Bluetooth 5.3 LE対応RA開発中

Bluetooth 5.3対応の開発中RA MCU
Bluetooth 5.3対応の開発中RA MCU

2021年10月21日、ルネサスは、最新規格Bluetooth 5.3 Low Energy(LE)対応のRAファミリ新MCUを開発中と発表しました。RA搭載予定のBluetooth 5.3 LE機能と、ルネサス32ビットMCU におけるRAファミリの位置づけを示します。

搭載予定の最新Bluetooth 5.3 LE機能

PCとキーボード、スマホとヘッドホン間など近距離低消費電力無線通信規格としてBluetooth 5は、広く用いられています。MCU搭載例も多く、本ブログでも何件か投稿してきました(STマイクロのSTM32WB、Cypress/InfineonのPSoC6、NXPのKW41Z、Bluetooth 5規格)。

RAファミリでもBluetooth 5対応RA4W1が発売中です。開発中のRAは、新規格Bluetooth 5.3対応MCUです。

Bluetooth SIGが2021年7月13日に発表した新規格Bluetooth 5.3は、Bluetooth 5に、スループットと信頼性、エネルギー効率向上など様々な機能を追加しました。詳細は、Bluetooth SIG サイトのBluetooth Core Specification v5.3で判ります。

開発中の新RAには、これらBluetooth 5.3機能に加え、Bluetooth 5.1で追加された方向検知機能、Bluetooth 5.2で追加されたステレオオーディオ伝送用アイソクロナスチャネルも対応予定です。また、ソフトウェア無線(SDR)機能の搭載により、後日リリースされる新たな規格への移行も可能だそうです。

つまり、新RAは、Bluetooth 5以降の新Bluetooth機能満載のIoT MCUで、しかも、SDRにより新しい機能追加も可能な、“万能”近距離低消費電力無線通信付きIoT MCUになりそうです。

2022年1~3月サンプル出荷予定

最新規格Bluetooth 5.3 Low Energy対応、開発中RA MCUのサンプル出荷は、2022年第1四半期(1~3月)が予定されています。

RAファミリ位置づけ

独自コア、ARMコア、開発環境など様々なルネサス32ビットMCUファミリ差が一目で判る図が、コチラの記事にあります。

RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)
RAファミリ位置づけ(出展:記事に加筆)

IoT MCU開発者の立場からRAファミリを分析すると、

・ARM Cortex-M33/M23/M4コア採用でIoTセキュリティ強化
・Eclipse IDEベースのKeilやIARなどのARM Ecosystemと無償GNUコンパイラが使える

などRXファミリやSynergyでは不可能であった、手軽で低コスト、個人レベルでも開発可能な32ビットIoT MCUと言えます。

RAファミリ向けルネサスEcosystemは、Eclipse IDEベースのe2 studioです。また、RAファミリ専用Flexible Software Package(FSP)によるAPI生成ツールは、ピン互換性、周辺回路共通性があるため、RAファミリ内での開発ソフトウェア移行や移植も容易になる特徴があります。

無償GNUコンパイラのFlash容量制限などもありません。

RAファミリ開発方法

開発中のBluetooth 5.3 LEが新たに周辺回路に追加されますが、e2 studioやFSPによるRAファミリ開発方法は、汎用RA MCUのRA4E1 Fast Prototype Boardの使い方や、FreeRTOSの使い方と同じです。

RAファミリ開発の早期着手、習得したい方は、上記リンクを参考にしてください。

Flexible Software Package v3.4.0更新

FSPは、10月7日にv3.4.0へバージョンアップしました。

e2 studio 2021-10のHelp>check updatesではFSP v3.3.0から自動更新しません。FSPサイトから最新v3.4.0をダウンロードし、手動でアップグレート更新する必要があります。

Flexible Software Packageのアップグレード
Flexible Software Packageのアップグレード

v3.4.0を別の場所にインストールすれば、旧v3.3.0との併存も可能です。

AI、Security&Cloud、Ecosystem オンライン・コンファレンス

AI、Security&Cloud、Ecosystem(=開発環境)の3日間オンライン・コンファレンスと展示会が、STマイクロ主催でライブ配信されます。STM32ユーザは勿論、他社ユーザでも組込みシステム開発ヒントの可能性があります。

STM32 Innovation Day 2021 11月10日~12日(オンライン)
STM32 Innovation Day 2021 11月10日~12日(オンライン)

AI、Security&Cloud、Ecosystemプログラム概要

11月10日(水)~12日(金)の毎日13時~17時間のライブ配信で、登録すればお好きな内容のみ視聴も可能です。登録方法は、後で示します。

AI、Security&Cloud、Ecosystemのプログラム概要
AI、Security&Cloud、Ecosystemのプログラム概要

詳細プログラムは、コチラからダウンロードできます。

見どころ

10日(水)AI:STM32MCUでの組込みエッジAIデモ。

11日(木)Security&Cloud:Cortex-M33コアSTM32U5、セキュリティ・フレームワークSTM32Trust、AWSクラウド。

12日(金)Ecosystem:STM32MCU機能安全ソフトウェア・パッケージ、Azureクラウド。

13:30~14:00の各分野エキスパートによる基調講演、バーチャル・イベント会場の最新製品紹介やデモなども面白そうです。

他社ユーザの方は、利用中MCUとの差分が明確に判る絶好のチャンスです。

登録方法

事前に、コチラで仮登録し、折返しメールで10分以内に本登録します。

コンファレンス後、アンケートに回答するとMCU評価ボードなどが当選するかもしれません。

RA4E1 Fast Prototype BoardのFreeRTOS使い方

RA4E1 Fast Prototype BoardへFreeRTOSを適用
RA4E1 Fast Prototype BoardへFreeRTOSを適用

RAファミリ評価ボードRA4E1 Fast Prototype Board (Cortex-M33/100MHz、Flash/512KB、RAM/128KB)(以降FPB)の、スイッチS1でLED2を点灯するFreeRTOS適用例を示します。RAファミリビギナーズガイド9章記載のEK-RA6M4評価キットを使った処理内容と同じです。

e2 studio 2021-10は、Project>Change Deviceで対象MCUデバイス変更機能がありますが動作しません。そこで、ガイド掲載のEK-RA6M4を手動でRA4E1へ変更し、FPBでFreeRTOSのセマフォを利用し、S1押下げ割込みとLED2トグル点灯を同期させるFreeRTOSサンプルコードを示します。

このコードを使い、前稿よりも具体的にFPBとFlexible Software Package(以降FSP)の使い方、今回は使わないTrustZoneのメリットを示すのが、本稿の目的です。

RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)のRTOSとTrustZone

IoT MCUをクラウド接続するには、RTOSが必要です。AWS(Amazon Web Services )接続にはFreeRTOSライブラリ、Microsoft Azure接続にはAzure RTOSライブラリの利用が前提だからです。

