マイコン装置を開発する時、ベンダ提供のマイコン評価ボードは重要です。良いハードウェア、良いソフトウェアは、評価ボードをレファンレンスとして活用した結果生まれるからです。
今回は、ARMコア対Non ARMコアという視点で最新マイコン評価ボードを分析します。掲載マイコン評価ボードは下記です(価格は、調査時点の参考値)。
- PSoC 4200Dプロトタイピングキット:CY8CKIT-146、Cypress、1139円(Digi-Key)
- RL78/G11評価ボード:YQB-R5F1057A-TB、ルネサス、2276円(Mouser)
- RXファミリ評価ボード:Target Board for RX65N、ルネサス、2980円(マルツ)
- PSoC 4200Lパイオニアキット:CY8CKIT-046、Cypress、5586円(Digi-Key)
デバッガの2機能
ベンダ評価ボードには、デバッガ付属とデバッガ無しの2タイプがあります。デバッガは、
- デバッグ機能:ソースコードのダウンロード、ソースコード実行とブレークを行う
- トレース機能:プログラムカウンタ実行履歴を記録する
の2機能を提供します。
トレース機能は、プログラムカウンタ遷移を記録し、ハード/ソフトの微妙なタイミングで発生するバグ取りなどに威力を発揮します。が、本ブログで扱うマイコンでは利用頻度が低く、サポートされない場合もありますので、デバッグ機能に絞って話を進めます。
各社が独自コアマイコンを供給していた頃は、各社各様のデバッガが必要でした。しかし現在は、ARMコアマイコンとNon ARMコアマイコンの2つに大別できます。
ARMコアマイコンの評価ボード
ARMコア評価ボードは、ARM CMSIS規定のSWD:Serial Wire Debugというデバッグインタフェースでコアに接続します。SWDを使うと、他社ARMコアとも接続できます。このため、評価ボードのデバッガ部分と対象マイコンを切り離し、デバッガ単独でも使えるように工夫したものもあります。
ARMコア評価ボードの多くは、対象マイコンにSWDインターフェイスのデバッガが付属しています。これは、対象マイコンが変わってもデバッガは全く同じものが使えるので、量産効果の結果、デバッガ付き評価ボードでも比較的安価に提供できるからです。
また、統合開発環境:IDEもEclipseベースを採用すれば、実行やブレークのデバッガ操作方法も同じになり、例え異なるベンダのARMコアでも同じようにデバッグできるので開発者にも好評です。
以上が、マイコンのデファクトスタンダードとなったARMコアとEclipseベースIDEを多くのベンダが採用する理由の1つです。
Non ARMコアマイコンの評価ボード
一方、Non ARMコアマイコン評価ボードは、本来コア毎に異なるデバッガが必要です。そこで、評価ボードには対象マイコンのみを実装し、その購入価格は安くして、別途デバッガを用意する方法が多数派です。
機能的には同じでもコア毎に異なるデバッガは、サポートするコアによりデバッガ価格が様々です。例えば、ルネサスのE1デバッガは、RL78、RX、RH850、V850の4コアカバーで12600円ですが、RL78とRXコアのサポートに限定したE2 Liteデバッガなら、7980円で購入できます(2018年3月の秋月電子価格)。
ルネサスもE1/E2 Liteデバッガ付きのRX用低価格評価ボード2980円を2018年3月に発表しました(マルツエレック価格)。
※RX評価ボードは、無償CコンパイラROM容量制限(≦128KB)に注意が必要です。入手性は良いので容量制限を撤廃してほしいです。
個人でマイコン開発環境を整える時は、購入価格は重要な要素です。マイコンがARMコアかNon ARMコアか、デバッガ搭載かなどにより、評価ボード価格がこのように異なります。
標準インターフェイスを持つマイコン評価ボードの狙い:プロトタイピング開発
最近の傾向として評価ボードの機能拡張に、Arduinoコネクタのシールド基板を利用するものが多くなりました。様々な機能のシールド基板とその専用ライブラリが、安く入手できることが背景にあります。
ARMコア、Arduinoコネクタ、EclipseベースIDEなどの標準的インターフェイスを持つマイコン評価ボードの狙いは、色々なマイコン装置の開発を、低価格で早期に着手することです。既存で低価格なハード/ソフト資産の入手性が良いのが後押しします。
中心となるマイコン評価ボードへ、機能に応じたシールド基板を実装し、早期にデバッグしてプロトタイピング開発し製品化が目指せます。
ルネサスもEclipseベースのIDE:e2Studioを提供中ですが、これは世界中のEclipse IDEに慣れた開発者が、ルネサスマイコンを開発する時に違和感を少なくするのが主な狙いだと思います。Non ARMルネサスマイコン開発の不利な点を、少しでも補う方策だと推測します。
関連する過去のマイコン評価ボード投稿
- ARM CMSIS:コチラの投稿のCMSIS章
- マイコン評価ボード(Prototyping KitとPioneer Kit)名称:コチラの投稿
- マイコン評価ボードのハードレファンレンス例(電源容量不足?):コチラの投稿
- マイコン評価ボードのインターフェイス傾向:コチラの投稿
あとがき
ルネサス最新汎用マイコンRL78/G11は気になります。従来のRL78/G1xに比べアナログ機能を大幅に強化し、ローパワーと4μsの高速ウェイクアップを実現しています(詳細情報は、コチラ)。開発資料の多くがe2Studioで、CS+ではありません。Non ARMコアなので他社ARM比、特に優れたマイコンの可能性もあります。