1GHz 64ビットMPU量産開始

1GHz/64ビットMPU:RZ/A3UL評価ボード構成
1GHz/64ビットMPU:RZ/A3UL評価ボード構成

2022年8月ルネサスは、最大動作周波数1GHz 64ビットMPU、RZ/A3ULの量産を始めました。本プログメインカテゴリのMCU(マイコン)では無く、比較対称のMPU(マイクロプロセッサ)のことです。

より高度なHMI(Human Machine Interface)を実現するためRTOS(FreeRTOS/Azure RTOS)採用、RISC-Vコア搭載機RZ/Fiveとも互換性を持たせる作りです。肥大化するソフトウェア資産流用、活用に重点を置いています。

ところで、2022年8月9日ITmediaのPCとは何だったのか記事の最初のページには、PC(CPU)が16→32→64ビットへと変わった41年の歴史が、23回連載記事タイトルからも判ります(詳細は、連載記事参照)。

本稿で言いたいのは、MCU(マイコン)も近い将来GHzクラス高速化へ向かうだろうと言うことです。

MCU → IoT MCU

未だに8/16ビット機も現役のMCUは、CPU程の紆余曲折や派手さはありませんが、着実に高速・大容量化が進行中です。制御規模が小さく、スタンドアロン処理も可能なMCUなので8/16ビット機でも現役です。

しかし、時代はIoT、全ての制御対象がネットワークに繋がります。OTA(Over The Air)によりセキュリティ更新や、制御ソフトウェア変更もIoT MCUでは可能です。これら処理は、セキュリティライブラリや決まった更新手順で実施されます。

つまり、プリミティブなMCU制御から、よりアプリケーション寄り、場合によってはRTOS前提のIoT MCU制御へ変わらざるを得ない状況になりつつあります。自力でこれらを開発する猛者もいるでしょう。しかし、これらは、本来注力すべき開発差別化部分ではありません。

MCUハードウェア/ソフトウェアともに、市場獲得に向けて他社差別化を狙う部分と、IoTクラウド接続達成部分を、コストパフォーマンス高く共立する、これがIoT MCUの要件です。

CPU/MPU製造技術やソフトウェアのMCU転用は、過去、上記要件の解となってきました。大容量Flash内蔵が前提MCUと、外付けRAM前提CPU/MPUのハードウェア差はありますが、その転用速度は、今後更に早まると思います。

高度なHMIを体験すると元に戻れないように、MCU+クラウド→IoT MCUを顧客が体験すると、元のスタンドアロンMCUには戻れません。

ドライバ → 個別API → HAL API → マルチタスク

IoT MCUソフトウェア開発の変遷
IoT MCUソフトウェア開発の変遷

MCUソフトウェアも、40年前のドライバ開発、20年前のMCU個別API開発、10年前からはMCU共通HAL(Hardware Abstraction Layer) API開発へと変わりました。MCUソフトウェア資産化も、もはや夢ではありません。

開発部分がアプリケーション層に近づけば近づくほど、オーバーヘッドは増えます。オーバーヘッド増大や各種セキュリティライブラリなどの有効活用、RTOS利用によるマルチタスク開発には、IoT MCUの64ビット化、GHzクラス高速化も必然だと思います。

ビット幅増大は、各種巨大ライブラリ流用のためです。ここは32ビットでも十分かもしれません。しかし、高速化は、オーバーヘッド対策や、場合によってはMPU同程度の高度HMI処理、クラウドエッジでのAI処理など、IoT MCU機能実現には必須です。

製造業経済規模 → 縮小中の日本

我々開発者は、前章のIoT MCUソフトウェア開発の変遷を見ただけでもかなりの大変さ、自助努力が開発に必要であることを実感できます。

しかし、日本は、世界の先進国とは異なります。大変さや努力に対し報われることが期待できません。

日本が先進国で唯一、製造業の経済規模が縮小している国という記事や、労働者不足が、COVID-19のせいではないという記事を読むと、その理由と現状が判ります。

世界第2位から降下中の日本
世界第2位から降下中の日本

諸外国の真似をせよという気はありません。が、このままでは気が付けば、後進国になりかねないのが、今の日本です。

今こそ、日本開発者「個人」で変化に対応すべきです。少しずつでも、IoT MCUへ準備を始めませんか?