また、クラウド接続には、TrustZoneなどハードウェアによるセキュリティ対策も要求されますので、RTOSとTrustZoneは、IoT MCUの必須2技術です。

ハードウエアセキュリティは、開発後、簡単に追加することが困難です。今回はTrustZone未使用ですが、IoTプロトタイプ開発にTrustZone内蔵Cortex-M33を用いるのは、例え未使用でも製品セキュリティ処理の具体的検討ができるなど、IoTセキュリティを開発初期から考慮した設計となるからです。

これが使わないTrustZoneのメリットです(TrustZone使用例も、いずれ投稿予定)。

本稿は、先ずFreeRTOSをFPBへ適用します。FreeRTOS新規プロジェクト作成、API生成ツールFSP設定、FSP生成ファイルへのタスク追記の順に説明します。

Step1:FreeRTOS新規プロジェクト作成

最新版e2 studio(2021-10)の新規FreeRTOSプロジェクトは、File>New>C/C++Projectとクリックし、①~⑥の手順で作成します。

FreeRTOS新規プロジェクト作成
FreeRTOS新規プロジェクト作成

②プロジェクト名は、任意です。③Boardは、PFB-RA4E1を選択します。

④TrustZone未使用時のプロジェクトを、“Flat”と呼びます。これは、TrustZone使用時、セキュアと非セキュアの2プロジェクト並存が必要となりメモリ領域を分割することに対する、平坦なメモリ使い方に起因していると思います。

※メモリ領域分割は、PCハードディスクのパーティション分割をイメージして頂ければ判り易いでしょう。例えサイバー攻撃を受けても、物理的に侵入できないメモリ領域を作り、ここへ最重要情報やソフトウェアを保存する訳です。

⑤FreeRTOSを選択します。ベアメタル(No RTOS)とAzure RTOSも選択可能です。⑥Minimalを選択し、FinishクリックでFreeRTOS(TrustZone未使用)新規プロジェクトが完成です。

各選択肢を変えると、前稿で説明した多種類の新規プロジェクトが作成できることが解ります。

Step2:Flexible Software Package(FSP)設定

Flexible Software Package (FSP)設定
Flexible Software Package (FSP)設定

新規プロジェクト作成のFinishクリックで、FSPパースペクティブオープンを聞いてきますので、開きます。

①プロジェクトSummaryが表示されます。Stacksタブを選択、②New Stackをクリックし、External IRQ Driver on r_icuを選択します。新しい外部割込みドライバがStackに追加され、③プロパティが表示されます。

FPBのユーザスイッチS1は、P205(IRQ1)に接続済みです。そこで、③プロパティのirq0をirq1、TriggerをFalling、Digital FilteringをEnable、Callbackをexternal_irq1_callbackに変更します。

次にセマフォ追加のため、④ObjectsのNew Objectsをクリックし、Binary Semaphoreを選択します。⑤プロパティSymbolをg_s1_semaphoreに変更します。

RA4E1 Fast Prototype BoardのSW1 P205(IRQ1)の確認
RA4E1 Fast Prototype BoardのSW1 P205(IRQ1)の確認

最後に、⑥pinsタブをクリックし、ユーザスイッチS1:P205(IRQ1)とIOピン割当てをGUIで確認します。

以上でFSP設定は完了です。Generate Project Contentをクリックすると、APIや割込みコールバック関数、関連ファイルが自動生成されます。

Step3:FSP生成ファイルへタスク追記

FreeRTOSセマフォ同期処理
FreeRTOSセマフォ同期処理

FSPが生成したファイル:led_thread_entry.cに上記コードを追加します。このコードは、LED初期化と無限ループ処理から構成されます。RAビギナーズガイド掲載のirq10をirq1へ変更したLEDタスクです。

コールバック関数external_irq1_callbackは、Developer AssistanceのLED Threadを開くと一番下に割込みコールバック関数が生成済みですので、これをドラッグ&ドロップして追加します。

LEDタスク追加後、ビルドしFSBへダウンロード、デバッガ起動後、再開を2回クリックして実行中の様子が上図です。FSBのS1クリックでLED2がトグル点灯します。

FreeRTOS Queueサンプルコード

前章は、RAファミリビギナーズガイド9章のEK-RA6M4評価キットFreeRTOSセマフォサンプルコードを、RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)へ流用したコードです。変更箇所は、irq10をirq1へ変えただけです。

FSPには、FreeRTOS Queueサンプルコード:freertos_fpb_ra4e1_epも付属しています。これら2つのサンプルコードを理解すれば、セマフォとQueueを使う基本的なFreeRTOSソフトウェア開発が可能です。

FreeRTOS待合せ手段としては、セマフォ/Queue以外にもMutexやイベントグループなどの手段もあります。弊社ではFreeRTOS基礎固めを目的として、Hardware Independent FreeRTOS Exampleを応用したセマフォ/Queue活用のFreeRTOSテンプレート化を目指しています。RA/REテンプレートもこの方針で開発する予定です。

この方針で開発したNXP版FreeRTOSアプリケーションテンプレートは、コチラから概要がダウンロード可能です。

まとめ

RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)へ、RAファミリビギナーズガイド掲載FreeRTOSサンプルコードを流用し、ユーザスイッチS1とLED2点灯をセマフォで同期させました。

FreeRTOS新規プロジェクト作成、Flexible Software Package(FSP)設定、FSP生成ファイルへのタスク追記の具体的操作手順を示しました。

ガイド9章には、更に詳細な説明がありますので、参考になります。例えば、スイッチ割込み優先度12を利用する理由、systick優先度15が予約済みであるなどです。

TrustZoneは未使用ですが、プロトタイプ開発初期からIoTセキュリティを考慮した設計ができるメリットがあります。

FSP付属Queueサンプルコードと本セマフォコードを使ってFreeRTOS基礎固め目的のRA/REテンプレート開発を進めます。

RA4E1 Fast Prototype Boardの使い方

前稿のRAファミリ評価ボードRA4E1 Fast Prototype Board(以降FPB)を入手、RA/REテンプレート検討に着手しました。

FPB開発に用いるルネサスIDE:e2 studio(以降e2)とAPI生成ツール:Flexible Software Package(以降FSP)は、NXPやSTマイクロなどのEclipseベースIDEの利用者が?に思う箇所があると思います。

ルネサスIDE:CS+ユーザでも、同様にこの?を感じると思いますので、対策と評価ボードFPBの使い方を示します。

RA4E1 Fast Prototype Boardとe2 studio
RA4E1 Fast Prototype Boardとe2 studio

e² studio

Eclipse IDEをベースとしたRAファミリ統合開発環境:IDEが、e2、API生成ツールが、FSPです。

e2は、ARMコアを含む全てのルネサスMCU開発用の新世代IDEで、古くからあるRL78ファミリやRXファミリなどのルネサス独自コア専用統合開発環境CS+の後継IDEとして登場しました。但し、CS+は、現在でもRL78/RXファミリ開発に使えます。

e2は、MCUファミリ毎にコンパイラを切替えることにより、全ルネサスMCUの共通IDEとして動作します。MCUファミリのコンパイラは、普通1種類です。ところが、RAファミリには、GNUとARM Compiler V6の2種類が用意されており、どちらも無償です。

GNUとARM Compiler V6?

e2インストール時、デフォルトでインストールされるコンパイラは、GNUです。ARM Compiler V6は、後から追加インストールが必要です。最初の?は、両コンパイラの“違いは何か”です。

次章で示すFSPやTrustZone利用に差が生じるのであれば、問題です。

ルネサス資料を探しましたが、結局、コンパイラ差は分かりません。最近では殆ど行わないアセンブラデバッグが無ければ、コンパイラはどちらでも構いませんので、デフォルトGNUで当面はOKとします。

Flexible Software Package (FSP)?

