Win11 24H2サポートCPU更新の理由

2025217日、MicrosoftWindows 11 24H2サポートCPU更新を発表し、Intel8/9/10世代 CPU24H2対象から外しました。

但しこれは、PCメーカ製品の話です。つまり、既に24H2Intel8/9/10世代を使用中のユーザPCは無関係ですので安心してください(第8/9/10世代CPUAfterword参照)。

Microsoftは、昨年10月のWin11 23H2から24H2アップグレード時、対象CPU制限(IntelAMD)を発表しました。また、今年1月には、Win11 24H2強制アップグレードも開始しました。要件を満たさないIntel/AMD CPUは、Win11 23H2のままアップグレードができません。これらCPUPCは、今年10月にサービスが終了します。

本稿は、MicrosoftがなぜWin11 24H2更新を強制し、同時にCPU制限も追加するのか、その理由を考察します。

Microsoft AI PC戦略

ArmはレガシーのPC(x86など)を大きく上回っているとアピール(出典:記事)
ArmはレガシーのPC(x86など)を大きく上回っているとアピール(出典:記事)

現在主流のIntel/AMD x64 CPUを、5年後の2030年迄に新しいARM64 CPUへ変えるのがMicrosoft AI PC戦略です。一連の発表は、この戦略の結果です。

現在PC向けARM64 CPUは、スマホCPUで有名なQualcomm社のSnapdragonシリーズのみです。40TOPS以上のNPU内蔵などCopilot+ PCAI PC)要件を満たすCPUも、昨年5月発表時はSnapdragonのみでした。

Qualcomm社よりも出遅れたIntel/AMD社は、共に昨年秋AI PC要件を満たす新しいx64 CPUを発売しました。しかし、Win11 24H2で新に加わったAI PC機能は、ARM64 CPUには提供中ですが、x64 CPUには一部のみ提供です(関連投稿:2月版AI PC選定ポイント)。

つまり、Microsoftは意図的にx64ARM64に差を付け、「ユーザのARM64 CPU移行」を狙っています。しかし、この狙いに反し、ユーザのARM64移行は進んでいないと思います。

x64からARM64へ変わる意味

ARM64は、Arm社のCPU IPIntellectual Property)をQualcomm社が購入し、このIPをハードウェア化したCPUです。Intel/AMD社のx64とは完全に別ハードウェアです。x64比、電力効率が良い点が特徴で、Apple社最新CPUにもArmCPU IPは採用されています。

Microsoftx64からARM64 CPUへ変える目的は、Apple同様、電力効率の改善です。

さて、従来のWindowsソフトウェア(アプリ)は、x64 CPUで最適動作する設計でした。この従来設計アプリは、新しいARM64 CPUでは動作しません。そこで、ARM64 CPUは、Prismというエミュレーションツールを使って、x64アプリを疑似的にARM64アプリへ変換し、互換動作させています。

もちろん、ARM64 CPU最適動作設計のアプリもあり、これをARMネイティブアプリと呼びます。つまり、現在のARM64は、従来x64互換と新ARMネイティブの2種アプリが動作するCPUです。

従って、新規Windowsアプリ開発者は、従来x64か新ARMネイティブかの設計選択が必要です。ARMネイティブアプリリストが下記です。ビジネスで必要なアプリは、ARMネイティブでも提供中なのが判ります。

ARMネイティブアプリ例(出典:日経Xtech)
ARMネイティブアプリ例(出典:日経Xtech)

これらARMネイティブアプリが、ベンチマークではなく実用時にx64比電力効率が良いのでしょうか? 現状の結論は、実際のバッテリ持ち時間にx64ARM64で殆ど差がありません(参考資料:Surface Intel版とQualcomm版比較Gadget Hack23日)。

つまり、ARM64 CPUは、「アプリ開発者に新ARMネイティブアプリ開発負担に見合う程の電力効率改善を与えない」のです。

もちろん、将来的に効率改善の可能性はあります。しかし、開発者も実績があり慣れたx64アプリ開発を望むようです。

AI PCは順調か?

