RL78ファミリから解る汎用MCUの変遷

汎用MCUの定義が変わりつつあります。ルネサスエレクトロニクス(以下、ルネサス)のRL78ファミリから、最近の汎用MCUの変わりつつある現状を考察します。

RL78ファミリの汎用MCUロードマップ

2018年6月版の最新RL78ファミリMCUカタログから抜粋したRL78ファミリのロードマップです。

RL78ファミリロードマップ (出典:ルネサス汎用MCUラインアップカタログ)
RL78ファミリロードマップ (出典:ルネサス汎用MCUラインアップカタログ)

赤囲みのRL78/G1xが汎用MCU製品を示します。2014年以後は、For小型システムやForモータシステムなど、一見するとASSP:application-specific standard product、特定用途向けMCUのような製品が汎用MCUの中にあります。

これは、RL78/G1Fのコンセプトを見るとその理由が理解できます(出典:ローエンドマイコンで実現できる 高機能なブラシレスDCモータ制御

RL78_G1Fのコンセプト(出典:ローエンドマイコンで実現できる 高機能なブラシレスDCモータ制御)
RL78_G1Fのコンセプト(出典:ローエンドマイコンで実現できる 高機能なブラシレスDCモータ制御)

つまり、汎用MCU RL78/G14を、モータシステム向きに周辺機能拡張や使い勝手を向上させたのがRL78/G1Fなのです。あくまで汎用MCUがベースで、それを特定用途、この場合はモータ制御向けに調整したのです。

このメリットは、開発者、ルネサス双方にあります。開発者にとっては、使い慣れた汎用MCUの延長上に特定用途向けMCUがあるので馴染みやすく開発障壁が低くなること、ルネサスにとっては、新規ASSPを開発するよりも低コスト、低リスクなことです。

RL78ファミリの汎用MCUとは、変わる定義

RL78ファミリのMCUには、S1/S2/S3という3種類のコアがあります。数字が大きくなると高性能になります。

関連投稿:RL78 S1/S2/S3コアの分類

ルネサスの汎用MCUとは、これらS1/S2/S3コアを使ったMCU製品を指します。また、RL78/G1FのようにS3コアMCUのRL78/G14をベースとし、特定用途向け機能を付加したものも汎用MCUです。

※弊社は、S1/S2/S3コアの各汎用MCUに対してRL78/G1xテンプレートを販売中です。

販売中の汎用MCU向けテンプレートと特定アプリ向けMCUの関係
販売中の汎用MCU向けテンプレートと特定アプリ向けMCUの関係

この特定用途名が、ルネサスが考えるIoT時代にふさわしい汎用MCUと言えます。「汎用」という従来の広く漠然とした用途よりも、より「具体的な用途・応用に適す汎用MCU製品」としてRL78/G1FやRL78/G11があるのです。

特定用途向け汎用MCU開発にもRL78/G1xテンプレートが役立つ

このIoT時代の特定用途向けMCU開発でも、弊社RL78/G1xテンプレートが使えます。ベースが「汎用中の汎用」RL78/G10(S1コア)、RL78/G13(S2コア)、RL78/G14(S3コア)だからです。

例えば、RL78/G1Fのアプリケーションノートやサンプルコードは、具体的でほとんどそのまま開発製品へ適用できます。しかし、用途が限定されているだけに、逆に簡単な機能追加が難しい場合もあります。そんな時に、テンプレートが提供するサンプルコードを活かしつつ処理を追加できる機能を使うと便利です。

ここでは、ルネサス汎用MCUについて考察しましたが、NXPセミコンダクターズやSTマイクロエレクトロニクス、Cypressセミコンダクターなどの他社MCUベンダも同様です。汎用MCUの定義は、より具体的な用途・応用名が付いたIoT MCUへ変わりつつあります。しかし、基本の汎用MCUを習得していれば、より応用し発展できます。基本が重要だということです。

IoTでは、MCU開発はより複雑で高度になります。また、製品完成度の要求もさらに高まります。基本要素や技術を、(たとえブラックボックス的だとしても)積み上げられる、基礎・基本を習得した開発者のみが生き残ると思います。開発者個人で基礎を習得するために、是非弊社マイコンテンプレートをご活用ください。