RAファミリ専用のAPI生成ツールが、FSPです。動画:Generating Your First RA FSP Project(8:25)で使い方が分かります。

Flexible Software Package構成
Flexible Software Package構成

簡単に説明すると、スタックと呼ぶ開発プロジェクトで使用するHALドライバやRTOSなどのミドルウェアパタメタをGUIで設定後、e2のGenerate Project Contentをクリックすると、Developer Assistance内に全てのAPIが自動生成され、その中から使用するAPIを、ユーザ自身でソースコード任意場所にドラッグ&ドロップする使い方です。

ソースコード任意場所にAPIを配置できるのは、親切とは言えません。NXPやSTマイクロのコード生成ツールでも、API追加箇所にコメント付きのソースコードが生成されます。しかし、FSPは、ソースコード上のどこにでもAPIを設置できます。

API使用順序、設置場所、パラメタの意味が予め解ってないと、適切なコーディングは困難でしょう。後述する多くの公式サンプルコード(スタック利用例)がありますので、これらを参考に習得する必要があります。

hal_entry.c?

e2 studioのra_genとsrcフォルダ
e2 studioのra_genとsrcフォルダ

Generate Project Contentのクリックで生成されるのがAPI本体、つまり、ra_genフォルダ内のmain.cを含むスタックのドライバ関数群です。ra_genフォルダは、FSPが生成するコードの格納場所です。

これらとは別のsrcフォルダ内に見慣れないhal_entry.cファイルがあります。srcフォルダは、ユーザが追加するコードの格納場所です。

FPB出荷時にインストール済みのquickstart_fpb_ra4e1_epプロジェクトを読むと、main.c→hal_entry.c→user_main.cとコールされ、結局、user_main.cに一般的なIDEでユーザが追記する初期設定と無限ループを記述するのが、FSPでのユーザソースコード記述作法のようです。

※一般的なIDEでユーザが追記する初期設定と無限ループについては、基本のキ3章まとめを参照してください。

quickstart_fpb_ra4e1_epのuser_main処理
quickstart_fpb_ra4e1_epのuser_main処理

readme.txt?

公式サンプルコードをe2へインポート後、readme.txtでサンプル動作内容やFPB追加配線の必要性が分かります。バグだと思いますがe2(2021-07)は、サンプルコード付属readme.txtがプロジェクト内へインポートされません。

筆者は、手動でインポートしました。例えば、sci_uart_fpb_ra4e1_epプロジェクトは、追加配線無しではTera Term動作確認ができませんので、readme.txtを読み、追加配線が必須です。

RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)の使い方

IoT MCUの機能と消費電力を最適化したRAファミリのRA4E1グループ評価ボード:RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)の特徴は、以下2点です。

  • TrustZone
  • 低電力動作(Sleep > Snooze > Software Standby > Deep Software Standby)
RA4E1ブロック図
RA4E1ブロック図

TrustZoneの使い方は、RAファミリビギナーズガイドの11章が参考になります。

FreeRTOS利用を含むサンプルコードはコチラ、低電力動作サンプルコードはコチラからダウンロードできます。前章のquickstart_fpb_ra4e1_epやsci_uart_fpb_ra4e1_epプロジェクトは、初めのサンプルコード内にあります。

RTOSは、IoT接続先クラウドに応じてFreeRTOSかAzure RTOSの2種から選択可能です。また、通常の低電力動作:Sleepに加え、SnoozeやDeep Software Standbyなど超低電力動作モードも備えています。

プロジェクトは、ベアメタルまたはRTOS、TrustZone利用または非利用、の各選択肢がありますので4種類、FreeRTOSかAzureの選択を加えると、合計6種類の新規プロジェクト作成方法が可能です。

つまり、IoT MCUエッジ開発で必要となる様々なプロジェクト開発に、FPBだけで対応可能です。応用範囲の広い評価ボードで、IoTプロトタイプ開発に適しています。サンプルコード内容も豊富です。

まとめ

ユーザ視点からのベンダ各社がEclipse IDEをベースIDEに使うメリットは、IDEインタフェースがEclipseに似てくるので、ベンダが変わっても同じIDE操作性が得られることです。各社IDEで異なる部分は、周辺回路設定やAPI/コード自動生成の部分に限られるのが一般的です。

これら部分に加え、RAファミリ開発に使うe2 studioとFlexible Software Package は、無償コンパイラ選択、生成APIのソース追加方法、hal_entry.cなど、一般的なEclipseベースIDE利用者にとって?が生じる箇所が多数ありました。

ルネサス資料は多いのですが、肝心の?ポイントが解りにくいとも感じました。RAファミリ開発着手時は、これらに対し慣れが必要かもしれません。そこで、備忘録として本稿を作成しました。

なお、同じく前稿で示したREファミリについては、非常に良くまとまったREマイコンの使い方がルネサスサイトより入手できます。

RA4E1 Fast Prototype Board(Cortex-M33/100MHz、Flash/512KB、RAM/128KB)は、低価格で入手性もよくTrustZoneやRTOS、低電力動作など、幅広い知識や技術が要求されるIoT MCU開発の素材として優れています

現状RAファミリ資料の纏まりは、REファミリと比べると今一歩ですが、改善されると思います。開発に必要となる技術レベルが少し高いのですが、e2 studioとFlexible Software Package (FSP)、RA4E1 Fast Prototype Board(FPB)と豊富なサンプルコードを使ったIoT MCU開発は、好奇心を満たすIoT MCU習得へ向けたお勧めの開発環境と評価ボードと言えるでしょう。

弊社ブログは、RA/REテンプレート開発を目指し、継続して関連情報を投稿します。

Windows 11アップグレード可能通知:FYI

Windows 11を実行できます
Windows 11を実行できます

10月5日リリースWindows 11アップグレード可能通知が弊社PCへ届きました。今月リリースWindows 10 21H2で運用し、1年程度の11評価結果を見てアップグレードを予定しております。ご参考まで。

IoVとIoT

IoV:Internet of VehiclesやV2X:Vehicles-to-Everything通信により、車載半導体チップとソフトウェア需要が指数関数的に増加、ユーザの自動車選択基準が、エンジンなどのメカから車載ソフトウェアへ移行しつつある、という記事がEE Timesに記載されました。

