STM32G0x専用テンプレートで使うSTM32CubeMXのLL API利用法第2回は、LL APIとHAL APIの違いを説明します。
専用テンプレートはLL、汎用テンプレートはHALを使う理由がお判りになると思います。
LL(Low-Layer)とHAL(Hardware Abstraction Layer)相対比較
第1回で示したLL API関連資料一覧のUM2319の最初のページに、LLとHALの定義が示されています。
・LL:HALよりもハードウェアに近く、高速で軽量なエキスパート向けレイヤー
・HAL:ハードウェア抽象化で、STM32MCU間で最大限の移植性を保証するレイヤー
MCUハードウェアに依存するLLは、高速・軽量ですが移植性が低いので、LL APIを利用するソフトウェア(=アプリケーション)はそのMCU専用になります。一方、HALはMCU移植性が高いため、HAL API利用アプリケーションはSTM32MCU間で汎用的に使えます。
HALの方が現代的で少ないユーザ記述でアプリケーション開発ができ、さらに汎用なので開発労力が無駄にならない利点があります。しかし、HALが隠蔽している制御の分Flash(ROM)やRAM容量が必要で、LLに比べ低速です。モーター制御など高速処理が必要な部分にはLLの方が向いているかもしれません。
以前の投稿STM32CubeMXの使い方で示した、HAL APIとLL API相対比較表を再掲します。
専用テンプレートと汎用テンプレート
LL APIの利点は、ハードウェア性能を活かし少ない容量で高性能アプリケーション開発ができる点です。これは、小Flashで高性能なSTM32G0xデバイスに最適と言えるでしょう。
現状はSTM32G0xが「単独デバイス」でSTM32F0/F1両方のMCU性能をカバーしているので「専用テンプレートが最適」だと言えます。しかし、「STM32G0xシリーズに更に高性能なSTM32G1xデバイス」が発売されれば、移植性が高いHALでSTM32G0xソフトウェア開発を行う方が良くなる可能性はあります。
但しこの場合には、HAL API利用の販売中汎用STM32FxテンプレートをSTM32G0xデバイスへ適用すれば済みます。汎用性を示すこの適用例は、近く投稿する予定です。
特定ハードウェア性能を活かす専用アプリケーションが、少ないROM/RAM容量でも開発できるLL APIメリットを示すデバイス例としてSTM32G0xを選び、専用テンプレートを開発中です。
LL APIとHAL APIのアプリケーションサイズ実例比較
LL API利用時、容量がHAL APIに比べどの程度小さくなるかを実例で示します。
これも前の投稿STM32CubeMXの使い方で示したように、一般的にはLLの方がHAL比60~80%小さくなると言われます。
実例に評価ボードNucle-G071RBに処理は何もせず、64MHz動作のみをLL APIとHAL APIだけを変えてビルドした結果が下記です(SW4STM32 v2.8.1、STM32CubeMX v5.1.0、STM32G0 v1.1.0)。
text | data | bss | 使用容量 | 容量比(%) | |
LL API | 3120 | 12 | 1564 | 4696 | 59 |
HAL API | 9680 | 20 | 1708 | 11408 | 100 |
LL API利用の方が 59%小さく実現できることが判ります。
LL APIとHAL API混合利用時の注意点
AN5110には、LLとHAL両方を混在させた公式サンプルプロジェクトのExamples_MIXがNucleo-G071RBでも9例と少ないながら掲載されています。
LLとHALを混在利用時は、色々な注意点があります。UM2319の5章に詳細がありますが、一部抜粋します。
・同じ周辺回路をHALとLLで混在制御するのは避ける
・LLはHALがハンドルしているレジスタを上書きすることがあるので注意
また、UM2303の2章にLLとHALの示すアーキテクチャが示されています。
つまり、上層HALが下層LLを利用する場合がある訳です。LLは、HALがどのように周辺回路を制御しているかを知ることなく直接ハードウェアレジスタにアクセスします。混在時はレジスタ競合などの詳細な注意がAPI利用者側で必要です。
Nucleo-G071RB 利用時LLとHAL混在利用は、Examples_MIXの9例を除いては避けた方が良さそうです。
BSP(Board Support Package)も、同じ理由でSTM32G0x専用テンプレートには使いません。
※以上は、同一周辺回路でLLとHALを混在利用する場合の注意点です。
※では、周辺回路が異なれば混在は問題ないのでしょうか? 例えば、I2CはHAL、GPIOはLLの場合などです。この場合でも、HALがLLを利用することを考慮すると、アプリケーションレベルでの安全側評価では混在は避け、LLまたはHALに統一して利用する方が無難だと思います。
STM32CubeMXのLow-Layer API利用法 (2):LL APIとHAL APIの違いまとめ
STM32G0x専用テンプレートは、HAL APIとの混在利用は避け、LL APIのみで開発します。
従って、STM32G0xデバイス専用のアプリケーションとなります。
汎用テンプレートSTM32Fxテンプレートは、HAL APIを使っていますので、STM32MCUで汎用的に使えるアプリケーションです。
※このSTM32Fxテンプレート汎用性を示すため、STM32G0xデバイスへこの汎用テンプレートを適用した例を示す予定です。
LLとHAL混在アプリケーション開発は、レジスタアクセス競合などの詳細注意が、API利用アプリケーション側で必要です。
公式サンプルプロジェクトExamples_MIXで示されたやむを得ない場合を除いては、避けた方が無難です。