弊社NXP版FreeRTOSテンプレートは、FreeRTOSプロジェクトと同じ動作のベアメタルプロジェクトも添付済みです。アプリケーションレベルでRTOSとベアメタルを比較しながら技術習得が可能です。是非、ご活用ください。また、ST版Azure RTOSテンプレートも本年度中には開発予定です。

最後は、宣伝となってしまいました。すいません。

IoT MCUコア次世代像

PCのCPUは、IntelとAMDの2社が独占状態でした。しかし、AppleがARMベースの新CPU:M1を発表し、そのコストパフォーマンスは、Intel/AMDの3倍(!)とも言われます(記事:「ソフト技術者もうなるApple「M1」の実力、新アプリに道」や、「Apple M1の実力を新世代のIntel/AMD CPUと比較」など)。

本稿は、これらPC CPUコアの現状から、次世代IoT MCUコアの3層構造と筆者希望的観測を示します。

CPUコア:Apple/Intel/AMD

筆者が学生だった頃は、マシン語のPCソフトウェアもありました。CPUコア性能が低いため、ユーザ要求を満たすアプリケーション開発には、ソフトウェア流用性や開発性を無視したマシン語開発もやむを得ない状況でした。

現在のCPUコア性能は、重たいGUIやネットワーク処理を複数こなしても、ユーザ要求を満たし、かつ流用性も高いC/C++などの高級言語でのアプリケーション開発が普通です。Appleは、この状況でIntel/AMDコストパフォーマンス比3倍のM1 CPUを開発しました。

このM1 CPUを使えば、従来CPUのボトルネックが解消できるために、より優れたGUIや新しいアプリケーションの開発が期待できます。

このM1実現の鍵は、5nmルールの製造技術と新しいCPU設計にあるようです。

MCUコア:ARM/Non ARM

MCUはARMコアとNon ARMコアがありますが、Non ARMコアのコストパフォーマンス比は、M1程ではありません。従って、主流はARM Cortex-M系シングルコア採用MCUで、事実上ARMコア独占状態です。開発言語はC言語でベアメタル開発、製造プロセスも数10nmと、いわば、数10年前のIntel独占CPUコアに近い状況です。

RISC-Vという新しいMCUコアも出てきましたが、まだ少数派でその性能も未知数です。Intel/AMD CPUと比較記事の最後に記載された「競争こそユーザの利益」には、MCU世界はなっていません。

ARMはコア設計図のみ提供し、デバイス実装はMCUベンダが担当します。従って、現状のMCU世界が続く場合には、MCU高速化は製造技術進化とマルチコア化が鍵です。

ARMは、エッジAIに向けたNPUを発表しました。独自MCUコアと付随する開発環境を提供でき、かつコストパフォーマンスがARMコアの数倍を実現できるMCUベンダが無い現状では、ARMの頑張りがIoT MCUを牽引すると思います。

NVIDIAによるARM買収が、今後のARM動向に及ぼす影響は気になる状況ではあります。

IoT MCUコア

MCUコアとCPUコアの一番の差は、ユーザ要求コストです。これは、同じコアのMCU製品に、内蔵周辺回路やFlash/RAM容量の異なる多くのデバイスをベンダが提供中であることからも解ります。ユーザは、MCUに対して無駄なコストは払いたくないのです。

つまり、MCUデバイスはアプリケーション専用製品、CPUデバイスは超汎用製品、ここが分岐点です。

IoT MCUには、エッジAI、セキュリティ、無線通信(5GやWi-Fi)などのIoT機能追加が必要です。これら機能を並列動作させる手段として、RTOSも期待されています。この状況対応に、MCUコアも高性能化やマルチコア化に進化しつつあります。

セキュリティや無線通信は、予め決まった仕様があり、これら対応の専用ライブラリがベンダより提供されます。但し、セキュリティは、コストに見合った様々なセキュリティレベルがあるのも特徴です。ソフトウェア技術者は、専用ライブラリのMCU実装には神経を使いますが、ライブラリ本体の変更などは求められません。この仕様が決まった部分を「IoT基本機能」と本稿では呼びます。

MCUソフトウェア開発者が注力すべきは、ユーザ要求に応じて開発するIoTアプリケーション部分です。この部分を、「IoT付加機能」と呼び、「IoT基本機能」と分けて考えます。

ユーザのアプリケーション専用MCU製品意識は、IoT MCUでも変わりません。例えば、IoT基本機能の無線機能は不要や、ユーザがコストに応じて取捨選択できるセキュリティレベルなどのIoT MCU製品構成になると思います。一方、IoT付加機能だけを実装するなら、現状のMCUでも実現可能です。