これらIoV状況が、IoTへ与える影響について考えてみました。

IoVとIoT

IoVでユーザ選択基準が車載ソフトウェアへ変化
IoVでユーザ選択基準が車載ソフトウェアへ変化

車のカタログから、エンジン特性や足回りのメカ説明が消え、スマホ連動性や運転支援など車載ソフトウェアによるサービスの説明に変ったのはここ数年です。記事によると、車の新しいユーザ選択基準になりつつあるカーエレクトロニクスが、半導体業界にとってはスマホ以来の最大チャンスだそうです。

また、「CASE」で車載半導体はどう変わるのか(2021年9月15日、EE Times Japan)でも、自動運転と電動化が今後の車載半導体動向を左右すると結論付けています。
※CASE:Connected(通信機能)、Autonomous(自動運転)、Shared&Services(共有化/サービス化)、Electric(電動化)

年々向上するユーザのソフトウェア指向を満たす車載IoV業界、COVID-19の影響で停滞気味の民生IoT業界とは雲泥の差です。

車載半導体需要予測は初めの記事数値を参照して頂くとして、両記事のポイントは、ソフトウェア差別化や付加価値追加には、カスタムチップまたは、IP(Intellectual Property)などの組込みハードウェアが効果的という点です。これらIPには、セキュリティやエッジAIなどIoTへ流用できるものが数多くあります。

従って、IoVは、結果としてIoTも牽引すると思います。

但し、世界的半導体不足が続く状況では、優先度、調達コスト、多くの数量が確実に見込めるIoVが優勢、IoTはこの影響で、しばらくチップ供給不足や停滞が続くでしょう。

停滞気味のIoT側開発者として今できることは、IoV同様、IoTソフトウェア差別化に備えることだと思います。

IoT MCUのTrustZone、SOTB

IoTの観点から、IoTソフトウェア差別化や付加価値追加のための組込みIPと言えば、ARM TrustZone内蔵Cortex-M33コア、ルネサスの新製造プロセスSOTB:Silicon On Thin Buried Oxideなどが相当します。

アクティブ消費電力とスリープ消費電力両方を減らせるSOTBプロセス(出典:ルネサスサイト)
アクティブ消費電力とスリープ消費電力両方を減らせるSOTBプロセス(出典:ルネサスサイト)

例えば、TrustZoneが、高いセキュリティ効果を発揮するのはご存知の通りですし、SOTB製Cortex-M0+搭載ルネサスREファミリは、超低スタンバイ電流により太陽光発電環境などのエナジーハーベストでも電池交換不要を実現するなどです。

SOTBは、超低消費電力動作と高速動作を両立する革新的製造プロセスです。全てのルネサスMCUへ採用すれば強力な差別化技術になると思いますが、今のところ出し惜しみなのか(!?)戦略的なのか、REファミリにのみ採用中です。

一見、ASSP:Application Specific Standard Produceのようですが、これら差別化技術は、汎用MCUに採用された時に最も効果を発揮します。

従来のエッジMCUでの単純なアナログデジタル変換に加え、セキュリティや超低電力動作などのIoT化に伴う付加機能がIoT MCUには必須です。IoT付加機能内蔵MCUが、汎用IoT MCUになります。

IoT開発者は、これらIoT付加技術を今のうちに習得しておくことが必要です。

IoVとIoTの最も大きな差は、車載と民生半導体の電源仕様でしょう。IoVは、EV(Electric Vehicle)のモータ高出力要求に伴いバッテリーが12V供給から48Vへ高電圧化しつつあり、万一の耐圧やフェイルセーフが求められます。IoTは、低電圧(≦3.3V)電源で低圧化しつつあります。

RA/REテンプレート構想

残念ながらSOTB製REファミリ評価ボードは、まだ値段が高く、個人レベルでは手が出しにくい状況です。そこで、SOTBプロセスではありませんが、REファミリとソフトウェア互換性があると思われるCortex-M33コア搭載ルネサスRAファミリを、弊社テンプレート対象にと考えています。

RAファミリは、TrustZoneでIoTセキュリティへ対応しています。また、9月22日発売のRAファミリRA4E1グループの評価ボード:RA4E1 Fast Prototype Boardは、20米ドル台と低価格です。ルネサス独自コアではないため、コンパイラFlash容量制限もありません。

FPB-RA4E1 Fast Prototyping Board(出典:クイックスタートガイド)
FPB-RA4E1 Fast Prototyping Board(出典:クイックスタートガイド)

RL78/G1xテンプレートから新しいルネサスMCUをテンプレート対象に出来なかった理由の1つが、この容量制限です。ARMコア他社同様、GNUまたはARM Compiler V6が、e2 studioでRAファミリ開発に無償で使えます。

今のところRAテンプレートは、REへも使えると考えています。ARMコア差は、CMSIS:Cortex Microcontroller System Interface Standard やHAL:Hardware Abstraction Layerで吸収できるハズだからです。

ADC、SW、LED、UART(VCOM)などのIoT MCU基本動作をRA/REテンプレート共通部分でサポートし、TrustZoneや超低電力動作などRA/RE特徴を活かす部分は、共通部分へ特徴サンプルコードを追加する方法で実現できれば嬉しいと考えています。構想段階ですが、詳細は今後投稿します。

組込み開発 基本のキ:組込み処理

IoT MCUソフトウェア/ハードウェア開発者向け基本のキ、今回は、組込み処理の「ポーリング」、「割込み」、「低消費電力動作」とMCU開発の秘訣(コツ)を示します。ベアメタル開発でもRTOS開発でもこれらは同じです。これら基本を知ると、サンプルコードの読み方、利用法も解ります。

ポーリング と 割込み

「ポーリング」とは、無限ループを周る度に例えばSWが押されたかどうかのフラグ相当をポーリング(polling)し、フラグが立ったら、その処理を実行することです。

ポーリング
ポーリング

「割込み」は、割込み発生時に周辺回路が自動で呼出すISR(Interrupt Service Routine)を開発します。

ISRは、出来るだけ軽く(小さく)することが重要です。別周辺回路の割込みもできるだけ取込むためです。そこでISRでは、周辺回路が割込み発生時に立てた割込み発生フラグをリセット、このフラグとは別の割込み処理待ちフラグを立ててコード化するのが常套手段です。

この割込み処理待ちフラグを無限ループでポーリング、ブラグが立っていれば実際の割込み処理を実行します。

つまり、割込み処理の前段階にISRがあり、ポーリングのフラグ相当が割込み処理待ちフラグに変るだけ、結局、ポーリングに帰着します。

割込み
割込み

ベアメタル開発でもRTOS開発でも上記は同じです。RTOS時は、タスク間のセマフォ/Queueによる処理待ちが差分として追加されます(これら以外にも処理待ちはありますが、セマフォ/Queueで当面賄えます)。

