要求を満たすのがMCUだからです。どちらのアプローチを選択するか顧客と相談するには、MPU/MCUの二刀流開発が必要です。

英国ラズパイ財団は、Cortex-M33コアPico 2のシリーズ展開を狙っています。IoTにセキュアブートやTrustZoneが必須と考えているからです。Cortex-M33が今後のIoT開発ねらい目になりそうです。



半導体の宿命と対策

今回は技術的な話から離れ、半導体とその製品開発者の宿命と対策を考えます。

Summary:半導体の宿命と対策

半導体と関連開発者の宿命と対策
半導体と関連開発者の宿命と対策

半導体は経済と安全保障に強く関わる戦略物資です。経営・投資家には、巨額が稼げる分野、政治家には権力の見せ所の集票手段となりえます。

先端技術だけでなくこのような様々な側面を持つため、半導体製品開発者は、状況変化への柔軟性と視野を広く保ち、開発デバイスの高騰や入手不能などの状況に備え、常にPlan B対策を持つことをお勧めします。

半導体の成長

日本で「産業のコメ(米)」とも呼ばれる半導体は、自国の国内経済と安全保障に強く関わる戦略物資です。下記ピックアップ記事が物語っています。

世界半導体市場の推移(出典:SIA、データ元:WSTS)
世界半導体市場の推移(出典:SIA、データ元:WSTS)

2024年9月、世界半導体売上高が、前年同月比23.2%増の553億米ドルで過去最高を更新しました(11月7日、EE Times Japan記事)。グロス変化ですが、国別や地域別の増減割合も示されています。

車載ソフトウェア市場規模推移・予測(領域別)出所:矢野経済研究所
車載ソフトウェア市場規模推移・予測(領域別)出所:矢野経済研究所

2024年10月9日、矢野経済研究所は、日本国内車載ソフトウェアの制御系と車載IT系比率とその2030年までの日本市場が、1兆円に迫る規模の拡大予測を発表しました(10月22日、MONOist記事)。

※制御系:車載ADAS(先進運転支援システム)関連。
※車載IT系:CASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric)関連。

交通事故ゼロ社会イメージ(出典:トヨタ,NTT)
交通事故ゼロ社会イメージ(出典:トヨタ,NTT)

2024年10月31日、トヨタとNTTは、ヒト、モビリティ、インフラが三位一体で協調し、交通事故ゼロ実現に向けたAI・通信基盤構築に向け2030年度までに両社折版で5000億円投資を発表しました(11月1日、MONOist記事)。

これらの記事は、半導体製造・販売の売上高は過去最高に上昇中で、その半導体を大量に使う車載技術なども順調に拡大、2030年頃には、AI活用の新しいサービスへ発展することを示しています。つまり、半導体成長は前途洋々、関連投資や得られる利益も巨額です。

天気予報で言えば快晴です。経営者や投資家にとっては、半導体関連分野は魅力的でしょう。

半導体と政治

前章記事は、いずれも今秋の日米欧政治状況が大きく変わる前に発表されたものです。来年2025年は、この政治状況が大きく変わります。果たしてこれら予測や見込みが、このまま維持・継続されるでしょうか?

選挙によって選ばれる政治家は、自分の選挙区に視野・関心が集中しがちです。半導体産業は、地域経済と結びつきが強く、工場誘致に巨額資金や地域ネゴシエーションなども必要なため、政治の力(権力)の見せ所、恰好な集票手段です。

半導体は、先端技術だけでなくこのような政治側面も持つ産業です。戦略物資半導体の宿命です。

従って、日米欧政治状況変化後の来年2025年以降、各国半導体やサプライチェーンがどう変化するかは不透明で予測しづらいでしょう。100%の快晴確率では無い訳です。

開発者の対策

半導体を使う製品開発者は、快晴確率が100%で無いことを念頭に置く必要があります。例えば、台風の発生により場所により豪雨に変わることもある訳です。

台風やCOVID-19のような緊急事態の結果、開発デバイスの高騰や入手不能などの状況に変わることもあり得ます。これらに備え、代替デバイスを考慮しておくなどPlan Bを持ちましょう。例えば、MCUなら第2第3のMCUを考え、万一のMCU交換に対応できるハードウェア構成、例えば、制御系を標準インタフェースのArduinoで交換可能にするなどです。