以上のことから、IoT MCUは3層構造になると思います。

IoT MCUコアの3層構造
IoT MCUコアの3層構造
機能 追記
Back End IoT MCU IoT基本機能+付加機能+分析結果表示 収集データ分析結果ビジュアル表示
IoT MCU IoT基本機能+付加機能 高性能、マルチコア、RTOS利用
Front End IoT MCU センサデータ収集などのIoT付加機能
最小限セキュリティ対策
収集データは上層へ有線送信
コスト最重視

最下層は、ユーザ要求アプリケーションを実装し、主にセンサからのデータを収集するFront End IoT MCUです。ここは、現状のARM/Non ARMコアMCUでも実現できIoT付加機能を実装する層です。デバイスコスト最重視なので、最小限のセキュリティ対策と収集データを有線、または無線モジュールなど経由で上位IoT MCUへ送信します。IoT MCUサブセット版になる可能性もあります。

中間層は、高度なセキュリティと市場に応じた無線通信、エッジAI機能などのIoT基本機能がフル実装できる高性能MCUコアやマルチコア、RTOS利用へ進化した層です。IoT付加機能も同時実装可能で、下層の複数Front End IoT MCUが収集したセンサデータを、まとめて上位Back End IoT MCUまたは、インターネット空間へ直接送信できます。製造技術進化とマルチコア化、ARM新コア(Cortex-M23/33/55など)が寄与し、IoT MCUの中心デバイスです。

最上層は、第2層のIoT MCU機能に加え、インターネット空間で収集データを分析・活用した結果をユーザへビジュアル表示する機能を追加した超高性能MCUコア活用層です。自動車のADAS(Advanced Driver-Assistance Systems:先進運転支援システム)のおかげでユーザへのビジュアル表示要求はより高度になります。このユーザ要求を満たす次世代の超高性能IoT MCU(またはMPU)が実現します。

最下層のFront End IoT MCUは、現状のCortex-M0+/M4コアで弊社テンプレート適用のMCUが生き残ってほしい、というのが筆者の希望的観測です。
それにしてもAppleのコスパ3倍M1、凄いです。iPhoneもそうですが、抜きん出た技術と経営能力、Jobs精神、健在ですね。

2018 IoT MCUを振り返る

今年も多くの方々に本HappyTechブログをご覧いただき、また、多くの方々にマイコンテンプレートをご購入いただいたことに心より感謝いたします。ありがとうございました。

2018年の弊社ブログ投稿を振り返って、IoT MCUの2018動向を総括します。

ノードとエッジに2層化するIoT MCU

IoT時代には、数十億個以上もの膨大な数が必要と言われるIoTエッジMCU、これが本ブログ対象マイコンです。低コスト、低消費電力、効率的ハードウェア/ソフトウェア生産性が求められます。

これらIoTエッジMCUを束ね、クラウドと無線通信するのがIoTノードMCU。IoT MCUは、ノードとエッジの2層化傾向があります。

IoT MCU日本ベンダー動向

ルネサス エレクトロニクス:アナログフロントエンド強化の買収継続
NXPセミコンダクターズ:クアルコム買収断念で独自性維持
サイプレス・セミコンダクター:超低電力Cortex-M0+製品強化
STマイクロエレクトロニクス:日本語資料強化

自動車と産業、セキュリティがIoT MCUを牽引

超高性能、セキュリティ、CAN FD、低電力が自動車向け要求、同じくセキュリティ重視だが、コストパフォーマンスも重視、低電力が産業向け要求、両要求ベクトルがIoT MCUベンダー開発を牽引中。

MCUコアのこだわり不要

要求を満たすには広いMCUカバー能力と低電力動作が必要で、Cortex-M0+とCortex-M4のマルチコアや、シングルコア動作周波数の引上げが見られます。製造プロセス微細化も進むでしょう。

エンドユーザ(顧客)は、いわゆるソリューション(解)を求めていて、要求を満たせばMCUコアが何でも構わないので、開発者は、手段であるMCUコアにこだわる必要性を少なくすることが求められます。

つまり、最適ソリューションのハードウェア/ソフトウェアを、様々なベンダー、MCUから自ら選択し、効率的に解を提供できるIoT MCU開発者がプロフェッショナルです。

そこで、ソリューション提供・提案をする開発者個人向けツールとして、弊社マイコンテンプレートを発展させる予定です。ブログ対象IoT MCUも、この基準にフォーカスし情報提供します。

以上簡単ですが2018年のIoT MCUを総括しました。2019年も引き続きよろしくお願いいたします。