低消費電力動作

無限ループをそのまま連続で回し続けると消費電力が増加します。そこで、間欠的にループを回し、ループを回さない時間は、最も電力を消費するMCUを停止するのが「低消費電力動作」です。

低消費電力動作
低消費電力動作

例えば1秒毎に1回ループを回すなど、低電力化を図りつつループ連続回しの時と大差なく処理する、つまり、どの程度間欠動作させるかが開発者の腕の見せ所です。

まとめ:ポーリング、割込み、低消費電力動作の3Tipsと開発秘訣

IoT MCUで開発するのは、MCUを含む周辺回路の初期設定と、無限ループ内の処理です。

初期設定とは、内蔵周辺回路を動作させるための設定です。周辺回路は、初期設定が終わると直に動作を開始します。そこでMCUは、動作中の周辺回路を監視し、必要に応じて処理を行います。このMCU監視が、無限ループ内の処理です。「組込み処理の中身」は、このように初期設定とループ内処理の2種類です。

初期設定の前にRAMクリアなどのスタートアップ処理もありますが、ここはIDEが自動生成し、通常、開発者が手を加えることは殆どありません。

初期設定は、サンプルコードの初期設定をそのまま流用する部分です。サンプルコードに使用例がない特殊(!?)な周辺回路の使い方をする時は、データシートやユーザマニュアルの当該周辺回路部分を熟読すればコード化できます。

次の開発部分が、無限ループ内です。ループ内処理をまとめた本稿の3Tipsが下記です

  1. 無限ループ内は、「ポーリング」か「割込み」のどちらか
  2. 割込みは、ISRで「割込み発生フラグ」を「割込み処理待ちフラグ」へ事前変換しポーリングへ帰着
  3. 無限ループの間欠動作と、間欠中のMCU停止が、「低消費電力動作」
組込み処理の3Tips、ポーリング、割込み、低消費電力動作
組込み処理の3Tips、ポーリング、割込み、低消費電力動作

組込み処理の中身とこれら3Tipsを知らずに組込み開発を始めるは、非効率です。中身と3Tipsを習得するには、紆余曲折、結構な時間と実務(失敗)経験が必要だからです。

例を挙げると、技術背景が少ない初心者にとっては、関連情報が多いため消化不良を起こします。また、初心者でなくても、開発自由度が高い(≒無いに等しい)ので、開発を上手く収束させには、Tipsやコツが必要になるなどです。

全てを網羅的に記述しているデータシートやユーザマニュアルは、既にこれらコツや技術背景を習得済みの中級者以上には役立ちますが、それ以外の人が読んでも実質の理解はできません。いきなり六法全書を読んで弁護士をする様なものです😂。

MCU開発の秘訣(コツ)は、先ず、3Tipsを基にプロトタイプを開発し、次に、実際に動作するプロトタイプを使って、開発自由度の高さを活かし動作チューニングすることです。

実働プロトタイプがあれば、データシート実質理解も進みますし、チューニング結果で変な動作になっても元のプロトタイプへ戻れますので、安心して色々な試行錯誤ができ、開発者スキルアップも容易です。

サンプルコード利用法

主要MCUベンダは、多くのサンプルコードを提供中です。

サンプルコードの目的は、“1つ”の周辺回路の基本動作を解り易く示すことです。基本動作は、初期設定と無限ループ内の2つに分けて読みます。無限ループ内は、Tips1/2から処理内容が理解できます。割込みの時は、ISRがあります。

初期設定は、開発に使う使用例と同じかどうかを添付コメントなどから判断します。使用例が同じ、または、近いなら、そのままコピーして流用します。内容を理解したい時は、”その周辺回路のデータシートのみ”を読めば十分です。

もちろん、サンプルコード無限ループ内のポーリング/割込み処理もそのままコピーして流用可能です。

但し、サンプルコードは、一般的にTips3:低消費電力動作への配慮がありません。また、サンプルコードを、“複数”集めて動作させる作り方ではありません。1周辺回路の動作コードを、シンプルに解り易く示すためです。

弊社マイコンテンプレートは、複数サンプルコードを利用する仕組みを予め持っています。また、無限ループの間欠動作と停止MCUを復帰させる仕組みも、テンプレートへ組込み済みです。

テンプレートのサンプルコード利用法
テンプレートのサンプルコード利用法

つまり、初めから複数サンプルコードの活用・流用が即座に出来るようテンプレート化、主要ベンダの汎用MCUに対応し、適用例と詳しい説明資料付き(一部ダウンロード可)で販売中です(ベアメタル開発用:1000円、RTOS開発用:2000円、テンプレート一覧と価格はコチラ)。

本稿3Tipsを知っていれば、サンプルコードを分析しながら読むことができ、必要に応じて各部分を自分のソフトウェアや弊社テンプレートへ組込むことも可能です。

プロトタイプ開発に最適なのが、弊社テンプレートです。テンプレートを使って早期にプロトタイプ開発を実現すれば、開発者の効率的スキルアップ、要求仕様に対するMCU性能過不足なども明らかとなり、お役に立てると思います。

テンプレートご購入、お待ちしております。

組込み開発 基本のキ:IoT MCUセキュリティ

本稿は、IoT MCUソフトウェア/ハードウェア開発者向けTipsで、「MCU開発基本のキ」シリーズの第1回目です。MCUベンダ横断的に開発ポイント、Tipsなどを不定期に投稿します。

今回は、そもそもIoT MCUに、なぜセキュリティが必要かという最も基本的な点について示します。

幅広い技術がIoT MCU開発者には必要です。しかし、全てを理解し、時々刻々変化する状況に対応するには時間がいくらあっても足りません。情報が多く幅広いからこそ、短時間で効率的なIoT MCU開発のためのポイントやTipsが必要です。

このポイントやTipsについて筆者個人の考え方を示します。これを、たたき台にして、ブログ読者の方々の考え方に発展・貢献できれば幸いです。

接続とセキュリティ

インターネット接続とセキュリティ
インターネット接続とセキュリティ

IoT MCUは、インターネットなどに接続し動作することが前提です。

人がネットに接続する時は、事前にアカウント登録し、IDやパスワードなどの登録情報を接続時に手入力、ネット側で受信データと事前登録情報と比較し接続を許可します。

IoT MCUは、人の手入力の代わりに自動で登録情報をネット送信することで接続します。この時大切なのが、IoT MCU内部に保存済みの登録情報です。登録情報をサイバー攻撃やハッカーから守る手段がIoT MCUセキュリティです。

ハッカー、セキュリティ、OTA

ハッカーとセキュリティは、「いたちごっこ」を繰返します。

例えば、コチラのFirefox 91とWindows 10規定ブラウザー設定、Windows 11で更に複雑化する設定がその例です。この場合、ハッカー役がFirefox、セキュリティ役がWindow設定です。

