アプリ時分割起動処理

組込みマイコンのIDEが出力するmain()には、普通while文の無限ループによるアプリ起動処理が一か所記述されます。CubeSuite+のコード生成出力にもこれがあります。このアプリ起動処理を、起動されるアプリ側から検討します。

CubeSuite+が生成するmain()の無限ループ
CubeSuite+が生成するmain()の無限ループ

起動されるアプリには、割込みの確認/応答などのようにリアルタイム処理が必要なものから、スイッチチャタリング処理などの数ミリsec~数10ミリsec程度の処理間隔時間が必要なものまで様々です。このように処理時間が異なるアプリを、一か所の処理から起動すると、問題点がアプリ側に生じます。

スイッチチャタリング(以下SWと略す)処理を例に示します。1回目に起動されたSW処理で、スイッチのOn/Offを検出し、2回目に起動された時に再検出して1回目のOn/Offと同じであれば、スイッチの値を確定するような処理です。使用するスイッチにもよりますが、1回目と2回目の検出には、数ミリsec~数10ミリsecの時間間隔が必要です。この間は、On/Off値がハード的にバタついて安定しないからです。もし、起動処理が一か所の場合には、アプリのSW処理側でこの時間間隔分の検出処理をしない、“飛ばし”が必要になります。この“飛ばし”をn回とします。n回起動されるまで2回目のOn/Offを調べない訳です。

起動処理は一か所ですので、他のアプリも起動します。起動側のアプリにもSW処理と同様、処理を“飛ばす”場合があると、結果として、SW処理の起動間隔は別アプリの“飛ばし”有無により変わってしまいます。SW処理は、他のアプリの“飛ばし”有無は判りませんので、このままではSW処理プログラムが書けません

これを解決する方法の1つは、SW処理アプリが、“他のアプリ処理に係らず、常に例えば10ミリsecの一定間隔で起動“されることです。これならSW処理に“飛ばし”は不要です。このように本来は、アプリの要求時間に応じて、複数の起動処理が必要なのです。ここが、初心者が見落としがちな箇所です。アプリケーションノートには、説明を簡単にするため、1アプリ起動例しか載せないことが多いことが原因です。

複数の起動処理としては、1msec/10msec/100msec/1sec4つの時分割起動で、起動側のアプリ例は、表のようにした場合に経験的に上手く機能しました。この時分割は、マイコン内臓タイマを使い、CubeSuite+のコード生成に追加します。これが、前回紹介した追加コードです。そして、このコードを追加したものがテンプレートです。

アプリ起動間隔 起動されるアプリ例
1msec 割込み確認、割込み応答処理など、リアルタイム性が要求される処理
10msec スイッチチャタリング処理、LCD初期設定など
100msec LED処理、LCD表示など
1sec 人間相手の処理、ウオッチドックタイマのリセットなど

 

テンプレートの時分割起動部分ソースを示します。これなら、たとえ10ミリsecSW処理以外に複数アプリが起動されても、アプリ側で“飛ばし”が不要ですので、他のアプリ処理有無に係らずSW処理のプログラミングができます。

時分割アプリ起動処理を加えたテンプレート
時分割アプリ起動処理を加えたテンプレート

 

CubeSuite+を使ったRL78/G1xの開発シナリオ

CubeSuite+は、設定項目が多く、コード生成ツールも、利用する周辺ハードのAPIを自動生成しますが、プロジェクト作成の度にこれらを設定する必要があり、この段階で設定忘れやミスなどが発生しやすく、本来のアプリ開発をする前の手間や時間がかかります。

効果的な対策は、各種の設定済みのプロジェクトを再利用することです。生成ソースの指定エリアに、コードを追加記述していれば、設定を変更して再コード生成しても、追加分はそのままマージされるからです。これで設定ミスなどは減らせます。

開発シナリオの比較
開発シナリオの比較

追加するコードは、アプリを時分割起動する処理にします。そして、このアプリ起動処理追加済みのプロジェクトをテンプレートにします。アプリ開発は、このテンプレートをコピーし、別名、例えば、アプリ名で保存した後、始めます。アプリを起動する処理は、既にテンプレートに記述済みなので、即アプリ開発に着手できます。

この追加コードの詳細は、近日中に明らかにします。

コード生成の設定順序

CubeSuite+のコード生成では、クロック発生回路の“端子割り当て設定タブ”で、はじめに必ず設定してください。この設定は1度行うと変更できませんと、赤コメントが表示されます。今回は、この理由とコード生成の周辺機能の設定順序について示します。