また、様々な状況変化に対する柔軟性も必要です。これは、半導体関係者全てに言えることです。

半導体の製品開発者は、日頃から視野を広く持ち柔軟性を鍛えることが必要です。


MCUとMPU二刀流開発#2

Visual Studio Codeを使ったRaspberry Pi Pico 2 MPU開発
Visual Studio Codeを使ったRaspberry Pi Pico 2 MPU開発

TrustZone対応Cortex-M33コアに変わったRaspberry Pi Pico 2のMCU開発者向けPico 2開発の2回目は、Visual Studio Code(VSC)でソフトウェア開発環境を構築し、最初のプロジェクトを作成します(二刀流開発背景やハードウェアは投稿#1参照)。

※MCU開発者向けPico 2開発とは、MCU開発者の視点でRaspberry Pi Pico 2 MPU開発を記述。
※本稿はMCU開発で使うEclipse IDEとVSCを比較。
※MCUは価格追及型、MPU/SBCは機能拡張型。

Visual Studio Code(VSC)

Visual Studio Codeインストール直後
Visual Studio Codeインストール直後

VSCは、Microsoftが開発したマルチプラットフォーム・多言語対応の新しいコードエディタです。上図英語版エディタへ、拡張機能をインストールして使います。

カスタマイズ性が高く人気の開発ツールです。MCU開発デファクトスタンダードのEclipse IDE代替としても普及し始めています。

MCUとMPUの二刀流開発者は、Eclipse IDEとVSCの2つの統合開発環境を使えることが必要です。そこで、Pico 2 MPU開発環境のVSCを構築します。

先に結論を言うと、見た目は違いますがVSCはMCU統合開発環境Eclipse IDEと殆ど同じ操作です。Eclipse IDEコマンドやViewがVSCにもありますので同じ感覚で操作できます。

※本稿のEclipse IDEとは、例えばブログ掲載中のNXP)MCUXpresso、ST)STM32CubeIDE、ルネサス)e2 studioなどのこと。どれもEclipse IDEをベースにAPI生成ツールが実装済みのMCU開発環境。

Pico 2 MPU開発環境のVSC構築

1. PC(Win/Mac/Linux)へVSCインストール(デフォルト設定でOK)
2. 拡張機能:Japanese Language Packのインストール(お好み言語インストール可能)
3. 拡張機能:Raspberry Pi Picoのインストール(Pico 1/2/W全て共通)

拡張機能のJapanese Language PackとRaspberry Pi Picoのインストール
拡張機能のJapanese Language PackとRaspberry Pi Picoのインストール

拡張機能は、左ツールバー上から5番目の拡張機能アイコンをクリックし、検索窓にキーワード、例えばJapaneseやPicoを入力して選びます。様々な拡張機能候補が表示されますので、概要などを見て適す機能を選びます。インストールをクリックすればVSCへのインストール完了です。

VSCは、結構な頻度で更新されます。左ツールバー一番下の歯車アイコンクリックで更新確認ができます。インストール済みの拡張機能も、歯車アイコンで様々な設定ができますが、デフォルト設定で問題は無いと思います。

このようにVSCは、英語版汎用エディタを開発者がカスタマイズして使います。一方、MCU開発は、デファクトスタンダードEclipse IDEをMCUベンダがカスタマイズし専用化したものを使います。一長一短がありますが、Pico 2 MPUだけでなく幅広い開発にも使えるVSCは人気上昇中です。