「ユーザのARM64移行遅し」と「ARMネイティブアプリ開発負担に見合う電力改善少なし」は、AI PC普及を阻む原因の1つです。

この対策が、AI機能のARM64 CPUのみ全面提供、今年1月のWin11 24H2強制アップグレード、2月のIntel CPU 24H2サポート除外だと思います。ちなみに、Copilot+ PC要件を満たすIntel/AMD CPUへのAI機能提供は、昨年11月に発表済みでした。しかし、未だ部分提供のみです。

つまり、217日発表は、CPU市場から「従来Intel CPUを排除」し、CPUメーカのARM64化を期待している訳です。但し、Qualcomm以外、例えばAI半導体大手NVIDIAなどの新規ARM64 CPUメーカ参入は、今のところありません。

前章までを総括すると、「AI PC普及状況改善のためMicrosoftは、CPUメーカ/アプリ開発者/ユーザの3方面へ新しいARM64移行を強要中」です。

ローカルAIとクラウドAIAIキラーアプリ

AI PC普及不調の根本原因は、NPU活用のビジネス向けローカルAI PCキラーアプリが無いことです。また、プロンプトのAI入力インタフェース、個人情報保護などユーザのAIに対する不安も要因です。

一方、ブラウザ経由クラウドAIサービスのCopilotGeminiによる文書要約などクラウドAIアシスタントは、徐々に普及しつつあります。このクラウドAIサービス利用には、NPU非搭載の従来PC/Win11 23H2でも十分可能です。

さらに、AI PCよりも先行するAIスマホでは、Googleと韓国)サムスン電子がタッグを組み、最新Geminiが複数スマホアプリと連携し、より使い易いAIエージェント(コンシェルジュ)サービスが始まりました(参考資料:Googleとサムスンタッグ、日経ビジネス、225日)。

Gemini連携アプリが増たのでAIコンシェルジュも可能
Gemini連携アプリが増たのでAIコンシェルジュも可能

このように、AI PCをビジネスで活用するAIキラーアプリが無い現状では、わざわざ新しいARM64ではなく、従来アプリ互換性のあるx64 CPUを選択する方が無難と考えたのが、CPUメーカ/アプリ開発者/ユーザの状況です。

Apple Macアプリのように、Microsoft自身でARM64ネイティブビジネスAIキラーアプリ、例えば高機能AIアシスタントを自主開発すれば、他者へARM64を強要する必要は無くなると考えるのは筆者だけでしょうか?

次期Win12は、上記Microsoft製ビジネスAIキラーアプリ動作を条件に、Copilot+ PC CPU要件を更に狭め、Intel/AMD/Qualcommの最新AI CPUのみ無償アップグレード対象になる可能性もあると思います。

AIキラーアプリが、現行要件:40TOPS NPU16GB高速メモリで十分動作するかも懸念事項。

SummaryWin11 24H2サポートCPU更新理由

WIndows 11不人気の打開策、生成AI
WIndows 11不人気の打開策、生成AI

20252月、MicrosoftWindows 11 24H2サポートCPUからIntel8/9/10世代 CPUを外した理由を考察しました。

Win11 24H2動作のAI PCは、ユーザのARM64 CPU移行が遅く、x64/ARM64 2種アプリ開発負担増に見合う電力効率改善が得られず、などAI PC普及は不調です。その対策にMicrosoftは、PCメーカのIntel CPU排除を狙ったと思います。但し、これら他者への対策が上手くいっているとも思えません。

ARM64ネイティブ動作のビジネスAIキラーアプリが無いことが、AI PC普及不調の原因です。

例えば、AIアシスタント/コンシェルジュのようなARM64ネイティブ動作ビジネスAIキラーアプリをMicrosoftが自ら開発すれば、他者へARM64を強要せずともWin10/11 23H2サービス終了と同時にAI PC普及は急加速するでしょう。

AfterwordIntel8/9/10世代CPUとは

Intel8/9/10世代CPUは、型番表記で判ります。「Core ixxxx(またはxxxxx)」で、最初の「i〇」は、Core i3Core i5Core i7Core i9などのシリーズ名、続く「xxxx(またはxxxxx)」の最初の数字が世代を表し、第8世代:8xxx、第9世代:9xxx、第10世代:10xxxはです。

ちなみに、Win11 24H2アップグレード要件を満たさないIntel/AMD CPUでも、コチラのRufus 4.6ツールを使えばCPU要件を回避してアップグレードができます。