周辺機能ピンの確定必要性
周辺機能ピンの確定必要性

RL78マイコンは、1つのピンに複数の周辺機能のI/Oピンを割付け可能です。これらI/Oピンには、再配置が可能なものもあります。例えば、64ピンパッケージのRL78/G13の割込みINTP10ピンは、P52P76のどちらかにでも割付け可能です。コード生成ツール(以下Cgと略す)は、GUIで周辺機能を簡単に設定できますが、対象となる周辺機能がどのピンを使うかが決まっていないと、ピンの競合判断ができません。そこで、最初に、周辺機能ピンの確定が必要になります。これを行うのが、“端子割り当て設定タブ”で、はじめに必ず…が表示される理由です。

Cgのクロック発生回路の次には、上から順にポート、割り込み、シリアル…と続きます。これは、使用頻度の高い機能順だろうと思います。しかし設定する時は、ポートを最後にすることをお勧めします。理由は、Cgが競合判断を行うからです。

ポートでは、各ポートの入出力や内臓プルアップの設定などができます。但し、デフォルトでは、全て“使用しない”となっています。この“使用しない”とは、“単純なI/Oポートとしては使用しないという意味”です。例えば、端子割り当てタブでPIOR0ビット=1にして、INTP10P76に確定したとしましょう。ポートの“ポート7”タブでのP76は、他のポートと同じ表示です。しかし、割り込みを先に設定した場合には、P76赤!マークが付きます。このマークにカーソルを合わせると、「P76INTP10で使われています。」というメッセージが表示されます。Cgが競合ありと判断したのです。

コード生成ツールの競合判断
コード生成ツールの競合判断

このように、ポート設定を周辺機能の後に行うと、既に使用済みのI/Oピンには、赤!マークが付きますので、デフォルトのままにできます。このマーク付きのピンを、どうしてもI/Oポートとして使いたい場合には、周辺機能を無効にするか、または最初のピン確定を変える必要があります。ピン確定は1度しかできませんので、新たなプロジェクト作成となります。

コード生成(設計ツール)の設定順序をまとめます。

(1) クロック発生回路>端子割り当て設定タブで、再配置可能な周辺機能の使用ピンを確定。

(2) ポート以外の使用周辺機能を設定。未使用周辺は、デフォルト無効なので、そのままでOK

(3) ポート>ポートnタブで、競合なしピンを設定。競合ピンをI/Oピンとして使う場合は、使用周辺機能を無効にするか、新プロジェクト作成が必要。

他の周辺機能に比べ、ポートは、ピン配置の自由度が高いので、最後に設定するのが良いでしょう。Cgでは、クロック発生回路のすぐ下にありますので、先に設定しがちですが、これを先にすると、周辺機能に赤!マークが付いて設定できなくなります。

CubeSuite+のコード生成にユーザ処理を追加する方法

CubeSuite+のコード生成(以下Cgと略す)の目的は、以前このブログで記載しました。今回は、ユーザ処理の追加方法を示します。

Cgは、使用周辺機能に応じたAPIと、メイン関数を含むテンプレートを生成します。ユーザは、このCg生成ファイルに必要なユーザ処理を追加すれば、プログラムが完成する仕組みです。この仕組みを使って完成したプログラムは、Cg指定のユーザ処理追加部分に記述していれば、RLマイコンの機種やピン数が変わって再コード生成しても、そのままファイルマージされ使えます。APIが、機種やピン数のハード依存部分を隠ぺいするからです。

では、どのようにCubeSuite+へユーザ処理を追加すれば、良いのでしょうか?大別すると、2つあります。1つは、Cg生成ファイルに直接追記する方法、もう1つは、別ファイルで追加する方法です。

APIを活かしてユーザ処理を追加するなら、別ファイルで追加する方法を用いましょう。CubeSuite+のファイルカテゴリ追加機能を使って、コード生成とは別カテゴリを作り、この中にユーザ処理ファイルを追加することをお勧めします。これにより、バグの可能性のあるユーザファイルと、(おそらくバグのない)APIファイルを分離でき、メンテナンス性が向上します。また、ユーザファイルは、機種依存しないハズですから、そのまま別機種マイコンへ移植できる可能性も高まります

ユーザ処理追加方法
ユーザ処理追加方法

 