Pico 2 MPUのVSC開発準備

拡張機能の日本語表示は、VSC再起動後に有効になります。日本語に変わらない時は、View>Command Palletをクリックし、検索窓にJapaneseなどを入力すると、表示切替えコマンドが判りますので手動切替えができます。

Pico拡張機能インストール後、左ツールバーにMPUアイコンが現れます。これをクリックし、New C/C++ Projectをクリックした画面が、下図です。

拡張機能Raspberry Pi Picoインスト後、New C/C++プロジェクトクリック画面
拡張機能Raspberry Pi Picoインスト後、New C/C++プロジェクトクリック画面

MCU開発者にはお馴染みの開発プロジェクト名やデバッガ設定ができます。面白いのが、RISC-Vコアが選択できる点です。実はPico 2は、Cortex-M33とRISC-Vのディアルコア(!) MPUです。しかし、どちらか一方のみが開発に使えます。本稿は、Cortex-M33を使います。

Featuresは、追加ライブラリです。Pico 2は、機能拡張型MPUですので、SPI/I2Cなどのインタフェース経由でボード機能を拡張するためのライブラリです。

Pico 2サンプルプロジェクト作成

前章のNew C/C++ Project画面で、プロジェクト名や標準入出力(printf)の接続先UART0/USBを選択後、Createクリックで新規プロジェクトが作成できます。しかし本稿は、MCU開発者にお馴染みのサンプルコードから最初のプロジェクトを作成します。

New Project From Exampleでblink_simpleを選択
New Project From Exampleでblink_simpleを選択

New C/C++ Projectの3つ下New Project From Exampleをクリックし、Name欄にblink_simple、Board typeはPico 2を選択します。Locationに適当な保存先を入力し、これ以外はデフォルトでCreateをクリックするとサンプルコード:blink_simple.cが作成されます。

※Name右横▼から様々なサンプルコード選択可能。

最初はDownloading SDK and Toolchainなどがあるため、作成時間がかなりかかります。画面右下のステータスで状況が判ります。また、「作成者を信頼しますか」などの質問が来ることもあります。暫く待っていると、下記blink_simple.cが現れます。

Pico2サンプルプロジェクトblink_simple
Pico2サンプルプロジェクトblink_simple

gpio初期設定後に無限ループを実行し、この中でgpio出力のledを点滅します。MCUのLチカサンプルと同じ構成です。

Pico 2サンプルプロジェクトビルド&デバッグ

下段Compileクリックでビルドされ、サンプルなので成功結果がターミナルViewに示されます。Eclipse IDEと同じ画面構成です。

この後、#1投稿で購入したRaspberry Pi Pico 2、DebugProbeを下図のようにPCとUSB接続します。本サンプルは、UART0は使いませんが接続していても問題ありません。

Rapsberry Pi Pico 2とDebugProbeのPC接続
Rapsberry Pi Pico 2とDebugProbeのPC接続

左ツールバー上から4番目の実行とデバッグ(Ctrl+Shift+D)アイコンをクリックすると、オブジェクトがPico 2へダウンロードされ、変数などが確認できるデバッグ画面に変わります。また、Eclipse IDEデバッグでよく使う続行(F5)やステップインなどのデバッグツールバーも表示されます。これらを使ってデバッグします。

blink_simple以外にも、様々なサンプルプロジェクトがあります。これらでPico 2 MPU理解が進みます。

Summary:MCU開発者のPico 2開発#2

最新MPU Cortex-M33コアRaspberry Pi Pico 2を使い、MCU開発者案件をMPUへも広げること、Eclipse IDE代替可能性のあるVisual Studio Code(VSC)習得を狙った投稿2回目は、以下VSC基本操作を示しました。

  • Pico 2 MPU開発環境VSC構築と開発準備
  • Pico 2サンプルプロジェクトビルドとデバッグ

統合開発環境としてのVSC操作やプロジェクト作成手順は、当然ですがMCU開発環境Eclipse IDEと殆ど同じです。但し、コマンド配置やファイル操作は、専用Eclipse IDEに一日の長があると思います。

