半導体の宿命と対策

今回は技術的な話から離れ、半導体とその製品開発者の宿命と対策を考えます。

Summary:半導体の宿命と対策

半導体と関連開発者の宿命と対策
半導体と関連開発者の宿命と対策

半導体は経済と安全保障に強く関わる戦略物資です。経営・投資家には、巨額が稼げる分野、政治家には権力の見せ所の集票手段となりえます。

先端技術だけでなくこのような様々な側面を持つため、半導体製品開発者は、状況変化への柔軟性と視野を広く保ち、開発デバイスの高騰や入手不能などの状況に備え、常にPlan B対策を持つことをお勧めします。

半導体の成長

日本で「産業のコメ(米)」とも呼ばれる半導体は、自国の国内経済と安全保障に強く関わる戦略物資です。下記ピックアップ記事が物語っています。

世界半導体市場の推移(出典:SIA、データ元:WSTS)
世界半導体市場の推移(出典:SIA、データ元:WSTS)

2024年9月、世界半導体売上高が、前年同月比23.2%増の553億米ドルで過去最高を更新しました(11月7日、EE Times Japan記事)。グロス変化ですが、国別や地域別の増減割合も示されています。

車載ソフトウェア市場規模推移・予測(領域別)出所:矢野経済研究所
車載ソフトウェア市場規模推移・予測(領域別)出所:矢野経済研究所

2024年10月9日、矢野経済研究所は、日本国内車載ソフトウェアの制御系と車載IT系比率とその2030年までの日本市場が、1兆円に迫る規模の拡大予測を発表しました(10月22日、MONOist記事)。

※制御系:車載ADAS(先進運転支援システム)関連。
※車載IT系:CASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric)関連。

交通事故ゼロ社会イメージ(出典:トヨタ,NTT)
交通事故ゼロ社会イメージ(出典:トヨタ,NTT)

2024年10月31日、トヨタとNTTは、ヒト、モビリティ、インフラが三位一体で協調し、交通事故ゼロ実現に向けたAI・通信基盤構築に向け2030年度までに両社折版で5000億円投資を発表しました(11月1日、MONOist記事)。

これらの記事は、半導体製造・販売の売上高は過去最高に上昇中で、その半導体を大量に使う車載技術なども順調に拡大、2030年頃には、AI活用の新しいサービスへ発展することを示しています。つまり、半導体成長は前途洋々、関連投資や得られる利益も巨額です。

天気予報で言えば快晴です。経営者や投資家にとっては、半導体関連分野は魅力的でしょう。

半導体と政治

前章記事は、いずれも今秋の日米欧政治状況が大きく変わる前に発表されたものです。来年2025年は、この政治状況が大きく変わります。果たしてこれら予測や見込みが、このまま維持・継続されるでしょうか?

選挙によって選ばれる政治家は、自分の選挙区に視野・関心が集中しがちです。半導体産業は、地域経済と結びつきが強く、工場誘致に巨額資金や地域ネゴシエーションなども必要なため、政治の力(権力)の見せ所、恰好な集票手段です。

半導体は、先端技術だけでなくこのような政治側面も持つ産業です。戦略物資半導体の宿命です。

従って、日米欧政治状況変化後の来年2025年以降、各国半導体やサプライチェーンがどう変化するかは不透明で予測しづらいでしょう。100%の快晴確率では無い訳です。

開発者の対策

半導体を使う製品開発者は、快晴確率が100%で無いことを念頭に置く必要があります。例えば、台風の発生により場所により豪雨に変わることもある訳です。

台風やCOVID-19のような緊急事態の結果、開発デバイスの高騰や入手不能などの状況に変わることもあり得ます。これらに備え、代替デバイスを考慮しておくなどPlan Bを持ちましょう。例えば、MCUなら第2第3のMCUを考え、万一のMCU交換に対応できるハードウェア構成、例えば、制御系を標準インタフェースのArduinoで交換可能にするなどです。

また、様々な状況変化に対する柔軟性も必要です。これは、半導体関係者全てに言えることです。

半導体の製品開発者は、日頃から視野を広く持ち柔軟性を鍛えることが必要です。


傾向と対策:日本低下

 

世界第2位から降下傾向の日本
世界第2位から降下傾向の日本

年内最後の投稿に、“日本の半導体産業はどうしてダメになったのか? 今だから分かる3つのターニングポイント”(@IT、2021年12月17日)を紹介し、国際地位低下傾向の日本と、IoT MCU日本開発者の対策を示します。

半導体と通信業界から見る日本低下傾向

半導体の研究・開発者から見た日本地位低下を、3度のターニングポイント失策から分析し、現状の日本半導体は、脇役へ滑り落ちていて、名脇役の存在感を示せるかは、「舵取り」(おそらく政治家や官僚)にかかっていると結論しています。

筆者、Massa POP Izumida氏は、もちろん日本人で、本ブログ筆者と同世代だと思います。80年代に就職、90年代世界第2位の経済大国日本で中堅現役、そして、総合順位31位へ低下した現状日本を実感されている技術者だと推測します。

ATM(Asynchronous Transfer Mode)通信の研究・開発者だった本ブログ筆者も、同じような経験があります。90年代、米国、欧州、日本のATM規格競争が勃発した時、日本案が世界規格になっていれば、現状と異なるネットワーク、通信業界になっていたでしょう。“たられば”の話です。

日本人特性

周囲の意見に「同調意識が強い」日本人の性格や特性は、コチラの記事にまとまっています。「単一民族島国の中」で、上手く生きていくための特性は、必然です。

ただ、舵取りや国際競争の時に、この特性が裏目に出たのが、日本地位低下原因の1つでしょう。現状も変わらない官僚主義は、コチラの記事でも判ります。

一般国民も含めた日本人の特性変化(≒国際化)には、「数世代に渡る長い時間」が必要です。

つまり、今の日本人特性は、「ボーダレスネットワークでワールドワイドに急変した世界の中」の日本低下傾向を、スグに阻止し復帰するには適していない訳です。

日本IoT MCU開発者対策(私案)

IoT MCU日本開発者が生き残るには、「日本人以外の第2の視点とPlan B」が必要です。

日本IoT MCU開発者の対策
日本IoT MCU開発者の対策

日本開発者の現役期間が50年としても、DNAに染み込んだ同調意識もまた簡単には変わりません。

対策は、一時的にせよ、欧米人の特性で自身のIoT MCU状況を捉えることです。欧米人特性は、ネット検索で見つかります。また、欧米に限らず、アジア人特性も日本人とは大きく異なります。

これら日本人外の特性・視点で現状把握を試すと、自分との差分が判り、対策に何をすべきかが見えてきます。これは、個人キャリアプランの中で、Plan Bの1つに相当します。

具体策は、個人により異なります。私の場合は、米語です。幸い、IoT MCU関連ドキュメントやセミナーは、殆どが米語ですので、材料は豊富です。敬語の利用が少ない米語は、効率的情報伝達と取得に優れています。

別策は、国際競争下で最後に生き残っている日本自動車業界の視点を借りることです。自動車業界は、ワールドワイドな視点で、研究開発を実践中です。生き残った主因です。その取組みや視点で、Plan Bを考えるのも良いと思います。

年末年始は、現状から少し距離を取れる時期です。日本人外の視点とPlan B検討は、いかがでしょう。

次回金曜投稿:1月7日

各種メンテナンスのため大晦日投稿はなし、年内は本稿が最後、次回金曜投稿は、来年1月7日です。

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皆様、良いお年をお迎えください。