様々なIoT MCUセキュリティ手段がありますが、ポイントは、守りは攻めに対する対処療法なので守りの追加や更新が必要となる点です。

つまり、個々のセキュリティ手段を知ることよりも、何を(IoT MCUの登録情報や秘密鍵などの重要情報)どのように守るかの方がより重要です。ソフトウェアによる守りよりもより強固な内蔵ハードウェアで重要情報を守るのが、ARM Cortex-M33コアのTrustZoneです。

いたちごっこの終息策として、MCU内蔵TrustZoneとその制御ソフトウェアを採用した訳です。

Windows 11で導入されるTPM 2.0も、TrustZone相当です。しかし、TPM保護PCから情報を抜出す方法という記事もあります。セキュリティには終わりが無いと言っても良いでしょう。

終わりが無いので、OTA(Over The Air)によりセキュリティ手段の追加や制御方法更新が必要になる訳です。OTAは、IoT MCUセキュリティ追加更新が本来の目的で、ソフトウェアバグ修正は副次的だと思います。

接続伝送路エラー訂正

無線であれ有線であれ、ネット接続の伝送路にノイズ混入の可能性があります。ただ、IoT MCUセキィリティが正常か異常かの判断は、受信データにノイズ(誤り)が無いことが前提です。

そこで、受信側に、受信データに混入ノイズを除去する機能があれば便利です。

2021年9月9日、米)MITは、あらゆる種類のデータ誤り検出し訂正するGuessing Random Additive Noise Decoding (GRAND)採用のハードウェアデコーダを開発しました。128ビットまでのコードを約1u秒でデコードでき、高速通信規格5GやIoT分野での利用が期待されています。

まとめ:IoT MCUセキュリティ3Tips

  1. ネット接続が前提のIoT MCUには、サイバー攻撃から内蔵重要情報を守るセキィリティ必須
  2. セキュリティは、対処療法なので機能追加更新OTA必須
  3. より強固に重要情報を守るTrustZone、受信データ誤り検出訂正GRANDデコーダなどのセキュリティ対策ハードウェアが、IoT MCU要件になる可能性あり

IoT MCUセキュリティ用語、関連性、対策ハードウェアがご理解頂けたと思います。
※TrustZoneに似たハードウェアに、ルネサス:Trusted Secure IP(TSIP)、STマイクロ:Secure Memoryなどもあります。

セキュリティは終わりがありません。どの程度のセキュリティをIoT MCUへ実装すれば良いかを検討するには、IoTセキュリティ手引書やPlatform Security Architecture: PSA Certified認証制度などが参考になります。

但し、IoT MCU開発者に解り易いかと言えば、正直疑問も感じます。そこで、IoT MCUセキュリティ関連で、最低限開発者が押さえておくべき3項目をまとめました。

特に項目3は、初めからIoT MCUに実装済みでないと後付けやOTA更新ができません。今後の欧米IoT規格や総務省動向にも注意を払う必要があるでしょう。

補足:IoTセキュリティコスト

筆者利用ネットカフェPCのWindows 11対応チェック結果を抜粋したのが下図です。2PCのみ抜粋しましたが、他PCも同様で、全項目OKのPCは皆無でした。弊社PCも3PC中1台のみ全OKですので、Windows 11無償アップグレード可能PCは、Windows 10 PCの30%以下になりそうです。

ネットカフェのWindows 11対応チェック結果
ネットカフェのWindows 11対応チェック結果

Windows 10サポート終了の2025年10月以降、多くのWindows 10セキュリティが低下し、サイバー攻撃に弱くなります。セキュリティ対サイバー攻撃コストを示すのは大変でしょうが、Microsoftは示す責任があると思います。

同様にIoT MCU顧客もセキュリティ対策コストを望むと思います。ちなみに、Cortex-M4比、Cortex-M33 TrustZone MCUは、2倍工数必要が弊社見解です(関連投稿:Cortex-M33とM0+/M4の差分の3章)。

Windows 10と11、Linux Mint、IoT MCU開発

2021年10月5日(米国時間)、次期Windows 11リリース、Windows 10 21H2リリースも10月5日前後と見込まれています。2025年迄の期間で、今後のPCとIoT MCU開発環境、開発者要件を考えてみました。

PCとIoT MCU開発環境まとめ

Windows 10、Windows 11、Linux MintとIoT MCU開発環境(2025年までの範囲)
Windows 10、Windows 11、Linux MintとIoT MCU開発環境(2025年までの範囲)

Windows 10 21H2小規模更新

年2回あるWindows 10大型更新、今秋のバージョン21H2更新も小規模更新です。

20H1から4回連続の小規模更新で、バージョンサポート期間も1.5年とこれまでと同じです。Windows 10サポート終了は、延長無しの場合2025年10月14日です。

Microsoftは、Windows 10の新規開発を終息し、次期Windows 11へ注力したいハズです。これは、サポート終了2025年までは小規模更新を繰返し、PCユーザ側は、逆に安定した最新Windows 10が使えるメリットを生みます。

なおWindows 10の更新方法は、コチラの投稿記事を参考にしてください。

Windows 11へのアップグレード要件緩和は幾分発表されましたが、セキュリティTPM2.0は相変わらずで、Windows 10から従来のような安易な11アップグレートをMicrosoftは許しません。従って、11要件が現状のままなら、Windows 10 PCの使い道は2025年以降無くなる運命です。

11化できない、または、10サポート終了後のWindows 10 PCをどう運用するかは問題です。解決策は、後で示します。

Windows 11プレビュー版評価

「Windows 11 もっさり」で検索すると、多くの記事がヒットします。もちろん、Windows 11プレビュー版試用感想です。Windows 10比、動作が遅く感じる人が多いのは確かなようです。

これは、CPU能力を、従来よりもグラフィックとセキュリティへ配分した結果だと推測します。

ビジネスユースの場合、Windowsグラフィック能力が生産性を向上させることはありません(Mac PCは別です)。一方、セキュリティ能力は、重要ではあるものの、しばしば開発作業の邪魔になります。開発ツールインストールや更新時、セキュリティソフトが不要な警告を出すことを経験された方は多いでしょう。

セキュリティは、「安全側マージンを大きく保って動作」します。存在意義を示すためやむを得ないのは理解できますが、開発の邪魔になるのは間違いありません。

Windows 11は、Apple製M1チップ搭載の新Mac PC対抗手段なのか、初めから高性能グラフィックと新セキュティ対応の新しいCPUチップ利用を想定している気がします。Windows 11リリース後、製品版やプレインストールPCなどからMicrosoftの意図や本当の目的も明らかになるでしょう。

Windows 11は、年1回の大型更新と、2年間のバージョンサポート運用です。今秋リリースから1年経過後に初期トラブルを回避した大型更新バージョンがリリースされます。リリース後1年は、製品版11評価期間と考えても良さそうです。

結局、Windows 11アップグレート要件を満たすPCであっても、1年評価期間後、初期トラブル回避版でアップグレートしても遅くはないと思っています。

※「Windows 11 TPM 回避 インストール」の検索結果からTPM回避11化は可能のようです。本稿は、公式11アップグレート要件を満たすWindows 10 PCのみを対象とします。