VSCメリットは、今後期待されるAI活用プログラミングとの連携が良いことです。生成AI牽引GOMAの一角を占めるMicrosoft製だからです。

VSC基本操作を文章で書いたので長文になりました。端的に言えば、VSC操作は、MCU開発で使うEclipse IDEと同じです。Eclipse IDEで使うアイコンやコマンドはVSC画面内にあります。Pico 2サンプルを数個試せば、VSCにも慣れると思います。

Afterword:Pico 2ピン配置

サンプルコード利用時に役立つRaspberry Pi Pico 2:RP2350ピン配置を示します。本稿blink_simpleサンプルledは、GP25と判ります。また、豊富なSPI/I2Cインタフェースを使ってPico 2 MPUの機能拡張を行うのも判ります。

Rapsberry Pi Pico 2(RP2350)のピン配置
Rapsberry Pi Pico 2(RP2350)のピン配置



 

MCUとMPU二刀流開発#1

Rapsberry Pi Pico2開発環境
Rapsberry Pi Pico2開発環境

今年8月9日、英国ラズパイ財団が新しいRaspberry Pi Pico 2(以下Pico 2)を発表しました。Pico 2は、MCU開発者向けMPUです。従来MPU/SBCが採用していたCortex-Aなどの定番MPUコアから、セキュリティTrustZone対応Cortex-M33コアに変わったからです。そこで、MCU開発者向けPico 2開発の連載を始めます。

この連載で筆者を含めたMCU開発者は、最新MPU(Pico 2)のMCU的開発とVisual Studio Code(VSC)習得ができます。狙いは、開発の幅をMCUからMPUへも広げること、Eclipse IDE代替可能性もあるVSC習得の2つです。

※MCU的開発とは、例えばPico 2(RP2350、Cortex-M33 or RISC-V/150MHz、Flash/4MB、RAM/520KB)とMCUでお馴染みの表記をするなど「MCU開発者の視点でMPUを開発」ということです。

Summary:MCU開発者のPico 2開発#1

最新MPU Cortex-M33コアRaspberry Pi Pico 2を使い、MCU開発者案件のMPUへの拡幅、Eclipse IDE代替VSC習得を狙った投稿の1回目を示しました。

投稿#1内容が以下で、投稿背景とPico 2開発ハードウェアを示しています。

・MCU側からみたMPU開発の差
・MCU開発者が最新Raspberry Pi Pico 2 MPUを使うメリット
・Pico 2 MPU開発ハードウェア入手先情報
・TrustZone Cortex-M33 MCU/MPU二刀流開発の勧め

次回は、Pico 2開発ソフトウェアのVSC構築を投稿予定です。本投稿は、今後不定期に続けます。

※MCU(Micro Controller Unit)とMPU/SBC(Micro Processor Unit/Single Board Computer)の差を極簡単に言うと、MCUは価格追及型、一方、MPU/SBCは機能拡張型です(詳細は関連投稿参照)。

MPUとMCU開発差

同じCortex-M33コアでもMCU開発者とMPU開発者は異なるアプローチ
同じCortex-M33コアでもMCU開発者とMPU開発者は異なるアプローチ

MCU開発者なら当たり前の事でも、MPU側から見ると違う事柄が、コチラの記事前半で良く判ります。記事からピックアップした具体例が下記です。

・MPUは、ネイティブコード以外の開発もある
・サンプルコードは、全MPUペリフェラルをカバーしていない
・オンチップデバッグ無しのMPUボードもありJTAG/SWDの馴染みが薄い

一方、新しいPico 2が、MCU開発者に向いている理由が下記です。

・MCU開発者に馴染みがあるTrustZone対応Cortex-M33コアMPU
・MCU標準開発環境Eclipse IDE代替可能性のあるVSCが開発環境
・Windows/Macで開発できPico 2ボードとDebug Probe価格も低い
・Cortex-M33とRISC-Vのコア切替えもでき発展性に優れる
・Pico 2でオープンソースソフト/ハード開発を体験できる