ルネサス世界初28nm車載マイコンサンプル出荷

ルネサスエレクトロニクスは2018年3月28日、車載マイコンRHファミリに28nmプロセス採用マイコンのサンプル出荷を開始しました。従来の40nmに比べ、高性能、低消費電力で大容量フラッシュメモリ内蔵の世界初、世界最高性能のルネサスオリジナルコアマイコンです。

ルネサスマイコンの命名則

車載マイコンRHファミリは本ブログ対象外です。しかし、車載マイコンが、全てのマイコンを引っ張って発展させているので、注目しています。ここでは、ルネサスマイコンの名前の付け方を簡単に説明します。

先頭に「R」が付くのが新生ルネサス誕生後に発売のマイコンです。汎用マイコンが、図のRL78、RX、RZの3ファミリ、車載アプリケーション特化マイコンが今回発表のRHファミリです。

一部例外はあるものの、殆どがルネサスオリジナルのNon ARMコアマイコンです。

ルネサス汎用マイコン
ルネサス汎用マイコンファミリ。用途、性能に応じてRL78、RX、RZと3ファミリある。(出典:汎用マイクロコンピュータラインアップカタログ)

汎用マイコンだけでも、用途や性能(ルネサスはソリューションと呼ぶ)に応じてRL78、RX、RZと3ファミリあり、さらにそのファミリの中で、RL78/G1x、RL78/F12など細かくシリーズに分かれた名前構造なので、解り難いです。

ちなみに本ブログ対象はRL78ファミリですが、RXも対象に入れるか検討中です。個人レベルでも開発環境を整え易いか否かが基準です。RXファミリの場合、実装メモリが大きいのに無償Cコンパイラの容量制限≦128KBがネックになっています。

他のH8や78K0Rなどは、日立やNEC、三菱電機などルネサスに統合前の各社マイコンの名称です。簡単に旧マイコン名が消える海外ベンダと異なり、旧会社のマイコン名をいつまでもカタログに記載するのも善し悪しです。

ルネサスSynergyは、これらNon ARMコアとは別に他社に遅ればせながら開発したARMコアマイコンファミリです。遅れた分、他社同様の売り方はせず、ルネサスSynergy Software Packageというルネサスが動作保証する専用ライブラリを提供し、開発者がアプリケーションのみを開発する方法で販売中です。個人レベルでは、特に価格で手を出しにくいと思っています。

28nmプロセス、大容量メモリの用途

ルネサスRHファミリで向上された性能を、具体的にどこで使うのかが解る図が、記事にありました。

大容量メモリの利用割合
大容量メモリの利用割合。アプリ増加比率よりも、データ、Safety、Security、Driversの増加比率が大きい。OTA利用により最低2面構成のメモリが必要の可能性もある。(出典:記事)

左側の色分けメモリマップから、アプリケーションのメモリ比率の増加よりも、Data、Safety、Security、Driversの増加比率が大きいことが判ります。つまり、開発するアプリケーションよりも、アプリが使うデータや安全性確保、ドライバーの増加がメモリ増大要因です。このドライバーの中にアプリが使うライブラリなども含まれると思います。

また、図では判りませんがOTA:Over-The-Airには、同じメモリが最低2面必要になるかもしれません(関連投稿は、コチラのIoT端末の脆弱性対応はOTA更新が必須を参照)。OTAに万一失敗しても、最悪更新前に戻るには、更新前と更新後のメモリが必要なのがその理由です。

いずれにしても大容量メモリは必須です。また、プロセス細分化でより低消費電力で高速動作を実現しています。
大容量メモリ実装、プロセス細分化は、車載マイコンに限った話ではありません。汎用マイコンでも同じです。

製造は、世界最大の半導体製造ファウンダリである台湾)TSMCが行うので、パソコンのCPU同様、マイコン:MCUも28nmプロセスへ一気に変わる可能性もあります。

半導体プロセス微細化の懸念

一方で、半導体プロセスの微細化は利益につながるのか2018年3月28日、EE Times Japanという記事もあります。28nmよりも先、10nm以下のモバイルプロセサでの話ですが、マイコンでもいずれ同じ時代が来るでしょう。

汎用マイコン技術は、先行する車載マイコンやモバイル半導体技術をベースに発展します。

先行の動向を知ることは、無駄ではありません。少し先を見越して、隠しコマンドなど遊び心がある工夫をソフトウェア、ハードウェアにこっそり入れておくのも開発者の数少ない楽しみの1つだと思います。