次期マイコンテンプレートのターゲット考察

NXPとFreescaleの合併、予想さえしなかったことです。激動するマイコン世界ですが、現在のマイコンテンプレート状況を整理し、次期テンプレートのターゲットとなるマイコンについて考えます。

入手性の良いマイコンとテンプレート販売状況

以前紹介した入手性が良いマイコンが一目で解る、チップワンストップサイトのマイコン/開発ツール検索を今回も利用させていただきます。サイト中央のマイコン/ボードタグをクリックすると、8/16/32bit処理ビットとベンダ毎に分けられたマイコンが表示されます。

一覧表が以下です。緑色がARM仕様のマイコン、青色がベンダ仕様マイコン、赤囲みがテンプレート対応マイコンで、現在4種のテンプレートを1000円(税込)で販売中です。

入手性の良いマイコンとテンプレート提供状況
入手性の良いマイコンとテンプレート提供状況

表中NXPはARM Cortex-M0のみですが、Cortex-M0+のLPC8xxも供給しています。
32bitマイコンの主流は、緑のARMマイコンです。表内のARMコアの特徴をまとめたものが下表です。

ARMコア 名称 概要
Cortex-Mx エンベデッド プロセサ 32bitの高い処理効率を維持し、業界最先端の動作と最小限のスリープ/ダイナミック電力、最小限のダイ面積を目指し設計。以下の4サブ構成。
Cortex-M0:低消費電力マイコン
Cortex-M0+:超低消費電力マイコン
・Cortex-M3:汎用マイコン
・Cortex-M4:デジタル信号制御マイコン
Cortex-Ax アプリケーション プロセサ 高度なオペレーティングシステム:OSが実行可能なメモリ管理ユニットMMU搭載マイコン
ARMx Classic プロセサ ARM11、ARM9、ARM7などコスト効果の高いマイコン

 

32bitマイコンのテンプレート対象は、Cortex-M0/M0+です。
Cortex-M3クラスになると、高価なうえに動作周波数も70MHz以上でControlよりもComputeが得意になります。IoT向けPCのEdisonRaspberry Pi 2(Cortex-A7搭載)と競合する可能性もあります。Cortex-M0/M0+は、16bitマイコン市場の置換えも視野に入れたマイコンですので、今後の普及も期待できます。
16bitマイコンは、ルネサスの超低消費電力マイコンRL78に、RL78/G1xテンプレートを販売中です。

4種テンプレートに付記した動作電圧からみえるのは、そのマイコンの想定アプリケーションです。
FreescaleのKinetis Eは、5V耐性やノイズ耐力を高めたマイコンです。また、NXPのLPC8xxは、バッテリ駆動ができ、小ピンですがスイッチマトリクスによりピン配置の自由度が高く、LPC111xも同じくバッテリ駆動可能で、第3世代でアクティブ消費電流が116uA/MHzまで低下したマイコンです。ルネサスのRL78は、広い動作電圧がセースルポイントのマイコンです。

以上が現状マイコンテンプレートの状況です。「16bitのHigh Performanceマイコンから32bit Entry+alphaのマイコンで、容易に入手できメジャーなもの」へテンプレートを提供し、「対象マイコンの速習と早期アプリ開発」が誰でもできます。テンプレートの詳細は、マイコンテンプレートサイトを参照してください。

IoTアプリケーション向きの超低消費電力マイコンと次期テンプレート

開発アプリケーションに適したマイコンを選ぶこと、これが最も重要です。汎用マイコンでも、想定した応用の範囲内で能力を発揮するように設計されているからです。
次期テンプレートは、よりアプリケーション指向の強いマイコンを選びます。当りハズレはありますが、当たればより多くのテンプレートが売れる可能性があるからです。

プログ記載の2015年1月~2月に集中して最新マイコンドレンドを分析した結果、各ベンダは、巨大マーケットを持つ「IoTアプリと車載アプリ」へのマイコン開発に力点を置きつつあることが解りました。特に車載マイコンでのこの動きの結果、NXPとFreescaleの合併となったとも言えるでしょう。

次期テンプレートもこのドレンド:IoTアプリ向けの超低消費電力マイコンに開発します。例を挙げると、ARM Cortex-M0/M0+コアでは、より低い消費電力、高エネルギー効率と低コストを狙ったFreescaleのKinetis LシリーズやNXPのLPC82x、ルネサスRL78:S3コアでは、RL78/I1Dなどです。