デバッグツールの差

CubeSuite+には、5種類のRL78デバッグツールが使えます。今回は、これらのうち、E1EZ Emulator、シミュレータの解析機能を比較します。

デバッグツールは、バグ取りが主目的です。これに加えて、ツールタイマを使ってプログラム解析もできます。以下に各ツール接続時の解析内容と、画面右下に表示される各ツールのステータス情報を示します。

解析機能 E1 EZ Emulator Simulator
制御品質解析(変数やパラメタの時間変化) あり あり あり
実行性能解析(関数処理の時間割合) なし なし 選択可能
パフォーマンス解析(特定区間の実行時間計測) なし なし 選択可能
カバレッジ解析(実行網羅率測定) なし なし 選択可能

 

ステータス情報(CubeSuite+画面右下)

デバッグツールの差
デバッグツールの差

 

E1EZ Emulatorは、CubeSuite+以外に専用ハードウエアが必要です。シミュレータは、CubeSuite+のみで実行できます。E1EZ Emulatorの違いは、ありません。シミュレータの解析内容が一番豊富です。シミュレータでは、ステータス情報の足/時計/タイルアイコンクリックで解析機能の“あり/なしの選択も可能”です。RL78のカタログに記載されている実行性能解析は、シミュレータでのみ可能です。

しかし、シミュレータ解析は時間がかかります。専用ハードを使うE1EZ Emulatorは実時間処理なので、実行時間1秒の間に解析結果が得られます。同じ時間をシミュレータで解析すると、制御品質解析に加えて実行性能/パフォーマンス/カバレッジ解析ができますが、トレースメモリを2Mフレーム使用して、1分以上かかります。シミュレータは、トレース範囲の設定とトレース・メモリ・サイズに注意が必要です。E1/EZ Emulatorとシュミレータの使い分けが必要でしょう。

外付け20MHzの必要性検証実験

現在入手可能なRL78/G13の評価ボード:QB-R5F100LE-TBRL78/G13 Stick スターターキット、RSK for RL78/G13には、どれも外付け20MHz発振器が実装されており、メインクロックを供給しています。

RL78/G13性能は、内臓32MHzをメインクロックとして使った時に最高となるので、なぜ外付け20MHzがこれら評価ボードに実装されているかが疑問でした。

考えられるのは、プログラミングに必須となる可能性です。R8C/25でも同じ経験がありました。そこで、最もシンプルなQB-R5F100LE-TBを使って、プログラミング時に20MHz供給の必要性を検証します。

RL78/G13 Target Board
RL78/G13 Target Board

 

QB-R5F100LE-TBは、ショートパッドのパターンカットでクロック供給/停止を変えられます。結果は、外付け20MHzなしでも問題なくプログラミングでき、プログラミング後、内臓クロックで動作しました。

コスト重視の評価ボードで外付け20MHzの実装の理由は、未だはっきりしません。この疑問が解けましたら、本ブログに記載する予定です。

最新ユーザマニュアルの簡単参照方法とエラーメッセージ対処方法

CubeSuite+がアップデートされると、設計編~メッセージ編のPDFユーザマニュアルも更新されます。ツールニュースでの更新通知で、これら最新マニュアルをダウンロードし、参照される方が多いと思います。このマニュアルのもっと簡単な参照方法を示します。

CubeSuite+ヘルプを使う方法です。ヘルプは、大きく分けて2種類のドキュメントを含みます。チュートリアルと、起動編~メッセージ編までのマニュアルです。後者の内容は、最新ユーザマニュアルと同じです。ヘルプファイルなので、追記はできませんが、PDFマニュアルのダウンロードは不要で、簡単に参照できます。

もう一つのTipsとして、CubeSuite+の出力ウインドのエラーメッセージ番号の上にカーソルを載せて、F1:ヘルプを押すと、メッセージ編の記載場所へジャンプします。出力ウインドよりも詳細なエラー内容や、対処方法が記載されています。頻繁に使いますし、しかも便利な機能です。

最新ユーザマニュアル参照方法
最新ユーザマニュアル参照方法

 

解析機能チュートリアルのすすめ

CubeSuite+は、APIやテンプレートの生成、エディタなど、IDEとして優れた基本機能以外に、“解析機能”を持ちます。この解析機能理解のため、CubeSuite+付属のチュートリアル一読をすすめます。

解析機能チュートリアル
解析機能チュートリアル

 