つまり、MCU開発者の知識や経験を活かし、新しいPico 2 MPU開発ができます。その結果、低い障壁でMPU開発が始められます。

また、業務とは別の自分のキャリアアップにも役立つと思います(二刀流開発の勧め章参)。

Pico 2 MPU開発ハードウェア入手先

最初の図のPico 2とDebugProbeの2つが、購入するハードウェアです。

新しいPico 2は、従来比、1.5~2倍の高性能と省電力性が特徴です。DebugProbeは、専用ケースに入っており接続ケーブルも付属で使い易いです。

秋月電子通商やスイッチサイエンスなどから購入できます。秋月の方が低価格ですが、取扱数量が少ないとサイト記述があります。

・Raspberry Pi Pico 2:秋月電子スイッチサイエンス
・Raspberry Pi DebugProbe:秋月電子スイッチサイエンス

Pico 2開発環境Visual Studio Code

前述の記事後半に、Pico 2開発環境のVSC構築方法と、従来MPUで自作したデバッガー(Picoprobe)を使ったLチカプログラミングが記述されています。

但し、本連載は市販DebugProbeを使います。また、VSC構築は、次回投稿します。先行してPico 2開発環境を構築したい方は、記事を参考にしてください。

Cortex-M33 MCU/MPU二刀流開発の勧め

MCUとMPUの二刀流でTrustZone Cortex-M33を開発
MCUとMPUの二刀流でTrustZone Cortex-M33を開発

今から10年後、2034年の日本とエンジニアの記事は興味深いです。

日本の人口減少と共にエンジニアに求められるスキルも変わり、「高度なスキルに加え、より早く開発業務をこなす能力も求められる」という趣旨です。

本稿のPico 2 MPU開発もこの記事の趣旨がベースになっています。つまり、MCU比、MPU開発は、オープンソースソフト/ハードへの対応が良く、早い業務開発に向いています。

IoTに必須のセキュリティ機能を持つTrustZone Cortex-M33を、高度スキルを活かしたMCU、オープンソースソフト/ハードを活かしたMPU、どちらでも開発できれば、顧客要求を満たすエンジニアになれます。

顧客にとって実現手段はMCUでもMPUでも構わない、開発期間とトータルコストが問題です。この問題を解ける開発者、TrustZone対応Cortex-M33のMCUとMPU二刀流開発者が目標です(ワールドチャンピオンドジャースの大谷翔平氏のように)。

Afterword:Pico 2オープンソースハード/ソフト例

MPU/SBC(小さいコンピュータ)の拡張性を支えるオープンソースハード/ソフトは、市場に数多くあります。これらを上手く使えば、MCU比、早く大規模な開発に役立ちます。ここでは、3例を挙げます。

・AI強化:Raspberry Pi AI Kit、13TOPS NPU追加。
・表示デバイス追加:Tiny2350、カラー液晶追加。
・SSD追加:Raspberry Pi SSD Kit、256GB/512GB追加。

極簡単に言うと、機能を拡張したい時は、これらRaspberry対応のオープンソースハード/ソフトを探し、それをPico 2へ組込めばOKです。正にコンピュータへボード追加のイメージです。多くの機能ボードとボードを動かすソフトが、低コストで入手できますので、MCU比、短期間で簡単に機能拡張できるのが、MPUのPico 2です。


低消費電力トレンド

MCU開発者は、消費電力に気を配りソフトウェア/ハードウェアを開発します。最近は、顧客の低電力指向が強くなり、全業界で電力不足対策がトレンドとなっています。

ドイツ、米国、日本、有力企業の電力不足対策記事を示し、低消費電力トレンドを活かしMCU開発すれば、顧客に好印象を与え他社差別化に寄与することを示します。

ドイツ)Volkswagen国内工場閉鎖示唆

ドイツ)フォルクスワーゲンの電力消費対策
ドイツ)フォルクスワーゲンの電力消費対策

2024年9月5日、ドイツ最大手の自動車企業Volkswagenが、国内工場閉鎖を検討しているニュースが発表されました。その主要因は、国内調達エネルギーコスト、つまり、電力コストの高騰です。