Windows 10問題解決Linux Mint

Windows 11化できないPCの活用方法としてお勧めするのが、Linux Mintです(但し64ビットCPU必須)。その理由が下記2つです。

  1. Windowsに比べハードウェア仕様が低くてもLinux Mintは快適動作
  2. Windows GUIに慣れたユーザにはLinuxコマンド操作に違和感があるが、Linux Mintは、殆どの操作がWindowsとよく似たGUIで可能

Windows 10サポート終了まで4年あります。Linux Mint操作に慣れ、代替利用上の問題有無を評価するには、十分な期間だと思います。

マルチプラットフォームIoT MCU開発環境

IoT MCU開発環境も、Windowsのみの動作から、Windows/Mac/Linuxマルチプラットフォームへ移行しつつあります。例えば、NXP)MCUXpresso IDE、STマイクロ)STM32CubeIDE、Cypress)ModusToolboxなどは、OSが異なっても同じ動作をします。

MCUXpresso IDEやSTM32CubeIDEのLinux Mint版インストール方法は、コチラの関連投稿5章を参照してください。

個人向けWindows 365

発表済みの企業向けプラン価格よりかなり安くなることが必要ですが、個人向けWindows 365プランの価格次第では、セキュリティ/保守運用面でメリットがあるWindows 365 Cloud PCは魅力的です。

仮に、スマホと同程度、つまり月額1000円以下、5年間利用してもトータル6万円程度でWindows 365が利用できれば、個人ビジネスにも十分使えます。過剰期待かもしれませんが…。

世界的半導体不足

経年変化などを考慮し、Windows 11プレインストールPCを新規購入するのも変化への対処方法の1つです。但し、昨今の世界的な半導体不足は、PC調達価格上昇をもたらし、購入逆風の状況です。この逆風は、Windows 10サポート終了に向けて新規PC需要が高まるため、さらに強くなるハズです。

IoT MCU開発者要件

以上のような2025年までの激しいPC環境変化に対し、IoT MCU開発環境は、Windows/Mac/Linuxマルチプラットフォーム化で対応します。

IoT MCU開発者は、従来のような単純なMCU処理開発だけでなく、クラウド接続RTOS、セキュリティ、OTA(Over The Air)、エッジAIなど様々なIoT付加サービスの追加が顧客に応じて必要になります。また、これら付加サービス規模や技術背景も複雑です。

これら付加サービスは、既にLinux上で開発済みのものも多く、IoT MCU開発者は、Linux環境に慣れていくことが必要だと思います。更に、顧客毎に異なるIoT付加サービスを、ある意味ブラックボックス的に取捨選択し、従来のMCU開発へ短期で追加/削除できるテクニックを身に着けておくことも必要です。

つまり、Windows利用に慣れたIoT MCU開発者でも、Linux要素技術を持つ必要があります。

IoT MCU開発者「個人レベル」で、これらLinux技術習得やIoT MCU技術を効率的に習得する手段として本ブログ投稿や弊社マイコンテンプレートがお役に立てるように開発していきます。

PSoC CreatorがModusToolboxへ

米)Cypress(サイプレス)は、2020年4月、独)Infineon(インフィニオン)に買収され子会社になりました。買収の影響かは不明ですが、お気に入りCypress IDEのPSoC Creatorが、ModusToolboxへ移行しつつあります。ModusToolbox v2.3.0.4276(以下ModusToolbox)の特徴、PSoC Creatorからどう変わったのかを示します。

About Eclipse IDE for ModusToolbox
About Eclipse IDE for ModusToolbox

Windows/Mac/LinuxマルチOS、GitHub

PSoC Creator(以下Creator)は、Windowsのみで動作するCypress独自IDEです。ModusToolboxは、Eclipse IDEをベースとし、Windows/Mac/LinuxマルチOS対応となりました。また、最新サンプルコードやライブラリは、GitHub経由でオンライン提供へと変わりました。

ModusToolbox対応PSoC 4/6デバイス

ModusToolbox対応中のPSoC 4/6評価ボードとデバイスを抜粋したのが下図です(全評価ボードとデバイスは、リリースノートを参照してください)。

ModusToolbox 2.3のPSoC 4/6対応デバイス
ModusToolbox 2.3のPSoC 4/6対応デバイス

弊社PSoC 4000S/4100S/4100PSテンプレートで使ったCY8CKIT-145-40XX、PSoC 6 FreeRTOSテンプレートで使用予定のCY8CPROTO-063-BLEともに、ModusToolbox v2.3で開発できます(PSoC 6 FreeRTOSテンプレートは、前稿参照)。前バージョン2.2から新たにPSoC 4が追加されました。

AN228571:「ModusToolboxソフトウェアを使用するPSoC 6 MCU入門」は、全てのPSoC 6アプリケーション開発に、ModusToolbox利用を推薦しています。また、PSoC 4も追加されたことを考えると、ModusToolbox は、PSoC Creatorの後継IDEの可能性大です。

Creator回路図はDevice Configuratorへ

Creatorの特徴は、ソフトウェア開発の最初に、回路図:TopDesign.cyschへPSoCコンポーネントを配置、必要ならコンポーネント間配線を行うことです。ソフトウェア出発点が、多少ハードウェア開発者向きです。

PSoC Creatorの特徴:TopDesign.cysch
PSoC Creatorの特徴:TopDesign.cysch

ModusToolboxはこの回路図配置が、GUIで使用リソースの設定を行うDevice Configuratorへ変わりました。他社Eclipse IDEベースのIDE(例えば、NXP:MCUXpresso IDEやSTマイクロ:STM32CubeIDE)でも同様の周辺回路設定があります。

ModusToolbox のDevice Configurator
ModusToolbox のDevice Configurator(出展:AN228571)

つまり、見た目も操作性も、Eclipse IDEベースの他社IDEと殆ど同じになりました。

PSoCコンポーネントに重きを置いたCreatorプログラミングよりも、Eclipse IDEに慣れた開発者の親しみ易さ、GitHub経由のサンプルコード等の最新版配布による利便性を重視し、よりソフトウェア開発者向きにしたIDEがModusToolboxです。

ModusToolboxソフトウェア構成

ModusToolboxソフトウェア構成
ModusToolboxソフトウェア構成(出展:AN228571)

ModusToolboxソフトウェア構成を見ると、GitHub経由の提供部分が解ります。

下層の各種ドライバ、HAL、BSPsから、ミドルウェアのBluetooth、Mbed OSやFreeRTOS等のライブラリ、これらのサンプルコードも全てGitHubから最新版が取得可能です。

IDE基本部分と、開発ニーズや時節に応じて変化する部分を分け、変化部分はGitHubから最新情報を提供する構成は、優れていると思います。

まとめ

Infineon/Cypressの最新IDE ModusToolboxの特徴を説明しました。Eclipse IDEベースのWindows/Mac/LinuxマルチOS対応で、GitHub経由で最新ドライバやサンプルコードが利用可能です。