これらには、従来テンプレートに添付したシンプル/メニュードリブンテンプレートに加え、IoTアプリ開発の重要なポイントになる省電力テンプレート(仮称)も加える予定です。

 

IntelシニアフェローStephen Pawlowski氏によると、「これからの10年は、エレクトロニクスのイノベーションの歴史で最もエキサイティングな時代になるだろう。」だそうです。弊社マイコンテンプレートが、このエキサイティングな時代に活躍する技術者/開発者の方へ、少しでもお役立てれば幸いです。

無償mbed OS 10月15日リリース予定

mbed OSリリーススケジュール(記事より抜粋)
mbed OSリリーススケジュール(記事より抜粋)

弊社ブログ記載のARM無償提供mbed OSのリリーススケジュールが、“ARM 「mbed OS」とは何か?その詳細と動向”記事にあります。本年2015年10月15日以降には、mbed OSを試せそうです。

mbed OS層構造

mbed OSの構造(記事より抜粋し加筆)
mbed OSの構造(記事より抜粋し加筆)

ARM Cortex-M0/M0+のマイコンに無償で使えるmbed OSは、図のように各種標準通信プロトロルを提供します。ROM容量の少ないマイコンは、この中の一部を選択して実装できるそうです。

CMSISとIPv4、IPv6実装済み無償OSがC++ APIで使える10月15日が待ち遠しいです。弊社テンプレート提供中のARMマイコン、LPC812、LPC1114/5、Kinetis Eにも適用できそうです。

実物を診ないと断言はできませんが、テンプレートもこのmbed OSの上(Applicationsの層)に配置できる気がします。超うすいテンプレートだからです。勝手にライバル視してきましたが、実は、CMSISと同じ感覚でネット接続APIが使える可能性もあり、ますます待ち遠しいです。
一方、IoT向けPC:Raspberry Pi 2に無償提供されるWindows 10にとっては、強力ライバルソフトになりそうです。Raspberry Pi 2は、ARM搭載ですので、当然このmbed OSが実装できると思うからです。

Edisonを使った温度センサのツイート例

IoT向けPCならマイコン技術者でなくても、誰でもIoTアプリが簡単に開発できる記事を見つけましたので紹介します。

周囲温度をEdisonでツイート

Wiring the Internet of Things with Intel Edison and Node-REDより抜粋
Wiring the Internet of Things with Intel Edison and Node-REDより抜粋

IoT向けPCは、EdisonRaspberry Pi 2を紹介済みです。両者ともGPIO×40を持ち、見た目はマイコン評価ボードのようですが、元々PCですのでEther接続は得意です。PCボード価格も5000円以下で、高性能マイコンの評価ボードと同程度です。

簡単に記事を説明すると、EdisonのGPIOに温度センサを接続し、MRAAというライブラリとNode-REDというGUIツールを使って周囲温度をスキャンし、計測値をネットへツイートします。GPIOアクセスやGUIツールの使い方が主体の記事です。これは、OSが必須のPCでは、GPIOへの直接アクセスはできないのが一般的だからです。マイコンとは、ココが違います。

同じことをマイコンでするなら、温度センサ接続やGPIO制御などは簡単ですが、Ether接続、ましてはツイッターへの送信などは、規定プロトコルをマイコンへポーティングするだけで大変です。

マイコンとIoT向けPCの得意処理

マイコンは、センサ制御やGPIOデータ収取などの「Control」が得意です。しかし、「Compute」には高性能が必要で、ネットアクセスと並んでIoT向けPCの得意領域です。これらマイコンとIoT向けPCは、データ収集エリア近くに多数配置され、ここから集められたデータがクラウド内のデータセンタでビッグデータとして処理、加工されます。これがIoTの全体構造と考えられています。

各ベンダの最新マイコンは、このIoT内でシェア確保を狙い、ADC分解能や低消費電力、小型低価格化などのControl性能向上に力点がシフトしつつあります。IoT向けPCとの接続用に従来のUARTから、USBやBluetoothなどが汎用化するかもしれません。

一方、IoT向けPCには、ソフト開発者用としてWindows無償提供や各種ライブラリ/ツールなどで、より簡単で高機能なCompute処理の実装ができる環境が提供されます。

汎用マイコン機能見直しの兆し

マイコンとIoT向けPC、それぞれが、機能選択とコスト最適化を目指して変化しつつあるのが現状だと思います。IoTビッグマーケットに対して「競合か共存か」、両者ともに注視する必要がありそうです。