製造業の製品は、コストパフォーマンスで評価されます。同じパフォーマンスならより安い製品が顧客に売れるのは、当然です。

脱原発方針やロシアのウクライナ侵攻、中東情勢のため、ドイツ国内電力コストが従来比急上昇し、もはやドイツ製造では高いコスパ維持ができないのです。

ドイツ工場を閉鎖、代わりに電力コストの安い国外製造がドイツ)Volkswagenの取組みです。

米国)Microsoft向けスリーマイル原発再稼働

米国)Microsoftの電力対策
米国)Microsoftの電力対策

2024年9月21日、米大手電力コンステレーション・エナジーが、スリーマイル島原発1号機の再稼働を発表しました。Microsoft AIデータセンタへ、20年間電力安定供給のためです。

AIデータセンタ向け電力は、今後急増が予想されます。再生エネルギーやシェール天然ガス発電だけではAI電力需要にまね合わないため、米国各地で原発再稼働の検討が始まっています。

AI新電力需要に対し、既存(休止)設備の再利用で対処するのが米国)Microsoftの取組みです。

日本)NTT光電融合新デバイス開発

日本)光電融合デバイスによる電力対策(出典:NTT R&D Forum 2023)
日本)光電融合デバイスによる電力対策(出典:NTT R&D Forum 2023)

2024年9月20日、NTTは、AIデータセンタ消費電力増大の解決策として光回路と電気回路を組み合わせた、新しい光電融合デバイスの現在到達点と今後の展望公演を発表しました。

光電融合デバイスは、次世代ネットワーク:IOWNだけでなく、コンピューティングへも使えるとNTTは考えています。

AI新電力需要に対し、光電融合新技術で対処するのが日本)NTTの取組みです。

Summary:低消費電力トレンドとMCU開発

ドイツ、米国、日本、有力企業の電力不足の取組みを、最新記事からまとめました。

  • ドイツ)Volkswagen:ドイツ工場閉鎖、電力コストの安い国外拠点で代替
  • 米国)Microsoft:既存(休止)原発再稼働でAI新電力需要を補う
  • 日本)NTT:光電融合の新技術でネットワークとコンピューティング両方の電力不足解消を狙う

これら低消費電力トレンドは、MCU開発やその顧客へも影響を与えます。MCU単体の消費電力は僅かでも、IoT時代は数十億個ものMCUが稼働するからです。

開発MCU消費電力の少なさは、顧客に好印象を与え、他社差別化に大きく寄与します。

Afterword:低消費電力MCU開発

MCU IDEには、電力消費シミュレーションツールが付属しています。従来は、確認程度に使っていました。シミュレーションとはいえ、今後は顧客へのMCU低電力動作例を示すのに使えます。

また、新しい製造デバイスは、従来デバイスよりも高性能で低電力動作です。例えば、40nmプロセスのSTM32G0は、STM32F0/F1の半分以下の電力で高速動作します(弊社STM32G0xテンプレートP2参照)。MCU単体とシステム全体ハードコスト検討も必要ですが、評価価値はあります。

40nm汎用STM32G0シリーズとSTM32F0/F1シリーズの動作電力比較
40nm汎用STM32G0シリーズとSTM32F0/F1シリーズの動作電力比較

全ての弊社マイコンテンプレートは、低消費電力対策にSleep処理を組込み済みです。Sleep有無で消費電力がどの程度変わるか、コメント修正のみで実ハード確認ができます。

MCUプロトタイプ開発に最適、顧客への低電力動作アピールにも適すマイコンテンプレート、ご活用ください。