
現在エッジAI最強プロセサのAMD Ryzen AI Max+ 395性能を十分に引出すために知っておくべきTDP、電源、冷却について説明します。例として前投稿のEVO-X2/GTR9 Pro/MS-S1 Maxの3製品を使いますが、同じプロセサ搭載のPC製品に性能差が生じる理由が本稿で判ります。
TDP:Thermal Design Power
TDPとは、熱設計電力のことでRyzen AI Max+ 395のデフォルトTDPは、55Wです。つまり、Ryzen AI Max+ 395デフォルト性能を引出すには、プロセサ単体動作により生じる55Wの熱を冷却しないとプロセサ故障などの事象を引き起こすという事です(熱による故障はAfterword参照)。
この故障を避けるため、自動的に動作周波数や電圧を下げプロセサ発熱を抑える保護機能:サーマルスロットリングが備わっています。
TDPには、cTDP:Configurable TDPという指標もあります。Ryzen AI Max+ 395のcTDPは、45W~120W(ブースト時140W)です。消費電力や発熱を抑えた設定(45W)から最高性能の設定(120/140W)までの範囲でプロセサ性能が可変です。当然、必要となる冷却熱量も変わります。
電源

電源が必要なのは、Ryzen AI Max+ 395だけではありません。PCシステム全体へ安定した電源を供給する必要があります。
Ryzen AI Max+ 395のcTDPは45W~120Wですので、プロセサ単体への電力供給量、冷却熱量も変わります。また、高速なLPDDR5x-8000メモリ(最大128GB)や2TB SSDへも安定動作の電力供給が必要です。つまり、システム全体の電力負荷が変動しても安定で迅速な電力が供給できる電源が必要です。
冷却

Ryzen AI Max+ 395は、cTDP範囲が広く最大120/140Wもの熱が小型筐体内で生じるため、その性能を維持し故障などを回避するには強力かつ静音性も維持できる効率的な冷却システムが必要です。
例えば、前投稿のEVO-X2/GTR9 Pro/MS-S1 Maxでは、ベイパーチャンバーやヒートパイプ、大型ヒートシンクと強力な可変速度ファンが使われます。PC内の熱センサ情報を元に、必要に応じた冷却能力を静音性も保てるようにファン速度を制御します。
Ryzen AI Max+ 395搭載ポータブルPC:GPD WIN 5の例
前章で示したプロセサ性能とTDP/電源/冷却の関係が判ると、ミニPCと同じRyzen AI Max+ 395搭載ポータブルPC:GPD WIN 5の電源差による性能変動が理解できます。
Ryzen AI Max+ 395搭載のGPD WIN 5は、180WのACアダプタが主電源です。この時のプロセサは、最大85WのTDPで動作します。また、80Wh着脱式バッテリー駆動時は、最大28WのTDP動作です。
ACアダプタとバッテリーでプロセサ能力差が生じるのは、電源の能力差があるからです。
ACアダプタ時は、プロセサやメモリなどシステム全体へ電源を供給し、かつ、発生する熱を十分に冷却する能力もあるため、TDP 85WのRyzen AI Max+ 395能力が発揮できます。しかし、同じシステムでもバッテリー駆動時は、最大でもTDP 28W能力しか発揮できない環境へ変わります。
つまり、Ryzen AI Max+ 395のような超高性能プロセサ能力を十分に発揮するには、システムの電源供給能力と冷却能力が重要だという事が判ります。
Summary:Ryzen AI Max+ 395のTDP、電源と冷却
同じRyzen AI Max+ 395搭載のPCでも性能差が生じる原因は、システムへの安定した電源供給、冷却能力に差があるためです。販売価格に占めるプロセサ価格は同じでも、電源や冷却能力に製品差があり、結果として同じRyzen AI Max+ 395搭載PCでも性能差/価格差が生じます。
高負荷なエッジAI処理などを行う場合は、プロセサだけでなく電源と冷却能力の高い製品選びが重要です。
Afterword:熱によるプロセサ故障例
冷却とプロセサ故障の例は、2~3日に1個富岳CPU故障(2025/10/15、日経xTECH)の記事が面白い(!?)です。富岳は、約16万個ものCPU搭載スーパーコンピューターです。これ程多数のCPUがあると、例え十分な冷却システムを持っていても2~3日に1個はCPUが熱により故障する確率が生じる訳です。
記事には、10℃温度上がると故障率が2倍になるアレニウス経験則や故障率曲線(バスタブ曲線)も記載されています。これらは、PCでも同じです。知っておくべきハードウェア知識です。