Officeソフトのように、ヘルプを理解するためにヘルプが必要な場合もありますが、このCubeSuite+のチュートリアルヘルプは、中級者であれば理解必須です。以下に、チュートリアルの注意点と記載重要事項を示します。

注意点:

チュートリアルでは、「リセット&実行ボタン」で結果を出力しています。しかし、同じ結果となるハズの「リセットボタン」+「実行ボタン」を押した場合と、結果が異なることがあります。チュートリアル実行中に記載と異なる結果の場合には、後者(リセットボタン+実行ボタン)を試してください

チュートリアル記載の重要事項:

・静的情報とは、ビルド完了後に表示できる項目。動的情報とは、デバッグ・ツール接続後,プログラム実行後に表示できる項目。

・実行性能の解析目的は,関数単位のCPU使用率を把握し,CPU負荷を軽減する関数を探すこと。

・解析対象の実行時間に対して,トレース取得期間が十分かどうかを判断する事が必要。デバッグ・ツールのプロパティで「トレース・メモリを使い切った後の動作」の設定を「停止する」設定もその一つ。

・解析範囲に対して,解析データ(デバッグ・ツールのトレース・メモリ)が適切か確認することが重要。 

・解析対象に対して,トレース取得期間と実行回数が十分でない場合,解析結果を正しく判断できないことがある。対策として、対象関数が何回実行されたかを関数パネルで把握する事。

・性能解析は、解析対象に応じて,適切な手段を選択する必要がある。解析グラフは,便利なツールだが、使用方法を誤ると適切な判断ができない。

・動的情報が表示できるかは,デバッグ・ツールに依存。RL78/G1xE1の組合せでは、トレースとパフォーマンス測定はできない。対策は、シミュレータを使うこと

・パフォーマンス解析目的は、システム性能を満足するために,特定の処理速度が十分かどうかを判断すること。

いかかですか? 中級者は、これらを理解して、作成プログラムの性能改善に活用しましょう。ちなみに、このヘルプファイルは、下記にあります。

C:\Program Files (x86)\Renesas Electronics\CubeSuite+\Help\Tutorial-Analysis.chm

ターゲット・ボードのE1インタフェース

CPUFPGAボード開発の最初の山場が、プログラミングインタフェースです。これらソフト必須のハードは、プログラミングして初めて動作するので、ここで躓くと先へ進めません。RL78/G1xならE1インタフェースです。ルネサス資料“E1/E20エミュレータユーザーズマニュアル別冊”に、RL78接続時の注意事項が記載されていますが、実際の動作ボードで理解する方が良さそうです。

E1インタフェース理解に最も適した動作ボードは、ルネサスのターゲット・ボード(以下TBと略す)でしょう。TBは、最もシンプルで、最も早い時期に提供されるボードで、最重要ハードの把握が容易などの特徴があります。201212月現在、RL78/G1x関連は、下記8種のボードがリリースされています。

ターゲット・ボード一覧
ターゲット・ボード一覧

本ブログ対象のRL78/G13G14は、2種類のTBがあり、これらのE1インタフェース部分のみを抜き出しました。TOOL0端子経由(図ではP40と記載)で、フィラッシュ・メモリ・プログラミングとオンチップ・デバッグの両方に対応します。これらの図から、T_RESETは、ボード内で不使用でも、E1インタフェースには必須そうだということが判ります。

RL78ーG13、G14のE1インタフェース
RL78ーG13、G14のE1インタフェース

 

RL78/G1xボード開発チェックリスト

RL78/G13ボード開発のチェックリストを作成中です(本リストは、適宜更新予定)。

項番 内容 備考
1 RL78/G1x0.1uFパスコン配線長:Vss/Vdd端子とパスコン間の配線長は、最短で、等長とする。  
2 RL78/G1xの電源配線は、パスコン経由。  
3 REGC0.47uF~1uf配線は、極力短くする。REGCコンデンサは、特性が良いものを使用。但し、パスコン配線が優先。

パスコン配線とREGC配線の優先順位
パスコン配線とREGC配線の優先順位

 

 
4 入力専用で、内臓プルアップ抵抗無しのピン(64ピンの場合、P121/122/123/124/137)は、外部でプルアップ/ダウン抵抗で固定。

入力専用で内臓プルアップ抵抗無しのピン
入力専用で内臓プルアップ抵抗無しのピン

 

 
5 未使用ピンは、出力に設定。入力ピンは、内臓プルアップ抵抗使用。