COVID-19の影響で、どこの入口でも見かける非接触型体温計は、遠赤外線センサとLCD温度表示で1000円台から購入できます。一方で、「体温計ではありません」と明記した放射温度計も見た目は同じですが、価格は2倍程度違います。
同じ温度センシング機器でも、価格が異なる理由を探ります。
温度センシング設計ガイド
アナログセンサの老舗、Texas Instrumentsのホームページから“エンジニア向け温度センシング設計ガイド”が無料でダウンロードできます。体温、システム温度、周囲温度、液体温度の4種類の温度センシング設計上の課題とその解決方法、センサ利用のアナログデジタル変換(ADC)基礎知識が記載されています。
主にハードウェア設計ガイドですが、MCUソフトウェア開発者も、各種センサ特徴、線形性、第7章の温度補償などが参考になると思います。
価格と利益
ビジネスは、利益の上に成立します。低価格でも大量に開発機器が売れれば利益も増えます。機器の価格は、様々なパラメタから成る関数ですが、ここではごく単純化し下式と仮定します。
価格=f(実装機能、想定利用者(≒販売数量))
同じ温度センシング機器でも価格が異なるのは、実装機能が異なるからです。
そこで、TI温度センシング設計ガイド第4章、体温監視から課題と解決方法をピックアップします。
実装機能と想定利用者
想定利用者を疾患患者やアスリートとすると、国際標準に準拠した医療体温計要件である校正後、精度±0.1℃以内、35.8℃~41.0℃の読取りと表示が必要です。但し、アプリケーションの温度読取り間隔は、電池節約のため10秒~60秒でも十分です。
これら機能を非接触型体温計へそのまま実装すると、開発に時間がかかるだけでなく、価格も上がるのは当然です。
CODIV-19の現状では、入口対象者の多くはコロナ患者ではない可能性が高いので、医療体温計レベルの要件は不要でしょう。また、計測機器に必須の測定値校正処理も、一般向けには無理な作業です。
このように、機器使用者/利用者を限定すれば、開発機器への実装機能も絞ることができます。
例えば、電源投入時にのみセンサ校正をソフトウェアで行い、温度読取り間隔は数秒以内に早くし、販売価格を2000円前後に目標設定すれば、一般向け非接触型体温計としてベストセラーになるかもしれません。
開発速度
目標設定が適切でも、開発が遅れれば先行他社に利益を取られます。早く開発できるスキルは、日頃の自己鍛錬が必要です。最新の開発手法やその試行も、通常の開発と並行して行うとスキルに磨きがかかります。
弊社マイコンテンプレートは、複数の公式サンプルソフトウェア流用・活用が容易で、アプリケーションの早期開発ができるなど、自己鍛錬にも適しています。
まとめ
Texas Instrumentsの温度センシング設計ガイドを基に、非接触型体温計と放射温度計の機器価格差は、ADC実装機能、想定使用者が異なるためと推測しました。利益を得るには、開発速度の向上努力も重要です。
ソフトウェアとハードウェアのインタフェースさえ解れば機器開発は可能です。しかし、ADCは、IoT MCUの最重要技術です。ソフト/ハードの垣根を越えた知識や理解が、結局は利益を生む機器開発に繋がることを言いたかった訳です。