PSoC 6アプリケーション開発は、PSoC CreatorからModusToolbox利用を推薦し、最新版ModusToolbox v2.3.0.4276へPSoC 4も追加されたことから、Creator後継のIDEになりそうです。
※ModusToolbox v2.3.1.4663(2021-05-06)はパッチファイルで、v2.3.0.4276の事前インストールが必要です。

なお、PSoC 4/6開発にCreatorも引続き使えます。しかし、今のところ既存CreatorプロジェクトからModusToolboxプロジェクトへの移行ツールは見当たりませんので、新規PSoC 4/6開発は、ModusToolboxで行う方が良いと思います。

ModusToolbox概要は、コチラの英語動画でご覧いただけます。また、丸文株式会社さんの開発ツールページに、インストール方法サンプルコード使用手順などが分かり易く説明されています。

Cortex-M4評価ボードRTOSまとめ

低価格(4000円以下)、個人での入手性も良い32ビットARM Cortex-M4コア評価ボードのRTOS状況を示します。超低価格で最近話題の32ビット独自Xtensa LX6ディアルコアESP32も加えました。

Vendor NXP STマイクロ Cypress Espressif Systems
RTOS FreeRTOS
Azure RTOS
CMSIS-RTOS FreeRTOS
Mbed OS
FreeRTOS
Eva. Board LPCXpresso54114 NUCLEO-G474RE CY8CPROTO-063-BLE ESP32-DevKitC
Series LPC54110 STM32G4 PSoC 6 ESP32
Core Cortex-M4/150MHz Cortex-M4/170MHz Cortex-M4/150MHz
Cortex-M0+/100MHz
Xtensa LX6/240MHz
Xtensa LX6/240MHz
Flash 256KB 512KB 1024KB 480KB
RAM 192KB 96KB 288KB 520KB
弊社対応 テンプレート販売中 テンプレート開発中 テンプレート検討中 未着手

※8月31日、Cypress PSoC 6のRTOSへ、MbedOSを追加しました。

主流FreeRTOS

どのベンダも、FreeRTOSが使えます。NXPは、Azure接続用のAzure RTOSも選択できますが、現状はCortex-M33コアが対応します。ディアルコア採用CypressのRTOS動作はM4側で、M0+は、ベアメタル動作のBLE通信を担います。STマイクロのCMSIS-RTOSは、現状FreeRTOSをラップ関数で変換したもので実質は、FreeRTOSです(コチラの関連投稿3章を参照してください)。

同じくディアルコアのEspressifは、どちらもRTOS動作可能ですが、片方がメインアプリケーション、もう片方が通信処理を担当するのが標準的な使い方です。

価格が上がりますがルネサス独自32ビットコアRX65N Cloud Kitは、FreeRTOSとAzure RTOSの選択が可能です。但し、無償版コンパイラは容量制限があり、高価な有償版を使わなければ開発できないため、個人向けとは言えません。

※無償版でも容量分割と書込みエリア指定など無理やり開発するトリッキーな方法があるそうです。

クラウドサービスシェア1位のAWS(Amazon Web Services)接続用FreeRTOSが主流であること、通信関連は、ディアルコア化し分離処理する傾向があることが解ります。

ディアルコア

ディアルコアで通信関連を分離する方式は、接続クラウドや接続規格に応じて通信ライブラリやプロトコルを変えれば、メイン処理側へ影響を及ぼさないメリットがあります。

例えば、STマイクロのCortex-M4/M0+ディアルコアMCU:STM32WBは、通信処理を担うM0+コアにBLEやZigBee、OpenThreadのバイナリコードをSTが無償提供し、これらを入れ替えることでマルチプロトコルの無線通信に対応するMCUです。

メイン処理を担うM4コアは、ユーザインタフェースやセンサ対応の処理に加え、セキュティ機能、上位通信アプリケーション処理を行います。

通信処理は、クラウド接続用とセンサや末端デバイス接続用に大別できます。

STM32WBやCY8CPROTO-063-BLEが採用した末端接続用のBLE通信処理を担うディアルコアのCortex-M0+には、敢えてRTOSを使う必要は無く、むしろベアメタル動作の方が応答性や低消費電力性も良さそうです。

一方、クラウド接続用の通信処理は、暗号化処理などの高度なセキュティ実装や、アプリケーションの移植性・生産性を上げるため、Cortex-M4クラスのコア能力とRTOSが必要です。

デュアルコアPSoC 6のFreeRTOS LED点滅

デュアルコアPSoC 6対応FreeRTOSテンプレートは、現在検討中です。手始めに表中のCY8CPROTO-063-BLEのメイン処理Cortex-M4コアへ、FreeRTOSを使ってLED点滅を行います。

と言っても、少し高価なCY8CKIT-062-BLEを使ったFreeRTOS LED点滅プログラムは、コチラの動画で紹介済みですので、詳細は動画をご覧ください。本稿は、CY8CPROTO-063-BLEと動画の差分を示します。

CY8CPROTO-063-BLE のCortex-M4とM0+のmain_cm4.c、main_cm0p.cとFreeRTOSConfig.hが下図です。

PSoC 6 CY8CPROTO-063-BLE FreeRTOS LED点滅のmain_cm4.cとmain_cm0.c
PSoC 6 CY8CPROTO-063-BLE FreeRTOS LED点滅のmain_cm4.cとmain_cm0.c
PSoC 6 CY8CPROTO-063-BLEのFreeRTOSConfig.h
PSoC 6 CY8CPROTO-063-BLEのFreeRTOSConfig.h

日本語コメント追記部分が、オリジナル動画と異なる箇所です。

RED LEDは、P6[3]ポートへ割付けました。M0+が起動後、main_cm0p.cのL18でM4システムを起動していることが判ります。これらの変更を加えると、動画利用時のワーニングが消えCY8CPROTO-063-BLE でFreeRTOS LED点滅動作を確認できます。

PSoCの優れた点は、コンポーネント単位でプログラミングができることです(コチラの関連投稿:PSoCプログラミング要点章を参照してください)。

PSoCコンポーネント単位プログラミング特徴を示すCreator起動時の図
PSoCコンポーネント単位プログラミング特徴を示すCreator起動時の図

PSoC Creator起動時の上図が示すように、Cypressが想定したアプリケーション開発に必要なコンポーネントの集合体が、MCUデバイスと言い換えれば解り易いでしょう。つまり、評価ボードやMCUデバイスが異なっても、使用コンポーネントが同じなら、本稿のように殆ど同じ制御プログラムが使えます。

PSoC 6 FreeRTOSテンプレートも、単に設定はこうです…ではなく、様々な情報のCY8CPROTO-063-BLE利用時ポイントを中心に、開発・資料化したいと考えています。PSoCプログラミングの特徴やノウハウを説明することで、ご購入者様がテンプレートの応用範囲を広げることができるからです。